『日本森林学会誌』87巻5号(日本森林学会、2005年)掲載の小林正秀・上田明良「カシノナガキクイムシとその共生菌が関与するブナ科樹木の萎凋枯死-被害発生要因の解明を目指して-(下線引用者)
抄録
カシノナガキクイムシの穿入を受けたブナ科樹木が枯死する被害が各地で拡大している。本被害に関する知見を整理し、被害発生要因について論じた。枯死木から優占的に分離されるRaffacleaquercivoraが病原菌であり、カシノナガキクイムシが病原菌のベクターである。カシノナガキクイムシの穿入を受けた樹木が枯死するのは、マスアタックによって樹体内に大量に持ち込まれた病原菌が、カシノナガキクイムシの孔道構築に伴って辺材部に蔓延し、通水機能を失った変色域が拡大するためである。未交尾雄が発散する集合フェロモンによって生じるマスアタックは、カシノナガキクイムシの個体数密度が高い場合に生じやすい。カシノナガキクイムシは、繁殖容積が大きく含水率が低下しにくい大径木や繁殖を阻害する樹液流出量が少ない倒木を好み、このような好適な寄主の存在が個体数密度を上昇させている。被害実態調査の結果、大径木が多い場所で、風倒木や伐倒木の発生後に最初の被害が発生した事例が多数確認されている。これらのことから、薪炭林の放置によって大径木が広範囲で増加しており、このような状況下で風倒木や伐倒木を繁殖源として個体数密度が急上昇したカシノナガキクイムシが生立木に穿入することで被害が発生していることが示唆された
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  Ⅰ.はじめに
  II.被害の概要
   1.病徴
   2.被害樹種
   3.被害地の地形
  Ⅲ.カシノナガキクイムシ
   1.成虫の形態
   2.生活史
   3.繁殖能力
   4.野外生態
   5.マスアタックの発生機構
   6.寄主選択
  Ⅳ.カシナガキクイムシの共生菌
   1.病原菌の探索
   2.Raffaelea quercivora の性質
   3.Raffaelea quercivora の病原性の証明
   4.カシノナガキクイムシがベクターであることの証明
   5.樹木が萎凋枯死に至るメカニズム
   6.Raffaelea quercivora と他の共生菌の役割
  V.カシノナガキクイムシの繁殖成否と樹木の生死
   1.カシノナガキクイムシの繁殖阻害要因
   2.樹木の生死を分ける要因
   3.樹木の生死とカシノナガキクイムシ繁殖成功率
  Ⅵ.被害発生要因
   1.カシノナガキクイムシは一次性昆虫か二次性昆虫か?
   2.被害の発生・拡大・終息のメカニズム
   3.被害発生要因の検討
    1) ならたけ病
    2) 雪の影響
    3) 温暖化の影響
    4) 倒木の発生
    5) 樹木の大径化
    6) R.quercivora またはカシノナガキクイムシの侵入
  Ⅶ.おわりに
R.quercivoraやカシナガが侵入種であるとしても、R.quercivoraの樹体内への蔓延を助長するカシナガの個体数密度の上昇が枯死被害の前提条件になっている。カシナガの個体数密度は、薪炭林の放置によって好適な寄主となりうる大径木が広範囲で増加していることと、このような状況下で発生した倒木が繁殖源になることで急上昇する。そして、個体数密度が上昇したカシナガが生立木に穿入することで発生した最初の枯死被害は、大径林が広範囲に拡がっていることや温暖化の影響によって次々に拡大すると考えられる。
燃料革命以前に行われていた薪炭林施業の伐採サイクルは15~20年程度とされている(広木、2002)。カシナガは細い樹木では繁殖できないことから(小林・上田、2002b)、薪炭林施業が継続されていれば、現在のような激害には至らなかったはずである。本被害の多くは燃料革命以降に放置された広葉樹二次林で発生しており、本被害の発生と拡大に、燃料革命によってもたらされた樹木の大径化と温暖化が関与している疑いが濃厚である。大径木が次々に枯死するという異常事態が燃料革命と無関係でないことは、持続可能な循環型社会への移行が急務であることを示唆している。
このような事態に対して行政のなすべきこと
村上幸一郎・小林正秀「ナラ枯れ防除の理論と実際-京都市東山での事例から-(日本森林学会大会発表データベース 2007年 118 巻 B32)
このような被害に対して行政がなすべきことを列挙すると、①被害実態の把握、②情報の公開、③行政と研究とをつなぐ場の設定と役割分担の明確化、④防除方針の決定、⑤予算獲得と事業実施となる。東山国有林での対策では、①として防災ヘリの活用や現地踏査を実施した。②としてチラシ配布やメディアの活用などの積極的な情報公開を行い、地域住民による被害の早期発見が可能になった。③については、対策会議の開催やメーリングリストを活用した。また、行政者が当事者意識を持つことが重要であり、被害木が発見されるたびに研究者を呼び出すのではなく、行政者による現地調査も実施した。④として東山国有林が被害先端地であったため、重点的な防除対策を行うこととした。⑤は世論の後押し、研究者の助言、行政者や事業実施者の努力によって実現にこぎつけた。