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読書ノート

江守正多「コロナと気候変動、その共通点と相違点」③ 6月26日

みんな電力株式会社が運営するウェブサイト『ENECT(エネクト)』の「ひと(PEOPLE INTERVIEW))」に掲載されている江守正多さんと上田マリノさんの対話「コロナと気候変動、その共通点と相違点」(全3回)。第3回は2020年4月22日公開されました。
「これまで長く気候変動問題に関わってきた経験から、闇雲に不特定多数に問題を啓蒙するよりも、強い意志を持って動く3.5%の人々の可能性に辿り着かれたという江守先生。そういった思考の根底には、仮にコロナ騒動が世界を席巻しようが、その間だけ期せずして数%のCO2排出抑制が実現しようが、時間が限られている中、地球が危機に瀕しているという厳然たる事実はそのままそこにあるということがあります。再生可能エネルギーへの転換は、純粋にポジティブに社会をアップデートするもの。そしてリーマンショックでも実際に減った世界のCO2排出量は2%以下だったのが、今回のコロナ禍では年内で約8%下がると試算されています[世界エネ需要、20年は過去最大の減少幅に CO2排出も=IEA (ロイター[Reuters]2020年4月30日)]。ただそれは、世界各地でこれだけ経済を止めた結果であって、それが復活した時、社会はいったいどうなるか。問題は、ではそれをどう理解して、私たちがそこに関わることで、地球の破綻をどう抑止できるのか。」
 コロナで緊急事態宣言になったわけですが、それは非常にショッキングなことでした。でも同時に一方で、気候変動に関してもしばらく前から「非常事態宣言」が出ています。多くの海外の自治体、イギリスの議会まで含めて、日本でもいくつかの自治体が「気候非常事態」ということを宣言していました。
 国会議員も超党派で、「気候非常事態宣言を目指す議員連盟」ができて[2020年2月20日]、動き始めた矢先でした。問題は、その気候とコロナの「非常事態」はどう似ていて、何が違うのか?(笑)
 まずコロナの場合は、接触削減で医療システムを守ることを最優先課題としています。そのために「非常事態なので、お店は休んで、飲食店も20時まで」といった強硬措置がなされました。さらに財源のある東京のような自治体からは協力金も出て、「補償金を払うから、申し訳ないけど止めて」ということが起きています。
 気候についてそれと似ていることがあるかということで、石炭火力のことを考えました。今、日本の石炭火力の発電所新設問題が世界から批判され、それがようやく国内でも人々に少しずつ知られるようになってきました。この件は、僕は補償金を払ってでも止めるべきではないかと思います。
 いままでの常識で、しかも気候が非常事態でなければ、[石炭火力]投資を始めちゃって止めると大損だから「じゃあ建てて」となります。でも今は「非常事態なので、申し訳ないけど止めてください」と。ただ「その代わり、国が一部補償しますよ」と。
 これが一つ、非常事態下にあることの、わかりやすい例なんじゃないかと思うんです。
 ドイツは2038年までの脱石炭を決めて、石炭業界に補償金を支払うそうです。「これで変わってください」、「産業転換してください」ということです。そういうのが、本当なら気候非常事態を受けて起きなければいけないことなんだと思います。
 日本は今コロナの緊急事態をきっかけとして、社会において「ある課題を最優先させるということはどういうこと」か、そしてそれが「気候変動の場合、何をしなければいけないのか」ということを学ばなければなりません。それは我慢でなくて、「システムを変える判断において気候そのものの優先順位が上がる」という、そういうことなんじゃないかと思っています。
 僕は、気候変動に興味を持つためには、まず「対策=我慢」みたいなイメージを払拭することが大切な気がしています。
 ある国際的な社会調査で、世界平均で約2/3の人が「気候変動対策は生活の質を向上させる機会」と認識しているという結果があります。対して、日本人は約2/3が「生活の質に対する脅威である」と答えています。日本人はなぜか、気候変動対策は「我慢」だし、「コストがかかる」し、「便利さや快適さを諦めなければいけない」と捉えているんです。何よりまず、そのイメージを変えなくちゃいけないと思っています。
 それはもっとポジティブで、社会をアップデートするものであり、しかも日本がもし脱化石燃料ということを最終的に達成できた暁には、化石燃料の輸入に払ってきたお金が全部国内でまわるようになる。そういった大きな経済的なメリットもあるわけです。ただ、もちろん途中で投資は必要で、その時に誰が得する損するといった問題は出てきます。
 でもこれは最終的には、しごく前向きな「社会のアップデートである」と。
 そういう「我慢じゃない」という認識を広めることで、潜在的に気候変動に本質的な関心が持てるような方々に、もっとこの話に入ってきてもらいやすくなるということが、起きないといけない気がしています。
 今はまだ、気候変動の問題に関心がある人でも、「自分はすごく我慢します。だから皆さんも我慢しなさい」という感じの方々がいらっしゃるわけです。
 僕は環境省の管轄下にある研究所にいるわけですが、環境省はいわゆる「国民運動」という、10数年前に京都議定書が始まってクールビズが流行りだした頃から、環境省が普及啓発をして、国民一人一人に「できることで協力して欲しい」というメッセージを出してきて今にいたります
 それがある意味でうまくいってしまった。だから僕たちは、環境問題とは「一人一人が生活の中で気をつけること」という風に理解してしまっているのかもしれません。
 しかし本当は、そこには環境省が管轄していない、大きな「エネルギーの問題」があります。そこは経産省の管轄です。環境省は「気候変動対策として、皆さんエネルギーのチョイスをしましょう」ということを言わないんです。
 だから、学校での教育も、「こまめに電気を消しましょう」という話に終始しがちでした。それはそれでいいんですが、それだけで終わってしまうことがこれまで多かったんじゃないかなと思います。
上田 私はずっと、環境省が出してるCOOL CHOICEに「電気は再エネを選びましょう」というのがあればいいと思っていたし、できる時は提案もしてきました。それが今、「あ、だからないんだ」ってわかりました(笑)。
江守 だって、本来それは一番の大事なチョイスですよね。
 あとは、本当は「政治のチョイス」ってことを言いたいんですが、それは役所は当然そんなこと言えないので(笑)。だから僕も、それは個人の立場で発言する時に言うようにしています。

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江守正多「コロナと気候変動、その共通点と相違点」② 6月26日

みんな電力株式会社が運営するウェブサイト『ENECT(エネクト)』の「ひと(PEOPLE INTERVIEW))」に掲載されている江守正多さんと上田マリノさんの対話「コロナと気候変動、その共通点と相違点」(全3回)。第2回は2020年4月22日公開されました。
「コロナ対策である「接触削減」や「ステイホーム」の根底にあるのは、「我慢」という姿勢。しかし気候変動対策の本質はそうではないはず。CO2排出をより抑制することの理解で大切なのは、それがとても「前向きな社会システムのアップデート」にあること。ではそれには、広くあらゆる人に問題について語りかけることが有効なのか、または狙いを定め、ピンポイントの啓蒙活動が必要か。」以下は江守さんの発言部分から引用(アンダーラインは引用者)。
 最近BBCやガーディアンで紹介された論文[FUTURE By David Robson 14th May 2019]で、「社会の3.5%の人が参加すると、ムーヴメントは成功する」、「社会を変えることができる」というものがあります。
 逆に言うと問題は、「どうやって本質的な関心を持つ人を社会の中で3.5%つくるか」ということなのです。みんながちょっとずつ関心を持ち、ちょっとずつ省エネしたりプラスチックを使わないようにしても、この問題は本質的に解決されません。
 「本質的な関心を持つ人」というのは、例えば「気候変動が本当に、自分や大切な人の生命に関わるような脅威である」とすごく思った人。あるいは、「気候変動は将来世代や途上国の人々を、その人たちが全然CO2を出していないのにすごく苦しめるから、倫理的に許せない」と強く思った人。または、「気候変動を何とかするため、脱炭素化のためなら人生を賭けてその仕事をしよう」と思った人という、とにかく強烈なコミットメントを気候変動に持てる人口が3.5%になれば、社会は変わるんじゃないかと思うんです。
 例えばアメリカを見ていると、環境に特にアンテナを立てて強い発信をしているレオナルド・ディカプリオみたいな人がいます。またはイギリスでも、エクスティンクション・リベリオン[Extinction Rebellion、略称:XR]のデモで著名人が逮捕されたり、欧米ではそういうことがあります。でもそれは日本にはない。政治家も、そこまで強い関心を持っている方というのは、いるかどうかもわからない。
 環境NGOにそういう人はいますが、そもそも社会にあまり存在を知られていないし、知られていたとしても「自分とは関係のない、極端な考えの人たち」という風に思われてしまうんじゃないかということで、日本ではあまり広がっていません。
 去年はスウェーデンのグレタさんが広く知られましたが、学生のムーヴメントが起きて、世界で約700万人がグローバル・ストライキに参加したといいます。そのうちドイツでは百数十万人が参加したとのことで、それはドイツ人口の2%に近くて、3.5%も視野に入ってきます。
 対して日本では、参加者は5000人でした。全然足りてない(笑)。
 ですから3.5%の人たちがもし関心を持つと、政治システムに働きかけるでしょうし、経済システムに対しても然りで、そのことで制度やシステムが変わるでしょう。そうすると残りの96.5%の人たちは、別にそんなことに関心を持たなくても、仕組みが変わっちゃったので、もう勝手にC02を減らすしかなくなります。
 すべての電力会社が再エネ100%になれば、再エネを使う以外はなくなります。車も電気自動車しか売っていなければそれを買うことになるし、家を建てようと思ってZEH[ゼロ・エネルギー・ハウス]しかなければ、ZEHを建てることになります。
 そして、そういう社会システムにするために積極的に後押しをする、「本質的な興味を持った人」がある程度必要ということです。最近僕は、じゃあ「そこを目指すべきじゃないか」ということを考えています。
気候変動の話は単に「クリーンなエネルギーを使おう」でもなく、本質的な変化のためには、むしろそれとは関係のない。
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江守正多「コロナと気候変動、その共通点と相違点」① 6月26日

みんな電力株式会社が運営するウェブサイト『ENECT(エネクト)』の「ひと(PEOPLE INTERVIEW))」に掲載されている江守正多さんと上田マリノさんの対話「コロナと気候変動、その共通点と相違点」(全3回)。第1回は2020年4月22日公開されました。
「「気候変動対策の本質は、今コロナでやっている自粛やステイホームのような我慢ではない。」それよりも、積極的に活動して「脱炭素社会への移行をどう実現するか?」という、しごくポジティブな思考と姿勢が大切」。以下は江守さんの発言部分から引用(アンダーラインは引用者)。
 気候変動の場合は、あるポイントを超えると世界の破滅が一気に起きるわけではなく、少なくとも今のところ現象は散発的です。ある年はある場所で大雨だったり、別の場所では大干ばつ、森林火災などが起きていますが、一つ一つはその場所にとってのイベントです。もちろんそれらを総体的に見れば、かつては起こりえなかった頻度や激しさであることが見えてくるんですが、まだ全体的な激しさはジワジワと高まってきている状況です。
 つまり気候変動は、今回のコロナほどにはわかりやすくない。もちろん異常気象が直撃した場所ではそれはそれは悲惨なことになっているんですが、それが自分のところにない限りは他人事でいられる。ただそれがいつ自分のところにくるか、その可能性は高まっているし、世界全体を俯瞰して見ても増えていると。
 コロナは世界で一気にきたし、気をつけないと自分や自分の家族が本当に死んでしまうかもしれないという話なので、言い方は変かもしれませんが、「よりわかりやすい」という感じはしてます。
 コロナに関して「気候変動自体が直接的に影響を与えて起きたか」というと、そこは現時点ではわかっていないし、たぶん、そうは言えないと思います。もちろん間接的に、気候変動によって起きた生態系破壊みたいなことが、ウイルスが出てきた原因の一部であるかもしれません。でも、少なくとも僕にはそれはわかっていません。
 それよりももっと根っこのところで関係があるというか、人間活動による生態系破壊やグローバル経済といったものと、気候変動を起こしている、直接的にそれは化石燃料の燃焼なわけですが、それを止められない世界の経済システムというものがあります。
 前提の認識として、それらは同じものです。その意味において、コロナと気候変動の問題には共通項があります。
 その次に、私たちに「何ができる?」、「アクションを起こして意味があるのか?」ということがあります。それに関しては、コロナと気候変動で似ているところと違うところがあると思っています。
 まずコロナに関しては「個人の行動変容」ということが、問題全体において決定的な役目を果たします。それは今、「接触機会の8割削減」ということが言われるわけですが、個人が「出歩かない」、「人に会わない」、「人と近くで喋らない」、「手を洗う」、「消毒をする」ということを一人一人がやるということが、この問題を当面封じ込めることにおいて決定的に大切です。そしてそのために店を閉めないとならないし、じゃあ「補償はどうするんだ?」ということが議論になっています。
 そことの比較で考えると、気候変動で個人が当面できることというのは、コロナの接触削減に当たるものがCO2排出削減になります。それは自分の生活の中で、なるべくCO2を出さないようにするのは、個人の立場でできることだし、今までもそこを意識して行動してくださった方々はそれなりにいらっしゃったはずです。
 それはもちろん素晴らしいことなんですが、実は気候変動の場合の「生活からCO2の排出削減をする行動」というのは、コロナにおける接触削減ほど本質的な重要性を持たないんじゃないかと思うんです。つまり、気候変動の場合は「あと30年で世界の排出量を実質ゼロにしないといけない」という話なので、自分たちが行動の中で多少気をつけてエネルギーを使う量を減らしても、正直そんなに変わりません
 2009年のリーマンショックでも相当経済が縮小したと言いはしましたが、CO2の排出量は2%くらいしか減りませんでした。今だってものすごくみんなが経済活動を止めて、「半分くらいはCO2が減ってるんじゃないか」と思いがちですが、家にいても電気は使います。そしてスーパーに物を運ぶため、Amazonの倉庫へもトラックは走ってますし、電車は空でも動いているわけです。ですから、実はエネルギーを使う活動はそんなに減っていないと思います。
 となると「活動の縮小」は、残念ながら本質的な「気候変動を止める」ところまでの効果は持ちません。そこだけに頼るわけにはいかない。そこが、コロナとの大きな違いでもあると思います。
 気候変動の場合は、そこを超えて、まさにこれはみんな電力さんの事業とも大きく関わることになる部分と思いますが、最終的には「再エネ100%の社会を目指す」と。それには「人々がどんなに活動をしてもCO2が出ない」という、社会を「そういったエネルギーシステムに変えてしまう」、そこを目指しているわけです。
 個人としても、そこをめがけて考えて行動していくのが、これから非常に重要なことだと思っています。それは、自分が人知れず省エネをやって、自分は頑張ったので、「もうあとは偉い人に任せます」ということでは決してないんです。
 つまり、社会の中で化石燃料が減って再エネが増えるのを、どう「個人として後押し」できるのか。その発想で個人もアクションをしていくことが、今後とても重要です。
 気候変動の文脈で、我々が目指しているのは「脱炭素社会」であり、電力も交通も最終的に全部が脱炭素エネルギーになればいいと思っています。その状態はコロナに置き換えると、治療薬とかワクチンが開発されて普及した状態に相当するんじゃないかと思います。
 つまり、今は我慢をしてるけど、最終的には「治療薬とワクチンが開発されて、この状態を克服する」ことが出口なわけです。その点において、コロナの場合は「今我慢すること」がすごく大事であると。
 それに対して、気候変動の場合は「脱炭素社会になる」という明確な出口があります。みんなでそれを目指すことはもちろん大事で、でもその時に「我慢」はあまり本質的ではない。むしろ積極的に活動して、「脱炭素社会への移行をどう実現するか?」ということがとても重要になってきます。
 僕がここをすごく強調するのは、コロナ対応はすごく我慢、自粛する社会的ムードになっています。それでCO2も減っているとなると、「もっと我慢すれば温暖化も止まるのか?」という発想になるかもしれない。でも、その考え方は危険です。その発想では結局、「コロナでこれだけ我慢して、その後に温暖化のことなんて、もう考えるのも嫌だ」という風に、多くの人はなってしまうように思えます。
 そうではない。
 「気候変動対策の本質は、今コロナでやっているような我慢ではありませんよ」と。それはもっと前向きな話であって、新しいエネルギーシステムとか交通システムと、食料や都市のシステムに社会をアップデートしていく。それを「どう、みんなで実現できるか考えましょう」と。だからそこが我慢ではなく、しごく前向きでポジティブなのが、気候変動の話なんです。
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最終確認 地球温暖化は本当なんですよね? 6月23日

『世界』2020年5月号に掲載されている江守正多[えもりせいた]さんの「最終確認 地球温暖化は本当なんですよね? 疑うのはこれで終わりにしよう」を読みました。以下の項目に答えています(聞き手=編集部・渕上皓一朗さん)。
 1 「温暖化」という現象は、本当にあるのですか?
     2019年までの世界平均気温の推定
 過去2000年の世界平均気温は、木の年輪などをもとにした代替データからの復元によって、ある程度推定できます(図2[上図]が最新の推定値をグラフにしたものです)。最後の150年間に、著しい気温上昇がありますね。
 しばしば言われる「中世の温暖期」、14世紀~19世紀の「小氷期」(ミニ氷河期)も、確かにグラフから見て取ることができますが、いずれも以外と小さいことがわかります。いまは明らかに過去にない異常な上昇を見せています。

 2 「温暖化」は温室効果ガスのせい?
 
 3 「温暖化」はよくあること?

