11月18日に実施した岩殿入山谷津の植物調査で二宮さんが撮影した岩殿グループ写真館⑥にあるクサカゲロウの写真のコメントにクサカゲロウの卵、優曇華(うどんげ)の花とも呼ばれるとあります。優曇華とクサカゲロウについて調べました。
13099

優曇華は実在の植物伝説上の植物クサカゲロウの卵を指す場合があります。
A:実在の植物=トビカズラ(マメ科)
原産地は中国長江流域で、日本にも広く分布していたとされますが、現在では国内での自生は、熊本県と長崎県佐世保市沖の無人島の二カ所のみとされています。熱帯性の常緑、蔓性木本で、葉は互生し卵状楕円形で長さ7~15cm、幅4~8cm。4月下旬から5月に太い枝から暗紅紫色の大きな蝶形の花房を下げてつけます。熊本県山鹿市菊鹿町相良にある樹齢千年といわれるトビカズラをアイラトビカズラといい、1940年に国の天然記念物に指定されています。……(『東邦大学薬学部付属薬用植物園』「トビカズラ」から)
7640
トビカズラは中国中南部に分布する大型つる性植物です。日本では、熊本県山鹿市菊鹿町相良の樹齢1000年以上といわれる個体が有名です。この個体は「相良のアイラトビカズラ」という名称で国の特別天然記念物に指定されています。20世紀後半まではこの1個体のみが分布するとされていましたが、2000年に長崎県九十九島の時計(とこい)島で、2010年に熊本県天草市の天草上島で発見され、全部で3つの産地があることが確認されています。……(日本新薬株式会社『山科植物資料館』「トビカズラ」)
   アイラトビカズラ

B:伝説上の植物=優曇華(うどんげ)
優曇は梵語のウドンバラの音写「優曇婆羅」を略した語で、古くからインドで神聖なものとされる樹木の名前です。この樹木は三千年に一度だけ花が咲くといわれる樹の名前で、経典の中では難値難遇(なんちなんぐう)、つまり「仏に会い難く、人身を受け難く、仏法を聞き難い」という、とてもめったに出会うことのできない稀な事柄や出来事を喩える話としてあらわれています。それはたとえば『大般若経』では「如来に会うて妙法を聞くを得るは、希有なること優曇華の如し」と説かれています。
 また『法華経』では、「仏に値(あ)いたてまつることを得ることの難きこと、優曇婆羅の華の如く、また、一眼の亀の浮木の孔(あな)に値うが如ければなり」と説かれ、大海に住む百年に一度海面に頭を出す一眼の亀が、風に流されてきた一つの孔のある浮き木の孔の中にたまたま頭をつっこむという、めったにない幸運で仏の教えにめぐりあうことを喩えています。……(『天台宗』「法話集№75 優曇華」から)
優曇華の花 竹取物語、源氏物語、うつほ物語
かぐや姫がくらもちの皇子に命じた求婚難題物「蓬莱の玉の枝」の異称。くらもりの皇子が、玉の枝を偽造して、かぐや姫の家にこの玉を入れた櫃を運んでいた時に発せられたのが「『くらもちの皇子は優曇華の花持ちてのぼりたまへり』とののしりけり」であった。「優曇華の花」は三千年に一度だけ咲くと言う幻の花で、極めて稀な事の比喩として用いられる。……
『源氏物語』「若紫」巻には「優曇華の花待ち得たる心地して深山桜に目こそうつらね」の和歌がある。……
また、『うつほ物語』「内侍のかみ」巻で、朱雀帝が藤原仲忠に弾琴を促した時、仲忠は「『蓬莱の(おうふう本では「蓬莱・悪魔国」と校訂)悪魔国に不死薬、優曇華取りにまかれ』と仰せられるとも、身の堪えむに従ひて承らむに、……」と見えるので、身を侵してまで取りに往かねばならない幻の宝物であるのが「不死薬である優曇華」であることが分かる。……(『桃源文庫』「上原作和編著『竹取物語事典』ハイパーテクスト版」から)
夏目漱石『虞美人草』11
詩人ほど金にならん商買しょうばいはない。同時に詩人ほど金のいる商買もない。文明の詩人は是非共ひとの金で詩を作り、他の金で美的生活を送らねばならぬ事となる。小野さんがわが本領を解する藤尾ふじおたよりたくなるのは自然のすうである。あすこには中以上の恒産こうさんがあると聞く。腹違の妹を片づけるにただの箪笥たんすと長持で承知するような母親ではない。ことに欽吾きんごは多病である。実の娘に婿むこを取って、かかる気がないとも限らぬ。折々に、解いて見ろと、わざとらしく結ぶ辻占つじうらがあたればいつもきちである。いては事を仕損ずる。小野さんはおとなしくして事件の発展を、おのずから開くべき優曇華うどんげの未来に待ち暮していた。小野さんは進んで仕掛けるような相撲すもうをとらぬ、またとれぬ男である。(青空文庫から)
