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気候変動・脱炭素社会

江守正多「コロナと気候変動、その共通点と相違点」① 6月26日

みんな電力株式会社が運営するウェブサイト『ENECT(エネクト)』の「ひと(PEOPLE INTERVIEW))」に掲載されている江守正多さんと上田マリノさんの対話「コロナと気候変動、その共通点と相違点」(全3回)。第1回は2020年4月22日公開されました。
「「気候変動対策の本質は、今コロナでやっている自粛やステイホームのような我慢ではない。」それよりも、積極的に活動して「脱炭素社会への移行をどう実現するか?」という、しごくポジティブな思考と姿勢が大切」。以下は江守さんの発言部分から引用(アンダーラインは引用者)。
 気候変動の場合は、あるポイントを超えると世界の破滅が一気に起きるわけではなく、少なくとも今のところ現象は散発的です。ある年はある場所で大雨だったり、別の場所では大干ばつ、森林火災などが起きていますが、一つ一つはその場所にとってのイベントです。もちろんそれらを総体的に見れば、かつては起こりえなかった頻度や激しさであることが見えてくるんですが、まだ全体的な激しさはジワジワと高まってきている状況です。
 つまり気候変動は、今回のコロナほどにはわかりやすくない。もちろん異常気象が直撃した場所ではそれはそれは悲惨なことになっているんですが、それが自分のところにない限りは他人事でいられる。ただそれがいつ自分のところにくるか、その可能性は高まっているし、世界全体を俯瞰して見ても増えていると。
 コロナは世界で一気にきたし、気をつけないと自分や自分の家族が本当に死んでしまうかもしれないという話なので、言い方は変かもしれませんが、「よりわかりやすい」という感じはしてます。
 コロナに関して「気候変動自体が直接的に影響を与えて起きたか」というと、そこは現時点ではわかっていないし、たぶん、そうは言えないと思います。もちろん間接的に、気候変動によって起きた生態系破壊みたいなことが、ウイルスが出てきた原因の一部であるかもしれません。でも、少なくとも僕にはそれはわかっていません。
 それよりももっと根っこのところで関係があるというか、人間活動による生態系破壊やグローバル経済といったものと、気候変動を起こしている、直接的にそれは化石燃料の燃焼なわけですが、それを止められない世界の経済システムというものがあります。
 前提の認識として、それらは同じものです。その意味において、コロナと気候変動の問題には共通項があります。
 その次に、私たちに「何ができる?」、「アクションを起こして意味があるのか?」ということがあります。それに関しては、コロナと気候変動で似ているところと違うところがあると思っています。
 まずコロナに関しては「個人の行動変容」ということが、問題全体において決定的な役目を果たします。それは今、「接触機会の8割削減」ということが言われるわけですが、個人が「出歩かない」、「人に会わない」、「人と近くで喋らない」、「手を洗う」、「消毒をする」ということを一人一人がやるということが、この問題を当面封じ込めることにおいて決定的に大切です。そしてそのために店を閉めないとならないし、じゃあ「補償はどうするんだ?」ということが議論になっています。
 そことの比較で考えると、気候変動で個人が当面できることというのは、コロナの接触削減に当たるものがCO2排出削減になります。それは自分の生活の中で、なるべくCO2を出さないようにするのは、個人の立場でできることだし、今までもそこを意識して行動してくださった方々はそれなりにいらっしゃったはずです。
 それはもちろん素晴らしいことなんですが、実は気候変動の場合の「生活からCO2の排出削減をする行動」というのは、コロナにおける接触削減ほど本質的な重要性を持たないんじゃないかと思うんです。つまり、気候変動の場合は「あと30年で世界の排出量を実質ゼロにしないといけない」という話なので、自分たちが行動の中で多少気をつけてエネルギーを使う量を減らしても、正直そんなに変わりません
 2009年のリーマンショックでも相当経済が縮小したと言いはしましたが、CO2の排出量は2%くらいしか減りませんでした。今だってものすごくみんなが経済活動を止めて、「半分くらいはCO2が減ってるんじゃないか」と思いがちですが、家にいても電気は使います。そしてスーパーに物を運ぶため、Amazonの倉庫へもトラックは走ってますし、電車は空でも動いているわけです。ですから、実はエネルギーを使う活動はそんなに減っていないと思います。
 となると「活動の縮小」は、残念ながら本質的な「気候変動を止める」ところまでの効果は持ちません。そこだけに頼るわけにはいかない。そこが、コロナとの大きな違いでもあると思います。
 気候変動の場合は、そこを超えて、まさにこれはみんな電力さんの事業とも大きく関わることになる部分と思いますが、最終的には「再エネ100%の社会を目指す」と。それには「人々がどんなに活動をしてもCO2が出ない」という、社会を「そういったエネルギーシステムに変えてしまう」、そこを目指しているわけです。
 個人としても、そこをめがけて考えて行動していくのが、これから非常に重要なことだと思っています。それは、自分が人知れず省エネをやって、自分は頑張ったので、「もうあとは偉い人に任せます」ということでは決してないんです。
 つまり、社会の中で化石燃料が減って再エネが増えるのを、どう「個人として後押し」できるのか。その発想で個人もアクションをしていくことが、今後とても重要です。
 気候変動の文脈で、我々が目指しているのは「脱炭素社会」であり、電力も交通も最終的に全部が脱炭素エネルギーになればいいと思っています。その状態はコロナに置き換えると、治療薬とかワクチンが開発されて普及した状態に相当するんじゃないかと思います。
 つまり、今は我慢をしてるけど、最終的には「治療薬とワクチンが開発されて、この状態を克服する」ことが出口なわけです。その点において、コロナの場合は「今我慢すること」がすごく大事であると。
 それに対して、気候変動の場合は「脱炭素社会になる」という明確な出口があります。みんなでそれを目指すことはもちろん大事で、でもその時に「我慢」はあまり本質的ではない。むしろ積極的に活動して、「脱炭素社会への移行をどう実現するか?」ということがとても重要になってきます。
 僕がここをすごく強調するのは、コロナ対応はすごく我慢、自粛する社会的ムードになっています。それでCO2も減っているとなると、「もっと我慢すれば温暖化も止まるのか?」という発想になるかもしれない。でも、その考え方は危険です。その発想では結局、「コロナでこれだけ我慢して、その後に温暖化のことなんて、もう考えるのも嫌だ」という風に、多くの人はなってしまうように思えます。
 そうではない。
 「気候変動対策の本質は、今コロナでやっているような我慢ではありませんよ」と。それはもっと前向きな話であって、新しいエネルギーシステムとか交通システムと、食料や都市のシステムに社会をアップデートしていく。それを「どう、みんなで実現できるか考えましょう」と。だからそこが我慢ではなく、しごく前向きでポジティブなのが、気候変動の話なんです。
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最終確認 地球温暖化は本当なんですよね? 6月23日

『世界』2020年5月号に掲載されている江守正多[えもりせいた]さんの「最終確認 地球温暖化は本当なんですよね? 疑うのはこれで終わりにしよう」を読みました。以下の項目に答えています(聞き手=編集部・渕上皓一朗さん)。
 1 「温暖化」という現象は、本当にあるのですか?
     2019年までの世界平均気温の推定
 過去2000年の世界平均気温は、木の年輪などをもとにした代替データからの復元によって、ある程度推定できます(図2[上図]が最新の推定値をグラフにしたものです)。最後の150年間に、著しい気温上昇がありますね。
 しばしば言われる「中世の温暖期」、14世紀~19世紀の「小氷期」(ミニ氷河期)も、確かにグラフから見て取ることができますが、いずれも以外と小さいことがわかります。いまは明らかに過去にない異常な上昇を見せています。

 2 「温暖化」は温室効果ガスのせい?
 
 3 「温暖化」はよくあること?

 4 気温が原因でCO2が結果?

 5 CO2だけが悪者なのでしょうか?

 6 異常気象は気候変動のせいなのでしょうか?

 7 温暖化についてわからないことがあるのですか?
ー日本における懐疑論は、2000年代に盛り上がり、原発事故でいったん沈静化したのち、近年の「グレタ・ショック」で再燃している印象があります。その間、IPCCは、「二酸化炭素が気温上昇の主な原因である」かどうかについて、第3次報告書(2001年)において「可能性が高い」(66%以上)だった評価を、「可能性が極めて高い」(95%以上)に上方修正しています。この間、どのような研究の進展があったのでしょうか。
 基本的には、30年前に第1次報告書(1990年)で言われたことが徐々に、より確かになってきた、ということだと理解しています。その意味で、何か基本的なところでで新たな発見があったとか、そういうことではありません。
 ではなぜ確度が上がったかといえば、先ほど言った人工衛星のような観測技術や、シミュレーションのためのコンピュータの発展もありますが、なにより30年刊で実際に温暖化のプロセスが進行したことが非常に大きいですね。その間に取られたデータによって、議論の確実性がより高まっていきました。

ーつまり、懐疑論について議論する段階はとうに終わっているということですね。では、このテーマについて未解明の事項はもはやない、ということでしょうか?
 いえ、むしろ、新たに喫緊の課題が持ち上がっています。
 それが近年特に話題になっている、いわゆる「テッピング・エレメント」という現象です。温度上昇がある臨界点を超えたとき、仮にその後上昇を止めたとしても、変化の進行を止めることができないような現象で、いま非常に懸念されています。[中略]
 …[一度大規模に始まってしまうと、もう後戻りできない不安定なモードに突入]…それが本当に起こるのか、起こるとすれば何℃で起こるか、起こったらどういう現象が起こるか、非常に大きな研究課題です。
 さらには、それらの現象が相互に連鎖する可能性も懸念されています。一つのスィッチが入ったら、それによる変化が次のスィッチを入れてしまい、負の変化が連鎖して止まらなくなってしまうかもしれない。「ホットハウス・アース」とよばれ、注目されています。
 もうひとつ、喫緊の課題とされているのが「カーボン・バジェット」(炭素予算)です。平均気温の上昇幅を1.5℃で抑えるためには、どれほど温室効果ガスの排出が許容されるのか。
 今回のIPCC特別報告書では「2050年頃にはCO2排出量を実質ゼロにしなくてはならない」としていますが、いまだ推計値にはかなりの幅があります。この確度をどの程度上げ、それをどのように具体的に政策に落とし込むか、今後の研究にかかっています。

……科学的成果の何をどこまで信用すればよいのか、専門家でないわれわれ市民には、つねに難しい判断を突き付けられる。これは、未曾有の感染症流行に直面しているいままさに、切実な問題としてわれわれにふりかかっている。科学者と市民のあるべき関係について考えるうえで、温暖化懐疑論に対する研究者たちの数十年にわたる誠実な対話の姿勢から学ぶべきことは大きい。……(聞き手=編集部・渕上皓一朗)
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※YouTube【20分でわかる!温暖化のホント】地球温暖化のリアル圧縮版①[国立環境研究所動画チャンネル]地球温暖化をテーマに、江守正多(国立環境研究所地球環境研究センター副センター長)が、中高生にもよくわかるように解説する全3回シリーズの初回。第1回は「地球温暖化のウソ?ホント?」をテーマに、温暖化にまつわるよくある疑問について、クイズ形式で、わかりやすくお話しします。2020年3月に生配信した「【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】第1回 地球温暖化のウソ?ホント?」から、解説部分をぎゅっと20分に圧縮したダイジェスト版です。全編字幕つきで、より見やすくなりました。地球温暖化の基本を短時間で理解するのにおすすめです。


※YouTube【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】第1回 地球温暖化のウソ?ホント?[国立環境研究所動画チャンネル]地球温暖化をテーマに、江守正多(地球環境研究センター副センター長)によるトーク【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】を生放送します。日時:2020年3月13日(金)15時~15時40分くらいまで全3回のうち、第1回「地球温暖化のウソ?ホント?」をお届けします。特に中学生、高校生がよくわかるようにお話しします。もちろん、それ以外の方のご視聴も歓迎します。


※YouTube【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】第2回 温暖化ってヤバいの?[国立環境研究所動画チャンネル]江守正多(地球環境研究センター副センター長)によるトーク【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】(全3回)のうち、第2回「温暖化ってヤバいの?」を生放送します。日時:2020年3月18日(水)15時~15時40分くらいまで


