農作物の病害虫発生においても主因(病原菌や害虫の存在)・誘因(病害虫の発生に好適な環境)・素因(病害虫に侵されやすい作物の性質)があり、3つが重なって病虫害が発生します。
樹木医学会編『樹木医学の基礎講座』(海青社、2014年初版、20年2刷)26章ナラ枯れと樹木の健康管理(黒田慶子さん執筆)201頁に「樹木医として研鑚が必要になるのは、診断と処方(対処方法の決定)に必要なデータをどこから得るか、つまり樹木の生育環境のどこを見るべきか判断する部分であろう。」、「アカマツやナラ類などの樹木が集団で枯死すると、「環境汚染」や「地球温暖化」が原因という報道が多くなり、微生物や昆虫などの生物の関与が軽視されがちである。憶測に流されず、主因と誘因(発病を助長するような現象)を区別して説明できることも重要になる。」とあり、「樹木の健康低下につながる要因の総合関係」の図が掲載されています。この図は、「健康低下の原因:主因、誘因、複合的要因」というタイトルで、『里山に入る前に考えること-行政およびボランティア等による整備活動のために-』(森林総合研究所関西支所、2009年3月)6頁にありました。
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黒田慶子・太田祐子・佐橋憲生編『森林病理学』(朝倉書店、2020年)「2.1.3発病のトライアングル」(佐橋憲生・土佐幸雄、10~11頁)では、植物が病原体に感染して発病するためには、病原体(主因)、宿主(素因)に加え、周辺の環境(誘因)の3要素が複雑に関与し、一般には、病原体、宿主、環境の3要因すべてが発病に好適な条件い傾いた時に発病しやすいとして、発病のトライアングル(疫学の三角形モデル)の図を掲載しています。
a.病原体(主因)
関与する病原体の特性、量などが発病に大きく関わる。例えば、病原体の病原力(病気を引き起こす能力)には大きな変異がある。また、同種の病原体であっても、植物の品種や系統によって病原性を異にするレース([宿主品種に対する病原性の異なる病原菌系統])が存在する場合がある、一般に病原力がより強く、伝搬に関わる胞子などの量が豊富であれば発病しやすいといえる。
b.宿主(素因)
宿主の遺伝的背景などが発病に影響する。同種の植物でも、ある病原体に対するかかりやすさ(抵抗性/感受性)が異なっている場合がある。農作物では種々な抵抗性遺伝子を持つ品種が育種されている。樹木においても、特定の病原体に対する抵抗性を異にする個体が存在することが知られている。このような宿主植物の抵抗性/感受性は発病しやすさに直接関与する。また、宿主が水や養分の過不足など、様々な要因によって健全な生育が阻害されている場合も発病がおこりやすい。
c.環境(誘因)
日照、温度、湿度、降水など、様々な自然環境のほか、人工林や栽培圃場の管理方法など、人為によってつくり出される環境も発病に関与する。例えば、日照不足は光合成を低下させ、結果として宿主植物の防御機構が正常に働かず、抵抗性の低下を招く。また、病原体や宿主はそれぞれに最適な温度や湿度が存在する。そのため、温度や湿度はその両者に影響する。病原体には最適であるが、宿主植物には不適な温度域では発病しやすくなる。施肥なども発病に大きく影響し、例えば、過剰な窒素が供給されると発病が助長される病気、また逆に窒素欠乏で発病しやすくなる病気が存在する。

発病のトライアングル

一般には、病原体、宿主、環境の3要因すべてが発病に好適な条件に傾いた時に発病しやすい。このような関係を発病のトライアングル(または疫学の三角形モデル)と呼ぶ。……なお、この概念は生物的病原によって引き起こされる感染症に関するものであり、非生物的要因によっておこる生理障害などを対象としたものではない。[『森林病理学』(朝倉書店、2020年)10~11頁]