5日、カシナガトラップ102基が文化まちづくり公社から配達されました。
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7日の市民の森保全クラブ活動日にナラ枯れ資料(小林正秀「ナラ枯れの真の原因は何だろう?」、江崎功二郎「カシナガ穿入パターンと枯死の関係」)を配付して再学習しました。
市民の森保全クラブ会員配布資料(2023.04.07)_1市民の森保全クラブ会員配布資料(2023.04.07)_2カシナガの穿入パターンと枯死の関係

 
小林正秀(京都府農林水産技術センター森林技術センター)「ナラ枯れの媒介昆虫カシノナガキクイムシの生態はどこまで解明されたのか?」:カシナガのような Platypus 属が Raffaelea 属菌を媒介してブナ科樹木を枯らせる被害が世界中で発生している。日本のナラ枯れは、1980 年代以降に拡大、現在は関東で深刻化している。ナラ枯れが抑えられないのは、カシナガの生態が理解されていないためである。無被害地の健全木の幹に穴をあけて殺菌剤を注入したり、無被害地にフェロモン剤を設置するなど、カシナガを無被害地に引きずり出す対策が行われている。カシナガは、枯死して間もない樹木を利用する二次性昆虫であるが、数が増えると健全木にも攻撃して枯死させる一次性昆虫に転化する。カシナガは、枯死して間もない樹木という量的に少ない寄主を探し当てるため、飛翔力が高く、嗅覚が鋭い。また、希な繁殖材料に運良く辿り着く幸運な個体は少ないため、一旦、繁殖に成功した場合、多数の子供を育て上げる。飼育実験では 2頭の親から 500 頭以上が育った例があり、野外では 1000頭以上が育った記録がある。ここでは、透明のビンによる飼育で判明した木の中での生活を中心に、カシナガの驚くべき生態を動画で紹介する。そして、この虫が一気に増えるメカニズムについて考察する。(『第134回日本森林学会大会学術講演集』118頁)
二井一禎「ナラ類の萎凋病(ナラ枯れ)をめぐる生物関係 Kazuyoshi Futai
 『植物の生長調節』(植物化学調節学会 JSCRP )47巻2号、2012年]
  植物の生長調節47巻2号(2012)_1植物の生長調節47巻2号(2012)_2植物の生長調節47巻2号(2012)_3
図1・3

図2図4

 “ナラ枯れ” が世間の耳目を集めるようになったのは比較的最近のことで、そのため、地球温暖化との関連が取り沙汰されたり、侵入病害虫として、問題視されたりすることが多い。しかし、昭和の初め(1930 年代)に既に鹿児島県と宮崎県から本病の発生が報告されているほか、最近になって、明治期の発生記録が見つかっており(高畑 2010)、この森林病は地球温暖化が問題になる遥か以前から日本の森林に発生していたことが明らかになった。この病気の病原体は不完全菌類の一種、Raffaelea quercivora(以後ナラ菌)で、この病原菌をナガキクイムシ科の甲虫、カシノナガキクイムシ Platypus quercivorus(以後カシナガ :図 1)が枯死木から健全木に伝播することにより被害が拡大する。その際、ナラ菌は体長 5 mm 足らずのカシナガの前胸背部にある 10 個前後の円形の凹み(これを菌嚢 : マイカンギアと呼ぶ)に格納されて運ばれるが、この菌嚢には本来、カシナガの餌となるべき酵母類が蓄えられている。いわば、ナラ菌は餌の酵母に紛れて運ばれていると言える。このように、樹体内に酵母を持ち込み、そこでこの酵母を育ててこれを餌とする一群のキクイムシのことをアンブロシアビートルと呼ぶ。
 カシナガは 6 月下旬頃から羽化脱出し、健全なブナ科の樹木に飛来する。これまでに、ミズナラ、コナラなどブナ科の中でもコナラ属の樹種を中心に、その他クリ属、シイ属、マテバシイ属など、15 種以上のブナ科の樹種への加害が知られている。もちろん、これらの樹種間にもカシナガの選好性に差があり、加害された場合の感受性(枯死率)にも大きな違いがあることが知られている(村田ら、2011)。宿主樹木には最初オスが飛来し、年輪に直角の方向に短い坑道(穿入孔)を上向き 20 度の傾斜をつけて掘った後、樹幹表面に出て集合フェロモンを放出する。これに誘引された雌雄のカシナガが飛来し、この樹を一斉に穿孔加害する(マスアタック)。宿主樹木は、キクイムシ等に穿孔加害されると、樹液分泌などにより、侵入者を除去するなど、防御反応を示す。マスアッタクは一本の宿主に同時に攻撃を加えることにより、一つの孔道当たりの樹液量を低減させ、宿主の防御力を弱める働きがある。
 いったんメスが孔道の掘削を始めると、オスは穿入孔の入り口付近に陣取り、外敵の侵入から孔道を守り、内部の幼虫の落下を防ぎ、さらには、幼虫が内部から運搬して来るフラス(孔道掘削によりできる木屑と幼虫達の排泄物が混じったもの)を孔から外部に放出する。ここで、穿入孔道を上向き 20 度(孔道内部から見ると下向き 20 度)に付けた傾きは侵入者を外部に押し出したり、排泄物を廃棄したりするのに有利である(Tarno et al. 未発表 : 図 2)。
