岩殿満喫クラブ 岩殿 Day by Day

市民の森保全クラブ Think Holistically, Conduct Eco-friendly Actions Locally

読書ノート

高槻成紀「増え続けるシカ」 9月7日

高槻成紀さんの『唱歌「ふるさと」の生態学 ウサギはなぜいなくなったのか?』(ヤマケイ新書、2014年12月)を読みました。
高槻成紀『唱歌「ふるさと」の生態学 ウサギはなぜいなくなったのか?』目次
1章 「故郷」を読み解く
2章 ウサギ追いしー里山の変化
 1 ウサギの思い出 
 2 茅場ーウサギのすむ場所 
 3 かつての里山 
 4 変貌した里山 
 5 里山のもうひとつの変化ー都市化に呑み込まれる里山
3章 小ブナ釣りしー水の変化
 1 小ブナ釣りしー故郷の川 
 2 川の変化 
 3 もうひとつの脅威ー農薬 
 4 さらなる脅威ー外来生物 
 5 水は清き
4章 山は青きー森林の変化
 1 林業と社会 
 2 林学と林業―四手井氏による 
 3 森林伐採と森林の変化
5章 いかにいます父母―社会の変化
 1 人々への思い 
 2 社会の変化 
 3 志を果たして
6章 東日本大震災と故郷
 1 東北の里山を訪ねて 
 2 東北の動物たちに起きたこと 
 3 原発事故から考える日本の里山の将来
7章 「故郷」という歌
8章 「故郷」から考える現代日本社会
 1 「故郷」と社会 
 2 「故郷」に見る日本人の自然観

増え続けるシカ(「第2章 ウサギ追いしー里山の変化」から)
 サルよりも少し遅れて、しかし今やサルよりもはるかに深刻な問題を抱える里山動物になったのがシカ(ニホンジカ)である。
 昭和50年くらいまで、野生のシカを見たことのある人はきわめて限定的であった。シカといえば奈良公園や安芸[あき]の宮島で人から餌をもらうものしか知られていなかった。私はシカの研究をして来たが、1992年に『北に生きるシカたち』という本を書いたとき、編輯者は「シカが増えているって本当ですか」といぶかしげであった。それほどシカが増えていることは知られていなかった。だが、今や、たとえば東京の奥多摩に行けば、山中にシカの痕跡を見ない場所はない。それどころか広く関東地方の山地にはシカが溢れているという状況である。
 ここでもシカという動物の性質と里山のことを考えてみたい。シカはオスは80キログラムほど、メスは50キログラムほどの大型獣で、1産で1頭の子しか産まず、警戒心が強いから、大きさや繁殖力、行動特性では里山の動物の条件を満たさない。
 そのようなシカがなぜ里山で増加したのであろうか。もともとシカは里山にはおらず、かといって、クマやカモシカのような典型的な奥山動物でもなく、山から丘にかけての里山に近い部分の森林に生息していた。そして、そういう森林の、鬱蒼とした林内よりは、林の縁など下生えの植物が豊富な場所を好む。そして危険を感じると林内に逃げ込むという行動をとる。里山には林縁が多いから、シカはもともと里山に侵入する潜在力をもっているといえる。それが実現した最大の要因は、臆病なシカが怖がる人の存在がなくなったためである。
 その上で、里山以外を含む近年のシカの増加はだいたい次の三つで説明されることが多い。
 ひとつは森林伐採によって食料が増えたというものである。シカの性質を考えれば、戦後に森林伐採がおこなわれたことはシカに有利になったとはいえるだろう。だが、森林が伐採された時期とシカが増加した時期には数十年の時間差があり、最近のシカの急増は十分に説明できない。
 もうひとつは、暖冬と子鹿の死亡率による説明である。地球温暖化によって暖冬が多くなった。シカは1産1子であるといったが、2歳の秋には妊娠し、その後ほぼ毎年妊娠する。これはサルが5歳くらいから繁殖するようになって、1年おきに妊娠するのと大きな違いである。したがってシカの新生児はたくさん生まれるのだが、最初の冬に死亡する子鹿が多い。その子鹿が暖冬によって生き延びると、シカ集団としては増加することになる。このことも事実であるが、シカの増加は雪の少ない南日本でも起きており、全国のシカの急増を説明できない。
 第3の説明は、オオカミがいなくなったからだというものである。しかしオオカミが絶滅したのは20世紀の初頭であり、1990年くらいから急に増えたことの説明にはならない。
 これらの説明に対して北海道大学の揚妻直樹[あげつまなおき]氏は里山の変化こそがシカを増加させたのだとする。揚妻氏は、里山に活気があった時代、森林は薪炭林としてさかんに伐採され、明るく下生えが豊富であったのに対して、農業地帯は徹底的な管理によって地上植物は非常に乏しかったとする。最近の小椋純一[おぐらじゅんいち]氏の検証などによると、私たちがなんともなくもっている「昔の日本の農地は豊富な緑に溢れていた」というイメージは正しくなく、草原的な貧弱な植生であったといい(小椋、1996[『植生からよむ日本人のくらし、明治期を中心に』])、揚妻氏の見解を支持するようだ。重要なことは、農耕地一帯ではこまめに草刈りがおこなわれ(里山の特徴①-集約的な植生管理)、また農作物はよく監視されて、シカにとって接近しづらく(里山の特徴③-被害防除)、山の森林の下生えは豊富であるというかつての関係が、農耕地は手入れされなくなって藪状態になり、草本類や低木類が増加した一方で(里山の特徴①-集約的な植生管理の崩壊)、森林は木が育ち、また針葉樹の人工林が増えて暗くなり、下生えが貧弱になることで、シカにとっての山と里の資源環境が逆転し、シカが山よりも里に降りざるをえないという状況が現出したということである。揚妻氏はこのことと同時に、シカが採食行動を変化させることも見逃してはならないと指摘しており、その見解は傾聴に値すると思う。
 いずれにしても、シカは今や里山にたくさんいることになった。とくに牧場があると、シカにとっては理想的な環境となる。というのは牧草は牛を肥育するために品種改良され、栄養価が高く、消化率がよく、春早くから秋遅くまで生育するし、日本の牧場は小規模で森林に接しているから、シカは牧場で牧草を食べ、危険を感じれば森林に逃げ込むことができるからである(里山の特徴⑥-モザイク構造)。シカがひとたび里山にすみつけば、大型であり、群れで生活するから、農作物も、牧草も、周辺の群落も強い影響を受けることになる。(72~75頁)
動物の生息地としての里山の特徴(同書50~54頁)
 里山の変化と動物(同書65~70頁)
  ①集約的な植生管理
  ②豊富な食物
  ③被害防除
  ④多様な群落[萱場・雑木林・人工林]
  ⑤小面積な群落
  ⑥モザイク構造

里山動物の性質と特徴(同書55~60頁)
 タヌキ、キツネ、アナグマ、ウサギ(ノウサギ)、カヤネズミ、ハタネズミ、アカネズミ、リス
  ①体が大きくないこと
  ②警戒心が強すぎないこと
  ③寿命が短いこと
  ④繁殖力が高いこと
  ⑤融通がきくこと
  ⑥群落複合の利用

里山動物としては例外的な動物(同書60~61頁)
 ムササビ、イノシシ

9月3日の記事で林将之さんの『葉っぱはなぜこんな形なのか? 植物の生きる戦略と森の生態系を考える』の「第2章 葉の形の意味を考える」からシカはなぜこんなに増えたのだろう?を紹介しました。
高槻さんの著作に2015年12月に出版されたヤマケイ新書の『シカ問題を考える』がありますので、続けて読んで見たいと思っています。

 気候変動による影響が疑われる現象の一つとして、ニホンジカの急増が挙げられます。埼玉県内のニホンジカ捕獲頭数は、1990年度は114頭でしたが、その後急増し、2016年には3000頭を超えました。
 全国的にもニホンジカの増加や分布拡大が起きていますが、それらに温暖化が寄与していることが指摘されています。ニホンジカは大型草食ほ乳類で、様々な植物を大量に食べるため、個体数の増加が自然の植生に大きな悪影響を与えています。埼玉県と山梨県の県境の亜高山帯には、シラビソ・オオシラビソの針葉樹林帯が広がっていますが、広い範囲で皮を剥いで食べる被害が発生し、森林衰退も起きています。
 下層植生も広く食害し、スズタケなどササが衰退する一方で、ハシリドコロやトリカブトといった有毒植物のみが残る林も増加しています。さらに、ニホンジカの増加とともに、ササなどの植生を好む鳥類のヤブサメやウグイスなどが減少するとの報告もあります。この様に、植物だけではなく、動物への影響も懸念されています。
埼玉県におけるシカ捕獲頭数の推移

林将之『葉っぱはなぜこんな形なのか? 』 9月3日

林将之さんの『葉っぱはなぜこんな形なのか? 植物の生きる戦略と森の生態系を考える』(講談社、2019年5月)を読みました。
29599679_1

林将之『葉っぱはなぜこんな形なのか? 植物の生きる戦略と森の生態系を考える』目次
はじめに
第一章 樹木図鑑を作るわけ
 ◇葉っぱスキャンの発見
055-5/]/日本各地の森を巡る
 ◇僕の樹木独学スタイル
  使えない樹木図鑑/バイブルとの出会い[『樹木』(保育社 検索入門シリーズ)
 ◇就職活動
  夢探しの時間/転機を招いた樹木の資料作り/森づくりの活動
 ◇樹木鑑定サイトの開設
  誕生秘話/全国から寄せられる鑑定依頼/「このきなんのき」から広がった
 ◇樹木図鑑を作る
  三度目の売り込み/画期的な図鑑を作る/図鑑を作り続ける
☆葉の心理テスト

第二章 葉の形の意味を考える
 ◇ギザギザのある葉とない葉
  どっちが普通?/ギザギザは何のためか?/全縁の葉と気温の関係
 ◇切れ込みのある葉とない葉
  歳をとると丸くなる?/風を通すための切れ込み/それ以外の可能性
 ◇羽状複葉のメリット
  羽状複葉はどこで見られるか/プランターでの観察/所変われば葉も変わる/常緑樹と落葉樹
 ◇対生と互生
  2種類の葉のつき方/ウツギ類はなぜ対生の低木が多い?/互生する葉
 ◇不分裂葉の形
  普通の形の葉/倒卵形の葉/不分裂葉という用語
 ◇大きな葉と小さな葉
  大型化する葉/大きな葉をつける木/小さな葉をつける針葉樹
 ◇葉の蜜腺
  葉から出る蜜/アカメガシワの戦略/アリを住まわせるマカランガ/アリと植物はどっちが賢い?
☆花の心理テスト

第三章 植物と動物の絶妙な関係
 ◇沖縄の木にぶら下がる”危”ない板
  ○危の板とミカンコミバエ/不妊化されたウリミバエ/なぜオスは誘引されるのか
 ◇クマのいる森
  緊張のクマ遭遇体験/異常なベースで殺されるクマ/クマが絶滅するとどうなる?/タネを運ぶクマ/九州のクマとサクラ/クマがつくる環境/クマと共存するために
 ◇シカの多すぎる森
  森の異変/シカと植物のせめぎ合い/シカ被害の“先進地”丹沢山地/なぜシカは増えたのか?
 ◇鍵を握るオオカミ
  なぜオオカミは絶滅したのか/イエローストーンのオオカミ再導入/日本へのオオカミ再導入の可能性/知らないものに抱くイメージ

第四章 人間は自然の中か外か
 ◇植物は人間を意識しているか
  紅葉はなぜ美しいのか?/庭の園芸植物は作戦成功?
 ◇自然は保護するものか
  人間は木の実を食べてはいけない?/「自然保護」への違和感/共存orコントロール
 ◇天敵のいない島
  ウサギとヤマネコ/無人島のヤギ/人間のコントロール

あとがき
  僕が育った庭/姿を変えた裏山/大好きな海
「第2章葉の形の意味を考える」を興味を持って読みました。岩殿地区では最近、シカの食害が話題になることが多く、今後どうなっていくのか心配しています。シカが増えた原因は何なのでしょうか?

シカはなぜこんなに増えたのだろう?
……まずは、シカ本来の生息地である低地の森林や草原を、人間が開発しつくしたことから考えたい。シカといえば、山の動物と思われがちだが、江戸時代の初期には、平野部の草原や田畑周辺、雑木林などに多く生息していたといわれる。当時の関東平野にはススキなどの広大な草原があり、将軍・徳川秀忠や家光は、東京の板橋で毎回数百頭ものシカを狩ったという。今の関東平野はどうだろう?世界最大といわれる市街地がどこまでも広がり、郊外は農地で埋め尽くされている。点在して残った雑木林や河原の林は、市街地や道路、鉄道、堤防などの人工物に囲まれ、シカが棲む連続的な森林と草原が広がる環境がほとんど見当たらない。シカは山へと追いやられたのだ。
 明治時代の前後で、シカの個体数と狩猟をめぐる状況も大きく変化したといわれる。明治維新で食肉文化が持ち込まれ、シカ肉が普及した上、シカの毛皮や角も利用価値があったため、銃の普及とともにシカは多く狩猟され、乱獲で個体数が著しく減っていったようだ、
 昭和に入ると、今度は戦後の復興特需で山にスギ・ヒノキが大量に植林され、日本の森林の4割は人工林に変わった。さらにその後、日本は政策転換して木材輸入を自由化したため、海外から安い木材が大量に輸入されると国内の人工林は次々放棄され、シカの食べる林床植物やエサ場となる伐採跡地もますます減ることになった。これに前後して、戦後から各地でシカの狩猟禁止が広がり、シカを保護する政策へと転換した。そして、昭和後期、1970年代にシカの個体数はかなり回復し、平成に入る1980年代後半から、今度はシカによる農業被害や植生被害が顕著になり始めたのだ。シカは人間に居場所を追われつつ、生息環境を変えてきたと言えるだろう。
 一つ知っておきたいのは、江戸時代~昭和初期は、燃料(薪[まき]・炭)や建材、茅[かや]、食料、肥料(落ち葉)の大半は国内で自給していたため、ハゲ山や草原が相当多かったことだ。反対に今は、使われなくなった里山や畑に次々と植物が茂り、大規模な川の氾濫[はんらん]や土砂崩れの発生も抑えられているので、かつてないほど森林化が進んでいる。シカが増えて森林を衰退させる現象は、減りすぎた草原環境を取り戻す作用と考えられなくもない。
 いづれにせよ現代は、シカ肉はほとんど食べられなくなり、毛皮や角の用途も激減し、シカの需要は大きく減った。そのため、猟師の収入も数も減少し、高齢化し、シカ猟が解禁されても積極的な狩猟がおこなわれなくなったことも、シカ増加の要因といわれている。
 これに対し、国は若者向けに狩猟の魅力をアピールしつつ、シカの駆除を進め、全国で年間60万頭ベースで捕獲(狩猟を含む)し、食肉利用(ジビエ)も進めている。北海道産エゾシカのハンバーガーやステーキのように、一定の普及効果も感じるが、現実にはシカの食肉利用は1割弱で、大半のシカは森に捨てられているという。巨大な死体の大量放置は、倫理的な問題に加えて、新たな生態系の変化を起こすリスクをはらむ。シカの死体はクマを強く引き寄せ、クマの栄養状態を向上させ、近年のクマ急増を助長している可能性も指摘されている。国は毒エサ(硝酸塩[しょうさんえん])によるシカの駆除実験にも取り組み始めているが、自然の循環に組み込まれない対処療法は、同様に別の問題を引き起こすだろう。
 また、温暖化もシカの増加を後押ししていると考えられている。雪に弱いシカは、積雪地では細い足が埋もれて身動きできなくなってしまうため、過去にも大雪で大量死したことが知られている。しかし、近年の急激な温暖化で積雪が減少し、これまでシカが分布していなかった北日本の日本海側や、標高2000メートル以上の高山にも、次々とシカ(イノシシも)が姿を見せ始めている。シカの食害によって、尾瀬のニッコウキスゲ、日光のシラネアオイといった象徴的な花が壊滅的に激減し、南アルプスのシナノキンバイやハクサンイチゲのお花畑が姿を消し、そこをエサ場にする天然記念物のライチョウ(雷鳥)も絶滅が危惧されるようになった。
 日本の生態系にとって未知なる経験が、今次々と進行しているのである。

共存orコントロール
 こうして人間と自然の関係をいろいろ考えていると、両者の付き合い方には、大きく二つの価値感があることに気づき始めた。「自然を理解し共存する」という考えと、「自然を制御しコントロールする」という考えだ。前者が「自然の中」に身を置き、後者が「自然の外」に身を置く考え方ともいえるだろう。
 例えば、クマやオオカミと人間がうまく共存する術を探る手法は前者で、クマやオオカミなど危険生物は排除して、シカやイノシシの個体数は人間が管理する手法は後者である。絶滅したオオカミを再導入する行為は、両者の中間かもしれない。人間がコントロールしながらオオカミを導入し、共存へと導く手法だからである。
……完全なる制御とコントロールを推し進める社会では、“迷惑生物”の撲滅運動が起きるかもしれない。まず、人間に必要な動物は、ウシ、ブタ、ヒツジなどの家畜とペットだけだから、オオカミや熊はもちろん、シカやイノシシも絶滅させよう。さらに、遺伝子組換えでカを絶滅させる試みのように、マムシ、ハブ、スズメバチ、ムカデ、ゴキブリ、ナメクジ、ヒルなど、危険生物や不快生物はとことん絶滅させたらどうか。海の中なら、サメ、有毒のクラゲ、ガンガゼ、オコゼ、イモガイあたりはぜひ絶滅させてほしい。植物なら、ウルシ科、イラクサ、シキミ、ドクウツギなどの毒やかぶれ物質をもつ植物をはじめ、手を切りやすいススキや、駆除が難しいクズあたりも、絶滅させる候補に挙がるかもしれない。もちろん、毒キノコや各種病原菌だって絶滅させた方がいいだろう。
 これらのありふれた迷惑生物を絶滅させるとどう悪影響があるのか。今の科学では正確に推測できないだろう。しかし、間違いなく生態系の一部が崩れて、何らかの別問題が発生し、そこにまたコントロールの必要性が生じることだろう。
 ちなみに、シカが全くいない森は、シカが多少いる森に比べて、虫の種類がやや少ないという。大型のサメを乱獲したアメリカ東海岸では、ホタテやハマグリが大きく減少して漁業に悪影響が出た。それがなぜか、わかるだろうか? シカがいなくなると、シカへの防御機構をもつ植物や、シカが作った草地に生える植物が、他の植物との競争に負けて姿を消し、それを食草としていた虫や、シカのフンや死体を食べていた虫もいなくなるのだろう。サメの例では、大型のサメを駆除したことで、その餌食になっていたエイが増え、そのエイが好むホタテ、ハマグリなどが大量に食べられたためと推測されている。
 目障りな生物をすべて絶滅させれば、人間にとってユートピア(理想郷)のような世界が訪れる可能性もゼロではないだろうが、生物の多様性は連鎖的に低下し、思わぬ環境変化が起こるリスク、アレルギー(雑菌などが少ない潔癖[けっぺき]な生活が一因との説がある)のような新たな現代病に悩まされるリスク、危険や不快感に対する適応力を失ってしまうリスクなどを常に抱え、改変した自然をコントロールし続けることに大きな労力を費やす社会になる可能性が高いだろう。
 世界中の先住民たちは、経験的、感覚的に自然を理解し、自然と共存しながら持続可能な自給生活を続けてきたはずだ。それが、急激に経済成長を始めた国から順次、自然を制御しコントロールしようとする価値感に急激に転換していった。そして、自然破壊と文明発展が進むと、今度は科学の力で自然への理解を深め、自然をコントロールする技術も高めつつ、再び自然と共存する道を探る段階に来ているように見える。
シカがいる森いない森

※地球永住計画「連続公開対談・賢者に訊く」2018年6月18日(Facebook2018年9月3日記事
【樹木の葉はなぜさまざまな形をしているのか?】
・日なたの葉は小さく、日陰の葉は大きいのはなぜ?
・ヒイラギなどの若い木にトゲがあり、成木ではなくなるのはなぜ?
・ヤマグワなどの幼木の葉に切れ込みがあり、成木ではなくなるのはなぜ?
・羽状複葉(フジなど)の大半が落葉樹なのはなぜ?
・対生の葉が低木(ウツギ、ムラサキシキブなど)に多いのはなぜ?
・ミカン、サンショウ、クスノキなどの葉に香りがあるのはなぜ?
・アカメガシワなどの蜜腺は何のためにある?
・若葉はなぜ赤い?
このように、葉っぱがさまざまな特徴をもつのは、環境や昆虫などと関係があると考えられます。

「卒石炭火力が日本でも合理的である5つの理由」 8月5日

 7月3日以来、経済産業省がエネルギー政策の転換を思わせる方針を次々に打ち出している。旧式の石炭火力発電所の大部分を2030年までに休廃止、再エネ拡大のために送電網の利用ルールを見直し、また、政府の方針として石炭火力の輸出支援を厳格化、といった具合だ。2018年に定められた第5次エネルギー基本計画を具体化しているだけだというが、筆者には潮目の変化のように感じられる。
 気候変動対策の緊急性の認識が世界で高まり、CO2排出量の大きい石炭火力への風当たりが強くなっている。ほとんどの先進国が脱石炭に向かう中で、日本政府が石炭火力を維持する姿勢は世界から強い批判にさらされてきた。
 日本の言い分は、日本には国内資源が乏しい、面積に比して人口密度が高くエネルギー需要が大きい、隣国とつながる送電網が無い、といった理由でエネルギー安定供給のための火力発電、とりわけ資源調達の容易な石炭火力をある程度維持したいということだろう。
 環境NGOなどはこれを言い訳と見ており、今回の方針に対しても批判的な姿勢を崩していないが、筆者はある程度もっともな言い分だと思っている。しかし、それでも遠からぬうちに日本も石炭火力を卒業するのが合理的だと思う。筆者はエネルギーの専門家ではないので技術や経済の詳細な議論には立ち入らず、大局的な観点からその理由を5つ述べたい。
1. 脱炭素は待ったなし

2. 世界が脱炭素した暁には日本は「勝ち組」
 やはり昨年発表されたノルウェー等の研究者による論文で、世界のエネルギー転換による(つまり、いつの日か世界のエネルギーが化石燃料から再エネに完全に置き替わった場合の)各国の地政学的な損得を分析したものがある。
 その結果によると、日本は明らかな「脱炭素勝ち組」なのだ。資源量のみに注目した場合、人口密度に比して再エネ資源がそれほど豊富ではないので評価は中程度になるが、貿易への影響を考慮するとぐっと評価が上がる。化石燃料輸入のために国外に流出していた年間20兆円前後が国内で回るようになるのだから当然だ。国内秩序の安定性を考慮に入れるとさらに評価が上がる。
 国益を考えるならば、日本は全力で世界の脱炭素化を目指すのが合理的なのである。
   1-s2.0-S2211467X19300999-gr4_lrg

3. 日本の再エネポテンシャルは十分にある
 そんなことをいっても、日本国内の再エネで日本のエネルギー需要がまかなえないと仕方がないじゃないかと思うだろうが、どうやらその点は大丈夫である。
 環境省による最新の調査によれば、日本の再エネ導入ポテンシャルは年間発電電力量にして73,000億kWh、そのうち経済性を考慮した導入可能量は26,000億kWh程度と見積もられている。その内訳は洋上風力が6割、陸上風力と太陽光が各2割程度である。この導入可能量は日本の現在の消費電力量の2倍以上であり、熱量換算すると9.4エクサジュールで、最終エネルギー消費量の13エクサジュールにせまる数字である。

  再エネ導入ポテンシャル_1
 日本の再エネポテンシャル(発電電力量)。環境省資料より。

 つまり、単純計算では、日本の電力をすべて再エネでまかなうことは十分に可能である。火力発電も原発も必要ない。さらに、技術進歩等により経済性が少し改善されれば、燃料等を含む一次エネルギー全体を再エネでまかなうことも視野に入るといえるだろう。
 もちろんこれが可能になるためには、送電網の増強や、需給バランスを確保するための蓄電設備やデマンドレスポンス(需要側の調整)などへの投資や制度整備が必要なので、すぐにできると言っているのではない。究極的に(といっても30年で、できればもっと早く)これを目指すという話である。
 ここで、メガソーラーの自然破壊などの心配も出てくると思うが、環境アセスメントも廃棄費用の積み立ても義務化されたので、乱開発は是正されるだろう。

4. 石炭火力でもうかりますか?
 経産省の方針では高効率の石炭火力は維持、拡大するといわれており、環境NGOはこの点を特に批判している。しかし、石炭火力を新設しようとする事業者がどんなふうに経済的な合理性を見込んでいるのかが、筆者にはわからない。
 再エネのコストはどんどん安くなっており、世界の多くの地域(英国のシンクタンクCarbon Trackerの報告によれば日本も含む)で既に新設の石炭火力よりも新設の再エネの方が安い。この傾向は今後さらに拡大していくだろう。また、再エネが増えるほど、火力発電は出力制御をしなければいけなくなるので、稼働率が落ちて収益性が下がる。
  expl200721_01
 本格的なカーボンプライシング(炭素税や排出権取引)が日本でも導入されれば、石炭火力のコストはさらに上がる。すぐに導入されるかはわからないが、10~20年にわたって導入されないと想定する事業者はさすがに楽観的すぎるだろう。CCSを後付けできればカーボンプライシングはかからないが、もちろんCCSのコストがかかる。
 もしも筆者が石炭火力を計画中の事業者の立場であったならば、全力で引き返す判断をするだろう。既に投資してしまった額によっては辛い判断になるかもしれないが。
5. やがて常識が変わるだろう
 ……やがて技術的にも経済的にも脱炭素が可能だと誰もが思うようになり、CO2を出さずにエネルギーを作ることが世界の常識になる時代が来るだろう。そのときの新しい常識から現在をみると、「あの頃はひどいことをしていた」と評価されるにちがいない。特に、脱炭素の選択肢があるのを知りながら、CO2を多く排出するインフラを新たに作ることは、きわめて悪質な行為として後世の人たちから厳しい倫理的な批判にさらされるだろう。

 石炭は嫌いじゃなかった。小学生だった1960年代、冬場になると、当番はみんなより早く登校して、教室のだるまストーブに火をつけた。なかなか火がつかないが、赤々とした炎は「エネルギーの塊」を感じさせた。だがそんな石炭の時代も、終わりが見えかけてきた。さて、どう石炭と別れよう。
 身の回りの燃料は石油やガスに替わり、石炭を手にする機会はなくなった。57歳の私は、石炭に触れた最後の世代ではないかと思う。ただ、目の前から消えたからと言って、石炭の時代が終わったわけじゃない。世界ではいまも主要なエネルギーの一つだし、日本ですら、電気の3割は石炭が担っている。
 ところが、その石炭にもついに終わりの兆しが見えてきた。地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を大量に出すことが理由だ。流れは2015年のパリ協定で決定的になった。
 簡単じゃないことは分かっている。けれど、どうせ別れるなら、きっぱりと別れたい。
インド 石炭電力が余り出した
イギリス 産業革命からの卒業
ドイツ 別れるには時間がかかる
時代に逆行、依存強める日本
 日本では石炭の時代はすでに終わったと思っている人は多いが、とんでもない。国内の石炭消費量は、2度の石油ショック以降再び増加に転じ、2015年は1960年代の倍以上の約1億9000万トンになっている。6割が発電などで4割が鉄鋼関連で使われている。99%以上がオーストラリアなどからの輸入で、世界3位の輸入大国だ。
 日本経済の変わり身の早さには、ある意味で感心する。戦後の増産政策で、国内には50年代に1000以上の炭鉱があり、45万人以上が働いていた。
 それが、海外炭が安いと見るや、軸足を移す。70年には国内炭との割合が逆転。国際競争力がないという理由で合理化の嵐が吹き荒れ、閉山が相次いだ。現在残る炭鉱は、北海道の坑内掘りの1炭鉱と、露天掘りの7炭鉱だけだ。
 しかも、閉山は突然だった。82年10月に閉山した北海道夕張市の北炭夕張新鉱の閉山発表は1カ月半前だった。約2000人の従業員は全員解雇された。97年3月に閉山した福岡県大牟田市の三井三池炭鉱も1カ月半前で、1200人の全従業員が解雇された。閉山の決定から実施までに10年をかけて
 準備を進めたドイツの炭鉱との違いを感じざるを得ない。
 事実上財政破綻(はたん)した北海道夕張市の鈴木直道市長(36)が「産炭地はどこも苦しんでいる。国策でやってきたことなのだから、もっと国のサポートがあってもいい」とぼやくのも分かる。
 世界が石炭と別れようと動き出している中で、国内炭をあっさり見切った日本は石炭火力発電に固執している。福島原発事故後、建設計画が相次いでいるのだ。環境NGOの調査では、2012年以降、全国で49基(計2300万キロワット)が計画された。4基は事業リスクなどを理由に中止を決めたが、まだ相当数が生きている。
 日本には、エネルギー構造を化石燃料から自然エネルギーに変えていくための強い政策がない。電力会社や産業界は、自分たちの力が及ばない自然エネルギーのような小規模分散型電源より、原発や火力発電のような大規模集中型電源が根本的に好きなのだ。
 海外の石炭への投融資についても、各国が控える動きを見せている中で、日本は「高効率石炭火力発電技術で世界の温暖化防止に貢献する」という姿勢を変えていない。世界自然保護基金(WWF)などの調査では、07~14年の国際的な石炭関連事業(採掘、発電など)への公的金融機関による投融資額は、日本が1位だった。
念入りに準備をして別れよう
 「化石燃料時代の終わり」を示したパリ協定には、すべての国が合意した。唯一の超大国である米国の大統領が離脱を表明しても、協定が揺らぐ兆しはない。
 今回の取材で改めて思い知ったのは、エネルギーの主役はコストが決めるということだ。自然エネルギーのコストは、火力や原子力を下回るようになった。今後はさらに安くなっていくだろう。温暖化や原発のリスクを第一の理由に、世界が脱炭素へと動いているわけではない。自然エネルギーが安くなったから、一斉に走り出したのだ。
 化石燃料との別れは不可避だ。であれば、仕事がなくなる人たちのことも考えて、各国の状況に応じた準備を急ぐべきだろう。
 心配なのは、日本だ。国内炭鉱の閉山の時と同じように、ぎりぎりまで別れないそぶりを見せていて、急に態度を変えるのではないか。そうなると、これまでの化石燃料への投資を回収することが難しくなり、出遅れた日本経済は大きな打撃を被ることにならないか。
 どうせ別れるのだから、きっちりと準備して、これまで世話になったことに感謝して別れたい。後腐れや恨みっこは、なしで。
◆石炭とは ◆石炭から逃げる投資 ◆温暖化の現状

JCIウェビナー「石炭火力を考える」パネディス・質疑 8月4日

JCIウェビナー「石炭火力を考える」(7月28日)の2本の講演の後のパネルディスカッションと質疑です。YOUTUBEでの開始時間を入れておきます。

JCIウェビナー「石炭火力を考える」
 (2020年7月28日 zoomウェビナーおよびYouTubeライブ配信 10:30~12:00)
 4.パネルディスカッション
   高村ゆかり 東京大学未来ビジョン研究センター教授
   平田仁子 気候ネットワーク国際ディレクター/CAN Japan 代表
   大野輝之 自然エネルギー財団常務理事
 5.質疑応答(司会:田中健)


 4. パネルディスカッション 46:35~1:17:03
  ●高村ゆかり  48:10~57:19 1:04:10~1:10:53
  ●平田仁子 57:30~1:01:53 1:11:25~1:15:22
  ●大野輝之 1:01:55~1:01:30 1:15:22~1:17:03

 5.質疑 1:17:05~1:40:54
  ●脱石炭で生じる問題 平田仁子 1:18:22~1:22:55
  ●再エネを普及していく上での課題 滝澤元 1:23:05~
  ●日本政府が石炭火力に固執する理由 高村ゆかり 1:24:41~1:28:50
  ●再エネの価格 大野輝之 1:28:57~1:30:50
  ●まとめの質問:様々な意見を政策に反映するには? 1:31:00
   平田 1:31:50~1:34:14
   瀧澤 1:34:20~1:35:06
   高村 1:35:10~1:38:28
   大野 1:38:36~1:40:17

  

JCIウェビナー「石炭火力を考える」講演②(瀧澤元) 8月4日

JCIウェビナー「石炭火力を考える」(7月28日)の講演②「石炭火力輸出の中止と自然エネルギー支援への転換が必要な4つの理由」(瀧澤元 自然エネルギー財団 上級研究員)です。資料スライドと、YOUTUBEでの開始時間を入れておきます。

講演2 瀧澤元「石炭火力輸出の中止と自然エネルギー支援への転換が必要な4つの理由」 資料PDF 28:25~[YouTube
●2020年 動き出したが、不十分な日本の脱石炭火力 29:21~
 2/18 小泉環境大臣、石炭火力輸出の見直し表明 
 2/12 自然エネルギー財団 「日本の石炭火力輸出政策5つの誤謬」発表
 4/1 環境省、石炭火力輸出ファクト検討会発足
 4/21 自然エネルギー財団 「アジアで進む脱石炭火力の動き」環境省ファクト検討会へ提出
 5/14 環境省「石炭火力輸出ファクト集」取りまとめ
 5/21 経産省「インフラ海外展開懇談会」中間取りまとめ
 7/3 梶山経産大臣、国内非効率石炭火力の削減を表明
 7/9 経協インフラ戦略会議、石炭火力”原則”輸出しない
  【インフラ輸出戦略】「我が国が相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や脱炭素化に向けた方針を知悉(ちしつ)していない国に対しては、政府としての支援を行わないことを原則とする」➡現在進行中のプロジェクトや”高効率”と位置付ける石炭火力の輸出は継続
 7/9 自然エネルギー財団 「石炭火力輸出の完全な中止と自然エネルギー支援への転換を」公表
 [7/22「石炭火力輸出の中止と自然エネルギー支援への転換が必要な4つの理由」(自然エネルギー財団)] 7月22日
 JCIwebinar20200728_02
石炭火力輸出の完全な中止と自然エネルギービジネスへの転換が必要な4つの理由 31:34~
1 「日本の石炭火力発電効率は世界でトップ」という主張は、もはや通用しない
  ■ 経産省報告書、環境省検討会への電力会社提出資料でも、石炭火力輸出政策の最大の根拠だった「日本の石炭火力発電効率は世界でトップ」という主張が、もはや通用しないことが明確に。
  ■ 鈴木外務副大臣は「日本が生産をしている1段再熱のUSCよりも、中国のみで生産できている2段再熱のUSCのほうが効率がよく、費用的にも日本のものに比べて高くはないという記述がある。もし、この記述が本当だとすれば、日本の技術が優れているという輸出の前提が変わってしまう」との見解を表明(環境省検討会第3回発言)
2 「石炭火力と脱炭素化の両立」の非現実性
  ■ 経産省報告書が提唱するIGCC、CCSなどの「脱炭素化」技術は、削減効果が小さく、高コスト、技術も未確立。事業者自身の資料によっても、現在の輸出プロジェクトに利用できるものではないことが明らか。
3 東南アジアには自然エネルギー開発、送電網整備など大きなビジネスチャンスが存在
  ■ 東南アジアには、電力需要を満たすために十分以上の大きな自然エネルギーポテンシャルがある。
  ■ 太陽光などの発電コストは急速に低下し、石炭火力に対して価格競争力を有するようになっている。
  ■ 既にインドシナ半島には国際送電網が存在。島しょ部でも建設・計画が進む。その促進こそインフラ輸出のビジネス機会。
4 多くの企業・金融機関が既に石炭から自然エネビジネスへの転換を進めている
 JCIwebinar20200728_03
●1 競争力を失った日本の石炭火力プロジェクト 32:16~

●2 「石炭火力と脱炭素化の両立」の非現実性①IGCC 33:59~

●2 「石炭火力と脱炭素化の両立」の非現実性②CCS 36:16~

●3 東南アジアの自然エネルギービジネスの大きな可能性 太陽光・風力のコスト低下 38:25~
 JCIwebinar20200728_07

●3 東南アジアの自然エネルギービジネスの大きな可能性①開発ポテンシャル 40:27~

●3 東南アジアの持続可能な未来 ■東南アジアの未来3つのシナリオ:日本はどの未来を支援するのか 41:50~
 •「世界エネルギー見通し2019(WEO2019)」は、東南アジアの「現状政策(CPS)」、「公表政策(SPS)」、「持続可能政策(SDS)」の3つのシナリオを描く。
 •石炭火力発電量は、現在より現状政策で3倍、公表政策でも2倍になる。
 •公表政策でも、2040年までの設備容量の増加は、自然エネルギー電源が石炭火力の2倍程度。しかし、このシナリオでも、エネルギー起源CO2は、60%増加する。
 •日本が、世界の気候変動対策に貢献するためには、パリ協定に整合する持続可能政策に沿った電源開発を支援すべき。
 JCIwebinar20200728_09

●4 多くの企業・金融機関が既に石炭から自然エネビジネスへの転換を進めている 43:15
 ■環境省検討会に提出された各企業の資料からは、金融機関、商社は脱石炭の方向に舵を切っており、電力会社も、石炭火力の必要性は言いつつ東南アジアでは新規開発を予定していないことが明らかになった。
 ■ごく一部の企業以外、日本のビジネスは脱炭素への選択を行っている。

石炭火力輸出の中止と自然エネルギー支援への転換が必要な理由まとめ 45:15~46:25
1. 日本政府はパリ協定にコミットしており、「世界の脱炭素化を牽引するとの決意の下、高い志と脱炭素化のための取組を積極的に推進していく姿勢を力強く内外に示」すとしています(パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略)。
したがって、政府のインフラ輸出戦略もパリ協定の実現に向けた戦略と整合的であることが必要です。
2. 経産省報告書は、IEAの公表政策シナリオに依拠して「2040年には、化石燃料発電の割合は相対的に減少するが、例えばアジア太平洋地域では依然5割を占めることが見込まれ」るとし、これを石炭火力支援を継続する理由としています。
しかし、公表政策シナリオでは、2040年の東南アジアのエネルギー起源CO2排出量は2018年より60%も増加してしまい、パリ協定の目標と整合しません。公表政策シナリオを前提として日本のインフラ輸出戦略を決めるのでは、パリ協定に対する政府のコミットメントと矛盾してしまいます。
3. 石炭火力輸出を合理化する最大の根拠であった「日本の石炭火力発電効率は世界でトップ」という主張が根拠を失う一方で、東南アジアにおける自然エネルギー開発、送電網整備には、大きなビジネスチャンスが存在しています。
4. 環境省検討会においても、経産省報告書においても、多くの日本企業が自然エネルギー拡大とその関連ビジネスに積極的に乗り出していることが示されています。
5. 世界の気候変動対策に貢献するためにも、日本のビジネス展開の促進のためにも、「インフラ輸出戦略」を見直し、石炭火力輸出政策を完全に中止し、自然エネルギービジネス支援に転換すべき時です。
 JCIwebinar20200728_11
 
 


JCIウェビナー「石炭火力を考える」講演①(平田仁子) 8月4日

JCIウェビナー「石炭火力を考える」(7月28日)の講演①「国内の石炭火力フェーズアウトの必要性」 (平田仁子 気候ネットワーク国際ディレクター/CAN Japan 代表)です。資料スライドと、YOUTUBEでの開始時間を入れておきます。

講演1 平田仁子「国内の石炭火力フェーズアウトの必要性」 資料PDF  8:37~[YouTube
●気候危機の回避に求められること パリ協定との整合性(1) 2050年ネットゼロ 9:18~ 9:39~
 JCIwebinar20200728国内_02
●気候危機の回避に求められること パリ協定との整合性(2) 石炭火力の利用抑制 9:35~ 9:38~ 10:38~
 JCIwebinar20200728国内_03
●これからの経済再生策が決定的に重要 9:36~ 12:27~
 JCIwebinar20200728国内_04
●発電電力量の推移 13:42~
 
●2012年以降の石炭火力発電所の新増設 多数の石炭火力発電所が建設・運転開始している 14:38~

●廃止計画を持たない日本 石炭火力の発電容量が急増している 16:01~

●日本の石炭火力発電に関する対策・政策はG7で最低ランキング 16:29~

●[化石賞] 17:35~
 JCIwebinar20200728国内_09
●国の石炭火力政策① ー東日本大震災後 18:28~
  石炭火力発電の開発へのゴーサイン
 JCIwebinar20200728国内_10
●国の石炭火力政策② 19:28~
  エネルギー基本計画での位置付けと、それとの整合を図る施策
 JCIwebinar20200728国内_11
●電気事業者の供給計画とりまとめ 20:48~
  2029年に石炭火力37%にまで増えてしまう
 JCIwebinar20200728国内_12
●経済産業省 石炭火力の抑制:非効率石炭休廃止(100基・9割) 21:38~
 JCIwebinar20200728国内_13
●“非効率石炭火力の9割(100基)休廃止”の意味 22:15~
  古いものは閉じるが、新しいものは今後も延命方針
  基数で9割・100基は大きく思えるが設備容量ではわずか2まる割減
 JCIwebinar20200728国内_14
●Climate Action 2019 23:21~
 各国の行動を引き上げを要請
 ●国連気候行動サミット2019(UN Climate Action Summit 2019)

●目標を立て毎年計画的に削減 23:51~
 「2030年石炭火力フェーズアウト」の道筋が不可欠

●「2030年石炭火力フェーズアウト」の実現に向けた市民・NGOの動き 24:36~

今、求められること ー政策 25:13~
 • 2030年目標(エネルギーミックス)の見直し
   • 「2050年CO2ネットゼロ」とともに石炭火力全廃を目標として掲げ、パリ協定との整合性を図ること
 • ロードマップ策定と政策対応
   • 既存発電の全廃への道筋を策定すること
   • 新規計画の中止
 • エネルギー転換を進める政策を経済再生の軸に
   • カーボン・プライシング(経済的手法)
   • 再生可能エネルギー大幅拡大策(優先再生可能エネルギー大幅拡大策(優先給電・系統強化・市場設計))
 JCIwebinar20200728国内_18
日本に求められることー需要側 26:19~27:55
 • パリ協定の目標と整合させるビジョン・戦略と計画策定
    • TCFDの勧告に沿ったリスク把握とシナリオ分析
 • 電力の脱炭素化の行動実践
    • 目標設定
    • イニシアティブ参加・コミットメント
    • 電力購入基準設定
    • 再エネ導入・自家消費
 • 政策・社会への波及への貢献
    • 取り組み共有
    • 対話
    • 支援
    • 政策要請
 JCIwebinar20200728国内_19

   

IGES気候変動統合チーム「ネット・ゼロという世界 -2050年 日本(試案)」定量的データで描き出す脱炭素社会の姿[公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)サイト 20200604
本報告書は、日本において、どのようにネット・ゼロ社会の実現を図るのかということについて、問題提起を行うことをねらいとしている。第1章では、目標年として2050年を掲げ、ネット・ゼロ社会におけるエネルギー需要の動向を中心に定量的な分析を試みた。その結果、広範な社会変化を伴いながらネット・ゼロ社会を実現していくトランジションシナリオでは、ネット・ゼロの達成時には、CO2貯留に関するリスクの低減、及び化石燃料依存脱却によるエネルギー・セキュリティー向上に大きく貢献することが示された。第2章では、トランジションシナリオにおける社会全体の変化を都市と地域、暮らし、産業、適応という観点から展望した。第3章では、ネット・ゼロ社会に向けた主要な課題や論点を概観した。

TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)[環境省サイト]

JCIウェビナー「石炭火力を考える」 8月3日

気候変動イニシアティブ(Japan Climate Initiative: JCI)は7月28日、「石炭火力を考える」をテーマに、ウェビナー(オンラインセミナー)を開催しました。ウェビナーでは2本の講演(国内・国外の石炭火力の動向について)とディスカッション、質疑応答が行われました。zoomウェビナーとYouTubeでライブ配信で600名が参加したそうです。
日本は、CO2排出量の大きい石炭火力発電について、国内での新増設を進めるとともに、東南アジアなどの海外への輸出を支援し続けており、国際的にも大きな批判が寄せられてきました。
7月3日、梶山経済産業大臣は、国内の「非効率な石炭火力発電を2030年までにフェードアウトする」という方針を公表しました。しかしこれは、「高効率」と称する石炭火力を、2030年時点で30GW以上も温存するものだという批判が寄せられています。
また、石炭火力の輸出については、7月9日に政府が発表した新たなインフラ輸出戦略の中で、「支援しないことを原則とする」と定められました。しかし、支援の要件は厳格化された一方で、進行中プロジェクトの支援は継続されるとともに、いまだ新規の輸出を可能とする含みは残されています。
  プログラム  
  1.開会あいさつ(気候変動イニシアティブ(JCI)代表末吉竹二郎)
  2.講演1「国内の石炭火力フェーズアウトの必要性」(平田仁子)
  3.講演2「石炭火力輸出の中止と自然エネルギー支援への転換が必要な4つの理由」(滝澤元)
  4.パネルディスカッション(高村ゆかり・平田仁子・大野輝之)
  5.質疑応答(zoomのQ&A機能を利用)
  司会:田中健(WWFジャパン 気候・エネルギーグループ)

  YOUTUBE(1:40:54)
      


『週刊東洋経済』特集・脱炭素待ったなし 8月1日

『週刊東洋経済』(8月1日号)は「脱炭素待ったなし」の特集です。
  200802_2130_005
地球温暖化の影響から自然災害が深刻化しています。そこに新型コロナウイルスが直撃。人々の移動が止まり石油需要が低迷し、多くのエネルギー企業が危機に瀕しています。
その一方で再生可能エネルギーシフトが世界主要国における経済復興政策の中心として浮上。日本でも非効率石炭火力発電所の停止など、踏み込んだ政策が動き出しました。
「脱炭素」に向けた規制はどこまで進んだのか。これから、どこまで強化されるのか。企業が意思決定を行ううえで不可欠な情報を盛り込んだ特集をお届けします。
200802_2130_004
特集:脱炭素 待ったなし目次
Part1 石油の終焉
 世界で相次ぐ巨額損失と破綻 石油・ガス企業の瀬戸際
 「技術覇権争いで 日本は存在感保て」
    日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員小山堅
 「エネルギー問題の世界的権威が警鐘 創造的破壊に備えよ」
    IHSマークイット副会長ダニエル・ヤーギン
 コロナ禍と原油価格急落で経済が苦境に 不安定化する産油国政治
 独仏はEV購入に100万円以上補助 政策頼みのEVシフト
Part2  脱炭素化への奮闘
 重い腰を上げた日本政府 「非効率石炭」退場の衝撃
 img-200731205016-0005
 
 img-200731205016-0007img-200731205222-0001
 グリーンリカバリーに向け世界が動く コロナ禍を脱炭素で克服
 不況対策に内燃機関車への補助金はない ドイツ人の強い環境意識
 再エネ大量導入や森林破壊ゼロへ動き出す 日本企業・ESGの本気度
 イオン、セブンーイレブンの挑戦 再エネ店舗は普及するか
 ヤマト運輸 独社製のEVを首都圏で約100台稼働
 「発電コストが下がれば “電気使い放題”も」
    丸紅 電力・インフラグループCEO横田善明
 CO2大量排出産業の宿命 鉄鋼が挑む脱炭素の壁
Part3  前進する再エネ
 ついに日本も導入目標を策定 動き始めた洋上風力
 「日本政府の目標設定に期待」
    MHIヴェスタス アジア太平洋地域リージョナルマネジャー山田正人
 脱炭素の切り札となりうるか 水素とアンモニアに脚光
 欧州が野心的な水素戦略に着手した 日本の30倍の導入目標を掲げ投資を促す
 「現実味乏しい電源構成 実態に即した見直しを」
    国際大学大学院教授橘川武郎
 強靱で環境性に優れたエネルギー 東電と東ガスが真っ向勝負
 「水力と洋上風力を柱に 数兆円の投資を実施へ」
    東京電力リニューアブルパワー社長文挾誠一
 「日本企業も脱炭素に本腰 電力に投資呼び込む必要」
    日本経済団体連合会会長中西宏明



この間の石炭火力の削減方針評価③(7月24~30日) 7月30日

6月13日にeシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)が発表したリーフレット『STOP! 原発・石炭火力を温存する新たな電力市場』の7月22日版が公開されています。「容量市場」、「非化石価値取引市場」、「ベースロード市場」など新たな電力市場制度が大手電力に有利で石炭火力を温存する所以を明らかにしていますが、別記事で扱います。。
  

太陽光発電に負ける石炭火力(文谷数重)
  (Japan In-depth 2020.07.24)
  ・経産省による石炭火力の整理は太陽光にコストで敗北した結果である。
  ・石炭火力は十余年でなくなる。ガス火力も原発もなくなる。
  ・発電関連業界は今後様相を一変する。
経済産業大臣が石炭火力発電の見直しを発表した。3日の記者会見で脱炭素社会の実現を目指すため石炭火力は2030年に向けてフェードアウトさせる旨を明言した。だが、同時に石炭火力を残存させたい希望もにじませている。まず「非効率石炭[火力発電]の早期退出」とフェードアウトの対象を限定している。そして質疑では「高効率の石炭火発」や「償却が終わりに近づいているとか終わったプラント」を残したい本音を示唆している。石炭火力は将来どの程度残るのだろうか?まずは残らない。なぜなら石炭火力の縮小決定はコスト敗北の結果だからだ。それからすれば石炭火力は遠くないうちに絶滅するのである。
  ■フェードアウトはコスト敗北の結果
   文谷1
    ①は新設火力と新設太陽光のコスト逆転(2016年)
    ②は減価償却が完了した既存火力と新設太陽光の逆転(2024年)
    ③は新設火力と再エネ+蓄電池の逆転(2026年)
    ④は既存火力と再エネ+蓄電池の逆転(2026年)

