平野勇さんの『国土は叫ぶだけでは強靭化できない』(古今書院、2015年)という本があります。最近、目にしたり聞いたりすることが多い強靱化、レジリエンスという言葉ですが、どのような意味合いで使われているのでしょうか。
内閣官房に「国土強靱化地域計画を策定した地方公共団体別一覧及び地域強靱化計画取組MAP」(2020年12月1日現在)があり、県内では、埼玉県、
さいたま市、
熊谷市、
春日部市、
三郷市が「国土強靱化地域計画」を策定済み、12自治体(川口市、本庄市、羽生市、鴻巣市・深谷市、戸田市、志木市、横瀬町、美里町、神川町、上里町、宮代町)が策定中(21年3月完了予定)で、東松山市を含む47自治体が策定予定です。
『国土強靱化地域計画策定ガイドライン(第7版) 基本編』(内閣官房国土強靱化推進室、2020年6月)では「強さ」と「しなやかさ」
(1)理念と基本目標基本計画においては、概ね以下の通り記載されています。
○我が国は、その国土の地理的・地形的・気象的な特性ゆえに、数多くの災害に繰り返し、さいなまれてきました。そして、規模の大きな災害であればある程に、まさに「忘れた頃」に訪れ、その都度、多くの尊い人命を失い、莫ばく大な経済的・社会的・文化的損失を被り続けてきました。しかし、災害は、それを迎え撃つ社会の在り方によって被害の状況が大きく異なります。
○大地震等の発生の度に甚大な被害を受け、その都度、長期間をかけて復旧・復興を図る、といった「事後対策」の繰り返しを避け、今一度、大規模自然災害等の様々な危機を直視して、平時から大規模自然災害等に対する備えを行うことが重要です。 ○東日本大震災から得られた教訓を踏まえれば、大規模自然災害等への備えについて、予断を持たずに最悪の事態を念頭に置き、従来の狭い意味での「防災」の範囲を超えて、まちづくり政策・産業政策も含めた総合的な対応を、いわば「国家百年の大計」の国づくり、地域づくりとして、千年の時をも見据えながら行っていくことが必要です。
○そして、この地域づくり、国づくりを通じて、危機に翻弄されることなく危機に打ち勝ち、その帰結として、地域、国の持続的な成長を実現し、次世代を担う若者たちが将来に明るい希望を持てる環境を獲得する必要があります。
○このため、いかなる災害等が発生しようとも、
① 人命の保護が最大限図られること
② 国家及び社会の重要な機能が致命的な障害を受けず維持されること
③ 国民の財産及び公共施設に係る被害の最小化④ 迅速な復旧復興を基本目標として、「強さ」と「しなやかさ」を持った安全・安心な国土・地域・経済社会の構築に向けた「国土強靱化」(ナショナル・レジリエンス)を推進するものです。 (ガイドライン5~6頁)
2)防災との違い
「国土強靱化」と「防災」は、災害への対策という点で共通しますが、以下のような違いがあります。なお、国土強靱化地域計画と地域防災計画の関係については、後述します(44頁)。
○「防災」は、基本的には、地震や洪水などの「リスク」を特定し、「そのリスクに対する対応」をとりまとめるものです。したがって、例えば、防災基本計画では、「各災害に共通する対策編」を設けつつ、「地震災害対策編」「津波災害対策編」など、リスクごとに計画が立てられています。 ○一方、国土強靱化は、リスクごとの対処対応をまとめるものではありません。それは、①あらゆるリスクを見据えつつ、②どんな事が起ころうとも最悪な事態に陥る事が避けられるような「強靱」な行政機能や地域社会、地域経済を事前につくりあげていこうとするものです。そのため、基本計画では、事前に備えるべき目標として、以下の8つを設定しています。
i 直接死を最大限防ぐ
ii 救助・救急、医療活動が迅速に行われるとともに、被災者等の健康・避難生活環境を確実に確保する
iii 必要不可欠な行政機能は確保する
iv 必要不可欠な情報通信機能・情報サービスは確保する
v 経済活動を機能不全に陥らせない
vi ライフライン、燃料供給関連施設、交通ネットワーク等の被害を最小限に留めるとともに、早期に復旧させる
vii 制御不能な複合災害・二次災害を発生させない
viii 社会・経済が迅速かつ従前より強靱な姿で復興できる条件を整備する
○つまり、基本目標に掲げた人命の保護や維持すべき重要な機能に着目し、あらゆる大規模自然災害等を想定しながら「リスクシナリオ(起きてはならない最悪の事態)」を明らかにし、最悪の事態に至らないための事前に取り組むべき施策を考えるというアプローチです。国土強靱化は、そうした最悪の事態を起こさない、(重要な機能が機能不全に陥らず迅速な復旧復興を可能とする)強靱な仕組みづくり、国づくり、地域づくりを平時から持続的に展開していこうとするものです。そして、そうした強靱化の取組の方向性・内容をとりまとめるものが、強靱化の計画です。
○さらに、国土強靱化は、土地利用のあり方や、警察・消防機能、医療機能、交通・物流機能、エネルギー供給機能、情報通信機能、ライフライン機能、行政機能等様々な重要機能のあり方をリスクマネジメントの観点から見直し、対応策を考え、施策を推進するものです。実施主体も、地域においては、地方公共団体内の関係部署・部局にとどまらず、自治会や住民、商工会議所等の経済団体や交通・物流、エネルギー、情報通信、放送、医療、ライフライン、住宅・不動産等に係る民間事業者など、広範な関係者と連携・協力しながら進めるものです。
〇このようにして、大規模自然災害時に、人命を守り、経済社会への被害が致命的にならないようにする「強さ」と、受けた被害から迅速に回復する「しなやかさ」を備えた国土、経済社会システムを平時から構築することを目指すものです。 (ガイドライン6~7頁)
SDGsの目標9と11の日本語訳では、強靱(レジリエント)
SDGsの目標9:強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図 る
SDGsの目標11:包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
放送大学では今夏、新型コロナウイルス感染問題の拡大の中で、今日の社会の危機をさまざまな角度から考えるシリーズ『危機の時代に考える』を放送していました。第13回は、奈良由美子さんの『リスク管理とレジリエンス~危機の時代を考える~』でした。リスクを小さくし、さらには危機を乗り越えるにはどうすればよいか。リスクをゼロにすることは不可能という現実があるなかで注目されているレジリエンスという概念の意義についての講義でした。レジリエンスとは「危機や逆境に対して柔軟に適応・回復する力」
番組中、山本太郎さんと山極寿一さんのお話し部分もぜひ、ご覧下さい。