岩殿満喫クラブ 岩殿 Day by Day

市民の森保全クラブ Think Holistically, Conduct Eco-friendly Actions Locally

読書ノート

中島政希『崩壊マニフェスト』 2012年10月5日

中島政希『崩壊マニフェスト』(平凡社、2012年)を読みました。
img-200114094734-0002img-200114094607-0001

中島政希『崩壊マニフェスト』目次
まえがき
第1章 マニフェスト崩壊劇の序章
  平均的保守政治家のダム認識
  誰も知らなかった建設計画
  「倉渕ダム」反対運動に出会う
  知事との黙約
  代替案は「権威ある」もので
  高まる民主党内の軋轢と髙﨑市長選挙
  建設凍結決定
  「八ッ場ダムへ」の躊躇
  市民運動から政治運動へ
  マニフェストで問う
第2章 この国にとってダムとは何か
 1、八ッ場ダム計画とは
  ダムを造り続けるわけ
  カスリーン台風の再襲に備える?
  時代が要請したダム建設
  進まない八ッ場ダム
  反対運動と住民の分裂
  「国」とはいったい誰なのか
 2、疑わしい治水能力
  近代日本の治水思想
  基本高水とは
  八ッ場ダムの洪水調節機能
  八ッ場ダムは治水の役に立たない
 3、偽りの渇水
  利水面での検討
  過大な水需要予測
  画期的な大阪府の水需要予測
  「東京都の水は余っている」
  暫定水利権とは何か
  暫定水利権を安定水利権に代える
 4、後世への禍根
  八ッ場ダムに突然浮上した発電計画
  ダムは観光に役立つのか
  逃れられない堆砂問題
  失われた白砂青松
  ダムに流れ込む大量の砒素
  地滑り、代替地の危険性
第3章 新政権の挑戦と失敗
  新大臣が自ら閉ざした道
  党政府一体化の誤算
  推進派の論理
  地域問題に後退させた愚
  地元の声とは何か
  政務三役の過信
  湖面一号橋の攻防
  現実主義の陥穽
  参院選での敗北
  志の後退
  「官僚たちの八ッ場」
第4章 新旧治水思想の相克
 1、公共事業改革は政権獲得の手段だったのか
  民主党の公共事業政策の変遷
  公共工事受難の時代へ
  諫早湾干拓と中海干拓
  対立軸となった公共事業政策
  「公共事業コントロール法」と「緑のダム構想」
  自民党の柔軟性
 2、新しい治水思想とは何か
  膨大な負荷と負担
  水を完全に封じ込めることはできない
  頻発するゲリラ豪雨と内水被害
  国民が納得できる説明と試みを
  改正河川法の精神
 3、結論ありきの再検証
  建設主体による検証という茶番
  関東地方整備局による治水代替案の問題点
  架空の予測とコストの無視
 4、「政」「官」「業」「学」「報」ペンダゴンの癒着
  それでも跋扈する天下りと談合
  あきれた「新解釈」
  国交省の地方支配
  五者もたれ合いに支えられて
第5章 最後の戦い
  官僚出身大臣の登場
  分科会の迷走
  民主党国土交通部門会議の「意見」
  政調会長の抵抗
  官房長官の裁定の怪
  最後の会議
  離党届提出
第6章 「政党政治」に明日はあるのか
  原子力ムラと河川ムラの同根
  政権交代と価値感の相克
  戦わずして敗れた
  官権政治
  失敗した「再分配構造の転換」
  「行革なければ増税なし」は日本の政治文化
  民主党の自民党化の帰結
あとがき
解説 科学者として共感させられた「脱ダム戦記」 大熊孝

八ッ場[やんば]ダム完成を3月に控え長野原町、YouTubeに「ふるさと、八ッ場」を公開(2020.01.06)
 「ふるさと、八ッ場」(Full、14分23秒)
 
 「ふるさと、八ッ場」(短縮版、3分3秒)
 

台風第19号における利根川上流ダム群の治水効果
   国土交通省関東地方整備局河川部記者発表(2019.11.05)・資料(PDF)
台風第19号における利根川上流ダム群※の治水効果(速報)
 ~利根川本川(八斗島地点)の水位を約1メートル低下~
台風第19号では、利根川上流ダム群※で約1.45億立方メートルの洪水を貯留しました。
この度、この貯留による利根川本川(八斗島地点(群馬県伊勢崎市))の水位低下量を算出したのでお知らせします。
※利根川上流ダム群:矢木沢ダム、奈良俣ダム、藤原ダム、相俣ダム、薗原ダム、下久保ダム、試験湛水中の八ッ場ダム

・観測最高水位 約4.1メートル(利根川上流ダム群※で貯留)
・計算最高水位 約5.1メートル(全ての利根川上流ダム群※が無い場合を仮定し、算出)
水位低下量 約1メートル
本資料の数値等は速報値であるため、今後の調査等で変わる可能性があります。

利根川水系の八ツ場ダムは、来年[2020年]3月完成の予定で10月1日から試験湛水が行われているが、今回の台風19号により、貯水量が一挙に増加した。八ツ場ダムの貯水量が急増したことで、「台風19号では利根川の堤防が決壊寸前になった。決壊による大惨事を防いだのは八ツ場ダムの洪水調節効果があったからだ」という話がネットで飛び交っている。10月16日の参議院予算委員会でも、赤羽一嘉国土交通大臣が試験湛水中の八ツ場ダムが下流の利根川での大きな氾濫を防ぐのに役立ったとの認識を示した。
しかし、それは本当のことなのか。現時点で国交省が明らかにしているデータに基づいて検証することにする。

八ツ場ダムの洪水位低下効果は利根川中流部で17㎝程度
10月13日未明に避難勧告が出た埼玉県加須市付近の利根川中流部についてみる。
本洪水で利根川中流部の水位は確かにかなり上昇したが、決壊寸前という危機的な状況ではなかった。加須市に近い利根川中流部・栗橋地点(久喜市)の本洪水の水位変化を見ると、最高水位は9.67m(観測所の基準面からの高さ)まで上昇し、計画高水位9.90mに近づいたが、利根川本川は堤防の余裕高が2mあって、堤防高は計画高水位より2m高いので、まだ十分な余裕があった。なお、栗橋地点の氾濫危険水位は8.9mで、計画高水位より1m低いが、これは避難に要する時間などを考慮した水位であり、実際の氾濫の危険度はその時の最高水位と堤防高との差で判断すべきである。

八ツ場ダムの治水効果については2011年に国交省が八ツ場ダム事業の検証時に行った詳細な計算結果がある。それによれば、栗橋に近い地点での洪水最大流量の削減率は10洪水の平均で50年に1回から100年に1回の洪水規模では3%程度である。本洪水はこの程度の規模であったと考えられる。
本洪水では栗橋地点の最大流量はどれ位だったのか。栗橋地点の最近8年間の水位流量データから水位流量関係式をつくり、それを使って今回の最高水位9.67mから今回の最大流量を推測すると、約11,700㎥/秒となる。八ツ場ダムによる最大流量削減率を3%として、この流量を97%で割ると、12,060㎥/秒になる。八ツ場ダムの効果がなければ、この程度の最大流量になっていたことになる。

この流量に対応する水位を上記の水位流量関係式から求めると、9.84mである。実績の9.67mより17㎝高くなるが、さほど大きな数字ではない。八ツ場ダムがなくても堤防高と洪水最高水位の差は2m以上あったことになる。したがって、本洪水で八ツ場ダムがなく、水位が上がったとしても、利根川中流部が氾濫する状況ではなかったのである。

河床の掘削で計画河道の維持に努める方がはるかに重要
利根川の水位が計画高水位の近くまで上昇した理由の一つとして、適宜実施すべき河床掘削作業が十分に行われず、そのために利根川中流部の河床が上昇してきているという問題がある。
国交省が定めている利根川河川整備計画では、計画高水位9.9mに対応する河道目標流量は14,000㎥/秒であり、今回の洪水は水位は計画高水位に近いが、流量は河道目標流量より約2,300㎥/秒も小さい。このことは、利根川上流から流れ込んでくる土砂によって中流部の河床が上昇して、流下能力が低下してきていることを意味する。河川整備計画に沿った河床面が維持されていれば、上述の水位流量関係式から計算すると、今回の洪水ピーク水位は70㎝程度下がっていたと推測される。八ツ場ダムの小さな治水効果を期待するよりも、河床掘削を適宜行って河床面の維持に努めることの方がはるかに重要である。

利根川の上流部と下流部の状況は
以上、利根川中流部についてみたが、本洪水では利根川の上流部と下流部の状況はどうであったのか。利根川は八斗島(群馬県伊勢崎市)より上が上流部で、この付近で丘陵部から平野部に変わるが、八斗島地点の本洪水の水位変化を見ると、最高水位と堤防高の差が上述の栗橋地点より大きく、上流部は中流部より安全度が高く、氾濫の危険を心配する状況ではなかった。

一方、利根川下流部では10月13日午前10時頃から水位が徐々に上昇し、河口に位置する銚子市では、支流の水が利根川に流れ込めずに逆流し、付近の農地や住宅の周辺で浸水に見舞われるところがあった。八ツ場ダムと利根川下流部の水位との関係は中流部よりもっと希薄である。八ツ場ダムの洪水調節効果は下流に行くほど小さくなる。
前述の国交省の計算では下流部の取手地点(茨城県)での八ツ場ダムの洪水最大流量の削減率は1%程度であり、最下流の銚子ではもっと小さくなるから、今回、浸水したところは八ツ場ダムがあろうがなかろうが、浸水を避けることができなかった。浸水は支川の堤防が低いことによるのではないだろうか。
なお、東京都は利根川中流から分岐した江戸川の下流にあるので、八ツ場ダムの治水効果はほとんど受けない場所に位置している。

ダムの治水効果は下流に行くほど減衰
ダムの洪水調節効果はダムから下流へ流れるにつれて次第に小さくなる。他の支川から洪水が流入し、河道で洪水が貯留されることにより、ダムによる洪水ピーク削減効果は次第に減衰していく。
2015年9月の豪雨で鬼怒川が下流部で大きく氾濫し、甚大な被害が発生した。茨城県常総市の浸水面積は約40㎢にも及び、その後の関連死も含めると、死者は14人になった。鬼怒川上流には国土交通省が建設した四つの大規模ダム、五十里ダム、川俣ダム、川治ダム、湯西川ダムがある。その洪水調節容量は合計12,530万㎥もあるので、鬼怒川はダムで洪水調節さえすれば、ほとんどの洪水は氾濫を防止できるとされていた河川であったが、下流部で堤防が決壊し、大規模な溢水があって凄まじい氾濫被害をもたらした。
この鬼怒川水害では4ダムでそれぞれルール通りの洪水調節が行われ、ダム地点では洪水ピークの削減量が2,000㎥/秒以上もあった。しかし、下流ではその効果は大きく減衰した。下流の水海道地点(茨城県常総市)では、洪水ピークの削減量はわずか200㎥/秒程度しかなく、ダムの効果は約1/10に減衰していた。

このようにダムの洪水調節効果は下流に行くほど減衰していくものであるから、ダムでは中下流域の住民の安全を守ることができないのである。

本格運用されていれば、今回の豪雨で緊急放流を行う事態に
本洪水の八ツ場ダムについては重要な問題がある。関東地方整備局の発表によれば、本洪水で八ツ場ダムが貯留した水量は7500万㎥である。八ツ場ダムの洪水調節容量は6500万㎥であるから、1000万㎥も上回っていた。

八ツ場ダムの貯水池容量の内訳は下の方から計画堆砂容量1750万㎥、洪水期利水容量2500万㎥、洪水調節容量6500万㎥で、総貯水容量は10750万㎥である。貯水池の運用で使う有効貯水容量は、堆砂容量より上の部分で、9000万㎥である。ダム放流水の取水口は計画堆砂容量の上にある。
本洪水では八ツ場ダムの試験湛水の初期にあったので、堆砂容量の上端よりかなり低い水位からスタートしたので、本格運用では使うことができない計画堆砂容量の約1/3を使い、さらに、利水のために貯水しておかなければならない洪水期利水容量2500万㎥も使って、7500万㎥の洪水貯留が行われた。

本格運用で使える洪水貯水容量は6500万㎥であるから、今回の豪雨で八ツ場ダムが本格運用されていれば、満杯になり、緊急放流、すなわち、流入水をそのまま放流しなければならない事態に陥っていた。
今年の台風19号では全国で6基のダムで緊急放流が行われ、ダム下流域では避難が呼びかけられた。2018年7月の西日本豪雨では愛媛県・肱川の野村ダムと鹿野川ダムで緊急放流が行われて、西予市と大洲市で大氾濫が起き、凄まじい被害をもたらした。今年の台風19号の6ダムの緊急放流は時間が短かったので、事なきを得たが、雨が降り続き、緊急放流が長引いていたら、どうなっていたかわからない。

ダム下流で、ダムに比較的近いところはダムの洪水調節を前提とした河道になっているので、ダムが調節機能を失って緊急放流を行えば、氾濫の危険性が高まる。
八ツ場ダムも本豪雨で本格運用されていれば、このような緊急放流が行われていたのである。

以上のとおり、本豪雨で八ツ場ダムがあったので、利根川が助かったという話は事実を踏まえないフェイクニュースに過ぎないのである。

必要性を喪失した八ツ場ダムが来年3月末に完成予定
八ツ場ダムは今年中に試験湛水を終えて、来年[2020年]3月末に完成する予定であるが、貯水池周辺の地質が脆弱な八ツ場ダムは試験湛水後半の貯水位低下で地すべりが起きる可能性があるので、先行きはまだわからない。

八ツ場ダムはダム建設事業費が5320億円で、水源地域対策特別措置法事業、水源地域対策基金事業を含めると、総事業費が約6500億円にもなる巨大事業である。
八ツ場ダムの建設目的は①利根川の洪水調節、②水道用水・工業用水の開発、③吾妻川の流量維持、④水力発電であるが、③と④は付随的なものである。

①の洪水調節については上述の通り、本豪雨でも八ツ場ダムは治水効果が小さく、利根川の治水対策として意味を持たなかった。利根川の治水対策として必要なことは河床掘削を随時行って河道の維持に努めること、堤防高不足箇所の堤防整備を着実に実施することである。

②については首都圏の水道用水、工業用水の需要が減少の一途をたどっている。水道用水は1990年代前半でピークとなり、その後はほぼ減少し続けるようになった。首都圏6都県の上水道の一日最大給水量は、2017年度にはピーク時1992年度の84%まで低下している。これは節水型機器の普及等によって一人当たりの水道用水が減ってきたことによるものであるが、今後は首都圏全体の人口も減少傾向に向かうので、水道用水の需要がさらに縮小していくことは必至である。これからは水需要の減少に伴って、水余りがますます顕著になっていくのであるから、八ツ場ダムによる新規の水源開発は今や不要となっている。

八ツ場ダムの計画が具体化したのは1960年代中頃のことで、半世紀以上かけて完成の運びになっているが、八ツ場ダムの必要性は治水利水の両面で失われているのである。
八ツ場ダムの総事業費は上述の通り、約6500億円にもなるが、もし八ツ場ダムを造らず、この費用を使って利根川本川支川の河道整備を進めていれば、利根川流域全体の治水安全度は飛躍的に高まっていたに違いない。

田中康夫「脱ダム政策の哲学と実践~やめればいいのではなく、新しい治水のあり方を示す~(『都市問題』100-12、2009.12)(PDF)民主党政権はマニフェストに従い、八ツ場ダムと川辺川ダムの中止を表明した。しかしそこにはダムについての哲学も歴史観も示されず、新しい治水のあり方も示されていない。金が地方から中央に環流してしまうダム/日本の河川工学は科学ではない/ダム建設に40年も50年もかかる理由/ダムと橋とトンネルの秘密/国内の本当の安全保障は水の保全/脱ダム政策の実際

最後に民主党政権と八ッ場ダムに関して言えば、もっときちんとしたプレゼンテーション(説明)が必要です。市民運動家の段階ではいいでしょうが、政権を担う立場になった民主党の八ッ場ダムへの対応は、利権のためではなく県民のための執行権者として私が行ってきた脱ダムとは、ずいぶん違う哲学と方策のもとでなさっているのではないか。その意味でも不安と期待を抱いておりますということです。(18頁)

田中康夫「しなやかな是々非々 水害は『脱ダム』のせいなのか!? 田中康夫の実践的『治水・治山』原論(『サンデー毎日』2019.11.17)(PDF)>田中康夫公式サイト( http://tanakayasuo.me/river

太田猛彦「日本の森の変遷-荒廃から復活へ」 2月19日

2月16日の東松山市環境学習会で紹介された『全国植樹祭70周年記念写真集』(国土緑化推進機構、2019年)の巻末にある太田猛彦さんの解説「日本の森の変遷-荒廃から復活へ」(54~56頁)を読みました。全国植樹祭は1950年奈良県で「植樹行事並びに国土緑化大会」として開催され、1959年、第10回大会が埼玉県で実施されています。1970年、福島県で開かれた第21回大会から現在の名称に変更されました。全国植樹祭の前身は1934年に始まった「愛林日植樹行事」(Wikipedia)です。
 日本は高温多雨の夏を持つ温帯の島国
  豊かで多様な森に育まれた縄文文明
 日本はユーラシア大陸の東岸に横たわる南北約3000 km の弧状列島である。しかも世界地図を広げてみればわかるように、四季が明瞭な温帯には日本のような大きな島は極めて少ない。すなわち、海の影響を受ける島々は熱帯や亜熱帯、寒帯には多いが温帯には日本列島とイギリスの2島、ニュージーランドの2島ぐらいしかない。
 さらに日本列島とイギリス二島は大陸の近くに位置しその影響も受けるが、影響の受け方は全く異なり、大陸の東岸はモンスーン気候で夏季に降雨が多く、冬季は乾燥する。一方大陸の西岸は西岸海洋性気候で、夏は乾燥気味であり、冬に雨が多い。つまり日本は熱帯雨林のような高温多雨の夏を持つ世界で唯一の温帯の島国であり、そのような気候が日本の豊かな森を育んでいる。その上「冬は乾燥する 」と言っても、シベリアからの北西季節風と日本海を北上する暖流の影響で日本海側は降水量が多く、それは降雪となって日本の森林を一層多様にしている。
 日本人は縄文時代の昔からそのような森に支えられた豊かな自然を利用して暮らしてきた。この時代の列島にはドングリやクリが実る落葉広葉樹の森が広がっていたため、縄文人は基本的に食糧に困ることはなく、しかも煮炊きを可能にする縄文式土器の発明によって利用できる食材の幅を広げることができたため、農耕を受け入れることがなくても豊かな生活を送ることができた。例えば 、縄文時代の遺跡として有名な三内丸山の定住集落は1700年ほど続いたと言われるが、そこでは春は山菜採り、夏は漁労、秋は木の実の採集、冬は狩猟などにより豊かな食料を得、集落の中心には木材を使った祭祀用の施設を建造していた。しかし森が大きく傷つくことはなく、自然と共生した「持続可能な社会」が展開されていたと言える。農耕の始まりを研究したジャレド・ダイアモンドは日本の縄文文明を「森を利用した最も豊かな狩猟採集民族文明」と評価している。
 稲作の伝来とともに森林は劣化
  江戸時代は「森林荒廃の時代」
 しかし縄文時代に稲作が伝来すると、日本の森林はその後大きく変化していった。すなわち、縄文時代後期には豆類などを栽培する簡単な農業は始まり、居住地の周りの森林が変化し始めたが、水田稲作は連作は可能で、病虫害も畑作より軽微な上、何よりも単位面積当たりの収穫量が多く、したがって人口収容力も大きく、一方で用水確保のために集団生活が必要であり、集落が発達した。その結果、集落や農地の開発による森林の消失のほか、食料以外の資源は燃料も含めてほとんどが林産物であったため、いわゆる里地・里山システムを基本とする稲作農耕社会が成立するとともに集落の周りの森林の劣化も始まった。
 やがて飛鳥・奈良時代以降に次々と古代都市が成立すると、建築資材等木材の本格的使用が始まって大量の木材が伐採され、畿内を中心に本来の豊かな天然林はやせ地でも育つマツ林に変わるなど森林の劣化が進行した。また、それが原因で洪水や土砂災害がたびたび発生した。そこで森林を保護するため、例えば天武天皇は676年に飛鳥川上流に禁伐令を発している。そして、10世紀末には田上山など畿内各地に荒廃山地(はげ山)が出現するようになった。
 その後室町時代頃になると、各種産業の発達による人口の増加によって地方でも城郭や都市の建設が盛んになり、燃料用や資材用の木材需要が増加した。そのため森林の劣化も全国に広がっていった。またこの時代になると、製塩業、製鉄業、窯業等に必要な産業用燃料材の需要が増加して、森林の劣化がいっそう進んだ。さらに戦国時代以降、戦国大名は江戸時代の各藩によって水田の開発がいっそう進み、江戸時代中期には100万人が暮らす巨大都市江戸を要する人口3000万人の稲作農耕社会が成立した。当時の日本は世界人口の4~5%を占める人口大国であり、その人口を支えたのが稲作農業と森林を中心とする自然資源だった。しかしその頃、森林資源は既に逼迫しており、各地にはげ山が広がるとともに、里地・里山システムにかかわる入会地での村落間の境界争いや村落内での資源の奪い合い、あるいは水争いが頻発した。
 一方で、森林の消失(裸地化)や劣化は山地での土砂崩壊や平地での洪水氾濫を引き起こし、それらは災害となってたびたび人々を襲った。江戸時代は「森林荒廃の時代」ということができるだろう。以降、日本の国土は20世紀前半まで、山地で土砂が生産され続け、それが河川に流出し続け、海岸に土砂を供給し続ける国土となった。幕府は土砂留工事や砂溜工事を進めるとともに、熊沢蕃山ら儒学者からの治山治水の進言を受け入れて、例えば1666年の「諸国山川掟」のような、要所での伐採禁止や植林の奨励を布告した。また幕府や各藩は今日の保安林制度につながる留山や留木の制度を制定し、海岸では飛砂害防止のために砂防林を造成した。
 当時の山地・森林の様子は、例えば歌川広重の浮世絵「東海道五十三次」を見れば一目瞭然である。どの図版にも鬱蒼とした豊かな森は描かれていない。遠景の山はどの図版でも木々がまばらである一方で東海道名物の「松並木」や山腹の松が繰り返し描かれている。土壌が貧弱で他の樹木は生育できない荒れ地や砂地でもマツはよく育つ。「白砂青松」とよく言われるが、養分が少ない海岸の砂地にはマツしか生えない。つまり江戸時代の山も基本的にはこの写真集に掲載されている古い写真のような状態で、マツしか生えないほど貧弱だったのだ。

 治水三法を制定した明治政府
  乱伐は昭和の終戦直後まで続いた
 明治時代に入ると近代産業が勃興し、人口が急増し、都市が発達したが、この時期、産業用燃料はいまだ薪炭に頼っていた。そのため、建設資材や燃料材確保の必要性から森林伐採への圧力がいっそう強まった。その結果として、明治中期は日本の森林が歴史上最も劣化・荒廃していた時期と推定される。そのため明治政府はいわゆる治水三法を制定して河川では河川法に基づく洪水氾濫防止のための連続堤工事を開始するとともに、森林法の保安林制度に基づく治山事業や砂防法に基づく砂防事業によって荒廃山地での植林を精力的に行った。しかし近代的治山治水事業が始まっても国民の大部分は依然として森林に頼る農民であり、戦争の半世紀もあって里山の荒廃地はあまり回復しなかった。この写真集の大半の写真はこの頃の里山の状況を示している。
 一方、古代以来の都の造営や城郭、社寺の建設で必要な大径木は江戸時代には全国の奥山に探し求めるまでに減少したようだが、通常使われる木材もすでに江戸時代には品薄だった。そのため各地に人工林業も始まったが、大部分は天然林から伐り出された。さらに明治時代以降は近代化のための資材としての木材の需要が増大し、昭和時代に入ると森林鉄道の普及もあって奥山で本格的な伐採が始まった。加えて大戦中及び終戦直後の混乱した時代には、木材は唯一の自前の資源として文字通り乱伐された。全国植樹祭はこうした状況の中で昭和25年[1950]に始まったのである。

 「拡大造林」を経て「森林飽和」へ
  変わらぬ植樹活動の大切さ
 以来70年。この間、奥山では列島改造~高度経済成長期に木材需要を満たすための大規模な森林伐採があり、その跡地には「拡大造林」と称してスギやヒノキ、カラマツなどが植えられた。その後外材の輸入自由化や火災防止のための木質建材の使用制限もあって国産材の需要が減少したため奥山での伐採圧力は低下した。一方里山では治山・砂防事業の成果がようやく現れ始めたのに加え、燃料や肥料が森林バイオマスから化石燃料や化学肥料に転換されて薪炭林や農用林が不要となったため森林が回復し始めた。こうして昭和時代末期から平成時代を通して日本の森林は奥山でも里山でもその蓄積を増加させ、「森林飽和」と呼べるほどに復活した。その背景には全国植樹祭を中心とした緑化運動や国民参加の森づくりによる緑化の呼びかけも大きく影響していると思われる。
 一方この時代には広葉樹の復活を望む声も広がるとともに、かつての里山を保存する活動も盛んになった。この傾向は全国植樹祭の植栽樹種の選択にも表れ、1970年代からモミジやサクラ類、トチノキなど各種の広葉樹の植林が見られるようになり、1990年代に入ってからは広葉樹が大勢を占めるようになった。これは森林の全般的な成長と林業の不振の一方で1990年代以降は生物多様性保全の重要性が広く知られるようになって、多様な森づくりが好まれるようになった結果とみられる。 [以下略]
※久那村(秩父市)の治山工事施行地(完了後、1938年)(同書31頁)
img-200217105317-0004

※山本悟さんの「知っておきたい日本の植林史」(同書20頁)
img-200217105317-0002

0次谷の表層崩壊 2月17日

昨年10月、台風19号の豪雨により、市民の森や石坂の森では小規模な表層崩壊がありました(10月26日の記事)。岩殿満喫クラブの管理する岩殿C地区の西側、無名沼イ号の奥の谷頭は「明瞭な流路をもたない谷頭の集水地形」、「九十九川が始まる湧水のポイントではあるが、表面では川の様相を呈していないが、集水しているお椀状のエリア」=0次谷で、今後集中豪雨で山腹が崩壊する危険がないとは言えないので、災害に備えて「表層崩壊」等について資料を調べてみました。
「流木災害等に対する治山対策検討チーム」中間取りまとめ
2017年7月、九州北部豪雨において、山腹崩壊に伴い発生した流木が下流に大きな被害を与えました。林野庁では、「流木災害等に対する治山対策検討チーム」を設置し、災害の実態把握や山腹崩壊の発生メカニズムの分析・検証等を行い、更なる効果的な治山対策の在り方について検討し「中間取りまとめ」として公表しています。
●「流木災害等に対する治山対策検討チーム」中間取りまとめ01「流木災害等に対する治山対策検討チーム」中間取りまとめ資料分割6

※「災害に強い森林づくり指針」(長野県、2008年)
災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8
長野県では、2006年7月に大規模な豪雨災害に見舞われ、連続累積雨量400mmを記録した県央部を中心に76億円を超える林地被害が発生し、12名が亡くなりました。この災害を教訓にして、森林の土砂災害防止機能を強化し、山地災害から県民生活の安全・安心を確保するために、「森林の土砂災害防止機能に関する検討委員会」を計10回開催し、2008年1月にその検討結果を『災害に強い森林づくり指針』として公表しています。
災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_01災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_02災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_03災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_04

災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_05災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_06災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_07災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_08

検索に移動0次谷(ぜろじたに、zero-order basin):塚本良則さんによって定義された流域の呼称。
 表層崩壊との関係(Wikipedia)
表層崩壊は、斜面崩壊のうち斜面表土が飽和側方流や地震によって滑落する現象であるが、0次谷との関係においていくつかの特徴が指摘されている。内容は以下の通りである。

表層崩壊は0次谷流域を単位として、その多くが0次谷内部で発生する。
1つの0次谷に1つの表層崩壊が発生する。
表層崩壊面積と0次谷流域面積には相似関係が存在する。
豪雨型山崩れによる流域総生産土砂量には上限値が存在する。

表層崩壊とそれにともなう土石流は過去に大土砂災害を引き起こしている。0次谷と、0次谷と崩壊の関係を調査・研究することは、斜面災害対策を行う上で極めて有意義であるといえる。

東松山市環境学習会第1回 2月16日

東松山市と環境基本計画市民推進委員会では、市民の皆さんに協働による環境まちづくり活動や環境問題への認識を深めていただくことを目的に、環境学習会を企画しています。今日は『森林飽和』、『ダムと緑のダム』の著者、太田猛彦さんを講師に「日本の森林の現状を知り、今後の保全のあり方を考える」をテーマに実施し、多くの参加者がありました。
次回、3月8日(日曜日)は勝浦信幸さんを講師に「協働による持続可能なまちづくり」を予定しています(10~12時、総合会館3階304会議室)。

日本の森林の現状を知り、今後の保全のあり方を考える
DSC_0001DSC_0040DSC_0065

現在の森を知るためには、かつての森の姿を知ってほしい
123

456
78

917

1610

治水三法(1896年河川法、97年砂防法、森林法)
18

林業基本法(1964年)、森林・林業基本法(2001年)
計画的な治山・治水事業に社会の変貌(燃料革命、肥料革命等)により人々が森から離れ、里地・里山システムが終焉。森林は400年ぶりの緑を回復したが、放置され荒廃はすすむ。
192021

日本学術会議答申、森林の多面的機能
271422

地球環境問題の出現
 土地と水の利用の問題→生物多様性喪失
 地下資源利用の問題→廃棄物問題・地球温暖化(エネルギー問題)
1124

1323

新しい森林の原理(2004年)と持続可能な森林管理と地域の木材の利活用
252829

2630
(2014年7月29日に行われたウッドマイルズフォーラム2014での太田さんのスライドの一部を引用)

学習会後半部分で取りあげられていたプラネタリー・バウンダリ、SDGs、ESG等については別記事を準備中です。
 

虫明功臣、太田猛彦監修『ダムと緑のダム』 2月15日

虫明功臣、太田猛彦監修『ダムと緑のダム 凶暴化するする水災害に挑む流域マネジメント』(日経BP、2019年12月)です。台風19号の集中豪雨で市民の森のボッシュ林エリアの0次谷(明瞭な流路をもたない谷頭の集水地形)と石坂の森見晴らしの丘下では小規模な表層崩壊が起きていたこと(2019年10月26日記事12月23日記事)を頭に置いて、市民の森の森林管理について考えながら読み終えました。
img-200215194955-0002

ダムと緑のダム 凶暴化するする水災害に挑む流域マネジメント』目次
はじめに(虫明功臣[むしあけかつみ]、太田猛彦)

第1章「緑のダム」が決壊した(井山聡)
 2017年九州北部豪雨災害の爪痕
  豪雨で孤立した集落
  1942年の観測開始以来最大の雨
  東京ドーム約9個分の土砂と流木の流出
  洪水、土砂、流木を防いだ ダム
  2018年西日本豪雨での最悪夢
  連年の豪雨災害
  山林崩壊のメカニズム
   img-200215195113-0002img-200215195113-0003img-200215195113-0004
 近年、特に頻発する土砂・流木災害
  森林が豊かな地域でも多発の恐れ
  全て砂防堰堤での対策は現実的でない

第2章森林における治水・利水機能とその限界(高橋定雄)
 緑のダムの限界
  大洪水ではピーク流量の低減を期待できず
  渇水時には貯水ダムの代わりにならず
  日本学術会議の見解
  森林施業による治水・利水対策の限界
   img-200215195113-0005
 川辺川ダムにおける緑のダム論争
  緑のダム論争の経緯と論点
   img-200215195113-0006
  森林の保水力についての共同検証(現地試験)
  健全な流域水循環系の構築に不可欠な森林の保全・整備

第3章急峻な国土に生きる(小山内信智)
 山は動く
  3つの土砂災害
  過去30年でどんどん増える土砂災害
 森林(植生)の土砂流出抑制効果と限界
  森林(植生)の土砂流出抑制機能
  近年の土砂災害の実態
  緑の落とし穴?
 土砂・立木災害にどう立ち向かうか
  第二次世界対戦後の日本の土砂災害対策
  ソフト対策の進展とその課題
  土砂移動現象にほぼ必ず含まれる流木

第4章森林政策を考える(太田猛彦)
 日本の森林の劣化と回復
  「世界で唯一」の森で暮らした縄文人
  稲作の伝来と森林の劣化
  江戸時代は山地荒廃の時代
  日本の森林が史上最も劣化・荒廃した明治中期
  戦後社会では森林の蓄積が増加
  林業の経済政策を優先した林業基本法
  地球環境時代の到来と森林・林業基本法
  竹林の繁茂や花粉症のまん延などの新たな問題
   表層崩壊の激減と土石流の変化
 一方、森林の復活による最も大きな影響は、山地における侵食様式の変化でした。すなわち、主にはげ山や林間の裸地、山間の耕地で発生する表面侵食は、ヒノキの人工林などで未間伐な部分やシカの食害で林床植生が消滅した部分を除くと 、ほとんど起こらなくなりました。また表層崩壊は、斜面表層の1、2メートル程度の風化土壌層が地表面から浸透する降雨の作用や地震の震動で崩れるもので、はげ山や幼齢林地で発生することが多いのですが、壮齢林では樹木の根系の作用によって発生し難くなるため、平成時代には目に見えて減少しました。
 土石流も発生形態が変化しているように見えます。森林が劣化していた時代に起こった豪雨による土石流の大部分は、1次谷(常時表流水がある最上流の谷)内の数個の表層崩壊が集合して発生していました。一方、森林が回復した平成時代に入ると、谷頭などで単独に発生した表層崩壊が土石流化する場合が多くなりました。豪雨の規模の増大化によって 、大量の水が山腹から流出して崩壊土砂に加わるようになり、小崩壊でも土石流化する場合が多く見られるようになった結果と推測されます。このような理由によって、表層崩壊が減ったにもかかわらず、土石流の発生はそれほど減少していないようです。
 こうした状況は山地での流木の発生に大きく影響しています。すなわち、山地での流木の発生の大部分は、表層崩壊地の立木が崩壊土砂とともに流出することにより発生するので、先述した土石流の発生様式の変化とは、「 表層崩壊は必ず流木を発生させる」と考えた方がよくなったことを意味します。(114頁)
  森林の充実で河川も海岸も変貌
  森林は水源涵養機能を十分に発揮
 森林の多面的機能と森林・林業
  森林・林業基本法と森林の多面的機能
  国連のミレニアム生態系評価とほぼ一致する「森林の原理」
 森林・林業基本法の制定に関連して日本学術会議は01年に、当時の農林水産大臣の諮問に応じて「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価等について」を答申しました(図5)。
 このうち「森林の原理」は、詳しくは「森林と人間の関係に関する『森林の原理』」というもので、環境、文化、物質利用の3つのサブ原理から成り、「多面的な機能の種類」の①~⑤、⑥と⑦、⑧がそれぞれほぼ対応します。さらにこれらは国連のミレニアム生態系評価で04年に提案された「生態系サービス( 生態系によって人類に提供される資源と公益的な影響)」の調節サービス、文化サービス、供給サービスとほぼ一致しています。森林の適切な管理とは物質生産機能(林産物供給機能)とその他の環境保全機能等とを共にバランスよく発揮させることといえます。
 また、上記の各機能を議論する際に忘れてならないのは「森林の多面的機能の特徴」の指摘です。特にそれぞれの機能を単独に取り上げて議論する場合に出てきた結論で、直ちに森林の存在そのものに評価を下すことは避ける必要があります。例えば、流木災害の原因になるからといって、渓流の周りの森林を除去することは、渓流生態系を保全する森林の機能を犯すことになり、森林の機能の多面性を正しく評価していないことになります。(119~120頁)
図5 日本学術会議が答申した森林の多面的機能
2.森林の原理:森林(植生)の最も基本的なはたらきは、自然環境の構成要素としての働きである(環境原理)。しかし、人々が身近な森を利用し、生活を向上させてきたことも自明であり、昔から森は目いっぱい 利用された(物質利用原理)。さらに、かつての森の民・日本人にとって、森が日本の精神・文化、すなわち日本人の心に影響を与えたこともまた当然と言える(文化原理)。
3.森林の多面的な機能の種類と意味:最も根源的な森林の機能として、人類そのものが森林を舞台とした生物進化の所産であることの意味まで含む①生物多様性保全機能がある。森林の本質である環境保全機能としては②地球環境保全機能、③土砂災害防止機能/土壌保全機能、④水源涵養機能、⑤快適環境形成機能がある。日本人の心にかかわるものとしては、⑥保健・レクリエーション機能、⑦文化機能がある。さらに 、⑧物質生産機能(林産物供給機能)は森林の本質的機能であるが、その利用は環境保全機能等とトレードオフの関係にあり、異質の原理に基づく機能といえる。
4.森林の多面的な機能の特徴:森林は極めて多様な機能を持つが、ここの機能には限界がある。森林の多面的機能は総合的に発揮されるとき最も強力なものとなる。さらに森林の多面的機能は、他の環境の要素との複合を発揮や、重複発揮性、階層性等の特徴を持つ。

