岩殿満喫クラブ 岩殿 Day by Day

市民の森保全クラブ Think Holistically, Conduct Eco-friendly Actions Locally

読書ノート

ナラ枯れ文献・里山の生物多様性を持続させるために必要なことは 6月6日

明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト『Meiji.net』2021年11月24日の記事。農学部教授倉本宣さんの「里山の生物多様性を持続させるために必要なことは」です。
樹木が病気になることが近年増えてきています。特に最近首都圏に広がってきて、猛威をふるっている樹木の病気に「ナラ枯れ」があります。ナラ枯れは直接的には菌が樹木の水あげを阻害して起こります。その菌はキクイムシという甲虫の一種カシノナガキクイムシによって運ばれます。ナラ枯れはどんぐりがなるコナラのなかま、しかも大きな木に集中して発生します。なぜ、大きな木に集中するのでしょうか。
太く大きいコナラにはキクイムシが集まる
……ナラ枯れの根本的な対策は、雑木林を皆伐更新(伐採して、切り株から出るひこばえを育てて若返らせること)することです。それは15年以上前に確立された学説です。生態系に配慮するなら、数百平方メートルずつ小面積皆伐更新を行うのがよいとされています。しかし、現実には小面積皆伐更新はほとんど実施されておらず、対症療法的に、ナラ枯れにかかった樹木からカシノナガキクイムシが飛び立たないようにしたり、ナラ枯れで枯死した樹木だけを伐採したりすることにとどまっています。
人が手を加えたことによってできた「豊かな自然」もある
市民の暮らしが里山から離れて、里山を使っていた時代の記憶が薄れた昭和の終わりから、公共の場や目立つ場所の樹木の伐採に対して強い反対が行われるようになりました。……
丘陵地の大規模な公園における雑木林を維持するための小面積皆伐更新に対しても、ヤマザクラを伐採してはいけないという苦情がありました。ヤマザクラの樹形は根元から幹が分かれた株立ちでコナラと同じです。この樹形からヤマザクラも雑木林の一部としてくりかえし伐採されひこばえが再生してきたことがわかります。さらに、ヤマザクラは大きな樹冠を作るので谷戸の水田を日陰にしてしまい、農業に必要な光環境を維持できなくしてしまいます。

 それは、暮らしとは切れてしまった樹木愛護の精神によるものだと思います。私たちには生きている者同士の連帯感のようなものがあって、樹木にも連帯感を持ち、まして長く生きてきて大きな樹木には尊敬の念を抱くものです。……

雑木林を楽しむことも、資源の活用
要は、もともとの自然だけが大事なわけではないし、周囲の環境に与える影響を考えずに人が手を加えることも決して良いことではないのです。そのバランスは、私は配置と面積の問題と考えています。
山の向こうは、草原であった方が良いのかもしれません。でも、さらにその奥は原生林であった方が良いでしょう。また、都市の近くの林は、人の手が入った雑木林の方が良いのです。行政には、その配置と面積のバランスを考えた環境計画を立てていくことが求められるのです。

一方、私たち市民は、とにかく木を伐ってはダメという姿勢を少し変えてみましょう。……

そうした環境をこれからも維持していくためには、植生管理が必要なことを知ってもらえればうれしいです。それは、物質循環や自然の大きなサイクルを学ぶことにも繋がっていくと思います。……

また、木の伐採を受け入れる雰囲気を社会に広めるためには、伐採した木を資源として活用できる社会を構築していくことが必要だと考えています。

もちろん、江戸時代のように、木を薪や炭などのエネルギー源として利用することは現実的ではありませんし、チップにして燃やし、発電するのも費用対効果を考えれば、効率的とは言えません。

そこで、いま考えているのは、「楽しむ」ことです。伐採した木で木工を楽しんだり、そもそも、伐採に参加するのも楽しいと思います。特に、切り株のひこばえを育てることは心ときめく夢のある管理です。

雑木林を若返らせることも、そこに生きる植物や動物にふれることも、きっと楽しい体験になると思います。それはお金に換えられない体験です。

身近にある雑木林から、新しい発見や、面白いと思うこと、びっくりすることを感じるのは、そこに自然と人の営みがあるからです。

それを「楽しむ」ことが、雑木林のような「人手の入った自然」をこれからも残していくことに繋がると思っています。

倉本さんの著作は『雑木林をつくる―人の手と自然の対話・里山作業入門』改訂新版 (百水社、1998年)以来、里山再生活動で利用してきました。最近では高齢化したコナラ林の萌芽更新・再生にかかわる論文、松本薫・倉本宣「40年以上放置されたコナラ主体の雑木林における萌芽更新」(『明治大学農学部研究報告』65巻2号、2015年)、松本薫・倉本宣「小面積皆伐更新が行われてきた都立小宮公園における雑木林の更新の現状」(『関東森林研究』66巻2号、2015年)や日本生態学会大会での発表「丘陵地公園の雑木林における萌芽更新の成功と失敗」、「樹冠と後生枝から考察する大径化したコナラの萌芽規定要因」などから多くのことを学習しました。島田和則さんを講師に迎えての学習会「環境学習会・市民参加による里山林の保全・管理を考える(2018年2月18日記事)や都立小宮公園を見学(「都立小宮公園(2018年8月6日記事」)してから4年経ち、市民の森保全クラブの活動エリアのコナラ林をどのようにして更新していくのかその輪郭がようやく見えてきたところです。


ナラ枯れ文献・小平市緑化推進委員会緊急提言 6月4日

2021年4月15日、第17期小平市緑化推進委員会が、「小平市におけるナラ枯れ病対策の緊急提言」として小平市に提出した提言書資料です。市民の森には東松山市内・市外から多くの散策者が訪れています。市民の森保全クラブ員が園路沿いに設置したナラ枯れトラップの点検作業をしている時に何をしているのか説明を求められることがしばしばあります。市民にナラ枯れについて説明できる絶好の機会です。ナラ枯れについて普段からしっかりと学習・議論しておいて、その場の状況に応じて的確に情報を伝えられるようにしておきましょう。
小平市におけるナラ枯れ病対策の緊急提言(2021年3月)
小平市緑化推進李委員会緊急提言202104_1小平市緑化推進李委員会緊急提言202104_2
小平市緑化推進委員会緊急提言別添資料(小平市緑化推進委員会委員長椎名豊勝)から
ナラ枯れとは
小平市緑化推進委員会資料_01

カシノナガキクイムシとは カシナガの生活史 感染しやすい樹種
小平市緑化推進委員会資料_02小平市緑化推進委員会資料_03

都立公園の被害状況 穿入生存木 幹の太さによる被害状況 被害部位(高さ)
小平市緑化推進委員会資料_05小平市緑化推進委員会資料_07

カシ枯れ病の見分け方 根本的対策(雑木林の更新等)
小平市緑化推進委員会資料_08小平市緑化推進委員会資料_10

新開孝『虫のしわざ観察ガイド』 5月28日

岩殿入山谷津の植物調査を続ける中で、植物につく昆虫についても興味がわいてきて自然観察の視野が広がってきました。新開孝さんの『虫のしわざ観察ガイド~野山で見つかる食痕・産卵痕・巣~』は、その場に昆虫がいなくても、その痕跡から何と言う虫のものなのか、昆虫の名前だけでなく、何のためのしわざ(仕業)なのか、その昆虫の生態まで、フィールド別に調べることができる便利な図鑑です。
虫のしわざ観察ガイド

新開孝『虫のしわざ観察ガイド~野山で見つかる食痕・産卵痕・巣~』(文一総合出版、2016年2月)
虫のしわざって何だろう?
虫のしわざが見つかる場所
虫のしわざ いろいろ
 食痕、巣、マイン(絵かき虫leaf minerが潜ってできた痕mine)、フン
 産卵痕、卵のう、虫こぶ、繭、ありんこアーケード、羽脱孔
虫のしわざ 調べる
虫のしわざ 観察用具
虫のしわざ 記録しよう
本書に登場する主な虫のしわざ
 合わせ、まきまき、すだれ、すじ、かじり、型抜き、並び穴、網目、
 てんてん、おしろい、しおれ、ぼこぼこ穴、透かし窓、丸穴、四角穴、
 つめくず、ドーム、ぼこぼこ、こぶ、テント、ハッチ、ふりこ、どろ、
 あられ、アーケード

草花で見つかる虫のしわざ
タケ、ササで見つかる虫のしわざ
樹木で見つかる虫しわざ
地面や崖で見つかる虫のしわざ
水辺で見つかる虫のしわざ
人工物で見つかる虫のしわざ

索引 参考文献
2020年に出版された新開孝『虫のしわざ図鑑』(少年写真新聞社、2020年6月)もあります。YouTube版 本の海大冒険科学編〈6〉『虫のしわざ図鑑』(2:58)。未見ですが入手したい本です。
虫のしわざ図鑑

※『新開孝の昆虫手帖』 宮崎県延岡市在住の昆虫写真家・新開孝さんのブログ。

ナラ枯れ文献・カシノナガキクイムシとその共生菌が関与するブナ科樹木の萎凋枯死 5月17日

『日本森林学会誌』87巻5号(日本森林学会、2005年)掲載の小林正秀・上田明良「カシノナガキクイムシとその共生菌が関与するブナ科樹木の萎凋枯死-被害発生要因の解明を目指して-(下線引用者)
抄録
カシノナガキクイムシの穿入を受けたブナ科樹木が枯死する被害が各地で拡大している。本被害に関する知見を整理し、被害発生要因について論じた。枯死木から優占的に分離されるRaffacleaquercivoraが病原菌であり、カシノナガキクイムシが病原菌のベクターである。カシノナガキクイムシの穿入を受けた樹木が枯死するのは、マスアタックによって樹体内に大量に持ち込まれた病原菌が、カシノナガキクイムシの孔道構築に伴って辺材部に蔓延し、通水機能を失った変色域が拡大するためである。未交尾雄が発散する集合フェロモンによって生じるマスアタックは、カシノナガキクイムシの個体数密度が高い場合に生じやすい。カシノナガキクイムシは、繁殖容積が大きく含水率が低下しにくい大径木や繁殖を阻害する樹液流出量が少ない倒木を好み、このような好適な寄主の存在が個体数密度を上昇させている。被害実態調査の結果、大径木が多い場所で、風倒木や伐倒木の発生後に最初の被害が発生した事例が多数確認されている。これらのことから、薪炭林の放置によって大径木が広範囲で増加しており、このような状況下で風倒木や伐倒木を繁殖源として個体数密度が急上昇したカシノナガキクイムシが生立木に穿入することで被害が発生していることが示唆された
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  Ⅰ.はじめに
  II.被害の概要
   1.病徴
   2.被害樹種
   3.被害地の地形
  Ⅲ.カシノナガキクイムシ
   1.成虫の形態
   2.生活史
   3.繁殖能力
   4.野外生態
   5.マスアタックの発生機構
   6.寄主選択
  Ⅳ.カシナガキクイムシの共生菌
   1.病原菌の探索
   2.Raffaelea quercivora の性質
   3.Raffaelea quercivora の病原性の証明
   4.カシノナガキクイムシがベクターであることの証明
   5.樹木が萎凋枯死に至るメカニズム
   6.Raffaelea quercivora と他の共生菌の役割
  V.カシノナガキクイムシの繁殖成否と樹木の生死
   1.カシノナガキクイムシの繁殖阻害要因
   2.樹木の生死を分ける要因
   3.樹木の生死とカシノナガキクイムシ繁殖成功率
  Ⅵ.被害発生要因
   1.カシノナガキクイムシは一次性昆虫か二次性昆虫か?
   2.被害の発生・拡大・終息のメカニズム
   3.被害発生要因の検討
    1) ならたけ病
    2) 雪の影響
    3) 温暖化の影響
    4) 倒木の発生
    5) 樹木の大径化
    6) R.quercivora またはカシノナガキクイムシの侵入
  Ⅶ.おわりに
R.quercivoraやカシナガが侵入種であるとしても、R.quercivoraの樹体内への蔓延を助長するカシナガの個体数密度の上昇が枯死被害の前提条件になっている。カシナガの個体数密度は、薪炭林の放置によって好適な寄主となりうる大径木が広範囲で増加していることと、このような状況下で発生した倒木が繁殖源になることで急上昇する。そして、個体数密度が上昇したカシナガが生立木に穿入することで発生した最初の枯死被害は、大径林が広範囲に拡がっていることや温暖化の影響によって次々に拡大すると考えられる。
燃料革命以前に行われていた薪炭林施業の伐採サイクルは15~20年程度とされている(広木、2002)。カシナガは細い樹木では繁殖できないことから(小林・上田、2002b)、薪炭林施業が継続されていれば、現在のような激害には至らなかったはずである。本被害の多くは燃料革命以降に放置された広葉樹二次林で発生しており、本被害の発生と拡大に、燃料革命によってもたらされた樹木の大径化と温暖化が関与している疑いが濃厚である。大径木が次々に枯死するという異常事態が燃料革命と無関係でないことは、持続可能な循環型社会への移行が急務であることを示唆している。
このような事態に対して行政のなすべきこと
村上幸一郎・小林正秀「ナラ枯れ防除の理論と実際-京都市東山での事例から-(日本森林学会大会発表データベース 2007年 118 巻 B32)
このような被害に対して行政がなすべきことを列挙すると、①被害実態の把握、②情報の公開、③行政と研究とをつなぐ場の設定と役割分担の明確化、④防除方針の決定、⑤予算獲得と事業実施となる。東山国有林での対策では、①として防災ヘリの活用や現地踏査を実施した。②としてチラシ配布やメディアの活用などの積極的な情報公開を行い、地域住民による被害の早期発見が可能になった。③については、対策会議の開催やメーリングリストを活用した。また、行政者が当事者意識を持つことが重要であり、被害木が発見されるたびに研究者を呼び出すのではなく、行政者による現地調査も実施した。④として東山国有林が被害先端地であったため、重点的な防除対策を行うこととした。⑤は世論の後押し、研究者の助言、行政者や事業実施者の努力によって実現にこぎつけた。

ナラ枯れ文献・ナラ類集団枯損の発生経過とカシノナガキクイムシの捕獲 5月16日

『森林応用研究』9巻1号(応用森林学会、2000年3月)掲載の小林正秀・萩田実「ナラ類集団枯損の発生経過とカシノナガキクイムシの捕獲(下線引用者)
抄録
京都府北部の5林分で、コナラとミズナラの枯損状況を調査したところ、コナラよりミズナラの枯損率が高く、枯損率は最初の被害が発生して3年目頃に最大となった。エタノールを用いた誘引トラップでカシノナガキクイムシを捕獲したところ、捕獲数も被害発生3年目頃に最大となった。しかし、本種はエタノールにはほとんど定位しないことが、α-ピネンや誘引剤なしのトラップ及び障壁トラップとの比較で判明した。ナラ樹に粘着トラップを巻き付けて捕獲したところ、飛翔は6月上旬〜10月下旬にみられ、飛翔時間は午前5時〜11時で、飛翔高度は0.5〜2.0mに多いことがわかった。さらに、前年に穿孔を受けたナラ樹に羽化トラップを被覆して調査したところ、羽化時期は6月上旬〜10月上旬であること、枯死木からの羽化は多いが、健全木からは少ないことがわかった。また、枯死木1m^3当りの羽化数は約3万頭で、1穿孔当りでは約20頭であった。割材調査では、枯死木1m^3当りの羽化数は約5万頭で、1穿孔当りでは約13頭であった。また、すべてのトラップ調査においで性比は雄に偏っていた。
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III 結果と考察
 1.枯損状況調査
 2.誘引トラップと障壁トラップによる捕獲調査
エタノール、α一ピネン及び誘引剤なしを比較した舞鶴での結果を表一5に示す。カシナガは、雌雄ともにエタノールによる捕獲数が、α一ピネンや誘引剤なしとほぼ同数で、ここでもエタノールに積極的に誘引されることはないという結果となった。また、サクキクイムシは、誘引剤なしで最も多く、井上(1996)が報告したように、エタノールに忌避的な反応を示した。これらの結果から、上田ら(1998)の報告のように、キクイムシ科の養菌キクイムシの多くはエタノールに誘引されるが、ナガキクイムシ科は積極的には誘引されないことが判明した。
 3、粘着トラップによる捕獲調査
調査を行った6月ユ9日の調査地における日の出は午前4時44分であったことから、飛翔は、日の出直後の5時頃から始まり、午前中に終了することがわかった。これは、衣浦(1994)、吉田ら(1994)の報告と一致した。しかし、筆者は、飛翔の集中する時間帯が日によって大きく異なることをこの調査を通じて経験している。飛翔には気温と明るさが複雑に関与している可能性があり、今後詳しい解析が必要である。
 4.羽化トラップと割材による調査
 5.各トラップによる捕獲時期及び性比
粘着トラップの捕獲結果は穿孔時期を、羽化トラップの捕獲結果は羽化時期を反映していると考えられる。羽化トラップの捕獲結果から、羽化は、6月上句に始まり、7月が最盛期で、10月上旬に終了すると考えられる。また、粘着トラップの捕獲結果から、穿孔は6月上旬に始まり、10月下旬まで続くと考えられる。羽化時期の報告は多く(松本1955、谷口ら1990、佐藤ら1993、衣浦1994、牧野ら1995、浦野ら1995、井上ら1998、Sone et al.1998)、羽化開始時期は5月下句〜6月上句、最盛期は7〜8月、終了時期は10〜11月としている。
今回の結果もこれらと一致した。一方、穿孔時期については、谷口ら(1990)、衣浦ら(1994)が、羽化時期より数週間遅れるとしているが、森ら(1995)は穿孔の最盛期が、羽化の最盛期より2週間早かったとしている。
被害林では、羽化当初は少数のナラ樹のみが集中的に穿孔される傾向がある、そのために、羽化当初に穿孔の確認できた被害木のみに粘着トラップを設置した1998年宮津の調査では、穿孔の最盛期が6月上〜6月下旬で、羽化の最盛期(6月下句〜7月下旬)よりも早くなった。
そこで、1999年舞鶴の調杏では、羽化当初に穿孔されていないナラ樹にも粘着トラップを設置した結果、穿孔の最盛期と羽化の最盛期は一致した。つまり、林分全体の穿孔時期は、羽化開始直後から始まり、羽化が終了してからもしばらく続き、10月下旬に終了すると考えられる。

今同の調杳では、誘引トラップによって無被害地でも少数のカシナガが捕獲できた。また、カシナガ捕獲率と枯損率の変化が一致したことから、カシナガの増加に伴って枯損量が増加することも明らかになった。さらに、羽化トラップによって、健全木からの羽化も確認できた。これらのことから、カシナガは無被害地でも健全木の枯死部を利用して低密度で生息しており、何らかの原因で生息数が増加し、集団枯損が発生していると推察される。個体数増加には繁殖場所である枯死部の増加が関係していると考えられ、これには薪炭林施業の中止によるナラ樹の老齢化(松本1955、井上1998)、人為的な伐採(布川1993)、風倒木の発生(牧野ら1995)等が考えられる。老齢化については、今回の舞鶴と宮津の被害地においてミズナラ大径木の枯損が被害発生に先行していることを確認している。また、大江と舞鶴では被害発生前に大規模な伐採が行われている。さらに、今回の調査地ではないが、風倒したミズナラから被害が始まった例を綾部市で確認している(小林未発表)。これらのように、被害発生前に何らかの個体数増加の原因があり、これを究明することが、被害の拡大防止にとって重要であると考えられる。

ナラ枯れ文献・ナラ枯れはどのような場所で最初に発生しやすいのか? 5月14日

『森林応用研究』25巻1号(応用森林学会、2016年2月)に掲載されている吉井 優・ 小林正秀「ナラ枯れはどのような場所で最初に発生しやすいのか?。(下線引用者)
抄録
カシノナガキクイムシが媒介して発生するナラ枯れが、1980 年代以降に拡大している。本被害が抑えられないのは、被害の発見が遅れ、被害の初期段階で対策が実施されないことが要因になっている。本被害は、最初の被害地から同心円状に拡大するが、被害地から離れた場所で突如として発生することも多い。 このような飛び火的に発生した被害は発見が遅れ、そこを起点に被害が拡大する。被害の拡大を食い止めるためには、被害地から遠く離れた場所で発生する被害が、どのような場所で発生しやすいのかを知る必要がある。そこで、京都府南部で発生したナラ枯れによる枯死木のうち、前年に発生した枯死木から6km 以上離れた場所で発生した枯死木が、どのような場所で発生しやすいのかを解析した。その結果、標高250m 未満の南西~西斜面で最初の被害が発生しやすい傾向が認められた。また、京都府南部では、外来ブナ科樹木が、周囲の樹木に比べていち早く枯れる場合が多かった。これらのことから、飛び火的な被害は、何らかの原因によって衰弱した樹木にカシナガが穿入することで発生していることが示唆された。
おわりに
本研究では、既存の被害地から遠い場所の被害を早期に発見し、被害本数が少ないうちに対処することの重要性を訴えた。また、既存の被害地から遠い場所は面積が広大であるため、衰弱木が発生しやすい場所を重点的に監視することが効率的であることを指摘した。さらに、衰弱木だけでなく、伐倒木や巻き枯し木、伐根も被害の起点になるため、これらを放置しないことも重要である。森林家必携の第 44 版には、ナラ枯れの防除法として、①老衰木・傷害木・風倒木を速やかに伐採利用すること、②伐採木は伐倒直後に林外に搬出すること、③餌木誘殺を実施することの 3 項目が挙げられている(新島、1949)。また、伐根が繁殖源になるため、できるだけ地際から伐採する必要性も指摘されている(林業試験場昆虫研究室、1953)。燃料革命以降、ブナ科樹木の利用は減ったが、衰弱木、風倒木および伐採木を放置せずに利用することが、ナラ枯れの拡大を抑えるために重要であることは、今も変わりがない。
神戸市は、被害を早期に発見することの重要性を認識し、監視体制を強化した結果、2010 年秋、既存の被害地から30km 以上も離れた六甲山で被害を発見し、徹底した対策を実施した。また、2011 年には、筆者らも協力して、神戸市内で、ナラ枯れが発生しやすい場所(外来ブナ科樹木やブナ科大径木が生育している場所)を抽出した。こうした取り組みによって、神戸市は、ナラ枯れの拡大を 5 年以上も阻止している。ナラ枯れは伝染病であるため、既存の被害地の近くで新たな被害が発生しやすいのは当然であり、そうした被害の発見は容易である。しかし、実際に重要なのは、発見が困難な飛び火的な被害を、早期に発見することである。ナラ枯れが発生した市町村は多いが、被害の拡大を阻止した市町村は少ない。この原因は、被害の発見が遅れること、また、被害が早期に発見されても、直ぐに有効な対策が実施されないためである。ナラ枯れの拡大を食い止めるためには、神戸市のように、被害が発生していない段階で監視体制を強化し、被害を早期に発見して、被害本数が少ないうちに対処することが重要である。

吉井優・小林正秀・竹内道也・ 田中和博「ナラ枯れの発生に与える地形と気象の影響(日本森林学会大会発表データベース、2013年 124 巻 C07)
抄録
ブナ科樹木萎凋病による被害の拡大を抑えるためには、被害を早期に発見して被害量が少ないうちに対応することが重要である。その際、前年の被害地から離れた場所で発生する飛び火的な被害(被害発生初期木)がどのような場所で発生しやすいかが予測できれば、被害の早期発見が容易となる。そこで、2005~2012年に京都市市街地周辺で実施されたヘリコプター調査によって把握された枯死木の位置データを基に、被害発生初期木が発生しやすい地形条件をConjoint分析で把握した。その結果、50~250mの低標高で、西~南西斜面の急傾斜地で発生しやすいことがわかった。また、公園や社叢林のような小面積での対応では、どのような樹木が被害を受けやすいかが予測できれば効率的である。そこで、2011~2012年に総合防除を実施した船岡山において、どのような場所のどのような樹木が被害を受けやすいかを同様の方法で把握した結果、明るい場所に位置する大径木が被害を受けやすいことが確認できた。この他、その年の気象条件によって被害量が増減することが指摘されており、気象条件が被害にどのように影響しているかについても検討した結果を報告する。

オオブタクサを引き抜く 5月3日

岩殿G地区のヤナギの近くと市民の森作業道寄りで群生しているオオブタクサを引き抜きました。
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芽生えの99%を5年間除去しないと除去できないそうですが、拡大は防ぎたい!

鷲谷いづみ『オオブタクサ、闘う 競争と適応の生態学』(平凡社・自然叢書34、1996年10月)
「まえがき」にかえて
 「種」を語るということ
 「闘い=競争」が支配する植物の世界
 闘いにどう対処するか
1章 オオブタクサの素性
 オオブタクサ、日本の河原に住み込む
 豆腐とゴミが助けた侵入
 大きくとも一年草-キク科の異端児
2章 故郷(北アメリカ)でも勇名をはせる
 植生遷移を止めてしまう草
 雑草としても超一流
 花粉の煙幕・迷惑
3章 巨大化をもたらすもの
 植物が生きるための糧(資源)
 資源は必ず枯渇する
 環境要因の影響はほかの要因次第
 肥沃な土地で不足する光
 光を求めて上へ上へ
4章 植物の技はほかにもいろいろ
 融通無碍な体
 資源が一様に分布していれば不精を決め込む
 柔軟に環境に対処する能力
 込み合う前に察知する鋭い「感覚」
 闘いはいつも「備えあれば憂いなし」
 オオブタクサが草であって木にならないわけ
5章 強さのヒミツ総点検
 多年草とも闘える-オギ原への侵入
 ブタクサと比べてみる
 植物の成長は複利の貯金?
 大きな種子と早い発芽-母の強い支配
 高成長だ、生産工場は使い捨て
6章 仲間うちでの競り合い
 不公平社会の最たるもの、ジニ係数は語る
 競争は対称/非対称
 大富豪になるのは誰だ?-コーホート追跡調査
 まず因果関係をモデルの形に
 芽生えの身になって環境をみる
 成功は、能力・環境・運次第
 母も悩む、大きさと数のジレンマ
 母はあくまでも強く賢し、格差も母がつくる
7章 性と繁殖成功
 虫媒花と風媒花の損得勘定
 下手な鉄砲の玉と的の数
 種子をつくらずに遺伝子が残せる雄が得か、それとも雌が得か?
 トレンドは「小さければ雄」なのに
8章 ヒトに助けられスーパースピーシスへの道を歩む
 競争力と分散力のトレードオフ
 スーパースピーシスと地球生物相の均質化
 生物の世界には、さまざまな形のトレードオフが認められる。それによって、競争力の強い種による競争排除が抑えられ、多くの種が共存できるのだとも考えることができる。しかし、もし、天に二物を与えられた種、つまりスーパーマンならぬスーパースピーシスが現れれば、たちまち圧倒的に優占して、資源を独占してしまうであろう。ヒトが改変した環境のもとでは、競争に強く、しかも分散能力もそれほど足枷にはならないようなスーパーピーシスが現れることがあるらしい。実際に、生物学的侵入はときとして、そのような人為的スーパースピーシスを生むようである。オオブタクサは本来、競争には強いが種子の分散力が小さい植物であった。しかし、種子の分散における足枷をヒトが種子の混ざった農作物あるいは土を運搬することによって外してしまった。そのため、本来ありえないような分布の拡大をなしとげ、出会うはずのない植物と出会って、それを競争によって排除してしまう可能性が生まれたのである。
 ヒトによるすさまじい環境改変は、農地や都市などヒトがこの地球上に出現するまではほとんどそんざいしなかったタイプの生育場所を、広大な面積でつくり出した。そこには、それまで氾濫原や荒地などでっつましく生きていた植物が、やはりヒトの手を借りて進出した。ヒトの活動によって広大な生育適地が用意され、しかも分散まで保証されるとなれば、もしその植物が大きな競争力をもってさえいるなら、もはやその蔓延を抑制するものは何らない。そうなった時その種は、やはりスーパースピーシスの道を歩むことになるであろう。それは、古くから存在する生態系における侵入生物の影響などによる在来生物の絶滅とともに、この地球上の生物相の均質化の主要な原因の一つとなっている。少数のスーパーピーシスだけが景観をつくっている世界でのヒトの生活は、ずいぶん味気ないものとなるであろう。というよりは、そのような環境におかれたら私たちヒトには、もっと深刻な精神面・身体面の変調が現れないとも限らない。
 残念ながらオオブタクサは、そのような問題さえ提起する可能性のある植物なのである。
参考文献
あとがき

 (植調)外来生物防除マニュアル暫定版_1(植調)外来生物防除マニュアル暫定版_2
石川真一『大型一年生外来種 オオブタクサの脅威(2008年3月24日に群馬大学社会情報学部主催で開催された『群馬県の自然環境と人間生活-迫り来る外来植物の脅威-』の報告資料)
石川真一『大型一年生外来種オオブタクサの脅威』2008_1石川真一『大型一年生外来種オオブタクサの脅威』2008_2石川真一『大型一年生外来種オオブタクサの脅威』2008_3

※石川 真一・吉井弘昭・高橋和雄「利根川中流域における外来植物オオブタクサ(Ambrosia trifida)の分布状況と発芽・生長特性」(『保全生態学研究』8巻1号、2003年)
 
※鷲谷いづみ「さとやまの恵みとヒトの持続可能なくらし」(2014年度東京大学公開講座「恵み」) YouTube 1:01:25
概要:縄文時代から里山とともに生き、植物の生態系を管理してきた日本人。 世代を超えて知識を蓄え、生態系の持続可能性に配慮することができるのは人間だけがもつ特性です。 自然の豊かな恵みを守り、伝えていくために、私たちは何ができるのでしょうか。保全生態学の視点から考えます。

01:30 保全生態学からみた「さとやま」
11:06 縄文時代のさとやま植生管理
25:51 「持続可能性へのまなざし」こそ人間の証
41:30 生物多様性が失われることはなぜ問題なのか?
54:18 ヒトの対環境戦略のモデル

『都市の脱炭素化』解説動画・ウェビナー 4月22日

小端拓郎編著『都市の脱炭素化』(大河出版、2021年10月、2750円)の各章執筆者の解説動画19本・資料、第1~5部のウェビナー・質問の回答が国立環境研究所 社会対話・協働推進オフィスのサイトで公開されています。(YouTube国立環境研究所動画チャンネル 『都市の脱炭素化』講演動画シリーズ
都市の脱炭素化都市の脱炭素化オンラインイベント

はじめに
第1部.都市生活の脱炭素化
 1.1 家庭での脱炭素化
 1.2 家庭生活に伴う直接・間接CO2 排出と脱炭素型ライフスタイル
 1.3 食システムの脱炭素化に向けた食行動
 1.4 電化とデジタル化が進む都市の脱炭素化を担う送電網
 1.5 都市地域炭素マッピング:時空間詳細なCO2排出量の可視化
 ウェビナー①「食や住、ライフスタイルでCO2をどう減らす?」
第2部.再生可能エネルギーの活用
 2.1 進化を続ける営農型太陽光発電
 2.2 都市におけるバイオエネルギー利用の方向性 
 2.3 デンマークの風力主力化モデル
 2.4 地熱エネルギーの活用
第3部.公平で速やかな都市の脱炭素化に向けた課題
 3.1 都市の中の太陽光―導入拡大に向けた法的・制度的課題
 3.2 公平なエネルギー転換:気候正義とエネルギー正義の観点から
 3.3 脱炭素都市・地域づくりに向けたNGOの取り組み
 3.4 資源ネクサスと行政計画―京都市のケースを中心として
 ウェビナー③「公平な都市の脱炭素化に向けた課題-法や制度、協働の視点から」
第4部.地方自治体の脱炭素化に向けた役割と取り組み
 4.1 脱炭素社会に向けたフューチャー・デザイン
 4.2 1.5℃に向けた京都市の挑戦
 4.3 小田原市におけるシェアリングEVを活用した脱炭素型地域交通モデル
 4.4 脱炭素社会の実現に向けた地方公共団体の取組について
第5部.自動車の電動化からSolarEVシティー構築に向けて
 5.1 自動車の電動化
 5.2 V2Hシステムとエネルギーマネジメント
 5.3 分散協調メカニズムの活用による都市の脱炭素化実現の可能性
 5.4 SolarEVシティー構想:新たな都市電力とモビリティーシステムの在り方
 ウェビナー⑤「自動車の電動化からSolarEVシティー構築に向けて」

田口一成『9割の社会問題はビジネスで解決できる』② 4月5日

ボーダレス・ジャパン
ボーダレス・ジャパンの定款前文は本にも掲載されていますが、サイトの「ボーダレスとは」、「私たちの考え方」を読むと理解が深まります。
社会の不条理や欠陥から生じる、貧困、差別・偏見、環境問題などの社会問題。
それらの諸問題を解決する事業「ソーシャルビジネス」を通じて、
より良い社会を築いていくことが
株式会社ボーダレス・ジャパンの存在意義であり使命です。

株式会社ボーダレス・ジャパンは、
社会起業家が集い、そのノウハウ、資金、関係資産をお互いに共有し、
さまざまな社会ソリューションを世界中に広げていくことで、
より大きな社会インパクトを共創する「社会起業家の共同体」です。

ここに集う社会起業家は、
利他の精神に基づいたオープンでフラットな相互扶助コミュニティの一員として、
国境・人種・宗教を超えて助け合い、良い社会づくりを実現していきます。

1 すべての事業は、貧困、差別・偏見、環境問題など社会問題の解決を目的とします。
2 継続的な社会インパクトを実現するため、経済的に持続可能なソーシャルビジネスを創出します。
3 事業により生まれた利益は、働く環境と福利厚生の充実、そして新たなソーシャルビジネスの創出に再投資します。【恩送りのエコシステム ボーダレスの福利厚生
4 株主は、出資額を上回る一切の配当を受けません。
5 経営者の報酬は、一番給与の低い社員の7倍以内とします。
6 エコロジーファースト。すべての経済活動において、自然環境への配慮を最優先にします。
7 社員とその家族、地域社会を幸せにする「いい会社」をつくります。【ボーダレスイズム
8 社会の模範企業となることで、いい事業を営むいい会社を増やし「いい社会」をつくります。
第3章以外でチェックした箇所です。
第1章 「社会問題を解決するビジネス」を次々と生み出す仕組み
 世界に広げていく仕組み①
  恩送りのエコシステム -余剰利益は共通のポケットに
 世界に広げていく仕組み②
共同体経営 -グループの全社長による合議制
多数決が採用されて、自分の意に反して物事が決まっていくなら、組織に対する「自分ごと感」は薄れていく
マイノリティの意見にはマジョリティが見逃していたユニークな視点があり、決して無駄ではない
 世界に広げていく仕組み③
  独立経営 -採用も報酬も自分で決定
 キャッシュフロー経営 -資金が尽きたら一旦終了
 出資額を超える株主配当は一切しない
 経営者の報酬は一番給与の低い社員の7倍以内

第2章 この“仕組み"がどうやって生まれたのか。その実験の歴史
 「貧困問題を解決したいなら、自分でコントロールできるようになりなさい」
寄付金には寄附者の意向が伴うし、助成金はその時々でテーマが変わる。じっくり取り組む必要があっても、常に資金との闘いでなかなかそうもいかない

第4章 ビジネス立ち上げ後の「成功の秘訣」
 月に1度の経営会議では、ここをチェックする
月次経営会議シート①経営状態
月次経営会議シート②①経営課題
 違和感はスルーしない
・当事者意識を持って社会参加する人たちを増やしたい
・小さく始める。これが確実に成功させるための鉄則
・より良い社会をつくりたいと願う消費者に対し、エシカルな選択肢をつくっていくのもソーシャルビジネスの大切な役割
・社会問題解決のためのビジネスは「何のために事業をやるのか」が明確なので、儲からないからといってすぐにやめるわけにはいきません

終 章 一人ひとりの小さなアクションで、世界は必ず良くなる
・僕たち市民は、どんな大企業より、どんな大物政治家より大きなパワーを持っています
・「無関心」なのではなく「未認知」
・自分の周りの世界から「いい生活者」を増やしていくことは、とても大きな社会づくり
・僕たちは「微力」ではあるかもしれないが、「無力」ではない
・大きな問題が目の前にあるのに、困っている人がそこにいるのに、どうせ無理だ、理想論だという傍観者ではありたくない
・「生まれた時よりも、きれいな社会にして死んでいく」

田口一成『9割の社会問題はビジネスで解決できる』① 4月4日

田口一成『9割の社会問題はビジネスで解決できる』(PHP、2021年6月)を読みました。
ボーダレス・ジャパン
ボーダレスマガジン特別号「ソーシャルビジネスの本を出版!『9割の社会問題はビジネスで解決できる』制作秘話を初公開!」ボーダレスジャパン、2021.05.28 )に、「これまで取材や講演で良く聞かれてきた、ボーダレスグループの仕組みとソーシャルビジネスのつくり方を余すところなく紹介しています。本当は2冊に分けるべき内容かも(笑)あとは、ボーダレスグループの社員もあまり知らない創業期の話。まとまった形ではどこにも出ていないので、読み物としても楽しんでもらえると思います」とありますが、第3章「社会問題を解決するビジネス」のつくり方はメモをとって読みました。

本書の構成と主な項目(Amazonの商品の説明から)
■第1章 「社会問題を解決するビジネス」を次々と生み出す仕組み
 ・資本主義の本質は「効率の追求」。そこから取り残される人がどうしても出てくる
 ・非効率を含めてビジネスをリデザインする
 ・社会起業家の数=解決できる社会問題の数
 ・ソーシャルビジネスをたくさんつくる仕組み(起業家採用など)
 ・世界に広げていく仕組み(恩送りのエコシステムなど)
 ・ソーシャルインパクト─売上・利益よりも重要な独自の指標
僕たちは社会問題を解決するために事業をしているので、その目的を果たすために自分たちが追いかけるべき成果を明確にした独自の指標を持っています。
それが、解決したい社会問題に対してどれだけインパクトを与えられたかを数値で表した「ソーシャルインパクト」です。
 ・【Q&A】ボーダレスグループの「リアル」。よくある質問・疑問に答えます!
■第2章 この“仕組み"がどうやって生まれたのか。その実験の歴史
 1.ソーシャルビジネスにたどり着くまで
 ・起業するも、寄付できたのはたったの7万円
 ・「ビジネスそのもので社会問題を解決できる! 」という気づきが大きな転機に
 2.ソーシャルビジネスしかやらない会社へ
 ・本当に「助けたい人」のためになっているか
 ・ソーシャルビジネスは、失敗できない闘い
 3.社会起業家のプラットフォームへ
 ・「1年に1事業」のペースでは遅すぎる!
 ・グループ外からも社会起業家を募るように
■第3章 「社会問題を解決するビジネス」のつくり方
 ・大原則「ビジネスモデルの前に、まずソーシャルコンセプト
 ・テーマ選びに原体験はいらない
 1.ソーシャルコンセプトを考える
 ・社会問題の「現状」「理想」「対策」を徹底的に考える
 ・当事者ヒアリングのコツは「行動」を聞くこと
 2.制約条件を整理する
 3.ビジネスモデルを考える
 ・ソーシャルインパクトを設定する
■第4章 ビジネス立ち上げ後の「成功の秘訣」
 ・「勝ちシナリオ」が見つかるまでは、仮説・検証をひたすら繰り返す
 ・成長期に入るまでは、絶対に社員を雇ってはいけない
 ・事業が成功するかどうかは、続けるかどうかにかかっている
 ・ボーダレスグループ6社の事例
■終 章 一人ひとりの小さなアクションで、世界は必ず良くなる
 ・まずは一人ひとりが「ちゃんとした消費者」になる
 ・みんなが「ハチドリのひとしずく」の精神で

第3章 「社会問題を解決するビジネス」のつくり方(書き抜き)
 プランニングのゴールは「1枚のシート」を完成させること
1.ソーシャルコンセプト:誰のどんな社会問題を、どのように解決して、どのような社会を実現していくのか
2.制約条件:ソーシャルコンセプトに当てはまるビジネスアイデアを考えるうえで押さえておくべき条件
3.ビジネスモデル:誰に・何を・どのように提供するのか。制約条件を満たした商品やサービスをビジネスに落とし込んだもの
 大原則「ビジネスモデルの前に、まずソーシャルコンセプト」
 ソーシャルコンセプトがなぜそんなに重要なのか
社会問題の原因に対する「対策」を忠実に体現した商品・サービスをつくり、それをビジネスモデルに落とし込んでいく
この順番でなければ、ピントの外れたビジネスモデルになってしまい、社会問題を解決する社会ソリューションになりません
ソーシャルコンセプトという社会作りの設計図=「幹」がしっかりあるからこそ、ビジネスアイデアという「枝葉」の部分はどんどん変えていける
 テーマの「ベスト探し」をやめて、まずは動いてみよう
ベターな選択肢の中から、最もベターな選択肢を一つ選らんで、まずそれをやってみる
一つに決めようとするから、先に進めなくなる
まずは一つをしっかり形にしてこそ、次の挑戦にいける
実際にやってみないことには、本当にやりたいことかどうかもわからない
 テーマ選びには原体験はいらない
原体験が邪魔することもあるので注意が必要
1.ソーシャルコンセプトを考える
 社会問題の「現状」「理想」「対策」を徹底的に考える
 1-1【現状】のチェックポイント-対象者の顔が見えるか?
どこの誰の話なのかを明確にしない限り、彼らが直面するリアルな課題や、その裏にある本質的な原因にはたどり着けない
地球温暖化はどうでしょう。こういう地球環境の問題は、対象者の「顔」が見えにくいと思うかもしれませんが、そんなときは「この問題を引き起こしているのは誰か」という視点で対象者を捉えます。そう考えると、地球温暖化の原因である二酸化炭素(CO2)を排出している対象者が企業であり、一般生活者である私たちでもあります。どういう産業が一番CO2を排出しているのか。また一般家庭で一番CO2を出しているのは何なのか。車か?電気か? そう考えていくことで、地球温暖化という大きな問題であっても、具体的な対象者を定め、その「原因」と「対策」を考えていくことができるのです。
 こうやって、対象者を定めていくと、社会問題にはたくさんの当事者がおり、それを引き起こしている原因もたった一つではなく、様々な原因がいくつも絡み合って起こっていることが分かってきます。いきなり課題に対して対策を考えても的外れになるよ、という理由はこういうところにあります
対象者を定めていくと、社会問題にはたくさんの当事者がおり、それを引き起こしている原因もたった一つではないし、様々な原因がいくつも絡み合って起こっていることが分かってきます
社会問題を引き起こしている原因が複数あらからといって、たった一つの対策でそのすべての原因を解決しようと慌ててはいけません
一つひとつの原因を丁寧につぶしていくのが、結果的に一番の近道
できるものから一つずつ確実の解決していくことが大切
多種多様な社会問題があり、そして多種多様な原因がある。その一つひとつに対して、たくさんの対策を講じていかなければいけない