  ■石炭火力はなくなる
  ■原発も天然ガス火力もなくなる
  ■電力関連業界は一変する

  旧式だが高収益の石炭火力発電に不適格の烙印
  (東洋経済ONLINE 2020.07.27 5:50)
原子力発電所の再稼働が遅れている現在、石炭火力発電が生み出す発電量は全体の32%を占めている(2018年度実績)。今回やり玉に挙げられた旧式の石炭火力は、その約半分を占める重要な電源だ。
環境性能では劣る反面、設備が簡素であるためメンテナンスが容易で、減価償却が進んでいることもあり、「競争力では非常に優位にあった」(JERA(ジェラ)の奥田久栄常務執行役員)。つまり電力会社にとっては「非効率」ではなくむしろ「高収益」の設備だった。
それだけに、電力各社への衝撃は大きい。虎の子の資産に対して経産省から環境性能の面で“不適格”の烙印が押されたからだ。方針発表後、電力各社には投資家からの問い合わせが相次いだ。
日本ではこれまでエネルギーの制約から脱炭素化は絵空事と見なされてきた。それが今や企業のビジョンや成長戦略の柱として語られるようになってきた。日本経済団体連合会が音頭を取る形で、脱炭素化を目指す企業連合の「チャレンジ・ゼロ」が動き出したのも危機感の表れだ。脱炭素化の潮流を理解し、自らを変革できた企業だけが生き残る。[記事末結論]
  特例措置がなければ追い込まれる電力会社も
  旧式石炭火力のフェードアウト方針は2年前に決定
  温暖化対策で、はるか先を行く欧州
世界に目を転じると、日本とは違った光景が広がる。先端を走るのは欧州連合(EU)だ。エネルギー面での取り組みや、環境などに配慮したESG(環境・社会・企業統治)投資の状況を比較すると、日本より欧州のほうがはるかに踏み込んで対応していることがわかる。
2015年9月の国連SDGs(持続可能な開発目標)と、同12月の地球温暖化対策のためのパリ協定採択をきっかけに、欧州委員会は「サステイナブル金融に関するハイレベル専門家グループ」(HLEG)を設立。2018年1月のHLEG最終報告書において「タクソノミー」の導入が提言された。
タクソノミーとは、一般に「分類」を意味する。ここでは地球温暖化対策を進めるうえでの投資対象として、各産業分野における技術や製品の適格性を分類する。
今年3月にまとめられた「サステイナブル金融に関するテクニカル専門家グループ」(TEG)の最終報告書によれば、環境に優しいとされる「グリーン」に分類された投資対象に石炭火力発電は含まれていない。
  欧州委員会が明らかにした「水素戦略」

自然エネルギーが世界で急拡大、日本は後進国に 飯田哲也さんに聞く(吉田昭一郎)
  (西日本新聞 2020/7/28 11:30 更新:2020/7/29 16:18 更新)
  ●「太陽光と風力が世界のエネルギーの中心に」
  ●石炭火力を下回る発電コスト
  ●送電線接続ルール、再生エネ普及を妨げ
 飯田さんによると、日本では石炭火力発電の原価は1キロワット時当たり4円~8円程度。これに対し、最新型の太陽光は10円を切るところまで来ている。日本の再生エネが比較的高いのは、初期の高い固定単価で稼働する太陽光がまだ残っていることと、大手電力会社が新規の再生エネ事業者に求める高額な送電線接続負担金の影響もあるという。
 飯田さんたちは「日本と再生」で、再生エネの発展を妨げる壁として、その接続負担金とともに、大手電力会社の送電線運用の問題を指摘した。
 「電力会社は系統の全発電所が最大限発電していると想定して送電線の空き容量を計算するので、実際には送電線にほとんど電気が流れていないのに『空き容量はゼロ』として事実上、新規事業者を締め出し自然エネルギーの普及を妨げています。しかも送電線の使用は先着優先としており、自分のところの原発や石炭火力などの電気を優先して流す。電力量が多すぎると、『出力抑制』と称して自然エネの電気から排除して買い取らず、その補償もしない。そうした不明朗、不公正な運用を見直して、FIT(固定価格買い取り制度)法の本来の目的『自然エネの優先接続・優先給電』を実現しないと、日本の遅れは取り戻せません」
  ●送配電の分離、完全独立こそ1丁目1番地
 欧州など各国が脱炭素化へ本腰を入れる中、石炭火力になお依存し新増設計画も抱える日本への海外の批判は厳しさを増す。政府は今月3日、CO2排出量が多い旧型の石炭火力発電所114基のうち100基程度を30年までに休廃止させる方針を発表。新型の石炭火力は残し、新増設も認めるとした。
 これに対し、飯田さんは「ある意味で、フェイクまがい」と厳しい。「『114基のうち100基程度の廃止』とは大胆な決定に聞こえますが、『やっているフリ』ではないか。旧型の石炭火力は小型が多く、建設・計画中の大型石炭火力を加えれば正味の電力量は基数ほどには大きく減らず、国のエネルギー基本計画を維持したまま、2030年の化石燃料の電源構成比率56%を温存するわけですから」
 政府は同時に、再生エネ推進を掲げ送電線への優先接続など、今のルールの見直しも進めるとしている。飯田さんの提案はこうだ。
 「1丁目1番地は大手電力会社の発電と送電の分離をきちんと実行すること。電力各社は今春、法改正に伴い分社化していますが、送電会社を子会社にしたり持ち株会社の傘下に入れたりしただけ。それでは、送電会社は親会社や持ち株会社の利害に沿って送電線を運用してしまい、中立・独立からはほど遠い」
 「各地の送電会社を資本面で完全に独立させたら国内一つの公益会社に統合。北欧の国際電力市場『ノルドプール』など欧州の先進地の人材を招いて、自然エネルギーの優先接続・優先給電原則のもとで電力市場を一から設計し直し、最新のソフトウエアを導入する。そこまで踏み込まないと、送電網の運用も含めて市場運営上の透明性、公平性が担保できず、自然エネルギーは広く普及できないと思います」
石炭火力見直し エネルギー戦略、原発も逃げず議論を(松尾博文)
  (日経電子版 Nikkei Views 2020.07.29 2:00)
エネルギー政策の長期指針となる「エネルギー基本計画」は、30年度に実現する3つの政策目標を掲げる。(1)欧米に遜色ない温暖化ガス削減を実現する(2)電力コストを現状より引き下げる(3)エネルギー自給率を東日本大震災前を上回る25%程度に引き上げる――だ。
エネルギー指標を国際比較すると、日本が気候変動の対応以上に劣後する2つの数字がある。自給率と電気料金の水準だ。17年の自給率は9.6%と、経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国中(17年時点)で34位だ。東日本大震災以降、最下位のルクセンブルクに次いで下から2番目が定位置になっている。米国93%、英国68%、フランス53%、ドイツ37%などと比べて、日本は主要国の中で際だって低い。
経産省によれば、17年度の電気料金は震災前と比べて家庭用で16%、産業用で21%高い。産業用で38%高となった14年のピークから下がったとはいえ、高止まりが続く。国際エネルギー機関(IEA)によれば、16年の発電コストは米国や東南アジアの2倍、欧州連合(EU)の1.5倍だ。
低い自給率は国家安全保障の、割高な電気料金は国際競争力の観点から放置できない。エネルギーを1割も自国でまかなえず、電気料金が2倍の国に誰が投資しようとするだろうか。温暖化問題に隠れがちだが、日本は深刻な弱点を抱える。
低い自給率は化石燃料への依存度が高いことに起因する。電源の約8割を占める、石炭や液化天然ガス(LNG)、石油はほぼすべて輸入に頼る。戦前、戦後を通じて日本がエネルギー安保の呪縛に捕らわれてきた理由はここにある。自給率引き上げへ、国産エネルギーである再生エネの拡大に注力することは正しい。
ただし、石炭が担ってきたエネルギー供給の役割を、すぐに再生エネで代替できると考えるのは早計だ。日本では再生エネのコストは地理的な条件や送電網の制約などから、まだ石炭火力より高い。時間や天候で変動する再生エネの供給を平準化する技術の定着には投資と時間が必要だ。
原発は温暖化ガスを出さない脱炭素の有力手段であり、国産エネルギーに位置付けられる。安全対策費用が一定に収まる限り、既存原発を再稼働できれば化石燃料よりも発電コストは安い。エネルギー基本計画で掲げる3つの政策目標の達成には原発が必要なのだ。
しかし、様々な世論調査では、福島第1原発事故から9年が経過しても原発への不信感は根強く、必要だとする回答はむしろ下がっている。エネルギー政策の大前提である安全問題を克服できていない。
原発比率20~22%の実現には30基程度の原発が必要だが、再稼働は9基にとどまる。政府は50年に温暖化ガス排出の8割削減の目標も掲げる。この実現には、ほぼすべての火力発電が現状の形では使えない。
原発の運転を40年ですべて停止した場合、49年に国内の原発はゼロになる。運転期間を60年に延長しても50年代には数基となり、69年にはゼロになる。こうなることは早くからわかっていたはずだが、国は議論の先送りを続けてきた。
国民の不信感が強い状況で、原発に触れないのはある意味、政治の当然の選択でもある。しかし、エネルギーをめぐる環境変化は速度を上げる。これ以上、時間を空費するわけにいかない。原発を日本のエネルギー戦略にどう位置付けるのか。新増設をどうするのか。そのために国民の理解をどう得るのか。得られなければどうするのか。この議論から逃げない胆力が問われる。
小泉進次郎氏が異例のテレビ出演 石炭火力輸出厳格化に「前代未聞だ」
  (SankeiBiz 2020.07.30 01:29)
 小泉進次郎環境相は29日夜、BSフジ番組に出演した。自身が主導した石炭火力発電の輸出支援の要件厳格化について「凍り付いたエネルギー政策が解凍され始めた。(政府方針に)『(輸出)支援しないことを原則とする』と書いたのは前代未聞だ」と述べた。小泉氏のテレビ出演は、選挙番組をのぞけば極めて異例だ。
 小泉氏は、政府が石炭火力の削減に取り組む一方で、地元の神奈川県横須賀市で石炭火力発電所の新設が進められていることに関して「批判はあるが、地元のことをやめれば済むのではない。日本全体を動かす政策の変化につなげられるかに力を入れている」と強調した。
 原子力発電の推進の是非は「脱炭素社会をつくるカギは原発と国際社会で認識は共有されている。ただ、日本は原発事故を起こした。そのリスクを国民とどう議論するかだ」と言葉を濁した。
 首相への意欲を問われると、「首相が決めればできることはいっぱいある」と述べつつも「就けるかどうかは別だ。首相になるにはこの人を支えたいという仲間がいなければならない」と述べた。
  (BSフジLIVE「プライムニュース」7月29日放送 2020.07.31 19:30)


石炭火力の削減方針評価②(7月15~20日) 7月29日

7月25日に掲載した「石炭火力削減方針評価①(7月4~9日)」に続く、その後の通産省、環境省、電力業界の対応、その評価について触れているネット記事です。

電気事業の地球温暖化対策、「30年度目標達成に向けた道筋が不明瞭」と評価
  (環境ビジネスオンライン 2020.07.15)
 環境省は7月14日、2019年度の電気事業分野における地球温暖化対策について、電力業界の自主的枠組みと政府の政策的対応の2つの柱で、進捗状況を評価した結果を発表した。
 この評価レポートでは、電力業界の自主的枠組みと政府の政策的対応の全体として、「一定の改善・進捗もあり、評価に値する一方で、今なお多くの課題が残存している」と指摘し、「電気事業分野における2030年度の目標達成に向けた道筋は不明瞭であり、早急に示す必要がある」とした。
  ●経済産業省との合意に基づき評価を実施
  ●現状で2030年度のCO2削減目標達成は困難
  【参考】電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価結果について(環境省)

【単刀直言】小泉進次郎環境相 環境先進国・日本の逆襲始まる(奥原慎平)
  (産経新聞 2020.7.15 21:13)

電力各社の脱石炭、市場が見つめる切り替えコスト(森国司)
  (日本経済新聞電子版 2020.07.17 2:00)

アングル:既定路線の「脱石炭火力」、温暖化対応へ さらなる切り込み必要(清水律子)
  (Reuters 2020.07.17 18:37)
  <輸出支援、「しない」のか「厳格化」か
  <世界への貢献
  <100基廃止でも残る石炭火力
 一方、国内では、140基ある石炭火力発電のうち、発電効率が低い114基の発電を「できる限りゼロに近づけていく」という方針を打ち出した。全発電量に占める石炭火力は2018年度で32%。内訳は、高効率26基で13%、非効率の114基で16%、化学メーカーや鉄鋼メーカーなどの自家発電分が3%となっている。
 この比率からわかる通り、旧型の非効率な石炭火力は小型なものが多く、今後新設される高効率の最新の石炭火力は大型なものが多い。「140基中100基が休廃止」という数字の印象と実態とは異なる。地球環境戦略研究機関(IGES)は「2030年時点では50基の石炭火力が残る」とし、設備容量で見た場合「今回の方針による削減は3割程度」と推計している。
 CO2排出についても「高効率な石炭火力でも、CO2排出量は、非効率なものより数%しか減らない」(自然エネルギー財団)と指摘。今回、高効率なものを日本が継続するという姿勢を示したことに懸念を示している。
 一方、東京電力グループと中部電力が出資するJERAの小野田聡社長は「事業の予見性が高まる」と評価するとともに、日本が資源の少ない国であることを考えると、経済、環境、安定供給をバランスしたものが必要だとし「そのなかで石炭火力は一定程度の役割をもつ」との認識を示している。
 梶山経産相も、非効率な石炭火力のフェードアウト方針は、2018年に決めたエネルギー基本計画で示した2030年度の石炭火力比率26%の達成を確実にするためとしており、さらなる石炭火力発電の比率引き下げを意味するものではないと説明している。
  <原発の再稼働困難、さらなる対応は

石炭火力の輸出 「抜け穴」をふさがねば 
  (中日新聞 2020.0718 05.00 (05:01更新)
 石炭火力大国日本。国際社会の批判が高まる中で、ようやく古い発電所の休廃止にかじを切る。だが、新設や途上国への輸出は、続けていくという。温暖化対策の「抜け穴」が、大き過ぎないか。
 日本政府は、主要七カ国(G7)の中で唯一、国際協力銀行(JBIC)の低利融資や政府開発援助(ODA)などにより、途上国に対する石炭火力発電所の輸出支援を続けている。
 国際エネルギー機関(IEA)によると、石炭火力は世界の発電・熱供給部門の二酸化炭素(CO2)排出量の約七割を占めており、国際社会から、地球温暖化の元凶と見なされている。
 温暖化対策の新たな国際ルールであるパリ協定は、温暖化による破局的な影響を回避するために、産業革命前からの世界の平均気温上昇を1.5度に抑えるよう求めている。
 そのためには、2050年にはCO2排出量を実質ゼロにしなければならず、国連のグテレス事務総長は昨年来、「20年以降は、石炭火力の新設は禁止すべきだ。さもなくば大災害に直面する」と訴えている。“凶暴化”する豪雨の被害にあえぐ日本にとっても、身に迫る指摘であるはずだ。
 欧米の国々や自治体、温暖化の影響が深刻な小島しょ国などが「脱石炭国際連盟」を結成して石炭火力の全廃に向かう中、コロナ禍が「脱炭素」に拍車をかけた。
 経済活動が停滞し、電力需要が減少したのをきっかけに、化石燃料から再生可能エネルギーへ電源の転換を図る企業が増えている。
 しかるに日本は、国内にある低効率の旧型火力を段階的に廃止する一方で、CO2排出をある程度抑えた新型火力の新設は続けていくという。
 輸出支援は環境性能の高いものに限るなど、要件を厳格化するとは言うものの「禁止」には踏み込まない方針だ。
 だが最新鋭の設備といえども、CO2の排出量は天然ガスの二倍に上り、温室効果ガスの大量排出源であることに変わりはない。
 新設の発電所を四十年稼働させるとすれば、その間はCO2を出し続けることになる。パリ協定の要請に見合わない。
 CO2の回収貯留や再利用の設備を併設すれば、そこに膨大なエネルギーと費用がかかる。
 国内では「全廃へ」、輸出は「禁止」。再生可能エネルギーへの切り替えを加速させないと、世界の理解は到底得られない。

インタヴュー:「石炭火力休廃止」宣言の真意、エネルギー専門家の橘川氏が読む(中山玲子)
  (日経ビジネス 2020.07.20)
経済産業省は7月3日、二酸化炭素(CO2)の排出量が多い低効率な石炭火力発電所の休廃止を進めると表明した。13日には削減に向けた制度設計の議論を始めた。背景には何があったのか、石炭火力の休廃止は今後、国のエネルギー政策にどのように影響していくのか。エネルギー産業論を専門にする国際大学国際経営学研究科の橘川武郎教授に聞いた。
-梶山弘志経済産業相が、二酸化炭素(CO2)を多く排出する低効率な石炭火力発電所の休廃止を進めると表明しました。
橘川武郎氏(以下、橘川氏):石炭火力をフェードアウトするという部分が注目されていますが、同時に、高効率の石炭火力については続けていくということを経産省が宣言したとも言えます。私はむしろ、高効率の石炭火力維持が本質ではないかとみています。……
-多くの人が「経産省が石炭火力をやめる方向に舵(かじ)を切った」とみているのではないかと思います。
橘川氏:効率の悪い石炭火力を休廃止して高効率なものに変えていくという方針を、経産省は2018年に出した第5次エネルギー基本計画でも示してきました。今回もその通りのことを言ったにすぎない。政策転換とは言えないでしょう。
  ●原子力のポジションが後退
-再稼働が進まない原発は新設や増設も停滞しています。国が示した30年度の電源構成では原子力を20~22%としていますが、実現は難しそうです。
橘川氏:私は総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の基本政策分科会の委員を務めていますが、7月頭にあった会合では、以前に比べて原子力のポジションが非常に後退しているような印象を受けました。……
-原子力のポジションが後退したのはなぜでしょうか。
橘川氏:打開策を見いだせず、手の打ちようがないのでしょう。原子力政策は国策民営です。これまで政府は、まず電力会社が手を挙げて、その後に国が支援、応援するという形を取ってきました。福島第1原発事故の例が分かりやすいのですが、福島を訪問して謝罪したのは東京電力で、その支援に回ったのが国でした。……
 同じベースロード電源という位置付けの中、石炭火力を減らすことと原子力を増やすことはセットの議論になってきました。ところが、今回は石炭火力だけの議論になっている。そこには、高効率の石炭火力だけでも守らなければならないという考えがあるように思います。
  ●地方の電力会社への影響大きい
-とはいえ、多くの電力会社が低効率な石炭火力発電所を持っています。大きな影響が出るのではないでしょうか。
橘川氏:電力会社を十把ひとからげにしないことが大切です。保有する石炭火力の種類とその電力会社の組み合わせをよく見ると、大きい電力会社ほど影響はありません。……
 影響が大きいのが、低効率の石炭火力が多い東北電力や中国電力、北陸電力といった地方の電力会社です。原発再稼働ができない中で、古い石炭火力に頼らざるを得ない状況なのです。これらの電力会社が持つ石炭火力が休廃止の対象になると、経営にも影響してくるでしょう。
-日本の石炭火力に対する海外からの批判は、これで少しは落ち着くでしょうか。
橘川氏:世界から見れば、「高効率のUSCといえども、石炭火力はまだ残っているではないか」という厳しい評価になると思います。また日本に「化石賞」が贈られるかもしれません。……
 だから、今回もそんなに簡単にすべての石炭火力をフェードアウトすることなんてできない。……。
 海外に目を向ければ、フランスや英国は石炭火力を止める方針ですが、原子力は推進します。ドイツも石炭火力をやめる方向ですが、2038年とまだ先の話です。世界の大国で、原子力も石炭火力もやらないと言っている国はほとんどありません。……

環境省19年度電力レビュー発表(7月14日) 7月28日

 環境省は7月14日、2019年度の電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状態について、電力業界の自主的枠組みと政府の政策的対応の2つの柱で評価した結果(「電力レビュー」)を発表した。
 2016年2月、環境大臣・経済産業大臣は、電気事業分野の温暖化対策における2030年度のCO2排出係数を0.37kgCO2/kWhとする目標達成に向けて、①目標達成に向けた電力業界(電気事業低炭素社会協議会)による自主的枠組み(取組みのPDCA 等)に対し、引き続き実効性・透明性の向上等を促していく、②政府による政策的対応として、省エネ法やエネルギー供給構造高度化法等に基づく基準の設定や運用の強化等により、電力業界全体の取組の実効性を確保する、③これらの目標達成に向けた取組については、毎年度、進捗状況を評価する。目標が達成できないと判断される場合には、施策の見直し等について検討することを合意し、環境省は毎年度、この合意に基づく取組の進捗状況の評価を実施して来ている
------------------------------------------------------------
電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価結果について(評価結果の総括)(環境省 2020.07.14)
1.評価の背景及び目的

2.電気事業分野における現状分析と今後の方向性
電気事業を取り巻く情勢
電気事業分野の低炭素化・脱炭素化に向けて
○電気事業分野における 2030 年度目標や上記政府方針の達成に向けた進捗については、以下の点が注目される。
・現在の石炭火力発電の新増設計画が全て実行され、ベースロード電源として運用されると、仮に既存の老朽石炭火力発電が順次廃止されたとしても、2030年度の削減目標やエネルギーミックスに整合する石炭火力発電からのCO2排出量を約5,000万トン超過する可能性がある。現時点でこそ、電気事業分野全体のCO2排出係数は改善傾向にあるものの、環境省の試算によれば、2030 年度の目標達成は困難であり、パリ協定で掲げる脱炭素社会の実現も視野に入れ、更なる取組の強化が不可欠である。中長期的な脱炭素化に向けて、脱炭素社会への現実的かつ着実な移行に資する「脱炭素移行ソリューション」を目指すことが必要である。
・石炭火力発電について現状で明らかになっているところでは、新増設計画がある一方で、休廃止計画は少なく、石炭火力発電の設備容量は大きく純増する。環境省の試算では、2019年度における非効率な石炭火力発電(超臨界(SC)以下の設備)設備容量は石炭火力発電(自家発自家消費設備を除く。)の約5割、2030年度においては約4割を占める。CO2削減目標の達成に向けて、こうした非効率な石炭火力発電のフェードアウトに向けた取組を着実に進めることが必要である。今般、経済産業省から、フェードアウトに向けた新たな取組の検討に着手するとの発表があった点も踏まえ、環境省として、非効率な石炭火力のフェードアウトに向けた取組を厳しく注視してまいりたい。
・CO2排出削減をパリ協定の長期目標と整合的に実現するためには、高効率な火力発電設備についても、更なる高効率化・次世代化を進める必要がある。再生可能エネルギーによる出力変動への柔軟な対応、燃焼に伴ってCO2を排出しないエネルギーであるバイオマス・水素・アンモニア等の混焼、排出されるCO2を回収して有効利用・貯留するCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の活用など、火力発電のゼロエミッション化が重要である。これらに向けたイノベーションを総合的に後押しし、「ゼロエミッション火力」の実現可能性を追求すべきである。このような「脱炭素移行ソリューション」を通じて、脱炭素社会への現実的かつ着実な移行を目指す必要がある。
再生可能エネルギーの主力電源化は、「脱炭素移行ソリューション」の一環としても重要である。エネルギーミックスで掲げる22~24%という水準を着実に達成しなければならない。さらに、これにとどまらない一層の導入拡大が必要である。2019年4月に発足した環境省・経済産業省の連携チームによる取組等を通じ、地域の再生可能エネルギーを活用した分散型エネルギーシステムの構築等、更なる取組の加速化が求められる
・併せて、再生可能エネルギーの導入拡大に伴う系統制約の克服に向け、系統増強に加え、既存系統の最大限の活用(日本版コネクト&マネージ)の取組の一つである「ノンファーム型接続」の2021年中の全国展開に向けた着実な取組とともに、地域における再生可能エネルギーの需要に応じた系統整備・活用が進むことを期待する。
○脱炭素社会の実現に向けては、脱炭素な調整力としても活用でき、新たなエネルギーの選択肢となり得る水素や、CCUS 等の脱炭素技術等について、その商用化や社会実装の見通しを具体的に示すことが必要である。

3.電力業界の自主的枠組み及び政府の政策的対応に関する進捗状況の評価
(1)電力業界の自主的枠組みの現状について
○今般、協議会は、2030年度のCO2排出係数に係る目標の達成に向け、その取組の自主的枠組みにおいて、協議会のCO2排出係数の妥当性を定量的に評価・分析する仕組みを新たに導入した。
○これは、取組の実効性を向上させ得る努力として高く評価したい。しかし、こうした自主的枠組みも、PDCAサイクルの実効性確保の点で万全とまでは断言しがたく、目標達成への具体的な取組の道筋は今なお明らかでない。引き続き、会員事業者数の増大も含め、更なる努力に期待したい。
(2)政府の政策的対応の現状について
省エネ法関係
○省エネ法の下、発電事業者に対し、火力発電設備の効率として達成すべきベンチマーク指標が設定されており、2019年度実績では目標の水準を上回っている。
○一方、この指標の達成に向けた複数事業者の共同による取組(いわゆる共同実施)の在り方等を巡る議論については、未だ結論が得られていない
○火力発電の着実な低炭素化に向けては、ベンチマーク指標の継続的な達成が必要である。ベンチマーク指標やその達成の在り方を巡る議論の進展は引き続き注視すべきである。非効率な石炭火力発電のフェードアウトは、今なお道半ばにある
エネルギー供給構造高度化法関係
○エネルギー供給構造高度化法の下、小売電気事業者等に対し、2030年度に達成すべき非化石電源(再生可能エネルギー等)の比率の目標が設定されている。また、目標達成のための仕組みとして、非化石価値取引市場も創設・運営されている。
○この目標に関しては、2030年度に至るまでの途中の期間における中間評価の基準として、2022年度までの期間に係る定量的な基準が策定されたことは評価したい。
○一方で、今後の非化石電源比率の目標の達成状況については、非化石市場の在り方や各事業者の取組と合わせて、引き続き注視すべきである。2023年度以降の期間に係る中間評価の基準についても、より野心的な目標値の早急な策定が望ましい
(3)電力業界の自主的枠組み及び政府の政策的対応の全体について
○電力業界の自主的枠組み及び政府の政策的対応には、一定の改善・進捗もあり、評価に値する一方で、上記のとおり、今なお多くの課題が残存している。電気事業分野における2030年度の目標達成に向けた道筋は不明瞭であり、早急に示す必要がある
4.今後に向けて~コロナからの復興とこれからの地球温暖化対策~
------------------------------------------------------------
電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価結果について(参考資料集) 2020.07.14
 1.評価の背景及び目的
  (1)はじめに
  (2)電力の低炭素化・脱炭素化を巡る潮流
  (3)電気事業を取り巻く環境の変化
  (4)評価に関する基本的考え方
 2.電気事業分野の低炭素化・脱炭素化に向けて
  (1)CO₂排出量及びCO₂排出係数の状況等
  (2)火力発電の低炭素化
  (3)再生可能エネルギーの主力電源化
  (4)長期的な脱炭素社会の実現に向けたイノベーション
 3.電力業界の自主的枠組み及び政府の政策的対応に関する進捗状況の評価
  (1)電力業界の自主的枠組みの評価
  (2)政府の政策的対応等の評価
 4.今後に向けて ~コロナからの復興とこれからの地球温暖化対策~

 1.評価の背景及び目的
  (1)はじめに
   ●2018年度の日本の温室効果ガス排出量(確報値)
   ●部門別CO₂排出量(電気・熱配分前)
   ●電気事業分野における地球温暖化対策について
    電気事業温暖化対策評価資料集_1

  (2)電力の低炭素化・脱炭素化を巡る潮流
   ●パリ協定の目標
   ●2℃目標に整合する緩和経路
   ●1.5℃目標に整合する緩和経路
   ●残余カーボンバジェットについて
   ●化石燃料可採埋蔵量の座礁資産化リスク
   ●(参考)石炭火力発電の座礁資産化リスク
    電気事業温暖化対策評価資料集_2
   ●ESG金融の国際的な広がり
   ●脱炭素経営に向けた取組の広がり
   ●国内金融機関の石炭火力発電事業に対する方針
    電気事業温暖化対策評価資料集_3
   ●国内大手商社の石炭火力発電事業に対する方針
     電気事業温暖化対策評価資料集_4
   ●パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(2019年6月11日閣議決定)
     電気事業温暖化対策評価資料集_5
 
  (3)電気事業を取り巻く環境の変化
   ●電力システム改革の動向
   ●新たな市場の整備動向
   ●プッシュ型系統整備への転換
   ●災害に強い分散型電力システムの促進に向けた環境整備

  (4)評価に関する基本的考え方
   ●進捗状況の評価にあたっての基本的考え方
    電気事業温暖化対策評価資料集_6

 2.電気事業分野の低炭素化・脱炭素化に向けて
  (1)CO₂排出量及びCO₂排出係数の状況等
   ●火力発電からのCO₂排出量及びCO₂排出係数について
    電気事業温暖化対策評価資料集_7
   ●2018年度における発電設備容量・発電電力量について
    電気事業温暖化対策評価資料集_8
   ●環境省RE100を通じた再エネ導入に積極的な小売電気事業者の発信
   ●排出係数・電源構成に関する情報開示

  (2)火力発電の低炭素化
   ●石炭火力発電の設備容量とCO₂排出量について
    電気事業温暖化対策評価資料集_9
   ●(参考)石炭火力発電の稼働率について
    電気事業温暖化対策評価資料集_10
   ●非効率な石炭火力からのフェードアウトについて
    電気事業温暖化対策評価資料集_11
   ●火力発電所の新増設・休廃止計画について
    電気事業温暖化対策評価資料集_12
   ●メリットオーダーについて
    電気事業温暖化対策評価資料集_13
   ●(参考)燃料種ごとのCO₂排出係数(発電量あたりのCO₂排出量)
    電気事業温暖化対策評価資料集_14
   ●(参考)発電技術の高効率化、低炭素化の見通し
    電気事業温暖化対策評価資料集_15

  (3)再生可能エネルギーの主力電源化
   ●再生可能エネルギーの導入状況
    電気事業温暖化対策評価資料集_16
   ●地域での再エネ拡大に向けた経産省との連携チームについて
   ●地域での再エネ拡大に向けた経産省との連携チームでの取組例について
   ●既存系統の最大限の活用(日本版コネクト&マネージ)

  (4)長期的な脱炭素社会の実現に向けたイノベーション
   ●各種計画等におけるイノベーションについての記載
    電気事業温暖化対策評価資料集_17
   ●環境省におけるCCSの取組例
   ●環境省におけるCCUの取組例
   ●環境省における再エネ由来水素サプライチェーン構築に向けた取組例
   ●「地球温暖化対策に係る長期ビジョン」(電気事業低炭素社会協議会)

 3.電力業界の自主的枠組み及び政府の政策的対応に関する進捗状況の評価
  (1)電力業界の自主的枠組みの評価
   ●電気事業低炭素社会協議会について
   ●協議会におけるCO₂排出削減実績
   ●CO₂排出量・排出係数の改善要因について
   ●目標達成に向けた協議会のPDCAサイクルについて
   ●協議会会員企業のカバー率について
   ●取引所取引における電源構成の把握について

  (2)政府の政策的対応等の評価
   ●省エネ法に基づく火力発電の判断基準について
    電気事業温暖化対策評価資料集_18
   ●省エネ法に基づくベンチマーク指標の実績について
   ●エネルギー供給構造高度化法について
   ●高度化法における非化石電源比率の実績
   ●定量的な中間評価の基準について

 4.今後に向けて ~コロナからの復興とこれからの地球温暖化対策~
  ●新型コロナウイルス感染症によるエネルギー需要への影響
  ●新型コロナウイルス感染症のエネルギー需要に対する影響
   電気事業温暖化対策評価資料集_19
  ●新型コロナウイルス感染症による石炭への影響
   電気事業温暖化対策評価資料集_20
  ●新型コロナウイルス感染症によるCO₂排出量への影響
  ●電力の安定供給とクリーンエネルギーへの移行に関する示唆
  ●新型コロナウイルス感染症の我が国の電力需要への影響
  ●ゼロカーボンシティの拡大
  ●経団連による「チャレンジ・ゼロ」
------------------------------------------------------------
小泉大臣記者会見録2020.07.14 10:31~11:03 於:環境省第1会議室)   会見動画 
 2019年度の電力事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価の結果、いわゆる電力レビューを取りまとめましたので、ここに報告をしたいと思います。電力レビューは2016年2月の環境大臣と経産大臣の合意に基づいて、2030年度の削減目標やエネルギーミックスと整合する電力の排出係数0.37kg-CO2/kWhという目標の達成に向けて、電力業界の自主的取組や省エネ法や高度化法といった政策的対応が継続的に実効を上げているか進捗状況を評価するものです。それが電力レビューです。
 2019年度の電力レビューでは、各種機関が公表しているデータや分析レポートなどのファクトをベースに評価を実施して、評価結果としては、現時点では電力事業分野のCO2排出量、排出係数は改善傾向にあり、高度化法においても2020年度までの期間に係る定量的な基準が策定されるなどの一定の進展もあり、評価に値するものの、このままでは2030年度の目標達成は困難であり、脱炭素社会の実現も視野に更なる取組の強化が不可欠であると総括をしています。
 ……中長期的な脱炭素化に向けて、脱炭素社会への現実的かつ着実な移行に整合的な脱炭素移行ソリューションを目指すことが必要だと考えています。ポイントは大きく3点です。
 まず、一つ目のポイントは、再生可能エネルギーの主力電源化を一層加速化すべきということであります。2018年度の発電電力量に占める再生可能エネルギー比率は16.9%であります。再生可能エネルギーの主力電源化に向けて、エネルギーミックスで掲げる22から24%の着実な達成と、それにとどまらない一層の導入拡大が必要であります。このため、分散型エネルギーシステムの構築に向け、昨年4月に発足した環境省、経産省の連携チームの取組を一層推進していきます。また、千葉県などで試行的に実施されているノンファーム型接続の2021年中の全国展開や、地域における再生可能エネルギー需要に応じた検討・整備・活用に向けた取組が重要であり、経産省や関係業界による一層の推進を期待したいと思います。
 次に、二つ目のポイントは、非効率な石炭火力発電の休廃止、稼働抑制といったフェードアウトに向けた取組を着実に進めるべきということであります。環境省の試算によると、石炭火力発電所の新増設計画が予定どおり実行されると、2030年度の削減目標を約5000万トン超過することになります。これは2030年度の我が国全体の削減目標に整合する排出量の約5%に相当します。削減目標の達成に向けて、非効率な石炭火力発電のフェードアウトに向けた取組を着実に進めるとともに、火力発電全体からのCO2排出削減に向けて石炭火力発電の高効率化、そして次世代化、これを進める必要があります。
 今般、梶山経産大臣により、非効率な石炭火力のフェードアウトを目指していく上で、より実効性のある新たな仕組みを導入すべく、今月中に検討を開始して取りまとめるように事務方に指示したという御発言がありました。改めて、梶山大臣のリーダーシップに敬意を表したいと思います。この発表によって、国内において非効率な石炭火力発電のフェードアウトに向けた取組の具体化が進んでいくことになります。
 足元において非効率な石炭火力発電は約2400万キロワット、石炭火力発電の全体の約5割存在しており、地球温暖化対策を所管する環境省として、こうした非効率な石炭火力発電のフェードアウトに向けた取組を厳しく注視していきたいと思います。
 最後に、三つ目のポイントは、将来的なゼロエミッション火力の可能性を追求すべきということであります。パリ協定の長期目標と整合的に火力発電からのCO2排出削減を実現するためには、火力発電の更なる高効率化、これを進めて、究極的には火力発電でありながらCO2の排出が実質的にゼロである火力発電、いわゆるゼロエミッション火力、この可能性を追求する必要があります。ゼロエミッション火力を目指すに当たって、排出削減を円滑かつ着実に実現するため、これまで培ってきた経験、知見も生かして既存の石炭火力発電、LNG火力発電でのバイオマス、水素、アンモニアなどの混焼を促進して、さらにその割合の段階的な向上を図って、それでもなお避けられない排出分については、排出されるCO2を回収して有効利用、貯留するCCUSの活用を検討する、こうしたゼロエミッション火力に向けたイノベーションを関係省庁、関係業界と連携しながら、総合的に後押しをして世界に先駆けたゼロエミッション火力の実現の可能性を追求していきます。
 電気事業分野は我が国全体のCO2排出量の約4割を占める最大の排出源であり、他部門での排出削減努力にも大きく影響を及ぼすことから、電気事業分野の地球温暖化対策は非常に重要であります。今回の評価結果や気候変動問題とエネルギー問題の関連性が一層高まってきていることも踏まえて、今後ともエネルギー政策を所管する経産省と密接な意思疎通を図りながら、2030年度の削減目標の確実な達成、そして2050年にできるだけ近い時期での脱炭素社会への実現に向けて取組を進めていきます。なお、評価結果の詳細については、後ほど事務方から説明をさせていただきます。……
質疑応答
(記者)[時事通信] 地球温暖化対策計画の見直しに関連してですが、NDCについて26%の水準にとどまらない削減努力と、更なる野心的な削減努力を反映した意欲的な数値を考えていくということなんですが、大臣はどのような数値にしていきたいとお考えでしょうか。
(大臣)それはやってみた上で出るものがまさに数字ですから、今からここだというふうに決めることは、現段階では言うことではないなと思います。いずれにしても、大事なことは、石炭火力の海外輸出、この公的信用の政策の見直しが実現をした背景にはファクトをベースに議論したと、このファクト検討会の役割は相当大きかったと私は思います。今後、このファクトをベースに議論するということが霞が関、そして政治の中での常識となっていくように、この両審議会の合同会議、この場でもしっかりとファクトに基づく議論を積み上げていただければ、NDCときに日本からお約束をした更なる野心的な削減努力を反映した意欲的な数値につなげていけると、私はそう確信をしています。この両審議会の精力的な議論に期待をしています。
(記者)[朝日新聞] 温対計画の見直しなんですけれども、先ほど、ポストコロナというところを最初に議論しなければいけないということでおっしゃっていて、コロナによって、特に温暖化対策という点で大臣はどういう点を視点として加えなければいけない、あるいは変更が迫られるだろうと現時点で考えているか、教えてください。
(大臣)ポストコロナによって相当な行動変容が起きていますよね。テレワーク、リモートワークなどは代表的な一つかもしれません。それはやはり移動というものが根本的に変わってきている新たな社会が今、日々つくり上げられている過程だと思います。その移動が変わってくることによって、最近でも様々なところから、例えば石油の需要が減っているとかいろんな声が起きていますが、こういったことがどのように今後この中でも反映されていくのか、その議論もしなければいけないだろうと。そういったことがまさにコロナ後の社会を見据えた対策、この在り方を議論するということでもあります。それに加えて、これまで毎年実施してきた計画の進捗、これを点検することも大事ですし、この点検を反映した対策の強化や深掘り、これも大事だと思います。そして、脱炭素社会の実現を見据えた、目の前のことだけではなくて中長期の対策の方向性、こういったことも改めて議論されるべきですし、今、石炭火力の海外の公的信用の付与、これを原則やらないと、支援をしないということから、まさにドミノが倒れるように国内の石炭も含めてエネルギー政策全体がうねりを上げて今動き出している中ですから、この合同の審議会の議論を、おのずとそういったことをしっかりと受け止めた上での議論になると私は期待をしているし、環境省としてはしっかりとウォッチしていきたい、また貢献をしていきたいと思います。
(記者)[毎日新聞] 私から2点質問させていただきます。1点目は温対計画の見直しについてです。まず、開始時期というのはいつごろ始められて、今後どういうふうに取りまとめるかという見通しについてお聞きしたいということと、今後特に気候変動絡みで言うと、経産省の石炭火力の見直しとか、エネルギー基本計画の見直しについても来年あると思うので、その辺との兼ね合いをどうするか。まず温対計画の位置付けとして、例えばエネミやエネ基の見直しに向けた弾みにしたいのか、どういう意味合いで捉えていらっしゃるのかということについてお聞かせください。……
(大臣)まず、1点目ですが、この合同会合のスケジュール、そしてアウトプット、これについては、今後、審議会の議論を踏まえて決定していきたいと思います。そして、先ほど[朝日新聞記者]さんからの質問でもあったように、このポストコロナ、そして進捗の確認、点検、対策の強化や深掘りとか中長期の方向性、こういったものも重要な論点になると考えていますので、こういった議論を踏まえた上で温対計画を見直して、来年のCOP26まで追加情報を国連に提出していきたいと思います。そして、今まだ具体的な日時は私は確認していませんが、官邸の方で未来投資会議、ここで環境エネルギーの場ができると聞いています。そういった場で大きな柱となるような、またエネルギー政策の全体像のような議論がされるのではないかなと。そこには経団連の中西会長の思いも相当あると思いますが、そういった場で自由闊達にこのコロナを踏まえて、そしてまた最近の石炭政策の見直しも含めて、最新のファクトに基づく議論が大いになされるべきだろうというふうに思います。温対計画の見直しは、そういったことも含めて同時進行的に進んでいく。そういったことを考えれば、まさに石炭の輸出に原則、支援をしないというところから始まったことが、ドミノが倒れるようにこのエネルギー政策全体が動き出したと、そういった大きな捉え方をして一つ一つのことを動かしていきたいし、よく見ていきたいというふうに思います。……
(記者)[エネルギージャーナル]
(大臣)……私が大臣になってから言っている経済社会の再設計(リデザイン)、そして脱炭素社会、循環経済、分散型社会への移行、この三つの移行も着実に進めて、環境省が社会変革担当省だと、そういった省庁により成長していくべく環境行政の課題に向き合ってくれるのではないか……
(記者)[日刊工業新聞] 再生可能エネルギーの主力電源化の話がありましたので、その関連で質問させてください。大臣は新宿御苑の電気が再生可能エネルギーに切り替わっても従来の電力料金と遜色がなかったという報告をされていますが、電力を大量に使う大規模な事業所はもともと安い電気を使っているので、それに見合う価格の再エネ電気がなくて困っているという話を企業から聞きます。この間の経団連との会談でも、経団連の幹部の方から再エネをもっと安くしてほしいという要望があったかと思いますが、エネルギーの所管はエネ庁ですが、環境省でも再エネの価格を下げていくような施策を考えていらっしゃったら、教えてください。
(大臣)再エネは高いという、この固定観念を覆していきたい。これは環境省がRE100を宣言して、そして自ら一つ一つできるところはRE100、これを進めていて、再エネは必ずしも高くない、安い場合もある。この実現例として自分たちがまず実践をする、社会にその姿を見せたいという思いでやっています。御紹介があったとおり、新宿御苑は30%から100%まで一気に再エネの導入を上げた上で、電力単価は17.1円で変わらない、これを示すことができました。ただ、今御指摘があったとおり、一般的に再エネが安いというところに行くには、更なる努力が必要なのは間違いありません。じゃ、そのために何ができるかというと、間違いないことはマーケットを大きくすること、この再エネの市場の拡大をやる上で環境省が何ができるかと言えば、やはり需要サイドに働き掛けて、その市場を大きくしていく環境をつくっていくこと。私が就任以来、なぜゼロカーボンシティ、この宣言自治体を増やすことに血道を上げているかと言えば、この市場拡大を自治体レベルから、住民レベルから底上げをしていく、こういったアプローチというのは環境省は経産省と違って業界から行くわけじゃないですから、まさに国民側から、需要側からそこの環境をつくっていく。こういったことに加えて、様々個人の再エネの切り替えの促進とか、今それを具体的に進めようとしている企業などとの意見交換をしています。そして、間違いなく、企業の方からも相当声が変わってきたと思うのは、この前の経団連との意見交換もそうですが、石炭が安いから石炭をもっとやってくれなんて言ってくるところは全くありません。再エネをもっと導入しやすい環境をつくってくれと。そして、グローバルで活躍をしている企業にとっては、再エネを導入できなければ、国際的な産業競争力に大きな影響が出る、その環境をつくってもらうような政策的な後押しをやってほしいという、ここの思いというのが相当に強い状況が出てきているので、私はこういった取組を一つ一つ後押しすることで、再エネの需要の拡大が再エネのコストを下げる、そういったところにつなげていきたいと思います。そのためにできることは環境省、あらゆる方策を通じてやっていきたいと思います。
------------------------------------------------------------
NDC: Nationally Determined Contribution(国が決定する貢献)[一般社団法人海外環境協力センター OECCサイトから]
 2020年以降の温室効果ガス(GHG)排出削減等のための新たな国際枠組みであるパリ協定は、協定第2条(目的)に世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求することを明記しています。その目的を達成するために、協定はその第4条(緩和)にて国内措置(削減目標・行動)をとることを各国に求めています。
 NDCとは、協定第4条に基づく自国が決定するGHG削減目標と、目標達成の為の緩和努力のことを指します。これは締約国がパリ協定批准前に国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局へ提出した「各国が自主的に決定する約束草案」(Intended Nationally Determined Contribution:INDC)が原案となっており、パリ協定批准により正式にNDCとして国連に登録され、各国に対して実施が求められます。
 2020年以降に実施が求められるNDCに対し、2020年まではカンクン合意(第16回締約国会議にて決定)に基づいたGHG排出削減による2℃目標達成への努力が進められています。開発途上国においても資金・技術・能力構築等の支援を受けながら、「途上国における適切な緩和行動(Nationally Appropriate Mitigation Action: NAMA)」を自主的に策定し、国連へ実施報告をしています。NDC並びにパリ協定実施の準備が急務となっている中、途上国においてはこのようなNAMAでの経験が十分に活かされています。

エネルギーミックスとは、「社会全体に供給する電気を、さまざまな発電方法を組み合わせてまかなうこと」をいいます。日本語で「電源構成」と呼ぶこともあります。
適切なエネルギーミックスによって、電気の安定的な供給が実現します。
単一の発電方法ではなく、エネルギーミックスが必要な理由は、完全無欠な発電方法が存在しないためです。

エネルギー政策基本法EICネット(一般財団法人環境イノベーション情報機構]サイトから]
エネルギーが国民生活の安定向上並びに国民経済の維持及び発展に欠くことのできないものであるとともに、その利用が地域及び地球の環境に大きな影響を及ぼすことにかんがみ、エネルギーの需給に関する施策に関し、基本方針を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、エネルギーの需給に関する施策の基本となる事項を定めることにより、エネルギーの需給に関する施策を長期的、総合的かつ計画的に推進し、もって地域及び地球の環境の保全に寄与するとともに日本及び世界の経済社会の持続的な発展に貢献することを目的として2002年6月に制定された法律。「安定供給の確保」、「環境への適合」、「市場原理の活用」などの基本理念が掲げられ、国の責務、地方公共団体の責務、事業者の責務、国民の努力、相互協力などが定められている。また政府は「エネルギー基本計画」を定めなければならないこと、国際協力の推進、知識の普及についても規定されている。
2018年7月には第5次エネルギー基本計画が発表され、エネルギーの「3E+S」原則(エネルギーの安定供給・経済効率性の向上・環境への適合+安全性)をさらに発展させ、より高度な「3E+S」を目指すため、(1)安全の革新を図ること、(2)資源自給率に加え、技術自給率とエネルギー選択の多様性を確保すること、(3)「脱炭素化」への挑戦、(4)コストの抑制に加えて日本の産業競争力の強化につなげることという4つの目標が掲げられた。(2018年11月改訂)

[第5次]エネルギー基本計画 2018.07.03
エネルギー基本計画は、エネルギー政策の基本的な方向性を示すためにエネルギー政策基本法に基づき政府が策定するものです。
今回の[第5次]エネルギー基本計画では、常に踏まえるべき点として「東京電力福島第一原子力発電所事故の経験、反省と教訓を肝に銘じて取り組むこと」等を原点として検討を進め、2030年、2050年に向けた方針をお示ししています。
2030年に向けた方針としては、エネルギーミックスの進捗を確認すれば道半ばの状況であり、今回の基本計画では、エネルギーミックスの確実な実現へ向けた取組の更なる強化を行うこととしています。
2050年に向けては、パリ協定発効に見られる脱炭素化への世界的なモメンタムを踏まえ、エネルギー転換・脱炭素化に向けた挑戦を掲げ、あらゆる選択肢の可能性を追求していくこととしています。[「新しいエネルギー基本計画が閣議決定されました」 2018.07.03 経産省のサイトから]
------------------------------------------------------------
第5次エネルギー基本計画ファクトチェック!!
  (eシフト 脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会 2019.03.14)
昨年7月に政府が閣議決定した第5次エネルギー基本計画は、日本のエネルギー・温暖化政策の方向性を示すもので、「エネルギー・温暖化政策の憲法」とも言える非常に重要な計画です。しかし、その内容は、「まず石炭・原発推進ありき」というストーリーのもとに作られており、事実関係も含めて様々な問題があります。
私たち「eシフト」(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)は、この第5次エネルギー基本計画についてファクト・チェックを行い、その結果をまとめたウェブページ(http://www.eshift.club/energyb_fc.html)を作成しました。本ファクト・チェックでは、第5次エネルギー基本計画には104か所の問題記述があると指摘し、それぞれに対して下記の5つの評価をおこない、具体的な問題点とその理由を詳細にコメントしました。
矛盾(エネルギー基本計画の他の箇所あるいは現行のエネルギー・環境政策と矛盾)
意味不明(文意が不明)
半分間違い(部分的な情報は正確だが、重要な詳細情報が不足している。または文脈から逸脱して歪曲)
ほぼ間違い(若干の正確な情報を含むが、重大な事実を無視して印象操作)
間違い(不正確な情報)
現在、残念ながら、このような問題が多い第5次エネルギー基本計画に沿って、多くの企業は事業計画をたて、政府は容量市場などの石炭・原発推進につながる新たな政策を十分な国民的議論がないままに導入しようとしています。
私たち「eシフト」は、このファクトチェックが、政府のエネルギー・温暖化政策の矛盾や間違いについて知るきっかけとなり、同時に建設的な議論のプラットフォームにもなることを期待します。
   エネルギー基本計画ファクトチェック
    