  7つの機能からみる現代の森林問題
……01年の日本学術会議による答申で詳説しており、本書でも特に関係が深いのは、「③土砂災害防止機能/土壌保全機能」と「④水源涵養機能」です。この2つを詳しく解説します。
 山地災害の中で最も深刻なのは土砂災害です。落葉落枝層(A0層)や林床植生が健全な森林では、豪雨があってもほぼその全量を地中に浸透させて地表流を発生させず、表面侵食を確実に防止することが重要です。しかし、伐採により地表がかく乱された場合や林床植生がシカの食害を受けた林地、あるいは間伐されず林床が裸地化したヒノキ林などでは地表流が発生して表面侵食が起こってしまいます。
 地表から浸透水による間隙水圧の増加や地震の慣性力によって風化土壌層が崩れる表面崩壊は、森林が成長するとその樹木の根系の先端が基盤岩やその弱風化層に食い込む「杭効果」や、隣接木の根系同士が絡み合う「ネット効果」によって大幅に減らすことができます。また、土石流は表層崩壊による崩落土砂に表流水や地下水が加わって発生することが多いので 、森林は表層崩壊を減少させることによって土石流の発生も減らせることになります。
 しかしながら森林には、基盤岩そのものや厚い堆積土層が崩れる深層崩壊の発生、さらには地すべりの発生を防止する効果はほとんど認められません。また表層崩壊であっても豪雨の規模が極端に大きい場合や震度7クラスの地震の直撃に対しては防止軽減効果にも限界があります。
 一方、森林が劣化して裸地化した山地斜面と比較して健全な森林山地が水源涵養機能を発揮する最大の理由は、落葉落枝層(A0層)や林床植生が豊かな”健全な”森林土壌層が雨水を地中に浸透させて、裸地斜面で発生する地表流を流速の遅い地中 流に変えることにあります。すなわち地表流が地中流に変わると、山地斜面に降った雨が河川に流出するまでの時間が長くなり、洪水流出ハイドログラフのピーク流量が低下し、ピーク流量発生までの時間が遅くなり、さらには減衰部が緩やかになります。主に健全な森林土壌が発揮するこの機能を森林の洪水緩和機能と呼んでいます。そして、河川流出におけるこの変化は直接流出成分の一部が基底流出成分に変わることを意味し、水資源貯留効果を発揮することにつながります。あるいは洪水流出として無駄に海洋に排出される流量をゆっくり流出させて水利用の機会を増やすことにもなります。これは見方を変えると、流量を調節しているということもできます。
 さらに、健全な森林に到達した雨水は森林土壌を通過し河川に流出する間に土壌のろ過作用や緩衝作用、土壌鉱物や基盤岩からのミネラルの添加、飽和帯での脱窒作用などを受けて水質が改善され、あるいは清澄なまま維持されます。これは水質浄化機能といわれています。
 一方で極端な渇水が発生すると森林は蒸散作用によって通常は河川に流出するはずの水分を消費するので渇水流量を低下させてしまうことも知られています。また、成長した森林は遮断蒸発と蒸散作用の両方で大量の水を消費するので、この場合は伐採や間伐により主に樹冠の葉量を制限することが水資源利用上有利です。(122~124頁)
  現代の林業問題
 持続可能な社会と今後の森林管理
  SDGsと親和性が高い森林・林業
  新たな森林管理システム
  市町村に配分する新しい税制「森林環境税」
  森林認証制度で適切なチェックを
 山地災害対策と災害に強い森づくり
  保安制度と治山事業
  3つの流木の発生源
 流木の大部分は、①「表層崩壊と呼ばれる山腹崩壊地から流出流出する流木」です。 具体的には35~40度程度の急勾配の山腹斜面、特に0次谷(常時表流水がある谷の上部に位置する集水地形)と呼ばれる凹型斜面で表層崩壊が発生し、さらに崩壊土砂が流動化して土石流となった時、大量の流木が渓流に流出します。
 そして発生した土石流の運動エネルギーが大きい場合は、②「山脚部や古い土石流堆積地、掃流堆積地)が侵食されて、その上に成立したいわゆる渓畔林も流木化」します。その後、流木の大部分は通常は土砂とともに渓流の下流部に堆積しますが、一部は土石流と共に下流河川に流出します。
……さらに、③「谷底低地や小河川沿いの低平地の渓畔・河畔、あるいは氾濫した洪水流の進路上の樹木が押し流されて流木化」したものが加わります。(137~138頁)
 ここで①について、森林と崩壊と流木発生の関係に関する基本的知識を3つ挙げておきます。
 第1は、山崩れには山腹斜面上の風化土壌層が崩壊する「表層崩壊」と厚い堆積土層や基盤岩から崩れる「深層崩壊」があり、豪雨による崩壊のほとんどが表層崩壊です。また、表層崩壊は花こう岩系や堆積岩系(特に新第三紀層)のち地質の山地に多発する傾向がありますさらに前述したように、豪雨による表層崩壊は急斜面だけでなく、水が集まりやすい0次谷に発生しやすい性質があります。
 第2は、森林は「根系の働き」と「風化土壌層中の効果的な排水システム」によって表層崩壊を抑制します。このうち根系の働きについては、根が基盤岩の弱風下層や割れ目に食い込む杭効果と、隣接する樹木の側根同士が絡み合うネット効果があり、両者によって表層崩壊を起こりにくくしています。また効率的な排水システムとは土壌中に浸透してきた雨水が風化土壌層の底部(基盤岩の表面)に発達したパイプ状の水みちを通して効率的に排水される機構を指し、これによって土壌中で水圧が高まるのを防ぎ、崩壊を抑制しています(図9)。しかしながら17年の九州北部豪雨のように、豪雨の規模が強大だと崩壊に至る場合もあり、森林の働きには限界があることもしっかり受け止める必要があります。
  img-200215195422-0001
 第3は、流木は主に表層崩壊によって発生するということです。切り捨て間伐材などのリ林地残材や伐採後搬出前の材が豪雨によって直接流出する懸念が指摘されていますが、崩壊土砂や土石流に巻き込まれて流出することはまれにあるにせよ、通常はこれらの材を押し流すほどの水深を持つ流れが山腹斜面上に発生するとは考えられません。
 一方、温暖化によって、表層崩壊が発生するような豪雨がある場合、山腹や谷の上部から大量の流出水が加わって崩落土砂が土石流化する事例が多くなっており、今後はいったん表層崩壊が発生すれば、ほとんどの崩壊地から流木が渓流にまで流出してくると予想されます。(139~140頁)
  山地・渓流における流木災害軽減対策
  山腹斜面では表層崩壊をできるだけ抑制
 山腹斜面では、表層崩壊をできる限り抑制する対策が望まれます。ただし、急斜面で多発する特性を考えれば、①[発生し流下する土砂や流木そのものへの対策]の施設による対策は限定的にならざるを得ません。それでも特に危険な急斜面や凹型斜面では、これまでより強化した斜面安定対策(山腹土留工など)を実施する必要があるでしょう。また0次谷下部などでは谷止工を設置し、崩壊土砂の流動化、土石流化を防ぐ必要があります。
 一方②[流木が出にくい森づくり]の災害に強い森づくりでは、人工林であっても広葉樹林であっても、密度管理により根系・下層植生の発達した林木で構成される森林を、息長く育てる森づくりを進めていくことが基本となります。特に0次台の斜面や40度を超える急斜面では、現在そこがどんな林相であっても「非皆伐」とし、密度管理とギャップへの補植によって強靭な森林に改良していく方が良いと思います。(142頁)
  渓流の上・中流部では渓床・渓岸の浸食を防ぐ治山施設を
  渓流下流部では流木捕捉に期待
  災害に強い森づくりとは
 ここで災害に強い森づくりについてまとめておきます。
 災害に強い森づくりの基本は0次谷であっても渓岸であっても、強靭な根系を持ち、下層植生の発達した大径木で構成される森林を、時間をかけて育成していくことです。樹種の違いに配慮するよりも、より大径木化することを優先する方が重要であると思います。つまり、針葉樹人工林であっても広葉樹林であっても現在の森林を間伐する(場合によっては補植も行う)ことによる密度管理等によって、より高齢の森林へ導くことを第一に考えるべきです。人工林の場合、伐採・新植から20~30年後以降を想定し、劣勢木が自然に淘汰されることを考慮すると、たとえ間伐が多少遅れていても、樹種を変更するために伐採するよりも健全な森林に改良していく方がはるかに重要です。繰り返しになりますが、流木の出にくい森づくりの基本は現存の森林をとにかく長期的に維持して、できる限り高齢で、健全な大径の林木が存在するように林相を改良していくことだと思います。
 なお、木材生産の観点からは0次谷や渓岸堆積地はスギ林の適地です。非皆伐さらには禁伐が必要な0次谷内やけ渓岸の数メートルの範囲内の林木を除けば、製材可能な程度の大径木生産は差し支えないと思われます。 (144~145頁)
  不可欠な警戒・避難体制

第5章これからのダムに求められる役割(安田吾郎)
 ダムの目的と機能
   ダム では目的別に使用権を設定
   九州北部豪雨で治水効果を発揮したダム
  ダムが満杯になると洪水調節機能は喪失
  予備放流と事前放流~洪水調節容量を自主的に増やす操作~
  通常より洪水時の放流量を絞り込む特別防災操作
  他の洪水対策と比べたダムの特徴
 日本と海外のダムの変遷
  世界一のダム大国だった日本
  目的が農業、上工水から発電、治水へ
  ダム大国は日本から米国そして中国へ
  第1次世界大戦後にダム建設の進展期を迎えた日本
  戦前の治水ダム整備の遅れのツケを戦後払わされた日本
  日本の成長を支えたダムによる都市用水の供給
  ダム完成ラッシュの時期から最近までのダム整備の動向
  発電面を中心としてダムを見直す最近の米国の動き
  日本も本格的なダム再生の時代に突入
 日本のダム課題と対応
  地域の分断と人口流出の問題
  河床低下や海岸侵食とダムの持続性の問題
  ダム下流の流量の平滑化に伴う問題
  ダム湖でアオコなどの富栄養化現象が発生
  魚類等の移動ルートの分断の問題
  異常洪水の際のダムの限界
  ダム放流に関するリスクコミュニケーション
  水需要が伸びない中でのダムの役割
  ダムの安全性神話
  生物生態系への影響軽減
 意外と知られていないダムの機能
  可変型装置としてのダム
  生物の生息場としてのダム
  流木災害や大規模土石流を抑止するダム
 気候変動時代におけるダムの役割
  増えている豪雨災害のリスク
  将来はさらに洪水リスクが増加
  増加する気候変動リスクへの対応策

 コラム
  米国が世界一の大国になった事情
  オリンピック後の水資源確保対策により救われた首都圏

第6章 ダムと森林の連携(虫明功臣)
 ダムと森林の連携による価値創造
  ダムと森林の機能の関係性
  ダムと森林の連携によって生じるメリット
  流域マネジメントの枠組みによる連携
 これまでの流域マネジメント
  流域マネジメントの先駆け:熊沢蕃山の治山・治水
  ダム水没地域の再建・振興を目指す水源地域対策特別措置法
  水源地研究会の提言
  120のダムで策定した 水源地域ビジョン
  流域マネジメントを推奨する水循環基本法の制定
  流域水循環計画への認定事例
 ダムと森林が連携した流域マネジメントの実現
  新たな森林・林業行政とダム水源施策の連携
  効果的な流域マネジメントを実現する体制の構築

おわりに(虫明功臣、太田猛彦)

執筆者




太田猛彦『森林飽和 国土の変貌を考える』 2月15日

img-200215194955-0001

太田猛彦『森林飽和 国土の変貌を考える』目次

まえがき

第1章 海辺の林は何を語るか-津波と飛砂
  1 津波被害の実態
    林がそっくりなくなった
    マツも「被災者」
    倒れた木と倒れなかった木
    津波にも耐えたマツ
  2 津波を「減災」したマツ林
    マツ林には”実績”があった
    津波を弱め、遅らせる
    なぜ海岸林の再生が必要なのか
  3 なぜ海岸にはマツがあるのか
    笑顔にマツあり
    ”人工の森”をめぐる疑問
    砂浜の砂はどこから来たか

第2章 はげ山だらけの日本-「里山」の原風景
  1 日本の野山はどう姿をしていたか
    これが日本の山なのか?
    江戸の絵師が描く
    里山ブームの盲点
  2 石油以前、人は何に頼って生きていたか
    森しか資源のない社会
    理想の農村
  3 里山とは荒地である
    知られざる実態
    資源を管理する
    収穫を待ち望む
    里山生態系は荒地生態系?

第3章 森はどう破壊されたか-収奪の日本史
  1 劣化の始まり
    前史時代の森林利用
    古代の荒廃
    マツはいつ定着したか
    都の近辺で大伐採  
    領主の支配が及ぶ
    森が人里を離れる
    建築材を求めて全国へ
    里山の収奪が進む
  2 産業による荒廃の加速
    「塩木」となる
    製鉄のための炭となる
    焼き物のための燃料となる
  3 山を治めて水を治める
    3倍増した人口
    里山の疲弊
    思わぬ副作用
    山地荒廃への対策
    海岸林の発明
    なぜクロマツだったのか?
    地質によって荒れ方も変わる
    土壌とは何か
    木を植え続ける努力

第4章 なぜ緑が回復したのか-悲願と忘却
  1 荒廃が底を打つ
     劣化のピークは明治
    浚渫から堤防へ-治水3法の成立
    治山と砂防は本来ひとつである
  2 回復が緒につく
    災害の激増
    森林再生の夢
    海岸林の近代的造成とは
  3 見放される森
    エネルギーと肥料が変わった
    林業の衰退で木が育つ?
    森林は二酸化炭素を減らすのか
    劣化と回復を理解するモデル
    やがて新しき荒廃

第5章 いま何が起きているのか-森林増加の副作用
  1 土砂災害の変質
  土砂災害の呼び名いろいろ
     img-200215195535-002img-200215195535-0001
    なぜ崩れるのか
    表層崩壊と深層崩壊の違い
    地すべりとは何か
    土石流とは何か
  2 山崩れの絶対的減少
    かつて頻発した表層崩壊
    表面侵食が消滅した
    表層崩壊も減少、しかし消滅せず
    荒廃の時代は終わった
    流木は木が増えた証拠
  3 深層崩壊
    専門用語が定着した
    対策はあるのか
  4 水資源の減少
    森は水を貯めるのか
    流出を遅らせる力
    天然林志向を問う
    森は水を使う
    同じ雨は二度と降らない
    森を伐採して水が増える
  肝心の渇水時に水を増やさない
     img-200215195614-0001
    激甚災害は必ず起きる
  5 河床の低下
    砂利採取とダムの影響は?
    森の影響を見落とすな
    生態系への影響
    川はどうなるのか
  6 海岸の変貌
    海岸線の後退
    ”犯人探し”
    いくつかの「証拠」
    国土環境の危機

第6章 国土管理の新パラダイム-迫られる発想の転換
  1 ”国土”を考える背景
    国土の特徴を一文でつかむ
    プレートを読む
    気候を読む
  2 新しい森をつくる
    荒れ果てる里山
    人工林の荒廃、天然林の放置
    究極の花粉症対策とは
   森林の原理とは何か
     img-200215195654-0001
  里山は選んで残せ
 最後に、読者に身近な里山の将来について付言したい。往事の里山の再生がきわめて困難なことはすでに明らかであろう。人手をかけて森を徹底的に収奪しなければならないからである。割り切って、里山を稲作農耕森林社会の時代の文化財と考え、地域を限定し、森林ボランティアなどの力を借りて、”収奪”を試み、 かつての里山の姿を維持するほかない。
 近年、里山を保存しようという運動がさかんである。私も関東ローム層の台地の崖の斜面林や多摩丘陵その他の里山を保存するグループをいくつか知っている。どこでも保存活動に熱心なリーダーがいて頭が下がる。そして”間伐”が大切と考え抜き伐りなどの手入れに汗をかいている。しかし、一般の人にとって樹齢50年を超えた木を伐ることは難しく、また「もったいなくて伐る気になれない」という。しかし、かつての里山にそれほど大きな木はなかった。20年も経てば待ちかねて伐採し、利用していたのである。つまり、間伐をしても大きな木が残っているなら、 それは往事の里山の姿とはほど遠いことになる。かつての里山では、落葉や下草はおろか、灌木や高木の若芽まで刈り取っていた。だからこそ毎年春植物が咲き、清々しい里山が見られたのである。里山の保存がいかに困難であるかがわかるであろう。したがって、保存する里山を厳選し、一部に限定したうえで、昔の姿に戻し、それを維持するしかないのである。
 残りは「現代」の里山としての環境林、保健林、レクリエーション林、教育林などとして維持していくことになろう。しかしこの場合も、 管理はかなり難しい。その理由は、それぞれの目的にふさわしい森林を維持するためには、程度の差はあれ植生遷移の進行を止める”継続的な管理”が必要だからである。その管理方法に関しては多くの団体から有用な指導書が発行される時代になっている。しかし、このような使い道が見出せない場合、里山の森をどうすればよいのだろうか。
 私は最近、低炭素社会が叫ばれる中で、里山の森であっても生物多様性を保存した木材生産林として役立つ道を探るべきだと主張している。里山の森は地味も豊かで樹木の成長も早く、また道路に近いので伐採・搬出が容易である。管理次第で十分人々の好む広葉樹林同様の機能を発揮させられる 。ただしこのことを真に身に納得してもらうためには、先ほど述べた「新しい森林の原理」の中味をもう一度確認する必要があるだろう。(238~239頁)

  3 土砂管理の重要性
    異常現象にどう立ち向かうか?
    生物多様性を守るには
    山崩れを起こす
  4 海岸林の再生
    海岸林が浮き彫りにした国土の変貌
    海辺に広葉樹を植えるのか?

参考文献

あとがき


レイチェル・イグノトフスキー『プラネットアース イラストで学ぶ生態系のしくみ』 2月6日

レイチェル・イグノトフスキー『プラネットアース イラストで学ぶ生態系のしくみ』(創元社、2019年12月)を読みました。小学校5年生以上で習う主な漢字にルビをふってあるということですが、高等学校の「生物基礎」級の内容です。バイオーム(生物群系)地図の理解が第一歩でしょうか?
40044_flyer

プラネットアース イラストで学ぶ生態系のしくみ』目次
 はじめに
 生態学の構成レベル
 バイオーム地図
   img-200206215059-0001img-200206215059-0002
 生態系とは何か
 エネルギーの流れ
 生物の分類
 生物どうしのかかわり合い
 健全な生態系
 遷移
 微小生態系
 顕微鏡で見た生態系

 北アメリカ大陸
   img-200206210152-0001
  セコイアの森
  北部グレートプレーンズ
  フロリダのマングローブ湿原
  モハーヴェ砂漠

 南アメリカ大陸
   img-200206210152-0003
  アマゾン熱帯雨林
  アタカマ砂漠
  パンパ
  熱帯アンデス

 ヨーロッパ
   img-200206210152-0004
  ブリテン諸島の湿原
  地中海沿岸
  アルプス

 アジア
   img-200206210152-0005
  北東シベリアのタイガ
  インドシナ半島のマングローブ
  東モンゴルのステップ
  ヒマラヤ山脈

 アフリカ大陸
   img-200206210152-0006
  コンゴの熱帯雨林
  アフリカのサバンナ
  サハラ砂漠
  ケープ半島

 オーストラレイシア
   img-200206210152-0007
  オーストラリアのサバンナ
  タスマニアの温帯雨林
  グレートバリアリーフ

 極地方の氷床
   img-200206210152-0008
  北極圏
  南極のツンドラ

 水圏の生態系
  外洋
  深海
  河川
  湖沼

 自然の循環
  炭素の循環
  窒素の循環
  リンの循環
  水の循環
  植物

 人類と地球
  農場
  都市
  人類が自然に与えた影響
  気候変動
  地球を守るために

 用語集
 参考資料
 感謝のことば
 著者について
 索引

※NHKのEテレ(毎週火曜日午後2:40〜3:00)で放送している『NHK高校講座・生物基礎』の第32回「世界のバイオーム①〜気候と生物の適応〜」(講師:宇田川麻由さん)、第33回「世界のバイオーム②〜さまざまなバイオーム〜」(講師:宇田川麻由さん)、第34回「日本のバイオーム」(講師:市石博さん)、第35回「生態系でのエネルギーと物質の流れ」(講師:関口伸一さん)の各回ページには「動画」、「文字と画像で見る」、「学習メモ」(PDF)、「理解度チェック」があり、至れり尽くせりです。
T_2019_seibutsukiso

※darie1228さんの『高校生物をまとめてみる
    1.森林の構造、2.光合成曲線、3.生産構造図、4.植生の遷移
  【生物基礎】第4章植生の多様性と分布(バイオーム)
    1.世界のバイオーム、2.日本のバイオーム、3.ラウンケルの生活形
  【生物基礎】第5章生態系とその保全(炭素の循環・窒素の循環)
    1.生態系、2.炭素の循環、3.窒素の循環、4.物質収支
  【生物基礎】第5章生態系とその保全(環境問題)
    1.地球温暖化、2.富栄養化、3.生物濃縮、4.自然浄化、5.外来生物

シイタケのライフサイクル 1月29日

前記事に刺激されて、シイタケのライフサイクルについて書かれているものを読んでみました。先ず、森喜美男監修・日本きのこ研究所編『最新 シイタケのつくり方』(農山漁村文化協会、1992年)の第Ⅱ章上手に発生させるための基礎知識第2節シイタケの生活史(26~28頁)です。

シイタケの生活史
(1)胞子と胞子の発芽
 シイタケの一生は、キノコ(子実体)のひだの部分につくられる胞子(担子胞子)から始まる。胞子は植物でいえば花粉や胚のう、動物でいえば精子や卵子に相当し、種子ではない。胞子は、楕円桂、ゴマ粒のような形をしており、大きさは幅が3~5ミクロン、長さが6~8ミクロン(1ミクロンは1ミリの千分の1)くらいである。
 この胞子は厚い膜で覆われ、外からの刺激に保護されているから、乾燥した温度の低い場所に保存すると3ヵ月以上は生きている。しかし、70~80度の高温にあうと、4~5分で発芽力が弱くなるし、直射日光にさらされると、2~3分でほとんど発芽しなくなる。それが、適当な水分のある所に落ち、生育に適した温度が与えられると発芽して菌糸になる。
シイタケの生活環

(2)菌糸の接合
 胞子から発芽した菌糸は、ところどころ膜(隔膜という)で仕切られた細長い細胞からなり、1つの細胞に1個の細胞核をもつ。そのため、この菌糸を1核菌糸という(1次菌糸ともいう)。1核菌糸は、適当な水分と栄養と温度があれば分裂して増殖するが、通常はキノコをつくらない。キノコをつくるためには、「性」の異なった他の1核菌糸と接合、すなわち交配されなければならない。
 接合した菌糸は、両方の1核菌糸からそれぞれ核を受け取り、1細胞に2つの核をもつ状態になる。そのため、この菌糸を2核菌糸という(2次菌糸ともいう)。
 2核菌糸は細胞分裂によって増殖するが、2つの核は融合することなく特殊な方法で分裂していくので(図Ⅱ-3)、細胞と細胞の境にふくらみ(クランプコネクション、または、かすがい状突起という)ができる(図Ⅱ-3)。そのために顕微鏡で見ると、1核菌糸とは容易に区別できる。
各部呼び方・2核菌糸分裂模式図

(3)菌糸の増殖とキノコの形成
 2核菌糸は養分をとりながら増殖するが、この期間を栄養成長という。やがて、綿の繊維のようにばらばらに伸びていた菌糸は集合し、方向性をもって生育し菌糸の塊になる。これがキノコのもと(原基)である。このようにキノコになろうとして分化をはじめた菌糸を、3次菌糸とよぶこともある。そして、キノコになるために菌糸が集まってきてそれが生育し、完全なキノコの生育する期間を、栄養成長にたいして生殖成長とよぶ。
 菌糸が集まってできたキノコの原基は、適当な栄養と水分が与えられ、さらには低温刺激を受けると生育してキノコ(子実体)になる。若いキノコのひだの部分では、それまで2核のまま細胞分裂していた核は担子器の中で合体して2倍性核となる。それは、ただちに特殊な分裂(成熟分裂)を行って4個の半数性核になり、それらは1個ずつ若い胞子の中に移動する。キノコの生育にしたがって胞子も成熟し、再び胞子を飛散させるようになる。これがシイタケの一生である。

椎茸の生活と性質(宮さんのHP『あれこれ それなりクラブ』から)
(3)シイタケの一生
 笠の裏のヒダにつくられた胞子は、キノコが成熟すると飛び散り、風によって遠くまで運ばれる。シイタケはこのように、胞子によって繁殖する。木口や樹皮の割れ日に落ちた胞子は、適当な温度と湿度があると発芽して菌糸になる。
 胞子はかなり厚い膜に覆われ保護されていて、乾燥した温度の低い所に保存すると、3ヵ月以上も生きている。しかし70から80度の高温に会うと、4、5分で発芽力が弱くなる。また直射日光に曝されると、2、3分で発芽しなくなる。シイタケの胞子が風に飛ばされて適当な木に到着し、発芽して菌糸を伸ばすのはよほど運が良くなければならない。
 胞子から発芽した菌糸を顕微鏡でみると、ところどころ横に膜(隔膜)がある細長い枝分かれした管の様である。膜と膜の間が菌糸の細胞である。この細胞も高等植物と同じように、1個の核を持っている。この菌糸のことを一核菌糸という。しかし、その核は半数の染色体組しか持っていない。
 シイタケの場合、一核菌糸(一次菌糸)は、木材の中で増殖してもキノコを作らない。キノコを作るには、「性」の異なる他の一核菌糸と接合し、二核菌糸にならなければならない。この菌糸(二次菌糸)は細胞の中に、接合した両方の核を二つ持っている。
 二核菌糸は特別な分裂をする。細胞と細胞の間にふくらみ(クランプ・コネクション、またはかすがい状突起)が出来る。これにより、一核菌糸とはっきり区別することができる。
 二核菌糸は養分をとりながら増殖するが、やがて、綿の繊維のようにばらばらに伸びていた菌糸は集り方向性をもって生育する様になる。これがキノコのもと(原基)になるのである。このようにキノコになろうとして分化をはじめた菌糸を、三次菌糸と呼ぶこともある。
 キノコの原基は適当な条件があたえられると、生育してキノコになる。若いキノコのヒダでは、それまで二核のまま分裂した核は担子器の中で合体して二倍体核になり、すぐ特殊の分裂を2回繰り返し(成熟分裂)、4個の半数性の核を作る。
 それらは1つずつ若い胞子の中を移動して、キノコが生育するにつれて胞子も成熟し、飛び散るようになるのである。
椎茸の生活と性質

(4)シイタケの性
 草や木は雄ずいの花粉が雌ずいの柱頭について受精が行なわれる。これは有性生殖というが、シイタケも性の異なる一核菌糸が接合しなければ、キノコが出来る二核菌糸にならない、動物や高等植物の様に有性生殖をしているのである。
 一核菌糸すなわち胞子の性はどの様にして決まるのであろうか。1個のシイタケから沢山の胞子を取り、寒天培地に蒔くと2、3日で発芽する。これを単胞子分離といっている。
発芽した胞子を顕微鏡を使って、1個ずつ試験管の寒天培地に移す。これを単胞子分離と言っている。発芽した胞子は生育を続けて一核菌糸になる。
 一核菌糸のいくつかを、一対ずつの組になるよう組合せて一本の試験管に接種する。これは柱頭に花粉をつけてやるのと同じ交配である。しかし、組合せによってクランプ・コネクションが出来るものと、出来ない物がある。クランプ・ヨネクションは接合が行なわれ二核菌糸になったことを示している。
 このようにして調べてみると、一核菌糸を4つのグループに分けることが出来る。接合が行われるのは一定のグループ間だけである。
つまり1個のシイタケにつくられる胞子はAとBの二つの「性因子(不和合性因子とをもち、AB2つの因子の組合せによって4つのグループに分けられる。接合はAB二因子が異なるグループ間で起きるのである。この関係を「四極性」とよんで、シイタケでは昭和10年[1935年]に西門義一博士によって発見されたものである。
 ところが、系統の違ったシイタケから得た一核菌糸間で交配を行なうと、どの組合せもみな二核菌糸になる。系統の違うシイタケからの一核菌糸では、ABの性因子も違っているからである。
これらの発見によって、シイタケも農作物や草花と同じように、品種間の交配によって品種改良が出来るようになり、優良品種を種菌として原木に植える人工栽培が全国的に普及した。

キノコの話(井上均さんのHP『私編 雑科学ノート』から)
キノコの生活環
(1)胞子→(2)胞子の発芽→(3)菌糸の成長→(4)別種の菌糸と遭遇→(5)菌糸の接合→(6)2核細胞の成長→(7)キノコの形成→(8)胞子の基になる細胞の形成→(9)2つの核の融合→(10)減数分裂→(11)胞子の形成

キノコの生活環

 それでは、赤丸の番号順に見て行きましょう。
(1)胞子:まずはこれです。種類によって大きさや形はいろいろですが、だいたい5~10μm前後のものが多いようです。

(2)胞子の発芽:胞子から菌糸が伸びます。菌糸は細長い細胞が一列につながって糸状になったものです。

(3)菌糸の成長:菌糸の細胞が分裂を繰り返して大きな集団を作りますが、実はこれには性別があります。見た目には区別はつきませんが遺伝子レベルでは違っており、普通の動植物と同じようなオス、メス2種類のものや、4種類の性別を持っているものなどがあります。細胞分裂を繰り返してできた塊は、もちろん同じ性別です。

(4)別種の菌糸と遭遇:ある程度成長した段階で違う性別の菌糸が出会うと、そこで接合が起こります(4種類の性別を持つものでは、組み合わせによっては接合できないこともあります)。

(5)菌糸の接合:2種類の菌糸が接合すると、核を2個持った新しい細胞ができます。2核細胞です。核が2個あると聞くと妙な感じがするかもしれませんが、それは普通の動植物の感覚での話。細胞間の仕切り(隔壁)に孔が開いていて中身が移動したり、そもそも隔壁すらない多核体があったりする菌類の世界ですから、核が2個あるくらいは、別に不思議でもなんでもありません。

(6)2核細胞の成長:今度は接合でできた2核細胞が普通に分裂して、どんどん増殖して行きます。

(7)キノコの形成:2核細胞の菌糸が大きく成長し、やがてキノコ(子実体)を作ります。ですから、キノコの体は2核細胞でできていることになります。シイタケの裏側のヒダも、サルノコシカケの硬い殻も、全て2核細胞から成る菌糸が集まって作られたものなのです。

(8)胞子の基になる細胞の形成:キノコの特定の部分に、胞子を作る器官が準備され始めます。子嚢菌ならば子嚢、担子菌ならば担子器の原型です。ここに胞子の基になる細胞ができるのですが、当然ながらこの細胞も初めは2つの核を持っています。

(9)2つの核の融合:ずっとペアで来た2つの核が、ここで遂に一つになります。核の融合です。この段階で2種類の遺伝子が初めて本格的に混じり合うのです。

(10)減数分裂:いよいよ胞子を作る準備が整いました。融合した核を持つ細胞が分裂します。
 ここで、生物の時間に習った細胞分裂の話を思い出してください。普通の細胞分裂(体細胞分裂)では、遺伝情報を持った染色体がそっくりそのまま複製されて、新しくできた2個の細胞に分配されます。元と全く同じ細胞が2個できるのです。ところが精子や卵子などの生殖細胞ができる時には染色体が複製されませんから、染色体の数が半分の細胞ができます。これが減数分裂です(厳密に言うと、減数分裂では2回の分裂が連続して起こり、そのうちの1回で染色体の複製が起こりません。その結果、減数分裂を終えると、半数の染色体を持った生殖細胞が4個できます)。この半数の染色体を持った生殖細胞どうしが受精によって一つになって、また元の数の染色体を持った普通の細胞が作られるのです。
 それではキノコの場合はどうかと言うと、実は元の胞子や菌糸の時代が染色体数が半分の状態、と考えられます。普通の動植物では、染色体数が半分になるのは生殖細胞の間だけですが、キノコの場合は、その一世代の大部分を、染色体数が半分の状態で過ごすのです。(5)~(8)の間は核が2個ですから、染色体の数だけは足りていますが、やはり本来の状態ではありません。核が融合する(9)の段階になって初めて本来の(と言っても、どっちが本来の姿なのかよくわかりませんが)数の染色体を持つ核ができることになるのです。ところがこれがすぐに減数分裂してしまいますから、染色体数はまた半分に戻ります。このようにキノコの世界では、染色体がフルに揃うのは、核が融合してから減数分裂するまでのほんのわずかの間だけなのです。(この点ではコケ類とよく似ていますね)

(11)胞子の形成:減数分裂で作られた染色体数が半分の細胞が、やがて胞子になります。この胞子の染色体には、(5)で接合した2種類の菌糸からの染色体、つまり遺伝子が混ざっており、オス、メスの区別もあります。途中の過程は違いますが、普通の動植物の有性生殖と同じような結果になるわけです。

 以上が有性生殖の典型的なパターンですが、この他に、同じ細胞を胞子として切り離してどんどん増えて行く無性生殖もあります。先に出て来た不完全菌などは専ら無性生殖ですし、子嚢菌などでも、状況に応じて両方を使い分ける種類が多く見られます。ただし、人目を引くような大きなキノコを作る場合は、ほとんどが図5のような増え方をすると思ってよいでしょう。
※きのこのライフサイクル(東京地裁民事29部「育成者権侵害差止等請求事件」裁判資料から)
きのこのライフサイクル
キノコのライフサイクル1
きのこのライフサイクルは、図に示されるように、「生殖生長世代」と「栄養生長世代」とからなる。
「生殖生長世代」は、「担子菌」から「核融合」、「減数分裂1回目」、「減数分裂2回目」、「胞子形成」、「成熟子実体」に至るサイクルであり、「栄養生長世代」は、「胞子」から「胞子発芽」、「1次菌糸」、「接合:交配」、「クランプ形成」、「2次菌糸」、「菌糸集合体」、「原基形成」、「子実体」に至るサイクルである。

ナメコ栽培の問題点
ナメコでは2核菌糸が1核菌糸に戻る「脱2核化」現象がある。
キノコのライフサイクル2


小学校教科書「しいたけのさいばい」(1961年) 1月28日

1月26日にキノコの駒打ちをしました。シイタケ、ナメコ、ヒラタケの3種ですが、シイタケ、ナメコは森産業株式会社の種駒です。ナメコの種のパッケージには、「1942年、森喜作博士が世界で初めて種駒によるしいたけの人工栽培を発明したことで、今日、世界中で多くのきのこが食卓に並ぶようになりました。きのこを通じて健康の輪を世界に広げるという理念と情熱は、当社の製品作りに活かされています。」とあります。
ナメコ種駒パッケージ

日本きのこ研究所のサイトに森産業の創業者、森喜作さんを顕彰する「森喜作顕彰会」があって、森博士の「年譜」とともに小学校国語教科書(大日本図書株式会社、1961年)から「しいたけのさいばい」が掲載されていました。

しいたけのさいばい
1
 1933年のこと、大分県のしいたけさいばい地、阿蘇山の西ふもとにある山村のできごとである。この辺の農家は田畑に乏しいので、広葉樹・針葉樹の森林を利用して、炭焼きや、しいたけさいばいを副業にして、かろうじてくらしをたてていた。
 すぎ林の木立を通して朝日がきらきら光を投げている下に、1万本に近い、長さ1メートルほどのまるたぼうが組みならべてあった。その前に、みすぼらしい身なりのひとりの農夫が、手を合わせて拝みながらつびやいていた。
「なばよ出てくれ。おまえが出んば、おれが村から出て行かんばならんでな。」
 このいのりをふと聞きつけて、じっと見つめている大学生が会った。森喜作さんである。森さんは、農村経済の実態調査のためこの部落をおとずれ、海抜5、6百メートルの所で、リュックサックをおろした。額のあせをぬぐって、ふと林の中に目を移したとき、この情景を見たのであった。
 森さんは、ふしぎに思って農夫に事情をたずねた。
「しいたけのさいばい」(小学校教科書)memorial_002