 1-1【現状】のチェックポイント-課題は明確か?
課題を考える時は、「誰のどんな課題か」をセットで考える
 1-1【現状】のチェックポイント-課題の本質的原因か?
なぜその課題が起きているのかという「課題の本質的な原因」
表面に見える課題を掘り下げていくことでしか、本質的な原因を見極めることはできません。その際、常識や規制概念にとらわれないことが大切
 1-2【理想】のチェックポイント-景色として目に浮かぶか?
「具体的な姿」とは、「景色」として目に浮かぶ姿であること。変化したあとの対象者の暮らしが、まるで景色を見るように鮮明にイメージできることが大切
みんながそれいいね!という「みんなの夢」となる理想を描く
 1-3【HOW】のチェックポイント-原因に対する対策になっているか?
ソリューションとは、すなわち現状と理想のギャップを埋めるための対策
シートの書き方の注意点 原因と対策を太字にしましょう
箇条書きではなく、必ず文章で
箇条書きで書くと、いろいろな課題・いろいろな原因の列挙になりがちで、各要素の因果関係がよく分かりません
因果関係をはっきりさせるために、1~2文の文章で書くことをルールに
イケてないソーシャルコンセプトにならないように、「本当のようなウソ」に気をつける
ソーシャルコンセプトをつくる時に必要なのは、「それって本当?」と常に疑う姿勢
概念で考えるのではなく、リアルな現場に行く、当事者に会いに行く
そうしてはじめて、「自分はこういう人たちのために頑張りたいのだ」と当事者の顔がありありと浮かんでくる
 社会問題の本質的原因に対する独自の切り口が、独自の社会ソリューションへ
「これが本質的な原因だ」という唯一の正解があるわけではない
同じ社会問題を解決するのにも、社会起業家が3人いたら、三様の捉え方があります。実際には三様どころか、もっとたくさんの原因があるでしょう
その中で、自分はどの原因に対して対策を講じていきたいのか。それを追求していくことが大切です
みんなが同じことをする必要はないのです。もし、まったく同じソリューションをすでにやっているところがあればそこにジョインするのが一番です。ソーシャルビジネスというのは、みんなで社会の「穴」を埋めていく作業です。誰か一人で社会の穴を埋めきることはできません。だから、社会起業家に必要なのは、同じ穴を競争して取り合うことではなく、まだ放置されたままの隣の穴を埋める役割分担です。これからのビジネスに必要なのは、「競争」ではなく「協創」なのです
 当事者ヒアリングのコツは「行動」を聞くこと
アンケート調査はやらなくていい
ヒアリングでは、当事者に何を聞くかが重要
「では、今の状況から抜け出すために具体的に何をしていますか?」
聞いてもあまり有効な回答を得られないと思っているのが、ソリューション(解決策)に関する質問
「何があれば助かりますか?」という質問
いきなり、解決策を探そうとせず、当事者のおかれた状況、その課題が起こっている本質的な「原因」をつかむことに集中する
「いいと思いますか?」ではなく、「あなたは参加しますか?」と行動を聞く
 最低でも10人に話を聞く
3人程度の少人数では絶対にダメ
2.制約条件を整理する
ビジネスモデルを考える前にやるべきことがある
3.ビジネスモデルを考える
 制約条件をクリアするビジネスモデルを考える
この価格で売るのに、どんな付加価値をつけて誰に売るのか。ここではじめてビジネスアイデアが必要になってくる
 ビジネスモデルを考える上でのポイント(3-1~5それぞれのポイント)
  3-1 商品サービス
今すでにあるもののモノマねはいけません。同じようなものをつくっても、価格競争になるだけです。単純な価格競争は、消耗戦になり、コストを切り詰める戦い、つまり効率の追求にまっしぐらです。非効率を含めて成り立たせようとするビジネスには不利な領域です。また、単なるモノマネは、相手にとっても失礼なのでやめましょう。どうせやるなら、すでにあるものよりも圧倒的にいいものをつくる覚悟でいきましょう
  3-2 顧客と課題
どんな優れた商品であっても、全員が買ってくれるものはありません。「その商品・サービスを利用してくれる人は誰なのか? 顧客は誰で、どんな課題を持っているのか?」を明確にします
  3-3 今ある選択肢との違い
ビジネス用語でいうところの「差別化」
既存の商品・サービスと比べてどのような違いがあるのかを明らかにする
  3-4 顧客ベネフィット
顧客はただその商品を買いたいのではなく、その商品・サービスを利用することで何らかのベネフィット(便益)を得ようとしている
  3-5 価格/販売チャンネル/プロモーション方法
 ビジネスモデルの良し悪しを見極めるチェックポイント
「自分が顧客の立場だったら本当に利用するか?」
「自分が顧客だったらこの値段で本当に買うだろうか?」
 ビジネスモデルは、修正、修正を繰り返す
ソーシャルコンセプトさえ決まれば、制約条件が明確になるので、あとはそれを満たすビジネスアイデアを、いろいろな人の知恵を借りながら探すだけ
 ソーシャルインパクトを設定する
ソーシャルインパクトは、その社会問題がどれだけ解決されているかを測定するための指標
社会問題の解決を目的とするからには、その目的がどれだけ達成できたのかという結果を追うことは必須
なぜソーシャルインパクトの設定にこだわるのかというと、これがなければいつの間にか売上・利益重視のビジネスになりかねない
理念・ビジョンだけで、事業のソーシャルインパクトを設定していない、またはそれを数値として追っていない会社は、本気でそれを追いかけていない

ナラ枯れ枯死木伐採(№30) 3月31日

市民の森保全クラブ追加作業日。参加者は芦田さん、新井さん、江原さん、鳥取さん、新倉さん、橋本さん、細川さん、渡部さん、Hikizineの9名でした。ちご沢の森のナラ枯れ枯死木(№30)の伐採をしました。今日でちご沢の森のナラ枯れ枯死木の伐採4本が終了しました。市民の森と合わせて20本、頑張りました。樹上作業・伐倒を担当した鳥取さん、皆さん、お疲れ様でした。
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今日伐採した№30は急斜面にあって、伐採したコナラの樹幹部を上の園路に引き上げられませんでした。木材の伐倒や搬出作業だけでなく、重量物の持ち上げや器材の移動などにも便利に使える牽引道具(チルホール、ハンドウィンチ、エンジン式のロープウィンチなど)を上手に使って、体力勝負の片付け仕事は楽に安全に済ませたいですね。

東京大学富士癒しの森研究所編『東大式 癒しの森のつくり方 森の恵みと暮らしをつなぐ 』(築地書館、2020年10月)
富士山麓山中湖畔に広がる、東京大学演習林「癒しの森」/ここを舞台に人と森とをつなぐプロジェクトが始まった/キーワードは「癒し」/楽しいから山に入る、地域の森の手入れをする、薪をつくる、「癒し」を得ながら森に関わる、誰でも親しめる森をつくる………/みんなでできる森の手入れが暮らしや地域を豊かにする/これまでの林業を乗り越えるきっかけとなる、森林と人をつなぐ画期的な第一歩
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東京大学富士癒しの森研究所編『東大式 癒しの森のつくり方 森の恵みと暮らしをつなぐ 』目次
はじめに
第1部  癒しの森と森づくり
 第1章  富士山麓・山中湖畔で始まる、新たな森と人とのつながり
  1 東京大学の森「富士癒しの森研究所」
    なぜ山中湖畔に東大が
    時代背景と研究テーマの変遷
  2 山中湖村のたどった道─寒村から国内有数のリゾート地へ
    山野の恵みにたよる厳しい暮らし(江戸時代?明治時代)
    観光による開発の兆し──富裕層向けの保養地(大正時代~昭和初期)
    山中湖村の発展と生業の急激な転換(戦後・昭和時代)
    森と人の断絶と日本有数の保養地の衰退(平成時代)
  3 「癒しの森プロジェクト」、始まる!
    たどりついたのは「癒し」
    「癒し」という森の恵み
    「癒し」が森と人をつなぐ可能性
    「癒しの森プロジェクト」は山中湖村だけのもの?
    地域の事情によりそった、森と人との関係をつくる
 第2章  みんなでつくる癒しの森
  1 癒しの森ってどんな森?
    日本の社会と森の癒し
    癒しの森とはどんな森か
    癒しの森からもたらされる「癒し」
  2 森は動いている
    日本の風土と森
    人の暮らしがつくった風景
  3 癒しの森のつくり方
    社会があってこその癒しの森
    暮らしを見つめ直す
    森林所有者とのつながり
    癒しの森にフィットする技術──安全・快適・簡易
  4 癒しの森づくりが拓く未来
 第3章  癒しの森を支える技と心得
  1 森にひそむ危険
    樹木がもたらす危険
    その植物、「さわるな危険」
    ハチ-痛いだけならいいけれど……
    マダニ-かゆいだけならいいけれど……
    野生動物-意外と身近にいます
  2 癒しの森のリスク管理
    樹木の管理
    危険の見つけ方
   【コラム1】 樹木の見た目は生き様
    動植物のコントロール
  3 森を快適に保つ
  4 あっ、危ない!-山しごとを安全に行うために
    身を守る装備
    伐倒作業
   【コラム2】 東屋(あずまや)-道ぞいの危険木を有効利用
    刈り払い作業
    高所作業
  5 森づくりの便利な道具
    ポータブルロープウインチ-力がなくても重いものを動かせます!
    簡易製材機「アラスカン」-木を伐ったその場で製材ができます!
   【コラム3】 台風被害木を生かすアイデア─パネル式看板再生プロジェクト
    無煙炭化器-じゃまになる枝・灌木をかたづける①
    木材チッパー-じゃまになる枝・灌木をかたづける②
    薪割り道具いろいろ
    【コラム4】 癒しの森からの木材を活用した建物─富士癒しの森講義室
 第4章  薪のある暮らし─癒しの森の原動力
  1 古くて新しい薪
  2上手な薪の使い方
    薪を燃やすということ
    薪は乾燥が命
    薪をケチってはいけない
    薪はかさばる
   【コラム5】 薪棚をつくろう
    よい薪・悪い薪
  3 薪ストーブを選ぶ
  4 薪を割る
  5 薪を積む
  6 薪で料理を楽しむ
第2部  癒しの森でできること
 第5章  癒しの森で学ぶ
  1 自分たちの手で癒しの森をつくる
    心地よい森の中でのグループワーク
    道づくり
    立木を生かした遊具をつくる─縄ばしごとブランコ
    やまなかふぇ─素敵なバーカウンターができました
  2 森のエネルギーを使いこなす
    薪割りと薪の体積計測
    間伐と間伐材の価値の試算
    炭焼き体験と収炭率
    森のエネルギーで調理実習
  3 癒しの森をデザインする
    先入観なしに森に関わるスケジュール
    アイデアいろいろ
    ●えだまり ●まるぼっくい ●ひとりふたりほとり
    ●くーぐる ●Gym.こもれび
    ●The Healing Pit "Yes, We Dig" ●浮庵fuan 
    ●あめおと ●簾簾幽席 ●くもの巣迷路 ●全緑疾走
  4 癒しの森を使った音のワークショップ
 第6章  山しごとをイベントに
    柴刈りと柴垣づくり
    下草刈りと芝刈り
    堆肥づくり
    落ち葉焚き
    フットパスde森づくり
    癒しの森の植生調査隊
    薪原木の競り売り
    薪づくりのための安全作業講習会と間伐木の搬出
 第7章  癒しの森でこころを整える
  1 森林散策カウンセリングとは
  2 カウンセリングに最適な森林空間とは
   【コラム6】 森林散策カウンセラーになるには?
  3 こころのために森を使う
    ちょっとした相談や話し合いを森で
    リフレッシュに最適
おわりに
引用・参考文献




小林・吉井「ブナ科樹木萎凋病(ナラ枯れ)の防除法」(2014年) 3月21日

YouTubeで公開されている小林正秀さんの『ナラ枯れの樹幹注入の問題点-それでも樹幹注入しますかー』(2022年3月6日記事)で「30種ほどの防除法が提案されてきたが、効果があるのは5種類だけ?」というスライドがあって、背景に使われていたナラ枯れの防除法の表が掲載されている小林正秀・吉井優「ブナ科樹木萎凋病(ナラ枯れ)の防除法」(『森林防疫』63巻2号 №701 2014年3月)を読みました。
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表1

図2

写真9

1.はじめに
2.ナラ枯れの防除法
 2.1 予防法
  2.1.1 カシナガの穿入回避
  2.1.2 ナラ菌の蔓延防止法
 2.2 駆除法
  2.2.1 樹体内のカシナガの殺虫
  2.2.2 カシナガ飛翔虫の捕殺
 2.3 今後開発が期待される方法
3.総合防除の重用性
4.おわりに
総合防除では、薬剤と資材は車の両輪であり、どちらか一方では被害を抑えることは難しい。ナラ枯れに対して多くの防除法が開発され、それぞれの方法ごとに必要経費や必要人員が議論されている。しかし、単独の方法では被害が抑えられないことから、確実に被害を抑えることができる防除法の組み合わせや、現場に適合した方法の選択などを議論する必要がある。……

小林・吉井・竹内「ペットボトルを利用したカシノナガキクイムシの大量捕獲-京都市船岡山での事例」(2014年) 3月18日


小林正秀・吉井優・竹内道也「ペットボトルを利用したカシノナガキクイムシの大量捕獲-京都市船岡山での事例」(『森林防疫』63巻1号 №700 2014年1月)(以下、下線は引用者)
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1.はじめに
……様々な防除法が開発されているが、成功例は少ない。防除に失敗するのは、実績のない新しい防除法に飛びついたり、単一の方法に固執することも要因となっている。防除を成功させるためには、利用可能な全ての手法について経済性を考慮し、適切な手段を組み合わせて講じる総合防除(IPM)の考え方が重要である。
……2009年に筆者らが初期段階で被害を発見した船岡山でも、ブナ科樹木が多くて全木のシート被覆は困難であった。そこで、ペットボトルで作成したトラップ(以下PT)を併用した総合防除を実施した結果、被害を抑えることに成功した。これは、シート被覆を主体とせずに面的な防除に成功した初めての事例であるため、その概要を報告するとともに、他の場所で実施する場合の留意点を指摘する。
2.船岡山の概要
3.2010年と2011年の対策
4.2012年の対策
5.PTを用いた総合防除の利点
6.PTを用いた総合防除の進め方
7.おわりに
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※貴重木へのヒノキ木屑の設置、カシナガ飛来モニタリング用の接着紙
 カシナガトラップを用いた総合防除の進め方、カシナガトラップの設置方法

小林・清水・藤下・矢尾・吉井「京都府向日市におけるナラ枯れ対策奮闘記」(2013年) 3月12日


小林正秀・清水広行・藤下良夫・矢尾尋子・吉井優「京都府向日市におけるナラ枯れ対策奮闘記」(『森林防疫』62巻5号 №698 2013年9月を読みました。向日市[むこうし](以下、下線は引用者)
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1.はじめに
2.被害の発見と1年目の対策
3.2年目(2009年)の対処法
4.3年目(2010年)の対処法
5.4年目(2011年)以降の対処法
6.考察
 今回の対策によって新知見が得られた。まず、カシナガは樹幹部よりも根株部での繁殖数が多い場合があることが判明した。フラス排出量が多い樹木ほどカシナガの繁殖数が多く、穿入生存木でも、1本から10万頭近くが脱出する場合があることが判った。……
今回の対策は、ナラ枯れ対策において何が重要かも示唆している。京都府では、枯死木の伐倒くん蒸とシート被覆の併用で防除に成功している事例が多い。このため、はりこ山でも、同じ対策を実施すべきであったが、予算がなく、シート被覆ができなかった。また、薬剤も使用できなかった。結局、2008~2010年には、実績のない方法で対応せざるを得ず、被害を抑えることができなかった。……この間に要した経費は、人件費や資材費など合計1000万を超えたであろう。もし、初年度に徹底した対策を実施していれば、経費も被害量も低く抑えられたと考えられる。ナラ枯れ対策として、これまでに多くの防除法が開発されているが、新しい防除法を単独で用いて防除に成功した例は報告されていない。……
ナラ枯れを抑えるためには、2つの方法がある。1つは「カシナガの数を減らすこと」であり、もう1つは「カシナガの餌を減らすこと」である。先人達がやっていた餌木誘殺法は、餌である立木を伐倒して、カシナガを穿入させて燃やす方法であり、カシナガの数と、カシナガの餌を減らすことを同時に行う優れた方法である。しかし、木を燃料として使わなくなった現在では、大径木の伐倒や、餌木の利用が困難である。
[向日市のナラ枯れ対策 ①カシナガの数を減らす方法:ペットボトルトラップ、②カシナガの餌を減らす方法:シート被覆)

7.おわりに
 向日市でのナラ枯れ対策は、奮闘記というタイトルにふさわしいほど、向日市職員などが予算のない中、現場で奮闘した。こうしたやり方は、一見、経費節減になるように見えるが、かえって膨大な経費をつぎ込むことになった。現在の日本では、ナラ枯れに対して、被害の初期段階で多額の経費が投入されることは少ない。大被害になってから予算が確保されることが多いが、それでは被害拡大は止まらない。ここで紹介した事例は、最終的には被害を抑えたが、成功例とは言い難い。新たに被害が発生した市町村や、被害が迫っている市町村は、この奮闘記を参考にして被害の初期段階で徹底した対策を講じていただきたい。

小林・野崎・細井・村上「カシノナガキクイムシ穿入生存木の役割とその扱い方」(2008年) 3月10日

ナラ枯れ対策に現場で奮闘する研究者がナラ枯れの原因や対策をどのように解明していったのか。小林正秀さん達の研究を全国森林病虫獣害防除協会森林保護機関誌『森林防疫』バックナンバーから辿ってみました。(前回は小林・上田「京都府内におけるナラ類集団枯損の発生要因解析」(2001年)(2022年3月9日記事)
小林正秀・野崎愛・細井直樹・村上幸一郎「カシノナガキクイムシ穿入生存木の役割とその扱い方
『森林防疫』57巻5号 №668 2008年9月を読みました。(以下、下線は引用者)
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1.はじめに
2.穿入生存木の特徴
 1)穿入生存木の発生要因
 2)穿入生存木の発生割合
3.穿入生存木をむやみに伐倒してはいけない理由
 1)穿入生存木からの脱出数は少ない
 2)穿入生存木のみやみな伐倒は被害を助長する
 3)穿入生存木は被害の終息に寄与している
……本被害によって樹木が枯死するためには、カシナガのマスアタックを受ける必要があるが、マスアタックはカシナガの個体数が少ない場合は生じない。一方、多数のカシナガが同じ方向に同時に飛翔する可能性は低い。これらのことから、カシナガの長距離飛行だけでは、飛び火的に被害が発生する原因は説明できない。カシナガは無被害地でも捕獲されることから、各地に生息していると考えられる。また、飛び火的な被害は、カシナガの個体数の増加を助長する伐採後に発生することが多い。これらのことから、飛び火的な被害は、無被害地に生息していた少数のカシナガ、また被害地から飛来した少数のカシナガの個体数が何らかの原因によって増加することで発生していると考えられる
 伐倒駆除を実施しても、処理木からのカシナガの脱出数をゼロにすることは困難である。このため、穿入生存木を完全に除去してしまえば、伐倒駆除後に生き残ったカシナガは、穿入対象木を求めて広範囲に飛散することになる。……皆伐によって穿入対象木が完全に失われ、皆伐後に残された伐根などから脱出した多数のカシナガが広範囲に飛散したことが影響した可能性は否定できない。いずれにしても、被害地から飛散したカシナガの個体数が、飛散先で増加することで新たな被害が発生している可能性が高いことから、飛散を阻止する役割を果たす穿入生存木をむやみに伐倒すべきでない
 本被害の防除法としては、かつては、直径10㎝以上で長さ2m以上の丸太を井桁状に積み上げ、これを200~300mおきに設置してカシナガを穿入させ、脱出前に焼却する餌木誘殺法が実施されていた。本被害の防除は、火災の消火と同じで、被害発生場所の枯死本数を減らすことよりも、被害の拡大を阻止することのほうが重要である。その意味で、餌木誘殺法は、林内のカシナガの個体数を低下させるだけでなく、カシナガの飛散を阻止する効果が期待できる優れた方法である。これに対して、穿入生存木をむやみに伐倒駆除することは、被害発生場所の枯死本数を減らすことだけに主眼を置いた方法であり、被害発生場所の枯死本数は減少するかもしれないが、穿入対象木を失ったカシナガが広範囲に飛散して被害が拡大する危険性がある。
4.穿入生存木の扱い方
 1)穿入生存木の本数が多い場合
 2)穿入生存木が少ない場合
……被害発生初期林では、餌木誘殺法が有効であると考えられる。すなわち、浸水した丸太はカシナガの誘引力が強いことから、直径10㎝以上で長さ1m以上の丸太を1週間程度浸水して餌木を作成し、これをカシナガ脱出直前に穿入生存木の近くに設置すればカシナガが誘引できる。この方法では、カシナガは乾燥した丸太や多数の穿入を受けた丸太には穿入しないことから、餌木を2週間ごとに観察し、樹幹表面あたりの穿入密度が上限値である5孔/100c㎡程度に達した餌木の数だけ新たな餌木を追加すれば、より多数のカシナガが誘引できるはずである。また、カシナガは、次世代虫の一部が生まれた年の8月下旬以降に脱出する部分2化であることから、8月下旬になれば、餌木をくん蒸または焼却して餌木内のカシナガを駆除する必要がある。
5.穿入生存木の特徴を活かした新たな駆除法
 多数のカシナガによる穿入を毎年のように受ける穿入生存木が被害の終息に大きな役割を果たしていると考えられることから、このような穿入生存木を人為的に作出する防除法の開発を目指している。
……合成フェロモンを用いた大量誘殺法が検討されたが……健全木に合成フェロモンを取り付けることでカシナガのマスアタックが誘導できることが示唆された。
 合成フェロモンによる誘殺の他に、樹幹注入法も近年になって検討が進められている。……「おとり木法」……おとり木にペットボトルで作成したトラップを設置して飛来虫を捕殺する方法も検討……。……合成フェロモンや樹幹注入剤を用いなくても実施できる可能性がある。……8月以降にナラ菌を健全木に接種しても枯死しないことから、8月以降にナラ菌を健全木に接種すれば、辺材部の一部が変色した穿入生存木が作出できるはずである。この樹木の近くに浸水丸太を設置してマスアタックを誘導し、マスアタックを受けた樹木にペットボトルを利用して作成したトラップを設置すれば、多数のカシナガが捕殺できるはずである。この方法は、被害面積が広い林分では実施困難であるが、公園などの小面積の林分や被害発生初期林では有効かもしれない
6.おわりに
 穿入生存木からのカシナガの脱出数が枯死木よりも少ないことは、伐倒駆除の際に枯死木を優先する根拠にはなっても、穿入生存木を伐倒駆除しなくても被害が低減できるという根拠にはならない。しかし、穿入生存木は枯死に比べて多く、全てを伐倒駆除することは困難である。また、多数の穿入生存木を伐倒することは、景観や環境に与える影響も大きく、林内に大きなギャップが生じ、被害が助長される危険性もある。さらに、カシナガの個体数を低下させる穿入生存木を伐倒して除去してしまえば、被害の終息が遅れるだけでなく、穿入対象木を失ったカシナガが広範囲に飛散して被害が拡大する危険性もある。これらのことから穿入生存木が多い場合は、カシナガ脱出数が多い(フラス排出量が多い)穿入生存木だけを伐倒駆除すべきである。ただし、枯死木や穿入生存木が多ければ、防除事業を実施しても短期間では被害が終息しないことから、被害を早期に発見し、枯死本数が少ないうちに対策を講じることが重要である。
 穿入生存木だけの段階で被害が発見できれば、伐倒駆除、餌木誘殺法、おとり木法などを併用することで、枯死被害の発生を阻止できる可能性がある。……
※防虫網トラップ、チューブトラップ、フィルムケーストラップの図が9頁にあります。

小林・上田「京都府内におけるナラ類集団枯損の発生要因解析」(2001年) 3月9日

ナラ枯れ対策に現場で奮闘する研究者がナラ枯れの原因や対策をどのように解明していったのか。小林正秀さん達の研究を全国森林病虫獣害防除協会森林保護機関誌『森林防疫』バックナンバーから辿ってみました。
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小林正秀・上田明良「京都府内におけるナラ類集団枯損の発生要因解析」(『森林防疫』51巻4号 №601 2002年4月)を読みました。(以下下線は引用者)
1.はじめに
 ナラ類集団枯損の発生要因
  ①ならたけ病
  ②残雪中の酸性物質による根の障害
  ③温暖化の影響
  ④風倒木の発生
  ⑤伐採の影響
  ⑥樹の老齢大径化
2.ならたけ病
3.残雪中の酸性物質による根の障害
 枯損木は、樹幹上部が萎凋した後も、地際から萌芽することが多く、根の障害で枯損したとは考えられない。
4.温暖化の影響
 燃料革命以前と現在との違いは、現在の被害はどんどん周辺に拡大することである。つまり、温暖化によるミズナラの衰弱や、カシナガのミズナラへの侵入、病微進展の促進は、被害発生の要因ではなく、被害拡大要因と考えられる。
5.風倒木の発生
 カシナガは風倒木に非常に高い密度で穿入することが確認されている。
 地形解析で、傾斜角5度ごとのナラ林面積に対する被害面積の割合(危険率)を算出して、被害が発生しやすい傾斜角を求めた結果、急傾斜地ほど被害が発生しやすい傾向が認められた。これは急傾斜地で風倒木が発生しやすいことと関係しているのかもしれない。
6.伐採の影響
 ミズナラやコナラの倒木を放置することは、以下に示す3つの理由から被害発生の引き金になると考える。
 ①倒木の発生により林冠の閉鎖が破られ、微気候が変化することで、残されたナラ樹の抵抗力が失われる。
 ②雄が穿入した倒木にカシナガが誘引され、周辺立木の被害が誘発される。
 ③倒木自体がカシナガの繁殖源になり、翌年のカシナガ個体数が増加する。
 しかし、風倒木の発生や伐採が行われば必ず被害が発生するのではない。被害地には、必ず老齢大径化したミズナラが存在する。此の事から、被害発生の根本原因は、次に述べる樹の老齢化大径化と著者らは考えている。
7.樹の老齢大径化
8.おわりに
被害発生要因を解析するため、被害発生初期林での実態調査と被害地の地形解析を行った。その結果、風倒木の発生や伐採が行われた場所で最初の被害が発生している場合が多かった。また、カシナガはコナラやミズナラの大径木を好み、ミズナラ大径木が枯損しやすいことが確認できた。さらに、低地のミズナラ林で被害が発生しやすいことが判った。以上のことから、ナラ類集団枯損は、カシナガが運ぶナラ菌が主因であるが、薪炭林の放置によるナラ樹の老齢大経木化が最も重要な要因であり、老齢過熟林における風倒木の発生や伐採が、被害発生の引き金になっていると推察される。また、温暖化によるナラ樹の衰弱やカシナガ分布域の拡大、病微進展の促進は被害の拡大要因であり、1980年代以降、被害が 急速に拡大しているのは、温暖化の影響もあると考える。
 ナラ類集団枯損は、被害が蔓延すると防除が困難であり、予防が重要である。北海道でのヤツバキクイムシによる針葉樹被害も、風倒木の発生や伐採が被害発生の引き金になることが知られており、被害を発生させない注意点として以下のことが指摘されたいる。
 ①伐倒木はなるべく早く林外に搬出する。
 ②伐倒木の周辺には大径木を残さない。
 ③何本かのグループをなしている場合、その内の1本を伐るとか、1本を残すとかしない。
 ④単木的択伐よりも小群状の伐採をする。
 ⑤伐木枝条を残さない。
 この方法は、カシナガを発生させない注意点として利用できるであろう。

小林正秀『樹幹注入の問題点』 3月6日

YouTubeで3月3日に公開された小林正秀さんの『ナラ枯れの樹幹注入の問題点』です。

ナラ枯れは、カシナガが幹を掘るという物理的破壊で起こる被害です。カシナガは飛翔力と嗅覚が優れ、傷がついた幹から発せられる匂いに誘引されます。ですから、木の幹に穴をある樹幹注入はナラ枯れを助長します。そもそも、樹幹注入剤の登録試験には捏造や改竄が目立ちます。5年以上前から林野庁や薬剤メーカーに「樹幹注入は止めるべきだ」と訴えてきました。また、学会でも問題点を指摘しました。論文の撤回も要求してきました。ソフトランディングを目指して努力してきたのですが、状況は変化しませんでした。そんな中、数千本の樹幹注入を実施し、大量の枯死木が発生した公園で、倒木による重大な人身事故が発生しました。保身のために黙っていることは許されない状況ですので樹幹注入の問題点を示した動画を作成しました。「樹幹注入は効く」という人がおられるなら、是非、反論してください。また、樹幹注入が効いたという現場があるなら、是非、教えてください。
  コメントは3月6日現在、1件もありません。
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地上高2m以下で穿入数49孔以下で枯れたものはナラ枯れではなく被圧により枯れたもの

おとり木法とは
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カシナガトラップ
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カシナガトラップは木が枯れないようにすることで穿入生存木を増やして被害を抑える方法である。
カシナガをたくさん捕って被害を抑える方法ではない。

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30種ほどの防除法が提案されてきたが、効果があるのは5種類だけ?

『三富平地林伐採・活用調査報告書』(2014年) 3月5日

2月2日にオンラインで行われた「三富地域の平地林をナラ枯れから守るために」講演会で黒田慶子さんが「全部目を通しておく必要がある」と言っていた国土交通省の22014年の報告書です。2013年度集約型都市形成のための計画的な緑地環境形成実証調査『都市の命と暮らしを支える三富平地林の伐採と活用に関する実証調査(三富平地林保全活用協議会)報告書』(国土交通省都市局、2014年3月)で134頁あり、10年近く前の三富地域の平地林の現状をまとめています。
目次
三富平地林調査報告書_01三富平地林調査報告書_02三富平地林調査報告書_03

三富平地林の現状と課題(20、23、24頁)
三富平地林調査報告書_04三富平地林調査報告書_05三富平地林調査報告書_06

社会実験のまとめ(105頁)
三富平地林調査報告書_07

事例研究(2)広葉樹施業(122~124頁)

三富平地林調査報告書_08三富平地林調査報告書_09三富平地林調査報告書_10

事業の仕組みづくりと今後の課題(125~130頁)
三富平地林調査報告書_11三富平地林調査報告書_12三富平地林調査報告書_13

三富平地林調査報告書_14三富平地林調査報告書_15三富平地林調査報告書_16

(3)素材生産者活用型事業モデルの試算(131頁)

黒田慶子・太田祐子・佐橋憲生編『森林病理学』 2月25日

黒田慶子・太田祐子・佐橋憲生編『森林病理学 -森林保全から公園管理まで-』(朝倉書店、2020年4月)、必読書です。
森林病理学
「まえがき」から
本書は樹木病害の事例を図鑑的に網羅するのではなく、病理学の基礎と応用力の習得を目標としている。第1章~第4章までは、樹木とその病気について定義した上で、植物病理学の基本事項、病原微生物の種類、病気の診断法について解説した。第5章では樹木(木本植物)の特性を細胞構成や防御機能の面から解説した。第6章~第7章は樹木の主要病害について、幹や枝などの被害部位別、萎凋・腐朽などジャンル別に解説した上で、予防と防除の考え方と実際の技術を示した。第8章~第9章では森林生態系の健康管理の考え方、グローバル化に伴って深刻化する病害、敏樹木の管理など、農作物と概念の異なる課題を取りあげた。

黒田慶子・太田祐子・佐橋憲生編『森林病理学 -森林保全から公園管理まで-』目次
1 はじめに
 1.1 森林病理学とは
 1.2 宿主の樹木―木本植物とは―
 1.3 樹木病害の特徴
  1.3.1 生育期間・構造・生育環境
  1.3.2 生産物の利用・安全性
  1.3.3 研究
 1.4 森林生態系の中での病気の扱い方

2 樹木(植物)の病気とは
 2.1 樹木の病気と病原(体)
  2.1.1 病徴と標徴
  2.1.2 発病に至る過程
  2.1.3 発病のトライアングル
  2.1.4 病原体の証明
  2.1.5 病原体の栄養摂取様式
 2.2 病原体と植物の相互関係
  2.2.1 抵抗性の構成要素
  2.2.2 病原性の構成要素
 2.3 病気の伝搬と予防
  2.3.1 伝搬方法
  2.3.2 フィールド衛生
 2.4 病気の発生と環境

3 病原微生物
 3.1 菌類
  3.1.1 菌類の基本構造と分類
  3.1.2 担子菌類の形態的特徴
  3.1.3 子嚢菌類の形態的特徴
  3.1.4 接合菌類
  3.1.5 ツボカビ類
  3.1.6 卵菌類(偽菌類)
  3.1.7 不完全菌類
 3.2 細菌  石賀康博
  3.2.1 細菌の分類
  3.2.2 細菌の構造と機能
  3.2.3 細菌の感染機構
  3.2.4 細菌の病徴発現に関わる因子
 3.3 ウイルス
  3.3.1 ウイルスの分類
  3.3.2 ウイルスの構造と機能
  3.3.3 ウイルスの感染・増殖・移行
  3.3.4 ウイルスの伝搬
 3.4 ウイロイド
  3.4.1 ウイロイドの構造
  3.4.2 ウイロイドの感染と増殖
  3.4.3 ウイロイドの伝搬と発病
 3.5 線虫
  3.5.1 植物寄生性線虫
  3.5.2 移動性内部寄生線虫
  3.5.3 定着性内部寄生線虫
  3.5.4 外部寄生線虫
  3.5.5 木材居住性線虫

4 病気の診断
 4.1 診断とは
  4.1.1 フィールド診断
  4.1.2 植物診断
  4.1.3 生物害(病害,虫害)・非生物害(気象害,生理的異常)の区別
 4.2 微生物検出から同定までの手順、技術
  4.2.1 菌類
  4.2.2 ウイルス・ウイロイド
  4.2.3 細菌
  4.2.4 線虫
 4.3 原因不明の場合の対処方法
  4.3.1 罹病木の周囲の樹木の観察
  4.3.2 顕微鏡による異常部位の観察

5 樹木組織の機能と防御機構
 5.1 樹木組織の構造
  5.1.1 葉の組織
  5.1.2 枝と樹幹の組織と成長
  5.1.3 根の構造
 5.2 樹木組織の形成と機能
  5.2.1 形成層の細胞生産
  5.2.2 あて材の形成と役割
  5.2.3 コルク形成層による外樹皮の形成
 5.3 樹木組織の水分通導と同化産物の転流
  5.3.1 水分通導―木部樹液の運搬―
  5.3.2 師部の糖類輸送
 5.4 柔細胞による貯蔵と二次代謝
  5.4.1 放射組織による物質移動
  5.4.2 樹幹木部の心材化
 5.5 樹木の防御機構
  5.5.1 物理的・化学的防御および静的・動的防御
  5.5.2 感染の成功と発病

6 主要な樹木病害の発生生態と特徴
 6.1 葉・枝の異常および胴枯れ・がんしゅ(癌腫)
  6.1.1 うどんこ病
  6.1.2 さび病
  6.1.3 輪紋葉枯病
  6.1.4 マツ類の葉枯性病害
  6.1.5 バラ科樹木ごま色班点病
  6.1.6 サクラてんぐ巣病
  6.1.7 マツ類こぶ病
  6.1.8 スギこぶ病
  6.1.9 スギ赤枯病・溝腐病
  6.1.10 スギ・ヒノキ暗色枝枯病
  6.1.11 ヒノキ樹脂胴枯病
  6.1.12 ヒノキ漏脂病
  6.1.13 がんしゅ(癌腫)症状
  6.1.14 キバチ類による星形変色
  6.1.15 カラマツ先枯病
  6.1.16 ファイトプラズマによるてんぐ巣病
  6.1.17 ウメ輪紋病
  6.1.18 気象害(凍害・寒風害・乾燥害)
  6.1.19 スギの黒心材
  6.1.20 緑化樹の枝枯れ・枯れ上がり
 6.2 萎凋病
  6.2.1 マツ材線虫病
  6.2.2 ナラ・カシ類萎凋病(ナラ枯れ)
  6.2.3 オフィオストマ様菌類による萎凋病
  6.2.4 エゾマツ萎凋病
  6.2.5 果樹・緑化樹の萎凋病
 6.3  生立木の腐朽病害
  6.3.1 ならたけ病およびならたけもどき病
  6.3.2 まつのねくちたけ病
  6.3.3 非赤枯性溝腐病
  6.3.4 南根腐病
  6.3.5 国内主要造林木の腐朽病
  6.3.6 緑化樹の腐朽病
  6.3.7 海外の腐朽病
 6.4 世界的に重要な樹木病害
  6.4.1 ニレ類立枯病
  6.4.2 クリ胴枯病
  6.4.3 ストローブマツ発疹さび病
  6.4.4 ナラ類萎凋病(Oak wilt)
  6.4.5 樹木疫病菌Phytophthora属菌
  6.4.6 フトモモ科植物ユーカリさび病

7 予防および防除の考え方と実際
 7.1 植物の防疫・検疫
  7.1.1 国際検疫
  7.1.2 国内検疫
 7.2 発生予察
  7.2.1 植物病害の発生予察事業
  7.2.2 森林病害における発生予察
  7.2.3 マツ材線虫病の発生予察
 7.3 防除法
  7.3.1 耕種的防除
  7.3.2 物理的防除
  7.3.3 化学的防除
  7.3.4 生物的防除
  7.3.5 バイオテクノロジーの利用
  7.3.6 総合的病害虫管理
 7.4 森林病害の防除
  7.4.1 森林における防除の特徴
  7.4.2 防除のための法律制定と政策
  7.4.3 具体的な防除の手順
  7.4.4 抵抗性種と抵抗性品種(系統)の利用
 7.5 長期予防と予防医学
  7.5.1予防医学の概念
  7.5.2発生の予防
 7.6 発病メカニズムの解明
 7.7 病原体の伝染環と媒介昆虫の生活史
  7.7.1 伝染環
  7.7.2 媒介昆虫の生活史
  7.7.3 キクイムシ類と菌類の相互依存

8 森林の健康管理
 8.1 生態系としての森林の健康
  8.1.1 森林タイプによる健康の概念の違い
  8.1.2 予防医学のための植生遷移の把握
  8.1.3 健康維持と回復のための手法
 8.2 森林生態系における樹木病原体の役割
  8.2.1 樹木と病原菌の相互作用
  8.2.2 樹木病原菌のその他生物への直接的影響
  8.2.3 森林生態系の多様性維持と病原菌
  8.2.4 森林の林分構造と樹木病害
  8.2.5 森林生態系における樹木病害の役割

9 今後の課題
 9.1 グローバル化に伴って深刻化する病害
  9.1.1 マツ類漏脂胴枯病
  9.1.2 Ash dieback
  9.1.3 Sudden oak death(Phytophthora ramorumによる樹木の被害)
  9.1.4 Fusarium属菌による病害とキクイムシ類の関与
 9.2 老齢化と大木化時代における倒木リスクの把握と対策
  9.2.1 倒木の原因と注意点
  9.2.2 診断と対策

コラム 植物の病名
コラム 遺伝子配列に基づく菌類の種同定と系統樹による分類学的位置の決定
コラム PCR関連用語の解説
コラム 樹木医の役割

『くぬぎ山地区自然再生全体構想』(2005年) 2月23日

『くぬぎ山地区自然再生全体構想』(くぬぎ山地区自然再生協議会、2005年3月)です。くぬぎ山地区は狭山市、所沢市、川越市、三芳町の行政界にある約152ヘクタールのエリアです。
目次・対象区域
くぬぎ山全体構想_01くぬぎ山全体構想_02


くぬぎ山全体構想_03くぬぎ山全体構想_04

植生、雑木林遷移予測フロー
くぬぎ山全体構想_05くぬぎ山全体構想_06くぬぎ山全体構想_07

くぬぎ山全体構想_08くぬぎ山全体構想_09くぬぎ山全体構想_10

くぬぎ山地区の課題、自然再生の目標、平地林の荒廃を抑制するための取り組み
くぬぎ山全体構想_11くぬぎ山全体構想_12くぬぎ山全体構想_13

『三富平地林伐採・活用調査報告書』(2014年) 2022年3月5日記事

最重要KPIはカーボンバジェット 2月7日

昨年11月、日本経済新聞出版から発行された気候変動が企業価値に影響する背景・経路・ロジックを解説した初の入門書、松尾雄介著・日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)協力『脱炭素経営入門 気候変動時代の競争力』出版されました。本日実施されたウェビナー『気候変動時代に求められる企業行動』(YouTube 1:59:52)を視聴しました。「なぜ、海外の企業・投資家と、日本企業や投資家との間に、取り組みレベルの大きなギャップがあるのか」、「なぜ、一部の日本企業は、脱炭素化に逆行する投資や意思決定を行ってしまうのか」。最重要KPI(重要業績評価指標)はカーボンバジェットです。効率的で効果的な気候リスクマネジメントの最善手が選択されているのか。現在の取り組みだけでは1.5℃達成は不可能です。
松尾雄介さんの基調報告「『脱炭素経営入門 気候変動時代の競争力』の概要」は、YouTubeの6:28~29:50、スライド資料はこちらです。

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自動車を動かすのに投じる燃料エネルギー投入100に対して、どれだけ動力になっているか。
熱効率(エネルギー変換効率):BEV(充電式電気自動車)77、FCV(水素燃料電池自動車)30、PtL(合成燃料自動車。CO2と水素を合成して製造される燃料。人工原油 Syncrude)13。
ウェビナーIGES松尾21
上図の出典:“Response to stakeholder consultation on an ‘EU strategy for Smart Sector Integration’”, Transport and Environment, 2021.

