2020年02月
決壊地点の地形条件:氾濫平野
越辺川・都幾川合流地点付近の2地点で堤防決壊※決壊地点の地形条件:氾濫平野
氾濫平野(おもに農地)、自然堤防(集落)、2000年代以降造成された盛土地(大型商業地、宅地)が浸水
浸水深は4m強未満(浸水痕跡からの推定)
台地上の浸水被害なし※台地東端部での低地との比高6~7m
1910(明治43)年水害、1947(昭和22)年カスリーン台風水害、1982年9月降雨など、過去にもたびたび堤防決壊、浸水被害発生
・都幾川の浸水被害(まとめ)
中流部から越辺川合流地点にかけて、右岸側2地点で堤防決壊、堤防からの越水や不連続堤(霞堤)無堤区間からの溢水などが多数の地点(区間)で発生
河川沿いの氾濫平野、自然堤防、2000年代以降造成された盛土地(大型商業地や宅地)の一部など、低地が広域的に浸水、台地上における浸水被害なし
浸水域はハザードマップの想定浸水域内、浸水深は想定浸水深未満(「想定外」の浸水なし)
浸水域は過去にも複数回の浸水履歴を有し、河川改修事業が進行していたが、越辺川合流地点付近に「弱小堤」が残存し、今次災害ではその地点で破堤
※流域全体での水害リスクの高低を考慮した適切な河川管理(河川改修、堤防強化)の必要性
台風19号浸水被害視察その2~物見山仮置場~ (2019.11.07)
台風19号浸水被害視察その3~西本宿不燃物等埋立地&ばんどう山第1公園仮置場~ (2019.11.08)
・都幾川地区(埼玉県川越市、東松山市、坂戸市、嵐山町、川島町)(10/13撮影)
・被災前後の比較(空中写真)
都幾川(埼玉県東松山市早俣付近)【2019年10月13日と2015年4月撮影】
・浸水推定段彩図(速報)
荒川水系(入間川・越辺川・都幾川)
・2019年10月13日撮影の衛星画像(光学衛星「SPOT 7」)
埼玉県川越市付近(10月13日10:28)
・2019年10月13日 航空写真
埼玉県東松山市
埼玉県比企郡川島町
埼玉県川越市
(内閣情報調査室 、2019年10月23日)
・加工処理画像(JPEG画像、GeoTIFF画像)
埼玉県熊谷市東部
埼玉県東松山市東部
埼玉県川越市北部
埼玉県川越市南部
埼玉県深谷市東部
埼玉県熊谷市西部
埼玉県嵐山町
埼玉県越生町
埼玉県飯能市東部
埼玉県本庄市
埼玉県寄居町
埼玉県東秩父村
埼玉県飯能市北西部
埼玉県飯能市西部
国交省関東地方整備局:堤防決壊箇所のドローン映像(テロップあり・なし)
・【1】2019年10月14日撮影
(1)荒川水系越辺川右岸0.0k付近 埼玉県川越市平塚新田地先
(2)荒川水系越辺川左岸7.6k付近(九十九川) 埼玉県東松山市正代地先
(3)荒川水系都幾川右岸0.4k付近 埼玉県東松山市早俣地先
・【2】令和元年10月16日撮影
(3)荒川水系都幾川右岸0.4k付近 埼玉県東松山市早俣地先
・【3】令和元年10月17日撮影
(3)荒川水系都幾川右岸0.4k付近 埼玉県東松山市早俣地先
・【5】令和元年10月21日撮影
(1)荒川水系越辺川右岸0.0k付近 埼玉県川越市平塚新田地先
(2)荒川水系越辺川左岸7.6k付近(九十九川) 埼玉県東松山市正代地先
(3)荒川水系都幾川右岸0.4k付近 埼玉県東松山市早俣地先
・【7】令和元年11月12日撮影
(1)荒川水系越辺川右岸0.0k付近 埼玉県川越市平塚新田地先
(2)荒川水系越辺川左岸7.6k付近(九十九川) 埼玉県東松山市正代地先
(3)荒川水系都幾川右岸0.4k付近 埼玉県東松山市早俣地先
・【1】2019年10月13日撮影
(1)荒川・久慈川・那珂川
荒川水系市野川浸水想定区域図(2009年3月)
荒川水系越辺川
荒川水系小畔川
荒川水系都幾川
荒川水系高麗川
参考図(全河川を重ね合わせた図)
・家屋倒壊等氾濫危険区域図(想定最大規模等)
荒川水系荒川
荒川水系入間川
荒川水系越辺川
荒川水系小畔川
荒川水系都幾川
荒川水系高麗川
参考図(全河川を重ね合わせた図)
1 背景・目的
令和元年(2019年)10月11日~13日に東日本を直撃した台風第19号により、県管理河川では昭和57年(1982年)の台風第18号以来、37年ぶりの堤防決壊が発生した。また、溢水・越水が57箇所(決壊2箇所含む)で発生したことや国管理河川の決壊などにより、県内の総浸水面積が約10,000haとなる甚大な被害が生じた。そこで、県土全体の強靭化を図るため、61河川・101箇所において緊急治水対策を実施する。
2 事業の概要
(1)決壊対策台風第19号で越水した堤防について補強を行う。越水に至っていない箇所においても、越水した場合の決壊防止対策として、粘り強い堤防の構築を進めていく。
(2)漏水・浸透対策堤防からの漏水や浸透への対策として、堤防への浸透を防止する遮水シートの設置や、水の通り道を防止する止水矢板の設置、堤体内の水を速やかに排水する設備の整備を実施する。
(3)溢水・越水防止対策溢水・越水という現象自体を少なくするために、河道内の樹木伐採、河道の掘削により水位低下を図るほか、可能な地区では既存の開発調整池の活用を進める。
排水機場では、周辺が浸水しても、その機能を維持できるよう耐水化の対策を実施する。さらに、河川の合流点付近の浸水対策を検討する。
3 予算額 8,508,810千円
(入間川流域緊急治水対策プロジェクト)(新規)
1 背景・目的
入間川流域では、国管理河川3箇所、県管理河川1箇所で堤防の決壊が発生するなど流域の広範囲で外水氾濫が発生した。このことを受け、国・県・市町で構成する大規模氾濫に関する減災対策協議会の入間川流域部会で「入間川流域緊急治水対策プロジェクト」が取りまとめられ、埼玉県も積極的にこのプロジェクトを推進する。今後、地域が連携し、「多重防御治水の推進」及び「減災に向けた更なる取組の推進」により、「社会経済被害の最小化」を目指す。※入間川流域部会構成員:国土交通省荒川上流河川事務所、気象庁熊谷地方気象台川越市、東松山市、坂戸市、川島町、埼玉県
2 事業の概要
(1)多重防御治水の推進河道の流下能力の向上、遊水・貯留機能の確保・向上、土地利用・住まい方の工夫を組み合わせ対応する。
(2)減災に向けた更なる取組の推進関係機関等が連携し、円滑な水防・避難行動の体制等の充実を図る。
(3)埼玉県の主な取り組み埼玉県としては、令和元年(2019年)12月補正で計上した災害復旧費の執行を進めるとともに、流下能力の向上として堤防整備を進めていく。
さらに、河道内の土砂掘削、樹木伐採により水位低減を進めていく。
また、本川合流点付近において、本川への流出抑制や支川の溢水・越水軽減、支川流域内における内水浸水の軽減を兼ねた、遊水地や排水機場等を組み合わせた対策を検討していく。
※対象の県管理河川九十九川、都幾川、飯盛川、葛川
3 予算額 420,000千円(令和元年12月補正からの累計で1,731,000千円)
2.基本高水の決定方法
3.水害の形態
4.水害の変遷
5.治水対策
6.今後の展開
・都幾川・越辺川の決壊地点付近の治水地形分類図
まとめ︓埼玉県内の河川堤防の被害・そのメカニズム
・都幾川右岸0.4k、神戶大橋付近の2箇所の堤体が決壊した。(左岸6.7k付近で支流の決壊あり)
・いずれの決壊箇所も越水により、裏法面の浸食を生じ、その後決壊に至っている。
・決壊した区間の上下流部では、越水による裏法浸食が確認された。また、裏法尻をコンクリートブロックで補強されていた区間では、決壊を免れている。
・都幾川右岸0.4kには小剣樋管があり、この上下流で堤体形状が異なる特徴がある。
・浸水した地域は、都幾川右岸堤防、越辺川左岸堤防と段丘面に囲まれた低平な氾濫平野である。
・早俣地区(自然堤防上の微高地)であったが、集落の多くが床上浸水の被害を受けていた。
・正代・早俣地区の浸水範囲は、段丘面に残された明瞭な浸水跡より、標高23m以下の土地が浸水したと推察される。
新江川堤防の決壊による浸水被害の特徴
・決壊箇所は、市野川合流地点(山王樋門)から上流へ120mの地点である。
・被害状況から、新江川も越水にともない裏法面が侵食し、決壊に至ったと考えられる。
・新江川が越水に至った要因として、
・本川へ流入する中小河川の流下能力
・本川へ流入する際の水門・樋門の操作などが考えられる。
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まとめ︓埼玉県内の河川堤防の被害・そのメカニズム
越辺川堤防の決壊による浸水被害の特徴
・越辺川右岸0.0k付近の堤体が13日(日)未明に、越水し裏法浸食を生じ、その後決壊した。
・決壊した堤防延⻑は、70m程度である。
・浸水した地域は、越辺川右岸堤防、小畔川左岸堤防と段丘面に囲まれた低平な氾濫平野である。
・浸水領域は広範囲であり、河川水位や現地調査時のゴミの漂着物の位置関係より、標高18m以下の土地が浸水したと推察される。
・浸水範囲内には、飯森川・大谷川があり、本川の河川水位が上昇したことで支川のゲートを締め、ポンプ排水していたが排水量が増加したために内水氾濫も発生した。
→越辺川の外水氾濫に加えて、支川の内水氾濫が生じ、浸水範囲が広範囲に及んだと考えられる
福川堤防の浸透被害の特徴
・浸透箇所は、利根川合流地点(福川水門)から上流へ400mほどの地点である。
・被害状況から、河川水の浸透により、裏法尻付近からパイピングによる漏水・噴砂を生じた。また、同箇所では裏法面の陥没被害が併せて発生している。
・この堤防にはモグラやネズミといった小動物の巣穴が多いといった農家の方の証言があり、この影響を受けて法面陥没といった被害に進展した可能性が考えられる。
資料-2 荒川の現状[資料②]
資料-3 荒川水系河川整備計画 (変更)(骨子)[資料③]
参考資料-1 入間川流域緊急治水対策プロジェクト【中間とりまとめ】[資料④]
〇本ブロック内の河川は山間部の渓流から平野部のゆったりした流れまで、多様な河川環境が存在する。
〇秩父山地や丘陵地から荒川低地へと流れ、最終的に和田吉野川、市野川、入間川の3川となって荒川に合流している。〇大小様々な河川が流れており、県管理河川は46河川に及ぶ。
・令和元年10月台風19号の概要(荒川水系荒川中流右岸ブロック)
(1)降雨状況
本ブロック内の、ときがわアメダス観測所・鳩山アメダス観測所(気象庁)において、日雨量、2日雨量とも観測史上最高雨量を観測した。
・令和元年10月台風19号の概要(荒川水系荒川中流右岸ブロック)
(2)決壊・溢水・越水状況
本ブロック内では、2箇所で決壊、16箇所で溢水・越水した。
・令和元年10月台風19号の概要(荒川水系荒川中流右岸ブロック)
(3)決壊状況【1/2】(都幾川)
都幾川では神戸大橋上流右岸で堤防が幅約30mに渡り決壊し、10月19日に応急復旧が完了した。
・令和元年10月台風19号の概要(荒川水系荒川中流右岸ブロック)
(3)決壊状況【2/2】(新江川)
新江川では市野川合流点付近の右岸で堤防が幅約27mに渡り決壊し、10月17日に応急復旧が完了した。
・荒川水系荒川中流右岸ブロック河川整備計画の概要
(1)現河川整備計画の対象区間・計画対象期間・河川整備の目標
〇 河川整備計画の対象とする区間は、荒川中流右岸ブロックにおける一級河川のうち、埼玉県が管理する全ての区間とする。
〇 河川整備計画の計画対象期間は、概ね30年間とする。
〇 上流部を中心とした十分な流下能力を有する区間を除き、改修が必要な平地部の区間では、時間雨量50mm程度の降雨を河川整備の目標とする。
・荒川水系荒川中流右岸ブロック河川整備計画の概要
(2)現河川整備計画の整備メニュー
洪水を安全に流下させるため、河道改修や堤防補強、放水路整備、排水機場の設置を行う。
・荒川水系荒川中流右岸ブロック河川整備計画の概要
(3)現河川整備計画の進捗状況
整備計画策定後(2006年2月)以降の整備状況
・河川整備計画の点検
(1)荒川水系河川整備計画の点検結果
第1回荒川河川整備計画有識者会議資料より引用
2016年3月 荒川水系河川整備計画 策定
2019年12月 荒川水系河川整備計画 点検(今回)
社会情勢の変化(近年の洪水等による災害の発生の状況等)
■今回洪水において、荒川水系入間川の菅間地点(主要地点)では、現行整備計画目標構図(1999年8月)における流量を上回った。
●今回洪水では3日雨量(流域平均)417㎜を記録し、1999年8月洪水における418㎜と同等規模の降雨量であった。
●また、最大流量約4100m3/sを記録し、1999年8月洪水における約3300m3/sを上回った。
河川整備の進捗・実施状況
■河川改修事業を継続して実施中である。
・令和元年10月台風19号の被害状況等を踏まえ、河川整備計画目標流量を上回った支川入間川流域における新しい治水計画検討の必要がある。
・荒川本川においては、整備計画に定められた河川整備を継続して実施する必要がある。
・河川整備計画の点検
(2)点検手法
荒川中流右岸ブロックの県管理河川について、社会情勢の変化等を踏まえた国の点検を参照し下記のフロー図により現行の河川整備計画の点検を行った。
・河川整備計画の点検
(3)荒川中流右岸ブロックの点検結果
2006年2月 荒川中流右岸ブロック河川整備計画策定
2020年1月 荒川中流右岸ブロック河川整備計画点検
社会情勢の変化(近年の洪水等による災害の発生の状況等)
○ 今回の洪水では、流域内にある気象庁の雨量観測所2箇所で、日雨量、2日雨量とも既往最大雨量を上回る降雨であった。
○ ブロック内の県管理河川9河川において、今回の被災流量が計画流量を上回った。
(例:都幾川 河川整備計画流量 720m3/s 今回の流量 1347m3/s)
