緑の効果~なぜ緑が必要なのか~
身近な緑は、人々に潤いと安らぎを与え、美しい街なみを創るうえで欠かせない要素です。
また、近年では自然環境が持つ防災・減災機能やコミュニティ醸成の場の創生機能といった多様な機能を活用して持続可能なまちづくりを進める取り組み(=グリーンインフラ)も注目されており、緑に期待される効果は環境面だけでなく社会面・経済面にも広がっています。
一つ一つの施設には美しい緑を生み出し、緑のネットワークとして広げていくことが、その施設にみならず地域全体の価値向上に繋がります。
●環境改善(生物多様性の保全・ヒートアイランド現象の緩和)
●安全・防災(避難路等の安全性向上・火災の延焼防止)
●景観形成(都市の魅力向上・不動産価値の向上)
●潤いと安らぎ(自然との触れ合いの場・地域のコミュニケーションの促進)


優良な緑化計画を立てるためのポイント
〈維持管理を見据えた植栽〉
植物の生育要件には「日当たり」や「降雨量」、「風当たり」などがありますが、植物によって重視するポイントは異なります。
植物を選ぶ上で植物の生育環境も踏まえて検討すると、その後の維持管理が容易になります。
また、地域に元々ある植物の多くは、その地域の環境に合ったものです。そういった地域の緑との連続性を意識すると、まとまりのある、より保ちやすい植栽になります。
〈接道部における緑の活用〉
接道部には生け垣などの植栽を設けることで、圧迫感を抑えつつ施設と道路の間を分離することができます。ブロック塀などの人工物に比べ、安全性が高いこともメリットのひとつです。
その際、手前に低木、更にその手前に草花や芝などで緑化すると、見通しが良く、奥行きのある緑化になります。
〈緑の効果が十分に発揮される緑視率〉
国土交通省が実施した調査で、景色の中で緑が見える量(緑視率)が高まるにつれ、潤い感、安らぎ感、さわやかさなどの心理的効果が向上するということが分かりました。
緑視率は、25%以上で「緑が多い」と感じることも分かっています。 公開空地など人の目につきやすい場所を緑化する場合などは、高木などを活用し緑視率を高めることで、緑の効果が十分に発揮できます。
『埼玉県生物多様性の保全に配慮した緑化木選定基準(在来植物による緑化推進のために)』(埼玉県環境部みどり自然課、2016年3月)からの抜萃です。
1 はじめに
(1) 在来種を使用した緑化の重要性
生物の種は、将来世代に伝えなければならない人類共通の資産としてかけがえのないものですが、現在地球上で多くの動物や植物が絶滅しつつあります。このようなことから、生物多様性の保全の必要性が叫ばれ、日本を含む各国の努力により生物多様性条約が発効し、この条約の精神に基づき、生物多様性国家戦略が策定されています。
生物多様性の保全とは、野生動植物が人間の生活や生産活動の影響を受けて絶滅したり、生息範囲を狭めたり減ったりしないように、それぞれの地域に固有な様々な生物全体を保全することです。
このような考え方を受け、緑化に用いられる樹木についても地域固有の自然環境を損なわないよう配慮が必要と考えられるようになってきました。
2013年6月には、「景観三法」の公布にあたり、国会で「地域在来の植物等の活用による緑化の推進に努めること」についての付帯決議があり、在来植物活用による緑化の推進は今や国の方針となっているのです。
埼玉県においても、自然環境と調和した県土づくりを推進するため、2015年3月に生物多様性保全県戦略の第1弾として丘陵編を策定しました。
この戦略の内容は、一般県民、企業・団体、地方公共団体などの多くの人々が生物多様性保全の取組に参加し、その活動の輪を広げることにより、保全を図ろうとするものです。生物多様性保全県戦略では、天然林や里山の保全や希少種の保護、外来種対策まで様々な保全のための取組を提案していますが、家庭をはじめ、公共施設、学校、事業所で行われている「緑化」についても、在来植物を用いて進めていくことが重要と考えています。
(2) 在来種を使用した緑化を推進するために