 4 気温が原因でCO2が結果?

 5 CO2だけが悪者なのでしょうか?

 6 異常気象は気候変動のせいなのでしょうか?

 7 温暖化についてわからないことがあるのですか?
ー日本における懐疑論は、2000年代に盛り上がり、原発事故でいったん沈静化したのち、近年の「グレタ・ショック」で再燃している印象があります。その間、IPCCは、「二酸化炭素が気温上昇の主な原因である」かどうかについて、第3次報告書(2001年)において「可能性が高い」(66%以上)だった評価を、「可能性が極めて高い」(95%以上)に上方修正しています。この間、どのような研究の進展があったのでしょうか。
 基本的には、30年前に第1次報告書(1990年)で言われたことが徐々に、より確かになってきた、ということだと理解しています。その意味で、何か基本的なところでで新たな発見があったとか、そういうことではありません。
 ではなぜ確度が上がったかといえば、先ほど言った人工衛星のような観測技術や、シミュレーションのためのコンピュータの発展もありますが、なにより30年刊で実際に温暖化のプロセスが進行したことが非常に大きいですね。その間に取られたデータによって、議論の確実性がより高まっていきました。

ーつまり、懐疑論について議論する段階はとうに終わっているということですね。では、このテーマについて未解明の事項はもはやない、ということでしょうか?
 いえ、むしろ、新たに喫緊の課題が持ち上がっています。
 それが近年特に話題になっている、いわゆる「テッピング・エレメント」という現象です。温度上昇がある臨界点を超えたとき、仮にその後上昇を止めたとしても、変化の進行を止めることができないような現象で、いま非常に懸念されています。[中略]
 …[一度大規模に始まってしまうと、もう後戻りできない不安定なモードに突入]…それが本当に起こるのか、起こるとすれば何℃で起こるか、起こったらどういう現象が起こるか、非常に大きな研究課題です。
 さらには、それらの現象が相互に連鎖する可能性も懸念されています。一つのスィッチが入ったら、それによる変化が次のスィッチを入れてしまい、負の変化が連鎖して止まらなくなってしまうかもしれない。「ホットハウス・アース」とよばれ、注目されています。
 もうひとつ、喫緊の課題とされているのが「カーボン・バジェット」(炭素予算)です。平均気温の上昇幅を1.5℃で抑えるためには、どれほど温室効果ガスの排出が許容されるのか。
 今回のIPCC特別報告書では「2050年頃にはCO2排出量を実質ゼロにしなくてはならない」としていますが、いまだ推計値にはかなりの幅があります。この確度をどの程度上げ、それをどのように具体的に政策に落とし込むか、今後の研究にかかっています。

……科学的成果の何をどこまで信用すればよいのか、専門家でないわれわれ市民には、つねに難しい判断を突き付けられる。これは、未曾有の感染症流行に直面しているいままさに、切実な問題としてわれわれにふりかかっている。科学者と市民のあるべき関係について考えるうえで、温暖化懐疑論に対する研究者たちの数十年にわたる誠実な対話の姿勢から学ぶべきことは大きい。……(聞き手=編集部・渕上皓一朗)
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※YouTube【20分でわかる!温暖化のホント】地球温暖化のリアル圧縮版①[国立環境研究所動画チャンネル]地球温暖化をテーマに、江守正多(国立環境研究所地球環境研究センター副センター長)が、中高生にもよくわかるように解説する全3回シリーズの初回。第1回は「地球温暖化のウソ?ホント?」をテーマに、温暖化にまつわるよくある疑問について、クイズ形式で、わかりやすくお話しします。2020年3月に生配信した「【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】第1回 地球温暖化のウソ?ホント?」から、解説部分をぎゅっと20分に圧縮したダイジェスト版です。全編字幕つきで、より見やすくなりました。地球温暖化の基本を短時間で理解するのにおすすめです。


※YouTube【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】第1回 地球温暖化のウソ?ホント?[国立環境研究所動画チャンネル]地球温暖化をテーマに、江守正多(地球環境研究センター副センター長)によるトーク【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】を生放送します。日時:2020年3月13日(金)15時~15時40分くらいまで全3回のうち、第1回「地球温暖化のウソ?ホント?」をお届けします。特に中学生、高校生がよくわかるようにお話しします。もちろん、それ以外の方のご視聴も歓迎します。


※YouTube【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】第2回 温暖化ってヤバいの?[国立環境研究所動画チャンネル]江守正多(地球環境研究センター副センター長)によるトーク【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】(全3回)のうち、第2回「温暖化ってヤバいの?」を生放送します。日時:2020年3月18日(水)15時~15時40分くらいまで


※YouTube【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】[国立環境研究所動画チャンネル]江守正多(地球環境研究センター副センター長)によるトーク【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】(全3回)の、第3回「じゃあ、どうしたらいいの?」を生放送します。日時:2020年3月23日(月)15時~15時40分くらいまで


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江守正多「組織的な温暖化懐疑論・否定論にご用心」(掲載誌 : 国際環境経済研究所HP内「オピニオン」 (2020))
英語圏における組織的な温暖化懐疑論・否定論
 人間活動を原因とする地球温暖化、気候変動をめぐっては、その科学や政策を妨害するための組織的な懐疑論・否定論のプロパガンダ活動が、英語圏を中心に活発に行われてきたことが知られている。
 米国の科学史家ナオミ・オレスケスらによる「世界を騙し続ける科学者たち」(原題:Merchants of Doubt) にその実態が詳しく記されている。タバコ、オゾンホール、地球温暖化といった問題に共通して、規制を妨害する側の戦略は、科学への疑いを作り出し、人々に「科学がまだ論争状態にある」と思わせることだ(manufactured controversy) 。そこでは、規制を嫌う企業が保守系シンクタンクに出資し、そこに繋がりを持った非主流派の科学者が懐疑論・否定論を展開し、保守系メディアがそれを社会に拡散している。
 他にも社会科学者がこの問題について実態解明を進めており、2015年にNature Climate Changeに掲載された論文 では、懐疑論・否定論の多くはエクソン・モービルとコーク・ファミリー財団という化石燃料企業やその関連組織が中心となって広められていることがネットワーク分析により明らかになっている。
 化石燃料企業の経営の視点から見れば、温室効果ガスの排出規制等が政策として導入されれば収益に著しい損失をもたらすのだから、それを妨害するためであればプロパガンダ活動に相当の出資をしても見合うというのが「合理的な」判断かもしれない。
 しかし、気候変動の危機の認識が社会において主流となってきた現在では、そのような妨害活動の実態を暴かれることが、企業にとって大きなレピュテーションリスクや訴訟リスクとして跳ね返ることになり、損得勘定は以前と変わってきているだろう。エクソン・モービルは、1970年代から人間活動による温暖化を科学的に理解していたにもかかわらず、対外的には温暖化は不確かという立場をとり続けてきたことが明らかになり、複数の訴訟を起こされている。
日本における懐疑論・否定論
 筆者は2007-2009年ごろの地球温暖化が社会的関心を集めた時期に、温暖化懐疑論・否定論とずいぶん議論する機会をもった。筆者の当時からの認識としては、日本国内において英語圏の資本による組織的な懐疑論・否定論プロパガンダの影響は小さいと思っていた。
 日本では、懐疑論・否定論に同調的な産業界寄りの論客がたまに現れるものの、エネルギー産業や鉄鋼業などの企業も、組織としては気候変動の科学をIPCCに基づき理解しようと努めており、規制に対抗するにしても、科学論争ではなく政策論争を争点としているようにみえた。
 これまでに筆者が議論した懐疑論・否定論の論客(多くは気候科学以外を専門とする大学教授) も、英語圏の懐疑論・否定論をよく引用するものの、筆者個人の印象では、英語圏の資本による組織的なプロパガンダとはつながっていないようにみえた。
GWPFの記事を組織的に紹介?」「内容はどこがおかしいのか?」「IPCC「1.5℃報告書」の欠陥?」(略)

懐疑論・否定論のリスク
 温暖化懐疑論・否定論は主流の科学との議論に勝つ必要はなく、「なにやら論争状態にあるらしい」と世間に思わせることができれば成功なのであるから、それに反論する活動に比べると圧倒的にノーリスクで有利な、「言ったもん勝ち」の面がある。
 一方、世間がそのようなプロパガンダ活動の存在を知れば、ある組織がその活動に関わっていると世間から見られることは、組織の評判を毀損するレピュテーションリスクになるだろう。懐疑論・否定論を見る側も、見せる側も、そのことをよく理解してほしいと思う。
 最後に、この記事を寄稿させてくださったIEEI[国際環境経済研究所]のオープンな姿勢に敬意を表し、心より感謝を申し上げる。

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※『下野新聞SOON』(Shimotsuke Original Online News)の特集「気候変貌 とちぎ・適応への模索」第6部 次世代への(下)に掲載された「江守正多氏に聞く 温暖化世界と危機感の差」です。
 世界の平均気温は産業革命以降、すでに1度温暖化し、いまも上昇を続けている。持続可能な社会を次世代に引き継ぐために、私たちは気候変動とどう向き合えばよいのだろう。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書の主執筆者を務める国立環境研究所地球環境研究センターの江守正多(えもりせいた)副センター長に話を聞いた。
 2015年に国連で採択された地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」では、「世界平均気温の上昇を産業化以前と比べて2度より十分低く抑え、さらに1.5度未満に抑える努力を追求する」という長期目標が合意されている。
 昨年10月には、上昇幅を1.5度に抑えた場合の影響などをまとめた国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の特別報告書が公表された。気候変動による悪影響のリスクは、1.5度温暖化した世界では現時点よりも顕著に大きくなり、2度ならさらに大きくなることなどが書かれている。これを受け、世界では「やはり1.5度で止めるべきだ」という議論がかなり盛り上がっていると感じている。
 現時点で、世界の平均気温はすでに1度上昇している。1.5度未満で止めようと考えると、産業革命以降、もう3分の2まで来てしまった。そして残り3分の1は、今のペースで温暖化が進めば、あと20年前後で到達する。
 それが、私たちの現在地を示している。
  
 1度の温暖化による悪影響や、1.5度でどのくらいひどくなるかについて、まだ日本国内ではそれほど深刻には捉えられていないかもしれない。
 だが、大きな被害が出ているのは、対応力が限られる途上国の人たち。特に干ばつが食糧危機をもたらすような乾燥地域の国々、海面上昇や高潮の影響が生活基盤を脅かすような沿岸域、あるいは小さい島国の人たちにとっては、かなり深刻だ。
 こうした国々の他にも、世界では人類とその文明にとって危機的な状況が迫っているという認識を持つような人たちが増えてきている。中でも非常に大きなグループが若者たちだ。
 学校を休んで気候変動対策を求める「学校ストライキ」が世界中で起きている。今年の3月15日には約150万人が参加し、5月24日にも世界規模でのアクションがあった。
 例えば2050年に気温上昇が1.5度を超え、自然災害や生態系の破壊、さらに社会的な混乱が本当に深刻になった時に、彼らは40代ぐらい。社会の真ん中でそうした状況を受け止めなければならない世代が本気で心配しているということだ。
 彼らは今、政治的な発言権がないため、学校を休むという、ちょっと極端なことをやって注目を集めながら、自分たちの声を大人たちに聞かせようとしている。
 これは、現在の世界における危機の認識としては象徴的な出来事だ。
 温暖化を1.5度未満に抑えるためには、世界の二酸化炭素(CO2)の排出量を今世紀半ばに「正味ゼロ」(人間活動による排出と吸収の差し引きゼロ)にするというのが目安になる。IPCCの「1.5度特別報告書」が出る前、先進諸国は「50年に1990年比80%以上削減」などといった長期目標を掲げていた。
 しかし、特別報告書が出て、英仏などが50年に正味ゼロを目指そうと議論を始めた。「80%削減」でもぎりぎりだったはずなのに、どうすればそれが可能になるのだろうか。
 英語で「think(シンク) outside(アウトサイド) the(ザ) box(ボックス)」という言い方がある。箱の外を考えるという意味だが、「80%削減」を議論するとき、暗黙に置いている前提があったはずだ。
 でも「正味ゼロ」が必要だとの議論になると、おそらく暗黙の前提の方が変化する。常識が変わるということだ。いまの常識で考えると不可能に見えるが、常識が変われば可能かもしれない。世界では、そのように考える人がだんだんと増えている。
  
 日本国内でも昨年の記録的な猛暑や西日本豪雨、非常に強い台風の上陸などで大きな被害が出た。
 ある気象災害が、その年に、その場所で起きたことは偶然と言えるが、気候変動が進めば、そうした災害が長期的に増えていくことは必然だ。
 実際に起きた大雨の例で見ると、もし温暖化していなければ大気中の水蒸気はもっと少ないので、そこまでの雨量にならなかったはずだ。その意味では、日本でも温暖化の影響の一部を私たちは見ていると考えてよいだろう。
 だが、昨年の報道などを見ていても、異常気象は非常に大きな話題にはなったが、「だから温暖化を止めましょう」という話はあまり盛り上がらなかったように思う。
 世界との危機感の差に関して、もし日本に特殊性があるとすれば、よく指摘されるのは「3・11」だ。東日本大震災があり、原発と放射能や、地震のリスクが日本人にとって非常に重く認識され、地球温暖化問題は後回しになってしまった面があるのかもしれない。
 ただ、気候変動に向き合う世界の潮流にぴんときていないと、ビジネス上の危機という問題も起きてくる。
 世界では気候変動対策を真剣にやらない産業には、投資が集まらないようになってきている。国際ルールや常識がどんどん変わっていく中で、ある時、世界の空気を読み、対策を取らざるを得なくなった時、これまで建ててしまった石炭火力発電所みたいな施設が、投資が回収できない「座礁資産」になるなどのリスクが出てきてしまう。
 現状は、無意識ではあっても変えたくない勢力と変えていきたい勢力がせめぎ合っている感じがする。
 脱炭素社会へ変えたいと考えている企業や自治体などでつくるネットワーク「気候変動イニシアティブ」など、いろんな団体の人たちが政府にアクションを求め、自分たちで成功の実例を作って、広めていく役割が期待される。でも、周りが止まっていれば、それで間に合うかは分からない。
 もたもたしていると、海外で脱炭素のイノベーション(技術革新)のようなことが起きて、それが日本の産業を破壊するような事態になる可能性もある。気候変動対策の重要性を、ビジネス面からもしっかりと考える時期に来ている。
  
 一方、適応に関しては昨年、とても象徴的だと感じたことがあった。
 全国の小中学校の教室に熱中症対策でエアコンを入れることになったという出来事だ。かつては夏は暑くても我慢して勉強して、夏休みに休めばいいじゃないか、という考え方だった。
 気候が変わることで、社会の常識が変わる。そう強く実感した。
 そんなふうに気候の変化をしっかり認識し、対応すること。そして予見し、備えることが、極めて重要である。
【ズーム】IPCC「1.5度特別報告書」 IPCCが昨年[2018]10月に公表した。現状では2040年前後に産業革命以降の世界平均気温の上昇幅が1.5度に達するとし、1.5度に抑えた場合と、2度になった場合との影響の比較も提示した。1.5度なら海面の上昇幅は2度に比べ約10センチ抑えられ、影響を受ける人は1千万人少ないと推定。サンゴ礁は1.5度なら70~90%、2度なら99%以上消失する恐れがあるなどと示した。
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※小西雅子(WWFジャパン[世界自然保護基金])「IPCC「1.5度特別報告書」COP24に向けて」(2018年11月20日)
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鼎信次郎「今世紀の排出が1000年先の未来を決める?! —ティッピングとは何か?」 6月20日

鼎信次郎さんの「今世紀の排出が1000年先の未来を決める?! —ティッピングとは何か?」。2016年11月21日東京大学伊藤国際学術センター伊藤謝恩ホールで行われた環境省環境研究総合推進費戦略的研究開発プロジェクトS-10公開シンポジウム『地球温暖化対策の長期目標を考える-パリ協定の「1.5°C」、「2°C」目標にどう向き合うか?』発表資料です。

 鼎信次郎

地球温暖化による様々なリスク
 鼎信次郎_01

ティッピングポイント(TP)とは?
 それまで小さく変化していたある物事が、突然急激に変化する時点を意味する。

ティッピングポイント(TP)とは?
 鼎信次郎_02
 地球温暖化研究では、地球の気候を構成する要素に質的かつ急速な変化が生じさせるしきい値(気温など)を指す。

ティッピングエレメント(TE)とは?
 鼎信次郎_03
 TE:TPを超えたときに発生しうる地球の気候システムを構成する要素。

ティッピングエレメントの発現可能性は?

