2021年09月
岩殿B地区の池とI地区の間で、タコノアシを保護してきた場所ですが、タコノアシは近年、D・E地区に拡がっています。8月26日に高く伸びたセイタカアワダチソウだけ刈り、その後は草刈りを疎かにしてきたので、一面、コブナグサ(イネ科)が生えています。
二宮さん、小野さんと植物調査をしました。除草機が入らないので刈り残した耕作放棄地の畦の法面のコセンダングサや、オギの間のセイタカアワダチソウなど背丈以上に伸びていました。
植物に限らず、ひろく生きもの観察をしました。
キバナアキギリ
キクモとキカシグサ
アオオサムシ、セスジツユムシ、ヒメスズメバチ
アナグマの糞
※キッズレンジャーの生物紹介(アナグマ編)(YouTube NPO birth channel)1:56
岩殿D地区と田んぼの間の土手の草刈りをしました。毎年4月には赤いクサボケ(バラ科)の花が咲いています。クサボケは日当たりと風通しの良い場所が生育に適しています。シカの大好物だそうですが、実(シドミ)を採取して増やせればと考えています。
9月21日、23日に公園管理者が巻いた粘着シートの虫むしホイホイ(アース製)にキクイムシ、アリ、ザトウムシ、ガ、ハエ、バッタ、セミ、ムカデ、トカゲなど多数の生きものが付着していました。
ザトウムシ
地際部にフラスの堆積があるコナラの再調査をしました。市民の森保全クラブの作業エリアで38本(№1~38)、地球観測センターに向かう舗装道から分かれてくる尾根の峠道、入山沼から上ってくる谷の道、尾根の道の接点付近には38本もの被害木(№101~138)がありました。テープを巻いてナンバリングしておきましたが、後日、胸高直径や被害の程度などまとめます。
谷の道にはナラ枯れとはおそらく別の理由で伐採したコナラ(伐採時期は不明)の残った株(根株)に多数の穿入孔がありフラスがついていて、キクイムシが地際まで入っていることがわかります(№237ではなく137です。200番台の番号はまだありません)。「カシノナガキクイムシではない他のキクイムシ(ヨシブエナガキクイムシ等)により木の分解が進んでいる自然な現象」(←神奈川県森林協会『地域の森をみんなで守ろう』2020年3月)10頁)であるのか、中に何がいる(いた)のか調査が必要です。
※神奈川県森林協会『地域の森をみんなで守ろう』2020年3月 通読をお勧めします。
市民の森保全クラブ定例作業日。参加者は芦田さん、新井さん、木庭さん、鳥取さん、橋本さん、細川さん、渡部さん、Hikizineの8名でした。
①芦田さん、木庭さん、鳥取さん、橋本さん、細川さんのグループで11月13日に開催予定の『自然学習ウォーキング~市民の森で遊ぼう~』で使うホダ木用のコナラの伐採、玉切りし、下に下ろして大きさで選別して整理しました。
コナラに隠れていたトチノキが見えてきました。
②新井さん、渡部さん、Hikizineは尾根の道と北向き斜面の林床の草刈りをしました。
※鳥取さんがペットボトルのカシナガトラップを試作してみることになりました。
YouTubeに動画があります。『カシナガトラップ簡便設置』(小林正秀チャンネル)
青木ノ入の果樹園の草刈りを除草機、刈払機でしました。
学びの道の東側のブルーベリー園は暗くなったので途中で中止しました。岩殿でも農家が稲刈りをごみ始めました。ゴミステーション側から6時過ぎまで、ライトをつけて、お疲れ様です。
※ナミアゲハ幼虫(温州ミカンについていました)
左:終齢幼虫 右:幼齢幼虫
※モンクロシャチホコ幼虫とチャミノガ(みのむし)
プラムについていました。ミノムシはチャミノガです。
モンクロシャチホコは8月から9月頃に樹上から地面に降り、落ち葉や浅い土中に潜り、さなぎになって越冬し、6月から7月にかけて成虫になります。サクラによくついていて駆除したくなりますがモンクロシャチホコには毒はありません。果樹園では食害性害虫ですが。
右の写真に写っているミノムシはチャミノガ(千葉県生物多様性センター「生命のにぎわい通信」10号、2009年12月)。
岩殿C地区の無名沼下の除草をしました。昨年はこの時期にスパイダーモアで除草しています。今年は、キンエノコロが目立ちます。
除草機と刈払機で岩殿E地区の草刈りをしました。今回はワレモコウを数株残して、道の両側全て刈りました。前回は5月31日でした。草を3か月伸ばすと、除草機でもやっとです。
3日は雨で活動が中止だったので今日が9月最初の市民の森保全クラブの活動日です。参加者は芦田さん、木庭さん、鳥取さん、橋本さん、鷲巣さん、渡部さん、Hikizineの7名でした。①11月13日のイベントで使うミニホダ木用のコナラを南向斜面で選びテープをつけました。9月中に伐採します。②5日にキクイムシ被害木の再調査をしたところ、新たに谷の道で13本、尾根の道で3本、作業道で2本、フラスをだしているコナラを見つけました。今日は作業道-尾根の道-谷の道を歩いて被害状況を確認しました。立木のまま放置すると市民の森利用者に危険を及ぼす恐れのある枯死木は10月から伐採を始めます。会員4名でラインに「市民の森」グループを立ち上げました。
※カシノナガキクイムシの羽化脱出映像(かながわトラストみどり財団撮影2021年5月)YouTube 0:39
ナラ枯れが始まったことにより、これから数年間、市民の森保全クラブの活動はナラ枯れ対策に一定の時間を割くことになりそうです。コナラ大径木枯死後の市民の森の景観はどのように変わっていくのでしょうか。市民の森をどのように育てていくのがよいのか、市民の森の将来像が問われます。香川隆英さん(森林総研)の『景観を考慮した森林管理手法』に、