○ 被災流量が計画流量を下回った河川等においても、6河川で決壊・溢水・越水が発生した。
河川整備の進捗・実施状況
○ 河川改修や維持管理を実施中である。
○ 被災流量が計画流量を上回った河川については、計画目標流量の見直しの必要性について確認を要する。
○ 被災流量が計画流量を下回ったものの、決壊・溢水・越水が発生した河川については、現行計画に定める対策を変更する必要性について確認を要する。
○ 整備対象期間に整備予定がないものの、溢水、越水が発生した河川については、新たな対策を位置づける必要性の確認を要する。
○ その他の河川においては、現行計画に位置付けている対策又は維持管理を引き続き実施する必要がある。
※今後の精査の結果により変更の可能性があります。
・河川整備計画の点検
(4)その他のブロックの点検結果
〇 被災流量が計画流量を上回った河川については、計画目標流量の見直しの必要性について確認を要する。
〇 被災流量が計画流量を下回ったものの、決壊・溢水・越水が発生した河川については、現行計画に定める対策を変更する必要性について確認を要する。
〇 なお、以前から計画変更に向けて検討を進めている河川については、引き続き、現行計画の目標達成に必要な対策の検討を進める。
〇 その他の河川においては、現行計画に位置付けている対策又は維持管理を引き続き実施する必要がある。
・第9回埼玉県河川整備計画策定専門会議の予定
第8回埼玉県河川整備策定専門会議
埼玉県管理河川の河川整備計画の点検
第9回埼玉県河川整備策定専門会議
荒川中流右岸ブロックをはじめ、県管理河川に関する各河川の河川整備計画変更方針(案)の提示
【議事内容(案)】
・変更対象とする河川の考え方
・河川整備計画該当河川の計画外力の設定の考え方
・計画対象期間の設定の考え方・目標達成のために必要可能な各種対策メニューの立案の考え方
・立案する各種対策メニューの評価の考え方
・目標レベルの維持に資する対策の基本的な考え方
埼玉県管理河川における河川整備計画の点検について(参考資料)(埼玉県、2020年1月26日)
・流域の概要(荒川水系荒川中流右岸ブロック)
過去の主な災害
〇荒川中流右岸ブロックでは、主に東部の低平地においてたびたび浸水被害が生じている。至近20年間で特に被害の大きかった洪水は、昭和57年9月洪水[1982年]、平成11年8月洪水[1999年]である。
〇 水害の形態は、河道の流下能力不足による溢水の他、支川合流点における本川から支川への逆流による溢水や支川から本川への排水不良による内水が主な原因であった。
・被害状況
(1)浸水状況県内で約10317haの浸水被害が発生(衛星写真等から判別し集計したもの 調節池、内水氾濫等を含む)
※衛星画像 2019年10月13日10時28分観測(及びその後の現地調査資料に拠るものを含む)
・被害状況
(2)決壊・溢水・越水 57箇所県管理河川の2箇所で決壊、55箇所で溢水・越水が発生。
・各河川の点検
荒川水系荒川中流右岸ブロック内の計画対象期間に整備予定がある21河川において、令和元年10月台風19号による被災流量と計画流量との比較を実施。
※令和元年10月洪水に関する数値は速報値であり、今後の精査により変更する可能性があります。
資料-2 荒川の現状[資料②]
資料-3 荒川水系河川整備計画 (変更)(骨子)[資料③]
参考資料-1 入間川流域緊急治水対策プロジェクト【中間とりまとめ】[資料④]
■我が国の政治・経済の中枢機能を有する首都東京を貫通している。
■流域の土地利用の約3割が市街地であり、流域の資産は188兆円に及んでいる。
■河口から22k区間は、明治時代に整備着手し、昭和5年に完成した人工放水路である。
◆流域及び氾濫域の諸元
流域面積(集水面積):約2,940km2
幹川流路延長:約173km(放水路延長:約22km)
浸水想定区域面積:約1,100km2
浸水想定区域人口:約540万人
流域内人口:約976万人
流域人口密度:約3,300人/km2
流域内市区町村:77市区町村
◆土地利用
・流域の土地利用は44%が森林であり、市街地が33%を占める
・流域内の資産は約188兆円(関東地方全体の約33%)に上る
(※関東地方全体の資産額は約564兆)
◆地形特性
・流域の43%は山地、36%は台地・丘陵、21%は低地寄居付近を扇頂部とする扇状地が熊谷市付近まで広がる
・北側に位置する大宮台地と南側に位置する武蔵野台地の間を縫うように沖積地が広がる
◆降雨特性
・流域の年平均降水量は約1,400mmであり、全国平均の約1,700mmと比べ少ない
・流域の中下流部は少雨傾向、上流部は多雨傾向
◆河道特性
・荒川本川は、中流部に大きな高水敷を有し、最大で2.5kmの川幅。22kから下流の放水路区間は約0.5kの川幅
・寄居までの上流部では、1/10~1/400の急勾配、寄居から秋ヶ瀬までの中流部では1/400~1/5,000、秋ヶ瀬から河口までの下流部(感潮域)では1/5,000~1/10,000
■明治43年[1910年]の洪水を契機に、翌44年に「荒川改修計画」(計画高水流量4,170m3/s(岩淵))を策定した。大正7年[1918年]に「荒川上流改修計画」(計画高水流量5,570m3/s(寄居))を策定した。
■たび重なる計画流量以上の洪水の発生や隅田川沿川の都市化の進展を踏まえ、昭和48年[1973年]に工事実施基本計画を改定した(基本高水流量14,800m3/s(岩淵)、計画高水流量7,000m3/s(岩淵)、隅田川への分派0m3/s)。
■平成9年[1997年]の河川法の改正に伴い、平成19年3月に河川整備基本方針を策定した(基本高水流量14,800m3/s(岩淵)、計画高水流量7,000m3/s(寄居、岩淵)、7,700m3/s(小名木))。
・主な洪水と治水対策
・明治43年6月洪水(台風)
・昭和22年9月洪水(カスリーン台風)
・平成11年8月洪水(熱帯性低気圧)
・3.河川整備基本方針の概要(荒川水系)
■荒川下流部の治水安全度の着実な向上を図るため、河川整備基本方針に従い、河道内調節池など洪水調節施設の整備を重点的かつ計画的に進めることを基本とするとともに、本支川の築堤・掘削及び局部的な改修を、上下流・本支川・左右岸バランス、緊急性等を踏まえながら適宜実施していく。
◆河川整備基本方針
・河川整備基本方針の計画規模は、1/200である。(ただし寄居上流及び支川は1/100)
・岩淵地点の基本高水ピーク流量は14,800m3/sであるが、下流部は感潮区間でもあるため掘削により確保できる流量は7,000m3/s(計画高水流量)であり、残り7,800m3/sを洪水調節施設で対応する。
→上流では、既設洪水調節施設の再開発や総合的な管理等により治水機能の向上を図る。中流では、広大な高水敷が有する遊水機能を活かした洪水調節施設を整備する。
・沿川には、人口・資産が集積しており、引堤及びH.W.L.を上げることは現実的でない。
→高水敷利用に配慮しつつ、河道掘削、築堤、樹木伐採で対応する。
◆河川整備基本方針の計画流量配分図
◆上流部での洪水調節
・上流では、二瀬ダム、浦山ダム、滝沢ダム等により洪水調節を実施
◆中流部での洪水調節
・中流では河道の遊水機能等を活かした洪水調節施設(調節池)により対応
◆中流河道における対応
・河道掘削及び築堤により、流下能力の向上及び水位低下を図る。
・4.現行河川整備計画の概要(荒川水系)
■過去の水害の発生状況、流域の重要性やこれまでの整備状況など、荒川水系の治水対策として計画対象期間内に達成すべき整備水準、河川整備基本方針で定めた最終目標に向けた段階的な整備なども含めて総合的に勘案し、実施していく。
■我が国の社会経済活動の中枢を担う東京都及び埼玉県を貫流する荒川の氾濫域には、人口・資産が高度に集積していることから、荒川の重要性を考慮して、戦後最大洪水である昭和22年9月洪水(カスリーン台風)と同規模の洪水が発生しても災害の発生の防止を図る。
■支川入間川については、近年の洪水で大規模な浸水被害をもたらした平成11年8月洪水[1999年]が再び発生しても災害の発生の防止を図る。高潮に対しては、荒川河口から堀切(ほりきり)橋下流端までの区間において、伊勢湾台風と同規模の台風が東京湾に最も被害をもたらすコースを進んだ場合に発生すると想定される高潮による災害の発生の防止を図る。
■計画規模を上回る洪水や整備途上において施設能力を上回る洪水等が発生した場合においても、人命・資産・社会経済の被害をできる限り軽減することを目標とし、施設の運用、構造、整備手順等を工夫するとともに、想定し得る最大規模までの様々な外力に対する災害リスク情報と危機感を地域社会と共有し、関係機関と連携して、的確な避難、円滑な応急活動、事業継続等のための備えの充実、災害リスクを考慮したまちづくり・地域づくりの促進を図ることにより、危機管理型ハード対策とソフト対策を一体的・計画的に推進し、想定し得る最大規模の洪水等が発生した場合においても、人命・資産・社会経済の被害をできる限り軽減できるよう努める。
◆河川整備計画の計画流量配分図
<本川>
・荒川本川の河川改修については、戦後最大洪水である昭和22年9月洪水(カスリーン台風)と同規模の洪水を計画高水位以下で安全に流下させることとし、河川整備計画の目標流量を基準地点岩淵において11,900m3/sとし、このうち、河道では計画高水位以下の水位で6,200m3/sを安全に流下させる。
<支川>
・現行河川整備計画は、支川入間川においては近年の洪水で大規模な浸水被害をもたらした平成11年8月洪水が再び発生しても災害の発生の防止を図ることとしている。
・4.現行河川整備計画の概要(荒川水系)
事業箇所位置図
・5.整備計画策定後(2016年3月)以降の整備状況 <荒川上流部、入間川等支川>(荒川水系)
・5.整備計画策定後(2016年3月)以降の整備状況<荒川下流部>(荒川水系)
・6.治水の現状<①堤防の整備状況>(荒川水系)
■平成30年度末現在、堤防の完成延長は187.4㎞(約70%)、今後整備が必要な堤防延長は78.6㎞(約30%)である。
■下流部については、堤防の整備がほぼ完成しているが、一部、高潮堤区間、橋梁部等で断面不足の区間がある。
■支川については、1999年の出水を契機に緊急的に行った事業により整備が進んだが、上流、樋管部等で断面不足の区間がある。
・6.治水の現状<②洪水調節施設の整備状況>(荒川水系)
■荒川の基本高水ピーク流量は、基準地点岩淵において、14,800m3/sである。
■下流部の堤防高は概ね確保されており、既に橋梁、樋門等多くの構造物も完成している。堤防のかさ上げや引堤による社会的影響及び大幅な河道掘削による河川環境の改変や将来河道の維持を考慮し、同地点における確保可能な流量は7,000m3/sである。
■残り7,800m3/sを洪水調節施設で対応する必要がある。
◆洪水調節施設の整備状況
・洪水調節施設への依存率が52%(14,800m3/sに対し7,800m3/s)と非常に高い
・完成施設は、荒川第一調節池、二瀬ダム、浦山ダム、滝沢ダムの4箇所
・支川においては、国、水資源機構の洪水調節施設は無い
・7.流域の現状 <治水の現状 河床変動、河床高の経年変化(支川)>(荒川水系)
■入間川では、下流部において河川改修による影響が見られる。
■都幾川では、3.6k~5.4k間において、昭和末期から平成10年代に実施された低水路の付け替え等が影響している。
・7.流域の現状 <河川環境の概要(支川)①>(荒川水系)
■入間川等の支川は、連続して分布するヨシ・オギ群落や砂礫河原等多様な自然環境が形成されている。
■入間川、越辺川、都幾川等の支川のうち比較的大きな河川空間を有する場所では、公園、グラウンド、ビオトープなどで利用されている。
◆河川の区分と自然環境
◆支川における自然環境
・入間川等の支川は、連続して分布するヨシ・オギ群落や砂礫河原等多様な自然環境が形成されている。
・越辺川ビオトープは、流下能力確保のための掘削工事に際して整備された。
・浅羽ビオトープは、ふるさとの川整備事業の認定を受け整備され、現在は地元自治体や環境団体により良好な自然地として保全されている。
◆支川における利用状況
・入間川、越辺川、都幾川等の支川のうち比較的大きな河川空間を有する場所では、公園、グラウンド、ビオトープなどで利用されている。
・7.流域の現状 <河川環境の概要(支川)②自然環境(湿性草地)支川>(荒川水系)
■荒川中流部及び支川では近年湿性草地の面積が減少傾向にある。特にヨシ群落は支川(入間川、越辺川、小畔川、都幾川、高麗川)で顕著に減少しており、オギ群落、カナムグラ群落、ヤナギ林等への遷移が進行している。
■湿性草地はオオヨシキリ等の鳥類やカヤネズミ等の哺乳類等の重要種の生育・生息・繁殖場として機能している。
◆ヨシ群落の変遷
◆植生群落別の重要種の確認地点数
湿性草地(ヨシ、ツルヨシ、オギ)の確認地点数が多い
重要種の生育・生息場としての価値が相対的に高い
・8.令和元年10月洪水の概要及び被害状況(荒川水系)
■令和元年10月洪水[2019年]では、支川入間川流域への降雨量が多かった。
■荒川水系越辺川、都幾川では、今次洪水により河川水位が計画高水位を超過し、暫定堤防区間で決壊及び越水による外水氾濫が発生した。
・9.河川整備計画の点検結果(荒川水系)
2016年3月 荒川水系河川整備計画 策定
2019年12月 第1回荒川河川整備計画有識者会議 荒川水系河川整備計画 点検
社会情勢の変化(近年の洪水等による災害の発生の状況等)
