2020年07月
(Japan In-depth 2020.07.24)
・経産省による石炭火力の整理は太陽光にコストで敗北した結果である。
・石炭火力は十余年でなくなる。ガス火力も原発もなくなる。
・発電関連業界は今後様相を一変する。
経済産業大臣が石炭火力発電の見直しを発表した。3日の記者会見で脱炭素社会の実現を目指すため石炭火力は2030年に向けてフェードアウトさせる旨を明言した。だが、同時に石炭火力を残存させたい希望もにじませている。まず「非効率石炭[火力発電]の早期退出」とフェードアウトの対象を限定している。そして質疑では「高効率の石炭火発」や「償却が終わりに近づいているとか終わったプラント」を残したい本音を示唆している。石炭火力は将来どの程度残るのだろうか?まずは残らない。なぜなら石炭火力の縮小決定はコスト敗北の結果だからだ。それからすれば石炭火力は遠くないうちに絶滅するのである。■フェードアウトはコスト敗北の結果
①は新設火力と新設太陽光のコスト逆転(2016年)
■石炭火力はなくなる
■原発も天然ガス火力もなくなる
■電力関連業界は一変する
(東洋経済ONLINE 2020.07.27 5:50)
原子力発電所の再稼働が遅れている現在、石炭火力発電が生み出す発電量は全体の32%を占めている(2018年度実績)。今回やり玉に挙げられた旧式の石炭火力は、その約半分を占める重要な電源だ。
環境性能では劣る反面、設備が簡素であるためメンテナンスが容易で、減価償却が進んでいることもあり、「競争力では非常に優位にあった」(JERA(ジェラ)の奥田久栄常務執行役員)。つまり電力会社にとっては「非効率」ではなくむしろ「高収益」の設備だった。
それだけに、電力各社への衝撃は大きい。虎の子の資産に対して経産省から環境性能の面で“不適格”の烙印が押されたからだ。方針発表後、電力各社には投資家からの問い合わせが相次いだ。
日本ではこれまでエネルギーの制約から脱炭素化は絵空事と見なされてきた。それが今や企業のビジョンや成長戦略の柱として語られるようになってきた。日本経済団体連合会が音頭を取る形で、脱炭素化を目指す企業連合の「チャレンジ・ゼロ」が動き出したのも危機感の表れだ。脱炭素化の潮流を理解し、自らを変革できた企業だけが生き残る。[記事末結論]
旧式石炭火力のフェードアウト方針は2年前に決定
温暖化対策で、はるか先を行く欧州
世界に目を転じると、日本とは違った光景が広がる。先端を走るのは欧州連合(EU)だ。エネルギー面での取り組みや、環境などに配慮したESG(環境・社会・企業統治)投資の状況を比較すると、日本より欧州のほうがはるかに踏み込んで対応していることがわかる。欧州委員会が明らかにした「水素戦略」
2015年9月の国連SDGs(持続可能な開発目標)と、同12月の地球温暖化対策のためのパリ協定採択をきっかけに、欧州委員会は「サステイナブル金融に関するハイレベル専門家グループ」(HLEG)を設立。2018年1月のHLEG最終報告書において「タクソノミー」の導入が提言された。
タクソノミーとは、一般に「分類」を意味する。ここでは地球温暖化対策を進めるうえでの投資対象として、各産業分野における技術や製品の適格性を分類する。
今年3月にまとめられた「サステイナブル金融に関するテクニカル専門家グループ」(TEG)の最終報告書によれば、環境に優しいとされる「グリーン」に分類された投資対象に石炭火力発電は含まれていない。
●自然エネルギーが世界で急拡大、日本は後進国に 飯田哲也さんに聞く(吉田昭一郎)
(西日本新聞 2020/7/28 11:30 更新:2020/7/29 16:18 更新)
●「太陽光と風力が世界のエネルギーの中心に」
●石炭火力を下回る発電コスト
●送電線接続ルール、再生エネ普及を妨げ
飯田さんによると、日本では石炭火力発電の原価は1キロワット時当たり4円~8円程度。これに対し、最新型の太陽光は10円を切るところまで来ている。日本の再生エネが比較的高いのは、初期の高い固定単価で稼働する太陽光がまだ残っていることと、大手電力会社が新規の再生エネ事業者に求める高額な送電線接続負担金の影響もあるという。●送配電の分離、完全独立こそ1丁目1番地
飯田さんたちは「日本と再生」で、再生エネの発展を妨げる壁として、その接続負担金とともに、大手電力会社の送電線運用の問題を指摘した。
「電力会社は系統の全発電所が最大限発電していると想定して送電線の空き容量を計算するので、実際には送電線にほとんど電気が流れていないのに『空き容量はゼロ』として事実上、新規事業者を締め出し自然エネルギーの普及を妨げています。しかも送電線の使用は先着優先としており、自分のところの原発や石炭火力などの電気を優先して流す。電力量が多すぎると、『出力抑制』と称して自然エネの電気から排除して買い取らず、その補償もしない。そうした不明朗、不公正な運用を見直して、FIT(固定価格買い取り制度)法の本来の目的『自然エネの優先接続・優先給電』を実現しないと、日本の遅れは取り戻せません」
欧州など各国が脱炭素化へ本腰を入れる中、石炭火力になお依存し新増設計画も抱える日本への海外の批判は厳しさを増す。政府は今月3日、CO2排出量が多い旧型の石炭火力発電所114基のうち100基程度を30年までに休廃止させる方針を発表。新型の石炭火力は残し、新増設も認めるとした。
これに対し、飯田さんは「ある意味で、フェイクまがい」と厳しい。「『114基のうち100基程度の廃止』とは大胆な決定に聞こえますが、『やっているフリ』ではないか。旧型の石炭火力は小型が多く、建設・計画中の大型石炭火力を加えれば正味の電力量は基数ほどには大きく減らず、国のエネルギー基本計画を維持したまま、2030年の化石燃料の電源構成比率56%を温存するわけですから」
政府は同時に、再生エネ推進を掲げ送電線への優先接続など、今のルールの見直しも進めるとしている。飯田さんの提案はこうだ。●石炭火力見直し エネルギー戦略、原発も逃げず議論を(松尾博文)
「1丁目1番地は大手電力会社の発電と送電の分離をきちんと実行すること。電力各社は今春、法改正に伴い分社化していますが、送電会社を子会社にしたり持ち株会社の傘下に入れたりしただけ。それでは、送電会社は親会社や持ち株会社の利害に沿って送電線を運用してしまい、中立・独立からはほど遠い」
「各地の送電会社を資本面で完全に独立させたら国内一つの公益会社に統合。北欧の国際電力市場『ノルドプール』など欧州の先進地の人材を招いて、自然エネルギーの優先接続・優先給電原則のもとで電力市場を一から設計し直し、最新のソフトウエアを導入する。そこまで踏み込まないと、送電網の運用も含めて市場運営上の透明性、公平性が担保できず、自然エネルギーは広く普及できないと思います」
(日経電子版 Nikkei Views 2020.07.29 2:00)
エネルギー政策の長期指針となる「エネルギー基本計画」は、30年度に実現する3つの政策目標を掲げる。(1)欧米に遜色ない温暖化ガス削減を実現する(2)電力コストを現状より引き下げる(3)エネルギー自給率を東日本大震災前を上回る25%程度に引き上げる――だ。
エネルギー指標を国際比較すると、日本が気候変動の対応以上に劣後する2つの数字がある。自給率と電気料金の水準だ。17年の自給率は9.6%と、経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国中(17年時点)で34位だ。東日本大震災以降、最下位のルクセンブルクに次いで下から2番目が定位置になっている。米国93%、英国68%、フランス53%、ドイツ37%などと比べて、日本は主要国の中で際だって低い。
経産省によれば、17年度の電気料金は震災前と比べて家庭用で16%、産業用で21%高い。産業用で38%高となった14年のピークから下がったとはいえ、高止まりが続く。国際エネルギー機関(IEA)によれば、16年の発電コストは米国や東南アジアの2倍、欧州連合(EU)の1.5倍だ。
低い自給率は国家安全保障の、割高な電気料金は国際競争力の観点から放置できない。エネルギーを1割も自国でまかなえず、電気料金が2倍の国に誰が投資しようとするだろうか。温暖化問題に隠れがちだが、日本は深刻な弱点を抱える。
低い自給率は化石燃料への依存度が高いことに起因する。電源の約8割を占める、石炭や液化天然ガス(LNG)、石油はほぼすべて輸入に頼る。戦前、戦後を通じて日本がエネルギー安保の呪縛に捕らわれてきた理由はここにある。自給率引き上げへ、国産エネルギーである再生エネの拡大に注力することは正しい。
ただし、石炭が担ってきたエネルギー供給の役割を、すぐに再生エネで代替できると考えるのは早計だ。日本では再生エネのコストは地理的な条件や送電網の制約などから、まだ石炭火力より高い。時間や天候で変動する再生エネの供給を平準化する技術の定着には投資と時間が必要だ。
原発は温暖化ガスを出さない脱炭素の有力手段であり、国産エネルギーに位置付けられる。安全対策費用が一定に収まる限り、既存原発を再稼働できれば化石燃料よりも発電コストは安い。エネルギー基本計画で掲げる3つの政策目標の達成には原発が必要なのだ。
しかし、様々な世論調査では、福島第1原発事故から9年が経過しても原発への不信感は根強く、必要だとする回答はむしろ下がっている。エネルギー政策の大前提である安全問題を克服できていない。
原発比率20~22%の実現には30基程度の原発が必要だが、再稼働は9基にとどまる。政府は50年に温暖化ガス排出の8割削減の目標も掲げる。この実現には、ほぼすべての火力発電が現状の形では使えない。
原発の運転を40年ですべて停止した場合、49年に国内の原発はゼロになる。運転期間を60年に延長しても50年代には数基となり、69年にはゼロになる。こうなることは早くからわかっていたはずだが、国は議論の先送りを続けてきた。
国民の不信感が強い状況で、原発に触れないのはある意味、政治の当然の選択でもある。しかし、エネルギーをめぐる環境変化は速度を上げる。これ以上、時間を空費するわけにいかない。原発を日本のエネルギー戦略にどう位置付けるのか。新増設をどうするのか。そのために国民の理解をどう得るのか。得られなければどうするのか。この議論から逃げない胆力が問われる。●小泉進次郎氏が異例のテレビ出演 石炭火力輸出厳格化に「前代未聞だ」
(SankeiBiz 2020.07.30 01:29)
小泉進次郎環境相は29日夜、BSフジ番組に出演した。自身が主導した石炭火力発電の輸出支援の要件厳格化について「凍り付いたエネルギー政策が解凍され始めた。(政府方針に)『(輸出)支援しないことを原則とする』と書いたのは前代未聞だ」と述べた。小泉氏のテレビ出演は、選挙番組をのぞけば極めて異例だ。
小泉氏は、政府が石炭火力の削減に取り組む一方で、地元の神奈川県横須賀市で石炭火力発電所の新設が進められていることに関して「批判はあるが、地元のことをやめれば済むのではない。日本全体を動かす政策の変化につなげられるかに力を入れている」と強調した。
原子力発電の推進の是非は「脱炭素社会をつくるカギは原発と国際社会で認識は共有されている。ただ、日本は原発事故を起こした。そのリスクを国民とどう議論するかだ」と言葉を濁した。
首相への意欲を問われると、「首相が決めればできることはいっぱいある」と述べつつも「就けるかどうかは別だ。首相になるにはこの人を支えたいという仲間がいなければならない」と述べた。
(環境ビジネスオンライン 2020.07.15)
環境省は7月14日、2019年度の電気事業分野における地球温暖化対策について、電力業界の自主的枠組みと政府の政策的対応の2つの柱で、進捗状況を評価した結果を発表した。●経済産業省との合意に基づき評価を実施
この評価レポートでは、電力業界の自主的枠組みと政府の政策的対応の全体として、「一定の改善・進捗もあり、評価に値する一方で、今なお多くの課題が残存している」と指摘し、「電気事業分野における2030年度の目標達成に向けた道筋は不明瞭であり、早急に示す必要がある」とした。
●現状で2030年度のCO2削減目標達成は困難
【参考】電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価結果について(環境省)
●電力各社の脱石炭、市場が見つめる切り替えコスト(森国司)
(Reuters 2020.07.17 18:37)
<輸出支援、「しない」のか「厳格化」か>
<世界への貢献>
<100基廃止でも残る石炭火力>
一方、国内では、140基ある石炭火力発電のうち、発電効率が低い114基の発電を「できる限りゼロに近づけていく」という方針を打ち出した。全発電量に占める石炭火力は2018年度で32%。内訳は、高効率26基で13%、非効率の114基で16%、化学メーカーや鉄鋼メーカーなどの自家発電分が3%となっている。<原発の再稼働困難、さらなる対応は>
この比率からわかる通り、旧型の非効率な石炭火力は小型なものが多く、今後新設される高効率の最新の石炭火力は大型なものが多い。「140基中100基が休廃止」という数字の印象と実態とは異なる。地球環境戦略研究機関(IGES)は「2030年時点では50基の石炭火力が残る」とし、設備容量で見た場合「今回の方針による削減は3割程度」と推計している。
CO2排出についても「高効率な石炭火力でも、CO2排出量は、非効率なものより数%しか減らない」(自然エネルギー財団)と指摘。今回、高効率なものを日本が継続するという姿勢を示したことに懸念を示している。
一方、東京電力グループと中部電力が出資するJERAの小野田聡社長は「事業の予見性が高まる」と評価するとともに、日本が資源の少ない国であることを考えると、経済、環境、安定供給をバランスしたものが必要だとし「そのなかで石炭火力は一定程度の役割をもつ」との認識を示している。
梶山経産相も、非効率な石炭火力のフェードアウト方針は、2018年に決めたエネルギー基本計画で示した2030年度の石炭火力比率26%の達成を確実にするためとしており、さらなる石炭火力発電の比率引き下げを意味するものではないと説明している。
(中日新聞 2020.0718 05.00 (05:01更新)
石炭火力大国日本。国際社会の批判が高まる中で、ようやく古い発電所の休廃止にかじを切る。だが、新設や途上国への輸出は、続けていくという。温暖化対策の「抜け穴」が、大き過ぎないか。
日本政府は、主要七カ国(G7)の中で唯一、国際協力銀行(JBIC)の低利融資や政府開発援助(ODA)などにより、途上国に対する石炭火力発電所の輸出支援を続けている。
国際エネルギー機関(IEA)によると、石炭火力は世界の発電・熱供給部門の二酸化炭素(CO2)排出量の約七割を占めており、国際社会から、地球温暖化の元凶と見なされている。
温暖化対策の新たな国際ルールであるパリ協定は、温暖化による破局的な影響を回避するために、産業革命前からの世界の平均気温上昇を1.5度に抑えるよう求めている。
そのためには、2050年にはCO2排出量を実質ゼロにしなければならず、国連のグテレス事務総長は昨年来、「20年以降は、石炭火力の新設は禁止すべきだ。さもなくば大災害に直面する」と訴えている。“凶暴化”する豪雨の被害にあえぐ日本にとっても、身に迫る指摘であるはずだ。
欧米の国々や自治体、温暖化の影響が深刻な小島しょ国などが「脱石炭国際連盟」を結成して石炭火力の全廃に向かう中、コロナ禍が「脱炭素」に拍車をかけた。
経済活動が停滞し、電力需要が減少したのをきっかけに、化石燃料から再生可能エネルギーへ電源の転換を図る企業が増えている。
しかるに日本は、国内にある低効率の旧型火力を段階的に廃止する一方で、CO2排出をある程度抑えた新型火力の新設は続けていくという。
輸出支援は環境性能の高いものに限るなど、要件を厳格化するとは言うものの「禁止」には踏み込まない方針だ。
だが最新鋭の設備といえども、CO2の排出量は天然ガスの二倍に上り、温室効果ガスの大量排出源であることに変わりはない。
新設の発電所を四十年稼働させるとすれば、その間はCO2を出し続けることになる。パリ協定の要請に見合わない。
CO2の回収貯留や再利用の設備を併設すれば、そこに膨大なエネルギーと費用がかかる。
国内では「全廃へ」、輸出は「禁止」。再生可能エネルギーへの切り替えを加速させないと、世界の理解は到底得られない。
(日経ビジネス 2020.07.20)
経済産業省は7月3日、二酸化炭素(CO2)の排出量が多い低効率な石炭火力発電所の休廃止を進めると表明した。13日には削減に向けた制度設計の議論を始めた。背景には何があったのか、石炭火力の休廃止は今後、国のエネルギー政策にどのように影響していくのか。エネルギー産業論を専門にする国際大学国際経営学研究科の橘川武郎教授に聞いた。
-梶山弘志経済産業相が、二酸化炭素(CO2)を多く排出する低効率な石炭火力発電所の休廃止を進めると表明しました。
橘川武郎氏(以下、橘川氏):石炭火力をフェードアウトするという部分が注目されていますが、同時に、高効率の石炭火力については続けていくということを経産省が宣言したとも言えます。私はむしろ、高効率の石炭火力維持が本質ではないかとみています。……
-多くの人が「経産省が石炭火力をやめる方向に舵(かじ)を切った」とみているのではないかと思います。●原子力のポジションが後退
橘川氏:効率の悪い石炭火力を休廃止して高効率なものに変えていくという方針を、経産省は2018年に出した第5次エネルギー基本計画でも示してきました。今回もその通りのことを言ったにすぎない。政策転換とは言えないでしょう。
-再稼働が進まない原発は新設や増設も停滞しています。国が示した30年度の電源構成では原子力を20~22%としていますが、実現は難しそうです。
橘川氏:私は総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の基本政策分科会の委員を務めていますが、7月頭にあった会合では、以前に比べて原子力のポジションが非常に後退しているような印象を受けました。……
-原子力のポジションが後退したのはなぜでしょうか。●地方の電力会社への影響大きい
橘川氏:打開策を見いだせず、手の打ちようがないのでしょう。原子力政策は国策民営です。これまで政府は、まず電力会社が手を挙げて、その後に国が支援、応援するという形を取ってきました。福島第1原発事故の例が分かりやすいのですが、福島を訪問して謝罪したのは東京電力で、その支援に回ったのが国でした。……
同じベースロード電源という位置付けの中、石炭火力を減らすことと原子力を増やすことはセットの議論になってきました。ところが、今回は石炭火力だけの議論になっている。そこには、高効率の石炭火力だけでも守らなければならないという考えがあるように思います。
-とはいえ、多くの電力会社が低効率な石炭火力発電所を持っています。大きな影響が出るのではないでしょうか。
橘川氏:電力会社を十把ひとからげにしないことが大切です。保有する石炭火力の種類とその電力会社の組み合わせをよく見ると、大きい電力会社ほど影響はありません。……
影響が大きいのが、低効率の石炭火力が多い東北電力や中国電力、北陸電力といった地方の電力会社です。原発再稼働ができない中で、古い石炭火力に頼らざるを得ない状況なのです。これらの電力会社が持つ石炭火力が休廃止の対象になると、経営にも影響してくるでしょう。
-日本の石炭火力に対する海外からの批判は、これで少しは落ち着くでしょうか。
橘川氏:世界から見れば、「高効率のUSCといえども、石炭火力はまだ残っているではないか」という厳しい評価になると思います。また日本に「化石賞」が贈られるかもしれません。……
だから、今回もそんなに簡単にすべての石炭火力をフェードアウトすることなんてできない。……。
海外に目を向ければ、フランスや英国は石炭火力を止める方針ですが、原子力は推進します。ドイツも石炭火力をやめる方向ですが、2038年とまだ先の話です。世界の大国で、原子力も石炭火力もやらないと言っている国はほとんどありません。……
<電気事業を取り巻く情勢>
<電気事業分野の低炭素化・脱炭素化に向けて>
○電気事業分野における 2030 年度目標や上記政府方針の達成に向けた進捗については、以下の点が注目される。
