前記事に刺激されて、シイタケのライフサイクルについて書かれているものを読んでみました。先ず、森喜美男監修・日本きのこ研究所編『最新 シイタケのつくり方』(農山漁村文化協会、1992年)の第Ⅱ章上手に発生させるための基礎知識第2節シイタケの生活史(26~28頁)です。

シイタケの生活史
(1)胞子と胞子の発芽
 シイタケの一生は、キノコ(子実体)のひだの部分につくられる胞子(担子胞子)から始まる。胞子は植物でいえば花粉や胚のう、動物でいえば精子や卵子に相当し、種子ではない。胞子は、楕円桂、ゴマ粒のような形をしており、大きさは幅が3~5ミクロン、長さが6~8ミクロン(1ミクロンは1ミリの千分の1)くらいである。
 この胞子は厚い膜で覆われ、外からの刺激に保護されているから、乾燥した温度の低い場所に保存すると3ヵ月以上は生きている。しかし、70~80度の高温にあうと、4~5分で発芽力が弱くなるし、直射日光にさらされると、2~3分でほとんど発芽しなくなる。それが、適当な水分のある所に落ち、生育に適した温度が与えられると発芽して菌糸になる。
シイタケの生活環

(2)菌糸の接合
 胞子から発芽した菌糸は、ところどころ膜(隔膜という)で仕切られた細長い細胞からなり、1つの細胞に1個の細胞核をもつ。そのため、この菌糸を1核菌糸という(1次菌糸ともいう)。1核菌糸は、適当な水分と栄養と温度があれば分裂して増殖するが、通常はキノコをつくらない。キノコをつくるためには、「性」の異なった他の1核菌糸と接合、すなわち交配されなければならない。
 接合した菌糸は、両方の1核菌糸からそれぞれ核を受け取り、1細胞に2つの核をもつ状態になる。そのため、この菌糸を2核菌糸という(2次菌糸ともいう)。
 2核菌糸は細胞分裂によって増殖するが、2つの核は融合することなく特殊な方法で分裂していくので(図Ⅱ-3)、細胞と細胞の境にふくらみ(クランプコネクション、または、かすがい状突起という)ができる(図Ⅱ-3)。そのために顕微鏡で見ると、1核菌糸とは容易に区別できる。
各部呼び方・2核菌糸分裂模式図

(3)菌糸の増殖とキノコの形成
 2核菌糸は養分をとりながら増殖するが、この期間を栄養成長という。やがて、綿の繊維のようにばらばらに伸びていた菌糸は集合し、方向性をもって生育し菌糸の塊になる。これがキノコのもと(原基)である。このようにキノコになろうとして分化をはじめた菌糸を、3次菌糸とよぶこともある。そして、キノコになるために菌糸が集まってきてそれが生育し、完全なキノコの生育する期間を、栄養成長にたいして生殖成長とよぶ。
 菌糸が集まってできたキノコの原基は、適当な栄養と水分が与えられ、さらには低温刺激を受けると生育してキノコ(子実体)になる。若いキノコのひだの部分では、それまで2核のまま細胞分裂していた核は担子器の中で合体して2倍性核となる。それは、ただちに特殊な分裂(成熟分裂)を行って4個の半数性核になり、それらは1個ずつ若い胞子の中に移動する。キノコの生育にしたがって胞子も成熟し、再び胞子を飛散させるようになる。これがシイタケの一生である。

