「残したい栃木の棚田21」に認定されている茂木町の寺山の棚田を見学しました。
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棚田の様子がよくわかる写真が『とちぎのふるさと田園風景百選』の「寺山の棚田」にあります。

茂木町で見かけた休耕田の牛除草?
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電気柵で囲まれた田んぼです。

ヤギは牛・羊に比べてグルメじゃない!?
―ところで、日本ではなぜ今急にヤギの除草作業がこんなに注目されるようになったのでしょうか?
「ひとつには耕作放棄地の問題があると思います。これを管理するために牛、ヤギ、羊を活用することが検討されました。ただ 実際に除草作業をさせてみたら、牛と羊は思ったほど雑草を食べてくれなかった。彼らはやはりどうしても、柔らかい牧草を好むのですね。これに対して、ヤギはあまりえり好みしないで食べてくれる」
―つまり、好き嫌いがない?
「ここ (学内の傾斜地) は笹も多いんですが、ヤギだとこういう固い草も好んで食べてくれます。牛だとこうはいきません。雑草を食べさせようと思って放しても、やせ細って弱るまであまり喜んで食べません。人間の方が根負けしてエサをくれるのを知っているのかも」
―うーん、そこまで牛に読まれている ……。
「それとヤギは高い所も難なく上って行きますから、傾斜地の多い日本の地形に合っているのです。ヤギは基本的に高い所が好きなんですよ。たとえば、机の下より上が好き。慣れれば人間の肩にも乗ります メスだと成ヤギでも 60キロくらいですから、たいしたことはありません。牛はその10倍以上体重がありますから、乗られたら大変ですけど ……。というわけで、牛はそう簡単には扱えません。こんな風に係留しようと思ったら、ものすごく頑丈な杭が必要になります。たぶん、大きな機械で打ち込まないとダメでしょう。ちょっとやそっとの杭なら、抜いてしまいますから」

というわけで 都市部で除草作業に使うとすれば断然、ヤギに軍配が上がる。たしかに団地の中や河川敷でいきなり牛を見かけたら、ふつうは驚く。誤って道路にでも出たら大騒ぎである (注:牛を同じように放牧する際は電気柵を使用することが多い)。
都会でヤギを飼いたい人はこれに注意すべし!
―除草作業に有効とはいえ、都会で家畜を飼うのはなかなか大変そうですね。そのためか日本でもアメリカでもヤギのレンタル事業が出てきています。ネットで調べるとヤギの草刈りはエコロジーだということでアメリカでも大変人気のようです。
「じつは時々一般の方からも相談の電話がかかってきます。家の庭でヤギを飼いたいのですが、どうしたらいいでしょうか、と」
――えっ、一般の方からですか?
「それも 普通の建て売り住宅で20坪くらいの庭に芝が生えているのでそこで飼いたい、と。 まあ 大きさは大型犬とそう変わりませんし、価格も数万円程度ですから飼って飼えないことはないんですが …… いろいろと問題はあります。一つは鳴き声。住宅密集地だとやはりご近所迷惑になります。それと、ヤギ特有の臭いも若干ある。気にならない方は気にならないんですが。それと糞尿の問題ですね。これは一頭あたり1日 1キロくらいは出ますからこの処理をどうするか、でしょうね」
――どうするのでしょう?
「もちろん自治体のゴミ収集袋に入れても持っていってはくれません。特殊ゴミ扱いになります。埋めた場合、長く飼うとなると衛生問題になる可能性が出てきます。それでも飼われますか、と聞くと諦める方が多いですね。地方など広い庭をお持ちで、そこの草をヤギが食べてもいいのなら、飼うことは不可能ではありません。ただしその場合も以下のことは注意された方がいい。ヤギは牛や豚と同じように家畜伝染病予防法の適用を受けますので、飼う際は事前に各地の家畜保健衛生所 (獣医師免許を持つ家畜防疫員がいる) に届け出る必要があります」

