緑化に関する調査報告(その47)』(東京都建設局、2020年3月)に掲載されている公益財団法人東京都公園協会 公園事業部技術管理課 研究開発係  阿部好淳・小松結さんの「ナラ枯れ被害対策の取組について」。東京都内においてナラ枯れが爆発的に広がり始めた時点での報告です。全6頁。リンク切れになることがあるので調査報告全体をダウンロードしておくことをお勧めします。
阿部好淳・小松結「ナラ枯れ被害対策の取組について」目次
I.はじめに
 1.ナラ枯れとは
 2. カシノナガキクイムシについて
  図1  カシナガ生活史
  写真1  カシノナガキクイムシの雄個体 小金井公園(2019年9月17日)
  写真2  カシノナガキクイムシ被害木 小金井公園(2019年8月7日)
II.被害発見・特定のプロセス
 1.被害発見のプロセス
  表1  公園別被害数(2019年10月11日現在)
  図2  令和元年ナラ枯れ状況図(区部・多摩部)(2019年10月30日現在)
 2.被害の原因究明
  (1)現場見学会の実施
  (2)トラップの設置
   写真3  現場確認状況 砧公園(2019年8月21日)
   写真4  被害状況 砧公園(2019年8月21日)
 3.被害木の処分方法
III. 課題と今後の対応について
 1.都立公園での対策
 2.情報の収集、発信
 3.類似被害の解明
IV.まとめ

3.被害木の処分方法
カシナガの被害木を伐採・処理するためには、発生材から被害を蔓延させることを防ぐために、成虫及び幼虫を確実に駆除する必要がある。確実な処分方法として、農総研からは可燃処分、燻蒸処理が確実であるとご教示いただいた。しかし一般廃棄物として可燃処分をするには23区等では30cm以下に裁断を行い、清掃工場へ持ち込む必要があるため多くの経費がかかる。また、燻蒸処理は殺虫・殺菌剤を使用するため、極力薬剤を使わず来園者への影響を最小限に留めなければいけない公園での処理は困難である。そこで、以上の課題が解消でき、適切に処理を行うことの出来る方法として、一般廃棄物として比較的安価での処分できる再資源化施設への持ち込みを東京都へ提案した。具体例を調べると、持ち込み先である再資源化施設に、23区で10mm以下粉砕、200度の殺菌を行う施設が、多摩部で発生材をチップ厚5mm以下で粉砕し、チップ、堆肥化しているという場所が見つかった。以上の処理方法について農総研から国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所に確認いただき、その処理方法で問題ないとの回答を得た。早速、東京都と情報を共有したところ、他の再資源化施設においても対応可能か調べていただけることとなった。結果、チップ厚について40mm-50mmの場合でも最終的にバイオマス燃料や製紙原料、堆肥化するものであれば問題がないこと、また東京都内の大半の再資源化施設であれば対応が可能であることがわかった。これにより、カシナガ被害による枯損木は、再資源化施設での最終処分方法を確認の上で処理できることとなり、成虫が活動を始める初春までに処理を行った。なお今回は公園の安全管理上必要な措置に留めており、完全に枯損していないものは今後経過観察を行うこととして処理を見送っている。

IV.まとめ
 今回、東京都の公園等でナラ枯れ被害がここまで広域的に発生した原因ははっきり分かっていない。林野庁の森林保護対策室の稲本氏からは以下のような見解をいただいている。
「カシナガは台風などの風に乗って拡散するほか、車や船舶、それらの荷物に付着して移動することもある。雄の出すフェロモンに誘引されて雌が飛来することがわかっているが、これに加えてどのような原因で広域的な移動が起きるのかは、はっきりわかっていない。気候変動や各年の夏の気温の高さや降水量の少なさが樹木のストレスを増やしている可能性はあるが、都内の公園の被害がそういったことによるものかどうかは、突き止められていない。
一方、カシナガは太いナラ・カシ類の樹木で大量発生するとされているが、高度成長期以降の燃料革命で炭焼きに利用されなくなったナラ・カシ材が日本各地で大径の樹木に成長していることから、カシナガの発生条件が整ってきつつあることは事実で、こうしたことが被害拡散の背景にあるものと考えている。本年度の発生が一時的なものであるか、今後増えていくのかは、専門家に伺っても何とも言えないとの見解だが、例えば、神奈川県ではここ4年間は拡大傾向が継続していること及び関東地方にはナラ・カシ類の森林や公園も多いことから、引き続き被害が拡大する可能性は十分ある。」
今後、東京都内でカシナガ被害がどこまで拡大するかは蓋を開けてみないとわからないのが実情である。カシナガ被害に伴う樹木事故を防止するとともに、二次林を代表し、景観上、生物多様性上、大切な樹木であるコナラ被害により、公園の資源が大きく損なわれないよう努めていく必要がある。公園協会として様々な状況を想定し、適切かつ迅速に対応していきたい。