ティッピングポイントを超える可能性があるティッピングエレメント
 ・北極海夏季海氷の消失
 ・アルプス氷河の消失
 ・サンゴ礁の白化
 ・グリーンランドと南極氷床の融解

北極海夏季海氷の消失
 通常は、北極海では毎年、春から夏にかけて海氷が縮小し、9月に最小になった後、再び冬にかけて海氷が拡大するという変化を繰り返している

●北極海夏季海氷の消失
 ・2040年代、 A1Bシナリオ(+1~2°C上昇)で夏季の海氷は、カナダとグリーンランド北岸沿いにのみ残る。

アルプス氷河の消失
 ・B1シナリオ(+2°C上昇)で、 2060年代までにアルプス氷河はほぼ消失する予測。

サンゴ礁の白化
 ・1.5°C・2.0°C上昇の場合どちらでもサンゴ礁の多くが白化
 ・サンゴへのストレス(海面上昇・ENSOイベントや熱帯低気圧の増加・外来種の増加など)は未考慮

グリーンランド氷床と南極氷床
 氷河:重力によって長期間に渡り緩やかに動く氷塊
 氷床:大陸規模(5万km2以上)の氷河

海面上昇と各要素の寄与

•2081~2100年における海面上昇量の予測:+0.26~0.82 [m] *1986-2005年を基準
 ・~2100年では海面上昇寄与は,熱膨張>(山岳)氷河>グリーンランド氷床>南極氷床
 ・2100年を超えた予測では,グリーンランド氷床の寄与が大きくなる可能性がある

グリーンランド氷床のティッピングポイント

大規模な海面上昇による影響(東京湾周辺)
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海面上昇でどこが浸水するの?
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 グリーンランド氷床が全融解し、7m海面上昇した場合(関東~東海地方)

海面上昇でどこが浸水するの?
 グリーンランド氷床が全融解し、 7m海面上昇した場合(関西~九州)

グリーンランド氷床と北極海夏季の海氷が、2100年までにそれぞれのティッピングポイントを超える確率はどの位なのだろうか?

2通りの目標気温(1.5°C, 2.0°C)と追加政策なし[BAU]の計3つのシナリオに対して,グリーンランド氷床と北極海夏季海氷が,2100年までにティッピングポイントを超える確率を推定

ティッピングポイントを超える確率
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本プロジェクト(ICA-RUS)で研究対象としているティッピングエレメント
 ・西南極氷床の安定性
 ・北大西洋熱塩循環と貧酸素水域の拡大
 ・メタンハイドレートの分解

西南極氷床の安定性

北大西洋熱塩循環と貧酸素水域の拡大
 ・温暖化により海洋中の酸素は1000年かけて30%程度減少すると簡易気候モデルが予測。
 ・表層、亜表層では水温変化の影響で酸素が減少
   → 酸素呼吸をする魚介類などが好む環境でなくなることで、生物生息域等に影響

【数千年~数万年スケールのティッピングエレメント】メタンハイドレートの分解
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 メタンハイドレートとは・・・低温かつ高圧の条件下でメタン分子が水分子に囲まれた氷状の化石燃料。次世代のエネルギーとして期待されている

【数千年~数万年スケールのティッピングエレメント】メタンハイドレートの分解
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 Q:酸化により海水中の溶存酸素が減少するが、どのくらいか?
 A:魚等が生息出来ない貧酸素域の拡大
 メタンハイドレート2600GtC(現在)から800GtCへ減少
 ・その放出により貧酸素域が拡大(北太平洋1000m深付近)
 ・大気CO2が200ppm程度上昇の可能性

本日のまとめ
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 ・地球温暖化による様々なリスクとして、ティッピングポイント・ティッピングエレメントを紹介。
 ・パリ合意の気温幅でも発現する可能性があるティッピングエレメント(北極海夏季海氷の消失、アルプス氷河の消失、サンゴ礁の白化、グリーンランドと南極氷床の融解)がある。
 ・何かしら気候変動政策(パリ合意など)をとらないと、発現可能性がかなり高くなるティッピングエレメントも存在。
 ・ただし、かなり不確実性が高く、まだまだ発展途上の研究であるため、科学的な根拠をつかむ研究が今後も必要。世界の温暖化研究へ寄与。


レントン、ロックストローム「気候のティッピングポイント 危険すぎる賭け」 6月19日

『世界』2020年5月号、100~105頁に掲載されているティモシー・レントン、ヨハン・ロックストローム 他「気候のティッピングポイント 危険すぎる賭け」は『Nature(2019年11月27日付)』に掲載された
Timothy M. Lenton,Johan Rockström,Owen Gaffney,Stefan Rahmstorf,Katherine Richardson,Will Steffen &Hans Joachim Schellnhuber「Climate tipping points — too risky to bet against The growing threat of abrupt and irreversible climate changes must compel political and economic action on emissions」の抄訳です。

気候のティッピングポイント 危険すぎる賭け
限界点が差し迫っている
 政治家や経済学者、そして一部の自然科学者の中には、地球システムが「ティッピングポイント」(地球の気候に不可避的な変化を起こす「臨界点」)に達する確率は低く、考えられないことだと信じてやまない人たちがいる。彼らは、アマゾンの熱帯雨林や西南極の氷床が消えてしまうような事態は、まず起きないと信じ込んでいるのだ。
 しかし今、このような出来事は彼らの想定よりはるかに「起こり得る」という証拠が、次々とあがっている。地球システムの変化が連鎖的に起こり、複数がティッピングポイントを超えれば、世界に長期間で不可避的な変化がもたらされることになる。
 そこで私たちは、地球システムがティッピングポイントを超える証拠をまとめ、我々が今もつ知識とのギャップをを確認し、どのようにすればこれらの出来事を止められるのか提言しようと決めた。人々がティッピングポイントについてより深く考えをめぐらせるようになれば、私たちの惑星に緊急事態が差し迫っていることに、多くの人が気づくはずだ。(100~101頁)
このままでは3℃上昇する
 ティッピングポイントの概念は、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)で、20年前に導入された。
 当時は、温暖化で世界の平均気温が産業革命以前より5℃以上上昇した時にだけ、気候システムの「広範囲の乱れ」が、ティッピングポイントに達するととらえられていた。ところが、IPCCによる最新の二本の報告書(「1.5℃特別報告書2」2018年9月、「海洋と雪氷圏の気候変動に関する特別報告書」2019年9月)では、1℃~2℃の上昇でティッピングポイントを超えてしまう可能性が警告されている。
 2015年のパリ協定で、各国は世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃よる下回るようにするという目標を掲げた。しかし、現時点で約束されている温室効果ガスの排出削減を各国がもし実行したとしても、平均気温は最低でも3℃上昇するとみられている。気候上昇は1.5℃で抑えなければならず、これには緊急的な対応が必要だ。(101頁)
●氷床の崩壊

●生物圏の崩壊
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A:アマゾン熱帯雨林(頻繁な干ばつ)、B:北極海の海氷(面積の縮小)、C:大西洋の循環(速度低下)、D:北方林(森林火災の増加、害虫の乱れ)、F:サンゴ礁(広範囲の死滅)、G:グリーンランドの氷床(融解の加速)、H:永久凍土(融解)、I:西南極の氷床(融解の加速)、J:ウィルクス盆地(東南極氷床の融解)
地球規模のカスケイド効果
私たちが危惧する最も危機的事態は、地球がてぃっぴんぐぽいんとのカスケイド(ティッピングポイントが雪崩のように連続して発生すること)に近づくことだ。様々な地球システムが連鎖的にティッピングポイントを超えて崩壊すれば、世界は「ホットハウス・アース(温室地球)」状態になりかねない。(104頁)
Act now さあ、行動しよう
 臨界点の現状をみるだけで、私たちがいかに、地球という惑星の緊急事態に直面しているかということがわかる。ティッピングポイントを回避するために私たちに許された時間は、すでにゼロに向かって縮小していると言っても過言ではない。
 研究者らは、炭素排出量をゼロにできるのは短くても30年後だと言っている。危機的状況にあることは明らかだ。ティッピングポイントが起こることを、もしかしたら私たちは、すでにコントロールすることができない状態にあるのかもしれない。
 しかし唯一の救いは、ティッピングポイントを超えることによる損害の蓄積の割合は、まだある程度、私たちのコントロール下にあるかもしれないということだ。(105頁)

 気候問題に関して、かつて考えられていたよりも多い「ティッピングポイント(転換点)」に、わたしたちは近づきつつある──。こうした内容の論説を、ある科学者のグループが『Nature』に11月末に寄稿した。地球温暖化に歯止めをかけるためにわたしたちが実行すべきことは明確だが、もはや時間は限られてきている。
 社会正義について語る際に、ティッピングポイント(転換点)とは素晴らしいものである。例えば、ティッピングポイントとなる判例は世論を変える。
 ところがティッピングポイントは、生物種には破滅をもたらしかねない。事実、環境の激変は生物の個体数を危機的状況に追いやっている。気候変動の場合、科学者が視野に入れるようになったティッピングポイント、すなわち地球の気候に不可逆的な変化を起こす臨界点は、ひとつだけではなく数多くあるのだ。
 気候問題に関してかつて考えられていたよりも多い「9つのティッピングポイント」に、わたしたちは近づきつつある。さらにはそうしたティッピングポイントがもたらす影響に、わたしたちがすでに気づき始めている──。こうした内容の論説を、ある科学者のグループが『Nature』に11月末に寄稿した。
 「気候の不可逆的な変化を防ぐために残されている時間は、もはやゼロになったと言っても過言ではないに。それにもかかわらず、温室効果ガスの排出量実質ゼロを達成するまでの時間は「短くても30年はかかる」と研究者らは書いている。「わたしたちはそうした変化の発生を、もう止められないのかもしれない」というのだ。
 それでもわたしたちは、まだ被害を減らすために行動できる。わたしたちがとらなければならない方策はかつてなく明確だが、時間が尽きかけている。
 「半世紀後、わたしたちはいまの状況をどんなふうに振り返るのでしょうか。もっと持続可能性のある健やかな未来を何世代にもわたって築けたはずだったと悔やむのでしょうか」と、エクセター大学グローバルシステム研究所所長のティム・レントンは言う。「埋蔵量に限りがある化石燃料を使い続けることや、世界の終わりを受け入れるような行動はやめるべきです」
気候のティッピングポイントは、大きく3つカテゴリーに分類される
 1)氷 2)陸地 3)海

●個別の要素が相互に影響し、深刻さを増す
 このような複数のティッピングポイントは、別個に存在するわけではない。その多くは、互いに影響し、深刻さの度合いを増していく。
 その相互に関連する特徴から考えると、ティッピングポイントのモデル化は必然的に憶測を立てることになる。というのも気候変動の極めて複雑なシステムを完璧に捉えるのはとても無理だからだ。このためティッピングポイントのモデル化は、予測に不確実性を持ち込むことになる。
 従って、すべての研究者がティッピングポイントという考え方をとっているわけではない。ティッピングポイントという表現は、ふたつの世界を分けるある特定の数値すなわち閾値を示唆している。しかし実際には、閾値の前後がいつになるのか、必ずしも常に明確ではない。
最も重大なティッピングポイント
 「ティッピングポイントが生じつつあるらしい、ティッピングポイントは本当にあるらしいといった説の根拠はかなり信憑性が高いものです。このため正直な話、この説はなぜわたしたちがともに行動しなければならないのか、気候変動の解決のためにできることをしなければならないのかについての、もうひとつの極めて重大な理由になります」とパーストル[カーネギー気候ガヴァナンス・イニシアチヴのエグゼクティヴディレクター、ヤーノシュ・パーストル]は語る。
 「この『Nature』の記事には、なぜ本当の危機が、本当の緊急事態がいまここで発生しているのかについて、非常に多くのもっともな理由がまとめられています」
 とはいえ、まだ望みはある。早急に二酸化炭素排出の大幅な削減ができれば、海水面の上昇は遅くなる。世界中で、特にアマゾンで、森林伐採をやめなければならない。こうしたことが、文明社会を長期的に健全に保つ鍵となる。
 またティッピングポイントは必ずしも災難の兆候とは限らない。「社会領域では、ティッピングポイントが社会の発達につながっている場合も多いのです」とレントンは説明する。「例えば、再生可能エネルギー技術や電気自動車を採用する動きが加速しているのを、いまわたしたちは現実に目にしていると言えます」
 人々は目覚めつつあり、グレタ・トゥーンベリは日ごとに勢いを増す環境運動の先頭に立っている。政治家や資本家が気候変動という大惨事を加速させても、わたしたちのなかでより思慮深い人々は、気候変動の問題は変えられると考えている。その考えが、恐らく最も重大なティッピングポイントなのだろう。
ティッピングポイント、ティッピングエレメントとは?
   →鼎信次郎「今世紀の排出が1000年先の未来を決める?! —ティッピングとは何か?」6月20日記事

『市民版環境白書グリーンウォッチ』(2017~2020年版) 6月15日

市民版環境白書『グリーンウォッチ』(グリーン連合編)の2017年版、2018年版、2019年版、2020年版の目次です。各年版ともグリーン連合のWebサイトからダウンロードできます。
グリーン連合は「日本各地で、様々な環境活動に携わる多くの仲間とつながり、これまで積み重ねてきて経験と英知を結集し、危機的状況にある地球環境を保全し持続可能で豊かな社会構築に向けた大きなうねりを日本社会に巻き起こすために2015年6月5日に設立された環境NGO・NPO・市民団体の全国ネットワーク」です。埼玉県では「NPO法人環境ネットワーク埼玉」、「NPO法人さやま環境市民ネットワーク」、「埼玉西部・土と水と空気を守る会」が会員です。

  市民版環境白書2020グリーンウォッチ

はじめに
漫画「グリーン・ウォッチ」2020
第1章 脱炭素社会に向けた最近の動向
第1節 「気候変動」から「気候危機」問題へ
 1.気候行動サミットとCOP25
 2.日本政府の遅れた対応と自治体の動き
 3.若者たちの動き
第2節 持続可能な再生可能エネルギー100%社会の実現
 1.再生可能エネルギーの導入はどこまで進んだか?
 2.動き出した再生可能エネルギー100%への取組
 3.再生可能エネルギー本格導入とFIT制度見直しの課題
 4.バイオマス発電と持続可能性
第2章 生物多様性、そして森林の危機
第1節 IPBESの活動、成果とその日本への示唆
 1.IPBESの概要
 2.IPBESの主なアセスメントからの主要なメッセージ
 3.IPBESアセスメントからのメッセージを受けて市民にできること
 4.IPBES成果の政策活用に向けた動き
第2節 世界の森林と私たち
 1.森林はなぜ減少しているのか?
 2.森林が減少することの生物多様性への影響
 3.森林が果たす気候変動抑制の効果
 4.私たちの行動が森林を守る
【コラム】2019年のアマゾン森林火災騒動
第3章 化学物質
第1節 環境ホルモン(内分泌かく乱化学物質)の脅威に改めてどう対処すべきか
 1.内分泌かく乱化学物質とは?――従来の毒性学の常識が当てはまらない
 2.肥満・糖尿病や心臓病の原因との指摘も
 3.内分泌かく乱化学物質の社会的コストはGDPの1.2~2.3パーセントにも
 4.EUにおける内分泌かく乱化学物質の規制の動向
 5.日本における内分泌かく乱化学物質の規制の現状と課題
 6.日本政府への提言
第2節 環境省「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の進捗状況と今後の課題
 1.エコチル調査とは何か
 2.エコチル調査の背景と中心仮説
 3.エコチル調査の進捗状況
 4.エコチル調査でわかったこと
 5.今後の課題
第4章 東京電力福島第一原発事故後の状況
第1節 蓄積する課題にどう向き合うか(廃炉、放射性廃棄物の量と行方)
 1.福島第一原発の廃炉の現状と課題(トリチウム水海洋放出問題を含む)
 2.除染廃棄物の中間貯蔵施設の運用開始と問題点
 3.台風・大雨の影響(第一原発と広域環境)
 4.福島第一原発の廃炉をめぐる諸課題に私たちはどう向き合えばよいのか
第2節 福島の住民のその後
 1.甲状腺がん「数十倍多く発生」
 2.隠された初期被ばく
 3.帰還政策の現状
参考 欧州における環境NGOの位置づけと公的資金
 1.環境団体は環境政策のパートナー
 2.EUのLIFEプログラム
 3.ドイツの環境団体助成
 4.日本への示唆
活動報告 グリーン連合 この一年の活動実績
報告1.地域でのワークショップの開催
 1-1 埼玉ワークショップ報告
 1-2 岐阜におけるシンポジウム
報告2.環境省との意見交換会
報告3.地球環境基金との意見交換会
報告4.小泉進次郎環境大臣への要望書
会員名簿
編集委員会・執筆者
市民版環境白書2020グリーンウォッチ_01市民版環境白書2020グリーンウォッチ_02市民版環境白書2020グリーンウォッチ_03市民版環境白書2020グリーンウォッチ_04

市民版環境白書2020グリーンウォッチ_05市民版環境白書2020グリーンウォッチ_06市民版環境白書2020グリーンウォッチ_07市民版環境白書2020グリーンウォッチ_08

  green_watch2019S

序 2019年度グリーン・ウォッチの目的
第1章 脱炭素社会に向けた最近の動向
第1節 気候変動問題
 1.パリ協定以降の世界の動向とCOP24
 2.後手になる日本政府の対応と企業・金融界の動き
 3.変化の兆しが見え始めた石炭火力発電所新規建設問題
第2節 再生可能エネルギー
 1.再エネ100%に向けた世界の動きと日本の課題
 2.再エネ開発での合意形成・持続可能性の課題と解決策
第3節 地球温暖化対策の決め手 カーボンプライシング
 1.カーボンプライシングとは何か
 2.なぜカーボンプライシングか~現状の温暖化対策税だけでは不十分
 3.カーボンプライシングを取り巻く国内の状況
 4.諸外国の導入状況とその効果
 5.炭素税収入の活用方法
 6.グリーン連合の提案
第2章 顕在化してきた新たな危機
第1節 プラスチック問題
 1.人類は「プラスチック」にどう向き合えばよいのか?
 2.プラスチック資源循環を巡る世界の動き
 3.プラスチック問題に関する国内の動き
 【漫画】「グリーン・ウォッチ」2019
第2節 気象災害と防災
 1.風水害が相次いだ2018年
 2.2018年の夏は猛暑に
 3.地球温暖化は極端気象を増加させる
 4.データが示す地球環境の変化
 5.激甚化する災害から生き残るためには
 6.日本は災害に対する国際貢献を
第3節 いまだに続く福島原発事故の災害
 1.汚染水の海洋放出問題
 2.除染土再生利用・埋立方針について
 3.チェルノブイリの経験から福島の今を考える
 【コラム】「たらちね」震災後に開設した放射能測定所とクリニック
第3章 国内外の先進的な動き
第1節 国内の動き
 1.市民協働事業提案制度
 2.山形県遊佐町の少年町長・少年議員公選事業
第2節 データ不正問題は何が間違った結果なのか?
 1.政府の政策判断の質の問題がデータ不正を生む
 2.データ不正の原因は何か
 3.基本的な情報公開を欠いていた技能実習生データと裁量労働制データ
 4.統計調査では当然の基礎情報が公開されていなかった毎月勤労統計
 5.市民社会は何を求めるべきか
第3節 ドイツの州レベルにおける環境NGO/NPOに対する助成制度
第4節 座談会 日本の環境NPOへの支援の現状と課題
 1.環境NPO/NGOの存在意義は何か
 2.グリーン連合として、共通課題への取組を進める活動報告
     グリーン連合のこの一年の活動実績
 1.4つの地域でのワークショップの開催
 2.環境省との意見交換会
 3.地球環境基金との意見交換会
 4.要望書の提出
会員名簿
編集委員会・執筆者
  GW2018s2

