6月13日にeシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)が発表したリーフレット『STOP! 原発・石炭火力を温存する新たな電力市場』の7月22日版が公開されています。「容量市場」、「非化石価値取引市場」、「ベースロード市場」など新たな電力市場制度が大手電力に有利で石炭火力を温存する所以を明らかにしていますが、別記事で扱います。。
  

太陽光発電に負ける石炭火力(文谷数重)
  (Japan In-depth 2020.07.24)
  ・経産省による石炭火力の整理は太陽光にコストで敗北した結果である。
  ・石炭火力は十余年でなくなる。ガス火力も原発もなくなる。
  ・発電関連業界は今後様相を一変する。
経済産業大臣が石炭火力発電の見直しを発表した。3日の記者会見で脱炭素社会の実現を目指すため石炭火力は2030年に向けてフェードアウトさせる旨を明言した。だが、同時に石炭火力を残存させたい希望もにじませている。まず「非効率石炭[火力発電]の早期退出」とフェードアウトの対象を限定している。そして質疑では「高効率の石炭火発」や「償却が終わりに近づいているとか終わったプラント」を残したい本音を示唆している。石炭火力は将来どの程度残るのだろうか?まずは残らない。なぜなら石炭火力の縮小決定はコスト敗北の結果だからだ。それからすれば石炭火力は遠くないうちに絶滅するのである。
  ■フェードアウトはコスト敗北の結果
   文谷1
    ①は新設火力と新設太陽光のコスト逆転(2016年)
    ②は減価償却が完了した既存火力と新設太陽光の逆転(2024年)
    ③は新設火力と再エネ+蓄電池の逆転(2026年)
    ④は既存火力と再エネ+蓄電池の逆転(2026年)

  ■石炭火力はなくなる
  ■原発も天然ガス火力もなくなる
  ■電力関連業界は一変する

  旧式だが高収益の石炭火力発電に不適格の烙印
  (東洋経済ONLINE 2020.07.27 5:50)
原子力発電所の再稼働が遅れている現在、石炭火力発電が生み出す発電量は全体の32%を占めている(2018年度実績)。今回やり玉に挙げられた旧式の石炭火力は、その約半分を占める重要な電源だ。
環境性能では劣る反面、設備が簡素であるためメンテナンスが容易で、減価償却が進んでいることもあり、「競争力では非常に優位にあった」(JERA(ジェラ)の奥田久栄常務執行役員)。つまり電力会社にとっては「非効率」ではなくむしろ「高収益」の設備だった。
それだけに、電力各社への衝撃は大きい。虎の子の資産に対して経産省から環境性能の面で“不適格”の烙印が押されたからだ。方針発表後、電力各社には投資家からの問い合わせが相次いだ。
日本ではこれまでエネルギーの制約から脱炭素化は絵空事と見なされてきた。それが今や企業のビジョンや成長戦略の柱として語られるようになってきた。日本経済団体連合会が音頭を取る形で、脱炭素化を目指す企業連合の「チャレンジ・ゼロ」が動き出したのも危機感の表れだ。脱炭素化の潮流を理解し、自らを変革できた企業だけが生き残る。[記事末結論]
  特例措置がなければ追い込まれる電力会社も
  旧式石炭火力のフェードアウト方針は2年前に決定
  温暖化対策で、はるか先を行く欧州
世界に目を転じると、日本とは違った光景が広がる。先端を走るのは欧州連合(EU)だ。エネルギー面での取り組みや、環境などに配慮したESG(環境・社会・企業統治)投資の状況を比較すると、日本より欧州のほうがはるかに踏み込んで対応していることがわかる。
2015年9月の国連SDGs(持続可能な開発目標)と、同12月の地球温暖化対策のためのパリ協定採択をきっかけに、欧州委員会は「サステイナブル金融に関するハイレベル専門家グループ」(HLEG)を設立。2018年1月のHLEG最終報告書において「タクソノミー」の導入が提言された。
タクソノミーとは、一般に「分類」を意味する。ここでは地球温暖化対策を進めるうえでの投資対象として、各産業分野における技術や製品の適格性を分類する。
