12月8日に見学したエコプロ2018国土交通省国土技術政策総合研究所(NILIM)のブースで入手した『国総研レポート2018』に河川研究部長・天野邦彦さんの「河川環境の整備と保全のこれから」が掲載されていて、1997年に河川法が改正されて20年が過ぎ、2017年6月に河川法改正20年 多自然川づくり推進委員会提言持続性ある実践的多自然川づくりに向けてがとりまとめられたことを知り,、『提言』を国交省HPからダウンロードして読んでみました。

天野邦彦「河川環境の整備と保全のこれから」
1.はじめに
河川法の改正で「河川環境の整備と保全」が追加される(1997年)。
河川法改正20年 多自然川づくり推進委員会の提言「持続性ある実践的多自然川づくりに向けて」がとりまとめられる(2017年6月)。

2.多自然川づくり
・1990年、多自然型川づくりが始まる
・2006年、「多自然川づくり基本指針」通知
「多自然川づくり」は、「河川全体の自然の営みを視野に入れ、地域の暮らしや歴史・文化との調和にも配慮し、河川が本来有している生物の生息・生育・繁殖環境及び多様な河川景観を保全・創出するために、河川管理を行うこと」と定義。
・今回の「提言」では、多自然川づくりの5課題と対応方針を提示
 ①河川環境の目標設定
 ②具体的技術と調査から維持管理までの取り組み過程
 ③人材育成と普及啓発
 ④持続可能な多自然川づくり
 ⑤日本の河川環境の将来像の想定
提言に示された課題への対応方針は、多自然川づくりを進める上での、具体的な手法を提示するというよりは、大きな方向性を示す形をとっている。このような形をとっていることが、多自然川づくり、ひいては河川環境の整備と保全を考える上での難しさを示している。

3.河川環境の整備と保全のこれから
(1)河川環境は流域の空間スケールと長期の時間スケールでも見る
河川環境の整備・保全を検討する際には、河川のみでなく周辺環境も含めて適切な時空間スケールで状況を評価し、河川環境変化の駆動力をしっかりと見極めた上で整備・保全の実施へとつなげる必要がある。
(2)多元的な河川環境評価に向けたデータ利用
河川環境の評価を試みる場合、比較的指標化しやすい物理的環境要素だけでも、河道形状、流況、水質、流砂のように多元的で、これらの組み合わせは無数にある。さらに、生物的環境要素(動植物相、生態系)は、指標化できたとしても定量化が困難な場合が多い。これらのことから、河川環境に関しては、目標設定どころか、評価自体が容易なことではない。このため、河川環境の評価手法の向上が強く望まれる。……
(3)治水事業こそ河川環境整備の機会
河道形状、流況、水質、流砂といった河川環境を規定する物理的環境要素は、治水のための河川整備や管理においてもその設定が重要となる要素である。治水上安全な川にするための河道改修や治水施設の整備は、物理的環境要素の改変を伴うことが多いため、河川環境の整備や保全と対立するものと捉えられがちである。しかし、改修後の河道状況が、環境面においても好ましいもので、なおかつ維持管理労力が少なくてすめば、最適な環境整備になる。……河川の周辺環境も含めて、治水のための河川整備は、環境整備につなげることが可能である。

4.おわりに
治水安全度の向上のために今後も河川改修が進められるが、その際には河川ごとに、中長期的な視点から、河川環境整備・保全に資するとともに維持管理が容易な改修方法を順応的に確立していくことで、「多自然川づくり基本方針」が目指す河川管理が可能となるだろう。

国土交通省では、2016年12月に委員会(学識委員:山岸哲(委員長)、池内幸司、高村典子、谷田一三、辻本哲郎、中村太士、百武ひろ子)を設置し、生物の生息・生育・繁殖環境と多様な河川景観の保全・創出を行う「多自然川づくり」のこれまでの成果等をレビューし、今後の方向性について5回の委員会で検討し、17年6月「提言」がとりまとめられた。今後はこの提言を踏まえ、河川環境の整備と保全のため「持続性ある実践的な多自然川づくり」を推進する。

提言は、大きく2つの視点からとりまとめられている。
○「実践・現場視点」常に現場視点で考え、河川環境の整備と保全を現場で徹底し、順応的に挑戦し続けるべきであること
○「持続性・将来性」日常的な河川管理の中で様々な工夫を凝らして河川環境の整備と保全を徹底し、地域社会との関わりを深めていくこと