が紹介されています。市民の森保全クラブの活動エリア(2㏊)では、毎年小区画(500~600㎡)で皆伐、実生苗の植林を続け、萌芽更新が可能なコナラ林の再生、尾根のアカマツ林の保全を目指して活動を組み立ててきました。将来、多くの市民が市民の森の保全活動に加わり、活動領域が拡大することがあれば、市民の森をどうしていくのがのぞましいのか、全体像が問われるようになるでしょう。市民の森32㏊を植生により区分して、それぞれの仕立てを考えていくことになるとしたらどのようなタイプの森が考えられるのか、想像してみるのも楽しい事ではないでしょうか。
コナラ大径木林
クヌギ・コナラ萌芽林
照葉樹林
アカマツ二次林
落葉広葉樹二次林
常緑針葉樹大径木林
「狭山丘陵におけるナラ枯れ被害調査と対策について」は『緑化に関する調査報告(その48)』(東京都建設局、2021年3月)に掲載されています。全9頁です。リンク切れになることがあるのでダウンロードしておくことをお勧めします。
「狭山丘陵におけるナラ枯れ被害調査と対策について」
「狭山丘陵におけるナラ枯れ被害調査と対策について」
西武・狭山丘陵パートナーズ 維持管理部 大房直登 (西武緑化管理株式会社所属)自然環境保全部 舟木匡志
レンジャー部 丹星河(特定非営利活動法人 NPO birth所属)
I.はじめに
II.ナラ枯れとカシノナガキクイムシ
1.ナラ枯れのメカニズム
2.カシノナガキクイムシ
写真-1 ナラ枯れ被害木(野山北・六道山公園)樹林内で葉が萎凋している様子
写真-2 ナラ枯れ被害木(野山北・六道山公園)萎凋している頂部が見える
写真-3 捕獲したカシノナガキクイムシ
左:雄成虫 右:雌成虫と胞子貯蔵器官
写真-4(左) マスアタックされた被害木
写真-5(右) 切株にもマスアタックされている
III.狭山丘陵の都立公園におけるナラ枯れ被害木調査
1.調査場所
ナラ枯れの被害木調査は、西武・狭山丘陵パートナーズ※1 が指定管理者として管理運営を行っている各都立公園で実施した。本稿ではその中でも、都立野山北・六道山公園で行った調査結果について記載する。
都立野山北・六道山公園は狭山丘陵西端にあり、武蔵村山市と瑞穂町にまたがっている。開園面積は 203ha と都立公園最大の丘陵地公園である。園内は、ほぼクヌギやコナラのなどの落葉広葉樹が優先する二次林で占められ、カシナガの被害対象木となるブナ科樹木が多い植生である。
※1 西武・狭山丘陵パートナーズ:狭山丘陵の都立公園グループ(狭山公園、野山北・六道山公園、八国山緑地、東大和公園、中藤公園)の指定管理者。構成団体は西武造園株式会社、西武緑化管理株式会社、特定 非営利活動法人 NPO birth、特定非営利活動法人地域自然情報ネットワーク、一般社団法人防災普及協会。
2.調査内容と結果
(1)被害数量調査
被害木の数量調査は、令和 2 年 8 月 5 日から 8 月 14 日にかけて園内各園路(合計 35km)を踏査して実施した。本数のカウントは、全枯れ(葉が全体的に萎凋しており樹木が水分通導を完全に停止している)、半枯れ(葉が部分的に萎凋しているが水分通導はある)、フラスのみ(フラスは確認できるが萎凋は見られず生存しているもの)の 3 段階で記録を行った。
調査の結果では合計 413 本の被害木を確認した。内訳は、全枯れ 75 本、半枯れ 179 本、フラスのみ 159 本であった。調査以降も被害木は増加しており、合計 500 本を超える被害となった。……
図-1 被害木位置図 (赤い四角は 1ha 当たり10 本以上被害が集中している地区)
図-2 被害木と幹周の関係(野山北・六道山公園)
(2)捕獲調査
被害がカシナガによるものかを確認する為、成虫捕獲のトラップを 2 種類仕掛け調査を行った。まず、令和元年に枯れたコナラに目合 4 ㎜の寒冷紗を幹に巻き付け、脱出防止を図り捕獲をこころみた(写真-6)。1 週間後に寒冷紗を捲り確認したところカシナガは確認できず、同じナガキクイムシ科のヨシブエナガキクイムシ(以下ヨシブエ)を多数確認することができた(写真-7,8)。さらに継続して調査を行ったが、樹液に集まる昆虫たちがネットに絡みついてしまう事例が夏季にかけて多く発生した為、捕獲調査を断念した。
写真-6 寒冷紗を巻付けた防除
写真-7 多数のヨシブエ
写真-8 ヨシブエナガキクイムシ
次に静岡県で開発されたクリアファイルトラップを設置し、捕獲されたキクイムシの同定を行った。まずはフラスが出始めた状況の被害木を選定し、8 月 9 日にトラップを設置。翌日に捕獲を実施した。捕獲した 11 個体は全てヨシブエだったが、設置を続けるとカシナガも捕獲することができ、「カシノナガキクイムシによるナラ枯れ被害」であることが確認できた。このトラップは使用済のクリアファイルで作成でき、捕獲効果が期待できたが、クリアファイル内の水にフラスが堆積したり、ボウフラが発生するため、1~2 週間程度で水を交換するなど、こまめな管理が必要であった。
写真-9 トラップ材料
写真-10 トラップ設置状況
写真-11 捕獲状況
(3)被害材の調査
写真-12 穿孔が東側(左側)に集中している被害木
写真-13 肥大している辺材(左側)
写真-14 確認できた幼虫
写真-15 坑道の様子
IV.都県境を越えた取り組み
1..狭山丘陵広域連絡会の開催
狭山丘陵は、都県境を越えた6市町にまたがる丘陵地であり、行政界を越えて一体となった保全の取り組みが課題であった。そこで西武・狭山丘陵パートナーズでは、狭山丘陵一体での保全、普及啓発を進めることを目的とし、平成 24 年度に狭山丘陵広域連絡会※2 を立ち上げ、毎年連絡会を開催し、保全や活用についての情報共有や意見交換を行っている。
