日経新聞電子版に2015年12月から16年1月に7回連載された前真之さんの「冬に備える家づくり」シリーズ。エコハウスのウソ』(2012年6月発行)は、15年12月に第2版『エコハウスのウソ(増補改訂版)』になりました。

第1回 「採暖」の落とし穴  体に優しい快適暖房の条件(『日本経済新聞電子版』2015/12/14 6:30)
 「冬にストーブで体を温める」という考え方は、暖房の手段として必ずしも正しくない。建物のプランや外皮(外壁や窓など開口部)をきちんと設計することで、冬の暖房にかかるエネルギーを大幅に減らし、快適な室内環境をつくることができる。しかし現実的に可能な断熱では、なかなか「無暖房」というわけにはいかない。やはり暖房器具の助けが必要である。
■暖房は人体を加熱するにあらず
 夏の冷房時はもちろんのこと、冬の暖房時においても「人体は常に熱を放出している」。体の熱収支がプラスになるほど体を温めては、人間はオーバーヒートして死んでしまう。体からの対流や放射による放熱量が過大にならないよう、適度に空気や放射温度を整えるのが暖房の役割。体の一部は加熱されていても、体全体としては熱を放出している。火に当たっている「オモテ面」は、確かに加熱されているが、火に当たらない「ウラ面」は、空気への対流・壁への放射により冷却されている。
■片側だけ加熱の「採暖」は不快で危険
 「体の一部を加熱する」やり方は暖を採るということで「採暖」と呼ばれ、暖房とは明確に区別されている。日本では韓国のオンドルのような本格的な暖房が発展せず、囲炉裏や火鉢といった採暖で冬をしのいできた経緯がある。現在でも根強く残っているストーブや電気ヒーターは、こうした採暖のなごり。
■究極の快適暖房は「コメの空間」
 日本人にとって究極のメニューとは「コメ」。毎日食べても食べ過ぎず、栄養バランスのとれた主食。「究極に快適な冷暖房」とは毎日長時間いても不快に感じず体に負担とならない、「コメのような」空間をつくるものである。究極の快適暖房をつくることは容易ではない。その実現のためには、暖房設備だけではなく、建物の外皮性能をセットで考えることが不可欠。高断熱・高気密による暖房負荷低減と空気・放射両方の環境改善、そこに必要最低温の暖房設備が組み合わさった時、究極の暖房が実現する。

第2回 空気は怠け者  性質の理解が「快適暖房」への一歩(『日本経済新聞電子版』2015/12/21 6:30)
 質の高い暖房とは、人体全体から「バランス良く放熱ができる空間」をつくること。
■対流はボールの流れ・性能で伝熱力が決まる
 熱の伝わり方は3つ。「伝導」はパンチ。直接接触することで熱を伝える。「対流」はボール当て。ボール(空位や水の粒)がエネルギーを伝える。「輻射」はレーザービーム。何もない真空でもエネルギーを伝えられる。
■空気は"当たり"が弱い
■空気は「パス」がヘタ
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■空気は対流放熱が穏やか
 気は「当たりが弱い」「パスワーク下手」「コントロールに難」と、三拍子そろった迷プレーヤー、つまりただの"怠け者"。過度な期待は禁物。そもそも空気と水では、はなから勝負にならない。空気が水のように"働き者"だったらどうなるのか。20℃の水風呂に入ることを想像していただきたい。働き者の水はせっせと熱を奪い運び去ってしまうので、体はあっという間に冷え切ってしまう。空気の対流による穏やかな熱のやりとりのおかげで、我々は日々快適に過ごせるのだ。

第3回 「エアコン隠し」は厳禁  床暖房にも熱ロスの弱点(『日本経済新聞電子版』2015/12/23 6:30)
 「設備を隠す」という設計の美学に対して、省エネの観点から疑問を投げかける。
■エアコンは醜い、されど隠すべからず
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 見た目はスッキリであるが、これで暖房をすると空気は下に吹き出せず、暖かい(軽い)空気が上に滞留するだけで、全く暖まらない。屋外機。これまた見栄えがせず、風も音も出すので嫌われるが、それもこれもヒートポンプが外気の熱を集めているから。この屋外機こそ、ヒートポンプの「心臓」であるコンプレッサーを内蔵し、外気と熱をやりとりする主役。見苦しいからと囲っては、夏の排熱・冬の集熱に必要な空気の流れを妨げてしまい、エネルギー効率が大幅に低下。
■床暖房ラブのホンネは「設備を隠せる」
 加熱能力が小さいために立ち上がりに時間がかかる。床表面温度を上げれば加熱量を増やせるが、身体に直接触れる床暖房では低温やけどのリスクがあるので限界がある。
 床暖房は放熱パネル下面や配管からの熱ロスが大きく、また熱源効率に限界があり、エネルギー効率が低くなりがち。床暖房で省エネするには、高効率な熱源や放熱パネルの採用・床下や配管の断熱強化など、注意深い設計と施工が不可欠。
■寡黙な電気ヒーターのエネルギー効率は「最悪」
 エネルギー効率は最悪だ。電気で暖房・給湯をする場合には、空気熱を集めて効率を稼ぐヒートポンプ式を絶対に選ぶことをお勧め。
■全ての細部が必然
 設備のディテールを知ることが、真のエコ設計への近道。