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上図の出典:T&E (2018) Roadmap to decarbonising European cars
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A clean shift for EU transport fuels? T&E recommendations for the RED review November 2021
  TE Briefing REDⅡ review Autumn 2021  Final 2021.11.22
   REDⅡ:2018年に改正された再生可能エネルギー指令.。
    2021年7月から完全施行を迎えるタイミングで、次の改定案(以下、REDⅢ)が示された
 REDII202211
REDの「水素」は「グリーン水素」
 丸田昭輝「欧州「Fit for 55」政策パッケージにおける水素・合成燃料の位置づけと今後の展開」(京都大学大学院経済学研究科再生可能エネルギー経済学講座コラム№273)
2021年7月に欧州委員会(EC)は、2030年にGHG排出量55%削減(1990年比)の達成のために「Fit for 55政策パッケージ」を発表した。パッケージというのは、特定の目的のために複数の政策を同時に策定・改正するもので、今回は12の政策の策定・改訂が提示されている(現状では案であり、今後、欧州議会・欧州理事会での議論を経て、数年かけて制度化される)。 ……欧州の「再生可能エネルギー指令(RED)」は、当初2009年に策定され、その後2018年に改正されている(RED II)。2018年当時の欧州連合のGHG削減目標は1991年比40%であったが、今回の改正案(以下「RED III案」とよぶ)ではこれを55%にかさ上げし、再エネ分野で欧州のリーダーシップ確立と雇用拡大に寄与することを目指している(なおREDはあくまでも再エネ拡大の政策であるので、水素でも「グリーン水素」に特化した政策である)
水素には「グレー」「ブルー」「グリーン」がある!
       (資源エネルギー庁HP2021年10月12日記事)
    グレー・ブルー・グリーン水素
※資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラルどうやって実現する?」(YouTube 4:05)
 

※相模原市立環境情報センター「2050年カーボンニュートラル
  NPO法人アース・エコ製作(YouTube 9:22)  NPO法人アース・エコ作成
 

「農」と里山シンポ ナラ枯れ講演会 2月2日

ZOOMで実施された「三富地域の平地林をナラ枯れから守るために」講演会に参加し、黒田慶子さんの「三富地域の平地林をナラ枯れから守るために」を聴講しました。今後YouTubeで配信されるようです。
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夢ナビの神戸大学教員によるミニ講義動画に黒田さんの「樹木と昆虫と微生物~森の中の静かな戦い」があります。大学受験生向けのサイトですが、講演と内容が重なっている部分があるので紹介しておきます。
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黒田さんは内閣府男女共同参画局理工チャレンジ(リコチャレ)のコーナーにメッセージを寄せています。「現在の仕事(研究)の魅力やおもしろさ」の部分を読んでおくとよいでしょう。里山保全活動をしている市民には大変ありがたいことです。
研究論文を書くことは研究者の仕事ですが、それと同時に、「成果を社会に役立つ形にする」ことが重要です。森林の環境保全機能(CO2吸収など)には期待が高まっていますが、単に「大切に見守る」だけでは森林は維持できないため、里山整備のNPO団体などに科学的根拠のある手法を伝えることも積極的に行っています。
※「身近な森のたくさんのふしぎ、たくさんの課題」セミナー(アジア太平洋地球変動研究ネットワーク・神戸大学、2021年3月28日開催 YouTube 2:31:19)の黒田さんの講演
  
 第1部講演(各講演者30分)
  ①⿊⽥慶子「森の中の生存競争・・・昆虫と微生物と樹木」10:40~41:17
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  ②佐久間⼤輔「⾒えるきのこから⾒えない地下を考える︓森を理解するために」
  ③Evonne Yiu 「⾥⼭を元気にしよう︕SATOYAMAイニシアティブから考える森林保全の重要性)

  森林資源学(森林の多様な資源:昔と今)_1
  森林資源学(里山とは?)_1

木下斉『凡人のための地域再生入門』 1月24日

木下斉さんの『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』(ダイヤモンド社、2018年11月)を読みました。「ああ、そうだったな」と思い当たることがたくさんある内容でした。
凡人のための地域再生入門

木下斉『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』目次
はじめに:凡人だからこそ、地域を変えられる
第1章 シャッター街へようこそ
 突然の帰郷
 不本意な再会
 名店は路地裏にある
 コラム1 ─ 1 どんな地域にも「人材」は必ずいる
 コラム1 ─ 2 地方は資金の流出で衰退する
第2章 たった一人の覚悟
 役所の誤算、自立する民間
 嗤う銀行
 「逆算」から始めよ
 コラム2 ─ 1 なぜ、今の時代に「逆算開発」が必須なのか
 コラム2 ─ 2 地方に必要なのは、「天才」ではなく「覚悟」である
第3章 見捨てられていた場所
 そこでしか買えないもの
 仲のよさこそ命取り
 次の一手
 コラム3 ─ 1 地方のビジネスにおける「場所選び」で重要なこと
 コラム3 ─ 2 資金調達で悩む前にやるべきこと
第4章 批評家たちの遠吠え
 田舎の沙汰も金次第
 「子どもじゃないんだからさ」
 覚悟の先の手応え
 コラム4 ─ 1 地方の事業に「批判」はつきもの
 コラム4 ─ 2 地方でビジネスを始める悩みと不安
第5章 稼ぐ金、貰う金
 「欲」と「隙」
 お役所仕事
 名ばかりコンサルタント
 コラム5 ─ 1 役所の事業がうまくいかない構造的理由
 コラム5 ─ 2 見せかけの地方分権のジレンマ
第6章 失敗、失敗、また失敗
 成功続きの成功者はいない
 原点回帰
 丁稚奉公の旅
 コラム6 ─ 1 本当の「失敗」とは何か
 コラム6 ─ 2 「よそ者・若者・馬鹿者」のウソ
第7章 地域を超えろ
 資金調達
 小さな成果、大きな態度
 血税投入
 コラム7 ─ 1 他地域連携でインパクトを生むための思考法
 コラム7 ─ 2 地方で成功することにより生まれる「慢心」
第8章 本当の「仲間」は誰だ
 他人の茶碗を割る権利
 仲良し倶楽部を超えて
 金は霞が関ではなく、地元にある
 他人の金で、人は動かない
 コラム8 ─ 1 嫌われる決断をすべきとき
 コラム8 ─ 2 孤独に耐え、各地域のストイックな仲間とつながる
最終章 新しいことを、新しいやり方で、新しい人に
 さよなら、シャッター街
 コラム9 ─ 1 今の組織を変えるより、ゼロから立ち上げよう
おわりに
よそ者としての心得
 1:どうしたらこの地域がよくなるのかという謎を解く
 2:政治性を理解して、まずはその社会に尊敬を持って入り込む
 3: データを活用する
 4: 外科医・内科医・心療内科医・漢方医という4つの視点を持つ



12歳までに身につけたいSDGsの超きほん 1月6日

蟹江憲史監修『12歳までに身につけたいSDGsの超きほん』(朝日新聞出版、2021年7月)を読みました。小学校高学年からの児童書です。SDGs研究の第一人者蟹江憲史さんの著作に『SDGs(持続可能な開発目標)』(中公新書2604、2020年8月)もありますが、この児童書も読んでおくとよいでしょう。
SDGsの超きほん
「17の目標をきちんと理解しよう!」「将来の自分たちのためにできることとは?」「SDGsは未来の世界を生き抜くための新常識!」。マンガ+ワーク+図イラストつき解説の三つの手段で、知りたかったテーマがすっきりわかるシリーズ。タイムスリップしてきたネコロボット”ミライ”が、小学5年生のメイ、悟、理人へSDGsに取り組むためのヒントを与える。SDGsを自分事としてとらえ、身近な存在にするための本。
   
蟹江憲史監修『12歳までに身につけたいSDGsの超きほん』目次
1.貧困をなくそう
 世界のあらゆる場所のあらゆるかたちの貧困をなくそう

2.飢餓をゼロに
 飢えをなくし、だれもが栄養のある食料を十分に手に入れられるよう、地球の環境を守りながら農業を発展させよう

3.すべての人に健康と福祉を
子どももお年よりもだれもが健康で幸せな生活を送れるようにしよう

4.質の高い教育をみんなに
 だれもが平等によい教育を受けられるようにし、また一生にわたって学習できる機会を増やそう

5.ジェンダー平等を実現しよう
 男女差別をなくし、すべての女性と女の子の能力を伸ばし可能性を広げよう

6.安全な水とトイレを世界中に
 だれもが安全な水とトイレを利用できるようにし、自分たちでずっと管理していけるようにしよう

7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに
 だれもが、安全で現代的なエネルギーを安い価格でずっと利用できるようにしよう

8.働きがいも経済成長も
 だれもが人間らしい仕事をしながら、持続可能な経済発展を進めていこう。働かなければならない子どもをなくそう

9.産業と技術革新の基盤をつくろう
 災害に強いインフラを整え、新しい技術を開発し、みんなが参加できる経済発展を進めよう

10.人や国の不平等をなくそう
 国と国の間にある不平等や、国の中にある不平等を減らそう

11.住み続けられるまちづくりを
 だれもがずっとくらしていける、安全で、災害にも強いまちをつくろう

12.つくる責任つかう責任
 地球の環境と人々の健全な生活を守るため、責任を持って生産し、消費しよう

13.気候変動に具体的な対策を
 気候変動から地球と人々を守るために、今すぐ行動を起こそう

14.海の豊かさを守ろう
 海や海の資源を守り、持続可能な方法で利用しよう

15.陸の豊かさも守ろう
 森林を管理し、砂漠化を防いで、多様な生きものが生きられるようにしよう

16.平和と公正をすべての人に
 だれもが受け入れられ、すべての人が法律で守られる平和な社会をつくろう

17.パートナーシップで目標を達成しよう
 世界中の人が協力し合い、これらの目標を達成しよう
SDGsのすべての目標はつながっている:SDGsの17の目標は、3つの層に分けられる。「環境」(海や森林など、地球の環境を守るための目標6、13、14、15)によって、人間の「社会」(1、2、3、4、5、7、11、16)が支えられ、社会によって「経済」(8、9、10、12)の発展が成り立つ。頂点の「パートナーシップ」(17)が、目標全体のゴールになる。

中学校『公民』教科書のSDGs記述
  教育出版
   公民(教育出版)
  帝国書院

綿野恵太『みんな政治でバカになる』 1月5日

綿野恵太『みんな政治でバカになる』(晶文社、2021年9月)を読みました。
みんな政治でバカになる1

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『みんな政治でバカになる』目次
はじめに
 ■認知バイアスゆえにバカげた言動をする
 ■ほとんどの人が政治的無知= バカである
第1章・大衆は直観や感情で反応する
第2章・幸福をあたえる管理監視社会
第3章・よき市民の討議はすでに腐敗している
第4章・ポピュリズムは道徳感情を動員する
第5章・もはや勉強しない亜インテリ
第6章・部族から自由になるために
あとがき

はじめに」は晶文社のサイトで公開されていて全文読めます。
 本書のタイトルは「みんな政治でバカになる」である。
「バカなんて許せない!」とイラッとした人も多いかもしれない。しかし、ちょっと待って欲しい。本は読まれなければ、意味がない。人間は「理性」よりもまず「感情」が反応することがわかっている。「バカ」という乱暴な物言いで、あなたの「道徳感情」に訴えかけて、本書を手に取ってもらったわけである。
 ところで、「許せない!」という「道徳感情」は政治に大きな影響を与えることがわかっている。「思想」や「利益」以上に「道徳」に基づいて私たちは政治を判断するようなのだ。しかも、「道徳感情」は私たちに「バカ」な言動を引き起こさせる原因でもある。
 2020年のアメリカ大統領選で民主党のジョー・バイデンが共和党のドナルド・トランプに勝利した。トランプは選挙に不正があったとして票の再集計を求め、その翌年にはトランプの勝利を信じる支持者たちが国会議事堂を襲撃し、多数の死傷者を出した。ドナルド・トランプが小児性愛者の秘密結社と闘うヒーローだという「Qアノン」と呼ばれる陰謀論が流行した。驚いたことに、日本においてもバイデンの当選をフェイクニュースだと唱える人びとがいた。
 なぜフェイクニュースや陰謀論が後を絶たないのか。それは私たちがバカだからだ。もう少し正確にいうと、私たちには人間本性上「バカ」な言動をとってしまう傾向がある。しかも、この傾向は政治がかかわるとさらにひどくなる。注意して欲しいが、これは「民衆は愚かだ」と決めつける愚民思想ではない。専門家や知識人といった知的能力が高い人でさえ、「バカ」な言動をとってしまうからだ。
認知バイアスゆえにバカげた言動をする
 「二重過程理論」という認知科学の有力な仮説がある。人間の脳内には「直観システム」と「推論システム」という異なる認知システムがあるという説である。図にまとめたように、ふたつの認知システムにはさまざまな呼称がある。本書では読者がぱっと見てわかりやすい「直観システム」「推論システム」を採用する。
 「直観システム」は、経験や習慣に基づいて直観的な判断をくだす。非言語的・自動的・無意識的であるため、素早く判断できる。しかし、間違いも多い。その間違いには一定のパターン=「認知バイアス」がある。
 「推論システム」は言語的・意識的な推論をおこなう。「直観システム」に比べて間違いは少ないが、時間や労力を必要とする。ざっくりいうと、「直観システム」と「推論システム」は「感情」と「理性」と言い換えられるかもしれない。
 すでにおわかりかもしれないが、「許せない!」という「道徳感情」は「直観システム」に当てはまる。「直観システム」は非常に重要な認知機能である。それなしでは私たちは日常生活を営めない。しかし、一定の間違いのパターン=認知バイアスがある。専門家や知識人といった知的能力の高い人でも、「認知バイアス」ゆえに「バカ」な言動をとってしまう(ジャン=フランソワ・マルミオン編『「バカ」の研究』田中裕子訳、亜紀書房、2020年)。
 池谷裕二『自分では気づかない、ココロの盲点』(朝日出版社、2013年)はクイズ形式で認知バイアスを学ぶことができる良書だが、ここから「政治」に関係する「認知バイアス」をざっと書き出してみよう。
◆後知恵バイアス 生じた出来事について「そうなると思った」と後付けする傾向
◆確証バイアス 自分の考えに一致する情報ばかりを探してしまう傾向
◆現状維持バイアス 「いままで通りでよい」と変化を好まない保守的な傾向
◆公正世界仮説 (世界は公正にできているから)失敗も成功も自ら招いたものだと因果応報や自己責任を重視すること
◆自己奉仕バイアス 成功したときは自分の手柄だと思い込み、失敗したときは自分に責任がないと思う傾向
◆システム正当化 たとえ一部の人に不利益があろうとも、現状を正当化したくなる傾向
◆ステレオタイプのバイアス 人種や性別や職種などの付加情報があると、その典型的なイメージに引きずられて記憶が歪められること
◆正常性バイアス 非常事態への対応を避けたがる傾向
◆生存者バイアス 成功者には注目するが、その背後に多くいるはずの敗者や犠牲者には注意を向けない傾向
◆ダニング=クルーガー効果 無能な人ほど(無能がゆえに自分の無能さに気づかず)自己を高く評価する傾向
◆敵対的メディア効果 自分の信念に沿わない報道は誤解や偏見に満ちているように感じる傾向
◆同調圧力 少数派が暗黙のうちに多数派の意見に迎合すること
◆内集団バイアス 仲間や家族を優遇する傾向。誕生日や名前が同じというだけでも仲間意識は生まれる
◆バックファイア効果 自分の考えに合わないことに出会ったとき、これを否定しつつ、自分の考えにさらに固執してしまう傾向
◆フレーミング効果 同じ情報であっても置かれた状況によって判断が変わること
◆利用可能性ヒューリスティック 事例を容易に思い出せるというだけで「正しい」と判定してしまう傾向(池谷裕二『自分では気づかない、ココロの盲点』)
 あなたの周りにこんな人はいないだろうか。会議では多数派にすぐに同調する(同調圧力)。経営者のビジネス書を読んで憧れを抱いている(生存者バイアス)。自分は優秀なのに正しく評価されていないと感じている(ダニング=クルーガー効果)。転職したいと思いながら、会社にズルズルと居続けている(現状維持バイアス)。
 もちろん、これらのケースで不利益を被るのは自分一人だ。しかし、政治になると話は別である。ニュースや新聞を見ても、自分の考えをなかなか変えようとしない(確証バイアス)。むしろ、最近のメディアは偏向報道ばかりだと怒っている(バックファイア効果、敵対的メディア効果)。少子高齢化、人口減少、貧困、格差社会、気候変動といった社会問題は知っているが、いまのままでよいと思っている(現状維持バイアス、システム正当化)。さまざまな危機が予測されているが、なんとなく大丈夫だろうと楽観視する(正常性バイアス)。
 注意すべきは、認知バイアスによって知的能力が高い人でも「バカ」な言動をとってしまうことだ。「自分の信念を裏付ける情報だけを集める」という「確証バイアス」があるが、「認知能力が優れている人ほど、情報を合理化して都合の良いように解釈する能力も高くなり、ひいては自分の意見に合わせて巧みにデータを歪めてしまう」ことが指摘されている(ターリ・シャーロット『事実はなぜ人の意見を変えられないのか-説得力と影響力の科学』上原直子訳、白揚社、2019年)。
 そして政治に大きく関係するのが、内集団バイアスである。「あいつら」=自らが所属しない集団(外集団、他集団)よりも、「われわれ」=自らが所属する集団(内集団、自集団)に無意識的な選好を持つ傾向である。たとえば、白人の担当者が就職面接をすると、同じ白人の候補者が合格しやすくなる。また、「われわれ」に比べて、「あいつら」を過度に一般化し、事実とは異なるステレオタイプに当てはめる傾向がある(外集団同質性バイアス、ステレオタイプ化)。このような内集団バイアスは幼少期から確認されていて、たとえば三歳児は自分と同じ人種の顔を好むことがわかっている(ニコラス・クリスタキス『ブループリント-よい未来を築くための進化論と人類史(上・下)』鬼澤忍、塩原通緒訳、ニューズピックス、2020年)。
 内集団バイアスは「われわれ」に忠誠を尽くすだけではない。注意すべきは、「われわれ」と「あいつら」との「差」にすごく敏感なことだ。自集団と他集団に報酬を割り振る実験をおこなったところ、自集団が得る総額を最大にするよりも、自集団と他集団が得る報酬の「差」が最大になるように選択する傾向があった。つまり、どちらの集団にも利益がある「ウィン‐ウィン」の関係を目指すのではなく、「われわれ」が少し損をしても、もっと「差」が開くように「あいつら」を蹴落とすことを好むのである(クリスタキス『ブループリント(下)』)。
 私たちは仲間かどうかを直観的に判断し、自分の仲間だと認めたものをひいきしてしまう。このような傾向は「部族主義」と呼ばれる。近年の政治状況は「部族主義」を掻き立てている。だから、「みんな政治でバカになる」というタイトルは文字通りに受け取って欲しい。
ほとんどの人が政治的無知= バカである
 くわえて問題なのは、ほとんどの人が政治的に無知=バカである、ということだ。
 たとえば、2014四年にロシアがウクライナのクリミア半島に侵攻した際、アメリカでは軍事介入すべきか、という議論が起こった。しかし、ワシントン・ポスト紙の調査によると、ウクライナの位置を地図上で示すことができたのは、六人中一人しかいなかった(トム・ニコルズ『専門知は、もういらないのか-無知礼賛と民主主義』高里ひろ訳、みすず書房、2019年)。しかも、ウクライナから離れた場所を示した人ほど、アメリカの軍事介入を支持する割合が高かった。
 そのほかにもこんな例がある。アメリカの共和党支持者の45パーセントが「バラク・オバマは合衆国で生まれたのでないから、大統領になる資格がない」と思っていた。たいして民主党支持者の35パーセントが「ジョージ・ブッシュ大統領が9.11同時多発テロの攻撃を事前に知っていた」と信じていた(イリヤ・ソミン『民主主義と政治的無知-小さな政府の方が賢い理由』森村進訳、信山社、2016年)。多くの人が政治を正しく判断できるほどの知識を持っていないのである。このような政治的無知はアメリカだけでなく、日本においても見られるという。
 むかしに比べて教育制度は充実している。知能指数(IQ)も上昇している。インターネットで情報も簡単に手に入るようになった。にもかかわらず、政治についての知識は低いままなのだ。その理由は単に人びとが愚かだからではない。政治について学ぶ意欲を持てないからだ。法哲学者のイリヤ・ソミンによれば、私たちが選挙で投票しても、自分の一票が選挙の結果を左右することはほぼない。そのため、私たちは政治的な知識を獲得する努力をしない(「合理的無知」)。たとえば、2020年の東京都知事選挙の有権者数は1129万229人であった。もし東京都民であれば、あなたの意見は1129万229分の1に過ぎないわけである。投票しようがしまいが、結果は変わらない。であれば、趣味や仕事に時間を使ったほうがいい、となる。
 くわえて、政治を判断するために必要な知識量は膨大になっている。政府の活動は多岐にわたる。いくつもの省庁に分かれ、テレビの国会中継を見ればわかるように、担当大臣でさえ把握できないほど、政策は細分化している。個々の政策を正しく理解しているのは、専門家や官僚といった一部のエリートだけだろう。しかし、そのエリートでさえも、自分の精通する分野以外は素人同然となる。
 ただし繰り返すが、ここで言いたいのは「民衆は愚かだ」と決めつける愚民思想ではない。ほとんどの人が政治について無知=バカであるのは事実である。しかし、その理由は政治に興味を持てないからだ。政治に興味を持てないのは、自らの意思が政治に反映されない無力感のためである。そのような無力感を生んでいるのは現在の政治制度にほかならない。つまり、私たちは単に愚かなのではない。「環境」によって政治的無知=バカになっている。
 私たちは人間本性上バカな言動をとってしまう。くわえて、ほとんどの人が政治について無知=バカである。いわば、「人間本性」によるバカ(認知バイアス)と「環境」によるバカ(政治的無知)とがかけ合わさった「バカの二乗」である。これがフェイクニュースや陰謀論が後を絶たない理由である。とはいえ、「やはり民衆は愚かだ」とシニカルに冷笑するつもりはない。私もバカのひとりでしかないからだ。しかし、そのいっぽうで、バカとして居直るつもりもない。自らのバカさを認めるには、自分を客観視できる程度のシニカルさは必要だと思っている。むしろ、重要なのは、バカとシニカルのあいだなのだ。そして読者の皆さんもそのあいだを進んで欲しい、と思っている。本書がその一助になれば幸いである。
この本については、小田嶋隆さんの「みんな政治でバカになるのだろうか」(2021.10.15)が日経ビジネス電子版 小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」~世間に転がる意味不明に掲載されています。

また、綿野恵太「インテリ気取りで「受け売りの知識」を披露…私たちはみんな「亜インテリ」なのかもしれない」(2021.10.09)が講談社の現代ビジネスサイトにあります。
インテリを気取ってはいるけれど、そのじつ耳学問で仕入れた受け売りの知識をひけらかしているだけの人々-丸山眞男はいまから50年以上前にこうした存在を「亜インテリ」と呼びましたが、じつは現代こそが「亜インテリ」というキーワードによって特徴づけられるのかもしれません。『みんな政治でバカになる』(晶文社)を上梓した、批評家の綿野恵太氏が解説します。
放送大学「リスク社会における市民参加」を聴講した流れで『みんな政治でバカになる』を手に取りました。引用、紹介されている本が多数あり、それらをじっくり読んでみたくなります。私たちは本能的にバカである上に無知であるという「バカの2乗」から抜け出すためにはどうしたらよいのか。本書第6章部族から自由になるためにの末尾にある「バカの居直りでもなく、シニカルな冷笑主義でもない。その間として、ドジな存在が求められている」にあるバカとドジの違いに注目した武久真士 「綿野恵太『みんな政治でバカになる』-バカな人からドヂな人になる」(「バカの二乗」・「バカ」から抜け出すために・「ドヂ」になれ・本書の重要性とメッセージを届けることの難しさ・おわりに)(note2021年10月31日記事)をぜひ読んでください。
※千葉雅也『勉強の哲学 来たるべきバカのために 増補版』 (文春文庫、2020年3月)

ホイスコーレは民主主義を育て生涯学習を体験する場 11月23日

社会をもっとよくするアイデアを集めたウェブマガジンIDEAS FOR GOODのサイトで「デンマーク」を検索すると150以上の記事がヒットし、「デンマーク特集」(#0~10)がありました。特集の記事からニールセン北村朋子さんが関わっている#0、#1、#3を読みました。ホイスコーレとはフォルケホオイスコーレの略称です。前記事「デンマークの教育と福祉から考える」をご覧下さい。

【デンマーク特集#0】よい人生ってなんだろう?北欧の小さな国で問い直す、私のしあわせ、あなたのしあわせ by IDEAS FOR GOOD 編集部 2019年4月8日記事
デンマークは本当に幸せな国なのか?デンマークにおける「幸せ」とは何なのか?そしてデンマークの何がそこまで人を惹きつけるのか?デンマーク国内の2つの地域(首都コペンハーゲン、ロラン島)を訪問し、特集を始めるにあたって編集部が見つけた「デンマークの今をひも解く切り口」となるキーワードを紹介。
    1.エネルギー自給率800%の小さな島、ロラン島
    2.興味をとことん追求する学校、フォルケホイスコーレ
    3.ニュー・ノルディック・キュイジーヌ(新北欧料理)
    4.サステナブルな街づくり
    5.サステナブルな暮らし

【デンマーク特集#1】自分の幸せは、地球規模の幸せ。ロラン島で気づかされた、成熟社会の行きつく先。 by 宮木志穂    2019年4月10記事
IDEAS FOR GOOD編集部は、デンマークのロラン島に降り立ち、「ニュー・ノルディック・キュイジーヌ(新北欧料理)」のワークショップに参加した。ニュー・ノルディック・キュイジーヌについては次回の記事で言及するが、ここではロラン島にフォーカスをあてたい。
ロラン島とは、人口4万2千人程度で面積は沖縄本島と同じくらいの小さな島である。毎年人口が減少し続けており、日本と同じように少子高齢化という問題を抱える。ここには日本からデンマークに移住したニールセン北村朋子さんが住んでおり、デンマークの教育やデンマークで大事にしている生き方を日本に伝えるアドバイザーやコーディネーター、ジャーナリストとして活動している。今後はデンマーク出身のニコライ・フロストらとともにフォルケホイスコーレを立ち上げる予定だ。
 ●「食」という切り口から、暮らしを考える
   Q:今回の「New Nordic Cuisine」プログラム開催のきっかけは?
   Q:なぜ、食をテーマに選んだのか?
 ●身近なテーマから、民主主義のあり方を考える
Q:企画側として特にこだわった点は?
例えばプログラム内の料理セッションでは、料理が得意な生徒も、包丁をほとんど持ったことがないという生徒も、シェフでさえもフラットに参加するシステムです。
最低限のレシピだけが与えられ、絶対的な答えや手本がない状態で、進むべき道筋を明らかにしていく。そのために皆で徹底的に対話する。やるべきことが割り出せたら、できる人ができる部分を担当、協力しながら同じ目標を目指す。……これができなければ、その日の食事にありつくことはできませんでした。「料理をつくる」という一連のプロセスを通じて、民主主義をうまくまわす「体験」をしていた、ということですね。
学校ごとに扱う内容は違いますが、このように一つのテーマを通じて「民主主義のあり方」を考えるのは、どこのフォルケホイスコーレでも同じ大きな目標なんです。その意味でも、フォルケホイスコーレは「民主主義の学校」と言われます。
民主主義と自分とのつながりが分からない状態では、それがいかに大切なものかを知るのは難しいことです。子どもたちが自然に「民主主義ってこんなもの」ということを体得してくれたら、それが一番です。「こういうことができるのも社会のシステムがいい方向に働いているからだ」「こういう社会の仕組みなら、もっとこういうことができる」というような「気づきを得られる機会」をつくることが重要だと考えています。だからこそ、民主主義を学ぶことを目的とするのではなく、身近な題材から考えてみる、ということが必要なんですね。
デンマークでは実際に、フォルケホイスコーレで学んだ人が政治家となり、国を変えていったんです。「良い民主主義とは何か」を普段から考える機会と、考えたことをほかの人とじっくり話せる場があり、そこで学んだ人が少しずつ増えていく……そうすれば、実際に世の中を変えられるのだということを表すパワフルな例ですよね。
 ●大切なのは、皆が納得できる「最上の妥協点」を探すこと
   Q:目指す未来について
Q:ニールセンさんが考えるフォルケホイスコーレの価値とは?
フォルケホイスコーレという場所では、誰からも否定されません。先生が生徒へ教えるという一方通行の関係ではなく、皆がフラットな立場で向き合います。日本でもそういう雰囲気のなかで、社会について気軽に話しあえる場がつくれるといいなと思うんですよね。
一人ひとりが大切な存在だから、誰もが自分の意見を持てるのは当たり前のこと。違う人間なのだから意見がぶつかるのも当たり前。大切なのは「じゃあどうやってコンセンサスをとっていこうか?」ということ。皆が納得できる「最上の妥協点」を探すこと、それが一番大切なことなんです。デンマークの人たちは、ルールを「自分の自由を制限するもの」ではなく「発想を膨らませていくためのベースライン」として捉えているように感じます。「~してはいけない」というルールがあったら「じゃあ、それ以外のものならいいんだよね?」「どういう方法ならできるかな?」というふうに考えようとする人が多いんですね。考え方を少しだけ変えてみるだけで、世界は変わるんですよ。
とはいっても、そのような考え方ができるためには「自分は社会を構成するひとりの大切な存在で、暮らしたい社会に変えていく権利があるし、実際に変えていくことができる」という自己効力感が必要です。だからこそ、日本の子どもたちにも「否定されずに自分の意見を気兼ねなく言える経験」をたくさんしてほしいと思います。
教育体制を今すぐに変えるのは難しい。ですが、学校とは違う形で「民主主義をきちんと考え、語れる場」をつくることはできます。そういう場で学び、「今のままだといけないな」と思う人が少しずつ増えていけば―デンマークでそうだったように―「根本から教育を変えていこう」という動きだって生まれていくはずです。
 ●編集後記
自分という存在の重要さを知ること―それこそが、すべての始まりなのではないか、と感じさせられた。「自分は、この社会を構成する一員なのだ」という感覚や「自分の意見を聞いてもらうことができる」という他者への信頼感がなければ、社会を良くしようなんて思えるはずがない。自分を大切に想い、自らの心身の安全を確保できなければ、同じ時代を生きる人たちにやさしい目を向けることもできないだろう。
「自分の意見は大切、相手の意見も同じように大切」そう気づけたとき、そして「互いにハッピーになるにはどうしたらいい?」という疑問が浮かぶようになったとき──遠いものだったはずの民主主義が、自分ゴトになる。
教育体制を今すぐに変えることは難しいかもしれないが、「否定しない/されない関係づくり」や「制限を活かす発想の仕方」などをヒントにして身の回りに小さな変化を起こすことはできる。
「じゃあ、どうする?」
答えはあなたの中にある。

デンマーク特集#3】「気づいたら、分かってた」が理想。ニールセン北村さんに聞く、デンマーク流・民主主義の学び方 by 木原優佳 2019年4月15日記事
異なる意見を持つ人々どうしで、じっくりと対話しながら答えを探す―そんな「民主主義的な問題解決の方法」を学べる場所がデンマークのフォルケホイスコーレだ。フォルケホイスコーレは17歳以上ならだれでも入学できる全寮制の学校で、それぞれの興味を追求するため年齢も国籍も異なる生徒たちが集まっている。授業はディスカッションが中心で、教室でも寮でもとにかく「対話すること」が大切にされている。暮らしのなかで生徒一人ひとりの「社会」観や「民主主義」観を育むスタイルは、言葉の通りまさに「民衆の・高等学校(=フォルケ・ホイスコーレ)」といえるだろう。
2月末、デンマーク・ロラン島にて、「食」を切り口にフォルケホイスコーレ教育を体験するプログラム「New Nordic Cuisine(ニュー・ノルディック・キュイジーヌ)」が開催された。前回の記事「新しい」北欧料理のワークショップから、食がもたらす豊かさを知るでは5日間のプログラム概要について紹介したが、今回の記事では「企画側の意図」や「プログラムに込められた想い」に焦点を当てていく。
編集部は、プログラム企画者の1人、2001年からロラン島に移住した日本人・ニールセン北村朋子さんにお話を伺うことができた。彼女はロラン島のサステナブルな地域づくりに感銘を受け、地域の再生エネルギー施策や農業、教育について世界中に発信することを決意。以来、島の知名度向上や島外地域との関係づくりに大きく貢献し続けてきた。同僚からは「ロラン島の歴史は、朋子“前”と朋子“後”に分けて説明できる」との声が上がるほどだ。
彼女がプログラムを通して伝えたかったこととは?そして、デンマーク流の学び方の可能性とは?
 ●「食」という切り口から、暮らしを考える
       Q:今回の「New Nordic Cuisine」プログラム開催のきっかけは?
       Q:なぜ、食をテーマに選んだのか?
 ●身近なテーマから、民主主義のあり方を考える
       Q:企画側として特にこだわった点は?
今回のプログラムで、単に料理のレシピを教えたかったのではありません。食というテーマを通して「人と一緒に良い社会をつくる」ということについて考えてもらうのが、大きなテーマでした。
例えばプログラム内の料理セッションでは、料理が得意な生徒も、包丁をほとんど持ったことがないという生徒も、シェフでさえもフラットに参加するシステムです。
最低限のレシピだけが与えられ、絶対的な答えや手本がない状態で、進むべき道筋を明らかにしていく。そのために皆で徹底的に対話する。やるべきことが割り出せたら、できる人ができる部分を担当、協力しながら同じ目標を目指す。……これができなければ、その日の食事にありつくことはできませんでした。「料理をつくる」という一連のプロセスを通じて、民主主義をうまくまわす「体験」をしていた、ということですね。
学校ごとに扱う内容は違いますが、このように一つのテーマを通じて「民主主義のあり方」を考えるのは、どこのフォルケホイスコーレでも同じ大きな目標なんです。その意味でも、フォルケホイスコーレは「民主主義の学校」と言われます。
民主主義と自分とのつながりが分からない状態では、それがいかに大切なものかを知るのは難しいことです。子どもたちが自然に「民主主義ってこんなもの」ということを体得してくれたら、それが一番です。「こういうことができるのも社会のシステムがいい方向に働いているからだ」「こういう社会の仕組みなら、もっとこういうことができる」というような「気づきを得られる機会」をつくることが重要だと考えています。だからこそ、民主主義を学ぶことを目的とするのではなく、身近な題材から考えてみる、ということが必要なんですね。
デンマークでは実際に、フォルケホイスコーレで学んだ人が政治家となり、国を変えていったんです。「良い民主主義とは何か」を普段から考える機会と、考えたことをほかの人とじっくり話せる場があり、そこで学んだ人が少しずつ増えていく……そうすれば、実際に世の中を変えられるのだということを表すパワフルな例ですよね。
 ●大切なのは、皆が納得できる「最上の妥協点」を探すこと
       Q:目指す未来について
       Q:ニールセンさんが考えるフォルケホイスコーレの価値とは?
フォルケホイスコーレという場所では、誰からも否定されません。先生が生徒へ教えるという一方通行の関係ではなく、皆がフラットな立場で向き合います。日本でもそういう雰囲気のなかで、社会について気軽に話しあえる場がつくれるといいなと思うんですよね。
一人ひとりが大切な存在だから、誰もが自分の意見を持てるのは当たり前のこと。違う人間なのだから意見がぶつかるのも当たり前。大切なのは「じゃあどうやってコンセンサスをとっていこうか?」ということ。皆が納得できる「最上の妥協点」を探すこと、それが一番大切なことなんです。デンマークの人たちは、ルールを「自分の自由を制限するもの」ではなく「発想を膨らませていくためのベースライン」として捉えているように感じます。「~してはいけない」というルールがあったら「じゃあ、それ以外のものならいいんだよね?」「どういう方法ならできるかな?」というふうに考えようとする人が多いんですね。考え方を少しだけ変えてみるだけで、世界は変わるんですよ。
とはいっても、そのような考え方ができるためには「自分は社会を構成するひとりの大切な存在で、暮らしたい社会に変えていく権利があるし、実際に変えていくことができる」という自己効力感が必要です。だからこそ、日本の子どもたちにも「否定されずに自分の意見を気兼ねなく言える経験」をたくさんしてほしいと思います。
教育体制を今すぐに変えるのは難しい。ですが、学校とは違う形で「民主主義をきちんと考え、語れる場」をつくることはできます。そういう場で学び、「今のままだといけないな」と思う人が少しずつ増えていけば―デンマークでそうだったように―「根本から教育を変えていこう」という動きだって生まれていくはずです。
 ●編集後記
自分という存在の重要さを知ること―それこそが、すべての始まりなのではないか、と感じさせられた。「自分は、この社会を構成する一員なのだ」という感覚や「自分の意見を聞いてもらうことができる」という他者への信頼感がなければ、社会を良くしようなんて思えるはずがない。自分を大切に想い、自らの心身の安全を確保できなければ、同じ時代を生きる人たちにやさしい目を向けることもできないだろう。
「自分の意見は大切、相手の意見も同じように大切」そう気づけたとき、そして「互いにハッピーになるにはどうしたらいい?」という疑問が浮かぶようになったとき──遠いものだったはずの民主主義が、自分ゴトになる。
教育体制を今すぐに変えることは難しいかもしれないが、「否定しない/されない関係づくり」や「制限を活かす発想の仕方」などをヒントにして身の回りに小さな変化を起こすことはできる。
「じゃあ、どうする?」
答えはあなたの中にある。
デンマークが教えてくれる持続可能な都市経営5つの視点
https://note.com/output_shukan/n/n1e556f6fcbb4
 by shunsuke kaminaka@都市経営 2021年1月15日記事
デンマーク・川崎市の都市経営について、ニールセン北村さんと対談させていただきました。
デンマーク ロラン島在住の北村さんは、ジャーナリスト、国賓クラスの通訳、デンマークの教育機関で食のフォルケホイスコーレの立ち上げといった幅広い分野で活躍中です。
幸福度ランキングで常に上位にある国で有名ですが、(2020年はデンマーク2位、日本は62位)
幸福の一言には表せない、ものすごく洗練された社会システムがありました。そして日本と私たちの、未来へのメッセージも。
今回は、北村さんからのお話、そして中島健祐さんの書籍から、デンマークを都市経営の視点で紹介したいと思います。
はじめに
 ・デンマークとは
 ・電力自給率800%のロラン島
 ・「デザインDNA」と4方よし
1.複合的に課題を解決するパブリックデザイン
 ①ゴミ処理場から健康、教育、熱供給
 ②移民の文化が共存する公園
 ③歩行者専用空間と自動車のあり方
 ④食からアプローチする地球環境
2.本質や課題解決を学ぶ教育
 ①デンマークの教育
 ②レゴブロックに学ぶアプローチ
3.デンマークにおける社会でのアプローチ手法
 ①PPP(トリプルヘリックス)
 ②デザイン・ドリブン・イノベーション
 ③Denmark design center(DDC)
4.都市と地方の関係をデザインする
5.改めて問われる日本の民主主義
  (デザインコンサルティング『ロフトワーク』HPから by 岡田恵利子  2020年6月13日記事)
    プレゼン3つに共通していたデンマークらしい民主主義の話
    1. デンマークの参加型デザイン・共創の現場あれこれ
    2. インキュベーション施設 Institut for (X) と、そこで実践されていた民主主義的建築
    3. デンマークの教育事情と世界一の学生寮 Tietgen での生活風景

 
デンマークにおける「共創・参加型デザイン」についての事例を紐解きながら、日本における共創・参加型自治が生まれる場作りについての可能性を議論します。……Withコロナ/Afterコロナ における、デンマークの状況・対応についても触れながら、自分たちの暮らしや仕事のあり方を自分たちごととして納得しながらデザインすることが上手なデンマークから、日本に活用できるヒントを探ります。

SDGsフォーラム「SDGsと脱炭素社会の未来」 10月17日

東洋学園大学「SDGs 教育プログラム開発研究プロジェクト」主催SDGsフォーラム「SDGsと脱炭素社会の未来」をウェビナーで視聴しました。講師は、ニールセン北村朋子氏さん、井田徹治さん、辻井隆行さんでした。3月21日に開催された2020年度第2回東松山市市民環境会議(Zoom講演会)でニールセン北村朋子さんの講演「協働で進めるデンマークの環境まちづくり」に触発されて、デンマークやドイツの環境政策等を学んできました。
ニールセン北村朋子さんの講演スライドから
 1.SDGs~持続可能な開発目標とは~ 世界で今何が起こっているのか?
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 2.デンマークの教育とSDGs どのような教育が行われている?
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 3.デンマークの企業とSDGs 企業や自治体、組織のSDGsへの取り組みと考え方
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辻井隆行さんの講演で紹介されたネットの記事
「物欲を満たす=幸せ」という誤解。幸せになれない9つのワケ(『TABI LABO』2017/05/13記事 by Yuki Ikeda )
 01.カタチあるモノはいつか壊れる
 02.どんな最新モデルもすぐに時代遅れになる
 03.心配事が増える
 04.モノにはメンテナンスが必要
 05.お金の価値は思っている以上に高い
 06.他人からの目を気にしてしまう
 07.他人の持ち物を気にしてしまう
 08.モノで人は満たされない
 09.経験は買い物よりも価値がある
 最後にひとつ
ミニマリストとして、最後に1つだけ。ミニマリストは自分の物欲を否定するものではありません。自分の物欲に再度、問いかけるのです。「それは本当に必要なもの?」と。
私たちには、モノより大切なものがたくさんあります。愛、友情、正義、社会貢献…。ミニマリストの目標は、自分の大切なものや幸せを自分の価値観で探すことなのです。
 この記事の元になった「becommingminimalist」のJoshua Beckerさんの
And 1 Thing that Might
Adyashanti, the American-born spiritual teacher, offers a theory as to why the acquisition of new possessions provides only a temporal feeling of happiness. He explains it this way:

    When we make a purchase and/or get what we want, we are temporarily happy and fulfilled. But the reason for happiness is not because we got what we wanted, but because for a brief period of time, we stopped wanting, and thus we experience peace and happiness.

