キノコの季節がやってきました。野外で発生しているヒラタケをひっくり返してみるとヒダの部分に白い粒があるものがあります。これをヒラタケ白こぶ病(ひだこぶ線虫病)といいます。ヒラタケ白こぶ病は、1978年に島根県、ほぼ同時期に中国地方、九州地方で発生が確認されました。その後、1995年までには西日本一帯、新潟県、長野県など、さらには2010年頃には関東・東北でも確認されるようになったそうです。このこぶはナミトモナガキノコバエが運ぶ線虫によって生じることが知られています。白コブ病の発生したきのこは食用には問題なく中毒することもないのですが、見た目は気持ちの良いものではないのでこぶを取り除いて食べましょう。ヒラタケが発生する直前に寒冷紗など1㎜方眼の防虫ネットでこのキノコバエの飛来を遮断することで防除できます。
 ヒラタケ白こぶ病発生サイクル

   

ヒラタケが白こぶ病に磐城蘭土紀行[いわきらんど]2020年11月12日記事)
 原発事故が起きる前は、毎年、晩秋から初冬にかけてヒラタケを採りに森へ入った。平成20(2008)年の師走は、大きくしっかりした個体がびっしり倒木に生えていた。ところが、3分の1に白い粒々ができていた。初めて見る異変だった。年末に開かれたいわきキノコ同好会の総会・懇親会では、この白い粒々の話題でもちきりだった。それが「ヒラタケ白こぶ病」だということを初めて知った。
 ヒラタケ栽培農家では前々から被害が発生し、原因が分からずにいた。いわゆる「虫こぶ」の一種だ。
 12年前の拙ブログには、「キノコバエに運ばれた線虫がヒラタケ・ウスヒラタケのひだに付着すると、ヒラタケ・ウスヒラタケは自衛のために虫こぶ(白こぶ)をつくり、線虫を食べてしまう」とある。当時、そんな見解の文献があったのだろう。今回、あらためて検索するとまったく違っていた。
 森林総合研究所九州支所が管内の実験林内で調査した文献がある。それによると、白こぶ病にかかったヒラタケには、病原センチュウのヒラタケシラコブセンチュウと、媒介昆虫であるナミトモナガキノコバエの幼虫が生息している。ヒラタケ子実体(きのこ)が崩壊すると、病原センチュウはヒラタケから脱出してキノコバエに寄生し、羽化したキノコバエによって、また健全なヒラタケに移り、白こぶ病を発生させる。
 別の文献では、1970年代の終わり、まず屋久島・福岡・鳥取で同時期に発生が確認された。その後の聞き取り調査では、1995年までに西日本一帯で、さらに2010年ごろには関東・東北でも確認されるようになった。いわきでも発生が確認されたと思ったら、すぐ北へ被害が拡大したわけだ。
 白い粒々がびっしり付いているヒラタケは、気味が悪いから手が出ない。栽培ヒラタケは当然、売り物にならなくなる。目の細かな防虫ネットをかけると効果があるそうだ。「地球温暖化」の問題は真っ先に地域の片隅にあらわれる。「地域温暖化」のゆえんだ。
※水谷和人「ヒラタケ原木栽培で発生する白こぶ病とその防除」(岐阜県森林研究所普及成果『森林研情報』80、2011年2月)
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津田格「きのことキノコバエと線虫の三者関係(『日本森林学会誌』94巻6号、2012年)
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