令和2年度の連絡会ではナラ枯れをテーマとし、構成員に加え、周辺6県市町にも声をかけ開催した。事前にヒアリングを行ったところ、丘陵とその周辺で 881 本(令和 2 年10 月現在)もの被害が発生していることが明らかとなった。連絡会当日はその被害状況を共有した他、すでに防除を行っていた団体からラッピングによる防除やクリファイルトラップ等を紹介。被害樹木の処理を進める上での課題や、効果的な防除方法などについて情報交換を行った。
※2 狭山丘陵広域連絡会:狭山丘陵に関わる自治体、市民団体、指定管理者などと連携して、行政区をまたぐ広域の自然環境保全や地域 PR の活性化等を推進する連絡会。西武・狭山丘陵パートナーズが事務局(特定非営利活動法人 NPO birth が運営)を務める。テーマに応じて、6市町(入間市、東大和市、所沢市、東村山市、武蔵村山市、瑞穂町)や環境省、公益財団法人トトロのふるさと基金、埼玉県狭山丘陵いきものふれあいセンター、さいたま緑の森博物館、早稲田大学所沢キャンパス湿地保全活動、埼玉県川越農林振興センターなどが参加、連携している。
2.連携したナラ枯れ対策の実施
<他公園での連携事例>
図-3 狭山丘陵とその周辺地域のナラ枯れ被害木の状況
資料-1 ナラ枯れ普及啓発チラシ
V.今後の対応
1.防除対策
被害拡大の一般的な防止対策として、まず被害木の伐採、抜根が挙げられる。これは羽化脱出期である5月~6月までに伐採、抜根を行い搬出、焼却処分をする方法である。
次にあげられる対策としては、薬剤等を用いた科学的防除である。蔓延防止を図る為にはカシナガの個体密度を低下させることが有効であるため、前述したクリアファイルトラップ等による捕殺、おとり丸太に誘引剤(カシナガコール)を設置した丸太トラップ、カシナガがエサとして培養する酵母菌の増殖を防ぐ殺菌剤注入、カシナガが穿孔するのを防ぐ被覆材などがあげられる。
2.今後の計画
今後、公園では上記の伐採・抜根と、資材等による対策を組み合わせて防除を行う。園内がほぼ雑木林で占められる都立野山北・六道山公園では、樹林内の被害木を伐採しようとすると、車両や重機を入れるための道の整備が必要となるため、全ての被害木を伐採することは費用の増大、植生への悪影響を招き実施が困難である。そのため、伐採対象には優先順位を付ける。優先度が高いのは、園路や施設周辺など来園者に危険を及ぼす可能性のある場所である。作業の際は、登り込み時の落下や落枝による物損等、二次被害に繋がらないよう、対象木の状況を事前に確認する。
また、丘陵地公園である当公園には、谷戸奥の水源や希少種の生育場所など、環境保全上重要な場所が存在する。これを「保全エリア」とし、ここでの対策も優先的に行う。樹木への穿孔防止対策として、エリア内の樹木へのラッピング等被覆を実施し、物理的に穿孔防止を図る。また飛来防止対策として、おとり丸太と誘引剤を使用する。伐開(萌芽更新目的)エリア又はブナ科以外の林分を「誘引エリア」と定め、切ったコナラ材をおとり丸太とし、誘引剤を設置しておとり丸太に穿孔させて搬出処分を行う。「誘引エリア」の選定には、カシナガが穿孔した丸太をまとめて搬出処理するためのトラック、クレーンなどの車両進入が可能であることが条件になる。また、カシナガは材内の含水率が 20%を下回ると生存確率が下がってしまうと言われている為、乾燥すると穿孔自体も少なくなっていく。「誘引エリア」のおとり丸太は乾燥しすぎないよう、適度な緑陰のある位置への設置が望ましい。
今回、都立公園のみならず狭山丘陵全域の課題として狭山丘陵広域連絡会を通じて地域の関係者と情報交換をし、対策を講じることができた。特にこの問題については周辺地域一帯の関係者と共に取り組むことに意義があると考えている。今後は来園者の安全を第一とした対処を実施し、関係者と連携しつつ狭山丘陵全域の緑豊かな自然環境を維持しながら安全、安心な公園づくりを行っていきたい。
『緑化に関する調査報告(その47)』(東京都建設局、2020年3月)に掲載されている公益財団法人東京都公園協会 公園事業部技術管理課 研究開発係 阿部好淳・小松結さんの「ナラ枯れ被害対策の取組について」。東京都内においてナラ枯れが爆発的に広がり始めた時点での報告です。全6頁。リンク切れになることがあるので調査報告全体をダウンロードしておくことをお勧めします。
阿部好淳・小松結「ナラ枯れ被害対策の取組について」目次
I.はじめに1.ナラ枯れとは
2. カシノナガキクイムシについて
図1 カシナガ生活史
写真1 カシノナガキクイムシの雄個体 小金井公園(2019年9月17日)
写真2 カシノナガキクイムシ被害木 小金井公園(2019年8月7日)
II.被害発見・特定のプロセス
1.被害発見のプロセス
表1 公園別被害数(2019年10月11日現在)
図2 令和元年ナラ枯れ状況図(区部・多摩部)(2019年10月30日現在)
2.被害の原因究明
(1)現場見学会の実施
(2)トラップの設置
写真3 現場確認状況 砧公園(2019年8月21日)
写真4 被害状況 砧公園(2019年8月21日)
3.被害木の処分方法
III. 課題と今後の対応について
1.都立公園での対策
2.情報の収集、発信
3.類似被害の解明
IV.まとめ
3.被害木の処分方法
