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窒素問題・窒素循環

林健太郎「人類の食料生産・消費がもたらす窒素問題」 11月5日

10月29日、オンラインで開催された公開フォーラム「『世界の一酸化二窒素(N2O)収支2020年版』と食料システム」の講演2:「人類の食料生産・消費がもたらす窒素問題」です。YouTubeの54:42~1:14:55にあります。林健太郎(農研機構 農業環境変動研究センター 物質循環研究領域 広域循環評価ユニット長)さんの講演です。
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「窒素」の特徴窒素利用という問題問題解決への取り組みキーワードと参考資料という構成です。

「窒素」の特徴
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窒素利用という問題
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問題解決への取り組み
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キーワードと参考資料
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最後のスライドの窒素問題の解決 IGESは、窒素問題の解決:窒素循環汚染から窒素の循環型経済(11月3日の記事)。

※『自給粗飼料生産による温室効果ガス削減-環境に配慮した草地飼料畑の持続的生産体系調査事業(普及版)-』(日本草地畜産種子協会、2010年3月)の付表「環境に配慮した草地飼料畑の持続的生産体系調査事業に係る用語集」から
●草地・飼料畑における温室効果ガス
草地・飼料畑における温室効果ガスの収支は、一定面積の圃場に、流入する温室効果ガスの量と、流出する温室効果ガスの量の差である。流入量の方が多ければ、温室効果ガスを吸収することから地球温暖化を抑制し、流出量の方が多ければ草地は温室効果ガスを放出するため地球温暖化を促進するということになる。
草地・飼料畑から吸収・放出される温室効果ガスには、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)の 3 つがある。CO2 は、光合成によって、大気から植物体に吸収され、有機物として蓄積されるが、枯死体や残渣、堆肥、土壌中の有機物が分解することで大気中に放出される。さらに、植物体に蓄積された有機物は、収穫時に系外へ持ち出されるが、肥料として投入される堆肥には多量の有機物を含む。そこで,CO2 収支には、これらを全て勘定に入れなければならない。CH4とN2Oは土壌中の微生物の活動によって吸収・放出される。とくに、N2Oは堆肥や化学肥料の施用によって、その放出が増大する。そのため、草地・飼料畑における温室効果ガスの年間収支を考える場合は、施肥や収穫に伴うこれらのガスの収支を求める必要がある。なお N2OやCH4の地球温暖化に及ぼす影響は、単位ガス重量あたりで比較するとCO2よりも大きく、CO2量に換算して求める(地球温暖化指数)。
●温室効果ガス
二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、クロロフルオロカーボン(CFC)などは、温室のガラスと同じように、太陽からの日射エネルギーをほぼ完全に通過させるが、地表から放射させる熱(赤外線)を吸収し、熱が地球の外に放出されるのを妨げる。温室効果ガスはこのような大気圏の気温を上昇させる効果(温室効果)をもつ気体の総称である。
●地球温暖化指数(GWP)
ガスの種類ごとに異なる地球温暖化への影響を、二酸化炭素(CO2)を基準として相互に比較するための係数である。IPCC の 2001 年報告書によれば、今後100年間の積算効果を考える場合、各ガス種の単位重量当たりのGWPは、CO2の1に対して、メタン(CH4)が23、亜酸化窒素(N2O)が296倍の影響をもたらすとされている。
●二酸化炭素(CO2)
主に石炭、石油、天然ガス、木材など炭素分を含む燃料の燃焼により発生する。大気中濃度は、産業革命以前280ppm程度であったが、産業革命以降、化石燃料の燃焼、吸収源である森林の減少などによって、年々増加し、2005年に379ppm にまで上昇した。地球温暖化の原因の60%を占める。
●メタン(CH4)
有機物が嫌気状態で腐敗、発酵するときに生じる。有機性の廃棄物の最終処分場や、沼沢の底、家畜のふん尿、下水汚泥の嫌気性分解過程などから発生する。大気中濃度は、産業革命以前0.715ppm 程度であったが、2005年に1.774ppm にまで上昇した。単位重量あたりの温
室効果はCO2の23倍。地球温暖化の原因の20%を占める。
●亜酸化窒素(N2O)
有機物の燃焼や窒素肥料の施肥などが発生原因であると言われている。大気中濃度は、産業革命以前0.270ppm であったが、2005年に0.319ppm にまで上昇した。近年、中国など発展途上国の農業は生産性向上のために多量の化学肥料が使用されるようになり、大気への亜酸化窒素ガスの放出が急増し、地球温暖化に大きな影響を及ぼすことが懸念されている。単位重量あたりの温室効果は、CO2の296 倍。
●土壌炭素含量
土壌は2000Gt植物体量の約4倍の炭素を保持する。土壌へ炭素を蓄積させることは、大気への二酸化炭素(CO2)放出の抑制、つまり地球温暖化を抑制することを意味する。そこで、土壌に炭素を多く含む堆肥を施与することは、地球温暖化の緩和策として期待される。また、草
地は陸地の37%を占め、また耕地よりも炭素蓄積能力が高い。このため、EUでは土壌へ炭素を蓄積させる農法、特に永年草地の維持及び耕地から永年草地への転換を奨励している。