今年3月にまとめられた「サステイナブル金融に関するテクニカル専門家グループ」(TEG)の最終報告書によれば、環境に優しいとされる「グリーン」に分類された投資対象に石炭火力発電は含まれていない。
  欧州委員会が明らかにした「水素戦略」

自然エネルギーが世界で急拡大、日本は後進国に 飯田哲也さんに聞く(吉田昭一郎)
  (西日本新聞 2020/7/28 11:30 更新:2020/7/29 16:18 更新)
  ●「太陽光と風力が世界のエネルギーの中心に」
  ●石炭火力を下回る発電コスト
  ●送電線接続ルール、再生エネ普及を妨げ
 飯田さんによると、日本では石炭火力発電の原価は1キロワット時当たり4円~8円程度。これに対し、最新型の太陽光は10円を切るところまで来ている。日本の再生エネが比較的高いのは、初期の高い固定単価で稼働する太陽光がまだ残っていることと、大手電力会社が新規の再生エネ事業者に求める高額な送電線接続負担金の影響もあるという。
 飯田さんたちは「日本と再生」で、再生エネの発展を妨げる壁として、その接続負担金とともに、大手電力会社の送電線運用の問題を指摘した。
 「電力会社は系統の全発電所が最大限発電していると想定して送電線の空き容量を計算するので、実際には送電線にほとんど電気が流れていないのに『空き容量はゼロ』として事実上、新規事業者を締め出し自然エネルギーの普及を妨げています。しかも送電線の使用は先着優先としており、自分のところの原発や石炭火力などの電気を優先して流す。電力量が多すぎると、『出力抑制』と称して自然エネの電気から排除して買い取らず、その補償もしない。そうした不明朗、不公正な運用を見直して、FIT(固定価格買い取り制度)法の本来の目的『自然エネの優先接続・優先給電』を実現しないと、日本の遅れは取り戻せません」
  ●送配電の分離、完全独立こそ1丁目1番地
 欧州など各国が脱炭素化へ本腰を入れる中、石炭火力になお依存し新増設計画も抱える日本への海外の批判は厳しさを増す。政府は今月3日、CO2排出量が多い旧型の石炭火力発電所114基のうち100基程度を30年までに休廃止させる方針を発表。新型の石炭火力は残し、新増設も認めるとした。
 これに対し、飯田さんは「ある意味で、フェイクまがい」と厳しい。「『114基のうち100基程度の廃止』とは大胆な決定に聞こえますが、『やっているフリ』ではないか。旧型の石炭火力は小型が多く、建設・計画中の大型石炭火力を加えれば正味の電力量は基数ほどには大きく減らず、国のエネルギー基本計画を維持したまま、2030年の化石燃料の電源構成比率56%を温存するわけですから」
 政府は同時に、再生エネ推進を掲げ送電線への優先接続など、今のルールの見直しも進めるとしている。飯田さんの提案はこうだ。
 「1丁目1番地は大手電力会社の発電と送電の分離をきちんと実行すること。電力各社は今春、法改正に伴い分社化していますが、送電会社を子会社にしたり持ち株会社の傘下に入れたりしただけ。それでは、送電会社は親会社や持ち株会社の利害に沿って送電線を運用してしまい、中立・独立からはほど遠い」
 「各地の送電会社を資本面で完全に独立させたら国内一つの公益会社に統合。北欧の国際電力市場『ノルドプール』など欧州の先進地の人材を招いて、自然エネルギーの優先接続・優先給電原則のもとで電力市場を一から設計し直し、最新のソフトウエアを導入する。そこまで踏み込まないと、送電網の運用も含めて市場運営上の透明性、公平性が担保できず、自然エネルギーは広く普及できないと思います」
石炭火力見直し エネルギー戦略、原発も逃げず議論を(松尾博文)
  (日経電子版 Nikkei Views 2020.07.29 2:00)
エネルギー政策の長期指針となる「エネルギー基本計画」は、30年度に実現する3つの政策目標を掲げる。(1)欧米に遜色ない温暖化ガス削減を実現する(2)電力コストを現状より引き下げる(3)エネルギー自給率を東日本大震災前を上回る25%程度に引き上げる――だ。