On the topic of buying stuff, his thoughts are helpful. And I have repeated his theory dozens of times in private conversations. Of course, the natural conclusion of this thinking is to limit our desires and wants—to find peace and happiness by not wanting.

But for me, this conclusion falls short.

The goal of minimalism is not to remove desire entirely from my life. Instead, the goal of minimalism is to redirect my desires.

There are valuable pursuits available to us: love, justice, faith, compassion, contribution, redemption, just to name a few. These should be pursued with great fervor. But far too often, we trade the pursuit of lasting fulfillment for temporary happiness. We can do better. We can dream bigger.

Redirect your desires toward lasting pursuits. Find happiness there.

You will never find the right things looking in the wrong places.

②堀田秀吾「ハーバード大75年の追跡調査「人間の幸福と健康」を高めるたった1つの方法 1人でも「信頼できる人」がいるか」(PRESIDENT Online 2021年4月30日配信記事)
幸福で健康な人生を歩むにはどうすればいいのか。言語学者で明治大学教授の堀田秀吾氏は「ハーバード大学の75年間にわたる追跡調査によると、人間の幸福や健康は、年収、学歴、職業と直接的には関係ない。関係があったのは『いい人間関係』だった」という。
人間の幸福度は「年収、学歴、職業」では決まらない
明るくハッピーな友人がいると幸福度が上がる
見栄や世間体を重視した付き合いはムダでしかない
「何事もポジティブシンキング」は間違っている
「ネガティブを自覚すること」から始める
「状態を客観的に認識して、意識をそらす」
「ポジティブな態度」を習慣化する
笑顔をつくると脳が「楽しい」「嬉しい」という錯覚を起こす
意識しないと、人の表情はかなり無愛想
※堀田秀吾『最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方』(サンクチュアリ出版)の一部を再編集した記事。
   

   考えないのは愚か 考えすぎるのも愚か

クワガタの幼虫 6月4日

川越市の松本さんからクワガタの幼虫をいただきました。最後まできちんと飼いましょう。
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NHK for School ど~する?地球のあした

scene01 クワガタの世界に起きていることって?
今日のお話は、こん虫の王様ともいわれるクワガタについてです。今、このクワガタの世界にたいへんなことが起こり始めているのです。小島啓史さんは、子どものころから40年以上もクワガタをかいつづけているクワガタ研究家です。クワガタが森のどこにいるのか、とてもよく知っています。小島さんに案内してもらったのは4月の半ば。クワガタはこの時期、かれ木の中でたまごからかえって育ちます。実は、かれ木の中でクワガタが成長していくことが、森にとってとても役に立つのです。

scene02 森が生まれかわるのに必要なクワガタ
たまごからかえったクワガタの幼虫は、まわりの木を食べます。食べた木はクワガタの体の中にいる微生物によって、空気にふくまれる窒素というものといっしょになり、とても栄養のあるウンチになります。これがさらにまわりの窒素とむすびついて、クワガタの巣は、栄養たっぷりのウンチでいっぱいになります。クワガタのいた木は、やがて土になります。そしてこの土で新しい木が成長し、森が生まれかわるのです。クワガタは森に必要な生きものなのです。

scene03 毎年100万びきが輸入されている!
森にとって大切なクワガタ。でも、最近心配なことが起こっています。日本には、外国からいろいろなものが運ばれてきます。ずらりとならんだ黒いもの。実はこれ、生きているクワガタです。今、日本で大人気のクワガタは、毎年およそ100万びきが東南アジアなどから輸入されています。しかし、かう人のなかにはとちゅうで外に放してしまう人も出てきました。やがて、本来いるはずのない日本の森に、外国のクワガタが入っていくようになりました。

scene04 外国産クワガタと日本産クワガタ
国立環境研究所では、外国から入ってきた生きものが日本の自然環境にあたえるえいきょうを調べています。外国産のクワガタを研究している五箇公一さんは、外国のクワガタと日本のクワガタはいっしょにくらすことはできないと考えています。「東南アジアなどからやってくるクワガタは体も大きく、力も強い。性格もあらいのです」。台湾のオオクワガタと日本のオオクワガタを同じ場所においてみます。すると、日本のオオクワガタはおさえこまれて動けなくなってしまいました。

 scene05 最後まで責任をもってかおう
小島さんは、外国のクワガタが森に入ることで、日本の自然に悪いえいきょうが出るのではないかと考えています。「地元でつかまえたものをもとのところに帰してやるのならいいのですが、フィリピンとかアフリカからつれてきたものを日本で放してしまうと、地元にもともといた日本産のクワガタやカブトムシを全部追いはらって、そこをひとりじめしてしまうかもしれません」。自分でかった生きものは最後まで責任をもってかいましょう、ということだと小島さんは言います。

scene06 ペットとして輸入された動物が…
実はもう、日本の自然をあらしている外国の動物がいます。本来、北アメリカにすんでいるアライグマです。今から30年ほど前、アライグマを主人公にした本やテレビアニメが日本でブームになると、アライグマはたちまち人気者になり、ペットとしてたくさん輸入されました。しかしアライグマは成長すると気があらく、凶暴になります。かいつづけられなくなった人たちが森に放してしまうということが起き、すてられたアライグマが畑や民家をあらしたりするようになりました。

scene07 日本の自然をあらしているアライグマ
山あいのゆたかな自然がのこる神奈川県横須賀市。金田正人さんは、このあたりの自然環境を長いあいだ観察しています。もともとこのあたりはイモリやサワガニ、トウキョウサンショウウオなどの動物がたくさんくらしていました。そうした動物がめっきり少なくなっています。「毎年ヤマアカガエルがたくさん集まってたまごをうんでいた場所も、全部アライグマにほりかえされて、たまごを見かけなくなってしまいました」。今、アライグマは各地でつかまえられています。

scene08 ふえすぎないようにする方法をさぐる
北海道にある酪農学園大学には、一年に500頭以上のアライグマが送られてきます。そして、ここで処分されます。つかまえた場所を記録し、年れいを調べ、どの地域で子どもがたくさん生まれているかを調べます。的場さんはこうした研究を通して、アライグマがふえすぎないようにする方法をさぐっています。「ころしたくないという気持ち。でも日本の生態系を守るためにしなければいけないことなんだという気持ち。むじゅんした気持ちです」。

scene09 悪いのはアライグマ?
アライグマが日本の自然におよぼすえいきょう。でもそれはアライグマのせいなのでしょうか。アライグマも、生きていくために畑に入ったり魚をとったりしているのです。すきで日本にやってきたわけではない。そう考えると、つれてこられたアライグマも被害者です。外国から日本にやってきた生きものは、植物も合わせると全部で83種もいます。ザリガニやカメのほとんどは外国から来たものになっています。日本の自然にえいきょうをあたえる外国の生きものたち。この問題を見て、みなさんはどう思いましたか。
環境儀№18ヒラタクワガタの分布拡大経路

アジアに生息するヒラタクワガタ地域系統
 ●研究者に聞く  生物多様性への影響を遺伝子組成にまで踏み込んで解明(五箇公一)
  1: 生物多様性と外来生物の影響
  2:クワガタムシの系統樹からわかったこと
  3:ハウスから逃げ出して野生化するのが問題
  4:生物多様性の保全には当事者の理解が基本
 ●輸入昆虫の生態影響評価研究の成果から - セイヨウオオマルハナバチとヒラタクワガタを例として
 ●外来生物問題、世界の視点と動向研究をめぐって
 ●「生物多様性の減少機構の解明と保全プロジェクト」の全体構成


クワガタブーム (フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』から
『クワガタブーム』とは1990年代後半より始まった日本産オオクワガタ、外国産クワガタを中心とした飼育、販売のブームである。子供から大人までを巻き込み、一時はオオクワガタの大きさを巡って大型個体が高額で取り引きされるなどマスコミにも取り上げられ大きな話題となった。
概要:1990年代中頃、菌糸によるクワガタムシの幼虫飼育法が確立、ビンに入った幼虫の餌が流通し始めるとこれまで困難であった成虫を産卵させて再び次世代の成虫まで育てる累代飼育が手軽になり、一気にファン層が広がる。またこの方法は天然には存在しえない程の大型個体を生育する事が可能であり、それまでオオクワガタを筆頭に大型や採集困難であった種の生体が高額で取り引きされていたこともあり、投機目的も絡んでクワガタ飼育が一気に大ブームとなる。さらには植物防疫法の改正によりこれまで禁止されていた外国産クワガタ、カブトムシの輸入が解禁され外国産のクワガタが流通しはじめるとブームにさらに拍車をかけた。やがて飼育ノウハウの普及やショップの乱立により流通個体が増加し価格は沈静化、一時のブームは収まったが過剰な採集圧による自然での生育環境の破壊、ショップの過剰在庫や飼育に飽きた個体の自然への放虫による遺伝形質の混乱等の問題を残しながらも クワガタの累代飼育が趣味として定着する基盤となった。

imidasオピニオン2008/08/08 クワガタムシ好きの日本人がクワガタムシを滅ぼす
五箇公一「10時間で破壊される500万年の進化の歴史  
2000年以降、急速に輸入量が増加して、一大飼育ブームを巻き起こした「外国産クワガタムシ」。現在でもその熱は冷めることなく、毎年夏休みになれば、ペットショップやデパートで、雌雄のペアが大量に販売されている。これほどまでにクワガタムシを愛する国民は、世界広しといえども、日本人だけである。しかし、この日本人のクワガタ愛好心が日本の、そして世界のクワガタの衰退を招く恐れがある。
●外国産クワガタムシの飼育ブーム
●外来生物としてのクワガタムシ
●人的な介在でもたらされた新たな雑種個体
●原産地の生物多様性や経済にまで影響
●日本人のクワガタムシ好きは日本人の固有性
●「生き物」の輸入や売買は自然の法則の逸脱

※五箇公一さんの『クワガタムシが語る生物多様性』(発行:創美社、発売:集英社、2010年)の第3章、6章、7章を読み直しました。
  五箇公一『クワガタムシが語る生物多様性目次
第1章 「生物多様性」とは何か?
第2章 生物多様性が危ない
第3章 クワガタムシが語る生物多様性
デパートへ虫捕りに行く時代/クワガタムシの輸入解禁/外国のクワガタムシがやってきた!/クワガタムシのDNA/クワガタムシの家系図/ヒラタクワガタのフランケンシュタイン化? 雑種誕生/なぜ雑種が問題なのか?/外来生物法の登場/外国産クワガタムシの受難/日本人は世界一のクワガタムシ好き/日本人はなぜクワガタムシが好きか-里山クワガタ論/日本人と生物多様性
第4章 マルハナバチが語る生物多様性
第5章 ミジンコが語る生物多様性
第6章 ダニが語る生物多様性
ダニの多様性/ハダニの薬剤抵抗性/ハダニの遺伝的多様性/ハダニの海外旅行?/ハダニの進化的重要単位の危機!? 植物防疫システムの崩壊/クワガタのダニ/ダニCGの切手
第7章 カエルが語る生物多様性
カエルの病気/カエルツボカビ日本上陸?/カエルツボカビの起源は日本か?/日本産カエルツボカビのリスク評価/海を渡ったカエルツボカビ/感染症の流行にも生物多様性の撹乱がからむ/目に見えない生物多様性・寄生生物との共生/カエルの未来と人間の未来
  浅川満彦「書評 五箇公一著『クワガタムシが語る生物多様性』」
この問題[外来種問題]を扱ったこれまでの書籍とは異なり、農業振興や新規の愛玩あるいは実験動物などの目的で日本に持ち込まれた動物群とそれに寄生する病原体が自然生態系のリスク因子となっているという主張である。見落とされがちであるが、プリオンやウイルスなど一部例外を除けば、多くの病原体もやはり生物なので、やはり外来種の範疇に入ると啓蒙している。評者も、爬虫類・鳥類・哺乳類などの動物とその蠕虫類との進化的な固有の歴史の中で醸成された宿主-寄生体関係が、外来種の介在で撹乱されつつあるという点を疫学という手法で追いかけているので、非常に参考になった。この手の研究は、基盤となる在来の寄生生物相を押さえるのが重要な鍵なのだが、時間も手間もかかる。その間、外来種がどんどん入り込み、何が在来なのか、それとも外来なのか決めがたい状況になった。そういった時間がかかる研究も、外来種問題がクローズアップされ一気に進行することもある。その実例が両生類のツボカビ類である(7章)。両生類保全という視点で急速に調査研究を展開していたら、なんと、外来病原体と信じられていたこの真菌が、実は日本列島で分岐した可能性があるという。このどんでん返しは驚嘆させられた。……(『生物科学』第63巻第3号、2012年)
最後まできちんと飼おうね_1外国種に注意(鹿児島県立博物館、2017年)_1さがみはら生物多様性ネットワークニュース13_1

※【TVでおなじみ、ダニ博士が語る】(YouTube、2020年4月12日公開、17:19)
                       


日本都市計画学会シンポジウム 3月13日

日本都市計画学会の『東日本大震災10周年シンポジウム』の第1回「福島復興の実像と虚像」がオンラインで開催されました。講演は、川﨑興太「福島復興の到達点と今後の課題」(福島大学准教授)、窪田亜矢「災後をどう理解できるか?」(東京大学特任教授)、今井照「『復興』の蹉跌 ―『原発避難論』再論」(地方自治総合研究所主任研究員)。話題提供は、佐⽵浩「福島復興の現状と課題 ―県庁職員の視点から」(福島県監査委員(元農林水産部長・元企画調整部長))、西﨑芽衣「楢葉町の"いま" ー東日本大震災から10年を経て」(一般社団法人ならはみらい)。前出の5氏と加藤孝明(東京大学教授、コメント)氏でディスカッション「都市計画は原子力災害からの復興に何ができるのか?何をしない方がよいのか?」がありました。福島県『復興・再生のあゆみ(第3版)』(2020年12月25日)が参考にあげられていました。
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3月6日には日本建築学会シンポジウム『東日本大震災10周年を機に頻発する複合災害を考える』が開かれており、第4ワーキンググループ(WG4)のワークショップ「原発事故による長期的な放射能汚染被害地域での建築・まち・むらづくりをどのように進めるか」で中間報告書が提示されている。事前資料(PPT版)から抄録します。川崎、窪田氏はGW4のメンバーです。
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鈴木宏昭『認知バイアス』 2月16日

鈴木宏昭さんの『認知バイアス 心に潜むふしぎな働き』(講談社ブルーバックスB-2152、2020年10月)を読みました。
認知バイアス
「なぜあの時あれを見逃してしまったのか」「なぜこんなものを買ってしまったのか」「どうしてあんな簡単な問題が解けなかったのか」-誰しもが日常的に経験しているであろう、なぜか誤って認識したり、いつもならするはずのない判断や行動。それはなぜ起こるのか。このようなふつうの行動に現れる心の働きの偏り、歪みのようなものである「認知バイアス」について、わかりやすい事例を挙げて解説。
認知バイアスという言葉は、心の働きの偏り、歪みを指す。ただしだからと言って、精神疾患などに見られる心の働きを指すわけではない。こうした疾患を持たない人たちの行動の中に現れる偏りや歪みに対して認知バイアスという言葉が用いられる。(はじめに4頁)
本書ではバイアスを列挙するのではなく、また人は愚かですねと嘆いたり、驚いてみせるのでもなく、人の認知の仕組みとそれが用いられる状況の双方から認知バイアスに迫っていこうと思う。(はじめに5頁)
人間の認知は、本質的にこうしたブリコラージュのようなもの[あり合わせのもので、とりあえず必要なものをこしらえるようなこと]と考えることができる。私たちは将来のことはあまりうまく予測できないので、将来起こる可能性があることに対し事前に準備しておくことは困難だ。だからあり合わせのものでなんとかしのぐしかないのだ。こうした次第だから、認知はエレガントではないことも多い。また、非効率きわまりないことをやらざるを得ない場合もある。でも、それが認知の姿なのだ。(第9章⑧246頁)

鈴木宏昭『認知バイアス 心に潜むふしぎな働き目次
はじめに
第1章 注意と記憶のバイアス チェンジ・ブラインドネスと虚偽の記憶
  ①注意は限られている
  ②注意をしても見えない
  ③2種類の注意
  ④記憶のバイアス、改変
  ⑤目撃者証言を考える
  ⑥見えてもあるとは限らない
  ブックガイド
第2章 リスク認知に潜むバイアス 利用可能性ヒューリスティック
  ①人は起こりやすさをどう推定するか
  ②少ないことは多め、多いことは少なめ
  ③リハーサル効と利用可性性ヒューリスティックの起源
  ④メディアと利用可性ヒューリスティック
  ⑤記憶に作用する諸々の要因
  ⑥ヒューリスティックの誤作動と逆利用
  ブックガイド
第3章 概念に潜むバイアス 代表性ヒューリスティック
  ①連言錯誤
  ②概念とカテゴリー
  ③カテゴリー化を支えるブロトタイプ
  ④ブロトタイプはどう作られるか
  ⑤サンプリング
  ⑥代表性ヒューリスティック
  ⑦社会的ステレオタイプ
  ⑧心理学的本質主義
  ⑨帰属と対応バイアス
  ⑩代表例が役立つ時、間違う時
  ブックガイド
第4章 思考に潜むバイアス 確証バイァス
  ①論理からの逸脱〜4枚カード問題
  ②確証バイアス〜2-4-6の後には何が続くか
  ③第一印象
  ④因果関係と確証バイアス
  ⑤確証バイアスはなぜ生まれるか
  ⑥仮説検証のためのデータ選択
  ⑦初歩的な問題を間達いに導くものとは
  ブックガイド
  コラム 因果関係についてのバイアス
第5章 白己決定というバイアス
  ①欲求・意図・自由意志
  ②行動の本当の原因は自覚できない
  ③伝染する意図、日標
  ④好き嫌いの原因も意識できない
  ⑤私たちは脳の奴隷なのか
  ⑥現代の無意識研究
  ⑦人はなぜ宇宙人に誘拐されるのか〜作話の正体
  ⑧さまざまな因果とその服用
  ⑨意恵と行動、そして意図を超えて
  ブックガイド
第6章 言語がもたらすバイアス
  ①言語のもたらすもの
  ②言語は記憶を阻害する
  ③言語は思考を停滞させる
  ④言語は絵を下手にする
  ⑤言語の苦手科目
  ⑥世界と言語
  ⑦武器としての言語、害につながる言語
  ブックガイド
  付録
第7章 創造(について)のバイアス
  ①想像を阻む制約
  ②制約を緩和する多様性
  ③制約を緩和する評価
  ④徐々にひらめく
  ⑤知らないうちにひらめく
  ⑥失敗が見方の変化を促す
  ⑦イノベーションを考える
  ⑧創造の女神が徴笑むのは
  ブックガイド
第8章 共同に関わるバイアス
  ①集合知をどう考えるか
  ②同調〜右へならう心
  ③共同を阻害する要因
  ④分散、分業がもたらすもの
  ⑤共感というバイアス
  ⑥1たす1は2にならない時に起こること
  ブックガイド
第9章 「認知バイアス」というバイアス
  ①二重過程理論の間題
  ②直感の方がうまくいく
  ③認知の文脈依存性
  ④限定合理性と生態学的妥当性
  ⑤心理実験のワナ1~別の問題を解いてしまう
  ⑥心理実験のワナ2~言葉の裏を読んでしまう
  ⑦愚かさを裏側から考える
  ⑧修繕屋としての知性
  ⑨現代社会とバイアス
  ⑩人の知性、そしてAI、チンパンジー
  ブックガイド
おわりに 結局、人は賢いのか、バカなのか
さくいん


 


田野大輔『ファシズム教室』 2月15日

田野大輔さんの『ファシズム教室 なぜ集団は暴走するのか』(大月書店、2020年4月)を読みました。
ファシズム教室

田野大輔『ファシズム教室 なぜ集団は暴走するのか目次
ほじめに
第1章 ヒトラーに従った家畜たち?
 1 小さな権力者たちの暴走
  「大衆運動」としてのナチズム
  ブロパガンダ論の限界
  末端の権力者を突き動かすもの
  権威への服従がもたらす「自由」
  ユダヤ人迫害のメカニズム
  「水晶の夜」の暴動
 2 「民族共同体」という理想郷
  階級のない「公正」な社会
  「喜び」を通じて「力」を
 3 統合の核としての指導者
  『意志の勝利』に見るにヒトラー
  「アイドル」としてのヒトラー
  「普通の人間」のイメージ
 4 大量殺戮への道
  「異分子」の排除とホロコースト
  「悪の陳腐さ」
  「彼らは自由だと思っていた」
 コラム 水晶の夜
 コラム 悪の陳腐さ
第2章 なぜ「体験学習」なのか?
 1 「体験学習」が生まれるまで
  『ウェイブ」の衝撃
  授業化にあたっての課題
  暴走の疑似体験
 2 「社会意識論」のテーマ
  普通の人間の残虐行為
  ミルグラム実験
  「権威への服従」がもたらすもの
 3 「体験学習」の概要
  投業の流れ
  授業のねらい
 コラム ミルグラム実験
第3章 ファシズムを体験する
 1日目
  受講にあたっての注意
  独裁とは?
  独裁に不可欠なもの
  拍手で指導者を承認
  ナチス式敬礼
  独裁を支える団結
  共同体の力
  ここまでのまとめ
  席替えで受講生を分断
  制服
  ロゴマーク
  集団の目的
 2日目
  ほぼ全員が制服を着てくる
  再び糺弾の練習
  前回の復習
  柄シャツ登場
  ワッペン作成
  グラウンドに整列
  隊列行進
  リア充の糺弾
  意識の変化を書かせる
 コラム ナチ党大会の実態
第4章 受講生は何を学んだのか?
 1 受講生のレボートからわかること
  高い参加意欲
  レポートの概要
  典型的な感想
 2 デブリーフィングで学ぶこと
  3つの論点
  ①集団の力の実感
  ②責任感の麻痺
  ③規範の変化
  日常の間い直し
  危険性の認識につなげる
 3 ファシズムの正体とは?
  ファシズムの「魅力」
  集団行動の快楽
  ファシズムが生まれるとき
  「正義」の暴走
 コラム ホロコースト
 コラム ナチ体制は全体主義国家なのか?
第5章 「体験学習」の舞台裏
 1 「体験学習」の工夫と注意点
  ①主体的な関与を促す指示
  ②共通の制服とワッペン
  ③ナチス式の呼称と敬礼
  ④ネタの過剰演出
  ⑤事前の入念な準備
  ⑥状況に応じた適切な指示
  ⑦実習の場所の設定
  ⑧実習の期間の限定
 2 「体験学習」の教育的意義
  主体的な学び
  座学の重視
  台本の役割
  集団行動の危険性を学ぶ
  民主主議育の限界
 3 「体験学習」が直面する課題
  否定的な価値を学ばせる
  「寝た子を起こすな」論
  意義をを理してもらうこと
 コラム 青い目、茶色い目

第6章 ファシズムと現代
 1 ポビュリズムの時代
  現代に蘇るファシズム
  生の実感を取り戻す
  ポピュリズムの危険性
  「正論」の限界
 2 日本の不寛容な空気
  「HINOMARU」騒動
  「右も左もない愛国心」
  「政治的正しさ」への反発
  ヘイトの動機
  ファシズムに抗するには?
  「責任からの解放」
 コラム ネット右翼
 コラム ヒトラーは社会主義者なのか?
おわりに


※永月「ファシズムの体験学習に行ってきた話」(『九月の断章』ブログ、2018年9月6日)
 

 3 結果
 授業実施後に受講生に課したレポートから、彼らの多くがこの体験学習を通じて次の3点を驚きをもって認識したことが明らかになった。①集団の力の実感。集団で一緒に行動すると、自分の存在が大きくなったように感じ、集団に所属することへの誇りやメンバーとの連帯感、非メンバーに対する優越感を抱くようになること。制服やシンボルマークといった単純な仕掛けによって、そうした意識が強まること。②責任感の麻痺。指導者から指示されたから、あるいは他のメンバーもみんなやっているからという理由で、普段ならけっしてやらないようなことでもやってしまうこと。個人としての判断を停止して、指示されるまま集団にあわせて無責任に行動してしまうこと。③規範の変化。最初は恥ずかしかったり、こんなことをやるのはおかしいと思っていたのに、集団にとけ込むことで恥ずかしさを感じなくなり、ちゃんとやっていないメンバーに苛立ったりするなど、集団で一緒に行動することを義務のように感じはじめること。

田野大輔研究業績リスト(Daisuke Tano′s Website『dTANo.Mac』から)

五箇公一『これからの時代を生き抜くための生物学入門』 11月26日


五箇公一さんの『これからの時代を生き抜くための生物学入門 ~生物学を学べばヒトはもっと強く、もっと優しくなれる~』(辰巳出版、2020年9月)を読みました。
生物学入門

五箇公一『これからの時代を生き抜くための生物学入門目次
第1章 性のしくみ
 オスとメス、性って一体なに?
 生物は進化を続けないといけない運命である
 生物は進化を繰り返して、今に至る
 ウイルスに対抗する画期的な進化=性の分化
 カタツムリはオスとメスが同じ? 雌雄同体の生物たち
 オスは受精するためのスイッチ!?
 「退化」も進化の一種である
 性淘汰の中でオスは不要とならないよう頑張る……
 ダニの世界にもあるオス間闘争
 オスはあえてハンディキャップを背負う
 DNAのコピーミスは単なる失敗ではなく、進化の礎だった
 生物学的にはオスは悲しい生き物だった
 哺乳類最大級の精子を持つフクロミツスイ
 人間も大昔は乱交をしていたのか?
 “セックス”は生物学で一番面白いテーマ
 生物学の巨人・ダーウィンが唱えた進化論とは
 働きアリの怠け者にも生きる意味がある

第2章 生物学からみる人間社会
 男性の草食化は生物学的な「ひずみ」なの?
 実は草食化はモテるための手段!?
 少子化の果てに待ち受けるもの
 社会の成熟と夫婦関係の変化
 一夫一妻制は幻想?
 「女性が不倫男を嫌う」のは生物学的に正しい
 生物学から考える同性愛
 人間と動物の大きな違いは「利他的ヒロイズム」の有無である

第3章 遺伝
 「遺伝」とはわずか4つの塩基の組み合わせ
 教科書にあった「メンデルの法則」をもう一度
 「ハゲは隔世遺伝する」は迷信なのか!?
 遺伝子検査でガンにかかる確率がわかる!?
 親から子に遺伝するものはどこまでわかっている?
 ウイルスを超える!? 狂牛病の原因プリオン
 今の科学技術で人間のクローン作成は可能なのか?
 iPS細胞が可能にする夢の再生医療
 米国産遺伝子組み換えナタネが日本を襲う!?
 遺伝子工学は取り扱い注意なテクノロジー
 遺伝子だけによって人生が決まるわけではない

第4章 遺伝子優生論
 優生学の裏に潜む危険思想
 優生学を人間社会に当てはめてはいけない
 人間は自然淘汰に逆らい、助け合うことで生き残った
 「奇人・変人」を排除すべきではない

第5章 生物の多様性
 生物多様性があるから人間社会はここまで発展できた
 かつてないペースで生物種が消える大絶滅時代
 増える種と減る種~スーパーラットとゴキブリの都市化
 木造建築こそが究極のリサイクルだった
 かつては里山が生物多様性を支えていた
 「地方の過疎化によって、自然の開発が停止する」(147~150頁)
 そのことが生物多様性の劣化を招くという話は、多くの人にはピンとこないかもしれません。
 人間がいなくなった方が自然は豊かであり、生物多様性も高くなるのではないのか? そう思われる方もいると思います。たしかに人間がいなくなれば自然のまっとうな生物多様性が、そこに維持されますが、そこでは人間社会は維持することは難しくなります。
 人間社会と生物多様性の関わりの中では必ずしも開発=悪とはなりません。日本の場合、本来の手付かずの自然環境は、ブナやタブノキなどの陰樹(光に対する要求性が比較的低い樹木)で構成される極相林に覆われ、暗い森になってしまい脆弱な人間が生活の場とするには、厳しい自然環境になります。
 生物多様性との共生で目指すものは手付かずの自然ではなく、人間が生きていける空間作りです。日本人は、古くから森を利用してきました。やがて森を加工し、水田や畑などの農耕地や居住のための開放空間を確保するようになり、その周りに自らの手で森を作り、奥山(自然林)、雑木林、里地という異なる生態系がつながりを持つ里山を作り上げてきました。
 この生態系の空間的異質性がさまざまな動植物の生息空間を提供しました。人間自身はそれらの動植物が生産する資源や生態系機能を享受して生活を維持してきたのです。
 例えば、古くは縄文時代から、日本人たちは森でドングリを食料として採取し、木を伐採して薪とし、一部では、栽培種のクリやウルシを植えて利用していたと考えられています。
 里山が発達してくると、雑木林に生えているアカマツは、建材に利用される他、枝低木は燃料に、さらにその灰は田畑の肥料に利用されていました。クヌギやナラなどの落葉樹も10年から20年ごとに切りやすい低い高さで伐採し、薪や木炭に利用して、落ち葉を掻き集めて堆肥にしました。雑木林の林床や林縁で採れる木の実やキノコ、山菜、野草は、季節の旬を味わう食料にもなりました。そして奥山からたまに里山へ降りてくるシカやイノシシ、クマなどは、貴重なタンパク源として利用されていたのです。
 このように、日本人は自然に手を加え、それを持続的に管理することで、自然との共生社会を完成させて、実に縄文の時代から1万年もの間、この狭い島国の中だけで完結して生きてきたとされます。
 そんな自然共生社会としての里山が、今では都市開発の裏側で放置・放棄され、劣化が進んでいます。
 人間の管理を離れた耕作地は、元の生態系に復元されるのではなく、外来種の雑草が入りこんで繁茂し、また、雑木林も長期間放置された結果、樹高の高い巨木が占拠し、林床には耐陰性の常緑樹種やササ類が茂っています。この様な状態ではカタクリなどの林床植物や草花に訪れる昆虫類、そのほかの小動物が生息できず、生物多様性の劣化することになります。
 さらに、人間が住む里地と野生動物が住む奥山の間に位置する「バッファー・ゾーン」であった里山が放置されることで、シカやイノシシなどが平野部にまで進出してくる機会が増加し、農業被害や人間を襲うなどの被害が続出するようになりました。このまま里山の過疎化と放棄が進めば、人間社会が野生動物の襲来に圧迫されるのではないかと危惧されています。
 今後、経済成長が見込めない日本は鎖国するしかない!?
 環境のために個人ができることは「地産地消」
 グローバル化の象徴である外来生物
 外来種だけを悪者にしていいのか?
 フランスでは年間15名が死亡しているツマアカスズメバチ
 温暖化に比べると生物多様性の対策は数段遅れている(170~177頁)
 外来生物が侵略してくる、といいますが、実は外来生物は、人間が自ら引いたロードマップに乗っかって、動かされているにすぎないのです。
 私は立場上、そして職務上、外来生物を駆除し、環境を保護することを目標としています。しかし、研究者として、今の外来生物対策が本当に自然科学として正しいことなのかどうか考え込んでしまいます。
 本来いなかったはずの生物が異常に増えて、何らかのハザードやリスクが生じているのであれば、その数を減らす努力をすることが先決です。しかし、外来生物を増やしている原因が人間の活動にある限り、ある外来生物を根絶できたとしても、またすぐに違う外来生物が侵入してきて増加することは続きます。
 現在、生物多様性の保全が世界中で声高にうたわれていますが、ベース(理想)となる生物多様性とはどんな状態なのか、という定義すら曖昧なままです。だから、保全目標自体が人間の価値感に左右され、外来生物も人の嗜好性によって大事にされたり、悪者にされたりします。
 例えば、今、新潟県佐渡島で放鳥されているトキは元を正せば中国産です。野生復帰プロジェクトが行われている兵庫県豊岡市のコウノトリも外来個体が起源です。でも、みんな増やすために大事に育てている。これは明らかに人間もしくは人間社会の価値感に基づくものです。
 外来生物駆除のベースも、究極的に、原始自然だとすれば、それは人間がいない状態の環境となります。しかし、その究極解は人間の存在を否定する論理であり、人間のための科学として成立しません。
 結局、外来生物を駆除すべきかどうかは、その地域の自然の持ち主である地域住民たちが考えて合意形成をするべき問題だと思います。住民がその存在に対してNOという合意を得たら、その外来生物は駆除すべきとなります。生物多様性の基盤となるのはローカルな自然であり、それらはそこに住む人たちの共有財産でもあります。だからこそ生物多様性の保全を地域ごとに、地域ぐるみで、地域住民主体で議論することが一番大事だと思うのです。
 「生物多様性」という概念は、実はいろいろな人たちのそれぞれのエゴで形成されており、その嗜好性の多様さゆえに、解決の緒を見つけにくくなっています。
 研究者の中には、「遺伝子資源として日本の生物を全て残さなければならない」という価値感を持つものもいるでしょう。また、住民の中には「江戸時代の里山のような状態にしたい」という極端な意見を持つ人もいるかもしれません。価値感の多様性が、生物多様性保全について明確な答を導くことを困難なものにします。
 その点、温暖化対策は政治的にも経済的にもかなり一定のベクトルを示すことに成功しています。会議派はゼロではありませんが、かつてに比べて随分と減りました。
 脱温暖化が、ひとつのグローバルマーケットとして投資の対象になることで、世界の政治経済が動き出しました。儲かる話なら、そのベクトルに乗ることに価値感の相違はあまり出る余地がないと思います。「排出量ゼロ目標」は夢物語かと思っていましたが、今は本気で世界が目指していますからね。
 温暖化対策は(○年前に戻そう」もしくは「排出量ゼロ」という明確な目標を立てることができています。しかし、生物多様性保全にはそれだけの明確な目標は確率されていません。
 少なくとも「生物種がこれ以上減るのを防ごう」という目標がありますが、その根拠、すなわち生物多様性が減ることによる、人間社会や地球環境に及ぼす影響やリスクが定量的に示されていないため、温暖化ほど、一般の人たちにその危険感は通じてはいません。
 生物多様性保全という研究分野も流動的で、国際的に確固たる統一ポリシーができあがっているとはいいがたい状況にあります。研究者の間でも意見統一ができていないのだから、一般市民の方にどうあるべき、どうすべき、といった指針を示すことも難しくなります。
 温暖化と同様に生物多様性でも、森林資源は一番最初に減らしてはならないものです。これは面積で表せるので、目標になりえます。
 例えば、紙などの林産資源については、認証制度を義務付けることが可能です。熱帯雨林を切り出して作ったものはNGで、リサイクルで生み出されたものにはOKと分けることができます。
 具体的には、認証されたものを使うことが企業としての義務であり、守っていないと風評被害を受け、大きな損益を被ることになるというシステムを考えています。そうすると企業側も、再生産エネルギー、資源の使用に努力するはずです。認証を受けていない企業と取引するとペナルティを受けるというような制度を作ることも可能です。
 実際には日本でもエコファースト企業という取り組みがあります。企業の資源消費という意味では、環境保護のシステムができ始めているんです。
 現時点では、生物の数の減少も変わらないですし、多様性の劣化も止められていません。なぜ生物多様性は世界的に見てもまったく進歩がないのか、それは先ほど触れた価値感の統一ができず、目標が定められていないからだと思われます。
 2010年、『生物多様性条約 第10回締約国会議(COP10)』が日本で開かれました。そこで「名古屋議定書」と「愛知目標」というふたつの国際的な枠組みが採択されました。
 「名古屋議定書」は遺伝子資源の公平分配に関する決め事です。赤道近くの生物多様性が高い地域を包含する発展途上国には豊富な遺伝子資源が存在しています。これまでは、農産物の原種や医薬品の原材料となる植物種や土壌細菌を先進国により開発され、その利益が独占され続けてきました。
 例えば、マダガスカル島のニチニチソウの成分から抗がん剤、中国の香辛料「八角」からインフルエンザ治療薬「タミフル」などができたのです。さらに古くは15世紀にスペイン人が南米から持ち帰った高山植物が原種となってジャガイモが育種されました。
 先進国の企業による遺伝子資源の開発と利益の独占は植民地時代からの歴史であり、途上国側には積年の恨みもあるでしょう。こうした生物資源を利用した製品の市場規模は45兆円とも70兆円ともいわれています。
 グローバル化が進む中、途上国はこうした医薬品などの原料の原産国への利益の還元、さらに開発技術の提供を求めてきました。特に「現在」「未来」の利益だけでなく、植民地時代という「過去」の利益にさかのぼっての還元をも主張しています。当然、先進国側の国や企業は、利益配分の負担が重すぎると資源を活用できなくなり、結果的には途上国にも不利益になると訴えて、南北間の利益をめぐる対立が続いていました。
 この遺伝子資源の利益配分をめぐる問題解決は、生物多様性条約の中でも重要課題とされており、「遺伝資源の取得の機会(Access)とその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(Benefit-Sharing)という目標が定められています。Access and Benefit-Sharingの頭文字をとってABSと呼ばれています。
 名古屋議定書では、このABSのための具体的なルールが定められています。代表的なものは以下の3つです。
○遺伝子資源を提供する国はそれぞれに、利用国との間での合意・契約に基づく遺伝子資源の提供を行うための、確実・明確・透明なルールを策定すること
○利用する国は、自国で利用される遺伝資源が提供国の定めたルールを遵守して取得されることを担保するためのルールを策定すること
○ABSCH(国際的な情報交換センター)に、遺伝子資源利用にかかる提供国法令・許可証情報を通報すること
 今後、先進国が無断で他国の遺伝子情報を持ち出したり。開発したりすることは各国の法令に基づき禁止されることとなりました。
 このルールは、医薬品開発や食品開発といった産業目的の遺伝子利用だけにとどまらず、分類学、生態学、進化学などの基礎的研究分野にも波及することになりました。現在、われわれ研究者も勝手に標本を持ち出すことはできなくなっています。
 この遺伝子資源の利益再配分こそが生物多様性条約の本当の目的だったともいえます。
 しかし、アメリカを含む先進国はグローバリズムという名のもとに、遺伝子資源を医薬品などに利用し、経済的に利したいわけですから、ABSに躊躇する国も多く、各国の足並みはまだ十分そろっていません。議定書を作った議長国である我が国ですら、批准したのは2017年と最近のことでした。
 COP10で定められたもうひとつの枠組みである「愛知目標」の方は、ぼんやりと、「生物多様性の劣化を防ごう」とする目標です。
 正直具体性を欠く内容で、もう目標達成度が図られる2020年が来てしまいましたが、なにひとつ際立った成果は上がっていないというのが現時点での評価です。
 外来種に関しても「外来種を防除し、増やさない」と当たり前のことしか書いてありません。数値目標を設定するなど、具体的なゴールを示しておく必要はあったのではないかと思われます。
 もっとも、生物多様性の保全の根幹が地域制(ローカリティ)にあり、それを守るのが地域のコミュニティであり、その方針・指針は地域の合意形成に基づくとすれば、国際基準というものはむしろ無用の産物ともいえるかもしれません。2020年、愛知目標の設定期限が間もなく切れて、ポスト2020年目標が準備されていますが生物多様性の未解決課題はまだまだ山積み状態です。
第6章 生物学と未来
 パンデミックはいつ起こってもおかしくない
 東京オリンピックで、新たな感染症パンデミックが起きる!?
 77億人に膨れ上がった人類をウイルスは淘汰しようとしている
 新型コロナウイルスの襲来
人間が絶滅しても生物は残り続ける
 今後、人間はどのように進化していくのか

第7章 私と生物学
 人生を変えたダニとの出会い
 ハダニの観察と遺伝子解析の日々
 幼少期~富山の田舎町で過ごした生物観察の日々
 プラモにハマり、通信簿は1!?
 高校は山岳部で“ひねくれた優等生”
 『ジョーズ』に感激! 映画監督を志す
 もしかしたらレンタルビデオ屋の店長になっていた!?
 総合化学メーカーで農薬開発に携わる
 科学者がやってはならないこと
 大手メーカーのシャンプーで背骨が曲がる!?
 研究者はすべからく論文を書くべし
 黒ずくめファッションの理由とは!?
 テレビ出演によって、環境問題への間口を広げる

あとがき

 

    

  

鈴木欣司『アナグマファミリーの1年』 11月25日

鈴木欣司さんの『アナグマファミリーの1年』(大日本図書、2000年)を読みました。
img-201202000756-0001

  鈴木欣司『アナグマファミリーの1年』目次
 タヌキとアナグマ
 ムジナの穴でタヌキを捕る
 アナグマのすむ里
 ねむりの季節
 春・目ざめの季節
 フィーダーのおきて
 子育て
 ヘルパー
 台上前転
 オスの子どもの独立
 アナグマ・ファミリーのせいぞろい
 初秋・独り立ちの準備
 タヌキ対アナグマ
 秋・冬眠の準備
 冬
 50の巣穴とポットントレイ
 フィーダーの春ふたたび
  名前の通り穴を掘るのが得意なアナグマ
  かつては絶滅危惧種、今は増加中!?
  穴を掘らせてはダメ! その被害対策とは?