1.はじめに
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2.日本の窒素問題
 2.1.窒素負荷に起因する環境影響の現状
 2.2.構造的に大きくなりやすい窒素負荷
日本の人口密度の高さは窒素負荷が集中しやすい要因となるものの、食料生産・消費に伴う廃棄物や排せつ物に由来する窒素の大部分が有機肥料としてリサイクルされていれば窒素負荷を抑えることが可能である。しかし、日本では特に一部の湖沼・地下水の水質において窒素負荷の影響が顕在化している。よって、日本には窒素のリサイクルを妨げる構造的な問題が存在することが示唆される。
現在の日本は食料と飼料の多くを輸入に頼り、2013年の食料自給率(供給熱量ベース)は39%、飼料自給率は26%である。食料・飼料の消費に伴い発生する窒素の量は、その栄養価が同様であれば国内産でも国外産でも同程度である。ならば、農業生産に伴う窒素負荷が国内で発生しない点で、食料・飼料を国外に頼る現状はうまい戦略に見える(ただし、輸出国で窒素問題が深刻化すれば、この環境コストが将来的に内部化される可能性がある)。一方で、食料・飼料の高い輸入依存は、廃棄物や排せつ物の窒素を有機肥料としてリサイクルする点で不利である。なぜなら、リサイクル窒素を受け入れられる国内生産の場が限られるためである。ましてや、リサイクル窒素を国外に送ることは現実味に乏しい。結果として、食料・飼料の消費に伴い発生する窒素の大部分が余剰となって環境に負荷される。言い換えれば、日本は世界中から食料・飼料に含まれる形で窒素をかき集め、最終的に環境にばらまいている。日本は輸入額と輸出額の差分では世界一の食料輸入超過国である。よって、窒素の輸入超過でも世界一であるのかも知れない。
食生活の変化は窒素負荷を変える。経済発展に伴い畜産物(肉類、鶏卵、および乳製品)の消費量が増えるのは世界共通のことであり、日本も例外ではない。肉類はたんぱく質に富むため、その消費は結果として窒素負荷を増やすことになる。また、国内飼養の家畜について、その飼料の国内生産および家畜排せつ物が窒素負荷をもたらす。日本では1965年から2012年にかけて一人あたり年間の供給純食料が肉類で9.2kgから30.0kg、鶏卵で11.3kgから16.7kg、牛乳・乳製品で37.5kgから89.5kgに増加した。この間に総人口は9920万人から12750万人に増加し、消費増加に人口増加を乗じた分の窒素負荷が増えたことになる。
加えて、現在の日本では、本来食べられるのに廃棄される食品(食品ロス)が多い。食品関連事業者および一般家庭における食品ロスは年間500~800万トン(2010年)に達する(参考:世界全体の食料援助が年間400万トン、日本のコメ生産量が年間850万トン)。ここには生産現場から出荷されずに捨てられる農産物が含まれておらず、実際にはさらに多くが食品として消費されずに処分されている。食品ロスが増えるだけ窒素負荷も増えてしまう。
窒素負荷が空間的に集中すれば、そこでは環境影響(典型的には地下水や湖沼の水質汚染や富栄養化)が生じやすい。集約的畜産地域では地域内の農耕地に比して多量に発生する家畜排せつ物が、肥料多投入型作物の生産地域では農耕地からの溶脱が増える窒素肥料が、窒素負荷の原因となる。これらの窒素負荷源が集水域のどこに位置し、水の流れと他の土地利用がどう関わるかといった要素もまた、窒素負荷がもたらす環境影響を大きく左右する。

