山本良一『気候危機』(岩波ブックレット1016、2020年1月)を読みました。

気候変動から気候危機へ――。スウェーデンの一五歳の少女の訴えが世界の若者を動かし、世界各地の自治体や国も次々に「気候非常事態」を宣言し始めた。平均気温上昇を一・五℃以内に抑えることは可能か。パリ協定の本格始動を機に、科学者の立場から問題の本質と最新の科学の知見を押さえつつ、我々はいま何をすべきかを説く。
同書表紙帯から
気候崩壊、文明崩壊を防ぐための時間的猶予はゼロに近づいている
スウェーデンの1少女の訴えが若者たちを動かし、世界各地に自治体や国も続々と「気候非常事態宣言」を発し始めた。
▼現在の気候危機は、人間活動が原因の温暖化ガスの大量排出が主原因であること。
▼地球温暖化により、熱波、豪雨、干ばつなどの極端気象の増加、激化が起こっていること。
▼世界の平均気温の上昇を工業化以前と比べて1.5℃未満に抑えなければならないこと。
▼早ければ2030年、遅くとも2050年までに、カーボンニュートラルな社会を実現させること。

山本良一『気候危機』目次
はじめに
 2018年8月からの1年は、世界を揺るがした1年であった。8月20日に15歳の少女グレタ・トゥンベリがスウェーデンの国会前で気候危機の根本的な解決を求めて1人でストライキを始めたことから、それは始まった。当時、各国の地方自治体の中には「気候非常事態宣言」(Climate Emergency Declaration = CED)を議決していたところもあったが、その数は限られていた。ところが、極端な気象の頻発と続々と公表される気候危機や環境危機に関する報告書に背中を押されて、気候ストライキをする若者と気候非常事態宣言をする自治体の数は爆発的に拡大していったのである。これはまさに「革命」と呼ぶに値する。
……「気候非常事態宣言」は「火事だ!」という警報に相当する。地球には脱出口はなく、人間活動起源の温暖化ガスによる地球温暖化はたとえ排出量をゼロにしても1000年は継続することを考えると、ただちに全員で排出量を削減し(消火)、すでに現れ始めている極端な気象現象に対応しなければならない。/筆者は2018年12月に”気候非常事態を宣言し、動員計画を立案せよ”という解説をまとめ、世界の気候非常事態宣言運動を日本に紹介した。……

第1章 革命前夜1――温暖化の科学と文明の持続可能性
 温暖化の科学の基本
 温暖化は人為起源の温暖化ガスによって生じる
 放射強制力
 CO2をどれくらい削減しなければならないのか
 地球温暖化国際交渉の歴史
 IPCCの1.5℃特別報告書
 近代文明の持続不可能性
 アントロポセン(Anthropocene,人新世)
 人類の生命維持システム
 ドーナツ経済の定量的検討
 科学者の人類への警告

第2章 革命前夜2――極端気象と気候変動
 2018年の気候-世界気象機関の報告書
 フューチャー・アースの10の洞察
 2019年の気候
 極端気象と気候変動-要因分析(EA)とは
 極端気象の要因分析の最近の成果
 要因分析の信頼性
 日本の極端気象に対するEA
 気候工学(ジオエンジニアリング)の可能性と問題点
 環境と気候は非常事態なのか
 科学的知見をどのように利用するか

第3章 革命勃発-気候ストライキ始まる
 グレタのダボス会議でのスピーチ[2019年1月]
 気候ストライキに対する科学者の支持表明

第4章 自治体や国家が動く――気候非常事態を宣言し動員計画を立案する
 CED[気候非常事態宣言]の歴史
 カナダにおける気候非常事態宣言
 アメリカにおける気候非常事態宣言
 オーストラリアにおける気候非常事態宣言
 英国における気候非常事態宣言
 国家の気候非常事態宣言
 気候非常事態宣言の拡大
 遅れている日本の対応
 気候非常事態宣言の最新動向
 2019年9月という画期
 グレタの"How dare you"スピーチ [2019年9月23日]
 壱岐市の気候非常事態宣言