   
小泉環境相の「正直、開き直り、アクション」(明日香壽川)
  (Energy Democracy 2020.02.25)
小泉進次郎環境大臣の誕生から、まもなく半年になる。ここでは、エールの思いも込めて、彼のこれまでの環境大臣としての言動、特に温暖化問題に関する認識や発言を分析評価する。
正直だけど/同情もするけど/自虐的な「石炭中毒」/開き直り?/責任転嫁?/記者の質問に答えず/大臣としてとるべきアクションとは
WEB論座「小泉環境相の「正直、開き直り、アクション」(2020年2月7日)」の改稿。

エネ庁第26回電力・ガス小委資料(7月13日) 7月27日


 1.本日ご議論いただきたいこと
  ●本日ご議論いただきたいこと
   26回総エネ調小委資料_1
   ●【参考】エネルギー基本計画(2018年7月3日閣議決定)における石炭の位置づけ等
    26回総エネ調小委資料_2
   ●【参考】7/3(金)閣議後会見における冒頭発言:大臣による「検討指示」
    26回総エネ調小委資料_3

 2.非効率石炭のフェードアウトに向けた検討の方向性について
  ●石炭の位置付け
  ●日本の石炭技術の高効率化・次世代化の推進
  ●CCUS/カーボンリサイクル
  ●非効率石炭火力のフェードアウト
 スライドA
   26回総エネ調小委資料_4
  ●非効率な石炭火力の設備容量の割合
 スライドB
   26回総エネ調小委資料_5
  ●旧一般電気事業者及び電源開発における非効率な石炭火力の発電電力量の割合
 スライドC
   26回総エネ調小委資料_6
  ●エネルギーミックスの実現に向けた取組
   26回総エネ調小委資料_7
  ●発電事業者に対する措置(省エネ法)
   26回総エネ調小委資料_8
  ●小売電気事業者に対する措置(高度化法)
   ●【参考】非化石価値取引市場
  ●石炭火力に関する海外の動向(1)
   26回総エネ調小委資料_9
  ●石炭火力に関する海外の動向(2)
  ●石炭火力に関する海外の動向(3)
  ●ESG投資やダイベストメントの動向
   26回総エネ調小委資料_10
  ●3メガ銀行の石炭火力発電向ファイナンスの方針
   26回総エネ調小委資料_11
  ●非効率石炭火力のフェードアウト・新陳代謝の必要性
   26回総エネ調小委資料_12
  ●災害リスクの高まりと安定供給の確保
   26回総エネ調小委資料_13
   ●【参考】過去5年の主な災害の規模等
   ●【参考】北海道胆振東部地震に伴うブラックアウトについて
   ●【参考】脱炭素化・レジリエンス強化のための電力インフラの在り方
  ●安定供給とエネルギーミックスの実現
  ●容量市場の創設
   26回総エネ調小委資料_14
   ●【参考】海外の容量メカニズム
    26回総エネ調小委資料_15

  ●今後の検討に当たっての論点(例)新たな規制的措置
   26回総エネ調小委資料_16
  ●今後の検討に当たっての論点(例)早期退出を誘導する仕組み
   26回総エネ調小委資料_17

 3.再エネの主力電源化に向けた送電線利用ルールの見直しの検討について
  ●日本の再生可能エネルギー発電量の現状(導入の伸び)
  ●「エネルギーミックス」実現への道のり
  ●再生可能エネルギー普及に係る送電線の問題と対策
   26回総エネ調小委資料_18
  ●日本版コネクト&マネージの進捗状況と残された課題
   26回総エネ調小委資料_19
   ●【参考】千葉エリアにおけるノンファーム型接続の先行実施
   ●【参考】北東北エリアにおけるノンファーム型接続の先行実施
   ●【参考】各一般送配電事業者の基幹系統(上位2電圧)の送変電等設備
  ●ノンファーム型接続の全国展開について
 スライドD
   26回総エネ調小委資料_20
  ●ノンファーム型接続における課題について
   26回総エネ調小委資料_21

   ●【参考】系統接続における先着優先ルール
  ●今後の検討に当たっての論点(例)基幹送電線の利用ルールの見直し
   26回総エネ調小委資料_22
  
 4.今後の検討の進め方について
  ●今後の検討スケジュール(案)

スライドA~Dの解説 (陰山遼将  スマートジャパン 2020.07.15 08:00
 ←非効率な石炭火力を廃止し再エネ導入を拡大
    経産省が新たな制度設計の議論をスタート 
 温暖化対策の観点から、国際的に逆風を受ける石炭火力発電。日本でも非効率な石炭火力の廃止を促し、再生可能エネルギーの導入拡大を促す新たな制度設計の議論がスタートした。
 経済産業省は2020年7月13日、梶山弘志経済産業大臣が打ち出した石炭火力の縮小方針を受け、具体的な政策内容について検討する有識者会議を開催。非効率な石炭火力の将来的なフェードアウトを実現する新たな規制措置の内容と、再生可能エネルギーの利用を広げる新たな送配電網の利用ルールを検討する-というのが大筋の目的だ。
 ただ、その実現に向けては、詳細な議論と綿密な制度設計が必要になりそうだ。非効率石炭を廃止とエネルギー安定供給の両立をどう実現するかという点も大きな議題の一つであり、廃止に向け事業者側にどのような経済的インセンティブを設計するかなど、検討すべき点は多い。エネルギーの安定供給という観点では、足元で再稼働がほぼ進んでいない原子力発電の将来の稼働率についてどう考えるのか、といった問題も大きく関係してくる。
   26回総エネ調小委資料_426回総エネ調小委資料_526回総エネ調小委資料_6
 現在、政府が掲げる2030年の日本の電源構成における石炭火力の比率目標は26%となっているが、足もとの2018年度における同比率は32%。2030年度の電源構成目標を達成するためには、さらなる石炭火力の削減が必要な状況にある。
 政府が廃止を目指す「非効率石炭火力」とは、主に発電効率が40%以下の亜臨界圧、超臨界圧と区分される火力発電を指す。2018年度の電源構成の32%を占める石炭火力だが、その約半分(電源構成に対して16%)が非効率石炭による発電となっている。台数ベースでみると、現在国内にある140基の石炭火力のうち、114基が非効率石炭に該当する。
 114基の非効率石炭について、地域ごとの設置設備容量を見ると、全国で大きなばらつきがある。そのエリアにおける全発電容量(出力ベース)に対し非効率石炭が占める割合では、関西は0%なのに対し、沖縄では34.8%である。また、発電電力量ベースでみると、地域間での差はより拡大する他、多くのエリアで出力ベースでみた比率以上に、非効率石炭への依存度が高い状況もうかがえる。これは原子力発電所の再稼働が進んでいないことも影響していると考えられる。
  26回総エネ調小委資料_20
 今回、梶山経済産業大臣が打ち出した「既存の非効率な火力電源を抑制しつつ、再生可能エネルギーの導入を加速化するような基幹送電線の利用ルールの抜本見直し」については、現在検討が進められている「ノンファーム接続」におけるルールを見直し、再エネを接続しやすくする制度に変更する方針だ。
 これまでの議論で送配電網の効率的な利用に向けては、従来の電力会社に認められた電源のみが系統に接続できる「ファーム接続」ではなく、系統の混雑状況によって出力制御を受けることを条件に新規接続を許容する「ノンファーム接続」の導入を進めていく、いわゆる「日本版コネクト&マージ」の実現を目指すという方向性が示されている。
 既に2019年9月に千葉エリアで、2020年1月には北東北および鹿島エリアでノンファーム接続が先行的に実施された。同時に東京電力パワーグリッドらが必要なシステムの開発に着手しており、経産省ではこ2021年中にはノンファーム接続を全国展開する目標を掲げている。
 ただし、これまでの議論で想定されていたノンファーム接続では、「先着優先ルール」を採用する方針となっていた。これは系統が混雑した場合、先にファーム接続していた電源を優先し、後から接続した電源に出力抑制を行うことで、系統の安定を保つというもの。低炭素化という観点から見た場合、この先着優先ルールでは、ファーム接続されたCO2排出係数の大きい非効率石炭が優先され、同係数が小さい再生可能エネルギーが抑制されるという矛盾が発生する可能性がある。 

石炭火力輸出支援しないを明記(7月9日) 7月26日

7月9日、第47回経協インフラ戦略会議(議長・菅義偉官房長官)[海外経済協力インフラ輸出戦略会議]で「インフラシステム輸出戦略」が改訂され、「今後新たに計画される石炭火力発電プロジェクトについては、エネルギー政策や環境政策に係る二国間協議の枠組みを持たないなど、我が国が相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や脱炭素化に向けた方針を知悉していない国に対しては、政府としての支援を行わないことを原則とする」(16頁)と明記されました。
  インフラシステム輸出戦略(令和2年度改訂版)
パリ協定を踏まえ、世界の脱炭素化をリードしていくため、相手国のニーズに応じ、再生可能エネルギーや水素等も含め、CO2排出削減に資するあらゆる選択肢を相手国に提案し、「低炭素型インフラ輸出」を積極的に推進。その中で、エネルギー安全保障及び経済性の観点から石炭をエネルギー源として選択せざるを得ないような国に限り、相手国から、我が国の高効率石炭火力発電への要請があった場合には、OECDルールも踏まえつつ、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形で、原則、世界最新鋭である超々臨界圧(USC)以上の発電設備について導入を支援<経済産業省、外務省、財務省、内閣官房、JBIC、NEXI> [41頁]
  インフラ海外展開に関する新戦略の骨子
(5)環境性能の高いインフラの推進
① パリ協定の目標達成に向け、世界全体の温室効果ガスの実効的な排出削減が必要不可欠となっている。再生可能エネルギーのコスト低下に牽引されたエネルギー転換など、エネルギー情勢が急速かつ大きく変化している中で、安価かつ安定的に調達できるエネルギー源が石炭に限られる国もあり、途上国などでは石炭火力を選択してきたという現実がある。石炭火力への資金を絞るダイベストメントのような方策もあるが、当該諸国の国民生活向上や経済発展にとって不可欠な電力アクセス向上・電力不足解消の選択肢を狭めることなく、世界全体の脱炭素化に向け現実的かつ着実な道を辿ろうとするのであれば、むしろ、こうした国々のエネルギー政策や気候変動政策に深くエンゲージし、長期的な視点を持ちつつ実現可能なプランを提案しながら、相手国の行動変容やコミットメントを促すことが不可欠であると考えられる。
このため、我が国は、関係省庁連携の下、相手国の発展段階に応じたエンゲージメントを強化していくことで、世界の実効的な脱炭素化に責任をもって取り組む。具体的には、世界の脱炭素化をリードしていくため、相手
国のニーズを深く理解した上で、風力、太陽光、地熱等の再生可能エネルギーや水素、エネルギーマネジメント技術、CCUS/カーボンリサイクル等も含めたCO2排出削減に資するあらゆる選択肢の提案やパリ協定の目標達成に向けた長期戦略など脱炭素化に向けた政策の策定支援を行う、「脱炭素移行政策誘導型インフラ輸出支援」を推進していくことを基本方針とする。
その上で、今後新たに計画される石炭火力発電プロジェクトについては、エネルギー政策や環境政策に係る二国間協議の枠組みを持たないなど、我が国が相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や脱炭素化に向けた方針を知悉していない国に対しては、政府としての支援を行わないことを原則とする。その一方で、特別に、エネルギー安全保障及び経済性の観点などから当面石炭火力発電を選択せざるを得ない国に限り、相手国から、脱炭素化へ向けた移行を進める一環として我が国の高効率石炭火力発電へ要請があった場合には、関係省庁の連携の下、我が国から政策誘導や支援を行うことにより、当該国が脱炭素化に向かい、発展段階に応じた行動変容を図ることを条件として、OECDルールも踏まえつつ、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形で、超々臨界圧(USC)以上であって、我が国の最先端技術を活用した環境性能がトップクラスのもの(具体的には、発電効率43%以上のUSC、IGCC及び混焼技術やCCUS/カーボンリサイクル等によって発電電力量当たりのCO2排出量がIGCC 並以下となるもの)の導入を支援する。
② ESG投資の増加にみられるように、世界的に環境・社会・企業内統治への関心も高まっている。こうした経営者や投資家の意識の変化を踏まえながら、環境性能の高いインフラの海外展開に取り組むことで、気候変動問題や海洋プラスチックごみ問題等の地球規模の課題を解決し、世界の環境と成長の好循環を一層推進する。これを踏まえ、これまでの日本の公害や廃棄物管理等の経験や技術、制度などを基に、展開国における環境汚染の低減や公衆衛生の向上、海洋プラスチックごみ問題の解決に向けて、環境インフラ海外展開プラットフォームの形成や、案件形成の上流からの関与の強化等により、社会的仕組み(ソフトインフラ)の整備と一体的に、廃棄物発電やリサイクル、大気汚染や水質汚濁、水銀処理の対策技術等の、質の高い環境インフラの導入推進に取り組む。 [15-16頁]
政府、石炭火力の輸出厳格化議論 インフラ戦略会議
  (東京新聞 TOKYO Web 2020.07.09 17:40 共同通信)
石炭火力の輸出支援厳格化 高効率設備に数値基準 脱炭素化へ政府新方針
  (SankeiBiz 2020.7.9 18:05)
環境省 小泉大臣記者会見録
  (環境省 2020.07.09 18:00~18:40)
   会見実況動画
今回文言一つ一つこだわって、それが実効性を高める形で成案を得られるように調整を進めてまいりました。その結果、今、このスライドでお示しをしたとおり、この本来の、柱でもある、いわゆる4要件の厳格化、これについて、改めて触れたいと思います。どのように、厳格化が変化されたのか。これまでは、支援する要件のみ書いてあった4要件を、一つ一つ見ていただければわかりますが、一つ目の要件。エネルギー安全保障と経済性の観点のみを求めていたのが今まででした。そのことに加えて今回何が変わったかというと、エネルギー安全保障と経済性の観点に加えて、脱炭素化だということが前提とならない限り駄目だという形を、さらに今回1点目に加えています。そして二つ目、我が国の高効率石炭火力発電への要請があればということでありますが、今回新しく加えたことは、仮に我が国の高効率石炭火力発電への要請であったとしても、脱炭素移行の一環でなければ駄目。そういったことであります。そして三つ目。相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形であることという要件は、今の相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形ではなくて、パリ協定の目標達成に向けた政策や対策が継続的に強化をされること。それを今回の要件にしました。そして最後の4点目は、原則、世界最新鋭であるUSCいわゆる超々臨界以上という今までの要件は、常に最新の環境性能とする要件、USCであっても、USCの中でも最高効率ではないものもありますので、そういったことも含めて、常に最高効率でなければならない。こういったところをしっかりと、4要件を今回変更することで、調整が決着をして、今までの4要件に加えて、相当、徹底した厳格化がなされることになりました。以上のように、相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や、脱炭素化に向けた方針をしっかり把握していない場合は、支援しないことを原則とするという転換をすることができました。今後、関係省庁と連携をしながら、世界の実効的な脱炭素化への取組を進めていきたいと思います。そして、最後になりますが、環境省では、今回の改正を絵にかいた餅にすることがないように、具体的なアクションとして、政策対話から案件形成に至るまで、途上国の脱炭素移行に向けた一貫支援体制を構築していきます。さらには、民間企業や自治体、金融機関などとも連携して、環境インフラの海外展開を推進するため、民間企業への情報共有やビジネスマッチング、案件形成支援に至るまで、トータルでサポートするための官民連携のプラットフォームを設立し、より日本の脱炭素技術やノウハウが活用されるように、官民一体となって取り組んでいきたいと思います。早速、ベトナムとは政策対話の実施に向けた調整を始めています。関係省庁や関係機関とも連携しながら、相手国のニーズに即して、脱炭素化に向けた政策策定支援からCO2削減に資する、あらゆる対策の提案、実施に取り組んでいくことで、世界の脱炭素化に貢献していきたいと思います。最後になりますが、私のような、手の焼ける大臣と、最後まで、向き合って調整に努力をいただいた梶山大臣をはじめ、経産省の皆さん、ありがとうございました。そして、関係省庁、ファクト検討会委員、及びヒアリングに御協力いただいた企業・団体など、これまでに、この議論に関わってきた関係者すべての皆さんに、心から感謝を申し上げたいと思います。うちの事務方も大変だったと思います。ありがとう。以上です。
日本政府、石炭火力の輸出支援を「厳格化」 脱炭素化へ誘導(清水律子)
  (ロイター 2020.07.09 19:20)
  政府は9日、二酸化炭素(CO2)の排出量が多く、批判が強い石炭火力発電の輸出支援について、これまでの支援要件を厳格化することを決めた。現状でも石炭火力発電を選択せざるを得ない国があるとし、そうした国への輸出支援も、脱炭素化に向けた誘導を行うことを条件としている。
 <新たな石炭火力、2国間協議持たない国「支援せず」
 政府が9日開催した「経協インフラ戦略会議」で決めた新たな輸出戦略では、再生可能エネルギーや水素、カーボンリサイクル等CO2排出削減に資するあらゆる選択肢の提案や、パリ協定の目標達成に向けた長期戦略など脱炭素に向けた政策の策定支援を行う「脱炭素移行政策誘導型インフラ輸出支援」を推進することを基本方針とした。
今後、新たに計画される石炭火力発電プロジェクトについては「エネルギー政策や環境政策に係る2国間協議の枠組みを持たないなど、日本が相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題・脱炭素に向けた方針を知悉(ちしつ)していない国に対しては、政府として支援しないことを原則とする」とした。
 一方、石炭火力を選択せざるを得ない国に対しては、脱炭素化に移行する一環として、日本の高効率石炭火力へ要請があった場合には、その国が脱炭素化に向かい、行動変容を図ることを条件として、超々臨界圧(USC)以上であり、日本の最先端技術を活用した環境性能がトップクラスのものの導入を支援するとした。
 <梶山経産相「現実的な一歩」、小泉環境相「基本として原則支援しない」
 梶山弘志経済産業相は会見で「石炭火力発電の輸出支援の厳格化を決めた」と述べ「一足飛びにゼロというわけにはいかない。より現実的な一歩を踏み出すということ」と述べた。一方、小泉進次郎環境相は「最も重視してもらいたいのは、基本方針として原則、支援しないこと。今回、そういった結果になった」と述べ、こだわってきた「支援しないことを原則とする」という文言が入ったことを評価した。
 エネルギーを所管する経産省としては、日本の高い技術による石炭火力発電を必要とする国は多いという認識にある。一方で、脱炭素化は必然のものとなっており、関係省庁間でも、輸出相手国の行動変容を促すことが必要との認識は共有した。
 新興国に対し、石炭火力輸出支援を行っている日本への批判は高まっていた。昨年12月に気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)に出席した小泉環境相が問題を提起。今年2月下旬、石炭火力発電の輸出条件の見直しを話し合うことで環境省や経産省などの関係省庁が合意、協議を続けてきた。
 <エネルギーミックス見直しにつながるか
 小泉環境相は「来年のエネルギーミックス、ドミノが倒れるように、脱炭素化社会の実現に向け議論する素地ができたと思っている」とし「COP26はCOP25より、前向きなものを持っていけるのは間違いない」と述べ、来年予定されているエネルギーミックスの見直しにも自信を示した。
 石炭火力発電の海外輸出に関してはこれまで、1)エネルギーの安全保障及び経済性の観点から石炭を選択せざるを得ない場合、2)日本の高効率石炭火力発電への要請があった場合、3)相手国のエネルギー政策や気候変動政策と整合性があること、4)原則、世界最新鋭であるUSC(超々臨界圧発電方式)以上の発電設備の使用、という4要件を定めていた。
石炭火力発電 輸出支援は環境性能トップクラスに限定 政府
(NHK NEWS WEB 2020.07.09 19:37)
石炭火力、輸出支援「原則禁止」 脱炭素化へ条件厳格化-政府
  (時事ドットコムニュース 2020.07.09 21:05)

石炭火力の輸出支援を厳格化 政府方針、設備性能などに条件
  (中日新聞Web 2020.07.10 05:00 (11:54更新)
活動報告:石炭火力発電の輸出政策の見直しが正式に決定しました
  (小泉進次郎 Official Site 2020.07.10)
本日、大臣就任以来取り組んできた石炭火力発電の輸出政策の見直しが正式に決定し、今後は「原則支援しない」ことになりました。国際社会に対してもパリ協定に貢献する日本の揺るぎない姿勢が伝わる、画期的な政策転換が出来ました。……
  どのように厳格化が変化したのか
一つ目、「エネルギー安全保障と経済性の観点のみ」を求めていたのが今まででした。そのことに加えて今回何が変わったかというと、エネルギー安全保障と経済性の観点に加えて脱炭素化というのが前提にならない限りダメだとしています。
二つ目、「我が国の高効率石炭火力発電への要請があれば」、ということですが、今回新しく加えたことは、仮に我が国の高効率石炭火力発電への要請だったとしても、「脱炭素移行の一環」でなければダメとしました。
三つ目、「相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形であること」、という用件は、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形ではなくて、「パリ協定の目標達成に向けた政策や対策が継続的強化をされること」、それを今回は要件にしました。
そして最後四点目は、「原則、世界最新鋭であるUSC(超々臨界)以上」、今までの要件は、「常に最新の環境性能とする要件」。USCであっても最高効率でないものもありますので、そういうことも含めて、常に最高効率でなければならない。
こういった4要件に変更することで、調整が決着。今までの要件に加えて相当徹底した厳格化がなされました。

石炭火力輸出 公的支援から撤退せよ
  (朝日新聞デジタル 2020.07.12 05:00)
 石炭火力発電の輸出に際し、政府は公的支援の要件を厳格化することを決めた。国際的な批判に押され、政策の転換にようやく一歩を踏み出す。
 ただ、公的支援の道は残されていて、世界的な脱石炭火力の潮流と歩調が合ったとはいいがたい。気候危機の脅威は増しており、日本も輸出から早急に手を引かねばならない。
 石炭火力は主な電源のなかで最も二酸化炭素(CO2)排出量が多く、欧州を中心に全廃をめざす国が増えつつある。地球温暖化対策を進めるパリ協定の下、国際社会は今世紀の後半に温室効果ガス排出の実質ゼロをめざしているからだ。
 そんななか日本は、いまだに石炭火力を国内の基幹電源と位置づけているうえ、主要7カ国(G7)で唯一、政府が輸出の後押しを続けている。相手国が発電効率のいい日本の設備を求めているといった4項目の要件を満たす必要があるものの、「日本は気候危機対策に後ろ向きだ」との批判が強い。
 そうした逆風を受け、今回、環境省や経済産業省などが公的支援の要件を見直した。
 輸出支援にあたっては、温室効果ガス削減の長期戦略づくりなどを手助けし、相手国の脱炭素化を促すことを基本方針とする。脱炭素政策の詳細がわからない国への輸出は原則的に支援しない、と明記した。4要件についても、脱炭素化の観点から従来よりも厳しくする。
 成長戦略として輸出支援してきた姿勢を改め、環境重視に軸足を移す点は評価できる。
 だが、見すごせないのは、相手国が脱炭素化へ移行するなかで日本の石炭火力を求めている場合、高効率の設備を輸出できるとしている点だ。
 高効率といっても、天然ガス火力の2倍ものCO2を出す。相手国の気候変動対策を促すという一方で、40年にもわたって温室効果ガスを排出し続ける設備の輸出を助けるのは矛盾している。太陽光や風力の輸出を進めるのが筋だろう。
 折しも、日本のメガバンクを含む世界の金融大手が石炭火力への投融資から撤退している。日本が公的支援の道を残していては「気候危機対策の足を引っ張っている」と批判されよう。
 石炭火力は相手国に、温暖化以外の問題をもたらす恐れもある。東南アジアでは、日本が建設に協力する発電所の地元住民らが、農業や漁業への悪影響や環境汚染への不安から反対運動をしている例もある。日本の支援が地元を苦しめることがあってはならない。
 政府に求められているのは、輸出支援の要件の厳格化ではない。完全な撤退である。

石炭火力削減方針評価①(7月4~9日) 7月25日

7月2・3日の経産省、石炭火力発電100基休廃止(削減)方針に対する評価です。

7月4~9日の報道記事
  (中日新聞Web 2020.07.04 05:00)
  (Sustainable Japan 2020.07.04)
 まず、日本経済新聞の報道では、「高効率の新型発電所は維持・拡充する」との記載があり、石炭火力発電の中で高効率石炭火力発電を推進してきた経済産業省の方針と今回の発表が、必ずしも矛盾してはいないという点。具体的な方針は、「有識者会議を立ち上げて休廃止を促す具体的な手法を詰める」ということから、高効率石炭火力発電まで含めた削減に踏み込むかどうかは今後の議論に委ねられることになる。このように今は「固い鉄が溶けた」とも言える状態で、今後の政策についての柔軟性が大幅に上がった。「鉄は熱いうちに打て」と言われるように、将来どのような形状で再度固まるのかという極めて大事な局面となる。
 石炭火力の輸出の公的支援については、今年に入り、環境省と経済産業省の間で鍔迫り合いが続いている。環境省では、小泉進次郎環境省のリーダーシップにより、「石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者ファクト検討会」を設立し、政府政策が時代錯誤になっているというファクトを整理してきた。一方の経済産業省は、「インフラ海外展開懇談会」を設立し、石炭輸出継続の理論武装を行った。環境NGOの気候ネットワーク、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、350.org、Friends of the Earth(FoE)、メコン・ウォッチの5団体は7月3日、現状でも低効率石炭火力発電は政府のインフラ輸出の対象外となっており、今回の方針が低効率にとどまるのであれば進展はなにもないと警告している。
 系統での再生可能エネルギー発電所の出力抑制については、現状のルールでも、再生可能エネルギーは火力発電よりも優先されており、原子力発電、水力発電、地熱発電のみが太陽光発電・風力発電よりも優先順位が高い状況にある。そのため、再生可能エネルギーの優先順位を上げるためには、現在原子力発電用に確保されている系統を開放し、再生可能ネルギーが出力抑制をしなくてよくなる状況にするしかない。これができるかどうかが「進歩」と呼べるかのメルクマールとなる。
  (ブログ『化学業界の話題 knakのデータベースから』 2020.07.06 08:17)
経済産業省は低効率な石炭火力発電所の休廃止に乗り出す。現在約140基ある石炭火力のうち、低効率とされる約110基のうち9割にあたる100基程度を対象とし、2030年度までに段階的に進める。
具体的には、電力会社が発電できる量に上限を設けて、古い発電所を休止や廃止するなどして、段階的に引き下げていく方法などが検討されている。災害などの際に大規模な停電を防ぐためにすべてがすぐに廃止されないような仕組みも検討する。
一方、二酸化炭素の排出を抑えた効率がよい石炭火力発電所は新設も認める。
2019年に改定した政府の「エネルギー基本計画」では、2050年に向けた対応として非効率な石炭を段階的に削減するとしているが、その取り組みを加速する。
国際社会の強い批判に応える狙いだが、高効率型の発電所は維持する方針で、欧州の全廃路線とは一線を画すことになる。
2018年7月のエネルギー基本計画では2030年度の電源構成に占める石炭の割合を26%としている。
今回の方針変更で、旧型火力の休廃止と高効率型の新増設を差し引いて、2030年の石炭火力の比率は20%程度まで低下すると見られる。
原子力については再稼働は今後も難航が必至で、再生エネルギーも多くの問題を抱える。
当面はLNG火力の拡大でしのぐしかない。
大手電力からは「基準が決まっていないので何とも言えないが、9割の石炭を廃止するのは困難だ」との声や、「石炭を廃止する以上、国が原発の新増設を後押しすべきだ」との声が聞こえる。
梶山経産相、非効率石炭火力の早期削減へ方針表明 送電線利用も見直し
  (電気新聞 2020.07.13 掲載:2020.07.06)
 梶山弘志経済産業相は3日、超臨界圧(SC)以下の非効率な石炭火力発電所を減らすため、新たな規制的措置の導入などを検討すると表明した。大手電力に加え、共同火力、鉄鋼などの自家発を含め、非効率プラントの早期退出を誘導する仕組みなどについて、7月から有識者会議で議論を始める。加えて、再生可能エネルギーの導入加速に向けた送電線利用ルールの見直しも表明した。ただ、達成への時間軸や供給力確保とのバランス、立地自治体との関係などを巡って慎重な検討が求められそうだ。
 現行の第5次エネルギー基本計画では、石炭火力は2030年度の電源構成のうち26%を占めるとされている。「非効率石炭のフェードアウトに取り組む」とも明記されていたが、これまで具体的な手法は検討されてこなかった。
 経産省・資源エネルギー庁によると、18年度の石炭火力による発電量は、約3300億キロワット時で、石炭火力が全発電量に占める割合は32%。このうち、超々臨界圧(USC)や石炭ガス化複合発電(IGCC)の高効率型が13%、SCや亜臨界圧(SUB-C)などの非効率型が16%、自家発自家消費分は3%に上る。
 今回の検討では、国内に114基存在する非効率型のフェードアウトを目指すほか、大半が非効率型とみられる自家発も俎上(そじょう)に載せる。建設中の最新鋭石炭火力の運転開始も見据え、非効率型による発電をできる限りゼロにする。
 これまで政府はエネルギーミックス(30年の電源構成)の実現に向け、発電事業者や小売電気事業者に省エネルギー法やエネルギー供給構造高度化法で規制を講じてきた。電力業界も低炭素社会実現行動計画などの自主的取り組みを推進してきた。
 それらに加え、梶山経産相は「規制や税でどんなものが必要か、あらゆる条件を排除せずに検討する」と強調。エネ庁の小川要・電力基盤整備課長は「関係者が多いため、丁寧に議論する。明確な期限を区切った検討はしない」と話した。
 この他、梶山経産相は非効率な石炭火力のフェードアウトとともに、再生可能エネ導入拡大に向けた送電線利用ルールの見直しも表明。千葉県などで試行的に実施している「ノンファーム型接続」は21年度中に全国展開する。また、送電線混雑時、再生可能エネが出力制御を受けないようルールを見直し、主力電源化を推進する。先に接続していた火力発電は石炭だけでなく、他燃料も対象となる見通しだ。
小泉環境相を意識? 旧式石炭火力の削減に乗り出す経産省(安藤毅)
  (日経ビジネス電子版 2020.07.06)
「CO2ゼロ」へ技術開発 有識者会議が初会合-経産省
  (朝日新聞社の言論サイト『論座』 2020.07)
「石炭火力発電100基休廃止」報道、政府は”脱石炭”に向かう!?
  ( 『Don’t go back to the 石炭〜石炭火力発電に反対』 2020.07.07)
2020年7月2日の報道で、「政府は、二酸化炭素(CO2)を多く出す非効率な石炭火力発電所の9割弱を、休廃止の対象とする方針を固めた」ことが報じられた。これまで日本政府は、既存の石炭火力発電所を廃止するという方向性を全く打ち出してこなかった。今回の方針ははじめて廃止に踏み込んだ方針転換ともとれる”脱石炭”への小さな一歩だ。
しかし、パリ協定の目標とする「地球の平均気温の上昇を産業化前に比べて2℃を十分に下回り、1.5℃の上昇にとどめる」という要請にこたえるためには、先進国における石炭火力は2020年以降の新規稼働を禁じ、既存を含め遅くとも2030年までに全廃することが求められる。その意味では、この方針では全く不十分だ。
自然エネ財団、経産省の「石炭火力の休廃止方針」に3つの懸念を表明
  (『環境ビジネス』 2020.07.07)
自然エネルギー財団は7月3日、梶山 弘志経済産業大臣が同日の記者会見で低効率な石炭火力発電所の休廃止を進めると表明したことを受けて、コメントを発表し、3つの懸念を示した。
2018年に策定されたエネルギー基本計画において、「非効率な石炭火力発電のフェードアウト」とともに、「石炭火力発電の高効率化・次世代化の推進」「2030年に石炭火力で26%を供給」という方針が明記されている。
梶山経済産業大臣は、同日の記者会見で、この「非効率な石炭火力発電のフェードアウト」に向けた具体的な方策と、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた、基幹送電線の利用ルールの抜本見直しについて、7月中にも検討を開始し年内を目途に具体策をまとめる方針を示した。資源の少ない日本において、様々な選択肢を検討しながら、エネルギーのベストミックスを検討すること、また、高効率な火力発電は調整力や災害時の立ち上げ電源としても重要であり、現時点で「2030年に石炭火力で26%を供給」は維持することとしている。
その後に記者会見した小泉進次郎環境大臣は、この発表について、「パリ協定で掲げる脱炭素社会に実現に向けて、日本のゆるぎない姿勢を国際社会に示す大きな一歩になる」と評価した。
一方、自然エネルギー財団は、今回の梶山経済産業大臣の発表は、「非効率な石炭火力発電のフェードアウト」の既定方針を具体化したもので、新たな方向性を提起したものではないと指摘。各種の報道を踏まえ、今回の方針について、以下のような3つの懸念を示した。
   1.「100基休廃止」でも、2030年時点で3000万kWの石炭火力を利用
   2.CO2排出がほとんど変わらない高効率石炭火力推進路線の維持
   3.26%維持のためさらに長期の排出ロックインの危険性

  「石炭火力の完全なフェーズアウトを」を呼びかけ
自然エネルギー財団は、「気候危機回避に必要なCO2大幅削減を確実に実現するためには、エネルギー効率化の徹底と自然エネルギーの大幅拡大を進める以外にはない」とした。
同財団では、2030年の持続可能なエネルギーミックスの姿とその可能性を示すため、近日中に提言を公表する予定。2021年にはエネルギー基本計画の改定が行われると見込まれている。この改定において、石炭火力発電を完全にフェーズアウトし、自然エネルギー発電を中心とするエネルギー転換の方向性を明確にすることが、今回の経済産業省の方針を、気候危機に立ち向かう世界の努力と整合するものに発展させる道だとした。同財団は、今後とも、関係省庁、電力会社との建設的な意見交換を進めていくとしている。
(社説)石炭火力削減 温暖化防ぐ道筋を描け
  (朝日新聞デジタル 2020.07.08 5:00)
   (Diamond Online 2020.07.08 05:35)
------------------------------------------------------------
  (環境ビジネスオンライン 2020.07.09日)
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES:アイジェス)は7月3日の経済産業省「非効率石炭火力の段階的廃止」方針を分析し、「方針はパリ協定と整合的ではなく、発電部門全体での排出ネットゼロ化を目指した措置が必要」というコメントを発表しました。
  「非効率石炭火力の段階的廃止」方針に対するコメントの主要メッセージ
非効率石炭火力の休廃止を具体的に促すことは歓迎される。
しかし、今回の方針は、大型で高効率な石炭火力設備へのリプレースを進めるという従来のエネルギー政策の抜本的な転換を意味するものではなく、パリ協定の長期気温目標に向けても不十分な内容である。
休廃止が見込まれる設備は小規模なものが多い一方で、建設中・計画中の大規模石炭火力が稼働することで、2030年時点では50基、3,328万kW程度の石炭火力が残ると推計される。これは、日本の2030年排出削減目標(NDC)が想定する石炭火力発電量よりも約44TWh~102TWh少なく、CO2排出量では約3,700万トン~8,700万トンの削減となる。しかし、パリ協定と整合性のある日本の削減目標についての統合評価モデル/エネルギーモデルシナリオにおける数値と比べると不十分である。
50基のうち21基は2030年時点での稼働年数が20年以下であり、2050年まで稼働する可能性がある。この21基(約1,452万kW)のうち、炭素回収技術と相性がよいとされる石炭ガス化複合発電(IGCC)は4基(約150万kW)であり、残りは炭素回収技術の追設を想定しておらず、電力部門から長期的にCO2が排出される状態(ロックイン)が懸念される。
今回の方針は、『パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略』に明記された、パリ協定の長期目標と整合的な火力発電からのCO2排出削減や非効率石炭火力のフェーズアウトに向けた取り組みとしては不十分である。非効率石炭火力の廃止を促すだけではなく、発電部門全体での排出ネットゼロ化を目指した措置が必要となる。
  全文

時事公論「石炭火力削減 電源構成の抜本見直しを」(水野倫之)
  (NHK解説委員室 2020.07.09)
 今回の削減方針はエネルギー政策の方針転換のように見えるかもしれないが、そうではない。
 エネルギー基本計画にはおととしの改定の段階で、「非効率な石炭火力にフェードアウトを促す仕組みなど具体的な措置を講ずる」ことがすでに盛り込んであった。しかし政府はどう減らすのか具体策を打ちださないまま2年が過ぎ、国際的な批判をきっかけにようやく重い腰を上げたわけ。対応が遅いと言えるが、脱炭素に向けてもう旧式の火力を使い続けるべきではなく、削減方針を示した点は一定の評価ができる。
 ただ今回方針転換ではないため政府は、石炭火力の基幹電源としての位置づけや2030年に26%賄う方針は見直さず、効率が比較的よい石炭火力は今後も新設を認めることに。
効率が良いとは言っても天然ガスの2倍のCO2を排出するわけで、国際社会から不十分だと批判が高まる可能性も。政府はCO2などの排出を2050年に80%削減し、今世紀後半のできるだけ早い段階で実質ゼロにすることを国際的に約束しているわけで削減だけでなく一歩踏み込んで廃止に向けた道筋についても今回あわせて検討しておく必要があると思う。
 また、今回削減する分の電力について政府は、再エネと原発で賄う方針。しかしいずれも課題が多く、賄いきれなければ石炭火力削減自体に影響が出る可能性もあり、この際、電源構成を抜本的に見直していく必要。
 このうち原発については2030年に20~22%賄う方針を掲げ、30基程度再稼働させる方針。しかし信頼の回復は進まず、これまで再稼働したのは9基で、電源の割合も6%。しかも裁判所が運転停止を命じたり、テロ対策施設の完成が遅れて原子力規制委員会から事実上強制停止させられるなど、原発はいまや不安定電源に。業界団体が原子力関係各社に行ったアンケートでも半数が20~22%の達成は困難と回答。このまま目標が達成できなければその分をまた石炭火力で賄うということになりかねず、原発比率の見直しは不可欠。
 その分、政府が主力電源化を目指す再エネが期待されるが、現状17%と主要国の中でも最低レベル。普及が進まない理由の一つに送電線の空きが少なく、新規の再エネがなかなかつなげない問題が。送電線の利用は、先に建設された火力や原発が優先的に利用できる仕組み。このため、発電量が増えて送電線の容量がいっぱいになると、あとから再エネを入れようとしてもできず、送電線を設置する莫大な費用が請求され、再エネ事業を断念せざるを得ないケースも。こうした状況が続く限り再エネの拡大は困難。この点政府は再エネが優先的につなげるよう、送電線接続のルールを変える方針。再エネ事業者の意見を丁寧に聞いて、より多くの事業者が参入できるようなルールを早急に整備するのと同時に、普及を加速させるためにも2030年に22~24%となっている再エネの導入目標についてもより高く見直していくことも必要。
 政府はエネルギー基本計画を当初予定の通り、来年改定するとしているが、世界の脱炭素化への動きは早い。状況に合わせて素早く見直していかないと世界の流れに乗り遅れることになりかねない。

石炭火力100基休廃止表明(7月3日) 7月24日

梶山弘志経済産業相は3日、二酸化炭素(CO2)を多く排出する非効率な石炭火力発電所100基程度を2030年度までに段階的に休廃止する方針を表明しました。

7月3日の報道記事
石炭火力、抑制姿勢に転換 欧州「全廃路線」と一線
  (日本経済新聞電子版 2020.07.03 02:00)
■■電力会社「困難」の声
 全国の大手電力各社は電力調達の多くを石炭火力に頼っており、経営に与える影響は大きい。
中国電力の場合、合計259万キロワットの石炭火力を持っており、顧客に販売する電力のうち47%が石炭由来の電力だ。北陸電力は同50%で、比較的石炭の依存度が低くなっている東京電力ホールディングスでも20%を占めている。
段階的に建て替えや廃止を進めているといっても、老朽化した発電所に頼っている地域も少なくない。中国電力の下関発電所1号機(山口県下関市)は稼働から53年が経過し、Jパワーの高砂火力発電所1号機(兵庫県高砂市)も52年たっている。
大手電力からは「基準が決まっていないので何とも言えないが、9割の石炭を廃止するのは困難だ」(東電関係者)との声があがる。西日本が地盤のある電力会社は「石炭を廃止する以上、国が原子力発電所の新増設を後押しすべきだ」と話した。
  (SankeiBiz 2020.07.03 05:00)
梶山経済産業大臣の閣議後記者会見の概要
  (経済産業省 2020.07.03 11:13~11:29)
非効率石炭火力のフェードアウトに向けた検討
まず1点目、資源の乏しい我が国において、エネルギー安定供給に万全を期しながら脱炭素社会の実現を目指すために、エネルギー基本計画に明記している非効率な石炭火力のフェードアウトや再エネの主力電源化を目指していく上で、より実効性のある新たな仕組みを導入すべく、今月中に検討を開始し取りまとめるよう、事務方に指示をいたしました。
具体的には、2030年に向けてフェードアウトを確かなものにする新たな規制的措置の導入や、安定供給に必要となる供給力を確保しつつ、非効率石炭の早期退出を誘導するための仕組みの創設、既存の非効率な火力電源を抑制しつつ、再エネ導入を加速化するような基幹送電線の利用ルールの抜本見直し等の具体策について、地域の実態等も踏まえつつ検討を進めていきたいと考えております。
また、系統の効率的な利用を促すことで、再エネの効率的な導入を促進する観点から検討が進められております発電側課金についても、基幹送電線の利用ルールの見直しとも整合的な仕組みとなるよう見直しを指示をいたしました。
詳細は、事務方から説明をさせたいと考えております。
質疑応答
Q: 大臣、小泉環境大臣と今日の発表は合意されているんでしょうか。
A: 合意はしていないが、政府としては合意していますよ。それは官邸も含めて。
Q: 小泉大臣と話し合っていますか。
A: 小泉大臣とは折に触れて話し合ってあります。閣議で席が隣ですので。
  (一般社団法人環境金融研究機構(RIEF) 2020.07.03 12:21:37)
 経済産業省が旧式石炭火力発電所を約100基休廃止の方針を打ち出す中で、2つの石炭火力が新たに営業稼働した。電源開発(Jパワー)が広島県竹原市と茨城県鹿嶋市で建設を進めてきた超々臨界圧石炭火力(USC)発電所が相次いで動き出した。USCは旧式石炭火力よりCO2排出量は少ないが、天然ガス火力の2倍の排出量で、EU等では廃止対象になっている。経産省の「100基休廃止」方針は、旧式からUSCへの転換策でしかなく、「石炭依存」を基本的に維持していることを示す。
 USC型の発電所は現在、国内に26基(2018年現在)あるほか、2019年の稼働分と現在建設中が16基ある。これらは建設時期が新しいので、ロックイン効果が続き、2030年以降も3000万kW以上の運転を続ける。USC42基のCO2排出量をJパワーの広島発電所と同等とすれば、合計で年間1億3270万㌧となる。これは日本の温室効果ガス排出量の1割を上回る。旧式石炭火力の休廃止でCO2排出量は約6400万〜1億600万㌧削減される見通しだが、その削減分を上回る排出を続けることになる。
 さらにKIKO[気候ネットワーク]は、今回、稼働を始めた両USC型火力発電所が立地する県が、いずれも温暖化の加速で深刻な気候災害が起きた県である点も指摘している。広島では2年前の西日本豪雨で、多くの人命が失われ、被害総額も過去最高となった。一方の茨城県でも、2015年の常総市周辺での記録的豪雨で、鬼怒川の堤防が決壊、甚大な被害が出た。
 石炭火力が主要な汚染源として、温暖化の影響を加速し、その被害を現実に受けた地域で、新たに「元凶」となる石炭火力を稼働させるという「暴挙」に映る。だが、事業主体はもちろんのこと、地元自治体も、まるで別問題であるかのように振る舞っている。
 もちろん、温暖化の影響は石炭火力の稼働地元だけではなく、グローバルに影響する。今夏はすでにロシアのシベリアで38℃の高温が記録され、永久凍土の溶融による建物事故のニュースも届く。南極の温度も、世界平均より3倍のスピードで上昇していることも科学的観測で確認されている。にもかかわらず、日本の行政と電力会社があくまでも石炭に固執するのはなぜなのか。エネルギー供給への不安か、変わることへの不安か、あるいは利権の維持か……
石炭火力「減らす仕組み作る」 経産相、輸出厳格化も
  (日本経済新聞電子版 2020.07.03 11:51)
  (東京新聞 TOKYO Web 2020.07.03 13:50)
   ◆政府が従来のエネルギー政策を転換
脱炭素化に向け再生可能エネの普及に本腰を
<解説> 梶山弘志経産相がエネルギー効率が悪い石炭火力発電所の休廃止を表明した。CO2排出を抑える脱炭素化に向けた一歩とはなるが、石炭火力の全廃方針を掲げる欧州各国に比べれば見劣りする。脱炭素化を進める上で重大事故のリスクがある原発に頼らず、CO2排出が少ない再生可能エネルギーの比率をどう高めるか。政府の本気度が問われる。
 日本は東日本大震災以降、原発の代替電源として液化天然ガス(LNG)や石炭火力の比率を高めた。石炭は価格が安く、安定的に調達できるとして、経産省や産業界は「石炭火力維持」の方針を崩さずにきた。
 一転、旧型の石炭火力休止に踏み切った背景には、世界で強まる脱炭素化の潮流がある。石炭火力はCO2の排出量が天然ガス火力の約2倍と多く、ドイツや英国などは石炭火力の全廃方針を掲げる。
 今後は石炭比率を下げながら、電力の安定供給をどう実現するかが課題となる。原発は安全対策コストがかさみ、地震大国の日本での再稼働は現実性に乏しい。再生エネの普及策に本腰を入れ、環境と暮らしを両立するエネルギー政策を立案する必要がある。(石川智規)
  (時事ドットコム 2020.07.03 18:34)
[社説]電源全体を見据えた石炭火力の休廃止に
  (日本経済新聞電子版 2020.07.03 19:05)
北陸電力、発電5割頼る石炭火力に暗雲 最安の源泉
  (日本経済新聞電子版 2020.07.03 19:30)
低効率石炭の休廃止、自家発電も対象 経産省方針
  (日本経済新聞電子版 2020.07.03 20:30)
WWFは、日本政府が石炭火力発電所を大幅に廃止する方針を歓迎する
  ただし、新規増設や原子力によってその廃止分を埋めてはならない
  (WWFジャパン[World Wide Fund for Nature] 2020.07.03)
石炭火力の完全なフェーズアウトを:経済産業省の方針では2030年に3000万kWの石炭火力を利用(自然エネルギー財団)
1.「100基休廃止」でも、2030年時点で3000万kWの石炭火力を利用
 休廃止の対象となる100基には10万~20万kW程度の小規模のものが多い。これに対し、2030年でも利用を予定している「高効率」石炭火力は、60万kW~100万kWクラスの大規模のものが中心であり、合計約2000万kWの発電設備が存在している。これに現在建設中の新設石炭火力を加えれば2900万kW程度となる。更に非効率石炭火力の1割は残されるので、全体では、2030年時点でも3000万kW程度の石炭火力が残存することになる。
 パリ協定のめざす二酸化炭素削減目標を実現するためには、先進諸国では2030年までに石炭火力発電の利用を全廃することが必要とされており、欧州各国をはじめ多くの国が2030年前後の全廃をめざしている。今回の方針は、こうした世界の努力とは全く異なる。
2.二酸化炭素排出がほとんど変わらない高効率石炭火力推進路線の維持
 エネルギー基本計画では、非効率な石炭火力のフェードアウトと同時に「石炭火力発電の高効率化・次世代化を推進する」と明記しており、今回の公表でも高効率と称する石炭火力を維持することを明確にしている。これらの高効率石炭火力も、二酸化炭素排出量は「非効率」なものより数%しか減らない。日本が批判されてきたのは、実際には排出削減に殆ど役立ない「高効率石炭火力」をクリーンコールと称して推進してきたからに他ならない。今回の発表はこの「クリーンコール」路線を継続することを明確にしたものである。
3.26%維持のため更に長期の排出ロックインの危険性
 エネルギー基本計画では「2030年に石炭火力で26%を供給」するという方針を示している。2030年に残存する3000万kWで供給可能なのは、20%程度と見込まれるため、26%を供給するためには、更に多くの石炭火力発電を新設することが必要になる。巨額の初期投資が必要な石炭火力は、いったん建設されれば40年程度の利用が目指される。このようなことが行われれば、今世の後半の長い期間にわたって大量の二酸化炭素の排出を続けることになる。
政府の海外石炭火力支援方針の改訂方向性を危惧 ~進行中案件も含めて支援中止を決定すべき~
(「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、気候ネットワーク、国際環境NGO 350.org Japan、国際環境NGO FoE Japan、メコン・ウォッチ)
7月3日付の報道に、「石炭火力発電輸出 支援厳格に 政府検討 非効率型を除外」と題する記事が掲載されました。これまで次期インフラシステム輸出戦略骨子において海外の石炭火力発電事業の公的支援中止を打ち出すよう要請してきた私たち環境NGOは、記事で伝えられる政府内における検討の方向性を非常に危惧しており、すでに進行中の案件も含め、海外石炭火力発電事業への公的支援の全面中止を改めて要請します。
記事では、「二酸化炭素(CO2)を多く排出する非効率な石炭火力発電の輸出は、原則として支援しない方針を政府文書に明記することも含めて検討している」と報道されています。しかし、現行政策(エネルギー基本計画に示されたいわゆる輸出支援の4要件)でも、「原則、世界最新鋭である超々臨界圧(USC)以上の発電設備について導入を支援する」としています。したがって、技術を限定し、条件付けを残すなら、単に言い回しを変えるだけで、実態には何も変化をもたらさない可能性があります。
また、「CO2の排出量が少ない高効率の発電所であっても、支援する条件を厳しくすることで、温室効果ガス削減に取り組む姿勢を示す」と報道されていますが、そもそも高効率であっても石炭火力はパリ協定の長期目標と整合しないことが明らかであることから、日本政府の現行方針が国内外から批判されています。石炭火力でも高効率なら支援するという姿勢を続ける限り、パリ協定の目標達成に後ろ向きであるとの日本に対する評価は覆らないでしょう。
さらに、記事では「進行中のプロジェクトについては、継続する」との方針も示されています。これは、国際協力銀行(JBIC)及び日本貿易保険(NEXI)が支援検討中のブンアン2(ベトナム)、国際協力機構(JICA)が支援を検討見込みのインドラマユ(インドネシア)及びマタバリ2(バングラデシュ)の3案件を指していると考えられますが、すでに今後の支援対象案件として実質的に残された案件はこの3案件しかないことから、これらを除外して方針を立てることは、今回の方針見直し自体の意義を損なうものに他なりません。加えて、これらの案件においても、パリ協定の長期目標との不整合性、支援対象国における電力供給過剰状態の深刻化、再エネのコスト低下に伴う経済合理性の欠如、現地の環境汚染や住民への人権侵害など、様々な問題があり、支援を行うべきではありません。
したがって、7月上旬にも閣議決定されると見込まれる次期インフラシステム輸出戦略骨子では、進行中の案件を含めたすべての海外石炭火力発電事業への公的支援を例外なく中止するという方針を掲げるべきです。