■今回洪水において、荒川水系入間川の菅間地点(主要地点)では、現行整備計画目標構図(1999年8月)における流量を上回った。
●今回洪水では3日雨量(流域平均)417㎜を記録し、1999年8月洪水における418㎜と同等規模の降雨量であった。
●また、最大流量約4100m3/sを記録し、1999年8月洪水における約3300m3/sを上回った。
河川整備の進捗・実施状況
■河川改修事業を継続して実施中である。
・令和元年10月台風19号の被害状況等を踏まえ、河川整備計画目標流量を上回った支川入間川流域における新しい治水計画検討の必要がある。
・荒川本川においては、整備計画に定められた河川整備を継続して実施する必要がある。
2020年1月 第2回荒川河川整備計画有識者会議
■荒川水系河川整備計画における支川入間川流域について、変更に向けた検討を行う。
・10.参考:近年の大規模水害を踏まえた治水対策に関する動向<減災・危機管理対策>(荒川水系)
■国土交通省では、2015年9月の関東・東北豪雨を踏まえ、洪水による氾濫が発生することを前提として、社会全体でこれに備える「水防災意識社会」を再構築するため、「水防災意識社会 再構築ビジョン」として、全ての直轄河川とその沿川市町村(109水系、730市町村)において、2020年度目途に水防災意識社会を再構築する取組を行うこととした。
■「洪水氾濫を未然に防ぐ対策」としては、浸透に対する安全性を確保するための対策や、「危機管理型ハード対策」として、決壊までの時間を少しでも引き延ばすよう、堤防構造を工夫する対策などを重点的に実施する。
■また、住民が自らリスクを察知し主体的に避難できるよう、より実効性のある「住民目線のソフト対策」へ転換し、重点的に実施する。
<ソフト対策>・住民自らリスクを察知し主体的に避難できるよう、より実効性のある「住民目線のソフト対策」へ転換し、2016年出水期まを目途に重点的に実施。
<ハード対策>・「洪水氾濫を未然に防ぐ対策」に加え、氾濫が発生した場合にも被害を軽減する「危機管理型ハード対策」を導入し、2020年度を目途に実施。
主な対策 各地域において、河川管理者・都道府県・市町村等からなる協議会を新たに設置して減災のための目標を共有し、ハード・ソフト対策を一体的・計画的に推進する。
<洪水氾濫を未然に防ぐ対策>
○優先的に整備が必要な区間において、堤防のかさ上げや浸透対策などを実施
<危機管理型ハード対策>
○越水等が発生した場合でも決壊までの時間を少しでも引き延ばすよう堤防構造を工夫する対策の推進
<住民目線のソフト対策>
○住民等の行動につながるリスク情報の周知
・立ち退き避難が必要な家屋倒壊等氾濫想定区域等の公表
・住民のとるべき行動を分かりやすく示したハザードマップの改良
○事前の行動計画作成、訓練の促進
・タイムラインの策定
○避難行動のきっかけとなる情報をリアルタイムで提供
・水位計やライブカメラの設置
・スマホ等によるプッシュ型の洪水予報等の提供
・10.参考:近年の大規模水害を踏まえた治水対策に関する動向<減災対策協議会の設立・開催>(荒川水系)
■減災対策協議会の設立・開催状況
■水防災意識社会 再構築ビジョン」を実現させるため、河川管理者、気象台、県、市町村等関係機関で構成される減災対策協議会を2016年5月に設立し、減災のための取組方針を定めるとともに、関係機関が連携、協力しながら、ハード対策とソフト対策を一体的、計画的に推進してきた。
■荒川水系(埼玉県域)大規模氾濫に関する減災対策協議会
・2016年5月31日 第1回協議会を実施(協議会の設立)
・2016年9月28日 第2回協議会を実施(取組方針の決定)
・2017年6月1日 第3回協議会を実施(取組状況の報告)
・2018年5月22日 第4回協議会を実施(取組状況の報告)
・2019年5月27日 第5回協議会を実施(取組状況の報告)
・2019年11月12日、14日 第6回協議会を実施(台風第19号被害を受けた規約改正、部会規約(案)
■取組方針の目標
荒川水系(埼玉県域)の大規模水害に対し、「逃げ遅れゼロ」、「社会経済被害の最小化」を目指す。
※大規模水害:想定し得る最大規模の降雨に伴う洪水氾濫による被害
※逃げ遅れゼロ:避難行動が遅れ人命にかかわるような逃げ遅れをなくす
※社会経済被害の最小化:大規模水害による社会経済被害を軽減し、早期に経済活動を再開できる状態
■上記目標達成に向けた重点的な取組
洪水を河川内で安全に流す対策などのハード対策に加え、荒川水系(埼玉県域)において、以下の項目を3本柱とした取組を実施。
1.逃げ遅れゼロに向けた迅速かつ的確な避難行動のための取組
2.洪水氾濫による被害の軽減、避難時間の確保のための水防活動等の取組
3.一刻も早い生活再建及び社会経済活動の回復を可能とするための排水活動の取組
・10.参考:近年の大規模水害を踏まえた治水対策に関する動向<今後の治水対策>(荒川水系)
「大規模広域豪雨を踏まえた水災害対策のあり方について ~複合的な災害にも多層的に備える緊急対策~」答申(2018年12月)
■2018年12月に「大規模広域豪雨を踏まえた水災害対策のあり方について」の答申がとりまとめられ、多層的な対策を一体的に取り組み、「水防災意識社会」の再構築を加速することが求められた。
■また、2019年10月に「気候変動を踏まえた治水計画のあり方」が提言され、各種の治水対策を組み合わせていくことが求められた。
「気候変動を踏まえた治水計画のあり方提言」(2019年10月)
【水災害対策の考え方】
■水防災意識社会の再構築する取り組みをさらに強化するため、次の対策を図る。
・気候変動により増大する将来の水災害リスクを徹底的に分析し、分かりやすく地域社会と共有し、社会全体で水災害リスクを低減する取組を強化
・河川整備のハード整備を充実し、早期に目標とする治水安全度の達成を目指すとともに、水災害リスクを考慮した土地利用や、流域が一体となった治水対策等を組合せ
・10.参考:近年の大規模水害を踏まえた治水対策に関する動向<既存ダムの洪水調節機能の強化>(荒川水系)
既存ダムの洪水調節機能の強化に向けた基本方針
(既存ダムの洪水調節機能強化に向けた検討会議(2019.12.12))
■2019年12月に「既存ダムの洪水調節機能強化に向けた基本方針」がとりまとめられ、水害の激甚化等を勘案し、緊急時において既存ダムの有効貯水容量を洪水調節に最大限活用できるよう、関係機関との連携の下、速やかに必要な措置を講じることが求められた。
・荒川水系における既存ダム(二瀬、浦山、滝沢、有間、合角、玉淀、大洞)
・10.参考:近年の大規模水害を踏まえた治水対策に関する動向<減災対策部会による治水対策の更なる推進>(荒川水系)
■減災対策部会の設置・検討状況
■令和元年台風第19号により荒川流域において大規模な浸水被害が発生したことを踏まえ、減災対策協議会の派生部会として入間川流域部会を設置し、今後の治水対策の方向性を検討する。
■本部会では、「地域が連携し、多重防御治水により社会経済被害の最小化を目指す」を目標に『入間川流域緊急治水対策プロジェクト』を取りまとめ、これに沿って、被害軽減に資する総合的な治水対策や防災・減災に向けた更なる取り組みの推進を図る。
入間川流域部会
・2019年12月11日 第1回部会を実施(今般洪水の課題と対応について)
・2019年12月24日 第2回部会を実施(入間川流域緊急治水対策プロジェクト【中間とりまとめ】(案))
■概ね5年間で達成すべき目標
2019年10月台風で明らかになった課題に対処するため、「入間川流域緊急治水対策プロジェクト」に基づき、地域が連携を図りながら具体化に向けた検討及び実践を行うことにより、多重防御治水による社会経済被害の最小化を目指す
■目標に向けた2本柱
上記目標の達成に向け、「多重防御治水の推進」に加え、「減災に向けた更なる取り組みの推進」により浸水被害の軽減と地域防災力の構築を推進する。
1.多重防御治水の推進
2.減災に向けた更なる取り組みの推進
・10.参考:近年の大規模水害を踏まえた治水対策に関する動向<緊急治水対策プロジェクト(中間とりまとめ)>(荒川水系)
入間川流域緊急治水対策プロジェクト【中間とりまとめ】(2019年12月26日発表)
~地域が連携し、多重防御治水により、社会経済被害の最小化を目指す~
川越市・東松山市・坂戸市・川島町・埼玉県・気象庁熊谷地方気象台・荒川上流河川事務所
令和元年台風第19号において甚大な被害が発生した荒川水系入間川流域における今後の治水対策の方向性として、関係機関が連携し「入間川流域緊急治水対策プロジェクト【中間とりまとめ】」をとりまとめました。引き続き、具体化に向けた検討を行ってまいります。
①多重防御治水の推進(関東流治水システムの踏襲)
現状(before)
・直轄ダム、遊水地なし
・主に河道で洪水を処理
今後(after)
河道の流下能力の向上、遊水機能の確保・向上、
土地利用・住まい方の工夫を組み合わせ対応
【参考】『多重防御治水』とは地域と連携し、
①河道の流下能力の向上による、あふれさせない対策
②遊水機能の確保・向上による、計画的に流域にためる対策
③土地利用・住まい方の工夫による、家屋浸水を発生させない対策が三位一体となって社会経済被害の最小化を目指す治水対策
三位一体の対策
1.河道 河道の流下能力の向上
○河道内の土砂掘削、樹木伐採による水位低減
○堤防整備(掘削土を活用)
2.遊水機能の確保・向上
○地形や現状の土地利用等を考慮した遊水池の整備
※外水(国管理河川・県管理河川など)、内水の両方に対応する遊水池((仮称)ハイブリッド型遊水池)を検討
3.土地利用・住まい方の工夫
○浸水が想定される区域の土地利用制限(災害危険区域の設定等)
○家屋移転、住宅の嵩上げ(防災集団移転促進事業等)
○高台整備(避難場所等に活用)
○土地利用に応じた内水対策の検討
※各地域の特性に合わせてメニューを検討
②減災に向けた更なる取組の推進
<課題>
同時多発的な被害発生により、情報が膨大となり、状況把握・情報伝達・避難行動が円滑に進まない
<今後の方向性>
関係機関等が連携し、円滑な水防・避難行動のための体制等の充実化を図る
<主な取組メニュー>
○重要度に応じた情報の伝達方法の選択及び防災情報の共有化のための取組
■自治体との光ケーブル接続
■氾濫を監視する機器の開発・整備
■危機管理型水位計、簡易型河川監視カメラの設置
○関係機関が連携した水害に対する事前準備のための取組
■タイムラインの改善
■他機関・民間施設を含めた避難場所の確保
■講習会等によるマイ・タイムライン普及促進
■広域避難計画の検討
■緊急排水作業の準備計画策定と訓練実施
資料-2 荒川の現状[資料②]
資料-3 荒川水系河川整備計画 (変更)(骨子)[資料③]
1.1 計画対象区間
■荒川水系荒川河川整備計画(大臣管理区間)(以降、「河川整備計画」)の計画対象区間は、下図のとおり。
■そのうち、今回変更の対象となる区間は入間川流域における入間川、越辺川、都幾川、高麗川、小畔川の5河川。
2. 河川整備計画の目標に関する事項
2.1 洪水、津波、高潮等による災害の発生の防止又は軽減に関する目標
■荒川は、我が国の社会経済活動の中枢を担う東京都及び埼玉県を貫流する国土管理上最も重要な河川の一つである。■流域内には人口・資産が集積しており、大規模な浸水時には、地下鉄等への浸水など首都圏交通網の麻痺、電気、ガス、通信等の途絶により市民生活へ甚大な被害が及ぶ。また、首都東京に集中する行政機関・企業等への影響も考えられ、日本全体に与える影響は甚大である。
■このため、洪水、津波、高潮等による災害から貴重な生命・財産を守り、住民が安心して暮らせるよう、これまでの河川整備の経緯、沿川の社会的状況や河川の状況の変化等を踏まえて、河川整備を推進する。
■荒川では、多様で多量の水利用が行われており、渇水時における地盤沈下の防止、河川環境の保全や利水安全度の確保のため、流水の正常な機能を維持するため必要な流量を安定的に確保する。
■首都圏では経済活動の拡大と都市化が進み、自然環境やオープンスペースが失われてきており、河川空間は貴重な空間となっている。
■そのため、水環境の改善や、生物多様性の保全に配慮した多自然川づくりを行い、動植物の生息・生育・繁殖の場の確保等を図り、人と河川との豊かなふれあいの場を提供する等、河川環境の整備と保全を推進する。
■災害の発生の防止又は軽減、河川の適正な利用、流水の正常な機能の維持、河川環境の整備と保全という目標を達成するため、地域住民や関係機関と連携を図りながら、平常時や洪水時の河川の状況に応じ、適切に維持管理を行う。■河川整備計画は、河川整備基本方針に沿って計画的に河川整備を行うため、中期的な整備内容を示したものであり、適宜見直し、段階的・継続的に整備を行うこととしており、その実現に向けた様々な調査及び検討を行う。
■気候変動に伴う降水形態の変化等により渇水や洪水・高潮、水質悪化等のリスクが高まると予想されており、気候変動のリスクに総合的・計画的に適応する施策を検討する。
■河川整備基本方針の『荒川は高密度に発展した首都圏を氾濫区域として抱えていることから、放水路として開削された下流部、広大な川幅を有する中流部などそれぞれの地域特性に応じた治水対策を講じ、上下流や本支川のバランスにも配慮しながら治水安全度を向上させる』の考えのもと、その目標に向けて段階的な整備を実施することとし、洪水による災害の発生の防止又は軽減に関する目標を以下のとおりとする。
■現行河川整備計画は、支川入間川においては「近年の洪水で大規模な浸水被害をもたらした平成11年8月洪水が再び発生しても災害の発生の防止を図る」こととしている。
