鳩山アメダスの今日の日積算降水量は11.5㎜。市民の森保全クラブの活動は中止でした。
堀大才編『樹木診断調査法』(講談社、2014年4月)の第2章3節のB.ナラ枯れとそれにかかわる昆虫(松下範久)(1)キクイムシとは、(2)カシノナガキクイムシの生活史、(3)カシノナガキクイムシの配偶行動、(4)カシノナガキクイムシのマスアタックと増殖、(5)カシノナガキクイムシ成虫の分布とナラ枯れの発生地拡大、(6)カシノナガキクイムシ成長の識別法があります。
   樹木診断調査法
樹木の健康状態や危険性を的確に診断する健康診断法と,樹木の立地環境を把握するための環境調査の技法を体系的に解説。樹木が本来もつ機能を発揮させ,適正な管理へと導くための調査法専門書。
   堀大才編『樹木診断調査法』目次

はじめに 
序 章 樹木の診断調査の意義と目的
第1章 樹木の構造と生理 
 1.1 樹木の成長様式と構造
 1.2 樹木の力学的適応と樹形の意味
 1.3 樹木の病害虫・傷害に対する防御機構
 1.4 立地環境と樹木の生育
第2章 樹木の立地環境と健康状態の診断・調査法
 2.1 樹木の立地環境の調査法
 2.2 樹木形状の測定法
 2.3 樹木の健康診断・危険度診断調査法
 2.4 マツ材線虫病発生のメカニズムと診断・調査法
 2.5 樹木の腐朽病害の分類と診断・調査法
 2.6 目視による樹木の衰退度(活力度)判定と危険度判定の方法
 2.7 機械などを使った樹木の健康診断と危険度診断の方法
 2.8 根系の診断・調査法
 2.9 樹木診断書の整理と書き方

(2)カシノナガキクイムシの生活史
……カシノナガキクイムシは一夫一婦制の亜社会性昆虫である。雄が1頭の雌を配偶者として受け入れると、交尾した雌は辺材、時として心材の中に孔道(母孔)を掘り、その壁面に産卵する。孔道は材内で分岐する(図2.3- 14)。幼虫は孔道壁で増殖した酵母を食べて成長する。孵化後約2週間で幼虫は終齢に達する。幼虫は母孔から長さ約1㎝の孔を掘り、そのなかで越冬する。ナラ菌は樹体内で繁殖し、その木の中で羽化した成虫によって新しい木に伝播される(図2.3-15)。[178~179頁]
図13・14図15

(3)カシノナガキクイムシの配偶行動
 両性の成虫の左翅正中部の腹面の末端は線状の細かい突起が連続して「やすり」状を呈している。それに対応するように、腹部末節の背板には比較的大きな線状の突起がある。成虫は腹部を前後に動かして異なった音を出す。ひとつは途切れのないバズ(buzz)音であり、もうひとつは感覚を開けて発生するチャープ(chirp)音である。配偶行動にはこれらの音が利用される。まず雌は集合フェロモンに反応して、雄が穿孔している木の幹に降り立つ。雄のつくった孔に向かって歩いていくときに、雄はチャープ音を出す。穿入孔の入口を見つけてそのなかに入った雌が大顎で押すの翅梢末端を噛むと、雄は自発的に入り口のほうに後戻りする。雄の腹部が入り口からみえるようになると、雌は頭部前面を押すの翅梢末端に押し当ててバズ音を発する。この音がする間に、雄は孔から出て雌が孔に入る。雄は雌に続いて孔内に入り、異なるチャープ音を発する。その後、雌雄は孔から出て交尾を行い、再び孔内に入る。その後雌は孔道を掘り進める。雄は体を回転させながら、雌がつくる細かい木屑を孔の入り口まで運んで排出する。このとき雄は翅梢末端の突起を上手に使う。……
……交尾が終わると雌は穿入孔を材内に伸ばし、その壁面に産卵する。成長した大きな幼虫はさらに穿入孔を掘り、親の産んだ卵を運ぶ。速い時期に産卵された個体はその年の9月~11月に成虫になり、大部分の新成虫は木から脱出するが、一部は春まで木に留まる。新成虫の発生のピークは9月にみられるが、その数は少ない。[179~180頁]

(4)カシノナガキクイムシのマスアタックと増殖
 ナラ枯れにはカシノナガキクイムシのマスアタックが必要である。マスアタックは雄成虫の木への飛来と材への穿孔によってはじまる。同一樹種の種内変異がこの過程に影響を及ぼす。……太い幹の木ほど雄の飛来確率が高くなり、穿入孔の作成確率は幹の太さとともに増加するが、過去に被害を受けた場合は低下することが示されている。
 カシノナガキクイムシの穿孔によってミズナラが枯れなかった場合、翌年その樹体内の壊死変色部をこのキクイムシは利用できない。この部分ではエラグ酸やガロ酸の濃度が高くなる。このうち、エラグ酸がカシノナガキクイムシの穿孔を阻害すると考えられる。[180頁]

(5)カシノナガキクイムシ成虫の分布とナラ枯れの発生地拡大
 山の斜面のミズナラ林内にナラ枯れが発生している場合、枯死木から発生したカシノナガキクイムシ成虫は山の斜面に沿って上方に移動し、斜面上部の林縁で密度が高くなる。飛翔成虫数が増加する期間、新しい感染木は林内の枯死木から広がり、飛翔数が減少する期間には新感染木の発生場所は斜面上部の林縁に移動する。斜面上部の林縁近くでは成虫発生期を通して飛翔成虫数は多いが、成虫発生期の初期のマスアタックの後、新穿入孔数は大きく減少する。
 カシノナガキクイムシの成虫は林内のギャップや林冠の上よりも林冠の下で、地上0.5~2.5mの範囲を飛び回っている。カシノナガキクイムシの成虫は相対照度が約0.2のところに誘引されるので、成虫の林冠下の飛翔と斜面上方への飛翔が林内の光環境と成虫の走光性によって説明される。[181頁]

(6)カシノナガキクイムシ成長の識別法
表2.3-4 カシノナガキクイムシとヨシブエナガキクイムシの成虫形質と穿入孔直径の違い[182頁]
表4

この本を読んで、昨日の記事で紹介しているカシナガ君のくらし-カシナガキクイムシによるナラ枯れのメカニズム-(高槻市教育委員会、2013年7月)を読み直すことをお勧めします。カシナガの生態について理解が深まります。