あとがき

【資料編】
日本学術会議会長談話 「地球温暖化」への取組に関する緊急メッセージ[2019年9月19日]
1 人類生存の基礎をもたらしうる「地球温暖化」は確実に進行しています。
2 「地球温暖化」抑制のための国際・国内の連携強化を迅速に進めねばなりません。
3 「地球温暖化」抑制には人類の生存基盤としての大気保全と水・エネルギー・食料の総合的管理が必要です。
4 陸域・海洋の生態系は人類を含む生命圏維持の前提であり、生態系の保全は「地球温暖化」抑制にも重要な役割を果たしています。
5 将来世代のための新しい政治・社会システムへの変革は、早急に必要です。
気候非常事態宣言(壱岐市) [2019年9月25日]
1 気候変動の非常事態に関する市民への周知啓発に努め、全市民が、家庭生活、社会生活、産業活動において、省エネルギーの推進と併せて、Reduce(リデュース・ごみの排出抑制)、Reuse(リユース・再利用)、Recycle(リサイクル・再資源化)を徹底するとともに、消費活動におけるRefuse(リフューズ・ごみの発生回避)にも積極的に取り組むように働きかけます。特に、海洋汚染の原因となるプラスチックごみについて、4Rの徹底に取り組みます。
2 2050年までに、市内で利用するエネルギーを、化石燃料から、太陽光や風力などの地域資源に由来する再生可能エネルギーに完全移行できるよう、民間企業などとの連携した取組をさらに加速させます。
3 森林の適正な管理により、温室効果ガスの排出抑制に取り組むとともに、森林、里山、河川、海の良好な自然循環を実現します。
4 日本政府や他の地方自治体に、「気候非常事態宣言」についての連携を広く呼びかけます。
気候非常事態宣言に関する決議(鎌倉市議会)  [2019年10月4日]
1 「気候危機」が迫っている実態を全力で市民に周知する。
2 温室効果ガスのゼロエミッションを達成することを目標とする。
3 気候変動の「緩和」と「適応」、「エシカル消費」の推進策を立案、実施する。
4 各行政機関・関係諸団体等と連携した取り組みを市民とともに広げる。

※「鎌倉市、日本で2番目の気候非常事態宣言!
(環境メールニュース2019.10.09エダヒロ・ライブラリーイーズ未来共創フォーラムから)
気候非常事態宣言は、特に形式が決まっているわけではありませんが、大きく2つの部分から構成することが多いようです。
(1)気候危機の現状認識、および其の認識が科学に基づいていること
(2)自分たちの自治体が取り組むこと(3~5つぐらいが多いようです)
壱岐市や鎌倉市の例を見ていただいてもわかるように、簡潔に、現状認識+非常事態であること+自分たちの取り組みを宣言するというものです。
世界ではすでに1000を超える自治体が気候非常事態宣言を出しています。日本でも多くの自治体が気候非常事態宣言を出し、自治体としてできることを進めつつ、住民や他の自治体にも行動を呼びかける動きが拡がることを強く願っています。
「前例」がでてきたので、働きかけもしやすくなってきたと思います。このメールニュースの内容などもよかったら使っていただき、世の中の動きと他の自治体の動きを伝えて、宣言を出すよう、ぜひご自分の自治体にも働きかけてください!

「鎌倉市紀行非常事態宣言」(2020年2月7日)の表明について(鎌倉市HP)
「鎌倉市気候非常事態宣言」を表明します
気候変動に起因する異常気象により、今、地球は危機的な状況にあります。このような危機に対し、本市では、第3次総合計画第4期基本計画実施計画において、気候変動対策としての側面にも注力し、重要な5つの視点のうち2つを「レジリエンスのまち」、「環境負荷低減のまち」としています。
市は、気候変動の危機に、組織一丸となり、横断的に取り組むことを明確にし、ここに「鎌倉市気候非常事態宣言」を表明します。