・現在の石炭火力発電の新増設計画が全て実行され、ベースロード電源として運用されると、仮に既存の老朽石炭火力発電が順次廃止されたとしても、2030年度の削減目標やエネルギーミックスに整合する石炭火力発電からのCO2排出量を約5,000万トン超過する可能性がある。現時点でこそ、電気事業分野全体のCO2排出係数は改善傾向にあるものの、環境省の試算によれば、2030 年度の目標達成は困難であり、パリ協定で掲げる脱炭素社会の実現も視野に入れ、更なる取組の強化が不可欠である。中長期的な脱炭素化に向けて、脱炭素社会への現実的かつ着実な移行に資する「脱炭素移行ソリューション」を目指すことが必要である。
・石炭火力発電について現状で明らかになっているところでは、新増設計画がある一方で、休廃止計画は少なく、石炭火力発電の設備容量は大きく純増する。環境省の試算では、2019年度における非効率な石炭火力発電(超臨界(SC)以下の設備)設備容量は石炭火力発電(自家発自家消費設備を除く。)の約5割、2030年度においては約4割を占める。CO2削減目標の達成に向けて、こうした非効率な石炭火力発電のフェードアウトに向けた取組を着実に進めることが必要である。今般、経済産業省から、フェードアウトに向けた新たな取組の検討に着手するとの発表があった点も踏まえ、環境省として、非効率な石炭火力のフェードアウトに向けた取組を厳しく注視してまいりたい。
・CO2排出削減をパリ協定の長期目標と整合的に実現するためには、高効率な火力発電設備についても、更なる高効率化・次世代化を進める必要がある。再生可能エネルギーによる出力変動への柔軟な対応、燃焼に伴ってCO2を排出しないエネルギーであるバイオマス・水素・アンモニア等の混焼、排出されるCO2を回収して有効利用・貯留するCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の活用など、火力発電のゼロエミッション化が重要である。これらに向けたイノベーションを総合的に後押しし、「ゼロエミッション火力」の実現可能性を追求すべきである。このような「脱炭素移行ソリューション」を通じて、脱炭素社会への現実的かつ着実な移行を目指す必要がある。
・再生可能エネルギーの主力電源化は、「脱炭素移行ソリューション」の一環としても重要である。エネルギーミックスで掲げる22~24%という水準を着実に達成しなければならない。さらに、これにとどまらない一層の導入拡大が必要である。2019年4月に発足した環境省・経済産業省の連携チームによる取組等を通じ、地域の再生可能エネルギーを活用した分散型エネルギーシステムの構築等、更なる取組の加速化が求められる。
・併せて、再生可能エネルギーの導入拡大に伴う系統制約の克服に向け、系統増強に加え、既存系統の最大限の活用(日本版コネクト&マネージ)の取組の一つである「ノンファーム型接続」の2021年中の全国展開に向けた着実な取組とともに、地域における再生可能エネルギーの需要に応じた系統整備・活用が進むことを期待する。
○脱炭素社会の実現に向けては、脱炭素な調整力としても活用でき、新たなエネルギーの選択肢となり得る水素や、CCUS 等の脱炭素技術等について、その商用化や社会実装の見通しを具体的に示すことが必要である。
(1)電力業界の自主的枠組みの現状について
○今般、協議会は、2030年度のCO2排出係数に係る目標の達成に向け、その取組の自主的枠組みにおいて、協議会のCO2排出係数の妥当性を定量的に評価・分析する仕組みを新たに導入した。(2)政府の政策的対応の現状について
○これは、取組の実効性を向上させ得る努力として高く評価したい。しかし、こうした自主的枠組みも、PDCAサイクルの実効性確保の点で万全とまでは断言しがたく、目標達成への具体的な取組の道筋は今なお明らかでない。引き続き、会員事業者数の増大も含め、更なる努力に期待したい。
<省エネ法関係>
○省エネ法の下、発電事業者に対し、火力発電設備の効率として達成すべきベンチマーク指標が設定されており、2019年度実績では目標の水準を上回っている。<エネルギー供給構造高度化法関係>
○一方、この指標の達成に向けた複数事業者の共同による取組(いわゆる共同実施)の在り方等を巡る議論については、未だ結論が得られていない。
○火力発電の着実な低炭素化に向けては、ベンチマーク指標の継続的な達成が必要である。ベンチマーク指標やその達成の在り方を巡る議論の進展は引き続き注視すべきである。非効率な石炭火力発電のフェードアウトは、今なお道半ばにある。
○エネルギー供給構造高度化法の下、小売電気事業者等に対し、2030年度に達成すべき非化石電源(再生可能エネルギー等)の比率の目標が設定されている。また、目標達成のための仕組みとして、非化石価値取引市場も創設・運営されている。(3)電力業界の自主的枠組み及び政府の政策的対応の全体について
○この目標に関しては、2030年度に至るまでの途中の期間における中間評価の基準として、2022年度までの期間に係る定量的な基準が策定されたことは評価したい。
○一方で、今後の非化石電源比率の目標の達成状況については、非化石市場の在り方や各事業者の取組と合わせて、引き続き注視すべきである。2023年度以降の期間に係る中間評価の基準についても、より野心的な目標値の早急な策定が望ましい。
○電力業界の自主的枠組み及び政府の政策的対応には、一定の改善・進捗もあり、評価に値する一方で、上記のとおり、今なお多くの課題が残存している。電気事業分野における2030年度の目標達成に向けた道筋は不明瞭であり、早急に示す必要がある。4.今後に向けて~コロナからの復興とこれからの地球温暖化対策~
1.評価の背景及び目的
(1)はじめに
(2)電力の低炭素化・脱炭素化を巡る潮流
(3)電気事業を取り巻く環境の変化
(4)評価に関する基本的考え方
2.電気事業分野の低炭素化・脱炭素化に向けて
(1)CO₂排出量及びCO₂排出係数の状況等
(2)火力発電の低炭素化
(3)再生可能エネルギーの主力電源化
(4)長期的な脱炭素社会の実現に向けたイノベーション
3.電力業界の自主的枠組み及び政府の政策的対応に関する進捗状況の評価
(1)電力業界の自主的枠組みの評価
(2)政府の政策的対応等の評価
4.今後に向けて ~コロナからの復興とこれからの地球温暖化対策~
1.評価の背景及び目的
(1)はじめに
●2018年度の日本の温室効果ガス排出量(確報値)
●部門別CO₂排出量(電気・熱配分前)
●電気事業分野における地球温暖化対策について
●パリ協定の目標
●2℃目標に整合する緩和経路
●1.5℃目標に整合する緩和経路
●残余カーボンバジェットについて
●化石燃料可採埋蔵量の座礁資産化リスク
●(参考)石炭火力発電の座礁資産化リスク
●脱炭素経営に向けた取組の広がり
●国内金融機関の石炭火力発電事業に対する方針
●電力システム改革の動向
●新たな市場の整備動向
●プッシュ型系統整備への転換
●災害に強い分散型電力システムの促進に向けた環境整備
(4)評価に関する基本的考え方
●進捗状況の評価にあたっての基本的考え方
2.電気事業分野の低炭素化・脱炭素化に向けて
(1)CO₂排出量及びCO₂排出係数の状況等
●火力発電からのCO₂排出量及びCO₂排出係数について
●排出係数・電源構成に関する情報開示
(2)火力発電の低炭素化
●石炭火力発電の設備容量とCO₂排出量について
●地域での再エネ拡大に向けた経産省との連携チームでの取組例について
●既存系統の最大限の活用(日本版コネクト&マネージ)
(4)長期的な脱炭素社会の実現に向けたイノベーション
●各種計画等におけるイノベーションについての記載
●環境省におけるCCUの取組例
●環境省における再エネ由来水素サプライチェーン構築に向けた取組例
●「地球温暖化対策に係る長期ビジョン」(電気事業低炭素社会協議会)
3.電力業界の自主的枠組み及び政府の政策的対応に関する進捗状況の評価
(1)電力業界の自主的枠組みの評価
●電気事業低炭素社会協議会について
●協議会におけるCO₂排出削減実績
●CO₂排出量・排出係数の改善要因について
●目標達成に向けた協議会のPDCAサイクルについて
●協議会会員企業のカバー率について
●取引所取引における電源構成の把握について
(2)政府の政策的対応等の評価
●省エネ法に基づく火力発電の判断基準について
●エネルギー供給構造高度化法について
●高度化法における非化石電源比率の実績
●定量的な中間評価の基準について
●新型コロナウイルス感染症によるエネルギー需要への影響
●新型コロナウイルス感染症のエネルギー需要に対する影響
●電力の安定供給とクリーンエネルギーへの移行に関する示唆
●新型コロナウイルス感染症の我が国の電力需要への影響
●ゼロカーボンシティの拡大
●経団連による「チャレンジ・ゼロ」
2019年度の電力事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価の結果、いわゆる電力レビューを取りまとめましたので、ここに報告をしたいと思います。電力レビューは2016年2月の環境大臣と経産大臣の合意に基づいて、2030年度の削減目標やエネルギーミックスと整合する電力の排出係数0.37kg-CO2/kWhという目標の達成に向けて、電力業界の自主的取組や省エネ法や高度化法といった政策的対応が継続的に実効を上げているか進捗状況を評価するものです。それが電力レビューです。
2019年度の電力レビューでは、各種機関が公表しているデータや分析レポートなどのファクトをベースに評価を実施して、評価結果としては、現時点では電力事業分野のCO2排出量、排出係数は改善傾向にあり、高度化法においても2020年度までの期間に係る定量的な基準が策定されるなどの一定の進展もあり、評価に値するものの、このままでは2030年度の目標達成は困難であり、脱炭素社会の実現も視野に更なる取組の強化が不可欠であると総括をしています。
……中長期的な脱炭素化に向けて、脱炭素社会への現実的かつ着実な移行に整合的な脱炭素移行ソリューションを目指すことが必要だと考えています。ポイントは大きく3点です。
まず、一つ目のポイントは、再生可能エネルギーの主力電源化を一層加速化すべきということであります。2018年度の発電電力量に占める再生可能エネルギー比率は16.9%であります。再生可能エネルギーの主力電源化に向けて、エネルギーミックスで掲げる22から24%の着実な達成と、それにとどまらない一層の導入拡大が必要であります。このため、分散型エネルギーシステムの構築に向け、昨年4月に発足した環境省、経産省の連携チームの取組を一層推進していきます。また、千葉県などで試行的に実施されているノンファーム型接続の2021年中の全国展開や、地域における再生可能エネルギー需要に応じた検討・整備・活用に向けた取組が重要であり、経産省や関係業界による一層の推進を期待したいと思います。
次に、二つ目のポイントは、非効率な石炭火力発電の休廃止、稼働抑制といったフェードアウトに向けた取組を着実に進めるべきということであります。環境省の試算によると、石炭火力発電所の新増設計画が予定どおり実行されると、2030年度の削減目標を約5000万トン超過することになります。これは2030年度の我が国全体の削減目標に整合する排出量の約5%に相当します。削減目標の達成に向けて、非効率な石炭火力発電のフェードアウトに向けた取組を着実に進めるとともに、火力発電全体からのCO2排出削減に向けて石炭火力発電の高効率化、そして次世代化、これを進める必要があります。
今般、梶山経産大臣により、非効率な石炭火力のフェードアウトを目指していく上で、より実効性のある新たな仕組みを導入すべく、今月中に検討を開始して取りまとめるように事務方に指示したという御発言がありました。改めて、梶山大臣のリーダーシップに敬意を表したいと思います。この発表によって、国内において非効率な石炭火力発電のフェードアウトに向けた取組の具体化が進んでいくことになります。
足元において非効率な石炭火力発電は約2400万キロワット、石炭火力発電の全体の約5割存在しており、地球温暖化対策を所管する環境省として、こうした非効率な石炭火力発電のフェードアウトに向けた取組を厳しく注視していきたいと思います。
最後に、三つ目のポイントは、将来的なゼロエミッション火力の可能性を追求すべきということであります。パリ協定の長期目標と整合的に火力発電からのCO2排出削減を実現するためには、火力発電の更なる高効率化、これを進めて、究極的には火力発電でありながらCO2の排出が実質的にゼロである火力発電、いわゆるゼロエミッション火力、この可能性を追求する必要があります。ゼロエミッション火力を目指すに当たって、排出削減を円滑かつ着実に実現するため、これまで培ってきた経験、知見も生かして既存の石炭火力発電、LNG火力発電でのバイオマス、水素、アンモニアなどの混焼を促進して、さらにその割合の段階的な向上を図って、それでもなお避けられない排出分については、排出されるCO2を回収して有効利用、貯留するCCUSの活用を検討する、こうしたゼロエミッション火力に向けたイノベーションを関係省庁、関係業界と連携しながら、総合的に後押しをして世界に先駆けたゼロエミッション火力の実現の可能性を追求していきます。質疑応答
電気事業分野は我が国全体のCO2排出量の約4割を占める最大の排出源であり、他部門での排出削減努力にも大きく影響を及ぼすことから、電気事業分野の地球温暖化対策は非常に重要であります。今回の評価結果や気候変動問題とエネルギー問題の関連性が一層高まってきていることも踏まえて、今後ともエネルギー政策を所管する経産省と密接な意思疎通を図りながら、2030年度の削減目標の確実な達成、そして2050年にできるだけ近い時期での脱炭素社会への実現に向けて取組を進めていきます。なお、評価結果の詳細については、後ほど事務方から説明をさせていただきます。……
(記者)[時事通信] 地球温暖化対策計画の見直しに関連してですが、NDCについて26%の水準にとどまらない削減努力と、更なる野心的な削減努力を反映した意欲的な数値を考えていくということなんですが、大臣はどのような数値にしていきたいとお考えでしょうか。
(大臣)それはやってみた上で出るものがまさに数字ですから、今からここだというふうに決めることは、現段階では言うことではないなと思います。いずれにしても、大事なことは、石炭火力の海外輸出、この公的信用の政策の見直しが実現をした背景にはファクトをベースに議論したと、このファクト検討会の役割は相当大きかったと私は思います。今後、このファクトをベースに議論するということが霞が関、そして政治の中での常識となっていくように、この両審議会の合同会議、この場でもしっかりとファクトに基づく議論を積み上げていただければ、NDCときに日本からお約束をした更なる野心的な削減努力を反映した意欲的な数値につなげていけると、私はそう確信をしています。この両審議会の精力的な議論に期待をしています。
(記者)[朝日新聞] 温対計画の見直しなんですけれども、先ほど、ポストコロナというところを最初に議論しなければいけないということでおっしゃっていて、コロナによって、特に温暖化対策という点で大臣はどういう点を視点として加えなければいけない、あるいは変更が迫られるだろうと現時点で考えているか、教えてください。
(大臣)ポストコロナによって相当な行動変容が起きていますよね。テレワーク、リモートワークなどは代表的な一つかもしれません。それはやはり移動というものが根本的に変わってきている新たな社会が今、日々つくり上げられている過程だと思います。その移動が変わってくることによって、最近でも様々なところから、例えば石油の需要が減っているとかいろんな声が起きていますが、こういったことがどのように今後この中でも反映されていくのか、その議論もしなければいけないだろうと。そういったことがまさにコロナ後の社会を見据えた対策、この在り方を議論するということでもあります。それに加えて、これまで毎年実施してきた計画の進捗、これを点検することも大事ですし、この点検を反映した対策の強化や深掘り、これも大事だと思います。そして、脱炭素社会の実現を見据えた、目の前のことだけではなくて中長期の対策の方向性、こういったことも改めて議論されるべきですし、今、石炭火力の海外の公的信用の付与、これを原則やらないと、支援をしないということから、まさにドミノが倒れるように国内の石炭も含めてエネルギー政策全体がうねりを上げて今動き出している中ですから、この合同の審議会の議論を、おのずとそういったことをしっかりと受け止めた上での議論になると私は期待をしているし、環境省としてはしっかりとウォッチしていきたい、また貢献をしていきたいと思います。
(記者)[毎日新聞] 私から2点質問させていただきます。1点目は温対計画の見直しについてです。まず、開始時期というのはいつごろ始められて、今後どういうふうに取りまとめるかという見通しについてお聞きしたいということと、今後特に気候変動絡みで言うと、経産省の石炭火力の見直しとか、エネルギー基本計画の見直しについても来年あると思うので、その辺との兼ね合いをどうするか。まず温対計画の位置付けとして、例えばエネミやエネ基の見直しに向けた弾みにしたいのか、どういう意味合いで捉えていらっしゃるのかということについてお聞かせください。……
(大臣)まず、1点目ですが、この合同会合のスケジュール、そしてアウトプット、これについては、今後、審議会の議論を踏まえて決定していきたいと思います。そして、先ほど[朝日新聞記者]さんからの質問でもあったように、このポストコロナ、そして進捗の確認、点検、対策の強化や深掘りとか中長期の方向性、こういったものも重要な論点になると考えていますので、こういった議論を踏まえた上で温対計画を見直して、来年のCOP26まで追加情報を国連に提出していきたいと思います。そして、今まだ具体的な日時は私は確認していませんが、官邸の方で未来投資会議、ここで環境エネルギーの場ができると聞いています。そういった場で大きな柱となるような、またエネルギー政策の全体像のような議論がされるのではないかなと。そこには経団連の中西会長の思いも相当あると思いますが、そういった場で自由闊達にこのコロナを踏まえて、そしてまた最近の石炭政策の見直しも含めて、最新のファクトに基づく議論が大いになされるべきだろうというふうに思います。温対計画の見直しは、そういったことも含めて同時進行的に進んでいく。そういったことを考えれば、まさに石炭の輸出に原則、支援をしないというところから始まったことが、ドミノが倒れるようにこのエネルギー政策全体が動き出したと、そういった大きな捉え方をして一つ一つのことを動かしていきたいし、よく見ていきたいというふうに思います。……
(記者)[エネルギージャーナル]
(大臣)……私が大臣になってから言っている経済社会の再設計(リデザイン)、そして脱炭素社会、循環経済、分散型社会への移行、この三つの移行も着実に進めて、環境省が社会変革担当省だと、そういった省庁により成長していくべく環境行政の課題に向き合ってくれるのではないか……
(記者)[日刊工業新聞] 再生可能エネルギーの主力電源化の話がありましたので、その関連で質問させてください。大臣は新宿御苑の電気が再生可能エネルギーに切り替わっても従来の電力料金と遜色がなかったという報告をされていますが、電力を大量に使う大規模な事業所はもともと安い電気を使っているので、それに見合う価格の再エネ電気がなくて困っているという話を企業から聞きます。この間の経団連との会談でも、経団連の幹部の方から再エネをもっと安くしてほしいという要望があったかと思いますが、エネルギーの所管はエネ庁ですが、環境省でも再エネの価格を下げていくような施策を考えていらっしゃったら、教えてください。
