『東北森林科学会雑誌』第13巻第1号16~20頁に掲載されている「ナラ枯れ被害で分かってきた事、これからする事」記録。2007年度の東北森林科学大会のセッションの記録のようです。1990年以降の日本海側の地域を中心にしたナラ枯れ被害の拡大と併行して、原因究明、防除法開発も進められ、15年経過した時点での研究の成果と課題とをまとめています。
ナラ枯れ被害の原因究明
ナラ枯れ被害の原因究明の研究過程は4区分される。第1期(1941〜1980年)ではカシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)がナラ類枯死の原因とした(熊本営林局、1941)、第2期(1981〜1993年)では、枯死木で多く確認されるナラタケ菌の関与を疑った(野淵、1993a、b)。第3期(1994〜2002年)では、ナラ菌を接種したミズナラ立木で枯死を再現でき(伊藤ら、1998a;三河ら、2001;斉藤ら、2001)、ナラ菌も同定されて、ナラ菌がナラ枯れの原因である事が明らかになった(KubonoandIto、2002)。そして.カシナガがナラ菌を樹幹内に持ち込み、カシナガはナラ菌が作る酵母を食糧としている事が明らかになった(Kinuura、2002)。第4期(2003年以降)には、カシナガの集合フェロモンも特定されケルキボロールと命名された(中島ら、2005;TokoroetaL、2007)。これまでの研究により.ナラ枯れ被害の感染環はホストがナラ類生立木、病原はナラ菌.媒介者がカシナガである事が明らかになった。
防除法の研究
第1期(1941〜1960年)にはナラ枯れの原因をカシナガと判断して.この殺虫のために枯死木を伐倒して即座に燃料として利用した。また、健全木の丸太を放置して、カシナガを寄生させ、これを燃料として利用した(熊本営林局、1941)、第2期(1990〜2000年)は、枯死立木に注入孔を開けてNCSくん蒸剤を注入処理する方法が開発され事業化された(斉藤ら、1999、2000)。第3期(2001〜2004年)は、ビニールシート被覆による健全木の予防法(小林・萩田、2003)、枯死木の伐倒・集積・天幕被覆下におけるMITC液化炭酸ガスによる駆除法(斉藤、2006)が開発され、単木的な防除法が揃ってきた。第4期(2005年以降)は、カシナガの集合フェロモンの合成に成功し、これを防除に活用する研究が進められている。また、殺菌剤の樹幹注入により健全の枯死を阻止する予防方法も完成した。現在[2008年]は、被害の定着・拡大により、単木的な防除から、面的な防除に展開する時代を迎えている。
Ⅱ.報告内容の要約 4.ナラ枯れ被害防止に関するモデル藤田和幸(森林総研東北支所)
これまでの多くの研究により、カシナガの穿孔数の低下は下記のとおり整理される。
1)当年枯れを減少させる:穿孔数と樹幹の大きさで、概ね生死が決まるので、穿孔数を減らせば、当年の枯れも減少する。
2)翌年のカシナガ発生数を減少させる:さらなる効果として、穿孔されたのに生残した木(生残木)では、枯死木と比較すると繁殖が低下する可能性が指摘されている。
3)前年まで相当数の穿孔を受けている生残木は、カシナガに再利用されない。
カシナガの捕獲数による枯死木の発生数は、大まかに捉えると、30%捕獲で被害は半減し、50%捕獲で被害はかなり少なくなるという計算になる。

5、今後のナラ枯れ防除法の展開斉藤正一(山形県森林研究研修センター)
ナラ枯れ被害の感染環は、病原菌であるナラ菌、ナラ菌を伝播するカシナガ、ホストとなるナラ類立木であり、いずれかに効果的な処理をすれば被害軽減に繋がる事が指摘されている。
現在、枯死木の駆除は、くん蒸剤を主とした薬剤処理による殺虫やチッパーによる粉砕など単木的な駆除が主として実施されている。枯死木の生育地は急傾斜の奥地もあり、全量駆除する事は困難なうえ、完全殺虫ができない処理法でもあるためTカシナガの密度抑制による被害軽減は成功していない。しかし近年になって、MITCガスくん蒸処理で100%カシナガを達成する方法も開発されており、駆除方法は一歩前進した。
また、予防方法としては、粘着剤の散布やビニールシートの巻付けが事業化されているが単木処理という短所もあり、予防は緊急性にかけるという予算上の評価から事業実施も頭打ちになっている。しかし近年、樹幹内にカシナガが持込むナラ菌の伸張抑制を薬液により可能にする研究が進み今後の事業化に向けて明るい見通しが立っている。単木的防除は地形と効果に限界があり、面的な処理が可能な方法が求められている。ナラ枯れ被害におけるホストに注目すれば、壮齢期を迎えたナラ林を被害が入る前に伐採して利用するのも手法の一つである。しかし、伐採林地に丸太を残したり伐根の伐点が高い場合はカシナガの穿入を招くので、残材処理の徹底と伐根を低くする必要がある。
カシナガは羽化後すぐに健全木に穿入するため.薬剤の空中散布は不適切である。カシナガは健全木に数個体穿入すると集合フェロモンを発してマスアタックをかける性質があり、この集合フェロモンを化学物質として合成する事に成功した(中島ら.2005;TokoroetaL、2007>。現在その誘引能力と誘引手法について検討がなされている。伝播者のカシナガを大量捕獲できる方法が確定すれば、面的なナラ枯れ防除が可能になる。
被害防除は.被害が発生している林分や立地により、手法を変えたり組合わせたりしながら対応する事が必要で、一つの方法にこだわるのはむしろ効率的でない場合がある。
Ⅲ.総括と今後の展望
ナラ枯れ被害の効果的な防除のためには、正確な被害位置を記録し、被害の拡大状況を分析して被害予測をして、ナラ類の生育状況に応じた区域的な防除計画を立てる事が大切である。そして、具体的な防除方針として初期被害の完全駆除を掲げ被害の軽減を第一にする事、カシナガの穿孔数を30%抑えれば被害は半減し、50%にすればほぼ枯れはなくなるという数値目標に応じた防除方法を適応する事が肝心である。具体的な防除方法としては、被害の進行が早い初期被害の林分や海岸林内の枯死木について単木的な駆除に力を入れ、守るべき公園や保安林については予防を確実に実施する事が大切である。また、集合フェロモンなどを利用した面的な防除法の今後の展開に注目しながら、中害以上の被害程度の林分での防除法を一日も早く完成させる必要がある。
この時点から、更に15年が経過し、南関東では爆発的にナラ枯れ被害が拡大しています。この間にどのようなことが明らかになったのでしょうか。