野生鳥獣被害防止マニュアル(中型獣類編)(農林水産省,2018年)から
●野生鳥獣被害防止マニュアル(中型獣類編)農林水産省201803_1●野生鳥獣被害防止マニュアル(中型獣類編)農林水産省201803_2●野生鳥獣被害防止マニュアル(中型獣類編)農林水産省201803_3

 10 アナグマの分布と被害対策
  1 アナグマの分布
  2 アナグマ増加の原因
   ●野生鳥獣被害防止マニュアル(中型獣類編)農林水産省201803_4

  3 被害対策
   ●野生鳥獣被害防止マニュアル(中型獣類編)農林水産省201803_5
 11 アナグマの形態的特徴
   ●野生鳥獣被害防止マニュアル(中型獣類編)農林水産省201803_6
 12 アナグマの食性・行動・繁殖
  1 アナグマの食性
  2 アナグマの行動
  3 アナグマの繁殖
   ●野生鳥獣被害防止マニュアル(中型獣類編)農林水産省201803_7

  



ツキヨタケとヒラタケの見分け方 10月29日

山形県のキノコ中毒ワースト1がツキヨタケの13件(2012~19年)。ヒラタケと間違えやすいきのこです。
  iコバトン市場衛生ニュース2019_1

    ツキヨタケ
   有毒キノコDB_1有毒キノコDB_2

※Yahoo!ニュース「毒キノコの食中毒相次ぐ 「見分け困難」県が注意喚起」(岐阜新聞Web 2020.10.28 8:12)
 毒キノコ「ツキヨタケ」の食中毒発生が県内で続いている。キノコによる食中毒の発生件数は岐阜県内では2016年から4年間はゼロだったが、今月に入り3件(26日時点、全てツキヨタケ)発生した。県は、確実に食用と判断できないキノコは食べたり、他人に譲ったりしないよう注意を呼び掛けている。
 ツキヨタケの大きさは10~20センチ程度で、夏から秋にブナやイタヤカエデなどの幹に重なり合って生える。食用のヒラタケやムキタケ、シイタケなどによく似ているが、食べると嘔吐(おうと)や下痢、腹痛などの症状が出て、過去には死亡例もある。
 キノコによる食中毒は、県内では15年の1件5人の被害を最後に発生していなかった。今年は夏に大雨が降った影響などにより、キノコが生えやすい環境に。県は、ツキヨタケの見分け方のポイントとして、刀の鍔(つば)のような盛り上がった部分が柄の付け根にあること、内部に黒色の染みがあることなどを挙げているが、「判別が難しく、染みがほとんどないツキヨタケもある」(県担当者)ため、誤って採取しやすいという。
 今月に入り、食中毒被害は3件7人となった。県などによると、「食用だと思った」「よく分からないが試食をする」といった理由で山林で採取し、自宅で調理して食べたところ、食中毒症状を発症したケースが続いている。
 県はホームページやリーフレットで、ツキヨタケに限らず、食用と判断できないキノコの採取や販売などへの注意を喚起。「控えめな色のものは食べられる」「虫に食われていれば食べられる」「ナスと煮れば中毒にならない」などの言い伝えを信じて口にしないよう呼び掛けている。
毒きのこによる食中毒に注意しましょう!(山形県サイト 2020.09.28更新)
  

ツキヨタケ(月夜茸)とは、ツキヨタケとヒラタケの見分け方、正しい知識を持って
  
ツキヨタケとヒラタケの見分け方
1.裂いて見える黒いシミ
ツキヨタケを縦に裂いてカサと柄の間を見ると、肉に黒っぽいシミがあります。ただ、ツキヨタケでもこのシミがほとんどない場合もありますので注意してください。
2.夜に光るか・リングがあるか
ツキヨタケは、暗い場所で見ると弱い発光が見えます(これが和名の由来)。
また柄とヒダとの境にリングのような隆起帯があるので確認しましょう。
3.発生時期を確認
ツキヨタケは夏の終わりから秋にかけて。ヒラタケは秋の終わりから春に発生します。ただ、秋の終わりにもツキヨタケが生えている場合があるので時期だけで判断しないように!

正しい知識を持って
ツキヨタケはシイタケやヒラタケ、ムキタケなどとよく似ているため、間違って食べてしまうことが多いキノコ。日本では食中毒事故の事例も非常に多いキノコです。
見た目だけですぐ判断するのではなく、今回ご紹介したような「見分け方の違い」などの知識をしっかり持って慎重に判断してくださいね。
見分けるのも難しいため、少しの知識だけでは絶対に食べないことをおすすめします。
ツキヨタケで7人が食中毒 毒きのこ注意報発令(上越タウンジャーナル 2013.09.29 18:55)
  
新潟県の上越保健所は2013年9月29日、県外の30~40歳代の男女7人がツキヨタケを食べて食中毒になり、医療機関に入院したと発表した。県内での毒キノコによる食中毒は今年初めてで、県は同日、「毒きのこ注意報」を出した。
同保健所によると、入院した7人は関東地方の1都4県在住。9月28日午後から妙高市杉野沢の乙見湖周辺の山林でキノコの採取した。食用のムキタケと思って採取したキノコをバターソテーやきのこ汁にして、午後8時ごろに食べたところ、午後9時ごろからおう吐など胃腸炎の症状が出た。7人は29日午前0時30分ごろ同市内の病院に入院。その後、全員快方に向かっているという。
残っていたキノコを専門家が鑑別したところ、有毒なツキヨタケと判明。県は患者の症状がツキヨタケによる症状と一致することから食中毒と断定した。
ツキヨタケは傘が半円形をした直径10~25cmほどのキノコで、ムキタケやヒラタケと間違えて食中毒になることが多いという。
県は、食用と正確に判断できないキノコを採らないことや、確実に鑑別できる専門家に判断してもらうなど注意を呼び掛けている。保健所でも相談を受け付けている。
近年埼玉県内において、カシノナガキクイムシによる樹林地のナラ枯れ被害が広まってきております。当市においても既に確認されており、対応についての検討を重ねているところです。ナラ枯れが発生した樹林では、被害発生時または数年後に猛毒性の『カエンタケ』が多く発生することが確認されています。
触れるだけでも危険な有毒のキノコですので絶対に触らないで下さい。特に、小さなお子様には近づけさせない様ご注意下さい。また、ペット等にも障害がありますので近づけさせない様ご注意ください。
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ヒラタケ
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 そだててあそぼう[93]『きのこの絵本』
  (編集:小出博志・イラスト:高岡洋介、農文協、2010年)から
もくじ
1 山に、きのこ狩りにでかけよう!
2 きのこは木の子。木とともに育つ、おいしいきのこ
3 これが、きのこのくらしだ!
4 きのこは、古代から世界中で食べられてきた
5 きのこの種類いろいろ
6 ナメコ、クリタケ、ヒラタケの栽培ごよみ
7 ナメコの普通原木栽培にチャレンジだ!原木に駒打ち
8 いいほだ木づくりをめざそう
9 きのこをだす準備だ。本伏せ
10 さあ!いよいよナメコの収穫だ!
11 こんなときどうする?きのこの病害虫
12 クリタケの普通原木栽培をやってみよう!
13 わりばし種菌で、里山きのこに挑戦だ!
14 ヒラタケの短木断面栽培をやってみよう!
15 クリタケ、ヒラタケをおいしく食べよう!
生えるものによって、ちがう
きのこにもいろいろな種類があるんだ。大きく分けると、生きている植物に共生するきのこ(菌根菌)や、死んだ植物、つまり枯れ木や枯れ葉などに繁殖するきのこ(腐生菌)などあるよ。菌根菌の代表は、マツタケやシメジ類などだ。それらはアカマツ、クロマツ林に好んで生えるよ。腐生菌はブナ、ナラ類、シイ・カシ類や広葉樹林の枯れ木や倒木、切り株に生えるよ。スギ、ヒノキなどの林には、食用きのこはほとんど生えないんだ。そのほか、竹林や道ばた、畑地、堆肥を好むきのこ、焼け跡だけに生えるきのこ、草原にはえるエリンギなどのきのこ、地中の埋れ木に生えるハタケシメジ、また、死んだセミなどの昆虫のからだに生える冬虫夏草などもあるよ。きのこが生えるということは、その生えたものから栄養をもらっているということだ。その栄養をもらう「もの」のちがいによって、きのこの生活もいろいろなんだ。
栽培できるきのこ、できないきのこ
人工栽培のできるきのこは腐生菌といって、死んだ植物のからだ、つまり木材や、米ヌカやフスマ、イナワラなどにきのこのからだ(菌糸)が入り込み、それらを栄養にして繁殖することができる種類だ。よく食べているシイタケ、エノキタケ、ブナシメジ、マイタケ、エリンギ、ナメコ、ヒラタケ、キクラゲといったきのこは、みなこの仲間だ。それに対して、まだ人工栽培のむずかしいきのこは菌根菌(共生菌)といって、生きた植物の根ときのこのからだ(菌糸)が合体して菌根とよばれるものをつくり、植物とともに生きていくきのこたちだ。林の地面や草原で地表からでるきのこ類は、大部分がこの仲間だ。腐生菌よりも種類が多く、マツタケをはじめ、シメジ類、イグチ類、コウタケ、クロカワ、チチタケなど、おいしいきのこがたくさんあるよ。でも、ほとんどは人工栽培がむずかしく、山で自然に生えているものを採ってしか食べることができないんだ。(4~5頁)

ヒラタケの短木断面栽培をやってみよう!(28~29頁)
ヒラタケは広く世界中に分布する、ヒラタケ科ヒラタケ属のきのこだ。晩秋から春に広葉樹や、ときには針葉樹の枯れ木、切り株にたくさん重なって生えるよ。菌糸がまわる力が強いので、原木に材質のやわらかい木を使うことで接種した年の秋から収穫ができるんだ。もちろん翌年もきのこが生えるよ。原木は2枚1組のサンドイッチ状で培養し、これを1枚ずつ、それぞれ接種面を上にして土に埋めるんだ。農家出はパイプハウス内や畑地で栽培するのが一般的だけれど、ここではプランターを使ってやってみよう。
 ●原木の用意
この栽培にあう種類は、ポプラ、エノキ、果樹など材質のやわらかいものだ。冬に伐採して接種前に玉切りしよう。直径の太い木で厚さ12~15センチの円盤状にし、連続した2枚1組で使うよ。
 ●接種時期と方法
菌糸は3℃くらいから伸びるので、春先に行おう。あたたかくなるほど失敗しやすいんだ。のこくず種菌を細かくくだいて、木口全面に5ミリほどの厚さに塗る。もう1枚を重ねてサンドイッチ状にし、あわせ目をガムテープでしっかりと固定しておこう。
 ●仮伏せ
接種した原木は日かげで2~3段に重ね、散水後にコモやムシロで全体をおおっておこう。仮伏せ中はとくに保湿に注意しよう。7月中旬ごろには菌糸が伸びて、上下の木がしっかりと一体化するよ。
 ●本伏せ
7月中旬ごろ、円盤状のほだ木が平らに入るプランターを用意し、本伏せしよう。ほだ木はかたく一体化しているので、バールと木づちなどで2枚にはがして、種菌の接種面を上にして使う。プランターの下半分に畑の土や鹿沼土を入れ、その上にはほだ木をならべて、すきまにもしっかりと土をつめてほだ木の上面と平らにしよう。表面全体に切りワラを厚さ3センチほどかけ、よく散水してからムシロなどをかけておく。プタンターに直射日光があたらないように、建物のかげや、遮光ネットなどでふせごう。
 ●収穫
きのこの発生は9月下旬から始まるので、ときどき観察して、きのこの芽(原基)をみつけたらムシロをはずしておく。きのこは10~15日おきに発生をくり返し、12月中旬には終わる。発生中は毎日散水をするとともに、風通しをよくしよう。昼夜の温度差は10℃くらいあるほうが発生が良好だ。収穫は傘が七~八分開きで、直径2~5センチていどのものを株ごと採るとみためはいい。自分で食べるなら直径8センチと大きめにしたほうがおいしいよ。
 ●収穫後の管理
収穫後は切ワラをとりのぞき、表面にうすく土をかけておく。春から夏にかけては、ほだ木が乾きすぎないようにときどき散水しょう。遮光と風通しをよくすることも忘れないでね。2年目の秋口になったら表面の土をとりのぞいて、前年と同じように本伏せ管理をして収穫に備えるんだ。2年でほぼ収穫は終わるので、ほだ木と土を新しいものに変えよう。

ヒラタケのおいしい食べ方
傘の小さいものは汁もの、煮もの、天ぷら、炊きこみごはんなどなんにでもあうよ。傘の大きなヒラタケは、適当な大きさに裂いて煮つけやすき焼きにすると、たっぷり汁をすった肉厚のきのこが歯ごたえもよく、食べごたえがある一品になるんだ。西洋風の料理にもあるよ。大きな傘をバター焼きにしたり、チーズをふりかけてオーブン焼きやフライなどにしよう。中華料理のあんかけや観光料理の鍋ものにも使われているよ。
きのこごはんのコツ
きのこを水洗いして適当な大きさに切り、軽く塩をふっておく。ごはんは酒としょうゆを入れて炊き、炊き上がったらすぐにきのこをのせて蒸すんだ。こうすると、きのこの香りがごはんに移ると同時にきのこのシャキシャキ感が残って絶品だ。シイタケ、ブナシメジ、マイタケ、クリタケ、ヒラタケ、エリンギなどの栽培きのこ、マツタケ、シメジ類などの野生きのこと、いろんなきのこで炊いてみよう!(31頁)
ヒラタケ
ヒラタケ科ヒラタケ属のきのこ。この属にはタモギタケ、トキイロヒラタケ、ウスヒラタケなど多くの栽培きのこがある。これらは柄が傘の端につく俗に「片端のきのこ」として知られ、この形は猛毒のツキヨタケ(ツキヨタケ属、ブナの枯れ木に群生)とおなじなので気をつけよう。ヒラタケは広く世界中に分布していて、晩秋から春に広葉樹(ときには針葉樹)の枯れ木、切り株に多数、重なって発生する。
傘の色は幼いときは黒から灰青色、大きくなると灰褐色から灰白色になる。大きく開くと15センチにもなり厚さも増す。ヒダは白色で、柄に長く垂れ下がる特徴がある。
栽培品種は極早生、早生、晩生種があり、原木栽培でも秋から冬まで半年ほど収穫ができる。菌床栽培には極早生種が開発されているけれど、ビンでつくるときには傘の直径が2~3センチと小さくしているよ。(33頁)

『みんなで減らそうプラスチック』(日本消費者連盟) 9月25日

栗岡理子監修『みんなで減らそうプラスチック』(日本消費者連盟編集・発行、2019年11月)を読みました。
皆んなで減らそうプラスチック表紙

栗岡理子監修『みんなで減らそうプラスチック』目次
プラスチックは川から海へ
危険なマイクロプラスチック
環境ホルモンとは?
このままでは生態系が崩れる
各国のプラスチック対策は?
ここでお勉強
 容器包装リサイクル法(容リ法)とは?
 プラごみ全体の処理方法は?
 拡大生産者責任とは
 デポジット制度を広めよう
 暮らしの中からできること
 テイクアウト用カップもリユースで
政府・自治体に規制を求める
大量生産・大量消費・大量廃棄からの転換を
 柔軟剤等に入れるマイクロカプセルは禁止(柔軟剤・消臭剤)
 使い捨てプラスチックは禁止
 マイクロビーズ入り製品は禁止(ビーズクッション・洗顔料)
 発泡スチロール製容器は禁止
 飲料容器は徹底削減。使用分はデポジット制度で回収
 拡大生産者責任を徹底
メーカーや小売店にも要請しよう
 リユース容器入りの製品を増やす
 消費者が容器を持参して買えるように
 カプセルやビーズなどプラスチックの材質表示を徹底
 店内に「脱プラ」コーナーを作る
 落ちると生物が食べるため、ペットボトルのキャップは本体から外れないように設計変更
※2019年11月13日、出版記念講演会が開かれています。
  

※『婦人之友』は2019年1月号から「始めよう! プラスチックフリー・ライフ」を連載しています。
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※高田秀重「化学汚染のない循環型社会を」(『婦人之友』2020年7月号)
 化学物質にさらされる
……例えばペットボトルのフタは柔らかいポリエチレン製で劣化しやすいので、ノニルフェノールという添加物が使われている場合があります。各国のミネラルウォーターのフタを分析すると、半分以上で検出されます。食品保存袋やビニール手袋にも含まれ、とくに安価な中国製や東南アジア製には多いのです。ノニルフェノールは「環境ホルモン=内分泌かく乱物質」の1つで、生物の性や生殖に関する障害が起きます。また免疫力の低下、アレルギーや肥満などの原因になるとも言われます。
 紫外線吸収剤にも内分泌かく乱作用が疑われる物質があり、日本のペットボトルのフタでは、調べたすべての製品から検出されました。
……例えばペットボトルのフタの添加物は使う段階で、我々の体に直接的に曝露しないよう一応選ばれています。しかし、プラを取り込んだ魚を食べれば間接的に曝露され、しかも体内に残る。これが怖いところです。
※栗岡理子「ペットボトルの散乱防止対策についての歴史的考察-ローカルデポジットの教訓と容器包装リサイクル法の限界-」(『環境情報科学論文集』31、2017年) MPs:マイクロプラスチック
近年、各地でペットボトルの散乱が報告されている。飲料容器の散乱については、1970年代から1990年代にかけて「空き缶公害」が問題視された際、ローカルデポジットの導入が試みられた。しかしそれは全国に波及するに至らず、解決策にはならなかった。1995年、国はごみ減量とリサイクル促進を目的に、容器包装リサイクル法を制定した。同法によりリサイクルは促進されたが、散乱ごみ問題は解決されなかったと考えられる。同法には生産者にも消費者にも自治体にも回収促進のインセンティブは与えられていない。このため、散乱ごみ対策としては根本的に限界をもつ。本稿は、こうした経緯を検証することで、ペットボトル散乱問題の解決の糸口を探る。
※中尾賢志・尾﨑麻子・桝元慶子「環境プラスチック問題の全容と課題および大阪市立環境科学研究センターの啓発・研究活動」(『全国環境研会誌』44巻4号(2019年)<特 集>環境中に放出されたプラスチックごみの現状と課題)
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  図1 環境プラスチック問題の全容と課題

高槻成紀「増え続けるシカ」 9月7日

高槻成紀さんの『唱歌「ふるさと」の生態学 ウサギはなぜいなくなったのか?』(ヤマケイ新書、2014年12月)を読みました。
高槻成紀『唱歌「ふるさと」の生態学 ウサギはなぜいなくなったのか?』目次
1章 「故郷」を読み解く
2章 ウサギ追いしー里山の変化
 1 ウサギの思い出 
 2 茅場ーウサギのすむ場所 
 3 かつての里山 
 4 変貌した里山 
 5 里山のもうひとつの変化ー都市化に呑み込まれる里山
3章 小ブナ釣りしー水の変化
 1 小ブナ釣りしー故郷の川 
 2 川の変化 
 3 もうひとつの脅威ー農薬 
 4 さらなる脅威ー外来生物 
 5 水は清き
4章 山は青きー森林の変化
 1 林業と社会 
 2 林学と林業―四手井氏による 
 3 森林伐採と森林の変化
5章 いかにいます父母―社会の変化
 1 人々への思い 
 2 社会の変化 
 3 志を果たして
6章 東日本大震災と故郷
 1 東北の里山を訪ねて 
 2 東北の動物たちに起きたこと 
 3 原発事故から考える日本の里山の将来
7章 「故郷」という歌
8章 「故郷」から考える現代日本社会
 1 「故郷」と社会 
 2 「故郷」に見る日本人の自然観

増え続けるシカ(「第2章 ウサギ追いしー里山の変化」から)
 サルよりも少し遅れて、しかし今やサルよりもはるかに深刻な問題を抱える里山動物になったのがシカ(ニホンジカ)である。
 昭和50年くらいまで、野生のシカを見たことのある人はきわめて限定的であった。シカといえば奈良公園や安芸[あき]の宮島で人から餌をもらうものしか知られていなかった。私はシカの研究をして来たが、1992年に『北に生きるシカたち』という本を書いたとき、編輯者は「シカが増えているって本当ですか」といぶかしげであった。それほどシカが増えていることは知られていなかった。だが、今や、たとえば東京の奥多摩に行けば、山中にシカの痕跡を見ない場所はない。それどころか広く関東地方の山地にはシカが溢れているという状況である。
 ここでもシカという動物の性質と里山のことを考えてみたい。シカはオスは80キログラムほど、メスは50キログラムほどの大型獣で、1産で1頭の子しか産まず、警戒心が強いから、大きさや繁殖力、行動特性では里山の動物の条件を満たさない。
 そのようなシカがなぜ里山で増加したのであろうか。もともとシカは里山にはおらず、かといって、クマやカモシカのような典型的な奥山動物でもなく、山から丘にかけての里山に近い部分の森林に生息していた。そして、そういう森林の、鬱蒼とした林内よりは、林の縁など下生えの植物が豊富な場所を好む。そして危険を感じると林内に逃げ込むという行動をとる。里山には林縁が多いから、シカはもともと里山に侵入する潜在力をもっているといえる。それが実現した最大の要因は、臆病なシカが怖がる人の存在がなくなったためである。
 その上で、里山以外を含む近年のシカの増加はだいたい次の三つで説明されることが多い。
 ひとつは森林伐採によって食料が増えたというものである。シカの性質を考えれば、戦後に森林伐採がおこなわれたことはシカに有利になったとはいえるだろう。だが、森林が伐採された時期とシカが増加した時期には数十年の時間差があり、最近のシカの急増は十分に説明できない。
 もうひとつは、暖冬と子鹿の死亡率による説明である。地球温暖化によって暖冬が多くなった。シカは1産1子であるといったが、2歳の秋には妊娠し、その後ほぼ毎年妊娠する。これはサルが5歳くらいから繁殖するようになって、1年おきに妊娠するのと大きな違いである。したがってシカの新生児はたくさん生まれるのだが、最初の冬に死亡する子鹿が多い。その子鹿が暖冬によって生き延びると、シカ集団としては増加することになる。このことも事実であるが、シカの増加は雪の少ない南日本でも起きており、全国のシカの急増を説明できない。
 第3の説明は、オオカミがいなくなったからだというものである。しかしオオカミが絶滅したのは20世紀の初頭であり、1990年くらいから急に増えたことの説明にはならない。
 これらの説明に対して北海道大学の揚妻直樹[あげつまなおき]氏は里山の変化こそがシカを増加させたのだとする。揚妻氏は、里山に活気があった時代、森林は薪炭林としてさかんに伐採され、明るく下生えが豊富であったのに対して、農業地帯は徹底的な管理によって地上植物は非常に乏しかったとする。最近の小椋純一[おぐらじゅんいち]氏の検証などによると、私たちがなんともなくもっている「昔の日本の農地は豊富な緑に溢れていた」というイメージは正しくなく、草原的な貧弱な植生であったといい(小椋、1996[『植生からよむ日本人のくらし、明治期を中心に』])、揚妻氏の見解を支持するようだ。重要なことは、農耕地一帯ではこまめに草刈りがおこなわれ(里山の特徴①-集約的な植生管理)、また農作物はよく監視されて、シカにとって接近しづらく(里山の特徴③-被害防除)、山の森林の下生えは豊富であるというかつての関係が、農耕地は手入れされなくなって藪状態になり、草本類や低木類が増加した一方で(里山の特徴①-集約的な植生管理の崩壊)、森林は木が育ち、また針葉樹の人工林が増えて暗くなり、下生えが貧弱になることで、シカにとっての山と里の資源環境が逆転し、シカが山よりも里に降りざるをえないという状況が現出したということである。揚妻氏はこのことと同時に、シカが採食行動を変化させることも見逃してはならないと指摘しており、その見解は傾聴に値すると思う。
 いずれにしても、シカは今や里山にたくさんいることになった。とくに牧場があると、シカにとっては理想的な環境となる。というのは牧草は牛を肥育するために品種改良され、栄養価が高く、消化率がよく、春早くから秋遅くまで生育するし、日本の牧場は小規模で森林に接しているから、シカは牧場で牧草を食べ、危険を感じれば森林に逃げ込むことができるからである(里山の特徴⑥-モザイク構造)。シカがひとたび里山にすみつけば、大型であり、群れで生活するから、農作物も、牧草も、周辺の群落も強い影響を受けることになる。(72~75頁)
動物の生息地としての里山の特徴(同書50~54頁)
 里山の変化と動物(同書65~70頁)
  ①集約的な植生管理
  ②豊富な食物
  ③被害防除
  ④多様な群落[萱場・雑木林・人工林]
  ⑤小面積な群落
  ⑥モザイク構造

里山動物の性質と特徴(同書55~60頁)
 タヌキ、キツネ、アナグマ、ウサギ(ノウサギ)、カヤネズミ、ハタネズミ、アカネズミ、リス
  ①体が大きくないこと
  ②警戒心が強すぎないこと
  ③寿命が短いこと
  ④繁殖力が高いこと
  ⑤融通がきくこと
  ⑥群落複合の利用

里山動物としては例外的な動物(同書60~61頁)
 ムササビ、イノシシ

9月3日の記事で林将之さんの『葉っぱはなぜこんな形なのか? 植物の生きる戦略と森の生態系を考える』の「第2章 葉の形の意味を考える」からシカはなぜこんなに増えたのだろう?を紹介しました。
高槻さんの著作に2015年12月に出版されたヤマケイ新書の『シカ問題を考える』がありますので、続けて読んで見たいと思っています。

 気候変動による影響が疑われる現象の一つとして、ニホンジカの急増が挙げられます。埼玉県内のニホンジカ捕獲頭数は、1990年度は114頭でしたが、その後急増し、2016年には3000頭を超えました。
 全国的にもニホンジカの増加や分布拡大が起きていますが、それらに温暖化が寄与していることが指摘されています。ニホンジカは大型草食ほ乳類で、様々な植物を大量に食べるため、個体数の増加が自然の植生に大きな悪影響を与えています。埼玉県と山梨県の県境の亜高山帯には、シラビソ・オオシラビソの針葉樹林帯が広がっていますが、広い範囲で皮を剥いで食べる被害が発生し、森林衰退も起きています。
 下層植生も広く食害し、スズタケなどササが衰退する一方で、ハシリドコロやトリカブトといった有毒植物のみが残る林も増加しています。さらに、ニホンジカの増加とともに、ササなどの植生を好む鳥類のヤブサメやウグイスなどが減少するとの報告もあります。この様に、植物だけではなく、動物への影響も懸念されています。
埼玉県におけるシカ捕獲頭数の推移

林将之『葉っぱはなぜこんな形なのか? 』 9月3日

林将之さんの『葉っぱはなぜこんな形なのか? 植物の生きる戦略と森の生態系を考える』(講談社、2019年5月)を読みました。
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林将之『葉っぱはなぜこんな形なのか? 植物の生きる戦略と森の生態系を考える』目次
はじめに
第一章 樹木図鑑を作るわけ
 ◇葉っぱスキャンの発見
055-5/]/日本各地の森を巡る
 ◇僕の樹木独学スタイル
  使えない樹木図鑑/バイブルとの出会い[『樹木』(保育社 検索入門シリーズ)
 ◇就職活動
  夢探しの時間/転機を招いた樹木の資料作り/森づくりの活動
 ◇樹木鑑定サイトの開設
  誕生秘話/全国から寄せられる鑑定依頼/「このきなんのき」から広がった
 ◇樹木図鑑を作る
  三度目の売り込み/画期的な図鑑を作る/図鑑を作り続ける
☆葉の心理テスト

第二章 葉の形の意味を考える
 ◇ギザギザのある葉とない葉
  どっちが普通?/ギザギザは何のためか?/全縁の葉と気温の関係
 ◇切れ込みのある葉とない葉
  歳をとると丸くなる?/風を通すための切れ込み/それ以外の可能性
 ◇羽状複葉のメリット
  羽状複葉はどこで見られるか/プランターでの観察/所変われば葉も変わる/常緑樹と落葉樹
 ◇対生と互生
  2種類の葉のつき方/ウツギ類はなぜ対生の低木が多い?/互生する葉
 ◇不分裂葉の形
  普通の形の葉/倒卵形の葉/不分裂葉という用語
 ◇大きな葉と小さな葉
  大型化する葉/大きな葉をつける木/小さな葉をつける針葉樹
 ◇葉の蜜腺
  葉から出る蜜/アカメガシワの戦略/アリを住まわせるマカランガ/アリと植物はどっちが賢い?
☆花の心理テスト

第三章 植物と動物の絶妙な関係
 ◇沖縄の木にぶら下がる”危”ない板
  ○危の板とミカンコミバエ/不妊化されたウリミバエ/なぜオスは誘引されるのか
 ◇クマのいる森
  緊張のクマ遭遇体験/異常なベースで殺されるクマ/クマが絶滅するとどうなる?/タネを運ぶクマ/九州のクマとサクラ/クマがつくる環境/クマと共存するために
 ◇シカの多すぎる森
  森の異変/シカと植物のせめぎ合い/シカ被害の“先進地”丹沢山地/なぜシカは増えたのか?
 ◇鍵を握るオオカミ
  なぜオオカミは絶滅したのか/イエローストーンのオオカミ再導入/日本へのオオカミ再導入の可能性/知らないものに抱くイメージ

第四章 人間は自然の中か外か
 ◇植物は人間を意識しているか
  紅葉はなぜ美しいのか?/庭の園芸植物は作戦成功?
 ◇自然は保護するものか
  人間は木の実を食べてはいけない?/「自然保護」への違和感/共存orコントロール
 ◇天敵のいない島
  ウサギとヤマネコ/無人島のヤギ/人間のコントロール

あとがき
  僕が育った庭/姿を変えた裏山/大好きな海
「第2章葉の形の意味を考える」を興味を持って読みました。岩殿地区では最近、シカの食害が話題になることが多く、今後どうなっていくのか心配しています。シカが増えた原因は何なのでしょうか?

シカはなぜこんなに増えたのだろう?
……まずは、シカ本来の生息地である低地の森林や草原を、人間が開発しつくしたことから考えたい。シカといえば、山の動物と思われがちだが、江戸時代の初期には、平野部の草原や田畑周辺、雑木林などに多く生息していたといわれる。当時の関東平野にはススキなどの広大な草原があり、将軍・徳川秀忠や家光は、東京の板橋で毎回数百頭ものシカを狩ったという。今の関東平野はどうだろう?世界最大といわれる市街地がどこまでも広がり、郊外は農地で埋め尽くされている。点在して残った雑木林や河原の林は、市街地や道路、鉄道、堤防などの人工物に囲まれ、シカが棲む連続的な森林と草原が広がる環境がほとんど見当たらない。シカは山へと追いやられたのだ。
 明治時代の前後で、シカの個体数と狩猟をめぐる状況も大きく変化したといわれる。明治維新で食肉文化が持ち込まれ、シカ肉が普及した上、シカの毛皮や角も利用価値があったため、銃の普及とともにシカは多く狩猟され、乱獲で個体数が著しく減っていったようだ、
 昭和に入ると、今度は戦後の復興特需で山にスギ・ヒノキが大量に植林され、日本の森林の4割は人工林に変わった。さらにその後、日本は政策転換して木材輸入を自由化したため、海外から安い木材が大量に輸入されると国内の人工林は次々放棄され、シカの食べる林床植物やエサ場となる伐採跡地もますます減ることになった。これに前後して、戦後から各地でシカの狩猟禁止が広がり、シカを保護する政策へと転換した。そして、昭和後期、1970年代にシカの個体数はかなり回復し、平成に入る1980年代後半から、今度はシカによる農業被害や植生被害が顕著になり始めたのだ。シカは人間に居場所を追われつつ、生息環境を変えてきたと言えるだろう。
 一つ知っておきたいのは、江戸時代~昭和初期は、燃料(薪[まき]・炭)や建材、茅[かや]、食料、肥料(落ち葉)の大半は国内で自給していたため、ハゲ山や草原が相当多かったことだ。反対に今は、使われなくなった里山や畑に次々と植物が茂り、大規模な川の氾濫[はんらん]や土砂崩れの発生も抑えられているので、かつてないほど森林化が進んでいる。シカが増えて森林を衰退させる現象は、減りすぎた草原環境を取り戻す作用と考えられなくもない。
 いづれにせよ現代は、シカ肉はほとんど食べられなくなり、毛皮や角の用途も激減し、シカの需要は大きく減った。そのため、猟師の収入も数も減少し、高齢化し、シカ猟が解禁されても積極的な狩猟がおこなわれなくなったことも、シカ増加の要因といわれている。
 これに対し、国は若者向けに狩猟の魅力をアピールしつつ、シカの駆除を進め、全国で年間60万頭ベースで捕獲(狩猟を含む)し、食肉利用(ジビエ)も進めている。北海道産エゾシカのハンバーガーやステーキのように、一定の普及効果も感じるが、現実にはシカの食肉利用は1割弱で、大半のシカは森に捨てられているという。巨大な死体の大量放置は、倫理的な問題に加えて、新たな生態系の変化を起こすリスクをはらむ。シカの死体はクマを強く引き寄せ、クマの栄養状態を向上させ、近年のクマ急増を助長している可能性も指摘されている。国は毒エサ(硝酸塩[しょうさんえん])によるシカの駆除実験にも取り組み始めているが、自然の循環に組み込まれない対処療法は、同様に別の問題を引き起こすだろう。
 また、温暖化もシカの増加を後押ししていると考えられている。雪に弱いシカは、積雪地では細い足が埋もれて身動きできなくなってしまうため、過去にも大雪で大量死したことが知られている。しかし、近年の急激な温暖化で積雪が減少し、これまでシカが分布していなかった北日本の日本海側や、標高2000メートル以上の高山にも、次々とシカ(イノシシも)が姿を見せ始めている。シカの食害によって、尾瀬のニッコウキスゲ、日光のシラネアオイといった象徴的な花が壊滅的に激減し、南アルプスのシナノキンバイやハクサンイチゲのお花畑が姿を消し、そこをエサ場にする天然記念物のライチョウ(雷鳥)も絶滅が危惧されるようになった。
 日本の生態系にとって未知なる経験が、今次々と進行しているのである。

共存orコントロール
 こうして人間と自然の関係をいろいろ考えていると、両者の付き合い方には、大きく二つの価値感があることに気づき始めた。「自然を理解し共存する」という考えと、「自然を制御しコントロールする」という考えだ。前者が「自然の中」に身を置き、後者が「自然の外」に身を置く考え方ともいえるだろう。
 例えば、クマやオオカミと人間がうまく共存する術を探る手法は前者で、クマやオオカミなど危険生物は排除して、シカやイノシシの個体数は人間が管理する手法は後者である。絶滅したオオカミを再導入する行為は、両者の中間かもしれない。人間がコントロールしながらオオカミを導入し、共存へと導く手法だからである。
……完全なる制御とコントロールを推し進める社会では、“迷惑生物”の撲滅運動が起きるかもしれない。まず、人間に必要な動物は、ウシ、ブタ、ヒツジなどの家畜とペットだけだから、オオカミや熊はもちろん、シカやイノシシも絶滅させよう。さらに、遺伝子組換えでカを絶滅させる試みのように、マムシ、ハブ、スズメバチ、ムカデ、ゴキブリ、ナメクジ、ヒルなど、危険生物や不快生物はとことん絶滅させたらどうか。海の中なら、サメ、有毒のクラゲ、ガンガゼ、オコゼ、イモガイあたりはぜひ絶滅させてほしい。植物なら、ウルシ科、イラクサ、シキミ、ドクウツギなどの毒やかぶれ物質をもつ植物をはじめ、手を切りやすいススキや、駆除が難しいクズあたりも、絶滅させる候補に挙がるかもしれない。もちろん、毒キノコや各種病原菌だって絶滅させた方がいいだろう。
 これらのありふれた迷惑生物を絶滅させるとどう悪影響があるのか。今の科学では正確に推測できないだろう。しかし、間違いなく生態系の一部が崩れて、何らかの別問題が発生し、そこにまたコントロールの必要性が生じることだろう。
 ちなみに、シカが全くいない森は、シカが多少いる森に比べて、虫の種類がやや少ないという。大型のサメを乱獲したアメリカ東海岸では、ホタテやハマグリが大きく減少して漁業に悪影響が出た。それがなぜか、わかるだろうか? シカがいなくなると、シカへの防御機構をもつ植物や、シカが作った草地に生える植物が、他の植物との競争に負けて姿を消し、それを食草としていた虫や、シカのフンや死体を食べていた虫もいなくなるのだろう。サメの例では、大型のサメを駆除したことで、その餌食になっていたエイが増え、そのエイが好むホタテ、ハマグリなどが大量に食べられたためと推測されている。
 目障りな生物をすべて絶滅させれば、人間にとってユートピア(理想郷)のような世界が訪れる可能性もゼロではないだろうが、生物の多様性は連鎖的に低下し、思わぬ環境変化が起こるリスク、アレルギー(雑菌などが少ない潔癖[けっぺき]な生活が一因との説がある)のような新たな現代病に悩まされるリスク、危険や不快感に対する適応力を失ってしまうリスクなどを常に抱え、改変した自然をコントロールし続けることに大きな労力を費やす社会になる可能性が高いだろう。
 世界中の先住民たちは、経験的、感覚的に自然を理解し、自然と共存しながら持続可能な自給生活を続けてきたはずだ。それが、急激に経済成長を始めた国から順次、自然を制御しコントロールしようとする価値感に急激に転換していった。そして、自然破壊と文明発展が進むと、今度は科学の力で自然への理解を深め、自然をコントロールする技術も高めつつ、再び自然と共存する道を探る段階に来ているように見える。
シカがいる森いない森

※地球永住計画「連続公開対談・賢者に訊く」2018年6月18日(Facebook2018年9月3日記事
【樹木の葉はなぜさまざまな形をしているのか?】
・日なたの葉は小さく、日陰の葉は大きいのはなぜ?
・ヒイラギなどの若い木にトゲがあり、成木ではなくなるのはなぜ?
・ヤマグワなどの幼木の葉に切れ込みがあり、成木ではなくなるのはなぜ?
・羽状複葉(フジなど)の大半が落葉樹なのはなぜ?
・対生の葉が低木(ウツギ、ムラサキシキブなど)に多いのはなぜ?
・ミカン、サンショウ、クスノキなどの葉に香りがあるのはなぜ?
・アカメガシワなどの蜜腺は何のためにある?
・若葉はなぜ赤い?
このように、葉っぱがさまざまな特徴をもつのは、環境や昆虫などと関係があると考えられます。

「卒石炭火力が日本でも合理的である5つの理由」 8月5日

 7月3日以来、経済産業省がエネルギー政策の転換を思わせる方針を次々に打ち出している。旧式の石炭火力発電所の大部分を2030年までに休廃止、再エネ拡大のために送電網の利用ルールを見直し、また、政府の方針として石炭火力の輸出支援を厳格化、といった具合だ。2018年に定められた第5次エネルギー基本計画を具体化しているだけだというが、筆者には潮目の変化のように感じられる。
 気候変動対策の緊急性の認識が世界で高まり、CO2排出量の大きい石炭火力への風当たりが強くなっている。ほとんどの先進国が脱石炭に向かう中で、日本政府が石炭火力を維持する姿勢は世界から強い批判にさらされてきた。
 日本の言い分は、日本には国内資源が乏しい、面積に比して人口密度が高くエネルギー需要が大きい、隣国とつながる送電網が無い、といった理由でエネルギー安定供給のための火力発電、とりわけ資源調達の容易な石炭火力をある程度維持したいということだろう。
 環境NGOなどはこれを言い訳と見ており、今回の方針に対しても批判的な姿勢を崩していないが、筆者はある程度もっともな言い分だと思っている。しかし、それでも遠からぬうちに日本も石炭火力を卒業するのが合理的だと思う。筆者はエネルギーの専門家ではないので技術や経済の詳細な議論には立ち入らず、大局的な観点からその理由を5つ述べたい。
1. 脱炭素は待ったなし

2. 世界が脱炭素した暁には日本は「勝ち組」
 やはり昨年発表されたノルウェー等の研究者による論文で、世界のエネルギー転換による(つまり、いつの日か世界のエネルギーが化石燃料から再エネに完全に置き替わった場合の)各国の地政学的な損得を分析したものがある。
 その結果によると、日本は明らかな「脱炭素勝ち組」なのだ。資源量のみに注目した場合、人口密度に比して再エネ資源がそれほど豊富ではないので評価は中程度になるが、貿易への影響を考慮するとぐっと評価が上がる。化石燃料輸入のために国外に流出していた年間20兆円前後が国内で回るようになるのだから当然だ。国内秩序の安定性を考慮に入れるとさらに評価が上がる。
 国益を考えるならば、日本は全力で世界の脱炭素化を目指すのが合理的なのである。
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3. 日本の再エネポテンシャルは十分にある
 そんなことをいっても、日本国内の再エネで日本のエネルギー需要がまかなえないと仕方がないじゃないかと思うだろうが、どうやらその点は大丈夫である。
 環境省による最新の調査によれば、日本の再エネ導入ポテンシャルは年間発電電力量にして73,000億kWh、そのうち経済性を考慮した導入可能量は26,000億kWh程度と見積もられている。その内訳は洋上風力が6割、陸上風力と太陽光が各2割程度である。この導入可能量は日本の現在の消費電力量の2倍以上であり、熱量換算すると9.4エクサジュールで、最終エネルギー消費量の13エクサジュールにせまる数字である。

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 日本の再エネポテンシャル(発電電力量)。環境省資料より。

 つまり、単純計算では、日本の電力をすべて再エネでまかなうことは十分に可能である。火力発電も原発も必要ない。さらに、技術進歩等により経済性が少し改善されれば、燃料等を含む一次エネルギー全体を再エネでまかなうことも視野に入るといえるだろう。
 もちろんこれが可能になるためには、送電網の増強や、需給バランスを確保するための蓄電設備やデマンドレスポンス(需要側の調整)などへの投資や制度整備が必要なので、すぐにできると言っているのではない。究極的に(といっても30年で、できればもっと早く)これを目指すという話である。
 ここで、メガソーラーの自然破壊などの心配も出てくると思うが、環境アセスメントも廃棄費用の積み立ても義務化されたので、乱開発は是正されるだろう。

