家の光協会発行の『地上』に連載されているコラム、松永和紀「食と農を科学する EBRのススメ!」の12回「育苗箱施用の農薬は悪いのか? 国立環境研究所が調査」が2015年10月号(80頁)に掲載されています。EBR:Evidence Based Agriculture(科学的根拠に基づいた農業)
 農薬の安全性は、食べる人、使う人への影響を極力小さくすることに加え、「ターゲットの病害虫以外の生き物への影響」を検討しなければなりません。自然界には数えきれないほどの生物種がいて、すべての事前チェックは不可能。でも、農薬を使わなければ、食料の安定生産は難しい。そのジレンマのなかで、農薬開発は行われています。
 稲作での殺虫剤の使用は作業が楽で効き目が長く続く育苗箱施用が一般的。作物の根や葉から成分が吸収されて作物の体内に移行し、葉を食べた虫が死ぬ(浸透移行性)。
国立環境研究所の実験用のミニ水田で、ネオニコチノイド系のイミダクロプリド(製品名:アドマイヤー)とフェニルピラゾール系のフィプロニル(製品名:プリンス)を用いて、殺虫剤を使用した群としていない群を比較する試験を3年間行った結果、二つの殺虫剤共に複数年にわたって使用すると水生昆虫への影響が大きくなり昆虫が減っていくことがわかってきた(特にフィプロニル)。動物プランクトンやイトミミズ類などの底生生物の数は一時的に影響を受けてもまた戻った。メダカへの影響は死亡率には変化はないものの、体が小さくなった(殺虫剤の影響か餌のプランクトンの一時的減少のためなのか、詳細はまだ不明)。
 農薬は、水生生物にたいしても問題がないことが試験で確認したうえで登録されていて、販売や使用が始まります。しかし、その方法はOECD(経済協力開発機構)が決めた国際的なルールに基づくもの。藻類、ミジンコ、魚類の三種をそれぞれ容器で飼い、水に農薬を溶かし込んで影響をみます。イミダクロプリドもフィプロニルも、この試験はパスしています。しかし、実際の水田の影響はとても複雑。環境研究所の研究者により、OECDの方法では不十分であることがわかってきたのです。
 二つの殺虫剤を禁止した時に使われる殺虫剤(たとえば有機リン系農薬)がよりよいものなのか、環境研究所は研究を継続。実際の田んぼでの調査もすすめている。
……どの農薬をどのように使うのが、多くの生物と共存しながら食料生産を維持できる方法なのか。科学者の模索はずっと続いているのです。
※2015年7月15日、国立環境研究所で公開シンポジウム『ネオニコチノイド系農薬と生物多様性〜 何がどこまで分かっているか? 今後の課題は何か?』が開催され、OECDルールの問題点が議論された。