森林被害対策シリーズ  No.1 「松くい虫」の防除戦略  マツ材線虫病の機構と防除』(独立行政法人 森林総合研究所、2006年)を再読しました。市民の森保全クラブ会員必読です。

松枯れは線虫と昆虫が共同して引き起こす病気です。その仕組みは以下の通りです(冒頭の番号は下図と対応しています)。
1)5~7月にマツノマダラカミキリ成虫がマツノザイセンチュウ(線虫)を体内に入れて(主に気管の中)前年に枯れたマツから脱出。
2)カミキリ成虫は生きたマツの枝をかじって栄養摂取。この傷から線虫が樹体内に侵入。
3)侵入後、線虫はマツの樹脂道(ヤニの通り道)を通って樹体全体に広がり、マツの細胞から栄養を摂取。線虫の活動にともなって、水(木部樹液)の通路である仮道管から水分が抜けて無くなり、樹液が上昇できなくなる。感染後1〜2ヶ月で、水不足のため葉が変色し、樹幹内で線虫が増殖。  
4)カミキリ成虫は枯死したマツが放つ匂いに引かれ、枯損マツの樹幹に産卵。10日ほどで孵化して幼虫になる。
5)夏から秋にかけてマツ林で枯損が目立つようになる。
6)カミキリ幼虫は枯死したマツの樹皮下を食害して成長。
7)十分に食べた幼虫は材内にもぐり、蛹室を作り、翌年春に蛹になる。
8)材内にいた線虫は蛹室に集まり、カミキリ成虫の気門(空気を取り入れるために体表にある穴)に入り込み、カミキリとともに材の外へと旅立つ。
松枯れの仕組み

  松枯れを防除しなければマツ林は消滅
松枯れを引き起こすマツノザイセンチュウは北アメリカから侵入した侵入生物で市民の森に植林されたアメリカ原産のテーダマツは抵抗性が強いが、日本の在来種のアカマツは致命的に弱い。マツノマダラカミキリは日本在来の昆虫であるが、マツノザイセンチュウが侵入する以前は枯木や枯枝が少なかったので、マツノマダラカミキリの繁殖できる資源が少なく、虫の密度が低かった。マツノザイセンチュウが侵入後、マツノマダラカミキリがマツノザイセンチュウと結びづき、枯れ木が増えたため、繁殖を妨げるものがなくなり、爆発的に増える条件が整った。放置すれば被害は広がるのみ。マツ林を守るには人間による制御が必要!!


  マツ枯れ防除の基本戦略
   ①マツノマダラカミキリまたはマツノザイセンチュウを絶滅させる
これが可能なのは、島嶼など、周囲から隔離された場所だけです。鹿児島県沖永良部島で実証例があります。周辺に被害マツ林がある場合やマツ枯損木の移動(持ち込み)が考えられる場所では、不可能
   ②マツ林を抵抗性の強い品種に変換する
抵抗性家系でも感染して枯れることはあるものの、苗木を積極的に植栽すると将来の被害を減らすことができる
   ③マツノマダラカミキリの増殖率を抑える
天敵として、菌類、センチュウ、クモ、ダニ、昆虫、鳥類など多くが知られていますが、マツノマダラカミキリの数をコンスタントに制御できる有効な天敵は見つかっていない
   ④予防散布や伐倒駆除を継続することにより微害を維持する
被害量が少ない場合、微害に維持するための費用はそれほど多くかからない。狭い地域ならば予算的にも、防除労力、枯損木探査の確実性等からみても可能

現状では④の方法、また条件の整った場所では①が実現可能。②は長期的な防除費用や薬剤の使用を減らせる点で今後はより重要になると考えられる。③についてはいまのところ有効な方法はない。[「マツノマダラカミキリを振動で寄せ付けない方法」が③でしょうか]

  防除手順の実際
   微害(林野庁では枯損率が1%以下の場合を指す)を維持する
   手順1:「保全するマツ林」の決定
   手順2:現在の被害量を微害に誘導
   手順3:微害の維持
    ①周辺マツ林の樹種転換
    ②保全するマツ林における徹底的な駆除
     ●すべての枯損木を見つける
     ●見つけた枯損木は、すべて駆除対象とする
     ●駆除対象の枯損木からマツノマダラカミキリをすべて殺虫
    ③保全するマツ林の成立本数の確保
     予防散布だけで被害がゼロになった例はない
予防散布と伐倒駆除(薬剤散布)の組み合わせだけでは被害量を減らせることは難しく、枯損木の焼却やチップ化による特別伐倒駆除との併用が被害を減少させるにあたって効果的

  個別防除法 ①予防散布

  個別防除法 ②伐倒木の処理
   焼却
   破砕(チップ化)
   燻蒸
   薬剤処理

  個別防除法 ③効果を上げるには
   枯損木の見落とし対策
   駆除残し対策
   駆除率を上げる

  戦略を実行する手順
   実施前
   1年目-5年
   5年目以降
   周辺マツ林の取り扱いの重要性

  防除の成功例