安部氏[玉川大学農学部安部直重教授]によれば、ヤギは1日 3キロの干し草があれば生きていけるそうだ。それを貯蔵飼料でまかなうとすれば、まずは刈っておいた雑草を干し草にして、トウモロコシの茎を細かく切って袋詰めしておく。すると発酵して腐らなくなる。要するに「サイレージ」である。
自分で作るのはとても無理だという方は農協に行けば 20~30キロ単位で牧草の干し草を販売しているので、それを購入しても良いかもしれない。1日あたりに換算するとだいたい200円くらいのエサ代で済むそうだから、これもペットよりは安い。
糞尿の問題に関して少し補足すると、雑食の鶏や豚に比べれば、草食動物であるヤギの糞はそれほど臭くない。実際にこの目と鼻で確認したが、臭いはあまりなく、見た目もコロコロしている。印象としてはウザギの糞を少し大きくした感じだ。牛も同じ草食動物のため本来は臭くないはずなのだが、こちらは量が多いのと水分を多量に含むため、どうしても臭く、見た目も汚らしくなってしまうのが難点である。
以上の点を考慮し、それでもヤギを飼われる場合はどうぞ自己責任でご判断いただきたい。

※『ヤギの科学』(朝倉書店、2014年10月)
1. ヤギの起源と品種
 1.1 ヤギの起源と飼養頭数の推移 中西良孝
 1.2 ヤギの品種と文化
  1.3.1 品種 藤田 優
  1.3.2 文化 藤田 優・中西良孝
2. 世界と日本のヤギの生産システム 塚原洋子
 2.1 多目的生産システム
 2.2 乳生産システム
 2.3 肉生産システム
 2.4 日本のヤギ生産
3. ヤギの特徴 中西良孝
 3.1 行動特性
 3.2 栄養生理
 3.3 繁殖
 3.4 病気
 3.5 除草家畜としての利用
 3.6 実験動物としての利用
4. ヤギの管理 中西良孝
 4.1 環境管理
 4.2 行動管理
 4.3 舎飼いと放牧
 4.4 一般管理と特殊管理
5. ヤギの栄養 塚原洋子・林 義明・飛岡久弥
 5.1 体成分
 5.2 消化と吸収
 5.3 代謝
 5.4 養分要求量と飼養基準
6. ヤギの飼料 今井明夫・中西良孝
 6.1 飼料の種類
 6.2 飼料の調製と貯蔵
 6.3 飼料の評価
 6.4 飼料衛生
 6.5 未利用資源の活用
7. ヤギの繁殖 名倉義夫
 7.1 雌の繁殖
 7.2 雄の繁殖
 7.3 最新技術
8.1. 乳生産 中川敏法・河原 聡・川村 修
 8.1 泌乳生理
 8.2 搾乳,離乳および乾乳
 8.3 乳成分
 8.4 乳の加工
9. 肉生産 竹之山愼一・河原 聡
 9.1 産肉生理
 9.2 肉成分
 9.3 肉の利用・加工
10. 毛・皮生産 河原 聡
 10.1 毛の利用
 10.2 皮の利用
11. ヤギの遺伝 峰澤 満
 11.1 遺伝子(型)から表現型へ
 11.2 質的形質の遺伝
 11.3 毛色の遺伝
 11.4 角の遺伝
 11.5 間性(半陰陽)
 11.6 量的形質の遺伝
 11.7 ヤギのゲノム研究と利用
12. ヤギの育種と改良
 12.1 ヤギの改良増殖目標 名倉義夫
 12.2 選抜の考え方 名倉義夫
 12.3 登録と能力審査 羽鳥和吉
13. ヤギの疾病と衛生 白戸綾子・飛岡久弥
 11.1 健康管理と疾病
 11.2 衛生対策
 13.3 放牧を前提とした衛生対策
14. ヤギ生産と環境問題 髙山耕二・中西良孝
 14.1 有畜複合農業における位置づけ
 14.2 糞尿処理
 14.3 環境問題
15. ヤギをめぐる最近の研究と課題
 15.1 ヤギの行動生態学 安江 健・中西良孝
 15.2 耕作放棄地等の植生管理 的場和弘・今井明夫
 15.3 学校教育におけるヤギ飼育とアニマルセラピー 今井明夫・安部直重
索引