 2.3.切り口で形が変わる窒素問題
窒素がもたらす環境影響の空間スケールは多様である。よって、窒素問題を評価する指標には、総量、一人あたり、および面積あたりなど様々な切り口がある。例えば、温室効果ガスとしてのN2O発生量を評価するには国の総量がよく、食料消費に伴う窒素負荷を国別に比較するならば人口あたりがよく、生態系への影響評価に用いるには面積あたりがよい。目的に応じた指標は重要である。しかし同時に、指標が複数あることは、切り口によって見え方が変わることを意味する。単一の指標に頼っては窒素問題の本質を見誤る危険性がある。
ここまでを読む限り、読者の多くが日本の窒素負荷は大きいと思うであろう。しかし、国民一人あたりの窒素負荷を比べると日本はOECD諸国の中で2番目に小さい(日本:21.2kgNcap–1yr–1、OECD平均:47.9kgNcap–1yr–1)。その原因は食料生産に伴う窒素負荷がとても小さいことにある(日本:3.8kgNcap–1yr–1、OECD平均:26.2kgNcap–1yr–1)。これは日本が輸入する食料・飼料を生産する国における窒素負荷が日本の負荷として考慮されていないためである。将来的には、食料・飼料輸入国はその生産国における窒素負荷を補償すべきという議論が起こるかも知れない。一方、国土面積あたりの窒素負荷を比べると日本はアジア諸国の中で3番目に大きく、2000年時点で約50kgNha–1yr–1であった。環境への窒素負荷の観点では、日本の負荷は決して小さくない。また、農耕地の余剰窒素(耕地面積あたりの窒素負荷)という指標もある。これは農耕地への窒素投入量(施肥、大気沈着、窒素固定など)から作物として収穫される窒素量を差し引いたものである(ただし、事例により考慮する過程が若干異なる)。2002–2004年の日本の農耕地の余剰窒素は171kgNha–1であり、これはOECD諸国の中で韓国、オランダ、ベルギーに次いで4番目に大きく、OECD平均74kgNha–1より約100kgNha–1も多い。日本の農耕地には廃棄物や排せつ物由来の窒素をこれ以上に受け入れる量的な余地はなく、余地を作るには化学肥料としての窒素投入量を減らす必要がある。このように、指標ごとに様々な状況を読むことができる。個々の指標の切り口を考慮しつつ、多様な指標を用いて全体像をあぶりだすことが大切である。ただし、総合評価を行うには、各指標の統合的な解釈方法の開発が必要となる。
補足として、上記の指標はいずれも窒素の化学種を区別しない。冒頭で述べたとおり、窒素は環境中において酸化態、還元態(有機物を含む)、およびN2と多様な化学種として存在し、ガス、溶存イオン、固体などの多様な化学形態をとる。そして、諸反応により化学種や
化学形態がめまぐるしく変化する。これらのために特定の化学種を対象とした指標を定めにくい。対流圏で安定なガスとして存在するN2Oは例外的である。
3.世界における窒素問題への取り組み例
 3.1.国際窒素イニシアティブ(INI)
 3.2.FutureEarth(FE)
 3.3.経済協力開発機構(OECD)
4.おわりに