(大臣)再エネは高いという、この固定観念を覆していきたい。これは環境省がRE100を宣言して、そして自ら一つ一つできるところはRE100、これを進めていて、再エネは必ずしも高くない、安い場合もある。この実現例として自分たちがまず実践をする、社会にその姿を見せたいという思いでやっています。御紹介があったとおり、新宿御苑は30%から100%まで一気に再エネの導入を上げた上で、電力単価は17.1円で変わらない、これを示すことができました。ただ、今御指摘があったとおり、一般的に再エネが安いというところに行くには、更なる努力が必要なのは間違いありません。じゃ、そのために何ができるかというと、間違いないことはマーケットを大きくすること、この再エネの市場の拡大をやる上で環境省が何ができるかと言えば、やはり需要サイドに働き掛けて、その市場を大きくしていく環境をつくっていくこと。私が就任以来、なぜゼロカーボンシティ、この宣言自治体を増やすことに血道を上げているかと言えば、この市場拡大を自治体レベルから、住民レベルから底上げをしていく、こういったアプローチというのは環境省は経産省と違って業界から行くわけじゃないですから、まさに国民側から、需要側からそこの環境をつくっていく。こういったことに加えて、様々個人の再エネの切り替えの促進とか、今それを具体的に進めようとしている企業などとの意見交換をしています。そして、間違いなく、企業の方からも相当声が変わってきたと思うのは、この前の経団連との意見交換もそうですが、石炭が安いから石炭をもっとやってくれなんて言ってくるところは全くありません。再エネをもっと導入しやすい環境をつくってくれと。そして、グローバルで活躍をしている企業にとっては、再エネを導入できなければ、国際的な産業競争力に大きな影響が出る、その環境をつくってもらうような政策的な後押しをやってほしいという、ここの思いというのが相当に強い状況が出てきているので、私はこういった取組を一つ一つ後押しすることで、再エネの需要の拡大が再エネのコストを下げる、そういったところにつなげていきたいと思います。そのためにできることは環境省、あらゆる方策を通じてやっていきたいと思います。
2020年以降の温室効果ガス(GHG)排出削減等のための新たな国際枠組みであるパリ協定は、協定第2条(目的)に世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求することを明記しています。その目的を達成するために、協定はその第4条(緩和)にて国内措置(削減目標・行動)をとることを各国に求めています。
NDCとは、協定第4条に基づく自国が決定するGHG削減目標と、目標達成の為の緩和努力のことを指します。これは締約国がパリ協定批准前に国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局へ提出した「各国が自主的に決定する約束草案」(Intended Nationally Determined Contribution:INDC)が原案となっており、パリ協定批准により正式にNDCとして国連に登録され、各国に対して実施が求められます。
2020年以降に実施が求められるNDCに対し、2020年まではカンクン合意(第16回締約国会議にて決定)に基づいたGHG排出削減による2℃目標達成への努力が進められています。開発途上国においても資金・技術・能力構築等の支援を受けながら、「途上国における適切な緩和行動(Nationally Appropriate Mitigation Action: NAMA)」を自主的に策定し、国連へ実施報告をしています。NDC並びにパリ協定実施の準備が急務となっている中、途上国においてはこのようなNAMAでの経験が十分に活かされています。
単一の発電方法ではなく、エネルギーミックスが必要な理由は、完全無欠な発電方法が存在しないためです。
※[第5次]エネルギー基本計画 2018.07.03
エネルギー基本計画は、エネルギー政策の基本的な方向性を示すためにエネルギー政策基本法に基づき政府が策定するものです。
今回の[第5次]エネルギー基本計画では、常に踏まえるべき点として「東京電力福島第一原子力発電所事故の経験、反省と教訓を肝に銘じて取り組むこと」等を原点として検討を進め、2030年、2050年に向けた方針をお示ししています。
2030年に向けた方針としては、エネルギーミックスの進捗を確認すれば道半ばの状況であり、今回の基本計画では、エネルギーミックスの確実な実現へ向けた取組の更なる強化を行うこととしています。
(eシフト 脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会 2019.03.14)
昨年7月に政府が閣議決定した第5次エネルギー基本計画は、日本のエネルギー・温暖化政策の方向性を示すもので、「エネルギー・温暖化政策の憲法」とも言える非常に重要な計画です。しかし、その内容は、「まず石炭・原発推進ありき」というストーリーのもとに作られており、事実関係も含めて様々な問題があります。
私たち「eシフト」(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)は、この第5次エネルギー基本計画についてファクト・チェックを行い、その結果をまとめたウェブページ(http://www.eshift.club/energyb_fc.html)を作成しました。本ファクト・チェックでは、第5次エネルギー基本計画には104か所の問題記述があると指摘し、それぞれに対して下記の5つの評価をおこない、具体的な問題点とその理由を詳細にコメントしました。
矛盾(エネルギー基本計画の他の箇所あるいは現行のエネルギー・環境政策と矛盾)
意味不明(文意が不明)
半分間違い(部分的な情報は正確だが、重要な詳細情報が不足している。または文脈から逸脱して歪曲)
ほぼ間違い(若干の正確な情報を含むが、重大な事実を無視して印象操作)間違い(不正確な情報)
現在、残念ながら、このような問題が多い第5次エネルギー基本計画に沿って、多くの企業は事業計画をたて、政府は容量市場などの石炭・原発推進につながる新たな政策を十分な国民的議論がないままに導入しようとしています。
私たち「eシフト」は、このファクトチェックが、政府のエネルギー・温暖化政策の矛盾や間違いについて知るきっかけとなり、同時に建設的な議論のプラットフォームにもなることを期待します。エネルギー基本計画ファクトチェック
(Energy Democracy 2020.02.25)
小泉進次郎環境大臣の誕生から、まもなく半年になる。ここでは、エールの思いも込めて、彼のこれまでの環境大臣としての言動、特に温暖化問題に関する認識や発言を分析評価する。
正直だけど/同情もするけど/自虐的な「石炭中毒」/開き直り?/責任転嫁?/記者の質問に答えず/大臣としてとるべきアクションとは
●本日ご議論いただきたいこと
●石炭の位置付け
●日本の石炭技術の高効率化・次世代化の推進
●CCUS/カーボンリサイクル
●非効率石炭火力のフェードアウト
●【参考】非化石価値取引市場
●石炭火力に関する海外の動向(1)
●石炭火力に関する海外の動向(3)
●ESG投資やダイベストメントの動向
●【参考】北海道胆振東部地震に伴うブラックアウトについて
●【参考】脱炭素化・レジリエンス強化のための電力インフラの在り方
●安定供給とエネルギーミックスの実現
●容量市場の創設
●「エネルギーミックス」実現への道のり
●再生可能エネルギー普及に係る送電線の問題と対策
●【参考】北東北エリアにおけるノンファーム型接続の先行実施
●【参考】各一般送配電事業者の基幹系統(上位2電圧)の送変電等設備
●ノンファーム型接続の全国展開について
●今後の検討に当たっての論点(例)基幹送電線の利用ルールの見直し
温暖化対策の観点から、国際的に逆風を受ける石炭火力発電。日本でも非効率な石炭火力の廃止を促し、再生可能エネルギーの導入拡大を促す新たな制度設計の議論がスタートした。
経済産業省は2020年7月13日、梶山弘志経済産業大臣が打ち出した石炭火力の縮小方針を受け、具体的な政策内容について検討する有識者会議を開催。非効率な石炭火力の将来的なフェードアウトを実現する新たな規制措置の内容と、再生可能エネルギーの利用を広げる新たな送配電網の利用ルールを検討する-というのが大筋の目的だ。
ただ、その実現に向けては、詳細な議論と綿密な制度設計が必要になりそうだ。非効率石炭を廃止とエネルギー安定供給の両立をどう実現するかという点も大きな議題の一つであり、廃止に向け事業者側にどのような経済的インセンティブを設計するかなど、検討すべき点は多い。エネルギーの安定供給という観点では、足元で再稼働がほぼ進んでいない原子力発電の将来の稼働率についてどう考えるのか、といった問題も大きく関係してくる。
現在、政府が掲げる2030年の日本の電源構成における石炭火力の比率目標は26%となっているが、足もとの2018年度における同比率は32%。2030年度の電源構成目標を達成するためには、さらなる石炭火力の削減が必要な状況にある。
政府が廃止を目指す「非効率石炭火力」とは、主に発電効率が40%以下の亜臨界圧、超臨界圧と区分される火力発電を指す。2018年度の電源構成の32%を占める石炭火力だが、その約半分(電源構成に対して16%)が非効率石炭による発電となっている。台数ベースでみると、現在国内にある140基の石炭火力のうち、114基が非効率石炭に該当する。
114基の非効率石炭について、地域ごとの設置設備容量を見ると、全国で大きなばらつきがある。そのエリアにおける全発電容量(出力ベース)に対し非効率石炭が占める割合では、関西は0%なのに対し、沖縄では34.8%である。また、発電電力量ベースでみると、地域間での差はより拡大する他、多くのエリアで出力ベースでみた比率以上に、非効率石炭への依存度が高い状況もうかがえる。これは原子力発電所の再稼働が進んでいないことも影響していると考えられる。
今回、梶山経済産業大臣が打ち出した「既存の非効率な火力電源を抑制しつつ、再生可能エネルギーの導入を加速化するような基幹送電線の利用ルールの抜本見直し」については、現在検討が進められている「ノンファーム接続」におけるルールを見直し、再エネを接続しやすくする制度に変更する方針だ。
これまでの議論で送配電網の効率的な利用に向けては、従来の電力会社に認められた電源のみが系統に接続できる「ファーム接続」ではなく、系統の混雑状況によって出力制御を受けることを条件に新規接続を許容する「ノンファーム接続」の導入を進めていく、いわゆる「日本版コネクト&マージ」の実現を目指すという方向性が示されている。
既に2019年9月に千葉エリアで、2020年1月には北東北および鹿島エリアでノンファーム接続が先行的に実施された。同時に東京電力パワーグリッドらが必要なシステムの開発に着手しており、経産省ではこ2021年中にはノンファーム接続を全国展開する目標を掲げている。
ただし、これまでの議論で想定されていたノンファーム接続では、「先着優先ルール」を採用する方針となっていた。これは系統が混雑した場合、先にファーム接続していた電源を優先し、後から接続した電源に出力抑制を行うことで、系統の安定を保つというもの。低炭素化という観点から見た場合、この先着優先ルールでは、ファーム接続されたCO2排出係数の大きい非効率石炭が優先され、同係数が小さい再生可能エネルギーが抑制されるという矛盾が発生する可能性がある。
パリ協定を踏まえ、世界の脱炭素化をリードしていくため、相手国のニーズに応じ、再生可能エネルギーや水素等も含め、CO2排出削減に資するあらゆる選択肢を相手国に提案し、「低炭素型インフラ輸出」を積極的に推進。その中で、エネルギー安全保障及び経済性の観点から石炭をエネルギー源として選択せざるを得ないような国に限り、相手国から、我が国の高効率石炭火力発電への要請があった場合には、OECDルールも踏まえつつ、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形で、原則、世界最新鋭である超々臨界圧(USC)以上の発電設備について導入を支援<経済産業省、外務省、財務省、内閣官房、JBIC、NEXI> [41頁]インフラ海外展開に関する新戦略の骨子
(5)環境性能の高いインフラの推進
① パリ協定の目標達成に向け、世界全体の温室効果ガスの実効的な排出削減が必要不可欠となっている。再生可能エネルギーのコスト低下に牽引されたエネルギー転換など、エネルギー情勢が急速かつ大きく変化している中で、安価かつ安定的に調達できるエネルギー源が石炭に限られる国もあり、途上国などでは石炭火力を選択してきたという現実がある。石炭火力への資金を絞るダイベストメントのような方策もあるが、当該諸国の国民生活向上や経済発展にとって不可欠な電力アクセス向上・電力不足解消の選択肢を狭めることなく、世界全体の脱炭素化に向け現実的かつ着実な道を辿ろうとするのであれば、むしろ、こうした国々のエネルギー政策や気候変動政策に深くエンゲージし、長期的な視点を持ちつつ実現可能なプランを提案しながら、相手国の行動変容やコミットメントを促すことが不可欠であると考えられる。
このため、我が国は、関係省庁連携の下、相手国の発展段階に応じたエンゲージメントを強化していくことで、世界の実効的な脱炭素化に責任をもって取り組む。具体的には、世界の脱炭素化をリードしていくため、相手
国のニーズを深く理解した上で、風力、太陽光、地熱等の再生可能エネルギーや水素、エネルギーマネジメント技術、CCUS/カーボンリサイクル等も含めたCO2排出削減に資するあらゆる選択肢の提案やパリ協定の目標達成に向けた長期戦略など脱炭素化に向けた政策の策定支援を行う、「脱炭素移行政策誘導型インフラ輸出支援」を推進していくことを基本方針とする。
その上で、今後新たに計画される石炭火力発電プロジェクトについては、エネルギー政策や環境政策に係る二国間協議の枠組みを持たないなど、我が国が相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や脱炭素化に向けた方針を知悉していない国に対しては、政府としての支援を行わないことを原則とする。その一方で、特別に、エネルギー安全保障及び経済性の観点などから当面石炭火力発電を選択せざるを得ない国に限り、相手国から、脱炭素化へ向けた移行を進める一環として我が国の高効率石炭火力発電へ要請があった場合には、関係省庁の連携の下、我が国から政策誘導や支援を行うことにより、当該国が脱炭素化に向かい、発展段階に応じた行動変容を図ることを条件として、OECDルールも踏まえつつ、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形で、超々臨界圧(USC)以上であって、我が国の最先端技術を活用した環境性能がトップクラスのもの(具体的には、発電効率43%以上のUSC、IGCC及び混焼技術やCCUS/カーボンリサイクル等によって発電電力量当たりのCO2排出量がIGCC 並以下となるもの)の導入を支援する。
② ESG投資の増加にみられるように、世界的に環境・社会・企業内統治への関心も高まっている。こうした経営者や投資家の意識の変化を踏まえながら、環境性能の高いインフラの海外展開に取り組むことで、気候変動問題や海洋プラスチックごみ問題等の地球規模の課題を解決し、世界の環境と成長の好循環を一層推進する。これを踏まえ、これまでの日本の公害や廃棄物管理等の経験や技術、制度などを基に、展開国における環境汚染の低減や公衆衛生の向上、海洋プラスチックごみ問題の解決に向けて、環境インフラ海外展開プラットフォームの形成や、案件形成の上流からの関与の強化等により、社会的仕組み(ソフトインフラ)の整備と一体的に、廃棄物発電やリサイクル、大気汚染や水質汚濁、水銀処理の対策技術等の、質の高い環境インフラの導入推進に取り組む。 [15-16頁]
(東京新聞 TOKYO Web 2020.07.09 17:40 共同通信)
●石炭火力の輸出支援厳格化 高効率設備に数値基準 脱炭素化へ政府新方針
(SankeiBiz 2020.7.9 18:05)
●環境省 小泉大臣記者会見録
(環境省 2020.07.09 18:00~18:40)
会見実況動画
今回文言一つ一つこだわって、それが実効性を高める形で成案を得られるように調整を進めてまいりました。その結果、今、このスライドでお示しをしたとおり、この本来の、柱でもある、いわゆる4要件の厳格化、これについて、改めて触れたいと思います。どのように、厳格化が変化されたのか。これまでは、支援する要件のみ書いてあった4要件を、一つ一つ見ていただければわかりますが、一つ目の要件。エネルギー安全保障と経済性の観点のみを求めていたのが今まででした。そのことに加えて今回何が変わったかというと、エネルギー安全保障と経済性の観点に加えて、脱炭素化だということが前提とならない限り駄目だという形を、さらに今回1点目に加えています。そして二つ目、我が国の高効率石炭火力発電への要請があればということでありますが、今回新しく加えたことは、仮に我が国の高効率石炭火力発電への要請であったとしても、脱炭素移行の一環でなければ駄目。そういったことであります。そして三つ目。相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形であることという要件は、今の相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形ではなくて、パリ協定の目標達成に向けた政策や対策が継続的に強化をされること。それを今回の要件にしました。そして最後の4点目は、原則、世界最新鋭であるUSCいわゆる超々臨界以上という今までの要件は、常に最新の環境性能とする要件、USCであっても、USCの中でも最高効率ではないものもありますので、そういったことも含めて、常に最高効率でなければならない。こういったところをしっかりと、4要件を今回変更することで、調整が決着をして、今までの4要件に加えて、相当、徹底した厳格化がなされることになりました。以上のように、相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や、脱炭素化に向けた方針をしっかり把握していない場合は、支援しないことを原則とするという転換をすることができました。今後、関係省庁と連携をしながら、世界の実効的な脱炭素化への取組を進めていきたいと思います。そして、最後になりますが、環境省では、今回の改正を絵にかいた餅にすることがないように、具体的なアクションとして、政策対話から案件形成に至るまで、途上国の脱炭素移行に向けた一貫支援体制を構築していきます。さらには、民間企業や自治体、金融機関などとも連携して、環境インフラの海外展開を推進するため、民間企業への情報共有やビジネスマッチング、案件形成支援に至るまで、トータルでサポートするための官民連携のプラットフォームを設立し、より日本の脱炭素技術やノウハウが活用されるように、官民一体となって取り組んでいきたいと思います。早速、ベトナムとは政策対話の実施に向けた調整を始めています。関係省庁や関係機関とも連携しながら、相手国のニーズに即して、脱炭素化に向けた政策策定支援からCO2削減に資する、あらゆる対策の提案、実施に取り組んでいくことで、世界の脱炭素化に貢献していきたいと思います。最後になりますが、私のような、手の焼ける大臣と、最後まで、向き合って調整に努力をいただいた梶山大臣をはじめ、経産省の皆さん、ありがとうございました。そして、関係省庁、ファクト検討会委員、及びヒアリングに御協力いただいた企業・団体など、これまでに、この議論に関わってきた関係者すべての皆さんに、心から感謝を申し上げたいと思います。うちの事務方も大変だったと思います。ありがとう。以上です。●日本政府、石炭火力の輸出支援を「厳格化」 脱炭素化へ誘導(清水律子)
(ロイター 2020.07.09 19:20)
政府は9日、二酸化炭素(CO2)の排出量が多く、批判が強い石炭火力発電の輸出支援について、これまでの支援要件を厳格化することを決めた。現状でも石炭火力発電を選択せざるを得ない国があるとし、そうした国への輸出支援も、脱炭素化に向けた誘導を行うことを条件としている。●石炭火力発電 輸出支援は環境性能トップクラスに限定 政府
<新たな石炭火力、2国間協議持たない国「支援せず」>