2
 徳川時代の初め、九州の人、炭焼きげんべえが、炭材として切ったならの木にたくさんのいしたけがはえたのを見て、人工さいばいを思いついた。ならやくぬぎのまるたの表皮になたできざみ目を付け、数千本もならべてほうっておくのである。このまるたをほだという。すると、どこからともなく風に乗って飛んで来たしいたけの胞子がほだのきざみ目に付いて、2、3年もするとしいたけが出て来る。
 ところでほだ材は、直径5センチメートルから15センチメートルほどのならやくぬぎを、長さ1メートルに切ったまるたである。これを、そのままかまに入れて焼くと木炭になる。そこで、原木を焼いて木炭にするか、ほだにしてしいたけをさいばいするか、どっちがもうかるかが村民の頭をいためるところだ。原木1石からは木炭2俵半が焼ける。ねだんは木炭1俵が、ほししいたけにして380グラムくらいだ。ほだ材にして約1キログラム以上のしたけが採れればいいわけだ。しかし、木炭とちがって、ほだ材は数年たたないとしいたけが採れないから、資金をねかさなくてはならない。おまえけに、運は風にまかせろという、いわば危険な「かけ」である。
 実際には、原木1石から7.5キログラムのほししいたけが採れることがある。そのときは大もうけができるけれど、ほだに種が付かなかったらたいへんである。貧しい農夫は山のような借金で、税金はもちろん、米を買う金さえ無いようになる。村をにげ出し、一家がばらばらになるというような悲げきが起こるかもしれない。農夫がいのっていたのは、こうしたことがあるからであった。
 森さんはこれにむねをうたれた。一生をしいたけと共に生きようと決心した。そして、このような投機的な方法でなく、確実に収かくできる道を考え始めた。それが農民の貧しさを無くす、一つの方法と考えたからである。
 以来十年間、森さんは研究に熱中した。そして1943年、ついにその望みを達した。それはたねごまの製造出会った。たねごまをほだに打ちこみさえすれば、確実に、原木1石から5、6キログラム以上のほししいたけが採れるのである。

3
 では、たねごまとはなんであろうか。どうして作るのだろうか。
 にわか雨に会った小人が、あわててきのこの下に飛びこんで雨宿りをしているかわいらしいまん画がある。全く、きのこは太った雨がさのようだ。その太いえを持ってひっくり返してみると、厚いかさのうらにびらびらしたひだが、えを中心に、放射状にびっしりとならんでいる。そのおくにきのこの命の精がひそんでいる。しいたけの場合も同じである。そこには胞子という一個ずつの細胞がいく百万も育ち、やがて地上に子孫を残す種として、風に乗る日を待っている。
 開ききったしいたけのかさを軽くたたくと、目には見えない胞子が落ちる。これをシャーレに受け、かんてんで培養すると糸状にのびる。しかし、この胞子にはおすとめすがあって、かたほうだけではしいたけを作らない。多くの胞子のなかで、同性ははなれ、異性が引き合って結合する。この結合がなければしいたけははえない。だから、ほだにしいたけがはえるためには、おすとめすの二つの胞子が同じ場所に付かなくてはならない。ますますぐうぜんを待つことになる。
 森さんはこの結合した胞子をたくさん作り、その中にしょうぎのこまに似たくさび形のこまを入れ、そこに胞子を移した。これがたねごまである。だから、たねごまをほだに打ちこめば、必ずそこからしいたけがはえるわけだ。
 初め、種はおがくずに付けた。しかし、だれも相手にしてくれない。ほだにあなをあけ、いちいちおがくずをおしこむ手数をかけるのがいやなのだ。たねごまにすると、なた一丁でほだに切り口を付け、くさびを打ちこめばいいし、ふたの必要もない。これなら飛びつく。
「しいたけのさいばい」(小学校教科書)memorial_002_02

4
 1946年から、農林省はしいたけ増産5か年計画をたてた。その結果、1952年には、ほししいたけ2700トンを生産し、うち、1500トンを輸出し、売り上げは20億円に達した。
 しいたけは栄養素を多分にふくみ、特に保存のきく点は貴重である。むかしから、しいたけは日本食の栄養を補い、国民の保健に大きな役わりを果してきた。そして、このたねごまによるさいばいは、いく十万人の山村の貧しい農民に有利な副業を与えているのである。(101~107頁、ルビ省略)

※この国語教科書は小学校高学年用(6年?)と思われますが、胞子の発芽以降の説明が誤解されそうなので、森喜美男監修・日本きのこ研究所編『最新 シイタケのつくり方』(農山漁村文化協会、1992年)27頁掲載の図「シイタケの生活環」を付けておきます。→詳細は「シイタケのライフサイクル」を参照してください。
img-200130180259

※シイタケ栽培の歴史については別稿を準備中です。

太陽光発電の環境配慮ガイドライン(案)パブコメ 1月21日

2月5日追記)小川町プリムローズゴルフ場跡地(約86ヘクタール)にメガソーラー(発電設備容量 39,600kW)が計画されており、2020年1月18日には業者により環境影響調査計画書の説明会が開催されました。NPOおがわ町自然エネルギーファームは業者に対して意見書提出(2月21日まで)を呼びかけています

太陽電池発電事業の環境への影響が生じる事例の増加が顕在化している状況を踏まえ、2020年4月1日から大規模な太陽電池発電事業については環境影響評価法(平成9年法律第81号。以下「法」という。)の対象事業として追加されています。また、2019年4月の中央環境審議会答申「太陽光発電に係る環境影響評価のあり方について(答申)」において、法や環境影響評価条例の対象ともならないような小規模の事業であっても、環境に配慮し地域との共生を図ることが重要である場合があることから、必要に応じてガイドライン等による自主的で簡易な取組を促すべきとされています。
 これを受けて環境省では、法や環境影響評価条例の対象にならない規模の事業について、発電事業者を始め、太陽光発電施設の設置・運営に関わる様々な立場の方により、適切な環境配慮が講じられ、環境と調和した形での太陽光発電事業の実施が確保されることを目的としたガイドライン(案)を作成しました。

 小規模出力事業とはおおむね出力50㎾未満の事業
環境影響評価法や環境影響評価条例の対象とならない、より規模の⼩さい事業⽤太陽光発電施設の設置に際して、発電事業者、設計者、施⼯者、販売店等の関係主体が、地域に受け⼊れられる太陽光発電施設の設置・運⽤に取り組むための、環境配慮の取組を促すものとして作成
環境配慮ガイドラインチェックシート【小規模出力版】(案)環境配慮ガイドラインチェックシート【小規模出力版】(案)_01環境配慮ガイドラインチェックシート【小規模出力版】(案)_02

太陽光発電のトラブル事例
2.3太陽光発電のトラブル事例(10~12頁)
(1)トラブル事例太陽光発電に関するトラブルについては、平成27年度[2015年度]新エネルギー等導入促進基礎調査(再生可能エネルギーの長期安定自立化に向けた調査)や平成28年度新エネルギー等導入促進基礎調査(太陽光発電事業者のための事業計画策定ガイドラインの整備に向けた調査)で定義されたように、「安全性に関するトラブル」、「維持管理に関するトラブル」、「地域共生に関するトラブル」、「廃棄・リサイクルに関するトラブル」に分類される。(「廃棄・リサイクルに関するトラブル」については2.6FIT期間終了後の課題にて説明する)
ア)安全性に関するトラブル
発電設備の安全性に関するトラブル事例として、電気設備の事故、特に焼損事故や、台風等の強風に伴う太陽電池モジュールの飛散や架台の損壊等が生じている。平成27年度新エネルギー等導入促進基礎調査(再生可能エネルギーの長期安定自立化に向けた調査)では、地上設置型太陽光発電設備においてキュービクルや接続箱において火災が生じた事例(図2.6)や、強風によりモジュール飛散が生じている複数の事例(図2.5)を紹介している。
イ)維持管理に関するトラブル
太陽光発電を長期安定的に継続するためには、発電設備の性能低下や運転停止といった設備の不具合、発電設備の破損等に起因する第三者への被害を未然に防ぐため、発電設備の定期的な巡視や点検の実施が重要である。しかしながら、メンテナンス等の不足により、モジュール不具合等による発電電力量の低下やPCSの運転停止といったトラブルが報告されている。トラブルの原因としては設備の初期不良や施工不良の他、鳥獣害によるモジュール破損(図2.6)や、草木の成長による発電量低下・発電設備の破損(図2.7)という事例も見られる。対策にはモジュールやケーブルの定期的な目視点検の他、柵・塀の設置も検討が必要である。
ウ)地域共生に関するトラブル地域共生に関するトラブルについては、周辺への雨水や土砂の流出、地すべり等の防災上問題の他、景観問題や地域住民による反対運動など、立地・事業計画の段階で地方自治体や地域住民への説明・コミュニケーションが不十分であったことに起因するトラブルも多く見られるようになってきている(図2.8)。特に投資商品として流通する発電設備については、発電事業者自身が現地を確認しないことも想定されるため、地域共生に関するトラブルが起こりやすいと考えられる。

ア)設計・施工段階での不具合(23~24頁)
太陽光発電の多くは、FIT制度の開始後に導入されたものであるが、あまりにも短期間に導入が進んだため、各種ガイドラインの制定や、技術者の育成等が間に合わないまま、設計・施工されてしまった案件が多い。もちろん、優良事業者によって適正に設計・施工されている案件も多数存在するが、中には、急傾斜地など危険な場所への設置や、単管パイプによる架台の施工など、安全性について懸念がある案件も多数報告されている(図2.23)。
このように、設計・施工段階から問題を抱えている案件は、適正に保守点検を実施したとしてもトラブルが発生する可能性が高い。また、設計・施工状況を確認しようと思っても、正確な竣工図等が準備されておらず、コスト・時間のかかる検査が必要となる等、保守点検事業者にとっても、設計・施工段階での問題有無が確認できない案件に対し、保守点検サービスを提供することは大きなリスクとなる。実際、発電事業者から保守点検の依頼があったとしても、前述のように設計・施工段階での問題を確認できない状況の場合、保守点検事業者からサービス提供を断るケースも発生している。

ウ)土木に関する問題(30頁)
図2.13で示したように、設計・施工段階と保守点検段階の双方に関連するトラブルとして土地造成に関するトラブルがあげられる。設計・施工段階で地耐力等を緻密に計算していたとしても、地下水の流れや植栽の根付きなど想定が難しいケースが多いとのコメントが保守点検事業者からあった(表2-7)。

廃棄・リサイクルに関するトラブル
(3)放置・不法投棄への懸念(34頁)
発電事業者が適切な廃棄・リサイクル計画の策定、費用確保ができなかった場合、発電設備が放置・不法投棄されることが懸念されている。設置形態や設置場所の保有形態を考えると、特に自己所有地に設置される発電設備について、発電設備が放置される懸念が高いのではないかと想定されている(図2.35)。自己所有地に設置される場合、事業を終了した発電設備を有価物とするか、廃棄物とするか判断が難しいため、行政処分等で強制的な撤去等が可能かについては更に検討が必要である。ただし、適切な処理を実施せず、発電設備が放置された場合は、架台の倒壊やモジュールからの漏電、有害物質の漏洩等、地域住民の暮らしに危険を及ぼす可能性も考えられるため、事業終了した設備を確実な廃棄・リサイクルへと促す方策について、このような実態を踏まえた上で、経済産業省、環境省をはじめとした関係省庁と検討を進めなければいけない。

太陽光発電設備の景観コントロールに関する論点
5-3.太陽光発電設備の景観コントロールに関する論点の整理(80頁)
第1は、太陽光発電設備の立地に関する論点である。わが国では、再生可能エネルギー導入施策の推進によって、2012年以降に全国で一気に太陽光発電設備の立地や計画が進んだ。この結果、これまで太陽光発電設備の立地を全く想定していなかったエリアの景観に大きな変化が生じたり、大きな影響を受けることが想定されるエリアでは、住民等の反対運動などに発展した。
第2は、太陽光発電設備の景観影響の緩和に関する論点である。太陽光発電設備を実際に設置する際に、景観シミュレーションを実施したり、設置方法を工夫したりすることによって、景観に対する影響はある程度緩和できていた。
第3は、太陽光発電設備に関する住民・行政・事業者間の協議・調整に関する論点である。関係者間での協議が円滑に進まない場合、あるいは必要な協議がなされなかった場合、トラブルが生じやすかった。
第4は、景観法に基づく景観コントロールの実効性に対する認識に関する論点である。景観法に基づく景観コントロールの特性についての理解が進んでいないために、行政担当者や住民が景観計画や景観条例に基づく太陽光発電設備の景観誘導の実効性に対して疑義を抱いている状況が把握された。
第5は、都道府県と市町村等との連携に関する論点であり、1つは現状では広域景観の形成において、都道府県のような広域自治体単位で一体的に推進することが困難であること、もう1つは景観行政に対する知識・経験が豊富なスタッフが不足しており、小規模自治体では開発許可が必要なレベル以上の大規模な太陽光発電設備の設置においては、事業者との協議や景観影響の緩和策の検討等のプロセスに、広域自治体による支援が求められていることである。

論点1:新たに景観面の留意が必要な立地(81頁)
政府の再生可能エネルギーの導入推進施策によって、とくに2012年以降に全国で太陽光発電設備の設置が急速に進んだ。この結果、これまで太陽光発電設備の設置が想定されていなかった場所でも太陽光発電設備の設置や計画がなされることにより、住民等とのトラブルが生じているケースがあった。これらは従来の景観計画・条例等では景観面の課題の発生が想定されていなかったエリアである場合が多く、中でもとくに景観への影響が大きく、課題となっている特徴的な立地パターンが、沿道景観、広域景観、里山景観の3つであった。
沿道景観
駅周辺や観光地など、徒歩の観光客が多く通る沿道の景観や、良好な眺望を重要な資源としている観光道路沿いに太陽光発電設備が設置されることによって、景観の連続性が失われたり、背景となる自然景観への眺望が阻害されたりするケース。
広域景観
メガソーラーのような大規模な太陽光発電設備が設置されることによって、当該設備が立地している自治体だけでなく、広域の幹線道路や隣接自治体からの中景及び遠景に影響を及ぼしているケース。大規模な太陽光発電設備が存在することによって、自然景観の連続性が分断され違和感を生じている。
里山景観
これまで自治体の景観計画等で、景観上特に重要な地域等には位置づけられてこなかった里山など(都市計画区域外のケースも多い)が、大規模に造成されて太陽光発電設備が設置されることによって、周辺住民が日常的に接していた景観が激変する場合。なお、里山に大規模に立地するケースでは、下流域への土砂崩れや洪水等からの安全性の確保が不可欠であり、太陽光発電設備の設置によって直接的に影響を受けると考えられる範囲が広く、更には生態系などの地域の自然環境全体への影響に対する危惧等も大きいため、大規模な反対運動に展開しやすい。

論点3:住民・行政・事業者間の協議・調整の円滑な実施(83頁)
太陽光発電設備の設置が何らかのトラブルに発展しているケースでは、いずれも協議のプロセスにおいてトラブルを抱えていた。協議が不調となっているのは、住民と事業者、事業者と行政、住民と行政などいずれの組み合わせもあった。円滑な協議は景観に関するトラブルを抑制し、良好な景観を形成するうえで不可欠であると言える。
住民間における合意形成が困難なケース
別荘地などにおいて新住民と旧住民の双方が利害関係者となっている場合、地域の内部で合意形成が困難なケースがある。その場合、住民と行政や住民と事業者間についても建設的な協議が成立しにくくなる傾向が見られるため、住民間の協議方法の工夫が必要である。
住民が事業者の協議に応じないケース
住民が、太陽光発電設備が迷惑施設であるという認識を持ったり、事業者が住民の意見に十分に対応せず、住民との協議が形骸化している場合、住民が協議の実効性に疑問を持ち、協議に応じなくなることがある。
行政と事業者の協議時間が不足しているケース
住民と事業者間で十分な合意形成が出来ていない段階で事業者が景観法に基づく届出をした場合、30日以内に助言や勧告を行うことが時間的に困難であると行政側が認識し、必要な協議が十分に実施出来なくなる場合がある。また、90日間の協議延長制度については、前例がないために行政担当者は活用を躊躇していた。
行政が協議内容を把握できないケース
事業者が地元自治会や地権者と個別に交渉して合意形成を行った場合、協議内容について行政が把握できない。とくに里山等の大規模な太陽光発電設備の立地においては、下流域に対する安全面や環境面での影響も大きく、太陽光発電設備の設置による影響が地元自治会の範囲を超えて生じるため、行政が協議内容を把握できていないと調整が困難になる。


普及が進むにつれ増大する「軋轢」
一方、導入が進むことで、逆に普及を難しくする新たな課題も認識されるようになりました。自然エネルギー設備を送電線に接続できない、いわゆる系統線の「空容量ゼロ問題」[6]などがその代表例ですが、もう1つあまり認識がされていない、大きな問題が存在します。開発にともなう「地域との軋轢」です。
FITでの買取価格の低下や、系統接続の費用が増大するなかで、採算性が取れるよう自然エネルギー事業の開発規模が大きくなっていること。加えて、開発が進むほどに、開発容易な場所が減少していることなどが原因となり、地域の自然や社会環境に負担をかけてしまい、住民との間で軋轢が生じる結果になっているものと考えられます。

もし、今後もこのような事象が増えてしまえば、環境問題(温暖化問題)への切り札であるはずの自然エネルギーも、むしろ環境問題を引き起こす原因と認識され、そのさらなる普及にストップがかからないとも限りません。

こうしたリスクは杞憂ではありません。すでにその片鱗をうかがわせているためです。例えば、風力発電の紛争に関する先行研究では、総事業の約4割がこうした地域からの理解を得られないことによる反対を経験したとの報告があります[7]。太陽光についても、やはり大型事業で同様の事象が発生しているとの報告がなされています[8]。

とはいえ、温暖化の進行で受ける影響を考えれば、導入は避けては通れません。自然エネルギー100%という、大きな目標を実現していくためにも、今後の開発は、事業者が地域の納得を得られるような、十分な環境配慮を伴うものとしていかなければなりません。

[6]上記と同様の資料3では、2016年末時点での、FIT制度以降の太陽光(住宅用+非住宅用)の累計が3,201万kW、風力で64.2万kWとなっている。ここではFIT開始である2012年7月~12月も1年として、2016年末までを計5年間として、等価換算した。なお、実際には風力等は建設に長期間を有するため、導入済み数に表れない計画がこれとは別にあることに注意。
[7]畦地啓太・堀周太郎・錦澤滋雄・村山武彦(2014)「風力発電事業の計画段階における環境紛争の発生要因」『エネルギー・資源学会論文誌』35(2)
[8]山下紀明(2016)「研究報告メガソーラー開発に伴うトラブル事例と制度的対応策について」 ISEPウェブサイト
環境配慮のあり方について
それでは、具体的には、どのように環境配慮を実現していけばよいのでしょうか?じつはすでに、これに対する答えのひとつとなる取り組みが各地でスタートしています。「ゾーニング」と呼ばれる適地評価のプロセスです。
ゾーニングの役割(市川大悟)

従来は、事業者が主となって事業の立地場所を選定してきましたが、これを、事業計画の内容が具体的に固まる前の段階に、地域の住民や行政、有識者などが中心となって検討し、自分達の地域で、開発を受け入れられる場所、そうでない場所を仕分けて、公表するプロセスを言います。地域環境をよく知り、そこに住まう人達が話し合うことで、環境負荷の少ない、地元が納得できる持続可能な開発に誘導することができると考えられています。

現在、県レベルでは青森県、岩手県、宮城県など、市町村レベルでは10近くの基礎自治体が策定済み、あるいは取り組みを進めています。2018年3月20日に、環境省から自治体向けに取組みのためのマニュアルが配布されたこともあり、今後はさらに各地で広がっていくことが期待されています[9]。

今後、自然エネルギー100%という大きなチャンレジを乗り越えていくためにも、さらに多くの地域にこうした環境配慮を伴った開発を促せるような取り組みが広がることが望まれます。

[9]環境省報道発表(2018年3月20日)

太陽光発電事業者と住民とのトラブル
再エネで発電した電気をあらかじめ決められた値段で買い取る「固定価格買取制度(FIT)」が2012年に創設されて以降、日本各地でたくさんの再エネ発電事業者が誕生しました。太陽光発電については、FIT開始の前から住宅やビルの太陽光パネル設置が進んでいましたが、FITが始まった後では、野原や山などにずらりと並ぶ太陽光パネルを見ることも増えてきました。
そうした中で、地域住民とトラブルになる太陽光発電設備が現れています。
そもそも、太陽光発電事業に使う土地や周辺環境に関する調査、あるいは土地の選定や開発などにあたっては、
・土砂災害の防止
・土砂流出の防止
・水害の防止
・水資源の保護
・植生(ある地域で生育している植物の集団)の保護
・希少野生動植物の個体および生息・生育環境の保全
・周辺の景観との調和
など、さまざまなことに配慮する必要があります。また、太陽光パネルに反射する光が地域住民の住環境に影響をおよぼさないように配慮することも重要です。
太陽光発電事業の実施にあたって、もし、このような適切な配慮がされなかった場合、周辺への雨水や土砂の流出、地すべりなどを発生させるおそれがあります。そうなれば、発電設備が破損するだけでなく、周辺に被害があれば、その賠償責任が発電事業者に生じることもあります。
残念ながら、新しく太陽光発電事業に参入した再エネ事業者の中には、専門的な知識が不足している事業者もいて、そのため、防災や環境の面で不安をもった地域住民と事業者の関係が悪化するなど、問題が生じているのです。

地域との関係の構築
トラブルを回避するために、まず何よりも欠かせないのは、地域住民とのコミュニケーションをはかることです。
もちろん、自治体の条例などもふくめた関係法令を守ることは必須です。もし違反があれば、FIT認定が取り消される可能性があります。ただし、たとえ法令や条例を守り、適切な土地開発をおこなったとしても、事業者が住民に事前に周知することなく開発を進めると、地域との関係を悪化させることがあります。実際に、地域住民の理解が得られずに計画の修正・撤回をおこなうこととなったケースや、訴訟に発展したケースもあります。
そこで、2017年4月に施行された「改正FIT法」(「FIT法改正で私たちの生活はどうなる?」参照)にもとづく発電事業者向けの「事業計画策定ガイドライン」では、地域住民とコミュニケーションをはかることが、事業者の努力義務として新たに定められました。コミュニケーションをおこたっていると認められる場合には、必要に応じて指導がおこなわれます。

ガイドラインでは、発電事業の計画を作成する初期段階から、地域住民に対して、一方的な説明だけに終わらないような適切なコミュニケーションをはかるとともに、地域住民にじゅうぶん配慮して事業を実施するよう努めることが求められています。事業について地域の理解を得るには、説明会を開催することが効果的で、「配慮すべき地域住民」の範囲、説明会や戸別訪問など具体的なコミュニケーションの方法については、自治体と相談することをすすめています。
現在のガイドラインで、地域住民とのコミュニケーションが「努力義務」とされていることについては、「義務化すべき」との声もあがっています。ただ、地域住民とのコミュニケーションのありかたは一律ではなく、各ケースや地域の特性に応じた、きめこまやかな対応を必要とするものです。もし国が一律に義務化すれば、「説明会をおこなったか否か」などの形式的な要件を基準に、義務が果たされたかどうかを判断することになってしまう恐れがあります。そこで、現状では、地域住民とのコミュニケーションを「義務化」するのではなく、地域の事情に応じてつくられた条例を遵守するように義務付けることで、地域の問題に対応できると考えています。

大切な再エネだからこそ住民に配慮しトラブルをふせぐ
「地域との共生」は、事業の開発段階だけの問題ではありません。発電設備の運転を開始したあとも、適切に設備を管理し、地域へ配慮することが求められます。たとえば、防災や設備の安全、環境保全、景観保全などに関する対策が、計画どおり適切に実施されているか、事業者はいつも確認することが必要です。また、周辺環境や地域住民に対して危険がおよんだり、生活環境をそこなったりすることがないよう管理する必要もあります。
さらに、事業の終了時には、発電設備の撤去や処分をおこなわなければなりません。2040年頃には、FITの適用が終わった太陽光発電施設から大量の太陽光パネルの廃棄物が出ることが予想されており、放置や不法投棄の懸念ももたれています。

日高市太陽光発電設備の適正な設置等に関する条例 1月20日

日高市では昨年(2019年)8月、「日高市太陽光発電設備の適正な設置等に関する条例」を制定しました。太陽光発電設備の設置を規制する条令は埼玉県内初です。
日高市議会は昨年(2019年)6月定例会で、市内高麗本郷の山林約15ヘクタールに民間事業者が設置を計画している大規模な太陽光発電施設について、議会として反対の意思を示す「大規模太陽光発電施設の建設に対する反対決議」、国に対し太陽光発電施設の設置に関する法規制を求める「太陽光発電施設の設置に対する法整備等を求める意見書」を可決。8月22日の臨時会で、災害防止や環境・景観の保全を目的(第8条)に、市が提出した太陽光発電の大規模施設の建設を規制する条例案が全会一致で可決され、即日施行されました。事業区域が0.1ヘクタール以上、総発電出力が50キロワット以上の施設に適用(第3条)。事業者は事前に届け出て、市長の同意を得ることを義務づけられ、太陽光発電事業を抑制すべき「特定保護区域」が指定され、その区域では「市長は同意しない」としています。罰則はありませんが、従わない事業者は住所などが公表(第17条)されます。
市はメガソーラー(大規模太陽光発電施設)が計画されていた高麗本郷地区の山林を特定保護区域に指定、建設を差し止める法的拘束力はありませんが、事業者はより一層慎重な地元への対応が求められます。

※条例・規則・要綱:条例は地方公共団体がその事務について、議会の議決によって制定する法規。規則は地方公共団体の長等がその権限に属する事務について制定する法規。一方、要綱は行政機関内部における内規であって、法規としての性質をもたない。

※2019年6月26日、日高市議会定例会最終日に賛成多数で可決された「大規模太陽光発電施設の建設に対する反対決議」と全員一致で可決された「太陽光発電施設の設置に対する法整備等を求める意見書」は以下の通り(『文化新聞』 BUNKA ONLINE NEWS 2019年7月3日号より)
  大規模太陽光発電施設の建設に対する反対決議
 現在、日高市大字高麗本郷字市原地区にTKMデベロップメント株式会社が計画している大規模太陽光発電施設の建設について、以下のように判断する。

 ①建設予定地は、国道299号北側に位置する山の南斜面、面積は約15ヘクタールで東京ドーム約3個分に相当する。この建設によって緑のダムと言われる森林は伐採され、水源かん養機能が失われ、集中豪雨による土砂災害や水害の危険性が飛躍的に高まる。このことが建設予定地の下流域に住む市民の生命に対する重大な脅威となる。
 ②太陽光発電事業は参入障壁が低く、さまざまな事業者が取り組み、事業主体の変更も行われやすい状況にある。発電事業が終了した場合もしくは事業継続が困難になった場合においては、太陽光発電の設備が放置されたり、原状回復されないといった懸念がある。
 ③建設予定地には、埼玉県希少野生動植物種の指定を受けているアカハライモリや埼玉県レッドデータブックに掲載されている絶滅危惧種のトウキョウサンショウウオなどの希少動物並びにオオキジノオ、アリドオシなどの希少植物が生息している。大規模太陽光発電施設の建設工事が始まれば、これらの希少生物の行き場が無くなり、日高市の貴重な財産を失うことになる。

 日高市の財産である日和田山や巾着田を含む高麗地域の景観や周辺の生活環境を守り、防災並びに自然保護および自然調和に万全を期すことが必要である。このことから、今後、地域住民の理解が得られないまま大規模太陽光発電施設の建設が行われることになれば、日高市議会としてはこれを看過できるものではなく、大規模太陽光発電設備設置事業の規制等を含む対策に関する条例の制定等に全力で取り組む所存である。
 よって、日高市議会は大規模太陽光発電施設の建設に対し反対する。

  太陽光発電施設の設置に対する法整備等を求める意見書
 太陽光発電は、温室効果ガスを排出せず、資源枯渇のおそれが無い再生エネルギー源で、地球温暖化の防止や新たなエネルギー源として期待されている。特に平成24年[1912年]7月の固定価格買取制度(FIT法)がスタートして以来、再生可能エネルギーの普及が進み、中でも太陽光発電施設は急増している。また、埼玉県は快晴日数が全国一という特徴からか、本市においても太陽光発電施設が増加し、今後もさらに増えることが見込まれている。
 しかし、一方で、太陽光発電施設が住宅地に近接する遊休農地や水源かん養機能を持つ山林に設置され、周辺環境との不調和や景観の阻害、生態系や河川への影響が懸念されている。さらに傾斜地や土地改変された場所への設置は、土砂災害に対する危険性が高まり、地域住民との間でトラブルとなっている。
 このため本市は、「日高市太陽光発電施設の設置に関するガイドライン」その他関係法令に基づき事業者への指導を行っているが、直接的な設置規制を行えないことから、対応に苦慮しているのが実情である。
 よって、太陽光発電事業が地域社会にあって住民と共生し、将来にわたり安定した事業運営がなされるために、国においては次の事項を早急に講じられるよう要望するものである。

 ①太陽光発電施設について、地域の景観維持、環境保全及び防災の観点から適正な設置がなされるよう、立地の規制等に係る法整備等の所要の措置を行うこと。
 ②太陽光発電施設の安全性を確保するための設計基準や施行管理基準を整備すること。
 ③発電事業が終了した場合や事業者が経営破綻した場合に、パネル等の撤去及び処分が適切かつ確実に行われる仕組みを整備すること。
 ④関係法令違反による場合は、事業者に対し、FIT法に基づく事業計画の認定取消しの措置を早急に行うこと。

 以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。

高麗郷を乱開発から守るために

太陽光発電・メガソーラーに関わる当ブログ記事
「森林を脅かす太陽光発電を考える」講演会に参加①(2018.12.02)
 


 
 
 

『科学』特集・河川氾濫の備えを考える 1月15日

『科学』第89巻第12号(岩波書店、2019.12)は、河川氾濫の備えを考えるを特集し、石崎勝義「堤防をめぐる不都合な真実 なぜ2015年鬼怒川堤防決壊は起きたか?」、まさのあつこ「千曲川決壊はなぜ起きたのか」、牧田寛「ダム治水と肱川大水害」、鈴木康弘「激甚災害に備えるハザードマップ そもそも誰が何のために作るか」を掲載しています。
img-200116155803-0003

  隠されている「堤防強化」、放置されている「堤防沈下」
  堤防の効用の限界
  堤防の決壊を防ぐ技術の発想
    img-200116155922-0001
   福岡正巳氏の治水観
   福岡正巳氏の堤防観
   大型実験による耐越水堤防の開発研究
   耐越水堤防の原型が生まれた
  国を免責する水害裁判判決
   下館河川事務所長の「神話」発言
   国の責任を問わない大東水害最高裁判決
   近藤徹氏の「証言」
   長良川水害判決 堤防決壊まで国を免責
   河川技術者の「安心」
  河川管理施設等構造令の改正
  地方建設局で進んだ堤防強化の実用化研究
   加古川の堤防強化
   堤防強化対策委員会
   新しく開発された技術
    (1)裏のり尻の保護工:かごマットの登場
    (2)ドレーン工の開発
   アーマー・レビーの誕生
  現場で進んだ堤防強化の実施
   (1)石狩川水系美瑛川、4.6㎞
   (2)那珂川、9.0㎞
   (3)雲出川、1.1㎞
   (4)江の川水系、馬洗川、0.8㎞
  堤防強化整備事業(フロンティア堤防)の発足
   福田昌史氏の認識
   河川技術者水木靖彦氏の想い
   河川堤防設計指針第3稿
  政府が凍結し続ける堤防強化
   フロンティア堤防はなぜ中止になったか
   淀川水系流域委員会が堤防強化を提案
   近畿地方整備局の変身
  偽りの「コンクリート・アスファルト三面張り」
  土木学会の奇妙な報告書
   諮問内容が結論を誘導
   事実を調べないで結論
   専門家は報告書内容に得心していたか
   補足 スーパー堤防の耐越水効果への疑問には賛成だ
  起こるべくして起きた鬼怒川水害
   河川管理責任を問う裁判の提起
   氾濫が放置された若宮戸
   堤防の沈下が放置された上三坂
   堤防をめぐる社会通念の変化
  堤防の沈下
   鬼怒川・上三坂地区の堤防沈下の実際
   堤防沈下の原因
    (1)堤体自身の収縮
    (2)地盤の地下水くみ上げによる収縮
    (3)地盤の収縮 圧密沈下
   上三坂地区の堤防の沈下原因
    (1)鬼怒川の改修と上三坂堤防沈下の関係
    (2)上三坂地点の地盤
   堤防強化における堤防沈下の問題
   堤防の高さ管理を提唱した河川工学者
  堤防の設計思想を見直す
  補足 堤防の設計思想を見直す発言の例
   (1)大石久和氏(前木学会会長)
   (2)中尾忠彦氏(元土木研究所河川部長)
   (3)末次忠治氏(山梨大学大学院教授)
   (4)常田賢一氏(土木研究センター理事長)
   (5)福岡賢正氏(前毎日新聞熊本支局記者)
   (6)小池俊雄氏(東京大学名誉教授,現土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)センター長)


こちら特報部「突然消えた堤防強化策 鬼怒川決壊きょう1年」1)(2)(『東京新聞』2016.09.10) (水源開発問題全国連絡会HPから)
東京新聞茨城版石崎インタヴューPK2019110602100077_size0

※「台風19号強化予定堤防、10カ所決壊 危険は認識も整備遅れ」(『東京新聞』2019.11.27
東京新聞20191127越水による決壊のイメージ

「越水に対する耐久性の高い堤防」への想い(水木靖彦、20120417)「越水に対する耐久性の高い堤防」への想い(水木靖彦、20120417)02
「越水に対する耐久性の高い堤防」への想い(水木靖彦)_01

水木靖彦『洪水の話』(PDF)
洪水の話(水木靖彦)

洪水の話(水木靖彦)_01
洪水の話(水木靖彦)_02

梶原健嗣「過大な基本高水と河川の管理瑕疵 大東基準が生みだす、「無責任の穴」(『経済地理学年報』64巻、2018年)

市民病院と医師会病院の統合案 1月13日

1月6日発売の『週刊東洋経済』は「病院が壊れる」を特集。再編を迫られる公立病院や、経営難に陥る民間病院の今を追っています。
img-200112205746-0001
【第1特集】病院が壊れる
Part1 公立病院の苦悩
医師不足で「救急お断り」 市民病院の経営が危ない
今変わらなければ“突然死"も ニッポンの病院の正念場
「医療提供体制の見直しは必須だ」 厚生労働相 加藤勝信
無給医問題があらわにした医師の“超"長時間労働
毎年約400億円の赤字 都立8病院の経営難
中核病院建設に「待った」 財政難の新潟は大混乱
「点ではなく面で支える医療が必要」 慶応大学教授 印南一路
公立病院の赤字 累積欠損金ワースト150
[現地ルポ] 地域医療の牙城を守れる 日本赤十字病院の危機
「うそを重ねては再編が進まない」 日本病院会会長 相澤孝夫

