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太田猛彦『森林飽和 国土の変貌を考える』目次

まえがき

第1章 海辺の林は何を語るか-津波と飛砂
  1 津波被害の実態
    林がそっくりなくなった
    マツも「被災者」
    倒れた木と倒れなかった木
    津波にも耐えたマツ
  2 津波を「減災」したマツ林
    マツ林には”実績”があった
    津波を弱め、遅らせる
    なぜ海岸林の再生が必要なのか
  3 なぜ海岸にはマツがあるのか
    笑顔にマツあり
    ”人工の森”をめぐる疑問
    砂浜の砂はどこから来たか

第2章 はげ山だらけの日本-「里山」の原風景
  1 日本の野山はどう姿をしていたか
    これが日本の山なのか?
    江戸の絵師が描く
    里山ブームの盲点
  2 石油以前、人は何に頼って生きていたか
    森しか資源のない社会
    理想の農村
  3 里山とは荒地である
    知られざる実態
    資源を管理する
    収穫を待ち望む
    里山生態系は荒地生態系?

第3章 森はどう破壊されたか-収奪の日本史
  1 劣化の始まり
    前史時代の森林利用
    古代の荒廃
    マツはいつ定着したか
    都の近辺で大伐採  
    領主の支配が及ぶ
    森が人里を離れる
    建築材を求めて全国へ
    里山の収奪が進む
  2 産業による荒廃の加速
    「塩木」となる
    製鉄のための炭となる
    焼き物のための燃料となる
  3 山を治めて水を治める
    3倍増した人口
    里山の疲弊
    思わぬ副作用
    山地荒廃への対策
    海岸林の発明
    なぜクロマツだったのか?
    地質によって荒れ方も変わる
    土壌とは何か
    木を植え続ける努力

第4章 なぜ緑が回復したのか-悲願と忘却
  1 荒廃が底を打つ
     劣化のピークは明治
    浚渫から堤防へ-治水3法の成立
    治山と砂防は本来ひとつである
  2 回復が緒につく
    災害の激増
    森林再生の夢
    海岸林の近代的造成とは
  3 見放される森
    エネルギーと肥料が変わった
    林業の衰退で木が育つ?
    森林は二酸化炭素を減らすのか
    劣化と回復を理解するモデル
    やがて新しき荒廃

第5章 いま何が起きているのか-森林増加の副作用
  1 土砂災害の変質
  土砂災害の呼び名いろいろ
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    なぜ崩れるのか
    表層崩壊と深層崩壊の違い
    地すべりとは何か
    土石流とは何か
  2 山崩れの絶対的減少
    かつて頻発した表層崩壊
    表面侵食が消滅した
    表層崩壊も減少、しかし消滅せず
    荒廃の時代は終わった
    流木は木が増えた証拠
  3 深層崩壊
    専門用語が定着した
    対策はあるのか
  4 水資源の減少
    森は水を貯めるのか
    流出を遅らせる力
    天然林志向を問う
    森は水を使う
    同じ雨は二度と降らない
    森を伐採して水が増える
  肝心の渇水時に水を増やさない
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    激甚災害は必ず起きる
  5 河床の低下
    砂利採取とダムの影響は?
    森の影響を見落とすな
    生態系への影響
    川はどうなるのか
  6 海岸の変貌
    海岸線の後退
    ”犯人探し”
    いくつかの「証拠」
    国土環境の危機

第6章 国土管理の新パラダイム-迫られる発想の転換
  1 ”国土”を考える背景
    国土の特徴を一文でつかむ
    プレートを読む
    気候を読む
  2 新しい森をつくる
    荒れ果てる里山
    人工林の荒廃、天然林の放置
    究極の花粉症対策とは
   森林の原理とは何か
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  里山は選んで残せ
 最後に、読者に身近な里山の将来について付言したい。往事の里山の再生がきわめて困難なことはすでに明らかであろう。人手をかけて森を徹底的に収奪しなければならないからである。割り切って、里山を稲作農耕森林社会の時代の文化財と考え、地域を限定し、森林ボランティアなどの力を借りて、”収奪”を試み、 かつての里山の姿を維持するほかない。
 近年、里山を保存しようという運動がさかんである。私も関東ローム層の台地の崖の斜面林や多摩丘陵その他の里山を保存するグループをいくつか知っている。どこでも保存活動に熱心なリーダーがいて頭が下がる。そして”間伐”が大切と考え抜き伐りなどの手入れに汗をかいている。しかし、一般の人にとって樹齢50年を超えた木を伐ることは難しく、また「もったいなくて伐る気になれない」という。しかし、かつての里山にそれほど大きな木はなかった。20年も経てば待ちかねて伐採し、利用していたのである。つまり、間伐をしても大きな木が残っているなら、 それは往事の里山の姿とはほど遠いことになる。かつての里山では、落葉や下草はおろか、灌木や高木の若芽まで刈り取っていた。だからこそ毎年春植物が咲き、清々しい里山が見られたのである。里山の保存がいかに困難であるかがわかるであろう。したがって、保存する里山を厳選し、一部に限定したうえで、昔の姿に戻し、それを維持するしかないのである。
 残りは「現代」の里山としての環境林、保健林、レクリエーション林、教育林などとして維持していくことになろう。しかしこの場合も、 管理はかなり難しい。その理由は、それぞれの目的にふさわしい森林を維持するためには、程度の差はあれ植生遷移の進行を止める”継続的な管理”が必要だからである。その管理方法に関しては多くの団体から有用な指導書が発行される時代になっている。しかし、このような使い道が見出せない場合、里山の森をどうすればよいのだろうか。
 私は最近、低炭素社会が叫ばれる中で、里山の森であっても生物多様性を保存した木材生産林として役立つ道を探るべきだと主張している。里山の森は地味も豊かで樹木の成長も早く、また道路に近いので伐採・搬出が容易である。管理次第で十分人々の好む広葉樹林同様の機能を発揮させられる 。ただしこのことを真に身に納得してもらうためには、先ほど述べた「新しい森林の原理」の中味をもう一度確認する必要があるだろう。(238~239頁)

  3 土砂管理の重要性
    異常現象にどう立ち向かうか?
    生物多様性を守るには
    山崩れを起こす
  4 海岸林の再生
    海岸林が浮き彫りにした国土の変貌
    海辺に広葉樹を植えるのか?

参考文献

あとがき