カシナガの被害木を伐採・処理するためには、発生材から被害を蔓延させることを防ぐために、成虫及び幼虫を確実に駆除する必要がある。確実な処分方法として、農総研からは可燃処分、燻蒸処理が確実であるとご教示いただいた。しかし一般廃棄物として可燃処分をするには23区等では30cm以下に裁断を行い、清掃工場へ持ち込む必要があるため多くの経費がかかる。また、燻蒸処理は殺虫・殺菌剤を使用するため、極力薬剤を使わず来園者への影響を最小限に留めなければいけない公園での処理は困難である。そこで、以上の課題が解消でき、適切に処理を行うことの出来る方法として、一般廃棄物として比較的安価での処分できる再資源化施設への持ち込みを東京都へ提案した。具体例を調べると、持ち込み先である再資源化施設に、23区で10mm以下粉砕、200度の殺菌を行う施設が、多摩部で発生材をチップ厚5mm以下で粉砕し、チップ、堆肥化しているという場所が見つかった。以上の処理方法について農総研から国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所に確認いただき、その処理方法で問題ないとの回答を得た。早速、東京都と情報を共有したところ、他の再資源化施設においても対応可能か調べていただけることとなった。結果、チップ厚について40mm-50mmの場合でも最終的にバイオマス燃料や製紙原料、堆肥化するものであれば問題がないこと、また東京都内の大半の再資源化施設であれば対応が可能であることがわかった。これにより、カシナガ被害による枯損木は、再資源化施設での最終処分方法を確認の上で処理できることとなり、成虫が活動を始める初春までに処理を行った。なお今回は公園の安全管理上必要な措置に留めており、完全に枯損していないものは今後経過観察を行うこととして処理を見送っている。
IV.まとめ
今回、東京都の公園等でナラ枯れ被害がここまで広域的に発生した原因ははっきり分かっていない。林野庁の森林保護対策室の稲本氏からは以下のような見解をいただいている。
「カシナガは台風などの風に乗って拡散するほか、車や船舶、それらの荷物に付着して移動することもある。雄の出すフェロモンに誘引されて雌が飛来することがわかっているが、これに加えてどのような原因で広域的な移動が起きるのかは、はっきりわかっていない。気候変動や各年の夏の気温の高さや降水量の少なさが樹木のストレスを増やしている可能性はあるが、都内の公園の被害がそういったことによるものかどうかは、突き止められていない。
一方、カシナガは太いナラ・カシ類の樹木で大量発生するとされているが、高度成長期以降の燃料革命で炭焼きに利用されなくなったナラ・カシ材が日本各地で大径の樹木に成長していることから、カシナガの発生条件が整ってきつつあることは事実で、こうしたことが被害拡散の背景にあるものと考えている。本年度の発生が一時的なものであるか、今後増えていくのかは、専門家に伺っても何とも言えないとの見解だが、例えば、神奈川県ではここ4年間は拡大傾向が継続していること及び関東地方にはナラ・カシ類の森林や公園も多いことから、引き続き被害が拡大する可能性は十分ある。」
今後、東京都内でカシナガ被害がどこまで拡大するかは蓋を開けてみないとわからないのが実情である。カシナガ被害に伴う樹木事故を防止するとともに、二次林を代表し、景観上、生物多様性上、大切な樹木であるコナラ被害により、公園の資源が大きく損なわれないよう努めていく必要がある。公園協会として様々な状況を想定し、適切かつ迅速に対応していきたい。
※ナラ枯れ被害の基礎知識(新潟県)
(2)被害を受けた後の森林の状況 [6頁]
ひとたび被害が発生すると、翌年から周辺森林で被害は急増し、3~4年間は継続して被害が発生します。カシナガは健全木を求めて次々と移動するため、被害発生から4年程度で嵐が過ぎるようにナラ枯れ被害は終息に向かいます。
また、カシナガのせん孔を受けたナラの枯死率は、ミズナラで67%、コナラで22%程度であり、ナラ林の中層・下層にはナラ以外の複数種の広葉樹が生えているため、被害から2~3年後にはナラ以外の樹種が成長することで森林は自然復旧することが確認されています(次ページ図5、図6)。
・森林の自然復旧(下線部)は市民の森のコナラ林では期待出来ません。
※自然教育園におけるナラ枯れの発生(国立科学博物館附属「自然教育園報告」第52号、2020年)
調査票・調査方法と考察など、まとめ方の参考になる。
『薪ストーブライフ』42号(発行:沐日社、発売:星雲社、2021年7月、1870円)が、「近年、日本の薪を取り巻く環境は徐々に、でも確実に変化している。ここでは“薪がなくなる日”がないように、薪を使って虫の被害を回避する術を考えたい」として、ログショックを乗り越えろ! 薪を使う暮らしが地球を救うをナラ枯れ専門家、カキノナガキクイムシ研究の第一人者小林正秀さんの協力・執筆で特集しています。(小林さんには友達5000人のFacebookページがあり、7月9日の記事にこの雑誌のことが書かれています)
ナラ・シイ、カシ類を枯らす「ナラ枯れ」とは 小林正秀
薪は持続可能なエネルギーなのに 編集部
弊誌編集長が直面した“薪にする木がない”という現実
身近の森林公園がカシナガ被害に直面
老齢のコナラに集中して巣くう?
薪事情は最悪へ向かう ログショックの訪れか?
カシノナガキクイムシってどんな虫だ 小林正秀
ブナ科の樹木が集団的に襲われる
嫌われ者だが物質循環に役立っている
ナラ枯れ防除のためカシナガの一生を解明
それぞれの役をこなす真社会生物か?
ナラ枯れの真の原因は何だろう? 小林正秀
主因、誘因、素因に分けて考えてみよう
薪炭林の放置による大径木の増加が原因か
暖かくなると動き出す 温暖化でかなり活動的に
大径木が温暖化で衰弱しその衰弱木に穿入
ナラ枯れから樹木を守ろう! 小林正秀
薪を使い続けるためにカシナガの穿入を阻止する方法
殺菌剤の樹幹注入は待った! ナラ枯れを助長する危険性が
25㎞以上飛翔するカシナガ 皆伐でなく択伐を推奨
カシナガは針葉樹が嫌い 樹木自身もタンニンで防護
薪はカーボンニュートラル 小林正秀
薪ストーブ生活は知らぬ間に地球を守っている!