Part2 民間病院の危機
東京の都心部でも安泰ではない 医療法人倒産はなぜ起きるのか
「地域密着では民間病院の出番」 医療法人協会会長 加納繁照
売却案件は引きも切らず 盛り上がる病院のM&A
「買収した東芝病院は3年で再建できる」 カマチグループ会長 蒲池眞澄
架空の売却話も飛び交う 病院に群がる怪しい人々
稼ぐ民間病院の実力! 医療法人ランキング150
債務超過の三井記念病院 外来患者が増える順天堂
厚生労働省は2019年9月末、「再編統合について特に議論が必要」として、自治体病院や日赤病院など424の病院名を公表しました(日本経済新聞電子版『424病院は「再編検討を」 厚労省、全国のリスト公表』2019/09/26 15:10)。埼玉県では、蕨市立病院、地域医療機能推進機構埼玉北部医療センター、北里大学メディカルセンター、東松山医師会病院、所沢市市民医療センター、国立病院機構東埼玉病院、東松山市立市民病院ですが、指名された病院や自治体に波紋が拡がっています。
特集PART1・公立病院の苦悩には、「再編・統合が進まぬ現実 医師不足で「救急お断り」 市民病院の経営が危ない」(井艸恵美記者)があり、東松山市立市民病院と東松山医師会病院がとりあげられています。
市民病院と医師会病院は「再編・統合を検討すべき」
 東京都内から電車で1間弱ほどに位置する埼玉県東松山市。東京のベットタウンにもなっているこの町で、2つの病院が揺れている。東松山市立市民病院(114床)と東松山医師会が設立する東松山医師会病院(200床)が、再編・統合を検討すべき病院の対象になったのだ。
 厚労省はがんや心疾患などの高度医療について「診療実績が特に少ない」、または「近くに類似した機能の病院がある」を基準に分析。2病院が再編対象になった理由は、病院同士の近さだ。人口9万人規模の東松山市だが、車で10分ほどの距離に総合病院が2つある。しかも複数の診療科が重複しているからだ。
 再編対象リストが病院への予告なしに発表されたことで、名指しされた全国の病院からは反発の声が上がっている。突然再編対象とされれば黙っていられないのは当然のはずだが、東松山市立市民病院の杉山聡院長からは「私としては納得した」と意外な答えが返ってきた。
 「赤字が膨らみ、このままでは当院の経営を続けていくことは厳しい。同じような機能を持つ2つの病院が統合再編か役割分担を検討しなければ共倒れになり、東松山市の医療体制は崩れてしまう」 
 東松山市立市民病院は慢性的な赤字体質で、2018年には1.8億円まで経常赤字が膨らんだ。経営が傾いた最大の原因は医師不足だ。日本大学の関連病院としてかつては多くの医師が送り込まれていたが、2004年から初期研修が行える施設が大学以外にも広がり、大学の医師が減少。同院への派遣は引き上げられ、2003年に30人ほどいた医師が4年後は半減。一時は診療時間外の救急診療を停止する事態に至った。
 現在は医師15人体制となり、時間外救急も再開しているが、体制は十分ではない。常勤医師の高齢化で、2人いる内科医は60歳を超えている。当直の半分は非常勤医師で賄うが、救急の要請があっても断らざるを得ないこともある。救急の受け入れ率は年々低下し、収益も右肩下がりだ。
 2019年4月に着任した杉山院長は経営改善策を講じているが、医師不足解決には見通しがつかない。「医師を派遣する大学へ人数を増やしてくれるよう要請したが、十分な供給は得られていない」。
 こうした苦境は東松山市立市民病院だけではない。東松山医師会病院も「医師の確保が課題だ」と答える。救急体制の整った中核病院がないことから、東松山市を含む比企地域は約3割の患者が他の地域の病院へ搬送されている。川越市や都内の大病院までは30分ほどかかるため、患者にとってのデメリットは大きい。
 医師不足と救急体制の手薄さを解決するには重複した診療科を整理するか、統合で医師を1つの中核病院に集めるしかない。こうした意見は市内の関係者の間でささやかれていたが、公言されることはなかった。しかし、「統合」についてパンドラの箱を開けたのは医師を派遣する埼玉医科大学総合医療センターの堤晴彦院長だった。
 厚労省の発表後初めて同市の医療関係者が会した会議の場で、堤院長は「2つの病院から医師を出してくれと言われても難しい。400床規模の大病院を作ってもらったほうが派遣しやすい」と語った。
統合は前途多難
 しかし、統合は前途多難だ。先の会議の場で前出の東松山市立市民病院の杉山院長は「医療体制を崩壊させないために再編の議論をうやむやにしてはいけない」と危機感を訴える。その一方、東松山医師会病院の松本万夫院長は、「(統合して)大きな病院をつくるのは地域にとってはいいことだと思うが、現実化するのかは希望が薄い。2つの病院の性格が明らかに違う」と口にした。
 一般的な外来診療を行う東松山市立市民病院に対し、東松山医師会病院は医師会が設置者で地域の医師会会員である開業医からの紹介により患者が来る仕組みだ。県内の医療関係者からは、「東松山医師会病院は病院長とは別に東松山を含む比企地域の医師会長がいる。誰が主導しているかあいまいで院長が手腕を振るのは難しい」と話す。
 経営主体が違う病院同士の話し合いが難航するのは目に見えている。しかし、現状を放置し続けても医師不足は解消されない。2つの病院とも立ち行かなくなれば、困るのは住民だ。
 こうした問題は東松山市だけではない。国は地域医療を充実させる「地域医療構想」を掲げ、地方自治体に対し病院再編や病床機能の転換を進めるように促しているが、一向に進んでいない。厚労省が再編を検討すべき病院を公表したのは、「(反発が起こることは)ある程度想定した上でのショック療法だった」(複数の医療関係者)という見方が強い。[以下略]
※東松山市立市民病院、東松山医師会病院については、
川越比企保健医療圏地域保健医療・地域医療構想協議会(埼玉県HP)の「第1回 川越比企保健医療圏地域保健医療・地域医療構想協議会」(2019.03.06)の資料1-1
「東松山市立市民病院 ~新公立病院改革プランと当院の将来像~」(森野正明院長)37~42
「東松山医師会病院2025プラン」(松本万夫院長)51~57

日本林業技術協会編『森と水のサイエンス』 1月8日

日本林業技術協会編『森と水のサイエンス』(東京書籍、1989年)を読みました。執筆者は中野秀章・有光一登・森川靖氏で、100不思議シリーズの1冊です。日本森林技術協会デジタル図書館に、PDF版がUPされています。

森と水のサイエンス』 目次
1 減りもせず増えもしない地球の水
   どこにどれだけの水があるか
   たえず循環する水
2 限りある貴重な資源
   すべての生命に不可欠な水
   限りある水資源
   地域と季節で異なる水の量
   水の循環と森林
3 森林に降る雨の行方
   森林に降り注ぐ雨
   林冠などによる降水の遮断
   浸透と流出
   森林植生による蒸散
   川の流れを調整する森林
4 土の中の水の動き
   森の土は水を吸い込む―土壌の種類と保水力
   地被や土壌による浸透能(水の吸い込み方)の違い
   土壌の保水力
   土壌のすき間と水の流れ
   森林の土は水をきれいにする

5 樹木の生育と水
   生命の井戸水
   植物の水吸収と土壌の水
   植物の水経済
   湿度を考える―湿度60%は乾いている
   蒸散量はどう測るのか
   蒸散―1日に30トン
   蒸散量の多い月は、年間の蒸散量は
   間伐や技打ちによって蒸散量は減るか
   蒸発と蒸散は本当に同じか
   水の吸収と移動― 100メートルも昇る
   水移動の経路―壁の中、管の中を水は流れる
   水と成長
6 森林の水保全上の役割
   森林の水保全機能とは
   水の流れをならす森林の土
   森林の状態と水の流れ
……河川流量の平準化をもたらす森林土壌の機能こそが、その森林土壌を生成し、維持する、森林のいわゆる水源かん養機能と治水機能の本質といえる。(119頁)
   うまい水もつくる森林の土
   森林による水の消費

7 水保全機能の高い森林
   単純より混交、若齢より高齢がものをいう
 水保全にかかわる森林の役割とは、自然の節理にさからわない範囲で、蒸発散量をなるべく少なくし、降水の流出を平準化するとともに流出する水の質を良好・安定に保つことといえる。
 この両機能を果たす中心舞台は森林土壌であり、浸透・透水性にすぐれ、かつ厚い土層を保持している森林こそ水保全機能の高い森林といえる。概念的には、すでにある森林土壌を確実に保全し、かつ将来に向けて、なお、着実に水に関する特性の改善を進めている森林といえる。言い換えれば、地表浸食や崩壊などから森林土壌を守る機能が大きく、かつ浸透・透水性を改善する機能の大きい森林植生、すなわち、強じんな根系を深くかつ偏りなく網のように張り、崩壊防止に対する杭効果とネットワーク効果が高く、林床には落葉層や低木・下草が豊かで安定しており、地表浸食防止に効果が高い森林である。同時に有機物の供給と土壌動物・微生物の生息促進によって土壌の団粒構造など、孔隙性を維持・改善する効果の高い森林が、将来性を含めて機能の高い森林といえよう。具体的には当該地域を適地とする複数の樹種・草種から成り、老齢に過ぎない範囲で高齢の大径木を主林木とし、樹齢・樹高もさまざまで、生態学でいう樹体の現存量が大きく、生態系として安定した生命活動の盛んな地域適応型の混交・複層林である。(126~127頁)

   混交社会の構成要員
 水保全に望ましい具体的樹種についていえば、個々の樹種に水保全面からみた特徴が認められることは事実である。まず、森林土壌の維持・改善にとって重要な根系についてみると、土壌条件などについての同じ比較条件下で、主たる根を垂直方向に張り、比較的深い土層にも根量のある深根性樹種と、主たる根を水平方向に張り、比較的深い土隔には根量の少ない浅根性樹種がある。前者の代表的樹種は、針葉樹ではアカマッ・クロマッ・スギ・モミ・ヒメコマッなど、広葉樹ではコナラ・ミズナラ・クヌギ・ケヤキ・クリ・トチなどである。後者の代表的樹種は、針葉樹ではヒノキ・カラマツ・サワラ・ツガ・トウヒ・エゾマツ・ヒバなど、広葉樹ではブナ・シラカシ、ニセアカシァ・ヤマハンノキなどである。同じ深根性・浅根性樹種といっても、根系の平面的張り方にも樹種による個性がみられ、一般に樹冠の投影面積の数倍程度に張るとみられる。例えば浅根性樹種でかなり広いものや、深根性樹種で相対的には広くないもの、あるいは斜面の上下、水平のいずれかの方向により広く張るものなどがあり、これも土壌保持の面で無視できない。
 土壌改良に重要な落葉などの有機物の供給能力についてみると、同じ比較条件下で樹種間に差が認められる。常緑針葉樹林は落葉樹林よりも多く、同じ常緑針葉樹林でもスギはマツやヒノキよりも多い。さらに、土壊改良に重要な土壌動物・微生物の生息についても、一般に針葉樹人工林は天然林より、若齢林は高齢林より、そして、構成樹種の単純な森林は複雑な森林より種類数も個体数も少ないといわれている。
 一方、降水遮断についてみると、細かい葉が小枝に密に着生して、単位面機当たりの葉量が大きく小枝が密にまとまった樹冠をもつ針葉樹類は、これらより比較的大きい平滑な葉を疎に着生する広葉樹類より一般に遮断作用が盛んである。また、同じ樹種でも、当然ながら、林冠の疎開した幼齢林や高齢林より、生育旺盛な青年期・壮年期の森林で大きい。さらに細かくみれば、例えば、ブナなどの広葉樹のうっ閉した壮齢林では雨水の一時保留作用が大きく、また樹体構造の関係などで樹幹流下雨量が多いため、激しい降雨の林床への衝撃的直達を避け、降水を穏やかに林床に導くといった働きにも特徴がみられる。蒸散作用についても降水遮断とほぼ同様なことがいえる。
 以上を総合すると、スギやブナなどは他に比べて一応水保全上すぐれた樹種と考えられるが、詳細に個々の特性についてみれば長所も短所も混じえており、すべての樹種についても同様なことが考えられる。結局、個々の特性について水保全に望ましい樹種があり、これを総合して相対的に優位な単独樹種を選定することはできるものの、絶対的な単独樹種はないといえよう。つまり、望ましい個別特性をもつ樹種の単純林ではなく、混交・複層林でそれぞれの個性が補強され合って全体機能が高くなる。(133~135頁)

 何よりも、健全で確実な生育を保持する森林でなければ、機能を発揮し得ない。したがって、当該地を本来適地とする複数の樹種の高齢木を中心とする混交・複層林で、地上部・地下部ともに充実し、活力ある生態系としての森林こそ、最も水保全機能が高い森林といえよう。(136頁)

8 降水による災害と森林
   洪水害
   山崩れ
   土石流
   地すべり
   なだれ
9 むすび

用語解説
混交林:2種類以上の樹種からなる森林で、単純林に対するものである。ただし、林業に関係のない下木の類は考えにいれない。また、数種類の林木からなる森林でも、その大部分が一樹種であるときは、単純林として取り扱う。混交林は性質の異なった樹種、例えば針葉樹と広葉樹、陰樹と陽樹、浅根性の樹種と深根性の樹種などが適当に配置されることによって、林地の生産力を十分に活用することができ、林木相互の競争が柔らげられるので、林木が健全に育ち、木材の生産量も多いと主張されている。害虫・菌類・暴風・山火事などに強い樹種が混ざることによって、これらの害が発生しても急激に広がることが防げ、天敵の繁殖にも好適であり、諸害に対する抵抗性も強い。(168~169頁)

複層林:人工更新により造成され、樹齢、樹高の異なる樹木により構成された人工林の総称。一斉に植栽され、樹齢、樹高がほぼ同じ森林に対する語。一部の樹木を伐採しその跡地に造林を行うことの繰返しにより造成される。(174頁)


カロリン・エムケ『憎しみに抗って』 1月4日

カロリン・エムケ『憎しみにあらがって ―― 不純なものへの賛歌』(浅井晶子訳、みすず書房、2018年)を読みました。
img-200103170027-0001

img-200103170059-0001
人種主義、ファナティズム、民主主義への敵意――ますます分極化する社会で、集団的な憎しみが高まっている。なぜ憎しみを公然と言うことが、普通のことになったのだろう。
多くの難民を受け入れてきたドイツでも、それは例外ではない。2016年には、難民の乗ったバスを群集が取り囲んで罵声を浴びせ、立ち往生させる事件が起こった。それまでのドイツではありえなかったこの事件は、社会に潜む亀裂をあらわにした。
自分たちの「基準」にあてはまらない、立場の弱い者への嫌悪、そうした者たちを攻撃してもかまわないという了解。この憎しみの奔流に飲み込まれないためには、どうしたらいいだろう。
憎しみは、何もないところからは生まれない。いま大切なのは、憎しみの歴史に新たなページを加えることではなく、基準から外れたとしても幸せに生きていく可能性をつくることではないだろうか。
著者カロリン・エムケはドイツのジャーナリスト。自分とは「違う」存在を作りだして攻撃するという、世界的に蔓延する感情にまっすぐに向き合った本書は、危機に揺れるドイツでベストセラーになった。いまの世界を読むための必読書。
   (みすず書房HP「書誌情報」より)
 カロリン・エムケ『憎しみに抗って ―― 不純なものへの賛歌』目次
はじめに
1 可視‐不可視
   恋
   希望
   懸念
   憎しみと蔑視
    1 特定の集団に対する非人間的行為(クラウスニッツ)
   憎しみと蔑視
    2 組織的人種差別(スタテンアイランド)
2 均一 ー 自然 ー 純粋
   均一
   根源的/自然
   純粋
3 不純なものへの賛歌

原註
訳者あとがき
著訳者略歴
※東京大学出版会・白水社・みすず書房の出版情報PR紙「パブリッシャーズ・レビュー」第26号(2018年3月15日号)より
 ドイツでベストセラー
  カロリン・エムケ
   《憎しみに抗って 不純なものへの賛歌》浅井晶子訳
 人道主義、ファナティズム、民主主義への敵意 ―― ますます分極化する社会で、集団的な憎しみが高まっている。なぜ憎しみを公然と言うことが、普通のことになったのだろう。
 こうした現象は、世界中でみられる。多くの難民を受け入れてきたドイツでも、それは例外ではない。
 2016年、ドイツのクラウスニッツで、難民の乗ったバスを百人以上の群集が取り囲んで罵声を浴びせ、立ち往生させる事件が起こった。多くは近所のごく普通の住民だったという。その様子はSNSで瞬く間に拡散し、おびえる難民の子どもや、手をこまぬく警官の様子も映っている。それまでのドイツはありえなかったこの事件は、社会に潜む亀裂をあらわにした[*1]。
 「怒りは、なにものにも守られることなく目だっている者に向けられる」。自分たちの「基準」にあてはまらない、立場の弱い者への嫌悪、そうした者たちを攻撃してもかまわないという了解。この憎しみの奔流に呑み込まれないためには、どうしたらいいのだろう。
 著者エムケは言う。憎しみは、何もないところからは生まれない。なぜ悪むべきかという「理由」は、誰かがつくらないと存在しない。憎しみは、いまに始まったことではなく、じつは長い歴史をもっている。
 いま大切なことは、憎しみの歴史に新たな1ページを加えることではなく、基準から外れたとしても幸せに触れて生きる可能性をつくっていくことではないだろうか。
 著者カロリン・エムケはドイツのジャーナリスト。自分とは「違う」存在をつくりだし攻撃するという、世界的に蔓延する感情にまっすぐに向き合った本書は、危機に揺れるドイツでベストセラーになった。いまの世界を読むための必読書。
   [現代社会・暴力・ポピュリズム](四六判・216頁・3600円)

齋藤純一さんの書評「多様性ゆえの安定、再構築を」から(『好書好日』2018.06.02>『 朝⽇新聞』2018年04月21日)
憎しみに抗って―不純なものへの賛歌 [著]カロリン・エムケ
 このところ「ヘイトスピーチ」や「ヘイトクライム」といった「憎しみ」を含む言葉を耳にすることが多くなった。実際、ネット上では憎悪表現が当たり前のように飛び交っている。その標的とされ、心身に深い傷を被っている人も少なくないはずである。
 ようやくたどり着いたドイツで住民から罵声を浴びせられる難民[*1]、アメリカで警官の暴力的な取り締まりにさらされる黒人[*2]、国境での保安検査で屈辱的な扱いを受けるトランスジェンダー(「自然」とみなされる性別が本人の感覚と合致しない人)。本書が取り上げるのは、何を語ったか、何を行ったのかとはまったく無関係に、侮蔑や憎悪を投げつけられる人々である。
 本書を読んであらためて重要と感じるのは、憎しみを引き起こす原因とそれが向けられる対象の間にはほとんど関係がない、ということである。難民や移民はいわば叩(たた)きやすいから憎しみの標的とされる。彼らをいくら叩いたところで、生活不安がなくなるわけではないのにもかかわらず。人に憎しみの感情を抱かせる原因は複雑で解消しがたい一方、標的の選択は単純で、感情の投射は容易である。
 「彼ら」を締めだせば「われわれ」は安全や豊かさを取り戻すことができる。こうした考え方はなぜ執拗(しつよう)に現れるのか。「同質なもの」、「純粋なもの」は予(あらかじ)め存在せず、「異質なもの」、「不純なもの」を特定し、それを排除することを通じてつくりだされる。このメカニズムが、反ユダヤ主義とホロコーストの経験と記憶をしっかりと刻んだはずのドイツでいままた反復されようとしている。余所者(よそもの)は「少しくらい満足しておとなしくなるべきではないか」という感覚はすでに一部だけのものではなくなっている。
 一昨年ドイツで上梓(じょうし)された原著は10万部を超すベストセラーとなり、12カ国語に翻訳されているという。移民を排除すべしという主張は、いまや多くの社会で公然と語られるようになり、それは、憤懣(ふんまん)の捌(は)け口を求める需要に応えている。この本がいま広く読まれているのも、多様な諸価値やそれらのハイブリッド(不純)な交流を肯定する規範が明らかに壊れつつあるという危機感ゆえであろう。
 自身も性的マイノリティに属する著者は、文化的、宗教的、性的な多様性のなかでこそ落ち着くことができる、と言う。多様性ゆえの安定、排他的ではない安全性を構築しなおすために、どのような言葉や行為が必要なのか。私たちは「他者を傷つける能力」を併せもつだけに、そしてその能力はたやすく行使されるがゆえに、いかに憎しみに抗するかという問いをおろそかにするわけにはいかない。
    ◇
 Carolin Emcke 67年生まれ。ジャーナリスト。「シュピーゲル」「ツァイト」の記者として世界各地の紛争地を取材。2014年よりフリー。16年にドイツ図書流通連盟平和賞。
*1:2016年2月18日、ドイツのクラウスニッツで、難民の乗ったバスを百人以上の群集が取り囲んで罵声を浴びせ、立ち往生させる事件が起こった。多くは近所のごく普通の住民だったという。その様子はSNSで瞬く間に拡散し、おびえる難民の子どもや、手をこまぬく警官の様子も映っている。それまでのドイツはありえなかったこの事件は、社会に潜む亀裂をあらわにした。[前掲「書誌情報」より引用]

*2:2014年7月17日にニューヨークのスタテンアイランドで警察官が逮捕にあたって禁じられている絞め技で黒人男性エリック・ガーナーを死亡させた事件。(「エリック・ガーナー窒息死事件」>Wikipedia)
1.はじめに
2018年8月末から9月はじめにかけての2週間、ドイツ社会はこの話題に揺れた。[8月26日]東部ザクセン州の都市ケムニッツでおこったある殺人事件をきっかけに、極右勢力が大規模なデモをおこない、街中で外国人を狩りたてて暴行したり、警察や反対する左派勢力と激しく衝突したりしたのだ。
日本でも、この事件は大手マスコミ各社が取りあげた。しかし、それらの報道は事件の概要を断片的に伝えるのみであり、この事件がドイツ社会にあたえた衝撃についても、またこの事件を近年のドイツ社会の動きに対してどのように位置づけるかについても、説明が不足している。……
2.ケムニッツ市記念祭での殺人事件
3.事件をめぐる数々の謎
4.なぜケムニッツだったのか
5.なぜドイツ東部なのか、なぜザクセン州なのか
6.「憂慮する」市民たち
ケムニッツをはじめとする外国人に対する暴力事件は、けっして一部の過激な極右の人間やならず者たちによって引き起こされたのではない。その背後に外国人に敵意を持ち、暴力に参加はしないまでも、それを容認する大勢の市民たちがいる。すでに上述のロストックの事件[*3]の際も、外国人労働者の宿舎が燃え上がると喝采を送った住民がいたし、なかには自宅にあった予備のガソリンを火炎瓶を作るためにネオナチたちに提供した者もいた。……
……難民であれ労働者であれ外国人に対して警戒的な人びとは一定程度いる。彼らは自らを「憂慮するbesorgt」市民たちと呼んでいる。
この言葉は、2018年の夏頃、ケムニッツの事件とちょうど相前後して盛んに取りあげられるようになった。その主張は、「われわれは外国人に反対しているわけではない、しかし……」というフォーマットに集約される。自分たちは人種主義者ではない、しかし今のところドイツには外国人が増えすぎている。このままではうまくいかない。ドイツで暮らすからには最低限われわれのやり方・流儀には従ってもらわねばならない、というわけである。
こうした「憂慮する」多くのひとびとが、数の上では少数である極右勢力によるあからさまな外国人排斥の活動を下支えし、その温床となっているのである。
ドイツの女性ジャーナリストのカロリン・エムケは、ヘイト犯罪に関する著書『憎しみに抗って』(2016年、邦訳みすず書房、2018年)のなかで、2015年夏のクラウスニッツの事件について詳細に分析している。彼女によれば、難民を乗せたバスが同地の収容センターに到着したとき、その行く手を阻んで「われわれこそが国民だ」と叫び、罵声を浴びせたり唾を吐きかける真似をしたのは、およそ100人ほどの住民たちだった。
しかし、エムケによれば、その場には、第2のグループとして大勢の傍観者たちがいた。誰ひとり騒ぎを止めようとせず、その場を立ち去りもしない。傍観者がいることによって、バスのなかにいる人たちに対峙する群衆はその分、数が増えたことになった。彼らの存在は、暴徒たちをさらに勢いづかせることになったとエムケは主張する。「彼らはただそこに立って、わめく者たちを注視する場を形成している。その注視をこそ、わめく者たちは必要とするのだ。自身を『国民』だと主張するために」(同訳書51頁、一部改変)。
エムケによれば、「憂慮する」市民たちは、自分たちは人種差別や極右と一線を画しているように見せかけているが、その仮面の下にあるのは「異質なものへの敵意」である(同訳書38頁)。この考えは、経済的好況の影で格差が広がりつつあることへの不満と結びつき、難民受け入れを進めるメルケル政権に対する批判へと、さらに大手マスコミが事実を伝えていないというメディア批判へとつながっていく。
ドイツ東部には、このようなメンタリティがドイツの他の地域よりも強固に根を下ろしつつある。2017年7-8月の世論調査では、「連邦共和国は外国人によって危険な度合いにまで過剰に外国化(überfremdet)されつつある」という見方に賛成の意見が、ザクセン州では回答の56%にのぼった。62%が「当地で暮らしているイスラム教徒はわれわれの価値を受け入れていない」と考えており、38%が「イスラム教徒の移民を禁止すべきだ」という意見である。
7.極右政党とネオナチの結合
8.ドイツ社会の和解のレジリエンス
現在のドイツでは、「憂慮」に覆い隠されたかたちで他者に対する憎しみが横行しており、それは「権利を奪われ、社会から取り残され、政治的対応からも置き去りにされる人間の集団が生まれる前触れ」ではないのか、とカロリン・エムケは問うている(同訳書40頁)。
あるいはそうなのかもしれない。予断は許されない。しかし、状況はそこまで危機的ではないと思わせる要素もまた存在している。
それは、ドイツ社会には、和解のレジリエンスとも言うべきバランス回復の機能があるからだ。レジリエンスとは、元来は物質が外的な力を受けた際に元に戻ろうとする力を意味し、転じて心理学用語として個人の内面がストレスに抗して回復する能力として用いられていたが、最近では社会の危機的状況や災害からの機能回復や復興をさして使われるようになっている。
1990年代前半以来くり返されてきた外国人に対する暴力事件は、たしかにドイツ社会のなかに大きな傷を開けた。しかし、その傷口をただちに閉じ、苦痛を癒やし、社会の統合を再構築する動きが、随所で即座に自発的に出現するのだ。……
9.レジリエンスの動揺?
ケムニッツの事件に対して、ドイツ社会はこのような和解のレジリエンスを機能させることで、傷口を閉ざし、危機を乗り切ったかに見える。ドイツ社会の統合とコンセンサスはいま一度守られ維持されたのだろうか。レジリエンスは、万能のものとして機能しているのだろうか。
残念ながら、現実はそう簡単ではない。ケムニッツの事件とその顛末には、ドイツ社会のレジリエンスが動揺し変化しつつある兆候を見て取ることが可能である。これは、とくに事件に対する政治家の発言に見て取ることができる。暴力が振るわれたことに対しては、断固たる拒絶の意思を示すものの、外国人への連帯や共生社会への賛成を示す力強い言葉はそこにはほとんど聴かれず、むしろ難民を厄介者扱いし、非難するような発言が目立った。……
10.おわりに――レジリエンスと「憂慮する」市民たちの今後
……「憂慮する」ことが当たり前になりつつあるドイツ社会では、外国人に対する大小の暴力事件は、残念ながら今後も完全にはなくならないだろう。ケムニッツのような感情的な暴発もまた予期されるところである。
しかし、そうした事件のあと、今後も和解のレジリエンスが発動されることもまた確実である。多くの人が自発的に立ち上がり、街頭に出て、あるいはネット上で暴力にノーを叫ぶだろう。多くの抗議声明が出され、評論家は口角泡を飛ばして論じ、政治家は美辞麗句をちりばめた名調子で事件を非難し、今後の再発防止を誓うだろう。
しかし、もしかすると、和解のレジリエンスは、ひとびとの善意と真心を借りて、外国人への暴力事件がひとたびあったとしても、その衝撃を緩和し、社会を何事もなかったかのように修復してしまう魔法の道具、一種の通過儀礼にすぎなくなっていくのかも知れない。そうなれば、やがてはAfDや極右さえ、何食わぬ顔でレジリエンスに参加していくようになるかも知れない。
とはいえ、このようなドイツ社会のレジリエンスのあり方は、何かの事件が起こるたびに、お茶の間の賞味期限が過ぎるまではさんざんにマスコミが取りあげ、プライヴァシーを無視した取材をおこない、面白おかしく報道し、話題を独占しておいて、その後何の反省もなく完全に忘れ去られる社会より、どれほどいいか知れない。それはドイツ市民社会の本領発揮であり、精華である。
(11.2019年3月21日加筆)
2019年3月18日、ドレスデンのザクセン州立裁判所で、ケムニッツ殺人事件の容疑者の裁判が始まった。これをきっかけに、昨年夏の事件はもう一度ドイツ世論の注目を浴びることになった。……
*3:1992年8月にはロストック=リヒテンハーゲンでベトナム人労働者の宿舎が放火され、4日間にわたって警官隊とネオナチが激しい衝突を繰り広げた。

J・ロックストローム『小さな地球の大きな世界』 12月27日

ヨハン・ロックストローム、マティアス・クルム『小さな地球の大きな世界 ープラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発 ー 』(原著は2015年発行。監修:武内和彦、石井菜穂子、訳:谷淳也、森秀行 ほか。丸善出版、2018年)。プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)は、2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)の基礎となった概念。著者のロックストローム博士はこの概念を主導する科学者グループのリーダーです。

プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)とは?
人間の活動が地球システムに及ぼす影響を客観的に評価する方法の一つに、地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)という考え方があります。地球の限界は、人間が地球システムの機能に9種類の変化を引き起こしているという考え方に基づいています。この9種類の変化とは、①生物圏の一体化(生態系と生物多様性の破壊)、②気候変動、③海洋酸性化、④土地利用変化、⑤持続可能でない淡水利用、⑥生物地球化学的循環の妨げ(窒素とリンの生物圏への流入)、⑦大気エアロゾルの変化、⑧新規化学物質による汚染、⑨成層圏オゾンの破壊です。これらの項目について、人間が安全に活動できる範囲内にとどまれば、人間社会は発展し、繁栄できますが、境界を越えることがあれば、人間が依存する自然資源に対して回復不可能な変化が引き起こされます。
生物地球化学的循環、生物圏の一体性、土地利用変化、気候変動については、人間が地球に与えている影響とそれに伴うリスクが既に顕在化しており、人間が安全に活動できる範囲を越えるレベルに達していると分析されています。
p018_1.gif

(2017年版『環境・循環型社会・生物多様性白書』第1部・第1章地球環境の限界と持続可能な開発目標(SDGs)第1節持続可能な開発を目指した国際的合意 -SDGsを中核とする2030アジェンダ-)

小さな地球の大きな世界_パンフレット小さな地球の大きな世界_パンフレット_01小さな地球の大きな世界_パンフレット_02小さな地球の大きな世界_パンフレット_03

小さな地球の大きな世界_パンフレット_04小さな地球の大きな世界_パンフレット_05小さな地球の大きな世界_パンフレット_06小さな地球の大きな世界_パンフレット_07




小さな地球の大きな世界 プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発』目次
序文 変革への協力関係
 生き方への二つのアプローチ
 新しい物語

重大な10のメッセージ
 1.目を開こう
 2.危機は地球規模で差し迫っている
 3.すべては密接につながっている
 4.予期せぬことが起こる
 5.プラネタリー・バウンダリーを尊重する
 6.発想をグローバルに転換する
 7.地球の残された美しさを保全する
 8.私たちは状況を変えることができる
 9.技術革新を解き放つ
 10.大事なことを最初にする

第一部 偉大なる挑戦
 第1章 新たな苦難の時代
  人新世にようこそ
  すべてが互いにつながっている
  地球を守る緩衝材

 第2章 プラネタリー・バウンダリー
  九つプラネタリー・バウンダリー
  プラネタリー・バウンダリーの現状
  ここからどこへ向かうのか?

 第3章 大きなしっぺ返し
  南極大陸:弱々しい兄貴分?
  地球からのメッセージ……「支払期限」
  崖っぷちの生物多様性
  サンゴ礁:気候変動における「炭鉱のカナリア」
  青天の霹靂?

 第4章 あらゆるものがピークに
  水圧破砕による石油・天然ガス採掘の問題
  リンのピーク
  何のピークも恐れなくてもよい世界

第二部 考え方の大きな変革
 第5章 死んだ地球ではビジネスなどできない
  問題の兆し
  地球が世界の経済を支えている
  狼、樹木、そしてマルハナバチ
  CSRはもう死語だ
  新しい物語

 第6章 技術革新を解き放つ
  技術革新の新しい波
  世界のエネルギー・システムを脱炭素化する
  すべての人のための持続可能な食料生産の増強
  循環経済への変革
  回復力のある都市の構造
  持続可能な交通手段
  想像力を解き放つ
  政策的手段
 この新たなパラダイム、すなわち、安定的で回復力のある地球とともに発展する世界のコミュニティを作るために、革新や技術、協働、そして普遍的な価値が結び付くというパラダイムを作るのに必要なものは何だろうか?そのために、私たちは以下の領域で、包括的な政策手段を構想している。

 1.地球上の安全な機能空間を世界的に規制すること:生物多様性の損失率をゼロとし地球温暖化を2℃以内にとどめることなど、世界の発展のための科学に基づく地球の持続可能性に関する基準に基づいて規制すること。
 2.地球に残された生物物理学的な余地空間を公平に分け合う方法について世界的に合意すること:鄭玄のある地球上の炭素排出量の配分、土地利用の配分、窒素とリン排出量の配分、また淡水利用量の配分に関する責任を分担すること、および残された重要な森林システムの保全や生物多様性の損失を食い止めるのに合意することを含む。
 3.世界的な炭素価格制度を導入すること:二酸化炭素1トンあたり少なくとも50ユーロ(60米ドル)が必要。
 4.政策的手段とガバナンスのあり方に幅広い多様性を許容すること:提携や誓約、市民運動、アクティビズムなどの「ボトム・アップ」の活動が、世界の国々や地域のガバナンスや組織的な統合など「トップ・ダウン」の取り組みと組んで発展すること。
 5.「GDPを超えて」成長と進歩に関する新しい基準を定義すること:進歩を測る新たな指標と環境志向の経済発展の概念を基礎にして構築する。
 6.対応能力の開発に莫大な投資をすること:世界の途上国への自由な技術移転と「第二の機械時代」を本格化するのに必要な大きな投資資金を含む。(153頁)

第三部 持続的な解決策
 第7章 環境に対する責任の再考
  新しいゲームのルール
  新しい緑の色合い
  計測することの重用性
  グローバル・コモンズに別れを

 第8章 両面戦略
  パワー・アップ
  新しい緑の革命 三つの課題
  青い大理石
  賢い投資

 第9章 自然からの解決策
  ウジを好きになる
  展望と解決策をつなげる
  実効性を確保するために

あとがき 新たなプレイ・フィールド

写真に関する補足情報
主要な出典および参考文献
著者紹介
謝辞
※監修者・武内和彦さんの本書紹介から(『UTokyo BiblioPlaza』HP)
地球に限界があることを指摘したのではない。プラネタリー・バウンダリーの範囲内でこそ、持続可能な経済や社会の成長と繁栄が保障されうるとの提案

ロックストロームらがプラネタリー・バウンダリーの概念を提唱した目的は、単に人間活動の加速化が地球システムの限界を超えるリスクを増大させていることに警告を発することにとどまるものではない。そうした限界を十分把握したうえで、人間活動をいかに回復力があり安定した生物物理的な「安全な機能空間」に収れんさせていくか、という新しい方向性を導こうとしているのである。この考え方は、かつてローマクラブが提唱した「成長の限界」とは一線を画している。むしろ、プラネタリー・バウンダリーの範囲内でこそ、持続可能な経済や社会の成長と繁栄が保障されうるとの提案である。この考え方は、国連が採択した2030年までの持続可能な開発目標 (SDGs) の捉え方にも大きな影響を与えている。すなわち、環境に関する目標の達成が、社会や経済に関する目標を達成するための大前提となるとの考え方である。


ナリワイを作る「百姓ライフ」 12月22日

上村邦彦『ローザの子供たち、あるいは資本主義の不可能性:世界システムの思想史』(平凡社、2016年)の「終章 資本主義の終わりの始まり」3 資本主義からの脱出からの引用(211~214頁)です。引用されている本も読んでみたいですね。

……資本主義が終わるということは、「経済成長」が不可能になる、ということである。「経済成長」が止まるということは、言い換えれば、「剰余価値の実現」が不可能になり、個人消費が低迷し、商品が売れなくなり、利潤を獲得できずに赤字に転落して倒産する企業が増加していく、ということである。大学を卒業して会社に就職し、定年まで同じ会社で勤め上げる、という生活の仕方を選ぶことがますます困難になる、ということである。
 そうだとすれば、私たちは、これから次第に縮小していくはずの、会社に雇用されて賃金労働者として働く「第一経済」以外に、副業としての「第二経済」や互酬的「第三経済」にも足をかけて、危険を分散するとともに生活維持を図る、という複線的な生き方を選択せざるをえなくなるだろう。ただし、それはおそらく、単線的な「第一経済」だけの生活よりずっと「楽しい」ものである。
 そのような生活実践は、すでに少しずつ始まっている。例えば、朝日新聞記者の近藤康太郎は、長崎県諫早支局での記者勤務という本業の傍ら、始業前の早朝一時間だけ「オルタナ農夫」(オルタナティヴな農夫)として自給用の米作りを実践し、それを「資本主義から少しだけ外れる、近代社会からばっくれる」と表現した。「ちょっとだけ、はずれる。全力で逃げるんではない。資本主義社会にも足を突っ込みつつ、肝心なところは、ばっくれる」*さしあたりは、この「ちょっとだけはずれる」ことが重要かもしれない。
近藤康太郎『おいしい資本主義』4頁(河出書房新社、2015年)
 それ以上にもっと「資本主義からはずれる」生活実践も、広く見られるようになった。たとえば、「ナリワイ実践者」を自称する伊藤洋志は、「個人レベルではじめられて、自分の時間と健康をマネーと交換するのではなく、やればやるほど頭と体が鍛えられ、技が身につく仕事」を「ナリワイ(生業)」と定義し、「一人がナリワイを3個以上持っていると面白い」と言う*。ナリワイは「やっていて楽しいということも大事な条件なので、単なる労働ではない」**。それを彼は「人生を盗まれない働き方」と名づけている***。
伊藤洋志『ナリワイをつくるー人生を盗まれない働き方』4頁(東京書籍、2012年)
**同上、9頁
***同上、副題
 東京出身の水柿大地は、岡山県美作市で「地域起こし協力隊員」として働いた後、美作市上山地区に住み着いて、そこで同じような「多就業」の生活を実践している。彼によれば、「月に五万円稼げる仕事を五つ持ったら二五万円、六つ持てれば三〇万円になる。仮に一つ仕事がなくなっても二五万は稼げる、というところに持っていけるのが多就業の利点であり、幅広くいろころなことに取り組めるので、人としての厚みも増していくのではないだろうかと考えている」*。
水柿大地『21歳男子、過疎の山村に住むことにしました』201頁(岩波ジュニア新書、2014年)
 そのような生活の仕方を、社会学者の上野千鶴子は「百姓ライフ」と名づけた。「「百姓」とは読んで字のごとく「百の姓[ひゃくのかばね]」、つまり多様な職業の組み合わせのことです。気候風土に応じて、夏は稲を耕作し、冬は麦や菜種を育てる。農閑期には機織りや炭焼きをして現金収入に充て、杜氏のような専門的技術を以て出稼ぎをする」*。このような「百姓ライフ」という言葉で彼女が強調するのは、「正規雇用はこれから希少財化する。これからはシングルインカムではなくマルチプル・インカムの時代だ」ということである。それを彼女は「持ち寄り家計」とも呼んでいる。「それは自分の収入源をひとつに限定しない、という選択肢のことです」**。
上野千鶴子『女たちのサバイバル作戦』326頁(文春新書、2013年)
**同上、327頁
 念のために確認しておけば、「資本主義の終わり」が、ただちに経済生活の崩壊や貨幣経済の終わりを意味するわけではない。現在でも、「利潤獲得」を目指してはいない独立自営業者や専業農家も存在しているし、公務員、教員、NPO法人の専従職員など、賃金労働者ではあるが営利活動に従事しているわけではない人も多い。ただし、資本主義的生産様式が支配的な「資本主義社会」に生きている以上、そのような人々も「資本主義の終わり」と無縁でいられるわけではない。だからこそ、自分の生活は自分で守るためのさまざまな工夫がこれから必要になる、ということである。
 最近「脱資本主義宣言」をしたフリーライターの鶴見済は、この宣言の意味を次のように説明している。