4. 石炭火力でもうかりますか?
 経産省の方針では高効率の石炭火力は維持、拡大するといわれており、環境NGOはこの点を特に批判している。しかし、石炭火力を新設しようとする事業者がどんなふうに経済的な合理性を見込んでいるのかが、筆者にはわからない。
 再エネのコストはどんどん安くなっており、世界の多くの地域(英国のシンクタンクCarbon Trackerの報告によれば日本も含む)で既に新設の石炭火力よりも新設の再エネの方が安い。この傾向は今後さらに拡大していくだろう。また、再エネが増えるほど、火力発電は出力制御をしなければいけなくなるので、稼働率が落ちて収益性が下がる。
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 本格的なカーボンプライシング(炭素税や排出権取引)が日本でも導入されれば、石炭火力のコストはさらに上がる。すぐに導入されるかはわからないが、10~20年にわたって導入されないと想定する事業者はさすがに楽観的すぎるだろう。CCSを後付けできればカーボンプライシングはかからないが、もちろんCCSのコストがかかる。
 もしも筆者が石炭火力を計画中の事業者の立場であったならば、全力で引き返す判断をするだろう。既に投資してしまった額によっては辛い判断になるかもしれないが。
5. やがて常識が変わるだろう
 ……やがて技術的にも経済的にも脱炭素が可能だと誰もが思うようになり、CO2を出さずにエネルギーを作ることが世界の常識になる時代が来るだろう。そのときの新しい常識から現在をみると、「あの頃はひどいことをしていた」と評価されるにちがいない。特に、脱炭素の選択肢があるのを知りながら、CO2を多く排出するインフラを新たに作ることは、きわめて悪質な行為として後世の人たちから厳しい倫理的な批判にさらされるだろう。

 石炭は嫌いじゃなかった。小学生だった1960年代、冬場になると、当番はみんなより早く登校して、教室のだるまストーブに火をつけた。なかなか火がつかないが、赤々とした炎は「エネルギーの塊」を感じさせた。だがそんな石炭の時代も、終わりが見えかけてきた。さて、どう石炭と別れよう。
 身の回りの燃料は石油やガスに替わり、石炭を手にする機会はなくなった。57歳の私は、石炭に触れた最後の世代ではないかと思う。ただ、目の前から消えたからと言って、石炭の時代が終わったわけじゃない。世界ではいまも主要なエネルギーの一つだし、日本ですら、電気の3割は石炭が担っている。
 ところが、その石炭にもついに終わりの兆しが見えてきた。地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を大量に出すことが理由だ。流れは2015年のパリ協定で決定的になった。
 簡単じゃないことは分かっている。けれど、どうせ別れるなら、きっぱりと別れたい。
インド 石炭電力が余り出した
イギリス 産業革命からの卒業
ドイツ 別れるには時間がかかる
時代に逆行、依存強める日本
 日本では石炭の時代はすでに終わったと思っている人は多いが、とんでもない。国内の石炭消費量は、2度の石油ショック以降再び増加に転じ、2015年は1960年代の倍以上の約1億9000万トンになっている。6割が発電などで4割が鉄鋼関連で使われている。99%以上がオーストラリアなどからの輸入で、世界3位の輸入大国だ。
 日本経済の変わり身の早さには、ある意味で感心する。戦後の増産政策で、国内には50年代に1000以上の炭鉱があり、45万人以上が働いていた。
 それが、海外炭が安いと見るや、軸足を移す。70年には国内炭との割合が逆転。国際競争力がないという理由で合理化の嵐が吹き荒れ、閉山が相次いだ。現在残る炭鉱は、北海道の坑内掘りの1炭鉱と、露天掘りの7炭鉱だけだ。
 しかも、閉山は突然だった。82年10月に閉山した北海道夕張市の北炭夕張新鉱の閉山発表は1カ月半前だった。約2000人の従業員は全員解雇された。97年3月に閉山した福岡県大牟田市の三井三池炭鉱も1カ月半前で、1200人の全従業員が解雇された。閉山の決定から実施までに10年をかけて
 準備を進めたドイツの炭鉱との違いを感じざるを得ない。
 事実上財政破綻(はたん)した北海道夕張市の鈴木直道市長(36)が「産炭地はどこも苦しんでいる。国策でやってきたことなのだから、もっと国のサポートがあってもいい」とぼやくのも分かる。
 世界が石炭と別れようと動き出している中で、国内炭をあっさり見切った日本は石炭火力発電に固執している。福島原発事故後、建設計画が相次いでいるのだ。環境NGOの調査では、2012年以降、全国で49基(計2300万キロワット)が計画された。4基は事業リスクなどを理由に中止を決めたが、まだ相当数が生きている。
 日本には、エネルギー構造を化石燃料から自然エネルギーに変えていくための強い政策がない。電力会社や産業界は、自分たちの力が及ばない自然エネルギーのような小規模分散型電源より、原発や火力発電のような大規模集中型電源が根本的に好きなのだ。
 海外の石炭への投融資についても、各国が控える動きを見せている中で、日本は「高効率石炭火力発電技術で世界の温暖化防止に貢献する」という姿勢を変えていない。世界自然保護基金(WWF)などの調査では、07~14年の国際的な石炭関連事業(採掘、発電など)への公的金融機関による投融資額は、日本が1位だった。
念入りに準備をして別れよう
 「化石燃料時代の終わり」を示したパリ協定には、すべての国が合意した。唯一の超大国である米国の大統領が離脱を表明しても、協定が揺らぐ兆しはない。
 今回の取材で改めて思い知ったのは、エネルギーの主役はコストが決めるということだ。自然エネルギーのコストは、火力や原子力を下回るようになった。今後はさらに安くなっていくだろう。温暖化や原発のリスクを第一の理由に、世界が脱炭素へと動いているわけではない。自然エネルギーが安くなったから、一斉に走り出したのだ。
 化石燃料との別れは不可避だ。であれば、仕事がなくなる人たちのことも考えて、各国の状況に応じた準備を急ぐべきだろう。
 心配なのは、日本だ。国内炭鉱の閉山の時と同じように、ぎりぎりまで別れないそぶりを見せていて、急に態度を変えるのではないか。そうなると、これまでの化石燃料への投資を回収することが難しくなり、出遅れた日本経済は大きな打撃を被ることにならないか。
 どうせ別れるのだから、きっちりと準備して、これまで世話になったことに感謝して別れたい。後腐れや恨みっこは、なしで。
◆石炭とは ◆石炭から逃げる投資 ◆温暖化の現状

JCIウェビナー「石炭火力を考える」パネディス・質疑 8月4日

JCIウェビナー「石炭火力を考える」(7月28日)の2本の講演の後のパネルディスカッションと質疑です。YOUTUBEでの開始時間を入れておきます。

JCIウェビナー「石炭火力を考える」
 (2020年7月28日 zoomウェビナーおよびYouTubeライブ配信 10:30~12:00)
 4.パネルディスカッション
   高村ゆかり 東京大学未来ビジョン研究センター教授
   平田仁子 気候ネットワーク国際ディレクター/CAN Japan 代表
   大野輝之 自然エネルギー財団常務理事
 5.質疑応答(司会:田中健)


 4. パネルディスカッション 46:35~1:17:03
  ●高村ゆかり  48:10~57:19 1:04:10~1:10:53
  ●平田仁子 57:30~1:01:53 1:11:25~1:15:22
  ●大野輝之 1:01:55~1:01:30 1:15:22~1:17:03

 5.質疑 1:17:05~1:40:54
  ●脱石炭で生じる問題 平田仁子 1:18:22~1:22:55
  ●再エネを普及していく上での課題 滝澤元 1:23:05~
  ●日本政府が石炭火力に固執する理由 高村ゆかり 1:24:41~1:28:50
  ●再エネの価格 大野輝之 1:28:57~1:30:50
  ●まとめの質問:様々な意見を政策に反映するには? 1:31:00
   平田 1:31:50~1:34:14
   瀧澤 1:34:20~1:35:06
   高村 1:35:10~1:38:28
   大野 1:38:36~1:40:17

  

JCIウェビナー「石炭火力を考える」講演②(瀧澤元) 8月4日

JCIウェビナー「石炭火力を考える」(7月28日)の講演②「石炭火力輸出の中止と自然エネルギー支援への転換が必要な4つの理由」(瀧澤元 自然エネルギー財団 上級研究員)です。資料スライドと、YOUTUBEでの開始時間を入れておきます。

講演2 瀧澤元「石炭火力輸出の中止と自然エネルギー支援への転換が必要な4つの理由」 資料PDF 28:25~[YouTube
●2020年 動き出したが、不十分な日本の脱石炭火力 29:21~
 2/18 小泉環境大臣、石炭火力輸出の見直し表明 
 2/12 自然エネルギー財団 「日本の石炭火力輸出政策5つの誤謬」発表
 4/1 環境省、石炭火力輸出ファクト検討会発足
 4/21 自然エネルギー財団 「アジアで進む脱石炭火力の動き」環境省ファクト検討会へ提出
 5/14 環境省「石炭火力輸出ファクト集」取りまとめ
 5/21 経産省「インフラ海外展開懇談会」中間取りまとめ
 7/3 梶山経産大臣、国内非効率石炭火力の削減を表明
 7/9 経協インフラ戦略会議、石炭火力”原則”輸出しない
  【インフラ輸出戦略】「我が国が相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や脱炭素化に向けた方針を知悉(ちしつ)していない国に対しては、政府としての支援を行わないことを原則とする」➡現在進行中のプロジェクトや”高効率”と位置付ける石炭火力の輸出は継続
 7/9 自然エネルギー財団 「石炭火力輸出の完全な中止と自然エネルギー支援への転換を」公表
 [7/22「石炭火力輸出の中止と自然エネルギー支援への転換が必要な4つの理由」(自然エネルギー財団)] 7月22日
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石炭火力輸出の完全な中止と自然エネルギービジネスへの転換が必要な4つの理由 31:34~
1 「日本の石炭火力発電効率は世界でトップ」という主張は、もはや通用しない
  ■ 経産省報告書、環境省検討会への電力会社提出資料でも、石炭火力輸出政策の最大の根拠だった「日本の石炭火力発電効率は世界でトップ」という主張が、もはや通用しないことが明確に。
  ■ 鈴木外務副大臣は「日本が生産をしている1段再熱のUSCよりも、中国のみで生産できている2段再熱のUSCのほうが効率がよく、費用的にも日本のものに比べて高くはないという記述がある。もし、この記述が本当だとすれば、日本の技術が優れているという輸出の前提が変わってしまう」との見解を表明(環境省検討会第3回発言)
2 「石炭火力と脱炭素化の両立」の非現実性
  ■ 経産省報告書が提唱するIGCC、CCSなどの「脱炭素化」技術は、削減効果が小さく、高コスト、技術も未確立。事業者自身の資料によっても、現在の輸出プロジェクトに利用できるものではないことが明らか。
3 東南アジアには自然エネルギー開発、送電網整備など大きなビジネスチャンスが存在
  ■ 東南アジアには、電力需要を満たすために十分以上の大きな自然エネルギーポテンシャルがある。
  ■ 太陽光などの発電コストは急速に低下し、石炭火力に対して価格競争力を有するようになっている。
  ■ 既にインドシナ半島には国際送電網が存在。島しょ部でも建設・計画が進む。その促進こそインフラ輸出のビジネス機会。
4 多くの企業・金融機関が既に石炭から自然エネビジネスへの転換を進めている
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●1 競争力を失った日本の石炭火力プロジェクト 32:16~

●2 「石炭火力と脱炭素化の両立」の非現実性①IGCC 33:59~

●2 「石炭火力と脱炭素化の両立」の非現実性②CCS 36:16~

●3 東南アジアの自然エネルギービジネスの大きな可能性 太陽光・風力のコスト低下 38:25~
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●3 東南アジアの自然エネルギービジネスの大きな可能性①開発ポテンシャル 40:27~

●3 東南アジアの持続可能な未来 ■東南アジアの未来3つのシナリオ:日本はどの未来を支援するのか 41:50~
 •「世界エネルギー見通し2019(WEO2019)」は、東南アジアの「現状政策(CPS)」、「公表政策(SPS)」、「持続可能政策(SDS)」の3つのシナリオを描く。
 •石炭火力発電量は、現在より現状政策で3倍、公表政策でも2倍になる。
 •公表政策でも、2040年までの設備容量の増加は、自然エネルギー電源が石炭火力の2倍程度。しかし、このシナリオでも、エネルギー起源CO2は、60%増加する。
 •日本が、世界の気候変動対策に貢献するためには、パリ協定に整合する持続可能政策に沿った電源開発を支援すべき。
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●4 多くの企業・金融機関が既に石炭から自然エネビジネスへの転換を進めている 43:15
 ■環境省検討会に提出された各企業の資料からは、金融機関、商社は脱石炭の方向に舵を切っており、電力会社も、石炭火力の必要性は言いつつ東南アジアでは新規開発を予定していないことが明らかになった。
 ■ごく一部の企業以外、日本のビジネスは脱炭素への選択を行っている。

石炭火力輸出の中止と自然エネルギー支援への転換が必要な理由まとめ 45:15~46:25
1. 日本政府はパリ協定にコミットしており、「世界の脱炭素化を牽引するとの決意の下、高い志と脱炭素化のための取組を積極的に推進していく姿勢を力強く内外に示」すとしています(パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略)。
したがって、政府のインフラ輸出戦略もパリ協定の実現に向けた戦略と整合的であることが必要です。
2. 経産省報告書は、IEAの公表政策シナリオに依拠して「2040年には、化石燃料発電の割合は相対的に減少するが、例えばアジア太平洋地域では依然5割を占めることが見込まれ」るとし、これを石炭火力支援を継続する理由としています。
しかし、公表政策シナリオでは、2040年の東南アジアのエネルギー起源CO2排出量は2018年より60%も増加してしまい、パリ協定の目標と整合しません。公表政策シナリオを前提として日本のインフラ輸出戦略を決めるのでは、パリ協定に対する政府のコミットメントと矛盾してしまいます。
3. 石炭火力輸出を合理化する最大の根拠であった「日本の石炭火力発電効率は世界でトップ」という主張が根拠を失う一方で、東南アジアにおける自然エネルギー開発、送電網整備には、大きなビジネスチャンスが存在しています。
4. 環境省検討会においても、経産省報告書においても、多くの日本企業が自然エネルギー拡大とその関連ビジネスに積極的に乗り出していることが示されています。
5. 世界の気候変動対策に貢献するためにも、日本のビジネス展開の促進のためにも、「インフラ輸出戦略」を見直し、石炭火力輸出政策を完全に中止し、自然エネルギービジネス支援に転換すべき時です。
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JCIウェビナー「石炭火力を考える」講演①(平田仁子) 8月4日

JCIウェビナー「石炭火力を考える」(7月28日)の講演①「国内の石炭火力フェーズアウトの必要性」 (平田仁子 気候ネットワーク国際ディレクター/CAN Japan 代表)です。資料スライドと、YOUTUBEでの開始時間を入れておきます。

講演1 平田仁子「国内の石炭火力フェーズアウトの必要性」 資料PDF  8:37~[YouTube
●気候危機の回避に求められること パリ協定との整合性(1) 2050年ネットゼロ 9:18~ 9:39~
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●気候危機の回避に求められること パリ協定との整合性(2) 石炭火力の利用抑制 9:35~ 9:38~ 10:38~
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●これからの経済再生策が決定的に重要 9:36~ 12:27~
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●発電電力量の推移 13:42~
 
●2012年以降の石炭火力発電所の新増設 多数の石炭火力発電所が建設・運転開始している 14:38~

●廃止計画を持たない日本 石炭火力の発電容量が急増している 16:01~

●日本の石炭火力発電に関する対策・政策はG7で最低ランキング 16:29~

●[化石賞] 17:35~
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●国の石炭火力政策① ー東日本大震災後 18:28~
  石炭火力発電の開発へのゴーサイン
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●国の石炭火力政策② 19:28~
  エネルギー基本計画での位置付けと、それとの整合を図る施策
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●電気事業者の供給計画とりまとめ 20:48~
  2029年に石炭火力37%にまで増えてしまう
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●経済産業省 石炭火力の抑制:非効率石炭休廃止(100基・9割) 21:38~
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●“非効率石炭火力の9割(100基)休廃止”の意味 22:15~
  古いものは閉じるが、新しいものは今後も延命方針
  基数で9割・100基は大きく思えるが設備容量ではわずか2まる割減
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●Climate Action 2019 23:21~
 各国の行動を引き上げを要請
 ●国連気候行動サミット2019(UN Climate Action Summit 2019)

●目標を立て毎年計画的に削減 23:51~
 「2030年石炭火力フェーズアウト」の道筋が不可欠

●「2030年石炭火力フェーズアウト」の実現に向けた市民・NGOの動き 24:36~

今、求められること ー政策 25:13~
 • 2030年目標(エネルギーミックス)の見直し
   • 「2050年CO2ネットゼロ」とともに石炭火力全廃を目標として掲げ、パリ協定との整合性を図ること
 • ロードマップ策定と政策対応
   • 既存発電の全廃への道筋を策定すること
   • 新規計画の中止
 • エネルギー転換を進める政策を経済再生の軸に
   • カーボン・プライシング(経済的手法)
   • 再生可能エネルギー大幅拡大策(優先再生可能エネルギー大幅拡大策(優先給電・系統強化・市場設計))
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日本に求められることー需要側 26:19~27:55
 • パリ協定の目標と整合させるビジョン・戦略と計画策定
    • TCFDの勧告に沿ったリスク把握とシナリオ分析
 • 電力の脱炭素化の行動実践
    • 目標設定
    • イニシアティブ参加・コミットメント
    • 電力購入基準設定
    • 再エネ導入・自家消費
 • 政策・社会への波及への貢献
    • 取り組み共有
    • 対話
    • 支援
    • 政策要請
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IGES気候変動統合チーム「ネット・ゼロという世界 -2050年 日本(試案)」定量的データで描き出す脱炭素社会の姿[公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)サイト 20200604
本報告書は、日本において、どのようにネット・ゼロ社会の実現を図るのかということについて、問題提起を行うことをねらいとしている。第1章では、目標年として2050年を掲げ、ネット・ゼロ社会におけるエネルギー需要の動向を中心に定量的な分析を試みた。その結果、広範な社会変化を伴いながらネット・ゼロ社会を実現していくトランジションシナリオでは、ネット・ゼロの達成時には、CO2貯留に関するリスクの低減、及び化石燃料依存脱却によるエネルギー・セキュリティー向上に大きく貢献することが示された。第2章では、トランジションシナリオにおける社会全体の変化を都市と地域、暮らし、産業、適応という観点から展望した。第3章では、ネット・ゼロ社会に向けた主要な課題や論点を概観した。

TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)[環境省サイト]

JCIウェビナー「石炭火力を考える」 8月3日

気候変動イニシアティブ(Japan Climate Initiative: JCI)は7月28日、「石炭火力を考える」をテーマに、ウェビナー(オンラインセミナー)を開催しました。ウェビナーでは2本の講演(国内・国外の石炭火力の動向について)とディスカッション、質疑応答が行われました。zoomウェビナーとYouTubeでライブ配信で600名が参加したそうです。
日本は、CO2排出量の大きい石炭火力発電について、国内での新増設を進めるとともに、東南アジアなどの海外への輸出を支援し続けており、国際的にも大きな批判が寄せられてきました。
7月3日、梶山経済産業大臣は、国内の「非効率な石炭火力発電を2030年までにフェードアウトする」という方針を公表しました。しかしこれは、「高効率」と称する石炭火力を、2030年時点で30GW以上も温存するものだという批判が寄せられています。
また、石炭火力の輸出については、7月9日に政府が発表した新たなインフラ輸出戦略の中で、「支援しないことを原則とする」と定められました。しかし、支援の要件は厳格化された一方で、進行中プロジェクトの支援は継続されるとともに、いまだ新規の輸出を可能とする含みは残されています。
  プログラム  
  1.開会あいさつ(気候変動イニシアティブ(JCI)代表末吉竹二郎)
  2.講演1「国内の石炭火力フェーズアウトの必要性」(平田仁子)
  3.講演2「石炭火力輸出の中止と自然エネルギー支援への転換が必要な4つの理由」(滝澤元)
  4.パネルディスカッション(高村ゆかり・平田仁子・大野輝之)
  5.質疑応答(zoomのQ&A機能を利用)
  司会:田中健(WWFジャパン 気候・エネルギーグループ)

  YOUTUBE(1:40:54)
      


『週刊東洋経済』特集・脱炭素待ったなし 8月1日

『週刊東洋経済』(8月1日号)は「脱炭素待ったなし」の特集です。
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地球温暖化の影響から自然災害が深刻化しています。そこに新型コロナウイルスが直撃。人々の移動が止まり石油需要が低迷し、多くのエネルギー企業が危機に瀕しています。
その一方で再生可能エネルギーシフトが世界主要国における経済復興政策の中心として浮上。日本でも非効率石炭火力発電所の停止など、踏み込んだ政策が動き出しました。
「脱炭素」に向けた規制はどこまで進んだのか。これから、どこまで強化されるのか。企業が意思決定を行ううえで不可欠な情報を盛り込んだ特集をお届けします。
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特集:脱炭素 待ったなし目次
Part1 石油の終焉
 世界で相次ぐ巨額損失と破綻 石油・ガス企業の瀬戸際
 「技術覇権争いで 日本は存在感保て」
    日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員小山堅
 「エネルギー問題の世界的権威が警鐘 創造的破壊に備えよ」
    IHSマークイット副会長ダニエル・ヤーギン
 コロナ禍と原油価格急落で経済が苦境に 不安定化する産油国政治
 独仏はEV購入に100万円以上補助 政策頼みのEVシフト
Part2  脱炭素化への奮闘
 重い腰を上げた日本政府 「非効率石炭」退場の衝撃
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 グリーンリカバリーに向け世界が動く コロナ禍を脱炭素で克服
 不況対策に内燃機関車への補助金はない ドイツ人の強い環境意識
 再エネ大量導入や森林破壊ゼロへ動き出す 日本企業・ESGの本気度
 イオン、セブンーイレブンの挑戦 再エネ店舗は普及するか
 ヤマト運輸 独社製のEVを首都圏で約100台稼働
 「発電コストが下がれば “電気使い放題”も」
    丸紅 電力・インフラグループCEO横田善明
 CO2大量排出産業の宿命 鉄鋼が挑む脱炭素の壁
Part3  前進する再エネ
 ついに日本も導入目標を策定 動き始めた洋上風力
 「日本政府の目標設定に期待」
    MHIヴェスタス アジア太平洋地域リージョナルマネジャー山田正人
 脱炭素の切り札となりうるか 水素とアンモニアに脚光
 欧州が野心的な水素戦略に着手した 日本の30倍の導入目標を掲げ投資を促す
 「現実味乏しい電源構成 実態に即した見直しを」
    国際大学大学院教授橘川武郎
 強靱で環境性に優れたエネルギー 東電と東ガスが真っ向勝負
 「水力と洋上風力を柱に 数兆円の投資を実施へ」
    東京電力リニューアブルパワー社長文挾誠一
 「日本企業も脱炭素に本腰 電力に投資呼び込む必要」
    日本経済団体連合会会長中西宏明



この間の石炭火力の削減方針評価③(7月24~30日) 7月30日

6月13日にeシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)が発表したリーフレット『STOP! 原発・石炭火力を温存する新たな電力市場』の7月22日版が公開されています。「容量市場」、「非化石価値取引市場」、「ベースロード市場」など新たな電力市場制度が大手電力に有利で石炭火力を温存する所以を明らかにしていますが、別記事で扱います。。
  

太陽光発電に負ける石炭火力(文谷数重)
  (Japan In-depth 2020.07.24)
  ・経産省による石炭火力の整理は太陽光にコストで敗北した結果である。
  ・石炭火力は十余年でなくなる。ガス火力も原発もなくなる。
  ・発電関連業界は今後様相を一変する。
経済産業大臣が石炭火力発電の見直しを発表した。3日の記者会見で脱炭素社会の実現を目指すため石炭火力は2030年に向けてフェードアウトさせる旨を明言した。だが、同時に石炭火力を残存させたい希望もにじませている。まず「非効率石炭[火力発電]の早期退出」とフェードアウトの対象を限定している。そして質疑では「高効率の石炭火発」や「償却が終わりに近づいているとか終わったプラント」を残したい本音を示唆している。石炭火力は将来どの程度残るのだろうか?まずは残らない。なぜなら石炭火力の縮小決定はコスト敗北の結果だからだ。それからすれば石炭火力は遠くないうちに絶滅するのである。
  ■フェードアウトはコスト敗北の結果
   文谷1
    ①は新設火力と新設太陽光のコスト逆転(2016年)
    ②は減価償却が完了した既存火力と新設太陽光の逆転(2024年)
    ③は新設火力と再エネ+蓄電池の逆転(2026年)
    ④は既存火力と再エネ+蓄電池の逆転(2026年)

  ■石炭火力はなくなる
  ■原発も天然ガス火力もなくなる
  ■電力関連業界は一変する

  旧式だが高収益の石炭火力発電に不適格の烙印
  (東洋経済ONLINE 2020.07.27 5:50)
原子力発電所の再稼働が遅れている現在、石炭火力発電が生み出す発電量は全体の32%を占めている(2018年度実績)。今回やり玉に挙げられた旧式の石炭火力は、その約半分を占める重要な電源だ。
環境性能では劣る反面、設備が簡素であるためメンテナンスが容易で、減価償却が進んでいることもあり、「競争力では非常に優位にあった」(JERA(ジェラ)の奥田久栄常務執行役員)。つまり電力会社にとっては「非効率」ではなくむしろ「高収益」の設備だった。
それだけに、電力各社への衝撃は大きい。虎の子の資産に対して経産省から環境性能の面で“不適格”の烙印が押されたからだ。方針発表後、電力各社には投資家からの問い合わせが相次いだ。
日本ではこれまでエネルギーの制約から脱炭素化は絵空事と見なされてきた。それが今や企業のビジョンや成長戦略の柱として語られるようになってきた。日本経済団体連合会が音頭を取る形で、脱炭素化を目指す企業連合の「チャレンジ・ゼロ」が動き出したのも危機感の表れだ。脱炭素化の潮流を理解し、自らを変革できた企業だけが生き残る。[記事末結論]
  特例措置がなければ追い込まれる電力会社も
  旧式石炭火力のフェードアウト方針は2年前に決定
  温暖化対策で、はるか先を行く欧州
世界に目を転じると、日本とは違った光景が広がる。先端を走るのは欧州連合(EU)だ。エネルギー面での取り組みや、環境などに配慮したESG(環境・社会・企業統治)投資の状況を比較すると、日本より欧州のほうがはるかに踏み込んで対応していることがわかる。
2015年9月の国連SDGs(持続可能な開発目標)と、同12月の地球温暖化対策のためのパリ協定採択をきっかけに、欧州委員会は「サステイナブル金融に関するハイレベル専門家グループ」(HLEG)を設立。2018年1月のHLEG最終報告書において「タクソノミー」の導入が提言された。
タクソノミーとは、一般に「分類」を意味する。ここでは地球温暖化対策を進めるうえでの投資対象として、各産業分野における技術や製品の適格性を分類する。
今年3月にまとめられた「サステイナブル金融に関するテクニカル専門家グループ」(TEG)の最終報告書によれば、環境に優しいとされる「グリーン」に分類された投資対象に石炭火力発電は含まれていない。
  欧州委員会が明らかにした「水素戦略」

自然エネルギーが世界で急拡大、日本は後進国に 飯田哲也さんに聞く(吉田昭一郎)
  (西日本新聞 2020/7/28 11:30 更新:2020/7/29 16:18 更新)
  ●「太陽光と風力が世界のエネルギーの中心に」
  ●石炭火力を下回る発電コスト
  ●送電線接続ルール、再生エネ普及を妨げ
 飯田さんによると、日本では石炭火力発電の原価は1キロワット時当たり4円~8円程度。これに対し、最新型の太陽光は10円を切るところまで来ている。日本の再生エネが比較的高いのは、初期の高い固定単価で稼働する太陽光がまだ残っていることと、大手電力会社が新規の再生エネ事業者に求める高額な送電線接続負担金の影響もあるという。
 飯田さんたちは「日本と再生」で、再生エネの発展を妨げる壁として、その接続負担金とともに、大手電力会社の送電線運用の問題を指摘した。
 「電力会社は系統の全発電所が最大限発電していると想定して送電線の空き容量を計算するので、実際には送電線にほとんど電気が流れていないのに『空き容量はゼロ』として事実上、新規事業者を締め出し自然エネルギーの普及を妨げています。しかも送電線の使用は先着優先としており、自分のところの原発や石炭火力などの電気を優先して流す。電力量が多すぎると、『出力抑制』と称して自然エネの電気から排除して買い取らず、その補償もしない。そうした不明朗、不公正な運用を見直して、FIT(固定価格買い取り制度)法の本来の目的『自然エネの優先接続・優先給電』を実現しないと、日本の遅れは取り戻せません」
  ●送配電の分離、完全独立こそ1丁目1番地
 欧州など各国が脱炭素化へ本腰を入れる中、石炭火力になお依存し新増設計画も抱える日本への海外の批判は厳しさを増す。政府は今月3日、CO2排出量が多い旧型の石炭火力発電所114基のうち100基程度を30年までに休廃止させる方針を発表。新型の石炭火力は残し、新増設も認めるとした。
 これに対し、飯田さんは「ある意味で、フェイクまがい」と厳しい。「『114基のうち100基程度の廃止』とは大胆な決定に聞こえますが、『やっているフリ』ではないか。旧型の石炭火力は小型が多く、建設・計画中の大型石炭火力を加えれば正味の電力量は基数ほどには大きく減らず、国のエネルギー基本計画を維持したまま、2030年の化石燃料の電源構成比率56%を温存するわけですから」
 政府は同時に、再生エネ推進を掲げ送電線への優先接続など、今のルールの見直しも進めるとしている。飯田さんの提案はこうだ。
 「1丁目1番地は大手電力会社の発電と送電の分離をきちんと実行すること。電力各社は今春、法改正に伴い分社化していますが、送電会社を子会社にしたり持ち株会社の傘下に入れたりしただけ。それでは、送電会社は親会社や持ち株会社の利害に沿って送電線を運用してしまい、中立・独立からはほど遠い」
 「各地の送電会社を資本面で完全に独立させたら国内一つの公益会社に統合。北欧の国際電力市場『ノルドプール』など欧州の先進地の人材を招いて、自然エネルギーの優先接続・優先給電原則のもとで電力市場を一から設計し直し、最新のソフトウエアを導入する。そこまで踏み込まないと、送電網の運用も含めて市場運営上の透明性、公平性が担保できず、自然エネルギーは広く普及できないと思います」
石炭火力見直し エネルギー戦略、原発も逃げず議論を(松尾博文)
  (日経電子版 Nikkei Views 2020.07.29 2:00)
エネルギー政策の長期指針となる「エネルギー基本計画」は、30年度に実現する3つの政策目標を掲げる。(1)欧米に遜色ない温暖化ガス削減を実現する(2)電力コストを現状より引き下げる(3)エネルギー自給率を東日本大震災前を上回る25%程度に引き上げる――だ。
エネルギー指標を国際比較すると、日本が気候変動の対応以上に劣後する2つの数字がある。自給率と電気料金の水準だ。17年の自給率は9.6%と、経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国中(17年時点)で34位だ。東日本大震災以降、最下位のルクセンブルクに次いで下から2番目が定位置になっている。米国93%、英国68%、フランス53%、ドイツ37%などと比べて、日本は主要国の中で際だって低い。
経産省によれば、17年度の電気料金は震災前と比べて家庭用で16%、産業用で21%高い。産業用で38%高となった14年のピークから下がったとはいえ、高止まりが続く。国際エネルギー機関(IEA)によれば、16年の発電コストは米国や東南アジアの2倍、欧州連合(EU)の1.5倍だ。
低い自給率は国家安全保障の、割高な電気料金は国際競争力の観点から放置できない。エネルギーを1割も自国でまかなえず、電気料金が2倍の国に誰が投資しようとするだろうか。温暖化問題に隠れがちだが、日本は深刻な弱点を抱える。
低い自給率は化石燃料への依存度が高いことに起因する。電源の約8割を占める、石炭や液化天然ガス(LNG)、石油はほぼすべて輸入に頼る。戦前、戦後を通じて日本がエネルギー安保の呪縛に捕らわれてきた理由はここにある。自給率引き上げへ、国産エネルギーである再生エネの拡大に注力することは正しい。
ただし、石炭が担ってきたエネルギー供給の役割を、すぐに再生エネで代替できると考えるのは早計だ。日本では再生エネのコストは地理的な条件や送電網の制約などから、まだ石炭火力より高い。時間や天候で変動する再生エネの供給を平準化する技術の定着には投資と時間が必要だ。
原発は温暖化ガスを出さない脱炭素の有力手段であり、国産エネルギーに位置付けられる。安全対策費用が一定に収まる限り、既存原発を再稼働できれば化石燃料よりも発電コストは安い。エネルギー基本計画で掲げる3つの政策目標の達成には原発が必要なのだ。
しかし、様々な世論調査では、福島第1原発事故から9年が経過しても原発への不信感は根強く、必要だとする回答はむしろ下がっている。エネルギー政策の大前提である安全問題を克服できていない。
原発比率20~22%の実現には30基程度の原発が必要だが、再稼働は9基にとどまる。政府は50年に温暖化ガス排出の8割削減の目標も掲げる。この実現には、ほぼすべての火力発電が現状の形では使えない。
原発の運転を40年ですべて停止した場合、49年に国内の原発はゼロになる。運転期間を60年に延長しても50年代には数基となり、69年にはゼロになる。こうなることは早くからわかっていたはずだが、国は議論の先送りを続けてきた。
国民の不信感が強い状況で、原発に触れないのはある意味、政治の当然の選択でもある。しかし、エネルギーをめぐる環境変化は速度を上げる。これ以上、時間を空費するわけにいかない。原発を日本のエネルギー戦略にどう位置付けるのか。新増設をどうするのか。そのために国民の理解をどう得るのか。得られなければどうするのか。この議論から逃げない胆力が問われる。
小泉進次郎氏が異例のテレビ出演 石炭火力輸出厳格化に「前代未聞だ」
  (SankeiBiz 2020.07.30 01:29)
 小泉進次郎環境相は29日夜、BSフジ番組に出演した。自身が主導した石炭火力発電の輸出支援の要件厳格化について「凍り付いたエネルギー政策が解凍され始めた。(政府方針に)『(輸出)支援しないことを原則とする』と書いたのは前代未聞だ」と述べた。小泉氏のテレビ出演は、選挙番組をのぞけば極めて異例だ。
 小泉氏は、政府が石炭火力の削減に取り組む一方で、地元の神奈川県横須賀市で石炭火力発電所の新設が進められていることに関して「批判はあるが、地元のことをやめれば済むのではない。日本全体を動かす政策の変化につなげられるかに力を入れている」と強調した。
 原子力発電の推進の是非は「脱炭素社会をつくるカギは原発と国際社会で認識は共有されている。ただ、日本は原発事故を起こした。そのリスクを国民とどう議論するかだ」と言葉を濁した。
 首相への意欲を問われると、「首相が決めればできることはいっぱいある」と述べつつも「就けるかどうかは別だ。首相になるにはこの人を支えたいという仲間がいなければならない」と述べた。
  (BSフジLIVE「プライムニュース」7月29日放送 2020.07.31 19:30)


石炭火力の削減方針評価②(7月15~20日) 7月29日

7月25日に掲載した「石炭火力削減方針評価①(7月4~9日)」に続く、その後の通産省、環境省、電力業界の対応、その評価について触れているネット記事です。

電気事業の地球温暖化対策、「30年度目標達成に向けた道筋が不明瞭」と評価
  (環境ビジネスオンライン 2020.07.15)
 環境省は7月14日、2019年度の電気事業分野における地球温暖化対策について、電力業界の自主的枠組みと政府の政策的対応の2つの柱で、進捗状況を評価した結果を発表した。
 この評価レポートでは、電力業界の自主的枠組みと政府の政策的対応の全体として、「一定の改善・進捗もあり、評価に値する一方で、今なお多くの課題が残存している」と指摘し、「電気事業分野における2030年度の目標達成に向けた道筋は不明瞭であり、早急に示す必要がある」とした。
  ●経済産業省との合意に基づき評価を実施
  ●現状で2030年度のCO2削減目標達成は困難
  【参考】電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価結果について(環境省)

【単刀直言】小泉進次郎環境相 環境先進国・日本の逆襲始まる(奥原慎平)
  (産経新聞 2020.7.15 21:13)

電力各社の脱石炭、市場が見つめる切り替えコスト(森国司)
  (日本経済新聞電子版 2020.07.17 2:00)

アングル:既定路線の「脱石炭火力」、温暖化対応へ さらなる切り込み必要(清水律子)
  (Reuters 2020.07.17 18:37)
  <輸出支援、「しない」のか「厳格化」か
  <世界への貢献
  <100基廃止でも残る石炭火力
 一方、国内では、140基ある石炭火力発電のうち、発電効率が低い114基の発電を「できる限りゼロに近づけていく」という方針を打ち出した。全発電量に占める石炭火力は2018年度で32%。内訳は、高効率26基で13%、非効率の114基で16%、化学メーカーや鉄鋼メーカーなどの自家発電分が3%となっている。
 この比率からわかる通り、旧型の非効率な石炭火力は小型なものが多く、今後新設される高効率の最新の石炭火力は大型なものが多い。「140基中100基が休廃止」という数字の印象と実態とは異なる。地球環境戦略研究機関(IGES)は「2030年時点では50基の石炭火力が残る」とし、設備容量で見た場合「今回の方針による削減は3割程度」と推計している。
 CO2排出についても「高効率な石炭火力でも、CO2排出量は、非効率なものより数%しか減らない」(自然エネルギー財団)と指摘。今回、高効率なものを日本が継続するという姿勢を示したことに懸念を示している。
 一方、東京電力グループと中部電力が出資するJERAの小野田聡社長は「事業の予見性が高まる」と評価するとともに、日本が資源の少ない国であることを考えると、経済、環境、安定供給をバランスしたものが必要だとし「そのなかで石炭火力は一定程度の役割をもつ」との認識を示している。
 梶山経産相も、非効率な石炭火力のフェードアウト方針は、2018年に決めたエネルギー基本計画で示した2030年度の石炭火力比率26%の達成を確実にするためとしており、さらなる石炭火力発電の比率引き下げを意味するものではないと説明している。
  <原発の再稼働困難、さらなる対応は

石炭火力の輸出 「抜け穴」をふさがねば 
  (中日新聞 2020.0718 05.00 (05:01更新)
 石炭火力大国日本。国際社会の批判が高まる中で、ようやく古い発電所の休廃止にかじを切る。だが、新設や途上国への輸出は、続けていくという。温暖化対策の「抜け穴」が、大き過ぎないか。
 日本政府は、主要七カ国(G7)の中で唯一、国際協力銀行(JBIC)の低利融資や政府開発援助(ODA)などにより、途上国に対する石炭火力発電所の輸出支援を続けている。
 国際エネルギー機関(IEA)によると、石炭火力は世界の発電・熱供給部門の二酸化炭素(CO2)排出量の約七割を占めており、国際社会から、地球温暖化の元凶と見なされている。
 温暖化対策の新たな国際ルールであるパリ協定は、温暖化による破局的な影響を回避するために、産業革命前からの世界の平均気温上昇を1.5度に抑えるよう求めている。
 そのためには、2050年にはCO2排出量を実質ゼロにしなければならず、国連のグテレス事務総長は昨年来、「20年以降は、石炭火力の新設は禁止すべきだ。さもなくば大災害に直面する」と訴えている。“凶暴化”する豪雨の被害にあえぐ日本にとっても、身に迫る指摘であるはずだ。
 欧米の国々や自治体、温暖化の影響が深刻な小島しょ国などが「脱石炭国際連盟」を結成して石炭火力の全廃に向かう中、コロナ禍が「脱炭素」に拍車をかけた。
 経済活動が停滞し、電力需要が減少したのをきっかけに、化石燃料から再生可能エネルギーへ電源の転換を図る企業が増えている。
 しかるに日本は、国内にある低効率の旧型火力を段階的に廃止する一方で、CO2排出をある程度抑えた新型火力の新設は続けていくという。
 輸出支援は環境性能の高いものに限るなど、要件を厳格化するとは言うものの「禁止」には踏み込まない方針だ。
 だが最新鋭の設備といえども、CO2の排出量は天然ガスの二倍に上り、温室効果ガスの大量排出源であることに変わりはない。
 新設の発電所を四十年稼働させるとすれば、その間はCO2を出し続けることになる。パリ協定の要請に見合わない。
 CO2の回収貯留や再利用の設備を併設すれば、そこに膨大なエネルギーと費用がかかる。
 国内では「全廃へ」、輸出は「禁止」。再生可能エネルギーへの切り替えを加速させないと、世界の理解は到底得られない。