※YouTube【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】[国立環境研究所動画チャンネル]江守正多(地球環境研究センター副センター長)によるトーク【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】(全3回)の、第3回「じゃあ、どうしたらいいの?」を生放送します。日時:2020年3月23日(月)15時~15時40分くらいまで


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江守正多「組織的な温暖化懐疑論・否定論にご用心」(掲載誌 : 国際環境経済研究所HP内「オピニオン」 (2020))
英語圏における組織的な温暖化懐疑論・否定論
 人間活動を原因とする地球温暖化、気候変動をめぐっては、その科学や政策を妨害するための組織的な懐疑論・否定論のプロパガンダ活動が、英語圏を中心に活発に行われてきたことが知られている。
 米国の科学史家ナオミ・オレスケスらによる「世界を騙し続ける科学者たち」(原題:Merchants of Doubt) にその実態が詳しく記されている。タバコ、オゾンホール、地球温暖化といった問題に共通して、規制を妨害する側の戦略は、科学への疑いを作り出し、人々に「科学がまだ論争状態にある」と思わせることだ(manufactured controversy) 。そこでは、規制を嫌う企業が保守系シンクタンクに出資し、そこに繋がりを持った非主流派の科学者が懐疑論・否定論を展開し、保守系メディアがそれを社会に拡散している。
 他にも社会科学者がこの問題について実態解明を進めており、2015年にNature Climate Changeに掲載された論文 では、懐疑論・否定論の多くはエクソン・モービルとコーク・ファミリー財団という化石燃料企業やその関連組織が中心となって広められていることがネットワーク分析により明らかになっている。
 化石燃料企業の経営の視点から見れば、温室効果ガスの排出規制等が政策として導入されれば収益に著しい損失をもたらすのだから、それを妨害するためであればプロパガンダ活動に相当の出資をしても見合うというのが「合理的な」判断かもしれない。
 しかし、気候変動の危機の認識が社会において主流となってきた現在では、そのような妨害活動の実態を暴かれることが、企業にとって大きなレピュテーションリスクや訴訟リスクとして跳ね返ることになり、損得勘定は以前と変わってきているだろう。エクソン・モービルは、1970年代から人間活動による温暖化を科学的に理解していたにもかかわらず、対外的には温暖化は不確かという立場をとり続けてきたことが明らかになり、複数の訴訟を起こされている。
日本における懐疑論・否定論
 筆者は2007-2009年ごろの地球温暖化が社会的関心を集めた時期に、温暖化懐疑論・否定論とずいぶん議論する機会をもった。筆者の当時からの認識としては、日本国内において英語圏の資本による組織的な懐疑論・否定論プロパガンダの影響は小さいと思っていた。
 日本では、懐疑論・否定論に同調的な産業界寄りの論客がたまに現れるものの、エネルギー産業や鉄鋼業などの企業も、組織としては気候変動の科学をIPCCに基づき理解しようと努めており、規制に対抗するにしても、科学論争ではなく政策論争を争点としているようにみえた。
 これまでに筆者が議論した懐疑論・否定論の論客(多くは気候科学以外を専門とする大学教授) も、英語圏の懐疑論・否定論をよく引用するものの、筆者個人の印象では、英語圏の資本による組織的なプロパガンダとはつながっていないようにみえた。
GWPFの記事を組織的に紹介?」「内容はどこがおかしいのか?」「IPCC「1.5℃報告書」の欠陥?」(略)

懐疑論・否定論のリスク
 温暖化懐疑論・否定論は主流の科学との議論に勝つ必要はなく、「なにやら論争状態にあるらしい」と世間に思わせることができれば成功なのであるから、それに反論する活動に比べると圧倒的にノーリスクで有利な、「言ったもん勝ち」の面がある。
 一方、世間がそのようなプロパガンダ活動の存在を知れば、ある組織がその活動に関わっていると世間から見られることは、組織の評判を毀損するレピュテーションリスクになるだろう。懐疑論・否定論を見る側も、見せる側も、そのことをよく理解してほしいと思う。
 最後に、この記事を寄稿させてくださったIEEI[国際環境経済研究所]のオープンな姿勢に敬意を表し、心より感謝を申し上げる。

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※『下野新聞SOON』(Shimotsuke Original Online News)の特集「気候変貌 とちぎ・適応への模索」第6部 次世代への(下)に掲載された「江守正多氏に聞く 温暖化世界と危機感の差」です。
 世界の平均気温は産業革命以降、すでに1度温暖化し、いまも上昇を続けている。持続可能な社会を次世代に引き継ぐために、私たちは気候変動とどう向き合えばよいのだろう。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書の主執筆者を務める国立環境研究所地球環境研究センターの江守正多(えもりせいた)副センター長に話を聞いた。
 2015年に国連で採択された地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」では、「世界平均気温の上昇を産業化以前と比べて2度より十分低く抑え、さらに1.5度未満に抑える努力を追求する」という長期目標が合意されている。
 昨年10月には、上昇幅を1.5度に抑えた場合の影響などをまとめた国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の特別報告書が公表された。気候変動による悪影響のリスクは、1.5度温暖化した世界では現時点よりも顕著に大きくなり、2度ならさらに大きくなることなどが書かれている。これを受け、世界では「やはり1.5度で止めるべきだ」という議論がかなり盛り上がっていると感じている。
 現時点で、世界の平均気温はすでに1度上昇している。1.5度未満で止めようと考えると、産業革命以降、もう3分の2まで来てしまった。そして残り3分の1は、今のペースで温暖化が進めば、あと20年前後で到達する。
 それが、私たちの現在地を示している。
  
 1度の温暖化による悪影響や、1.5度でどのくらいひどくなるかについて、まだ日本国内ではそれほど深刻には捉えられていないかもしれない。
 だが、大きな被害が出ているのは、対応力が限られる途上国の人たち。特に干ばつが食糧危機をもたらすような乾燥地域の国々、海面上昇や高潮の影響が生活基盤を脅かすような沿岸域、あるいは小さい島国の人たちにとっては、かなり深刻だ。
 こうした国々の他にも、世界では人類とその文明にとって危機的な状況が迫っているという認識を持つような人たちが増えてきている。中でも非常に大きなグループが若者たちだ。
 学校を休んで気候変動対策を求める「学校ストライキ」が世界中で起きている。今年の3月15日には約150万人が参加し、5月24日にも世界規模でのアクションがあった。
 例えば2050年に気温上昇が1.5度を超え、自然災害や生態系の破壊、さらに社会的な混乱が本当に深刻になった時に、彼らは40代ぐらい。社会の真ん中でそうした状況を受け止めなければならない世代が本気で心配しているということだ。
 彼らは今、政治的な発言権がないため、学校を休むという、ちょっと極端なことをやって注目を集めながら、自分たちの声を大人たちに聞かせようとしている。
 これは、現在の世界における危機の認識としては象徴的な出来事だ。
 温暖化を1.5度未満に抑えるためには、世界の二酸化炭素(CO2)の排出量を今世紀半ばに「正味ゼロ」(人間活動による排出と吸収の差し引きゼロ)にするというのが目安になる。IPCCの「1.5度特別報告書」が出る前、先進諸国は「50年に1990年比80%以上削減」などといった長期目標を掲げていた。
 しかし、特別報告書が出て、英仏などが50年に正味ゼロを目指そうと議論を始めた。「80%削減」でもぎりぎりだったはずなのに、どうすればそれが可能になるのだろうか。
 英語で「think(シンク) outside(アウトサイド) the(ザ) box(ボックス)」という言い方がある。箱の外を考えるという意味だが、「80%削減」を議論するとき、暗黙に置いている前提があったはずだ。
 でも「正味ゼロ」が必要だとの議論になると、おそらく暗黙の前提の方が変化する。常識が変わるということだ。いまの常識で考えると不可能に見えるが、常識が変われば可能かもしれない。世界では、そのように考える人がだんだんと増えている。
  
 日本国内でも昨年の記録的な猛暑や西日本豪雨、非常に強い台風の上陸などで大きな被害が出た。
 ある気象災害が、その年に、その場所で起きたことは偶然と言えるが、気候変動が進めば、そうした災害が長期的に増えていくことは必然だ。
 実際に起きた大雨の例で見ると、もし温暖化していなければ大気中の水蒸気はもっと少ないので、そこまでの雨量にならなかったはずだ。その意味では、日本でも温暖化の影響の一部を私たちは見ていると考えてよいだろう。
 だが、昨年の報道などを見ていても、異常気象は非常に大きな話題にはなったが、「だから温暖化を止めましょう」という話はあまり盛り上がらなかったように思う。
 世界との危機感の差に関して、もし日本に特殊性があるとすれば、よく指摘されるのは「3・11」だ。東日本大震災があり、原発と放射能や、地震のリスクが日本人にとって非常に重く認識され、地球温暖化問題は後回しになってしまった面があるのかもしれない。
 ただ、気候変動に向き合う世界の潮流にぴんときていないと、ビジネス上の危機という問題も起きてくる。
 世界では気候変動対策を真剣にやらない産業には、投資が集まらないようになってきている。国際ルールや常識がどんどん変わっていく中で、ある時、世界の空気を読み、対策を取らざるを得なくなった時、これまで建ててしまった石炭火力発電所みたいな施設が、投資が回収できない「座礁資産」になるなどのリスクが出てきてしまう。
 現状は、無意識ではあっても変えたくない勢力と変えていきたい勢力がせめぎ合っている感じがする。
 脱炭素社会へ変えたいと考えている企業や自治体などでつくるネットワーク「気候変動イニシアティブ」など、いろんな団体の人たちが政府にアクションを求め、自分たちで成功の実例を作って、広めていく役割が期待される。でも、周りが止まっていれば、それで間に合うかは分からない。
 もたもたしていると、海外で脱炭素のイノベーション(技術革新)のようなことが起きて、それが日本の産業を破壊するような事態になる可能性もある。気候変動対策の重要性を、ビジネス面からもしっかりと考える時期に来ている。
  
 一方、適応に関しては昨年、とても象徴的だと感じたことがあった。
 全国の小中学校の教室に熱中症対策でエアコンを入れることになったという出来事だ。かつては夏は暑くても我慢して勉強して、夏休みに休めばいいじゃないか、という考え方だった。
 気候が変わることで、社会の常識が変わる。そう強く実感した。
 そんなふうに気候の変化をしっかり認識し、対応すること。そして予見し、備えることが、極めて重要である。
【ズーム】IPCC「1.5度特別報告書」 IPCCが昨年[2018]10月に公表した。現状では2040年前後に産業革命以降の世界平均気温の上昇幅が1.5度に達するとし、1.5度に抑えた場合と、2度になった場合との影響の比較も提示した。1.5度なら海面の上昇幅は2度に比べ約10センチ抑えられ、影響を受ける人は1千万人少ないと推定。サンゴ礁は1.5度なら70~90%、2度なら99%以上消失する恐れがあるなどと示した。
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※小西雅子(WWFジャパン[世界自然保護基金])「IPCC「1.5度特別報告書」COP24に向けて」(2018年11月20日)
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鼎信次郎「今世紀の排出が1000年先の未来を決める?! —ティッピングとは何か?」 6月20日

鼎信次郎さんの「今世紀の排出が1000年先の未来を決める?! —ティッピングとは何か?」。2016年11月21日東京大学伊藤国際学術センター伊藤謝恩ホールで行われた環境省環境研究総合推進費戦略的研究開発プロジェクトS-10公開シンポジウム『地球温暖化対策の長期目標を考える-パリ協定の「1.5°C」、「2°C」目標にどう向き合うか?』発表資料です。

 鼎信次郎

地球温暖化による様々なリスク
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ティッピングポイント(TP)とは?
 それまで小さく変化していたある物事が、突然急激に変化する時点を意味する。

ティッピングポイント(TP)とは?
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 地球温暖化研究では、地球の気候を構成する要素に質的かつ急速な変化が生じさせるしきい値(気温など)を指す。

ティッピングエレメント(TE)とは?
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 TE:TPを超えたときに発生しうる地球の気候システムを構成する要素。

ティッピングエレメントの発現可能性は?