■令和元年10月台風19号による甚大な被害を踏まえ、「近年の洪水で大規模な浸水被害をもたらした令和元年10月洪水が再び発生しても災害の発生の防止又は軽減を図る」こととする。
<本川:現行計画から変更しない>
■荒川本川の河川改修については、戦後最大洪水である昭和22年9月洪水(カスリーン台風)と同規模の洪水を計画高水位以下で安全に流下させることとし、河川整備計画の目標流量を基準地点岩淵において11,900m3/sとし、このうち、河道では計画高水位以下の水位で6,200m3/sを安全に流下させる。
■令和元年10月台風19号[2019年]による甚大な被害を踏まえ、「近年の洪水で大規模な浸水被害をもたらした令和元年10月洪水が再び発生しても災害の発生の防止又は軽減を図る」こととする。
3. 河川の整備の実施に関する事項
3.1 河川工事の目標、種類及び施行の場所並びに当該河川工事の施行により設置される河川管理施設の機能の概要
3.1.1 洪水、津波、高潮等による被害の発生の防止又は軽減に関する事項
■河川の整備に当たっては、はん濫域の資産の集積状況、土地利用の状況等を総合的に勘案し、適正な本支川、上下流及び左右岸の治水安全度のバランスを確保しつつ、段階的かつ着実に整備を進め、洪水、高潮または津波による災害に対する安全性の向上を図る。
■地球温暖化に伴う気候変動の影響への対応等について、関係機関と調整を行い調査検討を行います。
(1)洪水を安全に流下させるための対策
1)堤防の整備
■堤防が整備されていない区間や、堤防の断面形状に対して高さ又は幅が不足している箇所について、築堤・堤防のかさ上げ・拡築を行う。
2)河道掘削
■河道目標流量を安全に流下させるために必要な箇所等において、河道掘削を行う。
3)洪水調節容量の確保
■中流部では、広大な高水敷に横堤が築造され遊水機能を有しているが、より効果的にピーク流量を低減させ下流への負荷を低減するため、調節池の整備を行う。
■支川では、支川下流部へのピーク流量を低減させ下流への負荷を低減するため、遊水地の整備を行う。
(2)浸透対策
■堤防の浸透対策としては、これまで実施してきた点検結果を踏まえ、背後地の資産状況等を勘案し、堤防強化対策を実施する。
(3)内水対策
■内水による浸水が発生する地区の河川は、調節池等の本川、支川の水位低下対策と並行して、その発生要因等について調査を行い、関係機関と調整した上で、必要に応じて、排水能力の増強等、土地利用に応じた内水被害の軽減対策を実施する。
■支川における遊水地の整備にあたっては、地形や現状の土地利用等を考慮するとともに、関係機関と調整した上で、外水、内水の両方に対応する機能の検討を行う。
(4)危機管理対策
■被害の最小化を図る観点から、災害時において河川管理施設保全活動等を円滑に行う拠点及びこれにアクセスする管理用通路等について、関係機関との調整の上、整備を行うとともに、避難場所等となる高台整備について支援を行う。
■排水機場等については、洪水時等に周辺地域が浸水した場合にも継続的に機能が確保されるよう、排水機場等の耐水化等を進める。
■また、災害復旧のための根固めブロック等資材の備蓄を進めるとともに、排水ポンプ車等災害対策車両の整備等を検討し、必要に応じて実施する。
■大規模地震等の発生時において、緊急用物資の輸送や、被災した河川管理施設の復旧工事等を円滑に行うため、緊急用河川敷道路、災害時の緊急輸送路等主要道へ接続する坂路、緊急用船着場の整備、航路確保のための浚渫等を行う。
■水害の激甚化や治水対策の緊要性等を勘案し、緊急時において既存ダムの有効貯水容量を洪水調節に最大限活用できるよう、関係機関との連携の下、事前放流の実施要領策定等の必要な措置を講じる。
3.2 河川の維持の目的、種類及び施行の場所
3.2.1 洪水、津波、高潮等による災害の発生の防止又は軽減に関する事項
(1)地域における防災力の向上
■堤防決壊等による洪水氾濫が発生した場合、自助・共助・公助の精神のもと、住民等の生命を守ることを最優先とし、被害の最小化を図る必要がある。そのため、迅速かつ確実な住民避難や水防活動等が実施されるよう、関係機関との連携を一層図る。
■堤防の漏水や河岸侵食に対する危険度判定等を踏まえて、重要水防箇所を設定し、水防管理者等に提示するとともに、危険箇所において、必要に応じて河川監視用CCTVや危機管理型水位計及び簡易型河川監視カメラを設置し、危険箇所の洪水時の情報を水防管理者にリアルタイムで提供していく。また、氾濫発生を迅速に把握するため、氾濫を監視する機器類の整備等を進める。
■洪水時に住民等が的確なタイミングで適切な避難を決断できるよう、住民一人一人の防災行動をあらかじめ定めるマイ・タイムライン等の取組が推進されるように支援する。
■洪水を安全に流下させるための対策に加え、関係機関と連携し、土地利用・住まい方の工夫を組み合わせて対応する。また、浸水が想定される区域の土地利用を制限する等の対策を進める際には、関係機関に必要な支援を行う。
1.2 治水事業、水防、地域・都市における課題
大河川の河川整備基本方針では、年超過確率1/100~1/200といった目標を掲げている。しかし現実の安全度は、今後20~30年間の整備内容を定めた河川整備計画の目標でさえ、年超過確率1/30~1/50程度の水準であるのが現状である。また、地方の中小河川では、財政的な制約や氾濫時の被害規模、上下流バランス等を考慮した結果、年超過確率1/10~1/30といった低い整備水準に留まっている上、現状ではこうした水準にも達していない河川が多い。さらに、用地買収の遅れや古い橋梁の掛け替えの難航などにより、局所的に極めて高い氾濫リスクを抱える場所が存在する。一方、高度成長期以降、都市化が急激に進展した際、氾濫リスクが高い領域にもかかわらず、平常時の利便性の高さから市街化が進んだ地域が多く、現在でも、利便性の高い地域では氾濫リスクを考慮せずに新たな開発が行われている所もある。また、高齢者支援施設や医療施設などは、用地取得の容易さから、氾濫リスクの高い危険箇所に立地されがちである。このように、水害に対して脆弱な地域を多く抱える中、高齢化や人口減少により、水防活動・避難は一層困難になっている。すなわち、現状では、治水事業や水防等が「体力不足」の状況にあることを認識しなければならない。
2.1 「流域治水」とは
ここでいう「流域」とは、分水界で囲まれた集水域に加え、その川の氾濫が及ぶ氾濫域、その川の水を利用している利水域、その川の水を利用した後の排水が流れる排水域、およびその川を中心とした生態系の広がりも含めた広義のものとする。この流域において、河川、水防、地域・都市が連携し、河川整備、氾濫を抑える対策、氾濫に備える地先・広域の水防、利便性・快適性と安全・安心のためのまちづくりや住まい方のすべてを見据えた「流域治水」が求められている。流域治水とは、流域の自然を適度に保全・活用しつつ、河川管理者が治水対策を実施し、都道府県や市区町村が保水・遊水機能を有する土地の保全・整備、二線堤や輪中堤等の施設整備、内水排除のための下水道整備、氾濫リスクのより少ない場所への都市や住宅の誘導、災害危険区域の設定、防災集団移転事業の推進などを行い、地域コミュニティーや住民が円滑な避難体制を構築するという、自助・共助・公助の総力をあげた治水の総体である。この実現に向け、河川管理者は、水防や都市計画で考えるべき課題を明示し、都道府県や市区町村は、河道計画の限界、および現状のリスクを認知し、都市計画に的確に反映させると共に、地域のニーズを明示しなければならない。
2.4 「多段階リスク明示型浸水想定図(仮称)」の作成と活用
多くの河川で避難のためのハザードマップが作成されているが、新たに明示が求められた「早期の立退き避難が必要な区域」は未だ示されていないものが多く、改善が求められる。ただし、起こりうる最大浸水深等が示された避難のためのハザードマップでは、土地利用計画へ反映するには情報が不十分な場合もある。そのため、現状あるいは将来の整備状況において、どの程度の降雨で、どの領域が、どの程度氾濫するのかがわかる、「多段階リスク明示型浸水想定図(仮称)」を新たに作成し、公表することも求められる。なお、従来のハザードマップそのものが作成されていない中小河川においては、まずは簡易な氾濫解析ででもハザードマップを作成し、いずれは多段階リスク明示型浸水想定図(仮称)へ展開していくことが求められる。しかし、河川の合流部付近や中小河川が網目状に流れる低平地など、内水・外水氾濫が連鎖する場所等は氾濫予測に限界がある。こうした不確定性を理解した上で、長期的には安全地への集約に多段階リスク明示型浸水想定図(仮称)を活用するべきである。そのため、まずは多段階リスク明示型浸水想定図(仮称)を地域住民へ周知徹底し、国民一人一人が責任を持って対応できる素地を養わねばならない。
2.5 流域治水の主体
大規模氾濫に対する地域・都市の安全性を向上させる流域治水のためには、氾濫を抑える治水対策のみならず、河川管理者と市区町村との強い連携による対策が不可欠である。そのため、河川管理者は洪水時の水文・水理情報を、わかりやすく使いやすい形で市区町村に伝えなければならない。そして、市区町村は氾濫被害の最小化に加え、早期復旧が可能となるように、水防だけでなく、地域・都市づくりの観点からの政策を都道府県と連携して充実させておく必要がある。特に、大規模な洪水氾濫に対しては、現在の地先を守る水防活動だけでは限界があり、避難誘導、氾濫防止、応急対策までの一連の対策を混乱なく実行する、より広義の水防と、流域の流出抑制対策、河川整備、まちづくり・住まい方の改善とを一体のものとして考える必要がある。このように関係機関が連携し、流域における大規模洪水被害を減少させるためには、各流域の将来像およびそれに向けた取り組みを具体的に協議する、大規模氾濫減災協議会のような組織が重要な役割を持つ。地域間の利害相反等、種々の制約がある中で、大規模水害に対しては、流域全体が運命共同体となり、どのように安全な地域を作り上げていくか、大規模氾濫減災協議会のような組織がその役割を果たすことができるよう、法律・制度の充実が必要である。
3.1 災害に強い川づくりの推進
洪水を安全に流すためのハード対策の徹底に加え、「水防災意識社会再構築ビジョン」(平成27年12月)に基づき、堤防が決壊するまでの時間を少しでも引き延ばす「危機管理型ハード対策」が進められている。今後も堤防整備、河道掘削や遊水池の整備に加え、既存ダムの徹底活用などによって抜本的な安全度の向上を図り、さらには、氾濫リスクが高い場所を特定した上で、重点的な対策を優先して講じることが求められる。これには、学術的、技術的に進展している河道解析を用い、洪水外力レベルに応じた氾濫危険箇所および堤防破壊危険の推定を行う必要がある。今後の河道変化を予測し、樹林伐採や浚渫など、河道の維持管理を継続していく必要がある。ただし、単に安全度の向上に偏ることなく、自然環境の保全、親水、利水、文化の継承といったこととのバランスへの配慮も求められる。
3.2 氾濫リスクに応じた土地利用の規制と誘導
氾濫リスクの高低は、流域内の地形や河川整備状況等によって場所ごとに異なり、今後は氾濫リスクの差異を前提とした地域・都市政策が求められる。地域・都市政策において、都市機能や住宅の誘導を図る際には、氾濫リスクの高い地域を除外し、氾濫リスクがより低い地域を選定できるよう、いわゆる「まちのリスクマネジメント」を実施する必要がある。その上で、二線堤や輪中堤および同等機能を有する施設を有する地域に関しては、水防法における浸水被害軽減地区の指定・保全を行うべきである。一方、特に氾濫リスクの高い地域では、土地利用規制による開発抑制、避難ビルの効果的配置、浸水深以上への居室設置等を、法令・条例等により推進すべきである。そして、市役所等の防災拠点や交通・医療機関等の重要施設については、あらゆる氾濫リスクを想定した上で、その機能を維持・継続させられるよう、電源施設の非浸水化が求められる。これらに加え、土地のかさ上げや堤防の緩勾配化等を状況に応じて実施し、「浸水危険地域の面的改善」を行わなければならない。ただし、当然ながらこれらは地域の状況とニーズを踏まえた上で計画されるべきものである。なお、決壊により市街地が激しく破壊されてしまった場合には、単なる堤防の現状復旧ではなく、処理に困る氾濫土砂を用いて土地のかさ上げを行い、市街地の復興を図ることも考えられる。氾濫に備えるこれらの対策と共に、水田の遊水地化など氾濫を抑える対策も考えられる。
3.3 復旧の自助体制の強化と立地を適正化させるための不動産取引・保険制度の充実
わが国の最近30年間における、人口1人1年平均の自然災害による被害額は113ドルで、世界でも顕著に高額である。ところが、自然災害による経済損失の内、損害保険等によって補填された費額の比率は、米国のハリケーン災害等と比較して顕著に低く、保険システムを通じた自然災害対応は甚だ不十分である。氾濫リスクの高低を特定・公表した上で、水災保険制度を強化すべきである。また、不動産取引においても、宅建業者がこの情報を重要事項説明に含めることを義務化するなど、リスクを踏まえた立地適正化を加速させなければならない。このように、保険システムをはじめとした、種々の市場メカニズム等を通じた対策を講じると共に、人命に関わるリスクが想定される地域は、例えば「災害危険区域」の指定を行うなどして、居住の制限を行うべきである。このように、官民をあげた水害対策に早急に取り組まなければならない時期に来ている。
3.4 水防・避難体制の再構築とそれに向けた日常的な情報共有
