加藤徹さんの「ナラ枯れ対策に新しいトラップを開発」はクリアファイルでナラ枯れ対策を実施しようとしている市民グループには必読です(静岡県経済産業部『新しい林業技術』№650、2019年2月)。
新しい林業技術№650(静岡県)_1

要旨
1 技術、情報の内容及び特徴
(1)ナラ枯れを予防する方法として、効率よくカシノナガキクイムシを捕獲できるトラップ(TWT)を開発しました。
(2)TWT は市販の A4 サイズのクリアファイルで簡単に作製でき、安価で設置も簡単です。
(3)設置後は見回りと水の入れ替えなどをしますが、特別な技術や道具などは必要とせず、誰にでもできる技術です。
(4)事前調査として、対象とする林分の設置しやすい木に TWT を1基ずつ仕掛け、カシノナガキクイムシがマスアタック(集中加害)する木を見つけます。
(5)マスアタックする木に対し、その幹の太さに応じて複数の TWT を設置します。
(6)これにより、大量のカシノナガキクイムシが捕獲され、TWT 設置木ではナラ枯れによる枯死を概ね防ぐことができ、林分としても被害が軽減されます。
(7)TWT 設置木でも一部のカシノナガキクイムシは穿入しますが、そのような木は抵抗力を獲得し、翌年以降枯れにくくなります。
(8)ナラ枯れが始まってから、数年~5年間、TWT による防除を続ければ、ナラ枯れは終息し、それ以降は何もする必要がなくなると考えられました。
2 技術、情報の適用効果
新しく開発したトラップを使ったナラ枯れの防除により、カシノナガキクイムシを大量に捕獲し枯死木発生を軽減しつつ、林分内のナラ枯れが終息するまで導くことができます。
3 適用範囲
静岡県内のコナラの多い森林で、ナラ枯れや穿入生存木が発生して間もない林分特に、公園や住宅地に近い森林。
4 普及上の留意点
(1)TWT は完全にナラ枯れを防ぐことはできず、時に枯れてしまうことがあります。
(2)既に被害が激化した森林では既に抵抗力のついた木の割合が多くなっていることが予想されるので、そのまま終息するのを待つ方がよいと思われます。
目次
はじめに
1 ナラ枯れとその対策
(1)ナラ枯れの仕組み
(2)静岡県のナラ枯れの現状
(3)今までに開発された防除対策
2 トラップを使ったナラ枯れ予防対策
(1)新しいトラップとその捕獲効率
(2)コナラ林における TWT 設置によるナラ枯れ防止効果
(3)被害の終息に向けて
3 TWT 活用マニュアル
(1)トラップの作成と幹への固定
(2)トラップの設置と見回り
おわりに

3 TWT 活用マニュアル
(1)トラップの作成と幹への固定
……TWT を幹に設置したあと、最後に熱圧着した部分(捕虫部分)に水を入れてカシナガを捕らえるのですが、半円形の切り欠き部分から水がこぼれてしまいます。しかし、それが降雨時の水抜き穴となって、カシナガは出さずに余分な水だけを排出するようになります。
 TWT の設置はガンタッカーまたは画鋲を用いて幹に固定します。ガンタッカーなどは、TWTの上部両端と折り目のある付近の両端の4箇所に打ちます。幹に固定したら、補助衝突板の下端と捕虫部分をホチキスで留めます。最後に、捕虫部分に水を入れたら完成です。なお、水に落ちたカシナガはしばしば水面に浮かんで、再び這い上がる可能性もあるので、水に少量の台所用洗剤を入れておきます。