ティッピングポイントを超える可能性があるティッピングエレメント
 ・北極海夏季海氷の消失
 ・アルプス氷河の消失
 ・サンゴ礁の白化
 ・グリーンランドと南極氷床の融解

北極海夏季海氷の消失
 通常は、北極海では毎年、春から夏にかけて海氷が縮小し、9月に最小になった後、再び冬にかけて海氷が拡大するという変化を繰り返している

●北極海夏季海氷の消失
 ・2040年代、 A1Bシナリオ(+1~2°C上昇)で夏季の海氷は、カナダとグリーンランド北岸沿いにのみ残る。

アルプス氷河の消失
 ・B1シナリオ(+2°C上昇)で、 2060年代までにアルプス氷河はほぼ消失する予測。

サンゴ礁の白化
 ・1.5°C・2.0°C上昇の場合どちらでもサンゴ礁の多くが白化
 ・サンゴへのストレス(海面上昇・ENSOイベントや熱帯低気圧の増加・外来種の増加など)は未考慮

グリーンランド氷床と南極氷床
 氷河:重力によって長期間に渡り緩やかに動く氷塊
 氷床:大陸規模(5万km2以上)の氷河

海面上昇と各要素の寄与

•2081~2100年における海面上昇量の予測:+0.26~0.82 [m] *1986-2005年を基準
 ・~2100年では海面上昇寄与は,熱膨張>(山岳)氷河>グリーンランド氷床>南極氷床
 ・2100年を超えた予測では,グリーンランド氷床の寄与が大きくなる可能性がある

グリーンランド氷床のティッピングポイント

大規模な海面上昇による影響(東京湾周辺)
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海面上昇でどこが浸水するの?
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 グリーンランド氷床が全融解し、7m海面上昇した場合(関東~東海地方)

海面上昇でどこが浸水するの?
 グリーンランド氷床が全融解し、 7m海面上昇した場合(関西~九州)

グリーンランド氷床と北極海夏季の海氷が、2100年までにそれぞれのティッピングポイントを超える確率はどの位なのだろうか?

2通りの目標気温(1.5°C, 2.0°C)と追加政策なし[BAU]の計3つのシナリオに対して,グリーンランド氷床と北極海夏季海氷が,2100年までにティッピングポイントを超える確率を推定

ティッピングポイントを超える確率
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本プロジェクト(ICA-RUS)で研究対象としているティッピングエレメント
 ・西南極氷床の安定性
 ・北大西洋熱塩循環と貧酸素水域の拡大
 ・メタンハイドレートの分解

西南極氷床の安定性

北大西洋熱塩循環と貧酸素水域の拡大
 ・温暖化により海洋中の酸素は1000年かけて30%程度減少すると簡易気候モデルが予測。
 ・表層、亜表層では水温変化の影響で酸素が減少
   → 酸素呼吸をする魚介類などが好む環境でなくなることで、生物生息域等に影響

【数千年~数万年スケールのティッピングエレメント】メタンハイドレートの分解
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 メタンハイドレートとは・・・低温かつ高圧の条件下でメタン分子が水分子に囲まれた氷状の化石燃料。次世代のエネルギーとして期待されている

【数千年~数万年スケールのティッピングエレメント】メタンハイドレートの分解
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 Q:酸化により海水中の溶存酸素が減少するが、どのくらいか?
 A:魚等が生息出来ない貧酸素域の拡大
 メタンハイドレート2600GtC(現在)から800GtCへ減少
 ・その放出により貧酸素域が拡大(北太平洋1000m深付近)
 ・大気CO2が200ppm程度上昇の可能性

本日のまとめ
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 ・地球温暖化による様々なリスクとして、ティッピングポイント・ティッピングエレメントを紹介。
 ・パリ合意の気温幅でも発現する可能性があるティッピングエレメント(北極海夏季海氷の消失、アルプス氷河の消失、サンゴ礁の白化、グリーンランドと南極氷床の融解)がある。
 ・何かしら気候変動政策(パリ合意など)をとらないと、発現可能性がかなり高くなるティッピングエレメントも存在。
 ・ただし、かなり不確実性が高く、まだまだ発展途上の研究であるため、科学的な根拠をつかむ研究が今後も必要。世界の温暖化研究へ寄与。


レントン、ロックストローム「気候のティッピングポイント 危険すぎる賭け」 6月19日

『世界』2020年5月号、100~105頁に掲載されているティモシー・レントン、ヨハン・ロックストローム 他「気候のティッピングポイント 危険すぎる賭け」は『Nature(2019年11月27日付)』に掲載された
Timothy M. Lenton,Johan Rockström,Owen Gaffney,Stefan Rahmstorf,Katherine Richardson,Will Steffen &Hans Joachim Schellnhuber「Climate tipping points — too risky to bet against The growing threat of abrupt and irreversible climate changes must compel political and economic action on emissions」の抄訳です。

気候のティッピングポイント 危険すぎる賭け
限界点が差し迫っている
 政治家や経済学者、そして一部の自然科学者の中には、地球システムが「ティッピングポイント」(地球の気候に不可避的な変化を起こす「臨界点」)に達する確率は低く、考えられないことだと信じてやまない人たちがいる。彼らは、アマゾンの熱帯雨林や西南極の氷床が消えてしまうような事態は、まず起きないと信じ込んでいるのだ。
 しかし今、このような出来事は彼らの想定よりはるかに「起こり得る」という証拠が、次々とあがっている。地球システムの変化が連鎖的に起こり、複数がティッピングポイントを超えれば、世界に長期間で不可避的な変化がもたらされることになる。
 そこで私たちは、地球システムがティッピングポイントを超える証拠をまとめ、我々が今もつ知識とのギャップをを確認し、どのようにすればこれらの出来事を止められるのか提言しようと決めた。人々がティッピングポイントについてより深く考えをめぐらせるようになれば、私たちの惑星に緊急事態が差し迫っていることに、多くの人が気づくはずだ。(100~101頁)
このままでは3℃上昇する
 ティッピングポイントの概念は、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)で、20年前に導入された。
 当時は、温暖化で世界の平均気温が産業革命以前より5℃以上上昇した時にだけ、気候システムの「広範囲の乱れ」が、ティッピングポイントに達するととらえられていた。ところが、IPCCによる最新の二本の報告書(「1.5℃特別報告書2」2018年9月、「海洋と雪氷圏の気候変動に関する特別報告書」2019年9月)では、1℃~2℃の上昇でティッピングポイントを超えてしまう可能性が警告されている。
 2015年のパリ協定で、各国は世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃よる下回るようにするという目標を掲げた。しかし、現時点で約束されている温室効果ガスの排出削減を各国がもし実行したとしても、平均気温は最低でも3℃上昇するとみられている。気候上昇は1.5℃で抑えなければならず、これには緊急的な対応が必要だ。(101頁)
●氷床の崩壊

●生物圏の崩壊
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A:アマゾン熱帯雨林(頻繁な干ばつ)、B:北極海の海氷(面積の縮小)、C:大西洋の循環(速度低下)、D:北方林(森林火災の増加、害虫の乱れ)、F:サンゴ礁(広範囲の死滅)、G:グリーンランドの氷床(融解の加速)、H:永久凍土(融解)、I:西南極の氷床(融解の加速)、J:ウィルクス盆地(東南極氷床の融解)
地球規模のカスケイド効果
私たちが危惧する最も危機的事態は、地球がてぃっぴんぐぽいんとのカスケイド(ティッピングポイントが雪崩のように連続して発生すること)に近づくことだ。様々な地球システムが連鎖的にティッピングポイントを超えて崩壊すれば、世界は「ホットハウス・アース(温室地球)」状態になりかねない。(104頁)
Act now さあ、行動しよう
 臨界点の現状をみるだけで、私たちがいかに、地球という惑星の緊急事態に直面しているかということがわかる。ティッピングポイントを回避するために私たちに許された時間は、すでにゼロに向かって縮小していると言っても過言ではない。
 研究者らは、炭素排出量をゼロにできるのは短くても30年後だと言っている。危機的状況にあることは明らかだ。ティッピングポイントが起こることを、もしかしたら私たちは、すでにコントロールすることができない状態にあるのかもしれない。
 しかし唯一の救いは、ティッピングポイントを超えることによる損害の蓄積の割合は、まだある程度、私たちのコントロール下にあるかもしれないということだ。(105頁)

 気候問題に関して、かつて考えられていたよりも多い「ティッピングポイント(転換点)」に、わたしたちは近づきつつある──。こうした内容の論説を、ある科学者のグループが『Nature』に11月末に寄稿した。地球温暖化に歯止めをかけるためにわたしたちが実行すべきことは明確だが、もはや時間は限られてきている。
 社会正義について語る際に、ティッピングポイント(転換点)とは素晴らしいものである。例えば、ティッピングポイントとなる判例は世論を変える。
 ところがティッピングポイントは、生物種には破滅をもたらしかねない。事実、環境の激変は生物の個体数を危機的状況に追いやっている。気候変動の場合、科学者が視野に入れるようになったティッピングポイント、すなわち地球の気候に不可逆的な変化を起こす臨界点は、ひとつだけではなく数多くあるのだ。
 気候問題に関してかつて考えられていたよりも多い「9つのティッピングポイント」に、わたしたちは近づきつつある。さらにはそうしたティッピングポイントがもたらす影響に、わたしたちがすでに気づき始めている──。こうした内容の論説を、ある科学者のグループが『Nature』に11月末に寄稿した。
 「気候の不可逆的な変化を防ぐために残されている時間は、もはやゼロになったと言っても過言ではないに。それにもかかわらず、温室効果ガスの排出量実質ゼロを達成するまでの時間は「短くても30年はかかる」と研究者らは書いている。「わたしたちはそうした変化の発生を、もう止められないのかもしれない」というのだ。
 それでもわたしたちは、まだ被害を減らすために行動できる。わたしたちがとらなければならない方策はかつてなく明確だが、時間が尽きかけている。
 「半世紀後、わたしたちはいまの状況をどんなふうに振り返るのでしょうか。もっと持続可能性のある健やかな未来を何世代にもわたって築けたはずだったと悔やむのでしょうか」と、エクセター大学グローバルシステム研究所所長のティム・レントンは言う。「埋蔵量に限りがある化石燃料を使い続けることや、世界の終わりを受け入れるような行動はやめるべきです」
気候のティッピングポイントは、大きく3つカテゴリーに分類される
 1)氷 2)陸地 3)海

●個別の要素が相互に影響し、深刻さを増す
 このような複数のティッピングポイントは、別個に存在するわけではない。その多くは、互いに影響し、深刻さの度合いを増していく。
 その相互に関連する特徴から考えると、ティッピングポイントのモデル化は必然的に憶測を立てることになる。というのも気候変動の極めて複雑なシステムを完璧に捉えるのはとても無理だからだ。このためティッピングポイントのモデル化は、予測に不確実性を持ち込むことになる。
 従って、すべての研究者がティッピングポイントという考え方をとっているわけではない。ティッピングポイントという表現は、ふたつの世界を分けるある特定の数値すなわち閾値を示唆している。しかし実際には、閾値の前後がいつになるのか、必ずしも常に明確ではない。
最も重大なティッピングポイント
 「ティッピングポイントが生じつつあるらしい、ティッピングポイントは本当にあるらしいといった説の根拠はかなり信憑性が高いものです。このため正直な話、この説はなぜわたしたちがともに行動しなければならないのか、気候変動の解決のためにできることをしなければならないのかについての、もうひとつの極めて重大な理由になります」とパーストル[カーネギー気候ガヴァナンス・イニシアチヴのエグゼクティヴディレクター、ヤーノシュ・パーストル]は語る。
 「この『Nature』の記事には、なぜ本当の危機が、本当の緊急事態がいまここで発生しているのかについて、非常に多くのもっともな理由がまとめられています」
 とはいえ、まだ望みはある。早急に二酸化炭素排出の大幅な削減ができれば、海水面の上昇は遅くなる。世界中で、特にアマゾンで、森林伐採をやめなければならない。こうしたことが、文明社会を長期的に健全に保つ鍵となる。
 またティッピングポイントは必ずしも災難の兆候とは限らない。「社会領域では、ティッピングポイントが社会の発達につながっている場合も多いのです」とレントンは説明する。「例えば、再生可能エネルギー技術や電気自動車を採用する動きが加速しているのを、いまわたしたちは現実に目にしていると言えます」
 人々は目覚めつつあり、グレタ・トゥーンベリは日ごとに勢いを増す環境運動の先頭に立っている。政治家や資本家が気候変動という大惨事を加速させても、わたしたちのなかでより思慮深い人々は、気候変動の問題は変えられると考えている。その考えが、恐らく最も重大なティッピングポイントなのだろう。
ティッピングポイント、ティッピングエレメントとは?
   →鼎信次郎「今世紀の排出が1000年先の未来を決める?! —ティッピングとは何か?」6月20日記事