この2つの視点をもとに、以下の7項目について対応方針が示された。①目標の設定、②技術の向上・一連の取り組み過程の徹底、③人材の育成・普及啓発、④日常的な環境への取り組みの徹底、⑤持続可能な川づくりのための地域連携の強化、⑥変化を踏まえた将来の河川像の検討、⑦国際社会への貢献。

2006年の多自然川づくり基本指針により、多自然川づくりは普遍的な川づくりであるとして全国に展開され、様々な取り組みがこの10年で拡大してきたが、その一方で、整理すべき課題も多く存在
実践・現場視点:いかに現場で多自然川づくりを進め、定着させていくのかを、常に「現場視点」で考え、河川環境の整備と保全が現場で徹底されるようにすることが重要。あわせて、自然環境には不確実性があるため、得られた結果を貴重な知見・経験として次の取り組みに活かしていくことが重要であり、そのための課題解決に向けて順応的に挑戦し続けるべき。
「持続性ある実践的多自然川づくりに向けて」実践・現場視点

持続性・将来性:日常的な河川管理の中で、まずは自然の営力を活用した効率的な管理を第一に考え、これのみによることができない場合に、様々な工夫を凝らした河川環境の整備と保全を徹底していくことが重要。加えて、将来へ向けた持続性を高めるために、地域社会との関わりを深め、更には、気候変動などの河川の環境を取り巻く将来的な変化も見据えつつ、日本の原風景である美しい川を引き継いでいくための、川と人との持続的な関わりのあり方について検討を続けるべき。
「持続性ある実践的多自然川づくりに向けて」持続性・将来性

目次
1.はじめに

2.多自然川づくりの現状
 (1)前回提言への対応状況
 (2)河川環境のマクロ評価

3.多自然川づくりの課題
 (1)目標の設定
 (2)技術と取り組み過程
 (3)人材の育成・普及啓発
 (4)持続可能な多自然川づくり
 (5)日本の河川環境の将来像

4.対応方針
 (1)目標の設定
  ①環境目標設定の手法確立と実践展開
 各河川の河川環境の目標設定に向けて、まずは、河川生態系の観点について、「良好な状態にある生物の生育、生息、繁殖環境を保全するとともに、そのような状態に無い河川の環境についてはできる限り向上させる」という目標設定の考え方を基本として、河川の環境を評価する手法を具体化する。
  ②生態系ネットワーク形成の推進
 (2)技術の向上・一連の取り組み過程の徹底
  ①多自然川づくりの技術的なレベルアップ
  ②多自然川づくりの一連の取り組み過程の徹底
  ③多自然川づくりが河川生態系へもたらす変化の把握
  ④多様な分野の学識者等との連携推進
  ⑤技術等の開発
 (3)人材の育成・普及啓発
  ①人材の育成
  ②多自然川づくりアドバイザーの養成
  ③多自然川づくりの普及・啓発
 多自然川づくりが地域で広く認知され、地域の将来にとって大切な価値を生むものであると理解され、社会から求められるものとなることが重要である。そのために、多自然川づくりの基本的な考え方や治水・環境両面の役割と効果について、広く一般の市民に浸透させるためのわかりやすい説明を工夫し、発信する内容や対象などに応じ、現地における表示なども含め、様々な手段を用いて周知を図る。
 川をフィールドとして活動している市民団体等と連携し、市民が継続的に川に親しみを持ち、生き物と触れ合い、地域の歴史や文化を含めた川そのものや川の景観等について学び、理解した上で、市民目線で多自然川づくりに積極的に関わっていくための河川環境教育やその普及・啓発を推進する。
 また、次世代を担う子供たちが川により親しめるよう、河川環境教育の一環として、子供自らが川の自然を調査・研究し、その優れた成果を表彰するなど、子供のやる気を上手に引き出すための仕組みを構築する。
 (4)日常的な環境への取り組みの徹底
  ①河川管理における環境への適切な取り組みの着実な実施
  ②戦略的な多自然川づくり
 (5)持続可能な川づくりのための地域連携の強化
  ①地域社会が支える川づくり
  ②流域住民と一体となった生態系ネットワーク形成
 (6)変化を踏まえた将来の河川像の検討
  ①気候変動や人口減少などの河川を取り巻く状況の変化等の分析
  ②100年後を見据えた人と河川の持続的な関わりのあり方の検討

別紙 河川環境に関する施策等の変遷