人口減少や高齢化により、水防活動は一層弱体化しつつあり、情報伝達体制、水防資機材の備蓄、水防工法の普及と伝承、水防訓練の実施状況等については、今一度現状を確認し、改善しておく必要がある。避難に関しては、特に都市部における広域避難において、交通容量や避難場所の収容力に限界があることが露見している。そのため、広域避難と氾濫区域内の安全な避難場所の確保の双方について検討すべきである。この避難場所に関しては、病院やヘリポートの位置などを考慮した一次避難所の再設定、避難所へ余裕を持って避難するための二線堤や輪中堤等の整備など、ここでも流域を俯瞰した対策が求められる。なお、要配慮者向けの避難所を早めに開設するなど、開設のタイミングにも工夫が可能である。そして、こうした水防・避難を滞りなく実施するためには、常日頃から、気象庁、河川管理者、自衛隊、市区町村、報道・放送機関、水防管理者や地域コミュニティー、民間企業および個人等、関係する主体の間での話し合いを習慣化し、施策連携方策に関する議論や、情報伝達訓練を定期的に実施しておく必要がある。これらを通して、災害対応の知識を共有すると共に、情報をわかりやすく円滑に伝達するための工夫がなされ、共通の目標とそれに向けた具体的行動計画を設定しておかなければならない。なお、今回の災害でも、災害時に避難の問い合わせが殺到し混乱を来した地域が多い中、出前講座や説明会を通じて、常日頃から意見交換を進めていた地域では、効率的な避難行動が確認された。これに加えて、子供たちをはじめとする一般市民への防災教育を行い、中小河川においても命に関わるリスクがあることを学ばせつつも、人々の暮らしが河川から遠ざからず、日頃から川に触れ、川について知る機会を増やす工夫が求められる。
※「堤防強化に関する東京新聞の二つの記事」(八ッ場明日の会HP)
・降雨の概要
台風本体の発達した雨雲や台風周辺の湿った空気の影響で、静岡県や関東甲信地方、東北地方を中心に広い範囲で記録的な大雨となった。その結果、多くの雨量観測地点で既往最高に迫る雨量となり、横瀬雨量観測所、三峰雨量観測所では観測史上最高雨量を観測した。
・令和元年10月台風19号による被災状況(荒川水系入間川 直轄区間)
荒川水系越辺川、都幾川では、今次洪水により河川水位が計画高水位を超過し、暫定堤防区間で決壊、越水による外水氾濫が発生
・1880年(明治13)~1886年(明治19)頃の越辺川・都幾川・高麗川
・台風19号における二瀬ダム操作(貯留)状況(速報)
資料3 令和元年台風第19号による被害の状況(東松山市 2019年11月8日17時時点)
台風19号で注目されている水害対策について、旧建設省(現・国土交通省)土木研究所元次長で長崎大教授も務めた石崎勝義さん(81)=つくばみらい市=は、かつて国交省が取りやめた比較的安価な堤防強化の再開を訴えている。話を聞いた。 (宮本隆康)
-各地で堤防決壊が起きたのは想定外か。
驚きはない。台風が大型化していることと、強化されていない堤防が残っているためだ。
-強化された堤防と、されてない堤防があるのか。
堤防が決壊すれば、氾濫する水は格段に増える。決壊の原因の七、八割は、川の水が堤防を越える「越水」のため、越水対策を強化した堤防がある。
-巨額の整備費で批判されるスーパー堤防とは違うのか。
違う。堤防の裏のり(住宅地側のり面)は越水で容易に浸食され、決壊に直結する。30年ほど前、裏のりをシートなどで保護することなどで、越水に耐えられるようにする工法「アーマー・レビー」が開発された。シートなどを使うだけなので、費用は高くない。
-整備の進み具合は。
全国で十カ所ほど実施例がある。2000年に旧建設省から、設計指針が全国の出先機関に通知された。想定以上の雨で堤防が決壊する壊滅的な水害を防ぐ方法として「フロンティア堤防」の名称で本格的に整備され始めた。
全国の河川で計250キロの整備が計画され、実際に信濃川や那珂川など四河川の計13キロで工事をした。しかし、2年後に突然中止された。
-なぜか。
ダム建設の妨げになると思った建設省河川局OBの横やりがあった。
-それまで建設省は建設白書に五年連続で、想定以上の雨や越水への対策の必要性を明記していた。中止の理由は、白書にどう書いているのか。
急に記述がなくなり、理由は書いてない。
-4年前の鬼怒川決壊は越水が原因で、かつて想定した通りの事態だが、国交省は堤防強化を復活させなかったのか。
国交省は、天端(てんば)(堤防の上の部分)や、のり尻(裏のりの下の部分)の補強を始めた。しかし、裏のりを保護しなければ効果はほとんどない。バケツに穴が三カ所開いていて、2カ所ふさいでも水が漏れてしまうようなもの。実際に昨年の西日本豪雨で、天端とのり尻を補強した小田川の堤防が決壊した。
-西日本豪雨の後の国会では、堤防の裏のり強化について質問された。
シートをつなぐ接ぎ目に問題があるとの答弁だったが、それなら接ぎ目の問題を解消すればいい。
-国交省側は「あくまで試験的な事例」とも答弁した。
全国に設計指針を回し、5カ年計画で250キロの整備を予定した堤防が「試験的」なのか。
-もし整備する場合、費用が問題では。
既存の堤防の強化は1メートル30万~50万円で足りると思う。治水予算は年間9千億円ぐらいで、近年はさらに3千億円ほど上積みしている。ダムやスーパー堤防を後回しにすれば、数年程度で全国の堤防を耐越水化できると思う。
沈下で低くなった堤防や川幅が狭くなる場所、合流地点など、特に危険な部分の強化だけでも、大規模水害をなくせると思う。
-これほど決壊が相次いでも、大半の専門家は堤防の構造を問題視していないようだが。
他にも同じ意見の人たちはいる。ただ、OBの多くは仲間の批判をしたくないのだろう。現役官僚は、堤防強化を中止した施策に縛られているのではないか。
-「ハード対策に限界」との報道もよく見る。
これまでの堤防は越水に無力だったが、少しの手直しで耐えられるようになる。水が堤防を越えることを前提とした技術は、温暖化で豪雨や台風の大型化が普通になった今こそ、生きる。市街地をひかえる堤防区間では、すぐに堤防強化をするべきだ。
<いしざき・かつよし> 1962年に建設省入省。木曽川下流工事事務所長や土木研究所次長を歴任し、91年退官。99年から2006六年まで長崎大環境科学部教授も務めた。
国土交通省においては、平成20年[2008年]に社会資本整備審議会河川分科会の気候変動に適応した治水対策検討小委員会を設置し、平成27年[2015年]にとりまとめられた「水災害分野における気候変動適応策のあり方について答申」を踏まえ、施設能力を上回る外力に対しても命を守るための施策等を充実させてきた。平成27年の水防法改正による想定最大規模降雨による浸水想定区域の指定や、施設能力を超過する洪水が発生することを前提に、社会全体でこれに備える「水防災意識社会」を再構築するため、ハード・ソフト一体となった防災・減災対策を進めてきた。
平成30年[2018年]7月豪雨においては、逃げ遅れにより多くの住民の人的被害に加えて、多数の家屋被害や甚大な社会経済被害が発生し、改めてハード対策の重要性が認識された。現在の治水計画や施設設計、危機管理には将来における気候変動の影響は考慮していないが、今後、気候変動による豪雨の更なる頻発化・激甚化がほぼ確実視され、被害の拡大が懸念される中、気候変動に適応した治水計画へ転換することはまったなしの状態である。
平成27年[2015年]にはパリ協定が採択され、世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2°C未満に抑えることを目標とし、温室効果ガスの排出抑制に全世界で取り組むこと等が同意されたが、地球温暖化はその歩みをすぐに止めてくれる訳ではない。現に温室効果ガスの排出量は頭打ちになりつつあるものの、大気中の温室効果ガスの濃度は増加を続けている。このため、政府においては平成30年[2018年]に気候変動適応法を制定し、緩和策と適応策とを車の両輪で進めることとしたところである。
将来の気候変動による降雨特性への影響は確実とされているが、その程度の評価については大きな不確実性を抱えている。温室効果ガスの排出抑制は各国の動向に依存しており、世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べ2°C以内に抑えることは大きなチャレンジである。また、気候変動の状況を解明するための気候変動予測モデルが世界中で多数考案されているが、モデルには一定の限界がある。さらに、自然にはダイナミズムや大きな変動があり、その関係が十分に解明されているわけではない。
災害対策は過去に発生した災害の経験を踏まえて講じられてきたが、気候変動はこれまでの常識を覆し、これまで経験したことのない事象も発生しうることを意味している。このため、我が国の治水計画は、既往データに基づく統計のみに依存せず、将来のリスク(気候)予測型への転換が急務であり、将来の気候変動による影響に関する科学的な評価の不確実性を理由に手をこまねいていることはできない。
洪水対策分野においては、これまでも、様々な不確実性をもつ事象について的確に推計する手法を開発して対応してきた。治水計画においては、全国の安全度を公平かつ効率的に向上させるため、昭和33年[1958年]、限られた年数の観測データから極値を評価する手法の導入により、既往最大主義から確率主義に転換した。想定最大規模降雨については、平成27年[2015年]に、流域単位ではなく降雨特性が類似する地域単位で過去の降雨を評価することによって標本数を確保する手法を用いて、降雨量を設定した。
今回、気候変動の影響に関する予測技術が向上し、さらに、災害をもたらすような極端な現象を評価するために必要となる膨大なアンサンブル計算結果が整備されたことを踏まえ、本検討会では、これらの最新の科学技術を治水計画等にどのように活用するかについて、具体的に検討してとりまとめた。
国土交通省は10月18日、日本の治水計画について「気候変動を踏まえた治水計画」に転換すると発表した。気候変動が顕在化していると認識し、治水計画の強化が必要と判断した。
同省は2018年4月に、有識者からなる「気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会」を設置。気候変動を踏まえた治水計画の前提となる外力の設定手法や、気候変動を踏まえた治水計画に見直す手法等について検討を行ってきた。今回の決定は、その提言に基づくもの。今後、気候変動が進んでも治水安全度が確保できるよう、降雨量の増加を踏まえ、河川整備計画の目標流量の引上げや対応策の充実を図るとした。
但し、今回発表の治水計画にはすでに問題が内在している。同検討会の提言では、今後の気温上昇のシナリオについて、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表した、各国が現行のまま二酸化炭素を排出量し続け気温が4℃上昇するシナリオ「RCP8.5」を前提に、悲観シナリオでも耐えられる治水のあり方をまとめた。その背景には、RCP8.5での影響分析データしかないと説明していた。それに対し、国土交通省は今回、前提条件を引き下げ、気温上昇が2℃にとどまる楽観シナリオ「RCP2.6」を採用。理由を「パリ協定の目標と整合」とした。
「パリ協定の目標と整合」は本来、二酸化炭素排出量削減の「気候変動緩和」において重視すべき概念だが、気候変動による影響を軽減する「気候変動適応」では、仮にパリ協定が未達だった場合にも備えられる体制を目指さなくてはならないはず。背景には、予算制約もあり、2℃前提でしか計画が組めないという懐事情が影響している可能性もある。2℃上昇を前提に計画を組むのであれば、気候変動緩和でも2℃未満を死守するぐらいの覚悟が、日本政府には必要となる。パリ協定後の各国コミットメントを積み上げても3℃以上上昇してしまう。
・荒川水系荒川及び入間川流域を表示したマップ(PDF:2.6MB)
この地図の浸水の範囲は、堤防が決壊した場合の予測結果に基づいて、荒川水系荒川と支川の入間川、越辺川・都幾川等のそれぞれの浸水の範囲及び浸水深を重ね合わせた最大の状況を想定しました。浸水想定は、平成28年5月30日に国土交通省が指定・公表した洪水浸水想定区域図に基づいており、想定する最大規模の降雨は、3日間の総雨量で荒川流域に632ミリメートル、入間川流域に740ミリメートルです。
・荒川水系市野川を表示したマップ(PDF:1.9MB)
この地図は、おおむね100年に1度起こる大雨(24時間雨量301ミリメートル)が降った際に、市野川の水位が上昇し、市野川及びその支川(滑川・新江川・角川)の堤防が決壊又は堤防から越流した場合に想定される浸水状況の予測を埼玉県にて調査した結果を基に作成したものです。
2.将来気候予測
将来気候予測は、基本的に地球全体を対象に3次元の計算を行う大機循環モデル(GCM)、GCMの計算結果を境界条件にして、一部の地域を対象により高解像度の計算を行う地域気候モデル(RCM)により行われる。日本のような地形が複雑な地域を対象とした気候予測においては、高解像度のRCMが有用であり、これまで水平解像度20km, 5kmの計算が行われてきているほか、2kmの計算も実施中である。将来気候予測は、いくつかのシナリオに基づいて行われる。IPCC第5次評価報告書では、気温上昇を産業革命以降2°Cに抑える低位安定化シナリオ(RCP2.6)、緩和策を行わず気温上昇が4°Cとする高位参照シナリオ(RCP8.5)などの4つのシナリオが選択されている。