山本良一『気候危機』 5月27日

山本良一『気候危機』(岩波ブックレット1016、2020年1月)を読みました。

気候変動から気候危機へ――。スウェーデンの一五歳の少女の訴えが世界の若者を動かし、世界各地の自治体や国も次々に「気候非常事態」を宣言し始めた。平均気温上昇を一・五℃以内に抑えることは可能か。パリ協定の本格始動を機に、科学者の立場から問題の本質と最新の科学の知見を押さえつつ、我々はいま何をすべきかを説く。
同書表紙帯から
気候崩壊、文明崩壊を防ぐための時間的猶予はゼロに近づいている
スウェーデンの1少女の訴えが若者たちを動かし、世界各地に自治体や国も続々と「気候非常事態宣言」を発し始めた。
▼現在の気候危機は、人間活動が原因の温暖化ガスの大量排出が主原因であること。
▼地球温暖化により、熱波、豪雨、干ばつなどの極端気象の増加、激化が起こっていること。
▼世界の平均気温の上昇を工業化以前と比べて1.5℃未満に抑えなければならないこと。
▼早ければ2030年、遅くとも2050年までに、カーボンニュートラルな社会を実現させること。

山本良一『気候危機』目次
はじめに
 2018年8月からの1年は、世界を揺るがした1年であった。8月20日に15歳の少女グレタ・トゥンベリがスウェーデンの国会前で気候危機の根本的な解決を求めて1人でストライキを始めたことから、それは始まった。当時、各国の地方自治体の中には「気候非常事態宣言」(Climate Emergency Declaration = CED)を議決していたところもあったが、その数は限られていた。ところが、極端な気象の頻発と続々と公表される気候危機や環境危機に関する報告書に背中を押されて、気候ストライキをする若者と気候非常事態宣言をする自治体の数は爆発的に拡大していったのである。これはまさに「革命」と呼ぶに値する。
……「気候非常事態宣言」は「火事だ!」という警報に相当する。地球には脱出口はなく、人間活動起源の温暖化ガスによる地球温暖化はたとえ排出量をゼロにしても1000年は継続することを考えると、ただちに全員で排出量を削減し(消火)、すでに現れ始めている極端な気象現象に対応しなければならない。/筆者は2018年12月に”気候非常事態を宣言し、動員計画を立案せよ”という解説をまとめ、世界の気候非常事態宣言運動を日本に紹介した。……

第1章 革命前夜1――温暖化の科学と文明の持続可能性
 温暖化の科学の基本
 温暖化は人為起源の温暖化ガスによって生じる
 放射強制力
 CO2をどれくらい削減しなければならないのか
 地球温暖化国際交渉の歴史
 IPCCの1.5℃特別報告書
 近代文明の持続不可能性
 アントロポセン(Anthropocene,人新世)
 人類の生命維持システム
 ドーナツ経済の定量的検討
 科学者の人類への警告

第2章 革命前夜2――極端気象と気候変動
 2018年の気候-世界気象機関の報告書
 フューチャー・アースの10の洞察
 2019年の気候
 極端気象と気候変動-要因分析(EA)とは
 極端気象の要因分析の最近の成果
 要因分析の信頼性
 日本の極端気象に対するEA
 気候工学(ジオエンジニアリング)の可能性と問題点
 環境と気候は非常事態なのか
 科学的知見をどのように利用するか

第3章 革命勃発-気候ストライキ始まる
 グレタのダボス会議でのスピーチ[2019年1月]
 気候ストライキに対する科学者の支持表明

第4章 自治体や国家が動く――気候非常事態を宣言し動員計画を立案する
 CED[気候非常事態宣言]の歴史
 カナダにおける気候非常事態宣言
 アメリカにおける気候非常事態宣言
 オーストラリアにおける気候非常事態宣言
 英国における気候非常事態宣言
 国家の気候非常事態宣言
 気候非常事態宣言の拡大
 遅れている日本の対応
 気候非常事態宣言の最新動向
 2019年9月という画期
 グレタの"How dare you"スピーチ [2019年9月23日]
 壱岐市の気候非常事態宣言

あとがき

【資料編】
日本学術会議会長談話 「地球温暖化」への取組に関する緊急メッセージ[2019年9月19日]
1 人類生存の基礎をもたらしうる「地球温暖化」は確実に進行しています。
2 「地球温暖化」抑制のための国際・国内の連携強化を迅速に進めねばなりません。
3 「地球温暖化」抑制には人類の生存基盤としての大気保全と水・エネルギー・食料の総合的管理が必要です。
4 陸域・海洋の生態系は人類を含む生命圏維持の前提であり、生態系の保全は「地球温暖化」抑制にも重要な役割を果たしています。
5 将来世代のための新しい政治・社会システムへの変革は、早急に必要です。
気候非常事態宣言(壱岐市) [2019年9月25日]
1 気候変動の非常事態に関する市民への周知啓発に努め、全市民が、家庭生活、社会生活、産業活動において、省エネルギーの推進と併せて、Reduce(リデュース・ごみの排出抑制)、Reuse(リユース・再利用)、Recycle(リサイクル・再資源化)を徹底するとともに、消費活動におけるRefuse(リフューズ・ごみの発生回避)にも積極的に取り組むように働きかけます。特に、海洋汚染の原因となるプラスチックごみについて、4Rの徹底に取り組みます。
2 2050年までに、市内で利用するエネルギーを、化石燃料から、太陽光や風力などの地域資源に由来する再生可能エネルギーに完全移行できるよう、民間企業などとの連携した取組をさらに加速させます。
3 森林の適正な管理により、温室効果ガスの排出抑制に取り組むとともに、森林、里山、河川、海の良好な自然循環を実現します。
4 日本政府や他の地方自治体に、「気候非常事態宣言」についての連携を広く呼びかけます。
気候非常事態宣言に関する決議(鎌倉市議会)  [2019年10月4日]
1 「気候危機」が迫っている実態を全力で市民に周知する。
2 温室効果ガスのゼロエミッションを達成することを目標とする。
3 気候変動の「緩和」と「適応」、「エシカル消費」の推進策を立案、実施する。
4 各行政機関・関係諸団体等と連携した取り組みを市民とともに広げる。

※「鎌倉市、日本で2番目の気候非常事態宣言!
(環境メールニュース2019.10.09エダヒロ・ライブラリーイーズ未来共創フォーラムから)
気候非常事態宣言は、特に形式が決まっているわけではありませんが、大きく2つの部分から構成することが多いようです。
(1)気候危機の現状認識、および其の認識が科学に基づいていること
(2)自分たちの自治体が取り組むこと(3~5つぐらいが多いようです)
壱岐市や鎌倉市の例を見ていただいてもわかるように、簡潔に、現状認識+非常事態であること+自分たちの取り組みを宣言するというものです。
世界ではすでに1000を超える自治体が気候非常事態宣言を出しています。日本でも多くの自治体が気候非常事態宣言を出し、自治体としてできることを進めつつ、住民や他の自治体にも行動を呼びかける動きが拡がることを強く願っています。
「前例」がでてきたので、働きかけもしやすくなってきたと思います。このメールニュースの内容などもよかったら使っていただき、世の中の動きと他の自治体の動きを伝えて、宣言を出すよう、ぜひご自分の自治体にも働きかけてください!

「鎌倉市紀行非常事態宣言」(2020年2月7日)の表明について(鎌倉市HP)
「鎌倉市気候非常事態宣言」を表明します
気候変動に起因する異常気象により、今、地球は危機的な状況にあります。このような危機に対し、本市では、第3次総合計画第4期基本計画実施計画において、気候変動対策としての側面にも注力し、重要な5つの視点のうち2つを「レジリエンスのまち」、「環境負荷低減のまち」としています。
市は、気候変動の危機に、組織一丸となり、横断的に取り組むことを明確にし、ここに「鎌倉市気候非常事態宣言」を表明します。

  鎌倉市気候非常事態宣言(PDF:318KB) 
今、地球はかつてないほどの危機に瀕しています。
世界各地で、猛暑、干ばつ、集中豪雨や超大型台風等の異常気象による甚大な被害が発生し、私たち人類の生命を脅かしています。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、気候システムの温暖化は疑う余地がないこと、自然的要因だけでなく人間による影響が近年の温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高いこと、気候変動はすべての大陸と海洋にわたり、自然及び人間社会に影響を与えていること、温室効果ガスの継続的な排出は、更なる温暖化と気候システムの全ての要素に長期にわたる変化をもたらし、それにより、人々や生態系にとって深刻で広範囲にわたる影響を生じる可能性が高まるとされています。
この危機に対処するため、世界では「脱炭素」社会を目指した動きが加速しています。

この地球に生きるものは、誰も気候変動の影響から逃れることはできません。しかし、未来の地球のためにできることがあります。
地球の危機、人類の危機を救うことができるのは、私たち一人ひとりの行動です。

本市は、SDGs未来都市として、地球温暖化による気候変動の対策に注力して持続可能な社会を実現するため、ここに気候非常事態であることを宣言します。

1 気候危機の現状について市民や事業者と情報を共有し、協働して全力で気候変動対策に取り組みます。
2 2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにすることを目指します。
3 市民の命を守るため、気候変動の適応策として風水害対策等を強化します。

みらいの地球のために脱炭素を目指す「緩和策」と今ある危機に対応する「適応策」を進めます。
             令和2年(2020年)2月7日 鎌倉市長 松尾崇

ひとりひとりの行動で、地球の未来を守りましょう!
★シャワーはこまめに止めましょう
→シャワーは1分間に12リットルの水が流れます
★何でも流しに捨てず、水を汚さない工夫をしましょう
→食べ残しや食器に付いた食べカスなどをそのまま流すことは海や川の水質汚濁の原因になります
★省エネ運転を心がけましょう。ちょっとした気づかいが、ガソリンの節約や二酸化炭素の排出抑制につながります
→エコドライブのすすめ!
★レジ袋は受け取らず、買い物袋を持ち歩く習慣をつけましょう
→レジ袋を全く受け取らないと1年間で3.36kgのレジ袋を節約できます
★ごみの分別出しを徹底し、資源化できるようにしましょう
→ごみの分け方・出し方

本書全体の主題である「気候危機」と「気候の非常事態」についてのわたしの意見。
人間社会の持続可能性のためにも、気候変化をちいさくくいとめるためにも、人間社会の生産・消費活動を、これまであたりまえだったものから、ちがったものに変えていく必要がある。これまでの「通常」(いわゆるbusiness as usual)のままつづけてはいけないという意味で、「非常」なのかもしれない。
しかし、emergencyというのはうまくないと思う。とくに日本語表現を「緊急」とするとまずいと思う。気候変化対策は、さきのばしにしてはいけない(30年後を待たず、ことしからとりかかるべき)という意味では「緊急」と言ってもよいのだが、各個人にとって、一生あるいは一世代の時間規模でつづける必要があることであり、「緊急」の態勢をはてしなくつづけようとすると無理が生じると思うのだ。「非常」ならば、時間規模を限定することばがないので、「緊急」よりはよい。しかし、「非常事態」というと、なにかひとつの種類の危険を避けることに集中するべきでほかのことは軽視してもよい、という感覚になりがちだと思う。たとえば、感染症の緊急事態だと、プラスチックなどの使い捨てはむしろ奨励されがちだ。また、環境の緊急事態を理由として人権が弾圧されるおそれもある。気候の緊急事態として人びとの関心を集中させると、ほかの環境要素が軽視されるおそれがある。たとえば、二酸化炭素を排出しない太陽光発電をふやすために自然生態系を破壊するようなことが奨励されるおそれがある。
このように考えて、わたしは、いまの状況を「気候の非常事態」だというのはまずいと思う。「地球環境の非常事態」のほうが相対的にはよいが、これも自分では使いたくない。他方、「気候の危機(crisis)」だというのは(気候自身が危機にあるのではなく、人間社会が気候との相互作用のせいで危機におちいっているという意味がわかっていれば)使える表現だと思う。(ただし「地球温暖化」と言ってきたものごとを「気候危機」と単純に言いかえればよいというものではない。)


ナオミ・クライン『これがすべてを変える』(下) 3月30日

カナダのジャーナリスト、ナオミ・クライン著『This Changes Everything: Capitalism vs. The Climate』(2014)の全訳、日本語版です。訳者は幾島幸子さん、荒井雅子さんです。(上)(下)2巻で639頁あります(岩波書店、2017年)。

ナオミ・クライン『これがすべてを変える 資本主義 vs. 気候変動』下巻目次
第7章 救世主はいない -環境にやさしい億万長者は人類を救わない-
 億万長者と破れた夢 
 約束ではなく、単なる「意思表示」
 風前の灯のアース・チャレンジ
 規制回避のための戦略?