政府が9日開催した「経協インフラ戦略会議」で決めた新たな輸出戦略では、再生可能エネルギーや水素、カーボンリサイクル等CO2排出削減に資するあらゆる選択肢の提案や、パリ協定の目標達成に向けた長期戦略など脱炭素に向けた政策の策定支援を行う「脱炭素移行政策誘導型インフラ輸出支援」を推進することを基本方針とした。
今後、新たに計画される石炭火力発電プロジェクトについては「エネルギー政策や環境政策に係る2国間協議の枠組みを持たないなど、日本が相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題・脱炭素に向けた方針を知悉(ちしつ)していない国に対しては、政府として支援しないことを原則とする」とした。
一方、石炭火力を選択せざるを得ない国に対しては、脱炭素化に移行する一環として、日本の高効率石炭火力へ要請があった場合には、その国が脱炭素化に向かい、行動変容を図ることを条件として、超々臨界圧(USC)以上であり、日本の最先端技術を活用した環境性能がトップクラスのものの導入を支援するとした。
<梶山経産相「現実的な一歩」、小泉環境相「基本として原則支援しない」>
梶山弘志経済産業相は会見で「石炭火力発電の輸出支援の厳格化を決めた」と述べ「一足飛びにゼロというわけにはいかない。より現実的な一歩を踏み出すということ」と述べた。一方、小泉進次郎環境相は「最も重視してもらいたいのは、基本方針として原則、支援しないこと。今回、そういった結果になった」と述べ、こだわってきた「支援しないことを原則とする」という文言が入ったことを評価した。
エネルギーを所管する経産省としては、日本の高い技術による石炭火力発電を必要とする国は多いという認識にある。一方で、脱炭素化は必然のものとなっており、関係省庁間でも、輸出相手国の行動変容を促すことが必要との認識は共有した。
新興国に対し、石炭火力輸出支援を行っている日本への批判は高まっていた。昨年12月に気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)に出席した小泉環境相が問題を提起。今年2月下旬、石炭火力発電の輸出条件の見直しを話し合うことで環境省や経産省などの関係省庁が合意、協議を続けてきた。
<エネルギーミックス見直しにつながるか>
小泉環境相は「来年のエネルギーミックス、ドミノが倒れるように、脱炭素化社会の実現に向け議論する素地ができたと思っている」とし「COP26はCOP25より、前向きなものを持っていけるのは間違いない」と述べ、来年予定されているエネルギーミックスの見直しにも自信を示した。
石炭火力発電の海外輸出に関してはこれまで、1)エネルギーの安全保障及び経済性の観点から石炭を選択せざるを得ない場合、2)日本の高効率石炭火力発電への要請があった場合、3)相手国のエネルギー政策や気候変動政策と整合性があること、4)原則、世界最新鋭であるUSC(超々臨界圧発電方式)以上の発電設備の使用、という4要件を定めていた。
(NHK NEWS WEB 2020.07.09 19:37)
●石炭火力、輸出支援「原則禁止」 脱炭素化へ条件厳格化-政府
(時事ドットコムニュース 2020.07.09 21:05)
●石炭火力の輸出支援を厳格化 政府方針、設備性能などに条件
(中日新聞Web 2020.07.10 05:00 (11:54更新)
●活動報告:石炭火力発電の輸出政策の見直しが正式に決定しました
(小泉進次郎 Official Site 2020.07.10)
本日、大臣就任以来取り組んできた石炭火力発電の輸出政策の見直しが正式に決定し、今後は「原則支援しない」ことになりました。国際社会に対してもパリ協定に貢献する日本の揺るぎない姿勢が伝わる、画期的な政策転換が出来ました。……どのように厳格化が変化したのか
一つ目、「エネルギー安全保障と経済性の観点のみ」を求めていたのが今まででした。そのことに加えて今回何が変わったかというと、エネルギー安全保障と経済性の観点に加えて脱炭素化というのが前提にならない限りダメだとしています。
二つ目、「我が国の高効率石炭火力発電への要請があれば」、ということですが、今回新しく加えたことは、仮に我が国の高効率石炭火力発電への要請だったとしても、「脱炭素移行の一環」でなければダメとしました。
三つ目、「相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形であること」、という用件は、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形ではなくて、「パリ協定の目標達成に向けた政策や対策が継続的強化をされること」、それを今回は要件にしました。
そして最後四点目は、「原則、世界最新鋭であるUSC(超々臨界)以上」、今までの要件は、「常に最新の環境性能とする要件」。USCであっても最高効率でないものもありますので、そういうことも含めて、常に最高効率でなければならない。
こういった4要件に変更することで、調整が決着。今までの要件に加えて相当徹底した厳格化がなされました。
●石炭火力輸出 公的支援から撤退せよ
(朝日新聞デジタル 2020.07.12 05:00)
石炭火力発電の輸出に際し、政府は公的支援の要件を厳格化することを決めた。国際的な批判に押され、政策の転換にようやく一歩を踏み出す。
ただ、公的支援の道は残されていて、世界的な脱石炭火力の潮流と歩調が合ったとはいいがたい。気候危機の脅威は増しており、日本も輸出から早急に手を引かねばならない。
石炭火力は主な電源のなかで最も二酸化炭素(CO2)排出量が多く、欧州を中心に全廃をめざす国が増えつつある。地球温暖化対策を進めるパリ協定の下、国際社会は今世紀の後半に温室効果ガス排出の実質ゼロをめざしているからだ。
そんななか日本は、いまだに石炭火力を国内の基幹電源と位置づけているうえ、主要7カ国(G7)で唯一、政府が輸出の後押しを続けている。相手国が発電効率のいい日本の設備を求めているといった4項目の要件を満たす必要があるものの、「日本は気候危機対策に後ろ向きだ」との批判が強い。
そうした逆風を受け、今回、環境省や経済産業省などが公的支援の要件を見直した。
輸出支援にあたっては、温室効果ガス削減の長期戦略づくりなどを手助けし、相手国の脱炭素化を促すことを基本方針とする。脱炭素政策の詳細がわからない国への輸出は原則的に支援しない、と明記した。4要件についても、脱炭素化の観点から従来よりも厳しくする。
成長戦略として輸出支援してきた姿勢を改め、環境重視に軸足を移す点は評価できる。
だが、見すごせないのは、相手国が脱炭素化へ移行するなかで日本の石炭火力を求めている場合、高効率の設備を輸出できるとしている点だ。
高効率といっても、天然ガス火力の2倍ものCO2を出す。相手国の気候変動対策を促すという一方で、40年にもわたって温室効果ガスを排出し続ける設備の輸出を助けるのは矛盾している。太陽光や風力の輸出を進めるのが筋だろう。
折しも、日本のメガバンクを含む世界の金融大手が石炭火力への投融資から撤退している。日本が公的支援の道を残していては「気候危機対策の足を引っ張っている」と批判されよう。
石炭火力は相手国に、温暖化以外の問題をもたらす恐れもある。東南アジアでは、日本が建設に協力する発電所の地元住民らが、農業や漁業への悪影響や環境汚染への不安から反対運動をしている例もある。日本の支援が地元を苦しめることがあってはならない。
政府に求められているのは、輸出支援の要件の厳格化ではない。完全な撤退である。
まず、日本経済新聞の報道では、「高効率の新型発電所は維持・拡充する」との記載があり、石炭火力発電の中で高効率石炭火力発電を推進してきた経済産業省の方針と今回の発表が、必ずしも矛盾してはいないという点。具体的な方針は、「有識者会議を立ち上げて休廃止を促す具体的な手法を詰める」ということから、高効率石炭火力発電まで含めた削減に踏み込むかどうかは今後の議論に委ねられることになる。このように今は「固い鉄が溶けた」とも言える状態で、今後の政策についての柔軟性が大幅に上がった。「鉄は熱いうちに打て」と言われるように、将来どのような形状で再度固まるのかという極めて大事な局面となる。
石炭火力の輸出の公的支援については、今年に入り、環境省と経済産業省の間で鍔迫り合いが続いている。環境省では、小泉進次郎環境省のリーダーシップにより、「石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者ファクト検討会」を設立し、政府政策が時代錯誤になっているというファクトを整理してきた。一方の経済産業省は、「インフラ海外展開懇談会」を設立し、石炭輸出継続の理論武装を行った。環境NGOの気候ネットワーク、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、350.org、Friends of the Earth(FoE)、メコン・ウォッチの5団体は7月3日、現状でも低効率石炭火力発電は政府のインフラ輸出の対象外となっており、今回の方針が低効率にとどまるのであれば進展はなにもないと警告している。
系統での再生可能エネルギー発電所の出力抑制については、現状のルールでも、再生可能エネルギーは火力発電よりも優先されており、原子力発電、水力発電、地熱発電のみが太陽光発電・風力発電よりも優先順位が高い状況にある。そのため、再生可能エネルギーの優先順位を上げるためには、現在原子力発電用に確保されている系統を開放し、再生可能ネルギーが出力抑制をしなくてよくなる状況にするしかない。これができるかどうかが「進歩」と呼べるかのメルクマールとなる。
経済産業省は低効率な石炭火力発電所の休廃止に乗り出す。現在約140基ある石炭火力のうち、低効率とされる約110基のうち9割にあたる100基程度を対象とし、2030年度までに段階的に進める。
具体的には、電力会社が発電できる量に上限を設けて、古い発電所を休止や廃止するなどして、段階的に引き下げていく方法などが検討されている。災害などの際に大規模な停電を防ぐためにすべてがすぐに廃止されないような仕組みも検討する。
一方、二酸化炭素の排出を抑えた効率がよい石炭火力発電所は新設も認める。
2019年に改定した政府の「エネルギー基本計画」では、2050年に向けた対応として非効率な石炭を段階的に削減するとしているが、その取り組みを加速する。
国際社会の強い批判に応える狙いだが、高効率型の発電所は維持する方針で、欧州の全廃路線とは一線を画すことになる。
2018年7月のエネルギー基本計画では2030年度の電源構成に占める石炭の割合を26%としている。
今回の方針変更で、旧型火力の休廃止と高効率型の新増設を差し引いて、2030年の石炭火力の比率は20%程度まで低下すると見られる。
原子力については再稼働は今後も難航が必至で、再生エネルギーも多くの問題を抱える。
当面はLNG火力の拡大でしのぐしかない。
大手電力からは「基準が決まっていないので何とも言えないが、9割の石炭を廃止するのは困難だ」との声や、「石炭を廃止する以上、国が原発の新増設を後押しすべきだ」との声が聞こえる。
(電気新聞 2020.07.13 掲載:2020.07.06)
梶山弘志経済産業相は3日、超臨界圧(SC)以下の非効率な石炭火力発電所を減らすため、新たな規制的措置の導入などを検討すると表明した。大手電力に加え、共同火力、鉄鋼などの自家発を含め、非効率プラントの早期退出を誘導する仕組みなどについて、7月から有識者会議で議論を始める。加えて、再生可能エネルギーの導入加速に向けた送電線利用ルールの見直しも表明した。ただ、達成への時間軸や供給力確保とのバランス、立地自治体との関係などを巡って慎重な検討が求められそうだ。
現行の第5次エネルギー基本計画では、石炭火力は2030年度の電源構成のうち26%を占めるとされている。「非効率石炭のフェードアウトに取り組む」とも明記されていたが、これまで具体的な手法は検討されてこなかった。
経産省・資源エネルギー庁によると、18年度の石炭火力による発電量は、約3300億キロワット時で、石炭火力が全発電量に占める割合は32%。このうち、超々臨界圧(USC)や石炭ガス化複合発電(IGCC)の高効率型が13%、SCや亜臨界圧(SUB-C)などの非効率型が16%、自家発自家消費分は3%に上る。
今回の検討では、国内に114基存在する非効率型のフェードアウトを目指すほか、大半が非効率型とみられる自家発も俎上(そじょう)に載せる。建設中の最新鋭石炭火力の運転開始も見据え、非効率型による発電をできる限りゼロにする。
これまで政府はエネルギーミックス(30年の電源構成)の実現に向け、発電事業者や小売電気事業者に省エネルギー法やエネルギー供給構造高度化法で規制を講じてきた。電力業界も低炭素社会実現行動計画などの自主的取り組みを推進してきた。
それらに加え、梶山経産相は「規制や税でどんなものが必要か、あらゆる条件を排除せずに検討する」と強調。エネ庁の小川要・電力基盤整備課長は「関係者が多いため、丁寧に議論する。明確な期限を区切った検討はしない」と話した。
この他、梶山経産相は非効率な石炭火力のフェードアウトとともに、再生可能エネ導入拡大に向けた送電線利用ルールの見直しも表明。千葉県などで試行的に実施している「ノンファーム型接続」は21年度中に全国展開する。また、送電線混雑時、再生可能エネが出力制御を受けないようルールを見直し、主力電源化を推進する。先に接続していた火力発電は石炭だけでなく、他燃料も対象となる見通しだ。
(日経ビジネス電子版 2020.07.06)
●経産省に騙されるな! 石炭火力を高効率型に切り換えても、CO2排出はほとんど減らない(木代泰之)
●「石炭火力発電100基休廃止」報道、政府は”脱石炭”に向かう!?
2020年7月2日の報道で、「政府は、二酸化炭素(CO2)を多く出す非効率な石炭火力発電所の9割弱を、休廃止の対象とする方針を固めた」ことが報じられた。これまで日本政府は、既存の石炭火力発電所を廃止するという方向性を全く打ち出してこなかった。今回の方針ははじめて廃止に踏み込んだ方針転換ともとれる”脱石炭”への小さな一歩だ。
しかし、パリ協定の目標とする「地球の平均気温の上昇を産業化前に比べて2℃を十分に下回り、1.5℃の上昇にとどめる」という要請にこたえるためには、先進国における石炭火力は2020年以降の新規稼働を禁じ、既存を含め遅くとも2030年までに全廃することが求められる。その意味では、この方針では全く不十分だ。●自然エネ財団、経産省の「石炭火力の休廃止方針」に3つの懸念を表明
(『環境ビジネス』 2020.07.07)
自然エネルギー財団は7月3日、梶山 弘志経済産業大臣が同日の記者会見で低効率な石炭火力発電所の休廃止を進めると表明したことを受けて、コメントを発表し、3つの懸念を示した。
2018年に策定されたエネルギー基本計画において、「非効率な石炭火力発電のフェードアウト」とともに、「石炭火力発電の高効率化・次世代化の推進」「2030年に石炭火力で26%を供給」という方針が明記されている。
梶山経済産業大臣は、同日の記者会見で、この「非効率な石炭火力発電のフェードアウト」に向けた具体的な方策と、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた、基幹送電線の利用ルールの抜本見直しについて、7月中にも検討を開始し年内を目途に具体策をまとめる方針を示した。資源の少ない日本において、様々な選択肢を検討しながら、エネルギーのベストミックスを検討すること、また、高効率な火力発電は調整力や災害時の立ち上げ電源としても重要であり、現時点で「2030年に石炭火力で26%を供給」は維持することとしている。
その後に記者会見した小泉進次郎環境大臣は、この発表について、「パリ協定で掲げる脱炭素社会に実現に向けて、日本のゆるぎない姿勢を国際社会に示す大きな一歩になる」と評価した。1.「100基休廃止」でも、2030年時点で3000万kWの石炭火力を利用
一方、自然エネルギー財団は、今回の梶山経済産業大臣の発表は、「非効率な石炭火力発電のフェードアウト」の既定方針を具体化したもので、新たな方向性を提起したものではないと指摘。各種の報道を踏まえ、今回の方針について、以下のような3つの懸念を示した。
2.CO2排出がほとんど変わらない高効率石炭火力推進路線の維持
3.26%維持のためさらに長期の排出ロックインの危険性
自然エネルギー財団は、「気候危機回避に必要なCO2大幅削減を確実に実現するためには、エネルギー効率化の徹底と自然エネルギーの大幅拡大を進める以外にはない」とした。●(社説)石炭火力削減 温暖化防ぐ道筋を描け
同財団では、2030年の持続可能なエネルギーミックスの姿とその可能性を示すため、近日中に提言を公表する予定。2021年にはエネルギー基本計画の改定が行われると見込まれている。この改定において、石炭火力発電を完全にフェーズアウトし、自然エネルギー発電を中心とするエネルギー転換の方向性を明確にすることが、今回の経済産業省の方針を、気候危機に立ち向かう世界の努力と整合するものに発展させる道だとした。同財団は、今後とも、関係省庁、電力会社との建設的な意見交換を進めていくとしている。
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES:アイジェス)は7月3日の経済産業省「非効率石炭火力の段階的廃止」方針を分析し、「方針はパリ協定と整合的ではなく、発電部門全体での排出ネットゼロ化を目指した措置が必要」というコメントを発表しました。
「非効率石炭火力の段階的廃止」方針に対するコメントの主要メッセージ
非効率石炭火力の休廃止を具体的に促すことは歓迎される。全文
しかし、今回の方針は、大型で高効率な石炭火力設備へのリプレースを進めるという従来のエネルギー政策の抜本的な転換を意味するものではなく、パリ協定の長期気温目標に向けても不十分な内容である。
休廃止が見込まれる設備は小規模なものが多い一方で、建設中・計画中の大規模石炭火力が稼働することで、2030年時点では50基、3,328万kW程度の石炭火力が残ると推計される。これは、日本の2030年排出削減目標(NDC)が想定する石炭火力発電量よりも約44TWh~102TWh少なく、CO2排出量では約3,700万トン~8,700万トンの削減となる。しかし、パリ協定と整合性のある日本の削減目標についての統合評価モデル/エネルギーモデルシナリオにおける数値と比べると不十分である。
50基のうち21基は2030年時点での稼働年数が20年以下であり、2050年まで稼働する可能性がある。この21基(約1,452万kW)のうち、炭素回収技術と相性がよいとされる石炭ガス化複合発電(IGCC)は4基(約150万kW)であり、残りは炭素回収技術の追設を想定しておらず、電力部門から長期的にCO2が排出される状態(ロックイン)が懸念される。
今回の方針は、『パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略』に明記された、パリ協定の長期目標と整合的な火力発電からのCO2排出削減や非効率石炭火力のフェーズアウトに向けた取り組みとしては不十分である。非効率石炭火力の廃止を促すだけではなく、発電部門全体での排出ネットゼロ化を目指した措置が必要となる。
(NHK解説委員室 2020.07.09)
今回の削減方針はエネルギー政策の方針転換のように見えるかもしれないが、そうではない。
エネルギー基本計画にはおととしの改定の段階で、「非効率な石炭火力にフェードアウトを促す仕組みなど具体的な措置を講ずる」ことがすでに盛り込んであった。しかし政府はどう減らすのか具体策を打ちださないまま2年が過ぎ、国際的な批判をきっかけにようやく重い腰を上げたわけ。対応が遅いと言えるが、脱炭素に向けてもう旧式の火力を使い続けるべきではなく、削減方針を示した点は一定の評価ができる。
ただ今回方針転換ではないため政府は、石炭火力の基幹電源としての位置づけや2030年に26%賄う方針は見直さず、効率が比較的よい石炭火力は今後も新設を認めることに。
効率が良いとは言っても天然ガスの2倍のCO2を排出するわけで、国際社会から不十分だと批判が高まる可能性も。政府はCO2などの排出を2050年に80%削減し、今世紀後半のできるだけ早い段階で実質ゼロにすることを国際的に約束しているわけで削減だけでなく一歩踏み込んで廃止に向けた道筋についても今回あわせて検討しておく必要があると思う。
