『森林応用研究』25巻1号(応用森林学会、2016年2月)に掲載されている吉井 優・ 小林正秀「ナラ枯れはどのような場所で最初に発生しやすいのか?。(下線引用者)
抄録
カシノナガキクイムシが媒介して発生するナラ枯れが、1980 年代以降に拡大している。本被害が抑えられないのは、被害の発見が遅れ、被害の初期段階で対策が実施されないことが要因になっている。本被害は、最初の被害地から同心円状に拡大するが、被害地から離れた場所で突如として発生することも多い。 このような飛び火的に発生した被害は発見が遅れ、そこを起点に被害が拡大する。被害の拡大を食い止めるためには、被害地から遠く離れた場所で発生する被害が、どのような場所で発生しやすいのかを知る必要がある。そこで、京都府南部で発生したナラ枯れによる枯死木のうち、前年に発生した枯死木から6km 以上離れた場所で発生した枯死木が、どのような場所で発生しやすいのかを解析した。その結果、標高250m 未満の南西~西斜面で最初の被害が発生しやすい傾向が認められた。また、京都府南部では、外来ブナ科樹木が、周囲の樹木に比べていち早く枯れる場合が多かった。これらのことから、飛び火的な被害は、何らかの原因によって衰弱した樹木にカシナガが穿入することで発生していることが示唆された。
おわりに
本研究では、既存の被害地から遠い場所の被害を早期に発見し、被害本数が少ないうちに対処することの重要性を訴えた。また、既存の被害地から遠い場所は面積が広大であるため、衰弱木が発生しやすい場所を重点的に監視することが効率的であることを指摘した。さらに、衰弱木だけでなく、伐倒木や巻き枯し木、伐根も被害の起点になるため、これらを放置しないことも重要である。森林家必携の第 44 版には、ナラ枯れの防除法として、①老衰木・傷害木・風倒木を速やかに伐採利用すること、②伐採木は伐倒直後に林外に搬出すること、③餌木誘殺を実施することの 3 項目が挙げられている(新島、1949)。また、伐根が繁殖源になるため、できるだけ地際から伐採する必要性も指摘されている(林業試験場昆虫研究室、1953)。燃料革命以降、ブナ科樹木の利用は減ったが、衰弱木、風倒木および伐採木を放置せずに利用することが、ナラ枯れの拡大を抑えるために重要であることは、今も変わりがない。
神戸市は、被害を早期に発見することの重要性を認識し、監視体制を強化した結果、2010 年秋、既存の被害地から30km 以上も離れた六甲山で被害を発見し、徹底した対策を実施した。また、2011 年には、筆者らも協力して、神戸市内で、ナラ枯れが発生しやすい場所(外来ブナ科樹木やブナ科大径木が生育している場所)を抽出した。こうした取り組みによって、神戸市は、ナラ枯れの拡大を 5 年以上も阻止している。ナラ枯れは伝染病であるため、既存の被害地の近くで新たな被害が発生しやすいのは当然であり、そうした被害の発見は容易である。しかし、実際に重要なのは、発見が困難な飛び火的な被害を、早期に発見することである。ナラ枯れが発生した市町村は多いが、被害の拡大を阻止した市町村は少ない。この原因は、被害の発見が遅れること、また、被害が早期に発見されても、直ぐに有効な対策が実施されないためである。ナラ枯れの拡大を食い止めるためには、神戸市のように、被害が発生していない段階で監視体制を強化し、被害を早期に発見して、被害本数が少ないうちに対処することが重要である。

吉井優・小林正秀・竹内道也・ 田中和博「ナラ枯れの発生に与える地形と気象の影響(日本森林学会大会発表データベース、2013年 124 巻 C07)
抄録
ブナ科樹木萎凋病による被害の拡大を抑えるためには、被害を早期に発見して被害量が少ないうちに対応することが重要である。その際、前年の被害地から離れた場所で発生する飛び火的な被害(被害発生初期木)がどのような場所で発生しやすいかが予測できれば、被害の早期発見が容易となる。そこで、2005~2012年に京都市市街地周辺で実施されたヘリコプター調査によって把握された枯死木の位置データを基に、被害発生初期木が発生しやすい地形条件をConjoint分析で把握した。その結果、50~250mの低標高で、西~南西斜面の急傾斜地で発生しやすいことがわかった。また、公園や社叢林のような小面積での対応では、どのような樹木が被害を受けやすいかが予測できれば効率的である。そこで、2011~2012年に総合防除を実施した船岡山において、どのような場所のどのような樹木が被害を受けやすいかを同様の方法で把握した結果、明るい場所に位置する大径木が被害を受けやすいことが確認できた。この他、その年の気象条件によって被害量が増減することが指摘されており、気象条件が被害にどのように影響しているかについても検討した結果を報告する。