文科省気候変動リスク情報創生プログラムにおいて作成された解像度20kmで、過去3000年分、将来5400年分のアンサンブル計算を実施したデータベースd4PDFを利用し、全国109一級水系流域毎に、国総研で集計した結果、RCP8.5シナリオでは、21世紀末における豪雨による降雨量は全国平均で約1.3倍に増加するとの解析結果を得た。またこの結果を用いて、RCP2.6シナリオでは、約1.1倍に増加すると推定した。さらにこの結果を降雨条件として利用し、流出計算を実施することで、RCP8.5、RCP2.6シナリオの基で、治水計画規模の流量がそれぞれ約1.4倍、約1.2倍となること、この規模の洪水の発生頻度がそれぞれ約4倍、約2倍となることを示した(表-1)
気候変動による影響予測から見えてきたことは、現在の治水計画規模(生起確率)の豪雨規模が、2°C上昇の低位安定化シナリオにおいて、全国平均で約1.1倍と予測されると共に、洪水発生確率は約2倍と想定されたように、一見それほど大きくない豪雨変化であっても、洪水氾濫(水害)発生という観点では大きな変化が生じる可能性が高いということである。……
-「気候変動下での大規模水災害に対する施策群の設定・選択を支援する基盤技術の開発」の成果をコアとして-
わが国では、内閣府中央防災会議が設置した「大規模水害対策に関する専門調査会」が、荒川等での大規模氾濫がもたらす被害想定について幅広い検討を行い、「首都圏水没~被害軽減のために取るべき対策とは~」を2010年にとりまとめている(中央防災会議、2010)。ここでは、河川整備における治水長期目標を超える豪雨生起ケースを含む大規模水害の死者想定、地下鉄網への氾濫水の広範な侵入・浸水過程の再現などが行われ、これらを危機管理策によってどのように軽減できるかが調べられている。ハリケーン・サンディ災害の分析(国土交通省・防災関連学会合同調査団、2013)からは、実践され奏功した「タイムライン」というフレームの有用性が示され、我が国の危機管理手法にそれを採用する取り組みが始まっている。(187頁)
2)雨水流出抑制施設の設置等に関する条例(埼玉県)
埼玉県では、高度成長期以降に急速に都市化が進展したことにより、特に地形的に浸水しやすい中川低地や荒川低地を中心に、甚大な水害が幾度となく発生している。このような状況に対し、水害の都度、災害復旧事業による再度災害防止対策を実施するとともに、予防保全的な治水対策が強力に推進されてきた結果、浸水戸数は着実に減少してきているものの、その整備水準は低く、依然として河川改修が進んでいない流域では浸水被害が頻発している。埼玉県は昭和43年より、1ha以上の開発行為の際に、調整池等の雨水流出抑制施設の設置を指導してきたが、流域における浸水被害対策を一層強化するため、行政指導の内容をより明確にし、公平性、厳格化を図るとともに、浸水被害の発生、拡大を抑制するために平成18年に「埼玉県雨水流出抑制施設の設置等に関する条例」を制定した(図-III.2.4.4.2.8 参照)。その内容は、1ha以上の開発行為に伴う流出増対応の調整池設置義務付け及び湛水想定区域(現在の河川整備状況を踏まえ、過去における洪水の状況を基に、湛水することが想定される区域として知事が指定する区域)での盛土の抑制等である。(253~254頁)
⑤雨水流出抑制施設の設置等に関する条例(埼玉県)
⑤-1 埼玉県の概要
埼玉県では、高度成長期以降に急速に都市化が進展したことにより、特に地形的に浸水しやすい中川低地や荒川低地を中心に、甚大な水害が幾度となく発生している。このような状況に対し、水害の都度、災害復旧事業による再度災害防止対策を実施するとともに、予防保全的な治水対策が強力に推進されてきた結果、浸水戸数は着実に減少してきているものの、その整備水準は低く、依然として河川改修が進んでいない流域では浸水被害が頻発している。⑤-2 雨水流出抑制施設の設置等に関する条例
近年、突発的・局所的な集中豪雨が発生していること、その発生が今後増加すると予想されることより、流域における浸水被害対策を一層強化する必要があった。そこで、雨水流出量を増加させる恐れのある行為及び過去の洪水状況を基に湛水することが想定される土地での盛土行為に関し、雨水流出抑制施設の設置等の必要な規制を行うことにより、浸水被害の発生及び拡大を防止し、もって県民の生命、身体及び財産の安全の確保に寄与することを目的として、埼玉県は平成18年[2006年]から「雨水流出抑制施設の設置等に関する条例」を施行した。本調査では、特に条例制定に至った背景・経緯等に着目し、文献・現地調査、関係機関へのヒアリングを行った。
⑤-3 調査結果概要
昭和43年から 1ha 以上の開発行為などを行う者を対象に雨水流出抑制施設を設置するよう行政指導が行われ、流域での浸水被害対策の一層の推進のため、行政指導の内容をより明確にし、公平性、厳格化を図るとともに、浸水被害の発生、拡大を抑制するために条例を制定した。
規制内容は、1ha 以上の開発行為などで、雨水流出抑制施設を設置しないと雨水流出量を増加させる恐れのある行為(「雨水流出増加行為」)をしようとする場合や湛水想定区域に盛土をする場合、雨水流出抑制施設の設置等の設置により浸水被害の発生・拡大を抑制するものである(図-II.1.1.1.10)。
湛水想定区域とは、「現在の河川整備状況を踏まえ、過去における洪水の状況を基に、湛水することが想定される区域として知事が指定する区域」(条例第10条)とされ、区域及び想定湛水深を表示した「湛水想定図」が公表されている。(Ⅱ-12~14頁)
第1章 基本的な考え方近年の豪雨、高潮、暴風・波浪、地震、豪雪など、気候変動の影響等による気象の急激な変化や自然災害の頻発化・激甚化に我が国はさらされている。このような自然災害に事前から備え、国民の生命・財産を守る防災・減災、国土強靱化は、一層重要性が増しており、喫緊の課題となっている。
また、平成30年7月豪雨、平成30年台風第21号、平成30年北海道胆振東部地震をはじめとする近年の自然災害により、ブラックアウトの発生、空港ターミナルの閉鎖など、国民の生活・経済に欠かせない重要なインフラがその機能を喪失し、国民の生活や経済活動に大きな影響を及ぼす事態が発生している。これらの教訓を踏まえ、重要インフラが、自然災害時にその機能を維持できるよう、平時から万全の備えを行うことが重要であり、その対策が急務となっている。
このため、「重要インフラの緊急点検の結果及び対応方策」(平成30年11月27日重要インフラの緊急点検に関する関係閣僚会議報告)のほか、ブロック塀、ため池等に関する既往点検の結果等を踏まえ、・防災のための重要インフラ等の機能維持・国民経済・生活を支える重要インフラ等の機能維持の観点から、特に緊急に実施すべきハード・ソフト対策について、3年間で集中的に実施することとし、本対策を取りまとめた。
本対策は、「国土強靱化基本計画」(平成26年6月3日閣議決定、平成30年12月14日改訂)に基づき、強靱性確保の遅延による被害拡大を見据えた時間管理概念や、財政資金の効率的な使用による施策の持続的な実施に配慮しつつ、同計画におけるプログラムの重点化・優先順位付けの考え方に従い、全45のプログラムのうち、15の重点化すべきプ
ログラム及び同プログラムと関連が強い5のプログラムの計20プログラムに当たる施策に関して、3年間の達成目標を設定した上で取り組むこととする。
本対策の実施に当たっては、行政が効率的に実施することはもとより、自助・共助・公助を適切に組み合わせ、官民が適切に連携、役割分担しながら取り組むことが重要であり、民間事業者等による事業も含め、おおむね7兆円程度を目途とする事業規模をもって、本対策に掲げる達成目標の達成を図ることとする。
第2章 取り組む対策
Ⅰ.防災のための重要インフラ等の機能維持
(1) 大規模な浸水、土砂災害、地震・津波等による被害の防止・最小化
(2) 救助・救急、医療活動などの災害対応力の確保
(3) 避難行動に必要な情報等の確保
Ⅱ.国民経済・生活を支える重要インフラ等の機能維持
(1) 電力等エネルギー供給の確保
(2) 食料供給、ライフライン、サプライチェーン等の確保
(3) 陸海空の交通ネットワークの確保
(4) 生活等に必要な情報通信機能・情報サービスの確保
第3章 各項目の主な具体的措置
Ⅰ.防災のための重要インフラ等の機能維持
(1) 大規模な浸水、土砂災害、地震・津波等による被害の防止・最小化
(2) 救助・救急、医療活動などの災害対応力の確保
(3) 避難行動に必要な情報等の確保
Ⅱ.国民経済・生活を支える重要インフラ等の機能維持
(1) 電力等エネルギー供給の確保
(2) 食料供給、ライフライン、サプライチェーン等の確保
(3) 陸海空の交通ネットワークの確保
(4) 生活等に必要な情報通信機能・情報サービスの確保
第4章 対策の期間及びフォローアップ
第5章 対策の達成目標
Ⅰ.防災のための重要インフラ等の機能維持
(1) 大規模な浸水、土砂災害、地震・津波等による被害の防止・最小化
(2) 救助・救急、医療活動などの災害対応力の確保
(3) 避難行動に必要な情報等の確保
Ⅱ.国民経済・生活を支える重要インフラ等の機能維持
(1) 電力等エネルギー供給の確保
(2) 食料供給、ライフライン、サプライチェーン等の確保.... 15
(4) 生活等に必要な情報通信機能・情報サービスの確保
第6章 対策の事業規模
2018年5月11日に開催された「気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会」(第2回)の資料です(関連記事:第1回、提言)。
【参考資料3】河川整備基本方針と河川整備計画の概要・荒川水系河川整備基本方針の概要(その1)
・入間川整備計画流量図
・堤防の整備に係る施行の場所
・危機管理対策の整備に係る施行の場所
2018年4月12日、気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会が開催されました。全5回開催(②2018年5月11日、③2019年2月28日、④5月31日、⑤7月31日)され、10月18日、「気候変動を踏まえた治水計画のあり方」を提言しています。
・IPCC第5次評価報告書の(2013年11月)の概要
・RCPシナリオに基づく予測結果の治水対策の整備手順での考慮の仕方 浸水想定区域
まとめて1回で実施
・RCPシナリオに基づく予測結果の避難所等の整備箇所検討での考慮の仕方 浸水想定区域
・パリ協定の締結(2016年11月)
・気候変動による将来の降雨量の変化
RCP8.5(4℃上昇に相当) 降雨量約1.3倍
RCP2.6(2℃上昇に相当) 降雨量約1.1倍
・「水災リスク評価」の概要
1.1 荒川の諸元
1.2 流域の自然的・社会的特性
1.2.1 流域の自然的特性
1.2.2 流域の社会的特
1.3 河道特性
1.3.1 河道特性
1.5 河川環境の状況
1.5.1 水利用特性
1.5.2 河川流況
1.5.3 河川水質
1.5.4 河川景観
1.5.5 河川空間利用
1.5.6 自然環境
1.5.7 荒川太郎右衛門地区自然再生池
2. 河川の区間区分
2.1 計画対象区間
2.3 出張所管理区間
3. 河川維持管理上留意すべき事項等
3.1 河道管理上の現状と課題
3.1.1 河道流下断面の確保、土砂動態、樹木の状況等
3.2 施設管理上の現状と課題
3.2.1 堤防の整備状況
3.2.2 護岸の整備状況
3.2.3 水門、樋管等の施設の整備状況
3.2.4 調節池(荒川第一調節池、朝霞調節池)
3.2.5 堰・床止め等
3.2.6 観測施設、電気通信施設
3.2.7 許可工作物(河川法 26 条)
3.3 その他
3.3.1 河川利用の管理
3.3.2 日常の維持管理・点検
3.3.3 危機管理
3.3.4 重要水防箇所、危険箇所の状況
3.3.5 河川環境
4. 河川維持管理目標
4.1 洪水等による災害の防止
4.2 河川区域等の適正な利用
4.3 流水の正常な機能の維持
4.4 河川環境の整備と保全
5. 河川の状態把握
5.1 一般(基本的考え方
5.2 基本データの収集
5.2.1 水文・水理等観測
5.2.2 測量
5.2.3 河道の基本データ
5.2.4 河川環境の基本データ
5.2.5 観測施設、機器の点検
5.3 堤防点検等のための環境整備
5.4 河川巡視
5.4.1 平常時の河川巡視
5.4.2 出水時の河川巡視
5.5 点検
5.5.1 出水期前、台風期、出水中、出水後の点検
5.5.2 地震後の点検
5.5.3 安全利用点検
5.5.4 機械設備を伴う河川管理施設の点検
5.5.5 許可工作物の点検
5.6 河川カルテ
5.7 河川管理基図
5.8 河川の状態把握の分析、評価
6. 具体的な維持管理対策
6.1 河道の維持管理対
6.1.1 河道流下断面の確保・河床低下対策
6.1.2 河岸の対策
6.1.3 樹木の対策
6.2 施設の維持管理対策
6.2.1 河川管理施設一般
6.2.2 堤防(堤防及び霞堤、高規格堤防等)
6.2.3 護岸
6.2.4 根固工
6.2.5 水制工
6.2.6 樋門・水門
6.2.7 床止め、堰
6.2.8 排水機場
6.2.9 河川管理施設の操作
6.2.10 許可工作物
6.3 河川区域等の維持管理対策
6.3.1 一般
6.3.2 不法行為への対策
6.3.3 河川の適正な利用
6.4 河川環境の維持管理対策
7. 地域連携等
7.1 河川管理者と市区町村等で連携して行うべき事項
7.1.1 水防活動への対応
7.1.2 水位情報等の提供
7.1.3 水質事故対策
7.1.4 不法行為等
7.2 河川管理者と市区町村、NPO・市民団体等が