経産省の石炭火力発電削減方針(7月2日) 7月23日

7月2日、政府は古い非効率な石炭火力発電所の発電量を2030年度までに9割程度削減する方向で調整にはいりました。

7月2日の報道記事
  (ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト 2020.07.02 13:18)
  ( ロイターニュース 朝日新聞デジタル 2020.07.02 13:18)
  ( NHK NEWS WEB 2020.07.02 22:37)
  ヨーロッパなどは「脱石炭」加速
  日本では主力電源 エネルギー政策の見直しも課題に
   原発での代替は困難か 根本的な議論が必要に
  「日本は温暖化対策に消極的」国際的に批判も
  日商 三村会頭「バランスのとれた政策を」
  東電社長「引き続き国と連携して進める」
  専門家「温室効果ガスの排出をゼロにする道筋を」
  専門家「コストは覚悟しなければならない」

  (一般社団法人環境金融研究機構(RIEF) 2020.07.02 15:49:11)
旧式の石炭火力9割休廃止 CO2削減へ100基 30年度・政府
  (時事ドットコムニュース 2020.07.02 17:48)
政府は2日、国内にある約140基の石炭火力発電所のうち約110基を占める旧式発電所について、2030年度までに9割相当、100基程度を休廃止の対象とする方針を固めた。旧式は二酸化炭素(CO2)の排出量が多いため、削減方針を打ち出して脱炭素化の姿勢を国際社会にアピールする。石炭火力を重要な電源と位置付けてきた日本のエネルギー政策の大きな転換点となる。……
  (毎日新聞デジタル 
低効率の石炭火力、10年で9割削減 新型は推進の方針(伊藤弘毅、桜井林太郎) 
  (朝日新聞デジタル 2020.07.02 22:25)
経済産業省は、二酸化炭素(CO2)を多く出す低効率の石炭火力発電所による発電量を2030年度までに9割削減する方針を固めた。地球温暖化対策を重視する姿勢を打ち出したい考えだ。だが、高効率な石炭火力は引き続き利用、建設を認め、石炭火力を安定的な電源として重視する考えも変えない見通しだ。……
  (特定非営利活動法人気候ネットワーク 2020.07.02)
  (特定非営利活動法人気候ネットワーク 2020.07.06)
 1.石炭火力発電所の状況
 2.政府の「100基休廃止」の意味
  (1)基数と設備容量
  (2)各電力会社管内の全設備に関する非効率石炭火力が占める割合
  (3)CO2排出量と石炭消費量への影響
  (4)エネルギーミックスへの影響
  (5)2050年目標への影響
 3.政府方針の問題点と改善策
 参考資料


「石炭火力輸出の中止と自然エネルギー支援への転換が必要な4つの理由」(自然エネルギー財団) 7月22日

  自然エネルギー財団202006_01

  資料の趣旨
政府では石炭火力輸出政策の見直しが行われています。小泉環境大臣は、設置した有識者検討会の報告を踏まえ「脱炭素への移行が促進されない限り輸出しない」という脱炭素原則への転換を打ち出しました。一方、経産省の懇談会報告書は、自然エネルギービジネスの重要性を述べながら、依然として石炭火力発電の活用を合理化する議論を含んでいます。日本のエネルギーインフラ輸出が脱炭素化に貢献するものとなるよう、本資料では、石炭火力と脱炭素化両立論の誤り、東南アジアの自然エネルギービジネスの可能性の大きさに関するデータを提供し、輸出政策転換が必要な4つの理由を提起します。
〈目次〉
石炭火力輸出の中止と自然エネルギー支援への転換が必要な4つの理由
  ー「インフラシステム輸出戦略」見直し議論によせてー
  自然エネルギー財団202006_02
これまでの経緯と本資料の趣旨
自然エネルギー財団は本年(2020年)2月12日に、「日本の石炭火力輸出政策の5つの誤謬」を公表し、それまで、石炭火力輸出を正当化するために主張されてきた議論が全く誤ったものであることを、データを示して明らかにしました。
■ この報告書は小泉環境大臣の記者会見、国会質疑、新聞社説などでも扱われ、4月1日には小泉大臣の下に、「石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者ファクト検討会」(以下、「環境省検討会」と表記)が設置されました。
■ 環境省の求めにより、自然エネルギー財団はこのファクト検討会に対し、4月21日「アジアで進む脱炭素の動き」を提出し、日本とともに石炭火力輸出を進めてきた韓国・中国での変化、東南アジア各国での脱石炭の動きを紹介しました。環境省検討会のとりまとめは5月26日に公表され、小泉大臣は脱炭素化原則への転換をめざすと宣言しました。
売れるから売るではなく脱炭素への移行が促進されない限り輸出しない(脱炭素化原則)への転換
■ 一方、経済産業省も4月から「インフラ海外展開懇談会」を開催し、「エネルギー・電力を取り巻く社会情勢を踏まえた施策の検討に必要なファクトの整理・検証」を行いました。5月21日にはその中間とりまとめ(以下、「経産省報告書」と表記)が公表されました。この中でも「拡大する再エネ市場への日本の貢献の重要性」を指摘するなど、積極的な方向が提起されています。他方、残念ながら、依然として東南アジアでの自然エネルギーポテンシャルを過少評価したり、パリ協定とは整合しないIEAのシナリオを前提とするなど、石炭火力発電活用の合理化につながる様々な議論が含まれています。
■ こうした経緯を踏まえ、政府のインフラ輸出戦略の徹底した見直しが行われ、石炭火力輸出の完全な停止と自然エネルギー拡大を進める新たなエネルギービジネスへの転換が行われるよう、本資料を公表するものです。

  自然エネルギー財団202006_03
石炭火力輸出の完全な中止と自然エネルギービジネスへの転換が必要な4つの理由
1 「日本の石炭火力発電効率は世界でトップ」という主張は、もはや通用しない
■ 経産省報告書、環境省検討会への電力会社提出資料でも、石炭火力輸出政策の最大の根拠だった「日本の石炭火力発電効率は世界でトップ」という主張が、もはや通用しないことが明確に。
■ 鈴木外務副大臣は「日本が生産をしている1段再熱のUSCよりも、中国のみで生産できている2段再熱のUSCのほうが効率がよく、費用的にも日本のものに比べて高くはないという記述がある。もし、この記述が本当だとすれば、日本の技術が優れているという輸出の前提が変わってしまう」との見解を表明(環境省検討会第3回発言
2 「石炭火力と脱炭素化の両立」の非現実性
■ 経産省報告書が提唱するIGCC、CCSなどの「脱炭素化」技術は、削減効果が小さく、高コスト、技術も未確立。事業者自身の資料によっても、現在の輸出プロジェクトに利用できるものではないことが明らか。
3 東南アジアには自然エネルギー開発、送電網整備など大きなビジネスチャンスが存在
■ 東南アジアには、電力需要を満たすために十分以上の大きな自然エネルギーポテンシャルがある。
■ 太陽光などの発電コストは急速に低下し、石炭火力に対して価格競争力を有するようになっている。
■ 既にインドシナ半島には国際送電網が存在。島しょ部でも建設・計画が進む。その促進こそインフラ輸出のビジネス機会。
4 多くの企業・金融機関が既に石炭から自然エネビジネスへの転換を進めている
競争力を失った日本の石炭火力プロジェクト
環境省[84p]、経産省の報告書[3p、4p]、事業者自身の資料[JERA23p、電源開発33p]でも、石炭火力輸出の最大の根拠だった主張が崩れたことが明確に
  競争力を失った日本の石炭火力プロジェクトー長期性能の比較
■経産省報告書等では、スペック値に差がないことを認めつつ、「長期的な稼働期間での実績」「長期的品質の確保」では、日本の石炭火力発電に優位性があると述べている。
■しかし、電力会社、重電メーカー、商社などで実際に電力ビジネスを行ってきた専門家のネットワーク「電力情報技術ネットワーク(NEPIE)」は、「品質や耐久性も遜色がなくなりつつある」との見解を示している(環境省検討会第3回提出資料)。

2 「石炭火力と脱炭素化の両立」の非現実性①IGCC
■経産省報告書は、IGCCなどで「石炭火力発電の有効利用と脱炭素化を矛盾なく両立させる」方針を示している。
■しかしIGCC,CCSなどの技術は、削減効果が小さい、高コスト、技術未確立など、実用性のあるものではない。
  「石炭火力と脱炭素化の両立」の非現実性②CCS
■ 経産省報告書はCCSを石炭火力脱炭素化技術として提唱
■しかし、かつてCCS開発を進めたEUは実証プロジェクトの失敗、自然エネルギーコストの低下を踏まえ、2050脱炭素戦略では、電力部門の削減対策としてCCS技術は一切活用を予定していない。
■ 世界全体でも、これまで火力発電所に適用されたCCSは小中規模の2件だけ。それも石油の増産を狙うEORプロジェクトであり、 排出削減対策としてのみ実施されたものではない。
■ 発電コストも高い上に、CCSをつけても排出ゼロにはならない。
■ 今から、火力発電所の削減対策としてCCSを進めるのは、全くの誤り。政府の長期戦略はCCSを火力発電対策として提唱しており、日本政府の気候変動対策の誤りの代表例である。
  CSS付き石炭火力が使えない5つの理由

3 東南アジアの自然エネルギービジネスの大きな可能性①開発ポテンシャル
■経産省報告書は、東南アジアでは気候条件のため、太陽光・風力発電の大規模導入が難しいとしている。
■世界には、日照量、風況で東南アジアより良い地域は存在するが、東南アジアの導入ポテンシャルは十分に大きい。
 太陽光だけでも、東南アジアの2040年電力需要をはるかに上回るポテンシャル
● 環境省検討会ファクト集やJ-Power提出資料(第2回)が引用している東南アジアの分析報告書*によると、石炭火力(50~80ドル/MWh)と比較してもコスト競争力のある太陽光導入ポテンシャルは8TW以上と試算される。
● この場合、設備利用率を10%と低く見積もっても、太陽光だけでIEAの公表政策シナリオ(SPS)が見込む東南アジアの2040年電力需要(2,345TWh)の3倍の発電量になる。
● タイ、ベトナムでは、LCOEが50~100ドル/MWhの太陽光ポテンシャルが、最も制限された技術シナリオでも、2017年の電力供給実績の4倍以上、ミャンマー、カンボジアでは100倍以上あると試算されている。
なお、環境省ファクト集やJ-Power提出資料は「再エネで需要を満たす場合、国土の6割を占める可能性もある。」「所要敷地面積も大きい。」としている。しかしこれらが引用しているデータは、150ドル/MWh以下の発電コストで太陽光と風力を設置できる面積を表したものであり、電力需要を満たすのに必要な面積ではない。実際、ミャンマーやカンボジアで引用データの面積に太陽光発電を設置した場合、それぞれの国の2017年供給量の550倍、595倍も発電されることになる。
 東南アジア各国には、風力、地熱など多様で豊富な自然エネルギー資源が存在
● 東南アジアの風力資源は太陽光よりは限定的。しかし、ベトナムとミャンマーでは現在の全電力供給量の数倍のポテンシャルがある。フィリッピン、タイにも適地がある。
● インドネシアとフィリピンは地熱発電のポテンシャルが非常に高く、ミャンマー、ラオス、カンボジア、マレーシアでは水力発電の大きな可能性がある。地域に応じた自然エネ開発を進めることで、東南アジアの自然エネルギーポテンシャルを最大限に活用。
● 東南アジア各国の風力の設備利用率についてブルームバーグNEFは18-32%と見積もっている。
● 欧米には劣るものの、フィリピンやベトナムでは導入量世界一の中国と大きく変わらない。
● ミャンマー、ベトナムなどでは、海沿いや内陸で平均風速6~7m/秒の地域があり、場所によっては30%の設備利用率を見込め、低コストの導入ポテンシャルが大きい。
●台風の影響が大きい台湾は対策の知見を含めたノウハウを獲得し、ここを拠点としてアジア地域に展開する競争が始まっている。日本企業も参入。
 ●日立は台湾で5.2 MW風力発電システム21基(109.2MW)の機器製造からO&Mを一括で受注(2018年4月)
 ●JERAは台湾の洋上風力フォルモサ1,2に続き「フェルモサ3」への参画を決めた。出力は約200万キロワットと世界最大級(2020年3月)
 東南アジアの自然エネルギービジネスの大きな可能性②太陽光・風力のコスト低下
● 経産省報告書は「石炭資源が豊富かつ安価なASEANでは、石炭火力が当面コスト競争力を有する」としている。
● 実際には現時点でも、最もコスト競争力のよい石炭と自然エネプロジェクトどうしで比較すると、すでに同等の水準。
● 太陽光、風力発電のコストは低下し続けており、石炭火力がコスト競争力を有するのは2025年頃まで。
● また、経産省が脱炭素化のために必要とするIGCCやCCSを導入すれば、コスト増加を招き、更に競争力を失う。
 東南アジアの自然エネルギービジネスの大きな可能性③国際送電網
● 経産省報告書は、欧州と異なり「ASEANは地理的状況等の課題もあり、国・地域ごとの独立性が高い系統」と記述。
● 実際にはインドシナ・マレー半島には国際送電網が存在。タイは欧州並みに電力の13%を国際連系線で調達。
● 島しょ部でも建設・計画が進行中。2035年に向けた更に大規模な構想も公表されている。
● IEAも「アセアンの国際送電網を拡大することは、経済的、系統運用的、環境的な利益をもたらす」と指摘。
● 多様な自然エネルギー資源を広域的に活用するアセアン国際送電網は脱炭素化に貢献。今後のビジネスとして大きな可能性。

(参考)太陽光・風力発電と石炭火力発電の正しいコスト比較とは
● 経産省報告書は「再エネ発電は系統側コストまで勘案する必要がある」とするが、太陽光・風力発電の系統接続に関するIEAの報告書では、「変動型自然エネ発電シェア45%までは、長期的には費用コストの大きな増加なしで実現できる」としている。
● 概ね10%を超えると追加投資(系統増強、予備力、蓄電池、デマンドレスポンス等)が必要とするIEA報告書もあるが、蓄電池コストは急速に低下している。系統増強、デマンドレスポンスも経済的なメリットが大きい。
● 経産省報告書が依拠する化石燃料発電が2040年にも5割を占めるIEAシナリオでは、エネルギー起源CO2が60%も増加し、パリ協定と整合しない。
● 輸出政策の検討では、石炭火力コストは二酸化炭素増加の環境コストを加えて比較すべき。

4 多くの企業・金融機関が既に石炭から自然エネビジネスへの転換を進めている
■環境省検討会に提出された各企業の資料からは、金融機関、商社は脱石炭の方向に舵を切っており、電力会社も、石炭火力の必要性は言いつつ東南アジアでは新規開発を予定していないことが明らかになった。
■ごく一部の企業以外、日本のビジネスは脱炭素への選択を行っている。
■ 経産省報告書の参考資料にも、自然エネルギー拡大と電力系統の柔軟性確保を、今後のビジネスチャンスとして取り組む多くの日本企業が紹介されている。

石炭火力輸出の中止と自然エネルギー支援への転換が必要な理由まとめ

1. 日本政府はパリ協定にコミットしており、「世界の脱炭素化を牽引するとの決意の下、高い志と脱炭素化のための取組を積極的に推進していく姿勢を力強く内外に示」すとしています(パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略)。したがって、政府のインフラ輸出戦略もパリ協定の実現に向けた戦略と整合的であることが必要です。
2. 経産省報告書は、IEAの公表政策シナリオに依拠して「2040年には、化石燃料発電の割合は相対的に減少するが、例えばアジア太平洋地域では依然5割を占めることが見込まれ」るとし、これを石炭火力支援を継続する理由としています。しかし、公表政策シナリオでは、2040年の東南アジアのエネルギー起源CO2排出量は2018年より60%も増加してしまい、パリ協定の目標と整合しません。公表政策シナリオを前提として日本のインフラ輸出戦略を決めるのでは、パリ協定に対する政府のコミットメントと矛盾してしまいます。
3. 石炭火力輸出を合理化する最大の根拠であった「日本の石炭火力発電効率は世界でトップ」という主張が根拠を失う一方で、東南アジアにおける自然エネルギー開発、送電網整備には、大きなビジネスチャンスが存在しています。
4. 環境省検討会においても、経産省報告書においても、多くの日本企業が自然エネルギー拡大とその関連ビジネスに積極的に乗り出していることが示されています。
5. 世界の気候変動対策に貢献するためにも、日本のビジネス展開の促進のためにも、「インフラ輸出戦略」を見直し、石炭火力輸出政策を完全に中止し、自然エネルギービジネス支援に転換すべき時です。

------------------------------------------------------------

※経済産業省は5月21日、昨今の社会情勢を踏まえた上で、電力・エネルギー分野のインフラシステム輸出を推進していくための取り組みの方向性を示した「インフラ海外展開懇談会」の中間取りまとめ参考資料を公表した。

 
 小泉環境大臣のリードの下で設置された環境省の「石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者ファクト検討会」(以下、ファクト検討会)が本日、結果をとりまとめ発表しました。同検討会は、政府が「パリ協定の目標達成に向け、石炭火力も含め世界の脱炭素化を進めるための取組については、石炭火力輸出支援の4要件の見直しについて、次期インフラシステム輸出戦略骨子に向け、関係省庁で議論をし結論を得る」としていることを受け、石炭火力輸出への公的支援に関するファクトを整理し、その方向性の検討を行ってきました。
 ファクト検討会は、分析レポートの中で、石炭火力発電の公的支援について、エネルギー構造をロックインする恐れや座礁資産化するリスクがあるため長期的な視点が必要だということ、また政府が閣議決定したパリ協定長期戦略の規定、すなわち脱炭素社会の実現を目指すことやパリ協定の長期目標と整合的なインフラ国際展開を進めるという内容に反するということを指摘し、「今後の公的支援を、ビジネスへの支援という観点にとどまることなく、相手国の脱炭素化という長期的な視点を併せ持ち、脱炭素社会への現実的かつ着実な移行に整合的な『脱炭素移行ソリューション』提供型の支援へと転換していく重要性について、認識を共有した」と整理しています。
 一方、経済産業省下におかれた「インフラ海外展開懇談会」の5月11日の中間取りまとめでは、石炭火力発電についてはこれまでの既定通りに、高効率石炭火力を選択せざるを得ない国には支援を続けるとの方向性が示されています。しかし、そのような現行の方針を続けることの課題が、今回のファクト検討会で示されたと言えます。
 石炭火力発電所の新規建設は、たとえ次世代型の高効率技術であってもパリ協定との整合性がないことが明らかにされている上、経済面でも石炭火力発電の抱えるリスク評価が求められるようになっていることが指摘されています。また、対策の一つとされる次世代技術CCS(二酸化炭素回収・貯留)は、コスト・技術等の観点から、パリ協定の目標に資する時間軸での実現可能性は見い出せません。さらに、受け入れ国では大気汚染の悪化などを含む環境社会配慮面での問題が指摘されるなか、石炭火力への反対運動が高まっており、世界のエネルギー情勢は刻々と変化しています。もはや、石炭火力発電について技術や国の情勢から支援の是非の議論をする段階ではありません。
 この先、6月にも閣議決定されると見込まれる次期インフラシステム輸出戦略骨子では、ファクト検討会で示された方向性を踏まえ、政府として、新規計画および現在進行中・建設中を含めたすべての石炭火力発電所の建設および石炭火力発電技術の輸出に対する公的支援を止めるという方針を決定し、それを速やかに実行に移すべきです。

「アジアで進む脱石炭火力の動き」(自然エネルギー財団) 7月21日

自然エネルギー財団のインフォメーション・パッケージ「アジアで進む脱石炭火力の動き」(2020年4月)を読みました。
  自然エネルギー財団202004_01

  資料の趣旨
自然エネルギー財団の「日本の石炭火力輸出政策5つの誤謬」は、石炭火力輸出を合理化してきた議論の誤りを明らかにした。本資料では、石炭輸出政策の再検討に際し、考慮の必要な3つの動きを提示する。
1 韓国・中国の変化の動き
2 東南アジア各国で石炭火力脱却の動き
3 IEA「持続可能シナリオ」現実化の動き
日本政府が、石炭火力輸出政策を中止し、自然エネルギー拡大支援へ日本の力を集中することを期待する。

目次
石炭火力からの脱却が始まったアジア
  ー 石炭火力輸出を中止し、自然エネルギー拡大支援へ日本の力を
自然エネルギー財団202004_02
 ■日中韓の石炭火力輸出に対する国際的な批判
  ■日中韓3国が、海外石炭火力融資の大半を占める。
韓国・中国の石炭火力輸出政策に変化の動きー特に韓国は日本よりも先に脱石炭に転換する可能性
  ■韓国:国内石炭火力の「劇的な削減」、石炭火力輸出政策の見直しが進む。
  ■中国:石炭火力輸出は鈍化傾向
東南アジア各国で石炭火力から脱却の動き
  ■ベトナム:石炭より自然エネルギー優先を明確化(2020年2月)
  ■インドネシア:「20年以上経過した石炭火力を自然エネルギーに建て替える」(2020年1月)
  ■バングラデシュ:供給力過剰が表面化、電源開発を見直し(2019年5月)
  ■マレーシアとカンボジアのオークションでも、太陽光発電が石炭火力より安価に(2019年、2020年)
東南アジアの電力の95%は自然エネルギーと天然ガスで供給:IEA「持続可能シナリオ」現実化の動き
  ■自然エネルギーは2040年までの電力需要増の全てを供給し、現在の石炭火力の約半分を代替する。
  ■東南アジア各国で、自然エネルギー価格の低下が急速に進んでいる。

日中韓の石炭火力輸出に対する国際的な批判
日中韓3国が、海外石炭火力融資の大半を占める。

韓国・中国の石炭火力輸出政策に変化の動き
  ■韓国:国内石炭火力の「劇的な削減」をめざす
  ■韓国:石炭火力輸出見直しが進む
    国民の反感+石炭火力ビジネス不振の現実が見直しを迫る
  ■中国:石炭火力輸出は減少の方向

2 東南アジア各国で石炭火力から脱却の動き
  ■ベトナム:石炭より自然エネルギー優先を明確化(2020年2月)
  ■インドネシア:20年以上経過した石炭火力を自然エネに建て替え
  ■バングラデシュ:供給力過剰が表面化、電源開発を見直し
  ■マレーシアとカンボジアのオークションでも、太陽光発電が石炭火力より安価に

3 東南アジアの持続可能な未来
  ■東南アジアの未来3つのシナリオ:日本はどの未来を支援するのか
  ■東南アジアの電力の95%は自然エネルギーと天然ガスで供給可能
  ■東南アジアでの自然エネルギー電力の価格低下と導入加速

石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者 ファクト検討会」提出資料
 「アジアで進む脱石炭火力の動き」まとめ

自然エネルギー財団202004_14
1 これまで日中韓3か国が東南アジアなど世界への石炭火力輸出政策の大半を行ってきたが、韓国では石炭推進政策の見直しが進んでいる。中国の石炭火力輸出プロジェクトも頓挫する事例が発生しており、輸出規模が減少している。
2 ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、マレーシア、カンボジアなど、東南アジア各国で、自然エネルギーの急速な価格低下、電力供給力の過剰などにより、石炭火力からの脱却が始まっている。
3 東南アジアの電力需要は2040年までに倍増する見込みだが、IEAは「世界エネルギー見通し2019(WEO2019)」の中で、増加分の全てを自然エネルギーが満たし、天然ガス火力とともに電力の95%を供給する、パリ協定と整合する持続可能シナリオを提示している。
4 日本がパリ協定を踏まえ世界とアジアの気候変動対策に貢献するのであれば、石炭火力輸出政策を中止し、各国の自然エネルギー拡大の支援に集中すべき。
5 残存する東南アジア各国の石炭火力プロジェクトも見直し・中止が加速していく。「落穂ひろい」ビジネスではなく、未来につながるエネルギービジネスへの転換が必要。
※この資料は、環境省の「石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者ファクト検討会」(座長:高村ゆかりさん)第2回(2020年4月21日)に提出されたものです。ヒアリングでの委員からの質問と回答、検討会のまとめ「石炭火力発電輸出ファクト集2020」に関する分析レポート」、『石炭火力輸出ファクト集2020』(2020年5月)もご覧下さい。
  質疑回答(4月21日)
  資料3-4自然エネルギー財団提出資料及び質疑回答_1資料3-4自然エネルギー財団提出資料及び質疑回答_2資料3-4自然エネルギー財団提出資料及び質疑回答_3

「日本の石炭火力輸出政策5つの誤謬」(自然エネルギー財団) 7月18日

自然エネルギー財団のインフォメーション・パッケージ「日本の石炭火力輸出政策5つの誤謬」(2020年2月)を読みました。
   自然エネルギー財団202002_01

   資料集趣旨
日本の石炭火力政策のもう一つの問題点は、東南アジアなど海外への石炭火力輸出政策 を続けていることです。政府や一部の企業などは、「日本の最新石炭火力は、高効率であり、世界の温室効果ガス削減に貢献する」など、あれこれの弁明をしています。しかし、これらの言い訳は、世界では全く通用せず、国際世論の中で厳しい批判にさらされています。この資料集は、石炭輸出政策を正当化する議論の誤りを事実にもとづいて明らかにするものです。気候危機との戦いにとって決定的に重要な2030年への10年が始まる今年、今後のエネルギー政策の議論が、正確なデータ・資料をもとに進められるよう期待して、この資料を発表します。
目 次
■日本の石炭火力輸出に対する国際的な批判の高まり 
■石炭火力輸出正当化論の5つの誤謬
 自然エネルギー財団202002_03
 
現実1 「高効率な石炭火力発電(USC)」でもCO2削減はわずか数% ガス火力の2倍の排出量
 自然エネルギー財団202002_04
現実2 高効率石炭火力に更新しても削減できるのは2割弱 8割以上の排出を長期間、固定してしまう
 自然エネルギー財団202002_05
現実3 今や中国の石炭火力発電は技術力で日本と同等 日本の60倍以上の建設実績
 自然エネルギー財団202002_06
現実4 (1) 石炭火力の公的輸出実績は、インフラ輸出目標30兆円の1%程度
 自然エネルギー財団202002_07
現実4 (2) 高効率石炭火力の価格競争で中国に完敗 日本の公的輸出案件でも中国・韓国の技術を採用
 自然エネルギー財団202002_09
現実5 東南アジア諸国でも自然エネルギーが拡大中 石炭火力からの転換支援こそ、日本の役割
 自然エネルギー財団202002_10
 (参考資料) アジアの石炭火力に融資する邦銀と外銀の動向

※「メガバンクが石炭火力に融資停止 環境団体は「海外に比べ周回遅れ」」(東京新聞TOKYO Web 2020年6月27日 16時57分 )


 東日本大震災以降、原子力発電の稼働停止による電力不足を補うことなどを理由に掲げ、約2,100万kWもの石炭火力新増設計画が発表されました。これまでに、約700万kWの建設計画が中止またはLNGやバイオマス発電等へ計画変更されましたが、未だに建設中、または着工前の新増設プロジェクトが20基、1,100万kW以上もあります。
 これらのプロジェクトの多くは、80%から90%という高い設備利用率を想定していますが、電力広域的運営推進機関の推計によっても、2028年の全国平均の設備利用率は70%以下になります。本報告書では、電力需要と設備利用率の低下、自然エネルギー発電の増加など市場環境が変化するとともに、気候変動対策の強化が進む中で、これらの新増設プロジェクトが採算割れを引き起こし、座礁資産化するリスクが大きいことを明らかにしています。
 ドイツやオランダでは新設直後の石炭火力発電所が市場環境や政策環境の変化で、運転停止に追い込まれる事例も生まれています。自然エネルギー財団は、本報告書が今後の日本のエネルギー政策の転換と電力ビジネスの発展に寄与する一助となることを期待します。


農業は草との闘い(東北農業) 7月16日

酒井惇一(東北大学名誉教授)さんが、昭和初期から現在までの4分の3世紀にわたる東北の農業・農村の変化の過程を、本人が農家の子どもとして体験し、考えたこと、また農業経営研究者となってからの調査研究で見、聞き、感じたことを中心に、記録した『随想・東北農業の七十五年-戦前から現在に至るまでの東北農業・農村の変化を語る-』HPから。

  貧しい食と厳しい労働(6)☆足踏み脱穀機止まりの機械化(2010年12月11日)
 農業は草との闘いだった。ちょっとでも放置しておくと作物よりも草丈の方が高くなる。大学院時代、西欧などとは違ってわが国はモンスーン地帯であり、褥耕(中耕)的風土であるということを教わったが、まったくその通りだった。水田の三回にわたる除草、何回かのヒエ抜き、畦畔の草刈り、そして畑の草取りと春から秋まで絶え間がなかった。明治中期から水田用の手押しの人力除草機が普及し、かなり省力化されたとはいえ、ぬかるんだ田んぼを何百回となく往復する労働はきつかった。しかもそれは一度だけであり、後はやはり腰を曲げて除草しなければならなかった。
 もちろん闘わなければならないほど草が生えるということは、それだけ自然条件に恵まれていること、農業生産力が高いことを示すものであり、本来からいうと喜ばしいことである。しかし実際に草取りをする身になれば喜ぶに喜べなかった。
 こうして、せっかく草を取り、田畑をきれいにしても、虫と病気にやられる。しかしこれとは闘うすべがない。草とは過重労働という武器で闘うことができても虫と病気に対してはすべがない。虫などに対する憎しみは激しく、殺しても殺したりないほどの思いだった。
 土壌養分維持のための闘いもあった。農家はわら等の副産物、林野の落ち葉、草葉、家畜の糞尿、生ゴミを始めあらゆるものを肥料にして土地に帰した。
 人糞尿などは最高の肥料だった。自分の家のものでは足りないので都市の人糞尿を求めた。ただし、求めたからといってすべての農家が得られるわけではない。山形市の場合で言えば、牛車で早朝一ないし二時間で往復できる範囲内の農家しか利用できなかった。肥え汲み(山形ではこれを「ダラ汲み」といった)で本来の農作業に差し支えるようでは何にもならないし、汲み取り先の迷惑にもなるので朝飯前に汲み取りを終わらさなければならなかったからである。したがって肥え汲みは都市近郊農家の特権とでもいってよかった。肥桶に汲んできた人糞尿はダラ桶(肥だめ)に容れられ、そこで腐熟させ、田畑に直接もしくは堆肥に混ぜて散布する。それが都市近郊の米の単収の高さと野菜生産を支えた。かつて名著といわれた鎌形勲『山形県稲作史』では戦前の山形市の単収の高さを人糞尿とのかかわりで述べている。また市内はもちろん東京や仙台にも出荷された野菜にとってもダラ(下肥)は不可欠であった。だから農家は争って手に入れようとした。そして汲み取り先の確保のために、米何升かを対価として払うことを汲み取り先と契約して手に入れた。人糞尿は労働の成果物でもないのに価格をもったのである。つまり農家は他人の尻の始末をしてやって、汚い仕事をしてやって、カネを受け取るどころか払う。こんな矛盾した話はない。しかも臭い、汚いと軽蔑され、ダラ汲み百姓と馬鹿にされてだ。
 決まった日になれば、雨の日であれ雪の日であれ、朝まだ暗いうちに起きて牛車、冬は牛そりに肥桶をつけて父が出かける。たまたま目を覚ましていてその音を聞くのがとってもいやだった。父に申し訳なかったからである。
 こうして土壌を豊かにすると、雑草はもっと生えやすくなる。とくに畑がそうだ。草との闘い、腰を曲げた労働はまた厳しくなる。
 田んぼの三回にもわたる除草も大変だ。なかでも三番草は辛いものだった。田んぼを這いずりまわりながら両手で泥をかき回して草を取り、土の中に押し込んだ。夏の暑い日差しは容赦なく背中に照りつけ、目の中に汗が流れ込み、伸びた稲の葉先が目をつつき、目はウサギのように赤くなった。
 除草ばかりではない。田植え、稲刈りなど一日中腰を曲げていなければならなかった。畜力や人力作業機が農業に導入されつつあったとしても、基本的には手労働であり、農業労働は苦役的ともいえるものだったのである。
 子どももこうした農作業の手伝いをさせられた。農家の子どもが働くのは当時は当たり前だった。
------------------------------------------------------------

  「続々・わびしい日々是好日(4)☆「草取り」に思うこと」(2017年3月13日)

 前回も述べたように、農家のお年寄りは、身体があまりいうことをきかなくなってくると、縄ない、草取り、屋敷畑の管理や庭仕事等々、本当に軽い手伝い仕事だけに従事するようになる。
 ただし、田んぼの草取りは別である。これは重労働であり、本当に高齢化した場合の年寄り仕事とはいえない。田んぼの場合は、ぬかるみに足をとられながら腰を曲げて這いずり回るきつい労働であり(註1)、高齢者には無理だからだ。
 これに対し、畑の草取りは重労働ではない。手で草をむしる場合が多く、だから腰を曲げなければならないが、耕した畑の土は柔らかいので草を取りやすい。畝間を鍬でおこして草を除去したり、鍬などで深く張った根を掘り起こしたり、畑のあぜ道の草を鎌で刈ったりしなければならないこともあるが、年寄りでも十分にできる。ただし、単品目・大面積の生産なら草取りの時期が集中して長時間の苦役的労働となる。しかし、多くの農家は多品目・小面積栽培だったので草取り時期が分散し、それぞれ短かい時間ですみ、最初の時つまり草が小さいうちにていねいに取れば次回の草取りは楽になるということもあり、年寄りでもやれる。
 このように畑の草取りはあまり体力を使わない軽い仕事、精神的にもあまり負担のかからないだれにでもできる簡単な仕事である。他の年寄り仕事も大体同じだ。こうしたことから、年寄り仕事はすべて大して重要でない仕事と考えられてしまう。
 しかし、畑の草取りは「大して重要でない仕事」ではない。田んぼの草取りと同じできわめて重要な仕事であり、家族全員が取り組まなければならない作業である。
 何しろわが国はアジアモンスーン地帯で雑草の発生、繁茂は激しく、ましてや耕した畑は土が柔らかくて肥えていて日光が当たっているので雑草の発芽、生長、繁殖の条件は最高である。しかも畑には水田のように水の雑草防除機能(註2)が働かない。だから、ちょっとでも手を抜いたら、ましてや放置などしておいたら、作物の生育が阻害されるどころか畑地として利用できなくなる危険性すらある(註3)。だから、それぞれの畑の作付け時期、収穫時期、何も作付けしていない休閑の時期等を考えて草取りの時期を考え、また実際の草の出方を見ながら、今日はこちらの畑、明日はあちらの畑と、生えたら取り、生えたら取りしていなければならず、家族全員で除草にあたらなければならないのである。しかし、青壮年には重労働の基幹的な仕事が多々あり、それにも従事しなければならない。それで畑の草取りは年寄りの重要な仕事となるのである。
 私の生家の場合は畑が大きな位置を占めていたので、ましてやそうだった。野菜など多種多様な畑作物をつくっており、それぞれの畑に雑草が生える時期が異なるので、春から秋にかけて草取りをしなければならない畑はいつでもあった。草取りをしなくともいいように耕したり、敷き藁をしたりいろいろ方策を講じるのだが、やはり限界があり、生えてきた草を取らなければならないのである。だから祖父などは暇さえあれば草取りをしており、それは脳卒中で倒れる前の年の秋まで続いた。年老いた父は、家の前に残ったわずかな畑で、したたり落ちる汗をぬぐいもせず、下を向いてあるかなしかの草を取っていた。ボケても、習性となって頭に残っていたのだろう、草取りだけは毎日の日課だった(註4)。
[中略]
  「草取りは年寄りの仕事」と言ったが、正確にいえばこれは逆、「年寄りの仕事は草取り」ということで、草取りは家族全員の労働であり、その中心はやはり青壮年労働力だった。耕起で腰を曲げ、種まき、収穫で、そして草取りで腰を曲げて働く、だから五十歳も過ぎればみんな腰が曲がってしまった。私の祖母などはその典型だった。
 それでも生家の場合などはまだよかったと思っている、何しろ多品目の小面積栽培、草取りにも変化があり、また小区画つまり一枚の田畑が小さく、その上不整形だったからだ。前にも述べたが、ちょっと行っては畦にぶつかるので、そこで腰を伸ばして一息入れることができし、いろいろと変化があるのであきないのである。ところが小品目の大面積栽培となるとそうはいかない。前にそれを山形内陸と庄内を対比させて述べたが(註6)、北海道などはもっとすごい。小品目・大面積で除草の期間が長い上に大区画だからだ。
 一枚の畑の区画が1haか2ha、100mとか200mの延々と続く畝間の草を腰を曲げて取っていく。行けども行けども終わらない。何とか終わるとまたその繰り返しだ。何度も何度も繰り返す。なかなか終わらない、達成感がない。変化のないところでの単純作業の単調な繰り返しは労働の疲労度を高める。しかも面積が多いから、それが何日も続くことになる。これはつらい。
[中略]
 こうした苦役的ともいえる労働に対する正当な報酬はなかった。あれだけ働きながら農家は貧しかった。それも一因となってガッツ石松のようにみんな都市に流出していった。そこに除草剤の売り込みである、農家は喜んで導入した。ところが消費者の側から農薬・除草剤の使用への反対運動が起きた。これは正論ではあったが、もし反除草剤を言うなら厳しい除草労働に対する正当な報酬を支払うことを前提とすべきだった。ところがその逆に多くの消費者は農薬・除草剤漬けの安いアメリカ農産物を食べて国産農産物の価格を引き下げ、農業労働に対する正当な評価はますますなされなくなった。かくしてさらに農業労働力は流出し、過疎化、高齢化、耕作放棄が進み、農業は衰退の道をたどることになった(註9)。
()
1.10年12月11日掲載・本稿第一部「☆足踏み脱穀機止まりの機械化」(4、6段落)参照
2.13年4月5日掲載・本稿第五部「☆水稲連作」(5段落)参照
3.13年4月1日掲載・本稿第五部「☆農業と土地、地力」(3段落)参照
4.12年9月26日掲載・本稿第四部「☆『帰らんちゃよか』」(3段落)参照
6.11年6月22日掲載・本稿第二部「☆零細分散耕地制と耕地整理」(2段落)参照
9.もちろん今は中耕除草の機械化、マルチング等でかつてのような辛い人力除草はなくなっている。それでもたまたま取り残した草を人力で取る必要が出てくる場合があるが、腰を曲げることはあまりない。しかし、何しろ大面積・大区画であり、草取りのために畑の畝間を歩く距離は大変なものである。


岩殿田んぼの手取り除草(2019年7月16日記事)
  

田ころがしで除草(2020年6月8日記事)
  

田畑の除草用具(茨城県下妻市・長野県伊奈地方) 7月15日

①『館所蔵民俗資料目録第7集 籠・管理・害虫除去・儀礼用具』(下妻市ふるさと博物館、2002年3月)に収録されている田畑の除草用具です。

  刊行にあたって(2頁から)
 除草用具は豊富な種類と数があるのが目立ちます。特に水田の回転除草機の多様さに驚かされます。
また、最初は柄に刃が付いているという単純な形のものから時代とともに畜力用にまで改良されていく流れが、はっきりとみることができます。……
 また、農耕用具は現地の呼び名が個性的なものが多いのも特長の一つです。

田畑の除草の用具として〈クサカリガマ〉〈ナガエガマ〉〈タチガマ〉〈カマカケ〉〈ガンヅメ〉〈カメノコ〉〈コロガシ〉〈クマデ〉〈ジョレン〉があります。
img-200712161225-0002img-200712161225-0003img-200712161225-0004

img-200712161225-0005img-200712161225-0006img-200712161225-0007


②「信州大学農学部附属農場における人力・畜力農具の収集と保存」(有馬博・北原英一・信州大学農学部附属農場)
 伊那は長野県南部に位置し、中央アルプスと南アルプスの問に伸びている細長い谷型の地域である。この谷の底部には天竜川が流れていて水田が連なり、その両岸には河岸段丘が形成されている。さらにその背後には山間農業地が続き、これら相互の標高差は500m以上に及ぶ。一般に伊那谷と呼ばれているこの地方は上伊那郡辰野町付近を北端とし、それから南南西に位置する飯田市の南方まで直線距離で約80kmにわたっている。そのうち北部は寒冷地に、南部は温暖地に属しているうえ、凹凸の多い山岳地形が多いため気象には地域差が大きい。
 このような立地条件のもとで伊那においては様々な種類の農作物が栽培され、他に養蚕や馬匹生産も盛んであった。そのため農家では古来、多種の人力・畜力農具を使用してきた。
 しかし昭和30年代後半からの経済発展、農業構造と生産手段の変化及び農村住宅と納屋の建て替えによって、昭和40年代には人力・畜力農具が急速に廃棄されるようになった。そこで著者ら農場職員は当時の農場長故高橋敏明教授の指導のもとに.伊那の農家に呼びかけて昭和42年[1967]からそれらの農具の収集を開始した。しかし学内には適当な収納場所がなかったため整理もしないまま収納舎の一角へ収容しておいた。
平成7年[1995]に至って、ようやく農場の木造鶏舎を農具展示場として使用できる状況になったため農具を整理・展示し、同年4月1日に農具資料舎と名付けて公開した。また人力・畜力農具以外にも発動横、トラクタなど歴史的意義のある機材も若干数展示した。[25頁]
  〇田車(たぐるま)、代車(しろぐるま)(伊那林屋式:畜力用)
 長野県から山梨県にかけて、水田の代かきに用いていた畜力砕土車で、轅木(えんぼく:舵とり腕木)と馭者席[ぎょしゃせき]を備えた1軸の車輪列型のものと、形式の異なる2軸の車輪列を長方形の馭者台でつないだものがあった。1軸型は土塊を縦方向に、2軸型は縦横方向に土塊を切った。資料舎にはその2形式がある。馭者は土塊の状態を見ながら歩いたり乗ったりした。忙しい時には5~6歳の子供さえ馭者とされ、居眠りで転落しないように席へ荒縄でくくりつけられた。牛馬に体力があれば作業能率の良い車であった。[27頁]

  〇八反取(はったんどり:人力用)
 水田専用の人力除草用具で、一般に2番除草以後に使われた。柄を持って前後に押したり引いたりしながら前進し、表土を浅くかきまわして除草した。10a当たりの歩行距敵は3.5~4㎞に及び疲労がひどかった。少しでも軽くするため柄に竹を用いたものが多い。その後、回転除草機に代替されたが昭和40年代以後は除草剤の普及によってそれも使われなくなった。1条用のほか2条用もあった。[以下28頁]

  〇回転除草機(各種:人力用)
 八反取と同様に2番除草以後に使用する水田専用の手押しのうね間除草機で、通常は爪状の回転刃をもつ2本の軸と鳥居型の柄で構成されている。昭和初期から昭和30年ころまで全国的に使用され、その後は株聞除草機や除草剤に代替された。株間除草ができない欠点があったものの八反取に比べて軽快で能率も良く、中耕もできた。舳先[へさき]の高さと柄の角度が調節できるようになっていて、回転刃の食い込み深さが調節できたが水が深いと浮き上がった。1足ごとに腕を伸縮しながら断続的に押した。カがいるので子供にはいやな仕事であった。

  〇株間除草機(各種:人力用)
 2~4個の縦軸で回転する針金又は薄い鉄板製のローターで稲株をはさみ、柄を押すと土の抵抗でローターが回転して株ぎわの雑草を土とともに外側へかき出して除草が行われる。商品名を「カブマトリー」と称したものもあった。昭和30年(1955年)から数年間に各農家へ普及したが除草剤の出現によって急速に消滅した。実用期問が短かったし小型なので良好な保存状態のものが多く現存している。

  〇畜力3連型回転除草機(畜力用)
 2番除草以後に使用する水田専用の畜カうね間除草機で、昭和30年ころまで大規模農家で使用され、その後は除草剤に代替された。株間除草ができないことと、機体が重くて回転が困難な欠点があったものの能率が良く、中耕もできた。舳先の高さと柄の角度が調節できるようになっていて回転刃の食い込み深さが調節できた。訓練された牛馬はこれを引きながらうね間を上手に歩いたが、田のはしで回転するときには稲を踏みつけたので、小さな田では使いにくかった。

除草(埼玉県鳩ヶ谷市) 7月14日

『鳩ヶ谷市史 民俗編』(1988年8月)の記述です。現在、鳩ヶ谷市は埼玉県川口市に編入されています。下線、[ ]は引用者。

 除草(『鳩ヶ谷市史 民俗編』) 
  『鳩ヶ谷市史 民俗編』 1988年8月
   第2章 生産・生業
   第2節 農業 1 稲作 (1)摘田
 田の草取りは通常2回、丁寧な家は3回行い、1回目を一番草、2回目を二番草、3番目を三番草と称している。
 一番草は田植えが終わって10日から2週間ぐらいたったころに行うことが多かった。田植えの時期や田の農作業との関係で若干の前後はあるが、7月上・中旬に行い、土用の入りまでに一番草を終えた。この一番草は中耕を兼ね、カッパナシネボグシモトユルメなどともいって稲株の周りを手でかき、根を切るようにして稲の分けつを促した。
 田に水があり、土が軟らかければ手で除草できたが、場所によっては土が堅いところもあったので、このようなところではタコスリコスリマンガ)などと呼ばれる道具で株間をこすり、土を軟らかくしてから除草した。この一番草のときには、除草と共に稲の根付きが悪いところに、余分に植えておいた苗を補植したりもした。
 二番草は一番草を取ってから1週間から10日ぐらい後に取った。田の草取りは20日ごとに行えば良いといわれていたが、この時期は畑の草取りなど他の仕事も多く、仕事の手順が思うようにいかなかった。
 三番草を取れば収量が1反当り1俵は違うといわれたが、なかなか三番草までは手が回らない家が多かった。三番草を取る場合は、月遅れの8月7日の七夕のころまでに行った。
 田の草取りの道具としては、ハッタンコロガシタコスリマンガなどが用いられた。ハッタンコロガシは回転式の歯のついたもので、株間を1人で押しながら除草する。タコスリマンガは万能の一種で、歯の先端が内側に曲がっていて、株間を1人で引いたり押したりして用いた。大正時代ごろまではツメマンガもしようされたという。
 田の草取りも、昭和30年代ごろから次第に除草剤が使われるようになると、労働がきつかったので、手で取ることは行われなくなっていった。[30~32頁]

東温市文化財・収蔵資料データベース(愛媛県東温市教育委員会)
  大分類:[生産・生業]、中分類:[農耕(果樹・園芸などを含む)]、小分類:[管理用具/除草]
   →検索結果一覧(34点)


稲の病害虫(越路町③) 7月13日

新潟県三島郡越路町[こしじまち](現・長岡市)の『越路町史 別編2 民俗』(2001年3月)の記述③です。下線、[ ]は引用者。

  稲の病害虫(『越路町史 別編2 民俗』) 
  『越路町史 別編2 民俗』 2001年3月
   第1部 戦前の暮らし
   第1章 暮らしの様相
   第3節 人ともの 1 季節と生産活動 (1)田圃と畑の仕事 d 田植えと田の草取り
 以前は、稲の病害虫には手の施しようがなかった。稲の病害虫による発育不全を「ナン(難)が来た」といい、葉が赤くなって立ち枯れの状態を「アケがついた」といった。稲がいもち病(稲熟病)にかかり、稲が枯れて田圃の中に穴があいたり、アケがついて1反に2俵しかとれないという話もあった。こうした稲の害虫は、二化螟虫[にかめいちゅう]とツトムシイナゴなどであった。
 螟虫は、年2回発生する害虫でエムシ(柄虫)といわれ、春に羽化するのが一化螟虫、夏に羽化するのが二化螟虫であり、一化螟虫は、春の田植え後に発生した蛾[が]が稲の葉に産卵し、この幼虫(一化螟虫)が稲の茎に入って稲を枯らした。7月上旬から8月初旬に孵化した二化螟虫は、稲の茎の深部に食い入って稲穂を枯らしてしまった。浦では、毎年、水押[みずおし]・浦谷地[うらやち]辺りが螟虫の害が多く、五百島[ごひゃくじま]・下河原[しもがわら]辺りは比較的に害のなかったところといわれていた。
 螟虫の駆除法は、春、蛾が出ないうちに、わらにおの周囲にいる蛹[さなぎ]を搔き落として撲滅し、夏の二化螟虫退治法は、もっぱら誘蛾灯[ゆうがとう]により蛾を集めて殺す方法であった。誘蛾灯は、竹の3本コウジ(3本の竹の上部を結び、下を開いて立てたもの)を立て、その中央に油土瓶[あぶらどびん]を吊したもので、毎晩当番が油瓶を持って点火に回った。
 田圃に稲の葉を巻くようにして巣を作り、涼しい朝夕に巣から出て葉を食べる、ツトムシ[イイモンジセセリの幼虫名]という害虫がいた。ツトムシは、つぎつぎと葉を巻き付けて、巣が田圃一面に連なり、稲の葉を全部食い尽くす虫であった。そのため、稲の茎だけが残って、秋の稲りは穂のみということになった。ツトムシの駆除は、まだ発生したばかりの頃は、竹の2本股で巣をはねて虫を田の中に落とし、巣を葉から取り除いて、虫の頭を手で潰[つぶ]して、腰に下げた空缶か竹筒に入れた。しかし、この被害が田一面に広がると、これでは効果がないので、トカシグシ(梳かし串)で稲を横に撫[な]でて梳[す]き、巣を壊して虫を落した。トカシグシは、軽い桐の木の棒を、長さ1.2mくらいに切り、両手で棒を握る部分だけを残し、他の部分のすべてに、竹製の鉛筆の両端を削ったような形のものを、横に並べて差し込んだものであった。稲をこの道具で梳くのみでは、巣は壊れても虫は落ちて生きていた。つまり、虫は這[は]い上がってまた巣を作り、結局は毎日虫梳きを繰り返すのみで、盆も休まれないほどであった。
 イナゴも害虫であった。秋のうちに稲株や草の根元に生んだ卵は、春先、雪水に洗い出されて水面に浮かび、塵と一緒に畦端に風で寄せられた。これをざるで掬[すく]って殺した。それでも田植えが終わる頃に孵化[ふか]した幼虫は、食い頃の稲を食べて秋には成虫になった。こうなると葉はもちろん、茎や稲穂まで食べて被害甚大となった。
 駆除方法は、まず、田植え直後にエンゲン豆大の卵を拾い、焼き払うことであった。また、成虫になったら、朝夕の露のある時に飛べないイナゴを捕まえることであった。戦時中は学校の生徒たちが、大きな3升、5升の袋にいっぱい捕えたが、それでも被害は減らなかった。[156~157頁]


