『東京新聞 TOKYO Web』(茨城版)2019年11月6日に「ダム建設より安価な堤防強化 旧建設省研究所元次長・石崎さん「決壊防ぐ工法、再開を」」が掲載されています。

 台風19号で注目されている水害対策について、旧建設省(現・国土交通省)土木研究所元次長で長崎大教授も務めた石崎勝義さん(81)=つくばみらい市=は、かつて国交省が取りやめた比較的安価な堤防強化の再開を訴えている。話を聞いた。 (宮本隆康)


-各地で堤防決壊が起きたのは想定外か。

驚きはない。台風が大型化していることと、強化されていない堤防が残っているためだ。


-強化された堤防と、されてない堤防があるのか。

堤防が決壊すれば、氾濫する水は格段に増える。決壊の原因の七、八割は、川の水が堤防を越える「越水」のため、越水対策を強化した堤防がある。


-巨額の整備費で批判されるスーパー堤防とは違うのか。

違う。堤防の裏のり(住宅地側のり面)は越水で容易に浸食され、決壊に直結する。30年ほど前、裏のりをシートなどで保護することなどで、越水に耐えられるようにする工法「アーマー・レビー」が開発された。シートなどを使うだけなので、費用は高くない。


-整備の進み具合は。

全国で十カ所ほど実施例がある。2000年に旧建設省から、設計指針が全国の出先機関に通知された。想定以上の雨で堤防が決壊する壊滅的な水害を防ぐ方法として「フロンティア堤防」の名称で本格的に整備され始めた。

全国の河川で計250キロの整備が計画され、実際に信濃川や那珂川など四河川の計13キロで工事をした。しかし、2年後に突然中止された。


-なぜか。

ダム建設の妨げになると思った建設省河川局OBの横やりがあった。


-それまで建設省は建設白書に五年連続で、想定以上の雨や越水への対策の必要性を明記していた。中止の理由は、白書にどう書いているのか。

急に記述がなくなり、理由は書いてない。


-4年前の鬼怒川決壊は越水が原因で、かつて想定した通りの事態だが、国交省は堤防強化を復活させなかったのか。

国交省は、天端(てんば)(堤防の上の部分)や、のり尻(裏のりの下の部分)の補強を始めた。しかし、裏のりを保護しなければ効果はほとんどない。バケツに穴が三カ所開いていて、2カ所ふさいでも水が漏れてしまうようなもの。実際に昨年の西日本豪雨で、天端とのり尻を補強した小田川の堤防が決壊した。


-西日本豪雨の後の国会では、堤防の裏のり強化について質問された。

シートをつなぐ接ぎ目に問題があるとの答弁だったが、それなら接ぎ目の問題を解消すればいい。


-国交省側は「あくまで試験的な事例」とも答弁した。

全国に設計指針を回し、5カ年計画で250キロの整備を予定した堤防が「試験的」なのか。


-もし整備する場合、費用が問題では。

既存の堤防の強化は1メートル30万~50万円で足りると思う。治水予算は年間9千億円ぐらいで、近年はさらに3千億円ほど上積みしている。ダムやスーパー堤防を後回しにすれば、数年程度で全国の堤防を耐越水化できると思う。

沈下で低くなった堤防や川幅が狭くなる場所、合流地点など、特に危険な部分の強化だけでも、大規模水害をなくせると思う。


-これほど決壊が相次いでも、大半の専門家は堤防の構造を問題視していないようだが。

他にも同じ意見の人たちはいる。ただ、OBの多くは仲間の批判をしたくないのだろう。現役官僚は、堤防強化を中止した施策に縛られているのではないか。


-「ハード対策に限界」との報道もよく見る。

これまでの堤防は越水に無力だったが、少しの手直しで耐えられるようになる。水が堤防を越えることを前提とした技術は、温暖化で豪雨や台風の大型化が普通になった今こそ、生きる。市街地をひかえる堤防区間では、すぐに堤防強化をするべきだ。


<いしざき・かつよし> 1962年に建設省入省。木曽川下流工事事務所長や土木研究所次長を歴任し、91年退官。99年から2006六年まで長崎大環境科学部教授も務めた。



越水による堤防決壊プロセス