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世界の一酸化二窒素収支2020 11月4日

国立環境研究所、海洋研究開発機構、フューチャー・アース日本ハブは10月5日、国際的な地球環境研究プログラム(GCP)で得た「世界の一酸化二窒素収支2020年版(N2O Budget 2020)」を公開しました。
研究の背景と結果と分析10月5日プレスリリースより]

 研究の背景

  一酸化二窒素(N2O)は、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの主要なものの1つです。N2Oは、二酸化炭素やメタンといった他の温室効果ガスと比べて大気中の濃度は低いですが、単位濃度あたりで温暖化をもたらす能力(地球温暖化係数)が高く重要な成分です。また、成層圏オゾン層の破壊物質でもあります。これまでの大気中のN2Oは1750年の270 ppb (十億分率、1 ppb = 0.0000001%)から2018年の331 ppbまで増加してきました。この増加傾向は今後も数十年間続き、食料、飼料、繊維、エネルギーの需要が高まり、廃棄物や産業活動による排出が増えることで2050年までに倍増する可能性があります。こうした重要性にもかかわらず、世界のN2O排出の全体像を明らかにし、また、窒素(N)投入とN2Oの排出・吸収フラックスを決定する生物地球化学的プロセスとの相互作用(つまり異なるN2O排出源と吸収・消滅源の間の動的な関係)を解明するための研究は、これまで十分ではありませんでした。

 研究結果と分析
   2020年10月8日、過去数十年間にわたり全球のN2O放出量が増加し続けていたことを示す論文がNature誌に掲載されます。この増加の主な原因は、人間活動による放出が30%程度増えたことです。全体の中では、農業における窒素肥料の使用、そして家畜からの堆肥製造といった農業活動が増加したことが排出量増加の主要因となっていました。
   経済成長が急速な国、特にブラジル、中国、インド、におけるN2O排出の増加は最も顕著で、作物生産や家畜頭数の急増に伴うものでした。
   これらの知見は、私たちの食糧生産システムにおいてN2O排出を削減することが喫緊の課題であることを強く示しています。本研究で明らかになったN2O排出の増加は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2013年に第5次評価報告書で設定した将来の排出シナリオのうち、最も悲観的なシナリオと同等かそれ以上であり、この場合、世界の平均気温は3℃をはるかに超えるほど上昇することになります。……
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:赤色(図中の1)を付けたもの)の矢印は農業部門(農業)における窒素投入からの直接的な放出を指す。オレンジ色の矢印(同じく2))は、その他の直接的な人為起源の放出を指す。紫色(同じく3))の矢印は、人為的窒素投入からの間接的な放出を示す。茶色(同じく4))の矢印は、気候変動/CO2/土地利用によって影響を受けた排出フラックスを示す。緑色の矢印は、自然起源の放出と吸収・消滅を示す。人為及び自然起源のN2O排出はボトムアップ手法による推定である。青色の矢印は地表での吸収と大気中で観測された化学反応による消滅であり、そのうち約1%が対流圏で発生している。収支の合計(排出量+吸収・消滅量)は大気中で観測された増加量と厳密に一致はしていないが、それは、それぞれの排出量は別々の手法で推定されたことや、大気観測に合うように排出推定の調整を行ってはいないからである。この不一致の大きさは、各排出と吸収・消滅量の範囲に見られるように、N2O収支全体の推定不確実性の幅に十分収まっている。N2Oの排出量と吸収・消滅量の単位はTg N yr–1である(1Tg = 1012 g)。


「世界の一酸化二窒素収支2020年版」を公開(排出の増加止まらず最悪の場合平均気温が3℃超上昇:国立環境研究所ほか 2020年10月8日発表)公益財団法人 つくば科学万博記念財団『つくばサイエンスニュース』

(国)国立環境研究所、(国)海洋研究開発機構、フューチャー・アース日本ハブは10月5日、国際的な地球環境研究プログラムで得た「世界の一酸化二窒素(N2O)収支2020年版」を公開した。N2Oの排出増加は今後も続き最悪の場合世界の平均気温が3℃を超えるほど上昇することになると警鐘を鳴らしている。