(1)年1回発生し卵で越冬する。卵は普通30〜40個ほどの卵塊で産卵される。
(2)6月中〜下旬頃からふ化し始め、幼虫ははじめ畦畔などのイネ科雑草の葉を食べ、次第に水田に侵入しイネの葉を食害する。
(3)幼虫は6令を経て、7月末頃から成虫が出現し始める。幼虫の体色は緑色で、形態の変化はほとんどなく成長し、翅(はね)が生え褐色味を帯びて成虫となる。
(4)水田内の分布は、若令幼虫時は畦畔沿いに多く、4〜5令頃から中央部にも多くなる。
(5)産卵は9月上旬頃から始まり最盛期は9月中〜下旬となる。卵は主に雑草の多い農道や畦畔の地際部に産まれるが、イネの株内にも産む。

※蝗の巣拾い(イナゴの卵とり)→『イナゴの一生 ~つくろうぼくらのイナゴふりかけ~
  長野県学校科学教育奨励金 2003年度交付No1 飯山市立戸狩小学校 1年2組

田の草取り(越路町②) 7月13日

新潟県三島郡越路町[こしじまち](現・長岡市)の『越路町史 別編2 民俗』(2001年3月)の記述②です。下線、[ ]は引用者。

  田の草取り(『越路町史 別編2 民俗』) 
  『越路町史 別編2 民俗』 2001年3月
   第2部 変貌する暮らし
   第1章 家族の生活誌
   第2節 M家の場合 3 農業専一
 田植えが終わると田の草取りをした。戦前からあった一つ押しのゴロと呼ばれた除草機を用いる以前は、除草はもっぱら手作業であった。田の草取りは、7月の土用五番(夏土用から5日目)頃までで、3、4回、雑草の小さいうちは青田に四つんばいになって取り、泥土を掻き回しながら埋め、4回目頃になると稲の成長も盛んになり、茎先が顔を突くようになるので面をかぶって田に入った。除草にゴロが用いられるようになってからは、真夏の太陽の下で腰をかがめることもなくなり、草取りの能率は向上した。その後、除草に農薬が用いられるようになった。農薬にホリドールを使ったこともあったが、ホリドールは稲が大きくならないと使用できず、農薬散布後は、1週間程度田圃に入ることができなかった。しかし、疲労の激しかった田の草取りが解消され、しかも農薬散布後の1週間は田に入らずに済んだので、身体を休められ喜ばれた。この頃には、Rさんは子どもの頃、蝗の巣拾いを[『越路町史 別編2 民俗』156~157頁の「稲の病害虫」]をし、1升いくらで買い取ってもらったことがあったという。雨の日などには、古川の土手に生えているニオイ菖蒲を採ったり、ヨモギやドクダミを取ったりして、手拭[てぬぐい]で作った袋に詰め、風呂に入れて菖蒲湯をたて、この時ばかりは、女も子どももゆったりと浸かって、身体を伸ばして疲労を取った。
 一つ押しのゴロは明治末期から大正初期に普及し、田の草取りが楽になった。昭和20年後半には土地改良が始まり、それまでの手取り中心の田の草取りは、除草機を何度も用いるようになり、その上に薬剤散布が行われ始め、二化螟虫駆除を目的としたホリドール散布を行った。こうした農薬散布が行われるまでは、稲の病虫害が多く、二化螟虫や稲虫[いなむし。稲の害虫の総称。ウンカ、ヨコバイ、バッタなど]、蝗[いなご]などの駆除に、藁にお掻きや誘蛾燈の設置、蝗の巣拾いなどをしていた。戦時中には、学校が中心になり、蝗の供出をしていた。もっとも現在は、農薬の自然破壊が問題になっている。
 田の草取りの時期は、肥え草刈りの季節でもあった。肥え草刈りをしたり、田の草取りをしたり、農家の仕事は休む暇がなかった。附近の土手に出掛けて朝早くから刈り取った草は、屋敷うちの堆肥場[たいひば]まで運び、牛舎や豚舎の敷きわらや米糠[こぬか]と交互に混ぜ合わせ、高く積み上げ、ある程度積み上げるとまた草を刈ってくるという要領で堆肥とした。肥え草は、田圃の元肥[もとごえ]として農家にとっては大切な肥料であった。そのためもあって、堆肥の品質向上を主旨に毎年堆肥品評会が行われていた。[545~546頁]
※農林水産研究に関する国内の論文・情報が探せるデータベース(アグリナレッジ)

除草用具の地域呼称国際常民文化研究叢書9 民具の名称に関する基礎的研究神奈川大学国際常民文化研究機構、2015年3月)392頁・河野通明さん担当の「農耕用具」から
除草具名称(河野通明)


田の草取り(新潟県越路町①) 7月13日

新潟県三島郡越路町[こしじまち](現・長岡市)の『越路町史 別編2 民俗』(2001年3月)の記述①です。下線、[ ]は引用者。

  汗みどろの田の草取り(『越路町史 別編2 民俗』) 
  『越路町史 別編2 民俗』 2001年3月
   第1部 戦前の暮らし
   第1章 暮らしの様相
   第3節 人ともの 1 季節と生産活動 (1)田圃と畑の仕事 d 田植えと田の草取り
 かつて田植えが終わると、2週間くらいは田を構わずにそのままにして置いた。その理由は、稲の根付きを心配したからであったが、その結果、田圃は堅くなり、生えた草は取りにくく、縦横2回、手で雑草を抜き取るほかなかった。その後、田の草取りは、田植え後、ただちに始まり、8月の盆前までに一番草二番草四番草まで取った。なお、雑草は、ヒエ・ゴヨ[クログワイ]・ナギ[コナギ・ミズアオイ]・ウシコウゲ[マツバイ?]などで、小さいうちは手でむしり取って泥の中に埋めたが、大きくなるとそれも出来ず、かごに取って道ばたに捨てた。
 イチバクサ(一番草)は、田圃が堅くて手では容易に雑草が取れず、まず、中打ち[なかうち]と称し、小さな三本鍬で株と株の間を打ち起こし、その上で草を取った。それでも草はなかなか取れず、指先を痛め、中打ちで腰を痛める重労働であった。明治42年頃[1909]に中打ちゴロが導入された。この初めてのゴロは一株押しで、梯子状[はしごじょう]の先にゴロが一つついているだけであったが、堅いところは刃が立たず、十文字押しをしても土が起きなかった。昭和10年頃[1935]から二つゴロの二行押しになったが、代掻きの良否がゴロの成果に大いに関係した。ニバグサ(二番草)になると、夏の暑さが厳しく、笠を被り、ヒデルゴザ(日照りござ)を着て作業を行い、朝夕はブヨ(ブト)が襲い、ブヨ除けにわら束の松明[たいまつ]を腰に付けたものの、刺されて痒[かゆ]くて仕方なかった。サンバグサ(三番草)の頃になると草(稲)丈[くさたけ]が伸び、葉で顔を擦[こす]り目を突くので、顔に網の面をかぶった。また、相変らずブヨの攻撃が強烈で、稲が伸びているので、松明を使うと葉を焼く恐れがあった。そこで空缶[あきかん]の中にボロ切れを固めて入れ、これを燻[くゆ]らし、股の下にぶらさげて草取りをした。なお、鉄製の網の面は錆[さ]び易く、2、3年もするとナイロンの面に変わった。
 アゲタノクサといわれた四番草は、大体最後の草取りであったが、中には丁寧に五番草まで取る人もいた。アゲタノクサは、耕地面積の大小にもよったが、7月23、4日頃の夏土用五番(土用入りを太郎といい、5日目を五番という)を目安とし、遅い人は8月初旬になった。アゲタノクサ頃は、すっかり稲も伸びているので、腰をかがめて草取りをしていると何も見えず、朝夕の露で身体は濡れ、午前9時頃からは強烈な太陽の熱に焼かれ、少し涼しいと思うとブヨが襲うという具合で大変な辛い仕事であった。
 昭和20年代後半[1950]から土地改良が始まり除草機が普及し、さらには薬剤除草が行われるようになった。そのため、それまで手で取っていた田の雑草はほとんどなくなった。[155~156頁]
※『広報こしじ』1号(1965年)~480号(2005年)(PDF

田の草取り(群馬県沼田市) 7月11日

群馬県の『沼田市史 民俗編』(1998年3月)「第2章 生産・生業」の「第2節 稲作 6 稲作管理」の小項目です。

  田の草取り(『沼田市史 民俗編』) 下線、[ ]は引用者
 普通は3回であった。柔らかい田はほとんど手で行った。八反取り(生えている草を沈める器具)は普通使わない地区が多かった。硬い田には昔はガンヅメ(片手用の小さな熊手)を使い、田を柔らかくしながらの除草だった。次に開発されたのが前述の八反取りであるが、使ってみて具合が余り良くないので、硬い田を柔らかくするのに使われた。草取りは一番ゴ(最初の草取り)から三番ゴ(3回目の草取り)まであり、八反取りはその都度作間[畝間]に合わせて使い分けるのだが、硬い田は便利であった。また、藻が湧く田にも藻を埋めるのによく使われた。藻が湧くと田が冷えて稲の成長を妨げるので、その駆除に使われたのである。
 現在は藻が湧くと硫酸銅を布袋に入れ、水口に置くと藻が消滅する。また、田の草取りも除草剤で済ませる。稲の葉を丸めて虫が巣を作り卵を産んだり、イモチ病等を防ぐために消毒は2回行う。
 稲が穂孕[はら]むと、昔は鳥害除けにカカシを立てた。単なる人間に似せた鳥追いではない。鳥がつかないように祈願を行って立てたものだという。これが十日夜[とうかんや]の終農祝いに通じるものであると言っている。他にカガシオドシ等があり、カラスの死骸などを吊して雀を追いやったものである。これは佐山出身の戸部素行の聞き取りだが、農業経験は少なかったが、有識者であった。現在は防鳥網を張る家が多くなっている。[202~203頁]

※戸部素行[とべそこう]:利根沼田短歌会初代会長。沼田市材木町の長寿院常福寺(天台宗)に歌碑がある。「老ふたりとなりし古家に春立つと 追儺の豆をこゑはりて撒く」

田の草取り(群馬県伊勢崎市) 7月11日

群馬県の『伊勢崎市史 民俗編』(1989年2月)「第1章 環境と民俗」の「第2節 耕地の広がりとムラの景観」、「田の草取り」項目です。

  田の草取り(『伊勢崎市史 民俗編』) 下線、[ ]は引用者
 田の中も放っておけば、さまざまな植物が生えるが、田は稲だけを栽培するための土地であるので、それ以外の植物の繁茂は好ましいものではない。田を田として管理するためには、田の草と呼ばれる稲以外の雑草を取り除かねばならない。除草剤が使われるまでは、それらは手作業だったから多くの労力を要した。春先に苗代に種籾が蒔かれて少し芽が出ると、水苗代の場合は芽干しとか実干しといって、一昼夜ほど水を落したが、完全に水を切ってしまうと雑草が生えやすかったので、浅く水を残した。また、このときに雑草を抜いた。苗代は田植えまでに2回ほど草むしりを行った。田植えが終わると本田の田の草取りが行われた。通常、3回行われ、一番草二番草三番草、あるいは一番ゴ二番ゴ三番ゴ、または一番田の草二番田の草三番田の草といった。
 養蚕を大きくやっている家では、労力の問題で2回しかできないこともあった。一番草は田植え後10日から15日ほどして行われ、二番草はそれからさらに10日から15日ほど、三番草二番草から10日後くらいになった。田植えが6月下旬だった上植木の堤原では、三番草は7月下旬になるが、八斗島[やったじま]では田植えが7月中旬なので、三番草は8月20日ころになってしまった。大正末ごろ、八反コロガシとか八反取りと呼ばれる手押しの除草器が入ってきたが、それまでは、素手かさもなければ指に田の草ヅメ(爪)あるいは単にクダと呼ぶ円筒形のブリキなどをはめて四つ這いになって稲の根の周りをかき回して草を取った。こうすると土がほぐれて根の張りがよいという。取った草は、土の中に押し込むか、アゼに放り上げた。田の草取りは、暑い最中、四つ這いの姿勢で行う辛い労働であった。特に二番草ころになると、稲も伸びて葉先が顔や目をさすので、手拭いや網を被った。汗も目にしみた。なるべく暑くならない朝早くから始めて、昼休みを長くとるようにした。8月上旬ころ、マワリガリといって、田の周囲の草を刈って、稲の根元まで陽が当たるようにすることもあった。
 二百十日をすぎて、穂が出る前には、田の稗抜きを行った。稗[ひえ]は、まだ青いうちに抜かないと実がこぼれて翌年また生えてしまう。抜いた稗は、道端に置いて乾燥させ、燃やしてしまった。うっかり田の端に置いたり水路に入れたりすると、田の中に入ってしまい、次の年にまた苦労することになるので気をつけた。特に水路に入れるとそこの田だけの問題ではなくなるので、ほかの家から苦情が出た。田植えと稲刈りの間は、田の除草と水掛けが大きな仕事だったのである。[61~62頁]


「石炭火力2030フェーズアウトの道筋」提言レポート 7月4日

気候ネットワークの「石炭火力2030フェーズアウトの道筋」提言レポートを読みました。2018年11月に発表されたもので、日本の石炭火力発電を2030年までに段階的に縮小して全廃すべきであるという提言です。
  プレスリリース(2018年11月9日)

 世界の温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指す「パリ協定」の達成のためには、エネルギー起源のCO2の排出をいち早く削減し、脱炭素に向かう必要があります。
既出の研究によれば、そのなかでも石炭火力発電は、新規建設を中止すべきことはもちろんのこと、既存の発電所も優先的に廃止し、全廃する必要があり、なかでも先進国は、2030年には全廃が必要だとされています。
これに応え、2030年までに石炭火力発電の全廃を目指すと宣言する世界の国々や地方自治体が増えており、脱石炭は、国際潮流となりつつあります。

 こうした状況を踏まえ、このたび気候ネットワークでは、パリ協定を締結した先進国である日本においても、石炭火力発電について、現在ある発電所の新設計画および建設工事を全て中止するとともに、既存の発電所を2030年までに全て廃止する必要があるという考えに基づき、提言レポート「石炭火力2030フェーズアウトの道筋」を発表しました。

 本レポートでは、「石炭火力2030年フェーズアウト計画」を示し、2018年4月時点で把握できる日本の既存の石炭火力発電所117基について、運転開始年が古く、また発電効率の低い発電所から段階的に2030年に向かって全て廃止していくスケジュールを具体的に提示しています。

 LNGを含む他の発電方式を含む設備容量や、再生可能エネルギー電力の普及、さらに省エネの進展を考慮すれば、電力供給を脅かすことなく、原発に依存しなくても、本計画は十分に実現可能です。このことを踏まえ、本レポートでは、政府に対し、本提言書で提示するような石炭火力発電の全廃への具体的な道筋を描き、2030年フェーズアウト計画を策定し、それを長期低排出発展戦略に位置付けるべきであると提言しています。
そして、フェーズアウト計画を土台に、パリ協定の目標と整合する水準まで温室効果ガス排出削減目標を引き上げ、再生可能エネルギーと省エネの取り組みを加速度的に進め、脱炭素社会を早期に実現するべきであると示しています。
 さらに、現状では既存の発電所の全ての情報や設備毎の設備利用率が公表されておらず、実態に即した検討や検証が困難なため、政府及び各事業者がデータや情報を公開することも要請しています。

  要旨
■石炭火力発電は、最もCO2を多く排出する発電方式である。温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指す国際合意「パリ協定」の達成のためには、エネルギー部門をいち早く脱炭素化させる必要がある。既出の研究によれば、そのなかでも石炭火力発電は、新規建設を中止すべきことはもちろんのこと、既存の発電所も優先的に廃止し、全廃する必要があると指摘されている。日本の石炭火力発電についても、現在ある発電所の新設計画を全て中止するとともに、既存の発電所を2030年までに全て廃止するべきである。
■政府統計や各種公開資料等を用いて2018年4月時点で把握できる日本の既存の石炭火力発電所は117基あり、古いものは運転開始から40年以上経過した低効率の発電所も多数残っている。
■本レポートで示す「石炭火力2030年フェーズアウト計画」では、117基の既存の石炭火力発電所について、運転開始年が古く、また発電効率の低い発電所から段階的に2030年に向かって全て廃止していくスケジュールを提示している。本計画は、LNGを含む他の発電方式を含む設備容量や、再生可能エネルギー電力の普及、さらに省エネの進展を考慮すれば、原発に依存しなくても、電力供給を脅かすことなく十分に実現可能である。
■また本計画の中では、2012年以降に計画された50基の新規建設計画のうち、2018年4月現在で既に運転を開始している8基の発電所については既存の発電所に加え、計117基としている。そして、2030年にはそれら全て廃止する計画を提示した。2018年4月時点でまだ運転を開始していない発電所は、運転開始前に計画を中止すべきという考え方に基づき、本計画には加えていない。
■政府は、本レポートで提示するような全廃への具体的な道筋を描き、石炭火力2030年フェーズアウト計画を策定し、それを長期低炭素発展戦略に位置付けるべきである。そして、パリ協定の目標と整合的に温室効果ガス排出削減目標を引き上げ、再生可能エネルギーと省エネの取り組みを加速度的に進め、速やかな脱化石燃料を通じ、脱炭素社会を早期に実現するべきである。なお、現状では既存の発電所の全ての情報や設備毎の設備利用率が公表されておらず、実態に即した検討や検証が困難な状況にあるため、政府及び各事業者がデータや情報を公開することが求められる。
  本論
1.石炭火力発電を巡る国内状況
 (1)1980 年以降、増加し続けてきた石炭火力
 (2)東京電力福島第一原発事故以降の石炭火力発電建設計画の乱立
 (3)100基以上ある既存の石炭火力発電所
 (4)石炭火力発電所の設備容量総計
2.石炭火力フェーズアウト計画
 (1)2030 年石炭火力全廃の必要性
 既出の分析によれば、パリ協定の1.5~2℃の気温上昇抑制目標の達成には、エネルギー起源CO2の排出は2050年にはゼロにしなければならず、IPCCの1.5℃特別報告書では、1.5℃に気温上昇を抑制するためには、石炭火力発電はいかなるシナリオでもほぼ全廃するしかないことが示されている。すなわち、パリ協定と整合するためには、新規の石炭火力発電は1基たりとも建設できず、既存の発電所も削減し、先進国は、2030年には完全にフェーズアウトを実現しなければならない。そして、2030年フェーズアウトが必要であるのは、先進国である日本もまた同様である。こうした現実を踏まえ、パリ協定の採択以降、石炭火力発電の全廃と海外支援を停止する方針を打ち出す国や地方自治体、そして企業が続々と増えている。
 脱石炭に向けた国際潮流が高まる中、日本は、既存の発電所の廃止計画を明確にしていないばかりか、今なお、多数の新規建設が進んでおり、すさまじい規模で石炭火力設備を増強しようとしている。この事態は、パリ協定に反し、気候変動対策の世界の取り組みに真っ向から逆行するのみならず、建設地域の大気汚染を悪化させてしまうものである。また、パリ協定の下で脱炭素社会を目指す流れの中で、将来的に稼動停止せざるを得ない設備を過剰に抱えることにもなり、経済的に大きなリスクをもたらしかねない。
 他の国々とともに2030年の石炭火力全廃を目指すことは、パリ協定の締約国としての日本の責任であり、石炭火力発電所の新規の建設・運転中止、既存の前倒し廃止の方針転換が直ちに求められる。
 (2)石炭火力フェーズアウト計画

 (3)電力供給への影響
 4000万kWを超える石炭火力発電設備を今後10年余でゼロにすることは、政府が言うところの「ベースロード電源」を失うことになり、電力の安定供給への影響を懸念する声も当然あるだろう。しかし、以下に示すとおり、大きな悪影響なくフェーズアウトすることは十分可能である。
 まず、日本では、LNG火力発電所もこのところ次々に建設が進められており、設備が増強されている。2014年以降、新規建設または増強が進められている大型のLNG火力発電所は約900万kWある。また、電力広域的運営推進機関(OCCTO)の供給計画のとりまとめによれば、現行の発電事業者の供
給計画は全体に設備過剰とみられ、2027年のLNG火力の設備利用率は2017年の55.3%から43%にまで下がる見込みとなっている。まだ余力のあるLNG火力発電の設備利用率を60〜65%に引き上げ、OCCTOの2027年の見通し通りに再エネの発電量が27%となれば、石炭火力発電設備の減少分の大部分をカバーできる。再エネの発電量27%の達成は適切な政策を講じることによりさらに前倒しで導入されることも十分考えられる。
 また、OCCTOの最大電力及び需要電力量の見通しは、2018年~2027年の10年間、年平均増加率は±0%と横ばいとなっている。この数値は、節電や省エネの進展状況、ピークカット対策などの要因を加味して、前年の予測(年平均増加率0.3%)を下方修正したものであるが、それでも2018年と同水準の需要はあると見込んでいる。しかし、今後、節電や省エネはさらに進めていくことが重要であり、IoTの活用などその可能性も十分にある。年率1.5%の省エネを進めていけば、石炭火力設備の喪失分は、原発の発電電力量はゼロのままカバーできる。
 本計画は、毎年200万kWから多い年でも約400〜500万kWの電源を段階的に廃止していくものとなっており、前もって計画を立て、段階的に対策を取っていくことで、これらは十分に実現可能だと言えるだろう。
3.フェーズアウト計画の実施に向けて
 (1)現行の政策方針の速やかな見直しの必要性
 以上に示した石炭火力2030年フェーズアウト計画は、現行の政策のままでは実行できない。これを実施するために、以下の政策方針の見直しと個別政策対応が必要である。
■パリ協定に準じた2030年ゼロ方針の明確化(エネルギー基本計画・地球温暖化対策計画)
 現行政策では、石炭火力発電は原子力発電とともに「重要なベースロード電源」と位置付けられ、重視されているが、まずこの認識を根底から改めなければならない。出力調整のしにくい石炭・原発を土台にするのではなく、変動型電源を含め再生可能エネルギーを土台に柔軟に需給調整を図って安定供給を確保する電力システムを基本方針とするべきである。
■脱石炭フェーズアウトの実施のための立法(脱石炭火力法(仮称)の制定)
 脱石炭火力は明確な意思に基づき、毎年着実に実施していかなければならず、既存法のいずれの枠組みでも対応することが難しいため、毎年の廃止スケジュールを定めた新法を制定して対応するべきである。これは脱原発法と抱き合わせ、脱原発と脱石炭を同時に進めることができるだろう。
■温室効果ガス排出削減目標とエネルギーミックスの見直し(エネルギー基本計画・地球温暖化対策計画)
 2030年に26%の石炭火力の発電電力割合を見込んでいる現行のエネルギーミックス、さらにそれを根拠にした2030年の温室効果ガス排出削減目標である2030年26%削減(2013年度比)は、2030年石炭火力2030フェーズアウトの計画に沿って改定しなければならない。2030年の電源構成における石炭火力比率は当然のことながらゼロとし、石炭火力の段階的廃止を前提に、温室効果ガス排出削減目標は少なくとも40~50%に引き上げるべきである。
■カーボンプライシング(地球温暖化対策税/国内排出量取引制度)の導入
 需給の両面で、石炭火力の利用を抑制するインセンティブを付与するため、2019年にはカーボンプライシングの導入を実現するべきである。カーボンプライシングは、脱石炭火力法による規制スケジュールを前提に、より効率よく、より低炭素な発電技術への選択を促す。本計画の実施には、当面の間、LNGガス火力の設備利用率が上昇することになるが、その際にも、より効率のよい発電所からの運転を促す。さらに需要側の幅広い省エネの促進にも効果が見込まれる。
■発電効率基準・非化石電源目標の見直し(省エネ法・エネルギー供給構造高度化法)
 省エネ法に基づく発電効率基準や、エネルギー供給構造高度化法に基づく非化石電源比率の目標は、温室効果ガス排出削減目標やエネルギーミックスの改定に準じた改正をすることが求められる。
■省エネ政策・電力平準化の強化
 省エネは、石炭火力フェーズアウトを実現する鍵を握る。あらゆる主体の省エネを加速させるカーボンプライシングを導入することと同時に、発電所の効率向上や電力平準化のより幅広い実施のための政策、需要側管理の促進のための仕組みを複合的に実施することが重要である。
■再エネの大量導入
 再エネの主力電源化は政府が目指すところでもあり、そのために、再エネを優先給電すること、そして柔軟な電力融通と系統連系の強化することにより、再エネの大量導入を促進することが必要である。
■情報・データの把握と公表
 最大の排出部門である発電所からの排出について着実な削減を実施する上で不可欠な情報を公開するべきである。特に、発電設備毎の設備利用率、発電電力量、排出量(CO2やその他の大気汚染物質)については、毎時ベースで公表するべきである。
 (2)議論の開始を

附属表Ⅰ 2012年以降の石炭火力発電所の新規建設計画

附属表Ⅱ 既存発電所数(電力調査統計と本レポートの比較)

  

※日本政府は、2019年4月23日に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(仮称)の案を発表しました。これについて書かれた江守正多さんの【気候変動】パリ協定に基づく日本の成長戦略の「本気度」(2019年5月6日)から、以下は引用です。
石炭低減の本気度

 この戦略の発表に先立って、有識者懇談会の座長案にあった「石炭火力は長期的に全廃する」という方針が、産業界の反対により「依存度を可能な限り引き下げる」といった表現に調整されたという報道があった

 筆者は率直に申し上げて、この調整は意味がわからない。期限を切らずに「長期的に」というだけならば、脱炭素を目指す以上、石炭火力はいつか全廃するに決まっているからだ。正確にいえば、CCS(CO2 Capture & Storage)技術を用いてCO2を地中に封じ込めるならば、その分は石炭火力(や他の火力)を使っても脱炭素と矛盾しないので、「CCSの無い石炭火力は長期的に全廃する」でよいのではないかと思う。

 おそらく、「長期的な全廃」を明示することが短中期的な石炭火力利用にも足かせになることを嫌がる人たちがいるということだろう。エネルギー価格の上昇が国際競争力に影響をもたらす製造業、高効率で「クリーンな」石炭火力の研究開発に注力してきたエネルギー産業、そして、新規の石炭火力を計画したり着工したりしている事業者などがそのように考えるのはよく理解できる。

 しかし、期限を切らない「長期的な全廃」も書き込めないほど腰が引けているようでは、この戦略の「脱炭素ビジョン」の本気度に、残念ながら疑いを差しはさまざるをえない。

日本社会が石炭と手を切るのは、経済的、技術的な問題にとどまらず、政治的、文化的な問題でもあり、想像以上に難しいことなのかもしれない。カナダのアルバータ州では、2030年までの脱石炭に先立ち、大手電力会社に補償金を支払っているそうだ。ちなみに、奴隷制が廃止された際も、奴隷所有者に補償があったという。日本の戦略は、そこまでの覚悟をもって石炭と手を切ろうという決断には程遠いものだ。

 なお、先ほど触れた「CCS付き石炭火力」を筆者は積極的に押しているわけではない。戦略の本文でも述べられているように、CCSは(石油増進回収をともなう場合を除き)単独では経済メリットが無い。経済メリットが生じるためには、「炭素に価格が付く」必要があるのだ。一方で、経団連は炭素税などのカーボンプライシング(炭素に価格が付くこと)に一貫して反対している。これはCCSの推進と矛盾するのではないだろうか。

 カーボンプライシングについての議論は経済学者に譲るが、今年1月に米国で27人のノーベル賞受賞者などを含む3500人以上の経済学者が、炭素税に支持を表明していることに留意しておきたい。


江守正多「コロナと気候変動、その共通点と相違点」③ 6月26日

みんな電力株式会社が運営するウェブサイト『ENECT(エネクト)』の「ひと(PEOPLE INTERVIEW))」に掲載されている江守正多さんと上田マリノさんの対話「コロナと気候変動、その共通点と相違点」(全3回)。第3回は2020年4月22日公開されました。
「これまで長く気候変動問題に関わってきた経験から、闇雲に不特定多数に問題を啓蒙するよりも、強い意志を持って動く3.5%の人々の可能性に辿り着かれたという江守先生。そういった思考の根底には、仮にコロナ騒動が世界を席巻しようが、その間だけ期せずして数%のCO2排出抑制が実現しようが、時間が限られている中、地球が危機に瀕しているという厳然たる事実はそのままそこにあるということがあります。再生可能エネルギーへの転換は、純粋にポジティブに社会をアップデートするもの。そしてリーマンショックでも実際に減った世界のCO2排出量は2%以下だったのが、今回のコロナ禍では年内で約8%下がると試算されています[世界エネ需要、20年は過去最大の減少幅に CO2排出も=IEA (ロイター[Reuters]2020年4月30日)]。ただそれは、世界各地でこれだけ経済を止めた結果であって、それが復活した時、社会はいったいどうなるか。問題は、ではそれをどう理解して、私たちがそこに関わることで、地球の破綻をどう抑止できるのか。」
 コロナで緊急事態宣言になったわけですが、それは非常にショッキングなことでした。でも同時に一方で、気候変動に関してもしばらく前から「非常事態宣言」が出ています。多くの海外の自治体、イギリスの議会まで含めて、日本でもいくつかの自治体が「気候非常事態」ということを宣言していました。
 国会議員も超党派で、「気候非常事態宣言を目指す議員連盟」ができて[2020年2月20日]、動き始めた矢先でした。問題は、その気候とコロナの「非常事態」はどう似ていて、何が違うのか?(笑)
 まずコロナの場合は、接触削減で医療システムを守ることを最優先課題としています。そのために「非常事態なので、お店は休んで、飲食店も20時まで」といった強硬措置がなされました。さらに財源のある東京のような自治体からは協力金も出て、「補償金を払うから、申し訳ないけど止めて」ということが起きています。
 気候についてそれと似ていることがあるかということで、石炭火力のことを考えました。今、日本の石炭火力の発電所新設問題が世界から批判され、それがようやく国内でも人々に少しずつ知られるようになってきました。この件は、僕は補償金を払ってでも止めるべきではないかと思います。
 いままでの常識で、しかも気候が非常事態でなければ、[石炭火力]投資を始めちゃって止めると大損だから「じゃあ建てて」となります。でも今は「非常事態なので、申し訳ないけど止めてください」と。ただ「その代わり、国が一部補償しますよ」と。
 これが一つ、非常事態下にあることの、わかりやすい例なんじゃないかと思うんです。
 ドイツは2038年までの脱石炭を決めて、石炭業界に補償金を支払うそうです。「これで変わってください」、「産業転換してください」ということです。そういうのが、本当なら気候非常事態を受けて起きなければいけないことなんだと思います。
 日本は今コロナの緊急事態をきっかけとして、社会において「ある課題を最優先させるということはどういうこと」か、そしてそれが「気候変動の場合、何をしなければいけないのか」ということを学ばなければなりません。それは我慢でなくて、「システムを変える判断において気候そのものの優先順位が上がる」という、そういうことなんじゃないかと思っています。
 僕は、気候変動に興味を持つためには、まず「対策=我慢」みたいなイメージを払拭することが大切な気がしています。
 ある国際的な社会調査で、世界平均で約2/3の人が「気候変動対策は生活の質を向上させる機会」と認識しているという結果があります。対して、日本人は約2/3が「生活の質に対する脅威である」と答えています。日本人はなぜか、気候変動対策は「我慢」だし、「コストがかかる」し、「便利さや快適さを諦めなければいけない」と捉えているんです。何よりまず、そのイメージを変えなくちゃいけないと思っています。
 それはもっとポジティブで、社会をアップデートするものであり、しかも日本がもし脱化石燃料ということを最終的に達成できた暁には、化石燃料の輸入に払ってきたお金が全部国内でまわるようになる。そういった大きな経済的なメリットもあるわけです。ただ、もちろん途中で投資は必要で、その時に誰が得する損するといった問題は出てきます。
 でもこれは最終的には、しごく前向きな「社会のアップデートである」と。
 そういう「我慢じゃない」という認識を広めることで、潜在的に気候変動に本質的な関心が持てるような方々に、もっとこの話に入ってきてもらいやすくなるということが、起きないといけない気がしています。
 今はまだ、気候変動の問題に関心がある人でも、「自分はすごく我慢します。だから皆さんも我慢しなさい」という感じの方々がいらっしゃるわけです。
 僕は環境省の管轄下にある研究所にいるわけですが、環境省はいわゆる「国民運動」という、10数年前に京都議定書が始まってクールビズが流行りだした頃から、環境省が普及啓発をして、国民一人一人に「できることで協力して欲しい」というメッセージを出してきて今にいたります
 それがある意味でうまくいってしまった。だから僕たちは、環境問題とは「一人一人が生活の中で気をつけること」という風に理解してしまっているのかもしれません。
 しかし本当は、そこには環境省が管轄していない、大きな「エネルギーの問題」があります。そこは経産省の管轄です。環境省は「気候変動対策として、皆さんエネルギーのチョイスをしましょう」ということを言わないんです。
 だから、学校での教育も、「こまめに電気を消しましょう」という話に終始しがちでした。それはそれでいいんですが、それだけで終わってしまうことがこれまで多かったんじゃないかなと思います。
上田 私はずっと、環境省が出してるCOOL CHOICEに「電気は再エネを選びましょう」というのがあればいいと思っていたし、できる時は提案もしてきました。それが今、「あ、だからないんだ」ってわかりました(笑)。
江守 だって、本来それは一番の大事なチョイスですよね。
 あとは、本当は「政治のチョイス」ってことを言いたいんですが、それは役所は当然そんなこと言えないので(笑)。だから僕も、それは個人の立場で発言する時に言うようにしています。

  1-21-1024x5751-3-1024x575

江守正多「コロナと気候変動、その共通点と相違点」② 6月26日

みんな電力株式会社が運営するウェブサイト『ENECT(エネクト)』の「ひと(PEOPLE INTERVIEW))」に掲載されている江守正多さんと上田マリノさんの対話「コロナと気候変動、その共通点と相違点」(全3回)。第2回は2020年4月22日公開されました。
「コロナ対策である「接触削減」や「ステイホーム」の根底にあるのは、「我慢」という姿勢。しかし気候変動対策の本質はそうではないはず。CO2排出をより抑制することの理解で大切なのは、それがとても「前向きな社会システムのアップデート」にあること。ではそれには、広くあらゆる人に問題について語りかけることが有効なのか、または狙いを定め、ピンポイントの啓蒙活動が必要か。」以下は江守さんの発言部分から引用(アンダーラインは引用者)。
 最近BBCやガーディアンで紹介された論文[FUTURE By David Robson 14th May 2019]で、「社会の3.5%の人が参加すると、ムーヴメントは成功する」、「社会を変えることができる」というものがあります。
 逆に言うと問題は、「どうやって本質的な関心を持つ人を社会の中で3.5%つくるか」ということなのです。みんながちょっとずつ関心を持ち、ちょっとずつ省エネしたりプラスチックを使わないようにしても、この問題は本質的に解決されません。
 「本質的な関心を持つ人」というのは、例えば「気候変動が本当に、自分や大切な人の生命に関わるような脅威である」とすごく思った人。あるいは、「気候変動は将来世代や途上国の人々を、その人たちが全然CO2を出していないのにすごく苦しめるから、倫理的に許せない」と強く思った人。または、「気候変動を何とかするため、脱炭素化のためなら人生を賭けてその仕事をしよう」と思った人という、とにかく強烈なコミットメントを気候変動に持てる人口が3.5%になれば、社会は変わるんじゃないかと思うんです。
 例えばアメリカを見ていると、環境に特にアンテナを立てて強い発信をしているレオナルド・ディカプリオみたいな人がいます。またはイギリスでも、エクスティンクション・リベリオン[Extinction Rebellion、略称:XR]のデモで著名人が逮捕されたり、欧米ではそういうことがあります。でもそれは日本にはない。政治家も、そこまで強い関心を持っている方というのは、いるかどうかもわからない。
 環境NGOにそういう人はいますが、そもそも社会にあまり存在を知られていないし、知られていたとしても「自分とは関係のない、極端な考えの人たち」という風に思われてしまうんじゃないかということで、日本ではあまり広がっていません。
 去年はスウェーデンのグレタさんが広く知られましたが、学生のムーヴメントが起きて、世界で約700万人がグローバル・ストライキに参加したといいます。そのうちドイツでは百数十万人が参加したとのことで、それはドイツ人口の2%に近くて、3.5%も視野に入ってきます。
 対して日本では、参加者は5000人でした。全然足りてない(笑)。
 ですから3.5%の人たちがもし関心を持つと、政治システムに働きかけるでしょうし、経済システムに対しても然りで、そのことで制度やシステムが変わるでしょう。そうすると残りの96.5%の人たちは、別にそんなことに関心を持たなくても、仕組みが変わっちゃったので、もう勝手にC02を減らすしかなくなります。
 すべての電力会社が再エネ100%になれば、再エネを使う以外はなくなります。車も電気自動車しか売っていなければそれを買うことになるし、家を建てようと思ってZEH[ゼロ・エネルギー・ハウス]しかなければ、ZEHを建てることになります。
 そして、そういう社会システムにするために積極的に後押しをする、「本質的な興味を持った人」がある程度必要ということです。最近僕は、じゃあ「そこを目指すべきじゃないか」ということを考えています。
気候変動の話は単に「クリーンなエネルギーを使おう」でもなく、本質的な変化のためには、むしろそれとは関係のない。
  1-11-1024x5751-4-1024x575

江守正多「コロナと気候変動、その共通点と相違点」① 6月26日

みんな電力株式会社が運営するウェブサイト『ENECT(エネクト)』の「ひと(PEOPLE INTERVIEW))」に掲載されている江守正多さんと上田マリノさんの対話「コロナと気候変動、その共通点と相違点」(全3回)。第1回は2020年4月22日公開されました。
「「気候変動対策の本質は、今コロナでやっている自粛やステイホームのような我慢ではない。」それよりも、積極的に活動して「脱炭素社会への移行をどう実現するか?」という、しごくポジティブな思考と姿勢が大切」。以下は江守さんの発言部分から引用(アンダーラインは引用者)。
 気候変動の場合は、あるポイントを超えると世界の破滅が一気に起きるわけではなく、少なくとも今のところ現象は散発的です。ある年はある場所で大雨だったり、別の場所では大干ばつ、森林火災などが起きていますが、一つ一つはその場所にとってのイベントです。もちろんそれらを総体的に見れば、かつては起こりえなかった頻度や激しさであることが見えてくるんですが、まだ全体的な激しさはジワジワと高まってきている状況です。
 つまり気候変動は、今回のコロナほどにはわかりやすくない。もちろん異常気象が直撃した場所ではそれはそれは悲惨なことになっているんですが、それが自分のところにない限りは他人事でいられる。ただそれがいつ自分のところにくるか、その可能性は高まっているし、世界全体を俯瞰して見ても増えていると。
 コロナは世界で一気にきたし、気をつけないと自分や自分の家族が本当に死んでしまうかもしれないという話なので、言い方は変かもしれませんが、「よりわかりやすい」という感じはしてます。
 コロナに関して「気候変動自体が直接的に影響を与えて起きたか」というと、そこは現時点ではわかっていないし、たぶん、そうは言えないと思います。もちろん間接的に、気候変動によって起きた生態系破壊みたいなことが、ウイルスが出てきた原因の一部であるかもしれません。でも、少なくとも僕にはそれはわかっていません。
 それよりももっと根っこのところで関係があるというか、人間活動による生態系破壊やグローバル経済といったものと、気候変動を起こしている、直接的にそれは化石燃料の燃焼なわけですが、それを止められない世界の経済システムというものがあります。
 前提の認識として、それらは同じものです。その意味において、コロナと気候変動の問題には共通項があります。
 その次に、私たちに「何ができる?」、「アクションを起こして意味があるのか?」ということがあります。それに関しては、コロナと気候変動で似ているところと違うところがあると思っています。
 まずコロナに関しては「個人の行動変容」ということが、問題全体において決定的な役目を果たします。それは今、「接触機会の8割削減」ということが言われるわけですが、個人が「出歩かない」、「人に会わない」、「人と近くで喋らない」、「手を洗う」、「消毒をする」ということを一人一人がやるということが、この問題を当面封じ込めることにおいて決定的に大切です。そしてそのために店を閉めないとならないし、じゃあ「補償はどうするんだ?」ということが議論になっています。
 そことの比較で考えると、気候変動で個人が当面できることというのは、コロナの接触削減に当たるものがCO2排出削減になります。それは自分の生活の中で、なるべくCO2を出さないようにするのは、個人の立場でできることだし、今までもそこを意識して行動してくださった方々はそれなりにいらっしゃったはずです。
 それはもちろん素晴らしいことなんですが、実は気候変動の場合の「生活からCO2の排出削減をする行動」というのは、コロナにおける接触削減ほど本質的な重要性を持たないんじゃないかと思うんです。つまり、気候変動の場合は「あと30年で世界の排出量を実質ゼロにしないといけない」という話なので、自分たちが行動の中で多少気をつけてエネルギーを使う量を減らしても、正直そんなに変わりません
 2009年のリーマンショックでも相当経済が縮小したと言いはしましたが、CO2の排出量は2%くらいしか減りませんでした。今だってものすごくみんなが経済活動を止めて、「半分くらいはCO2が減ってるんじゃないか」と思いがちですが、家にいても電気は使います。そしてスーパーに物を運ぶため、Amazonの倉庫へもトラックは走ってますし、電車は空でも動いているわけです。ですから、実はエネルギーを使う活動はそんなに減っていないと思います。
 となると「活動の縮小」は、残念ながら本質的な「気候変動を止める」ところまでの効果は持ちません。そこだけに頼るわけにはいかない。そこが、コロナとの大きな違いでもあると思います。
 気候変動の場合は、そこを超えて、まさにこれはみんな電力さんの事業とも大きく関わることになる部分と思いますが、最終的には「再エネ100%の社会を目指す」と。それには「人々がどんなに活動をしてもCO2が出ない」という、社会を「そういったエネルギーシステムに変えてしまう」、そこを目指しているわけです。
 個人としても、そこをめがけて考えて行動していくのが、これから非常に重要なことだと思っています。それは、自分が人知れず省エネをやって、自分は頑張ったので、「もうあとは偉い人に任せます」ということでは決してないんです。
 つまり、社会の中で化石燃料が減って再エネが増えるのを、どう「個人として後押し」できるのか。その発想で個人もアクションをしていくことが、今後とても重要です。
 気候変動の文脈で、我々が目指しているのは「脱炭素社会」であり、電力も交通も最終的に全部が脱炭素エネルギーになればいいと思っています。その状態はコロナに置き換えると、治療薬とかワクチンが開発されて普及した状態に相当するんじゃないかと思います。
 つまり、今は我慢をしてるけど、最終的には「治療薬とワクチンが開発されて、この状態を克服する」ことが出口なわけです。その点において、コロナの場合は「今我慢すること」がすごく大事であると。
 それに対して、気候変動の場合は「脱炭素社会になる」という明確な出口があります。みんなでそれを目指すことはもちろん大事で、でもその時に「我慢」はあまり本質的ではない。むしろ積極的に活動して、「脱炭素社会への移行をどう実現するか?」ということがとても重要になってきます。
 僕がここをすごく強調するのは、コロナ対応はすごく我慢、自粛する社会的ムードになっています。それでCO2も減っているとなると、「もっと我慢すれば温暖化も止まるのか?」という発想になるかもしれない。でも、その考え方は危険です。その発想では結局、「コロナでこれだけ我慢して、その後に温暖化のことなんて、もう考えるのも嫌だ」という風に、多くの人はなってしまうように思えます。
 そうではない。
 「気候変動対策の本質は、今コロナでやっているような我慢ではありませんよ」と。それはもっと前向きな話であって、新しいエネルギーシステムとか交通システムと、食料や都市のシステムに社会をアップデートしていく。それを「どう、みんなで実現できるか考えましょう」と。だからそこが我慢ではなく、しごく前向きでポジティブなのが、気候変動の話なんです。
   1-6-1024x575

  2-21-1024x7682-11-1024x7682-3-1024x768

最終確認 地球温暖化は本当なんですよね? 6月23日

『世界』2020年5月号に掲載されている江守正多[えもりせいた]さんの「最終確認 地球温暖化は本当なんですよね? 疑うのはこれで終わりにしよう」を読みました。以下の項目に答えています(聞き手=編集部・渕上皓一朗さん)。
 1 「温暖化」という現象は、本当にあるのですか?
     2019年までの世界平均気温の推定
 過去2000年の世界平均気温は、木の年輪などをもとにした代替データからの復元によって、ある程度推定できます(図2[上図]が最新の推定値をグラフにしたものです)。最後の150年間に、著しい気温上昇がありますね。
 しばしば言われる「中世の温暖期」、14世紀~19世紀の「小氷期」(ミニ氷河期)も、確かにグラフから見て取ることができますが、いずれも以外と小さいことがわかります。いまは明らかに過去にない異常な上昇を見せています。

 2 「温暖化」は温室効果ガスのせい?
 
 3 「温暖化」はよくあること?

 4 気温が原因でCO2が結果?

 5 CO2だけが悪者なのでしょうか?

 6 異常気象は気候変動のせいなのでしょうか?