また、今回削減する分の電力について政府は、再エネと原発で賄う方針。しかしいずれも課題が多く、賄いきれなければ石炭火力削減自体に影響が出る可能性もあり、この際、電源構成を抜本的に見直していく必要。
このうち原発については2030年に20~22%賄う方針を掲げ、30基程度再稼働させる方針。しかし信頼の回復は進まず、これまで再稼働したのは9基で、電源の割合も6%。しかも裁判所が運転停止を命じたり、テロ対策施設の完成が遅れて原子力規制委員会から事実上強制停止させられるなど、原発はいまや不安定電源に。業界団体が原子力関係各社に行ったアンケートでも半数が20~22%の達成は困難と回答。このまま目標が達成できなければその分をまた石炭火力で賄うということになりかねず、原発比率の見直しは不可欠。
その分、政府が主力電源化を目指す再エネが期待されるが、現状17%と主要国の中でも最低レベル。普及が進まない理由の一つに送電線の空きが少なく、新規の再エネがなかなかつなげない問題が。送電線の利用は、先に建設された火力や原発が優先的に利用できる仕組み。このため、発電量が増えて送電線の容量がいっぱいになると、あとから再エネを入れようとしてもできず、送電線を設置する莫大な費用が請求され、再エネ事業を断念せざるを得ないケースも。こうした状況が続く限り再エネの拡大は困難。この点政府は再エネが優先的につなげるよう、送電線接続のルールを変える方針。再エネ事業者の意見を丁寧に聞いて、より多くの事業者が参入できるようなルールを早急に整備するのと同時に、普及を加速させるためにも2030年に22~24%となっている再エネの導入目標についてもより高く見直していくことも必要。
政府はエネルギー基本計画を当初予定の通り、来年改定するとしているが、世界の脱炭素化への動きは早い。状況に合わせて素早く見直していかないと世界の流れに乗り遅れることになりかねない。
(日本経済新聞電子版 2020.07.03 02:00)
■■電力会社「困難」の声
全国の大手電力各社は電力調達の多くを石炭火力に頼っており、経営に与える影響は大きい。
中国電力の場合、合計259万キロワットの石炭火力を持っており、顧客に販売する電力のうち47%が石炭由来の電力だ。北陸電力は同50%で、比較的石炭の依存度が低くなっている東京電力ホールディングスでも20%を占めている。
段階的に建て替えや廃止を進めているといっても、老朽化した発電所に頼っている地域も少なくない。中国電力の下関発電所1号機(山口県下関市)は稼働から53年が経過し、Jパワーの高砂火力発電所1号機(兵庫県高砂市)も52年たっている。
大手電力からは「基準が決まっていないので何とも言えないが、9割の石炭を廃止するのは困難だ」(東電関係者)との声があがる。西日本が地盤のある電力会社は「石炭を廃止する以上、国が原子力発電所の新増設を後押しすべきだ」と話した。
●梶山経済産業大臣の閣議後記者会見の概要
非効率石炭火力のフェードアウトに向けた検討
まず1点目、資源の乏しい我が国において、エネルギー安定供給に万全を期しながら脱炭素社会の実現を目指すために、エネルギー基本計画に明記している非効率な石炭火力のフェードアウトや再エネの主力電源化を目指していく上で、より実効性のある新たな仕組みを導入すべく、今月中に検討を開始し取りまとめるよう、事務方に指示をいたしました。
具体的には、2030年に向けてフェードアウトを確かなものにする新たな規制的措置の導入や、安定供給に必要となる供給力を確保しつつ、非効率石炭の早期退出を誘導するための仕組みの創設、既存の非効率な火力電源を抑制しつつ、再エネ導入を加速化するような基幹送電線の利用ルールの抜本見直し等の具体策について、地域の実態等も踏まえつつ検討を進めていきたいと考えております。
また、系統の効率的な利用を促すことで、再エネの効率的な導入を促進する観点から検討が進められております発電側課金についても、基幹送電線の利用ルールの見直しとも整合的な仕組みとなるよう見直しを指示をいたしました。
詳細は、事務方から説明をさせたいと考えております。
質疑応答
Q: 大臣、小泉環境大臣と今日の発表は合意されているんでしょうか。
A: 合意はしていないが、政府としては合意していますよ。それは官邸も含めて。
Q: 小泉大臣と話し合っていますか。
A: 小泉大臣とは折に触れて話し合ってあります。閣議で席が隣ですので。
経済産業省が旧式石炭火力発電所を約100基休廃止の方針を打ち出す中で、2つの石炭火力が新たに営業稼働した。電源開発(Jパワー)が広島県竹原市と茨城県鹿嶋市で建設を進めてきた超々臨界圧石炭火力(USC)発電所が相次いで動き出した。USCは旧式石炭火力よりCO2排出量は少ないが、天然ガス火力の2倍の排出量で、EU等では廃止対象になっている。経産省の「100基休廃止」方針は、旧式からUSCへの転換策でしかなく、「石炭依存」を基本的に維持していることを示す。
USC型の発電所は現在、国内に26基(2018年現在)あるほか、2019年の稼働分と現在建設中が16基ある。これらは建設時期が新しいので、ロックイン効果が続き、2030年以降も3000万kW以上の運転を続ける。USC42基のCO2排出量をJパワーの広島発電所と同等とすれば、合計で年間1億3270万㌧となる。これは日本の温室効果ガス排出量の1割を上回る。旧式石炭火力の休廃止でCO2排出量は約6400万〜1億600万㌧削減される見通しだが、その削減分を上回る排出を続けることになる。
さらにKIKO[気候ネットワーク]は、今回、稼働を始めた両USC型火力発電所が立地する県が、いずれも温暖化の加速で深刻な気候災害が起きた県である点も指摘している。広島では2年前の西日本豪雨で、多くの人命が失われ、被害総額も過去最高となった。一方の茨城県でも、2015年の常総市周辺での記録的豪雨で、鬼怒川の堤防が決壊、甚大な被害が出た。
石炭火力が主要な汚染源として、温暖化の影響を加速し、その被害を現実に受けた地域で、新たに「元凶」となる石炭火力を稼働させるという「暴挙」に映る。だが、事業主体はもちろんのこと、地元自治体も、まるで別問題であるかのように振る舞っている。
もちろん、温暖化の影響は石炭火力の稼働地元だけではなく、グローバルに影響する。今夏はすでにロシアのシベリアで38℃の高温が記録され、永久凍土の溶融による建物事故のニュースも届く。南極の温度も、世界平均より3倍のスピードで上昇していることも科学的観測で確認されている。にもかかわらず、日本の行政と電力会社があくまでも石炭に固執するのはなぜなのか。エネルギー供給への不安か、変わることへの不安か、あるいは利権の維持か……
(日本経済新聞電子版 2020.07.03 11:51)
●低効率の石炭火力発電所約100基を段階的に休廃止 2030年度までに 梶山経産相が表明
◆脱炭素化に向け再生可能エネの普及に本腰を
<解説> 梶山弘志経産相がエネルギー効率が悪い石炭火力発電所の休廃止を表明した。CO2排出を抑える脱炭素化に向けた一歩とはなるが、石炭火力の全廃方針を掲げる欧州各国に比べれば見劣りする。脱炭素化を進める上で重大事故のリスクがある原発に頼らず、CO2排出が少ない再生可能エネルギーの比率をどう高めるか。政府の本気度が問われる。
日本は東日本大震災以降、原発の代替電源として液化天然ガス(LNG)や石炭火力の比率を高めた。石炭は価格が安く、安定的に調達できるとして、経産省や産業界は「石炭火力維持」の方針を崩さずにきた。
一転、旧型の石炭火力休止に踏み切った背景には、世界で強まる脱炭素化の潮流がある。石炭火力はCO2の排出量が天然ガス火力の約2倍と多く、ドイツや英国などは石炭火力の全廃方針を掲げる。
今後は石炭比率を下げながら、電力の安定供給をどう実現するかが課題となる。原発は安全対策コストがかさみ、地震大国の日本での再稼働は現実性に乏しい。再生エネの普及策に本腰を入れ、環境と暮らしを両立するエネルギー政策を立案する必要がある。(石川智規)
(日本経済新聞電子版 2020.07.03 19:05)
●北陸電力、発電5割頼る石炭火力に暗雲 最安の源泉
(日本経済新聞電子版 2020.07.03 19:30)
●低効率石炭の休廃止、自家発電も対象 経産省方針
(日本経済新聞電子版 2020.07.03 20:30)
ただし、新規増設や原子力によってその廃止分を埋めてはならない
(WWFジャパン[World Wide Fund for Nature] 2020.07.03)
休廃止の対象となる100基には10万~20万kW程度の小規模のものが多い。これに対し、2030年でも利用を予定している「高効率」石炭火力は、60万kW~100万kWクラスの大規模のものが中心であり、合計約2000万kWの発電設備が存在している。これに現在建設中の新設石炭火力を加えれば2900万kW程度となる。更に非効率石炭火力の1割は残されるので、全体では、2030年時点でも3000万kW程度の石炭火力が残存することになる。2.二酸化炭素排出がほとんど変わらない高効率石炭火力推進路線の維持
パリ協定のめざす二酸化炭素削減目標を実現するためには、先進諸国では2030年までに石炭火力発電の利用を全廃することが必要とされており、欧州各国をはじめ多くの国が2030年前後の全廃をめざしている。今回の方針は、こうした世界の努力とは全く異なる。
エネルギー基本計画では、非効率な石炭火力のフェードアウトと同時に「石炭火力発電の高効率化・次世代化を推進する」と明記しており、今回の公表でも高効率と称する石炭火力を維持することを明確にしている。これらの高効率石炭火力も、二酸化炭素排出量は「非効率」なものより数%しか減らない。日本が批判されてきたのは、実際には排出削減に殆ど役立ない「高効率石炭火力」をクリーンコールと称して推進してきたからに他ならない。今回の発表はこの「クリーンコール」路線を継続することを明確にしたものである。3.26%維持のため更に長期の排出ロックインの危険性
エネルギー基本計画では「2030年に石炭火力で26%を供給」するという方針を示している。2030年に残存する3000万kWで供給可能なのは、20%程度と見込まれるため、26%を供給するためには、更に多くの石炭火力発電を新設することが必要になる。巨額の初期投資が必要な石炭火力は、いったん建設されれば40年程度の利用が目指される。このようなことが行われれば、今世の後半の長い期間にわたって大量の二酸化炭素の排出を続けることになる。●政府の海外石炭火力支援方針の改訂方向性を危惧 ~進行中案件も含めて支援中止を決定すべき~
7月3日付の報道に、「石炭火力発電輸出 支援厳格に 政府検討 非効率型を除外」と題する記事が掲載されました。これまで次期インフラシステム輸出戦略骨子において海外の石炭火力発電事業の公的支援中止を打ち出すよう要請してきた私たち環境NGOは、記事で伝えられる政府内における検討の方向性を非常に危惧しており、すでに進行中の案件も含め、海外石炭火力発電事業への公的支援の全面中止を改めて要請します。
記事では、「二酸化炭素(CO2)を多く排出する非効率な石炭火力発電の輸出は、原則として支援しない方針を政府文書に明記することも含めて検討している」と報道されています。しかし、現行政策(エネルギー基本計画に示されたいわゆる輸出支援の4要件)でも、「原則、世界最新鋭である超々臨界圧(USC)以上の発電設備について導入を支援する」としています。したがって、技術を限定し、条件付けを残すなら、単に言い回しを変えるだけで、実態には何も変化をもたらさない可能性があります。
また、「CO2の排出量が少ない高効率の発電所であっても、支援する条件を厳しくすることで、温室効果ガス削減に取り組む姿勢を示す」と報道されていますが、そもそも高効率であっても石炭火力はパリ協定の長期目標と整合しないことが明らかであることから、日本政府の現行方針が国内外から批判されています。石炭火力でも高効率なら支援するという姿勢を続ける限り、パリ協定の目標達成に後ろ向きであるとの日本に対する評価は覆らないでしょう。
さらに、記事では「進行中のプロジェクトについては、継続する」との方針も示されています。これは、国際協力銀行(JBIC)及び日本貿易保険(NEXI)が支援検討中のブンアン2(ベトナム)、国際協力機構(JICA)が支援を検討見込みのインドラマユ(インドネシア)及びマタバリ2(バングラデシュ)の3案件を指していると考えられますが、すでに今後の支援対象案件として実質的に残された案件はこの3案件しかないことから、これらを除外して方針を立てることは、今回の方針見直し自体の意義を損なうものに他なりません。加えて、これらの案件においても、パリ協定の長期目標との不整合性、支援対象国における電力供給過剰状態の深刻化、再エネのコスト低下に伴う経済合理性の欠如、現地の環境汚染や住民への人権侵害など、様々な問題があり、支援を行うべきではありません。
したがって、7月上旬にも閣議決定されると見込まれる次期インフラシステム輸出戦略骨子では、進行中の案件を含めたすべての海外石炭火力発電事業への公的支援を例外なく中止するという方針を掲げるべきです。
日本では主力電源 エネルギー政策の見直しも課題に
原発での代替は困難か 根本的な議論が必要に
「日本は温暖化対策に消極的」国際的に批判も
日商 三村会頭「バランスのとれた政策を」
東電社長「引き続き国と連携して進める」
専門家「温室効果ガスの排出をゼロにする道筋を」
専門家「コストは覚悟しなければならない」
(時事ドットコムニュース 2020.07.02 17:48)
政府は2日、国内にある約140基の石炭火力発電所のうち約110基を占める旧式発電所について、2030年度までに9割相当、100基程度を休廃止の対象とする方針を固めた。旧式は二酸化炭素(CO2)の排出量が多いため、削減方針を打ち出して脱炭素化の姿勢を国際社会にアピールする。石炭火力を重要な電源と位置付けてきた日本のエネルギー政策の大きな転換点となる。……
(朝日新聞デジタル 2020.07.02 22:25)
経済産業省は、二酸化炭素(CO2)を多く出す低効率の石炭火力発電所による発電量を2030年度までに9割削減する方針を固めた。地球温暖化対策を重視する姿勢を打ち出したい考えだ。だが、高効率な石炭火力は引き続き利用、建設を認め、石炭火力を安定的な電源として重視する考えも変えない見通しだ。……
2.政府の「100基休廃止」の意味
(1)基数と設備容量
(2)各電力会社管内の全設備に関する非効率石炭火力が占める割合
(3)CO2排出量と石炭消費量への影響
(4)エネルギーミックスへの影響
(5)2050年目標への影響
3.政府方針の問題点と改善策
政府では石炭火力輸出政策の見直しが行われています。小泉環境大臣は、設置した有識者検討会の報告を踏まえ「脱炭素への移行が促進されない限り輸出しない」という脱炭素原則への転換を打ち出しました。一方、経産省の懇談会報告書は、自然エネルギービジネスの重要性を述べながら、依然として石炭火力発電の活用を合理化する議論を含んでいます。日本のエネルギーインフラ輸出が脱炭素化に貢献するものとなるよう、本資料では、石炭火力と脱炭素化両立論の誤り、東南アジアの自然エネルギービジネスの可能性の大きさに関するデータを提供し、輸出政策転換が必要な4つの理由を提起します。
ー「インフラシステム輸出戦略」見直し議論によせてー
これまでの経緯と本資料の趣旨■ 一方、経済産業省も4月から「インフラ海外展開懇談会」を開催し、「エネルギー・電力を取り巻く社会情勢を踏まえた施策の検討に必要なファクトの整理・検証」を行いました。5月21日にはその中間とりまとめ(以下、「経産省報告書」と表記)が公表されました。この中でも「拡大する再エネ市場への日本の貢献の重要性」を指摘するなど、積極的な方向が提起されています。他方、残念ながら、依然として東南アジアでの自然エネルギーポテンシャルを過少評価したり、パリ協定とは整合しないIEAのシナリオを前提とするなど、石炭火力発電活用の合理化につながる様々な議論が含まれています。
■ 自然エネルギー財団は本年(2020年)2月12日に、「日本の石炭火力輸出政策の5つの誤謬」を公表し、それまで、石炭火力輸出を正当化するために主張されてきた議論が全く誤ったものであることを、データを示して明らかにしました。
■ この報告書は小泉環境大臣の記者会見、国会質疑、新聞社説などでも扱われ、4月1日には小泉大臣の下に、「石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者ファクト検討会」(以下、「環境省検討会」と表記)が設置されました。
■ 環境省の求めにより、自然エネルギー財団はこのファクト検討会に対し、4月21日「アジアで進む脱炭素の動き」を提出し、日本とともに石炭火力輸出を進めてきた韓国・中国での変化、東南アジア各国での脱石炭の動きを紹介しました。環境省検討会のとりまとめは5月26日に公表され、小泉大臣は脱炭素化原則への転換をめざすと宣言しました。売れるから売るではなく脱炭素への移行が促進されない限り輸出しない(脱炭素化原則)への転換■ こうした経緯を踏まえ、政府のインフラ輸出戦略の徹底した見直しが行われ、石炭火力輸出の完全な停止と自然エネルギー拡大を進める新たなエネルギービジネスへの転換が行われるよう、本資料を公表するものです。
石炭火力輸出の完全な中止と自然エネルギービジネスへの転換が必要な4つの理由
1 「日本の石炭火力発電効率は世界でトップ」という主張は、もはや通用しない■ 経産省報告書、環境省検討会への電力会社提出資料でも、石炭火力輸出政策の最大の根拠だった「日本の石炭火力発電効率は世界でトップ」という主張が、もはや通用しないことが明確に。2 「石炭火力と脱炭素化の両立」の非現実性
■ 鈴木外務副大臣は「日本が生産をしている1段再熱のUSCよりも、中国のみで生産できている2段再熱のUSCのほうが効率がよく、費用的にも日本のものに比べて高くはないという記述がある。もし、この記述が本当だとすれば、日本の技術が優れているという輸出の前提が変わってしまう」との見解を表明(環境省検討会第3回発言)■ 経産省報告書が提唱するIGCC、CCSなどの「脱炭素化」技術は、削減効果が小さく、高コスト、技術も未確立。事業者自身の資料によっても、現在の輸出プロジェクトに利用できるものではないことが明らか。3 東南アジアには自然エネルギー開発、送電網整備など大きなビジネスチャンスが存在■ 東南アジアには、電力需要を満たすために十分以上の大きな自然エネルギーポテンシャルがある。4 多くの企業・金融機関が既に石炭から自然エネビジネスへの転換を進めている
■ 太陽光などの発電コストは急速に低下し、石炭火力に対して価格競争力を有するようになっている。
■ 既にインドシナ半島には国際送電網が存在。島しょ部でも建設・計画が進む。その促進こそインフラ輸出のビジネス機会。
環境省[84p]、経産省の報告書[3p、4p]、事業者自身の資料[JERA23p、電源開発33p]でも、石炭火力輸出の最大の根拠だった主張が崩れたことが明確に
■しかし、電力会社、重電メーカー、商社などで実際に電力ビジネスを行ってきた専門家のネットワーク「電力情報技術ネットワーク(NEPIE)」は、「品質や耐久性も遜色がなくなりつつある」との見解を示している(環境省検討会第3回提出資料)。
■しかしIGCC,CCSなどの技術は、削減効果が小さい、高コスト、技術未確立など、実用性のあるものではない。
「石炭火力と脱炭素化の両立」の非現実性②CCS
■ 経産省報告書はCCSを石炭火力脱炭素化技術として提唱
■しかし、かつてCCS開発を進めたEUは実証プロジェクトの失敗、自然エネルギーコストの低下を踏まえ、2050脱炭素戦略では、電力部門の削減対策としてCCS技術は一切活用を予定していない。
■ 世界全体でも、これまで火力発電所に適用されたCCSは小中規模の2件だけ。それも石油の増産を狙うEORプロジェクトであり、 排出削減対策としてのみ実施されたものではない。
■ 発電コストも高い上に、CCSをつけても排出ゼロにはならない。