「脱資本主義」などと言うと、「社会主義にするのか」「カネは使わないのか」「昔に戻るのか」などと極端な反論が飛んできそうだが、どれも違う。少なくとも自分は、とりあえず理想とする方向に向かってみて、その先のことはその都度考えればいいという立場だ。なぜなら、どういう社会にすべきかは、それぞれの場所によって違う答があるはずだから。*

 彼が主に実践しているのは「手作りのイベントと、共同運営の畑」だそうだが、彼がイベントに参加する高円寺の「素人の乱」下北沢の「気流社」など、「こうした店の“界隈”では、贈与経済とも呼ぶべき別の経済が芽生えていて、「脱資本主義」が当たり前に実践されている」**という。
鶴見済『脱資本主義宣言ーグローバル経済が蝕む暮らし』214頁(新潮社、2012年)
**同上、213頁
 作家の佐藤優もまた、「資本主義といるシステムが自壊しているプロセス」の中で「重要なのは、自分の周りで、直接的人間関係の領域、商品経済とは違う領域を、きちんと作ること」*だと語っている。そのうえで彼は、これから起こりうる「資本主義の暴発」をできるだけ抑える対応策として、「具体的には、労働組合、宗教団体、非営利団体などの力がつくこと、さらに読者が周囲の具体的人間関係を重視し、カネと離れた相互依存関係を形成すること(これも小さな中間団体である)で、資本主義のブラック化に歯止めをかけること」**を重視している。
佐藤優『いま生きる「資本論」』241-242頁(新潮社、2014年)
**同上、250頁


朱野帰子『わたし、定時で帰ります。』(新潮文庫、2019年)[あけのかえるこ]

※※「わたしたちの月3万円ビジネス」(2018.01.28)
NPO法人チーム東松山主催『わたしたちの月3万円ビジネス』体験ワークショップ

安富歩編訳『超訳論語 革命の言葉』③ 12月21日

安富歩編訳『超訳論語 革命の言葉』エッセンシャル版(ディスカヴァー・トゥェンティワン、2016年)のアマゾンサイトでは同書の「内容紹介」として「序」の、①、②で引用した文章の直前部分が掲載されています。

 危機にこそ、人間の真価がわかる。今この時代に読み直したいまったく新しい「論語」。

 本書は、私自身が、この世界を生きるためのよすがを求めて、論語の言葉の響きを聞き取った、その報告である。
 論語という、二千数百年という時間を越えてこの私に届いた奇跡の言葉には、人々の心を響かせてきた、何かがあるはずだ。
 私はその何かを聞こうとして、多くの知識を蓄えつつ、耳を澄ませてきた。
 その響きを本書ではお伝えしたいと思う。

 もちろん本書は、徹底して客観的たらんとしつつ、同時に、徹頭徹尾、主観的な書物である。
 それゆえ、ここに書かれていることを、決して鵜呑みにしないで頂きたい。
 一つ一つの言葉が、役に立てば役に立て、役に立たなければ、捨てて欲しい。
 そして、論語について何かを誰かに言いたい、と考えたなら、必ず原文に当たり、
 本当に私が聞き取った響きが聞こえるかどうか、読者自ら確認してほしい。
 もし違った響きが聞こえたら、それがあなたにとっての論語なのであり、その響きを大切にして欲しい。
 本書はそのための手がかりに過ぎないのである。(「序」より 著者よりコメント)

※本書が「徹底して客観的たらんとしつつ、同時に、徹頭徹尾、主観的な書物」であるとはどういう意味でしょうか? 
内容紹介で引用されている部分の更に前の部分では、論語の言葉から真実を聞き取るには、二つの方法、客観的な方法と主観的な方法とがある。客観的な方法とは、「二千数百年前の、孔子が生きた時代がどのようなものであったのかを、文献や考古学の資料に基づいて推定し、その上で、論語を資料として読む」方法であるが、この客観的な方法だけで「正確な意味を汲み取る、というのは、人間にはできない相談」、「孔子が言った言葉の本当の意味を客観的に措定することなど、決してできない」。それでも客観的方法には「ある言葉が意味していないことを明らかにできる」ことと、「その言葉が元来意味した内容を明らかにできる」ことを指摘していますが、で引用した部分からも、安富さんの『超訳論語』が客観的方法を十二分に踏まえたものであることが理解出来ると思います。

※アマゾンのカスタマーレビューにある甘凡君さんの「なぜ、革命の言葉なのか」(2019年5月25日)では、この本と著者の選書である『生きるための論語』との併用が勧められ、安富さんの『論語』三部作、『生きるための論語』、『生きる技法』、『あなたが生きづらいのは「自己嫌悪」のせいである。 他人に支配されず、自由に生きる技術』を読むと、①現代でどうしたら幸福に生きられるかという問題提起から、論語をどう解釈し直したか、②現代人が幸福を考える上での8要素(1自立、2友達、3愛、4貨幣、5自由、6夢、7自己嫌悪、8成長)に対して、どう考えるかを提示し、③その8要素で、もっともやっかいな自己嫌悪に関して、どう克服するのかの著者の思想(論語をベースにした実践哲学)が述べられているとして、この3冊を読むのがベストとしています。

※仁とは
白川静『字通』(1996年)によれば、字訓に「したしむ・いつくしむ・めぐむ」があり、「初形は人の下に敷物をおく形」「人が衽(しきもの)を敷いている形」で「衽席(じんせき)を用いて人に接することによって親しむ、和むという具体的な行為や事実から、次第に抽象化して「和親・仁愛」の意に展開したものであろうとしています。
仏教語に「一月三舟」(いちげつさんしゅう、いちがつさんしゅう)があって、「一つの月も、止まっている舟、北へ行く舟、南へ行く舟から見るとそれぞれ異なって見えるように、人はそれぞれの立場により仏の教えを異なって受け取るということ」(『デジタル大辞泉』)とされています。仁についてもあれこれと考えていきたいですね。

安富歩編訳『超訳論語 革命の言葉』② 12月21日

安富歩編訳『超訳論語 革命の言葉』エッセンシャル版(ディスカヴァー・トゥェンティワン、2016年)
序より引用。

 「仁」の基礎は「孝」であり、「孝」の基礎は親が子に与える「三年の愛」である。
 「仁」たりうる人は、心の平安を得ている人である。それは自らに対する信頼がなければ不可能である。人が自分を信頼しうるようになるには、幼少期に無条件に「三年の愛」を両親から与えられている必要がある。そうすると、その子もまた自然に両親を愛するようになる。これが「孝」である。それゆえ「孝」が仁の元だ、と言われるのである。
 「孝」は、親から子へと与えられる慈愛を基礎としており、そこから自然に生まれる感情であり、それが社会秩序の基礎となる。親が子供を愛することができず、子供が「孝」とならない社会は崩壊してしまう。「孝」たりえない者が無理に孝行しても、それはやっているフリに過ぎず、そのようなものは、社会秩序の基礎たり得ない。

 「学習」回路を開いている者同士の間でコミュニケーションが成り立つ。
 対話者の双方が学習回路を開いていると、双方は共に学び合いながら成長していく。このようにして達成される調和を「和」という。「和」であることによってはじめて、本当のコミュニケーションは成立する。そのとき、両者のやりとりのありさまを、「礼」にかなっている、と言う。「礼の用は和を貴しとなす」という言葉はこのことを意味している。
 学習回路を閉じた者が、いくら礼儀作法に叶ったことをしても、それは慇懃無礼なだけであって、「礼」とは言えない。「礼」が横溢している場で人々が言葉を発するとき、その言葉に偽りはなく、それぞれの心と一致している。言葉と心とが一致している状態が「信」である。
 君子は「和」を実現する相手とは仲良くするが、誰とでも仲良くするのではない。君子は、学習回路を停止させようとする者には敢然として立ち向かい、悪[にく]むことができる。それゆえ、善人からは好まれるが、悪人からは嫌われる。
 君子は他人と意見を対立させることを恐れず、激しい「乱」を生みだすが、それは「義」にもとづく本気の応答であって、それゆえ最終的に相手と心を通わせて、高次元の「和」を生みだすことができる。

 学習回路の閉じている状態が「悪」であり、そういう者を「小人」と呼ぶ。
 論語では「仁」ではなく、学習回路の閉じている状態を「悪」と呼ぶ。そして君子とは逆に、学習回路が閉じている者を「小人」と呼ぶ。
 小人は情報収集に余念がなく、情報や知識をかき集めて保身をはかろうとする。小人には「道」が見えないので、いくつもの選択肢の中から最適な道を選ぼうとして「惑」う。しかし、自分の選択が本当に最適かどうかは、人間にはわからないので、必然的に怯え、うまくいかないと僻[ひが]んだり、拗[す]ねたりする。自分自身を信じることが出来ないので、常に評価を気にしており、人と自分とを比べようとする。
 君子は過[あやま]てば改めるが、小人はそれができないので、過つと言い訳や隠し事をする。小人は誰か力のある者からひどい扱いを受けると反発ができないので我慢し、腹いせに、弱い者に八つ当たりをする。小人は対立が苦手であって、「乱」をおそれる。それゆえ何らかの記号や意見や形式や規則を共にすることで同調し、「乱」を防ごうとする。これを「同」という。「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」というのはそういう意味である。こういう同調は長続きしないので、やがて亀裂が生じ、小人は仲間を裏切ることになる。これを「盗」という。

 私は、このような論語の思想は、現代のに本社会でなんとなく「正しい」と考えられていることをことごとく否定し、まったく異なった倫理を体系的に提示しているように思える。『論語』は、古臭い保守的な書物ではなく、衝撃的で前衛的な革命の書だと、私には思えるのである。

安富歩編訳『超訳論語 革命の言葉』① 12月21日

安富歩編訳『超訳論語 革命の言葉』エッセンシャル版(ディスカヴァー・トゥェンティワン、2016年)の「序」より安富流論語論。

 私は論語の思想を、次のように捉えている。

 「学習」という概念を人間社会の秩序の基礎とする思想である。
 論語の冒頭は、「学んで時にこれを習う、亦たよろこばしからずや。」という言葉である。この言葉に、論語の思想の全ての基礎が込められている、と私は考える。
 人間にはなにかを学びたい、という好奇心がある。その好奇心によって外部から知識を取り入れても、その段階で自分自身のものになっておらず、そればかりか、とり入れたものに自分自身を譲り渡す格好になっており、「振り回され」ている。
 それが習練を重ねていると、あるときふと、しっかりと自分のものになる瞬間が訪れる。このとき、学ぶ者は学んだことに振り回されるのをやめて、主体性を回復する。これを「習う」という。
 そうなったとき、人は、大きな喜びを感じる。人間は、そういう生き物である。この「学習」のよろこびに孔子は、人間の尊厳と人間社会の秩序との根源を見た、と私は考えている。

 学習回路を開いている状態が、「仁」であり、仁たり得る者を「君子」と呼ぶ。
 このような「学習」の作動している状態が「仁」であり、それができる人を「君子」と呼ぶ。君子は、自分の直面する困難を学ぶ機会と受けとめて挑戦し、何か過[あやま]ち犯せば、すぐに反省して改める。このような学習を通じて変化し、成長するのが、君子のあり方である。
 もちろん君子は、他者の過ちに寛容であり、そこからの学びを促そうとする。しかし世間は往々にして、人間を型に嵌[は]めて「器」として使おうとして圧力を掛けてくる。それに負けて固定した「器」になってしまうと、もはや学習回路を停止し、君子ではなくなってしまう。「君子は器はならず」という言葉はそういう意味である。
 それゆえ君子には、如何なる圧力にも屈しない「勇」が必要である。どんな状況でも、命を脅かされたとしても、自分自身を見失わず、学習過程を守りぬき、自らの心の中心にいる状態が「忠」であり、心のままに偽らない姿が「恕」である。「忠恕」の状態にあるときに、君子の前に進むべき「道」が広がっているので、道の「選択」を迫られることがない。その道を進むなかで見えてくる成すべきことが「義」である。


『多摩丘陵の自然と研究 フィールドサイエンスへの招待』 12月17日

土器屋由紀子・小倉紀雄ほか『多摩丘陵の自然と研究 フィールドサイエンスへの招待』(けやき出版、2001年)第4章波丘地の植物の「4.3アズマネザサの調査」を読みました。市民の森保全クラブの作業エリアや岩殿満喫クラブの管理エリアのアズマネザサを頭に浮かべながら読み終えました。「波及地」とは東京農工大学の農場の呼称ですが、その地形は英語を当てると roiiing hill 、私たちが使っている用語では谷津田地形でしょうか。
img-191218073025-0001

多摩丘陵の自然と研究 フィールドサイエンスへの招待』目次
はしがき
1章 「波丘地」の歴史
  なぜ「波丘地」とよばれたか
2章 波丘地の土壌と渓流水
 2.1 波丘地土壌の物理性と水循環
 2.2 渓流水の富栄養化とN2O発生
 2.3 大気降下物による土壌酸性化
3章 波丘地の大気
 3.1 波丘地の気象の記録
 3.2 波丘地の降水の化学成分
 3.3 波丘地の地表オゾン濃度
4章 波丘地の植物
 4.1 植物の四季
 4.2 クロムヨウランに始まりクロムヨウランに終わった8月

 4.3 アズマネザサの調査(星野義延、八木正徳)
   1.アズマネザサというササ
   2.アズマネザサの繁茂
   3.アズマネザサの稈[かん]と株の構造
アズマネザサは土中に地下茎を伸ばし、その節から地上部の稈を発生させ、さらに直立した稈の基部からも稈を発生させることによって大きさや空間分布を変化させて、コナラ林の林床に繁茂しているのである。(97~98頁)
   4.波丘地内におけるアズマネザサの分布状況
 アズマネザサはこれまでみてきた刈り取りなどの人為的な管理の違いによって、稈サイズなどに違いがみられるが、より大きなスケールでみると丘陵地のなかでも、微地形の違いや上層で優先する樹木の種類などによってその広がりや優先の度合いが異なる。
 アズマネザサは波丘地全域に分布しているが、耕作地や崩壊斜面、毎年下草刈りが頻繁に行われている草地や雑木林の林床、スギ植林やモウソウチク竹林の林床など日照量の少ない場所で優先することは稀である。しかし、それ以外の場所ではコナラが優先する雑木林の林床、林縁、日照を遮る樹冠のないオープンサイトを問わず、アズマネザサが広く優先している。(99頁)
img-191218073025-0002

A型:アズマネザサの稈高約3~6m、篠竹と呼ばれるほど大型化。光環境の良好な雑木林の林縁、樹木の疎らな林内の一部
B型:平均稈高が1.5~3mのBa型、約0.5~1.5mのBb型。雑木林の林縁や林床
C型:平均稈高が最大でも0.5m未満。頻繁に刈り取り等の管理が行われている場所。

   5.アズマネザサの生態学的管理に向けて
アズマネザサは頻繁な刈り取りによって繁茂を抑制することができるとされている(例えば、石坂、1989、重松、1988など)が、地下茎で繁殖するアズマネザサの生態学的な管理には地下部の把握が不可決であると考える。(101~102頁)

 4.4 波丘地の畑地としての土壌
5章 波丘地の動物
 5.1 波丘地の鳥
 5.2 昆虫:特に蛾と性フェロモンについて

 タケ類やササ類の葉を食草としているヒカゲチョウなど
 

※目籠(メカイ)は篠竹(アズマネザサ)で作ります
   

浅野智彦編『考える力が身につく社会学入門』 12月16日

浅野智彦さんの著作『自己への物語論的接近 家族療法から社会学へ』(勁草書房、2001年)等を読もうと思っています。先ず、浅野智彦編著『考える力が身につく社会学入門』(中経出版、2010年)を読んでみました。「はじめに」「第1章 社会学でわかる「私」という存在」「おわりに」が淺野さんの執筆です。

浅野智彦編著『考える力が身につく社会学入門』目次
はじめに
 ◎「生きるための道具」として、社会学を使う
 ◎「先の見えない時代」への不安
 ◎社会学は「現代社会を見るためのレンズ」

第1章 社会学でわかる「私」という存在
 ①「自分探し(磨き)」を強いる現代社会
  ◎社会学への招待
  ◎「自分探し」に夢中な人々
  ◎なぜ、人々は「自分探し」をするようになったのか?
  ◎「ゲームをうまくやること」「ゲームのルールを知ること」
 ②「二つの関係」から成り立つ私
  ◎「他者との関係」から成り立つ私
  ◎「私を中心としたネットワーク」と「私」
  ◎「私」と「鏡に映った私」は何が違うのか?
 ③「複数の私」を生む二つの要素
  ◎「もっと○○があるかもしれない」という意識の広まり
  ◎「私」という存在が不安定になっていく
  ◎「伝統」という枠組みが崩壊していく
  ◎「よりどころ」が失われていく
 ④「終りのない自分探し」のはじまり
  ◎ゲマインシャフトとゲゼルシャフト
  ◎「第二の個人化」が自由をもたらす
  ◎「キャラを立てる」という戦略
  ◎「終りない自分探し」を余儀なくされる
 ⑤成熟の新しい形へ
  ◎これからの社会の流れと「私」について

第2章 社会学でわかる「人間関係」
 ①社会学から見た「人間関係」とは?
  ◎「社会学の視点」から人間関係を考える
  ◎人間関係には「普遍的な側面」と「社会的な側面」がある
  ◎社会によって「人間関係の常識」は異なる
  ◎「理解しがたい他者」と共存するには?
 ②人間関係は希薄化したのか?
  ◎現代人の「対人関係能力」は低下している?
  ◎「濃密な人間関係」を求める現代人
 ③「現代社会の人間関係」をつくるさまざまな要素
  ◎「伝統重視」から「個人重視」へ
  ◎個人の「人格」が大きな意味を持つ
  ◎「人間関係のルール」は一つではない
  ◎「人間関係マニュアル本」が売れる理由
  ◎携帯電話はメールは人間関係を変えた?
  ◎「全面的なつきあい」と「部分的なつきあい」のバランス
 ④「三つの可能性」からこれからの人間関係を考える
  ◎第一の可能性、「精神的な満足感」に基づく関係へ
  ◎「純粋な関係性」が持つ不安定さ
  ◎第二の可能性、「その場限りの欲求」に支配される
  ◎第三の可能性、「古きよき人間関係」に戻る
  ◎「伝統的な人間関係」から「新しい人間関係」へ

第3章 社会学でわかる「家族」
 ①「ALWAYS 三丁目の夕日」のヒットと現代家族
  ◎「家族」とは何か?
  ◎「すでにある家族」と「こらからつくられる家族」
 ②社会とともに変化する「子ども像」
  ◎「家族の個人化」とは?
  ◎「小さな大人」から「無垢で愛されるべき存在へ」
  ◎児童虐待は「増えている」のか?
 ③変化し続ける「恋愛観」と「結婚観」
  ◎「婚活」時代の到来?
  ◎「できちゃった結婚」が生れた背景
  ◎「婚活」と「できちゃった結婚」からわかること
  ◎世界各国の自由な結婚や恋愛の形
  ◎多様な恋愛や結婚の形が広がった後は
 ④「専業主婦」に未来はあるのか?
  ◎「近代家族」とは何か?
  ◎「女性は社会進出を果たした」?
  ◎「専業主婦」は近代によって生み出された
 ⑤「少子高齢化」と日本の行く末
  ◎少子化と晩婚化の密接な関係
  ◎高齢化社会と介護の現実
  ◎少子高齢化への特効薬はあるのか?
 ⑥「家族の個人化」=「わがまま」?
  ◎みんなが「わがまま」になっている?
  ◎家族を「支援要因」として考える

第4章 社会学でわかる「会社と仕事」
 ①〈普通〉に働くことが困難な時代
   「自己責任」か「社会の責任」か?
  ◎「派遣切り」は他人ごとか?
  ◎「正社員でいること」が難しい時代
  ◎自己責任論の問題点
    ニートは怠け者か?
  ◎「ニート」が増加した理由
  ◎「やりたいこと」にこだわってはダメなのか?
  ◎「やりたいこと」を求める現代社会
 ②日本型雇用システムは崩壊したのか?
  ◎日本型雇用システムとは何か?
  ◎なぜ日本型雇用システムが成立したのか?
  ◎社会学から見た終身雇用と年功賃金
  ◎徐々に変化してきた日本型雇用システム
  ◎日本の雇用システムが変化した理由
 ③「正社員が減る」と、社会はどうなるのか?
  ◎大きな経済格差
  ◎「豊かな社会」における貧困
  ◎セーフティネットの格差
  ◎ほんとうに正社員は勝ち組か?
  ◎標準モデルという前提の見直し
 ④新しい働き方へ
   絶望を希望に変えることは可能か?
  ◎従来の日本型雇用システムへ回帰すればよいのか?
  ◎社会保障の二つの立場
    ベーシックインカムとワークフェア
  ◎ベーシックインカムとは
    すべての人に「最低限度の生活」を
  ◎ワークシェアとワークライフ・バランス
  ◎働くことの「純粋な関係」へ

第5章 社会学でわかる「文化・流行」
 ◎「オーラの泉」の流行を社会学的に考える
 ①「文化」を社会学的に見る
  ◎文化とは何か?
  ◎「ちょっと斜めからの視点」で世界を眺める
 ②「流行」はどのように生れるのか?
  ◎流行を知れば、社会がわかる!?
  ◎流行の持つ「三つの特性」
  ◎人はなぜ流行に乗るのか?
  ◎「マイブーム」が表す現代社会
 ③スピリチュアリティの流行から何が見える?
  ◎「スピリチュアリティ・ブーム」って何?
  ◎なぜ「スピリチュアリティ」は流行したのか?
  ◎「神秘性」が人々を動かした?
  ◎「カウンセラー」という肩書の力
  ◎「スピリチュアル」でほんとうの自分を知る
 ④なぜ人は自殺するのか?
  ◎自殺大国ニッポン
  ◎現代社会における自殺の原因トップ3
  ◎精神疾患と自殺の深い関わり
  ◎女性より男性の自殺率が高い理由
  ◎自殺対策を社会学的に考える
  ◎文化・流行から見えてくる社会の新しいカタチ

おわりに
 ◎「見通しの悪い社会」で生きるために

※「第4章 社会学でわかる「会社と仕事」」後半ではベーシックインカムが紹介されています。
ワークシェアなどによって、働く時間を減らすことができ、かつ[ベーシックインカム等によって]基礎的な所得が保障されているのであれば、働き方の選択肢も広がることになるでしょう。賃金を得ることのできない、家事や育児に専念したり、地域活動に力を入れたりすることも可能になり、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の実現にもつながっていくものと考えられます。(218頁)
                   [ ]はHikizine挿入

※ベーシックインカムについては、『BUSINESS INSIDER JAPAN』HPに、



 映画『七つの会議』(WOWOWオンライン
      12/27(金)午後4:45~
      1/1(水・祝)よる8:50~

鹿島茂『エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層』 11月13日

鹿島茂さんの『エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層』(ベスト新書543、2017年)を読みました。
トッドの4つの家族類型(世界地図)img-191113151427-0003

鹿島茂『エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層』
序章 人類史のルール
 エマニュエル・トッドとは何者か
 トッド理論のあらましを知る ~4つの家族類型といでおろぎー~
 トッド理論で世界の謎が解ける ~人類史のルール~

第1章 トッドに未来予測を可能にする家族システムという概念
 ①絶対核家族 「イングランド・アメリカ型」
  トランプ政権誕生は民主主義の理にかなっている
  トランプ当選をもたらした「絶対核家族」
  金銭解決に傾きやすい親子関係
  『リア王』と『ハムレット』は財産をめぐる相続劇
  過剰なグローバリゼイションによる疲弊
  イギリスのEU離脱を促した隠された理由
 ②直系家族 「ドイツ・日本型」
  EUの覇者ドイツ
  イエの支配者としての父親の権威
  東日本大震災でモラルの高さが賞賛された日本
 ③平等主義核家族 「フランス・スペイン型」
  土地よりも家具が大事
  フランス人がおしゃれになった理由
 ④外婚性共同体核家族 「中国・ロシア型」
  大帝国が誕生する条件 ~権威ある父親と平等な兄弟~
  大帝国が崩壊する兆し ~ソ連崩壊と乳児死亡率が語る~
  家族類型とイデオロギーの相関関係

第2章 国家の行く末を決める「識字率」
 トッドの家族理論はこうしてつくられた
 古い様式はいつでも辺境に保存される
 「土地の所有」が家族のかたちを変える
 人の運命はあらかじめ決められているのか?
 歴史を動かす最大の要素「識字率」

第3章 世界史の謎
 ①秦の始皇帝が焚書坑儒を行ったのはなぜ?
 ②ヴァイキングがブリテン島とフランスを襲撃したのはなぜ?
 ③十字軍エルサレム奪還が行われたのはなぜ?
 ④英仏百年戦争が起きたのはなぜ?
 ⑤ルイ14世が中央集権国家を築くことができたのはなぜ?
 ⑥フランス革命が起きたのはなぜ?
 ⑦イギリスで産業革命が起きたのはなぜ?
 ⑧ヒットラーが誕生したのはなぜ?
 ⑨世界初の共産主義国ソ連が誕生したのはなぜ?
 ⑩イギリスが失速し、ドイツがナンバー1になったのはなぜ?
 ⑪第二次世界大戦後、ドイツと日本が復興できたのはなぜ?

第4章 日本史の謎
 ①平安時代に藤原一族が権勢を誇れたのはなぜ?
 ②織田信長が延暦寺を焼打ちしたのはなぜ?
 ③「いざ鎌倉」の精神はどこから?
 ④徳川幕府が250年間も安定したのはなぜ?
 ⑤幕末の動乱が西南の地方から始まったのはなぜ?
 ⑥ヒーロー坂本龍馬が誕生したのはなぜ?
 ⑦海援隊や新選組が誕生したのはなぜ?
 ⑧明治政府が天皇を頂点に置いたのはなぜ?
 ⑨二・二六事件が起こったのはなぜ?
 ⑩太平洋戦争を始めたのは誰か?
 ⑪どんな占領軍でもしなかったのに、マッカーサーだけが行ったのは?

第5章 21世紀 世界と日本の深層
 ①2033年、中国が崩壊する日
 ②ロシアの安定はプーチンが独裁者だから?
 ③EUにとっての移民問題とは?
 ④EUは二つに分けるべきなのか?
 ⑤アメリカ平等主義は見せかけか?
 ⑥アメリカの黒人差別は終わらないのか?
 ⑦アフリカが近代化するためのカギは?
 ⑧最も近代化が遅れるのはイスラム圏?
 ⑨フランスでイスラム系テロが頻発するのはなぜ?
 ⑩日本の核武装の可能性は?
 ⑪日本会議はなぜ誕生したのか?
 ⑫直系家族・日本の人口減少社会に未来はあるのか?

第6章 こらからの時代を生き抜く方法
 現代日本の新たな葛藤
 下流スパイラルはなぜ起こるのか?
 「学歴はもはや収入に結びつかない」に騙されるな!
 日本の唯一の問題は少子化である
 教育費は無料に、そして教育権を親から奪え!
 シングルマザー救済運動のすすめ
 2100年以後の世界 ~幼年期の終焉vs資源の枯渇~

あとがき
img-191113151911-0002img-191113151708-0002

 かつてはモルガン学説のように人類は昔は大家族だったものが時代が経つにつれて核家族に変わってきたと考えられていた。しかし近年ケンブリッジ大学のグループによる調査で、英国では12世紀までさかのぼっても核家族しか見られないことが判明し、人類の家族は最初から核家族だったと主張されるようになった。ところがトッドの調査によりドイツやロシアには昔は複合家族・大家族が存在していたことが分かり、トッドはケンブリッジ大のグループと袂を分かつことになる。
 このようにトッドの学問は家族形態に関するものなのであるが、そのスタートにあったのは別の疑問だった。つまり人類の人口の変遷である。人類は長らく多産多死型社会だったけれど、やがて少産少死型社会へと移行する。ふつうに考えれば、栄養が悪くて医学も未発達だった時代には多産多死型社会になるしかなく、栄養が良くなり医学も発達すれば少産少死型社会に移行するという図式が思い浮かぶ。ところが、実際は少死になってもしばらくは多産のままに社会は続くのだという。その時に人口の大幅な増加が起こるのであり、今でもアフリカはそのような状態にある。
 ではいつ(なぜ)少子化が始まるのか。トッドによれば、子供の数を左右しているのは女性の識字率である。女性の識字率が50%を超えると少子化が始まる。また、男性の識字率が50%を超えると革命や大変革など大きな社会的変動が起こるという。
 さらに、女性識字率を決めるのは、家族システムだという。
 そこで家族システムの話となる。従来は家族というと核家族か大家族かという区別しか考えられていなかったが、トッドはそこに遺産相続システムという要素を導入した。つまり兄弟の平等・不平等ということである。これによって家族は4つのタイプに分類される。
 1.絶対核家族(イングランド・アメリカ型)
 結婚した男子は親と同居せずに独立。相続は1人だけで、兄弟平等ではない。子は早く独立するから親子関係は権威主義的ではない。教育には不熱心(子供の早期独立を促すから)だが、女性の識字率は比較的高い(兄弟の不平等は姉弟・兄妹にとっては平等を生みやすい)。
 2.平等主義核家族(フランス・スペイン型)
 1と同じく子供は早くに独立するが、相続は兄弟間で平等である。親子関係は権威主義的ではない。教育には不熱心で、兄弟が平等である分、女性(姉妹)の地位は低い。
 3.直系家族(ドイツ・日本型)
 結婚した子供の一人(多くは長男)が親と同居するのが原則。親子関係は権威主義的。教育熱心で女性の識字率も高い。
 4.外婚制共同体家族(ロシア・中国型)
 男子は長男・次男を問わず結婚後も親と同居。したがってかなりの大家族となる。父親の権威は大きいが、財産は平等分与なので、父の死後息子たちは独立して家を構える。マルクス・レーニン主義による共産主義国家を生んだのはこの家族型である。教育には不熱心。女性の地位は低く、識字率も低い。
 以上の、例えば4を見れば分かるように、家族の形態は共産主義革命の成否ともつながっており、それだけ大きな、単なる家族類型にとどまらない影響力を持つ、というのがトッドと著者の主張である。また、「そんなこと言っても先進国は今は核家族が主流でしょ」という異議に対しては、こうした家族パターンは、組織を作るときにも影響を及ぼすとされる。つまり社会のあり方そのものを規定しているということである。(後略)
※村山晴彦さんの「エマニュエル・トッド氏の予言(その2)」(京都総合経済研究所『経済TOPICS』2017年1月号から)
 エマニュエル・トッド氏は、世界の家族構成は、大きくは四つの類型に分かれるとしている。親子関係が「権威主義的」か「非権威主義的」か、つまり「子どもが結婚後にも同居する」か「結婚後は別居する」か、ということと、(子である)兄弟関係が遺産相続において「平等」か「不平等」かである。「この二つの変数をX軸Y軸に配すると、一見似たものどうしに見える家族の違いが、すっきりと四つに分類される」という。
 親子関係が「権威主義的」で、(子である)兄弟関係が遺産相続において「平等」なのがロシア、中国、フィンランドなどの外婚制共同体家族である。男子は長男、次男の区別なく、結婚後も両親と同居する。このためかなりの大家族になる。父親の権威は強く、兄弟たちは結婚後もその権威に従う。ただし、父親の死後は、財産は完全に兄弟同士で平等に分割され、兄弟はそれぞれ独立した家を構える。トッド氏は、こうした父親の強い権威と兄弟間の平等がロシア・中国型の共産主義(スターリン型共産主義、一党独裁型資本主義)を生んだと考える。このような家族形態では、男の兄弟は平等でも、女性はそこから排除されるため地位は低く、多くの場合、女性の識字率は低い。教育への関心も低いという。なぜ(子である)兄弟が平等かというと、彼らはもともと遊牧民であったためだという。遊牧民は家畜を伴って草原を移動し、短期間の定着を繰り返すため、父親がリーダーとなり、兄弟が平等で協力することが合理的であった。戦争の際には大人数のため有利であった。遊牧民は土地を持たず、家畜や移動用のテント、家財、武具などが財産のため、分割は容易である。そうであるなら、このような家族形態の中国やロシアが民主主義的な国になる可能性は低いことになる。
 同じように親子関係が「権威主義的」でも、(子である)兄弟関係が遺産相続において「不平等」なのが日本、韓国、北朝鮮や、ドイツ、オーストリア、スイス、ベルギーなどの直系家族である。親の権威は永続的で、親子関係は権威主義的、兄弟は不平等で、財産はその中の一人(多くは長男)に相続される。次男以下と女子は相続に与れないか、財産分与を受けて家を出る。長男の嫁は、未婚の兄弟姉妹に対して権威を持つことが求められるため、結婚年齢が高く、長男とあまり年の差がない女性が選ばれる。なぜ、(子である)兄弟が不平等になるかというと、農耕とそのための土地所有が関係していた。ドイツの例で言うと、ドイツの中南部の地方は山間で、平地が少なく、農地が限られていた。そこで農業を始め二代、三代と続くと農地の分割相続が難しくなる。このため、1000 年頃には一子相続という方法がはじまったという。
 直系家族は教育熱心で、代々施される知育、教育は主として長男の嫁をキーパーソンとして、家庭内に蓄積されてきた。鹿島教授の言葉を借りれば「ドイツが、二度の世界大戦で敗者となり、また、再統一という試練があったにもかかわらず、さして間を置かずにヨーロッパの覇者となりえたのは、直系家族が大切にしてきた教育熱心さ、知識への信頼」にあったという。
 親子関係が「非権威主義的」な形態でも、(子である)兄弟関係が遺産相続において「平等」か「不平等」か、で2つに分かれる。前者が平等主義核家族、後者が絶対核家族である。
 平等主義核家族においては、子どもは早くから独立傾向を示し、結婚後に親と同居することはまずない。親の権威は永続的でないため、識字率は低く、教育への関心も低い。遺産は兄弟間で完全に平等に分けられる。フランスのパリ盆地一体、スペイン中部、ポルトガル南西部、イタリア南部、中南米などがこの家族形態で、ルイ 16 世王政に反対したフランス革命は、平等主義核家族のパリ盆地の民衆が起こした。「人間は生まれながらにして自由かつ法の前で平等である」との人権宣言はこのような家族形態がフランスにあったから実現した。フランスのパリ盆地は肥沃で平坦な地域だが、広大な耕地は領主貴族や大ブルジョワが保有し、農民は小作料を払って土地を借りていた。このため財産としての土地を子に受け継がせることができなかった。そこで農具、工具、家畜、食器、家具、衣服などが遺産として平等に分割された。これらの動産を平等に分割するためのオークションも古くからあったという。フランス人がおしゃれなのも、衣服や靴、帽子などが換金性の高い商品であったことと無縁でないというから面白い。
 親子関係が「非権威主義的」で、(子である)兄弟関係が「不平等」なのが絶対核家族で、イングランド、アメリカ、オランダ、デンマーク、オーストラリアなどがこの形態だという。結婚した男子は親とは同居せず、別の核家族をつくる。このため、親の権威は永続的でない。親の財産は兄弟の中の誰かに相続されるが、遺産などで明確にされないときには相続をめぐってしばしば争いが起きる。不平等が前提のため、競争意識が強く、それが資本主義、自由主義を生み出すエネルギーになった。子供の早期独立が推奨されるため、教育には熱心でなく、識字率も低い。イギリスが生んだ偉大な劇作家・シェイクスピアの「リア王」「ハムレット」「リチャード三世」などが財産相続をめぐる親子、兄弟間の争いをテーマにしているのも絶対核家族ゆえだという。イギリスで産業革命が起き、最初の資本主義国家になったのも、農地を持たない国民が簡単に農村を離れて工場労働者として賃金を得ることに抵抗感がなかったためだという。
 なお、この点は全ての家族形態に言えることであるが、たとえば地方に行けば直系家族が中心かもしれないが、東京に住む核家族の家庭では日本古来の直系家族の原理は働いてはいないのではないかというと、そうではないという。なぜなら、政府、官僚組織、政党、会社、學校、宗教団体、町内会、部活といったあらゆる集団が古くからある価値を保っているからだという。家では核家族でも、一歩外に出れば日本やドイツなどの場合には直系家族を前提にした仕組みや考え方に、ロシアや中国などでは外婚制共同体家族が前提の仕組みや考え方になっているという。
 このような分類を基準にすると、世界で起きている最近の出来事の多くも説明できるという。
 たとえば、アメリカでアングロサクソン系の白人労働者が中南米からの移民と対立し、トランプ大統領が当選したのも説明が可能だという。絶対核家族は教育に対して熱心でなく、低学歴、低収入になる傾向が強い。メキシコなどからアメリカにきた移民の多くはヒスパニックと呼ばれる人たちで、スペイン、ポルトガルの流れをくむ平等主義核家族である。彼らもまた教育に熱心でなく、低学歴、低収入になる傾向が強い。このため、労働市場で両者が完全に衝突してしまった。鹿島教授の言葉を借りれば「絶対核家族に内在する教育不熱心という要因がプア・ホワイトの社会的上昇を妨げ、更なる貧困の連鎖を生んでいるということがトランプ当選の真の理由」だという。
 イギリスのEU離脱も似たような話である。イギリスの白人労働者階級も教育に熱心でなく、移民との競合が起きてしまった。加えてEUは、経済的にも政治的にもドイツに握られている。ドイツは直系家族のためEU議会の運営も直系家族型にならざるを得ない。それは自由を大事にしてきた絶対核家族のイギリスには我慢がならないのだという。
 日本がかつてアメリカとの戦争に突き進んだのも、最近話題となっている「忖度」(そんたく)も直系家族と関係があるという。直系家族は父親に権威があることになっているが、実際には主体的な判断はほとんど行わず、皆が権威者である父親の意をくんで(忖度して)、それぞれがその意を実現する方向に向かって一斉に行動する。日本が太平洋戦争に突き進んだのも、大企業でさまざまな問題が相次いでいるのも、「最終的な意思決定者の不在」「意思決定機関の不能」にあり、「直系家族的組織の欠陥」であるという。
 エマニュエル・トッド氏が説く4つの家族形態にはそれぞれにメリットとデメリットがある。大切なことは、それぞれのメリットとデメリットを正しく理解したうえで、当面するさまざまな課題を考え、解決する際の「考えるツール」として上手く利用していくことではないだろうか。鹿島教授の著書「エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層」は、膨大なトッド氏の研究成果をわかりやすくまとめた好著である。
鹿島茂さんの個人事務所である鹿島茂事務所(株式会社ノエマ)は2017年7月5日、書評アーカイブWEBサイト「ALL REVIEWS(オールレビューズ)(https://allreviews.jp/)」をオープン。

土屋信行『首都水没』 10月31日

土屋信行さんの『首都水没』(文春新書、2014年)を読みました。

土屋信行『首都水没』目次
まえがき 世界一危ない首都東京

第1章 山の手にも洪水は起こる
 武蔵野台地とゲリラ豪雨洪水
 神戸市利賀川水難事故
 豊島下水道水難事故
 ゲリラ豪雨に弱い武蔵野台地
 ゲリラ豪雨を降らせる「かなとこ雲」
 ゲリラ豪雨を捕まえよう!
 狩野川台風が教える首都東京の水害!