 7 温暖化についてわからないことがあるのですか?
ー日本における懐疑論は、2000年代に盛り上がり、原発事故でいったん沈静化したのち、近年の「グレタ・ショック」で再燃している印象があります。その間、IPCCは、「二酸化炭素が気温上昇の主な原因である」かどうかについて、第3次報告書(2001年)において「可能性が高い」(66%以上)だった評価を、「可能性が極めて高い」(95%以上)に上方修正しています。この間、どのような研究の進展があったのでしょうか。
 基本的には、30年前に第1次報告書(1990年)で言われたことが徐々に、より確かになってきた、ということだと理解しています。その意味で、何か基本的なところでで新たな発見があったとか、そういうことではありません。
 ではなぜ確度が上がったかといえば、先ほど言った人工衛星のような観測技術や、シミュレーションのためのコンピュータの発展もありますが、なにより30年刊で実際に温暖化のプロセスが進行したことが非常に大きいですね。その間に取られたデータによって、議論の確実性がより高まっていきました。

ーつまり、懐疑論について議論する段階はとうに終わっているということですね。では、このテーマについて未解明の事項はもはやない、ということでしょうか?
 いえ、むしろ、新たに喫緊の課題が持ち上がっています。
 それが近年特に話題になっている、いわゆる「テッピング・エレメント」という現象です。温度上昇がある臨界点を超えたとき、仮にその後上昇を止めたとしても、変化の進行を止めることができないような現象で、いま非常に懸念されています。[中略]
 …[一度大規模に始まってしまうと、もう後戻りできない不安定なモードに突入]…それが本当に起こるのか、起こるとすれば何℃で起こるか、起こったらどういう現象が起こるか、非常に大きな研究課題です。
 さらには、それらの現象が相互に連鎖する可能性も懸念されています。一つのスィッチが入ったら、それによる変化が次のスィッチを入れてしまい、負の変化が連鎖して止まらなくなってしまうかもしれない。「ホットハウス・アース」とよばれ、注目されています。
 もうひとつ、喫緊の課題とされているのが「カーボン・バジェット」(炭素予算)です。平均気温の上昇幅を1.5℃で抑えるためには、どれほど温室効果ガスの排出が許容されるのか。
 今回のIPCC特別報告書では「2050年頃にはCO2排出量を実質ゼロにしなくてはならない」としていますが、いまだ推計値にはかなりの幅があります。この確度をどの程度上げ、それをどのように具体的に政策に落とし込むか、今後の研究にかかっています。

……科学的成果の何をどこまで信用すればよいのか、専門家でないわれわれ市民には、つねに難しい判断を突き付けられる。これは、未曾有の感染症流行に直面しているいままさに、切実な問題としてわれわれにふりかかっている。科学者と市民のあるべき関係について考えるうえで、温暖化懐疑論に対する研究者たちの数十年にわたる誠実な対話の姿勢から学ぶべきことは大きい。……(聞き手=編集部・渕上皓一朗)
------------------------------------------------------------
※YouTube【20分でわかる!温暖化のホント】地球温暖化のリアル圧縮版①[国立環境研究所動画チャンネル]地球温暖化をテーマに、江守正多(国立環境研究所地球環境研究センター副センター長)が、中高生にもよくわかるように解説する全3回シリーズの初回。第1回は「地球温暖化のウソ?ホント?」をテーマに、温暖化にまつわるよくある疑問について、クイズ形式で、わかりやすくお話しします。2020年3月に生配信した「【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】第1回 地球温暖化のウソ?ホント?」から、解説部分をぎゅっと20分に圧縮したダイジェスト版です。全編字幕つきで、より見やすくなりました。地球温暖化の基本を短時間で理解するのにおすすめです。


※YouTube【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】第1回 地球温暖化のウソ?ホント?[国立環境研究所動画チャンネル]地球温暖化をテーマに、江守正多(地球環境研究センター副センター長)によるトーク【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】を生放送します。日時:2020年3月13日(金)15時~15時40分くらいまで全3回のうち、第1回「地球温暖化のウソ?ホント?」をお届けします。特に中学生、高校生がよくわかるようにお話しします。もちろん、それ以外の方のご視聴も歓迎します。


※YouTube【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】第2回 温暖化ってヤバいの?[国立環境研究所動画チャンネル]江守正多(地球環境研究センター副センター長)によるトーク【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】(全3回)のうち、第2回「温暖化ってヤバいの?」を生放送します。日時:2020年3月18日(水)15時~15時40分くらいまで


※YouTube【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】[国立環境研究所動画チャンネル]江守正多(地球環境研究センター副センター長)によるトーク【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】(全3回)の、第3回「じゃあ、どうしたらいいの?」を生放送します。日時:2020年3月23日(月)15時~15時40分くらいまで


------------------------------------------------------------
江守正多「組織的な温暖化懐疑論・否定論にご用心」(掲載誌 : 国際環境経済研究所HP内「オピニオン」 (2020))
英語圏における組織的な温暖化懐疑論・否定論
 人間活動を原因とする地球温暖化、気候変動をめぐっては、その科学や政策を妨害するための組織的な懐疑論・否定論のプロパガンダ活動が、英語圏を中心に活発に行われてきたことが知られている。
 米国の科学史家ナオミ・オレスケスらによる「世界を騙し続ける科学者たち」(原題:Merchants of Doubt) にその実態が詳しく記されている。タバコ、オゾンホール、地球温暖化といった問題に共通して、規制を妨害する側の戦略は、科学への疑いを作り出し、人々に「科学がまだ論争状態にある」と思わせることだ(manufactured controversy) 。そこでは、規制を嫌う企業が保守系シンクタンクに出資し、そこに繋がりを持った非主流派の科学者が懐疑論・否定論を展開し、保守系メディアがそれを社会に拡散している。
 他にも社会科学者がこの問題について実態解明を進めており、2015年にNature Climate Changeに掲載された論文 では、懐疑論・否定論の多くはエクソン・モービルとコーク・ファミリー財団という化石燃料企業やその関連組織が中心となって広められていることがネットワーク分析により明らかになっている。
 化石燃料企業の経営の視点から見れば、温室効果ガスの排出規制等が政策として導入されれば収益に著しい損失をもたらすのだから、それを妨害するためであればプロパガンダ活動に相当の出資をしても見合うというのが「合理的な」判断かもしれない。
 しかし、気候変動の危機の認識が社会において主流となってきた現在では、そのような妨害活動の実態を暴かれることが、企業にとって大きなレピュテーションリスクや訴訟リスクとして跳ね返ることになり、損得勘定は以前と変わってきているだろう。エクソン・モービルは、1970年代から人間活動による温暖化を科学的に理解していたにもかかわらず、対外的には温暖化は不確かという立場をとり続けてきたことが明らかになり、複数の訴訟を起こされている。
日本における懐疑論・否定論
 筆者は2007-2009年ごろの地球温暖化が社会的関心を集めた時期に、温暖化懐疑論・否定論とずいぶん議論する機会をもった。筆者の当時からの認識としては、日本国内において英語圏の資本による組織的な懐疑論・否定論プロパガンダの影響は小さいと思っていた。
 日本では、懐疑論・否定論に同調的な産業界寄りの論客がたまに現れるものの、エネルギー産業や鉄鋼業などの企業も、組織としては気候変動の科学をIPCCに基づき理解しようと努めており、規制に対抗するにしても、科学論争ではなく政策論争を争点としているようにみえた。
 これまでに筆者が議論した懐疑論・否定論の論客(多くは気候科学以外を専門とする大学教授) も、英語圏の懐疑論・否定論をよく引用するものの、筆者個人の印象では、英語圏の資本による組織的なプロパガンダとはつながっていないようにみえた。
GWPFの記事を組織的に紹介?」「内容はどこがおかしいのか?」「IPCC「1.5℃報告書」の欠陥?」(略)

懐疑論・否定論のリスク
 温暖化懐疑論・否定論は主流の科学との議論に勝つ必要はなく、「なにやら論争状態にあるらしい」と世間に思わせることができれば成功なのであるから、それに反論する活動に比べると圧倒的にノーリスクで有利な、「言ったもん勝ち」の面がある。
 一方、世間がそのようなプロパガンダ活動の存在を知れば、ある組織がその活動に関わっていると世間から見られることは、組織の評判を毀損するレピュテーションリスクになるだろう。懐疑論・否定論を見る側も、見せる側も、そのことをよく理解してほしいと思う。
 最後に、この記事を寄稿させてくださったIEEI[国際環境経済研究所]のオープンな姿勢に敬意を表し、心より感謝を申し上げる。

------------------------------------------------------------
※『下野新聞SOON』(Shimotsuke Original Online News)の特集「気候変貌 とちぎ・適応への模索」第6部 次世代への(下)に掲載された「江守正多氏に聞く 温暖化世界と危機感の差」です。
 世界の平均気温は産業革命以降、すでに1度温暖化し、いまも上昇を続けている。持続可能な社会を次世代に引き継ぐために、私たちは気候変動とどう向き合えばよいのだろう。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書の主執筆者を務める国立環境研究所地球環境研究センターの江守正多(えもりせいた)副センター長に話を聞いた。
 2015年に国連で採択された地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」では、「世界平均気温の上昇を産業化以前と比べて2度より十分低く抑え、さらに1.5度未満に抑える努力を追求する」という長期目標が合意されている。
 昨年10月には、上昇幅を1.5度に抑えた場合の影響などをまとめた国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の特別報告書が公表された。気候変動による悪影響のリスクは、1.5度温暖化した世界では現時点よりも顕著に大きくなり、2度ならさらに大きくなることなどが書かれている。これを受け、世界では「やはり1.5度で止めるべきだ」という議論がかなり盛り上がっていると感じている。
 現時点で、世界の平均気温はすでに1度上昇している。1.5度未満で止めようと考えると、産業革命以降、もう3分の2まで来てしまった。そして残り3分の1は、今のペースで温暖化が進めば、あと20年前後で到達する。
 それが、私たちの現在地を示している。
  
 1度の温暖化による悪影響や、1.5度でどのくらいひどくなるかについて、まだ日本国内ではそれほど深刻には捉えられていないかもしれない。
 だが、大きな被害が出ているのは、対応力が限られる途上国の人たち。特に干ばつが食糧危機をもたらすような乾燥地域の国々、海面上昇や高潮の影響が生活基盤を脅かすような沿岸域、あるいは小さい島国の人たちにとっては、かなり深刻だ。
 こうした国々の他にも、世界では人類とその文明にとって危機的な状況が迫っているという認識を持つような人たちが増えてきている。中でも非常に大きなグループが若者たちだ。
 学校を休んで気候変動対策を求める「学校ストライキ」が世界中で起きている。今年の3月15日には約150万人が参加し、5月24日にも世界規模でのアクションがあった。
 例えば2050年に気温上昇が1.5度を超え、自然災害や生態系の破壊、さらに社会的な混乱が本当に深刻になった時に、彼らは40代ぐらい。社会の真ん中でそうした状況を受け止めなければならない世代が本気で心配しているということだ。
 彼らは今、政治的な発言権がないため、学校を休むという、ちょっと極端なことをやって注目を集めながら、自分たちの声を大人たちに聞かせようとしている。
 これは、現在の世界における危機の認識としては象徴的な出来事だ。
 温暖化を1.5度未満に抑えるためには、世界の二酸化炭素(CO2)の排出量を今世紀半ばに「正味ゼロ」(人間活動による排出と吸収の差し引きゼロ)にするというのが目安になる。IPCCの「1.5度特別報告書」が出る前、先進諸国は「50年に1990年比80%以上削減」などといった長期目標を掲げていた。
 しかし、特別報告書が出て、英仏などが50年に正味ゼロを目指そうと議論を始めた。「80%削減」でもぎりぎりだったはずなのに、どうすればそれが可能になるのだろうか。
 英語で「think(シンク) outside(アウトサイド) the(ザ) box(ボックス)」という言い方がある。箱の外を考えるという意味だが、「80%削減」を議論するとき、暗黙に置いている前提があったはずだ。
 でも「正味ゼロ」が必要だとの議論になると、おそらく暗黙の前提の方が変化する。常識が変わるということだ。いまの常識で考えると不可能に見えるが、常識が変われば可能かもしれない。世界では、そのように考える人がだんだんと増えている。
  
 日本国内でも昨年の記録的な猛暑や西日本豪雨、非常に強い台風の上陸などで大きな被害が出た。
 ある気象災害が、その年に、その場所で起きたことは偶然と言えるが、気候変動が進めば、そうした災害が長期的に増えていくことは必然だ。
 実際に起きた大雨の例で見ると、もし温暖化していなければ大気中の水蒸気はもっと少ないので、そこまでの雨量にならなかったはずだ。その意味では、日本でも温暖化の影響の一部を私たちは見ていると考えてよいだろう。
 だが、昨年の報道などを見ていても、異常気象は非常に大きな話題にはなったが、「だから温暖化を止めましょう」という話はあまり盛り上がらなかったように思う。
 世界との危機感の差に関して、もし日本に特殊性があるとすれば、よく指摘されるのは「3・11」だ。東日本大震災があり、原発と放射能や、地震のリスクが日本人にとって非常に重く認識され、地球温暖化問題は後回しになってしまった面があるのかもしれない。
 ただ、気候変動に向き合う世界の潮流にぴんときていないと、ビジネス上の危機という問題も起きてくる。
 世界では気候変動対策を真剣にやらない産業には、投資が集まらないようになってきている。国際ルールや常識がどんどん変わっていく中で、ある時、世界の空気を読み、対策を取らざるを得なくなった時、これまで建ててしまった石炭火力発電所みたいな施設が、投資が回収できない「座礁資産」になるなどのリスクが出てきてしまう。
 現状は、無意識ではあっても変えたくない勢力と変えていきたい勢力がせめぎ合っている感じがする。
 脱炭素社会へ変えたいと考えている企業や自治体などでつくるネットワーク「気候変動イニシアティブ」など、いろんな団体の人たちが政府にアクションを求め、自分たちで成功の実例を作って、広めていく役割が期待される。でも、周りが止まっていれば、それで間に合うかは分からない。
 もたもたしていると、海外で脱炭素のイノベーション(技術革新)のようなことが起きて、それが日本の産業を破壊するような事態になる可能性もある。気候変動対策の重要性を、ビジネス面からもしっかりと考える時期に来ている。
  
 一方、適応に関しては昨年、とても象徴的だと感じたことがあった。
 全国の小中学校の教室に熱中症対策でエアコンを入れることになったという出来事だ。かつては夏は暑くても我慢して勉強して、夏休みに休めばいいじゃないか、という考え方だった。
 気候が変わることで、社会の常識が変わる。そう強く実感した。
 そんなふうに気候の変化をしっかり認識し、対応すること。そして予見し、備えることが、極めて重要である。
【ズーム】IPCC「1.5度特別報告書」 IPCCが昨年[2018]10月に公表した。現状では2040年前後に産業革命以降の世界平均気温の上昇幅が1.5度に達するとし、1.5度に抑えた場合と、2度になった場合との影響の比較も提示した。1.5度なら海面の上昇幅は2度に比べ約10センチ抑えられ、影響を受ける人は1千万人少ないと推定。サンゴ礁は1.5度なら70~90%、2度なら99%以上消失する恐れがあるなどと示した。
------------------------------------------------------------
※小西雅子(WWFジャパン[世界自然保護基金])「IPCC「1.5度特別報告書」COP24に向けて」(2018年11月20日)
小西雅子(WWFジャパン)小西雅子(WWFジャパン)_01小西雅子(WWFジャパン)_02

小西雅子(WWFジャパン)_03小西雅子(WWFジャパン)_04小西雅子(WWFジャパン)_05

小西雅子(WWFジャパン)_06小西雅子(WWFジャパン)_07

鼎信次郎「今世紀の排出が1000年先の未来を決める?! —ティッピングとは何か?」 6月20日

鼎信次郎さんの「今世紀の排出が1000年先の未来を決める?! —ティッピングとは何か?」。2016年11月21日東京大学伊藤国際学術センター伊藤謝恩ホールで行われた環境省環境研究総合推進費戦略的研究開発プロジェクトS-10公開シンポジウム『地球温暖化対策の長期目標を考える-パリ協定の「1.5°C」、「2°C」目標にどう向き合うか?』発表資料です。

 鼎信次郎

地球温暖化による様々なリスク
 鼎信次郎_01

ティッピングポイント(TP)とは?
 それまで小さく変化していたある物事が、突然急激に変化する時点を意味する。

ティッピングポイント(TP)とは?
 鼎信次郎_02
 地球温暖化研究では、地球の気候を構成する要素に質的かつ急速な変化が生じさせるしきい値(気温など)を指す。

ティッピングエレメント(TE)とは?
 鼎信次郎_03
 TE:TPを超えたときに発生しうる地球の気候システムを構成する要素。

ティッピングエレメントの発現可能性は?

ティッピングポイントを超える可能性があるティッピングエレメント
 ・北極海夏季海氷の消失
 ・アルプス氷河の消失
 ・サンゴ礁の白化
 ・グリーンランドと南極氷床の融解

北極海夏季海氷の消失
 通常は、北極海では毎年、春から夏にかけて海氷が縮小し、9月に最小になった後、再び冬にかけて海氷が拡大するという変化を繰り返している

●北極海夏季海氷の消失
 ・2040年代、 A1Bシナリオ(+1~2°C上昇)で夏季の海氷は、カナダとグリーンランド北岸沿いにのみ残る。

アルプス氷河の消失
 ・B1シナリオ(+2°C上昇)で、 2060年代までにアルプス氷河はほぼ消失する予測。

サンゴ礁の白化
 ・1.5°C・2.0°C上昇の場合どちらでもサンゴ礁の多くが白化
 ・サンゴへのストレス(海面上昇・ENSOイベントや熱帯低気圧の増加・外来種の増加など)は未考慮

グリーンランド氷床と南極氷床
 氷河:重力によって長期間に渡り緩やかに動く氷塊
 氷床:大陸規模(5万km2以上)の氷河

海面上昇と各要素の寄与

•2081~2100年における海面上昇量の予測:+0.26~0.82 [m] *1986-2005年を基準
 ・~2100年では海面上昇寄与は,熱膨張>(山岳)氷河>グリーンランド氷床>南極氷床
 ・2100年を超えた予測では,グリーンランド氷床の寄与が大きくなる可能性がある

グリーンランド氷床のティッピングポイント

大規模な海面上昇による影響(東京湾周辺)
 鼎信次郎_04

海面上昇でどこが浸水するの?
 鼎信次郎_05
 グリーンランド氷床が全融解し、7m海面上昇した場合(関東~東海地方)

海面上昇でどこが浸水するの?
 グリーンランド氷床が全融解し、 7m海面上昇した場合(関西~九州)

グリーンランド氷床と北極海夏季の海氷が、2100年までにそれぞれのティッピングポイントを超える確率はどの位なのだろうか?

2通りの目標気温(1.5°C, 2.0°C)と追加政策なし[BAU]の計3つのシナリオに対して,グリーンランド氷床と北極海夏季海氷が,2100年までにティッピングポイントを超える確率を推定

ティッピングポイントを超える確率
 鼎信次郎_07

本プロジェクト(ICA-RUS)で研究対象としているティッピングエレメント
 ・西南極氷床の安定性
 ・北大西洋熱塩循環と貧酸素水域の拡大
 ・メタンハイドレートの分解

西南極氷床の安定性

北大西洋熱塩循環と貧酸素水域の拡大
 ・温暖化により海洋中の酸素は1000年かけて30%程度減少すると簡易気候モデルが予測。
 ・表層、亜表層では水温変化の影響で酸素が減少
   → 酸素呼吸をする魚介類などが好む環境でなくなることで、生物生息域等に影響

【数千年~数万年スケールのティッピングエレメント】メタンハイドレートの分解
 鼎信次郎_08
 メタンハイドレートとは・・・低温かつ高圧の条件下でメタン分子が水分子に囲まれた氷状の化石燃料。次世代のエネルギーとして期待されている

【数千年~数万年スケールのティッピングエレメント】メタンハイドレートの分解
 鼎信次郎_09
 Q:酸化により海水中の溶存酸素が減少するが、どのくらいか?
 A:魚等が生息出来ない貧酸素域の拡大
 メタンハイドレート2600GtC(現在)から800GtCへ減少
 ・その放出により貧酸素域が拡大(北太平洋1000m深付近)
 ・大気CO2が200ppm程度上昇の可能性

本日のまとめ
 鼎信次郎_10
 ・地球温暖化による様々なリスクとして、ティッピングポイント・ティッピングエレメントを紹介。
 ・パリ合意の気温幅でも発現する可能性があるティッピングエレメント(北極海夏季海氷の消失、アルプス氷河の消失、サンゴ礁の白化、グリーンランドと南極氷床の融解)がある。
 ・何かしら気候変動政策(パリ合意など)をとらないと、発現可能性がかなり高くなるティッピングエレメントも存在。
 ・ただし、かなり不確実性が高く、まだまだ発展途上の研究であるため、科学的な根拠をつかむ研究が今後も必要。世界の温暖化研究へ寄与。


レントン、ロックストローム「気候のティッピングポイント 危険すぎる賭け」 6月19日

『世界』2020年5月号、100~105頁に掲載されているティモシー・レントン、ヨハン・ロックストローム 他「気候のティッピングポイント 危険すぎる賭け」は『Nature(2019年11月27日付)』に掲載された
Timothy M. Lenton,Johan Rockström,Owen Gaffney,Stefan Rahmstorf,Katherine Richardson,Will Steffen &Hans Joachim Schellnhuber「Climate tipping points — too risky to bet against The growing threat of abrupt and irreversible climate changes must compel political and economic action on emissions」の抄訳です。

気候のティッピングポイント 危険すぎる賭け
限界点が差し迫っている
 政治家や経済学者、そして一部の自然科学者の中には、地球システムが「ティッピングポイント」(地球の気候に不可避的な変化を起こす「臨界点」)に達する確率は低く、考えられないことだと信じてやまない人たちがいる。彼らは、アマゾンの熱帯雨林や西南極の氷床が消えてしまうような事態は、まず起きないと信じ込んでいるのだ。
 しかし今、このような出来事は彼らの想定よりはるかに「起こり得る」という証拠が、次々とあがっている。地球システムの変化が連鎖的に起こり、複数がティッピングポイントを超えれば、世界に長期間で不可避的な変化がもたらされることになる。
 そこで私たちは、地球システムがティッピングポイントを超える証拠をまとめ、我々が今もつ知識とのギャップをを確認し、どのようにすればこれらの出来事を止められるのか提言しようと決めた。人々がティッピングポイントについてより深く考えをめぐらせるようになれば、私たちの惑星に緊急事態が差し迫っていることに、多くの人が気づくはずだ。(100~101頁)
このままでは3℃上昇する
 ティッピングポイントの概念は、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)で、20年前に導入された。
 当時は、温暖化で世界の平均気温が産業革命以前より5℃以上上昇した時にだけ、気候システムの「広範囲の乱れ」が、ティッピングポイントに達するととらえられていた。ところが、IPCCによる最新の二本の報告書(「1.5℃特別報告書2」2018年9月、「海洋と雪氷圏の気候変動に関する特別報告書」2019年9月)では、1℃~2℃の上昇でティッピングポイントを超えてしまう可能性が警告されている。
 2015年のパリ協定で、各国は世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃よる下回るようにするという目標を掲げた。しかし、現時点で約束されている温室効果ガスの排出削減を各国がもし実行したとしても、平均気温は最低でも3℃上昇するとみられている。気候上昇は1.5℃で抑えなければならず、これには緊急的な対応が必要だ。(101頁)
●氷床の崩壊

●生物圏の崩壊
  d41586-019-03595-0_17429034
A:アマゾン熱帯雨林(頻繁な干ばつ)、B:北極海の海氷(面積の縮小)、C:大西洋の循環(速度低下)、D:北方林(森林火災の増加、害虫の乱れ)、F:サンゴ礁(広範囲の死滅)、G:グリーンランドの氷床(融解の加速)、H:永久凍土(融解)、I:西南極の氷床(融解の加速)、J:ウィルクス盆地(東南極氷床の融解)
地球規模のカスケイド効果
私たちが危惧する最も危機的事態は、地球がてぃっぴんぐぽいんとのカスケイド(ティッピングポイントが雪崩のように連続して発生すること)に近づくことだ。様々な地球システムが連鎖的にティッピングポイントを超えて崩壊すれば、世界は「ホットハウス・アース(温室地球)」状態になりかねない。(104頁)
Act now さあ、行動しよう
 臨界点の現状をみるだけで、私たちがいかに、地球という惑星の緊急事態に直面しているかということがわかる。ティッピングポイントを回避するために私たちに許された時間は、すでにゼロに向かって縮小していると言っても過言ではない。
 研究者らは、炭素排出量をゼロにできるのは短くても30年後だと言っている。危機的状況にあることは明らかだ。ティッピングポイントが起こることを、もしかしたら私たちは、すでにコントロールすることができない状態にあるのかもしれない。
 しかし唯一の救いは、ティッピングポイントを超えることによる損害の蓄積の割合は、まだある程度、私たちのコントロール下にあるかもしれないということだ。(105頁)

 気候問題に関して、かつて考えられていたよりも多い「ティッピングポイント(転換点)」に、わたしたちは近づきつつある──。こうした内容の論説を、ある科学者のグループが『Nature』に11月末に寄稿した。地球温暖化に歯止めをかけるためにわたしたちが実行すべきことは明確だが、もはや時間は限られてきている。
 社会正義について語る際に、ティッピングポイント(転換点)とは素晴らしいものである。例えば、ティッピングポイントとなる判例は世論を変える。
 ところがティッピングポイントは、生物種には破滅をもたらしかねない。事実、環境の激変は生物の個体数を危機的状況に追いやっている。気候変動の場合、科学者が視野に入れるようになったティッピングポイント、すなわち地球の気候に不可逆的な変化を起こす臨界点は、ひとつだけではなく数多くあるのだ。
 気候問題に関してかつて考えられていたよりも多い「9つのティッピングポイント」に、わたしたちは近づきつつある。さらにはそうしたティッピングポイントがもたらす影響に、わたしたちがすでに気づき始めている──。こうした内容の論説を、ある科学者のグループが『Nature』に11月末に寄稿した。
 「気候の不可逆的な変化を防ぐために残されている時間は、もはやゼロになったと言っても過言ではないに。それにもかかわらず、温室効果ガスの排出量実質ゼロを達成するまでの時間は「短くても30年はかかる」と研究者らは書いている。「わたしたちはそうした変化の発生を、もう止められないのかもしれない」というのだ。
 それでもわたしたちは、まだ被害を減らすために行動できる。わたしたちがとらなければならない方策はかつてなく明確だが、時間が尽きかけている。
 「半世紀後、わたしたちはいまの状況をどんなふうに振り返るのでしょうか。もっと持続可能性のある健やかな未来を何世代にもわたって築けたはずだったと悔やむのでしょうか」と、エクセター大学グローバルシステム研究所所長のティム・レントンは言う。「埋蔵量に限りがある化石燃料を使い続けることや、世界の終わりを受け入れるような行動はやめるべきです」
気候のティッピングポイントは、大きく3つカテゴリーに分類される
 1)氷 2)陸地 3)海

●個別の要素が相互に影響し、深刻さを増す
 このような複数のティッピングポイントは、別個に存在するわけではない。その多くは、互いに影響し、深刻さの度合いを増していく。
 その相互に関連する特徴から考えると、ティッピングポイントのモデル化は必然的に憶測を立てることになる。というのも気候変動の極めて複雑なシステムを完璧に捉えるのはとても無理だからだ。このためティッピングポイントのモデル化は、予測に不確実性を持ち込むことになる。
 従って、すべての研究者がティッピングポイントという考え方をとっているわけではない。ティッピングポイントという表現は、ふたつの世界を分けるある特定の数値すなわち閾値を示唆している。しかし実際には、閾値の前後がいつになるのか、必ずしも常に明確ではない。
最も重大なティッピングポイント
 「ティッピングポイントが生じつつあるらしい、ティッピングポイントは本当にあるらしいといった説の根拠はかなり信憑性が高いものです。このため正直な話、この説はなぜわたしたちがともに行動しなければならないのか、気候変動の解決のためにできることをしなければならないのかについての、もうひとつの極めて重大な理由になります」とパーストル[カーネギー気候ガヴァナンス・イニシアチヴのエグゼクティヴディレクター、ヤーノシュ・パーストル]は語る。
 「この『Nature』の記事には、なぜ本当の危機が、本当の緊急事態がいまここで発生しているのかについて、非常に多くのもっともな理由がまとめられています」
 とはいえ、まだ望みはある。早急に二酸化炭素排出の大幅な削減ができれば、海水面の上昇は遅くなる。世界中で、特にアマゾンで、森林伐採をやめなければならない。こうしたことが、文明社会を長期的に健全に保つ鍵となる。
 またティッピングポイントは必ずしも災難の兆候とは限らない。「社会領域では、ティッピングポイントが社会の発達につながっている場合も多いのです」とレントンは説明する。「例えば、再生可能エネルギー技術や電気自動車を採用する動きが加速しているのを、いまわたしたちは現実に目にしていると言えます」
 人々は目覚めつつあり、グレタ・トゥーンベリは日ごとに勢いを増す環境運動の先頭に立っている。政治家や資本家が気候変動という大惨事を加速させても、わたしたちのなかでより思慮深い人々は、気候変動の問題は変えられると考えている。その考えが、恐らく最も重大なティッピングポイントなのだろう。
ティッピングポイント、ティッピングエレメントとは?
   →鼎信次郎「今世紀の排出が1000年先の未来を決める?! —ティッピングとは何か?」6月20日記事

『市民版環境白書グリーンウォッチ』(2017~2020年版) 6月15日

市民版環境白書『グリーンウォッチ』(グリーン連合編)の2017年版、2018年版、2019年版、2020年版の目次です。各年版ともグリーン連合のWebサイトからダウンロードできます。
グリーン連合は「日本各地で、様々な環境活動に携わる多くの仲間とつながり、これまで積み重ねてきて経験と英知を結集し、危機的状況にある地球環境を保全し持続可能で豊かな社会構築に向けた大きなうねりを日本社会に巻き起こすために2015年6月5日に設立された環境NGO・NPO・市民団体の全国ネットワーク」です。埼玉県では「NPO法人環境ネットワーク埼玉」、「NPO法人さやま環境市民ネットワーク」、「埼玉西部・土と水と空気を守る会」が会員です。

  市民版環境白書2020グリーンウォッチ

はじめに
漫画「グリーン・ウォッチ」2020
第1章 脱炭素社会に向けた最近の動向
第1節 「気候変動」から「気候危機」問題へ
 1.気候行動サミットとCOP25
 2.日本政府の遅れた対応と自治体の動き
 3.若者たちの動き
第2節 持続可能な再生可能エネルギー100%社会の実現
 1.再生可能エネルギーの導入はどこまで進んだか?
 2.動き出した再生可能エネルギー100%への取組
 3.再生可能エネルギー本格導入とFIT制度見直しの課題
 4.バイオマス発電と持続可能性
第2章 生物多様性、そして森林の危機
第1節 IPBESの活動、成果とその日本への示唆
 1.IPBESの概要
 2.IPBESの主なアセスメントからの主要なメッセージ
 3.IPBESアセスメントからのメッセージを受けて市民にできること
 4.IPBES成果の政策活用に向けた動き
第2節 世界の森林と私たち
 1.森林はなぜ減少しているのか?
 2.森林が減少することの生物多様性への影響
 3.森林が果たす気候変動抑制の効果
 4.私たちの行動が森林を守る
【コラム】2019年のアマゾン森林火災騒動
第3章 化学物質
第1節 環境ホルモン(内分泌かく乱化学物質)の脅威に改めてどう対処すべきか
 1.内分泌かく乱化学物質とは?――従来の毒性学の常識が当てはまらない
 2.肥満・糖尿病や心臓病の原因との指摘も
 3.内分泌かく乱化学物質の社会的コストはGDPの1.2~2.3パーセントにも
 4.EUにおける内分泌かく乱化学物質の規制の動向
 5.日本における内分泌かく乱化学物質の規制の現状と課題
 6.日本政府への提言
第2節 環境省「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の進捗状況と今後の課題
 1.エコチル調査とは何か
 2.エコチル調査の背景と中心仮説
 3.エコチル調査の進捗状況
 4.エコチル調査でわかったこと
 5.今後の課題
第4章 東京電力福島第一原発事故後の状況
第1節 蓄積する課題にどう向き合うか(廃炉、放射性廃棄物の量と行方)
 1.福島第一原発の廃炉の現状と課題(トリチウム水海洋放出問題を含む)
 2.除染廃棄物の中間貯蔵施設の運用開始と問題点
 3.台風・大雨の影響(第一原発と広域環境)
 4.福島第一原発の廃炉をめぐる諸課題に私たちはどう向き合えばよいのか
第2節 福島の住民のその後
 1.甲状腺がん「数十倍多く発生」
 2.隠された初期被ばく
 3.帰還政策の現状
参考 欧州における環境NGOの位置づけと公的資金
 1.環境団体は環境政策のパートナー
 2.EUのLIFEプログラム
 3.ドイツの環境団体助成
 4.日本への示唆
活動報告 グリーン連合 この一年の活動実績
報告1.地域でのワークショップの開催
 1-1 埼玉ワークショップ報告
 1-2 岐阜におけるシンポジウム
報告2.環境省との意見交換会
報告3.地球環境基金との意見交換会
報告4.小泉進次郎環境大臣への要望書
会員名簿
編集委員会・執筆者
市民版環境白書2020グリーンウォッチ_01市民版環境白書2020グリーンウォッチ_02市民版環境白書2020グリーンウォッチ_03市民版環境白書2020グリーンウォッチ_04

市民版環境白書2020グリーンウォッチ_05市民版環境白書2020グリーンウォッチ_06市民版環境白書2020グリーンウォッチ_07市民版環境白書2020グリーンウォッチ_08

  green_watch2019S

序 2019年度グリーン・ウォッチの目的
第1章 脱炭素社会に向けた最近の動向
第1節 気候変動問題
 1.パリ協定以降の世界の動向とCOP24
 2.後手になる日本政府の対応と企業・金融界の動き
 3.変化の兆しが見え始めた石炭火力発電所新規建設問題
第2節 再生可能エネルギー
 1.再エネ100%に向けた世界の動きと日本の課題
 2.再エネ開発での合意形成・持続可能性の課題と解決策
第3節 地球温暖化対策の決め手 カーボンプライシング
 1.カーボンプライシングとは何か
 2.なぜカーボンプライシングか~現状の温暖化対策税だけでは不十分
 3.カーボンプライシングを取り巻く国内の状況
 4.諸外国の導入状況とその効果
 5.炭素税収入の活用方法
 6.グリーン連合の提案
第2章 顕在化してきた新たな危機
第1節 プラスチック問題
 1.人類は「プラスチック」にどう向き合えばよいのか?
 2.プラスチック資源循環を巡る世界の動き
 3.プラスチック問題に関する国内の動き
 【漫画】「グリーン・ウォッチ」2019
第2節 気象災害と防災
 1.風水害が相次いだ2018年
 2.2018年の夏は猛暑に
 3.地球温暖化は極端気象を増加させる
 4.データが示す地球環境の変化
 5.激甚化する災害から生き残るためには
 6.日本は災害に対する国際貢献を
第3節 いまだに続く福島原発事故の災害
 1.汚染水の海洋放出問題
 2.除染土再生利用・埋立方針について
 3.チェルノブイリの経験から福島の今を考える
 【コラム】「たらちね」震災後に開設した放射能測定所とクリニック
第3章 国内外の先進的な動き
第1節 国内の動き
 1.市民協働事業提案制度
 2.山形県遊佐町の少年町長・少年議員公選事業
第2節 データ不正問題は何が間違った結果なのか?
 1.政府の政策判断の質の問題がデータ不正を生む
 2.データ不正の原因は何か
 3.基本的な情報公開を欠いていた技能実習生データと裁量労働制データ
 4.統計調査では当然の基礎情報が公開されていなかった毎月勤労統計
 5.市民社会は何を求めるべきか
第3節 ドイツの州レベルにおける環境NGO/NPOに対する助成制度
第4節 座談会 日本の環境NPOへの支援の現状と課題
 1.環境NPO/NGOの存在意義は何か
 2.グリーン連合として、共通課題への取組を進める活動報告
     グリーン連合のこの一年の活動実績
 1.4つの地域でのワークショップの開催
 2.環境省との意見交換会
 3.地球環境基金との意見交換会
 4.要望書の提出
会員名簿
編集委員会・執筆者
  GW2018s2

はじめに
第1章 主要な環境政策のレビュー
第1節 気候変動問題
 1.気候変動対策とエネルギー基本計画
 2.石炭火力発電所をめぐる諸問題
 3.気候変動適応策
第2節 再生可能エネルギー
 1.再エネ100%への現状と課題
 2.電力自由化(電力システム改革)の現状と課題
 3.一次産業振興と地域活性化への期待
 4.社会的合意形成の重要性
第3節 廃棄物
 1.ペットボトルの問題点と対策
 2.レジ袋の無料配布全面中止に向けて
 【コラム】サーキュラー・エコノミーがもたらす国際的な潮流と日本の持続可能な経済成長への道
第4節 化学物質
 1.精子減少の衝撃-環境ホルモン問題は終わっていなかった!!
 2.危ない健康食品
第5節 気候変動と第一次産業
 1.農業
 2.林業
 3.水産業
第2章 放射性物質と如何に付き合っていくか
第1節 福島の現状と健康問題
 1.環境への影響
 2.避難と帰還
 3.子どもたちの甲状腺がん
第2節 放射性廃棄物の現状と原発再稼働問題
 1.福島原発廃炉の進捗状況
 2.事故由来廃棄物
 3.高レベル放射性廃棄物について
 4.「もんじゅ」の廃炉と核燃料サイクル
 5.再稼働問題と廃炉
 【コラム】核ごみプロセスをフェアに!~自治体アンケートを実施
第3節 私たちは放射性物質とどう付き合っていけばよいのか~放射能汚染防止法の制定~
 1.放射性物質の公害関係法適用除外
 2.公害法適用除外による問題状況
 3.権利なき原発事故被災者
 4.放射能汚染防止法制定運動が目指すもの
 5.脱原発問題と直面する再稼動への影響
 6.法整備運動の現在と展望
 【漫画】「グリーン・ウォッチ」2018
第3章 私たちはどんな社会を目指すのか
第1節 持続可能な社会についての大きな流れ
第2節 いくつかの提案
 1.国内のNPO(市民組織)からの提案例
 2.研究機関や政府機関からの提案例
第3節 私たちの未来はみんなで作ろう
第4章 国内外の注目すべき動き
 1.自動車業界「脱炭素化」へ急発進
 2.省エネ住宅をめぐる状況
 3.SDGsの動き
 4.欧州における環境NGOに対する公的資金助成
会員名簿
編集委員会・執筆者

  GW2017Full

はじめに
第1章 なぜ、地球環境を優先的に保全しなければならないのか
第1節 地球環境悪化の背景
 1.世界人口の増加
 2.人間活動の拡大がもたらす環境の悪化
第2節 環境保全に優先的に取り組まなければならない理由
 1.私たちの生命、暮らし、社会経済活動の基盤である環境が、いよいよ危ない
 2.時間的余裕がなくなった
 3.将来世代への責務
 4.途上国に対する先進国としての責務
 5.日本の取り組みの遅れが著しい
第3節「パリ協定」後の社会に向けて
 1. 「パリ協定」の意義とは何か~化石燃料から脱却し、脱炭素社会へ
 2.「環境」概念の拡大と困難な課題への挑戦
第2章 6年が経過した福島
第1節 東京電力福島第一原子力発電所事故の被害者は今
 1.福島の人々の今は
 2.進む避難指示の解除
 3.帰還しても高齢者だけの村に
 4.追いつめられる避難者たち
 5.福島の子どもたちの甲状腺がん184人に
第2節 東京電力福島第一原子力発電所の廃炉問題と安全性確保
 1.廃炉へのロードマップと進まぬ作業
 2.指定廃棄物(低レベル)の処理問題
 3.進行する福島第一原発事故損害賠償費用の国民転嫁
 4.除染廃棄物の再利用問題
第3節 東京電力福島第一原子力発電所事故と情報
 1.福島第一原発事故と情報
 2.県民健康調査をめぐる情報と責任
 3.正しく情報が伝わるためには情報を伝える側の信頼性が条件
 コラム 福島 ブックレット紹介
 「福島 10の教訓-原発災害から人びとを守るために」
第3章 主要な環境政策のレビュー
第1節  気候変動問題
 1.「パリ協定」発効と日本の対応
 2.長期低排出開発戦略の策定に向けて
 3.カーボンプライシング
 4.日本の温室効果ガス排出の現状
 5.気候変動対策を踏まえたモントリオール議定書の改正
第2節 再生可能エネルギーと電力自由化
 1.進みはじめた再生可能エネルギーへの転換
 2.再生可能エネルギーへの転換の課題
 3.100%再生可能エネルギーをめざすには
第3節 廃棄物
 1.循環型社会へ向けて、EPR(拡大生産者責任)の確立と3R推進
 2.マイクロプラスチック問題
 3.廃棄物の越境移動
第4節 化学物質
 1.暮らしの中の「農薬」
 2.ニオイブームの落し穴
 3.消費者向け製品中の有害化学物質管理
第5節 生物多様性
 1.日本はなぜ名古屋議定書批准が遅れたのか?
 2.なぜ種の保存法では種を守ることができないのか?
 3.日本のサンゴ礁の危機
第6節 森林破壊
 1.熱帯林破壊とパーム油
 2.合法木材制度の課題 ~グリーン購入法からクリーンウッド法へ
 3.木質バイオマスと森林破壊の国内外の動向
コラム 漫画「グリーン・ウォッチ」2017
トピックス -国内外の注目すべき動き
 1.沖縄の基地と環境汚染
 2.地域からエンパワーメント ~富山から伊勢志摩まで、G7を振り返る~
 3.低炭素・資源循環・自然共生が統合された持続可能性地域構築   ~滋賀県東近江市~
 4.国内外の企業の動向
 5.テロと気候変動問題と不正義
会員名簿
編集委員会・執筆者


2020年版「環境・循環型社会・生物多様性白書(環境白書)」 6月13日

6月12日、2020年版「環境・循環型社会・生物多様性白書(環境白書)」が閣議決定されました(本文PDF概要PDF)。「災害頻発の恐れ/「気候危機宣言」/環境省 環境省は12日、地球温暖化によって、今後、豪雨災害などのさらなる頻発化・激甚化が予測されるとして「気候危機宣言」を出した。同日閣議決定した2020年版環境白書で初めて「気候危機」という言葉も明記した。/オーストラリアでの大規模な山火事や欧州の記録的な熱波、台風19号による大きな被害など気象災害が相次いでいる。これらは地球温暖化と関係するとみられ、白書は「気候危機」と表現して強調した。/家庭で消費されるものが生産時に排出する温室効果ガスが国内排出量の約6割に達することも指摘し、生活の脱炭素化も求めた。エネルギーの地産地消や食品ロスの削減などライフスタイルの転換事例も紹介している。」(『朝日新聞』夕刊 2020/06/12)
環境白書2020表紙環境白書2020(概要版)
環境白書2020(概要版)_01環境白書2020(概要版)_02
環境白書2020(概要版)_03環境白書2020(概要版)_04

気象災害の頻発を予測、環境省が「気候危機宣言」(朝日新聞デジタル)
 地球温暖化に伴う豪雨や熱中症などのリスクが危機的状況にあるとして、小泉進次郎環境相は6月12日、記者会見で「気候危機宣言をしたい」と述べた。環境省単独の宣言で、他省庁や自治体、企業と危機感を共有し、温暖化対策を強化することを目指す。(福岡範行)
 この日閣議決定した2020年版「環境・循環型社会・生物多様性白書(環境白書)」でも初めて「気候危機」に言及した。
 小泉氏は、深刻な気象災害について「解決には経済を持続可能なものにする社会変革が不可欠だ」と強調。新型コロナウイルスによる社会経済活動の自粛で、温暖化を引き起こす二酸化炭素(CO2)の排出量が減ったことを念頭に、「経済再開でCO2排出がリバウンド(再増加)してはならないという危機感が宣言につながった」と説明した。
 宣言に伴う新たな具体策は示さず、「政府全体が危機感を高め、取り組みを強化することにつなげたい」とした。
 「気候危機」の著書がある山本良一・東京大名誉教授(環境経営学)は「宣言は良いこと。ただ、世界はもっと早く進んでいる。欧米の自治体などはCO2排出を実質ゼロにする計画を続々と出している」と指摘した。
 4月にインターネットで「#気候も危機」と訴えた若者グループ「Fridays For Future(未来のための金曜日)」のメンバー奥野華子さん(18)は「宣言を歓迎します。各省庁と連携して未来を守る具体的な行動を期待します」とコメントした。

環境白書2020では、気候変動の影響とみられる災害が激化していることから、人類を含む全ての生き物の生存基盤を揺るがす「気候危機」が起きていると強調しています。
地球温暖化が進展すると気象災害のリスクは更に高まると予想されています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書をはじめ科学者たちにより繰り返し警鐘が鳴らされています。また、2019年だけでも欧州をはじめ世界で記録的な熱波を経験するととともに、我が国でも令和元年房総半島台風、令和元年東日本台風等の激甚な気象災害に見舞われました。このような深刻な気象災害は、気候変動の緩和や気候変動に適応する社会の必要性を私たちに突き付けています。世界の主要なリーダーたちの間でもリスクとしての認識が高まっています。また草の根レベルでも海外を中心に若者による気候変動への対策を求めるデモや、自治体等が「気候危機」を宣言する動きが広がるなど、今や私たちは「気候危機」とも言える時代に生きています。環境問題は気候変動だけではありません。海洋プラスチックごみ問題や生物多様性の損失なども深刻です。気候変動、海洋プラスチックごみ、生物多様性の損失といった今日の環境問題は、それぞれの課題が独立して存在するのではなく、相互に深く関連しています。そしてこれらの問題は今の私たちの経済・社会システムとも密接に関わっています。(『環境白書』はじめに 3頁)
(3)気候非常事態宣言の広がり
海外の都市を中心に気候非常事態を宣言する動きも広がっています。2016年12月に宣言をしたオーストラリアのメルボルンにあるデアビン市を皮切りに、世界各地で国、自治体、大学等が気候変動への危機感を示し、緊急行動を呼びかける「気候非常事態宣言」を行う取組が広がっています。世界各地での気候非常事態宣言の取りまとめを行っているClimate Emergency Declaration and Mobilisation in Actionによれば、2020年4月2日時点で28か国の1,482の自治体等(8億2,000万人の人口規模に相当)が宣言しています。なお、このうち、我が国の自治体は、2020年3月18時点で長崎県壱岐市など15自治体となっています。
(4)「気候変動」から「気候危機」へ
気候変動問題は、私たち一人一人、この星に生きる全ての生き物にとって避けることのできない、緊喫の課題です。先に述べたように世界の平均気温は既に約1℃上昇したとされています。近年の気象災害の激甚化は地球温暖化が一因とされています。今も排出され続けている温室効果ガスの増加によって、今後、豪雨災害等の更なる頻発化・激甚化などが予測されており、将来世代にわたる影響が強く懸念されます。こうした状況は、もはや単なる「気候変動」ではなく、私たち人類や全ての生き物にとっての生存基盤を揺るがす「気候危機」とも言われています。(『環境白書』第1章 20頁)
コラム 気候変動問題に関する若者の動き(『環境白書』第1章 21頁)
環境白書2020

「地球環境の危機への対応のためには、地球環境に係る課題を同時解決し、環境・経済・社会の統合的向上を図る「環境・生命文明社会」が実現できるよう、経済・社会システムや日常生活の在り方を大きく変えること(=社会変革)が不可欠」です。
第4節気候変動をはじめとする環境問題の危機にどのように対応していくか(『環境白書』第1章 35~36頁)
環境白書2020_02環境白書2020_03



サプライチェーン排出量、スコープ1・2・3 6月11日

山本良一さんの「気候非常事態宣言-自治体に何ができるか」(『世界』2020年6月号、188頁)の「他の温室効果ガスの温暖化への寄与は等価の二酸化炭素量に置き換えて議論する」(→温室効果ガス係数)と「二酸化炭素排出量をスコープ1、2、3に分けて評価する」(→サプライチェーン排出量)についての追加資料です。

温室効果ガスの特徴・地球温暖化係数全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト)
 chart01_02_img01

サプライチェーン排出量
サプライチェーンとは、原料調達・製造・物流・販売・廃棄等、一連の流れ全体をいい、そこから発生する温室効果ガス排出量をサプライチェーン排出量と呼んでいます。サプライチェーン排出量はScope1、Scope2、Scope3から構成されています。
・環境省『サプライチェーン排出量算定の考え方』(環境省地球環境局地球温暖化対策課、2017年11月発行)
燃料や電力などの使用に伴う自社の温室効果ガス排出量をScope1排出量(直接排出)、Scope2排出量(間接排出)といいます。Scope1、2排出量を対象とした報告制度なども後押しとなり、我が国におけるScope1、2排出量の算定や削減努力は進展してきています。他方、昨今、自社が関係する排出量の更なる削減を目指してScope1、2以外の排出量である「Scope3排出量」が注目されるようになってきています。(1頁)
Scope3はさらに、15カテゴリに分類されます。(2頁)
   scope
国内の企業のScope1、2排出量の総和は、日本における企業活動の排出量の総和に該当します。一方でサプライチェーン排出量の総和は同じ排出源が企業Aと企業Bに含まれるなどサプライチェーン上の活動が重複してカウントされることがありうるため、日本全体の排出量にはならないことから、違和感を覚える方もいるかもしれません。サプライチェーン排出量は各企業の原料調達や廃棄物削減、使用段階の省エネ等、Scope1、2の外側での削減活動を評価できることから、各企業のサプライチェーン上の活動に焦点を当てて評価する手法と言うことができます。これにより、各企業はScope1、2だけではなく、企業活動全体について、排出量削減の取組を実施し、より多くの削減が可能となります。(3頁)
サプライチェーン排出量はその対象範囲が広く、明確な算定基準が定まっていないため、対象範囲を網羅した正確な算定を行うことは容易ではありません。また、排出量を算定する際には、算定対象範囲の決め方や範囲からの除外の考え方、算定ロジックの組立て方等、様々な点で事業者の判断や考え方が求められることになります。しかしながら、それらの判断について、公表された排出量関連資料や文献等から推し量ることは難しく、その適切性を確保することもまた容易ではありません。そのような状況を受けて、信頼性の高い取組であることを第三者に担保してもらうために、検証を受検する企業は年々増加してきている状況です。(21頁)

サプライチェーン排出量削減のイメージ
  (環境省ウェブサイト「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」から)
   fig1

  ・サプライチェーン排出量概要(PDF)

   1.サプライチェーン排出量とは?(PDF)
   2.なぜサプライチェーン排出量を算定するのか?(PDF)

・環境省『物語でわかるサプライチェーン排出量算定』(環境省地球環境局地球温暖化対策課、2016年3月発行)

※環境省「地方公共団体実行計画策定・実施支援サイト
地方公共団体は「地球温暖化対策の推進に関する法律」(1997年法律第117号)に基づき実行計画を策定することになっていて、その計画は大きく分けると「事務事業編」と「区域施策編」に分かれている。「事務事業編」は、地方公共団体が行っている仕事によって、排出される温室効果ガスを減らすための計画。計画的に公共施設等での省エネ等を進めて温室効果ガスを減らすことで、地球温暖化を防止するためのもの。「区域施策編」は、地域住民や事業者がメインとなる取組を定めたもの。地域の自然的社会的特性を踏まえた取組によって、新たな事業や産業の創出などの地域づくりの推進にもつながるから、低炭素なまちづくりの核となる計画である。地球温暖化対策には地方公共団体、地域住民、事業者等の関連する人々が協力をしなければならないので「事務事業編」も「区域施策編」もどちらも重要。
 ・事務事業編(マニュアル・ツール類)
 ・区域施策編(マニュアル・ツール類

新潟市地球温暖化対策実行計画(地域推進版)概要版)(本編)[2020年3月]

新潟市一般廃棄物処理基本計画概要版)(本編)[2020年3月]


山本良一「気候非常事態宣言-自治体に何ができるか」 6月11日

山本良一「気候非常事態宣言-自治体に何ができるか」(『世界』2020年6月号184~191頁、岩波書店)を読みました。『世界』6月号の特集2「大恐慌とグリーン・ニューディール」にあります。
 気候変動と新しい感染症には、いくつかの共通点が存在する。
 どちらも人類の経済活動と環境破壊に起因していること、国境に関係なく不都合な結果がグローバルにもたらされること、平等に作用するはずに思えて実際には格差社会の中で不平等な作用をもたらすこと、そして対策が容易ではなく、新たな処方箋を必要としていること。
 気候変動とコロナ大恐慌に、どのような対策が求められているのか。
 金融緩和や旅行代補助、商品券といった処方箋の数々は、感染症対策への布マスク2枚と同じく、もはや有効な手段を現政府が構想できないことの証明でしかない。
 グリーン・ニューディールこそ、検討の俎上にあげなければならない。
 これは、我々の側のショック・ドクトリンである。