木を燃やせばCO2は出すが別の木がCO2を吸収する
日本はエコテロリスト? でも薪焚き人は天国へ
薪は持続可能なエネルギーなのに 編集部
弊誌編集長が直面した“薪にする木がない”という現実
身近の森林公園がカシナガ被害に直面
老齢のコナラに集中して巣くう?
薪事情は最悪へ向かう ログショックの訪れか?
カシノナガキクイムシってどんな虫だ 小林正秀
ブナ科の樹木が集団的に襲われる
嫌われ者だが物質循環に役立っている
ナラ枯れ防除のためカシナガの一生を解明
それぞれの役をこなす真社会生物か?
ナラ枯れの真の原因は何だろう? 小林正秀
主因、誘因、素因に分けて考えてみよう
薪炭林の放置による大径木の増加が原因か
暖かくなると動き出す 温暖化でかなり活動的に
大径木が温暖化で衰弱しその衰弱木に穿入
薪炭林の放置によって大径木が増えている状況下で、温暖化や大気汚染などで樹木が衰弱したり、台風や人為的伐採による倒木が発生すると、衰弱木や倒木を利用して増えたカシナガが立木に穿入してナラ枯れが発生し、周辺にも大径木が多いので、どんどん拡大しているのでしょう。(25頁)
ナラ枯れから樹木を守ろう! 小林正秀
薪を使い続けるためにカシナガの穿入を阻止する方法
殺菌剤の樹幹注入は待った! ナラ枯れを助長する危険性が
25㎞以上飛翔するカシナガ 皆伐でなく択伐を推奨
カシナガは針葉樹が嫌い 樹木自身もタンニンで防護
この方法[カシナガトラップ]はカシナガの大量捕獲で被害を抑えるのではありません。
カシナガの攻撃を受けたのに生き残った木(穿入生存木)は、幹の内部がタンニンなどで黒褐色になり、カシナガが穿入しても繁殖できません。カシナガトラップは、穿入生存木を増やすことで、繁殖に失敗するカシナガを増やし、ナラ枯れを抑える方法です。(27頁)
薪はカーボンニュートラル 小林正秀
薪ストーブ生活は知らぬ間に地球を守っている!
木を燃やせばCO2は出すが別の木がCO2を吸収する
日本はエコテロリスト? でも薪焚き人は天国へ
縄文時代の生活に戻らなくても、せめて、木質バイオマスの利用を増やすべきです。現世で悪事を働けば、あの夜では地獄行きになることは、多くの宗教に共通した考えです。薪ストーブユーザーは天国行きが確定していますが、日本人の多くは、このままでは地獄行きです。(30頁)
※小川眞「ナラ類の枯死と酸性雨」(『環境技術』25巻10号、1996年)
※斉藤正一・柴田銃江「山形県におけるナラ枯れ被害林分での森林構造と枯死木の動態」(『日本森林学会誌』94巻5号、2012年)
※中島春樹・松浦崇遠「「ナラ枯れ」はその後どうなったのか」(富山県農林水産総合技術センター森林研究所『 研究レポート』 No.10、2015年3月)
枯死した樹木の様態変化について述べている部分を抜き出しました。
YouTubeの小林正秀さんのチャンネルにあるカシノナガキクイムシの生態と防除法についての動画です。
芦生の森から学んだこと(NHKラジオ深夜便2008年5月13日)(2020年4月23日公開)9:36(2:27~カシノナガキクイムシについて)
カシノナガキクイムシの生態と防除(2020年7月24日公開)17:52
ナラ枯れには防除法はないのか?(2021年8月6日公開)11:59
2021年3月23日、日本森林学会でオンラインで発表した動画
※ナラ枯れに立ち向かう-被害予測と新しい防除法-(森林総研、2011年3月)
※ナラ枯れ防除の新展開-面的防除に向けて-(森林総研、2015年2月)
※八木智義・佐々木智恵「ナラ類集団枯損被害の拡大防止手法の確立に関する研究」(『宮城県林業技術総合センター成果報告』第24号、2015年7月)
要旨:本研究では, 2009 年から宮城県で発生しているナラ枯れ被害の拡大防止対策に資するため,カシノナガキクイムシの県内における発生消長を調査し,ナラ枯れ被害の拡散傾向の分析を行った。また,集合フェロモンを活用した面的な防除手法であるおとり木トラップ法及びおとり丸太法について実証をした。※布川耕市「ナラ類集団枯損被害の単木予防技術の効果と問題点」(『新潟県森林研究所研究報告』51号、2010年3月)
宮城県におけるカシノナガキクイムシの脱出期間は, 6月下旬から 10 月中旬までの期間であり,被害拡散の傾向は,既被害地の 1km 範囲内で 63. 4%, 2 km 範囲内で 87. 2% の被害が発生していた。おとり木トラップ法により,集合フェロモシによるカシノナガキクイムシの誘引効果は確認できたが,殺菌剤を注入したおとり木などの立木に枯損が発生した。また,くん蒸処理を念頭に置いた少量のおとり丸太法では,カシノナガキクイムシの大量捕殺は困難であった。集合フェロモンを活用した面的な防除手法は,材利用を目的に実施する皆伐の実施予定箇所もしくは皆伐により土場に一時集積している丸太を活用して,補助的に実施することが有効であると考える。
※竹下博文・木村明・辻本穣・藤田治生・田中清弘・西元靖志「大阪市立大学理学部附属植物園におけるカシノナガキクイムシが媒介する樹木病原菌 Raffaelea quercivora の感染によるナラ枯れに関する調査」(『日本植物園協会誌』50号、2015年11月)
鳩山アメダスの今日の日積算降水量は11.5㎜。市民の森保全クラブの活動は中止でした。
堀大才編『樹木診断調査法』(講談社、2014年4月)の第2章3節のB.ナラ枯れとそれにかかわる昆虫(松下範久)(1)キクイムシとは、(2)カシノナガキクイムシの生活史、(3)カシノナガキクイムシの配偶行動、(4)カシノナガキクイムシのマスアタックと増殖、(5)カシノナガキクイムシ成虫の分布とナラ枯れの発生地拡大、(6)カシノナガキクイムシ成長の識別法があります。
