里山保全と森林資源の活用(黒田慶子)
 里やまへの郷愁
 本来の里山管理は農業の一部
 森林の形成と資源利用の歴史
 人が使わなくなって起こった植生変化と樹木の伝染病
 野生動物の増加と森林被害
 将来を見据えた里山管理とは
 神戸大学農学部での「実践農学」(森づくりグループ)の取り組み
 森づくりグループの演習の内容と成果
 里やまの管理を再開するための地域への提案

里やまの管理を再開するための地域への提案

 広葉樹は針葉樹よりも比重が高く、直径が20㎝を超えて太くなると人手では動かせない重さになる。また、萌芽は若い切株からは出やすいが高齢樹になるほど出にくくなる。小面積の皆伐で日光が地面に届くようになると萌芽の生育が良くなるので、里山林の管理においては、「伐採と若返り」が最重要課題である。しかしながら、日本の森林の3割を占める里山全域の管理再開はほぼ不可能であろう。……このような現状から、人が入って管理しやすい場所や災害リスクが高い場所から管理を再開する必要があるだろう。また、子孫に里山を残したいかどうかなど、所有者の価値観の問題でもある。
 西日本の低標高地にある放置里山林は、今後常緑中低木が主体の貧相な森林になることが明らかになってきた。しかし「それでも構わない」という選択もある。災害リスクの低い場所は放置しても困らないかもしれない。今回1度だけ税金を投入して整備しても、次世代の住民が15~30年後に何もしないで放置するなら、またナラ枯れが発生するなど、荒廃していく。山林として持続的に管理できる体制が作れないのであれば、発想を転換して、今ある樹木を伐ってしまったら森林に戻さないという選択もある。果樹、山菜園、花木や景色を楽しむ場所など、「これなら管理できる」という形態に変えることを推奨したい。(伊藤一幸編著『エシカルな農業』108~109頁)
市民の森保全クラブでも里やまとして持続的に管理できる体制づくりは大きな課題です。