狭山丘陵におけるナラ枯れ被害調査と対策について」は『緑化に関する調査報告(その48)』(東京都建設局、2021年3月)に掲載されています。全9頁です。リンク切れになることがあるのでダウンロードしておくことをお勧めします。

「狭山丘陵におけるナラ枯れ被害調査と対策について」
  西武・狭山丘陵パートナーズ 維持管理部  大房直登 (西武緑化管理株式会社所属)
               自然環境保全部  舟木匡志
               レンジャー部  丹星河(特定非営利活動法人 NPO birth所属)
I.はじめに
II.ナラ枯れとカシノナガキクイムシ
 1.ナラ枯れのメカニズム
 2.カシノナガキクイムシ
  写真-1  ナラ枯れ被害木(野山北・六道山公園)樹林内で葉が萎凋している様子
  写真-2  ナラ枯れ被害木(野山北・六道山公園)萎凋している頂部が見える
  写真-3  捕獲したカシノナガキクイムシ
      左:雄成虫  右:雌成虫と胞子貯蔵器官
  写真-4(左)  マスアタックされた被害木
  写真-5(右)  切株にもマスアタックされている
III.狭山丘陵の都立公園におけるナラ枯れ被害木調査
 1.調査場所
 ナラ枯れの被害木調査は、西武・狭山丘陵パートナーズ1 指定管理者として管理運営を行っている都立公園で実施した。本稿ではその中でも、都立野山北・六道山公園で行った調査結果について記載する。
 都立野山北・六道山公園は狭山丘陵西端にあり、武蔵村山市と瑞穂町にまたがっている。開園面積は 203ha と都立公園最大の丘陵地公園である。園内は、ほぼクヌギやコナラのなどの落葉広葉樹が優先する二次林占められカシナガの被害対象となるブナ科樹木が多い植生である
 ※1 西武・狭山丘陵パートナーズ:狭山丘陵の都立公園グループ(狭山公園、野山北・六道山公園、八国山緑地、東大和公園、中藤公園)の指定管理者。構成団体は西武造園株式会社、西武緑化管理株式会社、特定 非営利活動法人 NPO  birth、特定非営利活動法人地域自然情報ネットワーク、一般社団法人防災普及協会。
 2.調査内容と結果
  (1)被害数量調査
 被害木の数量調査は令和 2 8 5 日から 8 14 園内各園路(合計 35kmを踏査て実施した。本数のカウントは全枯れ(葉が全体的に萎凋しており樹木が水分通導を完全に停止している)、半枯れ(葉が部分的に萎凋しているが水分通導はある)ラスのみ(フラスは確認できるが萎凋は見られず生存しているもの)の 3 段階で記録を行った。
 調査結果合計 413 本の被害木確認した。内訳は、全枯れ 75 本、半枯れ 179 フラスのみ 159 本であった調査以降も被害木は増加しており、合計 500 本を超える被った。……
   図-1  被害木位置図 (赤い四角は 1ha 当たり10 本以上被害が集中している地区)
   図-2 被害木と幹周の関係(野山北・六道山公園)
  (2)捕獲調査
 被害がカシナガによるものかを確認する為成虫捕獲のトラップを 2 種類仕掛け調査を行った。まず令和元年に枯れたコナラに 4 寒冷紗を幹に巻き付け脱出防止を図り捕獲をこころみた(写真-61 週間後に寒冷紗を捲り確認したところカシナガは確認できず、同じナガキクイムシ科のヨシブエナガキクイムシ(以下ヨシブエ)を多数することができた(写真-7,8さらに継続して調査を行ったが樹液に集まる昆虫たちがネットに絡みついてしまう事例が夏季にかけて多く発生た為、捕獲調査を断念した。
   写真-6  寒冷紗を巻付けた防除
   写真-7  多数のヨシブエ
   写真-8  ヨシブエナガキクイムシ
 次に静岡県開発されたクリアファイルトラップを設置し捕獲されたキクイムシの同定を行ったまずはフラスが出始めた状況の被害木を選定し8 9 日にトラップを置。翌日に捕獲を実施した。捕獲した 11 個体は全てヨシブエだったが、設置を続けるとカシナガも捕獲することができ「カシノナガキクイムシによるナラ枯れ被害であることが確認できたこのトラップは使用済のクリアファイルで作成でき、捕獲効果が期待できたがクリアファイル内の水にフラスが堆積したり、ボウフラが発生ため12 程度で交換するなどこまめな管理が必要であった。
   写真-9  トラップ材料
   写真-10  トラップ設置状況
   写真-11  捕獲状況
  (3)被害材の調査
   写真-12  穿孔が東側(左側)に集中している被害木
