日本植物学の創始者と言われる三好學さん(岐阜県恵那市岩村町観光協会HP)の『櫻』(冨山房、1938年4月初版、1980年復刻版)全467頁から「櫻の植方」の部分です。[]内は引用者。
櫻の植方
 櫻の植方は、櫻の種類に依って自から違ひがある。山櫻の如く山中に多い櫻で、殊に花の優美なもの又若葉の綺麗なものは、之を小高い斜面に植ゑ、背景としては赤松や槭樹[もみぢ 槭=かえで、シュク https://mojinavi.com/d/u69ed]の如き陽気な樹木が適して居る。杉や樅[もみ]の如き陰気な樹木は適當でない。又狭い場所などに並木の如く植ゑるのも面白くない。東京でいへば、上野公園・芝公園・清水谷公園の如く木立のある中に、所々に山櫻の若葉の色の違ったものや花の色の違ったものを植ゑるのが宜しい。
 之に反して染井吉野の如きは、更に花部の變異の無い櫻であるが、而かも其咲き揃つた時には、立派であるから、隅田川堤のやうな所に並木として植ゑるのが宜しからう。染井吉野は木立の間などに植ゑる櫻ではない。
 彼岸櫻・枝垂櫻の類は大木になるから、狭い場所には適して居ない。是等は大きな庭園、又は公園・仏閣の如き廣い場所が良い。並木などには不適當である。
 里櫻は、幹が低く又枝も餘り大きくないが、花は極めて立派である。遠方から観るべき櫻でなく、傍によって一々眺むべき櫻であるから、餘り高い所や木立ちの間などに植ゑるには適して居ない。これも公園の中の或る場所又は土手のやう所へ植ゑるのが宜しい。
 すべて是等の櫻の中には、花の色・形等が様々であるから、良くそれが配合せられて、一つの品種ばかり集まらないやうに植ゑなければならぬ。荒川堤防には、植ゑた當時は七十八種の櫻があったとしてある。是等の櫻を巧に配置した爲めに、長い堤防を見物して歩いても變化が限りなく、少しも厭かない。五色櫻[薄桃、濃桃、白、黄、薄緑など]といふ如く花の色がそれぞれ變って居る。
 櫻は花の早いものから、晩いものまで花期が二ヶ月もつゞく。寒櫻は東京では三月中旬頃から咲出し、下旬より四月上旬になると、彼岸櫻・枝垂櫻が咲き、次十日前には染井吉野が咲き、中旬から山櫻が咲き、二十日前後から里櫻が咲く。里櫻の遅いのは五月上旬まで續くから、約二ヶ月の花見が出来る。それ故に色々の櫻を植ゑて順に花見の出来るやうにするのが宜しい。今では遠く外國から花見に来る人も少なくないから、これ等の觀櫻者の爲めに、成るべく十分に櫻が見られるやうにしたいものである。それには第一東京の内外に於て、適當の場所に適當の櫻を植ゑ着け、能く手を入れ、盛に成木させて、年々美しい花を咲かせるやうにしなければならぬ。櫻の國とも云はれる日本であるから、櫻に就いては篤と研究を施し、十分に保護を加へ、且優れた品種を保存し、併せて[あわせて]櫻に對する高尚なる趣味を普及させ。此花の美性を観賞することを希望して已まない。(櫻第一號大正七年[1918年])
概説(1~148頁)>櫻の知識(38~51頁)>櫻の植方(49~51頁)
三好『櫻』49頁三好『櫻』50・51頁

※『』や多くの三好学さんの著作が国立国会図書館のデジタルコレクションに収録されています。国立国会図書館サーチNDLイメージバンクでも『桜花図譜』(三好学のもと、佐藤醇吉を中心とする画工が桜を描いた美しい図譜)、『花菖蒲図譜』を見ることができます。
※恵那市ふるさと学習読本 vol.6 ふるさと人物編❸『日本の近代植物学の開祖 自然保護の先駆者 三好学先生の生き方・考え方』(編著者:三宅勝義、発行者:恵那市教育委員会、発行日:2020年3月)