第8章 太陽光を遮る -汚染問題の解決法は……汚染?-
 「ゾッとすること」への準備
 うまく行かないはずなどない
 気候変動のように、火山も分け隔てする
 歴史は教え、警告する
 ショック・ドクトリンとしての地球工学
 地球という怪物
 本当にプランAを試したのか?
 宇宙飛行士の視点


第三部 何かを始める
第9章 「抵抗地帯」(ブロケディア)-気候正義の新たな戦士-
 ようこそ、「抵抗地帯」(ブロケディア)へ
 「クライメート・チェンジ作戦」
 世界が犠牲区域に
 敵地で身動きならない
 BP[旧ブリティッシュ・ペトロリアム]への不信
 大事故の教訓
 予防原則の復活

第10章 愛がこの場所を救う -民主主義、投資撤退、これまでの勝利-
 愛と水をめぐって
 ここまでの勝利
 化石燃料からの脱却 -ダイベストメント[投資撤退]運動
 民主主義の危機
 化石化した民主主義を越えて

第11章 ほかにどんな援軍が? -先住民の権利、世界を守る力-
 最後の防衛線
 力対権利
 「条約を守れ」
 選択肢の欠如

第12章 空を共有する -大気という共有資産(コモンズ)、気候債務の返済-
 太陽が顔を出す
 投資撤退だけでなく、再投資を
 地元の債務から地球規模での債務の返済へ
 バランスを変える

第13章 命を再生する権利 -採掘から再興へ-
 水中の流産
 「年取った男たちの住む世界」
 「中は空っぽ」
 温暖化する世界で姿を消す幼い者たち
 休息期間
 命の復活

終章 跳躍の年 -不可能を成し遂げるために残されたぎりぎりの時間-
 やり残された解放の仕事
 突然、誰もが

訳者あとがき

原注

索引
訳者あとがき
 本書は出版直後から大きな反響を呼んでベストセラーになり、すでに二五以上の言語に翻訳されている。『ニューヨークタイムズ・ブックレビュー』は「あふれんばかりの熱意と重大性をもつ本書は、論評が不可能なほどだ。……『沈黙の春』以来、地球環境に関してこれほど重要で議論を呼ぶ本は存在しなかった」と評し、インドの作家アルンダティ・ロイは「ナオミ・クラインは今日の最大かつ最も差し迫った問題に、その鋭く強靱、かつきめ細かな知性をもって取り組んでいる。……彼女は今日の世界で最もインスピレーションに富んだ政治思想家の一人だ」と評している。
  タイトルのThis Changes Everythingには二つの意味がある。ひとつは、私たちが今のままの生活を続けていけば、気候変動がこの世界の「すべてを変えてしまう」というネガティブな意味。そしてもうひとつは、それを回避するためには、「すべてを変える」ほど根源的な変革が必要だというポジティブな意味である。本書は、九七%の科学者が認めている気候変動という事象がまさに〝今、ここにある〟危機だという認識に立ったうえで、この問題の根本原因が成長神話にがんじがらめになった資本主義のシステムにこそあり、それを解決するには現行の経済システムとそれを支えているイデオロギーを根底から変える以外に方法はない、という結論を導き出している。(625~626頁)

 本書の前半(第一部・第二部)では、なぜここまで気候変動対策が遅れをとってしまったのかについての詳細にわたる検証が行われると同時に、気候変動を否定する右派の会議や、人工的に気候システムに介入して温暖化を緩和するという地球工学の専門家の会議への潜入ルポもあり、また化石燃料脱却をブチ上げる起業家ブランソンの言行不一致や、環境保護を掲げながら化石燃料企業と結託する大規模環境保護団体の偽善も暴かれる。まさにジャーナリストとしての面目躍如である。

 だが圧巻はむしろ後半、第三部以降であろう。気候変動対策を先送りし、問題を深刻化させてきた規制緩和型資本主義システムの暗部を、これでもかとあぶり出す前半の悲観的なトーンから一転して、ここでは化石燃料を基盤にした経済・社会のあり方そのものにノーを突きつける草の根抵抗運動が世界各地で展開し、拡大しつつあることを、これまた綿密な現地取材に基づき、希望の兆しとして報告している。近年、北米を中心にブームになっているオイルサンド採掘やフラッキング(水圧破砕)による天然ガス・石油の抽出は、従来の化石燃料採掘にも増して温室効果ガスを多く排出し、有毒物質による環境汚染の危険も大きい。自国カナダでの先住民を中心とする抵抗運動をはじめ、北米各地で化石燃料経済からの脱却を求めてパイプライン建設やオイルサンド掘削リグ用の巨大装置の輸送、採掘された石炭を輸出するためのターミナル建設などを実力で阻止するために闘う地域住民の姿が共感をもって描かれると同時に、これらの運動が点ではなく、SNSなどを通じて相互に結びついてネットワークを形成し、化石燃料企業にとって大きな脅威となりつつあることも強調されている。また掘削現場での闘い以外にも、化石燃料企業から投資を撤退するダイベストメント運動が急速に広がっていることも明るい材料のひとつとして取り上げられている。(626~627頁)

  (レイバーネット日本『週刊本の発見』第28回、2017年10月26日掲載)
 本書の最も重要な論点は、地球温暖化の危機が、同時に歴史的なチャンスにもなりうるという主張にある。これまで私たちは、経済成長こそ、人類を貧困から解放し、幸福をもたらす万能薬だと説明されてきた。だが、新自由主義の暴走の果てに到達したのは、少数の人々が富を独占する格差社会と、投機マネーによるバブル経済、そして地球温暖化による破滅の危機である。この悪循環を断ち切るためには、もう一度、市場に対する規制を強化すると同時に、巨額の公共投資(地球のためのマーシャル・プラン)を通じて、再生可能エネルギーを基盤とする定常経済へと移行しなければならない。そしてそれは「石器時代への回帰」を意味するのではなく、むしろ人々の生活の質を向上させ、南北格差を是正し、民主主義を土台から再構築するチャンスにもなりうるというのである。
 一般に成長神話や消費主義に囚われた現代人にとって、ポスト資本主義の未来を想像するよりも、「世界の終わり」を想像する方がたやすいと言われる。だがもし私たちが、一人の人間として、あるいは、子供をもつ親として、未来への責任を果たそうとするならば、いまこそ批判的想像力を発揮し、もう一つの世界の実現に向けて動きださなければならない。反グローバリゼーション運動の論客からクライメイト・ジャスティス運動の旗手へと成長したナオミ・クラインの渾身のメッセージである。

ナオミ・クライン『これがすべてを変える』(上) 3月29日

カナダのジャーナリスト、ナオミ・クライン著『This Changes Everything: Capitalism vs. The Climate』(2014)の全訳、日本語版です。訳者は幾島幸子さん、荒井雅子さんで(上)(下)2巻で639頁あります(岩波書店、2017年)。

Climate change isn’t just another issue to be neatly filed between taxes and health care. It’s an alarm that calls us to fix an economic system that is already failing us in many ways. Klein meticulously builds the case for how massively reducing our greenhouse emissions is our best chance to simultaneously reduce gaping inequalities, re-imagine our broken democracies, and rebuild our gutted local economies. She exposes the ideological desperation of the climate-change deniers, the messianic delusions of the would-be geoengineers, and the tragic defeatism of too many mainstream green initiatives. And she demonstrates precisely why the market has not—and cannot—fix the climate crisis but will instead make things worse, with ever more extreme and ecologically damaging extraction methods, accompanied by rampant disaster capitalism.
 
Klein argues that the changes to our relationship with nature and one another that are required to respond to the climate crisis humanely should not be viewed as grim penance, but rather as a kind of gift—a catalyst to transform broken economic and cultural priorities and to heal long-festering historical wounds. And she documents the inspiring movements that have already begun this process: communities that are not just refusing to be sites of further fossil fuel extraction but are building the next, regeneration-based economies right now.
 
Forget everything you think you know about global warming. It’s not about carbon—it’s about capitalism. The most profound threat to humanity is the war our economic model is waging against life on earth. Yet we can seize this existential crisis to transform our failed economic system into something radically better.
 
Klein exposes the myths that are clouding the climate debate. We have been told the market will save us, when in fact the addiction to profit and growth is digging us in deeper every day. We have been told it’s impossible to get off fossil fuels when in fact we know exactly how to do it—it just requires breaking every rule in the “free-market” playbook: reining in corporate power, rebuilding local economies, and reclaiming our democracies.
 
We have also been told that humanity is too greedy and selfish to rise to this challenge. In fact, all around the world, the fight for the next economy and against reckless extraction is already succeeding in ways both surprising and inspiring.
 
Can we pull off these changes in time? Nothing is certain. Nothing except that climate change changes everything. And for a very brief time, the nature of that change is still up to us.
 
Either we leap—or we sink.
 

