『森林応用研究』9巻1号(応用森林学会、2000年3月)掲載の小林正秀・萩田実「ナラ類集団枯損の発生経過とカシノナガキクイムシの捕獲(下線引用者)
抄録
京都府北部の5林分で、コナラとミズナラの枯損状況を調査したところ、コナラよりミズナラの枯損率が高く、枯損率は最初の被害が発生して3年目頃に最大となった。エタノールを用いた誘引トラップでカシノナガキクイムシを捕獲したところ、捕獲数も被害発生3年目頃に最大となった。しかし、本種はエタノールにはほとんど定位しないことが、α-ピネンや誘引剤なしのトラップ及び障壁トラップとの比較で判明した。ナラ樹に粘着トラップを巻き付けて捕獲したところ、飛翔は6月上旬〜10月下旬にみられ、飛翔時間は午前5時〜11時で、飛翔高度は0.5〜2.0mに多いことがわかった。さらに、前年に穿孔を受けたナラ樹に羽化トラップを被覆して調査したところ、羽化時期は6月上旬〜10月上旬であること、枯死木からの羽化は多いが、健全木からは少ないことがわかった。また、枯死木1m^3当りの羽化数は約3万頭で、1穿孔当りでは約20頭であった。割材調査では、枯死木1m^3当りの羽化数は約5万頭で、1穿孔当りでは約13頭であった。また、すべてのトラップ調査においで性比は雄に偏っていた。
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III 結果と考察
 1.枯損状況調査
 2.誘引トラップと障壁トラップによる捕獲調査
エタノール、α一ピネン及び誘引剤なしを比較した舞鶴での結果を表一5に示す。カシナガは、雌雄ともにエタノールによる捕獲数が、α一ピネンや誘引剤なしとほぼ同数で、ここでもエタノールに積極的に誘引されることはないという結果となった。また、サクキクイムシは、誘引剤なしで最も多く、井上(1996)が報告したように、エタノールに忌避的な反応を示した。これらの結果から、上田ら(1998)の報告のように、キクイムシ科の養菌キクイムシの多くはエタノールに誘引されるが、ナガキクイムシ科は積極的には誘引されないことが判明した。
 3、粘着トラップによる捕獲調査
調査を行った6月ユ9日の調査地における日の出は午前4時44分であったことから、飛翔は、日の出直後の5時頃から始まり、午前中に終了することがわかった。これは、衣浦(1994)、吉田ら(1994)の報告と一致した。しかし、筆者は、飛翔の集中する時間帯が日によって大きく異なることをこの調査を通じて経験している。飛翔には気温と明るさが複雑に関与している可能性があり、今後詳しい解析が必要である。
 4.羽化トラップと割材による調査
 5.各トラップによる捕獲時期及び性比
粘着トラップの捕獲結果は穿孔時期を、羽化トラップの捕獲結果は羽化時期を反映していると考えられる。羽化トラップの捕獲結果から、羽化は、6月上句に始まり、7月が最盛期で、10月上旬に終了すると考えられる。また、粘着トラップの捕獲結果から、穿孔は6月上旬に始まり、10月下旬まで続くと考えられる。羽化時期の報告は多く(松本1955、谷口ら1990、佐藤ら1993、衣浦1994、牧野ら1995、浦野ら1995、井上ら1998、Sone et al.1998)、羽化開始時期は5月下句〜6月上句、最盛期は7〜8月、終了時期は10〜11月としている。
今回の結果もこれらと一致した。一方、穿孔時期については、谷口ら(1990)、衣浦ら(1994)が、羽化時期より数週間遅れるとしているが、森ら(1995)は穿孔の最盛期が、羽化の最盛期より2週間早かったとしている。
被害林では、羽化当初は少数のナラ樹のみが集中的に穿孔される傾向がある、そのために、羽化当初に穿孔の確認できた被害木のみに粘着トラップを設置した1998年宮津の調査では、穿孔の最盛期が6月上〜6月下旬で、羽化の最盛期(6月下句〜7月下旬)よりも早くなった。
そこで、1999年舞鶴の調杏では、羽化当初に穿孔されていないナラ樹にも粘着トラップを設置した結果、穿孔の最盛期と羽化の最盛期は一致した。つまり、林分全体の穿孔時期は、羽化開始直後から始まり、羽化が終了してからもしばらく続き、10月下旬に終了すると考えられる。

今同の調杳では、誘引トラップによって無被害地でも少数のカシナガが捕獲できた。また、カシナガ捕獲率と枯損率の変化が一致したことから、カシナガの増加に伴って枯損量が増加することも明らかになった。さらに、羽化トラップによって、健全木からの羽化も確認できた。これらのことから、カシナガは無被害地でも健全木の枯死部を利用して低密度で生息しており、何らかの原因で生息数が増加し、集団枯損が発生していると推察される。個体数増加には繁殖場所である枯死部の増加が関係していると考えられ、これには薪炭林施業の中止によるナラ樹の老齢化(松本1955、井上1998)、人為的な伐採(布川1993)、風倒木の発生(牧野ら1995)等が考えられる。老齢化については、今回の舞鶴と宮津の被害地においてミズナラ大径木の枯損が被害発生に先行していることを確認している。また、大江と舞鶴では被害発生前に大規模な伐採が行われている。さらに、今回の調査地ではないが、風倒したミズナラから被害が始まった例を綾部市で確認している(小林未発表)。これらのように、被害発生前に何らかの個体数増加の原因があり、これを究明することが、被害の拡大防止にとって重要であると考えられる。