はじめに
第1章 主要な環境政策のレビュー
第1節 気候変動問題
 1.気候変動対策とエネルギー基本計画
 2.石炭火力発電所をめぐる諸問題
 3.気候変動適応策
第2節 再生可能エネルギー
 1.再エネ100%への現状と課題
 2.電力自由化(電力システム改革)の現状と課題
 3.一次産業振興と地域活性化への期待
 4.社会的合意形成の重要性
第3節 廃棄物
 1.ペットボトルの問題点と対策
 2.レジ袋の無料配布全面中止に向けて
 【コラム】サーキュラー・エコノミーがもたらす国際的な潮流と日本の持続可能な経済成長への道
第4節 化学物質
 1.精子減少の衝撃-環境ホルモン問題は終わっていなかった!!
 2.危ない健康食品
第5節 気候変動と第一次産業
 1.農業
 2.林業
 3.水産業
第2章 放射性物質と如何に付き合っていくか
第1節 福島の現状と健康問題
 1.環境への影響
 2.避難と帰還
 3.子どもたちの甲状腺がん
第2節 放射性廃棄物の現状と原発再稼働問題
 1.福島原発廃炉の進捗状況
 2.事故由来廃棄物
 3.高レベル放射性廃棄物について
 4.「もんじゅ」の廃炉と核燃料サイクル
 5.再稼働問題と廃炉
 【コラム】核ごみプロセスをフェアに!~自治体アンケートを実施
第3節 私たちは放射性物質とどう付き合っていけばよいのか~放射能汚染防止法の制定~
 1.放射性物質の公害関係法適用除外
 2.公害法適用除外による問題状況
 3.権利なき原発事故被災者
 4.放射能汚染防止法制定運動が目指すもの
 5.脱原発問題と直面する再稼動への影響
 6.法整備運動の現在と展望
 【漫画】「グリーン・ウォッチ」2018
第3章 私たちはどんな社会を目指すのか
第1節 持続可能な社会についての大きな流れ
第2節 いくつかの提案
 1.国内のNPO(市民組織)からの提案例
 2.研究機関や政府機関からの提案例
第3節 私たちの未来はみんなで作ろう
第4章 国内外の注目すべき動き
 1.自動車業界「脱炭素化」へ急発進
 2.省エネ住宅をめぐる状況
 3.SDGsの動き
 4.欧州における環境NGOに対する公的資金助成
会員名簿
編集委員会・執筆者

  GW2017Full

はじめに
第1章 なぜ、地球環境を優先的に保全しなければならないのか
第1節 地球環境悪化の背景
 1.世界人口の増加
 2.人間活動の拡大がもたらす環境の悪化
第2節 環境保全に優先的に取り組まなければならない理由
 1.私たちの生命、暮らし、社会経済活動の基盤である環境が、いよいよ危ない
 2.時間的余裕がなくなった
 3.将来世代への責務
 4.途上国に対する先進国としての責務
 5.日本の取り組みの遅れが著しい
第3節「パリ協定」後の社会に向けて
 1. 「パリ協定」の意義とは何か~化石燃料から脱却し、脱炭素社会へ
 2.「環境」概念の拡大と困難な課題への挑戦
第2章 6年が経過した福島
第1節 東京電力福島第一原子力発電所事故の被害者は今
 1.福島の人々の今は
 2.進む避難指示の解除
 3.帰還しても高齢者だけの村に
 4.追いつめられる避難者たち
 5.福島の子どもたちの甲状腺がん184人に
第2節 東京電力福島第一原子力発電所の廃炉問題と安全性確保
 1.廃炉へのロードマップと進まぬ作業
 2.指定廃棄物(低レベル)の処理問題
 3.進行する福島第一原発事故損害賠償費用の国民転嫁
 4.除染廃棄物の再利用問題
第3節 東京電力福島第一原子力発電所事故と情報
 1.福島第一原発事故と情報
 2.県民健康調査をめぐる情報と責任
 3.正しく情報が伝わるためには情報を伝える側の信頼性が条件
 コラム 福島 ブックレット紹介
 「福島 10の教訓-原発災害から人びとを守るために」
第3章 主要な環境政策のレビュー
第1節  気候変動問題
 1.「パリ協定」発効と日本の対応
 2.長期低排出開発戦略の策定に向けて
 3.カーボンプライシング
 4.日本の温室効果ガス排出の現状
 5.気候変動対策を踏まえたモントリオール議定書の改正
第2節 再生可能エネルギーと電力自由化
 1.進みはじめた再生可能エネルギーへの転換
 2.再生可能エネルギーへの転換の課題
 3.100%再生可能エネルギーをめざすには
第3節 廃棄物
 1.循環型社会へ向けて、EPR(拡大生産者責任)の確立と3R推進
 2.マイクロプラスチック問題
 3.廃棄物の越境移動
第4節 化学物質
 1.暮らしの中の「農薬」
 2.ニオイブームの落し穴
 3.消費者向け製品中の有害化学物質管理
第5節 生物多様性
 1.日本はなぜ名古屋議定書批准が遅れたのか?
 2.なぜ種の保存法では種を守ることができないのか?
 3.日本のサンゴ礁の危機
第6節 森林破壊
 1.熱帯林破壊とパーム油
 2.合法木材制度の課題 ~グリーン購入法からクリーンウッド法へ
 3.木質バイオマスと森林破壊の国内外の動向
コラム 漫画「グリーン・ウォッチ」2017
トピックス -国内外の注目すべき動き
 1.沖縄の基地と環境汚染
 2.地域からエンパワーメント ~富山から伊勢志摩まで、G7を振り返る~
 3.低炭素・資源循環・自然共生が統合された持続可能性地域構築   ~滋賀県東近江市~
 4.国内外の企業の動向
 5.テロと気候変動問題と不正義
会員名簿
編集委員会・執筆者


2020年版「環境・循環型社会・生物多様性白書(環境白書)」 6月13日

6月12日、2020年版「環境・循環型社会・生物多様性白書(環境白書)」が閣議決定されました(本文PDF概要PDF)。「災害頻発の恐れ/「気候危機宣言」/環境省 環境省は12日、地球温暖化によって、今後、豪雨災害などのさらなる頻発化・激甚化が予測されるとして「気候危機宣言」を出した。同日閣議決定した2020年版環境白書で初めて「気候危機」という言葉も明記した。/オーストラリアでの大規模な山火事や欧州の記録的な熱波、台風19号による大きな被害など気象災害が相次いでいる。これらは地球温暖化と関係するとみられ、白書は「気候危機」と表現して強調した。/家庭で消費されるものが生産時に排出する温室効果ガスが国内排出量の約6割に達することも指摘し、生活の脱炭素化も求めた。エネルギーの地産地消や食品ロスの削減などライフスタイルの転換事例も紹介している。」(『朝日新聞』夕刊 2020/06/12)
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気象災害の頻発を予測、環境省が「気候危機宣言」(朝日新聞デジタル)
 地球温暖化に伴う豪雨や熱中症などのリスクが危機的状況にあるとして、小泉進次郎環境相は6月12日、記者会見で「気候危機宣言をしたい」と述べた。環境省単独の宣言で、他省庁や自治体、企業と危機感を共有し、温暖化対策を強化することを目指す。(福岡範行)
 この日閣議決定した2020年版「環境・循環型社会・生物多様性白書(環境白書)」でも初めて「気候危機」に言及した。
 小泉氏は、深刻な気象災害について「解決には経済を持続可能なものにする社会変革が不可欠だ」と強調。新型コロナウイルスによる社会経済活動の自粛で、温暖化を引き起こす二酸化炭素(CO2)の排出量が減ったことを念頭に、「経済再開でCO2排出がリバウンド(再増加)してはならないという危機感が宣言につながった」と説明した。
 宣言に伴う新たな具体策は示さず、「政府全体が危機感を高め、取り組みを強化することにつなげたい」とした。
 「気候危機」の著書がある山本良一・東京大名誉教授(環境経営学)は「宣言は良いこと。ただ、世界はもっと早く進んでいる。欧米の自治体などはCO2排出を実質ゼロにする計画を続々と出している」と指摘した。
 4月にインターネットで「#気候も危機」と訴えた若者グループ「Fridays For Future(未来のための金曜日)」のメンバー奥野華子さん(18)は「宣言を歓迎します。各省庁と連携して未来を守る具体的な行動を期待します」とコメントした。

環境白書2020では、気候変動の影響とみられる災害が激化していることから、人類を含む全ての生き物の生存基盤を揺るがす「気候危機」が起きていると強調しています。
地球温暖化が進展すると気象災害のリスクは更に高まると予想されています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書をはじめ科学者たちにより繰り返し警鐘が鳴らされています。また、2019年だけでも欧州をはじめ世界で記録的な熱波を経験するととともに、我が国でも令和元年房総半島台風、令和元年東日本台風等の激甚な気象災害に見舞われました。このような深刻な気象災害は、気候変動の緩和や気候変動に適応する社会の必要性を私たちに突き付けています。世界の主要なリーダーたちの間でもリスクとしての認識が高まっています。また草の根レベルでも海外を中心に若者による気候変動への対策を求めるデモや、自治体等が「気候危機」を宣言する動きが広がるなど、今や私たちは「気候危機」とも言える時代に生きています。環境問題は気候変動だけではありません。海洋プラスチックごみ問題や生物多様性の損失なども深刻です。気候変動、海洋プラスチックごみ、生物多様性の損失といった今日の環境問題は、それぞれの課題が独立して存在するのではなく、相互に深く関連しています。そしてこれらの問題は今の私たちの経済・社会システムとも密接に関わっています。(『環境白書』はじめに 3頁)
(3)気候非常事態宣言の広がり
海外の都市を中心に気候非常事態を宣言する動きも広がっています。2016年12月に宣言をしたオーストラリアのメルボルンにあるデアビン市を皮切りに、世界各地で国、自治体、大学等が気候変動への危機感を示し、緊急行動を呼びかける「気候非常事態宣言」を行う取組が広がっています。世界各地での気候非常事態宣言の取りまとめを行っているClimate Emergency Declaration and Mobilisation in Actionによれば、2020年4月2日時点で28か国の1,482の自治体等(8億2,000万人の人口規模に相当)が宣言しています。なお、このうち、我が国の自治体は、2020年3月18時点で長崎県壱岐市など15自治体となっています。
(4)「気候変動」から「気候危機」へ
気候変動問題は、私たち一人一人、この星に生きる全ての生き物にとって避けることのできない、緊喫の課題です。先に述べたように世界の平均気温は既に約1℃上昇したとされています。近年の気象災害の激甚化は地球温暖化が一因とされています。今も排出され続けている温室効果ガスの増加によって、今後、豪雨災害等の更なる頻発化・激甚化などが予測されており、将来世代にわたる影響が強く懸念されます。こうした状況は、もはや単なる「気候変動」ではなく、私たち人類や全ての生き物にとっての生存基盤を揺るがす「気候危機」とも言われています。(『環境白書』第1章 20頁)
コラム 気候変動問題に関する若者の動き(『環境白書』第1章 21頁)
環境白書2020

「地球環境の危機への対応のためには、地球環境に係る課題を同時解決し、環境・経済・社会の統合的向上を図る「環境・生命文明社会」が実現できるよう、経済・社会システムや日常生活の在り方を大きく変えること(=社会変革)が不可欠」です。
第4節気候変動をはじめとする環境問題の危機にどのように対応していくか(『環境白書』第1章 35~36頁)
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サプライチェーン排出量、スコープ1・2・3 6月11日

山本良一さんの「気候非常事態宣言-自治体に何ができるか」(『世界』2020年6月号、188頁)の「他の温室効果ガスの温暖化への寄与は等価の二酸化炭素量に置き換えて議論する」(→温室効果ガス係数)と「二酸化炭素排出量をスコープ1、2、3に分けて評価する」(→サプライチェーン排出量)についての追加資料です。

温室効果ガスの特徴・地球温暖化係数全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト)
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サプライチェーン排出量
サプライチェーンとは、原料調達・製造・物流・販売・廃棄等、一連の流れ全体をいい、そこから発生する温室効果ガス排出量をサプライチェーン排出量と呼んでいます。サプライチェーン排出量はScope1、Scope2、Scope3から構成されています。
・環境省『サプライチェーン排出量算定の考え方』(環境省地球環境局地球温暖化対策課、2017年11月発行)
燃料や電力などの使用に伴う自社の温室効果ガス排出量をScope1排出量(直接排出)、Scope2排出量(間接排出)といいます。Scope1、2排出量を対象とした報告制度なども後押しとなり、我が国におけるScope1、2排出量の算定や削減努力は進展してきています。他方、昨今、自社が関係する排出量の更なる削減を目指してScope1、2以外の排出量である「Scope3排出量」が注目されるようになってきています。(1頁)
Scope3はさらに、15カテゴリに分類されます。(2頁)
   scope
国内の企業のScope1、2排出量の総和は、日本における企業活動の排出量の総和に該当します。一方でサプライチェーン排出量の総和は同じ排出源が企業Aと企業Bに含まれるなどサプライチェーン上の活動が重複してカウントされることがありうるため、日本全体の排出量にはならないことから、違和感を覚える方もいるかもしれません。サプライチェーン排出量は各企業の原料調達や廃棄物削減、使用段階の省エネ等、Scope1、2の外側での削減活動を評価できることから、各企業のサプライチェーン上の活動に焦点を当てて評価する手法と言うことができます。これにより、各企業はScope1、2だけではなく、企業活動全体について、排出量削減の取組を実施し、より多くの削減が可能となります。(3頁)
サプライチェーン排出量はその対象範囲が広く、明確な算定基準が定まっていないため、対象範囲を網羅した正確な算定を行うことは容易ではありません。また、排出量を算定する際には、算定対象範囲の決め方や範囲からの除外の考え方、算定ロジックの組立て方等、様々な点で事業者の判断や考え方が求められることになります。しかしながら、それらの判断について、公表された排出量関連資料や文献等から推し量ることは難しく、その適切性を確保することもまた容易ではありません。そのような状況を受けて、信頼性の高い取組であることを第三者に担保してもらうために、検証を受検する企業は年々増加してきている状況です。(21頁)

サプライチェーン排出量削減のイメージ
  (環境省ウェブサイト「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」から)
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  ・サプライチェーン排出量概要(PDF)

   1.サプライチェーン排出量とは?(PDF)
   2.なぜサプライチェーン排出量を算定するのか?(PDF)

・環境省『物語でわかるサプライチェーン排出量算定』(環境省地球環境局地球温暖化対策課、2016年3月発行)

※環境省「地方公共団体実行計画策定・実施支援サイト
地方公共団体は「地球温暖化対策の推進に関する法律」(1997年法律第117号)に基づき実行計画を策定することになっていて、その計画は大きく分けると「事務事業編」と「区域施策編」に分かれている。「事務事業編」は、地方公共団体が行っている仕事によって、排出される温室効果ガスを減らすための計画。計画的に公共施設等での省エネ等を進めて温室効果ガスを減らすことで、地球温暖化を防止するためのもの。「区域施策編」は、地域住民や事業者がメインとなる取組を定めたもの。地域の自然的社会的特性を踏まえた取組によって、新たな事業や産業の創出などの地域づくりの推進にもつながるから、低炭素なまちづくりの核となる計画である。地球温暖化対策には地方公共団体、地域住民、事業者等の関連する人々が協力をしなければならないので「事務事業編」も「区域施策編」もどちらも重要。
 ・事務事業編(マニュアル・ツール類)
 ・区域施策編(マニュアル・ツール類

新潟市地球温暖化対策実行計画(地域推進版)概要版)(本編)[2020年3月]

新潟市一般廃棄物処理基本計画概要版)(本編)[2020年3月]