■ 今から、火力発電所の削減対策としてCCSを進めるのは、全くの誤り。政府の長期戦略はCCSを火力発電対策として提唱しており、日本政府の気候変動対策の誤りの代表例である。
■経産省報告書は、東南アジアでは気候条件のため、太陽光・風力発電の大規模導入が難しいとしている。
■世界には、日照量、風況で東南アジアより良い地域は存在するが、東南アジアの導入ポテンシャルは十分に大きい。
● 環境省検討会ファクト集やJ-Power提出資料(第2回)が引用している東南アジアの分析報告書*によると、石炭火力(50~80ドル/MWh)と比較してもコスト競争力のある太陽光導入ポテンシャルは8TW以上と試算される。
● この場合、設備利用率を10%と低く見積もっても、太陽光だけでIEAの公表政策シナリオ(SPS)が見込む東南アジアの2040年電力需要(2,345TWh)の3倍の発電量になる。
● タイ、ベトナムでは、LCOEが50~100ドル/MWhの太陽光ポテンシャルが、最も制限された技術シナリオでも、2017年の電力供給実績の4倍以上、ミャンマー、カンボジアでは100倍以上あると試算されている。
なお、環境省ファクト集やJ-Power提出資料は「再エネで需要を満たす場合、国土の6割を占める可能性もある。」「所要敷地面積も大きい。」としている。しかしこれらが引用しているデータは、150ドル/MWh以下の発電コストで太陽光と風力を設置できる面積を表したものであり、電力需要を満たすのに必要な面積ではない。実際、ミャンマーやカンボジアで引用データの面積に太陽光発電を設置した場合、それぞれの国の2017年供給量の550倍、595倍も発電されることになる。
東南アジア各国には、風力、地熱など多様で豊富な自然エネルギー資源が存在
● 東南アジアの風力資源は太陽光よりは限定的。しかし、ベトナムとミャンマーでは現在の全電力供給量の数倍のポテンシャルがある。フィリッピン、タイにも適地がある。
● インドネシアとフィリピンは地熱発電のポテンシャルが非常に高く、ミャンマー、ラオス、カンボジア、マレーシアでは水力発電の大きな可能性がある。地域に応じた自然エネ開発を進めることで、東南アジアの自然エネルギーポテンシャルを最大限に活用。
● 東南アジア各国の風力の設備利用率についてブルームバーグNEFは18-32%と見積もっている。
● 欧米には劣るものの、フィリピンやベトナムでは導入量世界一の中国と大きく変わらない。
● ミャンマー、ベトナムなどでは、海沿いや内陸で平均風速6~7m/秒の地域があり、場所によっては30%の設備利用率を見込め、低コストの導入ポテンシャルが大きい。
●台風の影響が大きい台湾は対策の知見を含めたノウハウを獲得し、ここを拠点としてアジア地域に展開する競争が始まっている。日本企業も参入。
●日立は台湾で5.2 MW風力発電システム21基(109.2MW)の機器製造からO&Mを一括で受注(2018年4月)東南アジアの自然エネルギービジネスの大きな可能性②太陽光・風力のコスト低下
●JERAは台湾の洋上風力フォルモサ1,2に続き「フェルモサ3」への参画を決めた。出力は約200万キロワットと世界最大級(2020年3月)
● 経産省報告書は「石炭資源が豊富かつ安価なASEANでは、石炭火力が当面コスト競争力を有する」としている。
● 実際には現時点でも、最もコスト競争力のよい石炭と自然エネプロジェクトどうしで比較すると、すでに同等の水準。
● 太陽光、風力発電のコストは低下し続けており、石炭火力がコスト競争力を有するのは2025年頃まで。
● また、経産省が脱炭素化のために必要とするIGCCやCCSを導入すれば、コスト増加を招き、更に競争力を失う。
東南アジアの自然エネルギービジネスの大きな可能性③国際送電網
● 経産省報告書は、欧州と異なり「ASEANは地理的状況等の課題もあり、国・地域ごとの独立性が高い系統」と記述。
● 実際にはインドシナ・マレー半島には国際送電網が存在。タイは欧州並みに電力の13%を国際連系線で調達。
● 島しょ部でも建設・計画が進行中。2035年に向けた更に大規模な構想も公表されている。
● IEAも「アセアンの国際送電網を拡大することは、経済的、系統運用的、環境的な利益をもたらす」と指摘。
● 多様な自然エネルギー資源を広域的に活用するアセアン国際送電網は脱炭素化に貢献。今後のビジネスとして大きな可能性。
● 経産省報告書は「再エネ発電は系統側コストまで勘案する必要がある」とするが、太陽光・風力発電の系統接続に関するIEAの報告書では、「変動型自然エネ発電シェア45%までは、長期的には費用コストの大きな増加なしで実現できる」としている。
● 概ね10%を超えると追加投資(系統増強、予備力、蓄電池、デマンドレスポンス等)が必要とするIEA報告書もあるが、蓄電池コストは急速に低下している。系統増強、デマンドレスポンスも経済的なメリットが大きい。
● 経産省報告書が依拠する化石燃料発電が2040年にも5割を占めるIEAシナリオでは、エネルギー起源CO2が60%も増加し、パリ協定と整合しない。
● 輸出政策の検討では、石炭火力コストは二酸化炭素増加の環境コストを加えて比較すべき。
■環境省検討会に提出された各企業の資料からは、金融機関、商社は脱石炭の方向に舵を切っており、電力会社も、石炭火力の必要性は言いつつ東南アジアでは新規開発を予定していないことが明らかになった。
■ごく一部の企業以外、日本のビジネスは脱炭素への選択を行っている。
■ 経産省報告書の参考資料にも、自然エネルギー拡大と電力系統の柔軟性確保を、今後のビジネスチャンスとして取り組む多くの日本企業が紹介されている。
石炭火力輸出の中止と自然エネルギー支援への転換が必要な理由まとめ
※石炭火力輸出支援4要件見直し 「条件変更」で決着へ 環境省と経産省の専門家会合でそれぞれ中間取りまとめ(『新エネルギー新聞』2020年5月25日付)
小泉環境大臣のリードの下で設置された環境省の「石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者ファクト検討会」(以下、ファクト検討会)が本日、結果をとりまとめ発表しました。同検討会は、政府が「パリ協定の目標達成に向け、石炭火力も含め世界の脱炭素化を進めるための取組については、石炭火力輸出支援の4要件の見直しについて、次期インフラシステム輸出戦略骨子に向け、関係省庁で議論をし結論を得る」としていることを受け、石炭火力輸出への公的支援に関するファクトを整理し、その方向性の検討を行ってきました。ファクト検討会は、分析レポートの中で、石炭火力発電の公的支援について、エネルギー構造をロックインする恐れや座礁資産化するリスクがあるため長期的な視点が必要だということ、また政府が閣議決定したパリ協定長期戦略の規定、すなわち脱炭素社会の実現を目指すことやパリ協定の長期目標と整合的なインフラ国際展開を進めるという内容に反するということを指摘し、「今後の公的支援を、ビジネスへの支援という観点にとどまることなく、相手国の脱炭素化という長期的な視点を併せ持ち、脱炭素社会への現実的かつ着実な移行に整合的な『脱炭素移行ソリューション』提供型の支援へと転換していく重要性について、認識を共有した」と整理しています。一方、経済産業省下におかれた「インフラ海外展開懇談会」の5月11日の中間取りまとめでは、石炭火力発電についてはこれまでの既定通りに、高効率石炭火力を選択せざるを得ない国には支援を続けるとの方向性が示されています。しかし、そのような現行の方針を続けることの課題が、今回のファクト検討会で示されたと言えます。石炭火力発電所の新規建設は、たとえ次世代型の高効率技術であってもパリ協定との整合性がないことが明らかにされている上、経済面でも石炭火力発電の抱えるリスク評価が求められるようになっていることが指摘されています。また、対策の一つとされる次世代技術CCS(二酸化炭素回収・貯留)は、コスト・技術等の観点から、パリ協定の目標に資する時間軸での実現可能性は見い出せません。さらに、受け入れ国では大気汚染の悪化などを含む環境社会配慮面での問題が指摘されるなか、石炭火力への反対運動が高まっており、世界のエネルギー情勢は刻々と変化しています。もはや、石炭火力発電について技術や国の情勢から支援の是非の議論をする段階ではありません。本日の会見で小泉環境大臣は、ファクト検討会の結果を受け、「日本は売れるから売るではなく、脱炭素への移行が促進されない限り輸出しない、いわば脱炭素化原則へと方針転換しないといけないとのメッセージと受け止める。」という認識を示しました。まさにその認識の通り、石炭火力発電輸出の公的支援のあり方はこれ以上先延ばしすることなく、早急に方針転換されなければなりません。この先、6月にも閣議決定されると見込まれる次期インフラシステム輸出戦略骨子では、ファクト検討会で示された方向性を踏まえ、政府として、新規計画および現在進行中・建設中を含めたすべての石炭火力発電所の建設および石炭火力発電技術の輸出に対する公的支援を止めるという方針を決定し、それを速やかに実行に移すべきです。
自然エネルギー財団の「日本の石炭火力輸出政策5つの誤謬」は、石炭火力輸出を合理化してきた議論の誤りを明らかにした。本資料では、石炭輸出政策の再検討に際し、考慮の必要な3つの動きを提示する。
1 韓国・中国の変化の動き
2 東南アジア各国で石炭火力脱却の動き
3 IEA「持続可能シナリオ」現実化の動き
日本政府が、石炭火力輸出政策を中止し、自然エネルギー拡大支援へ日本の力を集中することを期待する。
石炭火力からの脱却が始まったアジア
ー 石炭火力輸出を中止し、自然エネルギー拡大支援へ日本の力を■日中韓の石炭火力輸出に対する国際的な批判
■日中韓3国が、海外石炭火力融資の大半を占める。
1 韓国・中国の石炭火力輸出政策に変化の動きー特に韓国は日本よりも先に脱石炭に転換する可能性
■韓国:国内石炭火力の「劇的な削減」、石炭火力輸出政策の見直しが進む。
■中国:石炭火力輸出は鈍化傾向
2 東南アジア各国で石炭火力から脱却の動き
■ベトナム:石炭より自然エネルギー優先を明確化(2020年2月)
■インドネシア:「20年以上経過した石炭火力を自然エネルギーに建て替える」(2020年1月)
■バングラデシュ:供給力過剰が表面化、電源開発を見直し(2019年5月)
■マレーシアとカンボジアのオークションでも、太陽光発電が石炭火力より安価に(2019年、2020年)
3 東南アジアの電力の95%は自然エネルギーと天然ガスで供給:IEA「持続可能シナリオ」現実化の動き
■自然エネルギーは2040年までの電力需要増の全てを供給し、現在の石炭火力の約半分を代替する。
■東南アジア各国で、自然エネルギー価格の低下が急速に進んでいる。■日中韓の石炭火力輸出に対する国際的な批判
■日中韓3国が、海外石炭火力融資の大半を占める。1 韓国・中国の石炭火力輸出政策に変化の動き
■韓国:国内石炭火力の「劇的な削減」をめざす
■韓国:石炭火力輸出見直しが進む
国民の反感+石炭火力ビジネス不振の現実が見直しを迫る
■中国:石炭火力輸出は減少の方向2 東南アジア各国で石炭火力から脱却の動き
■ベトナム:石炭より自然エネルギー優先を明確化(2020年2月)
■インドネシア:20年以上経過した石炭火力を自然エネに建て替え
■バングラデシュ:供給力過剰が表面化、電源開発を見直し
■マレーシアとカンボジアのオークションでも、太陽光発電が石炭火力より安価に3 東南アジアの持続可能な未来
■東南アジアの未来3つのシナリオ:日本はどの未来を支援するのか
■東南アジアの電力の95%は自然エネルギーと天然ガスで供給可能
■東南アジアでの自然エネルギー電力の価格低下と導入加速「石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者 ファクト検討会」提出資料
「アジアで進む脱石炭火力の動き」まとめ
1 これまで日中韓3か国が東南アジアなど世界への石炭火力輸出政策の大半を行ってきたが、韓国では石炭推進政策の見直しが進んでいる。中国の石炭火力輸出プロジェクトも頓挫する事例が発生しており、輸出規模が減少している。
2 ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、マレーシア、カンボジアなど、東南アジア各国で、自然エネルギーの急速な価格低下、電力供給力の過剰などにより、石炭火力からの脱却が始まっている。
3 東南アジアの電力需要は2040年までに倍増する見込みだが、IEAは「世界エネルギー見通し2019(WEO2019)」の中で、増加分の全てを自然エネルギーが満たし、天然ガス火力とともに電力の95%を供給する、パリ協定と整合する持続可能シナリオを提示している。
4 日本がパリ協定を踏まえ世界とアジアの気候変動対策に貢献するのであれば、石炭火力輸出政策を中止し、各国の自然エネルギー拡大の支援に集中すべき。
5 残存する東南アジア各国の石炭火力プロジェクトも見直し・中止が加速していく。「落穂ひろい」ビジネスではなく、未来につながるエネルギービジネスへの転換が必要。
< 目 次 >日本の石炭火力政策のもう一つの問題点は、東南アジアなど海外への石炭火力輸出政策 を続けていることです。政府や一部の企業などは、「日本の最新石炭火力は、高効率であり、世界の温室効果ガス削減に貢献する」など、あれこれの弁明をしています。しかし、これらの言い訳は、世界では全く通用せず、国際世論の中で厳しい批判にさらされています。この資料集は、石炭輸出政策を正当化する議論の誤りを事実にもとづいて明らかにするものです。気候危機との戦いにとって決定的に重要な2030年への10年が始まる今年、今後のエネルギー政策の議論が、正確なデータ・資料をもとに進められるよう期待して、この資料を発表します。
■日本の石炭火力輸出に対する国際的な批判の高まり
東日本大震災以降、原子力発電の稼働停止による電力不足を補うことなどを理由に掲げ、約2,100万kWもの石炭火力新増設計画が発表されました。これまでに、約700万kWの建設計画が中止またはLNGやバイオマス発電等へ計画変更されましたが、未だに建設中、または着工前の新増設プロジェクトが20基、1,100万kW以上もあります。
これらのプロジェクトの多くは、80%から90%という高い設備利用率を想定していますが、電力広域的運営推進機関の推計によっても、2028年の全国平均の設備利用率は70%以下になります。本報告書では、電力需要と設備利用率の低下、自然エネルギー発電の増加など市場環境が変化するとともに、気候変動対策の強化が進む中で、これらの新増設プロジェクトが採算割れを引き起こし、座礁資産化するリスクが大きいことを明らかにしています。
ドイツやオランダでは新設直後の石炭火力発電所が市場環境や政策環境の変化で、運転停止に追い込まれる事例も生まれています。自然エネルギー財団は、本報告書が今後の日本のエネルギー政策の転換と電力ビジネスの発展に寄与する一助となることを期待します。
農業は草との闘いだった。ちょっとでも放置しておくと作物よりも草丈の方が高くなる。大学院時代、西欧などとは違ってわが国はモンスーン地帯であり、褥耕(中耕)的風土であるということを教わったが、まったくその通りだった。水田の三回にわたる除草、何回かのヒエ抜き、畦畔の草刈り、そして畑の草取りと春から秋まで絶え間がなかった。明治中期から水田用の手押しの人力除草機が普及し、かなり省力化されたとはいえ、ぬかるんだ田んぼを何百回となく往復する労働はきつかった。しかもそれは一度だけであり、後はやはり腰を曲げて除草しなければならなかった。
もちろん闘わなければならないほど草が生えるということは、それだけ自然条件に恵まれていること、農業生産力が高いことを示すものであり、本来からいうと喜ばしいことである。しかし実際に草取りをする身になれば喜ぶに喜べなかった。
こうして、せっかく草を取り、田畑をきれいにしても、虫と病気にやられる。しかしこれとは闘うすべがない。草とは過重労働という武器で闘うことができても虫と病気に対してはすべがない。虫などに対する憎しみは激しく、殺しても殺したりないほどの思いだった。
土壌養分維持のための闘いもあった。農家はわら等の副産物、林野の落ち葉、草葉、家畜の糞尿、生ゴミを始めあらゆるものを肥料にして土地に帰した。
人糞尿などは最高の肥料だった。自分の家のものでは足りないので都市の人糞尿を求めた。ただし、求めたからといってすべての農家が得られるわけではない。山形市の場合で言えば、牛車で早朝一ないし二時間で往復できる範囲内の農家しか利用できなかった。肥え汲み(山形ではこれを「ダラ汲み」といった)で本来の農作業に差し支えるようでは何にもならないし、汲み取り先の迷惑にもなるので朝飯前に汲み取りを終わらさなければならなかったからである。したがって肥え汲みは都市近郊農家の特権とでもいってよかった。肥桶に汲んできた人糞尿はダラ桶(肥だめ)に容れられ、そこで腐熟させ、田畑に直接もしくは堆肥に混ぜて散布する。それが都市近郊の米の単収の高さと野菜生産を支えた。かつて名著といわれた鎌形勲『山形県稲作史』では戦前の山形市の単収の高さを人糞尿とのかかわりで述べている。また市内はもちろん東京や仙台にも出荷された野菜にとってもダラ(下肥)は不可欠であった。だから農家は争って手に入れようとした。そして汲み取り先の確保のために、米何升かを対価として払うことを汲み取り先と契約して手に入れた。人糞尿は労働の成果物でもないのに価格をもったのである。つまり農家は他人の尻の始末をしてやって、汚い仕事をしてやって、カネを受け取るどころか払う。こんな矛盾した話はない。しかも臭い、汚いと軽蔑され、ダラ汲み百姓と馬鹿にされてだ。
決まった日になれば、雨の日であれ雪の日であれ、朝まだ暗いうちに起きて牛車、冬は牛そりに肥桶をつけて父が出かける。たまたま目を覚ましていてその音を聞くのがとってもいやだった。父に申し訳なかったからである。
こうして土壌を豊かにすると、雑草はもっと生えやすくなる。とくに畑がそうだ。草との闘い、腰を曲げた労働はまた厳しくなる。
田んぼの三回にもわたる除草も大変だ。なかでも三番草は辛いものだった。田んぼを這いずりまわりながら両手で泥をかき回して草を取り、土の中に押し込んだ。夏の暑い日差しは容赦なく背中に照りつけ、目の中に汗が流れ込み、伸びた稲の葉先が目をつつき、目はウサギのように赤くなった。
除草ばかりではない。田植え、稲刈りなど一日中腰を曲げていなければならなかった。畜力や人力作業機が農業に導入されつつあったとしても、基本的には手労働であり、農業労働は苦役的ともいえるものだったのである。
子どももこうした農作業の手伝いをさせられた。農家の子どもが働くのは当時は当たり前だった。
前回も述べたように、農家のお年寄りは、身体があまりいうことをきかなくなってくると、縄ない、草取り、屋敷畑の管理や庭仕事等々、本当に軽い手伝い仕事だけに従事するようになる。
ただし、田んぼの草取りは別である。これは重労働であり、本当に高齢化した場合の年寄り仕事とはいえない。田んぼの場合は、ぬかるみに足をとられながら腰を曲げて這いずり回るきつい労働であり(註1)、高齢者には無理だからだ。
これに対し、畑の草取りは重労働ではない。手で草をむしる場合が多く、だから腰を曲げなければならないが、耕した畑の土は柔らかいので草を取りやすい。畝間を鍬でおこして草を除去したり、鍬などで深く張った根を掘り起こしたり、畑のあぜ道の草を鎌で刈ったりしなければならないこともあるが、年寄りでも十分にできる。ただし、単品目・大面積の生産なら草取りの時期が集中して長時間の苦役的労働となる。しかし、多くの農家は多品目・小面積栽培だったので草取り時期が分散し、それぞれ短かい時間ですみ、最初の時つまり草が小さいうちにていねいに取れば次回の草取りは楽になるということもあり、年寄りでもやれる。
このように畑の草取りはあまり体力を使わない軽い仕事、精神的にもあまり負担のかからないだれにでもできる簡単な仕事である。他の年寄り仕事も大体同じだ。こうしたことから、年寄り仕事はすべて大して重要でない仕事と考えられてしまう。
しかし、畑の草取りは「大して重要でない仕事」ではない。田んぼの草取りと同じできわめて重要な仕事であり、家族全員が取り組まなければならない作業である。