  鎌倉市気候非常事態宣言(PDF:318KB) 
今、地球はかつてないほどの危機に瀕しています。
世界各地で、猛暑、干ばつ、集中豪雨や超大型台風等の異常気象による甚大な被害が発生し、私たち人類の生命を脅かしています。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、気候システムの温暖化は疑う余地がないこと、自然的要因だけでなく人間による影響が近年の温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高いこと、気候変動はすべての大陸と海洋にわたり、自然及び人間社会に影響を与えていること、温室効果ガスの継続的な排出は、更なる温暖化と気候システムの全ての要素に長期にわたる変化をもたらし、それにより、人々や生態系にとって深刻で広範囲にわたる影響を生じる可能性が高まるとされています。
この危機に対処するため、世界では「脱炭素」社会を目指した動きが加速しています。

この地球に生きるものは、誰も気候変動の影響から逃れることはできません。しかし、未来の地球のためにできることがあります。
地球の危機、人類の危機を救うことができるのは、私たち一人ひとりの行動です。

本市は、SDGs未来都市として、地球温暖化による気候変動の対策に注力して持続可能な社会を実現するため、ここに気候非常事態であることを宣言します。

1 気候危機の現状について市民や事業者と情報を共有し、協働して全力で気候変動対策に取り組みます。
2 2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにすることを目指します。
3 市民の命を守るため、気候変動の適応策として風水害対策等を強化します。

みらいの地球のために脱炭素を目指す「緩和策」と今ある危機に対応する「適応策」を進めます。
             令和2年(2020年)2月7日 鎌倉市長 松尾崇

ひとりひとりの行動で、地球の未来を守りましょう!
★シャワーはこまめに止めましょう
→シャワーは1分間に12リットルの水が流れます
★何でも流しに捨てず、水を汚さない工夫をしましょう
→食べ残しや食器に付いた食べカスなどをそのまま流すことは海や川の水質汚濁の原因になります
★省エネ運転を心がけましょう。ちょっとした気づかいが、ガソリンの節約や二酸化炭素の排出抑制につながります
→エコドライブのすすめ!
★レジ袋は受け取らず、買い物袋を持ち歩く習慣をつけましょう
→レジ袋を全く受け取らないと1年間で3.36kgのレジ袋を節約できます
★ごみの分別出しを徹底し、資源化できるようにしましょう
→ごみの分け方・出し方

本書全体の主題である「気候危機」と「気候の非常事態」についてのわたしの意見。
人間社会の持続可能性のためにも、気候変化をちいさくくいとめるためにも、人間社会の生産・消費活動を、これまであたりまえだったものから、ちがったものに変えていく必要がある。これまでの「通常」(いわゆるbusiness as usual)のままつづけてはいけないという意味で、「非常」なのかもしれない。
しかし、emergencyというのはうまくないと思う。とくに日本語表現を「緊急」とするとまずいと思う。気候変化対策は、さきのばしにしてはいけない(30年後を待たず、ことしからとりかかるべき)という意味では「緊急」と言ってもよいのだが、各個人にとって、一生あるいは一世代の時間規模でつづける必要があることであり、「緊急」の態勢をはてしなくつづけようとすると無理が生じると思うのだ。「非常」ならば、時間規模を限定することばがないので、「緊急」よりはよい。しかし、「非常事態」というと、なにかひとつの種類の危険を避けることに集中するべきでほかのことは軽視してもよい、という感覚になりがちだと思う。たとえば、感染症の緊急事態だと、プラスチックなどの使い捨てはむしろ奨励されがちだ。また、環境の緊急事態を理由として人権が弾圧されるおそれもある。気候の緊急事態として人びとの関心を集中させると、ほかの環境要素が軽視されるおそれがある。たとえば、二酸化炭素を排出しない太陽光発電をふやすために自然生態系を破壊するようなことが奨励されるおそれがある。
このように考えて、わたしは、いまの状況を「気候の非常事態」だというのはまずいと思う。「地球環境の非常事態」のほうが相対的にはよいが、これも自分では使いたくない。他方、「気候の危機(crisis)」だというのは(気候自身が危機にあるのではなく、人間社会が気候との相互作用のせいで危機におちいっているという意味がわかっていれば)使える表現だと思う。(ただし「地球温暖化」と言ってきたものごとを「気候危機」と単純に言いかえればよいというものではない。)