椎茸の生活と性質(宮さんのHP『あれこれ それなりクラブ』から)
(3)シイタケの一生
 笠の裏のヒダにつくられた胞子は、キノコが成熟すると飛び散り、風によって遠くまで運ばれる。シイタケはこのように、胞子によって繁殖する。木口や樹皮の割れ日に落ちた胞子は、適当な温度と湿度があると発芽して菌糸になる。
 胞子はかなり厚い膜に覆われ保護されていて、乾燥した温度の低い所に保存すると、3ヵ月以上も生きている。しかし70から80度の高温に会うと、4、5分で発芽力が弱くなる。また直射日光に曝されると、2、3分で発芽しなくなる。シイタケの胞子が風に飛ばされて適当な木に到着し、発芽して菌糸を伸ばすのはよほど運が良くなければならない。
 胞子から発芽した菌糸を顕微鏡でみると、ところどころ横に膜(隔膜)がある細長い枝分かれした管の様である。膜と膜の間が菌糸の細胞である。この細胞も高等植物と同じように、1個の核を持っている。この菌糸のことを一核菌糸という。しかし、その核は半数の染色体組しか持っていない。
 シイタケの場合、一核菌糸(一次菌糸)は、木材の中で増殖してもキノコを作らない。キノコを作るには、「性」の異なる他の一核菌糸と接合し、二核菌糸にならなければならない。この菌糸(二次菌糸)は細胞の中に、接合した両方の核を二つ持っている。
 二核菌糸は特別な分裂をする。細胞と細胞の間にふくらみ(クランプ・コネクション、またはかすがい状突起)が出来る。これにより、一核菌糸とはっきり区別することができる。
 二核菌糸は養分をとりながら増殖するが、やがて、綿の繊維のようにばらばらに伸びていた菌糸は集り方向性をもって生育する様になる。これがキノコのもと(原基)になるのである。このようにキノコになろうとして分化をはじめた菌糸を、三次菌糸と呼ぶこともある。
 キノコの原基は適当な条件があたえられると、生育してキノコになる。若いキノコのヒダでは、それまで二核のまま分裂した核は担子器の中で合体して二倍体核になり、すぐ特殊の分裂を2回繰り返し(成熟分裂)、4個の半数性の核を作る。
 それらは1つずつ若い胞子の中を移動して、キノコが生育するにつれて胞子も成熟し、飛び散るようになるのである。
椎茸の生活と性質

(4)シイタケの性
 草や木は雄ずいの花粉が雌ずいの柱頭について受精が行なわれる。これは有性生殖というが、シイタケも性の異なる一核菌糸が接合しなければ、キノコが出来る二核菌糸にならない、動物や高等植物の様に有性生殖をしているのである。
 一核菌糸すなわち胞子の性はどの様にして決まるのであろうか。1個のシイタケから沢山の胞子を取り、寒天培地に蒔くと2、3日で発芽する。これを単胞子分離といっている。
発芽した胞子を顕微鏡を使って、1個ずつ試験管の寒天培地に移す。これを単胞子分離と言っている。発芽した胞子は生育を続けて一核菌糸になる。
 一核菌糸のいくつかを、一対ずつの組になるよう組合せて一本の試験管に接種する。これは柱頭に花粉をつけてやるのと同じ交配である。しかし、組合せによってクランプ・コネクションが出来るものと、出来ない物がある。クランプ・ヨネクションは接合が行なわれ二核菌糸になったことを示している。
 このようにして調べてみると、一核菌糸を4つのグループに分けることが出来る。接合が行われるのは一定のグループ間だけである。
つまり1個のシイタケにつくられる胞子はAとBの二つの「性因子(不和合性因子とをもち、AB2つの因子の組合せによって4つのグループに分けられる。接合はAB二因子が異なるグループ間で起きるのである。この関係を「四極性」とよんで、シイタケでは昭和10年[1935年]に西門義一博士によって発見されたものである。
 ところが、系統の違ったシイタケから得た一核菌糸間で交配を行なうと、どの組合せもみな二核菌糸になる。系統の違うシイタケからの一核菌糸では、ABの性因子も違っているからである。
これらの発見によって、シイタケも農作物や草花と同じように、品種間の交配によって品種改良が出来るようになり、優良品種を種菌として原木に植える人工栽培が全国的に普及した。

キノコの話(井上均さんのHP『私編 雑科学ノート』から)
キノコの生活環
(1)胞子→(2)胞子の発芽→(3)菌糸の成長→(4)別種の菌糸と遭遇→(5)菌糸の接合→(6)2核細胞の成長→(7)キノコの形成→(8)胞子の基になる細胞の形成→(9)2つの核の融合→(10)減数分裂→(11)胞子の形成

キノコの生活環

 それでは、赤丸の番号順に見て行きましょう。
(1)胞子:まずはこれです。種類によって大きさや形はいろいろですが、だいたい5~10μm前後のものが多いようです。

(2)胞子の発芽:胞子から菌糸が伸びます。菌糸は細長い細胞が一列につながって糸状になったものです。

(3)菌糸の成長:菌糸の細胞が分裂を繰り返して大きな集団を作りますが、実はこれには性別があります。見た目には区別はつきませんが遺伝子レベルでは違っており、普通の動植物と同じようなオス、メス2種類のものや、4種類の性別を持っているものなどがあります。細胞分裂を繰り返してできた塊は、もちろん同じ性別です。

(4)別種の菌糸と遭遇:ある程度成長した段階で違う性別の菌糸が出会うと、そこで接合が起こります(4種類の性別を持つものでは、組み合わせによっては接合できないこともあります)。