宮本輝『螢川』螢
「ことしはまことに優曇華の花よ。出るぞォ、絶対出るぞォ」
 仕事を終えた銀蔵が、荷車をひいて竜夫の家に立ち寄り、そう言った。
「ほんとかァ。なしてわかるがや」
 竜夫が勢い込んで訊くと、
「大泉に住んどる昔なじみが、こないだわしの家に来て言うとった。いつもは川ぞいにぽつぽつ螢が飛んどるがに、ことしはまだ一匹も姿を見せん……」
「一匹もおらんのかァ?」
「なァん、じゃから優曇華の花よ。前の時もそうじゃった。こんな年は、ぱっといちどきに塊まって出よるがや。間違いないちゃ」

C:クサカゲロウ(クサカゲロウ科)の卵
 クサカゲロウはアミメカゲロウ目の昆虫で、英名で lacewing-flies(レースの翅の虫)または aphis-lions(アブラムシのライオン)と呼ばれている。 ずいぶん異なる英名だが、前者は成虫の繊細な翅に由来し、後者はアブラムシなどを捕食することに由来する。とくに幼虫は強大なキバを持ち、 農作物害虫の有力な天敵として、欧米では天敵販売会社の主力商品になっている。大量増殖した卵が売られ、日本でもその利用開発研究が開始されている。
 特徴的なのはその卵で、雌が腹の先から葉面に一滴の液を落とし、腹を持ち上げるとそれが糸状に伸びて固まり、その先端に卵を生む。 同じ場所に何本かまとめて産卵するが、糸が細いので卵が空中に浮遊しているように見える。また、成虫は明かりに飛来する性質があり、 よく電灯の笠などにも産卵することがある。そして、古く日本ではこれが植物と誤認された。それも、3千年に一度花が咲き、 開花のときには如来が世に現れるという伝説の"うどんげ(優曇華)の花"とされたのである。……
 クサカゲロウの成虫は死ねば褪変色するが、淡緑色の美しい生きた成虫を見るのは簡単である。夏に市販のマタタビの実の塩漬を皿に乗せて窓を開けておけば多数の雄が飛び込んでくる。 マタタビがネコばかりではなく、クサカゲロウも誘引することを発見したのは石井象二郎博士で、誘引成分の化学構造はネコもクサカゲロウも似るが、 感応基(ラクトンとアルコール)だけが違うという。また、クサカゲロウは雄しか誘引されないことから、この物質は交尾となんらかのかかわりがあると推定されている。
 ちなみに、クサカゲロウの"クサ"は"草"ではなく、"臭い"の意味で、見かけによらず成虫には特有の強い悪臭がある。 (農林水産・食品産業技術振興協会(JATAFF)読み物コーナー・梅谷献二「虫の雑学」から)
谷本雄治・著、下田智美・絵『谷本記者のむしむし通信』(あかね書房、2005年10月)
img-221126095629-0002img-221126095629-0008img-221126095629-0009

 ぼくの“むし修行”
 1.うどんげの花(クサカゲロウ)
「うどんげ」は漢字で「優曇華」と書きます。でも「華」は「花」と同じ意味ですから、「うどんげの花」とよぶと、「華の花」となり、ことばがダブってしまいます。それでそのことを知っている人は「うどんげが咲いた」とだけいいますが、「うどんげの花が咲いた」といってもふつうは問題なく通じます。……
ぼくがクサカゲロウの観察をしようと思ったのは、そのころ取材テーマにしていた「天敵農法」とも関係がありました。このごろの農家は「生きている農薬」としての虫たちに期待していて、化学農薬をなるべく使わない農業をすすめようとしています。
いってみれば、虫で虫をやっつける農業です。自然界のしくみをうまく利用して、害虫を退治します。
農家が最初に使いだしたのは、オンシツツヤコバチという体長1ミリメートルくらいの小さな寄生バチでした。このハチは、温室でそだてているトマトの害虫のオンシツコナジラミをやっつけるために使います。