山本良一「気候非常事態宣言-自治体に何ができるか」 6月11日

山本良一「気候非常事態宣言-自治体に何ができるか」(『世界』2020年6月号184~191頁、岩波書店)を読みました。『世界』6月号の特集2「大恐慌とグリーン・ニューディール」にあります。
 気候変動と新しい感染症には、いくつかの共通点が存在する。
 どちらも人類の経済活動と環境破壊に起因していること、国境に関係なく不都合な結果がグローバルにもたらされること、平等に作用するはずに思えて実際には格差社会の中で不平等な作用をもたらすこと、そして対策が容易ではなく、新たな処方箋を必要としていること。
 気候変動とコロナ大恐慌に、どのような対策が求められているのか。
 金融緩和や旅行代補助、商品券といった処方箋の数々は、感染症対策への布マスク2枚と同じく、もはや有効な手段を現政府が構想できないことの証明でしかない。
 グリーン・ニューディールこそ、検討の俎上にあげなければならない。
 これは、我々の側のショック・ドクトリンである。

山本良一「気候非常事態宣言-自治体に何ができるか」
 世界ですすむ気候非常事態宣言

 国内の気候非常事態宣言の展開
 国内自治体のCED[「気候非常事態宣言」(Climate Emergency Declaration)]には、社会動員についてどのようなことが書かれているのであろうか。宣言文には今後の取り組みの方向が示されており、詳細な気候動員計画はその後に作成される。……
 他の世界の自治体は気候非常事態宣言でいつ頃までにカーボンニュートラルを目指しているのであろうか。
 ここで念のためカーボンニュートラルという用語について説明しておきたい。カーボンニュートラル(carbon neutral、炭素中立)とは、排出する二酸化炭素と吸収される二酸化炭素を同じ量にして環境中の炭素循環に対して中立になることを意味している。二酸化炭素排出実質ゼロも同じことを表現している。注意しなければならないのは温室効果ガスには様々な種類[温室効果ガス・地球温暖化係数(Wikipedia)]があり、その中で二酸化炭素の排出量が最大であるため一般に二酸化炭素について議論を進めるのが慣例となっていることだ。他の温室効果ガスの温暖化への寄与は等価の二酸化炭素量に置き換えて議論するのが普通である。したがってカーボンニュートラルと言う時、二酸化炭素以外の温室効果ガス排出も実質ゼロにすることを前提にしている。そういう意味では気候中立[climate neutral]と言った方が正確である。
 さらに自治体(あるいは事業者)の二酸化炭素排出量を評価する場合にはスコープ1、スコープ2、スコープ3に分けて評価されることである。スコープ1とは直接排出で自治体自らの温室効果ガスの排出量である。スコープ2は間接排出で他社から供給された電気、熱、蒸気等の使用に伴う排出量である。スコープ3はそれ以外の間接排出である。
 自治体がカーボンニュートラルの目標を達成するには、まずスコープ1の排出量を実質ゼロにし、次にスコープ2の排出量を実質ゼロにするというように進むはずである。スコープ3には自治体が使用する製品(サービス)の生産と消費に伴う排出量が含まれる。そうなると例えば“文明”の基礎材料である鉄やセメントのライフサイクルでの二酸化炭素排出量も考慮しなければならないことになる。現在の技術では鉄やセメントの生産からどうしても二酸化炭素が排出されてしまい、これをゼロにするには革新的イノベーションが必要である。革新的イノベーションは産業や国家の役割で、自治体は通常スコープ1,2の排出量を問題にしている。……
 CEDは気候危機に立ち向かうための市民の意識を高め、自治体の政治的決意表明として重要であるが、実際にどのような社会動員行動を取るかがさらに重要である。その中でもカーボンニュートラル目標年をどこに設定するかがその眼目である。……

 国内自治体の気候非常事態宣言の中身

 個人の行動変容を
 一方、気候危機を突破するためにのCEDについては、長期戦を覚悟しなければならない。各自治体、各国がカーボンニュートラルを2050年までに達成したとしても大気中に蓄積した温室効果ガスにより地球温暖化はその後も続き、その様々な影響は各方面に現れてくるからである。カーボンニュートラルからカーボンネガティブへ、大気中のCO2を除去することへと進み、そして同時に人類全体として適応を進めなければならないのである。……

気候非常事態宣言をした日本の自治体CEDAMIA(Climate Emergency Declaration and Mobilisation in Action、気候非常事態宣言と動員)サイトから]

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みなさんは「気候変動影響への適応」や「適応策」という言葉を聞いたことがありますか?
気候変動の影響は、私たちのくらしの様々なところに既に現れています。気温上昇による農作物への影響や、過去の観測を上回るような短時間強雨、台風の大型化などによる自然災害、熱中症搬送者数の増加といった健康への影響などなど。
これまで広く知られてきた「緩和策」と呼ばれる、温室効果ガスの排出量を減らす努力などに加えて、これからの時代は、すでに起こりつつある気候変動の影響への「適応策」を施していくことが重要になってくるのです。

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地域気候変動適応計画一覧[A-PLATサイト]

山本良一『気候危機』(岩波ブックレット)(→当ブログの5月27日記事
 気候非常事態宣言(CED)、宣言したことだけで終わることのないようしたいですね。

山本良一『気候危機』 5月27日

山本良一『気候危機』(岩波ブックレット1016、2020年1月)を読みました。

気候変動から気候危機へ――。スウェーデンの一五歳の少女の訴えが世界の若者を動かし、世界各地の自治体や国も次々に「気候非常事態」を宣言し始めた。平均気温上昇を一・五℃以内に抑えることは可能か。パリ協定の本格始動を機に、科学者の立場から問題の本質と最新の科学の知見を押さえつつ、我々はいま何をすべきかを説く。
同書表紙帯から
気候崩壊、文明崩壊を防ぐための時間的猶予はゼロに近づいている
スウェーデンの1少女の訴えが若者たちを動かし、世界各地に自治体や国も続々と「気候非常事態宣言」を発し始めた。
▼現在の気候危機は、人間活動が原因の温暖化ガスの大量排出が主原因であること。
▼地球温暖化により、熱波、豪雨、干ばつなどの極端気象の増加、激化が起こっていること。
▼世界の平均気温の上昇を工業化以前と比べて1.5℃未満に抑えなければならないこと。
▼早ければ2030年、遅くとも2050年までに、カーボンニュートラルな社会を実現させること。

山本良一『気候危機』目次
はじめに
 2018年8月からの1年は、世界を揺るがした1年であった。8月20日に15歳の少女グレタ・トゥンベリがスウェーデンの国会前で気候危機の根本的な解決を求めて1人でストライキを始めたことから、それは始まった。当時、各国の地方自治体の中には「気候非常事態宣言」(Climate Emergency Declaration = CED)を議決していたところもあったが、その数は限られていた。ところが、極端な気象の頻発と続々と公表される気候危機や環境危機に関する報告書に背中を押されて、気候ストライキをする若者と気候非常事態宣言をする自治体の数は爆発的に拡大していったのである。これはまさに「革命」と呼ぶに値する。
……「気候非常事態宣言」は「火事だ!」という警報に相当する。地球には脱出口はなく、人間活動起源の温暖化ガスによる地球温暖化はたとえ排出量をゼロにしても1000年は継続することを考えると、ただちに全員で排出量を削減し(消火)、すでに現れ始めている極端な気象現象に対応しなければならない。/筆者は2018年12月に”気候非常事態を宣言し、動員計画を立案せよ”という解説をまとめ、世界の気候非常事態宣言運動を日本に紹介した。……

第1章 革命前夜1――温暖化の科学と文明の持続可能性
 温暖化の科学の基本
 温暖化は人為起源の温暖化ガスによって生じる
 放射強制力
 CO2をどれくらい削減しなければならないのか
 地球温暖化国際交渉の歴史
 IPCCの1.5℃特別報告書
 近代文明の持続不可能性
 アントロポセン(Anthropocene,人新世)
 人類の生命維持システム
 ドーナツ経済の定量的検討
 科学者の人類への警告

第2章 革命前夜2――極端気象と気候変動
 2018年の気候-世界気象機関の報告書
 フューチャー・アースの10の洞察
 2019年の気候
 極端気象と気候変動-要因分析(EA)とは
 極端気象の要因分析の最近の成果
 要因分析の信頼性
 日本の極端気象に対するEA
 気候工学(ジオエンジニアリング)の可能性と問題点
 環境と気候は非常事態なのか
 科学的知見をどのように利用するか

第3章 革命勃発-気候ストライキ始まる
 グレタのダボス会議でのスピーチ[2019年1月]
 気候ストライキに対する科学者の支持表明

第4章 自治体や国家が動く――気候非常事態を宣言し動員計画を立案する
 CED[気候非常事態宣言]の歴史
 カナダにおける気候非常事態宣言
 アメリカにおける気候非常事態宣言
 オーストラリアにおける気候非常事態宣言
 英国における気候非常事態宣言
 国家の気候非常事態宣言
 気候非常事態宣言の拡大
 遅れている日本の対応
 気候非常事態宣言の最新動向
 2019年9月という画期
 グレタの"How dare you"スピーチ [2019年9月23日]
 壱岐市の気候非常事態宣言

あとがき

【資料編】
日本学術会議会長談話 「地球温暖化」への取組に関する緊急メッセージ[2019年9月19日]
1 人類生存の基礎をもたらしうる「地球温暖化」は確実に進行しています。
2 「地球温暖化」抑制のための国際・国内の連携強化を迅速に進めねばなりません。
3 「地球温暖化」抑制には人類の生存基盤としての大気保全と水・エネルギー・食料の総合的管理が必要です。
4 陸域・海洋の生態系は人類を含む生命圏維持の前提であり、生態系の保全は「地球温暖化」抑制にも重要な役割を果たしています。
5 将来世代のための新しい政治・社会システムへの変革は、早急に必要です。
気候非常事態宣言(壱岐市) [2019年9月25日]
1 気候変動の非常事態に関する市民への周知啓発に努め、全市民が、家庭生活、社会生活、産業活動において、省エネルギーの推進と併せて、Reduce(リデュース・ごみの排出抑制)、Reuse(リユース・再利用)、Recycle(リサイクル・再資源化)を徹底するとともに、消費活動におけるRefuse(リフューズ・ごみの発生回避)にも積極的に取り組むように働きかけます。特に、海洋汚染の原因となるプラスチックごみについて、4Rの徹底に取り組みます。
2 2050年までに、市内で利用するエネルギーを、化石燃料から、太陽光や風力などの地域資源に由来する再生可能エネルギーに完全移行できるよう、民間企業などとの連携した取組をさらに加速させます。
3 森林の適正な管理により、温室効果ガスの排出抑制に取り組むとともに、森林、里山、河川、海の良好な自然循環を実現します。
4 日本政府や他の地方自治体に、「気候非常事態宣言」についての連携を広く呼びかけます。
気候非常事態宣言に関する決議(鎌倉市議会)  [2019年10月4日]
1 「気候危機」が迫っている実態を全力で市民に周知する。
2 温室効果ガスのゼロエミッションを達成することを目標とする。
3 気候変動の「緩和」と「適応」、「エシカル消費」の推進策を立案、実施する。
4 各行政機関・関係諸団体等と連携した取り組みを市民とともに広げる。

※「鎌倉市、日本で2番目の気候非常事態宣言!
(環境メールニュース2019.10.09エダヒロ・ライブラリーイーズ未来共創フォーラムから)
気候非常事態宣言は、特に形式が決まっているわけではありませんが、大きく2つの部分から構成することが多いようです。
(1)気候危機の現状認識、および其の認識が科学に基づいていること
(2)自分たちの自治体が取り組むこと(3~5つぐらいが多いようです)
壱岐市や鎌倉市の例を見ていただいてもわかるように、簡潔に、現状認識+非常事態であること+自分たちの取り組みを宣言するというものです。
世界ではすでに1000を超える自治体が気候非常事態宣言を出しています。日本でも多くの自治体が気候非常事態宣言を出し、自治体としてできることを進めつつ、住民や他の自治体にも行動を呼びかける動きが拡がることを強く願っています。
「前例」がでてきたので、働きかけもしやすくなってきたと思います。このメールニュースの内容などもよかったら使っていただき、世の中の動きと他の自治体の動きを伝えて、宣言を出すよう、ぜひご自分の自治体にも働きかけてください!

「鎌倉市紀行非常事態宣言」(2020年2月7日)の表明について(鎌倉市HP)
「鎌倉市気候非常事態宣言」を表明します
気候変動に起因する異常気象により、今、地球は危機的な状況にあります。このような危機に対し、本市では、第3次総合計画第4期基本計画実施計画において、気候変動対策としての側面にも注力し、重要な5つの視点のうち2つを「レジリエンスのまち」、「環境負荷低減のまち」としています。
市は、気候変動の危機に、組織一丸となり、横断的に取り組むことを明確にし、ここに「鎌倉市気候非常事態宣言」を表明します。

  鎌倉市気候非常事態宣言(PDF:318KB) 
今、地球はかつてないほどの危機に瀕しています。
世界各地で、猛暑、干ばつ、集中豪雨や超大型台風等の異常気象による甚大な被害が発生し、私たち人類の生命を脅かしています。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、気候システムの温暖化は疑う余地がないこと、自然的要因だけでなく人間による影響が近年の温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高いこと、気候変動はすべての大陸と海洋にわたり、自然及び人間社会に影響を与えていること、温室効果ガスの継続的な排出は、更なる温暖化と気候システムの全ての要素に長期にわたる変化をもたらし、それにより、人々や生態系にとって深刻で広範囲にわたる影響を生じる可能性が高まるとされています。
この危機に対処するため、世界では「脱炭素」社会を目指した動きが加速しています。

この地球に生きるものは、誰も気候変動の影響から逃れることはできません。しかし、未来の地球のためにできることがあります。
地球の危機、人類の危機を救うことができるのは、私たち一人ひとりの行動です。

本市は、SDGs未来都市として、地球温暖化による気候変動の対策に注力して持続可能な社会を実現するため、ここに気候非常事態であることを宣言します。

1 気候危機の現状について市民や事業者と情報を共有し、協働して全力で気候変動対策に取り組みます。
2 2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにすることを目指します。
3 市民の命を守るため、気候変動の適応策として風水害対策等を強化します。

みらいの地球のために脱炭素を目指す「緩和策」と今ある危機に対応する「適応策」を進めます。
             令和2年(2020年)2月7日 鎌倉市長 松尾崇

ひとりひとりの行動で、地球の未来を守りましょう!
★シャワーはこまめに止めましょう
→シャワーは1分間に12リットルの水が流れます
★何でも流しに捨てず、水を汚さない工夫をしましょう
→食べ残しや食器に付いた食べカスなどをそのまま流すことは海や川の水質汚濁の原因になります
★省エネ運転を心がけましょう。ちょっとした気づかいが、ガソリンの節約や二酸化炭素の排出抑制につながります
→エコドライブのすすめ!
★レジ袋は受け取らず、買い物袋を持ち歩く習慣をつけましょう
→レジ袋を全く受け取らないと1年間で3.36kgのレジ袋を節約できます
★ごみの分別出しを徹底し、資源化できるようにしましょう
→ごみの分け方・出し方

本書全体の主題である「気候危機」と「気候の非常事態」についてのわたしの意見。
人間社会の持続可能性のためにも、気候変化をちいさくくいとめるためにも、人間社会の生産・消費活動を、これまであたりまえだったものから、ちがったものに変えていく必要がある。これまでの「通常」(いわゆるbusiness as usual)のままつづけてはいけないという意味で、「非常」なのかもしれない。
しかし、emergencyというのはうまくないと思う。とくに日本語表現を「緊急」とするとまずいと思う。気候変化対策は、さきのばしにしてはいけない(30年後を待たず、ことしからとりかかるべき)という意味では「緊急」と言ってもよいのだが、各個人にとって、一生あるいは一世代の時間規模でつづける必要があることであり、「緊急」の態勢をはてしなくつづけようとすると無理が生じると思うのだ。「非常」ならば、時間規模を限定することばがないので、「緊急」よりはよい。しかし、「非常事態」というと、なにかひとつの種類の危険を避けることに集中するべきでほかのことは軽視してもよい、という感覚になりがちだと思う。たとえば、感染症の緊急事態だと、プラスチックなどの使い捨てはむしろ奨励されがちだ。また、環境の緊急事態を理由として人権が弾圧されるおそれもある。気候の緊急事態として人びとの関心を集中させると、ほかの環境要素が軽視されるおそれがある。たとえば、二酸化炭素を排出しない太陽光発電をふやすために自然生態系を破壊するようなことが奨励されるおそれがある。
このように考えて、わたしは、いまの状況を「気候の非常事態」だというのはまずいと思う。「地球環境の非常事態」のほうが相対的にはよいが、これも自分では使いたくない。他方、「気候の危機(crisis)」だというのは(気候自身が危機にあるのではなく、人間社会が気候との相互作用のせいで危機におちいっているという意味がわかっていれば)使える表現だと思う。(ただし「地球温暖化」と言ってきたものごとを「気候危機」と単純に言いかえればよいというものではない。)


キンラン、ギンラン 5月12日

ラン科キンラン属のギンランの同定について千葉県、神奈川県等の植物誌の記述です。

『千葉県の自然誌 別編4 千葉県植物誌』(千葉県、2003年)914頁
[ラン科]8.キンラン属 Cephalanthera L.C.Rich. 1818
 地生植物で、一部に半腐生の草本もある。短縮した根茎から肉質の根を出す。茎は直立して分岐せず、下部には鞘状葉があり、普通葉とともに互生、質は薄く、扇状にたたまれてしわがある。総状可除花序は頂生、花は平開せず、萼片は離生。花弁はこれより短い。唇弁は直立し3裂。基部は袋状、あるいは短い距となる。花粉塊は2個。ヨーロッパから東アジアにかけて約16種、日本には3種。
 A.花は黄色----------------------------------------------(1)キンラン
 A.花は白色
  B.花序の下に長い托葉がある。--------------------------(2)ササバギンラン
  B.このような托葉はない------------------------------------------------------------(3)ギンラン