第4回 小型で高効率がベスト エアコン選びの極意(『日本経済新聞電子版』2015/12/28 6:30)
■年間エネルギー効率が高いエアコンを
 まずは何より、少ない電気で多くの熱を取り除いてくれる「エネルギー効率の高い」エアコンが望ましい。このエネルギー効率は「年間エネルギー効率:APF(Annual Performance Factor)」と呼ばれ、カタログや省エネラベルに必ず記載されている。
 能力が大きい機種ほどAPF が低下している、つまりエネルギー効率が低い。エアコンの屋内機や屋外機のサイズは、能力の差ほどには変わらない。5.0kW の機種が、2.5kW の機種より2 倍大きいわけではない。特に屋内機は日本家屋の柱の間に収まるよう、幅800mm 以下に抑えられている。自動車でいえば、全ての車種が「軽自動車」の車格に抑えられているようなもの。
■エアコンの効率向上はもはや限界に
 最近になってエアコンの効率向上が限界に達しつつある。現実的なコストでできる対策がほぼやり尽くされ、ハードウエア的な改善が限界に来ている。10年後に今のエアコンを買い替えたとしても、もはや大きな節電効果は望み薄。ハードウエアの改善のアテがなくなった今、さらなる省エネのためには「建物性能の向上」と建物性能に見合った「適切なエアコンの選定や配置計画」が重要になってきている。
■「◯◯畳」の目安は断熱等級3
 カタログに記載された暖冷房能力の目安「◯◯畳」という表示は、断熱等級3程度の貧弱な建物性能を想定したもの。
■つつましい冷房ができるプランを
 蒸し暑くなれば冷房はどうしても必要。プランを決める際には通風だけでなく、冷房をした時に効率良く冷やせることもきちんと考えておきたい。

第5回 エネルギー爆食住宅追放へ 「H25基準」のインパクト(『日本経済新聞電子版』2016/1/4 6:30)
 オイルショック直後の1980年(昭和55年)に住宅の省エネルギーの基準を初めて制定。1991年(平成4年)と1999年(平成11年)の2 度にわたってレベルアップを図ってきた。1980年、1991年、1999年の断熱のレベルは、それぞれ「断熱等級2」「断熱等級3」「断熱等級4」と呼ばれる。1999年の「断熱等級4」は、「H11基準」とも呼ばれる。ただし、こうした断熱基準は義務ではなかった。「守りたい人は守ってくださいね」という、任意の推奨にすぎなかった。必須ではない以上、この基準を満たしている住宅は長らく普及しないままだったのも無理はない。
■エネルギーを規制していなかったH11基準
 2011年の東日本大震災以降、エネルギー事情が急変するなかで、2013年(平成25年)に省エネ基準を大幅に改正。この通称「H25基準」の目玉は、なんといっても「義務化」。大きな建築物から徐々にH25基準を必ずクリアしなければならなくなり、2020年までには住宅を含めて全ての建築物において必須の規制となる。耐震基準と同じく、満たしていなければ確認申請が下りなくなる。「省エネあらずんば建てるべからず」の時代が、ついにやってきた。
■消費エネルギー量そのものを規制
■1次エネを「爆食」する電気生焚設備
■H25基準は「15年前の外皮」+「時代遅れの設備」
 H25基準の基準値はどのように決められたのか。建前としては、先の「H11基準の断熱・日射遮蔽を施した外皮性能」に、「2010年ごろに一般的だった機器」を組み合わせた場合とされている。しかし、H11基準は既に15年以上も前の外皮基準であり、現状ではごく当たり前にできるレベル。設備についても照明には白熱灯が含まれ、給湯も従来型のガス給湯器になっているなど、既に「時代遅れの機器」が多く想定されている。H25 基準の基準値はかなり大きく、レベルは低い。エネルギー効率が多少悪い建物や設備計画であっても、エネルギーを大量に使う給湯機を省エネ型にするなど少しの努力で楽々クリアできる程度のレベル。
■H25基準は「ミニマム」
 義務化にはもちろん一定の効果がある。"札付きの不良"な住宅や設備を排除する「底上げ効果」は確かに期待できる。しかし全ての住宅が無理なくクリアできるよう、そのレベルは「バカなことをやらなければクリアできる」程度にならざるを得ない。「H25基準を満たしているから省エネはバッチリ」などとは、なりようがない。H25基準は、エネルギー爆食住宅を市場から排除することが当面の使命なのである。過剰な期待は避け、より高い次元の住宅性能の確保に努めるべき。