何しろわが国はアジアモンスーン地帯で雑草の発生、繁茂は激しく、ましてや耕した畑は土が柔らかくて肥えていて日光が当たっているので雑草の発芽、生長、繁殖の条件は最高である。しかも畑には水田のように水の雑草防除機能(註2)が働かない。だから、ちょっとでも手を抜いたら、ましてや放置などしておいたら、作物の生育が阻害されるどころか畑地として利用できなくなる危険性すらある(註3)。だから、それぞれの畑の作付け時期、収穫時期、何も作付けしていない休閑の時期等を考えて草取りの時期を考え、また実際の草の出方を見ながら、今日はこちらの畑、明日はあちらの畑と、生えたら取り、生えたら取りしていなければならず、家族全員で除草にあたらなければならないのである。しかし、青壮年には重労働の基幹的な仕事が多々あり、それにも従事しなければならない。それで畑の草取りは年寄りの重要な仕事となるのである。
私の生家の場合は畑が大きな位置を占めていたので、ましてやそうだった。野菜など多種多様な畑作物をつくっており、それぞれの畑に雑草が生える時期が異なるので、春から秋にかけて草取りをしなければならない畑はいつでもあった。草取りをしなくともいいように耕したり、敷き藁をしたりいろいろ方策を講じるのだが、やはり限界があり、生えてきた草を取らなければならないのである。だから祖父などは暇さえあれば草取りをしており、それは脳卒中で倒れる前の年の秋まで続いた。年老いた父は、家の前に残ったわずかな畑で、したたり落ちる汗をぬぐいもせず、下を向いてあるかなしかの草を取っていた。ボケても、習性となって頭に残っていたのだろう、草取りだけは毎日の日課だった(註4)。
[中略]
「草取りは年寄りの仕事」と言ったが、正確にいえばこれは逆、「年寄りの仕事は草取り」ということで、草取りは家族全員の労働であり、その中心はやはり青壮年労働力だった。耕起で腰を曲げ、種まき、収穫で、そして草取りで腰を曲げて働く、だから五十歳も過ぎればみんな腰が曲がってしまった。私の祖母などはその典型だった。
それでも生家の場合などはまだよかったと思っている、何しろ多品目の小面積栽培、草取りにも変化があり、また小区画つまり一枚の田畑が小さく、その上不整形だったからだ。前にも述べたが、ちょっと行っては畦にぶつかるので、そこで腰を伸ばして一息入れることができし、いろいろと変化があるのであきないのである。ところが小品目の大面積栽培となるとそうはいかない。前にそれを山形内陸と庄内を対比させて述べたが(註6)、北海道などはもっとすごい。小品目・大面積で除草の期間が長い上に大区画だからだ。
一枚の畑の区画が1haか2ha、100mとか200mの延々と続く畝間の草を腰を曲げて取っていく。行けども行けども終わらない。何とか終わるとまたその繰り返しだ。何度も何度も繰り返す。なかなか終わらない、達成感がない。変化のないところでの単純作業の単調な繰り返しは労働の疲労度を高める。しかも面積が多いから、それが何日も続くことになる。これはつらい。
[中略]
こうした苦役的ともいえる労働に対する正当な報酬はなかった。あれだけ働きながら農家は貧しかった。それも一因となってガッツ石松のようにみんな都市に流出していった。そこに除草剤の売り込みである、農家は喜んで導入した。ところが消費者の側から農薬・除草剤の使用への反対運動が起きた。これは正論ではあったが、もし反除草剤を言うなら厳しい除草労働に対する正当な報酬を支払うことを前提とすべきだった。ところがその逆に多くの消費者は農薬・除草剤漬けの安いアメリカ農産物を食べて国産農産物の価格を引き下げ、農業労働に対する正当な評価はますますなされなくなった。かくしてさらに農業労働力は流出し、過疎化、高齢化、耕作放棄が進み、農業は衰退の道をたどることになった(註9)。
(註)
1.10年12月11日掲載・本稿第一部「☆足踏み脱穀機止まりの機械化」(4、6段落)参照
2.13年4月5日掲載・本稿第五部「☆水稲連作」(5段落)参照
3.13年4月1日掲載・本稿第五部「☆農業と土地、地力」(3段落)参照
4.12年9月26日掲載・本稿第四部「☆『帰らんちゃよか』」(3段落)参照
6.11年6月22日掲載・本稿第二部「☆零細分散耕地制と耕地整理」(2段落)参照
9.もちろん今は中耕除草の機械化、マルチング等でかつてのような辛い人力除草はなくなっている。それでもたまたま取り残した草を人力で取る必要が出てくる場合があるが、腰を曲げることはあまりない。しかし、何しろ大面積・大区画であり、草取りのために畑の畝間を歩く距離は大変なものである。
刊行にあたって(2頁から)
除草用具は豊富な種類と数があるのが目立ちます。特に水田の回転除草機の多様さに驚かされます。
また、最初は柄に刃が付いているという単純な形のものから時代とともに畜力用にまで改良されていく流れが、はっきりとみることができます。……
また、農耕用具は現地の呼び名が個性的なものが多いのも特長の一つです。
田畑の除草の用具として〈クサカリガマ〉〈ナガエガマ〉〈タチガマ〉〈カマカケ〉〈ガンヅメ〉〈カメノコ〉〈コロガシ〉〈クマデ〉〈ジョレン〉があります。
②「信州大学農学部附属農場における人力・畜力農具の収集と保存」(有馬博・北原英一・信州大学農学部附属農場)
伊那は長野県南部に位置し、中央アルプスと南アルプスの問に伸びている細長い谷型の地域である。この谷の底部には天竜川が流れていて水田が連なり、その両岸には河岸段丘が形成されている。さらにその背後には山間農業地が続き、これら相互の標高差は500m以上に及ぶ。一般に伊那谷と呼ばれているこの地方は上伊那郡辰野町付近を北端とし、それから南南西に位置する飯田市の南方まで直線距離で約80kmにわたっている。そのうち北部は寒冷地に、南部は温暖地に属しているうえ、凹凸の多い山岳地形が多いため気象には地域差が大きい。〇田車(たぐるま)、代車(しろぐるま)(伊那林屋式:畜力用)
このような立地条件のもとで伊那においては様々な種類の農作物が栽培され、他に養蚕や馬匹生産も盛んであった。そのため農家では古来、多種の人力・畜力農具を使用してきた。
しかし昭和30年代後半からの経済発展、農業構造と生産手段の変化及び農村住宅と納屋の建て替えによって、昭和40年代には人力・畜力農具が急速に廃棄されるようになった。そこで著者ら農場職員は当時の農場長故高橋敏明教授の指導のもとに.伊那の農家に呼びかけて昭和42年[1967]からそれらの農具の収集を開始した。しかし学内には適当な収納場所がなかったため整理もしないまま収納舎の一角へ収容しておいた。
平成7年[1995]に至って、ようやく農場の木造鶏舎を農具展示場として使用できる状況になったため農具を整理・展示し、同年4月1日に農具資料舎と名付けて公開した。また人力・畜力農具以外にも発動横、トラクタなど歴史的意義のある機材も若干数展示した。[25頁]
長野県から山梨県にかけて、水田の代かきに用いていた畜力砕土車で、轅木(えんぼく:舵とり腕木)と馭者席[ぎょしゃせき]を備えた1軸の車輪列型のものと、形式の異なる2軸の車輪列を長方形の馭者台でつないだものがあった。1軸型は土塊を縦方向に、2軸型は縦横方向に土塊を切った。資料舎にはその2形式がある。馭者は土塊の状態を見ながら歩いたり乗ったりした。忙しい時には5~6歳の子供さえ馭者とされ、居眠りで転落しないように席へ荒縄でくくりつけられた。牛馬に体力があれば作業能率の良い車であった。[27頁]
水田専用の人力除草用具で、一般に2番除草以後に使われた。柄を持って前後に押したり引いたりしながら前進し、表土を浅くかきまわして除草した。10a当たりの歩行距敵は3.5~4㎞に及び疲労がひどかった。少しでも軽くするため柄に竹を用いたものが多い。その後、回転除草機に代替されたが昭和40年代以後は除草剤の普及によってそれも使われなくなった。1条用のほか2条用もあった。[以下28頁]
八反取と同様に2番除草以後に使用する水田専用の手押しのうね間除草機で、通常は爪状の回転刃をもつ2本の軸と鳥居型の柄で構成されている。昭和初期から昭和30年ころまで全国的に使用され、その後は株聞除草機や除草剤に代替された。株間除草ができない欠点があったものの八反取に比べて軽快で能率も良く、中耕もできた。舳先[へさき]の高さと柄の角度が調節できるようになっていて、回転刃の食い込み深さが調節できたが水が深いと浮き上がった。1足ごとに腕を伸縮しながら断続的に押した。カがいるので子供にはいやな仕事であった。
2~4個の縦軸で回転する針金又は薄い鉄板製のローターで稲株をはさみ、柄を押すと土の抵抗でローターが回転して株ぎわの雑草を土とともに外側へかき出して除草が行われる。商品名を「カブマトリー」と称したものもあった。昭和30年(1955年)から数年間に各農家へ普及したが除草剤の出現によって急速に消滅した。実用期問が短かったし小型なので良好な保存状態のものが多く現存している。
2番除草以後に使用する水田専用の畜カうね間除草機で、昭和30年ころまで大規模農家で使用され、その後は除草剤に代替された。株間除草ができないことと、機体が重くて回転が困難な欠点があったものの能率が良く、中耕もできた。舳先の高さと柄の角度が調節できるようになっていて回転刃の食い込み深さが調節できた。訓練された牛馬はこれを引きながらうね間を上手に歩いたが、田のはしで回転するときには稲を踏みつけたので、小さな田では使いにくかった。
田の草取りは通常2回、丁寧な家は3回行い、1回目を一番草、2回目を二番草、3番目を三番草と称している。
一番草は田植えが終わって10日から2週間ぐらいたったころに行うことが多かった。田植えの時期や田の農作業との関係で若干の前後はあるが、7月上・中旬に行い、土用の入りまでに一番草を終えた。この一番草は中耕を兼ね、カッパナシ・ネボグシ・モトユルメなどともいって稲株の周りを手でかき、根を切るようにして稲の分けつを促した。
田に水があり、土が軟らかければ手で除草できたが、場所によっては土が堅いところもあったので、このようなところではタコスリ(コスリマンガ)などと呼ばれる道具で株間をこすり、土を軟らかくしてから除草した。この一番草のときには、除草と共に稲の根付きが悪いところに、余分に植えておいた苗を補植したりもした。
二番草は一番草を取ってから1週間から10日ぐらい後に取った。田の草取りは20日ごとに行えば良いといわれていたが、この時期は畑の草取りなど他の仕事も多く、仕事の手順が思うようにいかなかった。
三番草を取れば収量が1反当り1俵は違うといわれたが、なかなか三番草までは手が回らない家が多かった。三番草を取る場合は、月遅れの8月7日の七夕のころまでに行った。
田の草取りの道具としては、ハッタンコロガシ、タコスリマンガなどが用いられた。ハッタンコロガシは回転式の歯のついたもので、株間を1人で押しながら除草する。タコスリマンガは万能の一種で、歯の先端が内側に曲がっていて、株間を1人で引いたり押したりして用いた。大正時代ごろまではツメマンガもしようされたという。田の草取りも、昭和30年代ごろから次第に除草剤が使われるようになると、労働がきつかったので、手で取ることは行われなくなっていった。[30~32頁]
以前は、稲の病害虫には手の施しようがなかった。稲の病害虫による発育不全を「ナン(難)が来た」といい、葉が赤くなって立ち枯れの状態を「アケがついた」といった。稲がいもち病(稲熟病)にかかり、稲が枯れて田圃の中に穴があいたり、アケがついて1反に2俵しかとれないという話もあった。こうした稲の害虫は、二化螟虫[にかめいちゅう]とツトムシ、イナゴなどであった。
螟虫は、年2回発生する害虫でエムシ(柄虫)といわれ、春に羽化するのが一化螟虫、夏に羽化するのが二化螟虫であり、一化螟虫は、春の田植え後に発生した蛾[が]が稲の葉に産卵し、この幼虫(一化螟虫)が稲の茎に入って稲を枯らした。7月上旬から8月初旬に孵化した二化螟虫は、稲の茎の深部に食い入って稲穂を枯らしてしまった。浦では、毎年、水押[みずおし]・浦谷地[うらやち]辺りが螟虫の害が多く、五百島[ごひゃくじま]・下河原[しもがわら]辺りは比較的に害のなかったところといわれていた。
螟虫の駆除法は、春、蛾が出ないうちに、わらにおの周囲にいる蛹[さなぎ]を搔き落として撲滅し、夏の二化螟虫退治法は、もっぱら誘蛾灯[ゆうがとう]により蛾を集めて殺す方法であった。誘蛾灯は、竹の3本コウジ(3本の竹の上部を結び、下を開いて立てたもの)を立て、その中央に油土瓶[あぶらどびん]を吊したもので、毎晩当番が油瓶を持って点火に回った。
田圃に稲の葉を巻くようにして巣を作り、涼しい朝夕に巣から出て葉を食べる、ツトムシ[イイモンジセセリの幼虫名]という害虫がいた。ツトムシは、つぎつぎと葉を巻き付けて、巣が田圃一面に連なり、稲の葉を全部食い尽くす虫であった。そのため、稲の茎だけが残って、秋の稲りは穂のみということになった。ツトムシの駆除は、まだ発生したばかりの頃は、竹の2本股で巣をはねて虫を田の中に落とし、巣を葉から取り除いて、虫の頭を手で潰[つぶ]して、腰に下げた空缶か竹筒に入れた。しかし、この被害が田一面に広がると、これでは効果がないので、トカシグシ(梳かし串)で稲を横に撫[な]でて梳[す]き、巣を壊して虫を落した。トカシグシは、軽い桐の木の棒を、長さ1.2mくらいに切り、両手で棒を握る部分だけを残し、他の部分のすべてに、竹製の鉛筆の両端を削ったような形のものを、横に並べて差し込んだものであった。稲をこの道具で梳くのみでは、巣は壊れても虫は落ちて生きていた。つまり、虫は這[は]い上がってまた巣を作り、結局は毎日虫梳きを繰り返すのみで、盆も休まれないほどであった。
イナゴも害虫であった。秋のうちに稲株や草の根元に生んだ卵は、春先、雪水に洗い出されて水面に浮かび、塵と一緒に畦端に風で寄せられた。これをざるで掬[すく]って殺した。それでも田植えが終わる頃に孵化[ふか]した幼虫は、食い頃の稲を食べて秋には成虫になった。こうなると葉はもちろん、茎や稲穂まで食べて被害甚大となった。
駆除方法は、まず、田植え直後にエンゲン豆大の卵を拾い、焼き払うことであった。また、成虫になったら、朝夕の露のある時に飛べないイナゴを捕まえることであった。戦時中は学校の生徒たちが、大きな3升、5升の袋にいっぱい捕えたが、それでも被害は減らなかった。[156~157頁]
(1)年1回発生し卵で越冬する。卵は普通30〜40個ほどの卵塊で産卵される。
(2)6月中〜下旬頃からふ化し始め、幼虫ははじめ畦畔などのイネ科雑草の葉を食べ、次第に水田に侵入しイネの葉を食害する。
(3)幼虫は6令を経て、7月末頃から成虫が出現し始める。幼虫の体色は緑色で、形態の変化はほとんどなく成長し、翅(はね)が生え褐色味を帯びて成虫となる。
(4)水田内の分布は、若令幼虫時は畦畔沿いに多く、4〜5令頃から中央部にも多くなる。
(5)産卵は9月上旬頃から始まり最盛期は9月中〜下旬となる。卵は主に雑草の多い農道や畦畔の地際部に産まれるが、イネの株内にも産む。
第2部 変貌する暮らし
第2節 M家の場合 3 農業専一
田植えが終わると田の草取りをした。戦前からあった一つ押しのゴロと呼ばれた除草機を用いる以前は、除草はもっぱら手作業であった。田の草取りは、7月の土用五番(夏土用から5日目)頃までで、3、4回、雑草の小さいうちは青田に四つんばいになって取り、泥土を掻き回しながら埋め、4回目頃になると稲の成長も盛んになり、茎先が顔を突くようになるので面をかぶって田に入った。除草にゴロが用いられるようになってからは、真夏の太陽の下で腰をかがめることもなくなり、草取りの能率は向上した。その後、除草に農薬が用いられるようになった。農薬にホリドールを使ったこともあったが、ホリドールは稲が大きくならないと使用できず、農薬散布後は、1週間程度田圃に入ることができなかった。しかし、疲労の激しかった田の草取りが解消され、しかも農薬散布後の1週間は田に入らずに済んだので、身体を休められ喜ばれた。この頃には、Rさんは子どもの頃、蝗の巣拾いを[『越路町史 別編2 民俗』156~157頁の「稲の病害虫」]をし、1升いくらで買い取ってもらったことがあったという。雨の日などには、古川の土手に生えているニオイ菖蒲を採ったり、ヨモギやドクダミを取ったりして、手拭[てぬぐい]で作った袋に詰め、風呂に入れて菖蒲湯をたて、この時ばかりは、女も子どももゆったりと浸かって、身体を伸ばして疲労を取った。一つ押しのゴロは明治末期から大正初期に普及し、田の草取りが楽になった。昭和20年後半には土地改良が始まり、それまでの手取り中心の田の草取りは、除草機を何度も用いるようになり、その上に薬剤散布が行われ始め、二化螟虫駆除を目的としたホリドール散布を行った。こうした農薬散布が行われるまでは、稲の病虫害が多く、二化螟虫や稲虫[いなむし。稲の害虫の総称。ウンカ、ヨコバイ、バッタなど]、蝗[いなご]などの駆除に、藁にお掻きや誘蛾燈の設置、蝗の巣拾いなどをしていた。戦時中には、学校が中心になり、蝗の供出をしていた。もっとも現在は、農薬の自然破壊が問題になっている。田の草取りの時期は、肥え草刈りの季節でもあった。肥え草刈りをしたり、田の草取りをしたり、農家の仕事は休む暇がなかった。附近の土手に出掛けて朝早くから刈り取った草は、屋敷うちの堆肥場[たいひば]まで運び、牛舎や豚舎の敷きわらや米糠[こぬか]と交互に混ぜ合わせ、高く積み上げ、ある程度積み上げるとまた草を刈ってくるという要領で堆肥とした。肥え草は、田圃の元肥[もとごえ]として農家にとっては大切な肥料であった。そのためもあって、堆肥の品質向上を主旨に毎年堆肥品評会が行われていた。[545~546頁]
かつて田植えが終わると、2週間くらいは田を構わずにそのままにして置いた。その理由は、稲の根付きを心配したからであったが、その結果、田圃は堅くなり、生えた草は取りにくく、縦横2回、手で雑草を抜き取るほかなかった。その後、田の草取りは、田植え後、ただちに始まり、8月の盆前までに一番草・二番草と四番草まで取った。なお、雑草は、ヒエ・ゴヨ[クログワイ]・ナギ[コナギ・ミズアオイ]・ウシコウゲ[マツバイ?]などで、小さいうちは手でむしり取って泥の中に埋めたが、大きくなるとそれも出来ず、かごに取って道ばたに捨てた。※『広報こしじ』1号(1965年)~480号(2005年)(PDF)
イチバクサ(一番草)は、田圃が堅くて手では容易に雑草が取れず、まず、中打ち[なかうち]と称し、小さな三本鍬で株と株の間を打ち起こし、その上で草を取った。それでも草はなかなか取れず、指先を痛め、中打ちで腰を痛める重労働であった。明治42年頃[1909]に中打ちゴロが導入された。この初めてのゴロは一株押しで、梯子状[はしごじょう]の先にゴロが一つついているだけであったが、堅いところは刃が立たず、十文字押しをしても土が起きなかった。昭和10年頃[1935]から二つゴロの二行押しになったが、代掻きの良否がゴロの成果に大いに関係した。ニバグサ(二番草)になると、夏の暑さが厳しく、笠を被り、ヒデルゴザ(日照りござ)を着て作業を行い、朝夕はブヨ(ブト)が襲い、ブヨ除けにわら束の松明[たいまつ]を腰に付けたものの、刺されて痒[かゆ]くて仕方なかった。サンバグサ(三番草)の頃になると草(稲)丈[くさたけ]が伸び、葉で顔を擦[こす]り目を突くので、顔に網の面をかぶった。また、相変らずブヨの攻撃が強烈で、稲が伸びているので、松明を使うと葉を焼く恐れがあった。そこで空缶[あきかん]の中にボロ切れを固めて入れ、これを燻[くゆ]らし、股の下にぶらさげて草取りをした。なお、鉄製の網の面は錆[さ]び易く、2、3年もするとナイロンの面に変わった。
アゲタノクサといわれた四番草は、大体最後の草取りであったが、中には丁寧に五番草まで取る人もいた。アゲタノクサは、耕地面積の大小にもよったが、7月23、4日頃の夏土用五番(土用入りを太郎といい、5日目を五番という)を目安とし、遅い人は8月初旬になった。アゲタノクサ頃は、すっかり稲も伸びているので、腰をかがめて草取りをしていると何も見えず、朝夕の露で身体は濡れ、午前9時頃からは強烈な太陽の熱に焼かれ、少し涼しいと思うとブヨが襲うという具合で大変な辛い仕事であった。昭和20年代後半[1950]から土地改良が始まり除草機が普及し、さらには薬剤除草が行われるようになった。そのため、それまで手で取っていた田の雑草はほとんどなくなった。[155~156頁]