(1)キンラン Cephalanthera falcata (Thunb.) Blume
 夏緑性、丘陵林下に生える、やや発達した根茎とひげ根をはる。茎は単立して40~50㎝あり、無毛、6~7葉を互生。葉は立てじわがあり、長楕円形、先はとがり、基部は茎をだく。5月頃茎頂に短い総状花序をつくり、3~10個ぐらいの半開の花をつける。苞は短い。花は長さ1.3㎝、花被は全体黄色く、唇弁ナインひだのみ赤く彩る。また、短い距をもち、横から見て三角に花外へ突き出る。蒴果は長さ2㎝の楕円体。シロバナキンラン form.albescens S.Kobayashi が佐倉市、四街道市、千葉市から報告がある(千資料№16)。これはときに幼い株に現れる現象とも言う。分布:本州、四国、九州;朝鮮、中国。●側向・黄花:虫媒:風散:互生・単葉・全縁・夏緑:中多年草(G)。定着度24。県評価:一般保護。国RD:絶滅危惧Ⅱ類(VU)
(2)ササバギンラン Cephalanthera longibracteata Blume
 林床に生える夏緑の多年草。短い根茎から春30~40㎝の1茎を立てる。基に数枚の鞘状葉があり、その上に5、6枚の広披針形の通常葉を螺旋状に配列する。5~6月茎頂に総状花序をつくり10花前後をつける。花序の下には特に長い苞葉があり、ときに花序の長さを超える。花は唇弁上のひだの黄褐色を除いて白く、半開で上を向いて開く傾向がある。長さ12㎜位。蒴果はごく短い柄を持ち、直立する。分布:北海道、本州、四国、九州;朝鮮、中国(東北部)。●側向・白花:虫媒+自媒:風散:互生・単葉・全縁・夏緑・中多年草(G)。定着度:25。県評価:要保護
(3)ギンラン Cephalanthera erecta (Thunb.) Blume
 林下、草地に生える夏緑の小草。ときに肥大する根がまざるのは菌根組織のためか。20㎝程の単立する茎の上部に3~4葉を互生するが、花の時期には十分に広がっていない。5~6月、頂きに7個前後の総状花序をつくる。花は半開で白く、唇弁に短い距があり、花外に突出する。県内では北部、西部からの報告が多い。分布:本州、四国、九州;朝鮮。ブナ群綱●側向・白花:虫媒+自媒:風散:互生・単葉・全縁・夏緑:低多年草(G)。定着度:25。県評価:要保護


『神奈川県植物誌2001』(神奈川県立生命の星・地球博物館、2001年)
500頁
[ラン科]13.キンラン属 Cephalanthera Rich.
 地上生。根茎は太く長い。茎は直立し、花は披針形~長楕円形、脈は顕著で数枚が互生する。花は総状につき白色または黄色。平開しない。苞は小さく開花時に脱落する。萼片は離生し、側花弁はやや小形。唇弁はずい柱の基部につき、3裂し、側裂片はずい柱を包み、中裂片は大きく幅広い。唇弁基部は短い距となる。花粉塊は4個。東アジア~ヨーロッパ、北アメリカにかけて約15種が知られ、日本には4種が分布し、いずれも県内に自生する。
 A.花は黄色。萼片は長さ15㎜以上、唇弁には5~7本の隆起線がある  ----------------------------------------------(1)キンラン
 A.花は白色。萼片は長さ12㎜以下、唇弁には3~5本の隆起線がある
  B.葉は線状披針形~狭長楕円形で長さ7~15㎝、葉の裏面や縁には白色の微毛がある--------------------------(2)ササバギンラン
  B.葉は長楕円形で長さ2~8㎝、稀に鱗片状に退化、微毛がなく平滑
   C.葉身の基部は平坦でなく、距は明かで側萼片の間から斜め後方に突き出る
    D.葉は数枚つき長さ3㎝以上--------------------------(3a)ギンラン
    D.葉は上部に1~2枚または鞘状葉で長さ3㎝以下--------(3b)ユウシュンラン
   C.葉身の基部は平坦となる。距は短くわずかに側萼片の間から出る    ----------------------------------------------(4)クゲヌマラン

(1)キンラン Cephalanthera falcata (Thunb.) Blume
 夏緑性。根は先が肥厚しない。茎は高さ20~70㎝。葉は長楕円状披針形で5~8枚が互生し、無毛で茎を抱く。花期は4~5月。花は3~12個を茎頂に上向きにつけ半開性。苞は3角形で小さい。萼片は卵状楕円形、側花弁は萼片よりやや短く同形。唇弁は3裂し、基部は距となり側萼片の間から少し突き出る。側裂片は3角形、中裂片は円心形である。蒴果は長楕円形。本州、四国、九州:朝鮮、中国に分布する。山地や丘陵の疎林内や林縁に生える。県内ではシイ・カシ帯~クリ帯に広く分布する。特に手入れの行き届いた雑木林内や林縁を好んで生えるが少ない。白花品はシロバナキンラン form. albescens S.Kobay. in:15(1966)といい、藤沢市六合発見され、記載された。標本:シロバナキンラン 藤沢市六合 1966.5.16 小林純子 MAK.
(2)ササバギンラン Cephalanthera longibracteata Blume
 夏緑性。根は先が肥厚しない。茎は高さ20~50㎝。葉は5~8枚が互生し、茎を抱く。花期は5~6月。花はまばらに数個を茎頂に上向きにつけ半開性。苞は線形。萼片は披針形。側花弁は卵状披針形。唇弁は3裂し、基部は短い距となって側萼片の間からやや突き出す。蒴果は長楕円形。北海道、本州、四国、九州;千島列島、朝鮮、中国(東北部)に分布する。丘陵やときに山地の疎林内に生える。県内ではシイ・カシ帯~ブナ帯に点在するが少ない。
(3a)ギンラン Cephalanthera erecta (Thunb.) Blume var.erecta
 夏緑性。根は先が一部肥厚する。茎は高さ10~30㎝。葉は3~6枚が互生し、無毛で基部は茎をわずかに抱く。花期は5~6月。花は茎頂に上向きに3~10個つき半開性。苞は3角形。萼片は披針形で先は尖り、側花弁はやや短く先は丸い。唇弁は先端が3裂し基部には距があり、キンランの距より長く側萼片の間から突き出す。蒴果は長楕円形。北海道、本州、四国、九州;朝鮮、中国に分布する。山地や丘陵の疎林内、林縁に生える。県内ではシイ・カシ帯~ブナ帯に広く点在するが少ない。
(3b)ユウシュンラン Cephalanthera erecta (Thunb.) Blume var.subaphylla (Miyabe & Kudo) Ohwi;C.subaphylla Miyabe & Kudo
 夏緑性。根は先が肥厚する。茎は高さ5~15㎝。葉は退化し、大部分が鞘状葉で、ときに花序のすぐ下に1~2枚の葉をつける。葉は狭長楕円形で長さ2~3㎝、幅は1~1.5㎝。花期は4~5月。花は茎頂に2~5個つけ半開性。苞は卵状楕円形でごく小さい。萼片は披針形。側花弁は卵状長楕円形で萼片よりやや小さい。唇弁は3裂し、距の先は3角状に尖りやや著しく突出する。蒴果は長楕円形。北海道、本州、四国、九州;朝鮮に分布する。山地の腐食土の多い林床に生える。県内では丹沢、箱根のシイ・カシ帯上部~ブナ帯のやや湿った腐食土の多い林床に生えるが稀。「神奈川RDB」では絶滅危惧種とされた。
(4)クゲヌマラン Cephalanthera shizuoi F.Maek., Iconogr. Pl. Orient. 1:58(1936)の基準産地は藤沢市鵠沼
 夏緑性。ギンランによく似た種類。根は先が1部肥厚する。茎は高さ20~40㎝。葉は4~7枚が互生し、無毛で基部は茎を抱く。花期は4月下旬~5月。花は茎頂に10個前後つける。苞は線状披針形。背萼片は狭卵形、側萼片は斜卵形。側花弁は卵形、唇弁は広卵形で先端は3裂し、中裂片は広卵形、側裂片は3角状卵形、距は側萼片の間からわずかに円頭状に頭を出す。蒴果は長楕円形。日本固有種。和名は鵠沼(藤沢市)という地名にちなみ、東京大学の生化学者服部静夫が採集し、同大学でランを研究されていた前川文夫が調べ、1936年に新種として東亜植物図説に図をつけて発表した。北海道(胆振、空知)、本州(青森県~和歌山県)、四国(香川県・徳島県)のおもに太平洋側に分布する。海岸地帯の疎林内の砂地や松林の林床に生える。県内では湘南海岸地帯のクロマツ林内や雑木林に生えるが稀。「神奈川RDB」では絶滅危惧種とされた。

『増補改訂版 フィールドで使える 図説 植物検索ハンドブック[埼玉2882種類]』(NPO法 埼玉県絶滅危惧植物種調査団、2016年)98~101頁
キンラン属 Cephalanthera
 1.花は黄色。唇弁に5~7本のすじが隆起する。茎や葉に乳頭状突起なし----------------------------------------------キンラン
 1.花は白色。唇弁に3本のすじが隆起する
  2.下部の苞葉は花序より長い。茎の稜や葉の脈上に乳頭状突起あり--------------------------ササバギンラン
  2.下部の苞葉は花序を超えない
   3.距は明かで、根元に大きな葉がある。茎や葉に乳頭状突起なし
     v.ユウシュンランは、根元に葉の退化した褐色の鱗片があり、花序のすぐ下には1-2枚の小さい葉あり--------ユウシュンラン
   3.距は全くない----------------------------------------------(4)クゲヌマラン

ユウシュンラン(HP『四国の野生ラン』)
キンラン属Cephalanthera
分布 世界には、温帯アジアを中心におよそ30種が分布する。
 ヨーロッパ・・・・9種
 アフリカ・・・・・3種
 温帯アジア・・・22種
 熱帯アジア・・・・8種
 北アメリカ・・・・1種
 (注)Kew WRLD CHECKLIST による。
    「種」には変種なども含まれる。(2015/11/13調べ)

 日本には、次の種が分布する。これらは、すべて四国での自生も確認されている。
 ・キンラン    C. falcata
 ・ギンラン    C. erecta
 ・ユウシュンラン    C. subaphylla
 ・クゲヌマラン    C. alpicola var. shizuoi
 ・ササバギンラン    C. longibracteata

 生態・形態
  地生種で、冬季には地上部がかれる。
  春に地上に直立の茎をだし、上部に花をつける。葉は互生する。
  ユウシュンランは半腐生ランで花を咲かせる株だけが地上に現れるが、キンラン属全般にラン菌への依存度が高いようである。
 

 

ナオミ・クライン『これがすべてを変える』(下) 3月30日

カナダのジャーナリスト、ナオミ・クライン著『This Changes Everything: Capitalism vs. The Climate』(2014)の全訳、日本語版です。訳者は幾島幸子さん、荒井雅子さんです。(上)(下)2巻で639頁あります(岩波書店、2017年)。

ナオミ・クライン『これがすべてを変える 資本主義 vs. 気候変動』下巻目次
第7章 救世主はいない -環境にやさしい億万長者は人類を救わない-
 億万長者と破れた夢 
 約束ではなく、単なる「意思表示」
 風前の灯のアース・チャレンジ
 規制回避のための戦略?

第8章 太陽光を遮る -汚染問題の解決法は……汚染?-
 「ゾッとすること」への準備
 うまく行かないはずなどない
 気候変動のように、火山も分け隔てする
 歴史は教え、警告する
 ショック・ドクトリンとしての地球工学
 地球という怪物
 本当にプランAを試したのか?
 宇宙飛行士の視点


第三部 何かを始める
第9章 「抵抗地帯」(ブロケディア)-気候正義の新たな戦士-
 ようこそ、「抵抗地帯」(ブロケディア)へ
 「クライメート・チェンジ作戦」
 世界が犠牲区域に
 敵地で身動きならない
 BP[旧ブリティッシュ・ペトロリアム]への不信
 大事故の教訓
 予防原則の復活

第10章 愛がこの場所を救う -民主主義、投資撤退、これまでの勝利-
 愛と水をめぐって
 ここまでの勝利
 化石燃料からの脱却 -ダイベストメント[投資撤退]運動
 民主主義の危機
 化石化した民主主義を越えて

第11章 ほかにどんな援軍が? -先住民の権利、世界を守る力-
 最後の防衛線
 力対権利
 「条約を守れ」
 選択肢の欠如

第12章 空を共有する -大気という共有資産(コモンズ)、気候債務の返済-
 太陽が顔を出す
 投資撤退だけでなく、再投資を
 地元の債務から地球規模での債務の返済へ
 バランスを変える

第13章 命を再生する権利 -採掘から再興へ-
 水中の流産
 「年取った男たちの住む世界」
 「中は空っぽ」
 温暖化する世界で姿を消す幼い者たち
 休息期間
 命の復活

終章 跳躍の年 -不可能を成し遂げるために残されたぎりぎりの時間-
 やり残された解放の仕事
 突然、誰もが

訳者あとがき

原注

索引
訳者あとがき
 本書は出版直後から大きな反響を呼んでベストセラーになり、すでに二五以上の言語に翻訳されている。『ニューヨークタイムズ・ブックレビュー』は「あふれんばかりの熱意と重大性をもつ本書は、論評が不可能なほどだ。……『沈黙の春』以来、地球環境に関してこれほど重要で議論を呼ぶ本は存在しなかった」と評し、インドの作家アルンダティ・ロイは「ナオミ・クラインは今日の最大かつ最も差し迫った問題に、その鋭く強靱、かつきめ細かな知性をもって取り組んでいる。……彼女は今日の世界で最もインスピレーションに富んだ政治思想家の一人だ」と評している。
  タイトルのThis Changes Everythingには二つの意味がある。ひとつは、私たちが今のままの生活を続けていけば、気候変動がこの世界の「すべてを変えてしまう」というネガティブな意味。そしてもうひとつは、それを回避するためには、「すべてを変える」ほど根源的な変革が必要だというポジティブな意味である。本書は、九七%の科学者が認めている気候変動という事象がまさに〝今、ここにある〟危機だという認識に立ったうえで、この問題の根本原因が成長神話にがんじがらめになった資本主義のシステムにこそあり、それを解決するには現行の経済システムとそれを支えているイデオロギーを根底から変える以外に方法はない、という結論を導き出している。(625~626頁)

 本書の前半(第一部・第二部)では、なぜここまで気候変動対策が遅れをとってしまったのかについての詳細にわたる検証が行われると同時に、気候変動を否定する右派の会議や、人工的に気候システムに介入して温暖化を緩和するという地球工学の専門家の会議への潜入ルポもあり、また化石燃料脱却をブチ上げる起業家ブランソンの言行不一致や、環境保護を掲げながら化石燃料企業と結託する大規模環境保護団体の偽善も暴かれる。まさにジャーナリストとしての面目躍如である。

 だが圧巻はむしろ後半、第三部以降であろう。気候変動対策を先送りし、問題を深刻化させてきた規制緩和型資本主義システムの暗部を、これでもかとあぶり出す前半の悲観的なトーンから一転して、ここでは化石燃料を基盤にした経済・社会のあり方そのものにノーを突きつける草の根抵抗運動が世界各地で展開し、拡大しつつあることを、これまた綿密な現地取材に基づき、希望の兆しとして報告している。近年、北米を中心にブームになっているオイルサンド採掘やフラッキング(水圧破砕)による天然ガス・石油の抽出は、従来の化石燃料採掘にも増して温室効果ガスを多く排出し、有毒物質による環境汚染の危険も大きい。自国カナダでの先住民を中心とする抵抗運動をはじめ、北米各地で化石燃料経済からの脱却を求めてパイプライン建設やオイルサンド掘削リグ用の巨大装置の輸送、採掘された石炭を輸出するためのターミナル建設などを実力で阻止するために闘う地域住民の姿が共感をもって描かれると同時に、これらの運動が点ではなく、SNSなどを通じて相互に結びついてネットワークを形成し、化石燃料企業にとって大きな脅威となりつつあることも強調されている。また掘削現場での闘い以外にも、化石燃料企業から投資を撤退するダイベストメント運動が急速に広がっていることも明るい材料のひとつとして取り上げられている。(626~627頁)

  (レイバーネット日本『週刊本の発見』第28回、2017年10月26日掲載)
 本書の最も重要な論点は、地球温暖化の危機が、同時に歴史的なチャンスにもなりうるという主張にある。これまで私たちは、経済成長こそ、人類を貧困から解放し、幸福をもたらす万能薬だと説明されてきた。だが、新自由主義の暴走の果てに到達したのは、少数の人々が富を独占する格差社会と、投機マネーによるバブル経済、そして地球温暖化による破滅の危機である。この悪循環を断ち切るためには、もう一度、市場に対する規制を強化すると同時に、巨額の公共投資(地球のためのマーシャル・プラン)を通じて、再生可能エネルギーを基盤とする定常経済へと移行しなければならない。そしてそれは「石器時代への回帰」を意味するのではなく、むしろ人々の生活の質を向上させ、南北格差を是正し、民主主義を土台から再構築するチャンスにもなりうるというのである。
 一般に成長神話や消費主義に囚われた現代人にとって、ポスト資本主義の未来を想像するよりも、「世界の終わり」を想像する方がたやすいと言われる。だがもし私たちが、一人の人間として、あるいは、子供をもつ親として、未来への責任を果たそうとするならば、いまこそ批判的想像力を発揮し、もう一つの世界の実現に向けて動きださなければならない。反グローバリゼーション運動の論客からクライメイト・ジャスティス運動の旗手へと成長したナオミ・クラインの渾身のメッセージである。

ナオミ・クライン『これがすべてを変える』(上) 3月29日

カナダのジャーナリスト、ナオミ・クライン著『This Changes Everything: Capitalism vs. The Climate』(2014)の全訳、日本語版です。訳者は幾島幸子さん、荒井雅子さんで(上)(下)2巻で639頁あります(岩波書店、2017年)。

Climate change isn’t just another issue to be neatly filed between taxes and health care. It’s an alarm that calls us to fix an economic system that is already failing us in many ways. Klein meticulously builds the case for how massively reducing our greenhouse emissions is our best chance to simultaneously reduce gaping inequalities, re-imagine our broken democracies, and rebuild our gutted local economies. She exposes the ideological desperation of the climate-change deniers, the messianic delusions of the would-be geoengineers, and the tragic defeatism of too many mainstream green initiatives. And she demonstrates precisely why the market has not—and cannot—fix the climate crisis but will instead make things worse, with ever more extreme and ecologically damaging extraction methods, accompanied by rampant disaster capitalism.
 