樹木の健康状態や危険性を的確に診断する健康診断法と,樹木の立地環境を把握するための環境調査の技法を体系的に解説。樹木が本来もつ機能を発揮させ,適正な管理へと導くための調査法専門書。
堀大才編『樹木診断調査法』目次
はじめに
序 章 樹木の診断調査の意義と目的
第1章 樹木の構造と生理
1.1 樹木の成長様式と構造
1.2 樹木の力学的適応と樹形の意味
1.3 樹木の病害虫・傷害に対する防御機構
1.4 立地環境と樹木の生育
第2章 樹木の立地環境と健康状態の診断・調査法
2.1 樹木の立地環境の調査法
2.2 樹木形状の測定法
2.3 樹木の健康診断・危険度診断調査法
2.4 マツ材線虫病発生のメカニズムと診断・調査法
2.5 樹木の腐朽病害の分類と診断・調査法
2.6 目視による樹木の衰退度(活力度)判定と危険度判定の方法
2.7 機械などを使った樹木の健康診断と危険度診断の方法
2.8 根系の診断・調査法
2.9 樹木診断書の整理と書き方
(2)カシノナガキクイムシの生活史
……カシノナガキクイムシは一夫一婦制の亜社会性昆虫である。雄が1頭の雌を配偶者として受け入れると、交尾した雌は辺材、時として心材の中に孔道(母孔)を掘り、その壁面に産卵する。孔道は材内で分岐する(図2.3- 14)。幼虫は孔道壁で増殖した酵母を食べて成長する。孵化後約2週間で幼虫は終齢に達する。幼虫は母孔から長さ約1㎝の孔を掘り、そのなかで越冬する。ナラ菌は樹体内で繁殖し、その木の中で羽化した成虫によって新しい木に伝播される(図2.3-15)。[178~179頁]
……カシノナガキクイムシは一夫一婦制の亜社会性昆虫である。雄が1頭の雌を配偶者として受け入れると、交尾した雌は辺材、時として心材の中に孔道(母孔)を掘り、その壁面に産卵する。孔道は材内で分岐する(図2.3- 14)。幼虫は孔道壁で増殖した酵母を食べて成長する。孵化後約2週間で幼虫は終齢に達する。幼虫は母孔から長さ約1㎝の孔を掘り、そのなかで越冬する。ナラ菌は樹体内で繁殖し、その木の中で羽化した成虫によって新しい木に伝播される(図2.3-15)。[178~179頁]
(3)カシノナガキクイムシの配偶行動
両性の成虫の左翅正中部の腹面の末端は線状の細かい突起が連続して「やすり」状を呈している。それに対応するように、腹部末節の背板には比較的大きな線状の突起がある。成虫は腹部を前後に動かして異なった音を出す。ひとつは途切れのないバズ(buzz)音であり、もうひとつは感覚を開けて発生するチャープ(chirp)音である。配偶行動にはこれらの音が利用される。まず雌は集合フェロモンに反応して、雄が穿孔している木の幹に降り立つ。雄のつくった孔に向かって歩いていくときに、雄はチャープ音を出す。穿入孔の入口を見つけてそのなかに入った雌が大顎で押すの翅梢末端を噛むと、雄は自発的に入り口のほうに後戻りする。雄の腹部が入り口からみえるようになると、雌は頭部前面を押すの翅梢末端に押し当ててバズ音を発する。この音がする間に、雄は孔から出て雌が孔に入る。雄は雌に続いて孔内に入り、異なるチャープ音を発する。その後、雌雄は孔から出て交尾を行い、再び孔内に入る。その後雌は孔道を掘り進める。雄は体を回転させながら、雌がつくる細かい木屑を孔の入り口まで運んで排出する。このとき雄は翅梢末端の突起を上手に使う。……
……交尾が終わると雌は穿入孔を材内に伸ばし、その壁面に産卵する。成長した大きな幼虫はさらに穿入孔を掘り、親の産んだ卵を運ぶ。速い時期に産卵された個体はその年の9月~11月に成虫になり、大部分の新成虫は木から脱出するが、一部は春まで木に留まる。新成虫の発生のピークは9月にみられるが、その数は少ない。[179~180頁]
(4)カシノナガキクイムシのマスアタックと増殖
ナラ枯れにはカシノナガキクイムシのマスアタックが必要である。マスアタックは雄成虫の木への飛来と材への穿孔によってはじまる。同一樹種の種内変異がこの過程に影響を及ぼす。……太い幹の木ほど雄の飛来確率が高くなり、穿入孔の作成確率は幹の太さとともに増加するが、過去に被害を受けた場合は低下することが示されている。
カシノナガキクイムシの穿孔によってミズナラが枯れなかった場合、翌年その樹体内の壊死変色部をこのキクイムシは利用できない。この部分ではエラグ酸やガロ酸の濃度が高くなる。このうち、エラグ酸がカシノナガキクイムシの穿孔を阻害すると考えられる。[180頁]
両性の成虫の左翅正中部の腹面の末端は線状の細かい突起が連続して「やすり」状を呈している。それに対応するように、腹部末節の背板には比較的大きな線状の突起がある。成虫は腹部を前後に動かして異なった音を出す。ひとつは途切れのないバズ(buzz)音であり、もうひとつは感覚を開けて発生するチャープ(chirp)音である。配偶行動にはこれらの音が利用される。まず雌は集合フェロモンに反応して、雄が穿孔している木の幹に降り立つ。雄のつくった孔に向かって歩いていくときに、雄はチャープ音を出す。穿入孔の入口を見つけてそのなかに入った雌が大顎で押すの翅梢末端を噛むと、雄は自発的に入り口のほうに後戻りする。雄の腹部が入り口からみえるようになると、雌は頭部前面を押すの翅梢末端に押し当ててバズ音を発する。この音がする間に、雄は孔から出て雌が孔に入る。雄は雌に続いて孔内に入り、異なるチャープ音を発する。その後、雌雄は孔から出て交尾を行い、再び孔内に入る。その後雌は孔道を掘り進める。雄は体を回転させながら、雌がつくる細かい木屑を孔の入り口まで運んで排出する。このとき雄は翅梢末端の突起を上手に使う。……