普通は3回であった。柔らかい田はほとんど手で行った。八反取り(生えている草を沈める器具)は普通使わない地区が多かった。硬い田には昔はガンヅメ(片手用の小さな熊手)を使い、田を柔らかくしながらの除草だった。次に開発されたのが前述の八反取りであるが、使ってみて具合が余り良くないので、硬い田を柔らかくするのに使われた。草取りは一番ゴ(最初の草取り)から三番ゴ(3回目の草取り)まであり、八反取りはその都度作間[畝間]に合わせて使い分けるのだが、硬い田は便利であった。また、藻が湧く田にも藻を埋めるのによく使われた。藻が湧くと田が冷えて稲の成長を妨げるので、その駆除に使われたのである。
現在は藻が湧くと硫酸銅を布袋に入れ、水口に置くと藻が消滅する。また、田の草取りも除草剤で済ませる。稲の葉を丸めて虫が巣を作り卵を産んだり、イモチ病等を防ぐために消毒は2回行う。
稲が穂孕[はら]むと、昔は鳥害除けにカカシを立てた。単なる人間に似せた鳥追いではない。鳥がつかないように祈願を行って立てたものだという。これが十日夜[とうかんや]の終農祝いに通じるものであると言っている。他にカガシ、オドシ等があり、カラスの死骸などを吊して雀を追いやったものである。これは佐山出身の戸部素行の聞き取りだが、農業経験は少なかったが、有識者であった。現在は防鳥網を張る家が多くなっている。[202~203頁]
田の中も放っておけば、さまざまな植物が生えるが、田は稲だけを栽培するための土地であるので、それ以外の植物の繁茂は好ましいものではない。田を田として管理するためには、田の草と呼ばれる稲以外の雑草を取り除かねばならない。除草剤が使われるまでは、それらは手作業だったから多くの労力を要した。春先に苗代に種籾が蒔かれて少し芽が出ると、水苗代の場合は芽干しとか実干しといって、一昼夜ほど水を落したが、完全に水を切ってしまうと雑草が生えやすかったので、浅く水を残した。また、このときに雑草を抜いた。苗代は田植えまでに2回ほど草むしりを行った。田植えが終わると本田の田の草取りが行われた。通常、3回行われ、一番草、二番草、三番草、あるいは一番ゴ、二番ゴ、三番ゴ、または一番田の草、二番田の草、三番田の草といった。
養蚕を大きくやっている家では、労力の問題で2回しかできないこともあった。一番草は田植え後10日から15日ほどして行われ、二番草はそれからさらに10日から15日ほど、三番草は二番草から10日後くらいになった。田植えが6月下旬だった上植木の堤原では、三番草は7月下旬になるが、八斗島[やったじま]では田植えが7月中旬なので、三番草は8月20日ころになってしまった。大正末ごろ、八反コロガシとか八反取りと呼ばれる手押しの除草器が入ってきたが、それまでは、素手かさもなければ指に田の草ヅメ(爪)あるいは単にクダと呼ぶ円筒形のブリキなどをはめて四つ這いになって稲の根の周りをかき回して草を取った。こうすると土がほぐれて根の張りがよいという。取った草は、土の中に押し込むか、アゼに放り上げた。田の草取りは、暑い最中、四つ這いの姿勢で行う辛い労働であった。特に二番草ころになると、稲も伸びて葉先が顔や目をさすので、手拭いや網を被った。汗も目にしみた。なるべく暑くならない朝早くから始めて、昼休みを長くとるようにした。8月上旬ころ、マワリガリといって、田の周囲の草を刈って、稲の根元まで陽が当たるようにすることもあった。二百十日をすぎて、穂が出る前には、田の稗抜きを行った。稗[ひえ]は、まだ青いうちに抜かないと実がこぼれて翌年また生えてしまう。抜いた稗は、道端に置いて乾燥させ、燃やしてしまった。うっかり田の端に置いたり水路に入れたりすると、田の中に入ってしまい、次の年にまた苦労することになるので気をつけた。特に水路に入れるとそこの田だけの問題ではなくなるので、ほかの家から苦情が出た。田植えと稲刈りの間は、田の除草と水掛けが大きな仕事だったのである。[61~62頁]
上田市誌 第24分冊 衣食住とくらし
第4章 生産・生業 第1節 稲作 6 田の草取り 下線は引用者
田の中に出てくる雑草を取るために、また稲の分けつを促すためにと、3回から4回、田の草取りをしました。田の草取は中腰で田の中をはって雑草を取るという大変な重労働です。それぞれの除草の回数ごとに一番取り、二番取り、三番取りまたは、一番ご、二番ご、三番ごと言いました。休んで腰を立てるとなお痛くて大変でした。
大正年間から昭和初年には、ころばしや八反取り(田の草取りの農具)が使用されるようになり、手による草取りと併用されるようになりました。また畝間の中耕としてがん爪(熊手状のもので3~5本の曲がった爪をもつ農具)が使われました。
石神での除草は①ころばしをかける(攪拌する)②はう(株間を除草する)③八反取り④ヌリツケ(最後の除草で、水を落しておき、塗り付けて固まらせる)の順でしました。ヌリツケは穂ばらみ前の(穂が出る直前)天気の良い日に、稲の葉先が目に入らないように網の面をかぶってやりました。
東前山では、田植えから20日過ぎてからころばしをかけ、稲が60~70㎝になった7月ごろにがん爪で株の間を起こしました。下郷では、一番ごは、稲のまわりの土をぎゅうっと握って稲株から離し、草は押し込んで埋めて、稲がフラフラするほど、稲株を開くようにしました。稲の分けつを促すためでした。
小学校尋常科を卒業して高等科になると、大人並みに田の草取りをさせられるようになったということです。
除草剤の普及で、田の草取りの重労働がなくなったのは画期的なことでした。除草剤を効率良く使うためには、撒く時期や水田の水の調節が大変重要です。なるべく除草剤を使わないためには、今もころばしを使っている人もいます。
要旨世界の温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指す「パリ協定」の達成のためには、エネルギー起源のCO2の排出をいち早く削減し、脱炭素に向かう必要があります。
既出の研究によれば、そのなかでも石炭火力発電は、新規建設を中止すべきことはもちろんのこと、既存の発電所も優先的に廃止し、全廃する必要があり、なかでも先進国は、2030年には全廃が必要だとされています。
これに応え、2030年までに石炭火力発電の全廃を目指すと宣言する世界の国々や地方自治体が増えており、脱石炭は、国際潮流となりつつあります。こうした状況を踏まえ、このたび気候ネットワークでは、パリ協定を締結した先進国である日本においても、石炭火力発電について、現在ある発電所の新設計画および建設工事を全て中止するとともに、既存の発電所を2030年までに全て廃止する必要があるという考えに基づき、提言レポート「石炭火力2030フェーズアウトの道筋」を発表しました。
本レポートでは、「石炭火力2030年フェーズアウト計画」を示し、2018年4月時点で把握できる日本の既存の石炭火力発電所117基について、運転開始年が古く、また発電効率の低い発電所から段階的に2030年に向かって全て廃止していくスケジュールを具体的に提示しています。
LNGを含む他の発電方式を含む設備容量や、再生可能エネルギー電力の普及、さらに省エネの進展を考慮すれば、電力供給を脅かすことなく、原発に依存しなくても、本計画は十分に実現可能です。このことを踏まえ、本レポートでは、政府に対し、本提言書で提示するような石炭火力発電の全廃への具体的な道筋を描き、2030年フェーズアウト計画を策定し、それを長期低排出発展戦略に位置付けるべきであると提言しています。
そして、フェーズアウト計画を土台に、パリ協定の目標と整合する水準まで温室効果ガス排出削減目標を引き上げ、再生可能エネルギーと省エネの取り組みを加速度的に進め、脱炭素社会を早期に実現するべきであると示しています。
さらに、現状では既存の発電所の全ての情報や設備毎の設備利用率が公表されておらず、実態に即した検討や検証が困難なため、政府及び各事業者がデータや情報を公開することも要請しています。
■石炭火力発電は、最もCO2を多く排出する発電方式である。温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指す国際合意「パリ協定」の達成のためには、エネルギー部門をいち早く脱炭素化させる必要がある。既出の研究によれば、そのなかでも石炭火力発電は、新規建設を中止すべきことはもちろんのこと、既存の発電所も優先的に廃止し、全廃する必要があると指摘されている。日本の石炭火力発電についても、現在ある発電所の新設計画を全て中止するとともに、既存の発電所を2030年までに全て廃止するべきである。
■政府統計や各種公開資料等を用いて2018年4月時点で把握できる日本の既存の石炭火力発電所は117基あり、古いものは運転開始から40年以上経過した低効率の発電所も多数残っている。
■本レポートで示す「石炭火力2030年フェーズアウト計画」では、117基の既存の石炭火力発電所について、運転開始年が古く、また発電効率の低い発電所から段階的に2030年に向かって全て廃止していくスケジュールを提示している。本計画は、LNGを含む他の発電方式を含む設備容量や、再生可能エネルギー電力の普及、さらに省エネの進展を考慮すれば、原発に依存しなくても、電力供給を脅かすことなく十分に実現可能である。
■また本計画の中では、2012年以降に計画された50基の新規建設計画のうち、2018年4月現在で既に運転を開始している8基の発電所については既存の発電所に加え、計117基としている。そして、2030年にはそれら全て廃止する計画を提示した。2018年4月時点でまだ運転を開始していない発電所は、運転開始前に計画を中止すべきという考え方に基づき、本計画には加えていない。■政府は、本レポートで提示するような全廃への具体的な道筋を描き、石炭火力2030年フェーズアウト計画を策定し、それを長期低炭素発展戦略に位置付けるべきである。そして、パリ協定の目標と整合的に温室効果ガス排出削減目標を引き上げ、再生可能エネルギーと省エネの取り組みを加速度的に進め、速やかな脱化石燃料を通じ、脱炭素社会を早期に実現するべきである。なお、現状では既存の発電所の全ての情報や設備毎の設備利用率が公表されておらず、実態に即した検討や検証が困難な状況にあるため、政府及び各事業者がデータや情報を公開することが求められる。
1.石炭火力発電を巡る国内状況
(1)1980 年以降、増加し続けてきた石炭火力
(2)東京電力福島第一原発事故以降の石炭火力発電建設計画の乱立
(3)100基以上ある既存の石炭火力発電所
(4)石炭火力発電所の設備容量総計
2.石炭火力フェーズアウト計画
(1)2030 年石炭火力全廃の必要性既出の分析によれば、パリ協定の1.5~2℃の気温上昇抑制目標の達成には、エネルギー起源CO2の排出は2050年にはゼロにしなければならず、IPCCの1.5℃特別報告書では、1.5℃に気温上昇を抑制するためには、石炭火力発電はいかなるシナリオでもほぼ全廃するしかないことが示されている。すなわち、パリ協定と整合するためには、新規の石炭火力発電は1基たりとも建設できず、既存の発電所も削減し、先進国は、2030年には完全にフェーズアウトを実現しなければならない。そして、2030年フェーズアウトが必要であるのは、先進国である日本もまた同様である。こうした現実を踏まえ、パリ協定の採択以降、石炭火力発電の全廃と海外支援を停止する方針を打ち出す国や地方自治体、そして企業が続々と増えている。脱石炭に向けた国際潮流が高まる中、日本は、既存の発電所の廃止計画を明確にしていないばかりか、今なお、多数の新規建設が進んでおり、すさまじい規模で石炭火力設備を増強しようとしている。この事態は、パリ協定に反し、気候変動対策の世界の取り組みに真っ向から逆行するのみならず、建設地域の大気汚染を悪化させてしまうものである。また、パリ協定の下で脱炭素社会を目指す流れの中で、将来的に稼動停止せざるを得ない設備を過剰に抱えることにもなり、経済的に大きなリスクをもたらしかねない。(2)石炭火力フェーズアウト計画
他の国々とともに2030年の石炭火力全廃を目指すことは、パリ協定の締約国としての日本の責任であり、石炭火力発電所の新規の建設・運転中止、既存の前倒し廃止の方針転換が直ちに求められる。
(3)電力供給への影響4000万kWを超える石炭火力発電設備を今後10年余でゼロにすることは、政府が言うところの「ベースロード電源」を失うことになり、電力の安定供給への影響を懸念する声も当然あるだろう。しかし、以下に示すとおり、大きな悪影響なくフェーズアウトすることは十分可能である。3.フェーズアウト計画の実施に向けて
まず、日本では、LNG火力発電所もこのところ次々に建設が進められており、設備が増強されている。2014年以降、新規建設または増強が進められている大型のLNG火力発電所は約900万kWある。また、電力広域的運営推進機関(OCCTO)の供給計画のとりまとめによれば、現行の発電事業者の供
給計画は全体に設備過剰とみられ、2027年のLNG火力の設備利用率は2017年の55.3%から43%にまで下がる見込みとなっている。まだ余力のあるLNG火力発電の設備利用率を60〜65%に引き上げ、OCCTOの2027年の見通し通りに再エネの発電量が27%となれば、石炭火力発電設備の減少分の大部分をカバーできる。再エネの発電量27%の達成は適切な政策を講じることによりさらに前倒しで導入されることも十分考えられる。
また、OCCTOの最大電力及び需要電力量の見通しは、2018年~2027年の10年間、年平均増加率は±0%と横ばいとなっている。この数値は、節電や省エネの進展状況、ピークカット対策などの要因を加味して、前年の予測(年平均増加率0.3%)を下方修正したものであるが、それでも2018年と同水準の需要はあると見込んでいる。しかし、今後、節電や省エネはさらに進めていくことが重要であり、IoTの活用などその可能性も十分にある。年率1.5%の省エネを進めていけば、石炭火力設備の喪失分は、原発の発電電力量はゼロのままカバーできる。
本計画は、毎年200万kWから多い年でも約400〜500万kWの電源を段階的に廃止していくものとなっており、前もって計画を立て、段階的に対策を取っていくことで、これらは十分に実現可能だと言えるだろう。
(1)現行の政策方針の速やかな見直しの必要性以上に示した石炭火力2030年フェーズアウト計画は、現行の政策のままでは実行できない。これを実施するために、以下の政策方針の見直しと個別政策対応が必要である。(2)議論の開始を
■パリ協定に準じた2030年ゼロ方針の明確化(エネルギー基本計画・地球温暖化対策計画)
現行政策では、石炭火力発電は原子力発電とともに「重要なベースロード電源」と位置付けられ、重視されているが、まずこの認識を根底から改めなければならない。出力調整のしにくい石炭・原発を土台にするのではなく、変動型電源を含め再生可能エネルギーを土台に柔軟に需給調整を図って安定供給を確保する電力システムを基本方針とするべきである。
■脱石炭フェーズアウトの実施のための立法(脱石炭火力法(仮称)の制定)
脱石炭火力は明確な意思に基づき、毎年着実に実施していかなければならず、既存法のいずれの枠組みでも対応することが難しいため、毎年の廃止スケジュールを定めた新法を制定して対応するべきである。これは脱原発法と抱き合わせ、脱原発と脱石炭を同時に進めることができるだろう。
■温室効果ガス排出削減目標とエネルギーミックスの見直し(エネルギー基本計画・地球温暖化対策計画)
2030年に26%の石炭火力の発電電力割合を見込んでいる現行のエネルギーミックス、さらにそれを根拠にした2030年の温室効果ガス排出削減目標である2030年26%削減(2013年度比)は、2030年石炭火力2030フェーズアウトの計画に沿って改定しなければならない。2030年の電源構成における石炭火力比率は当然のことながらゼロとし、石炭火力の段階的廃止を前提に、温室効果ガス排出削減目標は少なくとも40~50%に引き上げるべきである。
■カーボンプライシング(地球温暖化対策税/国内排出量取引制度)の導入
需給の両面で、石炭火力の利用を抑制するインセンティブを付与するため、2019年にはカーボンプライシングの導入を実現するべきである。カーボンプライシングは、脱石炭火力法による規制スケジュールを前提に、より効率よく、より低炭素な発電技術への選択を促す。本計画の実施には、当面の間、LNGガス火力の設備利用率が上昇することになるが、その際にも、より効率のよい発電所からの運転を促す。さらに需要側の幅広い省エネの促進にも効果が見込まれる。
■発電効率基準・非化石電源目標の見直し(省エネ法・エネルギー供給構造高度化法)
省エネ法に基づく発電効率基準や、エネルギー供給構造高度化法に基づく非化石電源比率の目標は、温室効果ガス排出削減目標やエネルギーミックスの改定に準じた改正をすることが求められる。
■省エネ政策・電力平準化の強化
省エネは、石炭火力フェーズアウトを実現する鍵を握る。あらゆる主体の省エネを加速させるカーボンプライシングを導入することと同時に、発電所の効率向上や電力平準化のより幅広い実施のための政策、需要側管理の促進のための仕組みを複合的に実施することが重要である。
■再エネの大量導入
再エネの主力電源化は政府が目指すところでもあり、そのために、再エネを優先給電すること、そして柔軟な電力融通と系統連系の強化することにより、再エネの大量導入を促進することが必要である。
■情報・データの把握と公表
最大の排出部門である発電所からの排出について着実な削減を実施する上で不可欠な情報を公開するべきである。特に、発電設備毎の設備利用率、発電電力量、排出量(CO2やその他の大気汚染物質)については、毎時ベースで公表するべきである。
附属表Ⅰ 2012年以降の石炭火力発電所の新規建設計画
附属表Ⅱ 既存発電所数(電力調査統計と本レポートの比較)
石炭低減の本気度この戦略の発表に先立って、有識者懇談会の座長案にあった「石炭火力は長期的に全廃する」という方針が、産業界の反対により「依存度を可能な限り引き下げる」といった表現に調整されたという報道があった。
筆者は率直に申し上げて、この調整は意味がわからない。期限を切らずに「長期的に」というだけならば、脱炭素を目指す以上、石炭火力はいつか全廃するに決まっているからだ。正確にいえば、CCS(CO2 Capture & Storage)技術を用いてCO2を地中に封じ込めるならば、その分は石炭火力(や他の火力)を使っても脱炭素と矛盾しないので、「CCSの無い石炭火力は長期的に全廃する」でよいのではないかと思う。
おそらく、「長期的な全廃」を明示することが短中期的な石炭火力利用にも足かせになることを嫌がる人たちがいるということだろう。エネルギー価格の上昇が国際競争力に影響をもたらす製造業、高効率で「クリーンな」石炭火力の研究開発に注力してきたエネルギー産業、そして、新規の石炭火力を計画したり着工したりしている事業者などがそのように考えるのはよく理解できる。
しかし、期限を切らない「長期的な全廃」も書き込めないほど腰が引けているようでは、この戦略の「脱炭素ビジョン」の本気度に、残念ながら疑いを差しはさまざるをえない。
日本社会が石炭と手を切るのは、経済的、技術的な問題にとどまらず、政治的、文化的な問題でもあり、想像以上に難しいことなのかもしれない。カナダのアルバータ州では、2030年までの脱石炭に先立ち、大手電力会社に補償金を支払っているそうだ。ちなみに、奴隷制が廃止された際も、奴隷所有者に補償があったという。日本の戦略は、そこまでの覚悟をもって石炭と手を切ろうという決断には程遠いものだ。
なお、先ほど触れた「CCS付き石炭火力」を筆者は積極的に押しているわけではない。戦略の本文でも述べられているように、CCSは(石油増進回収をともなう場合を除き)単独では経済メリットが無い。経済メリットが生じるためには、「炭素に価格が付く」必要があるのだ。一方で、経団連は炭素税などのカーボンプライシング(炭素に価格が付くこと)に一貫して反対している。これはCCSの推進と矛盾するのではないだろうか。
カーボンプライシングについての議論は経済学者に譲るが、今年1月に米国で27人のノーベル賞受賞者などを含む3500人以上の経済学者が、炭素税に支持を表明していることに留意しておきたい。