7.2.1 ふれあい関連施設等の適正な管理
7.2.2 河川協力団体
7.2.3 河川環境関係(自然再生、ビオトープなど)
7.2.5 武州・入間川プロジェクト
8. 効率化・改善に向けた取り組み
8.1 地域協働
8.2 施設の老朽化に備えた長寿命化対策
8.3 サイクル型維持管理
9. 災害時における対応
9.1 水防のための対策
9.2 水質事故対策
別表・別図
別表 2 主要な観測施設一覧
別表 3 許可工作物一覧
別表 4 維持管理対象区間
別表 5 主要な水文観測地点一覧
別表 6 側帯一覧
別表 7 被害復旧資材一覧
別図 1 通信路構成図
別図 2 荒川における船舶の通航方法
1. 荒川の概要
1.1 荒川の流域及び河川の概要2.2 河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関する現状と課題
2.3 河川環境の整備と保全に関する現状と課題
2.4 河川維持管理の現状と課題
2.5 今後取り組むべき課題
3. 河川整備計画の対象区間及び期間
3.1 計画対象区間
3.2 計画対象期間
4. 河川整備計画の目標に関する事項
4.1 洪水、津波、高潮等による災害の発生の防止又は軽減に関する目標
4.2 河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関する目標
4.3 河川環境の整備と保全に関する目標
5. 河川の整備の実施に関する事項
5.1 河川工事の目的、種類及び施行の場所並びに当該河川工事の施行により設置される河川管理施設の機能の概要
5.1.1 洪水、津波、高潮等による災害の発生の防止又は軽減に関する事項5.1.2 河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関する事項
5.1.3 河川環境の整備と保全に関する事項
5.2 河川の維持の目的、種類及び施行の場所
5.2.1 洪水、津波、高潮等による災害の発生の防止又は軽減に関する事項
5.2.2 河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関する事項
5.2.3 河川環境の整備と保全に関する事項
6. その他河川整備を総合的に行うために留意すべき事項
6.1 流域全体を視野に入れた総合的な河川管理
6.2 地域住民、関係機関との連携・協働
6.3 ダムを活かした水源地域の活性化
6.4 治水技術の伝承の取組
附図1 計画諸元表附図2 堤防断面形状図
附図3 洪水対策等に関する施行の場所
基本高水流量について
基本高水流量が過大である・ 基本方針の検討以降、合角ダムと滝沢ダムの完成により流出計算モデルに使用する定数等の検討が可能となる流量観測地点が増え、新たな洪水データの取得ができるようになり、比較的規模の大きい洪水である平成19年9月洪水を経験しており、これらを踏まえ、流出計算モデルを構築して再現性を確認し、精度が向上する結果を得ています。
・ 荒川の基本高水のピーク流量においては、このモデルを用いて総合確率法により年超過確率1/200となる流量として算出を行い、内水参加量を含めて岩淵地点で14,800m3/sとなることを確認したものです。
・ 計算結果については、「荒川における新たな流出計算モデルについて」としてとりまとめ、公表しています。http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000290.html
河川整備計画の目標となる流量の算出方法について
カスリーン台風は戦後間もない頃であり、山が荒れていた時の洪水のため、この洪水は用いない方がよい・ 流出計算モデルは昭和56年以降の洪水データの中から比較的大きな22洪水のデータを用いて設定しており、森林を含め近年の土地利用状況が反映されているものと考えています。近年の洪水データのみを使用すべき・ なお、この流出計算モデルにより昭和22年9月洪水の降雨分布を用いて流出計算を行った結果、岩淵地点の流量が11,900m3/s(内水参加量を見込む)となったものです。カスリーン台風は、利根川では1/200程度であり、荒川でも同様の確率となる・ 計算結果については、「荒川における新たな流出計算モデルについて」としてとりまとめ、公表しています。http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000290.html計画論の一貫性を保つために3日雨量が妥当であるが、時刻雨量データの蓄積による適切な時間単位の検討を進めるべき・ 荒川においては、昭和22年9月洪水(カスリーン台風)の基準地点岩淵における流量の年超過確率は総合確率法により評価して概ね1/100程度です。
・ 時刻雨量データを蓄積し、検討を進めてまいります
河川整備計画の目標となる流量の規模について
目標流量は過大である・ 全国のいわゆる直轄管理区間の河川整備計画においては、戦後最大の洪水を安全に流下させることを目的として目標流量を設定していることが多く、荒川の重要性を考慮して、戦後最大洪水である昭和22年9月洪水(カスリーン台風)と同規模の洪水を目標としたものです。目標は平成11年洪水で十分である・ なお、支川入間川については、近年の洪水で大規模な浸水被害をもたらした平成11年8月洪水[1999年]を目標としています。
・流出解析法は、我が国における洪水流出に対し高い再現性を有し、広く利用されている貯留関数法を用いた。
・荒川の流出計算モデルは、「利根川の基本高水の検証について」(平成23年9月)と同様の考え方とした。
・過去のデータを点検した上で、近年の主要な洪水による新たなダム地点での観測データ等も追加して、必要な定数等を設定した。
・この流出計算モデルを用いて、荒川河川整備計画の目標(案)の検討を行った。
・流域定数の設定
・流出計算モデルの再現性の検討(2007年9月洪水)
●荒川調節池群改修事業を含む荒川における治水対策の計画段階評価
複数案の提示、比較、評価
荒川河川整備計画原案の主要な問題点の一つは、中流部に第二、三、四洪水調節池を造ること、もう一つは荒川下流部で両岸合わせて52キロメートルのスーパー堤防が計画されていることです。
荒川下流部は東京の都心部を貫流しており、もし堤防の決壊が起きれば、凄まじい被害になります。地下鉄が縦横に走っているので、荒川が氾濫した場合の影響は極めて深刻です。ところが、河川整備計画案では、荒川下流部はスーパー堤防を整備することになっているため、堤防強化対策がありません。
荒川のスーパー堤防の現在までの進捗状況を見ると、何百年経っても、スーパー堤防の整備が終わることはなく、都心部が堤防決壊で壊滅的な被害を受ける危険性が続くことになります。
治水対策として効果が出るのに莫大な費用と気の遠くなるような年月を要するこうした事業によって成り立つ荒川の河川整備計画の案は、国交省の河川行政の愚かしさを示す象徴的な事例です。
2 地球温暖化に伴う気候変動による水災害分野の主な影響
2.1 気候や水災害の状況
2.2 将来の気候や水災害
3 諸外国での水災害分野における気候変動適応策等の動向
4 水災害分野における気候変動適応策の基本的な考え方
4.1 現状と課題
4.2 基本的な枠組み
5 水災害分野における気候変動適応策の具体的な内容
5.1 災害リスクの評価
5.2水害(洪水、内水、高潮)に対する適応策
5.2.1 比較的発生頻度の高い外力に対する防災対策
5.2.2 施設の能力を上回る外力に対する減災対策
1) 施設の運用、構造、整備手順等の工夫
2) まちづくり・地域づくりとの連携3)避難、応急活動、事業継続等のための備え
5.3 土砂災害に対する適応策
5.4 渇水に対する適応策
5.4.1 比較的発生頻度の高い渇水による被害を防止する対策
5.4.2 施設の能力を上回る渇水による被害を軽減する対策
5.5 適応策を推進するための共通的事項
5.5.1 国土監視、気候変動予測等の高度化
5.5.2 地方公共団体等との連携、支援の充実
5.5.3 調査、研究、技術開発の推進等
5.5.4 技術の継承等
6 おわりに
○時間雨量50mmを超える短時間強雨の発生件数が増加(約30年前の約1.4倍)
○日降水量1.0mm以上の年間日数は100年間で約8%減少
○日本沿岸の海面水位については、長期的(1906年以降)には明瞭な上昇傾向は見られないが、現在の観測体制となった1960年以降は上昇傾向が明瞭に現れており、2013年までの上昇率は年あたり1.1mm
○吉野川水系では取水制限率が50%に及び、また、豊川水系の宇連ダムの利水貯水量がほぼ0%になるなど、全国18水系23河川の一級河川で取水制限
・IPCC第5次評価報告書
【観測事実と温暖化の要因】
気候システムの温暖化については疑う余地がない。
人間活動が20世紀半ば以降に観測された温暖化の主な要因であった可能性が極めて高く、温暖化に最も大きく効いているのは二酸化炭素濃度の増加。
最近15年間、気温の上昇率はそれまでと比べ小さいが、海洋内部(700m以深)への熱の取り込みは続いており、地球温暖化は継続している。
【予測結果】
21世紀末までに、世界平均気温が0.3~4.8°C上昇、世界平均海面水位は0.26~0.82m上昇する可能性が高い(4種類のRCPシナリオによる予測)。
21世紀末までに、ほとんどの地域で極端な高温が増加することがほぼ確実。また、中緯度の陸域のほとんどで極端な降水がより強く、より頻繁となる可能性が非常に高い。
排出された二酸化炭素の一部は海洋に吸収され、海洋酸性化が進行。
・IPCC第5次評価報告書
懸念の理由の説明気候変動のリスクのレベルに関する判断の根拠として、5つの包括的な懸念の理由(Reasons For Concern)が示された。1986-2005年平均気温から気温上昇と影響の関係は以下のように予測されている。
➢1°Cの上昇:熱波、極端な降水及沿岸域の氾濫のような極端現象による気候変動関連のリスクが高い状態となる
➢2°Cの上昇:適応能力が限られている多くの種やシステム、特に北極海氷やサンゴ礁のシステムは非常に高いリスクに曝される
➢3°Cの上昇:大規模かつ不可逆な氷床消失により海面水位が上昇する可能性があるため、リスクは高くなる
i)海面上昇、沿岸での高潮被害などによるリスク
ii)大都市部への洪水による被害のリスク
iii)極端な気象現象によるインフラ等の機能停止のリスク
iv)熱波による、特に都市部の脆弱な層における死亡や疾病のリスク
v)気温上昇、干ばつ等による食料安全保障が脅かされるリスク
vi)水資源不足と農業生産減少による農村部の生計及び所得損失のリスク
vii)沿岸海域における生計に重要な海洋生態系の損失リスク
viii)陸域及び内水生態系がもたらすサービスの損失リスク
・気候変動による外力(降水)の増大・頻発化
○今世紀末には現在気候と比べ大雨による降水量は増加傾向を示し、全国平均では温室効果ガスの排出量が少ない場合(RCP2.6)で10.3%増加、非常に多い場合(RCP8.5)で25.5%増加
○無降水日の年間日数は増加傾向を示し、全国平均では温室効果ガスの排出量が少ない場合(RCP2.6)で1.1日増加、非常に多い場合(RCP8.5)で10.7日増加
○中央環境審議会より平成27年3月に示された「日本における気候変動による影響の評価に関する報告と今後の課題について(意見具申)」では、気候変動は日本にどのような影響を与えうるのか、その影響の程度、可能性等(重大性)、影響の発現時期や適応の着手・重要な意思決定が必要な時期(緊急性)、情報の確からしさ(確信度)はどの程度であるかを科学的観点からとりまとめている。
・中央環境審議会「日本における気候変動による影響の評価に関する報告と今後の課題について(意見具申)」
・水災害分野の気候変動適応策の基本的な考え方
○これまでは、比較的発生頻度の高い外力に対し、施設の整備等により災害の発生を防止すること、浸水想定等の作成などによりできる限り被害を軽減することを目指していた。
○これからは、気候変動による外力の増大・頻発化を踏まえ、
施設の着実な整備と適切な維持管理により、水害の発生を着実に防止する防災対策を進める
これに加え、
施設では守りきれない事態を想定し、社会全体が災害リスク情報を共有し、施策を総動員して減災対策に取り組む
・水災害分野の気候変動適応策の基本的な考え方
・災害リスクの評価・災害リスク情報の共有
・想定し得る最大規模の降雨の設定
想定最大規模降雨(降雨量、降雨波形)の設定の基本的な考え方
・総合的な浸水対策
〇河川、下水道の整備を進めるとともに、その流域のもつ保水・遊水機能を確保するため、調節池などの整備により貯めること、浸透ますなどの整備により浸み込ませることなどを適切に組み合わせ、流域が一体となった浸水対策を推進
・各主体が連携した災害対応の体制等の整備(タイムラインの策定)
○施設の能力を大幅に上回る外力により大規模な氾濫等が発生した場合を想定し、国、地方公共団体、公益事業者等が連携して対応するため関係者一体型タイムライン(時系列の行動計画)を策定
まえがき
第1章 マニフェスト崩壊劇の序章
平均的保守政治家のダム認識
誰も知らなかった建設計画
「倉渕ダム」反対運動に出会う
知事との黙約
代替案は「権威ある」もので
高まる民主党内の軋轢と髙﨑市長選挙
建設凍結決定
「八ッ場ダムへ」の躊躇
市民運動から政治運動へ
マニフェストで問う
第2章 この国にとってダムとは何か
1、八ッ場ダム計画とは
ダムを造り続けるわけ
カスリーン台風の再襲に備える?