第6回 静かなブーム「薪ストーブ」 後悔しないための心得(『日本経済新聞電子版』2016/1/19 6:30)
 情緒豊かで環境にやさしい薪ストーブが静かなブームになっているが、実は薪ストーブは"手ごわい"暖房器具。
■薪かペレットか、それが問題だ
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■薪の用意は計画的に
 薪ストーブを選ぶのであればペレットと電気の恩恵を受けずに、「独力」で上手に木を燃やす必要が出てくる。最初のハードルは、薪を「計画的」に入手するコネの確保。そして薪は遅くとも「1年前」に割っておくこと。木はしっかり乾燥させることが不可欠。しけっていても薪は燃えるが、せっかく得られた熱の多くが薪の水分を水蒸気にするのに使われてしまい、薪を燃やした割には室内に熱が出てこない。効率が悪い。薪を割って軒下に積んでおくのは、カリカリに乾燥させて水分に熱を"盗まれない"工夫。
■1日の必要量は10kg以上
 事前に割っておくべき薪の量。薪1kg当たりの燃焼熱量は、20MJ(メガジュール)弱。同じ1kgの灯油の熱量は40MJ 以上なので、薪は灯油の半分程度の熱量しかない。つまり灯油1 缶(18L=14.4kg)分の熱量を得るには、約30kgもの薪が必要になる。1日の暖房にどれくらいの薪が必要になるのだろうか。暖房に必要な熱量は家の断熱性にもよるが、冬であれば200MJ程度が一つの目安。1日に10kg以上の薪が必要ということになる。 冬が何カ月も続くことを考えれば、10kg×100日=1000kgということで1トンのストックは必要ということになる。薪を割る作業自体、相当な重労働。薪を「買ってくる」のも一案。ただし、薪は買うとなると結構高い。「どこかからもらって」「自分で割って」こそ薪はコストパフォーマンスが良い。

第7回 情緒豊かでも手ごわい、薪ストーブは「ポジションが命」(『日本経済新聞電子版』2016/1/22 6:30)
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 薪ストーブの放熱は主に「放射」、サブで「対流」によって行われる。放射というと家中の隅々にまで届くという神秘の力を期待されがちだが、それは大きな間違いだ。薪ストーブは空間全体に比べれば小さなモノなので、赤外線を四方八方に放射する「点」といって差し支えない。
■煙突を侮るべからず
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 木に限らずモノが燃えるためには、燃焼に必要な空気がきちんと供給され、かつ煙がスムーズに排気される必要がある。ペレットストーブの場合は、電動ファンの力で給気・排気を強制的に行うことができる。一方、薪ストーブの給気・排気の動力は、加熱され軽くなった煙が自然と上昇する「煙突効果」だけしかない。
■素人仕事は危険がいっぱい
 冷地の郊外ではバイオマス暖房普及のポテンシャルが特に高そう。近くに森林資源が豊富で、薪やペレットの安定供給が期待できる。スペースに余裕があるのでストーブの置き場所や薪を乾燥させるための保管場所も確保でき、何より生活スケジュールにも柔軟性がある。寒冷地では日射不足や積雪・外気温の低さのため、太陽熱やヒートポンプといった"ライバル"も効率が低くなる。エネルギー効率の面からも、薪ストーブは相対的に有利。

usuk0824「断熱等性能等級4は寒い? 等級3との違いや基準値について解説」(昇高建設株式会社『418BASE』2022年12月6日記事)
usuk0824ペレットストーブは後悔しやすい?新築で失敗しないために注意すべき3つのこと」(昇高建設株式会社『418BASE』2022年12月6日更新記事)