(5)菌糸の接合:2種類の菌糸が接合すると、核を2個持った新しい細胞ができます。2核細胞です。核が2個あると聞くと妙な感じがするかもしれませんが、それは普通の動植物の感覚での話。細胞間の仕切り(隔壁)に孔が開いていて中身が移動したり、そもそも隔壁すらない多核体があったりする菌類の世界ですから、核が2個あるくらいは、別に不思議でもなんでもありません。

(6)2核細胞の成長:今度は接合でできた2核細胞が普通に分裂して、どんどん増殖して行きます。

(7)キノコの形成:2核細胞の菌糸が大きく成長し、やがてキノコ(子実体)を作ります。ですから、キノコの体は2核細胞でできていることになります。シイタケの裏側のヒダも、サルノコシカケの硬い殻も、全て2核細胞から成る菌糸が集まって作られたものなのです。

(8)胞子の基になる細胞の形成:キノコの特定の部分に、胞子を作る器官が準備され始めます。子嚢菌ならば子嚢、担子菌ならば担子器の原型です。ここに胞子の基になる細胞ができるのですが、当然ながらこの細胞も初めは2つの核を持っています。

(9)2つの核の融合:ずっとペアで来た2つの核が、ここで遂に一つになります。核の融合です。この段階で2種類の遺伝子が初めて本格的に混じり合うのです。

(10)減数分裂:いよいよ胞子を作る準備が整いました。融合した核を持つ細胞が分裂します。
 ここで、生物の時間に習った細胞分裂の話を思い出してください。普通の細胞分裂(体細胞分裂)では、遺伝情報を持った染色体がそっくりそのまま複製されて、新しくできた2個の細胞に分配されます。元と全く同じ細胞が2個できるのです。ところが精子や卵子などの生殖細胞ができる時には染色体が複製されませんから、染色体の数が半分の細胞ができます。これが減数分裂です(厳密に言うと、減数分裂では2回の分裂が連続して起こり、そのうちの1回で染色体の複製が起こりません。その結果、減数分裂を終えると、半数の染色体を持った生殖細胞が4個できます)。この半数の染色体を持った生殖細胞どうしが受精によって一つになって、また元の数の染色体を持った普通の細胞が作られるのです。
 それではキノコの場合はどうかと言うと、実は元の胞子や菌糸の時代が染色体数が半分の状態、と考えられます。普通の動植物では、染色体数が半分になるのは生殖細胞の間だけですが、キノコの場合は、その一世代の大部分を、染色体数が半分の状態で過ごすのです。(5)~(8)の間は核が2個ですから、染色体の数だけは足りていますが、やはり本来の状態ではありません。核が融合する(9)の段階になって初めて本来の(と言っても、どっちが本来の姿なのかよくわかりませんが)数の染色体を持つ核ができることになるのです。ところがこれがすぐに減数分裂してしまいますから、染色体数はまた半分に戻ります。このようにキノコの世界では、染色体がフルに揃うのは、核が融合してから減数分裂するまでのほんのわずかの間だけなのです。(この点ではコケ類とよく似ていますね)

(11)胞子の形成:減数分裂で作られた染色体数が半分の細胞が、やがて胞子になります。この胞子の染色体には、(5)で接合した2種類の菌糸からの染色体、つまり遺伝子が混ざっており、オス、メスの区別もあります。途中の過程は違いますが、普通の動植物の有性生殖と同じような結果になるわけです。

 以上が有性生殖の典型的なパターンですが、この他に、同じ細胞を胞子として切り離してどんどん増えて行く無性生殖もあります。先に出て来た不完全菌などは専ら無性生殖ですし、子嚢菌などでも、状況に応じて両方を使い分ける種類が多く見られます。ただし、人目を引くような大きなキノコを作る場合は、ほとんどが図5のような増え方をすると思ってよいでしょう。
※きのこのライフサイクル(東京地裁民事29部「育成者権侵害差止等請求事件」裁判資料から)
きのこのライフサイクル
キノコのライフサイクル1
きのこのライフサイクルは、図に示されるように、「生殖生長世代」と「栄養生長世代」とからなる。
「生殖生長世代」は、「担子菌」から「核融合」、「減数分裂1回目」、「減数分裂2回目」、「胞子形成」、「成熟子実体」に至るサイクルであり、「栄養生長世代」は、「胞子」から「胞子発芽」、「1次菌糸」、「接合:交配」、「クランプ形成」、「2次菌糸」、「菌糸集合体」、「原基形成」、「子実体」に至るサイクルである。

ナメコ栽培の問題点
ナメコでは2核菌糸が1核菌糸に戻る「脱2核化」現象がある。
キノコのライフサイクル2