自然の観察事典⑯『ドングリ観察事典』(小田英智構成・文 久保秀一写真、偕成社、1998年)を読みました。京都科学読み物研究会編『本から自然へ 自然から本へ ~子どもと楽しむ生きものの世界~』(連合出版、2008年)で紹介されている本です。

ドングリをみつけに雑木林にでかけてみませんか。[カバーより]
 ●ドングリのなる雑木林って、どんな林なのでしょう。
 ●細長いドングリや丸いドングリがあるのは、なぜ?
 ●ドングリの実は種子です。
 ●ドングリの花をみたことがありますか?


小田英智『ドングリ観察事典』目次
 雑木林にいってみよう
 ドングの実のなかまたち
 春をまつコナラの冬芽
 芽ぶきの季節
 コナラの花の季節
 新緑の季節のオトシブミ
 赤ちゃんドングリの成長
 緑のなかの小さな妖精
 幹の成長
 雑木林の樹液の広場
 秋にむかってそだつドングリ
 ドングリの実に産卵するゾウムシ
 色づいて落ちるドングリの実
 秋のみのりをまつ動物たち
 ドングリの実であそぼう
 落ち葉の世界
 ドングリの実の発根
 ドングリの実の春の芽ぶき

 さくいん
 食品としてのドングリ
 あとがき
あとがき
 ドングリの実がなる雑木林は、いつ行っても、なにか収穫があります。めずらしいオトシブミが葉をまいていたり、大きなクワガタムシが樹液をなめていたり、シギゾウムシが梢を飛んでいたり、いつでも期待を裏切りません。林をふきわたる四季おりおりの風や、かわいいドングリの実の成長も、楽しみの一つです。
 雑木林は、炭や肥料を得るために、人間がつくりだした林です。そのため、多くの昆虫だけでなく、鳥や獣たちにとっても安住の場所となっていました。
 しかし、燃料の炭は石油にかわり、落ち葉の肥料も化学肥料がつかわれるようになり、雑木林は資源としての価値を失いました。そして、多くの雑木林が宅地などに開発されてしまいました。残った雑木林も、人間の手によって管理されることなく、荒れはて、老齢化してきています。
 いま、私たちは、人工の都市空間のなかで、ある種の息苦しさを感じています。生命感の乏しい空間で、自然の息ぶきを求めています。近くに、まだ、ドングリの実がなる雑木林が残っていたら、いちど足を運んでみませんか。林の梢をさらさら鳴らしてわたる緑の風が、朽ちた落ち葉の豊潤な香りが、私たちをやさしくむかえてくれます。そこには、私たちが失ってきたものが、たくさんあります。
 豊かな自然の空気をたっぷり呼吸したら、ゆっくりと、こうした雑木林を私たちのまわりに再生させる妙案を考えてみようではありませんか。自然と人間の豊かな共存の方法を……。 (小田英智)