山本良一「気候非常事態宣言-自治体に何ができるか」
 世界ですすむ気候非常事態宣言

 国内の気候非常事態宣言の展開
 国内自治体のCED[「気候非常事態宣言」(Climate Emergency Declaration)]には、社会動員についてどのようなことが書かれているのであろうか。宣言文には今後の取り組みの方向が示されており、詳細な気候動員計画はその後に作成される。……
 他の世界の自治体は気候非常事態宣言でいつ頃までにカーボンニュートラルを目指しているのであろうか。
 ここで念のためカーボンニュートラルという用語について説明しておきたい。カーボンニュートラル(carbon neutral、炭素中立)とは、排出する二酸化炭素と吸収される二酸化炭素を同じ量にして環境中の炭素循環に対して中立になることを意味している。二酸化炭素排出実質ゼロも同じことを表現している。注意しなければならないのは温室効果ガスには様々な種類[温室効果ガス・地球温暖化係数(Wikipedia)]があり、その中で二酸化炭素の排出量が最大であるため一般に二酸化炭素について議論を進めるのが慣例となっていることだ。他の温室効果ガスの温暖化への寄与は等価の二酸化炭素量に置き換えて議論するのが普通である。したがってカーボンニュートラルと言う時、二酸化炭素以外の温室効果ガス排出も実質ゼロにすることを前提にしている。そういう意味では気候中立[climate neutral]と言った方が正確である。
 さらに自治体(あるいは事業者)の二酸化炭素排出量を評価する場合にはスコープ1、スコープ2、スコープ3に分けて評価されることである。スコープ1とは直接排出で自治体自らの温室効果ガスの排出量である。スコープ2は間接排出で他社から供給された電気、熱、蒸気等の使用に伴う排出量である。スコープ3はそれ以外の間接排出である。
 自治体がカーボンニュートラルの目標を達成するには、まずスコープ1の排出量を実質ゼロにし、次にスコープ2の排出量を実質ゼロにするというように進むはずである。スコープ3には自治体が使用する製品(サービス)の生産と消費に伴う排出量が含まれる。そうなると例えば“文明”の基礎材料である鉄やセメントのライフサイクルでの二酸化炭素排出量も考慮しなければならないことになる。現在の技術では鉄やセメントの生産からどうしても二酸化炭素が排出されてしまい、これをゼロにするには革新的イノベーションが必要である。革新的イノベーションは産業や国家の役割で、自治体は通常スコープ1,2の排出量を問題にしている。……
 CEDは気候危機に立ち向かうための市民の意識を高め、自治体の政治的決意表明として重要であるが、実際にどのような社会動員行動を取るかがさらに重要である。その中でもカーボンニュートラル目標年をどこに設定するかがその眼目である。……

 国内自治体の気候非常事態宣言の中身

 個人の行動変容を
 一方、気候危機を突破するためにのCEDについては、長期戦を覚悟しなければならない。各自治体、各国がカーボンニュートラルを2050年までに達成したとしても大気中に蓄積した温室効果ガスにより地球温暖化はその後も続き、その様々な影響は各方面に現れてくるからである。カーボンニュートラルからカーボンネガティブへ、大気中のCO2を除去することへと進み、そして同時に人類全体として適応を進めなければならないのである。……

気候非常事態宣言をした日本の自治体CEDAMIA(Climate Emergency Declaration and Mobilisation in Action、気候非常事態宣言と動員)サイトから]

  2020.05.27(chizu)03_pic_200608_2

みなさんは「気候変動影響への適応」や「適応策」という言葉を聞いたことがありますか?
気候変動の影響は、私たちのくらしの様々なところに既に現れています。気温上昇による農作物への影響や、過去の観測を上回るような短時間強雨、台風の大型化などによる自然災害、熱中症搬送者数の増加といった健康への影響などなど。
これまで広く知られてきた「緩和策」と呼ばれる、温室効果ガスの排出量を減らす努力などに加えて、これからの時代は、すでに起こりつつある気候変動の影響への「適応策」を施していくことが重要になってくるのです。

   miti_adapt
地域気候変動適応計画一覧[A-PLATサイト]

山本良一『気候危機』(岩波ブックレット)(→当ブログの5月27日記事
 気候非常事態宣言(CED)、宣言したことだけで終わることのないようしたいですね。

山本良一『気候危機』 5月27日

山本良一『気候危機』(岩波ブックレット1016、2020年1月)を読みました。

気候変動から気候危機へ――。スウェーデンの一五歳の少女の訴えが世界の若者を動かし、世界各地の自治体や国も次々に「気候非常事態」を宣言し始めた。平均気温上昇を一・五℃以内に抑えることは可能か。パリ協定の本格始動を機に、科学者の立場から問題の本質と最新の科学の知見を押さえつつ、我々はいま何をすべきかを説く。
同書表紙帯から
気候崩壊、文明崩壊を防ぐための時間的猶予はゼロに近づいている
スウェーデンの1少女の訴えが若者たちを動かし、世界各地に自治体や国も続々と「気候非常事態宣言」を発し始めた。
▼現在の気候危機は、人間活動が原因の温暖化ガスの大量排出が主原因であること。
▼地球温暖化により、熱波、豪雨、干ばつなどの極端気象の増加、激化が起こっていること。
▼世界の平均気温の上昇を工業化以前と比べて1.5℃未満に抑えなければならないこと。
▼早ければ2030年、遅くとも2050年までに、カーボンニュートラルな社会を実現させること。

山本良一『気候危機』目次
はじめに
 2018年8月からの1年は、世界を揺るがした1年であった。8月20日に15歳の少女グレタ・トゥンベリがスウェーデンの国会前で気候危機の根本的な解決を求めて1人でストライキを始めたことから、それは始まった。当時、各国の地方自治体の中には「気候非常事態宣言」(Climate Emergency Declaration = CED)を議決していたところもあったが、その数は限られていた。ところが、極端な気象の頻発と続々と公表される気候危機や環境危機に関する報告書に背中を押されて、気候ストライキをする若者と気候非常事態宣言をする自治体の数は爆発的に拡大していったのである。これはまさに「革命」と呼ぶに値する。
……「気候非常事態宣言」は「火事だ!」という警報に相当する。地球には脱出口はなく、人間活動起源の温暖化ガスによる地球温暖化はたとえ排出量をゼロにしても1000年は継続することを考えると、ただちに全員で排出量を削減し(消火)、すでに現れ始めている極端な気象現象に対応しなければならない。/筆者は2018年12月に”気候非常事態を宣言し、動員計画を立案せよ”という解説をまとめ、世界の気候非常事態宣言運動を日本に紹介した。……

第1章 革命前夜1――温暖化の科学と文明の持続可能性
 温暖化の科学の基本
 温暖化は人為起源の温暖化ガスによって生じる
 放射強制力
 CO2をどれくらい削減しなければならないのか
 地球温暖化国際交渉の歴史
 IPCCの1.5℃特別報告書
 近代文明の持続不可能性
 アントロポセン(Anthropocene,人新世)
 人類の生命維持システム
 ドーナツ経済の定量的検討
 科学者の人類への警告

第2章 革命前夜2――極端気象と気候変動
 2018年の気候-世界気象機関の報告書
 フューチャー・アースの10の洞察
 2019年の気候
 極端気象と気候変動-要因分析(EA)とは
 極端気象の要因分析の最近の成果
 要因分析の信頼性
 日本の極端気象に対するEA
 気候工学(ジオエンジニアリング)の可能性と問題点
 環境と気候は非常事態なのか
 科学的知見をどのように利用するか

第3章 革命勃発-気候ストライキ始まる
 グレタのダボス会議でのスピーチ[2019年1月]
 気候ストライキに対する科学者の支持表明

第4章 自治体や国家が動く――気候非常事態を宣言し動員計画を立案する
 CED[気候非常事態宣言]の歴史
 カナダにおける気候非常事態宣言
 アメリカにおける気候非常事態宣言
 オーストラリアにおける気候非常事態宣言
 英国における気候非常事態宣言
 国家の気候非常事態宣言
 気候非常事態宣言の拡大
 遅れている日本の対応
 気候非常事態宣言の最新動向
 2019年9月という画期
 グレタの"How dare you"スピーチ [2019年9月23日]
 壱岐市の気候非常事態宣言

あとがき

【資料編】
日本学術会議会長談話 「地球温暖化」への取組に関する緊急メッセージ[2019年9月19日]
1 人類生存の基礎をもたらしうる「地球温暖化」は確実に進行しています。
2 「地球温暖化」抑制のための国際・国内の連携強化を迅速に進めねばなりません。
3 「地球温暖化」抑制には人類の生存基盤としての大気保全と水・エネルギー・食料の総合的管理が必要です。
4 陸域・海洋の生態系は人類を含む生命圏維持の前提であり、生態系の保全は「地球温暖化」抑制にも重要な役割を果たしています。
5 将来世代のための新しい政治・社会システムへの変革は、早急に必要です。
気候非常事態宣言(壱岐市) [2019年9月25日]
1 気候変動の非常事態に関する市民への周知啓発に努め、全市民が、家庭生活、社会生活、産業活動において、省エネルギーの推進と併せて、Reduce(リデュース・ごみの排出抑制)、Reuse(リユース・再利用)、Recycle(リサイクル・再資源化)を徹底するとともに、消費活動におけるRefuse(リフューズ・ごみの発生回避)にも積極的に取り組むように働きかけます。特に、海洋汚染の原因となるプラスチックごみについて、4Rの徹底に取り組みます。
2 2050年までに、市内で利用するエネルギーを、化石燃料から、太陽光や風力などの地域資源に由来する再生可能エネルギーに完全移行できるよう、民間企業などとの連携した取組をさらに加速させます。
3 森林の適正な管理により、温室効果ガスの排出抑制に取り組むとともに、森林、里山、河川、海の良好な自然循環を実現します。
4 日本政府や他の地方自治体に、「気候非常事態宣言」についての連携を広く呼びかけます。
気候非常事態宣言に関する決議(鎌倉市議会)  [2019年10月4日]
1 「気候危機」が迫っている実態を全力で市民に周知する。
2 温室効果ガスのゼロエミッションを達成することを目標とする。
3 気候変動の「緩和」と「適応」、「エシカル消費」の推進策を立案、実施する。
4 各行政機関・関係諸団体等と連携した取り組みを市民とともに広げる。

※「鎌倉市、日本で2番目の気候非常事態宣言!
(環境メールニュース2019.10.09エダヒロ・ライブラリーイーズ未来共創フォーラムから)
気候非常事態宣言は、特に形式が決まっているわけではありませんが、大きく2つの部分から構成することが多いようです。
(1)気候危機の現状認識、および其の認識が科学に基づいていること
(2)自分たちの自治体が取り組むこと(3~5つぐらいが多いようです)
壱岐市や鎌倉市の例を見ていただいてもわかるように、簡潔に、現状認識+非常事態であること+自分たちの取り組みを宣言するというものです。
世界ではすでに1000を超える自治体が気候非常事態宣言を出しています。日本でも多くの自治体が気候非常事態宣言を出し、自治体としてできることを進めつつ、住民や他の自治体にも行動を呼びかける動きが拡がることを強く願っています。
「前例」がでてきたので、働きかけもしやすくなってきたと思います。このメールニュースの内容などもよかったら使っていただき、世の中の動きと他の自治体の動きを伝えて、宣言を出すよう、ぜひご自分の自治体にも働きかけてください!

「鎌倉市紀行非常事態宣言」(2020年2月7日)の表明について(鎌倉市HP)
「鎌倉市気候非常事態宣言」を表明します
気候変動に起因する異常気象により、今、地球は危機的な状況にあります。このような危機に対し、本市では、第3次総合計画第4期基本計画実施計画において、気候変動対策としての側面にも注力し、重要な5つの視点のうち2つを「レジリエンスのまち」、「環境負荷低減のまち」としています。
市は、気候変動の危機に、組織一丸となり、横断的に取り組むことを明確にし、ここに「鎌倉市気候非常事態宣言」を表明します。

  鎌倉市気候非常事態宣言(PDF:318KB) 
今、地球はかつてないほどの危機に瀕しています。
世界各地で、猛暑、干ばつ、集中豪雨や超大型台風等の異常気象による甚大な被害が発生し、私たち人類の生命を脅かしています。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、気候システムの温暖化は疑う余地がないこと、自然的要因だけでなく人間による影響が近年の温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高いこと、気候変動はすべての大陸と海洋にわたり、自然及び人間社会に影響を与えていること、温室効果ガスの継続的な排出は、更なる温暖化と気候システムの全ての要素に長期にわたる変化をもたらし、それにより、人々や生態系にとって深刻で広範囲にわたる影響を生じる可能性が高まるとされています。
この危機に対処するため、世界では「脱炭素」社会を目指した動きが加速しています。

この地球に生きるものは、誰も気候変動の影響から逃れることはできません。しかし、未来の地球のためにできることがあります。
地球の危機、人類の危機を救うことができるのは、私たち一人ひとりの行動です。

本市は、SDGs未来都市として、地球温暖化による気候変動の対策に注力して持続可能な社会を実現するため、ここに気候非常事態であることを宣言します。

1 気候危機の現状について市民や事業者と情報を共有し、協働して全力で気候変動対策に取り組みます。
2 2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにすることを目指します。
3 市民の命を守るため、気候変動の適応策として風水害対策等を強化します。

みらいの地球のために脱炭素を目指す「緩和策」と今ある危機に対応する「適応策」を進めます。
             令和2年(2020年)2月7日 鎌倉市長 松尾崇

ひとりひとりの行動で、地球の未来を守りましょう!
★シャワーはこまめに止めましょう
→シャワーは1分間に12リットルの水が流れます
★何でも流しに捨てず、水を汚さない工夫をしましょう
→食べ残しや食器に付いた食べカスなどをそのまま流すことは海や川の水質汚濁の原因になります
★省エネ運転を心がけましょう。ちょっとした気づかいが、ガソリンの節約や二酸化炭素の排出抑制につながります
→エコドライブのすすめ!
★レジ袋は受け取らず、買い物袋を持ち歩く習慣をつけましょう
→レジ袋を全く受け取らないと1年間で3.36kgのレジ袋を節約できます
★ごみの分別出しを徹底し、資源化できるようにしましょう
→ごみの分け方・出し方

本書全体の主題である「気候危機」と「気候の非常事態」についてのわたしの意見。
人間社会の持続可能性のためにも、気候変化をちいさくくいとめるためにも、人間社会の生産・消費活動を、これまであたりまえだったものから、ちがったものに変えていく必要がある。これまでの「通常」(いわゆるbusiness as usual)のままつづけてはいけないという意味で、「非常」なのかもしれない。
しかし、emergencyというのはうまくないと思う。とくに日本語表現を「緊急」とするとまずいと思う。気候変化対策は、さきのばしにしてはいけない(30年後を待たず、ことしからとりかかるべき)という意味では「緊急」と言ってもよいのだが、各個人にとって、一生あるいは一世代の時間規模でつづける必要があることであり、「緊急」の態勢をはてしなくつづけようとすると無理が生じると思うのだ。「非常」ならば、時間規模を限定することばがないので、「緊急」よりはよい。しかし、「非常事態」というと、なにかひとつの種類の危険を避けることに集中するべきでほかのことは軽視してもよい、という感覚になりがちだと思う。たとえば、感染症の緊急事態だと、プラスチックなどの使い捨てはむしろ奨励されがちだ。また、環境の緊急事態を理由として人権が弾圧されるおそれもある。気候の緊急事態として人びとの関心を集中させると、ほかの環境要素が軽視されるおそれがある。たとえば、二酸化炭素を排出しない太陽光発電をふやすために自然生態系を破壊するようなことが奨励されるおそれがある。
このように考えて、わたしは、いまの状況を「気候の非常事態」だというのはまずいと思う。「地球環境の非常事態」のほうが相対的にはよいが、これも自分では使いたくない。他方、「気候の危機(crisis)」だというのは(気候自身が危機にあるのではなく、人間社会が気候との相互作用のせいで危機におちいっているという意味がわかっていれば)使える表現だと思う。(ただし「地球温暖化」と言ってきたものごとを「気候危機」と単純に言いかえればよいというものではない。)


キンラン、ギンラン 5月12日

ラン科キンラン属のギンランの同定について千葉県、神奈川県等の植物誌の記述です。

『千葉県の自然誌 別編4 千葉県植物誌』(千葉県、2003年)914頁
[ラン科]8.キンラン属 Cephalanthera L.C.Rich. 1818
 地生植物で、一部に半腐生の草本もある。短縮した根茎から肉質の根を出す。茎は直立して分岐せず、下部には鞘状葉があり、普通葉とともに互生、質は薄く、扇状にたたまれてしわがある。総状可除花序は頂生、花は平開せず、萼片は離生。花弁はこれより短い。唇弁は直立し3裂。基部は袋状、あるいは短い距となる。花粉塊は2個。ヨーロッパから東アジアにかけて約16種、日本には3種。
 A.花は黄色----------------------------------------------(1)キンラン
 A.花は白色
  B.花序の下に長い托葉がある。--------------------------(2)ササバギンラン
  B.このような托葉はない------------------------------------------------------------(3)ギンラン

(1)キンラン Cephalanthera falcata (Thunb.) Blume
 夏緑性、丘陵林下に生える、やや発達した根茎とひげ根をはる。茎は単立して40~50㎝あり、無毛、6~7葉を互生。葉は立てじわがあり、長楕円形、先はとがり、基部は茎をだく。5月頃茎頂に短い総状花序をつくり、3~10個ぐらいの半開の花をつける。苞は短い。花は長さ1.3㎝、花被は全体黄色く、唇弁ナインひだのみ赤く彩る。また、短い距をもち、横から見て三角に花外へ突き出る。蒴果は長さ2㎝の楕円体。シロバナキンラン form.albescens S.Kobayashi が佐倉市、四街道市、千葉市から報告がある(千資料№16)。これはときに幼い株に現れる現象とも言う。分布:本州、四国、九州;朝鮮、中国。●側向・黄花:虫媒:風散:互生・単葉・全縁・夏緑:中多年草(G)。定着度24。県評価:一般保護。国RD:絶滅危惧Ⅱ類(VU)
(2)ササバギンラン Cephalanthera longibracteata Blume
 林床に生える夏緑の多年草。短い根茎から春30~40㎝の1茎を立てる。基に数枚の鞘状葉があり、その上に5、6枚の広披針形の通常葉を螺旋状に配列する。5~6月茎頂に総状花序をつくり10花前後をつける。花序の下には特に長い苞葉があり、ときに花序の長さを超える。花は唇弁上のひだの黄褐色を除いて白く、半開で上を向いて開く傾向がある。長さ12㎜位。蒴果はごく短い柄を持ち、直立する。分布:北海道、本州、四国、九州;朝鮮、中国(東北部)。●側向・白花:虫媒+自媒:風散:互生・単葉・全縁・夏緑・中多年草(G)。定着度:25。県評価:要保護
(3)ギンラン Cephalanthera erecta (Thunb.) Blume
 林下、草地に生える夏緑の小草。ときに肥大する根がまざるのは菌根組織のためか。20㎝程の単立する茎の上部に3~4葉を互生するが、花の時期には十分に広がっていない。5~6月、頂きに7個前後の総状花序をつくる。花は半開で白く、唇弁に短い距があり、花外に突出する。県内では北部、西部からの報告が多い。分布:本州、四国、九州;朝鮮。ブナ群綱●側向・白花:虫媒+自媒:風散:互生・単葉・全縁・夏緑:低多年草(G)。定着度:25。県評価:要保護


『神奈川県植物誌2001』(神奈川県立生命の星・地球博物館、2001年)
500頁
[ラン科]13.キンラン属 Cephalanthera Rich.
 地上生。根茎は太く長い。茎は直立し、花は披針形~長楕円形、脈は顕著で数枚が互生する。花は総状につき白色または黄色。平開しない。苞は小さく開花時に脱落する。萼片は離生し、側花弁はやや小形。唇弁はずい柱の基部につき、3裂し、側裂片はずい柱を包み、中裂片は大きく幅広い。唇弁基部は短い距となる。花粉塊は4個。東アジア~ヨーロッパ、北アメリカにかけて約15種が知られ、日本には4種が分布し、いずれも県内に自生する。
 A.花は黄色。萼片は長さ15㎜以上、唇弁には5~7本の隆起線がある  ----------------------------------------------(1)キンラン
 A.花は白色。萼片は長さ12㎜以下、唇弁には3~5本の隆起線がある
  B.葉は線状披針形~狭長楕円形で長さ7~15㎝、葉の裏面や縁には白色の微毛がある--------------------------(2)ササバギンラン
  B.葉は長楕円形で長さ2~8㎝、稀に鱗片状に退化、微毛がなく平滑
   C.葉身の基部は平坦でなく、距は明かで側萼片の間から斜め後方に突き出る
    D.葉は数枚つき長さ3㎝以上--------------------------(3a)ギンラン
    D.葉は上部に1~2枚または鞘状葉で長さ3㎝以下--------(3b)ユウシュンラン
   C.葉身の基部は平坦となる。距は短くわずかに側萼片の間から出る    ----------------------------------------------(4)クゲヌマラン

(1)キンラン Cephalanthera falcata (Thunb.) Blume
 夏緑性。根は先が肥厚しない。茎は高さ20~70㎝。葉は長楕円状披針形で5~8枚が互生し、無毛で茎を抱く。花期は4~5月。花は3~12個を茎頂に上向きにつけ半開性。苞は3角形で小さい。萼片は卵状楕円形、側花弁は萼片よりやや短く同形。唇弁は3裂し、基部は距となり側萼片の間から少し突き出る。側裂片は3角形、中裂片は円心形である。蒴果は長楕円形。本州、四国、九州:朝鮮、中国に分布する。山地や丘陵の疎林内や林縁に生える。県内ではシイ・カシ帯~クリ帯に広く分布する。特に手入れの行き届いた雑木林内や林縁を好んで生えるが少ない。白花品はシロバナキンラン form. albescens S.Kobay. in:15(1966)といい、藤沢市六合発見され、記載された。標本:シロバナキンラン 藤沢市六合 1966.5.16 小林純子 MAK.
(2)ササバギンラン Cephalanthera longibracteata Blume
 夏緑性。根は先が肥厚しない。茎は高さ20~50㎝。葉は5~8枚が互生し、茎を抱く。花期は5~6月。花はまばらに数個を茎頂に上向きにつけ半開性。苞は線形。萼片は披針形。側花弁は卵状披針形。唇弁は3裂し、基部は短い距となって側萼片の間からやや突き出す。蒴果は長楕円形。北海道、本州、四国、九州;千島列島、朝鮮、中国(東北部)に分布する。丘陵やときに山地の疎林内に生える。県内ではシイ・カシ帯~ブナ帯に点在するが少ない。
(3a)ギンラン Cephalanthera erecta (Thunb.) Blume var.erecta
 夏緑性。根は先が一部肥厚する。茎は高さ10~30㎝。葉は3~6枚が互生し、無毛で基部は茎をわずかに抱く。花期は5~6月。花は茎頂に上向きに3~10個つき半開性。苞は3角形。萼片は披針形で先は尖り、側花弁はやや短く先は丸い。唇弁は先端が3裂し基部には距があり、キンランの距より長く側萼片の間から突き出す。蒴果は長楕円形。北海道、本州、四国、九州;朝鮮、中国に分布する。山地や丘陵の疎林内、林縁に生える。県内ではシイ・カシ帯~ブナ帯に広く点在するが少ない。
(3b)ユウシュンラン Cephalanthera erecta (Thunb.) Blume var.subaphylla (Miyabe & Kudo) Ohwi;C.subaphylla Miyabe & Kudo
 夏緑性。根は先が肥厚する。茎は高さ5~15㎝。葉は退化し、大部分が鞘状葉で、ときに花序のすぐ下に1~2枚の葉をつける。葉は狭長楕円形で長さ2~3㎝、幅は1~1.5㎝。花期は4~5月。花は茎頂に2~5個つけ半開性。苞は卵状楕円形でごく小さい。萼片は披針形。側花弁は卵状長楕円形で萼片よりやや小さい。唇弁は3裂し、距の先は3角状に尖りやや著しく突出する。蒴果は長楕円形。北海道、本州、四国、九州;朝鮮に分布する。山地の腐食土の多い林床に生える。県内では丹沢、箱根のシイ・カシ帯上部~ブナ帯のやや湿った腐食土の多い林床に生えるが稀。「神奈川RDB」では絶滅危惧種とされた。
(4)クゲヌマラン Cephalanthera shizuoi F.Maek., Iconogr. Pl. Orient. 1:58(1936)の基準産地は藤沢市鵠沼
 夏緑性。ギンランによく似た種類。根は先が1部肥厚する。茎は高さ20~40㎝。葉は4~7枚が互生し、無毛で基部は茎を抱く。花期は4月下旬~5月。花は茎頂に10個前後つける。苞は線状披針形。背萼片は狭卵形、側萼片は斜卵形。側花弁は卵形、唇弁は広卵形で先端は3裂し、中裂片は広卵形、側裂片は3角状卵形、距は側萼片の間からわずかに円頭状に頭を出す。蒴果は長楕円形。日本固有種。和名は鵠沼(藤沢市)という地名にちなみ、東京大学の生化学者服部静夫が採集し、同大学でランを研究されていた前川文夫が調べ、1936年に新種として東亜植物図説に図をつけて発表した。北海道(胆振、空知)、本州(青森県~和歌山県)、四国(香川県・徳島県)のおもに太平洋側に分布する。海岸地帯の疎林内の砂地や松林の林床に生える。県内では湘南海岸地帯のクロマツ林内や雑木林に生えるが稀。「神奈川RDB」では絶滅危惧種とされた。

『増補改訂版 フィールドで使える 図説 植物検索ハンドブック[埼玉2882種類]』(NPO法 埼玉県絶滅危惧植物種調査団、2016年)98~101頁
キンラン属 Cephalanthera
 1.花は黄色。唇弁に5~7本のすじが隆起する。茎や葉に乳頭状突起なし----------------------------------------------キンラン
 1.花は白色。唇弁に3本のすじが隆起する
  2.下部の苞葉は花序より長い。茎の稜や葉の脈上に乳頭状突起あり--------------------------ササバギンラン
  2.下部の苞葉は花序を超えない
   3.距は明かで、根元に大きな葉がある。茎や葉に乳頭状突起なし
     v.ユウシュンランは、根元に葉の退化した褐色の鱗片があり、花序のすぐ下には1-2枚の小さい葉あり--------ユウシュンラン
   3.距は全くない----------------------------------------------(4)クゲヌマラン

ユウシュンラン(HP『四国の野生ラン』)
キンラン属Cephalanthera
分布 世界には、温帯アジアを中心におよそ30種が分布する。
 ヨーロッパ・・・・9種
 アフリカ・・・・・3種
 温帯アジア・・・22種
 熱帯アジア・・・・8種
 北アメリカ・・・・1種
 (注)Kew WRLD CHECKLIST による。
    「種」には変種なども含まれる。(2015/11/13調べ)

 日本には、次の種が分布する。これらは、すべて四国での自生も確認されている。
 ・キンラン    C. falcata
 ・ギンラン    C. erecta
 ・ユウシュンラン    C. subaphylla
 ・クゲヌマラン    C. alpicola var. shizuoi
 ・ササバギンラン    C. longibracteata

 生態・形態
  地生種で、冬季には地上部がかれる。
  春に地上に直立の茎をだし、上部に花をつける。葉は互生する。
  ユウシュンランは半腐生ランで花を咲かせる株だけが地上に現れるが、キンラン属全般にラン菌への依存度が高いようである。
 

 

ナオミ・クライン『これがすべてを変える』(下) 3月30日

カナダのジャーナリスト、ナオミ・クライン著『This Changes Everything: Capitalism vs. The Climate』(2014)の全訳、日本語版です。訳者は幾島幸子さん、荒井雅子さんです。(上)(下)2巻で639頁あります(岩波書店、2017年)。

ナオミ・クライン『これがすべてを変える 資本主義 vs. 気候変動』下巻目次
第7章 救世主はいない -環境にやさしい億万長者は人類を救わない-
 億万長者と破れた夢 
 約束ではなく、単なる「意思表示」
 風前の灯のアース・チャレンジ
 規制回避のための戦略?

第8章 太陽光を遮る -汚染問題の解決法は……汚染?-
 「ゾッとすること」への準備
 うまく行かないはずなどない
 気候変動のように、火山も分け隔てする
 歴史は教え、警告する
 ショック・ドクトリンとしての地球工学
 地球という怪物
 本当にプランAを試したのか?
 宇宙飛行士の視点


第三部 何かを始める
第9章 「抵抗地帯」(ブロケディア)-気候正義の新たな戦士-
 ようこそ、「抵抗地帯」(ブロケディア)へ
 「クライメート・チェンジ作戦」
 世界が犠牲区域に
 敵地で身動きならない
 BP[旧ブリティッシュ・ペトロリアム]への不信
 大事故の教訓
 予防原則の復活

第10章 愛がこの場所を救う -民主主義、投資撤退、これまでの勝利-
 愛と水をめぐって
 ここまでの勝利
 化石燃料からの脱却 -ダイベストメント[投資撤退]運動
 民主主義の危機
 化石化した民主主義を越えて

第11章 ほかにどんな援軍が? -先住民の権利、世界を守る力-
 最後の防衛線
 力対権利
 「条約を守れ」
 選択肢の欠如

第12章 空を共有する -大気という共有資産(コモンズ)、気候債務の返済-
 太陽が顔を出す
 投資撤退だけでなく、再投資を
 地元の債務から地球規模での債務の返済へ
 バランスを変える

第13章 命を再生する権利 -採掘から再興へ-
 水中の流産
 「年取った男たちの住む世界」
 「中は空っぽ」
 温暖化する世界で姿を消す幼い者たち
 休息期間
 命の復活

終章 跳躍の年 -不可能を成し遂げるために残されたぎりぎりの時間-
 やり残された解放の仕事
 突然、誰もが

訳者あとがき

原注

索引
訳者あとがき
 本書は出版直後から大きな反響を呼んでベストセラーになり、すでに二五以上の言語に翻訳されている。『ニューヨークタイムズ・ブックレビュー』は「あふれんばかりの熱意と重大性をもつ本書は、論評が不可能なほどだ。……『沈黙の春』以来、地球環境に関してこれほど重要で議論を呼ぶ本は存在しなかった」と評し、インドの作家アルンダティ・ロイは「ナオミ・クラインは今日の最大かつ最も差し迫った問題に、その鋭く強靱、かつきめ細かな知性をもって取り組んでいる。……彼女は今日の世界で最もインスピレーションに富んだ政治思想家の一人だ」と評している。
  タイトルのThis Changes Everythingには二つの意味がある。ひとつは、私たちが今のままの生活を続けていけば、気候変動がこの世界の「すべてを変えてしまう」というネガティブな意味。そしてもうひとつは、それを回避するためには、「すべてを変える」ほど根源的な変革が必要だというポジティブな意味である。本書は、九七%の科学者が認めている気候変動という事象がまさに〝今、ここにある〟危機だという認識に立ったうえで、この問題の根本原因が成長神話にがんじがらめになった資本主義のシステムにこそあり、それを解決するには現行の経済システムとそれを支えているイデオロギーを根底から変える以外に方法はない、という結論を導き出している。(625~626頁)

 本書の前半(第一部・第二部)では、なぜここまで気候変動対策が遅れをとってしまったのかについての詳細にわたる検証が行われると同時に、気候変動を否定する右派の会議や、人工的に気候システムに介入して温暖化を緩和するという地球工学の専門家の会議への潜入ルポもあり、また化石燃料脱却をブチ上げる起業家ブランソンの言行不一致や、環境保護を掲げながら化石燃料企業と結託する大規模環境保護団体の偽善も暴かれる。まさにジャーナリストとしての面目躍如である。

 だが圧巻はむしろ後半、第三部以降であろう。気候変動対策を先送りし、問題を深刻化させてきた規制緩和型資本主義システムの暗部を、これでもかとあぶり出す前半の悲観的なトーンから一転して、ここでは化石燃料を基盤にした経済・社会のあり方そのものにノーを突きつける草の根抵抗運動が世界各地で展開し、拡大しつつあることを、これまた綿密な現地取材に基づき、希望の兆しとして報告している。近年、北米を中心にブームになっているオイルサンド採掘やフラッキング(水圧破砕)による天然ガス・石油の抽出は、従来の化石燃料採掘にも増して温室効果ガスを多く排出し、有毒物質による環境汚染の危険も大きい。自国カナダでの先住民を中心とする抵抗運動をはじめ、北米各地で化石燃料経済からの脱却を求めてパイプライン建設やオイルサンド掘削リグ用の巨大装置の輸送、採掘された石炭を輸出するためのターミナル建設などを実力で阻止するために闘う地域住民の姿が共感をもって描かれると同時に、これらの運動が点ではなく、SNSなどを通じて相互に結びついてネットワークを形成し、化石燃料企業にとって大きな脅威となりつつあることも強調されている。また掘削現場での闘い以外にも、化石燃料企業から投資を撤退するダイベストメント運動が急速に広がっていることも明るい材料のひとつとして取り上げられている。(626~627頁)

  (レイバーネット日本『週刊本の発見』第28回、2017年10月26日掲載)
 本書の最も重要な論点は、地球温暖化の危機が、同時に歴史的なチャンスにもなりうるという主張にある。これまで私たちは、経済成長こそ、人類を貧困から解放し、幸福をもたらす万能薬だと説明されてきた。だが、新自由主義の暴走の果てに到達したのは、少数の人々が富を独占する格差社会と、投機マネーによるバブル経済、そして地球温暖化による破滅の危機である。この悪循環を断ち切るためには、もう一度、市場に対する規制を強化すると同時に、巨額の公共投資(地球のためのマーシャル・プラン)を通じて、再生可能エネルギーを基盤とする定常経済へと移行しなければならない。そしてそれは「石器時代への回帰」を意味するのではなく、むしろ人々の生活の質を向上させ、南北格差を是正し、民主主義を土台から再構築するチャンスにもなりうるというのである。
 一般に成長神話や消費主義に囚われた現代人にとって、ポスト資本主義の未来を想像するよりも、「世界の終わり」を想像する方がたやすいと言われる。だがもし私たちが、一人の人間として、あるいは、子供をもつ親として、未来への責任を果たそうとするならば、いまこそ批判的想像力を発揮し、もう一つの世界の実現に向けて動きださなければならない。反グローバリゼーション運動の論客からクライメイト・ジャスティス運動の旗手へと成長したナオミ・クラインの渾身のメッセージである。

ナオミ・クライン『これがすべてを変える』(上) 3月29日

カナダのジャーナリスト、ナオミ・クライン著『This Changes Everything: Capitalism vs. The Climate』(2014)の全訳、日本語版です。訳者は幾島幸子さん、荒井雅子さんで(上)(下)2巻で639頁あります(岩波書店、2017年)。

Climate change isn’t just another issue to be neatly filed between taxes and health care. It’s an alarm that calls us to fix an economic system that is already failing us in many ways. Klein meticulously builds the case for how massively reducing our greenhouse emissions is our best chance to simultaneously reduce gaping inequalities, re-imagine our broken democracies, and rebuild our gutted local economies. She exposes the ideological desperation of the climate-change deniers, the messianic delusions of the would-be geoengineers, and the tragic defeatism of too many mainstream green initiatives. And she demonstrates precisely why the market has not—and cannot—fix the climate crisis but will instead make things worse, with ever more extreme and ecologically damaging extraction methods, accompanied by rampant disaster capitalism.
 
Klein argues that the changes to our relationship with nature and one another that are required to respond to the climate crisis humanely should not be viewed as grim penance, but rather as a kind of gift—a catalyst to transform broken economic and cultural priorities and to heal long-festering historical wounds. And she documents the inspiring movements that have already begun this process: communities that are not just refusing to be sites of further fossil fuel extraction but are building the next, regeneration-based economies right now.
 
Forget everything you think you know about global warming. It’s not about carbon—it’s about capitalism. The most profound threat to humanity is the war our economic model is waging against life on earth. Yet we can seize this existential crisis to transform our failed economic system into something radically better.
 
Klein exposes the myths that are clouding the climate debate. We have been told the market will save us, when in fact the addiction to profit and growth is digging us in deeper every day. We have been told it’s impossible to get off fossil fuels when in fact we know exactly how to do it—it just requires breaking every rule in the “free-market” playbook: reining in corporate power, rebuilding local economies, and reclaiming our democracies.
 
We have also been told that humanity is too greedy and selfish to rise to this challenge. In fact, all around the world, the fight for the next economy and against reckless extraction is already succeeding in ways both surprising and inspiring.
 
Can we pull off these changes in time? Nothing is certain. Nothing except that climate change changes everything. And for a very brief time, the nature of that change is still up to us.
 
Either we leap—or we sink.
 

ナオミ・クライン『これがすべてを変える 資本主義 vs. 気候変動』上巻目次
序章 気候変動によってすべてが変わる
 民衆によるショック
 最悪のタイミング
 エネルギーだけの問題ではない
 否定からの脱却

第一部 最悪のタイミング
第1章 右派は正しい(ライト・イズ・ライト)-気候変動にはらまれた大変革のパワー
 受け入れられない真実
 カネにまつわる話
 プランB -温暖化する世界で金を儲けろ
 ゾッとするほど冷たい世界
 保守派への迎合
 世界観の闘い

第2章 ホットマネー -自由市場原理主義はいかにして地球の温暖化を促進したか-
 気候より商売優先
 壁が崩壊し、排出量は上昇する
 貿易と気候 -二つの孤立
 安い労働力と汚いエネルギーのパッケージ取引
 自ら墓穴を掘る運動
 拡大から安定へ
 思いやりのある経済を育て、思いやりのない経済を縮小する

第3章 民間から公共へ -新しい経済への移行を阻むイデオロギー的障害を克服する-
 公的領域の再建と刷新
 汚染者負担

第4章 計画と禁止 -見えない手を叩き、運動を起こす-
 雇用創出のための計画
 電力/権力(パワー)のための計画
 あのドイツの奇跡について……
 「ノー」の言い方を忘れない
 「問題」ではなく枠組み

第5章 採取/搾取主義を超えて -内なる気候変動否定派と対峙する-
 究極の採取/搾取主義的関係
 左派の採取/搾取主義
 聞き逃されてきたいくつかの警告


第二部 魔術的思考
第6章 根(ルーツ)ではなく実(フルーツ)-大企業と大規模環境保護団体(ビッグ・グリーン)の破滅的な一体化-
 環境法の黄金時代
 一九八〇年代の急転換
 ビジネスと手を組む環境保護運動
 消費者パワーで解決?
 フラッキングと燃える橋
 汚染の取引

原注
塚原東吾さん(神戸大学教授)書評『週刊読書人』ウェブ
   週刊読書人掲載:2017年11月24日(第3216号)
 驚異の元凶は何か
「環境正義運動」が目指すもの 
 温暖化による危機を多面的に描き出す

   朝⽇新聞掲載:2017年10月15日
 「これがすべてを変える」書評 経済のあり方根本から新しく

太田猛彦「日本の森の変遷-荒廃から復活へ」 2月19日

2月16日の東松山市環境学習会で紹介された『全国植樹祭70周年記念写真集』(国土緑化推進機構、2019年)の巻末にある太田猛彦さんの解説「日本の森の変遷-荒廃から復活へ」(54~56頁)を読みました。全国植樹祭は1950年奈良県で「植樹行事並びに国土緑化大会」として開催され、1959年、第10回大会が埼玉県で実施されています。1970年、福島県で開かれた第21回大会から現在の名称に変更されました。全国植樹祭の前身は1934年に始まった「愛林日植樹行事」(Wikipedia)です。
 日本は高温多雨の夏を持つ温帯の島国
  豊かで多様な森に育まれた縄文文明
 日本はユーラシア大陸の東岸に横たわる南北約3000 km の弧状列島である。しかも世界地図を広げてみればわかるように、四季が明瞭な温帯には日本のような大きな島は極めて少ない。すなわち、海の影響を受ける島々は熱帯や亜熱帯、寒帯には多いが温帯には日本列島とイギリスの2島、ニュージーランドの2島ぐらいしかない。
 さらに日本列島とイギリス二島は大陸の近くに位置しその影響も受けるが、影響の受け方は全く異なり、大陸の東岸はモンスーン気候で夏季に降雨が多く、冬季は乾燥する。一方大陸の西岸は西岸海洋性気候で、夏は乾燥気味であり、冬に雨が多い。つまり日本は熱帯雨林のような高温多雨の夏を持つ世界で唯一の温帯の島国であり、そのような気候が日本の豊かな森を育んでいる。その上「冬は乾燥する 」と言っても、シベリアからの北西季節風と日本海を北上する暖流の影響で日本海側は降水量が多く、それは降雪となって日本の森林を一層多様にしている。
 日本人は縄文時代の昔からそのような森に支えられた豊かな自然を利用して暮らしてきた。この時代の列島にはドングリやクリが実る落葉広葉樹の森が広がっていたため、縄文人は基本的に食糧に困ることはなく、しかも煮炊きを可能にする縄文式土器の発明によって利用できる食材の幅を広げることができたため、農耕を受け入れることがなくても豊かな生活を送ることができた。例えば 、縄文時代の遺跡として有名な三内丸山の定住集落は1700年ほど続いたと言われるが、そこでは春は山菜採り、夏は漁労、秋は木の実の採集、冬は狩猟などにより豊かな食料を得、集落の中心には木材を使った祭祀用の施設を建造していた。しかし森が大きく傷つくことはなく、自然と共生した「持続可能な社会」が展開されていたと言える。農耕の始まりを研究したジャレド・ダイアモンドは日本の縄文文明を「森を利用した最も豊かな狩猟採集民族文明」と評価している。
 稲作の伝来とともに森林は劣化
  江戸時代は「森林荒廃の時代」
 しかし縄文時代に稲作が伝来すると、日本の森林はその後大きく変化していった。すなわち、縄文時代後期には豆類などを栽培する簡単な農業は始まり、居住地の周りの森林が変化し始めたが、水田稲作は連作は可能で、病虫害も畑作より軽微な上、何よりも単位面積当たりの収穫量が多く、したがって人口収容力も大きく、一方で用水確保のために集団生活が必要であり、集落が発達した。その結果、集落や農地の開発による森林の消失のほか、食料以外の資源は燃料も含めてほとんどが林産物であったため、いわゆる里地・里山システムを基本とする稲作農耕社会が成立するとともに集落の周りの森林の劣化も始まった。
 やがて飛鳥・奈良時代以降に次々と古代都市が成立すると、建築資材等木材の本格的使用が始まって大量の木材が伐採され、畿内を中心に本来の豊かな天然林はやせ地でも育つマツ林に変わるなど森林の劣化が進行した。また、それが原因で洪水や土砂災害がたびたび発生した。そこで森林を保護するため、例えば天武天皇は676年に飛鳥川上流に禁伐令を発している。そして、10世紀末には田上山など畿内各地に荒廃山地(はげ山)が出現するようになった。
 その後室町時代頃になると、各種産業の発達による人口の増加によって地方でも城郭や都市の建設が盛んになり、燃料用や資材用の木材需要が増加した。そのため森林の劣化も全国に広がっていった。またこの時代になると、製塩業、製鉄業、窯業等に必要な産業用燃料材の需要が増加して、森林の劣化がいっそう進んだ。さらに戦国時代以降、戦国大名は江戸時代の各藩によって水田の開発がいっそう進み、江戸時代中期には100万人が暮らす巨大都市江戸を要する人口3000万人の稲作農耕社会が成立した。当時の日本は世界人口の4~5%を占める人口大国であり、その人口を支えたのが稲作農業と森林を中心とする自然資源だった。しかしその頃、森林資源は既に逼迫しており、各地にはげ山が広がるとともに、里地・里山システムにかかわる入会地での村落間の境界争いや村落内での資源の奪い合い、あるいは水争いが頻発した。
 一方で、森林の消失(裸地化)や劣化は山地での土砂崩壊や平地での洪水氾濫を引き起こし、それらは災害となってたびたび人々を襲った。江戸時代は「森林荒廃の時代」ということができるだろう。以降、日本の国土は20世紀前半まで、山地で土砂が生産され続け、それが河川に流出し続け、海岸に土砂を供給し続ける国土となった。幕府は土砂留工事や砂溜工事を進めるとともに、熊沢蕃山ら儒学者からの治山治水の進言を受け入れて、例えば1666年の「諸国山川掟」のような、要所での伐採禁止や植林の奨励を布告した。また幕府や各藩は今日の保安林制度につながる留山や留木の制度を制定し、海岸では飛砂害防止のために砂防林を造成した。
 当時の山地・森林の様子は、例えば歌川広重の浮世絵「東海道五十三次」を見れば一目瞭然である。どの図版にも鬱蒼とした豊かな森は描かれていない。遠景の山はどの図版でも木々がまばらである一方で東海道名物の「松並木」や山腹の松が繰り返し描かれている。土壌が貧弱で他の樹木は生育できない荒れ地や砂地でもマツはよく育つ。「白砂青松」とよく言われるが、養分が少ない海岸の砂地にはマツしか生えない。つまり江戸時代の山も基本的にはこの写真集に掲載されている古い写真のような状態で、マツしか生えないほど貧弱だったのだ。

 治水三法を制定した明治政府
  乱伐は昭和の終戦直後まで続いた
 明治時代に入ると近代産業が勃興し、人口が急増し、都市が発達したが、この時期、産業用燃料はいまだ薪炭に頼っていた。そのため、建設資材や燃料材確保の必要性から森林伐採への圧力がいっそう強まった。その結果として、明治中期は日本の森林が歴史上最も劣化・荒廃していた時期と推定される。そのため明治政府はいわゆる治水三法を制定して河川では河川法に基づく洪水氾濫防止のための連続堤工事を開始するとともに、森林法の保安林制度に基づく治山事業や砂防法に基づく砂防事業によって荒廃山地での植林を精力的に行った。しかし近代的治山治水事業が始まっても国民の大部分は依然として森林に頼る農民であり、戦争の半世紀もあって里山の荒廃地はあまり回復しなかった。この写真集の大半の写真はこの頃の里山の状況を示している。
 一方、古代以来の都の造営や城郭、社寺の建設で必要な大径木は江戸時代には全国の奥山に探し求めるまでに減少したようだが、通常使われる木材もすでに江戸時代には品薄だった。そのため各地に人工林業も始まったが、大部分は天然林から伐り出された。さらに明治時代以降は近代化のための資材としての木材の需要が増大し、昭和時代に入ると森林鉄道の普及もあって奥山で本格的な伐採が始まった。加えて大戦中及び終戦直後の混乱した時代には、木材は唯一の自前の資源として文字通り乱伐された。全国植樹祭はこうした状況の中で昭和25年[1950]に始まったのである。

 「拡大造林」を経て「森林飽和」へ
  変わらぬ植樹活動の大切さ
 以来70年。この間、奥山では列島改造~高度経済成長期に木材需要を満たすための大規模な森林伐採があり、その跡地には「拡大造林」と称してスギやヒノキ、カラマツなどが植えられた。その後外材の輸入自由化や火災防止のための木質建材の使用制限もあって国産材の需要が減少したため奥山での伐採圧力は低下した。一方里山では治山・砂防事業の成果がようやく現れ始めたのに加え、燃料や肥料が森林バイオマスから化石燃料や化学肥料に転換されて薪炭林や農用林が不要となったため森林が回復し始めた。こうして昭和時代末期から平成時代を通して日本の森林は奥山でも里山でもその蓄積を増加させ、「森林飽和」と呼べるほどに復活した。その背景には全国植樹祭を中心とした緑化運動や国民参加の森づくりによる緑化の呼びかけも大きく影響していると思われる。
 一方この時代には広葉樹の復活を望む声も広がるとともに、かつての里山を保存する活動も盛んになった。この傾向は全国植樹祭の植栽樹種の選択にも表れ、1970年代からモミジやサクラ類、トチノキなど各種の広葉樹の植林が見られるようになり、1990年代に入ってからは広葉樹が大勢を占めるようになった。これは森林の全般的な成長と林業の不振の一方で1990年代以降は生物多様性保全の重要性が広く知られるようになって、多様な森づくりが好まれるようになった結果とみられる。 [以下略]
※久那村(秩父市)の治山工事施行地(完了後、1938年)(同書31頁)
img-200217105317-0004

※山本悟さんの「知っておきたい日本の植林史」(同書20頁)
img-200217105317-0002

0次谷の表層崩壊 2月17日

昨年10月、台風19号の豪雨により、市民の森や石坂の森では小規模な表層崩壊がありました(10月26日の記事)。岩殿満喫クラブの管理する岩殿C地区の西側、無名沼イ号の奥の谷頭は「明瞭な流路をもたない谷頭の集水地形」、「九十九川が始まる湧水のポイントではあるが、表面では川の様相を呈していないが、集水しているお椀状のエリア」=0次谷で、今後集中豪雨で山腹が崩壊する危険がないとは言えないので、災害に備えて「表層崩壊」等について資料を調べてみました。
「流木災害等に対する治山対策検討チーム」中間取りまとめ
2017年7月、九州北部豪雨において、山腹崩壊に伴い発生した流木が下流に大きな被害を与えました。林野庁では、「流木災害等に対する治山対策検討チーム」を設置し、災害の実態把握や山腹崩壊の発生メカニズムの分析・検証等を行い、更なる効果的な治山対策の在り方について検討し「中間取りまとめ」として公表しています。
●「流木災害等に対する治山対策検討チーム」中間取りまとめ01「流木災害等に対する治山対策検討チーム」中間取りまとめ資料分割6

※「災害に強い森林づくり指針」(長野県、2008年)
災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8
長野県では、2006年7月に大規模な豪雨災害に見舞われ、連続累積雨量400mmを記録した県央部を中心に76億円を超える林地被害が発生し、12名が亡くなりました。この災害を教訓にして、森林の土砂災害防止機能を強化し、山地災害から県民生活の安全・安心を確保するために、「森林の土砂災害防止機能に関する検討委員会」を計10回開催し、2008年1月にその検討結果を『災害に強い森林づくり指針』として公表しています。
災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_01災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_02災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_03災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_04

災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_05災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_06災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_07災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_08

検索に移動0次谷(ぜろじたに、zero-order basin):塚本良則さんによって定義された流域の呼称。
 表層崩壊との関係(Wikipedia)
表層崩壊は、斜面崩壊のうち斜面表土が飽和側方流や地震によって滑落する現象であるが、0次谷との関係においていくつかの特徴が指摘されている。内容は以下の通りである。