 N2Oは二酸化炭素(CO2)やメタンと同様に地球温暖化の原因になっている気体。ただ、大気中の濃度は2018年時点で約330ppb(1ppbは10億分の1)、CO2の同400ppm(1ppmは100万分の1)の1,000分の1以下と遥かに低い。

 だが、地球温暖化係数と呼ばれる単位濃度当たりの温暖化能力は高くCO2を上まわる。

 しかもN2Oは、太陽からの有害な紫外線を吸収して地上の生態系を守ってくれているオゾン層の破壊物質でもある。オゾン層があるのは遥か高空の成層圏だがN2Oは大気中を上昇して成層圏に達し光化学反応で分解される過程でオゾン層の破壊を引き起こす。

 しかし、N2Oの発生と吸収・消滅の間の収支関係を解明する研究はまだ十分に行なわれていない。

 公開した研究報告は、各国の研究者が協力して世界のN2Oの全ての発生源と吸収源を今までになく詳細に集計し分析を行ってまとめたもので、日本の国立環境研と海洋研究機構の研究者など世界44機関の研究者70人が参加しての国際共同研究として行った。

 その結果、世界のN2O排出総量の内の実に82%が農業生産起源の排出であることが明らかになったとし、食糧生産システムからのN2O排出を削減することが世界の喫緊の課題だと強調。N2O排出の増加は「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2013年に第5次評価報告書で設定した将来の排出シナリオの内、最も悲観的なシナリオと同等かそれ以上」だとし「この場合、世界の平均気温は3℃を遥か超えるほど上昇することになる」と危機的状況にあることを訴えている。

10月29日、公開フォーラム「『世界の一酸化二窒素(N2O)収支2020年版』と食料システム」がオンラインで開催され、伊藤昭彦さん(NIES 地球環境研究センター 物質循環モデリング・解析研究室長)が、「世界の一酸化二窒素(N2O)収支2020年版」概要について講演(29:59)しています。

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窒素問題の解決:窒素循環汚染から窒素の循環型経済へ 11月3日

国連環境計画(UNEP:United Nations Environment Programme ユネップ)は、社会・経済・生態系に甚大な影響を及ぼすと考えられる新たな環境問題について検証・分析する「フロンティア」報告書(Frontiers: Emerging Issues of Environmental Concern)を毎年発表しています。第4回国連環境総会(UNEA4)に先立ち2019年3月に発表された「Frontiers 2018/2019: Emerging Issues of Environmental Concern(フロンティア2018/2019:新たに懸念すべき環境問題)」では、新たに懸念される環境問題として1)合成生物学の台頭、2)ランドスケープの断片化、3)泥炭地永久凍土の融解、4)窒素汚染、5)気候変動への不適切な適応を取り上げ、それぞれの解決策を検討し、循環型経済の実現に向けた窒素管理の重要性を指摘しています。
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窒素問題の解決:窒素循環汚染から窒素の循環型経済へ」(16頁)は『フロンティア2018/2019』(79頁)の窒素汚染に関する章「The Nitrogen Fix: From Nitrogen Cycle Pollution to Nitrogen Circular Economy」(52~64頁)の公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)による日本語翻訳版[日本語版翻訳:林健太郎(農研機構)・柴田英昭(北海道大学)、日本語版編集協力:一般社団法人 日本 UNEP 協会]です。