オンシツツヤコバチは、害虫の幼虫やさなぎに卵を産みつけ、からだを乗っとります。まるで、映画や小説に出てくる宇宙生物のようです。そうやって寄生された害虫はからだの養分をすいとられて成虫になる前に死ぬので、子孫がそれ以上ふえることはありません。
ぼくは、この寄生バチが使われだしてすぐ、トマト農家をたずねました。寄生バチの習性は知っていましたが、どうやって使うのか、ほんとうに害虫退治に役だっているのかは、実際に聞いてみないとわかりません。
取材を終え、農家が寄生バチに切りかえるのは、思ったよりもむずかしいことだとわかりました。農薬なら水でどのくらいにうすめて、どんな作物のいつ、どれくらいかければいいのかがラベルに記されています。その通りにすれば、失敗することはありません。
ところが生きものが相手だと、そうはいきません。寄生バチは害虫のからだを利用するので、害虫がいない温室では生きていけません。だからといって、害虫が多すぎると、農薬のかわりにはなりません。それでいつ温室に寄生バチを放すのか、そのタイミングを見きわめるのがたいへんだ、ということでした。
それでも寄生バチを使う農家はしだいに増え、その成功に続いて、「絵かき虫」とよばれるハモグリバエに寄生するハチや、悪いダニを食べるダニなど、次々に新しい天敵生物が使われるようになりました。そしてされに、環境にやさしい農業をめざして何種類もの虫たちが研究材料になりました。
クサカゲロウも、そうした「生きている農薬」のひとつです。はねのある成虫も、作物の害虫であるアブラムシを食べますが、温室からにげだすかもしれません。そこでおもに、幼虫を利用するための研究がすすんでいました。
アブラムシが農家にきらわれるのは、植物の汁を吸ったり、病気のもとになるウィルスを運んだりするからです。しかもたくさん集まって、休みなくチューチュー吸います。
そして、アブラムシのおしっこが葉っぱにつくと、光が当たりにくくなって植物の生育が悪くなります。それにそこからカビが生えることもあるので、油断できません。
アブラムシがウィルスをばらまく道具は、針のようになったくちです。病気にかかっている植物の汁を吸ったあとで別の植物の汁を吸うと、そこからウィルスが広がります。
そうしたアブラムシをやっつけてくれるクサカゲロウの卵が「うどんげの花」です。そのはたらきぶりをたしかめるのにいい機会だと思いました。……
一ぴきの幼虫が、六百ぴきものアブラムシをたいらげるのです。その計算でいくと、クサカゲロウの幼虫が百ぴきいれば、六万びきものアブラムシをやっつけてくれることになります。アブラムシも負けずに赤ちゃんを産みますが、クサカゲロウのような虫がいるので、アブラムシだらけになることはありません。クサカゲロウが「生きている農薬」とよばれるのもうなずける話です。
……[体液を吸ったアブラムシの死がいを背中にくっつけるクサカゲロウの幼虫=「ゴミザウルス」]……
本によると、クサカゲロウの幼虫はおしりから糸を出して、まゆを作るようです。カイコもそのほかのガも、チョウも、幼虫が糸を出すのはくちからです。ぼくが飼ったことのあるむしでおしりから糸を出すものはクモだけでした。……
クサカゲロウの名前の由来については、①草の色をしたはねだから、②見かけとちがって、くさい虫だから、③草によくとまっているからーという三つの説があります。そのどれも当たっていそうですが、多くの人は「くさい虫だから」という説を支持しています。
たしかに、草がくさったようなにおいを感じることがあります。でも目の前にいる成虫を見ていると、草色の美しいはねに注目してつけた名前ではないかと思いたくなるのでした。……
……クサカゲロウはまゆを破って成虫になるのではなく、さなぎの状態でまゆの外に出て、羽化したのです。そのしょうこが、まゆの外にある空っぽのさなぎでした。
チョウやガには見られない習性です。
 2.畑のドジョウ(サンショウウオ)
 3.松風をよぶ虫(スズムシ)
 4.異国の暴れんぼう(ジャンボタニシ)
 5.庭の舞姫(アゲハチョウ)
 友だちはすぐそばに
※「1.うどんげの花(クサカゲロウ)」(11~37頁)全文を読むことをお勧めします。
※「さなぎの状態でまゆの外に出て、羽化した」とは? 羽化してさなぎの皮をつけてまゆの外に出て?