第2章 東京は世界一危ない場所にある
 東京は世界一の災害危険都市
 都市開発が招いた歪み
 災害・防災アセスメントが必要
 東京の発展が災害を増大させる
 江戸・東京で繰り返す大災害
 必ず来る首都東京の大水害

第3章 地球温暖化で首都は壊滅する!
 気候変動の恐ろしい未来
 頻発する大規模水害
 東京の大規模水害予測
 地下鉄洪水の被害予測
 地下トンネルが広げる洪水
 歩道にある変圧トランス
 海面上昇で首都水没
 東京を壊滅させる高潮の恐怖
 人命と都市機能を奪う東京リアス式地形
 海面水温上昇が生む超大型台風
 日本近海でも成長する台風
 日本を必ず襲う台風と洪水
 日本周辺で大型化した平成17年台風14号
 温暖化対策が遅い日本(国際的な温暖化に対する無策の日本)

第4章 利根川の東遷事業が東京を危険都市にした
 いちばん洪水の集まるところに築いた江戸
 利根川の東遷事業
 荒川の西遷事業
 増大した洪水の危険性
 なぜ危険なところに江戸を造ったか?
 防災組織だった村祭り

第5章 雨が降らなくても洪水になる「地震洪水」
 ゼロメートル地帯の出現!
 地下水の汲み上げで地盤沈下
 非常にもろいカミソリ堤防
 崩れない堤防は富士山型
 水が浸み出してくる!
 江戸時代の排水路「下水堀」
 地盤沈下を止めろ!
 無かった浦和水脈
 365日危険な地震洪水
 地震があったら地下鉄から逃げろ?
 スーパー堤防は「命山」
 オランダにある日本型堤防
 地下水は汲み放題の宝の山

第6章 なぜ東京は世界一危ないのか?
 日本は火山と地震の国
 滝のような急流河川
 天井川が洪水になると危険
 自然がつくった洪積層と人がつくる沖積層
 気象を決める日本の地形
 北緯36度から38度で最大の雪量
 雨を降らせる4気団
 日本を特徴づける四季
 雨がつくった日本文化

第7章 東京の三大水害に学ぶ
     明治43年の「東京大水害」
     大正6年の「大海嘯」[かいしょう]
     昭和22年の「カスリーン台風」
 明治43年の「東京大水害」
 「荒川放水路」開削と都心を守るお囲い堤防
 「荒川放水路」の開削工事
 土木工事を発展させた青山士
 洪水と共に暮らす知恵
 荒川放水路開削に「11歳の殉職者」
 洪水の脅威と恵み
 洪水を制御していた「中条堤」
 大切な流域全体の治水
 国民の命を棄てた事業仕分け
 東京にある遊水地と論所提
 大正6年の「大海嘯(大津波)」
 東京府南葛飾郡の葛西尋常高等小学校の体験記録
 「東京日日新聞」「大阪朝日新聞」「報知新聞」
 東京府知事井上友一の救助活動
 葛西村「仲割」の記録
 「棺箱! 送って頂きたい!」
 消えた「行徳の火」
 「新川梨」
 三匹の獅子舞
 昭和22年の「カスリーン台風」
 栗橋「堤防決壊」
 東京を守る「桜堤」決壊
 洪水でも切らなかった「新川提」
 洪水は流域で守るもの
 暗闇の避難訓練
 洪水の「江戸川」を渡って避難

第8章 洪水は流域一帯で起こっている!
 ばらばらだった避難勧告と避難指示
 洪水は自治体の範囲を超えて起こるもの
 誰も避難しない避難勧告、避難指示
 XRAINを活用した事前避難
 避難の判断がばらばらでいいのか?
 洪水対策は流域で取り組むべきもの
 アメリカの危機管理体制
 日本に必要な統合防災機関

第9章 強靭な日本を創るために
 予測できていた東日本大震災
 「女川原発」はなぜ無事だったのか?
 被害のなかった「神社仏閣」
 水害対策と地震対策は別
 洪水対策は国家の安全保障!
 東日本大震災に学び、強靭な日本を

あとがき 美しい日本、安全な首都へ(災害を文化にする)

参考文献


河田惠昭『日本水没』 10月29日

●河田惠昭[よしあき]さんの『日本水没』(朝日新書、2016年)を読みました。

河田惠昭『日本水没』目次
まえがき

第1章 水害や水没の多発・激化は地球温暖化が元凶
 鬼怒川水害は、どこでも起こりうるのか?
 大雨が降るメカニズム
 台風の強大化と増加する雨量
 地球温暖化で変化する気象、海象
 沿岸域の影響――海面上昇や海岸侵食――
 想定外洪水対策が必要な時代に突入
 海抜ゼロメートル地帯の浸水、水没
 地下街の水没

第2章 世界の大都市の水没危険性
 水没する都市の特徴
 米国・ニューヨークの水没
 チェコ・プラハの水没
 タイ・バンコク郊外の水没
 イタリア・ベニスの水没

第3章 東京の水没危険性
 東京は「世界一水害に弱い」都市?
 2015年9月の関東・東北豪雨、東京は氾濫・水没を危うく逃れた?
 利根川の洪水氾濫
 荒川の洪水氾濫
 東京湾の高潮/津波の氾濫
 浸水・水没災害の被害想定

第4章 広域・集中・ゲリラ豪雨による水害の違い
 広域に激しく降る雨(広域豪雨)と2004年豊岡水害
 2004年台風23号による円山川の氾濫災害
 特定の地域に激しく降る雨(集中豪雨)
 2000年東海豪雨水害
 スポット的に降る激しい雨(ゲリラ豪雨)
 2008年神戸・都賀川水難事故

第5章 新たな高潮災害と教訓
 忘れてはいけない1959年伊勢湾台風高潮災害の悲劇
 事故と災害が織り成す米国の歴史
 2001年9.11ニューヨークテロ事件
 2005年ハリケーン・カトリーナ高潮災害の教訓
 2012年ハリケーン・サンディ高潮災害の教訓

第6章 新たな津波災害と教訓
 地震の揺れの被害が津波に先行する
 津波来襲
 被害の特徴
 津波による被害
 間接被害
 高知市などの津波被害

第7章 複合災害となる首都圏直下地震と首都水没
 江戸幕府を疲弊させた安政の複合災害
 複合災害の発生が憂慮された1955年阪神・淡路大震災
 首都直下地震は近いうちに起こるのか
 津波は発生するのか?
 津波による未曾有の人的被害の再考
 複合災害で拡大する社会的・経済的被害
 被害は頭蓋骨骨折から脳梗塞へ変化
 複合災害の人的被害を左右する広域避難
 致命的となる低い避難率

第8章 縮災そして防災省の創設
    ~2016年熊本地震で確認できたこと~
 二極化しつつある自然災害
 中規模災害になりえた鬼怒川の氾濫災害
 自然災害は社会現象
 知識・情報・知恵が被害を小さくしてくれる
 災害に楽観主義は禁物
 なぜ防災から減災、そして縮災に変わったのか
 レジリエンスとは
 国難による「日本水没」
 防災省を創設して「国難」を迎撃する
 2016年熊本地震で確認できたこと

あとがき

山岡寛人『土のふしぎな力を育てよう』 10月25日

地球環境子ども探検隊6『土のふしぎな力を育てよう』(フレーベル館、1998年)を読みました。

山岡寛人『土のふしぎな力を育てよう』目次
はじめに 人は土のふしぎな力を知っていた
  人と土との長いつきあい
  土の性質とふしぎな力

1 土ってなんだろう
 やってみよう 土は何からできている?
  土は小さな粒の集まり
   土をふるってみよう
   土を水に溶いてみよう
 行ってみよう 崖へ行って地層を観察しよう
  あなを掘ってみよう
  崖を見に行こう
 観察 あなを掘って観察してみよう
 やってみよう 黒土はミミズが作った
  腐葉土って何だろう
  ミミズの生活
  黒土はミミズが作った
   腐葉土を燃やしてみよう
   ミミズの糞を探そう
   ミミズを解剖してみよう
 コラム 落ち葉で堆肥を作ろう
 やってみよう 黒土は燃える?
  黒土の下に赤土がある
  赤土から黒土へ
   黒土は燃えるだろうか?
 観察 土壌動物を採集しよう
  手順と観察
  発展
   ツルグレン装置の作り方
 調べてみよう 黒土を作るもうひとつの主役
  「パイ」のような落ち葉
  落ち葉とカビやキノコ
  倒木や切り株も黒土になる
   キノコが生えた倒木や切り株を調べてみよう
   バクテリアのはたらきを調べよう
 やってみよう 赤土はどうやってできたか
  火山の爆発と火山灰
  火山灰が赤土になる
  火山灰と溶岩は兄弟
   赤土から鉱物の結晶を取り出そう
 行ってみよう 山では岩から土ができる
  山ができるまで
  山は岩でできている
  山に土ができる
   花こう岩を粉々にしてみよう

2 土のもつ力を調べてみよう
 やってみよう 水はけのよい土、水はけの悪い土
  粒と粒のすき間と水はけ
  土の水もち
   いろいろな土の水はけを調べよう
    実験のための装置を作ろう
   土の毛管力と水もちのよさを調べてみよう
     実験1:土の毛管力を確かめる
     実験2:土の水もちのよさを調べる
   ねった土を乾かしてみよう
 やってみよう 肥えた土ってどんな土?
  植物と肥料
  肥料として重要な原子
   いろいろな土でハツカダイコンを育ててみよう
 調べてみよう 植物は電気を帯びた原子を吸収する
  根は原子をイオンの形で吸収する 陽イオン、陰イオン
  粘土の粒も電気を帯びている
  作物は酸性の土に弱い
   結晶粘土鉱物が電気を帯びていることを確かめよう
   土の酸性度を調べよう

3 土がくらしを支えている
 行ってみよう 畑の土にさわってみよう
  畑はどこにある?
   畑を見学に行こう
 コラム 明治時代の1年間の農作業
 考えてみよう 畑を耕すのはなぜ?
  ふかふかした土
  団粒構造とは
  団粒構造を育てる
 コラム はだしでイモ掘りに挑戦しよう
 作ってみよう 有機肥料をみなおそう
  化学肥料を大量に使う現代の農業
  どんな問題があるのか?
  昔は肥料をどうしていたのだろうか?
  堆肥や厩肥の効果
  江戸の都市と農村のリサイクル
   有機肥料でダイコンを育ててみよう
 コラム 郷土史で人間の糞尿の売買を調べてみよう
 考えてみよう 作物の作り方と土との関係は?
  野菜の単作・連作が増えている
  単作・連作で野菜の病気が増える
  かつておこなわれていた輪作
 コラム ヨーロッパで発達した輪作
 コラム 焼畑農業と輪作
 行ってみよう 畑で土壌侵食がおきている
  肥えた土が失われる
  日本でも土壌侵食が大きな問題に
  土壌侵食と防風林
   収穫が終わったあとの畑を観察しよう
   雨あがりの小川や畑を観察しよう
 行ってみよう 単作・連作がおこなわれる水田
  水田はどこにあるのか?
  水田はいつも水をはっているの?
  水田の土の特徴
   水田の褐色の土を青色の土(グライ)に変えてみよう
 コラム 水田の水はどこから引くのか?
  低地の水田の場合
  大きな川の近くの水田
  棚田の場合
  谷津田の場合

おわりに
 すすむ砂漠化
  砂漠とは、どんなところ?
  砂漠が広がっている
  世界の砂漠化に日本も関係している
  都市も「砂漠化」している
  畑や水田を見なおそう


山岡寛人『森や原っぱで環境を考えよう』 10月23日

地球環境子ども探検隊2『森や原っぱで環境を考えよう』(フレーベル館、1997年)を読みました。

山岡寛人『森や原っぱで環境を考えよう』目次
はじめに 日本は森林の国
  木と草
  日本の気候と森林の関係
  地図 地球上の森林の分布
  地図 日本の植生の分布

1 原っぱへ出かけてみよう
  身近な原っぱ
  人工的な植物の世界
 調べてみよう 草原はどこにあるの
  ごくわずかな自然の草原
  木が育たないきびしい環境
  砂丘に草原ができる
  水辺にも草原ができる
  自然の草原はもろい自然
  山の草地は人間が管理
 やってみよう 原っぱで寝ころがってみよう
  原っぱで寝転がってみよう
   1 見あげると何が見える?
   2 どんなにおい
   3 小動物を探してみよう
   4 服に何がついた?
 コラム 原っぱの草で遊んでみよう
  1 草相撲で遊ぼう
  2 茎で何か作ってみよう
  3 「ひっつき虫」で遊ぼう
  4 音を楽しもう
  5 風車を作ってみよう
  6 そりで遊ぼう
 行ってみよう タンポポを探してみよう
  タンポポはどんな花?
  タンポポの茎はどこにある?
  いろいろな草の茎 生育形
   1 まっすぐで長い茎 直立形
   2 なんども枝分かれする茎 分枝形
   3 地面すれすれの短い茎 ロゼット形
   4 葉のもとで包まれた茎 叢生形
   5 地面をはいまわる茎 ほふく形
   6 つるになる茎 つる形
  植物にも競争がある つる形>直立形>分枝形、叢生形>ロゼット形
  タンポポの生える場所
  タンポポが生えている環境
  帰化植物が生活する土地
 コラム 草の体 根、茎、葉
     帰化植物と在来植物
 作ってみよう タンポポ地図を作ってみよう
  セイヨウタンポポと日本タンポポ
  タンポポ地図を作ってみよう
 コラム タンポポの開花前線
 調べてみよう 原っぱの植物の世界は移り変わる
  原っぱの草の種子
  種子の数をかんがえてみよう
  種子は芽をだすの?
  空き地で種子を探そう
  移り変わる原っぱの草の世界 一年草、越年草、多年草
 考えてみよう 原っぱから環境を考える
  明るい緑の自然が大好き
  森を出たサル
  草の緑を維持するには

2 身近な森や林を探検しよう
  人が森は林を切り開いた
  森や林が残ったところ
  鎮守の森
 調べてみよう 鎮守の森を訪ねてみよう
  鎮守の森のつくり
   鎮守の森の気温を調べてみよう
    気温の測定
    まとめ
    温度計の工夫
   鎮守の森の明るさを調べてみよう
    明るさの測定
    まとめ
 やってみよう 鎮守の森は動物の隠れ家
  小動物を探してみよう
   お堂の縁の下の小さなすり鉢
   庭木の根元の袋
   お堂に張られた大きなクモの巣
  アニマル・トレッキングに挑戦しよう!
   かじられたドングリの殻
   ずばっと切られたジャノヒゲ
   甲虫の羽のかたまり
    この抜け殻はどんなセミになるの?
 行ってみよう 雑木林の四季を見てみよう
  春先の雑木林
  夏の雑木林と樹液
  秋の雑木林
   糖蜜で昆虫を採集しよう
    糖蜜の作り方
    昆虫の採集
   落ち葉の布団に座り、まわりの音を聞いてみよう
  冬の雑木林と落ち葉の布団
   1 落ち葉がつながっている
   2 落ち葉のスポンジ
   3 土壌動物の世界
 コラム ドングリでミニ雑木林を育ててみよう
 行ってみよう 雑木林の木は自然に生えたの?
  きれいに並んだ木
  再生可能なエネルギー資源
  雑木林の維持
  
3 森のはたらきを知ろう
  植林された山の林
  スギ・ヒノキ林の手入れ
   枝打ち
   つる切り
   間伐
  放置されるスギ・ヒノキ林
  豊かな自然が残るブナ林
  減少するブナ林
  大型野生動物と人間とのトラブル
 観察 手入れされたスギ林を観察しよう
  1 植林された証拠を探そう
  2 枝打ちのあとを探そう
  3 つる切りのあとを探そう
  4 間伐のあとを探そう
 調べてみよう 森林は生きたダム
  雨の日の森
  森はダムになる
   枝葉がとらえる雨の量を調べよう
   幹を流れる雨水の量を調べよう
   腐植が含んでいる水の量を調べてみよう

おわりに 森のネットワークをつくろう
 森のさまざまなはたらき
 森の価値をみなおそう
 自然の権利
 分断された森林
 森のネットワークを作ろう

太田猛彦『水と土をはぐくむ森』 10月22日

市民の森保全クラブ、岩殿満喫クラブの活動エリア(市民の森・入山谷津)は九十九川[つくもがわ]の源流域にあります。入山沼無名沼イ号から流れ出した水が九十九川、越辺川、入間川、荒川となって東京湾にいたります。
太田猛彦さんの『水と土をはぐくむ森』(文研出版、1996年)を読みました。松井光瑤[みつま]さん編『森からみる地球の未来』シリーズ(全6巻)の第4巻です。
img-191022165028-0001

太田猛彦『水と土をはぐくむ森』目次
森の土の仕組み
 縁の下の力もち?
 森の土の表面の住民たち
 森の土の4つの層
森の土の豊かな生態系をつくる
 森の植物連鎖は、森の土があってこそ
 底辺がせまいピラミッドは、背も低くなる
 栄養豊かな森の土は
 有機物とねん土や砂とのミックス
 いちばん豊かな土をもつ森は温帯林
 豊かな農地は森のめぐみ
 人のくらしのために森は減っていく
降った雨のゆくえは土の表面しだい
 森は天然のかさ
 土の表面の穴がつぶされると、水たまりになる
 地表流が、豊かな土を流してしまう
 地表流の威力
 道路わきの土を流し出さないために
 地表流を防ぐのは、落ち葉と草
森と川の切っても切れない関係
 土にしみこんだ水は地下水になる
 おいしい水は森がつくる
 わたしたちのくらしにうるおいをあたえてくれる森
 北海道襟裳岬の植林
 300haの植林で水あげ高は17倍
洪水と緑のダム
 川の水の増加は時間差こうげき
 おそろしい洪水
 洪水が起こる仕組み
 森は川の水が増えるのをおくらせる
 森の土は少しずつ水を流し出す
 日本は川の水の量が一定していない
 森とダムがそろってこそ、水をむだなく使える
森も水を使う
 森が受け止めた雨がそのまま蒸発する「遮断蒸発」
 土の中の水を吸い上げて蒸発させる「蒸散」
 森がないと気温を上がる
 都会の中の森は「クールアイランド」
 森は水を使う
 水をあまり使わない森をつくるには
自然災害に立ち向かう森
 日本は世界中で最も大地の動きがはげしいところ
 日本は台風の通り道
 山くずれは2通り
 森は土がくずれるのを防ぐ
 山くずれを防ぐ工事
 災害を防ぐ力が期待されている「保安林」
水は世界をめぐり、森は気候を安定させる
 命の水はほんのわずか
 地球上の水は循環する
 森がない大陸は、おく地に雨が降らない
 森は「海」
 森の土を大切にしよう

森林多面的機能の公益的評価
   季刊『森林総研』№30(2015年9月)特集・森林と水循環 
img-191022165220-0002img-191022165220-0001

img-191022165110-0001img-191022165110-0002

辻信一『弱虫でいいんだよ』 10月19日

辻信一『弱虫でいいんだよ』(ちくまプリマー新書2015年)を読みました。負けるが勝ち!?「進化」「進歩」「競争」を超えた新しい道を探る/“弱さ”と“愛”の人類学(帯から)


辻信一『弱虫でいいんだよ』目次
はじめに
第1章 「弱さ」とは何か?
  生きものにとっての「強さ」とは
   弱肉強食?
   ナマケモノとの出会い
  「弱肉強食」を超えて
   ナマケモノの低エネ生活
   ライオンとシマウマはどっちが強い?
   生き残ったものが強い!?
   自然から学ぶ
  オンリーワンの場所
   ナマケモノになろう
   棲み分けて共存
   世界に一つだけの花
第2章 動物たちに学ぶ
  ナマケモノから学ぶこと
   肝心なことは目にみえない
   「ナマケモノになる」ということ
   ナマケモノの弱さに寄り添う
   ナマケモノのメッセージ
  この世界はだれのもの?
   ナマケモノとシャーマンが来てくれた
   人間だけが人間とは限らない
  人間の方が「上」なのか?
   「動物人間」たちとのつき合い方
   ビーバーになる
   人はかつて樹だった
第3章 野生との和解に向けて
  「人間が上」が当たりまえか
   注文の多い料理店
   きさまらのしたことはもっともだ
   何がほしくておれを殺すんだ
   非対称性の住人
  自然界へと通じる道
   あらゆるものの共有地
   二元論を超えて
   山猫からの葉書を受けとるには
第4章 「弱さ」が輝き始めるとき
  自然は人間に何を求めているのか?
   野生へと通じる小道
   文明vs自然という二元論
   世界は耳を澄ましている
   牛は神さま
   ニワトリへの暴力と人間同士の暴力
  「民主主義」を定義し直す
   自然と女性
   「ほんとに魚はかわいそう」
   「みんなちがって、みんないい」
   アース・デモクラシー(地球民主主義)
  「進化」を定義し直す
   ゴリラのイシュマエル
   そして最後に人間が登場した
   扇形の生命史
  生物に優劣はつけられない
   どれも甲乙つけがたい
   物と心の二元論
   生きものの知性
   みんな巧に生きている
  勝ち負けなし!
   ゴリラにとって弱さとは?
   勝ち負けのない社会への進化
   分かち合いと弱さ
   人間がサル化している!?
第5章 弱虫でいいんだよ
  人は愛なしには生きられない
   生物としての人間
   「遅さ」という「弱さ」からの出発
   弱さを引き受ける
   生きることは愛すること
  ちょうどいい小ささ・ちょうどいい遅さ
   「進歩」という思考方法
   進歩の罠
   スモール・イズ・ビューティフル
   スロー・イズ・ビューティフル
  競争を超えて
   競争原理
   ブータンからの問いかけ
   競争という“常識”を疑う
   競争の“土俵”を降りる
   祈りの装置
  「フェア」な世界へ!
   「フェア」が人間をつなぐ
   「フェア」の可能性
   声なき声に耳を澄ます
   「弱さ」のジャングル
おわりに

市民の森保全クラブ親睦会実施 10月18日 

市民の森保全クラブ2019年度最初の親睦会を魚民東松山駅前店で実施しました。参加者は芦田さん、新井さん、太田さん、金子さん、澤田さん、鷲巣さん、渡部さん、Hikizineの8名。森づくり、ボランティア活動、台風19号の被災状況、支援活動など諸々の情報交換、意見交換ができました。
定例・追加活動日は10月25日(金)、27日(日)、11月1日(金)、8日(金)、15日(金)、22日(金)、24日(日)、29日(金)、12月13日(金)、2020年1月10日(金)。
「落葉掃き&焼き芋」イベントは①12月15日(日)、②22日(日)、③2020年1月12日(日)。①と②はコナラ林、③はアカマツ林で実施(小学生以上1人500円、幼児無料)。「シイタケ駒打ち体験」イベントは1月26日(日)と3月に実施(1本500円)を予定しています。

池田清彦『他人と深く関わらずに生きるには』(新潮文庫、2006年)
はじめに
Ⅰ 他人と深く関わらずに生きたい
   濃厚なつき合いはなるべくしない
   女(男)とどうつき合うか
   車もこないのに赤信号で待っている人はバカである
   病院にはなるべく行かない
   心を込めないで働く
   ボランティアはしない方がカッコいい
   他人を当てにしないで生きる
   おせっかいはなるべく焼かない
   退屈こそ人生最大の楽しみである
   自力で生きて野垂れ死のう
Ⅱ 他人と深く関わらずに生きるためのシステム
   究極の不況対策
   国家は道具である
   構造改革とは何か
   文部科学省は必要ない
   働きたい人には職を
   原則平等と結果平等
   自己決定と情報公開
   個人情報の保護と差別
文庫版あとがき

田中優『幸せを届けるボランティア 不幸を招くボランティア』 10月7日

河出書房新社から2010年に出版。14歳の世渡り術シリーズの1冊。そのまま大人になるつもり? 未来が見えない今だから、「考える力」を鍛えたい。行く手をてらす書き下ろしシリーズ。2017年に文庫化。「おわりに 扉を開ける」が第5章に入り、第6章 必要性増す「災害ボランティア」文庫版あとがきが加筆される。
  仕組みを知らないと、その「善意」がムダになる!(旧版帯から)
  仕組みが正しくないと、「いいこと」してもムダになる(文庫版帯から)

田中優『幸せを届けるボランティア 不幸を招くボランティア』(2010年3月)目次
序章 やさしさの届け方
 さりげないボランティア
 目立ちたがりのボランティア
 幸せと不幸の境界線
 好きなことが仕事になるまで
 ぼくがしている活動
  ・環境NGO
  ・NPOバンク
  ・日本国際ボランティアセンター
  ・天然住宅
  ・コモンズの森
 苦しくつらいもの? 楽しいもの?

第1章 それって「ボランティア」?
 空き缶拾いは何のため?
「環境問題の解決として」って言われるんだけど、ごみを拾うことが本当に環境問題の改善につながるのかという点だ。今、問題になっているのは、人類がこの地球上に行き続けられるかどうかだ。たとえば地球温暖化で、人類が滅びてしまうのではないかと心配しているのだ。自分の家のまわりにごみが散らかっているかどうかの問題じゃない。つまり「環境」には二つの意味がある。「身のまわり、周囲のこと」と、「地球環境問題のような大きな環境」のこと。これは必ずしも一致しない。……(29頁)
 クリーンアップの意味
 空き缶にはデポジット
 「空き缶はくずかごへ」?
 図書館司書のボランティアとは
 生活できない人を増やす仕組み
 ボランティアスタッフってタダ働きのことなの?
 「スタッフ募集」の問題点
 「タダでもやろう」という心意気
 詐偽まがいの街頭募金
 募金はボランタリーに

第2章 さまざまな「入り口」
 好き好んで自発的に
 ボランティアは不幸の言葉?
 楽しむにはコツがある
 仕事にすることもできる
 特別なことは考えない
 最初は「ほめられたい」でもいい
 自分がいてもいい場
 「自分のための」ボランティア
 「相手のための」ボランティア
 役割がないと生きていけない
 「いい子」を捨てる
 国際機関の支援とNGO活動との違い
 「キャリア」UPの道具
 ボランティア至上主義はあり?
 今いる場所からの一歩
 生活の「百姓」
 ボランティアをしない自由もある
 さりげなさも大切
 対手への配慮と「ありがた迷惑」
 日本人は「努力・忍耐」好き
 楽しむボランティアに

第3章 ボランティアの「経験値」
 里親になって感じた疑問
 善意が生み出す不公平
 ワンダラー小僧の住む社会
 相手の状態を思いやる
 「忘れない」文化
 「もらう方が威張る」文化
 相手の文化に暮らすこと
 どこまで深く理解できるか
 生死の境での選択
 難民キャンプの逆格差
 対手を背景ごと受け止める
 災害対策ボランティア
 依存しない、させない

第4章 私たちにできること
 たかが子どもに何ができる?
 「子ども」であることを活かす
 学校を捨て、外に出よう
 本当の原因を調べる
 「無力」ではなく「微力」
 訴える主体は未来のある子ども
 子孫を苦しめる大人たち
 「残す」ことの価値
 仲間と一緒に活動する
 自らの足元でやれることを
 みんなの才能を結集する
 小さな力で社会をつくる
 寄付するのだってボランティア
 事業を興して収入にする
 おカネ以外の「寄付」
 「施設」と「資格」とは関係ない

第5章 世界と未来へつなげる
 問題の根本を見つめて
 身近でないことにも目を向ける
 戦争は「心の問題」なんだろうか?
 カネ儲けとしての戦争
 問題を広げて考えれば複数の解決ができる
 国際的な税「グローバルタックス」
 仕組みで解決を
ぼくは問題を解決しようと考えるとき、いつも仕組みから解決しようとする。「心」や「心がけ」という個人的であいまいなものではなく、人々がボランティア活動をした方が得するようにしたいからだ。たとえばデポジット制度が導入されたら、空き缶は拾った方が得になる。だから誰も捨てなくなる。先に見たグローバルタックスも、良いことをした方が企業としても利益につながる。その仕組み作りが重要だと思うのだ。(154頁)
 持続する活動のために
 勤めてからこそボランティア活動を
 キャパシティ(能力・容量)の問題
 ボランタリーな精神
 アウトプットをしよう
 人それぞれの楽しみ方で

おわりに 扉をあける

巻末付録 取り組みやすい活動ガイド
 テーマ1 食
 テーマ2 集めて寄付
 テーマ3 おカネの使い方
 テーマ4 社会福祉
 テーマ5 教育
 テーマ6 自然・環境
 テーマ7 国際協力
 活動に参加するときに、気を付けてほしいこと

文庫版あとがき
社会は与えられるものではない。自分たちで作り出すものだ。その主体性は観客席にいては得られない。ボランティアは特別なことではなく、そもそもの意味である「自発的な生き方」に戻して考えるのがいい。自発的に始めることが「ボランティア」なのだから、観客席を蹴って自発的に参加することが第一歩だ。(161頁)


林と森 9月26日

樹林地という言葉があって、『東松山市みどりの基本計画』(2014年3月策定)巻末の用語解説では、「当該土地の大部分について樹木が生育している一団の土地で、樹林には竹林も含みます。」(77頁)とあります。『川越市環境行動計画「かわごえアジェンダ21」』(2008年3月策定)では、樹林地を「樹林が密生している場所であり植生により、自然林、二次林(雑木林)等に分類できるとともに、地形からは平地林、斜面林等に分類できる。」(20頁)としています。樹林地を漢字1字で示す場合、「森」と「林」とどちらが適切でしょう?
四手井綱英『森林はモリやハヤシではない-私の森林論-』第1部私の森林生態学に「森林はモリやハヤシではない」が収録されています(55~58頁)。

森林をモリやハヤシと読んだのは日本人だけだ。日本人は、古い時代に森をモリだと思い込んでしまった。しかし、中国語では「森」は「深」と同じ意味のシン(深い)という形容詞だった。森林はモリやハヤシではなく、「深い森」だったのだ。現在日本で名詞に用いている「もり」は形容詞だった。

森に名詞の「もり」という意味はない。だから、中国で「森林」をモリやハヤシだと言っても通用しないだろう。モリは名詞ではないから、中国や朝鮮半島に「森」という姓の人はいない。名が森という人はいる。名のほうは形容詞でよいからだ。だから、「林、森」という人はいる。動植物の命名法も同様だ。

次は「森」についてであるが、最近では森を林と同様に扱い「林へ行こう」というところを「森へ行こう」と書く人が非常に多い。しかし、日本の「森」という字は、林を言い表している語ではない。山の分類の一つだ。山にはいろいろな姿がある。山頂部が岩山になっている語は「岳」という。普通のなだらかな山頂を持っている場合は「山」と言うのが一般だが、山頂までぎっしり森林に覆われた山は「森」と呼ぶのだ。

ここから後の話は私の想像だが、なぜ山頂まで森林に覆われた山を「森」として「山」と区別したのか。考えてみると、そういう森林につつまれた山には神が住んでいた。すみかが神の山を区別するために「森」という山を区別したのだ。そして、「森」と言われる山は神のすみかとして大切に崇めていたのだ。

以上のべたのは、要するに「森林」はモリやハヤシではなく、「深い林」である。その意味を変えてしまったのは日本人だけで、中国や朝鮮半島では通用しないことである。そして、「森」は日本では長承まで森林に覆われた山の呼び名で、恐らくは神の住む所であって、平野部の人々は仰ぎ見て収穫を祈り、平穏な生活を願望したのであろうと思われる。

関東地方では平地の農用林を「ヤマ」と呼んでいるので「ヤマに行く」は「山に行く」だけではなく広く「樹林地に行く」、「林に行く」という意味で慣用的に使われている。「山に行く」を「森に行く」と置き換えられるのはまれな事だと思える。「森」ではなく「林」を使いたい。

鯖江市環境基本条例・環境市民条令・市民主役条令 9月8日

前記事で、鯖江市の鳥獣害防止への取り組みを鯖江市鳥獣被害防止計画(2008年、11年、13年、14年)から鯖江市環境基本計画改訂版(2017年3月)までたどってみました。
抜萃・鯖江市環境基本計画改訂版(2,017年3月)_ページ_01抜萃・鯖江市環境基本計画改訂版(2,017年3月)_ページ_02

鯖江市環境基本計画では、第3章基本施策 (2) 施策の基本方針 自然環境具体的な取り組みで、
○野生鳥獣保護と有害鳥獣対策の推進 ・野生鳥獣と共生できる森づくり活動の推進
・鳥獣保護区における野生鳥獣の保護および狩猟に関する適正な運用
・有害鳥獣による被害の防止
○動植物の保護と生息環境の保全 ・絶滅のおそれがある希少動植物の保護活動の推進
・ホタル、オシドリ等の環境保全区域における生息環境の保全
・魚類、貝類、水生昆虫等の生息環境の保全 ・鳥類の生息環境の保全
・生物調査の実施 ・定期的な水質調査等の実施による環境監視
・外来生物による影響の排除推進
・地域活動による生息環境再生の推進
をあげています。
環境基本計画の資料篇には、「環境基本条例」(1997年)と「環境市民条例」(2001年)が掲載されていました。