インタヴュー:「石炭火力休廃止」宣言の真意、エネルギー専門家の橘川氏が読む(中山玲子)
  (日経ビジネス 2020.07.20)
経済産業省は7月3日、二酸化炭素(CO2)の排出量が多い低効率な石炭火力発電所の休廃止を進めると表明した。13日には削減に向けた制度設計の議論を始めた。背景には何があったのか、石炭火力の休廃止は今後、国のエネルギー政策にどのように影響していくのか。エネルギー産業論を専門にする国際大学国際経営学研究科の橘川武郎教授に聞いた。
-梶山弘志経済産業相が、二酸化炭素(CO2)を多く排出する低効率な石炭火力発電所の休廃止を進めると表明しました。
橘川武郎氏(以下、橘川氏):石炭火力をフェードアウトするという部分が注目されていますが、同時に、高効率の石炭火力については続けていくということを経産省が宣言したとも言えます。私はむしろ、高効率の石炭火力維持が本質ではないかとみています。……
-多くの人が「経産省が石炭火力をやめる方向に舵(かじ)を切った」とみているのではないかと思います。
橘川氏:効率の悪い石炭火力を休廃止して高効率なものに変えていくという方針を、経産省は2018年に出した第5次エネルギー基本計画でも示してきました。今回もその通りのことを言ったにすぎない。政策転換とは言えないでしょう。
  ●原子力のポジションが後退
-再稼働が進まない原発は新設や増設も停滞しています。国が示した30年度の電源構成では原子力を20~22%としていますが、実現は難しそうです。
橘川氏:私は総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の基本政策分科会の委員を務めていますが、7月頭にあった会合では、以前に比べて原子力のポジションが非常に後退しているような印象を受けました。……
-原子力のポジションが後退したのはなぜでしょうか。
橘川氏:打開策を見いだせず、手の打ちようがないのでしょう。原子力政策は国策民営です。これまで政府は、まず電力会社が手を挙げて、その後に国が支援、応援するという形を取ってきました。福島第1原発事故の例が分かりやすいのですが、福島を訪問して謝罪したのは東京電力で、その支援に回ったのが国でした。……
 同じベースロード電源という位置付けの中、石炭火力を減らすことと原子力を増やすことはセットの議論になってきました。ところが、今回は石炭火力だけの議論になっている。そこには、高効率の石炭火力だけでも守らなければならないという考えがあるように思います。
  ●地方の電力会社への影響大きい
-とはいえ、多くの電力会社が低効率な石炭火力発電所を持っています。大きな影響が出るのではないでしょうか。
橘川氏:電力会社を十把ひとからげにしないことが大切です。保有する石炭火力の種類とその電力会社の組み合わせをよく見ると、大きい電力会社ほど影響はありません。……
 影響が大きいのが、低効率の石炭火力が多い東北電力や中国電力、北陸電力といった地方の電力会社です。原発再稼働ができない中で、古い石炭火力に頼らざるを得ない状況なのです。これらの電力会社が持つ石炭火力が休廃止の対象になると、経営にも影響してくるでしょう。
-日本の石炭火力に対する海外からの批判は、これで少しは落ち着くでしょうか。
橘川氏:世界から見れば、「高効率のUSCといえども、石炭火力はまだ残っているではないか」という厳しい評価になると思います。また日本に「化石賞」が贈られるかもしれません。……
 だから、今回もそんなに簡単にすべての石炭火力をフェードアウトすることなんてできない。……。
 海外に目を向ければ、フランスや英国は石炭火力を止める方針ですが、原子力は推進します。ドイツも石炭火力をやめる方向ですが、2038年とまだ先の話です。世界の大国で、原子力も石炭火力もやらないと言っている国はほとんどありません。……

環境省19年度電力レビュー発表(7月14日) 7月28日

 環境省は7月14日、2019年度の電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状態について、電力業界の自主的枠組みと政府の政策的対応の2つの柱で評価した結果(「電力レビュー」)を発表した。
 2016年2月、環境大臣・経済産業大臣は、電気事業分野の温暖化対策における2030年度のCO2排出係数を0.37kgCO2/kWhとする目標達成に向けて、①目標達成に向けた電力業界(電気事業低炭素社会協議会)による自主的枠組み(取組みのPDCA 等)に対し、引き続き実効性・透明性の向上等を促していく、②政府による政策的対応として、省エネ法やエネルギー供給構造高度化法等に基づく基準の設定や運用の強化等により、電力業界全体の取組の実効性を確保する、③これらの目標達成に向けた取組については、毎年度、進捗状況を評価する。目標が達成できないと判断される場合には、施策の見直し等について検討することを合意し、環境省は毎年度、この合意に基づく取組の進捗状況の評価を実施して来ている
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電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価結果について(評価結果の総括)(環境省 2020.07.14)
1.評価の背景及び目的

2.電気事業分野における現状分析と今後の方向性
電気事業を取り巻く情勢
電気事業分野の低炭素化・脱炭素化に向けて
○電気事業分野における 2030 年度目標や上記政府方針の達成に向けた進捗については、以下の点が注目される。
・現在の石炭火力発電の新増設計画が全て実行され、ベースロード電源として運用されると、仮に既存の老朽石炭火力発電が順次廃止されたとしても、2030年度の削減目標やエネルギーミックスに整合する石炭火力発電からのCO2排出量を約5,000万トン超過する可能性がある。現時点でこそ、電気事業分野全体のCO2排出係数は改善傾向にあるものの、環境省の試算によれば、2030 年度の目標達成は困難であり、パリ協定で掲げる脱炭素社会の実現も視野に入れ、更なる取組の強化が不可欠である。中長期的な脱炭素化に向けて、脱炭素社会への現実的かつ着実な移行に資する「脱炭素移行ソリューション」を目指すことが必要である。
・石炭火力発電について現状で明らかになっているところでは、新増設計画がある一方で、休廃止計画は少なく、石炭火力発電の設備容量は大きく純増する。環境省の試算では、2019年度における非効率な石炭火力発電(超臨界(SC)以下の設備)設備容量は石炭火力発電(自家発自家消費設備を除く。)の約5割、2030年度においては約4割を占める。CO2削減目標の達成に向けて、こうした非効率な石炭火力発電のフェードアウトに向けた取組を着実に進めることが必要である。今般、経済産業省から、フェードアウトに向けた新たな取組の検討に着手するとの発表があった点も踏まえ、環境省として、非効率な石炭火力のフェードアウトに向けた取組を厳しく注視してまいりたい。
・CO2排出削減をパリ協定の長期目標と整合的に実現するためには、高効率な火力発電設備についても、更なる高効率化・次世代化を進める必要がある。再生可能エネルギーによる出力変動への柔軟な対応、燃焼に伴ってCO2を排出しないエネルギーであるバイオマス・水素・アンモニア等の混焼、排出されるCO2を回収して有効利用・貯留するCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の活用など、火力発電のゼロエミッション化が重要である。これらに向けたイノベーションを総合的に後押しし、「ゼロエミッション火力」の実現可能性を追求すべきである。このような「脱炭素移行ソリューション」を通じて、脱炭素社会への現実的かつ着実な移行を目指す必要がある。
再生可能エネルギーの主力電源化は、「脱炭素移行ソリューション」の一環としても重要である。エネルギーミックスで掲げる22~24%という水準を着実に達成しなければならない。さらに、これにとどまらない一層の導入拡大が必要である。2019年4月に発足した環境省・経済産業省の連携チームによる取組等を通じ、地域の再生可能エネルギーを活用した分散型エネルギーシステムの構築等、更なる取組の加速化が求められる
・併せて、再生可能エネルギーの導入拡大に伴う系統制約の克服に向け、系統増強に加え、既存系統の最大限の活用(日本版コネクト&マネージ)の取組の一つである「ノンファーム型接続」の2021年中の全国展開に向けた着実な取組とともに、地域における再生可能エネルギーの需要に応じた系統整備・活用が進むことを期待する。
○脱炭素社会の実現に向けては、脱炭素な調整力としても活用でき、新たなエネルギーの選択肢となり得る水素や、CCUS 等の脱炭素技術等について、その商用化や社会実装の見通しを具体的に示すことが必要である。

3.電力業界の自主的枠組み及び政府の政策的対応に関する進捗状況の評価
(1)電力業界の自主的枠組みの現状について
○今般、協議会は、2030年度のCO2排出係数に係る目標の達成に向け、その取組の自主的枠組みにおいて、協議会のCO2排出係数の妥当性を定量的に評価・分析する仕組みを新たに導入した。
○これは、取組の実効性を向上させ得る努力として高く評価したい。しかし、こうした自主的枠組みも、PDCAサイクルの実効性確保の点で万全とまでは断言しがたく、目標達成への具体的な取組の道筋は今なお明らかでない。引き続き、会員事業者数の増大も含め、更なる努力に期待したい。
(2)政府の政策的対応の現状について
省エネ法関係
○省エネ法の下、発電事業者に対し、火力発電設備の効率として達成すべきベンチマーク指標が設定されており、2019年度実績では目標の水準を上回っている。
○一方、この指標の達成に向けた複数事業者の共同による取組(いわゆる共同実施)の在り方等を巡る議論については、未だ結論が得られていない
○火力発電の着実な低炭素化に向けては、ベンチマーク指標の継続的な達成が必要である。ベンチマーク指標やその達成の在り方を巡る議論の進展は引き続き注視すべきである。非効率な石炭火力発電のフェードアウトは、今なお道半ばにある
エネルギー供給構造高度化法関係
○エネルギー供給構造高度化法の下、小売電気事業者等に対し、2030年度に達成すべき非化石電源(再生可能エネルギー等)の比率の目標が設定されている。また、目標達成のための仕組みとして、非化石価値取引市場も創設・運営されている。
○この目標に関しては、2030年度に至るまでの途中の期間における中間評価の基準として、2022年度までの期間に係る定量的な基準が策定されたことは評価したい。
○一方で、今後の非化石電源比率の目標の達成状況については、非化石市場の在り方や各事業者の取組と合わせて、引き続き注視すべきである。2023年度以降の期間に係る中間評価の基準についても、より野心的な目標値の早急な策定が望ましい
(3)電力業界の自主的枠組み及び政府の政策的対応の全体について
○電力業界の自主的枠組み及び政府の政策的対応には、一定の改善・進捗もあり、評価に値する一方で、上記のとおり、今なお多くの課題が残存している。電気事業分野における2030年度の目標達成に向けた道筋は不明瞭であり、早急に示す必要がある
4.今後に向けて~コロナからの復興とこれからの地球温暖化対策~
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電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価結果について(参考資料集) 2020.07.14
 1.評価の背景及び目的
  (1)はじめに
  (2)電力の低炭素化・脱炭素化を巡る潮流
  (3)電気事業を取り巻く環境の変化
  (4)評価に関する基本的考え方
 2.電気事業分野の低炭素化・脱炭素化に向けて
  (1)CO₂排出量及びCO₂排出係数の状況等
  (2)火力発電の低炭素化
  (3)再生可能エネルギーの主力電源化
  (4)長期的な脱炭素社会の実現に向けたイノベーション
 3.電力業界の自主的枠組み及び政府の政策的対応に関する進捗状況の評価
  (1)電力業界の自主的枠組みの評価
  (2)政府の政策的対応等の評価
 4.今後に向けて ~コロナからの復興とこれからの地球温暖化対策~

 1.評価の背景及び目的
  (1)はじめに
   ●2018年度の日本の温室効果ガス排出量(確報値)
   ●部門別CO₂排出量(電気・熱配分前)
   ●電気事業分野における地球温暖化対策について
    電気事業温暖化対策評価資料集_1

  (2)電力の低炭素化・脱炭素化を巡る潮流
   ●パリ協定の目標
   ●2℃目標に整合する緩和経路
   ●1.5℃目標に整合する緩和経路
   ●残余カーボンバジェットについて
   ●化石燃料可採埋蔵量の座礁資産化リスク
   ●(参考)石炭火力発電の座礁資産化リスク
    電気事業温暖化対策評価資料集_2
   ●ESG金融の国際的な広がり
   ●脱炭素経営に向けた取組の広がり
   ●国内金融機関の石炭火力発電事業に対する方針
    電気事業温暖化対策評価資料集_3
   ●国内大手商社の石炭火力発電事業に対する方針
     電気事業温暖化対策評価資料集_4
   ●パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(2019年6月11日閣議決定)
     電気事業温暖化対策評価資料集_5
 
  (3)電気事業を取り巻く環境の変化
   ●電力システム改革の動向
   ●新たな市場の整備動向
   ●プッシュ型系統整備への転換
   ●災害に強い分散型電力システムの促進に向けた環境整備

  (4)評価に関する基本的考え方
   ●進捗状況の評価にあたっての基本的考え方
    電気事業温暖化対策評価資料集_6

 2.電気事業分野の低炭素化・脱炭素化に向けて
  (1)CO₂排出量及びCO₂排出係数の状況等
   ●火力発電からのCO₂排出量及びCO₂排出係数について
    電気事業温暖化対策評価資料集_7
   ●2018年度における発電設備容量・発電電力量について
    電気事業温暖化対策評価資料集_8
   ●環境省RE100を通じた再エネ導入に積極的な小売電気事業者の発信
   ●排出係数・電源構成に関する情報開示

  (2)火力発電の低炭素化
   ●石炭火力発電の設備容量とCO₂排出量について
    電気事業温暖化対策評価資料集_9
   ●(参考)石炭火力発電の稼働率について
    電気事業温暖化対策評価資料集_10
   ●非効率な石炭火力からのフェードアウトについて
    電気事業温暖化対策評価資料集_11
   ●火力発電所の新増設・休廃止計画について
    電気事業温暖化対策評価資料集_12
   ●メリットオーダーについて
    電気事業温暖化対策評価資料集_13
   ●(参考)燃料種ごとのCO₂排出係数(発電量あたりのCO₂排出量)
    電気事業温暖化対策評価資料集_14
   ●(参考)発電技術の高効率化、低炭素化の見通し
    電気事業温暖化対策評価資料集_15

  (3)再生可能エネルギーの主力電源化
   ●再生可能エネルギーの導入状況
    電気事業温暖化対策評価資料集_16
   ●地域での再エネ拡大に向けた経産省との連携チームについて
   ●地域での再エネ拡大に向けた経産省との連携チームでの取組例について
   ●既存系統の最大限の活用(日本版コネクト&マネージ)

  (4)長期的な脱炭素社会の実現に向けたイノベーション
   ●各種計画等におけるイノベーションについての記載
    電気事業温暖化対策評価資料集_17
   ●環境省におけるCCSの取組例
   ●環境省におけるCCUの取組例
   ●環境省における再エネ由来水素サプライチェーン構築に向けた取組例
   ●「地球温暖化対策に係る長期ビジョン」(電気事業低炭素社会協議会)

 3.電力業界の自主的枠組み及び政府の政策的対応に関する進捗状況の評価
  (1)電力業界の自主的枠組みの評価
   ●電気事業低炭素社会協議会について
   ●協議会におけるCO₂排出削減実績
   ●CO₂排出量・排出係数の改善要因について
   ●目標達成に向けた協議会のPDCAサイクルについて
   ●協議会会員企業のカバー率について
   ●取引所取引における電源構成の把握について

  (2)政府の政策的対応等の評価
   ●省エネ法に基づく火力発電の判断基準について
    電気事業温暖化対策評価資料集_18
   ●省エネ法に基づくベンチマーク指標の実績について
   ●エネルギー供給構造高度化法について
   ●高度化法における非化石電源比率の実績
   ●定量的な中間評価の基準について

 4.今後に向けて ~コロナからの復興とこれからの地球温暖化対策~
  ●新型コロナウイルス感染症によるエネルギー需要への影響
  ●新型コロナウイルス感染症のエネルギー需要に対する影響
   電気事業温暖化対策評価資料集_19
  ●新型コロナウイルス感染症による石炭への影響
   電気事業温暖化対策評価資料集_20
  ●新型コロナウイルス感染症によるCO₂排出量への影響
  ●電力の安定供給とクリーンエネルギーへの移行に関する示唆
  ●新型コロナウイルス感染症の我が国の電力需要への影響
  ●ゼロカーボンシティの拡大
  ●経団連による「チャレンジ・ゼロ」
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小泉大臣記者会見録2020.07.14 10:31~11:03 於:環境省第1会議室)   会見動画 
 2019年度の電力事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価の結果、いわゆる電力レビューを取りまとめましたので、ここに報告をしたいと思います。電力レビューは2016年2月の環境大臣と経産大臣の合意に基づいて、2030年度の削減目標やエネルギーミックスと整合する電力の排出係数0.37kg-CO2/kWhという目標の達成に向けて、電力業界の自主的取組や省エネ法や高度化法といった政策的対応が継続的に実効を上げているか進捗状況を評価するものです。それが電力レビューです。
 2019年度の電力レビューでは、各種機関が公表しているデータや分析レポートなどのファクトをベースに評価を実施して、評価結果としては、現時点では電力事業分野のCO2排出量、排出係数は改善傾向にあり、高度化法においても2020年度までの期間に係る定量的な基準が策定されるなどの一定の進展もあり、評価に値するものの、このままでは2030年度の目標達成は困難であり、脱炭素社会の実現も視野に更なる取組の強化が不可欠であると総括をしています。
 ……中長期的な脱炭素化に向けて、脱炭素社会への現実的かつ着実な移行に整合的な脱炭素移行ソリューションを目指すことが必要だと考えています。ポイントは大きく3点です。
 まず、一つ目のポイントは、再生可能エネルギーの主力電源化を一層加速化すべきということであります。2018年度の発電電力量に占める再生可能エネルギー比率は16.9%であります。再生可能エネルギーの主力電源化に向けて、エネルギーミックスで掲げる22から24%の着実な達成と、それにとどまらない一層の導入拡大が必要であります。このため、分散型エネルギーシステムの構築に向け、昨年4月に発足した環境省、経産省の連携チームの取組を一層推進していきます。また、千葉県などで試行的に実施されているノンファーム型接続の2021年中の全国展開や、地域における再生可能エネルギー需要に応じた検討・整備・活用に向けた取組が重要であり、経産省や関係業界による一層の推進を期待したいと思います。
 次に、二つ目のポイントは、非効率な石炭火力発電の休廃止、稼働抑制といったフェードアウトに向けた取組を着実に進めるべきということであります。環境省の試算によると、石炭火力発電所の新増設計画が予定どおり実行されると、2030年度の削減目標を約5000万トン超過することになります。これは2030年度の我が国全体の削減目標に整合する排出量の約5%に相当します。削減目標の達成に向けて、非効率な石炭火力発電のフェードアウトに向けた取組を着実に進めるとともに、火力発電全体からのCO2排出削減に向けて石炭火力発電の高効率化、そして次世代化、これを進める必要があります。
 今般、梶山経産大臣により、非効率な石炭火力のフェードアウトを目指していく上で、より実効性のある新たな仕組みを導入すべく、今月中に検討を開始して取りまとめるように事務方に指示したという御発言がありました。改めて、梶山大臣のリーダーシップに敬意を表したいと思います。この発表によって、国内において非効率な石炭火力発電のフェードアウトに向けた取組の具体化が進んでいくことになります。
 足元において非効率な石炭火力発電は約2400万キロワット、石炭火力発電の全体の約5割存在しており、地球温暖化対策を所管する環境省として、こうした非効率な石炭火力発電のフェードアウトに向けた取組を厳しく注視していきたいと思います。
 最後に、三つ目のポイントは、将来的なゼロエミッション火力の可能性を追求すべきということであります。パリ協定の長期目標と整合的に火力発電からのCO2排出削減を実現するためには、火力発電の更なる高効率化、これを進めて、究極的には火力発電でありながらCO2の排出が実質的にゼロである火力発電、いわゆるゼロエミッション火力、この可能性を追求する必要があります。ゼロエミッション火力を目指すに当たって、排出削減を円滑かつ着実に実現するため、これまで培ってきた経験、知見も生かして既存の石炭火力発電、LNG火力発電でのバイオマス、水素、アンモニアなどの混焼を促進して、さらにその割合の段階的な向上を図って、それでもなお避けられない排出分については、排出されるCO2を回収して有効利用、貯留するCCUSの活用を検討する、こうしたゼロエミッション火力に向けたイノベーションを関係省庁、関係業界と連携しながら、総合的に後押しをして世界に先駆けたゼロエミッション火力の実現の可能性を追求していきます。
 電気事業分野は我が国全体のCO2排出量の約4割を占める最大の排出源であり、他部門での排出削減努力にも大きく影響を及ぼすことから、電気事業分野の地球温暖化対策は非常に重要であります。今回の評価結果や気候変動問題とエネルギー問題の関連性が一層高まってきていることも踏まえて、今後ともエネルギー政策を所管する経産省と密接な意思疎通を図りながら、2030年度の削減目標の確実な達成、そして2050年にできるだけ近い時期での脱炭素社会への実現に向けて取組を進めていきます。なお、評価結果の詳細については、後ほど事務方から説明をさせていただきます。……
質疑応答
(記者)[時事通信] 地球温暖化対策計画の見直しに関連してですが、NDCについて26%の水準にとどまらない削減努力と、更なる野心的な削減努力を反映した意欲的な数値を考えていくということなんですが、大臣はどのような数値にしていきたいとお考えでしょうか。
(大臣)それはやってみた上で出るものがまさに数字ですから、今からここだというふうに決めることは、現段階では言うことではないなと思います。いずれにしても、大事なことは、石炭火力の海外輸出、この公的信用の政策の見直しが実現をした背景にはファクトをベースに議論したと、このファクト検討会の役割は相当大きかったと私は思います。今後、このファクトをベースに議論するということが霞が関、そして政治の中での常識となっていくように、この両審議会の合同会議、この場でもしっかりとファクトに基づく議論を積み上げていただければ、NDCときに日本からお約束をした更なる野心的な削減努力を反映した意欲的な数値につなげていけると、私はそう確信をしています。この両審議会の精力的な議論に期待をしています。
(記者)[朝日新聞] 温対計画の見直しなんですけれども、先ほど、ポストコロナというところを最初に議論しなければいけないということでおっしゃっていて、コロナによって、特に温暖化対策という点で大臣はどういう点を視点として加えなければいけない、あるいは変更が迫られるだろうと現時点で考えているか、教えてください。
(大臣)ポストコロナによって相当な行動変容が起きていますよね。テレワーク、リモートワークなどは代表的な一つかもしれません。それはやはり移動というものが根本的に変わってきている新たな社会が今、日々つくり上げられている過程だと思います。その移動が変わってくることによって、最近でも様々なところから、例えば石油の需要が減っているとかいろんな声が起きていますが、こういったことがどのように今後この中でも反映されていくのか、その議論もしなければいけないだろうと。そういったことがまさにコロナ後の社会を見据えた対策、この在り方を議論するということでもあります。それに加えて、これまで毎年実施してきた計画の進捗、これを点検することも大事ですし、この点検を反映した対策の強化や深掘り、これも大事だと思います。そして、脱炭素社会の実現を見据えた、目の前のことだけではなくて中長期の対策の方向性、こういったことも改めて議論されるべきですし、今、石炭火力の海外の公的信用の付与、これを原則やらないと、支援をしないということから、まさにドミノが倒れるように国内の石炭も含めてエネルギー政策全体がうねりを上げて今動き出している中ですから、この合同の審議会の議論を、おのずとそういったことをしっかりと受け止めた上での議論になると私は期待をしているし、環境省としてはしっかりとウォッチしていきたい、また貢献をしていきたいと思います。
(記者)[毎日新聞] 私から2点質問させていただきます。1点目は温対計画の見直しについてです。まず、開始時期というのはいつごろ始められて、今後どういうふうに取りまとめるかという見通しについてお聞きしたいということと、今後特に気候変動絡みで言うと、経産省の石炭火力の見直しとか、エネルギー基本計画の見直しについても来年あると思うので、その辺との兼ね合いをどうするか。まず温対計画の位置付けとして、例えばエネミやエネ基の見直しに向けた弾みにしたいのか、どういう意味合いで捉えていらっしゃるのかということについてお聞かせください。……
(大臣)まず、1点目ですが、この合同会合のスケジュール、そしてアウトプット、これについては、今後、審議会の議論を踏まえて決定していきたいと思います。そして、先ほど[朝日新聞記者]さんからの質問でもあったように、このポストコロナ、そして進捗の確認、点検、対策の強化や深掘りとか中長期の方向性、こういったものも重要な論点になると考えていますので、こういった議論を踏まえた上で温対計画を見直して、来年のCOP26まで追加情報を国連に提出していきたいと思います。そして、今まだ具体的な日時は私は確認していませんが、官邸の方で未来投資会議、ここで環境エネルギーの場ができると聞いています。そういった場で大きな柱となるような、またエネルギー政策の全体像のような議論がされるのではないかなと。そこには経団連の中西会長の思いも相当あると思いますが、そういった場で自由闊達にこのコロナを踏まえて、そしてまた最近の石炭政策の見直しも含めて、最新のファクトに基づく議論が大いになされるべきだろうというふうに思います。温対計画の見直しは、そういったことも含めて同時進行的に進んでいく。そういったことを考えれば、まさに石炭の輸出に原則、支援をしないというところから始まったことが、ドミノが倒れるようにこのエネルギー政策全体が動き出したと、そういった大きな捉え方をして一つ一つのことを動かしていきたいし、よく見ていきたいというふうに思います。……
(記者)[エネルギージャーナル]
(大臣)……私が大臣になってから言っている経済社会の再設計(リデザイン)、そして脱炭素社会、循環経済、分散型社会への移行、この三つの移行も着実に進めて、環境省が社会変革担当省だと、そういった省庁により成長していくべく環境行政の課題に向き合ってくれるのではないか……
(記者)[日刊工業新聞] 再生可能エネルギーの主力電源化の話がありましたので、その関連で質問させてください。大臣は新宿御苑の電気が再生可能エネルギーに切り替わっても従来の電力料金と遜色がなかったという報告をされていますが、電力を大量に使う大規模な事業所はもともと安い電気を使っているので、それに見合う価格の再エネ電気がなくて困っているという話を企業から聞きます。この間の経団連との会談でも、経団連の幹部の方から再エネをもっと安くしてほしいという要望があったかと思いますが、エネルギーの所管はエネ庁ですが、環境省でも再エネの価格を下げていくような施策を考えていらっしゃったら、教えてください。
(大臣)再エネは高いという、この固定観念を覆していきたい。これは環境省がRE100を宣言して、そして自ら一つ一つできるところはRE100、これを進めていて、再エネは必ずしも高くない、安い場合もある。この実現例として自分たちがまず実践をする、社会にその姿を見せたいという思いでやっています。御紹介があったとおり、新宿御苑は30%から100%まで一気に再エネの導入を上げた上で、電力単価は17.1円で変わらない、これを示すことができました。ただ、今御指摘があったとおり、一般的に再エネが安いというところに行くには、更なる努力が必要なのは間違いありません。じゃ、そのために何ができるかというと、間違いないことはマーケットを大きくすること、この再エネの市場の拡大をやる上で環境省が何ができるかと言えば、やはり需要サイドに働き掛けて、その市場を大きくしていく環境をつくっていくこと。私が就任以来、なぜゼロカーボンシティ、この宣言自治体を増やすことに血道を上げているかと言えば、この市場拡大を自治体レベルから、住民レベルから底上げをしていく、こういったアプローチというのは環境省は経産省と違って業界から行くわけじゃないですから、まさに国民側から、需要側からそこの環境をつくっていく。こういったことに加えて、様々個人の再エネの切り替えの促進とか、今それを具体的に進めようとしている企業などとの意見交換をしています。そして、間違いなく、企業の方からも相当声が変わってきたと思うのは、この前の経団連との意見交換もそうですが、石炭が安いから石炭をもっとやってくれなんて言ってくるところは全くありません。再エネをもっと導入しやすい環境をつくってくれと。そして、グローバルで活躍をしている企業にとっては、再エネを導入できなければ、国際的な産業競争力に大きな影響が出る、その環境をつくってもらうような政策的な後押しをやってほしいという、ここの思いというのが相当に強い状況が出てきているので、私はこういった取組を一つ一つ後押しすることで、再エネの需要の拡大が再エネのコストを下げる、そういったところにつなげていきたいと思います。そのためにできることは環境省、あらゆる方策を通じてやっていきたいと思います。
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NDC: Nationally Determined Contribution(国が決定する貢献)[一般社団法人海外環境協力センター OECCサイトから]
 2020年以降の温室効果ガス(GHG)排出削減等のための新たな国際枠組みであるパリ協定は、協定第2条(目的)に世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求することを明記しています。その目的を達成するために、協定はその第4条(緩和)にて国内措置(削減目標・行動)をとることを各国に求めています。
 NDCとは、協定第4条に基づく自国が決定するGHG削減目標と、目標達成の為の緩和努力のことを指します。これは締約国がパリ協定批准前に国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局へ提出した「各国が自主的に決定する約束草案」(Intended Nationally Determined Contribution:INDC)が原案となっており、パリ協定批准により正式にNDCとして国連に登録され、各国に対して実施が求められます。
 2020年以降に実施が求められるNDCに対し、2020年まではカンクン合意(第16回締約国会議にて決定)に基づいたGHG排出削減による2℃目標達成への努力が進められています。開発途上国においても資金・技術・能力構築等の支援を受けながら、「途上国における適切な緩和行動(Nationally Appropriate Mitigation Action: NAMA)」を自主的に策定し、国連へ実施報告をしています。NDC並びにパリ協定実施の準備が急務となっている中、途上国においてはこのようなNAMAでの経験が十分に活かされています。

エネルギーミックスとは、「社会全体に供給する電気を、さまざまな発電方法を組み合わせてまかなうこと」をいいます。日本語で「電源構成」と呼ぶこともあります。
適切なエネルギーミックスによって、電気の安定的な供給が実現します。
単一の発電方法ではなく、エネルギーミックスが必要な理由は、完全無欠な発電方法が存在しないためです。

エネルギー政策基本法EICネット(一般財団法人環境イノベーション情報機構]サイトから]
エネルギーが国民生活の安定向上並びに国民経済の維持及び発展に欠くことのできないものであるとともに、その利用が地域及び地球の環境に大きな影響を及ぼすことにかんがみ、エネルギーの需給に関する施策に関し、基本方針を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、エネルギーの需給に関する施策の基本となる事項を定めることにより、エネルギーの需給に関する施策を長期的、総合的かつ計画的に推進し、もって地域及び地球の環境の保全に寄与するとともに日本及び世界の経済社会の持続的な発展に貢献することを目的として2002年6月に制定された法律。「安定供給の確保」、「環境への適合」、「市場原理の活用」などの基本理念が掲げられ、国の責務、地方公共団体の責務、事業者の責務、国民の努力、相互協力などが定められている。また政府は「エネルギー基本計画」を定めなければならないこと、国際協力の推進、知識の普及についても規定されている。
2018年7月には第5次エネルギー基本計画が発表され、エネルギーの「3E+S」原則(エネルギーの安定供給・経済効率性の向上・環境への適合+安全性)をさらに発展させ、より高度な「3E+S」を目指すため、(1)安全の革新を図ること、(2)資源自給率に加え、技術自給率とエネルギー選択の多様性を確保すること、(3)「脱炭素化」への挑戦、(4)コストの抑制に加えて日本の産業競争力の強化につなげることという4つの目標が掲げられた。(2018年11月改訂)

[第5次]エネルギー基本計画 2018.07.03
エネルギー基本計画は、エネルギー政策の基本的な方向性を示すためにエネルギー政策基本法に基づき政府が策定するものです。
今回の[第5次]エネルギー基本計画では、常に踏まえるべき点として「東京電力福島第一原子力発電所事故の経験、反省と教訓を肝に銘じて取り組むこと」等を原点として検討を進め、2030年、2050年に向けた方針をお示ししています。
2030年に向けた方針としては、エネルギーミックスの進捗を確認すれば道半ばの状況であり、今回の基本計画では、エネルギーミックスの確実な実現へ向けた取組の更なる強化を行うこととしています。
2050年に向けては、パリ協定発効に見られる脱炭素化への世界的なモメンタムを踏まえ、エネルギー転換・脱炭素化に向けた挑戦を掲げ、あらゆる選択肢の可能性を追求していくこととしています。[「新しいエネルギー基本計画が閣議決定されました」 2018.07.03 経産省のサイトから]
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第5次エネルギー基本計画ファクトチェック!!
  (eシフト 脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会 2019.03.14)
昨年7月に政府が閣議決定した第5次エネルギー基本計画は、日本のエネルギー・温暖化政策の方向性を示すもので、「エネルギー・温暖化政策の憲法」とも言える非常に重要な計画です。しかし、その内容は、「まず石炭・原発推進ありき」というストーリーのもとに作られており、事実関係も含めて様々な問題があります。
私たち「eシフト」(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)は、この第5次エネルギー基本計画についてファクト・チェックを行い、その結果をまとめたウェブページ(http://www.eshift.club/energyb_fc.html)を作成しました。本ファクト・チェックでは、第5次エネルギー基本計画には104か所の問題記述があると指摘し、それぞれに対して下記の5つの評価をおこない、具体的な問題点とその理由を詳細にコメントしました。
矛盾(エネルギー基本計画の他の箇所あるいは現行のエネルギー・環境政策と矛盾)
意味不明(文意が不明)
半分間違い(部分的な情報は正確だが、重要な詳細情報が不足している。または文脈から逸脱して歪曲)
ほぼ間違い(若干の正確な情報を含むが、重大な事実を無視して印象操作)
間違い(不正確な情報)
現在、残念ながら、このような問題が多い第5次エネルギー基本計画に沿って、多くの企業は事業計画をたて、政府は容量市場などの石炭・原発推進につながる新たな政策を十分な国民的議論がないままに導入しようとしています。
私たち「eシフト」は、このファクトチェックが、政府のエネルギー・温暖化政策の矛盾や間違いについて知るきっかけとなり、同時に建設的な議論のプラットフォームにもなることを期待します。
   エネルギー基本計画ファクトチェック
    
   
小泉環境相の「正直、開き直り、アクション」(明日香壽川)
  (Energy Democracy 2020.02.25)
小泉進次郎環境大臣の誕生から、まもなく半年になる。ここでは、エールの思いも込めて、彼のこれまでの環境大臣としての言動、特に温暖化問題に関する認識や発言を分析評価する。
正直だけど/同情もするけど/自虐的な「石炭中毒」/開き直り?/責任転嫁?/記者の質問に答えず/大臣としてとるべきアクションとは
WEB論座「小泉環境相の「正直、開き直り、アクション」(2020年2月7日)」の改稿。

エネ庁第26回電力・ガス小委資料(7月13日) 7月27日


 1.本日ご議論いただきたいこと
  ●本日ご議論いただきたいこと
   26回総エネ調小委資料_1
   ●【参考】エネルギー基本計画(2018年7月3日閣議決定)における石炭の位置づけ等
    26回総エネ調小委資料_2
   ●【参考】7/3(金)閣議後会見における冒頭発言:大臣による「検討指示」
    26回総エネ調小委資料_3

 2.非効率石炭のフェードアウトに向けた検討の方向性について
  ●石炭の位置付け
  ●日本の石炭技術の高効率化・次世代化の推進
  ●CCUS/カーボンリサイクル
  ●非効率石炭火力のフェードアウト
 スライドA
   26回総エネ調小委資料_4
  ●非効率な石炭火力の設備容量の割合
 スライドB
   26回総エネ調小委資料_5
  ●旧一般電気事業者及び電源開発における非効率な石炭火力の発電電力量の割合
 スライドC
   26回総エネ調小委資料_6
  ●エネルギーミックスの実現に向けた取組
   26回総エネ調小委資料_7
  ●発電事業者に対する措置(省エネ法)
   26回総エネ調小委資料_8
  ●小売電気事業者に対する措置(高度化法)
   ●【参考】非化石価値取引市場
  ●石炭火力に関する海外の動向(1)
   26回総エネ調小委資料_9
  ●石炭火力に関する海外の動向(2)
  ●石炭火力に関する海外の動向(3)
  ●ESG投資やダイベストメントの動向
   26回総エネ調小委資料_10
  ●3メガ銀行の石炭火力発電向ファイナンスの方針
   26回総エネ調小委資料_11
  ●非効率石炭火力のフェードアウト・新陳代謝の必要性
   26回総エネ調小委資料_12
  ●災害リスクの高まりと安定供給の確保
   26回総エネ調小委資料_13
   ●【参考】過去5年の主な災害の規模等
   ●【参考】北海道胆振東部地震に伴うブラックアウトについて
   ●【参考】脱炭素化・レジリエンス強化のための電力インフラの在り方
  ●安定供給とエネルギーミックスの実現
  ●容量市場の創設
   26回総エネ調小委資料_14
   ●【参考】海外の容量メカニズム
    26回総エネ調小委資料_15

  ●今後の検討に当たっての論点(例)新たな規制的措置
   26回総エネ調小委資料_16
  ●今後の検討に当たっての論点(例)早期退出を誘導する仕組み
   26回総エネ調小委資料_17

 3.再エネの主力電源化に向けた送電線利用ルールの見直しの検討について
  ●日本の再生可能エネルギー発電量の現状(導入の伸び)
  ●「エネルギーミックス」実現への道のり
  ●再生可能エネルギー普及に係る送電線の問題と対策
   26回総エネ調小委資料_18
  ●日本版コネクト&マネージの進捗状況と残された課題
   26回総エネ調小委資料_19
   ●【参考】千葉エリアにおけるノンファーム型接続の先行実施
   ●【参考】北東北エリアにおけるノンファーム型接続の先行実施
   ●【参考】各一般送配電事業者の基幹系統(上位2電圧)の送変電等設備
  ●ノンファーム型接続の全国展開について
 スライドD
   26回総エネ調小委資料_20
  ●ノンファーム型接続における課題について
   26回総エネ調小委資料_21

   ●【参考】系統接続における先着優先ルール
  ●今後の検討に当たっての論点(例)基幹送電線の利用ルールの見直し
   26回総エネ調小委資料_22
  
 4.今後の検討の進め方について
  ●今後の検討スケジュール(案)

スライドA~Dの解説 (陰山遼将  スマートジャパン 2020.07.15 08:00
 ←非効率な石炭火力を廃止し再エネ導入を拡大
    経産省が新たな制度設計の議論をスタート 
 温暖化対策の観点から、国際的に逆風を受ける石炭火力発電。日本でも非効率な石炭火力の廃止を促し、再生可能エネルギーの導入拡大を促す新たな制度設計の議論がスタートした。
 経済産業省は2020年7月13日、梶山弘志経済産業大臣が打ち出した石炭火力の縮小方針を受け、具体的な政策内容について検討する有識者会議を開催。非効率な石炭火力の将来的なフェードアウトを実現する新たな規制措置の内容と、再生可能エネルギーの利用を広げる新たな送配電網の利用ルールを検討する-というのが大筋の目的だ。
 ただ、その実現に向けては、詳細な議論と綿密な制度設計が必要になりそうだ。非効率石炭を廃止とエネルギー安定供給の両立をどう実現するかという点も大きな議題の一つであり、廃止に向け事業者側にどのような経済的インセンティブを設計するかなど、検討すべき点は多い。エネルギーの安定供給という観点では、足元で再稼働がほぼ進んでいない原子力発電の将来の稼働率についてどう考えるのか、といった問題も大きく関係してくる。
   26回総エネ調小委資料_426回総エネ調小委資料_526回総エネ調小委資料_6
 現在、政府が掲げる2030年の日本の電源構成における石炭火力の比率目標は26%となっているが、足もとの2018年度における同比率は32%。2030年度の電源構成目標を達成するためには、さらなる石炭火力の削減が必要な状況にある。
 政府が廃止を目指す「非効率石炭火力」とは、主に発電効率が40%以下の亜臨界圧、超臨界圧と区分される火力発電を指す。2018年度の電源構成の32%を占める石炭火力だが、その約半分(電源構成に対して16%)が非効率石炭による発電となっている。台数ベースでみると、現在国内にある140基の石炭火力のうち、114基が非効率石炭に該当する。
 114基の非効率石炭について、地域ごとの設置設備容量を見ると、全国で大きなばらつきがある。そのエリアにおける全発電容量(出力ベース)に対し非効率石炭が占める割合では、関西は0%なのに対し、沖縄では34.8%である。また、発電電力量ベースでみると、地域間での差はより拡大する他、多くのエリアで出力ベースでみた比率以上に、非効率石炭への依存度が高い状況もうかがえる。これは原子力発電所の再稼働が進んでいないことも影響していると考えられる。
  26回総エネ調小委資料_20
 今回、梶山経済産業大臣が打ち出した「既存の非効率な火力電源を抑制しつつ、再生可能エネルギーの導入を加速化するような基幹送電線の利用ルールの抜本見直し」については、現在検討が進められている「ノンファーム接続」におけるルールを見直し、再エネを接続しやすくする制度に変更する方針だ。
 これまでの議論で送配電網の効率的な利用に向けては、従来の電力会社に認められた電源のみが系統に接続できる「ファーム接続」ではなく、系統の混雑状況によって出力制御を受けることを条件に新規接続を許容する「ノンファーム接続」の導入を進めていく、いわゆる「日本版コネクト&マージ」の実現を目指すという方向性が示されている。
 既に2019年9月に千葉エリアで、2020年1月には北東北および鹿島エリアでノンファーム接続が先行的に実施された。同時に東京電力パワーグリッドらが必要なシステムの開発に着手しており、経産省ではこ2021年中にはノンファーム接続を全国展開する目標を掲げている。
 ただし、これまでの議論で想定されていたノンファーム接続では、「先着優先ルール」を採用する方針となっていた。これは系統が混雑した場合、先にファーム接続していた電源を優先し、後から接続した電源に出力抑制を行うことで、系統の安定を保つというもの。低炭素化という観点から見た場合、この先着優先ルールでは、ファーム接続されたCO2排出係数の大きい非効率石炭が優先され、同係数が小さい再生可能エネルギーが抑制されるという矛盾が発生する可能性がある。 