エネルギー指標を国際比較すると、日本が気候変動の対応以上に劣後する2つの数字がある。自給率と電気料金の水準だ。17年の自給率は9.6%と、経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国中(17年時点)で34位だ。東日本大震災以降、最下位のルクセンブルクに次いで下から2番目が定位置になっている。米国93%、英国68%、フランス53%、ドイツ37%などと比べて、日本は主要国の中で際だって低い。
経産省によれば、17年度の電気料金は震災前と比べて家庭用で16%、産業用で21%高い。産業用で38%高となった14年のピークから下がったとはいえ、高止まりが続く。国際エネルギー機関(IEA)によれば、16年の発電コストは米国や東南アジアの2倍、欧州連合(EU)の1.5倍だ。
低い自給率は国家安全保障の、割高な電気料金は国際競争力の観点から放置できない。エネルギーを1割も自国でまかなえず、電気料金が2倍の国に誰が投資しようとするだろうか。温暖化問題に隠れがちだが、日本は深刻な弱点を抱える。
低い自給率は化石燃料への依存度が高いことに起因する。電源の約8割を占める、石炭や液化天然ガス(LNG)、石油はほぼすべて輸入に頼る。戦前、戦後を通じて日本がエネルギー安保の呪縛に捕らわれてきた理由はここにある。自給率引き上げへ、国産エネルギーである再生エネの拡大に注力することは正しい。
ただし、石炭が担ってきたエネルギー供給の役割を、すぐに再生エネで代替できると考えるのは早計だ。日本では再生エネのコストは地理的な条件や送電網の制約などから、まだ石炭火力より高い。時間や天候で変動する再生エネの供給を平準化する技術の定着には投資と時間が必要だ。
原発は温暖化ガスを出さない脱炭素の有力手段であり、国産エネルギーに位置付けられる。安全対策費用が一定に収まる限り、既存原発を再稼働できれば化石燃料よりも発電コストは安い。エネルギー基本計画で掲げる3つの政策目標の達成には原発が必要なのだ。
しかし、様々な世論調査では、福島第1原発事故から9年が経過しても原発への不信感は根強く、必要だとする回答はむしろ下がっている。エネルギー政策の大前提である安全問題を克服できていない。
原発比率20~22%の実現には30基程度の原発が必要だが、再稼働は9基にとどまる。政府は50年に温暖化ガス排出の8割削減の目標も掲げる。この実現には、ほぼすべての火力発電が現状の形では使えない。
原発の運転を40年ですべて停止した場合、49年に国内の原発はゼロになる。運転期間を60年に延長しても50年代には数基となり、69年にはゼロになる。こうなることは早くからわかっていたはずだが、国は議論の先送りを続けてきた。
国民の不信感が強い状況で、原発に触れないのはある意味、政治の当然の選択でもある。しかし、エネルギーをめぐる環境変化は速度を上げる。これ以上、時間を空費するわけにいかない。原発を日本のエネルギー戦略にどう位置付けるのか。新増設をどうするのか。そのために国民の理解をどう得るのか。得られなければどうするのか。この議論から逃げない胆力が問われる。
小泉進次郎氏が異例のテレビ出演 石炭火力輸出厳格化に「前代未聞だ」
  (SankeiBiz 2020.07.30 01:29)
 小泉進次郎環境相は29日夜、BSフジ番組に出演した。自身が主導した石炭火力発電の輸出支援の要件厳格化について「凍り付いたエネルギー政策が解凍され始めた。(政府方針に)『(輸出)支援しないことを原則とする』と書いたのは前代未聞だ」と述べた。小泉氏のテレビ出演は、選挙番組をのぞけば極めて異例だ。
 小泉氏は、政府が石炭火力の削減に取り組む一方で、地元の神奈川県横須賀市で石炭火力発電所の新設が進められていることに関して「批判はあるが、地元のことをやめれば済むのではない。日本全体を動かす政策の変化につなげられるかに力を入れている」と強調した。
 原子力発電の推進の是非は「脱炭素社会をつくるカギは原発と国際社会で認識は共有されている。ただ、日本は原発事故を起こした。そのリスクを国民とどう議論するかだ」と言葉を濁した。
 首相への意欲を問われると、「首相が決めればできることはいっぱいある」と述べつつも「就けるかどうかは別だ。首相になるにはこの人を支えたいという仲間がいなければならない」と述べた。
  (BSフジLIVE「プライムニュース」7月29日放送 2020.07.31 19:30)