要旨 2022 年夏、東京都練馬区にある武蔵学園の林で、カシノナガキクイムシが原因と考えられるコナラの枯死木がみつかった。構内に生育するブナ科樹木のフラスと穿孔の被害状況を調べたところ、コナラが最も顕著であり、シラカシ、スダジイでも確認された。マテバシイでは被害は軽微で、他の都市公園の報告とは異なりクヌギでは被害が確認されなかった。
コットンを用いたトラップにより、コナラ、シラカシ、スダジイでカシノナガキクイムシの生息が確認された。冬期にかけてもフラスの発生が続き、樹木内部での活発な活動が予想されることから次年度以降も被害拡大について注視が必要である。コナラの枯死木が見つかった林は、武蔵学園が創立された 1922 年以前から唯一残されてきた植生であり、現在も授業や生徒の課外活動の場として利活用される貴重な学園の資源である。今後の 100 年を見越して、学園の緑について適切な維持・管理を進めていくことが急務である。
目次1.はじめに①構内のブナ科樹木の分布
2.方法
2-1.構内の樹木調査と穿孔木の確認
2-2.カシノナガキクイムシの採集調査
①トランク・ウィンドウ・トラップ法(以下,クリアファイルトラップ)
②コットンを用いたトラップ(以下,コットントラップ)
2-3.学校周辺のナラ枯れの状況把握
3.結果と考察
3-1.構内の樹木調査と穿孔木の確認
3-1-1.被害状況の概要
3-1-2.各種の被害状況
①コナラ
②クヌギ
③シラカシ
④スダジイ
⑤マテバシイ
3-1-3.構内での健全木と被害木の分布
②健全木と被害木の分布
3-1-4.ドローンおよび目視による樹冠の観察
3-2.カシノナガキクイムシの採集調査
3-2-1.トラップの結果
3-2-2.偶発的に捕獲されたカシノナガキクイムシ雌個体の特徴
3-3.学校周辺域の被害の状況
3-4.武蔵学園のナラ枯れの現状
3-5.これからの対応策
4.おわりに:今後の林や樹木の管理の提言
謝辞
引用文献
追記:脱稿後の 2023 年 3 月 8–9 日に,残存林の半枯れのコナラは伐採され,切られた幹
もナラ枯れ拡大防止のために適切に処理された。伐採を担当した業者によれば樹齢 100 年
はゆうに超えているとのことで,簡易的に数えた年輪の数もそれに近く,残存林の歴史的
な背景を勘案しても矛盾のないものだった。今後,年輪の精査を行う予定である。
Abstract
図版図版1 2022 年 8 月に見つかった半枯れのコナラ
図版2 ドローンで撮影された残存林のナラ枯れ(2022/9/16 撮影:安田明弘)
図版3 半枯れのコナラの結実状況(2022/9/21 撮影)
図版4 各樹木の被害:フラスの噴出(南門周辺,2022/10/21 撮影)
図版5 武蔵学園で採集されたカシノナガキクイムシ(2022/11/29)
図版6 調査風景,被害を防ぐための対策
図版7 残存林の歴史
図版8 残存林の歴史(「武蔵七十年史」より)