ナオミ・クライン『これがすべてを変える 資本主義 vs. 気候変動』上巻目次
序章 気候変動によってすべてが変わる
 民衆によるショック
 最悪のタイミング
 エネルギーだけの問題ではない
 否定からの脱却

第一部 最悪のタイミング
第1章 右派は正しい(ライト・イズ・ライト)-気候変動にはらまれた大変革のパワー
 受け入れられない真実
 カネにまつわる話
 プランB -温暖化する世界で金を儲けろ
 ゾッとするほど冷たい世界
 保守派への迎合
 世界観の闘い

第2章 ホットマネー -自由市場原理主義はいかにして地球の温暖化を促進したか-
 気候より商売優先
 壁が崩壊し、排出量は上昇する
 貿易と気候 -二つの孤立
 安い労働力と汚いエネルギーのパッケージ取引
 自ら墓穴を掘る運動
 拡大から安定へ
 思いやりのある経済を育て、思いやりのない経済を縮小する

第3章 民間から公共へ -新しい経済への移行を阻むイデオロギー的障害を克服する-
 公的領域の再建と刷新
 汚染者負担

第4章 計画と禁止 -見えない手を叩き、運動を起こす-
 雇用創出のための計画
 電力/権力(パワー)のための計画
 あのドイツの奇跡について……
 「ノー」の言い方を忘れない
 「問題」ではなく枠組み

第5章 採取/搾取主義を超えて -内なる気候変動否定派と対峙する-
 究極の採取/搾取主義的関係
 左派の採取/搾取主義
 聞き逃されてきたいくつかの警告


第二部 魔術的思考
第6章 根(ルーツ)ではなく実(フルーツ)-大企業と大規模環境保護団体(ビッグ・グリーン)の破滅的な一体化-
 環境法の黄金時代
 一九八〇年代の急転換
 ビジネスと手を組む環境保護運動
 消費者パワーで解決?
 フラッキングと燃える橋
 汚染の取引

原注
塚原東吾さん(神戸大学教授)書評『週刊読書人』ウェブ
   週刊読書人掲載:2017年11月24日(第3216号)
 驚異の元凶は何か
「環境正義運動」が目指すもの 
 温暖化による危機を多面的に描き出す

   朝⽇新聞掲載:2017年10月15日
 「これがすべてを変える」書評 経済のあり方根本から新しく

レイチェル・イグノトフスキー『プラネットアース イラストで学ぶ生態系のしくみ』 2月6日

レイチェル・イグノトフスキー『プラネットアース イラストで学ぶ生態系のしくみ』(創元社、2019年12月)を読みました。小学校5年生以上で習う主な漢字にルビをふってあるということですが、高等学校の「生物基礎」級の内容です。バイオーム(生物群系)地図の理解が第一歩でしょうか?
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プラネットアース イラストで学ぶ生態系のしくみ』目次
 はじめに
 生態学の構成レベル
 バイオーム地図
   img-200206215059-0001img-200206215059-0002
 生態系とは何か
 エネルギーの流れ
 生物の分類
 生物どうしのかかわり合い
 健全な生態系
 遷移
 微小生態系
 顕微鏡で見た生態系

 北アメリカ大陸
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  セコイアの森
  北部グレートプレーンズ
  フロリダのマングローブ湿原
  モハーヴェ砂漠

 南アメリカ大陸
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  アマゾン熱帯雨林
  アタカマ砂漠
  パンパ
  熱帯アンデス

 ヨーロッパ
   img-200206210152-0004
  ブリテン諸島の湿原
  地中海沿岸
  アルプス

 アジア
   img-200206210152-0005
  北東シベリアのタイガ
  インドシナ半島のマングローブ
  東モンゴルのステップ
  ヒマラヤ山脈

 アフリカ大陸
   img-200206210152-0006
  コンゴの熱帯雨林
  アフリカのサバンナ
  サハラ砂漠
  ケープ半島

 オーストラレイシア
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  オーストラリアのサバンナ
  タスマニアの温帯雨林
  グレートバリアリーフ

 極地方の氷床
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  北極圏
  南極のツンドラ

 水圏の生態系
  外洋
  深海
  河川
  湖沼

 自然の循環
  炭素の循環
  窒素の循環
  リンの循環
  水の循環
  植物

 人類と地球
  農場
  都市
  人類が自然に与えた影響
  気候変動
  地球を守るために

 用語集
 参考資料
 感謝のことば
 著者について
 索引

※NHKのEテレ(毎週火曜日午後2:40〜3:00)で放送している『NHK高校講座・生物基礎』の第32回「世界のバイオーム①〜気候と生物の適応〜」(講師:宇田川麻由さん)、第33回「世界のバイオーム②〜さまざまなバイオーム〜」(講師:宇田川麻由さん)、第34回「日本のバイオーム」(講師:市石博さん)、第35回「生態系でのエネルギーと物質の流れ」(講師:関口伸一さん)の各回ページには「動画」、「文字と画像で見る」、「学習メモ」(PDF)、「理解度チェック」があり、至れり尽くせりです。
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※darie1228さんの『高校生物をまとめてみる
    1.森林の構造、2.光合成曲線、3.生産構造図、4.植生の遷移
  【生物基礎】第4章植生の多様性と分布(バイオーム)
    1.世界のバイオーム、2.日本のバイオーム、3.ラウンケルの生活形
  【生物基礎】第5章生態系とその保全(炭素の循環・窒素の循環)
    1.生態系、2.炭素の循環、3.窒素の循環、4.物質収支
  【生物基礎】第5章生態系とその保全(環境問題)
    1.地球温暖化、2.富栄養化、3.生物濃縮、4.自然浄化、5.外来生物

太陽光発電の環境配慮ガイドライン(案)パブコメ 1月21日

2月5日追記)小川町プリムローズゴルフ場跡地(約86ヘクタール)にメガソーラー(発電設備容量 39,600kW)が計画されており、2020年1月18日には業者により環境影響調査計画書の説明会が開催されました。NPOおがわ町自然エネルギーファームは業者に対して意見書提出(2月21日まで)を呼びかけています

太陽電池発電事業の環境への影響が生じる事例の増加が顕在化している状況を踏まえ、2020年4月1日から大規模な太陽電池発電事業については環境影響評価法(平成9年法律第81号。以下「法」という。)の対象事業として追加されています。また、2019年4月の中央環境審議会答申「太陽光発電に係る環境影響評価のあり方について(答申)」において、法や環境影響評価条例の対象ともならないような小規模の事業であっても、環境に配慮し地域との共生を図ることが重要である場合があることから、必要に応じてガイドライン等による自主的で簡易な取組を促すべきとされています。
 これを受けて環境省では、法や環境影響評価条例の対象にならない規模の事業について、発電事業者を始め、太陽光発電施設の設置・運営に関わる様々な立場の方により、適切な環境配慮が講じられ、環境と調和した形での太陽光発電事業の実施が確保されることを目的としたガイドライン(案)を作成しました。

 小規模出力事業とはおおむね出力50㎾未満の事業
環境影響評価法や環境影響評価条例の対象とならない、より規模の⼩さい事業⽤太陽光発電施設の設置に際して、発電事業者、設計者、施⼯者、販売店等の関係主体が、地域に受け⼊れられる太陽光発電施設の設置・運⽤に取り組むための、環境配慮の取組を促すものとして作成
環境配慮ガイドラインチェックシート【小規模出力版】(案)環境配慮ガイドラインチェックシート【小規模出力版】(案)_01環境配慮ガイドラインチェックシート【小規模出力版】(案)_02

太陽光発電のトラブル事例
2.3太陽光発電のトラブル事例(10~12頁)
(1)トラブル事例太陽光発電に関するトラブルについては、平成27年度[2015年度]新エネルギー等導入促進基礎調査(再生可能エネルギーの長期安定自立化に向けた調査)や平成28年度新エネルギー等導入促進基礎調査(太陽光発電事業者のための事業計画策定ガイドラインの整備に向けた調査)で定義されたように、「安全性に関するトラブル」、「維持管理に関するトラブル」、「地域共生に関するトラブル」、「廃棄・リサイクルに関するトラブル」に分類される。(「廃棄・リサイクルに関するトラブル」については2.6FIT期間終了後の課題にて説明する)
ア)安全性に関するトラブル
発電設備の安全性に関するトラブル事例として、電気設備の事故、特に焼損事故や、台風等の強風に伴う太陽電池モジュールの飛散や架台の損壊等が生じている。平成27年度新エネルギー等導入促進基礎調査(再生可能エネルギーの長期安定自立化に向けた調査)では、地上設置型太陽光発電設備においてキュービクルや接続箱において火災が生じた事例(図2.6)や、強風によりモジュール飛散が生じている複数の事例(図2.5)を紹介している。
イ)維持管理に関するトラブル
太陽光発電を長期安定的に継続するためには、発電設備の性能低下や運転停止といった設備の不具合、発電設備の破損等に起因する第三者への被害を未然に防ぐため、発電設備の定期的な巡視や点検の実施が重要である。しかしながら、メンテナンス等の不足により、モジュール不具合等による発電電力量の低下やPCSの運転停止といったトラブルが報告されている。トラブルの原因としては設備の初期不良や施工不良の他、鳥獣害によるモジュール破損(図2.6)や、草木の成長による発電量低下・発電設備の破損(図2.7)という事例も見られる。対策にはモジュールやケーブルの定期的な目視点検の他、柵・塀の設置も検討が必要である。
ウ)地域共生に関するトラブル地域共生に関するトラブルについては、周辺への雨水や土砂の流出、地すべり等の防災上問題の他、景観問題や地域住民による反対運動など、立地・事業計画の段階で地方自治体や地域住民への説明・コミュニケーションが不十分であったことに起因するトラブルも多く見られるようになってきている(図2.8)。特に投資商品として流通する発電設備については、発電事業者自身が現地を確認しないことも想定されるため、地域共生に関するトラブルが起こりやすいと考えられる。

ア)設計・施工段階での不具合(23~24頁)
太陽光発電の多くは、FIT制度の開始後に導入されたものであるが、あまりにも短期間に導入が進んだため、各種ガイドラインの制定や、技術者の育成等が間に合わないまま、設計・施工されてしまった案件が多い。もちろん、優良事業者によって適正に設計・施工されている案件も多数存在するが、中には、急傾斜地など危険な場所への設置や、単管パイプによる架台の施工など、安全性について懸念がある案件も多数報告されている(図2.23)。
このように、設計・施工段階から問題を抱えている案件は、適正に保守点検を実施したとしてもトラブルが発生する可能性が高い。また、設計・施工状況を確認しようと思っても、正確な竣工図等が準備されておらず、コスト・時間のかかる検査が必要となる等、保守点検事業者にとっても、設計・施工段階での問題有無が確認できない案件に対し、保守点検サービスを提供することは大きなリスクとなる。実際、発電事業者から保守点検の依頼があったとしても、前述のように設計・施工段階での問題を確認できない状況の場合、保守点検事業者からサービス提供を断るケースも発生している。

ウ)土木に関する問題(30頁)
図2.13で示したように、設計・施工段階と保守点検段階の双方に関連するトラブルとして土地造成に関するトラブルがあげられる。設計・施工段階で地耐力等を緻密に計算していたとしても、地下水の流れや植栽の根付きなど想定が難しいケースが多いとのコメントが保守点検事業者からあった(表2-7)。

廃棄・リサイクルに関するトラブル
(3)放置・不法投棄への懸念(34頁)
発電事業者が適切な廃棄・リサイクル計画の策定、費用確保ができなかった場合、発電設備が放置・不法投棄されることが懸念されている。設置形態や設置場所の保有形態を考えると、特に自己所有地に設置される発電設備について、発電設備が放置される懸念が高いのではないかと想定されている(図2.35)。自己所有地に設置される場合、事業を終了した発電設備を有価物とするか、廃棄物とするか判断が難しいため、行政処分等で強制的な撤去等が可能かについては更に検討が必要である。ただし、適切な処理を実施せず、発電設備が放置された場合は、架台の倒壊やモジュールからの漏電、有害物質の漏洩等、地域住民の暮らしに危険を及ぼす可能性も考えられるため、事業終了した設備を確実な廃棄・リサイクルへと促す方策について、このような実態を踏まえた上で、経済産業省、環境省をはじめとした関係省庁と検討を進めなければいけない。

太陽光発電設備の景観コントロールに関する論点
5-3.太陽光発電設備の景観コントロールに関する論点の整理(80頁)
第1は、太陽光発電設備の立地に関する論点である。わが国では、再生可能エネルギー導入施策の推進によって、2012年以降に全国で一気に太陽光発電設備の立地や計画が進んだ。この結果、これまで太陽光発電設備の立地を全く想定していなかったエリアの景観に大きな変化が生じたり、大きな影響を受けることが想定されるエリアでは、住民等の反対運動などに発展した。
第2は、太陽光発電設備の景観影響の緩和に関する論点である。太陽光発電設備を実際に設置する際に、景観シミュレーションを実施したり、設置方法を工夫したりすることによって、景観に対する影響はある程度緩和できていた。
第3は、太陽光発電設備に関する住民・行政・事業者間の協議・調整に関する論点である。関係者間での協議が円滑に進まない場合、あるいは必要な協議がなされなかった場合、トラブルが生じやすかった。
第4は、景観法に基づく景観コントロールの実効性に対する認識に関する論点である。景観法に基づく景観コントロールの特性についての理解が進んでいないために、行政担当者や住民が景観計画や景観条例に基づく太陽光発電設備の景観誘導の実効性に対して疑義を抱いている状況が把握された。
第5は、都道府県と市町村等との連携に関する論点であり、1つは現状では広域景観の形成において、都道府県のような広域自治体単位で一体的に推進することが困難であること、もう1つは景観行政に対する知識・経験が豊富なスタッフが不足しており、小規模自治体では開発許可が必要なレベル以上の大規模な太陽光発電設備の設置においては、事業者との協議や景観影響の緩和策の検討等のプロセスに、広域自治体による支援が求められていることである。

