岩殿F地区③の草刈りが終わりました。10月3日の続きの作業です。
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ここにはヒダリマキマイマイWikipedia)がいます。野島智司さんの『カタツムリの謎:日本になんと800種! コンクリートをかじって栄養補給!?』(誠文堂新光社、2015年)を読んでいます。ブログでは、「カタツムリのちょっと深い話「ヒダリマキマイマイ」」(『カレー細胞 -The Curry Cell-』2009.06.21)があります。



※ 「カタツムリの右巻きと左巻き」( その1)、(その2)、(その3)(その4)、(その5)、(その6)、(その7)、(進化結論)(カタツムリ研究者大八木昭さんの『北のフィールドノート』) 。
※「大八木昭の自然科学思想」(『北のフィールドノート』から)
 

※上島励助教授に聞く「カタツムリの多彩な世界
  (聞き手:鈴木宏明さん)(『東京大学大学院理学系研究科・理学部』サイト)
カタツムリはその愛嬌のある姿から,私たちにとって身近な生物の一つであろう。私たちが思い浮かべるカタツムリは丸くて渦を巻いた貝殻を持つだけの,一見ぱっとしない生物かも知れない。しかし,世界にはそんな私たちの想像を見事に裏切ってくれるカタツムリ達がいる。殻だけに注目しても,美術品のような美しい形状をもつもの,一度見たら忘れられないほど鮮やかな色彩をもつものさえいる。その生態や形態,著しい種分化など,カタツムリの織り成す世界は実に多彩である。今回の研究室訪問では,国内では数少ないカタツムリ専門家の一人である生物科学専攻の上島先生に,カタツムリの魅力について話を伺った。
  カタツムリとナメクジ
殻の巻きの左右 カタツムリは螺旋状に巻いた貝殻を持つ。その巻き方には上から見て,渦の中心からどちら回りに殻が成長するかによって,右巻き(Dextral)と左巻き(Sinistal)がある(図1a[略])。右巻きと左巻きのカタツムリでは,貝殻の巻き方だけでなく,体の左右がすべて反対になっている。殻の巻き方は一つの遺伝子座によって決定されており,その遺伝子の突然変異により左右が逆転することが知られている。最近の上島先生らの研究によって,逆巻きの突然変異が固定することで新しい種が分化していく過程が明らかになった(Nature, Vol. 425, 16 Oct 2003, 679)。カタツムリは,2個体が向かい合い生殖口を対面させて交尾を行うため,巻き方の同じ個体どうしでは正常に交尾ができるのに対し(図1b[略]),逆巻き個体どうしでは生殖口の位置も逆であるため交尾ができない(図1c[略])。従って,カタツムリは巻き方が同じ者同士としか交尾ができず,逆巻きの突然変異が小集団に固定すると,別の種に分化しうる。これは,たった1個の遺伝子の突然変異によって種分化が起こりうることを示した最初の報告である。
  ユニークな形状の殻を持ったカタツムリ
  カラフルなカタツムリ
  葉の上に隠れるナメクジ
カタツムリ研究の醍醐味 日本でカタツムリの研究に携わる人々は,貝殻のコレクターを中心とするアマチュア研究家が比較的多く,プロの研究者は少ないようである。生物学の一部の分野(分類学や生態学など)ではアマチュア研究家が活躍するケースが少なくない。プロとアマチュアの違いについて伺ったところ,「見かけの違いは,プロは高価な実験機器や設備を使えることであるが,プロとアマチュアの研究で本質的に違うことは,プロは学問に対する責任を負っていることである」とのことであった。研究を進める際には,楽しいことをやるだけでなく,楽しくなくても研究に必要なことも進めていく能力が,プロの研究者には必須である。また,プロとして研究をしていく上で何が大切かという質問には,「自分が一番面白いと思うことを研究することが大切だと思う。研究を進めて行く際にさまざまな壁にぶつかる時が必ず来る。そういう時に自分が本当に興味を持っている研究をやっているという自覚があれば,たいていの問題は解決しながら研究を続けていられる。僕の場合は自分の好きなことの延長線上に今の研究があるから,今の研究環境はすごく恵まれていると思う」と答えられた。上島先生は貝の収集という趣味が現在の研究の原点となっている。
カタツムリ研究の醍醐味について質問したところ,「カタツムリは移動能力が低くて地理的隔離による遺伝的分化が進みやすく,種分化が激しい。このことは進化を研究する上で絶好の研究材料である。またカタツムリの分類には,細かい特徴や形の微妙な違いを識別できる目が必要で,誰にでもできるわけではないという職人芸のような所も魅力の一つ」とのことであった。確かに,遺伝情報を基に系統樹を作ることはほとんどルーチン化されているが,どの生物種を対象にして何を調べれば良いのかという最も重要な着眼点を得るには,生物を実際に見て問題を感じ取る能力が必須である。
上島先生の研究はいわば「カタツムリとの対話」のようなものであり,カタツムリの世界が,形態においても種数においても驚くほど多様であるように,その研究の世界も深く,広がりを持つものであった。
 

 

恐竜が最も栄えたジュラ紀(NHK for School 1:07)