(2)トラップの設置と見回り
 予防すべきナラ類が数本しかなければ、すべての木にトラップを複数設置すれば良いのですが、広い林を対象とするにはトラップを設置する木を限定する必要があります。また、カシナガを効率よく捕獲できるマスアタックする木も限定されるので、そのマスアタックする木を見つける必要があります。そのためには、事前準備としてまず設置がしやすい木に TWT を1基ずつ仕掛けます。
 なお、設置しやすい木というのは歩道や道路沿い、また園地などに立つ木です。カシナガは障害物の少ないひらけた場所を好むので、そのような人が歩きやすい場所の方が捕獲効率が良いと考えられます。そして、設置するのは、コナラやミズナラなど特にカシナガが集まりやすい木だけにします。また、胸高直径 20cm 以下の木や樹液が出た痕がある木、前年の穿入孔やフラスの痕がたくさんある木は除外します。ただし、胸高直径が 50cm を超えるような太い木は、前年の穿入孔がたくさんあっても、カシナガが大量に捕獲できる可能性があります(図8)。
 このマスアタックする木を見つけるための TWT 設置は、5月末から遅くとも6月上旬までには行います。設置後 1 週間程して TWT を見回ると、他の木よりも明らかにたくさんのカシナガが入っている TWT があるはずです。それがマスアタックを受ける木なので、それに複数の TWT を設置していきます。設置は、手の届く範囲で、幹の太さに応じて3~12 基程度とします。TWT は幹に隙間なく配置する必要はなく、それぞれ 10~20cm 程度離します。
 TWT の見回りの際は、スプーンなどで捕虫部分に入った虫を水とともに掻き出し、新たに水を入れます。なお、捕獲された虫を取り出し、その数を正確に数えたいなどという場合は、捕虫部分のみを別に作り、本体の下端部を大きく切り取り、その外側に別に作った捕虫部分をクリップで留めておくと虫の回収が容易になります。
 その後も、6月末頃までは少なくとも1週間に1回程度は見回りに行き、カシナガが多く捕獲されるようになった TWT には追加設置を行い、それ以外の TWT は捕虫部分の水の入れ替えをします。なお、マスアタックを受ける木では、カシナガが極端に多く捕獲されるようになりますが、多くの場合、それは 1 週間程度で収まってしまうので、TWT を複数設置した木で捕獲数が減ったものは、TWT を別の木に移してもよいと思われます。
 7月に入ると、カシナガの捕獲数は減ってくるので、見回りは2週間に1度程度に減らしてもいいでしょう。ただし、木によってはまだマスアタックを受けるので、捕獲数が多くなった木には TWT を追加設置します。なお、この TWT を複数設置する木ですが、これまでのところ対象とする木の 20%程度となるケースが多かったです。
 8月になるとカシナガはかなり減ってきて、マスアタックを受ける木もなくなってくるので、TWT を撤収します。
 前述のとおり、ナラ枯れは必ず終息しますが、それには数年から5年くらい掛かります。このトラップによる予防も数年は続ける必要があります。ただし、狭い範囲が対象の場合、1 年だけで概ねすべての木に抵抗力がついて、それ以降何もしなくても良くなることがあります。8 月頃に幹を見て、過去の痕跡も含め、穿入を受けていたり、樹液が出ている木がほとんどでしたら、そこでは翌年以降は予防措置が必要なくなると思われます。
おわりに
 ナラ枯れの対象となるナラ類やカシ類は、県内で最も普通な広葉樹で、里山を中心に広く分布します。しかし、ナラ枯れが起きても、我々の生活や経済活動などに関係のない場所がほとんどです。ところが、コナラなどは公園などにも結構生えています。また、別荘地のような木の多い住宅地ライフライン沿いなどにもコナラは多く生えています。
 ここで紹介した技術はそのような場所で活用していただきたいと考えています。ナラやカシ類は腐朽が早く、太い枝でも数年で落下する危険性があります。また、最近ではなかなか利用しないために大径木となった木が多く、そのような木は伐倒駆除をしようにも大変な費用がかかる上に作業の危険性もあります。
 この技術は、枯死木をなるべく少なくして、被害を終息させようとするものです。また、専門の知識や道具を持っていなくてもできるもので、ボランティアの方々などでも十分できます。広く活用していただき、健全なナラ林へ導いていただければ幸いです。[下線は引用者]