ナラ枯れ対策に現場で奮闘する研究者がナラ枯れの原因や対策をどのように解明していったのか。小林正秀さん達の研究を全国森林病虫獣害防除協会森林保護機関誌『森林防疫』バックナンバーから辿ってみました。(前回は小林・上田「京都府内におけるナラ類集団枯損の発生要因解析」(2001年)(2022年3月9日記事)
小林正秀・野崎愛・細井直樹・村上幸一郎「カシノナガキクイムシ穿入生存木の役割とその扱い方
『森林防疫』57巻5号 №668 2008年9月を読みました。(以下、下線は引用者)
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1.はじめに
2.穿入生存木の特徴
 1)穿入生存木の発生要因
 2)穿入生存木の発生割合
3.穿入生存木をむやみに伐倒してはいけない理由
 1)穿入生存木からの脱出数は少ない
 2)穿入生存木のみやみな伐倒は被害を助長する
 3)穿入生存木は被害の終息に寄与している
……本被害によって樹木が枯死するためには、カシナガのマスアタックを受ける必要があるが、マスアタックはカシナガの個体数が少ない場合は生じない。一方、多数のカシナガが同じ方向に同時に飛翔する可能性は低い。これらのことから、カシナガの長距離飛行だけでは、飛び火的に被害が発生する原因は説明できない。カシナガは無被害地でも捕獲されることから、各地に生息していると考えられる。また、飛び火的な被害は、カシナガの個体数の増加を助長する伐採後に発生することが多い。これらのことから、飛び火的な被害は、無被害地に生息していた少数のカシナガ、また被害地から飛来した少数のカシナガの個体数が何らかの原因によって増加することで発生していると考えられる
 伐倒駆除を実施しても、処理木からのカシナガの脱出数をゼロにすることは困難である。このため、穿入生存木を完全に除去してしまえば、伐倒駆除後に生き残ったカシナガは、穿入対象木を求めて広範囲に飛散することになる。……皆伐によって穿入対象木が完全に失われ、皆伐後に残された伐根などから脱出した多数のカシナガが広範囲に飛散したことが影響した可能性は否定できない。いずれにしても、被害地から飛散したカシナガの個体数が、飛散先で増加することで新たな被害が発生している可能性が高いことから、飛散を阻止する役割を果たす穿入生存木をむやみに伐倒すべきでない
 本被害の防除法としては、かつては、直径10㎝以上で長さ2m以上の丸太を井桁状に積み上げ、これを200~300mおきに設置してカシナガを穿入させ、脱出前に焼却する餌木誘殺法が実施されていた。本被害の防除は、火災の消火と同じで、被害発生場所の枯死本数を減らすことよりも、被害の拡大を阻止することのほうが重要である。その意味で、餌木誘殺法は、林内のカシナガの個体数を低下させるだけでなく、カシナガの飛散を阻止する効果が期待できる優れた方法である。これに対して、穿入生存木をむやみに伐倒駆除することは、被害発生場所の枯死本数を減らすことだけに主眼を置いた方法であり、被害発生場所の枯死本数は減少するかもしれないが、穿入対象木を失ったカシナガが広範囲に飛散して被害が拡大する危険性がある。
4.穿入生存木の扱い方
 1)穿入生存木の本数が多い場合
 2)穿入生存木が少ない場合
……被害発生初期林では、餌木誘殺法が有効であると考えられる。すなわち、浸水した丸太はカシナガの誘引力が強いことから、直径10㎝以上で長さ1m以上の丸太を1週間程度浸水して餌木を作成し、これをカシナガ脱出直前に穿入生存木の近くに設置すればカシナガが誘引できる。この方法では、カシナガは乾燥した丸太や多数の穿入を受けた丸太には穿入しないことから、餌木を2週間ごとに観察し、樹幹表面あたりの穿入密度が上限値である5孔/100c㎡程度に達した餌木の数だけ新たな餌木を追加すれば、より多数のカシナガが誘引できるはずである。また、カシナガは、次世代虫の一部が生まれた年の8月下旬以降に脱出する部分2化であることから、8月下旬になれば、餌木をくん蒸または焼却して餌木内のカシナガを駆除する必要がある。
5.穿入生存木の特徴を活かした新たな駆除法
 多数のカシナガによる穿入を毎年のように受ける穿入生存木が被害の終息に大きな役割を果たしていると考えられることから、このような穿入生存木を人為的に作出する防除法の開発を目指している。
……合成フェロモンを用いた大量誘殺法が検討されたが……健全木に合成フェロモンを取り付けることでカシナガのマスアタックが誘導できることが示唆された。
 合成フェロモンによる誘殺の他に、樹幹注入法も近年になって検討が進められている。……「おとり木法」……おとり木にペットボトルで作成したトラップを設置して飛来虫を捕殺する方法も検討……。……合成フェロモンや樹幹注入剤を用いなくても実施できる可能性がある。……8月以降にナラ菌を健全木に接種しても枯死しないことから、8月以降にナラ菌を健全木に接種すれば、辺材部の一部が変色した穿入生存木が作出できるはずである。この樹木の近くに浸水丸太を設置してマスアタックを誘導し、マスアタックを受けた樹木にペットボトルを利用して作成したトラップを設置すれば、多数のカシナガが捕殺できるはずである。この方法は、被害面積が広い林分では実施困難であるが、公園などの小面積の林分や被害発生初期林では有効かもしれない
6.おわりに
 穿入生存木からのカシナガの脱出数が枯死木よりも少ないことは、伐倒駆除の際に枯死木を優先する根拠にはなっても、穿入生存木を伐倒駆除しなくても被害が低減できるという根拠にはならない。しかし、穿入生存木は枯死に比べて多く、全てを伐倒駆除することは困難である。また、多数の穿入生存木を伐倒することは、景観や環境に与える影響も大きく、林内に大きなギャップが生じ、被害が助長される危険性もある。さらに、カシナガの個体数を低下させる穿入生存木を伐倒して除去してしまえば、被害の終息が遅れるだけでなく、穿入対象木を失ったカシナガが広範囲に飛散して被害が拡大する危険性もある。これらのことから穿入生存木が多い場合は、カシナガ脱出数が多い(フラス排出量が多い)穿入生存木だけを伐倒駆除すべきである。ただし、枯死木や穿入生存木が多ければ、防除事業を実施しても短期間では被害が終息しないことから、被害を早期に発見し、枯死本数が少ないうちに対策を講じることが重要である。
 穿入生存木だけの段階で被害が発見できれば、伐倒駆除、餌木誘殺法、おとり木法などを併用することで、枯死被害の発生を阻止できる可能性がある。……
※防虫網トラップ、チューブトラップ、フィルムケーストラップの図が9頁にあります。