   写真-13  肥大している辺材(左側)
   写真-14  確認できた幼虫
   写真-15  坑道の様子
IV.都県境を越えた取り組み
 1..狭山丘陵広域連絡会の開催
 狭山丘陵は、都県境を越えた6市町にまたがる丘陵地であり、行政界を越えて一体となった保全の取り組みが課題であった。そこで西武・狭山丘陵パートナーズでは、狭山丘陵一体での保全、普及啓発を進めることを目的とし、平成 24 年度に狭山丘陵広域連絡会2 を立ち上げ、毎年連絡会を開催し、保全や活用についての情報共有や意見交換を行っている
 令和2年度の連絡会はナラ枯れをテーマとし、構成員に加え、周辺6市町にも声をかけ開催した。事前にヒアリングを行ったところ、丘陵とその周辺で 881 本(令和 2 10 月現在)もの被害が発生していることが明らかとなった。連絡会当日はその被害状況を共有した他、すでに防除を行っていた団体からラッピングによる防除やクリファイルトラップ等を紹介。被害樹木の処理を進める上での課題や、効果的な防除方法などについて情報交換を行った。
※2 狭山丘陵広域連絡会:狭山丘陵に関わる自治体、市民団体、指定管理者などと連携して、行政区をまたぐ広域の自然環境保全や地域 PR の活性化等を推進する連絡会。西武・狭山丘陵パートナーズが事務局(特定非営利活動法人 NPO  birth が運営)を務める。テーマに応じて、6市町(入間市、東大和市、所沢市、東村山市、武蔵村山市、瑞穂町)や環境省、公益財団法人トトロのふるさと基金、埼玉県狭山丘陵いきものふれあいセンター、さいたま緑の森博物館、早稲田大学所沢キャンパス湿地保全活動、埼玉県川越農林振興センターなどが参加、連携している
 2.連携したナラ枯れ対策の実施
  <他公園での連携事例>
   図-3 狭山丘陵とその周辺地域のナラ枯れ被害木の状況
   資料-1  ナラ枯れ普及啓発チラシ
V.今後の対応
 1.防除対策
 被害拡大の一般的な防止対策として、まず被害木の伐採、抜根が挙げられる。これは化脱出期である5月~6月までに伐採、抜根を行い搬出、焼却処分をする方法である。
 次にあげられる対策としては薬剤等を用いた科学的防除である。蔓延防止を図る為にはカシナガの個体密度を低下させることが有効であるため、前述したクリアファイルトラップ等による捕殺、おとり丸太に誘引剤(カシナガコール)を設置した丸太トラップ、カシナガがエサ培養する酵母菌の増殖を防ぐ殺菌剤注入、カシナガ穿孔するのを防ぐ被覆材などがあげられる。
 2.今後の計画
 今後、公園では上記の伐採抜根と資材等による対策を組み合わせ防除を行う。内がほぼ雑木林でめられる都立野山北・六道山公園では、樹林内の被害木を伐採しようとすると、車両や重機を入れるための道の整備が必要となるため、全ての被害木を伐採することは費用の増大、植生への影響を招き実施困難である。そのため、伐採対象には優先順位を付ける。優先度が高いのは、園路や施設周辺など来園者に危険を及ぼす可能性のある場所である。作業の際は、登り込み時の落下や落枝による物損等、二次被害に繋がらないよう、対象木の状況を事前に確認する。
 また、丘陵地公園である当公園には谷戸奥の水源希少種の生育場所など環境保全上重要な場所が存在する。これ保全エリアとし、ここでの対策も優先的に行う。への穿孔防止対策として、エリア内の樹木へのラッピング等被覆を実施し、物理的に穿孔防止を図る。また飛来防止対策として、おとり丸太と誘引剤を使用する。伐開(萌芽更新目的)エリア又はブナ科以外の林分を「誘引エリア」と定め、切ったコナラ材をおとり丸太とし、誘引剤を設置しておとり丸太に穿孔させ搬出処分を行う「誘引エリア」選定には、カシナガが穿孔した丸太をまとめて搬出処理するためトラッククレーンどの車両進入が可能であることが条件になる。また、カシナガは材内の含水率が 20%を下回ると生存確率が下がってしまうと言われている為、乾燥すると穿孔自体も少なくなっていく「誘引エリア」のおとり丸乾燥しすぎないよう、適度な緑陰のある位置への設置が望ましい。
 今回、都立公園のみならず狭山丘陵全域の課題として狭山丘陵広域連絡会を通じて地域の関係者と情報交換をし、対策を講じることができた。特にこの問題については周辺地域一帯の関係者と共に取り組むことに意義があると考えている。今後は来園者の安全を第一とした対処を実施し、関係者と連携しつつ狭山丘陵全域の緑豊かな自然環境を維持しながら安全、安心な公園づくりを行っていきたい。