Klein argues that the changes to our relationship with nature and one another that are required to respond to the climate crisis humanely should not be viewed as grim penance, but rather as a kind of gift—a catalyst to transform broken economic and cultural priorities and to heal long-festering historical wounds. And she documents the inspiring movements that have already begun this process: communities that are not just refusing to be sites of further fossil fuel extraction but are building the next, regeneration-based economies right now.
 
Forget everything you think you know about global warming. It’s not about carbon—it’s about capitalism. The most profound threat to humanity is the war our economic model is waging against life on earth. Yet we can seize this existential crisis to transform our failed economic system into something radically better.
 
Klein exposes the myths that are clouding the climate debate. We have been told the market will save us, when in fact the addiction to profit and growth is digging us in deeper every day. We have been told it’s impossible to get off fossil fuels when in fact we know exactly how to do it—it just requires breaking every rule in the “free-market” playbook: reining in corporate power, rebuilding local economies, and reclaiming our democracies.
 
We have also been told that humanity is too greedy and selfish to rise to this challenge. In fact, all around the world, the fight for the next economy and against reckless extraction is already succeeding in ways both surprising and inspiring.
 
Can we pull off these changes in time? Nothing is certain. Nothing except that climate change changes everything. And for a very brief time, the nature of that change is still up to us.
 
Either we leap—or we sink.
 

ナオミ・クライン『これがすべてを変える 資本主義 vs. 気候変動』上巻目次
序章 気候変動によってすべてが変わる
 民衆によるショック
 最悪のタイミング
 エネルギーだけの問題ではない
 否定からの脱却

第一部 最悪のタイミング
第1章 右派は正しい(ライト・イズ・ライト)-気候変動にはらまれた大変革のパワー
 受け入れられない真実
 カネにまつわる話
 プランB -温暖化する世界で金を儲けろ
 ゾッとするほど冷たい世界
 保守派への迎合
 世界観の闘い

第2章 ホットマネー -自由市場原理主義はいかにして地球の温暖化を促進したか-
 気候より商売優先
 壁が崩壊し、排出量は上昇する
 貿易と気候 -二つの孤立
 安い労働力と汚いエネルギーのパッケージ取引
 自ら墓穴を掘る運動
 拡大から安定へ
 思いやりのある経済を育て、思いやりのない経済を縮小する

第3章 民間から公共へ -新しい経済への移行を阻むイデオロギー的障害を克服する-
 公的領域の再建と刷新
 汚染者負担

第4章 計画と禁止 -見えない手を叩き、運動を起こす-
 雇用創出のための計画
 電力/権力(パワー)のための計画
 あのドイツの奇跡について……
 「ノー」の言い方を忘れない
 「問題」ではなく枠組み

第5章 採取/搾取主義を超えて -内なる気候変動否定派と対峙する-
 究極の採取/搾取主義的関係
 左派の採取/搾取主義
 聞き逃されてきたいくつかの警告


第二部 魔術的思考
第6章 根(ルーツ)ではなく実(フルーツ)-大企業と大規模環境保護団体(ビッグ・グリーン)の破滅的な一体化-
 環境法の黄金時代
 一九八〇年代の急転換
 ビジネスと手を組む環境保護運動
 消費者パワーで解決?
 フラッキングと燃える橋
 汚染の取引

原注
塚原東吾さん(神戸大学教授)書評『週刊読書人』ウェブ
   週刊読書人掲載:2017年11月24日(第3216号)
 驚異の元凶は何か
「環境正義運動」が目指すもの 
 温暖化による危機を多面的に描き出す

   朝⽇新聞掲載:2017年10月15日
 「これがすべてを変える」書評 経済のあり方根本から新しく

中島政希『崩壊マニフェスト』 2012年10月5日

中島政希『崩壊マニフェスト』(平凡社、2012年)を読みました。
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中島政希『崩壊マニフェスト』目次
まえがき
第1章 マニフェスト崩壊劇の序章
  平均的保守政治家のダム認識
  誰も知らなかった建設計画
  「倉渕ダム」反対運動に出会う
  知事との黙約
  代替案は「権威ある」もので
  高まる民主党内の軋轢と髙﨑市長選挙
  建設凍結決定
  「八ッ場ダムへ」の躊躇
  市民運動から政治運動へ
  マニフェストで問う
第2章 この国にとってダムとは何か
 1、八ッ場ダム計画とは
  ダムを造り続けるわけ
  カスリーン台風の再襲に備える?
  時代が要請したダム建設
  進まない八ッ場ダム
  反対運動と住民の分裂
  「国」とはいったい誰なのか
 2、疑わしい治水能力
  近代日本の治水思想
  基本高水とは
  八ッ場ダムの洪水調節機能
  八ッ場ダムは治水の役に立たない
 3、偽りの渇水
  利水面での検討
  過大な水需要予測
  画期的な大阪府の水需要予測
  「東京都の水は余っている」
  暫定水利権とは何か
  暫定水利権を安定水利権に代える
 4、後世への禍根
  八ッ場ダムに突然浮上した発電計画
  ダムは観光に役立つのか
  逃れられない堆砂問題
  失われた白砂青松
  ダムに流れ込む大量の砒素
  地滑り、代替地の危険性
第3章 新政権の挑戦と失敗
  新大臣が自ら閉ざした道
  党政府一体化の誤算
  推進派の論理
  地域問題に後退させた愚
  地元の声とは何か
  政務三役の過信
  湖面一号橋の攻防
  現実主義の陥穽
  参院選での敗北
  志の後退
  「官僚たちの八ッ場」
第4章 新旧治水思想の相克
 1、公共事業改革は政権獲得の手段だったのか
  民主党の公共事業政策の変遷
  公共工事受難の時代へ
  諫早湾干拓と中海干拓
  対立軸となった公共事業政策
  「公共事業コントロール法」と「緑のダム構想」
  自民党の柔軟性
 2、新しい治水思想とは何か
  膨大な負荷と負担
  水を完全に封じ込めることはできない
  頻発するゲリラ豪雨と内水被害
  国民が納得できる説明と試みを
  改正河川法の精神
 3、結論ありきの再検証
  建設主体による検証という茶番
  関東地方整備局による治水代替案の問題点
  架空の予測とコストの無視
 4、「政」「官」「業」「学」「報」ペンダゴンの癒着
  それでも跋扈する天下りと談合
  あきれた「新解釈」
  国交省の地方支配
  五者もたれ合いに支えられて
第5章 最後の戦い
  官僚出身大臣の登場
  分科会の迷走
  民主党国土交通部門会議の「意見」
  政調会長の抵抗
  官房長官の裁定の怪
  最後の会議
  離党届提出
第6章 「政党政治」に明日はあるのか
  原子力ムラと河川ムラの同根
  政権交代と価値感の相克
  戦わずして敗れた
  官権政治
  失敗した「再分配構造の転換」
  「行革なければ増税なし」は日本の政治文化
  民主党の自民党化の帰結
あとがき
解説 科学者として共感させられた「脱ダム戦記」 大熊孝

八ッ場[やんば]ダム完成を3月に控え長野原町、YouTubeに「ふるさと、八ッ場」を公開(2020.01.06)
 「ふるさと、八ッ場」(Full、14分23秒)
 
 「ふるさと、八ッ場」(短縮版、3分3秒)
 

台風第19号における利根川上流ダム群の治水効果
   国土交通省関東地方整備局河川部記者発表(2019.11.05)・資料(PDF)
台風第19号における利根川上流ダム群※の治水効果(速報)
 ~利根川本川(八斗島地点)の水位を約1メートル低下~
台風第19号では、利根川上流ダム群※で約1.45億立方メートルの洪水を貯留しました。
この度、この貯留による利根川本川(八斗島地点(群馬県伊勢崎市))の水位低下量を算出したのでお知らせします。
※利根川上流ダム群:矢木沢ダム、奈良俣ダム、藤原ダム、相俣ダム、薗原ダム、下久保ダム、試験湛水中の八ッ場ダム

・観測最高水位 約4.1メートル(利根川上流ダム群※で貯留)
・計算最高水位 約5.1メートル(全ての利根川上流ダム群※が無い場合を仮定し、算出)
水位低下量 約1メートル
本資料の数値等は速報値であるため、今後の調査等で変わる可能性があります。

利根川水系の八ツ場ダムは、来年[2020年]3月完成の予定で10月1日から試験湛水が行われているが、今回の台風19号により、貯水量が一挙に増加した。八ツ場ダムの貯水量が急増したことで、「台風19号では利根川の堤防が決壊寸前になった。決壊による大惨事を防いだのは八ツ場ダムの洪水調節効果があったからだ」という話がネットで飛び交っている。10月16日の参議院予算委員会でも、赤羽一嘉国土交通大臣が試験湛水中の八ツ場ダムが下流の利根川での大きな氾濫を防ぐのに役立ったとの認識を示した。
しかし、それは本当のことなのか。現時点で国交省が明らかにしているデータに基づいて検証することにする。

八ツ場ダムの洪水位低下効果は利根川中流部で17㎝程度
10月13日未明に避難勧告が出た埼玉県加須市付近の利根川中流部についてみる。
本洪水で利根川中流部の水位は確かにかなり上昇したが、決壊寸前という危機的な状況ではなかった。加須市に近い利根川中流部・栗橋地点(久喜市)の本洪水の水位変化を見ると、最高水位は9.67m(観測所の基準面からの高さ)まで上昇し、計画高水位9.90mに近づいたが、利根川本川は堤防の余裕高が2mあって、堤防高は計画高水位より2m高いので、まだ十分な余裕があった。なお、栗橋地点の氾濫危険水位は8.9mで、計画高水位より1m低いが、これは避難に要する時間などを考慮した水位であり、実際の氾濫の危険度はその時の最高水位と堤防高との差で判断すべきである。

八ツ場ダムの治水効果については2011年に国交省が八ツ場ダム事業の検証時に行った詳細な計算結果がある。それによれば、栗橋に近い地点での洪水最大流量の削減率は10洪水の平均で50年に1回から100年に1回の洪水規模では3%程度である。本洪水はこの程度の規模であったと考えられる。
本洪水では栗橋地点の最大流量はどれ位だったのか。栗橋地点の最近8年間の水位流量データから水位流量関係式をつくり、それを使って今回の最高水位9.67mから今回の最大流量を推測すると、約11,700㎥/秒となる。八ツ場ダムによる最大流量削減率を3%として、この流量を97%で割ると、12,060㎥/秒になる。八ツ場ダムの効果がなければ、この程度の最大流量になっていたことになる。

この流量に対応する水位を上記の水位流量関係式から求めると、9.84mである。実績の9.67mより17㎝高くなるが、さほど大きな数字ではない。八ツ場ダムがなくても堤防高と洪水最高水位の差は2m以上あったことになる。したがって、本洪水で八ツ場ダムがなく、水位が上がったとしても、利根川中流部が氾濫する状況ではなかったのである。

河床の掘削で計画河道の維持に努める方がはるかに重要
利根川の水位が計画高水位の近くまで上昇した理由の一つとして、適宜実施すべき河床掘削作業が十分に行われず、そのために利根川中流部の河床が上昇してきているという問題がある。
国交省が定めている利根川河川整備計画では、計画高水位9.9mに対応する河道目標流量は14,000㎥/秒であり、今回の洪水は水位は計画高水位に近いが、流量は河道目標流量より約2,300㎥/秒も小さい。このことは、利根川上流から流れ込んでくる土砂によって中流部の河床が上昇して、流下能力が低下してきていることを意味する。河川整備計画に沿った河床面が維持されていれば、上述の水位流量関係式から計算すると、今回の洪水ピーク水位は70㎝程度下がっていたと推測される。八ツ場ダムの小さな治水効果を期待するよりも、河床掘削を適宜行って河床面の維持に努めることの方がはるかに重要である。

利根川の上流部と下流部の状況は
以上、利根川中流部についてみたが、本洪水では利根川の上流部と下流部の状況はどうであったのか。利根川は八斗島(群馬県伊勢崎市)より上が上流部で、この付近で丘陵部から平野部に変わるが、八斗島地点の本洪水の水位変化を見ると、最高水位と堤防高の差が上述の栗橋地点より大きく、上流部は中流部より安全度が高く、氾濫の危険を心配する状況ではなかった。

一方、利根川下流部では10月13日午前10時頃から水位が徐々に上昇し、河口に位置する銚子市では、支流の水が利根川に流れ込めずに逆流し、付近の農地や住宅の周辺で浸水に見舞われるところがあった。八ツ場ダムと利根川下流部の水位との関係は中流部よりもっと希薄である。八ツ場ダムの洪水調節効果は下流に行くほど小さくなる。
前述の国交省の計算では下流部の取手地点(茨城県)での八ツ場ダムの洪水最大流量の削減率は1%程度であり、最下流の銚子ではもっと小さくなるから、今回、浸水したところは八ツ場ダムがあろうがなかろうが、浸水を避けることができなかった。浸水は支川の堤防が低いことによるのではないだろうか。
なお、東京都は利根川中流から分岐した江戸川の下流にあるので、八ツ場ダムの治水効果はほとんど受けない場所に位置している。

ダムの治水効果は下流に行くほど減衰
ダムの洪水調節効果はダムから下流へ流れるにつれて次第に小さくなる。他の支川から洪水が流入し、河道で洪水が貯留されることにより、ダムによる洪水ピーク削減効果は次第に減衰していく。
2015年9月の豪雨で鬼怒川が下流部で大きく氾濫し、甚大な被害が発生した。茨城県常総市の浸水面積は約40㎢にも及び、その後の関連死も含めると、死者は14人になった。鬼怒川上流には国土交通省が建設した四つの大規模ダム、五十里ダム、川俣ダム、川治ダム、湯西川ダムがある。その洪水調節容量は合計12,530万㎥もあるので、鬼怒川はダムで洪水調節さえすれば、ほとんどの洪水は氾濫を防止できるとされていた河川であったが、下流部で堤防が決壊し、大規模な溢水があって凄まじい氾濫被害をもたらした。
この鬼怒川水害では4ダムでそれぞれルール通りの洪水調節が行われ、ダム地点では洪水ピークの削減量が2,000㎥/秒以上もあった。しかし、下流ではその効果は大きく減衰した。下流の水海道地点(茨城県常総市)では、洪水ピークの削減量はわずか200㎥/秒程度しかなく、ダムの効果は約1/10に減衰していた。

このようにダムの洪水調節効果は下流に行くほど減衰していくものであるから、ダムでは中下流域の住民の安全を守ることができないのである。

本格運用されていれば、今回の豪雨で緊急放流を行う事態に
本洪水の八ツ場ダムについては重要な問題がある。関東地方整備局の発表によれば、本洪水で八ツ場ダムが貯留した水量は7500万㎥である。八ツ場ダムの洪水調節容量は6500万㎥であるから、1000万㎥も上回っていた。

八ツ場ダムの貯水池容量の内訳は下の方から計画堆砂容量1750万㎥、洪水期利水容量2500万㎥、洪水調節容量6500万㎥で、総貯水容量は10750万㎥である。貯水池の運用で使う有効貯水容量は、堆砂容量より上の部分で、9000万㎥である。ダム放流水の取水口は計画堆砂容量の上にある。
本洪水では八ツ場ダムの試験湛水の初期にあったので、堆砂容量の上端よりかなり低い水位からスタートしたので、本格運用では使うことができない計画堆砂容量の約1/3を使い、さらに、利水のために貯水しておかなければならない洪水期利水容量2500万㎥も使って、7500万㎥の洪水貯留が行われた。

本格運用で使える洪水貯水容量は6500万㎥であるから、今回の豪雨で八ツ場ダムが本格運用されていれば、満杯になり、緊急放流、すなわち、流入水をそのまま放流しなければならない事態に陥っていた。
今年の台風19号では全国で6基のダムで緊急放流が行われ、ダム下流域では避難が呼びかけられた。2018年7月の西日本豪雨では愛媛県・肱川の野村ダムと鹿野川ダムで緊急放流が行われて、西予市と大洲市で大氾濫が起き、凄まじい被害をもたらした。今年の台風19号の6ダムの緊急放流は時間が短かったので、事なきを得たが、雨が降り続き、緊急放流が長引いていたら、どうなっていたかわからない。

