すみ場地図の作成と活用
 さて、実際の作業の場面では、まず一方で、対象地域とその周辺の必要とする範囲について動植物相の調査を実施し、そのリストから注目すべき種と群集を抽出する。そして他方で、表①に示したようなすみ場の階層のハビタットないしビオトープのレベルのすみ場に着目して現地の踏査をおこない、その結果を地図上に落として“すみ場地図(ハビタットマップ)”を作成し、それぞれのすみ場について生活史および季節全般にわたる上記の注目種および群集の利用との関係を整理しておく。なお、注目すべき植物の種の限られた生息場所や注目すべき動物の種の産卵場所、営巣場所などのような重要なすみ場については、マイクロハビタットのレベルについても地図の中に記入する。
 次に、このようなすみ場地図と事業の計画図を重ねあわせ、その事業を実施した場合、すみ場を消失させるかあるいは劣化させることによって、対象地域に生息する生物種および群集に与える影響を検討・予測する。そしてその影響が容認できる範囲であれば問題はないが、好ましくないと判断される場合には、くりかえして計画の見直しをおこない、その事業計画と対象地域に生息する生物種、群集、ないしは対象地域の生態系の保全との折り合い点を見つけ出すのである。前述のようにこの見直しの結果には、その事業計画の大幅な変更ないしは中止も含まれていなければならない。
 以上にあらましを述べたような、事業の対象となる地域とその周辺地域について作成されたすみ場地図を基礎にしておこなう生態系保全の方式は、河川、湖沼、湿地などに限らず、生息環境保全一般に広く活用できるものである。このような方式を、野生生物の生息環境に影響をおよぼす多くの事業に活用することが望まれる。(20~21頁、強調は引用者)
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