時代が要請したダム建設
進まない八ッ場ダム
反対運動と住民の分裂
「国」とはいったい誰なのか
2、疑わしい治水能力
近代日本の治水思想
基本高水とは
八ッ場ダムの洪水調節機能
八ッ場ダムは治水の役に立たない
3、偽りの渇水
利水面での検討
過大な水需要予測
画期的な大阪府の水需要予測
「東京都の水は余っている」
暫定水利権とは何か
暫定水利権を安定水利権に代える
4、後世への禍根
八ッ場ダムに突然浮上した発電計画
ダムは観光に役立つのか
逃れられない堆砂問題
失われた白砂青松
ダムに流れ込む大量の砒素
地滑り、代替地の危険性
第3章 新政権の挑戦と失敗
新大臣が自ら閉ざした道
党政府一体化の誤算
推進派の論理
地域問題に後退させた愚
地元の声とは何か
政務三役の過信
湖面一号橋の攻防
現実主義の陥穽
参院選での敗北
志の後退
「官僚たちの八ッ場」
第4章 新旧治水思想の相克
1、公共事業改革は政権獲得の手段だったのか
民主党の公共事業政策の変遷
公共工事受難の時代へ
諫早湾干拓と中海干拓
対立軸となった公共事業政策
「公共事業コントロール法」と「緑のダム構想」
自民党の柔軟性
2、新しい治水思想とは何か
膨大な負荷と負担
水を完全に封じ込めることはできない
頻発するゲリラ豪雨と内水被害
国民が納得できる説明と試みを
改正河川法の精神
3、結論ありきの再検証
建設主体による検証という茶番
関東地方整備局による治水代替案の問題点
架空の予測とコストの無視
4、「政」「官」「業」「学」「報」ペンダゴンの癒着
それでも跋扈する天下りと談合
あきれた「新解釈」
国交省の地方支配
五者もたれ合いに支えられて
第5章 最後の戦い
官僚出身大臣の登場
分科会の迷走
民主党国土交通部門会議の「意見」
政調会長の抵抗
官房長官の裁定の怪
最後の会議
離党届提出
第6章 「政党政治」に明日はあるのか
原子力ムラと河川ムラの同根
政権交代と価値感の相克
戦わずして敗れた
官権政治
失敗した「再分配構造の転換」
「行革なければ増税なし」は日本の政治文化
民主党の自民党化の帰結
あとがき
解説 科学者として共感させられた「脱ダム戦記」 大熊孝
台風第19号における利根川上流ダム群※の治水効果(速報)~利根川本川(八斗島地点)の水位を約1メートル低下~
台風第19号では、利根川上流ダム群※で約1.45億立方メートルの洪水を貯留しました。
この度、この貯留による利根川本川(八斗島地点(群馬県伊勢崎市))の水位低下量を算出したのでお知らせします。
※利根川上流ダム群:矢木沢ダム、奈良俣ダム、藤原ダム、相俣ダム、薗原ダム、下久保ダム、試験湛水中の八ッ場ダム
・観測最高水位 約4.1メートル(利根川上流ダム群※で貯留)
・計算最高水位 約5.1メートル(全ての利根川上流ダム群※が無い場合を仮定し、算出)
水位低下量 約1メートル
本資料の数値等は速報値であるため、今後の調査等で変わる可能性があります。
利根川水系の八ツ場ダムは、来年[2020年]3月完成の予定で10月1日から試験湛水が行われているが、今回の台風19号により、貯水量が一挙に増加した。八ツ場ダムの貯水量が急増したことで、「台風19号では利根川の堤防が決壊寸前になった。決壊による大惨事を防いだのは八ツ場ダムの洪水調節効果があったからだ」という話がネットで飛び交っている。10月16日の参議院予算委員会でも、赤羽一嘉国土交通大臣が試験湛水中の八ツ場ダムが下流の利根川での大きな氾濫を防ぐのに役立ったとの認識を示した。
しかし、それは本当のことなのか。現時点で国交省が明らかにしているデータに基づいて検証することにする。
八ツ場ダムの洪水位低下効果は利根川中流部で17㎝程度
10月13日未明に避難勧告が出た埼玉県加須市付近の利根川中流部についてみる。
本洪水で利根川中流部の水位は確かにかなり上昇したが、決壊寸前という危機的な状況ではなかった。加須市に近い利根川中流部・栗橋地点(久喜市)の本洪水の水位変化を見ると、最高水位は9.67m(観測所の基準面からの高さ)まで上昇し、計画高水位9.90mに近づいたが、利根川本川は堤防の余裕高が2mあって、堤防高は計画高水位より2m高いので、まだ十分な余裕があった。なお、栗橋地点の氾濫危険水位は8.9mで、計画高水位より1m低いが、これは避難に要する時間などを考慮した水位であり、実際の氾濫の危険度はその時の最高水位と堤防高との差で判断すべきである。
八ツ場ダムの治水効果については2011年に国交省が八ツ場ダム事業の検証時に行った詳細な計算結果がある。それによれば、栗橋に近い地点での洪水最大流量の削減率は10洪水の平均で50年に1回から100年に1回の洪水規模では3%程度である。本洪水はこの程度の規模であったと考えられる。
本洪水では栗橋地点の最大流量はどれ位だったのか。栗橋地点の最近8年間の水位流量データから水位流量関係式をつくり、それを使って今回の最高水位9.67mから今回の最大流量を推測すると、約11,700㎥/秒となる。八ツ場ダムによる最大流量削減率を3%として、この流量を97%で割ると、12,060㎥/秒になる。八ツ場ダムの効果がなければ、この程度の最大流量になっていたことになる。
この流量に対応する水位を上記の水位流量関係式から求めると、9.84mである。実績の9.67mより17㎝高くなるが、さほど大きな数字ではない。八ツ場ダムがなくても堤防高と洪水最高水位の差は2m以上あったことになる。したがって、本洪水で八ツ場ダムがなく、水位が上がったとしても、利根川中流部が氾濫する状況ではなかったのである。
河床の掘削で計画河道の維持に努める方がはるかに重要
利根川の水位が計画高水位の近くまで上昇した理由の一つとして、適宜実施すべき河床掘削作業が十分に行われず、そのために利根川中流部の河床が上昇してきているという問題がある。
国交省が定めている利根川河川整備計画では、計画高水位9.9mに対応する河道目標流量は14,000㎥/秒であり、今回の洪水は水位は計画高水位に近いが、流量は河道目標流量より約2,300㎥/秒も小さい。このことは、利根川上流から流れ込んでくる土砂によって中流部の河床が上昇して、流下能力が低下してきていることを意味する。河川整備計画に沿った河床面が維持されていれば、上述の水位流量関係式から計算すると、今回の洪水ピーク水位は70㎝程度下がっていたと推測される。八ツ場ダムの小さな治水効果を期待するよりも、河床掘削を適宜行って河床面の維持に努めることの方がはるかに重要である。
利根川の上流部と下流部の状況は
以上、利根川中流部についてみたが、本洪水では利根川の上流部と下流部の状況はどうであったのか。利根川は八斗島(群馬県伊勢崎市)より上が上流部で、この付近で丘陵部から平野部に変わるが、八斗島地点の本洪水の水位変化を見ると、最高水位と堤防高の差が上述の栗橋地点より大きく、上流部は中流部より安全度が高く、氾濫の危険を心配する状況ではなかった。
一方、利根川下流部では10月13日午前10時頃から水位が徐々に上昇し、河口に位置する銚子市では、支流の水が利根川に流れ込めずに逆流し、付近の農地や住宅の周辺で浸水に見舞われるところがあった。八ツ場ダムと利根川下流部の水位との関係は中流部よりもっと希薄である。八ツ場ダムの洪水調節効果は下流に行くほど小さくなる。
前述の国交省の計算では下流部の取手地点(茨城県)での八ツ場ダムの洪水最大流量の削減率は1%程度であり、最下流の銚子ではもっと小さくなるから、今回、浸水したところは八ツ場ダムがあろうがなかろうが、浸水を避けることができなかった。浸水は支川の堤防が低いことによるのではないだろうか。
なお、東京都は利根川中流から分岐した江戸川の下流にあるので、八ツ場ダムの治水効果はほとんど受けない場所に位置している。
ダムの治水効果は下流に行くほど減衰
ダムの洪水調節効果はダムから下流へ流れるにつれて次第に小さくなる。他の支川から洪水が流入し、河道で洪水が貯留されることにより、ダムによる洪水ピーク削減効果は次第に減衰していく。
2015年9月の豪雨で鬼怒川が下流部で大きく氾濫し、甚大な被害が発生した。茨城県常総市の浸水面積は約40㎢にも及び、その後の関連死も含めると、死者は14人になった。鬼怒川上流には国土交通省が建設した四つの大規模ダム、五十里ダム、川俣ダム、川治ダム、湯西川ダムがある。その洪水調節容量は合計12,530万㎥もあるので、鬼怒川はダムで洪水調節さえすれば、ほとんどの洪水は氾濫を防止できるとされていた河川であったが、下流部で堤防が決壊し、大規模な溢水があって凄まじい氾濫被害をもたらした。
この鬼怒川水害では4ダムでそれぞれルール通りの洪水調節が行われ、ダム地点では洪水ピークの削減量が2,000㎥/秒以上もあった。しかし、下流ではその効果は大きく減衰した。下流の水海道地点(茨城県常総市)では、洪水ピークの削減量はわずか200㎥/秒程度しかなく、ダムの効果は約1/10に減衰していた。
このようにダムの洪水調節効果は下流に行くほど減衰していくものであるから、ダムでは中下流域の住民の安全を守ることができないのである。
本格運用されていれば、今回の豪雨で緊急放流を行う事態に
本洪水の八ツ場ダムについては重要な問題がある。関東地方整備局の発表によれば、本洪水で八ツ場ダムが貯留した水量は7500万㎥である。八ツ場ダムの洪水調節容量は6500万㎥であるから、1000万㎥も上回っていた。
八ツ場ダムの貯水池容量の内訳は下の方から計画堆砂容量1750万㎥、洪水期利水容量2500万㎥、洪水調節容量6500万㎥で、総貯水容量は10750万㎥である。貯水池の運用で使う有効貯水容量は、堆砂容量より上の部分で、9000万㎥である。ダム放流水の取水口は計画堆砂容量の上にある。
本洪水では八ツ場ダムの試験湛水の初期にあったので、堆砂容量の上端よりかなり低い水位からスタートしたので、本格運用では使うことができない計画堆砂容量の約1/3を使い、さらに、利水のために貯水しておかなければならない洪水期利水容量2500万㎥も使って、7500万㎥の洪水貯留が行われた。
本格運用で使える洪水貯水容量は6500万㎥であるから、今回の豪雨で八ツ場ダムが本格運用されていれば、満杯になり、緊急放流、すなわち、流入水をそのまま放流しなければならない事態に陥っていた。
今年の台風19号では全国で6基のダムで緊急放流が行われ、ダム下流域では避難が呼びかけられた。2018年7月の西日本豪雨では愛媛県・肱川の野村ダムと鹿野川ダムで緊急放流が行われて、西予市と大洲市で大氾濫が起き、凄まじい被害をもたらした。今年の台風19号の6ダムの緊急放流は時間が短かったので、事なきを得たが、雨が降り続き、緊急放流が長引いていたら、どうなっていたかわからない。
ダム下流で、ダムに比較的近いところはダムの洪水調節を前提とした河道になっているので、ダムが調節機能を失って緊急放流を行えば、氾濫の危険性が高まる。
八ツ場ダムも本豪雨で本格運用されていれば、このような緊急放流が行われていたのである。
以上のとおり、本豪雨で八ツ場ダムがあったので、利根川が助かったという話は事実を踏まえないフェイクニュースに過ぎないのである。
必要性を喪失した八ツ場ダムが来年3月末に完成予定
八ツ場ダムは今年中に試験湛水を終えて、来年[2020年]3月末に完成する予定であるが、貯水池周辺の地質が脆弱な八ツ場ダムは試験湛水後半の貯水位低下で地すべりが起きる可能性があるので、先行きはまだわからない。
八ツ場ダムはダム建設事業費が5320億円で、水源地域対策特別措置法事業、水源地域対策基金事業を含めると、総事業費が約6500億円にもなる巨大事業である。
八ツ場ダムの建設目的は①利根川の洪水調節、②水道用水・工業用水の開発、③吾妻川の流量維持、④水力発電であるが、③と④は付随的なものである。
①の洪水調節については上述の通り、本豪雨でも八ツ場ダムは治水効果が小さく、利根川の治水対策として意味を持たなかった。利根川の治水対策として必要なことは河床掘削を随時行って河道の維持に努めること、堤防高不足箇所の堤防整備を着実に実施することである。
②については首都圏の水道用水、工業用水の需要が減少の一途をたどっている。水道用水は1990年代前半でピークとなり、その後はほぼ減少し続けるようになった。首都圏6都県の上水道の一日最大給水量は、2017年度にはピーク時1992年度の84%まで低下している。これは節水型機器の普及等によって一人当たりの水道用水が減ってきたことによるものであるが、今後は首都圏全体の人口も減少傾向に向かうので、水道用水の需要がさらに縮小していくことは必至である。これからは水需要の減少に伴って、水余りがますます顕著になっていくのであるから、八ツ場ダムによる新規の水源開発は今や不要となっている。
八ツ場ダムの計画が具体化したのは1960年代中頃のことで、半世紀以上かけて完成の運びになっているが、八ツ場ダムの必要性は治水利水の両面で失われているのである。八ツ場ダムの総事業費は上述の通り、約6500億円にもなるが、もし八ツ場ダムを造らず、この費用を使って利根川本川支川の河道整備を進めていれば、利根川流域全体の治水安全度は飛躍的に高まっていたに違いない。
最後に民主党政権と八ッ場ダムに関して言えば、もっときちんとしたプレゼンテーション(説明)が必要です。市民運動家の段階ではいいでしょうが、政権を担う立場になった民主党の八ッ場ダムへの対応は、利権のためではなく県民のための執行権者として私が行ってきた脱ダムとは、ずいぶん違う哲学と方策のもとでなさっているのではないか。その意味でも不安と期待を抱いておりますということです。(18頁)
※田中康夫「しなやかな是々非々 水害は『脱ダム』のせいなのか!? 田中康夫の実践的『治水・治山』原論」(『サンデー毎日』2019.11.17)(PDF)>田中康夫公式サイト( http://tanakayasuo.me/river )
(1)流域及び河川の概要
(2)河川の総合的な保全と利用に関する基本方針
ア 災害の発生の防止又は軽減
イ 河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持
ウ 河川環境の整備と保全
2. 河川の整備の基本となるべき事項
(1)基本高水並びにその河道及び洪水調節施設への配分に関する事項
(2)主要な地点における計画高水流量に関する事項
(3)主要な地点における計画高水位及び計画横断形に係る川幅に関する事項
(4)主要な地点における流水の正常な機能を維持するため必要な流量に関する事項
(参考図)荒川水系図
3. 安藤川
6. 南小畔川
7. 飯盛川
14. 大谷木川
15. 毛呂川
16. 霞川
21. 和田吉野川