鯖江市環境基本条例 1997年9月29日 鯖江市条例第11号  (資料篇1~4頁)
前文
 豊かな自然に恵まれたわたしたちのふるさと鯖江の環境は、祖先たちが王山古墳の昔から大切に守り育ててきたものである。
 しかしながら、社会経済が急速に発展し、生活の利便性が高まる一方で、限りある資源やエネルギーが大量に消費されたために、地球全体の環境にまで大きな影響を及ぼすようになってきた。
 良好な環境を享受する権利は、もとより市民に等しく与えられているものであるが、将来にわたって恵み豊かな環境を維持し、次の世代に引き継ぐためには、人類もまた自然を構成する一員であることを深く認識し、自然の生態系の保護に配慮しながら、環境の保全に努める必要がある。
 わたしたちは、自らの積極的な行動により、地域の特性を生かした環境への負荷の少ない持続的な発展が可能な都市の形成を目標に豊かな自然に恵まれた環境を保全し、さらにより良い環境づくりをめざして、ここに、この条例を制定する。
第1章  総則(第1条~第6条)
第2章  環境の保全に関する施策の策定に係る基本方針(第7 条・第8条)
第3章  環境の保全に関する基本的施策(第9条~第13条)
第4章  環境の保全を推進するための施策(第14条~第19条)
附則
第1章  総則
  (目的)
第1条  この条例は、環境の保全について、基本理念を定め、ならびに市、事業者および市民の責務を明らかにするとともに、環境の保全に関する施策の基本となる事項を定めることにより、環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もつて現在および将来の市民の健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的とする。
  (定義)
第2条  この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
 (1) 環境への負荷  人の活動により環境に加えられる影響であって、環境の保全上の支障の原因となるおそれのあるものをいう。
 (2) 地球環境保全  人の活動による地球全体の温暖化またはオゾン層の破壊の進行、海洋の汚染、野生生物の種の減少その他の地球の全体またはその広範な部分の環境に影響を及ぼす事態に係る環境の保全であって、人類の福祉に貢献するとともに市民の健康で文化的な生活に寄与するものをいう。
 (3) 公害  環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁(水質以外の水の状態または水底の底質が悪化することを含む)、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下(鉱物の採掘のための土地の掘削によるものを除く)および悪臭によって、人の健康または生活環境(人の生活に密接な関係のある財産ならびに人の生活に密接な関係のある動植物およびその生育環境を含む。以下同じ)に係る被害が生ずることをいう。
  (基本理念)
第3条  環境の保全は、人類もまた自然を構成する一員であることを深く認識し、豊かで美しい環境を実現し、広く市民がその恵沢を享受するとともに、これを将来の世代に継承していくことを目的として行われなければならない。
 2  環境の保全は、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築を目的として、すべての者の自主的かつ積極的な環境の保全に係る行動により行われなければならない。
 3  地球環境保全は、地域における環境の保全に関する取組の重要性にかんがみ、すべての事業活動および身近な日常生活において積極的な活動により推進されなければならない。
第2章 環境の保全に関する施策の策定に係る基本方針
  (施策の策定に係る基本方針)
第7条  市は、環境の保全に関する施策の策定および実施に当たっては、第3条 に定める基本理念にのっとり、次に掲げる事項の確保を旨として、総合的かつ計画的に推進するものとする。
(1) 市民の健康が保護され、および生活環境が保全され、ならびに自然環境が適正に保全されるよう、大気、水、土壌その他の環境の自然的構成要素が良好な状態に保持されること。
(2) 森林、農地、水辺地等における多様な自然環境が地域の自然的社会的条件に応じて体系的に保全されるとともに、生態系の多様性の確保、野生生物の種の保存その他の生物の多様性の確保が図られること。
(3) 人と自然の豊かなふれあいが確保されるよう、身近な水や緑の形成、優れた景観等の保全、歴史的文化的資源の活用等による地域の個性を生かした潤いと安らぎのある文化的な環境の形成等が図られること。
(4) 環境への負荷の低減に資するよう、廃棄物の減量、資源およびエネルギーの消費の抑制または循環的な利用等が促進されること。
  (市の施策の策定等に当たっての配慮)
第8条  市は、市の講ずる施策の策定および実施に当たっては、環境の保全について配慮しなければならない。

鯖江市環境市民条例  2001年12月25日  鯖江市条例第25号 (資料篇10~21頁)
第1章  総則(第1条-第6条)
第2章  市民参加の促進
 第1節  環境市民の育成(第7条-第10条)
 第2節  きれいなまちづくりの推進(第10条の2-第10条の4)
第3章  環境教育・学習(第11条-第13条)
第4章  循環型社会の形成(第14条-第18条)
第5章  地球環境の保全(第19条-第21条)
第6章  自然環境の保全
 第1節  緑化の推進等(第22条-第25条)
 第2節  野生生物の生息環境の保全(第26条・第27条)
第7章  生活環境の保全
 第1節  野外焼却時の配慮(第28条)
 第2節  大型ごみの適正処理(第29条)
 第3節  空き地等の適正管理(第30条-第32条)
 第4節  愛がん動物の管理(第33条-第38条)
 第5節  空き缶等の散乱防止(第39条-第43条)
 第6節  拡声機の使用に関する規制(第44条・第45条)
第8章  環境影響評価(第46条-第48条)
第9章  環境保全協定(第49条・第50条)
第10章  雑則(第51条・第52条)
第11章  罰則(第53条)
附則
第1章  総則
(目的)
第1条  この条例は、鯖江市環境基本条例(平成9年鯖江市条例第11号)の基本理念にのっとり、市民が健康で文化的な生活を確保するため、地球環境、自然環境および生活環境の保全に関し必要な事項を定め、市民、民間団体、事業者および市が一体となり、環境への負荷の少ない持続的な発展が可能な社会を形成することを目的とする。
(定義)
第2条  この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1) 地球環境  人の活動による地球全体の温暖化またはオゾン層の破壊の進行、海洋の汚染、野生生物の種の減少その他の地球全体またはその広範な部分の環境に影響を及ぼす事態に係る環境をいう。
(2) 自然環境  自然の生態系に占める土地、大気、水および動植物を一体として、総合的にとらえた生物の生存環境をいう。
(3) 生活環境  人の生活にかかわる環境をいい、人の生活に密接な関係のある財産ならびに動植物およびその生息環境を含むものをいう。
 [(4)~(13)略]
第6章  自然環境の保全
第2節  野生生物の生息環境の保全
(野生生物の保護)
第26条  何人も、自然の保護および育成に関する知識を深めるとともに、自然に生息する動物および植物(以下「野生生物」という。)を大切にしなければならない。
(野生生物生息環境の整備)
第27条  市は、野生生物の生息環境を確保するため、野生生物の生息が可能な環境の保全と創出に努めるものとする。
第7章  生活環境の保全
第4節  愛がん動物の管理
(啓発)
第33条  市長は、愛がん動物の適正な飼育管理に関する啓発に努めるものとする。
 (市民の協力)
第34条  市民は、愛がん動物の適正な飼育管理に関する意識の高揚に努めるとともに、良好な生活環境が損なわれないよう相互に協力するものとする。
 (投棄の禁止)
第35条  市民等は、愛がん動物を捨ててはならない。
 2  愛がん動物の飼育者(所有者以外の者が飼育し、および管理する場合はその者を含む。以下単に「飼育者」という。)は、愛がん動物の飼育をやめようとするときは、自らの責任において適切な措置を講じなければならない。
 3  飼育者は、愛がん動物が死亡したときは、みだりに捨てることなく、衛生的に処理しなければならない。
 (飼育者等の遵守義務)
第36条  飼育者は、次に掲げる事項を遵守しなければならない。
 (1)  愛がん動物を愛情を持つて管理し、愛がん動物が住民に危害を与え、または迷惑を及ぼさないよう適切に管理すること。
 (2)  愛がん動物の飼育環境を清潔に保ち、汚物等を衛生的に処理し、感染症等の発生を防止するように努めること。
 (3)  愛がん動物を屋外に連れ出すときは、公共の場所等において排せつされた愛がん動物のふんを衛生的に処理するための用具を携行し、直ちに回収すること。
 (4)  愛がん動物が公共の場所等を汚損し、または乱したときは、直ちに適切な措置を講ずること。
 2  動物に餌を与える者は、その動物の本能、習性および生理を考慮し、当該動物が他人に迷惑を及ぼし、または他人の良好な生活環境を損なうことのないようにしなければならない。
 (指導および勧告)
第37条  市長は、飼育者が前条第1項の規定に違反し、同項各号に掲げる事項を遵守しなかつたと認めるときは、当該飼育者に対し、必要な措置を講ずるよう指導することができる。
 2  市長は、前項の規定による指導を受けた者(前条第1項第3号の規定に違反し、前項の規定による指導を受けた者を除く。)が、当該指導に従わないときは、当該指導に係る措置を講ずるよう勧告することができる。
 (命令)
第38条  市長は、第36条第1項第3号の規定に違反し、前条第1項の規定による指導を受けた者が、正当な理由なく、当該指導に従わないときは、当該指導に係る措置を講ずべきことを命ずることができる。
鯖江市民主役条例 2010年3月26日 鯖江市条例第1号 
鯖江の地には、先人の礎のもと育み築かれた歴史、伝統、文化、産業、そして豊かな自然とすばらしい環境があります。地域社会の在り方や生活のスタイルが多様化する中、これらの貴重な宝を受け継ぎ、更に新たな価値を加えることで、住みたい、住んでよかったと思える鯖江を創造し、子や孫たちに手渡していかなければなりません。わたしたち(市民および市をいう。以下同じ。)は、市民一人ひとりの前向きな小さな声を集め建設的な大きな声とすることにより、思いを一つにし、ふるさとの再生に向けて喜びや痛みを共有、共感できるまちづくりを目指していきます。ここに市民の参加と協働で、未来への夢と希望が広がる鯖江をつくるために、この条例を制定します。

第1条(目的)
この条例は、市民が市政に主体的な参加を果たし、未来に夢と希望の持てる鯖江の実現に向け、市民と市が共に汗を流すという意志と、それを実現するために市の施策の基本となる事項を定めることにより、自分たちのまちは自分たちがつくるという市民主役のまちづくりを進めることを目的とします。

第2条(基本理念)
1 わたしたちは、まちづくりの主役は市民であるという思いを共有し、責任と自覚を持って積極的にまちづくりを進めます。
2 わたしたちは、まちづくりの基本は人づくりであることを踏まえ、それぞれの経験と知識をいかし、共に学び、教え合います。
3 わたしたちは、自らが暮らすまちのまちづくり活動に興味、関心を持ち、交流や情報交換を進めることで、お互いに理解を深め、協力し合います。
4 市は、協働のパートナーとしてまちづくりに参加する市民の気持ちに寄り添い、その意思を尊重するとともに、自主自立を基本とした行政運営を進めます。

第3条(ふるさと学習)
わたしたちは、ふるさとを愛する心を育むとともに、先人から受け継いだ郷土の歴史、伝統、文化、産業、自然、環境等を、自ら進んで学ぶふるさと学習を進めることにより、家庭、地域、学校が連携しながら、子どもも大人も一緒に人づくりに努めます。

第4条(鯖江ブランド創造)
わたしたちは、ふるさと学習で学んだ成果を基に、これらをふるさとの宝として更に磨きをかけることにより、自信と誇りの持てる鯖江ブランドをつくり出し、鯖江らしさを全国に発信するとともに、市民主役のまちづくりにいかすよう努めます。

第5条(ふるさと産業)
わたしたちは、地元で作られた農林商工業の産品を、業種や産業を越えて鯖江ブランド
として磨き上げ、競争力と発信力のあるふるさと産業をつくり出し、活性化するよう努めます。

第6条(地産地消)
わたしたちは、魅力あるふるさとの産品を率先して流通を図り、利活用することで、産業全体の地産地消を進め、ふるさと産業の活性化やまちの活力を産み出す運動に取り組むよう努めます。

第7条(地域づくり)
市民は、市民主役のまちづくりの基盤である地域の個性をいかすとともに、世代、性別等を越えたさまざまな立場の人々が助け合い支え合いながら、継続して活動していくことのできる自主自立の地域づくりに努めます。

第8条(ボランティア、市民活動)
市民は、まちづくりの主役として光り輝きながら、さまざまな地域課題に対応するボランティアや市民活動に積極的に参加するよう努めます。

第9条(情報の集約、発信)
わたしたちは、市民主役のまちづくり施策を効果的に進めるため、ふるさと産業、地域づくり、ボランティア、市民活動等それぞれの分野で情報を集約し、広く発信していくための仕組みづくりや拠点づくりに努めます。

第10条(市民と行政の情報共有)
市は、積極的な情報公開や情報提供の運用を進めるとともに、パブリックコメント、審議会、タウンミーティング、ワークショップ等を通じ、市民との間で情報の共有化、活用を図るよう努めます。

第11条(市民参画)
わたしたちは、市民自らが誇りややりがいを持って、市政や地域経営に直接携わることができるような仕組みづくりを進めることで、まちづくりの計画からその実施、評価までの各段階に応じ、継続した市民参画を実現するよう努めます。

第12条(条例の自己点検、見直し)
わたしたちは、市民の意識や社会の変化に応じて、自主的にこの条例の自己点検や見直しを行うよう努めます。

附則
この条令は、平成22年4月1日から施行する。
市民主役条令には施策案付きの各条解説があります(鯖江市民主役条令(解説・施策案付き))。ぜひご覧ください。
「環境基本条例」(1997年)、「環境市民条令」(2001年)、「市民主役条令」(2010年)にいたる長年にわたる環境に配慮して行動する環境市民育成の取り組みが、地域ぐるみで鳥獣害防止対策が実施できる鯖江市につながっていることを再認識しました。

害獣の生態及び行動特性を踏まえた効果的な被害対策と管理に関わる人材の養成 9月6日

被害総額172億円は氷山の一角
警備サービス企業ALSOKが鳥獣害対策事業に参入
ジビエを活用した外食メニューをJR東日本グループが手がける理由
若手農家が連携し、獣害から地域を守る
獣肉と無農薬野菜をブレンドし、「農家の顔が見える」商品を開発
排除ではなく、出没を減らす -田口教授の提言
イヌを活用した防御策を実施
「コンパウンド・ボウ」の導入
社員を地域活動の担い手に
より高精度なわなの開発


・田口洋美『クマ問題を考える 野生動物生息域拡大期のリテラシー 』(ヤマケイ新書、2017年4月) 
はじめに

第1章 平成のシシ荒れ
 動き出した動物たち/受け身なクマ/自然変容説から環境適応説へ

第2章 生息域拡大期の現実
 1 人喰いグマはいるのか ヒグマとツキノワグマ/肉食するクマ
 2 被害の二重構造
  2-1 春期 個体間の距離/クマの子殺し行動/行動の同調性/春期の人里出没/繁殖期の出来事/目撃情報の表と裏
  2-2 秋期 採食行動の拡散/秋期の人里出没/沈静化する夏
 3 むき出しの都市 河川を移動するクマ/痺れる現場/都市という名のフロンティア/人里に依存するクマ

第3章 近世の相克 「シシ荒れ」森の消長と野生動物
 1 生きるための闘い
 2 旧弘前藩領での出来事
 3 動く森の片隅で シシ垣のある風景/近世における鳥獣害対策/村に雇われた猟師/近世から近代へ/山の消長とイノシシの動き/猪鹿害の再発/里山の奥山化

第4章 狩猟の公共性
 1 接近する被害現場 ─バリア・リーフ構造の崩壊─
 2 猟と農耕 狩猟と駆除、そして個体数調整/狩猟と農耕
 3 狩猟の公共性

第5章 クマと向き合う
 捕獲と威嚇のメッセージ性/規則性と不規則性/ゾーンディフェンスとオフェンシブなアクション/遭遇しないために

おわりに

特集:シカによる影響を低減するための最新知見と課題(日本森林学会『森林科学』79号、2017年2月)
梶光一「イントロ〜ニホンジカ管理の近年の状況」
八代田千鶴「シカの捕獲体制の構築と課題」
飯島勇人「シカの個体数推定法の変遷と課題」
明石信廣「森林におけるエゾシカの影響を把握する」
浅田正彦「シカ対策を支える人材育成の課題〜研究者、行政、住民〜」
長池卓男・飯島勇人「アメリカ合衆国ペンシルバニア州でのオジロジカ管理に学ぶ-複数の主体の協働による順応的シカ管理-」


   研究テーマについて
   イノシシの生態、農作物被害の現状
   その対策について
   鳥獣害対策において、住民への情報伝達及び協力体制はどのようなことが必要か?
   野生鳥獣と人間(地域)が共生(共存)していくためにはどのようなことが必要か?


鯖江市の市民主役で取り組む地域ぐるみの鳥獣害対策 9月5日

福井県鯖江市は市民で取り組む獣害対策の優良事例として農林水産省Webサイトで紹介されています。
市民主役の鳥獣害対策(鯖江市)

鯖江市鳥獣被害防止計画(2008年、11年、13年、14年)

鯖江市民主役条令(2010年3月)
市民主役条例とは? 平成22年4月1日、市民が市政に主体的な参加を果たし、未来に夢と希望の持てる鯖江の実現に向け、市民と市が共に汗を流すという意志と、それを実現するために市の施策の基本となる事項を定めることにより、自分たちのまちは自分たちがつくるという市民主役のまちづくりを進めることを目的として、市民による市民のための「市民主役条例」が施行されました。
 市民主役条例の推進に向け、同年7月7日に設置された「鯖江市民主役条例推進委員会」と市が7項目にわたる協定を締結し、市民主役の具現化に取り組んでいます。
提案型市民主役事業化制度とは? 鯖江市では、市が行っている公共的な事業の中から、市民が「新しい公共」の担い手として自ら行った方が良い事業を「市民主役事業」として創出することで、公共における民間と行政との役割分担を見直し、市民の自治力を高めることを目的として、平成23年度実施事業分から提案型市民主役事業化制度を実施しています。
 市が実施する事務事業の中から、市民活動団体、地域のまちづくり組織、事業者等を対象に、公共的な事業を委託・民営化する提案を募り、市民主役事業の創出を図ることにより、公共サービスの更なる充実とスリムで効率的な市役所を実現することで、市民の市政への主体的な参画の実現と市民主役意識の醸成を図ることを目指しています。
第5次鯖江市総合計画改訂版(2010年3月、2010~2014)(改訂、~2016)
表紙・第5次鯖江市総合計画改訂版表紙・第5次鯖江市総合計画(2010年3月)

丹南地域鳥獣害対策マニュアル イノシシ編(丹南農林総合事務所、2011年2月)
丹南地域鳥獣害対策マニュアル(イノシシ編)2011年2月_ページ_1

丹南地域鳥獣害対策マニュアル(イノシシ編)2011年2月_ページ_2丹南地域鳥獣害対策マニュアル(イノシシ編)2011年2月_ページ_3丹南地域鳥獣害対策マニュアル(イノシシ編)2011年2月_ページ_5

丹南地域鳥獣害対策マニュアル(イノシシ編)2011年2月_ページ_4

丹南地域鳥獣害対策マニュアル(イノシシ編)2011年2月_ページ_6

表紙・改訂・鯖江市都市計画マスタープラン

 鯖江市では、平成9年に策定した都市計画マスタープランに基づき、将来都市像である「人にやさしく活力に満ちた文化の薫る交流都市」の実現に向けたまちづくりに取り組んでまいりました。
  しかし、計画の策定から10余年が経過し、人口減少社会の到来、少子高齢化の進展、地球規模での環境問題、地方分権社会への移行など、地方自治体を取り巻く環境が激動しています。
  このような状況を踏まえ、本市においても新たな都市計画行政の方向性を定めるため、都市計画マスタープランの改定を行いました。  本計画は、第5次鯖江市総合計画にある本市が目指す将来像「自信と誇りの持てる自主自立のまち」の実現に向けた都市計画行政の取り組みを示すものであります。
  鯖江市では、「みんなでつくろう みんなのさばえ」を合言葉に「幸福度の高い交流都市鯖江」を目指しています。市民が幸福度と満足度を高められるよう、鯖江市の魅力ある地域の宝を活かした交流・連携を図り、豊かな自然や歴史、伝統、文化が感じられるまちづくりを目指します。
  これからのまちづくりにおいては、市民、事業者の皆様と行政が手を携えあい、魅力と活力にあふれた市民主役のまちづくりに取り組んでいきたいと考えておりますので、皆様の御理解と御協力をお願い申し上げます。

表紙・人と生きもののふるさとづくりマスタープラン(2012年3月)

さばえの鳥獣被害対策マニュアル(2012年3月初版、15年3月第2版)
さばえの鳥獣害対策マニュアル

・鯖江市鳥獣害のない里づくり推進センター(2014年4月開設)
  中田都「集落総出の柵管理で5年連続被害ゼロ」
   (『季刊 地域』34号、2018年夏号 特集・地域力がものを言う 獣害対策)
       
表紙・第2次人と生きもののふるさとづくりマスタープラン(2017年)

近年、野生鳥獣が引き起こす農作物被害、人身被害、生活被害が全国で多発し、鳥獣被害対策が各地で進められています。本市でも、これまでに市内各地で多くの市民が鳥獣被害対策に取り組んできました。これからも鯖江市民および本市が協働して「鳥獣害のないふるさとづくり」を実現するために、市民・市民団体、事業者、行政、専門家がどんなことに取り組めばよいかを明らかにするため、マスタープランを策定しました。

  -人と生きものが仲よくくらせるまち-
抜萃・鯖江市環境基本計画改訂版(2,017年3月)_ページ_01

さばえのけもの探偵団(Webサイト)


日高市市民参加条令(2009年3月)
日高市では、誰もが住みやすさを実感できるまち「明日へきらめくまち、日高」を目指して、市民一人一人が主役となって参加できる「市民と行政の協働によるまちづくり」を進めるために、市民参加のルールとなる『日高市市民参加条例』が施行されました。
市の基本的な計画の策定等に当たり、広く市民の皆さんからご意見をいただくため、市民参加条例に基づき、市民参加手続を実施しています。
真下英二(NPO法人子ども大学かわごえ学長)「市民の参加と協働を実効あるものにするために」日高市 第1回市民会議講演資料
「市民参加条例(案)作りに参加しよう・協働のまちづくり市民の集い」『みんなの会in日高』Blog、2007年12月9日記事
今日は、日高市の「市民参加と協働づくり市民会議」が主催する市民参加フォーラム「市民参加条例(案)づくりに参加しよう・協働のまちづくり市民の集い」に参加しました。
 前半に「市民参加の必要性について」という、尚美学園大学 准教授 真下英二氏による講演があり、その後「市民参加と協働づくり市民会議」が市民がはじめてつくる条例の議会提出までのプロセスとスケジュールの説明がありました。(中略)
 条例の制定の方法には、市長案として議会に提案して議会に諮る方法、議員定数の十二分の一の議員による議員提案で議会に諮る方法、そして選挙権を有する住民の五十分の一以上の連署による住民請求する方法があります。
 「市民参加と協働づくり市民会議」のみなさんがこれらの方法の中から、条例案を市長に答申して市長案として議会に諮る方法を選択したのはなぜか聞きたかったのですが、壇上の方にはつたわりませんでした。
 はじめて市民がつくる条例と謳っているのに、市民発ではなく「そもそも何故市民参加が必要なのか?」という真下講師の説く必然性もないこの条例は、誰のために必要なのか。大きなクエッションマークが頭の上に浮かびましたが、これまで多大な時間とエネルギーを市民参加と協働のルールづくりに注いでいただいたメンバーのみなさんに敬意を表して質問することは控えました。

 これだけの努力で提案される条例案です。
「市民の集い」にはもっと大勢の市民に関心を持って参加してもらいたかったです。

埼玉県におけるアライグマ対策の総合的な体制づくり 9月1日

アライグマの都市進出に伴い、「アライグマ感染症リスク対策の重用性」(7月29日記事)が指摘されています。農作物被害に加えて、アライグマは市民生活への脅威となってきました。8月30日の『朝日新聞』には、「アライグマの害防げ 昨年度5400匹捕獲 対策学習会も」という記事が掲載されていました。埼玉県におけるアライグマ捕獲数の増加、生息場所の広がり、農作物被害の拡大、アライグマ専用捕獲器の開発などが紹介されています。
農林水産省HPの「鳥獣被害対策コーナー」の鳥獣被害対策の取り組み事例(2017年度事業成果)に『埼玉県におけるアライグマ対策総合的な体制づくり』があり「報告書」と「動画」がリンクされていました。

地域の概要
 アライグマ捕獲数の推移
1アライグマ捕獲頭数の推移

 アライグマの捕獲地点と生息地点
2アライグマの捕獲地点と生息地点

 埼玉県における獣種別農作物被害金額
3埼玉県における獣種別農作物被害金額

 コラム:生息域の拡大

埼玉県の取り組み
 アライグマ防除実施計画の策定(2007年)
 被害予防対策と計画的捕獲の組み合わせ
  無意識な餌やりをやめる
  安心できる場所をつくらない
  加害個体を他人まかせにせず獲る
 効果的な被害防止柵、専用捕獲器の開発・利用
  中型動物の農作物被害防止柵 楽落君
  アライグマの専用捕獲器

捕獲したアライグマの処分
 出口(処理方法)の整備
 情報を収集・分析・共有する体制整備

埼玉県におけるアライグマ対策の体制
埼玉県のアライグマ専用捕獲器の開発

あなたの家も危ない!? 都会を侵略“エイリアン”外来動物
あなたの家も危ない!? 都会を侵略!外来動物
わが家を守れ! “エイリアン”外来動物対策
勢力拡大!“エイリアン”動物 各地で思わぬ事態!?
※イノシシの都市進出については「アーバン・イノシシ物語 ワシらが都会を目指すワケ」があります。
衝撃映像!アーバン・イノシシ暴走 東京へも
アーバン・イノシシ物語 ワシが都会へ出る理由

埼玉県東松山市の地質 8月27日

原田吉樹・荒井豊『埼玉県東松山市の地質』(東松山市発行、19年7月改訂版)、化石と自然の体験館で購入しました(A5版、84頁、800円)。
P8250036

地質
1.埼玉県東松山市の地質
 1.1概要
 1.2東松山市の地質図
 1.3東松山市大字神戸鞍掛山の地質図
2.東松山市の基盤岩類
 2.1吉見変成岩類
 2.2柏崎の頁岩
 2.3基盤岩類から供給された神戸層の礫
3.東松山市の新生代 新第三紀の地層と化石
 3.1新生代新第三紀の地層(海成層)の対比
 3.2 1回目の海の時代(約1600~1500万年前)
  3.2.1荒川層
  3.2.2市ノ川層
  3.2.3野田層
  3.2.4福田層
 3.3隆起して陸化した時代(約1500万年前)
 3.4 2回目の海の時代(約1500~1100万年前)
  3.4.1神戸層
  3.4.2根岸層
  3.4.3将軍沢層
  3.4.4葛袋の岩石、鉱物
  3.4.5葛袋の化石
 3.5陸の時代(約1000~300万年前)
 3.6東松山市の新第三紀までの深度
4.東松山市の新第三紀末~第四紀の地層と化石
 4.1河川の時代(約300~100万年前)
 4.2やや冷涼な次代(約73~13万年前)
 4.3台地形成の次代(約13~1万年前)

湧泉
5.東松山市の湧泉
 5.1新第三系と段丘礫層の境界から湧出するパターン
 5.2中位段丘の段丘崖から湧出するパターン
 5.3武蔵野段丘の段丘崖から湧出するパターン
 5.4武蔵野面の窪みや谷から湧出するパターン
 5.5立川段丘の段丘崖から湧出するパターン

地層・岩石の利用
6.東松山市の地層や岩石の利用

参考文献
協力者・協力団体
執筆者略歴

埼玉県立自然の博物館展示解説書 8月23日

長瀞町にある埼玉県立自然の博物館の展示解説書2冊です。

埼玉の自然誌~埼玉の自然を知る・学ぶ~(埼玉県立自然の博物館発行、2019年3月)
P8250041

ごあいさつ
もくじ
埼玉県の自然を一望してみよう

第1章 博物館と秩父の自然
 1 日本地質学発祥の地と博物館
 2 長瀞の自然
 3 ジオパーク秩父
 4 埼玉県立自然の博物館

第2章 地質
 日本列島の中の埼玉
 埼玉県の歴史
 1 大洋の時代 石灰岩・チャート・緑色岩の形成
   古生代石炭紀~中生代三畳紀(3億年~2億100万年前)
  大洋の時代の岩石と化石
  武甲山の地質と石灰岩採掘
   コラム:放散虫革命
 2 大陸の時代 付加体の形成
    中世ジュラ紀~新生代古第三紀(2億100万年から2500万年前)
  秩父帯・四万十帯
  三波川帯
   コラム:国会議事堂に使用されている埼玉県石材
  領家帯と跡倉ナップ
  山中層群
 3 古秩父湾の時代 日本列島の原型形成
    新生代新第三紀(約2500万年~約1000万年前)
  秩父盆地の地層と化石
  古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群
  丘陵の地層と化石
 4 列島の時代 現地形の形成
    新生代新第三紀中新世(約1000万年前)~第四紀(現在)
  秩父トーナル岩と秩父鉱山
  ゾウが来た道
  ヒトの時代へ
   コラム:平野の地形
    日本一広い関東平野
    気候変動と河岸段丘
    関東造盆地運動 沈降する埼玉北部
    秩父盆地の川成段丘
   コラム:埼玉県産の鉱物

第3章 生物
 埼玉県の生物相
 気候と植生帯
 埼玉県のシンボル
 1 低地
  冬鳥のたたずむ池や沼
   コラム:河川敷の生きもの
   コラム:外来生物
 2 台地・丘陵
  冬枯れの雑木林
   コラム:人の暮らしと生きもの
  緑の濃い夏のアカマツ林
 3 山地
  彩られる秋のブナ林と渓流
   コラム:ニホンジカの増加による影響
   コラム:水滴散布
  石灰岩に刻まれた自然の造形
 4 亜高山
  シャクナゲ咲く初夏の原生林
   コラム:林床をかざる 美しいコケの世界
  様々な生きものの暮らす原生林
   コラム:針葉樹林の更新
   コラム:森をささえる 菌類の役割
  岩場に生きる
   コラム:不思議な生きもの 地衣類

参考文献
施設案内
利用案内

知って!埼玉 ~化石でたどる2000万年~(埼玉県立自然の博物館発行、2019年7月)
P8250042

ごあいさつ
プロローグ 埼玉県のトリセツ
 日本そして埼玉県の誕生
 埼玉県の基本データ
 日本の、そして埼玉の生物はどこからやってきたのか
 化石からたどる生物相の成り立ち

第1章 古秩父湾の時代 ~秩父の海の誕生から消滅~
 秩父の海の盛衰と化石
 比企丘陵の化石 ~他地域に見られる古秩父湾の時代の化石~
 荒川河床の化石 ~寄居・深谷~
 荒川から大発見 73本の巨大ザメの歯
 古秩父湾の時代の海の王者 史上最大の魚類メガロドンとは
 埼玉にサイがいた!? ~埼玉の海の時代の終焉~
 サイがいた森 楊井層の植物化石

第2章 ゾウの時代 ~大陸との接続と分断
 大陸からの分析 ~仏子層の化石と古環境~
 日本を代表するアケボノゾウ化石産地
 大陸との接続

第3章 巨獣の時代 ~古東京湾の時代~
 関東平野を広く覆う海 ~古東京湾の時代~
 ナウマンゾウが連れてきた!? 日本の生物たち

第4章 人類がやってきた ~変わりゆく生物相~
 奥東京湾の時代 ~人類の時代のはじまり~
 本州最古の縄文人前身骨格 妙音寺洞窟埋葬人骨
 現代型生物相の形成と崩壊
 消えゆく生物と露頭

資料篇展示資料一覧

研究ノート
 埼玉県産パレオパラドキシアから分かること
 菅沼標本からわかること
 日本のサイ化石 カワモトサイの重用性
 小型化したゾウの謎に挑む
 根小屋産出哺乳類化石群
 ツキノワグマはいつからツキノワグマか?

『生きもの上陸大作戦 ー絶滅と進化の5億年ー 』 8月7日

中村桂子・板橋涼子『生きもの上陸大作戦 ー絶滅と進化の5億年ー 』(PHPサイエンス・ワールド新書026、2010年)を読みました。巻頭の「生きもの上陸大作戦絵巻」、素晴らしいです。

 絶滅が大きな進化をうながす
今日、私たちが地上で目にするさまざまな樹木、美しい草花、周りを飛びかう虫たち、そして動物たち。こうした豊かな生態系の出発点はいまから5億年前ー地球に生物が誕生して33億年、生きものたちが住み慣れた「水圏」を離れ、陸に上がることを決意したときのこと。まずは植物、そして昆虫、脊椎動物が上陸。5億年で5度の大きな絶滅を乗り越え、たくましく進化する生物の一大イベントを活き活きと描く。(カバーから)

 『生きもの上陸大作戦 ー絶滅と進化の5億年ー』目次
生きもの上陸大作戦絵巻

第1章 植物たちの上陸大作戦
 1 最初の挑戦者は植物
  浅瀬は生物で大混雑
  最初に上陸に成功した植物とは?
  クチクラと気孔
  胞子を作るという工夫
  胞子体と配偶体の関係と進化
 2 森への道
  シダ植物と維管束の発明
  リンボク類は石炭紀の森林の主役
  森と土づくりと生態系
 3 現代の森へ
  森の産物が川を豊かにした
  寒冷・乾燥化がシダ植物を滅ぼす
  種子植物が優勢となったわけ
 4 花はどのようにして生れたか
  花を咲かす被子植物はいつ頃生れたか
  離弁花と合弁花
  花づくり遺伝子は古くから存在した
コラム
  花はどのようにしてできる?
  三つの遺伝子の組み合わせで

第2章 昆虫たちの上陸大作戦
 1 昆虫の上陸
  地球上で最も成功した生きもの
  無翅昆虫から有翅昆虫へ
  無翅昆虫の祖先はカブトエビか
  小型化こそが繁栄の秘密
 2 翅ができるしくみ
  翅の発明をめぐる二つの仮説
  遺伝子から「翅の獲得」を見る
  翅の枝分れと平たく伸びる性質の組み合わせ
 3 遺伝子と発生とから描く昆虫の進化
  羊膜ができることが進化の鍵
  分子系統樹と重ね合わせると
 4 植物と昆虫の共進化
  チョウの進化と食べる草の微妙な関係
  イチジクとイチジクコバチの共進化

第3章 脊椎動物たちの上陸大作戦
 1 筋肉のついたヒレから足へ
  「魚類時代」と顎の誕生
  常鰭類と肉鰭類ー「生きた化石」シーラカンス
  水中にいる間に進化した!?
 2 上陸した脊椎動物の先祖たち
  四足動物につながる最古の生物
  水中ですでに足ができていた
  浅瀬で暮らすー肺と肋骨と顎
  ディクターリクの奇妙な顎とうろこ
  陸上で暮らし始めたイクチオステガ
 3 手はどうやってできたのか?
  四本の足から二本の足へ
  アカンソステガの「八本の指」
  ヘッジホッグ遺伝子のはたらき
 4 ゲノム重複
  脊椎動物の進化とゲノム重複
  トラフグに起こった三回目の重複
  真骨魚類と四足動物のゲノム進化

第4章 絶滅が大きな進化を促した
 1 生きものの歴史の一つである絶滅
  恐竜の絶滅と隕石の落下
  絶滅の後で生き残ったものたち
  絶滅に気づいたとき
  浮き彫りになった「五回の絶滅」
  絶滅の原因を求めて
 2 五回の絶滅を追う
  超大陸パンゲアとスーパーブルーム説
  大噴火とメタンガスの放出
  四・四億年前(オルドビス紀末)、種の八五%が絶滅
  三・六億年前(デボン紀後期)、種の八二%が絶滅
  二・一億年前(三畳紀/ジュラ紀境界)、種の七六%が絶滅
 3 恐竜から鳥へ
  鳥類は恐竜の仲間から生れた
  恐竜は運動能力の高い混血動物
  化石からわかったもう一つの秘密
  恐竜の巧みな呼吸法

あとがき
生きもの上陸大作戦-003

大串龍一「里山の問題」1・2・3 8月2日

今西錦司、岩田久二雄、森下正明、吉良龍夫、宮地伝三郎など京都学派の生態学者の歴史をまとめた『日本の生態学-今西錦司とその周辺-』(東海大学出版会、1992年)の著者大串龍一さんの「里山の問題」を読みました。

 ●大串龍一「里山の問題」その1 (河北潟総合研究11、2008年)
  1.「里山」がなぜ話題となってきたのか
  2.里山はどんな場所か
  3.日本人のイメージする「里山」
  4.人によって改変された自然の重用性
  5.日本の里山
  6.日本の「里山」はいつ頃できたものか
  7.「里山」生活の解体と里山生態系の崩壊

 ●大串龍一「里山の問題」その2 (河北潟総合研究12、2009年)
  8.里山の範囲
  9.日本の里山は時代とともに変わってきた
  10.「里山」とくに日本の里山の特徴
  11.日本の里山は安定した生態系であったか?
  12.里山の動植物の特性、里山のミカン、シイクワシャーを手がかりとして
  13.生物多様性と里山
  14.「里山」文化の保全あるいは再生について
  付記 もう一つの課題、「水辺」生態系 里海などについて

 ●大串龍一「里山の問題」その3(河北潟総合研究14、2011年)
  自然史と社会史の産物としての「里山」 
   1)中世の大開拓期
   2)江戸時代前期の林野政策の転換
   3)江戸後期の世界的寒冷化と山地の荒廃
   4)明治期の石炭産業の大発展と森林の復元
  里山を支えたもうひとつの近代産業-養蚕と製糸-

広報『たてしな』6月号 7月30日

4月23日の記事でとりあげた長野県立科町出身の教育者、五無斎・保科百助(1868~1911)は、6月8日に生まれ、7日に亡くなっています。立科町の広報『たてしな』6月号に岩上起美男さんの「6月、五無斎先生を憶う[おもう]~ 本名? そして、現代書道の父・比田井天来先生との交わり?  ~」が12・13頁に掲載されていました。
広報立科2019年6月号12ページ広報立科2019年6月号13ページ

保科百助の「百助」は「ひゃくすけ」なのか「ももすけ」か。協和村(現・佐久市望月)で生まれた比田井天来との交わりの有無について本当のことを知りたいと願っている岩上さんは、保科百助という人物を大きく4点から評価しています。

①体験型教育の実践者であり、差別の愚[ぐ]なることを力説し、差別撤廃[てっぱい]のために尽力[じんりょく]した謹厳実直[きんげんじっちょく]な教育者。
②もったいぶった権力[けんりょく]や権威[けんい]に対する反骨心旺盛[はんこつしんおうせい]な人。
③自己本位で、悟[さと]らんとして悟りきれない煩悩[ぼんのう]の世界に住んだ鬼才[きさい]。
④奇行[きこう]と毒舌[どくぜつ]の人という半面、シャイで、心優しいユーモリスト。

保科百助という人物についてさらに図書を紐解いて学んでみたくなりました。

広報立科2019年6月号13ページ-001
両親の位牌を見ては思ふかな 線香立つるかゝをほしなと





アライグマ感染症リスク対策の重用性 7月29日

今年も「市民のための環境公開講座」が始まりました。損保ジャパン日本興亜環境財団、日本環境教育フォーラム、損害保険ジャパン日本興亜が協働で開催する公開講座です。7月24日には「生物多様性と私たちの生活」をテーマに国立環境研究所生態リスク対策室室長の五箇公一さんが講演しました。五箇さんはメディア出演の多い人です(https://www.nies.go.jp/biology/pr/tv.html)。講演では、生物多様性の現状とリスクについて研究成果をもとに立て板に水の如く語られ、情報量は通常の講演の2倍近くあったと思います。その中で「アライグマ感染症リスク対策の重用性」(人獣共通感染症)について再認識することができました。このテーマに関わる記事はネット上にたくさんありますが、いくつかリンクしておきます。学習にご利用ください。

外来種の意図的・非意図的導入と外来種の影響(五箇公一)
外来種の意図的・非意図的導入(五箇)外来種の影響(五箇)
「飼い猫にマダニ」で感染症が怖い 都市部に持ち込んで来る「犯人」とは(J-CASTニュース 2017/9/ 2 15:00)
 野良猫に噛まれた後にSFTSを発症
 都会で増加中のアライグマにマダニが付着

 ※SFTS:重症熱性血小板減少症候群。
  主にウイルスを保有しているマダニに咬まれることにより感染するダニ媒介感染症。 

マダニ感染症の謎を追う(『NHK NEWS WEB』2017年8月30日放送)
 過去最高ペースの発症者数 致死率は20%
 マダニがペットの猫に
 なぜ山にいたマダニが市街地に?
 ウイルスはどこから?
 治療法は?
 対策は?
 さらなる実態解明を

命を奪うマダニ感染症 ペットも野生動物も危険!?(『NHKクローズアップ現代』2017年8月30日放送)
 命を奪うマダニ感染症 ペットも野生動物も危険!?
 危険なマダニがペットに! 投稿から衝撃の事実
 あなたのペットも危険!? 投稿から“マダニ猫”マップ
 命を奪うマダニ感染症 猫に そして人に
 命を奪うマダニ感染症 山里から都市へ急拡大
 命を奪うマダニ感染症 身を守るには?

