3  ドングリウォッチングの構成
  【コラム】最初が肝心
  【コラム】絵本を使おう
  【コラム】下見で決まる観察会の成否
  【コラム】観察を深める言葉のキャッチボール】
  【コラム】観察会の主導権は参加者にある】
   【コラム】最初が肝心(93頁)
 観察会の最初の10分間は、とても大切な時間である。この間に、参加者の気持ちをどれだけ今日のテーマに引きつけられるかで、そのあとがうまく流れるか、ぎこちないものになるかが決まるといってもいい位だ。観察会のはじめに、案内役のガイドが最初に口を開く瞬間は、参加者全員が注目し、期待する時である。長々とあいさつを続けたり、いろんな注意事項や連絡などに使うのはもったいない。簡単にあいさつを切り上げ、すぐに本題に入ろう。「おやっ」と思わせる意外な切り口で始めると、参加者を引きつけ、その後の観察にうまくつなげられる場合が多い。特に「ドングリウォッチング」といった漠然としたテーマの時には効果を発揮する。
   【コラム】絵本を使おう(95頁)
 最近は観察会に使える絵本が多く出版されていると感じる。斬新な視点から身近な自然を紹介する絵本を目にする機会が多いからだ。これらは絵が個性的で、大人も引きつける力を十分持っている。昆虫や植物の一部分を大写しにした写真や考え抜かれた構図で風景を撮影した本もある。どれも、大勢の人が一度に見るのに十分な大きさを持っている。
 自然を扱った絵本は、学校の図書館に入れておくだけでも子どもたちによい影響を与えると思う。しかし、観察会のガイドや先生が子どもと一緒に野外で使うともっと力を発揮することだろう。ふだんから、どんな内容の絵本があるか、図書館や本屋をのぞいておくと、きっと役立つ日がやってくる。
   【コラム】下見で決まる観察会の成(101頁)
 観察会の前には必ず下見を行う。これはとても大切。この時に、観察テーマやねらいに合わせ、参加者が面白く感じたり関心を示しそうなものを見つけておく。その後で、テーマやねらいが無理なく展開できる当日の流れを組み立てる。
 今回の観察会では、ドングリが落ちてすぐに根を出すこと、それを参加者に発見させることを柱に据えた。そこから発展させて、ドングリとほかの生き物とのかかわりをとらえ、ドングリから時間の流れを感じてほしかった。ただし、これは下見の時点で、直接観察できないとわかった。そこで、不自然な場所に見られる芽生えを見つけてその理由を考えたり、大木が生える場所に立ち、一粒のドングリから成長するまでの時間を感じるなど、頭の中で作業をつなぎあわせる手法を取ることにした。そのためには、下見の時に、それができる場所を見つけておくのである。
   【コラム】観察を深める言葉のキャッチボール(107頁)
 観察会では、参加者に「あれっ、何だろう」と思わせ、もっと知りたい、よく見たいと思う気持ちを起こさせることが重要だ。つまり、観察の動機づけをいかに行うかである。そのために、観察会当日までの間、参加者を自発的に動かす言葉を考える。さまざまな人の年齢や顔つきを頭の中で描き、いろんな言葉で、観察の視点や自然の不思議を投げかけてみる。そして、どれがいちばん彼らのひとみを輝かせるか想像する。うまくいきそうな言葉を思いつくと、忘れないように記憶する。メモはしない。当日はメモを読みながら案内できないので、ひたすら頭に入れる。
 話すと同時に聞くことも大切だ。ぼくは観察会の中で、説明をなるべく控えるように心がけている。その代わり、参加者にたくさんの問いかけを行っている。みんなが知っていて簡単に答えられるもの、誰でも観察すればわかる問いを考え使っている。それは、参加者から戻ってくる言葉を使いたいからだ。参加者が発する短い言葉の中に、観察を深めるための視点が含まれていたり、新たな疑問が見つかる。そこには、ガイドの言葉より、ほかの参加者を共感させ、動かす力がある。
   【コラム】観察会の主導権は参加者にある(111頁)
 ぼくは観察会の間、参加者の興味や関心がどこにあるのかを絶えず探っている。参加者の顔つきや雰囲気を読みながら、頭の中で言葉を選び使っている。だから、せっかく用意した言葉を使わずに終わることも多い。それでもいいと思っている。参加者の様子から判断して、次に予定していた観察に関心が向かないと感じたら、変更することだってある。だから、いつも事前に作った計画どおりに進行するとはかぎらない。
 大人と子どもが一緒の場合は、子ども中心に話をする。……
 歩く時は、小さい子どもや年配者に歩調をあわせるようにしよう。休憩時間を取ることも大切だ。その場の雰囲気をうまくとらえ、参加者が疲れる前に休む。休憩は何もしない時間ではない。気持ちのいい場所で、風や周囲の音に耳を傾ける時間を取ったり、遠くの景色を眺める時間を作ることで、観察しながら体や精神の疲れを取る。観察会の流れを断ち切らずに、参加者の判断で休めるようなさりげない配慮がほしいものだ。