……交尾が終わると雌は穿入孔を材内に伸ばし、その壁面に産卵する。成長した大きな幼虫はさらに穿入孔を掘り、親の産んだ卵を運ぶ。速い時期に産卵された個体はその年の9月~11月に成虫になり、大部分の新成虫は木から脱出するが、一部は春まで木に留まる。新成虫の発生のピークは9月にみられるが、その数は少ない。[179~180頁]
(4)カシノナガキクイムシのマスアタックと増殖
ナラ枯れにはカシノナガキクイムシのマスアタックが必要である。マスアタックは雄成虫の木への飛来と材への穿孔によってはじまる。同一樹種の種内変異がこの過程に影響を及ぼす。……太い幹の木ほど雄の飛来確率が高くなり、穿入孔の作成確率は幹の太さとともに増加するが、過去に被害を受けた場合は低下することが示されている。
カシノナガキクイムシの穿孔によってミズナラが枯れなかった場合、翌年その樹体内の壊死変色部をこのキクイムシは利用できない。この部分ではエラグ酸やガロ酸の濃度が高くなる。このうち、エラグ酸がカシノナガキクイムシの穿孔を阻害すると考えられる。[180頁]
(5)カシノナガキクイムシ成虫の分布とナラ枯れの発生地拡大
山の斜面のミズナラ林内にナラ枯れが発生している場合、枯死木から発生したカシノナガキクイムシ成虫は山の斜面に沿って上方に移動し、斜面上部の林縁で密度が高くなる。飛翔成虫数が増加する期間、新しい感染木は林内の枯死木から広がり、飛翔数が減少する期間には新感染木の発生場所は斜面上部の林縁に移動する。斜面上部の林縁近くでは成虫発生期を通して飛翔成虫数は多いが、成虫発生期の初期のマスアタックの後、新穿入孔数は大きく減少する。
カシノナガキクイムシの成虫は林内のギャップや林冠の上よりも林冠の下で、地上0.5~2.5mの範囲を飛び回っている。カシノナガキクイムシの成虫は相対照度が約0.2のところに誘引されるので、成虫の林冠下の飛翔と斜面上方への飛翔が林内の光環境と成虫の走光性によって説明される。[181頁]
山の斜面のミズナラ林内にナラ枯れが発生している場合、枯死木から発生したカシノナガキクイムシ成虫は山の斜面に沿って上方に移動し、斜面上部の林縁で密度が高くなる。飛翔成虫数が増加する期間、新しい感染木は林内の枯死木から広がり、飛翔数が減少する期間には新感染木の発生場所は斜面上部の林縁に移動する。斜面上部の林縁近くでは成虫発生期を通して飛翔成虫数は多いが、成虫発生期の初期のマスアタックの後、新穿入孔数は大きく減少する。
カシノナガキクイムシの成虫は林内のギャップや林冠の上よりも林冠の下で、地上0.5~2.5mの範囲を飛び回っている。カシノナガキクイムシの成虫は相対照度が約0.2のところに誘引されるので、成虫の林冠下の飛翔と斜面上方への飛翔が林内の光環境と成虫の走光性によって説明される。[181頁]
(6)カシノナガキクイムシ成長の識別法
表2.3-4 カシノナガキクイムシとヨシブエナガキクイムシの成虫形質と穿入孔直径の違い[182頁]
この本を読んで、昨日の記事で紹介しているカシナガ君のくらし-カシナガキクイムシによるナラ枯れのメカニズム-(高槻市教育委員会、2013年7月)を読み直すことをお勧めします。カシナガの生態について理解が深まります。
鳩山アメダスの日積算降水量は、8月31日16.0㎜、9月1日3.5㎜、9月2日24.5㎜でした。
カシナガ君のくらし-カシナガキクイムシによるナラ枯れのメカニズム-(高槻市教育委員会、2013年7月)
秋でもないのに山を眺めると、紅葉しているように見えたことはありませんか?これが、「ナラ枯れ」です。ナラ枯れによる被害は全国に広がり、高槻でも目立ってきました。
ナラ枯れの原因は、里山が利用されなくなり、カシノナガキクイムシ(カシナガ君)が増えやすい環境になってきたためと考えられています。この冊子は、カシナガ君の生態とナラ枯れのメカニズムを、絵本にすることで分かりやすく解説しています。ナラ枯れの問題や身近な自然に、あらためて目を向けてみませんか。
※『どうしたら伝わる生物多様性-生物多様性理解促進のためのパンフレットを作成する皆さまへ-』(地球環境関西フォーラム、2017年9月)
はじめに
I 全体的講評
全体講評
評価者別講評
優良パンフレットの紹介
II 優良パンフレット作り手インタビュー「作り手の思い」
「田んぼの学校フィールドノート」の企画編集者に聞く
「身近な生き物とわたしたちのくらし」の制作編集者に聞く
III 分野別講評
政策広報ツールとして
教育ツールとして
研究機関からの発信
市民団体からの発信
企業広報ツールとして
ビジターパンフレットとして
観光促進ツールとして
IV これからパンフレットを作る皆様へ
終わりに
地球環境関西フォーラムは、1990年6月、地球環境問題は人間活動の根源にかかわる課 題であり、科学技術、政治、経済、社会意識、更には生活様式の変革を含む幅広い問題と して、産官学民が力を合わせてこれに取組むべきとの認識から設立されました。これは、リ オ・デ・ジャネイロで開催された環境と開発に関する国連会議における「気候変動枠組条 約」の採択(1992年)に先立つものであり、関西という地域を基盤に、産官学民が一体と なって環境問題に取組むプラットフォームとして先駆的な存在でありました。
生物多様性についても、1993年に「森林と生物多様性」をキーワードとして「アジア、 太平洋地域における地球環境問題に対する関西の環境協力のあり方」についての調査研究 に取り組んで以来、「国際生物多様性科学研究計画西太平洋アジア国際ネットワーク (DIWPA)」などと連携しながら生物多様性に関する調査研究を進め、いくつかの提言を 発表するとともに、生物多様性の認知度向上とそれを市民・自治体・企業等の行動に結び つける活動を行ってきました。その中で様々な普及啓発パンフレットを作成し、生物多様 性の広報・教育・普及啓発(CEPA)に継続的に取り組んでまいりました。