 以後オスは孔道掘削作業には関与しない。オスに続いて飛来したメスは、一連の求愛行動を経て、孔道の入り口でオスと交尾した後、穿入孔に入り、自ら年輪に沿って水平の孔道(水平毋孔)を掘る。そして、メスが孔道内を移動するときマイカンギアに潜んで運ばれて来た酵母は、充分な湿度条件の孔道内部でマイカンギアから噴出し、孔道内壁に塗り付けられる(Endoh et al. 2011)。メスはそれまで掘り進めた孔道の端部にいったん産卵し、さらに孔道を延長して行く。孔道壁に産みつけられた卵はやがて孵化し、メスが作った水平母孔から分岐孔を掘削する。こうして、終令幼虫がいったん孔道掘削作業を始めるとメス成虫は最早孔道掘削に関わらなくなる。終令幼虫はメスに代わって専ら孔道を掘り進め、その掘削屑をオスの待つ孔道入り口に運び、メス親の産んだ弟、妹卵を適所に 運搬し、さらには幼虫どうしで栄養交換しながら小さな社会を営んでいる(このような集団生活を営むカシナガは亜社会性昆虫と見なされている)。樹体内奥深くで繰り広げられる微小なカシナガの社会生活は多くの研究者の努力で一つ一つ明らかにされて来たのだが、幼虫の社会性が明らかになったのは、人工培地中で孔道を作らせビデオ撮影による連続観察に成功した小林の功績(小林 2006)によるところが大きい。樹体内奥深くで繰り広げられる微小なカシナガの社会生活は多くの研究者の努力で一つ一つ明らかにされて来たのだが、我々はこの問題に全く別の方法で取り組んだ。それは、彼らが宿主樹体から排出するフラスに 2 つのタイプがあると言うことに気づいたのがすべての出発点であった。その後の実験でこのフラスについて重要な特性が 2 つ明らかになった。それは、(1)成虫が孔道を掘削する時にできるフラスの形状は繊維状で、幼虫のものは粉状になる(図 3)。この違いは両者の口器の違いにより説明出来る。他の一点は(2)排出されるフラスの量は孔道の長さに比例すると言う点である(Tarno et al. 2011)。
 これだけのことが確かめられれば、排出されるフラスを連続的に観察するだけで樹体内の彼らの行動はかなり明らかに出来る。メスと幼虫の掘削作業の交代などという現象もフラスの観察から明らかになった。
 カシナガがマスアタックする樹を選ぶ場合、彼らができるだけ多数の子孫を残せるような樹が好適であるに違いない。多数の子孫の繁殖が可能かどうかは餌である酵母の量に依存する。ところで、上にも述べた通り、酵母はメスのカシナガにより孔道の壁に塗り付けられ、そこで繁茂し、幼虫の餌となる。従って、長い孔道ほど酵母の繁殖量も多くなり、多くの幼虫の繁殖が可能になる。ここで、酵母が繁殖出来るのは、タンニンや他のポリフェノールの量が比較的少ない辺材に限られる。従って、カシナガが孔道を掘り進めるのも、辺材部分に限られる樹種が多い*。こうして見ると、カシナガにとって好ましい宿主樹木がどのようなものかが見えて来る。それは、酵母の繁殖に好適な辺材の材積が多い樹と言うことになる。
 それは、太い木で、しかも材積に占める辺材部分の比率が多い木と言うことになる。ミズナラやコナラの大径木が好まれ、しかもその地際部が集中的にか害されるのは当然のことなのだ。
(* : マテバシイやアラカシの場合は、孔道が心材まで達することが多い。恐らく、コナラやミズナラの場合と、心材成分の量や質に大きな違いがあると思われる)。
 ナラ枯れのもう一つの主役である病原体、ナラ菌は酵母と共にカシナガのマイカンギアに潜んで孔道内に運ばれ、この孔道から周囲の材組織に広がる。それに対し、樹木側は防御のため、菌の感染部位周辺にポリフェノールなどの二次代謝産物を集積させる。この過程は、辺材組織が心材に移行する現象(心材化)に良く似ている。いわば、本来の辺材組織の中に、にわかに心材が形成されるような現象で、ナラ菌に感染した材の断面は異常な変色域が広がる(図4)。本来の心材がそうであるように、この変色域は水の通導機能を失っている。したがって、変色域の拡大は樹の萎凋をもたらし、最終的には枯死に至る。以上述べたように、ナラ枯れという森林流行病は複雑な生物の相互関係により生じている樹病で、未解明な問題が山積している。特に、カシナガの食餌源である酵母と病原菌の関係には不明な点が多い。現在、ナラ枯れと同様、Raffaelea 属の菌とカシナガのようなアンブロシアビートルの組み合わせで樹が枯れる病気が世界の各地で問題になっている。例えば、合衆国の南東部のフロリダやジョージアなどの諸州ではクスノキ科のアボガドなどの樹種が R. lauricola とアンブロシアビートルの一種 Xyleborus glabratus により枯死するローレルウィルトが問題化しているし、ポルトガルでは カシナガと同属の P. cylindrus が Raffaelea 属の一種を運んでコルク樫を枯らしている。