緑化木というと、その地域で見られない珍しいものを植えた方がよいという考え方や、見栄えがよい、病虫害に強く管理しやすいなどの理由で、これまで長い間外来種や移入種が多く植えられてきました。
外来種又は移入種による緑化には、生態系に様々な問題を引き起こす可能性がありますので、使えるところには出来るだけ在来植物を使うようにしていただきたいと考えております。
そのためには、様々な立場の方々が、「在来種を使用した緑化」の必要性を理解し、出来るところから取り組んでいただくことが重要です。
今後、国や地方公共団体ばかりではなく、県内の事業体や一般家庭においても、在来種による緑化を積極的に取組んでいただくよう期待いたします。
外来種又は移入種による緑化が生態系に引き起こす問題
(ア) 緑化木の根に昆虫などの幼虫がついて移動し、本来の生息地ではない地域に生息するようになっている例があり、本来の自然の姿を攪乱することがある。
(イ) 外来種や移入種による緑地では、在来の昆虫が生活できなかったり、逆に天敵がいないことなどから外来昆虫が蔓延する危険性もある。
(ウ) 在来種であっても、他地域で生産されたものでは、遺伝的形質が異なる場合が多い。(ブナの例では、日本海側と太平洋側における積雪量の差による春季葉が開く時期の水分条件が異なることから、葉の大きさ等の遺伝的形質も異なるとされている。)
(エ) 植栽した場所だけではなく、種子が鳥や風に運ばれて自然界に定着し、今まで生育していた種を駆逐したり、交雑による遺伝的特性を変えてしまうことなどにより、固有な生態系を変質させてしまうおそれのある種類(侵入的外来種)も多い。
(3) 生物多様性の保全に配慮した緑化木選定基準の作成
在来種を使用した緑化を推進するといっても、「何が在来種かわからない」、「何をどのような所に植えるのが適当かわからない」ということもあり、在来植物の使用はなかなか進んでいません。
今回作成した基準では、実際緑化に使用されている樹木はどのようなものがあるか、埼玉県の在来樹木はどのような種類があるか、在来樹木の種類ごとの植栽に適する環境等について明らかにしています。
地域固有の生物に対する悪影響を防止しようとする「生物多様性の保全」の見地から、どのような種を選ぶことが適当かを判断する基準として作成しました。[下線引用者]
(4) 今後の課題
今後、在来種の緑化を推進していくためには、県緑化関係部局のそれぞれの事業分野で環境条件や必要な緑化木の性質等が異なるため、この基準を参考にしながら、各担当部局の事業特性を反映した「緑化指針」を作成してい
ただくことが望ましいと考えます。
2 緑化木の種類
実際緑化に使用されている主な樹木を選び、それぞれの種を、在来種、移入種、外来種・園芸種に区分し明らかにしました。
(1) 在来種
埼玉県内で自生している種とする。ほとんど緑化や植林に使われていない種も含む
希少種や分布が極めて限定される種は、なるべく除外した。
(2) 移入種
国内に自生するが埼玉県内では自生していない種、中には森林内に定着しつつある種を含む。
(3) 外来種
国内に自生していない種とする。すでに、自然生態系内に定着している種も数多く、外来種といっても、モウソウチク、マダケ、ハチク、セイヨウハコヤナギ(ポプラ)、シダレヤナギなど、人里や都市景観の重要な構成要素になっている種類も少なくない。
(4) 園芸種
品種改良が行われている種であり、原種が外来種・移入種・在来種であるかは問わない。
(5) 侵入的外来種
植栽した場所だけではなく、種子が鳥や風に運ばれて自然界に定着し、今まで生育していた種を駆逐したり、近縁の在来種との交雑により地域の個体群の遺伝的特性を変えてしまうことなどにより、固有な生態系を変質させてしまうおそれのある種類をいう。
外国から入ってきた植物だけではなく、移入種で上記のような問題を引き起こす恐れのある植物を含む。
侵入的外来種に該当する種は「侵入的外来種」と表示した。[1~3頁]
※『駐車場緑化ガイド~広げよう緑の駐車場~』(東京都環境局自然環境部計画課)