表層崩壊は0次谷流域を単位として、その多くが0次谷内部で発生する。
1つの0次谷に1つの表層崩壊が発生する。
表層崩壊面積と0次谷流域面積には相似関係が存在する。
豪雨型山崩れによる流域総生産土砂量には上限値が存在する。

表層崩壊とそれにともなう土石流は過去に大土砂災害を引き起こしている。0次谷と、0次谷と崩壊の関係を調査・研究することは、斜面災害対策を行う上で極めて有意義であるといえる。

東松山市環境学習会第1回 2月16日

東松山市と環境基本計画市民推進委員会では、市民の皆さんに協働による環境まちづくり活動や環境問題への認識を深めていただくことを目的に、環境学習会を企画しています。今日は『森林飽和』、『ダムと緑のダム』の著者、太田猛彦さんを講師に「日本の森林の現状を知り、今後の保全のあり方を考える」をテーマに実施し、多くの参加者がありました。
次回、3月8日(日曜日)は勝浦信幸さんを講師に「協働による持続可能なまちづくり」を予定しています(10~12時、総合会館3階304会議室)。

日本の森林の現状を知り、今後の保全のあり方を考える
DSC_0001DSC_0040DSC_0065

現在の森を知るためには、かつての森の姿を知ってほしい
123

456
78

917

1610

治水三法(1896年河川法、97年砂防法、森林法)
18

林業基本法(1964年)、森林・林業基本法(2001年)
計画的な治山・治水事業に社会の変貌(燃料革命、肥料革命等)により人々が森から離れ、里地・里山システムが終焉。森林は400年ぶりの緑を回復したが、放置され荒廃はすすむ。
192021

日本学術会議答申、森林の多面的機能
271422

地球環境問題の出現
 土地と水の利用の問題→生物多様性喪失
 地下資源利用の問題→廃棄物問題・地球温暖化(エネルギー問題)
1124

1323

新しい森林の原理(2004年)と持続可能な森林管理と地域の木材の利活用
252829

2630
(2014年7月29日に行われたウッドマイルズフォーラム2014での太田さんのスライドの一部を引用)

学習会後半部分で取りあげられていたプラネタリー・バウンダリ、SDGs、ESG等については別記事を準備中です。
 

虫明功臣、太田猛彦監修『ダムと緑のダム』 2月15日

虫明功臣、太田猛彦監修『ダムと緑のダム 凶暴化するする水災害に挑む流域マネジメント』(日経BP、2019年12月)です。台風19号の集中豪雨で市民の森のボッシュ林エリアの0次谷(明瞭な流路をもたない谷頭の集水地形)と石坂の森見晴らしの丘下では小規模な表層崩壊が起きていたこと(2019年10月26日記事12月23日記事)を頭に置いて、市民の森の森林管理について考えながら読み終えました。
img-200215194955-0002

ダムと緑のダム 凶暴化するする水災害に挑む流域マネジメント』目次
はじめに(虫明功臣[むしあけかつみ]、太田猛彦)

第1章「緑のダム」が決壊した(井山聡)
 2017年九州北部豪雨災害の爪痕
  豪雨で孤立した集落
  1942年の観測開始以来最大の雨
  東京ドーム約9個分の土砂と流木の流出
  洪水、土砂、流木を防いだ ダム
  2018年西日本豪雨での最悪夢
  連年の豪雨災害
  山林崩壊のメカニズム
   img-200215195113-0002img-200215195113-0003img-200215195113-0004
 近年、特に頻発する土砂・流木災害
  森林が豊かな地域でも多発の恐れ
  全て砂防堰堤での対策は現実的でない

第2章森林における治水・利水機能とその限界(高橋定雄)
 緑のダムの限界
  大洪水ではピーク流量の低減を期待できず
  渇水時には貯水ダムの代わりにならず
  日本学術会議の見解
  森林施業による治水・利水対策の限界
   img-200215195113-0005
 川辺川ダムにおける緑のダム論争
  緑のダム論争の経緯と論点
   img-200215195113-0006
  森林の保水力についての共同検証(現地試験)
  健全な流域水循環系の構築に不可欠な森林の保全・整備

第3章急峻な国土に生きる(小山内信智)
 山は動く
  3つの土砂災害
  過去30年でどんどん増える土砂災害
 森林(植生)の土砂流出抑制効果と限界
  森林(植生)の土砂流出抑制機能
  近年の土砂災害の実態
  緑の落とし穴?
 土砂・立木災害にどう立ち向かうか
  第二次世界対戦後の日本の土砂災害対策
  ソフト対策の進展とその課題
  土砂移動現象にほぼ必ず含まれる流木

第4章森林政策を考える(太田猛彦)
 日本の森林の劣化と回復
  「世界で唯一」の森で暮らした縄文人
  稲作の伝来と森林の劣化
  江戸時代は山地荒廃の時代
  日本の森林が史上最も劣化・荒廃した明治中期
  戦後社会では森林の蓄積が増加
  林業の経済政策を優先した林業基本法
  地球環境時代の到来と森林・林業基本法
  竹林の繁茂や花粉症のまん延などの新たな問題
   表層崩壊の激減と土石流の変化
 一方、森林の復活による最も大きな影響は、山地における侵食様式の変化でした。すなわち、主にはげ山や林間の裸地、山間の耕地で発生する表面侵食は、ヒノキの人工林などで未間伐な部分やシカの食害で林床植生が消滅した部分を除くと 、ほとんど起こらなくなりました。また表層崩壊は、斜面表層の1、2メートル程度の風化土壌層が地表面から浸透する降雨の作用や地震の震動で崩れるもので、はげ山や幼齢林地で発生することが多いのですが、壮齢林では樹木の根系の作用によって発生し難くなるため、平成時代には目に見えて減少しました。
 土石流も発生形態が変化しているように見えます。森林が劣化していた時代に起こった豪雨による土石流の大部分は、1次谷(常時表流水がある最上流の谷)内の数個の表層崩壊が集合して発生していました。一方、森林が回復した平成時代に入ると、谷頭などで単独に発生した表層崩壊が土石流化する場合が多くなりました。豪雨の規模の増大化によって 、大量の水が山腹から流出して崩壊土砂に加わるようになり、小崩壊でも土石流化する場合が多く見られるようになった結果と推測されます。このような理由によって、表層崩壊が減ったにもかかわらず、土石流の発生はそれほど減少していないようです。
 こうした状況は山地での流木の発生に大きく影響しています。すなわち、山地での流木の発生の大部分は、表層崩壊地の立木が崩壊土砂とともに流出することにより発生するので、先述した土石流の発生様式の変化とは、「 表層崩壊は必ず流木を発生させる」と考えた方がよくなったことを意味します。(114頁)
  森林の充実で河川も海岸も変貌
  森林は水源涵養機能を十分に発揮
 森林の多面的機能と森林・林業
  森林・林業基本法と森林の多面的機能
  国連のミレニアム生態系評価とほぼ一致する「森林の原理」
 森林・林業基本法の制定に関連して日本学術会議は01年に、当時の農林水産大臣の諮問に応じて「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価等について」を答申しました(図5)。
 このうち「森林の原理」は、詳しくは「森林と人間の関係に関する『森林の原理』」というもので、環境、文化、物質利用の3つのサブ原理から成り、「多面的な機能の種類」の①~⑤、⑥と⑦、⑧がそれぞれほぼ対応します。さらにこれらは国連のミレニアム生態系評価で04年に提案された「生態系サービス( 生態系によって人類に提供される資源と公益的な影響)」の調節サービス、文化サービス、供給サービスとほぼ一致しています。森林の適切な管理とは物質生産機能(林産物供給機能)とその他の環境保全機能等とを共にバランスよく発揮させることといえます。
 また、上記の各機能を議論する際に忘れてならないのは「森林の多面的機能の特徴」の指摘です。特にそれぞれの機能を単独に取り上げて議論する場合に出てきた結論で、直ちに森林の存在そのものに評価を下すことは避ける必要があります。例えば、流木災害の原因になるからといって、渓流の周りの森林を除去することは、渓流生態系を保全する森林の機能を犯すことになり、森林の機能の多面性を正しく評価していないことになります。(119~120頁)
図5 日本学術会議が答申した森林の多面的機能
2.森林の原理:森林(植生)の最も基本的なはたらきは、自然環境の構成要素としての働きである(環境原理)。しかし、人々が身近な森を利用し、生活を向上させてきたことも自明であり、昔から森は目いっぱい 利用された(物質利用原理)。さらに、かつての森の民・日本人にとって、森が日本の精神・文化、すなわち日本人の心に影響を与えたこともまた当然と言える(文化原理)。
3.森林の多面的な機能の種類と意味:最も根源的な森林の機能として、人類そのものが森林を舞台とした生物進化の所産であることの意味まで含む①生物多様性保全機能がある。森林の本質である環境保全機能としては②地球環境保全機能、③土砂災害防止機能/土壌保全機能、④水源涵養機能、⑤快適環境形成機能がある。日本人の心にかかわるものとしては、⑥保健・レクリエーション機能、⑦文化機能がある。さらに 、⑧物質生産機能(林産物供給機能)は森林の本質的機能であるが、その利用は環境保全機能等とトレードオフの関係にあり、異質の原理に基づく機能といえる。
4.森林の多面的な機能の特徴:森林は極めて多様な機能を持つが、ここの機能には限界がある。森林の多面的機能は総合的に発揮されるとき最も強力なものとなる。さらに森林の多面的機能は、他の環境の要素との複合を発揮や、重複発揮性、階層性等の特徴を持つ。

  7つの機能からみる現代の森林問題
……01年の日本学術会議による答申で詳説しており、本書でも特に関係が深いのは、「③土砂災害防止機能/土壌保全機能」と「④水源涵養機能」です。この2つを詳しく解説します。
 山地災害の中で最も深刻なのは土砂災害です。落葉落枝層(A0層)や林床植生が健全な森林では、豪雨があってもほぼその全量を地中に浸透させて地表流を発生させず、表面侵食を確実に防止することが重要です。しかし、伐採により地表がかく乱された場合や林床植生がシカの食害を受けた林地、あるいは間伐されず林床が裸地化したヒノキ林などでは地表流が発生して表面侵食が起こってしまいます。
 地表から浸透水による間隙水圧の増加や地震の慣性力によって風化土壌層が崩れる表面崩壊は、森林が成長するとその樹木の根系の先端が基盤岩やその弱風化層に食い込む「杭効果」や、隣接木の根系同士が絡み合う「ネット効果」によって大幅に減らすことができます。また、土石流は表層崩壊による崩落土砂に表流水や地下水が加わって発生することが多いので 、森林は表層崩壊を減少させることによって土石流の発生も減らせることになります。
 しかしながら森林には、基盤岩そのものや厚い堆積土層が崩れる深層崩壊の発生、さらには地すべりの発生を防止する効果はほとんど認められません。また表層崩壊であっても豪雨の規模が極端に大きい場合や震度7クラスの地震の直撃に対しては防止軽減効果にも限界があります。
 一方、森林が劣化して裸地化した山地斜面と比較して健全な森林山地が水源涵養機能を発揮する最大の理由は、落葉落枝層(A0層)や林床植生が豊かな”健全な”森林土壌層が雨水を地中に浸透させて、裸地斜面で発生する地表流を流速の遅い地中 流に変えることにあります。すなわち地表流が地中流に変わると、山地斜面に降った雨が河川に流出するまでの時間が長くなり、洪水流出ハイドログラフのピーク流量が低下し、ピーク流量発生までの時間が遅くなり、さらには減衰部が緩やかになります。主に健全な森林土壌が発揮するこの機能を森林の洪水緩和機能と呼んでいます。そして、河川流出におけるこの変化は直接流出成分の一部が基底流出成分に変わることを意味し、水資源貯留効果を発揮することにつながります。あるいは洪水流出として無駄に海洋に排出される流量をゆっくり流出させて水利用の機会を増やすことにもなります。これは見方を変えると、流量を調節しているということもできます。
 さらに、健全な森林に到達した雨水は森林土壌を通過し河川に流出する間に土壌のろ過作用や緩衝作用、土壌鉱物や基盤岩からのミネラルの添加、飽和帯での脱窒作用などを受けて水質が改善され、あるいは清澄なまま維持されます。これは水質浄化機能といわれています。
 一方で極端な渇水が発生すると森林は蒸散作用によって通常は河川に流出するはずの水分を消費するので渇水流量を低下させてしまうことも知られています。また、成長した森林は遮断蒸発と蒸散作用の両方で大量の水を消費するので、この場合は伐採や間伐により主に樹冠の葉量を制限することが水資源利用上有利です。(122~124頁)
  現代の林業問題
 持続可能な社会と今後の森林管理
  SDGsと親和性が高い森林・林業
  新たな森林管理システム
  市町村に配分する新しい税制「森林環境税」
  森林認証制度で適切なチェックを
 山地災害対策と災害に強い森づくり
  保安制度と治山事業
  3つの流木の発生源
 流木の大部分は、①「表層崩壊と呼ばれる山腹崩壊地から流出流出する流木」です。 具体的には35~40度程度の急勾配の山腹斜面、特に0次谷(常時表流水がある谷の上部に位置する集水地形)と呼ばれる凹型斜面で表層崩壊が発生し、さらに崩壊土砂が流動化して土石流となった時、大量の流木が渓流に流出します。
 そして発生した土石流の運動エネルギーが大きい場合は、②「山脚部や古い土石流堆積地、掃流堆積地)が侵食されて、その上に成立したいわゆる渓畔林も流木化」します。その後、流木の大部分は通常は土砂とともに渓流の下流部に堆積しますが、一部は土石流と共に下流河川に流出します。
……さらに、③「谷底低地や小河川沿いの低平地の渓畔・河畔、あるいは氾濫した洪水流の進路上の樹木が押し流されて流木化」したものが加わります。(137~138頁)
 ここで①について、森林と崩壊と流木発生の関係に関する基本的知識を3つ挙げておきます。
 第1は、山崩れには山腹斜面上の風化土壌層が崩壊する「表層崩壊」と厚い堆積土層や基盤岩から崩れる「深層崩壊」があり、豪雨による崩壊のほとんどが表層崩壊です。また、表層崩壊は花こう岩系や堆積岩系(特に新第三紀層)のち地質の山地に多発する傾向がありますさらに前述したように、豪雨による表層崩壊は急斜面だけでなく、水が集まりやすい0次谷に発生しやすい性質があります。
 第2は、森林は「根系の働き」と「風化土壌層中の効果的な排水システム」によって表層崩壊を抑制します。このうち根系の働きについては、根が基盤岩の弱風下層や割れ目に食い込む杭効果と、隣接する樹木の側根同士が絡み合うネット効果があり、両者によって表層崩壊を起こりにくくしています。また効率的な排水システムとは土壌中に浸透してきた雨水が風化土壌層の底部(基盤岩の表面)に発達したパイプ状の水みちを通して効率的に排水される機構を指し、これによって土壌中で水圧が高まるのを防ぎ、崩壊を抑制しています(図9)。しかしながら17年の九州北部豪雨のように、豪雨の規模が強大だと崩壊に至る場合もあり、森林の働きには限界があることもしっかり受け止める必要があります。
  img-200215195422-0001
 第3は、流木は主に表層崩壊によって発生するということです。切り捨て間伐材などのリ林地残材や伐採後搬出前の材が豪雨によって直接流出する懸念が指摘されていますが、崩壊土砂や土石流に巻き込まれて流出することはまれにあるにせよ、通常はこれらの材を押し流すほどの水深を持つ流れが山腹斜面上に発生するとは考えられません。
 一方、温暖化によって、表層崩壊が発生するような豪雨がある場合、山腹や谷の上部から大量の流出水が加わって崩落土砂が土石流化する事例が多くなっており、今後はいったん表層崩壊が発生すれば、ほとんどの崩壊地から流木が渓流にまで流出してくると予想されます。(139~140頁)
  山地・渓流における流木災害軽減対策
  山腹斜面では表層崩壊をできるだけ抑制
 山腹斜面では、表層崩壊をできる限り抑制する対策が望まれます。ただし、急斜面で多発する特性を考えれば、①[発生し流下する土砂や流木そのものへの対策]の施設による対策は限定的にならざるを得ません。それでも特に危険な急斜面や凹型斜面では、これまでより強化した斜面安定対策(山腹土留工など)を実施する必要があるでしょう。また0次谷下部などでは谷止工を設置し、崩壊土砂の流動化、土石流化を防ぐ必要があります。
 一方②[流木が出にくい森づくり]の災害に強い森づくりでは、人工林であっても広葉樹林であっても、密度管理により根系・下層植生の発達した林木で構成される森林を、息長く育てる森づくりを進めていくことが基本となります。特に0次台の斜面や40度を超える急斜面では、現在そこがどんな林相であっても「非皆伐」とし、密度管理とギャップへの補植によって強靭な森林に改良していく方が良いと思います。(142頁)
  渓流の上・中流部では渓床・渓岸の浸食を防ぐ治山施設を
  渓流下流部では流木捕捉に期待
  災害に強い森づくりとは
 ここで災害に強い森づくりについてまとめておきます。
 災害に強い森づくりの基本は0次谷であっても渓岸であっても、強靭な根系を持ち、下層植生の発達した大径木で構成される森林を、時間をかけて育成していくことです。樹種の違いに配慮するよりも、より大径木化することを優先する方が重要であると思います。つまり、針葉樹人工林であっても広葉樹林であっても現在の森林を間伐する(場合によっては補植も行う)ことによる密度管理等によって、より高齢の森林へ導くことを第一に考えるべきです。人工林の場合、伐採・新植から20~30年後以降を想定し、劣勢木が自然に淘汰されることを考慮すると、たとえ間伐が多少遅れていても、樹種を変更するために伐採するよりも健全な森林に改良していく方がはるかに重要です。繰り返しになりますが、流木の出にくい森づくりの基本は現存の森林をとにかく長期的に維持して、できる限り高齢で、健全な大径の林木が存在するように林相を改良していくことだと思います。
 なお、木材生産の観点からは0次谷や渓岸堆積地はスギ林の適地です。非皆伐さらには禁伐が必要な0次谷内やけ渓岸の数メートルの範囲内の林木を除けば、製材可能な程度の大径木生産は差し支えないと思われます。 (144~145頁)
  不可欠な警戒・避難体制

第5章これからのダムに求められる役割(安田吾郎)
 ダムの目的と機能
   ダム では目的別に使用権を設定
   九州北部豪雨で治水効果を発揮したダム
  ダムが満杯になると洪水調節機能は喪失
  予備放流と事前放流~洪水調節容量を自主的に増やす操作~
  通常より洪水時の放流量を絞り込む特別防災操作
  他の洪水対策と比べたダムの特徴
 日本と海外のダムの変遷
  世界一のダム大国だった日本
  目的が農業、上工水から発電、治水へ
  ダム大国は日本から米国そして中国へ
  第1次世界大戦後にダム建設の進展期を迎えた日本
  戦前の治水ダム整備の遅れのツケを戦後払わされた日本
  日本の成長を支えたダムによる都市用水の供給
  ダム完成ラッシュの時期から最近までのダム整備の動向
  発電面を中心としてダムを見直す最近の米国の動き
  日本も本格的なダム再生の時代に突入
 日本のダム課題と対応
  地域の分断と人口流出の問題
  河床低下や海岸侵食とダムの持続性の問題
  ダム下流の流量の平滑化に伴う問題
  ダム湖でアオコなどの富栄養化現象が発生
  魚類等の移動ルートの分断の問題
  異常洪水の際のダムの限界
  ダム放流に関するリスクコミュニケーション
  水需要が伸びない中でのダムの役割
  ダムの安全性神話
  生物生態系への影響軽減
 意外と知られていないダムの機能
  可変型装置としてのダム
  生物の生息場としてのダム
  流木災害や大規模土石流を抑止するダム
 気候変動時代におけるダムの役割
  増えている豪雨災害のリスク
  将来はさらに洪水リスクが増加
  増加する気候変動リスクへの対応策

 コラム
  米国が世界一の大国になった事情
  オリンピック後の水資源確保対策により救われた首都圏

第6章 ダムと森林の連携(虫明功臣)
 ダムと森林の連携による価値創造
  ダムと森林の機能の関係性
  ダムと森林の連携によって生じるメリット
  流域マネジメントの枠組みによる連携
 これまでの流域マネジメント
  流域マネジメントの先駆け:熊沢蕃山の治山・治水
  ダム水没地域の再建・振興を目指す水源地域対策特別措置法
  水源地研究会の提言
  120のダムで策定した 水源地域ビジョン
  流域マネジメントを推奨する水循環基本法の制定
  流域水循環計画への認定事例
 ダムと森林が連携した流域マネジメントの実現
  新たな森林・林業行政とダム水源施策の連携
  効果的な流域マネジメントを実現する体制の構築

おわりに(虫明功臣、太田猛彦)

執筆者




太田猛彦『森林飽和 国土の変貌を考える』 2月15日

img-200215194955-0001

太田猛彦『森林飽和 国土の変貌を考える』目次

まえがき

第1章 海辺の林は何を語るか-津波と飛砂
  1 津波被害の実態
    林がそっくりなくなった
    マツも「被災者」
    倒れた木と倒れなかった木
    津波にも耐えたマツ
  2 津波を「減災」したマツ林
    マツ林には”実績”があった
    津波を弱め、遅らせる
    なぜ海岸林の再生が必要なのか
  3 なぜ海岸にはマツがあるのか
    笑顔にマツあり
    ”人工の森”をめぐる疑問
    砂浜の砂はどこから来たか

第2章 はげ山だらけの日本-「里山」の原風景
  1 日本の野山はどう姿をしていたか
    これが日本の山なのか?
    江戸の絵師が描く
    里山ブームの盲点
  2 石油以前、人は何に頼って生きていたか
    森しか資源のない社会
    理想の農村
  3 里山とは荒地である
    知られざる実態
    資源を管理する
    収穫を待ち望む
    里山生態系は荒地生態系?

第3章 森はどう破壊されたか-収奪の日本史
  1 劣化の始まり
    前史時代の森林利用
    古代の荒廃
    マツはいつ定着したか
    都の近辺で大伐採  
    領主の支配が及ぶ
    森が人里を離れる
    建築材を求めて全国へ
    里山の収奪が進む
  2 産業による荒廃の加速
    「塩木」となる
    製鉄のための炭となる
    焼き物のための燃料となる
  3 山を治めて水を治める
    3倍増した人口
    里山の疲弊
    思わぬ副作用
    山地荒廃への対策
    海岸林の発明
    なぜクロマツだったのか?
    地質によって荒れ方も変わる
    土壌とは何か
    木を植え続ける努力

第4章 なぜ緑が回復したのか-悲願と忘却
  1 荒廃が底を打つ
     劣化のピークは明治
    浚渫から堤防へ-治水3法の成立
    治山と砂防は本来ひとつである
  2 回復が緒につく
    災害の激増
    森林再生の夢
    海岸林の近代的造成とは
  3 見放される森
    エネルギーと肥料が変わった
    林業の衰退で木が育つ?
    森林は二酸化炭素を減らすのか
    劣化と回復を理解するモデル
    やがて新しき荒廃

第5章 いま何が起きているのか-森林増加の副作用
  1 土砂災害の変質
  土砂災害の呼び名いろいろ
     img-200215195535-002img-200215195535-0001
    なぜ崩れるのか
    表層崩壊と深層崩壊の違い
    地すべりとは何か
    土石流とは何か
  2 山崩れの絶対的減少
    かつて頻発した表層崩壊
    表面侵食が消滅した
    表層崩壊も減少、しかし消滅せず
    荒廃の時代は終わった
    流木は木が増えた証拠
  3 深層崩壊
    専門用語が定着した
    対策はあるのか
  4 水資源の減少
    森は水を貯めるのか
    流出を遅らせる力
    天然林志向を問う
    森は水を使う
    同じ雨は二度と降らない
    森を伐採して水が増える
  肝心の渇水時に水を増やさない
     img-200215195614-0001
    激甚災害は必ず起きる
  5 河床の低下
    砂利採取とダムの影響は?
    森の影響を見落とすな
    生態系への影響
    川はどうなるのか
  6 海岸の変貌
    海岸線の後退
    ”犯人探し”
    いくつかの「証拠」
    国土環境の危機

第6章 国土管理の新パラダイム-迫られる発想の転換
  1 ”国土”を考える背景
    国土の特徴を一文でつかむ
    プレートを読む
    気候を読む
  2 新しい森をつくる
    荒れ果てる里山
    人工林の荒廃、天然林の放置
    究極の花粉症対策とは
   森林の原理とは何か
     img-200215195654-0001
  里山は選んで残せ
 最後に、読者に身近な里山の将来について付言したい。往事の里山の再生がきわめて困難なことはすでに明らかであろう。人手をかけて森を徹底的に収奪しなければならないからである。割り切って、里山を稲作農耕森林社会の時代の文化財と考え、地域を限定し、森林ボランティアなどの力を借りて、”収奪”を試み、 かつての里山の姿を維持するほかない。
 近年、里山を保存しようという運動がさかんである。私も関東ローム層の台地の崖の斜面林や多摩丘陵その他の里山を保存するグループをいくつか知っている。どこでも保存活動に熱心なリーダーがいて頭が下がる。そして”間伐”が大切と考え抜き伐りなどの手入れに汗をかいている。しかし、一般の人にとって樹齢50年を超えた木を伐ることは難しく、また「もったいなくて伐る気になれない」という。しかし、かつての里山にそれほど大きな木はなかった。20年も経てば待ちかねて伐採し、利用していたのである。つまり、間伐をしても大きな木が残っているなら、 それは往事の里山の姿とはほど遠いことになる。かつての里山では、落葉や下草はおろか、灌木や高木の若芽まで刈り取っていた。だからこそ毎年春植物が咲き、清々しい里山が見られたのである。里山の保存がいかに困難であるかがわかるであろう。したがって、保存する里山を厳選し、一部に限定したうえで、昔の姿に戻し、それを維持するしかないのである。
 残りは「現代」の里山としての環境林、保健林、レクリエーション林、教育林などとして維持していくことになろう。しかしこの場合も、 管理はかなり難しい。その理由は、それぞれの目的にふさわしい森林を維持するためには、程度の差はあれ植生遷移の進行を止める”継続的な管理”が必要だからである。その管理方法に関しては多くの団体から有用な指導書が発行される時代になっている。しかし、このような使い道が見出せない場合、里山の森をどうすればよいのだろうか。
 私は最近、低炭素社会が叫ばれる中で、里山の森であっても生物多様性を保存した木材生産林として役立つ道を探るべきだと主張している。里山の森は地味も豊かで樹木の成長も早く、また道路に近いので伐採・搬出が容易である。管理次第で十分人々の好む広葉樹林同様の機能を発揮させられる 。ただしこのことを真に身に納得してもらうためには、先ほど述べた「新しい森林の原理」の中味をもう一度確認する必要があるだろう。(238~239頁)

  3 土砂管理の重要性
    異常現象にどう立ち向かうか?
    生物多様性を守るには
    山崩れを起こす
  4 海岸林の再生
    海岸林が浮き彫りにした国土の変貌
    海辺に広葉樹を植えるのか?

参考文献

あとがき


レイチェル・イグノトフスキー『プラネットアース イラストで学ぶ生態系のしくみ』 2月6日

レイチェル・イグノトフスキー『プラネットアース イラストで学ぶ生態系のしくみ』(創元社、2019年12月)を読みました。小学校5年生以上で習う主な漢字にルビをふってあるということですが、高等学校の「生物基礎」級の内容です。バイオーム(生物群系)地図の理解が第一歩でしょうか?
40044_flyer

プラネットアース イラストで学ぶ生態系のしくみ』目次
 はじめに
 生態学の構成レベル
 バイオーム地図
   img-200206215059-0001img-200206215059-0002
 生態系とは何か
 エネルギーの流れ
 生物の分類
 生物どうしのかかわり合い
 健全な生態系
 遷移
 微小生態系
 顕微鏡で見た生態系

 北アメリカ大陸
   img-200206210152-0001
  セコイアの森
  北部グレートプレーンズ
  フロリダのマングローブ湿原
  モハーヴェ砂漠

 南アメリカ大陸
   img-200206210152-0003
  アマゾン熱帯雨林
  アタカマ砂漠
  パンパ
  熱帯アンデス

 ヨーロッパ
   img-200206210152-0004
  ブリテン諸島の湿原
  地中海沿岸
  アルプス

 アジア
   img-200206210152-0005
  北東シベリアのタイガ
  インドシナ半島のマングローブ
  東モンゴルのステップ
  ヒマラヤ山脈

 アフリカ大陸
   img-200206210152-0006
  コンゴの熱帯雨林
  アフリカのサバンナ
  サハラ砂漠
  ケープ半島

 オーストラレイシア
   img-200206210152-0007
  オーストラリアのサバンナ
  タスマニアの温帯雨林
  グレートバリアリーフ

 極地方の氷床
   img-200206210152-0008
  北極圏
  南極のツンドラ

 水圏の生態系
  外洋
  深海
  河川
  湖沼

 自然の循環
  炭素の循環
  窒素の循環
  リンの循環
  水の循環
  植物

 人類と地球
  農場
  都市
  人類が自然に与えた影響
  気候変動
  地球を守るために

 用語集
 参考資料
 感謝のことば
 著者について
 索引

※NHKのEテレ(毎週火曜日午後2:40〜3:00)で放送している『NHK高校講座・生物基礎』の第32回「世界のバイオーム①〜気候と生物の適応〜」(講師:宇田川麻由さん)、第33回「世界のバイオーム②〜さまざまなバイオーム〜」(講師:宇田川麻由さん)、第34回「日本のバイオーム」(講師:市石博さん)、第35回「生態系でのエネルギーと物質の流れ」(講師:関口伸一さん)の各回ページには「動画」、「文字と画像で見る」、「学習メモ」(PDF)、「理解度チェック」があり、至れり尽くせりです。
T_2019_seibutsukiso

※darie1228さんの『高校生物をまとめてみる
    1.森林の構造、2.光合成曲線、3.生産構造図、4.植生の遷移
  【生物基礎】第4章植生の多様性と分布(バイオーム)
    1.世界のバイオーム、2.日本のバイオーム、3.ラウンケルの生活形
  【生物基礎】第5章生態系とその保全(炭素の循環・窒素の循環)
    1.生態系、2.炭素の循環、3.窒素の循環、4.物質収支
  【生物基礎】第5章生態系とその保全(環境問題)
    1.地球温暖化、2.富栄養化、3.生物濃縮、4.自然浄化、5.外来生物

シイタケのライフサイクル 1月29日

前記事に刺激されて、シイタケのライフサイクルについて書かれているものを読んでみました。先ず、森喜美男監修・日本きのこ研究所編『最新 シイタケのつくり方』(農山漁村文化協会、1992年)の第Ⅱ章上手に発生させるための基礎知識第2節シイタケの生活史(26~28頁)です。

シイタケの生活史
(1)胞子と胞子の発芽
 シイタケの一生は、キノコ(子実体)のひだの部分につくられる胞子(担子胞子)から始まる。胞子は植物でいえば花粉や胚のう、動物でいえば精子や卵子に相当し、種子ではない。胞子は、楕円桂、ゴマ粒のような形をしており、大きさは幅が3~5ミクロン、長さが6~8ミクロン(1ミクロンは1ミリの千分の1)くらいである。
 この胞子は厚い膜で覆われ、外からの刺激に保護されているから、乾燥した温度の低い場所に保存すると3ヵ月以上は生きている。しかし、70~80度の高温にあうと、4~5分で発芽力が弱くなるし、直射日光にさらされると、2~3分でほとんど発芽しなくなる。それが、適当な水分のある所に落ち、生育に適した温度が与えられると発芽して菌糸になる。
シイタケの生活環

(2)菌糸の接合
 胞子から発芽した菌糸は、ところどころ膜(隔膜という)で仕切られた細長い細胞からなり、1つの細胞に1個の細胞核をもつ。そのため、この菌糸を1核菌糸という(1次菌糸ともいう)。1核菌糸は、適当な水分と栄養と温度があれば分裂して増殖するが、通常はキノコをつくらない。キノコをつくるためには、「性」の異なった他の1核菌糸と接合、すなわち交配されなければならない。
 接合した菌糸は、両方の1核菌糸からそれぞれ核を受け取り、1細胞に2つの核をもつ状態になる。そのため、この菌糸を2核菌糸という(2次菌糸ともいう)。
 2核菌糸は細胞分裂によって増殖するが、2つの核は融合することなく特殊な方法で分裂していくので(図Ⅱ-3)、細胞と細胞の境にふくらみ(クランプコネクション、または、かすがい状突起という)ができる(図Ⅱ-3)。そのために顕微鏡で見ると、1核菌糸とは容易に区別できる。
各部呼び方・2核菌糸分裂模式図

(3)菌糸の増殖とキノコの形成
 2核菌糸は養分をとりながら増殖するが、この期間を栄養成長という。やがて、綿の繊維のようにばらばらに伸びていた菌糸は集合し、方向性をもって生育し菌糸の塊になる。これがキノコのもと(原基)である。このようにキノコになろうとして分化をはじめた菌糸を、3次菌糸とよぶこともある。そして、キノコになるために菌糸が集まってきてそれが生育し、完全なキノコの生育する期間を、栄養成長にたいして生殖成長とよぶ。
 菌糸が集まってできたキノコの原基は、適当な栄養と水分が与えられ、さらには低温刺激を受けると生育してキノコ(子実体)になる。若いキノコのひだの部分では、それまで2核のまま細胞分裂していた核は担子器の中で合体して2倍性核となる。それは、ただちに特殊な分裂(成熟分裂)を行って4個の半数性核になり、それらは1個ずつ若い胞子の中に移動する。キノコの生育にしたがって胞子も成熟し、再び胞子を飛散させるようになる。これがシイタケの一生である。

椎茸の生活と性質(宮さんのHP『あれこれ それなりクラブ』から)
(3)シイタケの一生
 笠の裏のヒダにつくられた胞子は、キノコが成熟すると飛び散り、風によって遠くまで運ばれる。シイタケはこのように、胞子によって繁殖する。木口や樹皮の割れ日に落ちた胞子は、適当な温度と湿度があると発芽して菌糸になる。
 胞子はかなり厚い膜に覆われ保護されていて、乾燥した温度の低い所に保存すると、3ヵ月以上も生きている。しかし70から80度の高温に会うと、4、5分で発芽力が弱くなる。また直射日光に曝されると、2、3分で発芽しなくなる。シイタケの胞子が風に飛ばされて適当な木に到着し、発芽して菌糸を伸ばすのはよほど運が良くなければならない。
 胞子から発芽した菌糸を顕微鏡でみると、ところどころ横に膜(隔膜)がある細長い枝分かれした管の様である。膜と膜の間が菌糸の細胞である。この細胞も高等植物と同じように、1個の核を持っている。この菌糸のことを一核菌糸という。しかし、その核は半数の染色体組しか持っていない。
 シイタケの場合、一核菌糸(一次菌糸)は、木材の中で増殖してもキノコを作らない。キノコを作るには、「性」の異なる他の一核菌糸と接合し、二核菌糸にならなければならない。この菌糸(二次菌糸)は細胞の中に、接合した両方の核を二つ持っている。
 二核菌糸は特別な分裂をする。細胞と細胞の間にふくらみ(クランプ・コネクション、またはかすがい状突起)が出来る。これにより、一核菌糸とはっきり区別することができる。
 二核菌糸は養分をとりながら増殖するが、やがて、綿の繊維のようにばらばらに伸びていた菌糸は集り方向性をもって生育する様になる。これがキノコのもと(原基)になるのである。このようにキノコになろうとして分化をはじめた菌糸を、三次菌糸と呼ぶこともある。
 キノコの原基は適当な条件があたえられると、生育してキノコになる。若いキノコのヒダでは、それまで二核のまま分裂した核は担子器の中で合体して二倍体核になり、すぐ特殊の分裂を2回繰り返し(成熟分裂)、4個の半数性の核を作る。
 それらは1つずつ若い胞子の中を移動して、キノコが生育するにつれて胞子も成熟し、飛び散るようになるのである。
椎茸の生活と性質

(4)シイタケの性
 草や木は雄ずいの花粉が雌ずいの柱頭について受精が行なわれる。これは有性生殖というが、シイタケも性の異なる一核菌糸が接合しなければ、キノコが出来る二核菌糸にならない、動物や高等植物の様に有性生殖をしているのである。
 一核菌糸すなわち胞子の性はどの様にして決まるのであろうか。1個のシイタケから沢山の胞子を取り、寒天培地に蒔くと2、3日で発芽する。これを単胞子分離といっている。
発芽した胞子を顕微鏡を使って、1個ずつ試験管の寒天培地に移す。これを単胞子分離と言っている。発芽した胞子は生育を続けて一核菌糸になる。
 一核菌糸のいくつかを、一対ずつの組になるよう組合せて一本の試験管に接種する。これは柱頭に花粉をつけてやるのと同じ交配である。しかし、組合せによってクランプ・コネクションが出来るものと、出来ない物がある。クランプ・ヨネクションは接合が行なわれ二核菌糸になったことを示している。
 このようにして調べてみると、一核菌糸を4つのグループに分けることが出来る。接合が行われるのは一定のグループ間だけである。
つまり1個のシイタケにつくられる胞子はAとBの二つの「性因子(不和合性因子とをもち、AB2つの因子の組合せによって4つのグループに分けられる。接合はAB二因子が異なるグループ間で起きるのである。この関係を「四極性」とよんで、シイタケでは昭和10年[1935年]に西門義一博士によって発見されたものである。
 ところが、系統の違ったシイタケから得た一核菌糸間で交配を行なうと、どの組合せもみな二核菌糸になる。系統の違うシイタケからの一核菌糸では、ABの性因子も違っているからである。
これらの発見によって、シイタケも農作物や草花と同じように、品種間の交配によって品種改良が出来るようになり、優良品種を種菌として原木に植える人工栽培が全国的に普及した。

キノコの話(井上均さんのHP『私編 雑科学ノート』から)
キノコの生活環
(1)胞子→(2)胞子の発芽→(3)菌糸の成長→(4)別種の菌糸と遭遇→(5)菌糸の接合→(6)2核細胞の成長→(7)キノコの形成→(8)胞子の基になる細胞の形成→(9)2つの核の融合→(10)減数分裂→(11)胞子の形成

キノコの生活環

 それでは、赤丸の番号順に見て行きましょう。
(1)胞子:まずはこれです。種類によって大きさや形はいろいろですが、だいたい5~10μm前後のものが多いようです。

(2)胞子の発芽:胞子から菌糸が伸びます。菌糸は細長い細胞が一列につながって糸状になったものです。

(3)菌糸の成長:菌糸の細胞が分裂を繰り返して大きな集団を作りますが、実はこれには性別があります。見た目には区別はつきませんが遺伝子レベルでは違っており、普通の動植物と同じようなオス、メス2種類のものや、4種類の性別を持っているものなどがあります。細胞分裂を繰り返してできた塊は、もちろん同じ性別です。

(4)別種の菌糸と遭遇:ある程度成長した段階で違う性別の菌糸が出会うと、そこで接合が起こります(4種類の性別を持つものでは、組み合わせによっては接合できないこともあります)。

(5)菌糸の接合:2種類の菌糸が接合すると、核を2個持った新しい細胞ができます。2核細胞です。核が2個あると聞くと妙な感じがするかもしれませんが、それは普通の動植物の感覚での話。細胞間の仕切り(隔壁)に孔が開いていて中身が移動したり、そもそも隔壁すらない多核体があったりする菌類の世界ですから、核が2個あるくらいは、別に不思議でもなんでもありません。

(6)2核細胞の成長:今度は接合でできた2核細胞が普通に分裂して、どんどん増殖して行きます。

(7)キノコの形成:2核細胞の菌糸が大きく成長し、やがてキノコ(子実体)を作ります。ですから、キノコの体は2核細胞でできていることになります。シイタケの裏側のヒダも、サルノコシカケの硬い殻も、全て2核細胞から成る菌糸が集まって作られたものなのです。

(8)胞子の基になる細胞の形成:キノコの特定の部分に、胞子を作る器官が準備され始めます。子嚢菌ならば子嚢、担子菌ならば担子器の原型です。ここに胞子の基になる細胞ができるのですが、当然ながらこの細胞も初めは2つの核を持っています。

(9)2つの核の融合:ずっとペアで来た2つの核が、ここで遂に一つになります。核の融合です。この段階で2種類の遺伝子が初めて本格的に混じり合うのです。

(10)減数分裂:いよいよ胞子を作る準備が整いました。融合した核を持つ細胞が分裂します。
 ここで、生物の時間に習った細胞分裂の話を思い出してください。普通の細胞分裂(体細胞分裂)では、遺伝情報を持った染色体がそっくりそのまま複製されて、新しくできた2個の細胞に分配されます。元と全く同じ細胞が2個できるのです。ところが精子や卵子などの生殖細胞ができる時には染色体が複製されませんから、染色体の数が半分の細胞ができます。これが減数分裂です(厳密に言うと、減数分裂では2回の分裂が連続して起こり、そのうちの1回で染色体の複製が起こりません。その結果、減数分裂を終えると、半数の染色体を持った生殖細胞が4個できます)。この半数の染色体を持った生殖細胞どうしが受精によって一つになって、また元の数の染色体を持った普通の細胞が作られるのです。
 それではキノコの場合はどうかと言うと、実は元の胞子や菌糸の時代が染色体数が半分の状態、と考えられます。普通の動植物では、染色体数が半分になるのは生殖細胞の間だけですが、キノコの場合は、その一世代の大部分を、染色体数が半分の状態で過ごすのです。(5)~(8)の間は核が2個ですから、染色体の数だけは足りていますが、やはり本来の状態ではありません。核が融合する(9)の段階になって初めて本来の(と言っても、どっちが本来の姿なのかよくわかりませんが)数の染色体を持つ核ができることになるのです。ところがこれがすぐに減数分裂してしまいますから、染色体数はまた半分に戻ります。このようにキノコの世界では、染色体がフルに揃うのは、核が融合してから減数分裂するまでのほんのわずかの間だけなのです。(この点ではコケ類とよく似ていますね)

(11)胞子の形成:減数分裂で作られた染色体数が半分の細胞が、やがて胞子になります。この胞子の染色体には、(5)で接合した2種類の菌糸からの染色体、つまり遺伝子が混ざっており、オス、メスの区別もあります。途中の過程は違いますが、普通の動植物の有性生殖と同じような結果になるわけです。

 以上が有性生殖の典型的なパターンですが、この他に、同じ細胞を胞子として切り離してどんどん増えて行く無性生殖もあります。先に出て来た不完全菌などは専ら無性生殖ですし、子嚢菌などでも、状況に応じて両方を使い分ける種類が多く見られます。ただし、人目を引くような大きなキノコを作る場合は、ほとんどが図5のような増え方をすると思ってよいでしょう。
※きのこのライフサイクル(東京地裁民事29部「育成者権侵害差止等請求事件」裁判資料から)
きのこのライフサイクル
キノコのライフサイクル1
きのこのライフサイクルは、図に示されるように、「生殖生長世代」と「栄養生長世代」とからなる。
「生殖生長世代」は、「担子菌」から「核融合」、「減数分裂1回目」、「減数分裂2回目」、「胞子形成」、「成熟子実体」に至るサイクルであり、「栄養生長世代」は、「胞子」から「胞子発芽」、「1次菌糸」、「接合:交配」、「クランプ形成」、「2次菌糸」、「菌糸集合体」、「原基形成」、「子実体」に至るサイクルである。

ナメコ栽培の問題点
ナメコでは2核菌糸が1核菌糸に戻る「脱2核化」現象がある。
キノコのライフサイクル2


小学校教科書「しいたけのさいばい」(1961年) 1月28日

1月26日にキノコの駒打ちをしました。シイタケ、ナメコ、ヒラタケの3種ですが、シイタケ、ナメコは森産業株式会社の種駒です。ナメコの種のパッケージには、「1942年、森喜作博士が世界で初めて種駒によるしいたけの人工栽培を発明したことで、今日、世界中で多くのきのこが食卓に並ぶようになりました。きのこを通じて健康の輪を世界に広げるという理念と情熱は、当社の製品作りに活かされています。」とあります。
ナメコ種駒パッケージ

日本きのこ研究所のサイトに森産業の創業者、森喜作さんを顕彰する「森喜作顕彰会」があって、森博士の「年譜」とともに小学校国語教科書(大日本図書株式会社、1961年)から「しいたけのさいばい」が掲載されていました。

しいたけのさいばい
1
 1933年のこと、大分県のしいたけさいばい地、阿蘇山の西ふもとにある山村のできごとである。この辺の農家は田畑に乏しいので、広葉樹・針葉樹の森林を利用して、炭焼きや、しいたけさいばいを副業にして、かろうじてくらしをたてていた。
 すぎ林の木立を通して朝日がきらきら光を投げている下に、1万本に近い、長さ1メートルほどのまるたぼうが組みならべてあった。その前に、みすぼらしい身なりのひとりの農夫が、手を合わせて拝みながらつびやいていた。
「なばよ出てくれ。おまえが出んば、おれが村から出て行かんばならんでな。」
 このいのりをふと聞きつけて、じっと見つめている大学生が会った。森喜作さんである。森さんは、農村経済の実態調査のためこの部落をおとずれ、海抜5、6百メートルの所で、リュックサックをおろした。額のあせをぬぐって、ふと林の中に目を移したとき、この情景を見たのであった。
 森さんは、ふしぎに思って農夫に事情をたずねた。
「しいたけのさいばい」(小学校教科書)memorial_002

2
 徳川時代の初め、九州の人、炭焼きげんべえが、炭材として切ったならの木にたくさんのいしたけがはえたのを見て、人工さいばいを思いついた。ならやくぬぎのまるたの表皮になたできざみ目を付け、数千本もならべてほうっておくのである。このまるたをほだという。すると、どこからともなく風に乗って飛んで来たしいたけの胞子がほだのきざみ目に付いて、2、3年もするとしいたけが出て来る。
 ところでほだ材は、直径5センチメートルから15センチメートルほどのならやくぬぎを、長さ1メートルに切ったまるたである。これを、そのままかまに入れて焼くと木炭になる。そこで、原木を焼いて木炭にするか、ほだにしてしいたけをさいばいするか、どっちがもうかるかが村民の頭をいためるところだ。原木1石からは木炭2俵半が焼ける。ねだんは木炭1俵が、ほししいたけにして380グラムくらいだ。ほだ材にして約1キログラム以上のしたけが採れればいいわけだ。しかし、木炭とちがって、ほだ材は数年たたないとしいたけが採れないから、資金をねかさなくてはならない。おまえけに、運は風にまかせろという、いわば危険な「かけ」である。
 実際には、原木1石から7.5キログラムのほししいたけが採れることがある。そのときは大もうけができるけれど、ほだに種が付かなかったらたいへんである。貧しい農夫は山のような借金で、税金はもちろん、米を買う金さえ無いようになる。村をにげ出し、一家がばらばらになるというような悲げきが起こるかもしれない。農夫がいのっていたのは、こうしたことがあるからであった。
 森さんはこれにむねをうたれた。一生をしいたけと共に生きようと決心した。そして、このような投機的な方法でなく、確実に収かくできる道を考え始めた。それが農民の貧しさを無くす、一つの方法と考えたからである。
 以来十年間、森さんは研究に熱中した。そして1943年、ついにその望みを達した。それはたねごまの製造出会った。たねごまをほだに打ちこみさえすれば、確実に、原木1石から5、6キログラム以上のほししいたけが採れるのである。

3
 では、たねごまとはなんであろうか。どうして作るのだろうか。
 にわか雨に会った小人が、あわててきのこの下に飛びこんで雨宿りをしているかわいらしいまん画がある。全く、きのこは太った雨がさのようだ。その太いえを持ってひっくり返してみると、厚いかさのうらにびらびらしたひだが、えを中心に、放射状にびっしりとならんでいる。そのおくにきのこの命の精がひそんでいる。しいたけの場合も同じである。そこには胞子という一個ずつの細胞がいく百万も育ち、やがて地上に子孫を残す種として、風に乗る日を待っている。
 開ききったしいたけのかさを軽くたたくと、目には見えない胞子が落ちる。これをシャーレに受け、かんてんで培養すると糸状にのびる。しかし、この胞子にはおすとめすがあって、かたほうだけではしいたけを作らない。多くの胞子のなかで、同性ははなれ、異性が引き合って結合する。この結合がなければしいたけははえない。だから、ほだにしいたけがはえるためには、おすとめすの二つの胞子が同じ場所に付かなくてはならない。ますますぐうぜんを待つことになる。
 森さんはこの結合した胞子をたくさん作り、その中にしょうぎのこまに似たくさび形のこまを入れ、そこに胞子を移した。これがたねごまである。だから、たねごまをほだに打ちこめば、必ずそこからしいたけがはえるわけだ。
 初め、種はおがくずに付けた。しかし、だれも相手にしてくれない。ほだにあなをあけ、いちいちおがくずをおしこむ手数をかけるのがいやなのだ。たねごまにすると、なた一丁でほだに切り口を付け、くさびを打ちこめばいいし、ふたの必要もない。これなら飛びつく。
「しいたけのさいばい」(小学校教科書)memorial_002_02

4
 1946年から、農林省はしいたけ増産5か年計画をたてた。その結果、1952年には、ほししいたけ2700トンを生産し、うち、1500トンを輸出し、売り上げは20億円に達した。
 しいたけは栄養素を多分にふくみ、特に保存のきく点は貴重である。むかしから、しいたけは日本食の栄養を補い、国民の保健に大きな役わりを果してきた。そして、このたねごまによるさいばいは、いく十万人の山村の貧しい農民に有利な副業を与えているのである。(101~107頁、ルビ省略)

※この国語教科書は小学校高学年用(6年?)と思われますが、胞子の発芽以降の説明が誤解されそうなので、森喜美男監修・日本きのこ研究所編『最新 シイタケのつくり方』(農山漁村文化協会、1992年)27頁掲載の図「シイタケの生活環」を付けておきます。→詳細は「シイタケのライフサイクル」を参照してください。
img-200130180259

※シイタケ栽培の歴史については別稿を準備中です。

      お知らせ
    記事検索
最新記事
カテゴリ別アーカイブ