さらに、お隣の韓国ではカシナガに近縁の P. koryoensis が Rafaelea 属の病原菌を運んで、ミズナラにごく近縁のモンゴリナラ を枯死させている。このように見て来ると、近年これらの病気が拡大している原因を探るためには、ナラ枯れに限らず、世界的に Raffaelea 属菌とアンブロシアビートルの組み合わせが引き起こしている流行病に共通の環境要因(誘因)をつきとめることが必要とされている。本来土着病的な病気であったナラ枯れがなんらかの誘因によって激害化しているとするなら、地球温暖化も誘因の一つとして考慮すべきかもしれない。(文献は略。太字と下線引用者)

タンニンについて(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科天然物化学研究室HP)
種子を守るためのタンニン
渋柿を食べたことありますか。あの強烈な渋味のもとがタンニンです。柿は種子が未熟な間、多量のタンニンで守っています。しかし、種子が充分成長したら種子を遠くに運びたい。日の当たらない親の根本では子供は育ちません。だから熟柿になると人やカラスに食べてもらえるように軟らかくなり、渋味がなくなります。渋柿を風呂に一晩つけたり、焼酎(エタノール)や二酸化炭素で処理すると人工的に渋抜きすることができます。渋が無くなるのではなく、水に溶けなくなるために渋味を感じなくなります。これはいずれの処理でも嫌気的呼吸によりアセトアルデヒドができて、それがタンニンを重合させるために起こります。甘柿はもともとタンニンが少ない種類を人間が選抜したものです。
木材における細胞の死と防御物質としてのタンニン
 クリは果実を食用にするので広く栽培されますが、その木材は非常に耐久性が強いことから建築土木資材としても重要なものです。その耐久性はタンニンを含んでいることによると言われています。タンニンにはカビなどを防ぐ効果があります。木材の細胞は樹が太くなるにつれ内側に取り残され、ついには樹皮からの栄養の供給がとだえて、すべて死んでしまいます。細胞は死ぬまぎわに最後の力をふりしぼり、大量のタンニンを作ります。大樹を支える樹の中心部はこうやってカビから守られます。タンニンがあると普通カビは生えませんが、シイタケ菌はタンニンを分解する能力を持っていて、木材のセルロースを栄養源として成長します。他のカビが利用できない資源をシイタケは独占できるのです。ちなみに、クリの渋皮のタンニンは樹皮や材のものとは全く違う構造をしており、柿のものと似ています。多くの植物が組織によって作り分けをしていますが,理由はまだ分かっていません。
植物のポリフェノール 抗ウイルス性にも注目も奈良県農業研究開発センター『奈良新聞』シリーズ「農を楽しむ」掲載、 2022年03月14日記事
  近年、食への健康志向が高まり、食品の機能性成分に関心が集まるようになっています。緑茶のカテキンやブルーベリーのアントシアニンというと、なじみがあるかもしれません。これらはすべてポリフェノールと呼ばれ、機能性研究が最もよく進められている植物の成分のひとつです。そこで今回は、ポリフェノールの種類や効果についてのお話です。
 ポリフェノールは、「たくさんの(poly)フェノール(phenol)」という意味で、フェノール基のついた化学構造をもつ成分を総称して名付けられたものです。フェノール基には有害な活性酸素を消去する働きがあるため、ポリフェノールのもつ強い抗酸化作用が機能性成分として注目されるようになったのです。さらに細かい化学構造の違いにより、抗菌作用や抗炎症作用をもつものなどもあります。そもそも植物がポリフェノールを作る理由は、それぞれが生育する環境下で紫外線などのストレスから身を守り生き抜くための生存戦略のひとつで、作られるポリフェノールも植物の種類によって様々です。ほとんどの植物がポリフェノールをもっており、自然界には8000種類以上あるといわれています。
 代表的なものをいくつかご紹介しましょう。緑茶で有名なカテキンは殺菌作用があり、風邪予防に効果的といわれています。大豆に含まれるイソフラボンは、女性ホルモンと似た化学構造をもっています。そのため、更年期症状の緩和など女性にとってうれしい効果が期待されます。また、柿に含まれるタンニンはポリフェノールの中でも特に強い抗酸化作用があるといわれています。最近では、タンパク質と結合しやすいというタンニンの性質が新型コロナウイルスの不活性化に効果があるとの研究結果が発表され、その抗ウイルス性に注目が集まっています。……
NHK2022年11月11日放送番組『チャコちゃんに叱られる』「ポリフェノールとは」内容紹介記事
 ポリフェノールって何なの?→植物の苦味や渋味成分全般をひっくるめてポリフェノール