石炭火力輸出支援しないを明記(7月9日) 7月26日

7月9日、第47回経協インフラ戦略会議(議長・菅義偉官房長官)[海外経済協力インフラ輸出戦略会議]で「インフラシステム輸出戦略」が改訂され、「今後新たに計画される石炭火力発電プロジェクトについては、エネルギー政策や環境政策に係る二国間協議の枠組みを持たないなど、我が国が相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や脱炭素化に向けた方針を知悉していない国に対しては、政府としての支援を行わないことを原則とする」(16頁)と明記されました。
  インフラシステム輸出戦略(令和2年度改訂版)
パリ協定を踏まえ、世界の脱炭素化をリードしていくため、相手国のニーズに応じ、再生可能エネルギーや水素等も含め、CO2排出削減に資するあらゆる選択肢を相手国に提案し、「低炭素型インフラ輸出」を積極的に推進。その中で、エネルギー安全保障及び経済性の観点から石炭をエネルギー源として選択せざるを得ないような国に限り、相手国から、我が国の高効率石炭火力発電への要請があった場合には、OECDルールも踏まえつつ、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形で、原則、世界最新鋭である超々臨界圧(USC)以上の発電設備について導入を支援<経済産業省、外務省、財務省、内閣官房、JBIC、NEXI> [41頁]
  インフラ海外展開に関する新戦略の骨子
(5)環境性能の高いインフラの推進
① パリ協定の目標達成に向け、世界全体の温室効果ガスの実効的な排出削減が必要不可欠となっている。再生可能エネルギーのコスト低下に牽引されたエネルギー転換など、エネルギー情勢が急速かつ大きく変化している中で、安価かつ安定的に調達できるエネルギー源が石炭に限られる国もあり、途上国などでは石炭火力を選択してきたという現実がある。石炭火力への資金を絞るダイベストメントのような方策もあるが、当該諸国の国民生活向上や経済発展にとって不可欠な電力アクセス向上・電力不足解消の選択肢を狭めることなく、世界全体の脱炭素化に向け現実的かつ着実な道を辿ろうとするのであれば、むしろ、こうした国々のエネルギー政策や気候変動政策に深くエンゲージし、長期的な視点を持ちつつ実現可能なプランを提案しながら、相手国の行動変容やコミットメントを促すことが不可欠であると考えられる。
このため、我が国は、関係省庁連携の下、相手国の発展段階に応じたエンゲージメントを強化していくことで、世界の実効的な脱炭素化に責任をもって取り組む。具体的には、世界の脱炭素化をリードしていくため、相手
国のニーズを深く理解した上で、風力、太陽光、地熱等の再生可能エネルギーや水素、エネルギーマネジメント技術、CCUS/カーボンリサイクル等も含めたCO2排出削減に資するあらゆる選択肢の提案やパリ協定の目標達成に向けた長期戦略など脱炭素化に向けた政策の策定支援を行う、「脱炭素移行政策誘導型インフラ輸出支援」を推進していくことを基本方針とする。
その上で、今後新たに計画される石炭火力発電プロジェクトについては、エネルギー政策や環境政策に係る二国間協議の枠組みを持たないなど、我が国が相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や脱炭素化に向けた方針を知悉していない国に対しては、政府としての支援を行わないことを原則とする。その一方で、特別に、エネルギー安全保障及び経済性の観点などから当面石炭火力発電を選択せざるを得ない国に限り、相手国から、脱炭素化へ向けた移行を進める一環として我が国の高効率石炭火力発電へ要請があった場合には、関係省庁の連携の下、我が国から政策誘導や支援を行うことにより、当該国が脱炭素化に向かい、発展段階に応じた行動変容を図ることを条件として、OECDルールも踏まえつつ、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形で、超々臨界圧(USC)以上であって、我が国の最先端技術を活用した環境性能がトップクラスのもの(具体的には、発電効率43%以上のUSC、IGCC及び混焼技術やCCUS/カーボンリサイクル等によって発電電力量当たりのCO2排出量がIGCC 並以下となるもの)の導入を支援する。
② ESG投資の増加にみられるように、世界的に環境・社会・企業内統治への関心も高まっている。こうした経営者や投資家の意識の変化を踏まえながら、環境性能の高いインフラの海外展開に取り組むことで、気候変動問題や海洋プラスチックごみ問題等の地球規模の課題を解決し、世界の環境と成長の好循環を一層推進する。これを踏まえ、これまでの日本の公害や廃棄物管理等の経験や技術、制度などを基に、展開国における環境汚染の低減や公衆衛生の向上、海洋プラスチックごみ問題の解決に向けて、環境インフラ海外展開プラットフォームの形成や、案件形成の上流からの関与の強化等により、社会的仕組み(ソフトインフラ)の整備と一体的に、廃棄物発電やリサイクル、大気汚染や水質汚濁、水銀処理の対策技術等の、質の高い環境インフラの導入推進に取り組む。 [15-16頁]
政府、石炭火力の輸出厳格化議論 インフラ戦略会議
  (東京新聞 TOKYO Web 2020.07.09 17:40 共同通信)
石炭火力の輸出支援厳格化 高効率設備に数値基準 脱炭素化へ政府新方針
  (SankeiBiz 2020.7.9 18:05)
環境省 小泉大臣記者会見録
  (環境省 2020.07.09 18:00~18:40)
   会見実況動画
今回文言一つ一つこだわって、それが実効性を高める形で成案を得られるように調整を進めてまいりました。その結果、今、このスライドでお示しをしたとおり、この本来の、柱でもある、いわゆる4要件の厳格化、これについて、改めて触れたいと思います。どのように、厳格化が変化されたのか。これまでは、支援する要件のみ書いてあった4要件を、一つ一つ見ていただければわかりますが、一つ目の要件。エネルギー安全保障と経済性の観点のみを求めていたのが今まででした。そのことに加えて今回何が変わったかというと、エネルギー安全保障と経済性の観点に加えて、脱炭素化だということが前提とならない限り駄目だという形を、さらに今回1点目に加えています。そして二つ目、我が国の高効率石炭火力発電への要請があればということでありますが、今回新しく加えたことは、仮に我が国の高効率石炭火力発電への要請であったとしても、脱炭素移行の一環でなければ駄目。そういったことであります。そして三つ目。相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形であることという要件は、今の相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形ではなくて、パリ協定の目標達成に向けた政策や対策が継続的に強化をされること。それを今回の要件にしました。そして最後の4点目は、原則、世界最新鋭であるUSCいわゆる超々臨界以上という今までの要件は、常に最新の環境性能とする要件、USCであっても、USCの中でも最高効率ではないものもありますので、そういったことも含めて、常に最高効率でなければならない。こういったところをしっかりと、4要件を今回変更することで、調整が決着をして、今までの4要件に加えて、相当、徹底した厳格化がなされることになりました。以上のように、相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や、脱炭素化に向けた方針をしっかり把握していない場合は、支援しないことを原則とするという転換をすることができました。今後、関係省庁と連携をしながら、世界の実効的な脱炭素化への取組を進めていきたいと思います。そして、最後になりますが、環境省では、今回の改正を絵にかいた餅にすることがないように、具体的なアクションとして、政策対話から案件形成に至るまで、途上国の脱炭素移行に向けた一貫支援体制を構築していきます。さらには、民間企業や自治体、金融機関などとも連携して、環境インフラの海外展開を推進するため、民間企業への情報共有やビジネスマッチング、案件形成支援に至るまで、トータルでサポートするための官民連携のプラットフォームを設立し、より日本の脱炭素技術やノウハウが活用されるように、官民一体となって取り組んでいきたいと思います。早速、ベトナムとは政策対話の実施に向けた調整を始めています。関係省庁や関係機関とも連携しながら、相手国のニーズに即して、脱炭素化に向けた政策策定支援からCO2削減に資する、あらゆる対策の提案、実施に取り組んでいくことで、世界の脱炭素化に貢献していきたいと思います。最後になりますが、私のような、手の焼ける大臣と、最後まで、向き合って調整に努力をいただいた梶山大臣をはじめ、経産省の皆さん、ありがとうございました。そして、関係省庁、ファクト検討会委員、及びヒアリングに御協力いただいた企業・団体など、これまでに、この議論に関わってきた関係者すべての皆さんに、心から感謝を申し上げたいと思います。うちの事務方も大変だったと思います。ありがとう。以上です。
日本政府、石炭火力の輸出支援を「厳格化」 脱炭素化へ誘導(清水律子)
  (ロイター 2020.07.09 19:20)
  政府は9日、二酸化炭素(CO2)の排出量が多く、批判が強い石炭火力発電の輸出支援について、これまでの支援要件を厳格化することを決めた。現状でも石炭火力発電を選択せざるを得ない国があるとし、そうした国への輸出支援も、脱炭素化に向けた誘導を行うことを条件としている。
 <新たな石炭火力、2国間協議持たない国「支援せず」
 政府が9日開催した「経協インフラ戦略会議」で決めた新たな輸出戦略では、再生可能エネルギーや水素、カーボンリサイクル等CO2排出削減に資するあらゆる選択肢の提案や、パリ協定の目標達成に向けた長期戦略など脱炭素に向けた政策の策定支援を行う「脱炭素移行政策誘導型インフラ輸出支援」を推進することを基本方針とした。
今後、新たに計画される石炭火力発電プロジェクトについては「エネルギー政策や環境政策に係る2国間協議の枠組みを持たないなど、日本が相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題・脱炭素に向けた方針を知悉(ちしつ)していない国に対しては、政府として支援しないことを原則とする」とした。
 一方、石炭火力を選択せざるを得ない国に対しては、脱炭素化に移行する一環として、日本の高効率石炭火力へ要請があった場合には、その国が脱炭素化に向かい、行動変容を図ることを条件として、超々臨界圧(USC)以上であり、日本の最先端技術を活用した環境性能がトップクラスのものの導入を支援するとした。
 <梶山経産相「現実的な一歩」、小泉環境相「基本として原則支援しない」
 梶山弘志経済産業相は会見で「石炭火力発電の輸出支援の厳格化を決めた」と述べ「一足飛びにゼロというわけにはいかない。より現実的な一歩を踏み出すということ」と述べた。一方、小泉進次郎環境相は「最も重視してもらいたいのは、基本方針として原則、支援しないこと。今回、そういった結果になった」と述べ、こだわってきた「支援しないことを原則とする」という文言が入ったことを評価した。
 エネルギーを所管する経産省としては、日本の高い技術による石炭火力発電を必要とする国は多いという認識にある。一方で、脱炭素化は必然のものとなっており、関係省庁間でも、輸出相手国の行動変容を促すことが必要との認識は共有した。
 新興国に対し、石炭火力輸出支援を行っている日本への批判は高まっていた。昨年12月に気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)に出席した小泉環境相が問題を提起。今年2月下旬、石炭火力発電の輸出条件の見直しを話し合うことで環境省や経産省などの関係省庁が合意、協議を続けてきた。
 <エネルギーミックス見直しにつながるか
 小泉環境相は「来年のエネルギーミックス、ドミノが倒れるように、脱炭素化社会の実現に向け議論する素地ができたと思っている」とし「COP26はCOP25より、前向きなものを持っていけるのは間違いない」と述べ、来年予定されているエネルギーミックスの見直しにも自信を示した。
 石炭火力発電の海外輸出に関してはこれまで、1)エネルギーの安全保障及び経済性の観点から石炭を選択せざるを得ない場合、2)日本の高効率石炭火力発電への要請があった場合、3)相手国のエネルギー政策や気候変動政策と整合性があること、4)原則、世界最新鋭であるUSC(超々臨界圧発電方式)以上の発電設備の使用、という4要件を定めていた。
石炭火力発電 輸出支援は環境性能トップクラスに限定 政府
(NHK NEWS WEB 2020.07.09 19:37)
石炭火力、輸出支援「原則禁止」 脱炭素化へ条件厳格化-政府
  (時事ドットコムニュース 2020.07.09 21:05)

石炭火力の輸出支援を厳格化 政府方針、設備性能などに条件
  (中日新聞Web 2020.07.10 05:00 (11:54更新)
活動報告:石炭火力発電の輸出政策の見直しが正式に決定しました
  (小泉進次郎 Official Site 2020.07.10)
本日、大臣就任以来取り組んできた石炭火力発電の輸出政策の見直しが正式に決定し、今後は「原則支援しない」ことになりました。国際社会に対してもパリ協定に貢献する日本の揺るぎない姿勢が伝わる、画期的な政策転換が出来ました。……
  どのように厳格化が変化したのか
一つ目、「エネルギー安全保障と経済性の観点のみ」を求めていたのが今まででした。そのことに加えて今回何が変わったかというと、エネルギー安全保障と経済性の観点に加えて脱炭素化というのが前提にならない限りダメだとしています。
二つ目、「我が国の高効率石炭火力発電への要請があれば」、ということですが、今回新しく加えたことは、仮に我が国の高効率石炭火力発電への要請だったとしても、「脱炭素移行の一環」でなければダメとしました。
三つ目、「相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形であること」、という用件は、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形ではなくて、「パリ協定の目標達成に向けた政策や対策が継続的強化をされること」、それを今回は要件にしました。
そして最後四点目は、「原則、世界最新鋭であるUSC(超々臨界)以上」、今までの要件は、「常に最新の環境性能とする要件」。USCであっても最高効率でないものもありますので、そういうことも含めて、常に最高効率でなければならない。
こういった4要件に変更することで、調整が決着。今までの要件に加えて相当徹底した厳格化がなされました。

石炭火力輸出 公的支援から撤退せよ
  (朝日新聞デジタル 2020.07.12 05:00)
 石炭火力発電の輸出に際し、政府は公的支援の要件を厳格化することを決めた。国際的な批判に押され、政策の転換にようやく一歩を踏み出す。
 ただ、公的支援の道は残されていて、世界的な脱石炭火力の潮流と歩調が合ったとはいいがたい。気候危機の脅威は増しており、日本も輸出から早急に手を引かねばならない。
 石炭火力は主な電源のなかで最も二酸化炭素(CO2)排出量が多く、欧州を中心に全廃をめざす国が増えつつある。地球温暖化対策を進めるパリ協定の下、国際社会は今世紀の後半に温室効果ガス排出の実質ゼロをめざしているからだ。
 そんななか日本は、いまだに石炭火力を国内の基幹電源と位置づけているうえ、主要7カ国(G7)で唯一、政府が輸出の後押しを続けている。相手国が発電効率のいい日本の設備を求めているといった4項目の要件を満たす必要があるものの、「日本は気候危機対策に後ろ向きだ」との批判が強い。
 そうした逆風を受け、今回、環境省や経済産業省などが公的支援の要件を見直した。
 輸出支援にあたっては、温室効果ガス削減の長期戦略づくりなどを手助けし、相手国の脱炭素化を促すことを基本方針とする。脱炭素政策の詳細がわからない国への輸出は原則的に支援しない、と明記した。4要件についても、脱炭素化の観点から従来よりも厳しくする。
 成長戦略として輸出支援してきた姿勢を改め、環境重視に軸足を移す点は評価できる。
 だが、見すごせないのは、相手国が脱炭素化へ移行するなかで日本の石炭火力を求めている場合、高効率の設備を輸出できるとしている点だ。
 高効率といっても、天然ガス火力の2倍ものCO2を出す。相手国の気候変動対策を促すという一方で、40年にもわたって温室効果ガスを排出し続ける設備の輸出を助けるのは矛盾している。太陽光や風力の輸出を進めるのが筋だろう。
 折しも、日本のメガバンクを含む世界の金融大手が石炭火力への投融資から撤退している。日本が公的支援の道を残していては「気候危機対策の足を引っ張っている」と批判されよう。
 石炭火力は相手国に、温暖化以外の問題をもたらす恐れもある。東南アジアでは、日本が建設に協力する発電所の地元住民らが、農業や漁業への悪影響や環境汚染への不安から反対運動をしている例もある。日本の支援が地元を苦しめることがあってはならない。
 政府に求められているのは、輸出支援の要件の厳格化ではない。完全な撤退である。

石炭火力削減方針評価①(7月4~9日) 7月25日

7月2・3日の経産省、石炭火力発電100基休廃止(削減)方針に対する評価です。

7月4~9日の報道記事
  (中日新聞Web 2020.07.04 05:00)
  (Sustainable Japan 2020.07.04)
 まず、日本経済新聞の報道では、「高効率の新型発電所は維持・拡充する」との記載があり、石炭火力発電の中で高効率石炭火力発電を推進してきた経済産業省の方針と今回の発表が、必ずしも矛盾してはいないという点。具体的な方針は、「有識者会議を立ち上げて休廃止を促す具体的な手法を詰める」ということから、高効率石炭火力発電まで含めた削減に踏み込むかどうかは今後の議論に委ねられることになる。このように今は「固い鉄が溶けた」とも言える状態で、今後の政策についての柔軟性が大幅に上がった。「鉄は熱いうちに打て」と言われるように、将来どのような形状で再度固まるのかという極めて大事な局面となる。
 石炭火力の輸出の公的支援については、今年に入り、環境省と経済産業省の間で鍔迫り合いが続いている。環境省では、小泉進次郎環境省のリーダーシップにより、「石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者ファクト検討会」を設立し、政府政策が時代錯誤になっているというファクトを整理してきた。一方の経済産業省は、「インフラ海外展開懇談会」を設立し、石炭輸出継続の理論武装を行った。環境NGOの気候ネットワーク、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、350.org、Friends of the Earth(FoE)、メコン・ウォッチの5団体は7月3日、現状でも低効率石炭火力発電は政府のインフラ輸出の対象外となっており、今回の方針が低効率にとどまるのであれば進展はなにもないと警告している。
 系統での再生可能エネルギー発電所の出力抑制については、現状のルールでも、再生可能エネルギーは火力発電よりも優先されており、原子力発電、水力発電、地熱発電のみが太陽光発電・風力発電よりも優先順位が高い状況にある。そのため、再生可能エネルギーの優先順位を上げるためには、現在原子力発電用に確保されている系統を開放し、再生可能ネルギーが出力抑制をしなくてよくなる状況にするしかない。これができるかどうかが「進歩」と呼べるかのメルクマールとなる。
  (ブログ『化学業界の話題 knakのデータベースから』 2020.07.06 08:17)
経済産業省は低効率な石炭火力発電所の休廃止に乗り出す。現在約140基ある石炭火力のうち、低効率とされる約110基のうち9割にあたる100基程度を対象とし、2030年度までに段階的に進める。
具体的には、電力会社が発電できる量に上限を設けて、古い発電所を休止や廃止するなどして、段階的に引き下げていく方法などが検討されている。災害などの際に大規模な停電を防ぐためにすべてがすぐに廃止されないような仕組みも検討する。
一方、二酸化炭素の排出を抑えた効率がよい石炭火力発電所は新設も認める。
2019年に改定した政府の「エネルギー基本計画」では、2050年に向けた対応として非効率な石炭を段階的に削減するとしているが、その取り組みを加速する。
国際社会の強い批判に応える狙いだが、高効率型の発電所は維持する方針で、欧州の全廃路線とは一線を画すことになる。
2018年7月のエネルギー基本計画では2030年度の電源構成に占める石炭の割合を26%としている。
今回の方針変更で、旧型火力の休廃止と高効率型の新増設を差し引いて、2030年の石炭火力の比率は20%程度まで低下すると見られる。
原子力については再稼働は今後も難航が必至で、再生エネルギーも多くの問題を抱える。
当面はLNG火力の拡大でしのぐしかない。
大手電力からは「基準が決まっていないので何とも言えないが、9割の石炭を廃止するのは困難だ」との声や、「石炭を廃止する以上、国が原発の新増設を後押しすべきだ」との声が聞こえる。
梶山経産相、非効率石炭火力の早期削減へ方針表明 送電線利用も見直し
  (電気新聞 2020.07.13 掲載:2020.07.06)
 梶山弘志経済産業相は3日、超臨界圧(SC)以下の非効率な石炭火力発電所を減らすため、新たな規制的措置の導入などを検討すると表明した。大手電力に加え、共同火力、鉄鋼などの自家発を含め、非効率プラントの早期退出を誘導する仕組みなどについて、7月から有識者会議で議論を始める。加えて、再生可能エネルギーの導入加速に向けた送電線利用ルールの見直しも表明した。ただ、達成への時間軸や供給力確保とのバランス、立地自治体との関係などを巡って慎重な検討が求められそうだ。
 現行の第5次エネルギー基本計画では、石炭火力は2030年度の電源構成のうち26%を占めるとされている。「非効率石炭のフェードアウトに取り組む」とも明記されていたが、これまで具体的な手法は検討されてこなかった。
 経産省・資源エネルギー庁によると、18年度の石炭火力による発電量は、約3300億キロワット時で、石炭火力が全発電量に占める割合は32%。このうち、超々臨界圧(USC)や石炭ガス化複合発電(IGCC)の高効率型が13%、SCや亜臨界圧(SUB-C)などの非効率型が16%、自家発自家消費分は3%に上る。
 今回の検討では、国内に114基存在する非効率型のフェードアウトを目指すほか、大半が非効率型とみられる自家発も俎上(そじょう)に載せる。建設中の最新鋭石炭火力の運転開始も見据え、非効率型による発電をできる限りゼロにする。
 これまで政府はエネルギーミックス(30年の電源構成)の実現に向け、発電事業者や小売電気事業者に省エネルギー法やエネルギー供給構造高度化法で規制を講じてきた。電力業界も低炭素社会実現行動計画などの自主的取り組みを推進してきた。
 それらに加え、梶山経産相は「規制や税でどんなものが必要か、あらゆる条件を排除せずに検討する」と強調。エネ庁の小川要・電力基盤整備課長は「関係者が多いため、丁寧に議論する。明確な期限を区切った検討はしない」と話した。
 この他、梶山経産相は非効率な石炭火力のフェードアウトとともに、再生可能エネ導入拡大に向けた送電線利用ルールの見直しも表明。千葉県などで試行的に実施している「ノンファーム型接続」は21年度中に全国展開する。また、送電線混雑時、再生可能エネが出力制御を受けないようルールを見直し、主力電源化を推進する。先に接続していた火力発電は石炭だけでなく、他燃料も対象となる見通しだ。
小泉環境相を意識? 旧式石炭火力の削減に乗り出す経産省(安藤毅)
  (日経ビジネス電子版 2020.07.06)
「CO2ゼロ」へ技術開発 有識者会議が初会合-経産省
  (朝日新聞社の言論サイト『論座』 2020.07)
「石炭火力発電100基休廃止」報道、政府は”脱石炭”に向かう!?
  ( 『Don’t go back to the 石炭〜石炭火力発電に反対』 2020.07.07)
2020年7月2日の報道で、「政府は、二酸化炭素(CO2)を多く出す非効率な石炭火力発電所の9割弱を、休廃止の対象とする方針を固めた」ことが報じられた。これまで日本政府は、既存の石炭火力発電所を廃止するという方向性を全く打ち出してこなかった。今回の方針ははじめて廃止に踏み込んだ方針転換ともとれる”脱石炭”への小さな一歩だ。
しかし、パリ協定の目標とする「地球の平均気温の上昇を産業化前に比べて2℃を十分に下回り、1.5℃の上昇にとどめる」という要請にこたえるためには、先進国における石炭火力は2020年以降の新規稼働を禁じ、既存を含め遅くとも2030年までに全廃することが求められる。その意味では、この方針では全く不十分だ。
自然エネ財団、経産省の「石炭火力の休廃止方針」に3つの懸念を表明
  (『環境ビジネス』 2020.07.07)
自然エネルギー財団は7月3日、梶山 弘志経済産業大臣が同日の記者会見で低効率な石炭火力発電所の休廃止を進めると表明したことを受けて、コメントを発表し、3つの懸念を示した。
2018年に策定されたエネルギー基本計画において、「非効率な石炭火力発電のフェードアウト」とともに、「石炭火力発電の高効率化・次世代化の推進」「2030年に石炭火力で26%を供給」という方針が明記されている。
梶山経済産業大臣は、同日の記者会見で、この「非効率な石炭火力発電のフェードアウト」に向けた具体的な方策と、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた、基幹送電線の利用ルールの抜本見直しについて、7月中にも検討を開始し年内を目途に具体策をまとめる方針を示した。資源の少ない日本において、様々な選択肢を検討しながら、エネルギーのベストミックスを検討すること、また、高効率な火力発電は調整力や災害時の立ち上げ電源としても重要であり、現時点で「2030年に石炭火力で26%を供給」は維持することとしている。
その後に記者会見した小泉進次郎環境大臣は、この発表について、「パリ協定で掲げる脱炭素社会に実現に向けて、日本のゆるぎない姿勢を国際社会に示す大きな一歩になる」と評価した。
一方、自然エネルギー財団は、今回の梶山経済産業大臣の発表は、「非効率な石炭火力発電のフェードアウト」の既定方針を具体化したもので、新たな方向性を提起したものではないと指摘。各種の報道を踏まえ、今回の方針について、以下のような3つの懸念を示した。
   1.「100基休廃止」でも、2030年時点で3000万kWの石炭火力を利用
   2.CO2排出がほとんど変わらない高効率石炭火力推進路線の維持
   3.26%維持のためさらに長期の排出ロックインの危険性

  「石炭火力の完全なフェーズアウトを」を呼びかけ
自然エネルギー財団は、「気候危機回避に必要なCO2大幅削減を確実に実現するためには、エネルギー効率化の徹底と自然エネルギーの大幅拡大を進める以外にはない」とした。
同財団では、2030年の持続可能なエネルギーミックスの姿とその可能性を示すため、近日中に提言を公表する予定。2021年にはエネルギー基本計画の改定が行われると見込まれている。この改定において、石炭火力発電を完全にフェーズアウトし、自然エネルギー発電を中心とするエネルギー転換の方向性を明確にすることが、今回の経済産業省の方針を、気候危機に立ち向かう世界の努力と整合するものに発展させる道だとした。同財団は、今後とも、関係省庁、電力会社との建設的な意見交換を進めていくとしている。
(社説)石炭火力削減 温暖化防ぐ道筋を描け
  (朝日新聞デジタル 2020.07.08 5:00)
   (Diamond Online 2020.07.08 05:35)
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  (環境ビジネスオンライン 2020.07.09日)
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES:アイジェス)は7月3日の経済産業省「非効率石炭火力の段階的廃止」方針を分析し、「方針はパリ協定と整合的ではなく、発電部門全体での排出ネットゼロ化を目指した措置が必要」というコメントを発表しました。
  「非効率石炭火力の段階的廃止」方針に対するコメントの主要メッセージ
非効率石炭火力の休廃止を具体的に促すことは歓迎される。
しかし、今回の方針は、大型で高効率な石炭火力設備へのリプレースを進めるという従来のエネルギー政策の抜本的な転換を意味するものではなく、パリ協定の長期気温目標に向けても不十分な内容である。
休廃止が見込まれる設備は小規模なものが多い一方で、建設中・計画中の大規模石炭火力が稼働することで、2030年時点では50基、3,328万kW程度の石炭火力が残ると推計される。これは、日本の2030年排出削減目標(NDC)が想定する石炭火力発電量よりも約44TWh~102TWh少なく、CO2排出量では約3,700万トン~8,700万トンの削減となる。しかし、パリ協定と整合性のある日本の削減目標についての統合評価モデル/エネルギーモデルシナリオにおける数値と比べると不十分である。
50基のうち21基は2030年時点での稼働年数が20年以下であり、2050年まで稼働する可能性がある。この21基(約1,452万kW)のうち、炭素回収技術と相性がよいとされる石炭ガス化複合発電(IGCC)は4基(約150万kW)であり、残りは炭素回収技術の追設を想定しておらず、電力部門から長期的にCO2が排出される状態(ロックイン)が懸念される。
今回の方針は、『パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略』に明記された、パリ協定の長期目標と整合的な火力発電からのCO2排出削減や非効率石炭火力のフェーズアウトに向けた取り組みとしては不十分である。非効率石炭火力の廃止を促すだけではなく、発電部門全体での排出ネットゼロ化を目指した措置が必要となる。
  全文

時事公論「石炭火力削減 電源構成の抜本見直しを」(水野倫之)
  (NHK解説委員室 2020.07.09)
 今回の削減方針はエネルギー政策の方針転換のように見えるかもしれないが、そうではない。
 エネルギー基本計画にはおととしの改定の段階で、「非効率な石炭火力にフェードアウトを促す仕組みなど具体的な措置を講ずる」ことがすでに盛り込んであった。しかし政府はどう減らすのか具体策を打ちださないまま2年が過ぎ、国際的な批判をきっかけにようやく重い腰を上げたわけ。対応が遅いと言えるが、脱炭素に向けてもう旧式の火力を使い続けるべきではなく、削減方針を示した点は一定の評価ができる。
 ただ今回方針転換ではないため政府は、石炭火力の基幹電源としての位置づけや2030年に26%賄う方針は見直さず、効率が比較的よい石炭火力は今後も新設を認めることに。
効率が良いとは言っても天然ガスの2倍のCO2を排出するわけで、国際社会から不十分だと批判が高まる可能性も。政府はCO2などの排出を2050年に80%削減し、今世紀後半のできるだけ早い段階で実質ゼロにすることを国際的に約束しているわけで削減だけでなく一歩踏み込んで廃止に向けた道筋についても今回あわせて検討しておく必要があると思う。
 また、今回削減する分の電力について政府は、再エネと原発で賄う方針。しかしいずれも課題が多く、賄いきれなければ石炭火力削減自体に影響が出る可能性もあり、この際、電源構成を抜本的に見直していく必要。
 このうち原発については2030年に20~22%賄う方針を掲げ、30基程度再稼働させる方針。しかし信頼の回復は進まず、これまで再稼働したのは9基で、電源の割合も6%。しかも裁判所が運転停止を命じたり、テロ対策施設の完成が遅れて原子力規制委員会から事実上強制停止させられるなど、原発はいまや不安定電源に。業界団体が原子力関係各社に行ったアンケートでも半数が20~22%の達成は困難と回答。このまま目標が達成できなければその分をまた石炭火力で賄うということになりかねず、原発比率の見直しは不可欠。
 その分、政府が主力電源化を目指す再エネが期待されるが、現状17%と主要国の中でも最低レベル。普及が進まない理由の一つに送電線の空きが少なく、新規の再エネがなかなかつなげない問題が。送電線の利用は、先に建設された火力や原発が優先的に利用できる仕組み。このため、発電量が増えて送電線の容量がいっぱいになると、あとから再エネを入れようとしてもできず、送電線を設置する莫大な費用が請求され、再エネ事業を断念せざるを得ないケースも。こうした状況が続く限り再エネの拡大は困難。この点政府は再エネが優先的につなげるよう、送電線接続のルールを変える方針。再エネ事業者の意見を丁寧に聞いて、より多くの事業者が参入できるようなルールを早急に整備するのと同時に、普及を加速させるためにも2030年に22~24%となっている再エネの導入目標についてもより高く見直していくことも必要。
 政府はエネルギー基本計画を当初予定の通り、来年改定するとしているが、世界の脱炭素化への動きは早い。状況に合わせて素早く見直していかないと世界の流れに乗り遅れることになりかねない。

石炭火力100基休廃止表明(7月3日) 7月24日

梶山弘志経済産業相は3日、二酸化炭素(CO2)を多く排出する非効率な石炭火力発電所100基程度を2030年度までに段階的に休廃止する方針を表明しました。

7月3日の報道記事
石炭火力、抑制姿勢に転換 欧州「全廃路線」と一線
  (日本経済新聞電子版 2020.07.03 02:00)
■■電力会社「困難」の声
 全国の大手電力各社は電力調達の多くを石炭火力に頼っており、経営に与える影響は大きい。
中国電力の場合、合計259万キロワットの石炭火力を持っており、顧客に販売する電力のうち47%が石炭由来の電力だ。北陸電力は同50%で、比較的石炭の依存度が低くなっている東京電力ホールディングスでも20%を占めている。
段階的に建て替えや廃止を進めているといっても、老朽化した発電所に頼っている地域も少なくない。中国電力の下関発電所1号機(山口県下関市)は稼働から53年が経過し、Jパワーの高砂火力発電所1号機(兵庫県高砂市)も52年たっている。
大手電力からは「基準が決まっていないので何とも言えないが、9割の石炭を廃止するのは困難だ」(東電関係者)との声があがる。西日本が地盤のある電力会社は「石炭を廃止する以上、国が原子力発電所の新増設を後押しすべきだ」と話した。
  (SankeiBiz 2020.07.03 05:00)
梶山経済産業大臣の閣議後記者会見の概要
  (経済産業省 2020.07.03 11:13~11:29)
非効率石炭火力のフェードアウトに向けた検討
まず1点目、資源の乏しい我が国において、エネルギー安定供給に万全を期しながら脱炭素社会の実現を目指すために、エネルギー基本計画に明記している非効率な石炭火力のフェードアウトや再エネの主力電源化を目指していく上で、より実効性のある新たな仕組みを導入すべく、今月中に検討を開始し取りまとめるよう、事務方に指示をいたしました。
具体的には、2030年に向けてフェードアウトを確かなものにする新たな規制的措置の導入や、安定供給に必要となる供給力を確保しつつ、非効率石炭の早期退出を誘導するための仕組みの創設、既存の非効率な火力電源を抑制しつつ、再エネ導入を加速化するような基幹送電線の利用ルールの抜本見直し等の具体策について、地域の実態等も踏まえつつ検討を進めていきたいと考えております。
また、系統の効率的な利用を促すことで、再エネの効率的な導入を促進する観点から検討が進められております発電側課金についても、基幹送電線の利用ルールの見直しとも整合的な仕組みとなるよう見直しを指示をいたしました。
詳細は、事務方から説明をさせたいと考えております。
質疑応答
Q: 大臣、小泉環境大臣と今日の発表は合意されているんでしょうか。
A: 合意はしていないが、政府としては合意していますよ。それは官邸も含めて。
Q: 小泉大臣と話し合っていますか。
A: 小泉大臣とは折に触れて話し合ってあります。閣議で席が隣ですので。
  (一般社団法人環境金融研究機構(RIEF) 2020.07.03 12:21:37)
 経済産業省が旧式石炭火力発電所を約100基休廃止の方針を打ち出す中で、2つの石炭火力が新たに営業稼働した。電源開発(Jパワー)が広島県竹原市と茨城県鹿嶋市で建設を進めてきた超々臨界圧石炭火力(USC)発電所が相次いで動き出した。USCは旧式石炭火力よりCO2排出量は少ないが、天然ガス火力の2倍の排出量で、EU等では廃止対象になっている。経産省の「100基休廃止」方針は、旧式からUSCへの転換策でしかなく、「石炭依存」を基本的に維持していることを示す。
 USC型の発電所は現在、国内に26基(2018年現在)あるほか、2019年の稼働分と現在建設中が16基ある。これらは建設時期が新しいので、ロックイン効果が続き、2030年以降も3000万kW以上の運転を続ける。USC42基のCO2排出量をJパワーの広島発電所と同等とすれば、合計で年間1億3270万㌧となる。これは日本の温室効果ガス排出量の1割を上回る。旧式石炭火力の休廃止でCO2排出量は約6400万〜1億600万㌧削減される見通しだが、その削減分を上回る排出を続けることになる。
 さらにKIKO[気候ネットワーク]は、今回、稼働を始めた両USC型火力発電所が立地する県が、いずれも温暖化の加速で深刻な気候災害が起きた県である点も指摘している。広島では2年前の西日本豪雨で、多くの人命が失われ、被害総額も過去最高となった。一方の茨城県でも、2015年の常総市周辺での記録的豪雨で、鬼怒川の堤防が決壊、甚大な被害が出た。
 石炭火力が主要な汚染源として、温暖化の影響を加速し、その被害を現実に受けた地域で、新たに「元凶」となる石炭火力を稼働させるという「暴挙」に映る。だが、事業主体はもちろんのこと、地元自治体も、まるで別問題であるかのように振る舞っている。
 もちろん、温暖化の影響は石炭火力の稼働地元だけではなく、グローバルに影響する。今夏はすでにロシアのシベリアで38℃の高温が記録され、永久凍土の溶融による建物事故のニュースも届く。南極の温度も、世界平均より3倍のスピードで上昇していることも科学的観測で確認されている。にもかかわらず、日本の行政と電力会社があくまでも石炭に固執するのはなぜなのか。エネルギー供給への不安か、変わることへの不安か、あるいは利権の維持か……
石炭火力「減らす仕組み作る」 経産相、輸出厳格化も
  (日本経済新聞電子版 2020.07.03 11:51)
  (東京新聞 TOKYO Web 2020.07.03 13:50)
   ◆政府が従来のエネルギー政策を転換
脱炭素化に向け再生可能エネの普及に本腰を
<解説> 梶山弘志経産相がエネルギー効率が悪い石炭火力発電所の休廃止を表明した。CO2排出を抑える脱炭素化に向けた一歩とはなるが、石炭火力の全廃方針を掲げる欧州各国に比べれば見劣りする。脱炭素化を進める上で重大事故のリスクがある原発に頼らず、CO2排出が少ない再生可能エネルギーの比率をどう高めるか。政府の本気度が問われる。
 日本は東日本大震災以降、原発の代替電源として液化天然ガス(LNG)や石炭火力の比率を高めた。石炭は価格が安く、安定的に調達できるとして、経産省や産業界は「石炭火力維持」の方針を崩さずにきた。
 一転、旧型の石炭火力休止に踏み切った背景には、世界で強まる脱炭素化の潮流がある。石炭火力はCO2の排出量が天然ガス火力の約2倍と多く、ドイツや英国などは石炭火力の全廃方針を掲げる。
 今後は石炭比率を下げながら、電力の安定供給をどう実現するかが課題となる。原発は安全対策コストがかさみ、地震大国の日本での再稼働は現実性に乏しい。再生エネの普及策に本腰を入れ、環境と暮らしを両立するエネルギー政策を立案する必要がある。(石川智規)
  (時事ドットコム 2020.07.03 18:34)
[社説]電源全体を見据えた石炭火力の休廃止に
  (日本経済新聞電子版 2020.07.03 19:05)
北陸電力、発電5割頼る石炭火力に暗雲 最安の源泉
  (日本経済新聞電子版 2020.07.03 19:30)
低効率石炭の休廃止、自家発電も対象 経産省方針
  (日本経済新聞電子版 2020.07.03 20:30)
WWFは、日本政府が石炭火力発電所を大幅に廃止する方針を歓迎する
  ただし、新規増設や原子力によってその廃止分を埋めてはならない
  (WWFジャパン[World Wide Fund for Nature] 2020.07.03)
石炭火力の完全なフェーズアウトを:経済産業省の方針では2030年に3000万kWの石炭火力を利用(自然エネルギー財団)
1.「100基休廃止」でも、2030年時点で3000万kWの石炭火力を利用
 休廃止の対象となる100基には10万~20万kW程度の小規模のものが多い。これに対し、2030年でも利用を予定している「高効率」石炭火力は、60万kW~100万kWクラスの大規模のものが中心であり、合計約2000万kWの発電設備が存在している。これに現在建設中の新設石炭火力を加えれば2900万kW程度となる。更に非効率石炭火力の1割は残されるので、全体では、2030年時点でも3000万kW程度の石炭火力が残存することになる。
 パリ協定のめざす二酸化炭素削減目標を実現するためには、先進諸国では2030年までに石炭火力発電の利用を全廃することが必要とされており、欧州各国をはじめ多くの国が2030年前後の全廃をめざしている。今回の方針は、こうした世界の努力とは全く異なる。
2.二酸化炭素排出がほとんど変わらない高効率石炭火力推進路線の維持
 エネルギー基本計画では、非効率な石炭火力のフェードアウトと同時に「石炭火力発電の高効率化・次世代化を推進する」と明記しており、今回の公表でも高効率と称する石炭火力を維持することを明確にしている。これらの高効率石炭火力も、二酸化炭素排出量は「非効率」なものより数%しか減らない。日本が批判されてきたのは、実際には排出削減に殆ど役立ない「高効率石炭火力」をクリーンコールと称して推進してきたからに他ならない。今回の発表はこの「クリーンコール」路線を継続することを明確にしたものである。
3.26%維持のため更に長期の排出ロックインの危険性
 エネルギー基本計画では「2030年に石炭火力で26%を供給」するという方針を示している。2030年に残存する3000万kWで供給可能なのは、20%程度と見込まれるため、26%を供給するためには、更に多くの石炭火力発電を新設することが必要になる。巨額の初期投資が必要な石炭火力は、いったん建設されれば40年程度の利用が目指される。このようなことが行われれば、今世の後半の長い期間にわたって大量の二酸化炭素の排出を続けることになる。
政府の海外石炭火力支援方針の改訂方向性を危惧 ~進行中案件も含めて支援中止を決定すべき~
(「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、気候ネットワーク、国際環境NGO 350.org Japan、国際環境NGO FoE Japan、メコン・ウォッチ)
7月3日付の報道に、「石炭火力発電輸出 支援厳格に 政府検討 非効率型を除外」と題する記事が掲載されました。これまで次期インフラシステム輸出戦略骨子において海外の石炭火力発電事業の公的支援中止を打ち出すよう要請してきた私たち環境NGOは、記事で伝えられる政府内における検討の方向性を非常に危惧しており、すでに進行中の案件も含め、海外石炭火力発電事業への公的支援の全面中止を改めて要請します。
記事では、「二酸化炭素(CO2)を多く排出する非効率な石炭火力発電の輸出は、原則として支援しない方針を政府文書に明記することも含めて検討している」と報道されています。しかし、現行政策(エネルギー基本計画に示されたいわゆる輸出支援の4要件)でも、「原則、世界最新鋭である超々臨界圧(USC)以上の発電設備について導入を支援する」としています。したがって、技術を限定し、条件付けを残すなら、単に言い回しを変えるだけで、実態には何も変化をもたらさない可能性があります。
また、「CO2の排出量が少ない高効率の発電所であっても、支援する条件を厳しくすることで、温室効果ガス削減に取り組む姿勢を示す」と報道されていますが、そもそも高効率であっても石炭火力はパリ協定の長期目標と整合しないことが明らかであることから、日本政府の現行方針が国内外から批判されています。石炭火力でも高効率なら支援するという姿勢を続ける限り、パリ協定の目標達成に後ろ向きであるとの日本に対する評価は覆らないでしょう。
さらに、記事では「進行中のプロジェクトについては、継続する」との方針も示されています。これは、国際協力銀行(JBIC)及び日本貿易保険(NEXI)が支援検討中のブンアン2(ベトナム)、国際協力機構(JICA)が支援を検討見込みのインドラマユ(インドネシア)及びマタバリ2(バングラデシュ)の3案件を指していると考えられますが、すでに今後の支援対象案件として実質的に残された案件はこの3案件しかないことから、これらを除外して方針を立てることは、今回の方針見直し自体の意義を損なうものに他なりません。加えて、これらの案件においても、パリ協定の長期目標との不整合性、支援対象国における電力供給過剰状態の深刻化、再エネのコスト低下に伴う経済合理性の欠如、現地の環境汚染や住民への人権侵害など、様々な問題があり、支援を行うべきではありません。
したがって、7月上旬にも閣議決定されると見込まれる次期インフラシステム輸出戦略骨子では、進行中の案件を含めたすべての海外石炭火力発電事業への公的支援を例外なく中止するという方針を掲げるべきです。

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