窒素問題の解決:窒素循環汚染から窒素の循環型経済へ
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はじめに 3頁
20世紀はじめに二人のドイツ人化学者、フリッツ・ハーバーとカール・ボッシュは、安価で大規 模に合成窒素を生産する方法を開発した。その発明は窒素肥料の大量生産を加速し、世界の 農業を転換させた。これは同時に、地球の窒素バランスに対する我々の長期的な干渉のはじま りでもあった。毎年、推定2,000億米ドル分の反応性窒素が環境に排出され、土壌を劣化させ、 大気を汚染し、河川や湖沼における「デッドゾーン」や有毒な藻類繁殖の拡大を引き起こして いる。 多くの科学者が「人新世(Anthropocene)」を現代の地質年代の公式名とすべきだと唱えるの も無理はない。ほんのここ数十年で、人類は自然変化の170倍もの速さで地球の温度を上昇さ せてきた。人類はまた、地球の陸面の75%以上を意図的に改変し、世界の河川の93%以上の流 れを不可逆的に変えてしまった。生物圏に大きな変化をもたらしているだけでなく、今や人類 は生命の基本構成単位を書き換えることや、新たに創り出すことさえも可能になった。 毎年、世界中の科学者、専門家、および研究機関のネットワークは、国連環境計画と協力して我々の社会、経済、および環境に大きな影響を与え うる新たな問題を見いだして分析している。これらの問題の幾つかは、思いがけない用途と不確定なリスクを伴う新技術とリンクし、その他は、 自然景観の断片化および長期間凍結していた土壌の融解といった永続的な問題である。もう一つの問題、窒素汚染は、生物圏における数十年 の人間活動の非意図的な結果をあらわしている。本報告書で取り上げた最後の問題、気候変動への不適切な適応は、変わりゆく世界に対する 十分かつ適切な順応に我々が失敗することに着目している。 良い知らせもある。当該箇所を読むとわかるとおり、窒素管理という世界的な問題に対する全体的なアプローチが始まりつつある。中国、イン ド、および欧州連合において、窒素肥料のむだを減らして効率を改善する前途有望で新たな取り組みが成されている。究極的には、その他の価 値ある栄養塩や素材と同様に窒素を回収して再循環させることが、クリーンで持続的な農業を助ける。真の循環型経済である。 本報告書で取り上げた問題を通じて、我々の自然への介入は常に、全球規模でも分子レベルでも、我々の住まう地球に長期的な影響を引き起 こすリスクを伴うことを認識すべきである。しかし、先見の明を持って協働することにより、問題の一歩先を進み続け、何世代も先までを見据え た解決策を創造できるだろう。

窒素問題の解決:窒素循環汚染から窒素の循環型経済へ

 地球規模の窒素問題 4頁
  環境中における窒素のさまざまな形態
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 窒素についてわかっていること・わかっていないこと 6頁
  2014年の対流圏二酸化窒素(NO2)の平均濃度
  

  

  運輸・エネルギー・産業部門における化石燃料の燃焼
  肥料製造
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  作物栽培における生物学的窒素固定
  廃棄物
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  窒素カスケード
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 政策細分化と循環経済の解決策 10頁
  窒素、栄養塩、そして循環型経済
2015 年に欧州連合(EU)で採択された「循環型経済パッケージ」 は、生産、消費、廃棄物管理、二次原料リサイクルというバリュー・ チェーン(価値連鎖)のすべての段階における資源利用効率を最 大化することを目指している42,43。その計画では、有機肥料と廃 棄物由来肥料の管理と取引が、EU 経済における窒素とリンなど の栄養塩の回収とリサイクルの伴になると認識されている。新た な規制では、国内で入手可能な生物性廃棄物、乾燥あるいは消 化した排せつ物などの畜産副産物、その他の農業由来残渣を用 いた有機肥料の持続可能かつ革新的な生産を奨励している。現 在、EUでは有機廃棄物(生ごみなど)の 5% のみがリサイクルお よび肥料として利用されているに過ぎない。生物性肥料の国境 を越えた自由度の高い流通を可能とすることで、EU 域内の二次 原料向け新規市場とサプライチェーン(供給網)の創出につなが る。その結果、約 12 万人の雇用が生み出されると試算されてい る。生物性廃棄物からの窒素の回収は、製造に伴う炭素とエネ ルギーのフットプリントが大きい合成無機肥料の需要を削減、代 替すると期待されている。同時に、環境への反応性窒素の排出 の削減に役立つだろう。 窒素と他の栄養塩の循環型経済への着手は農地から始まる。農 地からの窒素損失を減らすことによって、作物生育を支える栄養 塩の供給がより効率的になる。ここで主に必要なのは、この緩和 手法の実施により農地からの窒素損失が削減される分だけ、農 地への窒素投入量を減らすことができるという点を農家にわかり やすく伝える実用的なツールを提供することだ。このようなツー ルは、栄養塩レベルを細かく調整することになる農家への信頼を 得るために、適切な土壌診断によって裏付けられるべきである。 また一方、付加価値の高い産物の生産のために、窒素と他の栄 養塩の再利用を拡大する可能性も大いにある。大規模な投資が 社会を「低炭素経済」に転換しつつあるように(例:再生可能エ ネルギー資源の導入)、窒素の価値は、「窒素の循環型経済」に 向けての投資を通じた大きな経済機会を示唆している。
  1980年と2016年の窒素肥料の地域別消費量