論点1:新たに景観面の留意が必要な立地(81頁)
政府の再生可能エネルギーの導入推進施策によって、とくに2012年以降に全国で太陽光発電設備の設置が急速に進んだ。この結果、これまで太陽光発電設備の設置が想定されていなかった場所でも太陽光発電設備の設置や計画がなされることにより、住民等とのトラブルが生じているケースがあった。これらは従来の景観計画・条例等では景観面の課題の発生が想定されていなかったエリアである場合が多く、中でもとくに景観への影響が大きく、課題となっている特徴的な立地パターンが、沿道景観、広域景観、里山景観の3つであった。
沿道景観
駅周辺や観光地など、徒歩の観光客が多く通る沿道の景観や、良好な眺望を重要な資源としている観光道路沿いに太陽光発電設備が設置されることによって、景観の連続性が失われたり、背景となる自然景観への眺望が阻害されたりするケース。
広域景観
メガソーラーのような大規模な太陽光発電設備が設置されることによって、当該設備が立地している自治体だけでなく、広域の幹線道路や隣接自治体からの中景及び遠景に影響を及ぼしているケース。大規模な太陽光発電設備が存在することによって、自然景観の連続性が分断され違和感を生じている。
里山景観
これまで自治体の景観計画等で、景観上特に重要な地域等には位置づけられてこなかった里山など(都市計画区域外のケースも多い)が、大規模に造成されて太陽光発電設備が設置されることによって、周辺住民が日常的に接していた景観が激変する場合。なお、里山に大規模に立地するケースでは、下流域への土砂崩れや洪水等からの安全性の確保が不可欠であり、太陽光発電設備の設置によって直接的に影響を受けると考えられる範囲が広く、更には生態系などの地域の自然環境全体への影響に対する危惧等も大きいため、大規模な反対運動に展開しやすい。

論点3:住民・行政・事業者間の協議・調整の円滑な実施(83頁)
太陽光発電設備の設置が何らかのトラブルに発展しているケースでは、いずれも協議のプロセスにおいてトラブルを抱えていた。協議が不調となっているのは、住民と事業者、事業者と行政、住民と行政などいずれの組み合わせもあった。円滑な協議は景観に関するトラブルを抑制し、良好な景観を形成するうえで不可欠であると言える。
住民間における合意形成が困難なケース
別荘地などにおいて新住民と旧住民の双方が利害関係者となっている場合、地域の内部で合意形成が困難なケースがある。その場合、住民と行政や住民と事業者間についても建設的な協議が成立しにくくなる傾向が見られるため、住民間の協議方法の工夫が必要である。
住民が事業者の協議に応じないケース
住民が、太陽光発電設備が迷惑施設であるという認識を持ったり、事業者が住民の意見に十分に対応せず、住民との協議が形骸化している場合、住民が協議の実効性に疑問を持ち、協議に応じなくなることがある。
行政と事業者の協議時間が不足しているケース
住民と事業者間で十分な合意形成が出来ていない段階で事業者が景観法に基づく届出をした場合、30日以内に助言や勧告を行うことが時間的に困難であると行政側が認識し、必要な協議が十分に実施出来なくなる場合がある。また、90日間の協議延長制度については、前例がないために行政担当者は活用を躊躇していた。
行政が協議内容を把握できないケース
事業者が地元自治会や地権者と個別に交渉して合意形成を行った場合、協議内容について行政が把握できない。とくに里山等の大規模な太陽光発電設備の立地においては、下流域に対する安全面や環境面での影響も大きく、太陽光発電設備の設置による影響が地元自治会の範囲を超えて生じるため、行政が協議内容を把握できていないと調整が困難になる。


普及が進むにつれ増大する「軋轢」
一方、導入が進むことで、逆に普及を難しくする新たな課題も認識されるようになりました。自然エネルギー設備を送電線に接続できない、いわゆる系統線の「空容量ゼロ問題」[6]などがその代表例ですが、もう1つあまり認識がされていない、大きな問題が存在します。開発にともなう「地域との軋轢」です。
FITでの買取価格の低下や、系統接続の費用が増大するなかで、採算性が取れるよう自然エネルギー事業の開発規模が大きくなっていること。加えて、開発が進むほどに、開発容易な場所が減少していることなどが原因となり、地域の自然や社会環境に負担をかけてしまい、住民との間で軋轢が生じる結果になっているものと考えられます。

もし、今後もこのような事象が増えてしまえば、環境問題(温暖化問題)への切り札であるはずの自然エネルギーも、むしろ環境問題を引き起こす原因と認識され、そのさらなる普及にストップがかからないとも限りません。

こうしたリスクは杞憂ではありません。すでにその片鱗をうかがわせているためです。例えば、風力発電の紛争に関する先行研究では、総事業の約4割がこうした地域からの理解を得られないことによる反対を経験したとの報告があります[7]。太陽光についても、やはり大型事業で同様の事象が発生しているとの報告がなされています[8]。

とはいえ、温暖化の進行で受ける影響を考えれば、導入は避けては通れません。自然エネルギー100%という、大きな目標を実現していくためにも、今後の開発は、事業者が地域の納得を得られるような、十分な環境配慮を伴うものとしていかなければなりません。

[6]上記と同様の資料3では、2016年末時点での、FIT制度以降の太陽光(住宅用+非住宅用)の累計が3,201万kW、風力で64.2万kWとなっている。ここではFIT開始である2012年7月~12月も1年として、2016年末までを計5年間として、等価換算した。なお、実際には風力等は建設に長期間を有するため、導入済み数に表れない計画がこれとは別にあることに注意。
[7]畦地啓太・堀周太郎・錦澤滋雄・村山武彦(2014)「風力発電事業の計画段階における環境紛争の発生要因」『エネルギー・資源学会論文誌』35(2)
[8]山下紀明(2016)「研究報告メガソーラー開発に伴うトラブル事例と制度的対応策について」 ISEPウェブサイト
環境配慮のあり方について
それでは、具体的には、どのように環境配慮を実現していけばよいのでしょうか?じつはすでに、これに対する答えのひとつとなる取り組みが各地でスタートしています。「ゾーニング」と呼ばれる適地評価のプロセスです。
ゾーニングの役割(市川大悟)

従来は、事業者が主となって事業の立地場所を選定してきましたが、これを、事業計画の内容が具体的に固まる前の段階に、地域の住民や行政、有識者などが中心となって検討し、自分達の地域で、開発を受け入れられる場所、そうでない場所を仕分けて、公表するプロセスを言います。地域環境をよく知り、そこに住まう人達が話し合うことで、環境負荷の少ない、地元が納得できる持続可能な開発に誘導することができると考えられています。

現在、県レベルでは青森県、岩手県、宮城県など、市町村レベルでは10近くの基礎自治体が策定済み、あるいは取り組みを進めています。2018年3月20日に、環境省から自治体向けに取組みのためのマニュアルが配布されたこともあり、今後はさらに各地で広がっていくことが期待されています[9]。

今後、自然エネルギー100%という大きなチャンレジを乗り越えていくためにも、さらに多くの地域にこうした環境配慮を伴った開発を促せるような取り組みが広がることが望まれます。

[9]環境省報道発表(2018年3月20日)

太陽光発電事業者と住民とのトラブル
再エネで発電した電気をあらかじめ決められた値段で買い取る「固定価格買取制度(FIT)」が2012年に創設されて以降、日本各地でたくさんの再エネ発電事業者が誕生しました。太陽光発電については、FIT開始の前から住宅やビルの太陽光パネル設置が進んでいましたが、FITが始まった後では、野原や山などにずらりと並ぶ太陽光パネルを見ることも増えてきました。
そうした中で、地域住民とトラブルになる太陽光発電設備が現れています。
そもそも、太陽光発電事業に使う土地や周辺環境に関する調査、あるいは土地の選定や開発などにあたっては、
・土砂災害の防止
・土砂流出の防止
・水害の防止
・水資源の保護
・植生(ある地域で生育している植物の集団)の保護
・希少野生動植物の個体および生息・生育環境の保全
・周辺の景観との調和
など、さまざまなことに配慮する必要があります。また、太陽光パネルに反射する光が地域住民の住環境に影響をおよぼさないように配慮することも重要です。
太陽光発電事業の実施にあたって、もし、このような適切な配慮がされなかった場合、周辺への雨水や土砂の流出、地すべりなどを発生させるおそれがあります。そうなれば、発電設備が破損するだけでなく、周辺に被害があれば、その賠償責任が発電事業者に生じることもあります。
残念ながら、新しく太陽光発電事業に参入した再エネ事業者の中には、専門的な知識が不足している事業者もいて、そのため、防災や環境の面で不安をもった地域住民と事業者の関係が悪化するなど、問題が生じているのです。

地域との関係の構築
トラブルを回避するために、まず何よりも欠かせないのは、地域住民とのコミュニケーションをはかることです。
もちろん、自治体の条例などもふくめた関係法令を守ることは必須です。もし違反があれば、FIT認定が取り消される可能性があります。ただし、たとえ法令や条例を守り、適切な土地開発をおこなったとしても、事業者が住民に事前に周知することなく開発を進めると、地域との関係を悪化させることがあります。実際に、地域住民の理解が得られずに計画の修正・撤回をおこなうこととなったケースや、訴訟に発展したケースもあります。
そこで、2017年4月に施行された「改正FIT法」(「FIT法改正で私たちの生活はどうなる?」参照)にもとづく発電事業者向けの「事業計画策定ガイドライン」では、地域住民とコミュニケーションをはかることが、事業者の努力義務として新たに定められました。コミュニケーションをおこたっていると認められる場合には、必要に応じて指導がおこなわれます。

ガイドラインでは、発電事業の計画を作成する初期段階から、地域住民に対して、一方的な説明だけに終わらないような適切なコミュニケーションをはかるとともに、地域住民にじゅうぶん配慮して事業を実施するよう努めることが求められています。事業について地域の理解を得るには、説明会を開催することが効果的で、「配慮すべき地域住民」の範囲、説明会や戸別訪問など具体的なコミュニケーションの方法については、自治体と相談することをすすめています。
現在のガイドラインで、地域住民とのコミュニケーションが「努力義務」とされていることについては、「義務化すべき」との声もあがっています。ただ、地域住民とのコミュニケーションのありかたは一律ではなく、各ケースや地域の特性に応じた、きめこまやかな対応を必要とするものです。もし国が一律に義務化すれば、「説明会をおこなったか否か」などの形式的な要件を基準に、義務が果たされたかどうかを判断することになってしまう恐れがあります。そこで、現状では、地域住民とのコミュニケーションを「義務化」するのではなく、地域の事情に応じてつくられた条例を遵守するように義務付けることで、地域の問題に対応できると考えています。

大切な再エネだからこそ住民に配慮しトラブルをふせぐ
「地域との共生」は、事業の開発段階だけの問題ではありません。発電設備の運転を開始したあとも、適切に設備を管理し、地域へ配慮することが求められます。たとえば、防災や設備の安全、環境保全、景観保全などに関する対策が、計画どおり適切に実施されているか、事業者はいつも確認することが必要です。また、周辺環境や地域住民に対して危険がおよんだり、生活環境をそこなったりすることがないよう管理する必要もあります。
さらに、事業の終了時には、発電設備の撤去や処分をおこなわなければなりません。2040年頃には、FITの適用が終わった太陽光発電施設から大量の太陽光パネルの廃棄物が出ることが予想されており、放置や不法投棄の懸念ももたれています。