動物由来感染症(ズーノーシス)ハンドブック2019(厚生労働省)
 動物由来感染症から身を守ろう!

もう、人間と自然は共生できない 環境学者・五箇公一インタビュー(CINRA.NET)
インタビュー・テキスト 島貫泰介 撮影:古本麻由未 2014/11/12

生物多様性とローカリゼーション(月刊事業構想オンライン 2016年4月号)
   生物多様性の意義と現状 私たち人類の未来を支えるために生物多様性とどう向き合うべきか
    ・大絶滅は生物種の減少と新しい種の進化の場を与えた
    ・健全な生態系と人口爆発後の崩壊した生態系
    ・森林破壊は生物多様性の低下をもたらす
    ・生態系に深刻な影響を与える合成化学物質や生物の乱獲
    ・地域固有性を重視する

生物 ~社会を揺るがすアリとあらゆる問題~ (日本自然保護協会、2017年8月7日)
 出典:日本自然保護協会会報『自然保護』No.542より
 私達の生活にも密接にかかわっている外来種問題。
 暮らしの中で出合う疑問について専門の方に伺いました。
 ▲回答者:五箇公一氏(独立行政法人国立環境研究所 主席研究員)
 ●外来種問題Q&A
  【Q:渡り鳥も外来種ですか?】
  【Q:インフルエンザなどのウィルスも外来種ですか?】
  【Q:野菜を買ったらイモムシがくっついてきたけど、どうしたらいいですか?】
  【Q:どんなところから入ってくるのですか?】
  【Q:外来種が入ってくるとどんな悪影響がありますか?】
  【Q:温暖化で北上してきている昆虫などは外来種ですか?】
  【Q:駆除活動で生きものを殺すことについて、子どもたちにどう伝えたらいいですか?】

池の水を抜いて分かったニッポンの危機(日経ビジネス エコロジーフロント)
 国立環境研究所・五箇公一氏×テレビ東京・伊藤隆行氏 特別対談
 相馬 隆宏 2017年11月17日

生物多様性と私たちの生活(国立環境研究所 五箇公一、2018)
 1 はじめに
生物多様性という言葉がもてはやされて久しくなりますが、生物多様性の意味や重要性に対する理解が十分に多くの人に得られているとは言えません。同時にどれほど生物多様性が危機にさらされているのかも実生活上では実感しづらいところがあります。しかし、生物多様性の衰退は、水・土壌・大気環境の悪化や感染症・有害生物の蔓延というかたちで確実に我々の生活にも影響を及ぼし始めています。本講座では生物多様性の意義と現状、特に外来生物を含む人為的なかく乱要因による生物多様性の危機について、国立環境研究所での研究成果を交えながら、解説するとともに、私たち人類の未来を支えるために生物多様性とどう向き合うべきかを議論したいと思います。
 2 生物多様性とは
 3 生物多様性の創造ー進化と絶滅の歴史ー
 4 生物多様性の崩壊ー現代の大絶滅ー
  4.1 生物種の生息地破壊
  4.2 化学物質による汚染
  4.3 乱 獲
 5 地域固有性を脅かす外来生物
 6 私たちの生活と生物多様性

五箇さんに聞く︕「“外来種”は悪者︖」  -“外来種問題”から学ぶ、⾃然との向き合い⽅-
 <掲載日:2018年6月25日>
 取材協力:国立環境研究所生物・生態系環境研究センター生態リスク評価・対策研究室長五箇公一
 取材、構成、文:前田 和(対話オフィス)
  はじめに
  “外来種”って何のこと?
  “外来種”=すべて悪者?
  大切なのは、“外来種”というくくりではない
  誰がこの環境を作ったのか?
  私たちの暮らしの変化による影響
  これから、私たちが目指すべき方向とは?
  おわりに

外来種はなぜ問題なのか? : 人と動物の関係からみる外来種問題(池田透)
 『科学技術コミュニケーション』第23号(2018)
  1.はじめに
  2.外来種とは
  3.外来種が引き起こす問題
  4.特殊な歴史的背景をもつ外来種、ネコ
  5.外来種対策が進まない理由
  6.アライグマ対策の現状
   6.1 科学的データに基づいた捕獲戦略
   6.2 アライグマ捕獲の実例
  7.野生動物とのほどよい距離感とは

アライグマ防除の基本的な考え方・アライグマ捕獲の手順(編集・発行:関西広域連合、2015年)

四手井綱英「山科からの通信」 7月23日

書庫の整理をしていたら、2004年に発行された『グリーン・パワー』(森林文化協会)が数冊あり、7月号~10月号には四手井綱英さんの「山科からの通信」が掲載されていました。四手井さん93歳の里山論です。「里山について」「里山はどこを指すか」、「アジアの里山」、「これからの里山」というテーマで連載されたこの文章は後に『森林はモリやハヤシではない -私の森林論- 』(ナカニシヤ出版、2006年)の「Ⅲ 私の里山論」に収録されています。

四手井綱英『森林はモリやハヤシではない-私の森林論-』目次
I  私の森林生態学
森林生態系と林木育種/人工林と天然林/人工植林/糺の森の生態学的意義/秋田スギ林について/砂漠造林への序章/無計画な植林は環境破壊/北限のブナが活気づいていること/孤立したブナ林の復元はあくまで天然更新中心に/森林はモリやハヤシではない/森林と孤立木/林業用種苗の産地問題/小さな誤解/原生林/熱帯雨林/宇宙船地球号の森林生態学

II  私の自然保護と出会った人
自然保護に関して思うこと/自然保護雑感/じゃまなやつは殺せ/子供と環境/都市の自然/京都の自然/文化財としての環境保護/関西空港に関係して/司馬遼太郎さんと鋸,鉋考/上林盛二さんのこと/峰村助治氏(亀さん)と岡田長助氏(岡長さん)のこと/今西錦司さんの生誕100周年と豪雪地帯/二つの銀盃と神社の茅場/私は二度殺された

III  私の里山論
 里山について
  「里山」は私の造語か
  「里山」に行き着くまで
  裏木曽谷の「里山」

 里山とはどこをさすか
  里山の範囲
  里山の利用形態
  里山の環境
  欧州に里山はあるか

 アジアの里山
  熱帯アジアでは
  中国の里山ー敗戦前後の経験からー
  稲藁の利用について
  なかった藁製品
  低林について

 これからの里山

IV  私の林野庁時代――林業政策および林業経済
林業行政についての意見/私の現業官庁体験/大戦後の林業試験/私の考える林業経済

「「里山」という用語は、どうも私[四手井]が使い出してから急に、林業・林学関係者や自然保護関係者がよい表現法だと思って使うようになったものらしい。」(186頁)とあるが、「里山」は四手井さんの造語ではない。これについては、岡田航(おかだわたる)さんの「「里山」概念の誕生と変容過程の林業政策史」(『林業経済研究』63巻1号)に詳しい。かつて、「里山」という用語は森林生態学の四手井綱英氏が造語したという説(「この語はただ山里を逆にしただけで、村里に近いという意味として、誰にでもわかるだろう、そんな考えから、林学でよく用いる「農用林」を「里山」と呼ぼうと提案した……」)があったが、今日では「里山」は江戸時代の林政史料にしばしば登場していることがわかっている(2018年2月18日の記事)。四手井さんは「里山とはどこを指すか」で「「里山」は新しい言葉だ。昔あった言葉で、あたらしくよみがえった言葉であっても、私がどういう意味で使用しているかを、いちどはっきりしておきたい。私が「里山」と呼んだのは、…林業部門で古くから「農用林」と称していたのが一般の人にはわかりにくかったので、なんとか易しい表現に変えようとの意図からであった。したがって「農用林」が意味している農家の裏山で、おもに農家が直接暮らしに用いる木質材料はもちろん、農地が必要とする肥料の生産のための森林に覆われた山を指すつもりだった。」(193頁)
  里山の範囲
 別に厳格な科学的用語として作ったものではなく、はっきりした定義があって生まれたものでもないので、皆さんがそれぞれの概念で「里山」という用語を使っておられることに、私は異論を唱える義務も権利もないだろう。使用者がみずからその範囲を定義して使われればよいし、漠然とした一般用語として村里の裏山程度に思って使われても文句はないと思う。
 ただ、発案者としては、用いられる対象の範囲が、昔の農用林からあまり離れてしまうのもどうかと思う。とくに気になるのは、一般に林学でいう「低林」(ニーダーワルド)まで「里山」に含められると、いささか文句をつけたくなるのだ。
 低林は、伐採後、主として切り株から生じる萌芽で次代の森林が復活する天然萌芽更新の雑木林である。これは、薪炭林生産専用林で、純然たる林業の一部門をなしており、農業とは何ら直接の関係はない。山里の林業従事者が自家用の薪炭を生産しているのではなく、町に住む人々に販売する商品として薪炭を生産しているのだから、農用林、すなわち主として農地の肥料を生産している「里山」と混同することはできないだろう。(193~194頁)
四手井さんは、薪や木炭などの商品を専ら生産する薪炭林は林業を営む林であって、農業を営むための農用林ではないので、これを里山というのは同意できないという。四手井さんの「発案」以降、「里山」という言葉は広く使われるようになり、農用林や薪炭林にとどまらず、伝統的な農村環境、農村景観をさして「里山」が使われている場合もあり、「里地・里山」、「SATOYAMA」が使われている。それぞれの話者が「里山」という言葉で何を指しているのか吟味しなければなりません。


水田中耕効果説の否定 7月21日

1960年に『関東東山農業試験場研究報告』第17号に掲載された野島数馬さんの「水田の中耕に関する研究」は、「中耕は脱窒防止、雑草の発生防止、除草の3効果が主体で、それ以外の生育促進効果は認められないとし、端的には中耕には除草以外の効果のないことを明確に示した」(『昭和農業技術発達史第2巻水田作編』199頁~200頁)と評価されている。

永田 恵十郎さんの「稲作灌漑の農法的性格」(『水利科学』36号、1964年)の注23(同書130頁ー131頁)では、以下のように評価されている。
野島数馬氏は、江戸時代以降の中耕効果説の内容を、中耕にともなう地水温、土壌の PH、 Eh価、ガス量特に酸素、 NH3-N 虫などの変化、除草の効果、断根による養分吸収 ・生長の変化等に整理したうえ、室内 ・圃場場実験等でそれぞれ検討したところ、中耕は脱窒防止作用と除草および雑草発生防止の三作用の効果はあるが、他については在来の諸説のいうような効果は、ほとんど、あるいは全く認められないことを確認された。
 このうち 、脱窒防止作用も、田植後 10日目頃以降では、ほとんど消滅する点から、全層施肥による脱窒防止の方が合理的であり、結局中耕の効果とは、土壌の反転攪乱の効果ではなく、除草と雑草発生防止の効果であったと判断し、 「雑草の発生が実用的に無害の段階まで抑制され、かつ、肥培法が改善されるならば、中耕は全く不必要な作業として水田から完全に排除されるであろう」と主張される。
 また、除草用具の発達との関係では「中耕効果説の土壌攪乱効果が牢固とした信念となっていなかったならば、既に早く除草専門の農具が発達していたに違いない。八反摺のような除草専門の農具の普及が案外伸びず、雁爪打から土壌の反転にかなり重点のおかれた爪の長い回転除草機へ発達した経過のなかには、能率 ・その他の問題はあったにしても 、以上のような事情が介在したのではな いかと推察される」と述べている 。
 さらに、今後の除草技術の方向としては、 (イ )「施肥法は合理的に行なわれているが、雑草の抑制が不充分である段階においては、 なお機械的除草が必要であるならば、その時の除草機は中耕除草機である必要はなく 、除草専門の機械であればよく」、(ロ)さらに、除草剤については、現在完全かっ安全な除草剤がないため、なお機械除草との併用が必要だが「農薬研究の発迷速度から将来を予想すれば、あまり速くない将来において、より理想的な除草剤が発明されることは疑う余地がない」とされている。
 以上のような野島氏の見解からもわかるように、既往における除草技術は経験技術としての中耕効果説として結びついて 、中耕-水田土壌の反転作業と結びついた多目的的複合作業として、つい最近まで一般化しており、それがまた除草用具の機能を中耕除草機として規定して 、除草専門用具の発達を押えていたのである。
 また、かかる性絡をもっ中耕除草技術は、施肥法、肥料の種類等の施肥技術のあり方と水準とも結びついており、その意味では水稲栽培技術体系を構成するー技術要素としての施肥技術の発展変化-例えば、全層施肥の一般化-によって、中耕による生育初期の脱窒防止作用の目的は後退し、したがって、そこから 、中耕作業と結びつかない単一目的の除草作業が、一方における除草剤の開発とも関連して、普及することになる。そしてかかる一連の変化のなかで水の雑草防除効果も、当然影響をうけてくることは容易に考えうるのである。要するにこうした事実を通じても、本章の当初に設定した論理的命題-個々の技術の発展変化による栽培技術体系の内容変化、 それにともなう他の技術要素に与える連鎖的変化-の妥当性を一応確認できるのである。
※野島数馬 「水田の中耕に関する研究」の総括及び結論(『関東東山農業試験場研究報告』第17号、109~111頁)
総括及び結論・水田の中耕に関する研究(野島数馬)
総括及び結論・水田の中耕に関する研究(野島数馬)2総括及び結論・水田の中耕に関する研究(野島数馬)3

中耕効果説の否定と中耕除草機離れ 7月21日

『昭和農業技術発達史第2巻水田作編』(農山漁村文化協会、1993年)199頁~202頁
 第5章水稲雑草防除技術
  第2節除草剤利用による水田除草労働からの解放
    3.中耕効果説の否定と中耕除草機離れ
 2,4-Dが普及され始めると、水稲作の除草法について農家から1つの問題が提起された。それは、この当時、中耕除草には除草の他に水稲と土壌に土壌かく拌好影響を与えるという中耕効果説が広く農家に浸透していたため、除草剤で除草ができる場合にもなお中耕をする必要があるのではないかという問題であった。この考え方は古く江戸時代の農書に現れ、明治年代以降の農学者・栽培技術者の検討を経て広まり、さらに昭和年代に入って土壌肥料の面でも検討されて理論的な説明もなされるようになった。
 そこで農林省関東東山農業試験場(当時)の野島数馬は、昭和26年(1951)から、中耕効果説に含まれている脱窒防止、土壌肥料面での土壌かく拌効果、地温上昇効果、土壌中への酸素の供給、根への影響について詳細な解明を進めた。また、明治年代以降に国公立の農業試験場で行われた中耕に関する多数の試験結果を検討した。野島は昭和35年(1960)にその研究成果を公表し、中耕は脱窒防止、雑草の発生防止、除草の3効果が主体で、それ以外の生育促進効果は認められないとし、端的には中耕には除草以外の効果のないことを明確に示した。この論文の中で、従来の試験結果では全体として中耕効果説は認められない(図略)のに反して、発表されたものは中耕効果説支持のものが多かったことが明らかにされ、既製概念の打破のむずかしさが示唆された。
 ところで、水田中耕除草機は昭和30年(1955)前後に2つの面で進歩した。1つは、小型トラクターで除草機をけん引するか、小型トラクターに除草用駆動車輪を装着する動力型中耕除草機の開発であり、他の1つは、株間除草器という土壌かく拌の深さが浅く、水稲の株際までかく拌できる人力除草機の考案であった。前者は主に3条型、後者は1条型であった。しかし、前記のように除草剤の開発と利用が進むと、水田雑草の防除は次第に除草剤の利用に負うところが大きくなった。
 除草法の変化を表5-3でみると、2,4-Dなどの茎葉処理材の他にPCP粒剤の普及もかなり進んだ昭和37年(1962)には除草剤は79%の水田で利用され、機械除草は71%の水田で行なわれていた。その3年後(1965)には除草剤利用は77%、機械除草は51%の水田で行なわれており、機械除草の比率が低下してきた。以上2回の調査結果は手取除草・中耕除草・除草剤のうちのいずれを利用したかを示したもので、具体的な組合わせ方は省略してあるが、昭和43年(1968)の調査結果は雑草防除手段の具体的な組合わせ方まで示したものである。昭和43年は茎葉兼土壌処理剤が普及し始める直前に当たるが、除草剤処理の回数別にみると、利用しないもの3%、1回25%、2回63%、3回9%であり、すでに3回処理の除草法まで出現していた。一方、機械除草は51%で3年前の調査と変わりがなかった。
 ここで注目すべき点は手取除草の有無であり、手取除草は3回の調査で年次順に41%、71%、92%の水田で行なわれており、むしろ年々比率が高まった。この主要因は多年生雑草の増加であったとみてよい。このころの多年生雑草はミズガヤツリ、ウリカワが主体であったが、これらがひとたび増加してしまうと中耕除草もあまり効果がなく、その結果再び手取除草が広く行なわれるようになったのであろう。以上のような以上のような事情のもとで、その後中耕除草の実施は急速に少なくなり、通商産業省の中耕除草機の生産台数の調査も昭和47年(1972)で中止された(図5-5)。
表5-3 除草剤の普及と除草法の変化(同上書200頁)
除草剤の普及と除草法の変化

表5-5 水田中耕除草機の生産台数(同上書201頁)
水田中耕除草機の生産台数

水田中耕除草機の進歩 7月21日

『昭和農業技術発達史第2巻水田作編』(農山漁村文化協会、1993年)193頁~194頁
第5章水稲雑草防除技術
 第1節防除剤利用以前の防除方法の進歩
   1.水田中耕除草機の進歩
 水稲栽培では湛水、移植による生育促進という2要因によって雑草の発生生育が抑制されるが、雑草を放任しておけば20~40%の減収となる。水稲直播栽培ではさらに著しい減収となる。
 水稲作の除草は古くは1~3番除草の手取りとヒエ抜きとによるのが一般的であったが、江戸時代には雁爪などが用いられるようになった。しかし雁爪による除草も手取りと同様に四つんばいの姿勢で1回に10a当たり2人もかかる重労働であり、夏の間煮え田で除草を続けた農民は文字通り“農業とは雑草との闘い”であることを実感した。
 明治年代に入って八反取・田打車・豊年車などが考案され、立ち姿で除草ができるようになった。田打車は明治25年(1892)に島根県の老農、中井太一郎によって考案され、特許登録がなされた。これは太一車ともいわれ、正条植えの励行と歩調を合わせて普及し、改良が加えられて、大正年代に1条用と2条用の人力回転中耕除草機の完成をみるに至った。
 下って大正9~12年(1920~23)に畜力水田中耕除草機が岡山県立農事試験場の塩見邦治技師によって考案、試作され、大正13年(1924)から全国の府県農事試験場で実用性が検討され、徐々に実用に移された。これは国公立試験研究機関における水稲作除草技術研究の最初の実用的な成果であったといえる。畜力水田中耕除草機の主体は広幅の等幅3条型であったが、水稲の技術密度を高めるために牛馬を通す条間だけを36~39㎝の広幅にし、それ以外の条間を27㎝程度にする中広3条型や中広5条型のものもあった。しかし畜力水田中耕除草機の利用は狭い条間に牛馬を通すことなど技術的にむずかしい点もあって、主として人力回転中耕除草機が使われた。中耕除草機を主体とした除草方法としては中耕1~2回、手取り1~2回、ヒエ抜き1回が一般的であった。
 以上のような水稲機械除草方法の進歩にともなって、10a当たりの除草労力は雁爪時代の7~8人から3~4人に削減された(表5-1)。
表5-1 機械除草方法の進歩(同上書195頁)
機械除草方法の進歩

水稲作における除草法の進歩と除草労力の推移
水稲作における除草法の進歩と除草労力の推移(近藤康男)

岡田斗司夫『評価経済社会』 6月10日

岡田斗司夫『評価経済社会 ぼくらは世界の変わり目に立ち会っている』(ダイヤモンド社、2011年)は、『ぼくたちの洗脳社会』の増補改訂版です。「“お金”の時代から“評価”の時代へ。例えば、twitterのフォロワーをお金で買うことはできません。」「大変化の時代を幸せにいきるためにぼくたちのできることはなんだろうか?」「混迷の時代の羅針盤!」(同書帯より)

『評価経済社会 ぼくらは世界の変わり目に立ち会っている』目次
第1章貨幣経済社会の終焉
100年前の未来/50年前の未来/西暦2001年のオフィス/技術の進歩は社会常識を変える/「科学は死んだ」/トフラーの予言/ 堺屋の反論/経済的視点の限界/パラダイムシフト/若者の価値観を見る/ネット内のオカルト/チープ革命/私たちの内なるオカルト/最も大事なもの「今の自分の気持ち」/もう「豊かになることによる幸福」が信じられない/正しい未来/科学主義者/再び「科学は死んだ」/価値観変化の中心/何が科学を殺したのか?/マスメディアの親殺し/理系離れの「エコロジー問題」/社会自身の「理系離れ」/では経済は死んでいないのか?/経済が輝いていた時代/「評価経済社会」

第2章パラダイムシフトの時代
消えた古代都市/パラダイムシフトの時代/人間のやさしい情知/農業以前の精神文明/農業革命と社会変化/封建社会の価値観/引き返せない楔/古代科学帝国の限界/「モノ不足・時間余り」の中世/高度抽象文明/産業革命前夜の風景/「科学」はキリスト教から生まれた/中世社会の崩壊/ 民主主義・経済主義を生む「科学」/近代のパラダイム/近代人の生き甲斐/「国民教育」の正体/近代人の苦悩/ネット中世/人類の「悩み相談所」/新しいパラダイム/「モノ不足・ネットによる情報余り」の時代/唯一無二の自分/求められる「生涯教育産業」

第3章評価経済社会とは何か?
溶けていく極地の氷山/「影響」とは何か?/メディアの影響力/「高度情報化社会」の正体/ポスト軍事力としての「影響力」と「評価」/メディアの本質/「報道主義」というイデオロギー/兵器としての映画/「評価経済社会」/貨幣から評価へのバトンタッチ/「洗脳装置」から「影響/評価装置」へ/市民に開放された「影響」/【実例1】ネットの世界/【実例2】コミックマーケット/評価経済社会の勝者/ 評価資本に基づく「影響力」のある企業/評価経済社会に適応した会社モデル「FREEex(フリックス)」/未来企業を左右する「評価資本」/評価資本に恵まれたSONYとApple、その明暗/評価資本の投資と回収/評価経済社会での消費行動/望まれる企業像/評価経済社会での政治/有名人であるデメリット/「政治の意味」の減少/「国家権力」の変容/分断される日本

第4章幸福の新しいかたち
評価経済社会のキーワード/人を「中身で判断する」とは/価値観で判断される個人/価値観共有グループ/二次文化集団/価値観並立の訓練/非就職型社会/TPOで使い分ける価値観/「近代的自我」の呪縛と限界/情報化会で求められる才能/近代的自我から「キャラ」へ/評価経済社会での「自分」/「自分の気持ち」至上主義/評価経済社会で求められる「商品」/評価経済社会を生きる人たち/「結婚」の解体/「家族」の解体

第5章新世界への勇気
今、起きつつある「変化」/失楽園/新世界への勇気

新版への付録
クラウドアイデンティティ問題

おわりに


岡田斗司夫『ぼくたちの洗脳社会』 6月9日

岡田斗司夫さんの『ぼくたちの洗脳社会』(朝日文庫お42-1)『「世界征服」は可能か?』(ちくまプリマー新書061)、『カリスマ論』(ベスト新書491)、『フロン』(海拓社)を読みました。

『ぼくたちの洗脳社会』は1995年に単行本が発行され、98年に朝日文庫に収録されました。岡田さんのデビュー作です。

朝日文庫版『ぼくたちの洗脳社会』目次
◆本書の読み方◆

第1章★パラダイム・シフトの時代
百年前の未来/ 西暦二〇〇一年のオフィス/技術の進歩は社会常識を変える/「科学は死んだ」/トフラーの予言/堺屋の反論/経済的視点の限界/パラダイム・シフト/若者の価値観を見る/オカルト/コンピューターネットの中のオカルティスト/隠れたベストセラー「トンデモ本」/我々の内なるオカルト/最も大事なもの「今の自分の気持ち」/もう「豊かになることによる幸福」が信じられない/正しい未来/科学主義者/再び「科学は死んだ」/価値観変化の中心/何が科学を殺したのか?/マスメディアの親殺し/理系離れの「エコロジー問題」/社会自身の「理系離れ」/では経済は死んでないのか?/経済が輝いていた時代/「洗脳社会」

第2章★マルチメディア中世
消えた古代都市/パラダイム・シフトの時代/人間のやさしい情知/農業以前の精神文明/農業革命と社会変化/封建社会の価値観/引き返せない楔/古代科学帝国の限界/「モノ不足・時間余り」の中世/高度抽象文明/産業革命前夜の風景/「科学」はキリスト教から生まれた/中世社会の崩壊/民主主義・経済主義を生む「科学」/近代のパラダイム/近代人の生き甲斐/「国民教育」の正体/近代人の苦悩/マルチメディア中世/人類の「悩み相談所」/新しいパラダイム/「モノ不足・情報余り」の時代/唯一無二の自分
/求められる「生涯教育産業」

第3章★洗脳社会とは何か
油まみれの海鳥/「洗脳」とは何か?/マスメディアの洗脳/「高度情報社会」の正体/ポスト軍事力としての洗脳/メディアの本質/「報道主義」というイデオロギー/兵器としての映画/「自由洗脳競争社会」/経済から洗脳へのバトンタッチ/独占されていた「洗脳装置」/市民に開放された「洗脳」/【実例1】パソコン通信の世界/【実例2】コミックマーケット/洗脳社会の勝者/「洗脳力」のある企業/架空企業「SDL」/未来企業を左右する「イメージキャピタル」/イメージキャピタルに恵まれたSONY、Apple/イメージキャピタルの投資と回収/洗脳社会での消費行動/望まれる企業像/洗脳社会での政治/有名人であるデメリット/「政治の意味」の減少/「国家権力」の変容/分断される日本/洗脳国境

第4章★価値観を選択する社会
洗脳社会のキーワード/人を「中身で判断する」とは/価値観で判断される個人/価値観共有グループ/ネチケット/二次文化集団/価値観並立の訓練/非就職型社会/TPOで使い分ける価値観/分割される個人/洗脳社会での「自分」/狂っている「パパラギ」/「近代的自我」という呪縛からの解放/「自分の気持ち」至上主義/求められる「洗脳商品」/洗脳消費者たち/「結婚」の解体/「家族」の解体/自由の代償

第5章★新世界への勇気
今、起きつつある「変化」/失楽園/新世界への勇気

あとがき

特別企画★解説3連発
小林よしのり/太田光(爆笑問題)/角田暢夫

保科五無斎碑 4月23日

4月16日、カタクリの花を見に立ち寄った長野県北佐久郡立科町山部の津金寺[つがねじ]に建てられていた明治時代の教育者・鉱物学者、保科百助(ほしなひゃくすけ)(1868ー1911)の顕彰碑です。石碑の人物・保科百助については、「百助少年」(立科町HP 2016年3月30日)。
P4160089

「五無斎」については、鉱物採集に出かけた先でわらじが切れてしまい、そばの茶店で買おうとしたところ手持ちが僅かに足りず、店の主人が値をまけてくれないことから「お足なし 草鞋なしには 歩けなし おまけなしとは お情けもなし」と狂歌を詠んだことから、あるいは『海国兵談』の著者林子平(1738ー1793)は「親も無し妻無し子無し板木無し金も無けれど死にたくも無し」から六無斎と号しましたが、それにならったともいわれています。
P4160090
石碑に刻まれている「我死なば 佐久の山部へ 送るべし 焼いてなりとも 生でなりとも」、「ゆっくりと 娑婆に暮らして さておいて わしは一足 ちょっとお先へ」が気になってどういう人物だったのか調べました。泊まるところがなくて友だちのところに出したという「○○ ○○○○○○○○○○に○」は「こまるこまる とまるにこまる」と読むそうですが、寄行・奇言の類はさておき「立科教育の精神的原点」として世のため人のために自分の一生をささげた保科百助をたたえる立科町教育相談員・岩上起美男さんの文章が立科町のHPに多数掲載されています。「信州教育」という言葉がありますが、長野県が教育県と言われる所以を感じました。
 ●広報たてしな2013年7月「「立科教育」への期待」20頁21頁
 ●広報たてしな2013年8月「五無斎・保科百助先生の「無垢なる教育的情熱」と「立科教育」」10頁11頁
 ●広報たてしな 2013年9月「五無斎・保科百助先生の凄さと魅力」12頁13頁
 ●広報たてしな 2015年6月「五無斎・保科百助先生を偲ぶ~奇行奇言の背後に横たわる実像~」12頁13頁
 ●広報たてしな 2016年6月「怖い人、五無斎先生を偲ぶ」16頁17頁 
 ●広報たてしな2017年5月「北佐久郡川西が輩出した俊傑二人~教育一途の人・五無斎と現代書道の父・天来~」12頁13頁
 ●広報たてしな2017年6月「北佐久郡川西が輩出した俊傑二人~教育一途の人・五無斎と現代書道の父・天来~」16頁17頁
 ●広報たてしな2017年7月「北佐久郡川西が輩出した俊傑二人~教育一途の人・五無斎と現代書道の父・天来~」18頁19頁
 ●広報たてしな2017年8月「北佐久郡川西が輩出した俊傑二人~教育一途の人・五無斎と現代書道の父・天来~」16頁17頁
 ●広報たてしな2018年6月「五無斎先生を想う~悟らんとして悟りきれない煩悩の世界に生きた鬼才~」12頁13頁

川合伸幸『凶暴老人』 2月14日

川合伸幸さん(比較認知科学専攻)の『凶暴老人 認知科学が解明する「老い」の正体』(小学館新書316、2018年10月)を読みました。「なぜ高齢者ばかりがキレるのか? あなたも他人事ではいられない!」「世界に類を見ない日本人固有の特徴を解き明かす」「・暴行・傷害事件は平成8年の20倍に激増 ・衝動的な行動を止められないのはなぜか ・なぜブレーキとアクセルを踏み間違えるのか ・有酸素運動とビデオゲームが機能回復に役立つ これだけ知っておけば老後は大丈夫!」(帯から)

川合伸幸『凶暴老人』目次(第1~4章は章タイトルのみ)
はじめに
第1章 キレる高齢者は本当に増えているのか
第2章 前頭葉の「機能低下」が感情のブレーキを壊す
第3章 怒りと前頭葉の深い関係
第4章 認知能力は鍛えられる
第5章 冷たい視線に晒される高齢者の社会的存在
・高齢者の「暴力」に耐えかねる日本の高齢者介護施設職員
・「よそ者」には共感しにくい
・高齢者は外集団か?
・日本の大学生は高齢者をどうみているか
・犠牲にしても良いと考える年齢は70歳と95歳では差がない
・ヒトを人とみなさない風潮が広がっている
・日本での非人間化
第6章 「孤立」が高齢者を追いつめる
・8割の高齢者が就労意欲を強く持つ
・高齢者の就業は経済的な理由でない場合が多い
・誰かとかかわることで生きがいが生まれる
・高齢男性は周囲に付き合いのない人が多い
・高齢者のおかれた状況の国際比較
・新たな仲間を求める高齢者
・再犯をした高齢者の半数以上はおひとりさま
・社会とのつながりが強いほど健康
・仲間はずれにされると怒りを感じる
・温かい家庭で育つと高齢期に強固な人間関係を形成する
・「まぁいいか」が幸せの秘訣
・腹を立てる高齢者を許さない社会
・豊島区の「姥捨山」政策
・共生社会を推進せよ
・流行した「紐帯」はどこへいった?
・高齢者との共生へ向けて
おわりに

東洋経済20160319表紙

【第1特集】この現実に社会は耐えられるか キレる老人
第1章 暴走する老人に大迷惑
(社会) 公共の場でもお構いなし 自分勝手なシニアの醜態
(分析) 激変する脳と心 高齢者の“暴走”は必然だ
第2章 子を悩ます困った親たち
(車) 「自分は大丈夫」が危険 過信が生む高齢運転の悲劇
課題にどう向き合うか 若年層でなり手がいない 職業ドライバーの高齢化
(色恋) 財産トラブルの火種 争族を生む老いらくの恋
(金銭) カモにされる理由がある 高齢者の銀行信仰は危険
(健康) 暴言、自己中は酒のせいかも アルコール依存症に要注意
課題にどう向き合うか 認知症患者の鉄道事故「家族に責任なし」でも残る課題
課題にどう向き合うか 一時金は最高300万円“認知症保険”は損か得か
第3章 激化する世代間バトル
(職場) 「生涯現役」の落とし穴 会社を蝕むシニア社員
(企業) ホンダ、すかいらーくが導入 動き出した定年延長の実情
名経営者も“迷経営者”に 居座り続ける老害経営者
INTERVIEW│「死ぬまで現役」宣言で老害化しませんか? 似鳥昭雄●ニトリホールディングス会長
(制度) 今もメディアをにぎわす 年金の世代間格差は本当か?
INTERVIEW│「経産省の介入派こそ老害だ!」 古賀茂明●元経済産業省官僚
(政治) なぜ若者の声は反映されない? シルバー民主主義の幻想
高齢議員がメロメロ 小泉進次郎の処世術

      お知らせ
    記事検索
最新記事
カテゴリ別アーカイブ