 窒素に関する包括的な国際アプローチに向けて 12頁
  農業による大気汚染 2:01
  

  肥料が環境とあなたの問題である理由 1:55
  

  条約間窒素調整メカニズム
  農業のアンモニア問題 6:40
  

 参考文献 14頁
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The two faces of nitrogen 窒素のはなし~おもてとウラの顔 - 日本語字幕付き 5:05
2020年、ポルトガルの研究者チームが作成した動画。窒素の恩恵、窒素利用がもたらしている様々な問題、その解決の手立てについて紹介しています。日本窒素専門家グループ(JpNEG)のメンバーが字幕をつけています。
  

窒素の七変化(フロー図)
農研機構 農業環境変動研究センターが農業環境技術研究所(~2016年3月)であった2009年の記事「肥料と環境: 農地から流れ出す窒素」のフロー図です。
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肥料と環境: 農地から流れ出す窒素常陽新聞連載「ふしぎを追って ―研究室の扉を開く」の2008年11月12日の記事を転載したもの)
土に堆肥やきゅう肥を入れると作物がよくとれること、そしてそのような土には腐植がたくさん含まれていることは昔からよく知られていました。ですから200年ほど前まで、植物は土の中の腐植などさまざまな土壌有機物を吸収して生長すると信じられていました。これを有機栄養説といいます。
この考え方は、ドイツ人科学者のリービッヒがとなえた無機栄養説によって完全に否定されました。植物が土の中から吸収しているのは、土壌有機物が分解してできた無機塩であることが証明されたのです。その後、工業的に製造・加工された安価で扱いやすい化学肥料が使われるようになって、食料の生産は飛躍的に増大しました。
食料を生産するときに農地からもっとも失われやすい栄養素は、窒素、リン酸、カリです。足りなくなった三大栄養素を肥料として土に補給する必要があります。とくに失われやすい窒素については、大気中の窒素ガスに水素ガスを反応させてアンモニアを合成する方法が19世紀初めにドイツで開発されました。それ以来、大量の窒素肥料が農地に投入されるようになりました。
ところで、植物が吸収・利用できるのは、農地に投入された窒素のせいぜい半分くらいと見積もられています。土の中に残ったアンモニウムイオンは、微生物の働きによって亜硝酸イオンから硝酸イオンへと姿を変えます(硝酸化成)。土の中の腐植や粘土はマイナスの荷電を持っているので、プラスに荷電したアンモニウムイオンを捕まえておくことはできますが、マイナスの硝酸イオンを保持しておくことはできません。そのため、硝酸イオンは硝酸塩となって水環境へ流れ出してしまいます。
硝酸塩は大気中の窒素ガスとは違って生物に対する反応性が高く、いろいろな問題を引き起こします。身近なところでは、井戸水の硝酸汚染、河川・湖沼の富栄養化などが問題になっており、その流出を防止する技術が研究されています。また、硝酸化成の途中や、酸素の少ない土の中で硝酸イオンが窒素ガスに姿を変えるとき、副産物として亜酸化窒素が生成します。亜酸化窒素が大気中に出ると、二酸化炭素より強力な温室効果ガスとして地球全体に影響を及ぼすため、その発生を抑える技術が研究されています。(農業環境技術研究所 物質循環研究領域長 菅原和夫)

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