このように、設立以来20有余年に亘り、さまざまな環境課題に向き合い、解決の処方箋 を発信してきた地球環境関西フォーラムも、2018年5月を以て、解散することになりまし た。解散に際し、活動の集大成の一つとして、生物多様性の主流化の一助になればとの思 いから、「どうしたら伝わるのか」との視点で、既にさまざまな主体により発行された多種 多様なパンフレットの中から参考にしたい事例などを取りまとめ、本冊子を作成いたしま した。これから、生物多様性の理解促進を目的としたパンフレットなどを作成される皆さ まにお役に立てれば幸いです。
最後に、この冊子を作成するに当たり、パンフレットを送付いただいた方々のご協力に感謝申し上げ、お礼とさせていただきます。
31日夕刻から秋雨で、屋外作業はしばらく休止です。ナラ枯れ、カシノナガキクイムシ、ヨシブエナガキクイムシについて本や論文で調べてみました。
小林正秀・上田明良「カシノナガキクイムシとその共生菌が関与するブナ科樹木の萎凋枯死-被害発生要因の解明を目指して-」(『日本森林学会誌』87巻5号、2005年)
カシノナガキクイムシの穿入を受けたブナ科樹木が枯死する被害が各地で拡大している。本被害に関する知見を整理し、被害発生要因について論じた。枯死木から優占的に分離される Raffaclea quercivora[ラファエレア・クエルキボーラ]が病原菌であり、カシノナガキクイムシが病原菌のベクターである。カシノナガキクイムシの穿入を受けた樹木が枯死するのは、マスアタックによって樹体内に大量に持ち込まれた病原菌が、カシノナガキクイムシの孔道構築に伴って辺材部に蔓延し、通水機能を失った変色域が拡大するためである。未交尾雄が発散する集合フェロモンによって生じるマスアタックは、カシノナガキクイムシの個体数密度が高い場合に生じやすい。カシノナガキクイムシは、繁殖容積が大きく含水率が低下しにくい大径木や繁殖を阻害する樹液流出量が少ない倒木を好み、このような好適な寄主の存在が個体数密度を上昇させている。被害実態調査の結果、大径木が多い場所で、風倒木や伐倒木の発生後に最初の被害が発生した事例が多数確認されている。これらのことから、薪炭林の放置によって大径木が広範囲で増加しており、このような状況下で風倒木や伐倒木を繁殖源として個体数密度が急上昇したカシノナガキクイムシが生立木に穿入することで被害が発生していることが示唆された。
Ⅰ.はじめにⅡ.被害の概要
1.病徴
2.被害樹種
3.被害地の地形
Ⅲ.カシノナガキクイムシ
1.成虫の形態2.生活史
3.繁殖能力
4.野外生態
5.マスアタックの発生機構
6.寄主選択
Ⅳ.カシノナガキクイムシの共生菌
1.病原菌の探索
2.Raffaclea quercivora の性質
3.Raffaclea quercivora の病原性の証明
4.カシノナガキクイムシがベクターであることの証明
5.樹木が萎凋枯死に至るメカニズム
6.Raffaclea quercivora と他の共生菌の役割
Ⅴ.カシノナガキクイムシの繁殖成否と樹木の生死
1.カシノナガキクイムシの繁殖阻害要因
2.樹木の生死を分ける要因
3.樹木の生死とカシノナガキクイムシ繁殖成功率
Ⅵ.被害発生要因
1.カシノナガキクイムシは一次性昆虫か二次性昆虫か?
2.被害の発生・拡大・終息のメカニズム
3.被害発生要因の検討
1)ならたけ病
2)雪の影響
3)温暖化の影響
4)倒木の発生
5)樹木の大径化
6)R. quercivora またはカシノナガキクイムシの侵入
Ⅶ.おわりにR. quercivora やカシナガが侵入種であるとしても、R. quercivora の樹体内への蔓延を助長するカシナガの個体数密度の上昇が枯死被害の前提条件になっている。カシナガの個体密度は、薪炭林の放置によって好適な寄主となりうる大径木が広範囲で増加していることと、このような状況下で発生した倒木が発生源になることで急上昇する。そして、個体数密度が上昇したカシナガが生立木に穿入することで発生した最初の枯死被害は、大径木が広範囲に拡がっていることや温暖化の影響によって次々に拡大することが考えられる。
燃料革命以前に行われたいた薪炭林施業の伐採サイクルは15~20年程度とされている(広木、2002[広木詔三(2002)里山の生態学.333pp、名古屋大学出版会、名古屋.])。カシナガは細い樹木では繁殖できないことから(小林・上田、2002b[小林正秀・上田明良(2002b)長さの異なる餌木へのカシノナガキクイムシの穿入と繁殖.森林応用研究11(2):173-176])、薪炭林施業が継続されていれば、現在のような被害には至らなかったはずである。本被害の多くは燃料革命以降に放置された広葉樹二次林で発生しており、本被害の発生と拡大に、燃料革命によってもたらされた樹木の大径化と温暖化関与している疑いが濃厚である。大径木が次々に枯死するという異常事態が燃料革命と無関係でないことは、持続可能な循環型社会への移行が急務であることを示唆している。
※井上牧雄・西垣眞太郎・西村徳義「コナラとミズナラの生立木,枯死木および丸太におけるカシノナガキクイムシとヨシブエナガキクイムシの穿入状況と成虫脱出状」(『森林応用研究』7、1998年)
QRコード
記事検索
最新記事
カテゴリ別アーカイブ
月別アーカイブ
タグクラウド