日高市太陽光発電設備の適正な設置等に関する条例 1月20日

日高市では昨年(2019年)8月、「日高市太陽光発電設備の適正な設置等に関する条例」を制定しました。太陽光発電設備の設置を規制する条令は埼玉県内初です。
日高市議会は昨年(2019年)6月定例会で、市内高麗本郷の山林約15ヘクタールに民間事業者が設置を計画している大規模な太陽光発電施設について、議会として反対の意思を示す「大規模太陽光発電施設の建設に対する反対決議」、国に対し太陽光発電施設の設置に関する法規制を求める「太陽光発電施設の設置に対する法整備等を求める意見書」を可決。8月22日の臨時会で、災害防止や環境・景観の保全を目的(第8条)に、市が提出した太陽光発電の大規模施設の建設を規制する条例案が全会一致で可決され、即日施行されました。事業区域が0.1ヘクタール以上、総発電出力が50キロワット以上の施設に適用(第3条)。事業者は事前に届け出て、市長の同意を得ることを義務づけられ、太陽光発電事業を抑制すべき「特定保護区域」が指定され、その区域では「市長は同意しない」としています。罰則はありませんが、従わない事業者は住所などが公表(第17条)されます。
市はメガソーラー(大規模太陽光発電施設)が計画されていた高麗本郷地区の山林を特定保護区域に指定、建設を差し止める法的拘束力はありませんが、事業者はより一層慎重な地元への対応が求められます。

※条例・規則・要綱:条例は地方公共団体がその事務について、議会の議決によって制定する法規。規則は地方公共団体の長等がその権限に属する事務について制定する法規。一方、要綱は行政機関内部における内規であって、法規としての性質をもたない。

※2019年6月26日、日高市議会定例会最終日に賛成多数で可決された「大規模太陽光発電施設の建設に対する反対決議」と全員一致で可決された「太陽光発電施設の設置に対する法整備等を求める意見書」は以下の通り(『文化新聞』 BUNKA ONLINE NEWS 2019年7月3日号より)
  大規模太陽光発電施設の建設に対する反対決議
 現在、日高市大字高麗本郷字市原地区にTKMデベロップメント株式会社が計画している大規模太陽光発電施設の建設について、以下のように判断する。

 ①建設予定地は、国道299号北側に位置する山の南斜面、面積は約15ヘクタールで東京ドーム約3個分に相当する。この建設によって緑のダムと言われる森林は伐採され、水源かん養機能が失われ、集中豪雨による土砂災害や水害の危険性が飛躍的に高まる。このことが建設予定地の下流域に住む市民の生命に対する重大な脅威となる。
 ②太陽光発電事業は参入障壁が低く、さまざまな事業者が取り組み、事業主体の変更も行われやすい状況にある。発電事業が終了した場合もしくは事業継続が困難になった場合においては、太陽光発電の設備が放置されたり、原状回復されないといった懸念がある。
 ③建設予定地には、埼玉県希少野生動植物種の指定を受けているアカハライモリや埼玉県レッドデータブックに掲載されている絶滅危惧種のトウキョウサンショウウオなどの希少動物並びにオオキジノオ、アリドオシなどの希少植物が生息している。大規模太陽光発電施設の建設工事が始まれば、これらの希少生物の行き場が無くなり、日高市の貴重な財産を失うことになる。

 日高市の財産である日和田山や巾着田を含む高麗地域の景観や周辺の生活環境を守り、防災並びに自然保護および自然調和に万全を期すことが必要である。このことから、今後、地域住民の理解が得られないまま大規模太陽光発電施設の建設が行われることになれば、日高市議会としてはこれを看過できるものではなく、大規模太陽光発電設備設置事業の規制等を含む対策に関する条例の制定等に全力で取り組む所存である。
 よって、日高市議会は大規模太陽光発電施設の建設に対し反対する。

  太陽光発電施設の設置に対する法整備等を求める意見書
 太陽光発電は、温室効果ガスを排出せず、資源枯渇のおそれが無い再生エネルギー源で、地球温暖化の防止や新たなエネルギー源として期待されている。特に平成24年[1912年]7月の固定価格買取制度(FIT法)がスタートして以来、再生可能エネルギーの普及が進み、中でも太陽光発電施設は急増している。また、埼玉県は快晴日数が全国一という特徴からか、本市においても太陽光発電施設が増加し、今後もさらに増えることが見込まれている。
 しかし、一方で、太陽光発電施設が住宅地に近接する遊休農地や水源かん養機能を持つ山林に設置され、周辺環境との不調和や景観の阻害、生態系や河川への影響が懸念されている。さらに傾斜地や土地改変された場所への設置は、土砂災害に対する危険性が高まり、地域住民との間でトラブルとなっている。
 このため本市は、「日高市太陽光発電施設の設置に関するガイドライン」その他関係法令に基づき事業者への指導を行っているが、直接的な設置規制を行えないことから、対応に苦慮しているのが実情である。
 よって、太陽光発電事業が地域社会にあって住民と共生し、将来にわたり安定した事業運営がなされるために、国においては次の事項を早急に講じられるよう要望するものである。

 ①太陽光発電施設について、地域の景観維持、環境保全及び防災の観点から適正な設置がなされるよう、立地の規制等に係る法整備等の所要の措置を行うこと。
 ②太陽光発電施設の安全性を確保するための設計基準や施行管理基準を整備すること。
 ③発電事業が終了した場合や事業者が経営破綻した場合に、パネル等の撤去及び処分が適切かつ確実に行われる仕組みを整備すること。
 ④関係法令違反による場合は、事業者に対し、FIT法に基づく事業計画の認定取消しの措置を早急に行うこと。

 以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。

高麗郷を乱開発から守るために

太陽光発電・メガソーラーに関わる当ブログ記事
「森林を脅かす太陽光発電を考える」講演会に参加①(2018.12.02)
 


 
 
 

J・ロックストローム『小さな地球の大きな世界』 12月27日

ヨハン・ロックストローム、マティアス・クルム『小さな地球の大きな世界 ープラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発 ー 』(原著は2015年発行。監修:武内和彦、石井菜穂子、訳:谷淳也、森秀行 ほか。丸善出版、2018年)。プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)は、2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)の基礎となった概念。著者のロックストローム博士はこの概念を主導する科学者グループのリーダーです。

プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)とは?
人間の活動が地球システムに及ぼす影響を客観的に評価する方法の一つに、地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)という考え方があります。地球の限界は、人間が地球システムの機能に9種類の変化を引き起こしているという考え方に基づいています。この9種類の変化とは、①生物圏の一体化(生態系と生物多様性の破壊)、②気候変動、③海洋酸性化、④土地利用変化、⑤持続可能でない淡水利用、⑥生物地球化学的循環の妨げ(窒素とリンの生物圏への流入)、⑦大気エアロゾルの変化、⑧新規化学物質による汚染、⑨成層圏オゾンの破壊です。これらの項目について、人間が安全に活動できる範囲内にとどまれば、人間社会は発展し、繁栄できますが、境界を越えることがあれば、人間が依存する自然資源に対して回復不可能な変化が引き起こされます。
生物地球化学的循環、生物圏の一体性、土地利用変化、気候変動については、人間が地球に与えている影響とそれに伴うリスクが既に顕在化しており、人間が安全に活動できる範囲を越えるレベルに達していると分析されています。
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(2017年版『環境・循環型社会・生物多様性白書』第1部・第1章地球環境の限界と持続可能な開発目標(SDGs)第1節持続可能な開発を目指した国際的合意 -SDGsを中核とする2030アジェンダ-)

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小さな地球の大きな世界 プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発』目次
序文 変革への協力関係
 生き方への二つのアプローチ
 新しい物語

重大な10のメッセージ
 1.目を開こう
 2.危機は地球規模で差し迫っている
 3.すべては密接につながっている
 4.予期せぬことが起こる
 5.プラネタリー・バウンダリーを尊重する
 6.発想をグローバルに転換する
 7.地球の残された美しさを保全する
 8.私たちは状況を変えることができる
 9.技術革新を解き放つ
 10.大事なことを最初にする

第一部 偉大なる挑戦
 第1章 新たな苦難の時代
  人新世にようこそ
  すべてが互いにつながっている
  地球を守る緩衝材

 第2章 プラネタリー・バウンダリー
  九つプラネタリー・バウンダリー
  プラネタリー・バウンダリーの現状
  ここからどこへ向かうのか?

 第3章 大きなしっぺ返し
  南極大陸:弱々しい兄貴分?
  地球からのメッセージ……「支払期限」
  崖っぷちの生物多様性
  サンゴ礁:気候変動における「炭鉱のカナリア」
  青天の霹靂?

 第4章 あらゆるものがピークに
  水圧破砕による石油・天然ガス採掘の問題
  リンのピーク
  何のピークも恐れなくてもよい世界

第二部 考え方の大きな変革
 第5章 死んだ地球ではビジネスなどできない
  問題の兆し
  地球が世界の経済を支えている
  狼、樹木、そしてマルハナバチ
  CSRはもう死語だ
  新しい物語

 第6章 技術革新を解き放つ
  技術革新の新しい波
  世界のエネルギー・システムを脱炭素化する
  すべての人のための持続可能な食料生産の増強
  循環経済への変革
  回復力のある都市の構造
  持続可能な交通手段
  想像力を解き放つ
  政策的手段
 この新たなパラダイム、すなわち、安定的で回復力のある地球とともに発展する世界のコミュニティを作るために、革新や技術、協働、そして普遍的な価値が結び付くというパラダイムを作るのに必要なものは何だろうか?そのために、私たちは以下の領域で、包括的な政策手段を構想している。

 1.地球上の安全な機能空間を世界的に規制すること:生物多様性の損失率をゼロとし地球温暖化を2℃以内にとどめることなど、世界の発展のための科学に基づく地球の持続可能性に関する基準に基づいて規制すること。
 2.地球に残された生物物理学的な余地空間を公平に分け合う方法について世界的に合意すること:鄭玄のある地球上の炭素排出量の配分、土地利用の配分、窒素とリン排出量の配分、また淡水利用量の配分に関する責任を分担すること、および残された重要な森林システムの保全や生物多様性の損失を食い止めるのに合意することを含む。
 3.世界的な炭素価格制度を導入すること:二酸化炭素1トンあたり少なくとも50ユーロ(60米ドル)が必要。
 4.政策的手段とガバナンスのあり方に幅広い多様性を許容すること:提携や誓約、市民運動、アクティビズムなどの「ボトム・アップ」の活動が、世界の国々や地域のガバナンスや組織的な統合など「トップ・ダウン」の取り組みと組んで発展すること。
 5.「GDPを超えて」成長と進歩に関する新しい基準を定義すること:進歩を測る新たな指標と環境志向の経済発展の概念を基礎にして構築する。
 6.対応能力の開発に莫大な投資をすること:世界の途上国への自由な技術移転と「第二の機械時代」を本格化するのに必要な大きな投資資金を含む。(153頁)

第三部 持続的な解決策
 第7章 環境に対する責任の再考
  新しいゲームのルール
  新しい緑の色合い
  計測することの重用性
  グローバル・コモンズに別れを

 第8章 両面戦略
  パワー・アップ
  新しい緑の革命 三つの課題
  青い大理石
  賢い投資

 第9章 自然からの解決策
  ウジを好きになる
  展望と解決策をつなげる
  実効性を確保するために

あとがき 新たなプレイ・フィールド

写真に関する補足情報
主要な出典および参考文献
著者紹介
謝辞
※監修者・武内和彦さんの本書紹介から(『UTokyo BiblioPlaza』HP)
地球に限界があることを指摘したのではない。プラネタリー・バウンダリーの範囲内でこそ、持続可能な経済や社会の成長と繁栄が保障されうるとの提案

ロックストロームらがプラネタリー・バウンダリーの概念を提唱した目的は、単に人間活動の加速化が地球システムの限界を超えるリスクを増大させていることに警告を発することにとどまるものではない。そうした限界を十分把握したうえで、人間活動をいかに回復力があり安定した生物物理的な「安全な機能空間」に収れんさせていくか、という新しい方向性を導こうとしているのである。この考え方は、かつてローマクラブが提唱した「成長の限界」とは一線を画している。むしろ、プラネタリー・バウンダリーの範囲内でこそ、持続可能な経済や社会の成長と繁栄が保障されうるとの提案である。この考え方は、国連が採択した2030年までの持続可能な開発目標 (SDGs) の捉え方にも大きな影響を与えている。すなわち、環境に関する目標の達成が、社会や経済に関する目標を達成するための大前提となるとの考え方である。


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