国立環境研究所、海洋研究開発機構、フューチャー・アース日本ハブは10月5日、国際的な地球環境研究プログラム(GCP)で得た「世界の一酸化二窒素収支2020年版(N2O Budget 2020)」を公開しました。
研究の背景と結果と分析10月5日プレスリリースより]

 研究の背景

  一酸化二窒素(N2O)は、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの主要なものの1つです。N2Oは、二酸化炭素やメタンといった他の温室効果ガスと比べて大気中の濃度は低いですが、単位濃度あたりで温暖化をもたらす能力(地球温暖化係数)が高く重要な成分です。また、成層圏オゾン層の破壊物質でもあります。これまでの大気中のN2Oは1750年の270 ppb (十億分率、1 ppb = 0.0000001%)から2018年の331 ppbまで増加してきました。この増加傾向は今後も数十年間続き、食料、飼料、繊維、エネルギーの需要が高まり、廃棄物や産業活動による排出が増えることで2050年までに倍増する可能性があります。こうした重要性にもかかわらず、世界のN2O排出の全体像を明らかにし、また、窒素(N)投入とN2Oの排出・吸収フラックスを決定する生物地球化学的プロセスとの相互作用(つまり異なるN2O排出源と吸収・消滅源の間の動的な関係)を解明するための研究は、これまで十分ではありませんでした。

 研究結果と分析
   2020年10月8日、過去数十年間にわたり全球のN2O放出量が増加し続けていたことを示す論文がNature誌に掲載されます。この増加の主な原因は、人間活動による放出が30%程度増えたことです。全体の中では、農業における窒素肥料の使用、そして家畜からの堆肥製造といった農業活動が増加したことが排出量増加の主要因となっていました。
   経済成長が急速な国、特にブラジル、中国、インド、におけるN2O排出の増加は最も顕著で、作物生産や家畜頭数の急増に伴うものでした。
   これらの知見は、私たちの食糧生産システムにおいてN2O排出を削減することが喫緊の課題であることを強く示しています。本研究で明らかになったN2O排出の増加は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2013年に第5次評価報告書で設定した将来の排出シナリオのうち、最も悲観的なシナリオと同等かそれ以上であり、この場合、世界の平均気温は3℃をはるかに超えるほど上昇することになります。……
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:赤色(図中の1)を付けたもの)の矢印は農業部門(農業)における窒素投入からの直接的な放出を指す。オレンジ色の矢印(同じく2))は、その他の直接的な人為起源の放出を指す。紫色(同じく3))の矢印は、人為的窒素投入からの間接的な放出を示す。茶色(同じく4))の矢印は、気候変動/CO2/土地利用によって影響を受けた排出フラックスを示す。緑色の矢印は、自然起源の放出と吸収・消滅を示す。人為及び自然起源のN2O排出はボトムアップ手法による推定である。青色の矢印は地表での吸収と大気中で観測された化学反応による消滅であり、そのうち約1%が対流圏で発生している。収支の合計(排出量+吸収・消滅量)は大気中で観測された増加量と厳密に一致はしていないが、それは、それぞれの排出量は別々の手法で推定されたことや、大気観測に合うように排出推定の調整を行ってはいないからである。この不一致の大きさは、各排出と吸収・消滅量の範囲に見られるように、N2O収支全体の推定不確実性の幅に十分収まっている。N2Oの排出量と吸収・消滅量の単位はTg N yr–1である(1Tg = 1012 g)。


「世界の一酸化二窒素収支2020年版」を公開(排出の増加止まらず最悪の場合平均気温が3℃超上昇:国立環境研究所ほか 2020年10月8日発表)公益財団法人 つくば科学万博記念財団『つくばサイエンスニュース』

(国)国立環境研究所、(国)海洋研究開発機構、フューチャー・アース日本ハブは10月5日、国際的な地球環境研究プログラムで得た「世界の一酸化二窒素(N2O)収支2020年版」を公開した。N2Oの排出増加は今後も続き最悪の場合世界の平均気温が3℃を超えるほど上昇することになると警鐘を鳴らしている。

 N2Oは二酸化炭素(CO2)やメタンと同様に地球温暖化の原因になっている気体。ただ、大気中の濃度は2018年時点で約330ppb(1ppbは10億分の1)、CO2の同400ppm(1ppmは100万分の1)の1,000分の1以下と遥かに低い。

 だが、地球温暖化係数と呼ばれる単位濃度当たりの温暖化能力は高くCO2を上まわる。

 しかもN2Oは、太陽からの有害な紫外線を吸収して地上の生態系を守ってくれているオゾン層の破壊物質でもある。オゾン層があるのは遥か高空の成層圏だがN2Oは大気中を上昇して成層圏に達し光化学反応で分解される過程でオゾン層の破壊を引き起こす。

 しかし、N2Oの発生と吸収・消滅の間の収支関係を解明する研究はまだ十分に行なわれていない。

 公開した研究報告は、各国の研究者が協力して世界のN2Oの全ての発生源と吸収源を今までになく詳細に集計し分析を行ってまとめたもので、日本の国立環境研と海洋研究機構の研究者など世界44機関の研究者70人が参加しての国際共同研究として行った。

 その結果、世界のN2O排出総量の内の実に82%が農業生産起源の排出であることが明らかになったとし、食糧生産システムからのN2O排出を削減することが世界の喫緊の課題だと強調。N2O排出の増加は「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2013年に第5次評価報告書で設定した将来の排出シナリオの内、最も悲観的なシナリオと同等かそれ以上」だとし「この場合、世界の平均気温は3℃を遥か超えるほど上昇することになる」と危機的状況にあることを訴えている。

10月29日、公開フォーラム「『世界の一酸化二窒素(N2O)収支2020年版』と食料システム」がオンラインで開催され、伊藤昭彦さん(NIES 地球環境研究センター 物質循環モデリング・解析研究室長)が、「世界の一酸化二窒素(N2O)収支2020年版」概要について講演(29:59)しています。

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