ダム下流で、ダムに比較的近いところはダムの洪水調節を前提とした河道になっているので、ダムが調節機能を失って緊急放流を行えば、氾濫の危険性が高まる。
八ツ場ダムも本豪雨で本格運用されていれば、このような緊急放流が行われていたのである。

以上のとおり、本豪雨で八ツ場ダムがあったので、利根川が助かったという話は事実を踏まえないフェイクニュースに過ぎないのである。

必要性を喪失した八ツ場ダムが来年3月末に完成予定
八ツ場ダムは今年中に試験湛水を終えて、来年[2020年]3月末に完成する予定であるが、貯水池周辺の地質が脆弱な八ツ場ダムは試験湛水後半の貯水位低下で地すべりが起きる可能性があるので、先行きはまだわからない。

八ツ場ダムはダム建設事業費が5320億円で、水源地域対策特別措置法事業、水源地域対策基金事業を含めると、総事業費が約6500億円にもなる巨大事業である。
八ツ場ダムの建設目的は①利根川の洪水調節、②水道用水・工業用水の開発、③吾妻川の流量維持、④水力発電であるが、③と④は付随的なものである。

①の洪水調節については上述の通り、本豪雨でも八ツ場ダムは治水効果が小さく、利根川の治水対策として意味を持たなかった。利根川の治水対策として必要なことは河床掘削を随時行って河道の維持に努めること、堤防高不足箇所の堤防整備を着実に実施することである。

②については首都圏の水道用水、工業用水の需要が減少の一途をたどっている。水道用水は1990年代前半でピークとなり、その後はほぼ減少し続けるようになった。首都圏6都県の上水道の一日最大給水量は、2017年度にはピーク時1992年度の84%まで低下している。これは節水型機器の普及等によって一人当たりの水道用水が減ってきたことによるものであるが、今後は首都圏全体の人口も減少傾向に向かうので、水道用水の需要がさらに縮小していくことは必至である。これからは水需要の減少に伴って、水余りがますます顕著になっていくのであるから、八ツ場ダムによる新規の水源開発は今や不要となっている。

八ツ場ダムの計画が具体化したのは1960年代中頃のことで、半世紀以上かけて完成の運びになっているが、八ツ場ダムの必要性は治水利水の両面で失われているのである。
八ツ場ダムの総事業費は上述の通り、約6500億円にもなるが、もし八ツ場ダムを造らず、この費用を使って利根川本川支川の河道整備を進めていれば、利根川流域全体の治水安全度は飛躍的に高まっていたに違いない。

田中康夫「脱ダム政策の哲学と実践~やめればいいのではなく、新しい治水のあり方を示す~(『都市問題』100-12、2009.12)(PDF)民主党政権はマニフェストに従い、八ツ場ダムと川辺川ダムの中止を表明した。しかしそこにはダムについての哲学も歴史観も示されず、新しい治水のあり方も示されていない。金が地方から中央に環流してしまうダム/日本の河川工学は科学ではない/ダム建設に40年も50年もかかる理由/ダムと橋とトンネルの秘密/国内の本当の安全保障は水の保全/脱ダム政策の実際

最後に民主党政権と八ッ場ダムに関して言えば、もっときちんとしたプレゼンテーション(説明)が必要です。市民運動家の段階ではいいでしょうが、政権を担う立場になった民主党の八ッ場ダムへの対応は、利権のためではなく県民のための執行権者として私が行ってきた脱ダムとは、ずいぶん違う哲学と方策のもとでなさっているのではないか。その意味でも不安と期待を抱いておりますということです。(18頁)

田中康夫「しなやかな是々非々 水害は『脱ダム』のせいなのか!? 田中康夫の実践的『治水・治山』原論(『サンデー毎日』2019.11.17)(PDF)>田中康夫公式サイト( http://tanakayasuo.me/river

太田猛彦「日本の森の変遷-荒廃から復活へ」 2月19日

2月16日の東松山市環境学習会で紹介された『全国植樹祭70周年記念写真集』(国土緑化推進機構、2019年)の巻末にある太田猛彦さんの解説「日本の森の変遷-荒廃から復活へ」(54~56頁)を読みました。全国植樹祭は1950年奈良県で「植樹行事並びに国土緑化大会」として開催され、1959年、第10回大会が埼玉県で実施されています。1970年、福島県で開かれた第21回大会から現在の名称に変更されました。全国植樹祭の前身は1934年に始まった「愛林日植樹行事」(Wikipedia)です。
 日本は高温多雨の夏を持つ温帯の島国
  豊かで多様な森に育まれた縄文文明
 日本はユーラシア大陸の東岸に横たわる南北約3000 km の弧状列島である。しかも世界地図を広げてみればわかるように、四季が明瞭な温帯には日本のような大きな島は極めて少ない。すなわち、海の影響を受ける島々は熱帯や亜熱帯、寒帯には多いが温帯には日本列島とイギリスの2島、ニュージーランドの2島ぐらいしかない。
 さらに日本列島とイギリス二島は大陸の近くに位置しその影響も受けるが、影響の受け方は全く異なり、大陸の東岸はモンスーン気候で夏季に降雨が多く、冬季は乾燥する。一方大陸の西岸は西岸海洋性気候で、夏は乾燥気味であり、冬に雨が多い。つまり日本は熱帯雨林のような高温多雨の夏を持つ世界で唯一の温帯の島国であり、そのような気候が日本の豊かな森を育んでいる。その上「冬は乾燥する 」と言っても、シベリアからの北西季節風と日本海を北上する暖流の影響で日本海側は降水量が多く、それは降雪となって日本の森林を一層多様にしている。
 日本人は縄文時代の昔からそのような森に支えられた豊かな自然を利用して暮らしてきた。この時代の列島にはドングリやクリが実る落葉広葉樹の森が広がっていたため、縄文人は基本的に食糧に困ることはなく、しかも煮炊きを可能にする縄文式土器の発明によって利用できる食材の幅を広げることができたため、農耕を受け入れることがなくても豊かな生活を送ることができた。例えば 、縄文時代の遺跡として有名な三内丸山の定住集落は1700年ほど続いたと言われるが、そこでは春は山菜採り、夏は漁労、秋は木の実の採集、冬は狩猟などにより豊かな食料を得、集落の中心には木材を使った祭祀用の施設を建造していた。しかし森が大きく傷つくことはなく、自然と共生した「持続可能な社会」が展開されていたと言える。農耕の始まりを研究したジャレド・ダイアモンドは日本の縄文文明を「森を利用した最も豊かな狩猟採集民族文明」と評価している。
 稲作の伝来とともに森林は劣化
  江戸時代は「森林荒廃の時代」
 しかし縄文時代に稲作が伝来すると、日本の森林はその後大きく変化していった。すなわち、縄文時代後期には豆類などを栽培する簡単な農業は始まり、居住地の周りの森林が変化し始めたが、水田稲作は連作は可能で、病虫害も畑作より軽微な上、何よりも単位面積当たりの収穫量が多く、したがって人口収容力も大きく、一方で用水確保のために集団生活が必要であり、集落が発達した。その結果、集落や農地の開発による森林の消失のほか、食料以外の資源は燃料も含めてほとんどが林産物であったため、いわゆる里地・里山システムを基本とする稲作農耕社会が成立するとともに集落の周りの森林の劣化も始まった。
 やがて飛鳥・奈良時代以降に次々と古代都市が成立すると、建築資材等木材の本格的使用が始まって大量の木材が伐採され、畿内を中心に本来の豊かな天然林はやせ地でも育つマツ林に変わるなど森林の劣化が進行した。また、それが原因で洪水や土砂災害がたびたび発生した。そこで森林を保護するため、例えば天武天皇は676年に飛鳥川上流に禁伐令を発している。そして、10世紀末には田上山など畿内各地に荒廃山地(はげ山)が出現するようになった。
 その後室町時代頃になると、各種産業の発達による人口の増加によって地方でも城郭や都市の建設が盛んになり、燃料用や資材用の木材需要が増加した。そのため森林の劣化も全国に広がっていった。またこの時代になると、製塩業、製鉄業、窯業等に必要な産業用燃料材の需要が増加して、森林の劣化がいっそう進んだ。さらに戦国時代以降、戦国大名は江戸時代の各藩によって水田の開発がいっそう進み、江戸時代中期には100万人が暮らす巨大都市江戸を要する人口3000万人の稲作農耕社会が成立した。当時の日本は世界人口の4~5%を占める人口大国であり、その人口を支えたのが稲作農業と森林を中心とする自然資源だった。しかしその頃、森林資源は既に逼迫しており、各地にはげ山が広がるとともに、里地・里山システムにかかわる入会地での村落間の境界争いや村落内での資源の奪い合い、あるいは水争いが頻発した。
 一方で、森林の消失(裸地化)や劣化は山地での土砂崩壊や平地での洪水氾濫を引き起こし、それらは災害となってたびたび人々を襲った。江戸時代は「森林荒廃の時代」ということができるだろう。以降、日本の国土は20世紀前半まで、山地で土砂が生産され続け、それが河川に流出し続け、海岸に土砂を供給し続ける国土となった。幕府は土砂留工事や砂溜工事を進めるとともに、熊沢蕃山ら儒学者からの治山治水の進言を受け入れて、例えば1666年の「諸国山川掟」のような、要所での伐採禁止や植林の奨励を布告した。また幕府や各藩は今日の保安林制度につながる留山や留木の制度を制定し、海岸では飛砂害防止のために砂防林を造成した。
 当時の山地・森林の様子は、例えば歌川広重の浮世絵「東海道五十三次」を見れば一目瞭然である。どの図版にも鬱蒼とした豊かな森は描かれていない。遠景の山はどの図版でも木々がまばらである一方で東海道名物の「松並木」や山腹の松が繰り返し描かれている。土壌が貧弱で他の樹木は生育できない荒れ地や砂地でもマツはよく育つ。「白砂青松」とよく言われるが、養分が少ない海岸の砂地にはマツしか生えない。つまり江戸時代の山も基本的にはこの写真集に掲載されている古い写真のような状態で、マツしか生えないほど貧弱だったのだ。

 治水三法を制定した明治政府
  乱伐は昭和の終戦直後まで続いた
 明治時代に入ると近代産業が勃興し、人口が急増し、都市が発達したが、この時期、産業用燃料はいまだ薪炭に頼っていた。そのため、建設資材や燃料材確保の必要性から森林伐採への圧力がいっそう強まった。その結果として、明治中期は日本の森林が歴史上最も劣化・荒廃していた時期と推定される。そのため明治政府はいわゆる治水三法を制定して河川では河川法に基づく洪水氾濫防止のための連続堤工事を開始するとともに、森林法の保安林制度に基づく治山事業や砂防法に基づく砂防事業によって荒廃山地での植林を精力的に行った。しかし近代的治山治水事業が始まっても国民の大部分は依然として森林に頼る農民であり、戦争の半世紀もあって里山の荒廃地はあまり回復しなかった。この写真集の大半の写真はこの頃の里山の状況を示している。
 一方、古代以来の都の造営や城郭、社寺の建設で必要な大径木は江戸時代には全国の奥山に探し求めるまでに減少したようだが、通常使われる木材もすでに江戸時代には品薄だった。そのため各地に人工林業も始まったが、大部分は天然林から伐り出された。さらに明治時代以降は近代化のための資材としての木材の需要が増大し、昭和時代に入ると森林鉄道の普及もあって奥山で本格的な伐採が始まった。加えて大戦中及び終戦直後の混乱した時代には、木材は唯一の自前の資源として文字通り乱伐された。全国植樹祭はこうした状況の中で昭和25年[1950]に始まったのである。

 「拡大造林」を経て「森林飽和」へ
  変わらぬ植樹活動の大切さ
 以来70年。この間、奥山では列島改造~高度経済成長期に木材需要を満たすための大規模な森林伐採があり、その跡地には「拡大造林」と称してスギやヒノキ、カラマツなどが植えられた。その後外材の輸入自由化や火災防止のための木質建材の使用制限もあって国産材の需要が減少したため奥山での伐採圧力は低下した。一方里山では治山・砂防事業の成果がようやく現れ始めたのに加え、燃料や肥料が森林バイオマスから化石燃料や化学肥料に転換されて薪炭林や農用林が不要となったため森林が回復し始めた。こうして昭和時代末期から平成時代を通して日本の森林は奥山でも里山でもその蓄積を増加させ、「森林飽和」と呼べるほどに復活した。その背景には全国植樹祭を中心とした緑化運動や国民参加の森づくりによる緑化の呼びかけも大きく影響していると思われる。
 一方この時代には広葉樹の復活を望む声も広がるとともに、かつての里山を保存する活動も盛んになった。この傾向は全国植樹祭の植栽樹種の選択にも表れ、1970年代からモミジやサクラ類、トチノキなど各種の広葉樹の植林が見られるようになり、1990年代に入ってからは広葉樹が大勢を占めるようになった。これは森林の全般的な成長と林業の不振の一方で1990年代以降は生物多様性保全の重要性が広く知られるようになって、多様な森づくりが好まれるようになった結果とみられる。 [以下略]
※久那村(秩父市)の治山工事施行地(完了後、1938年)(同書31頁)
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※山本悟さんの「知っておきたい日本の植林史」(同書20頁)
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0次谷の表層崩壊 2月17日

昨年10月、台風19号の豪雨により、市民の森や石坂の森では小規模な表層崩壊がありました(10月26日の記事)。岩殿満喫クラブの管理する岩殿C地区の西側、無名沼イ号の奥の谷頭は「明瞭な流路をもたない谷頭の集水地形」、「九十九川が始まる湧水のポイントではあるが、表面では川の様相を呈していないが、集水しているお椀状のエリア」=0次谷で、今後集中豪雨で山腹が崩壊する危険がないとは言えないので、災害に備えて「表層崩壊」等について資料を調べてみました。
「流木災害等に対する治山対策検討チーム」中間取りまとめ
2017年7月、九州北部豪雨において、山腹崩壊に伴い発生した流木が下流に大きな被害を与えました。林野庁では、「流木災害等に対する治山対策検討チーム」を設置し、災害の実態把握や山腹崩壊の発生メカニズムの分析・検証等を行い、更なる効果的な治山対策の在り方について検討し「中間取りまとめ」として公表しています。
●「流木災害等に対する治山対策検討チーム」中間取りまとめ01「流木災害等に対する治山対策検討チーム」中間取りまとめ資料分割6

※「災害に強い森林づくり指針」(長野県、2008年)
災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8
長野県では、2006年7月に大規模な豪雨災害に見舞われ、連続累積雨量400mmを記録した県央部を中心に76億円を超える林地被害が発生し、12名が亡くなりました。この災害を教訓にして、森林の土砂災害防止機能を強化し、山地災害から県民生活の安全・安心を確保するために、「森林の土砂災害防止機能に関する検討委員会」を計10回開催し、2008年1月にその検討結果を『災害に強い森林づくり指針』として公表しています。
災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_01災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_02災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_03災害に強い森林づくり指針(長野県)shishin_8_04

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検索に移動0次谷(ぜろじたに、zero-order basin):塚本良則さんによって定義された流域の呼称。
 表層崩壊との関係(Wikipedia)
表層崩壊は、斜面崩壊のうち斜面表土が飽和側方流や地震によって滑落する現象であるが、0次谷との関係においていくつかの特徴が指摘されている。内容は以下の通りである。

表層崩壊は0次谷流域を単位として、その多くが0次谷内部で発生する。
1つの0次谷に1つの表層崩壊が発生する。
表層崩壊面積と0次谷流域面積には相似関係が存在する。
豪雨型山崩れによる流域総生産土砂量には上限値が存在する。

表層崩壊とそれにともなう土石流は過去に大土砂災害を引き起こしている。0次谷と、0次谷と崩壊の関係を調査・研究することは、斜面災害対策を行う上で極めて有意義であるといえる。

東松山市環境学習会第1回 2月16日

東松山市と環境基本計画市民推進委員会では、市民の皆さんに協働による環境まちづくり活動や環境問題への認識を深めていただくことを目的に、環境学習会を企画しています。今日は『森林飽和』、『ダムと緑のダム』の著者、太田猛彦さんを講師に「日本の森林の現状を知り、今後の保全のあり方を考える」をテーマに実施し、多くの参加者がありました。
次回、3月8日(日曜日)は勝浦信幸さんを講師に「協働による持続可能なまちづくり」を予定しています(10~12時、総合会館3階304会議室)。

日本の森林の現状を知り、今後の保全のあり方を考える
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現在の森を知るためには、かつての森の姿を知ってほしい
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治水三法(1896年河川法、97年砂防法、森林法)
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林業基本法(1964年)、森林・林業基本法(2001年)
計画的な治山・治水事業に社会の変貌(燃料革命、肥料革命等)により人々が森から離れ、里地・里山システムが終焉。森林は400年ぶりの緑を回復したが、放置され荒廃はすすむ。
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日本学術会議答申、森林の多面的機能
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地球環境問題の出現
 土地と水の利用の問題→生物多様性喪失
 地下資源利用の問題→廃棄物問題・地球温暖化(エネルギー問題)
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新しい森林の原理(2004年)と持続可能な森林管理と地域の木材の利活用
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(2014年7月29日に行われたウッドマイルズフォーラム2014での太田さんのスライドの一部を引用)

学習会後半部分で取りあげられていたプラネタリー・バウンダリ、SDGs、ESG等については別記事を準備中です。
 

虫明功臣、太田猛彦監修『ダムと緑のダム』 2月15日

虫明功臣、太田猛彦監修『ダムと緑のダム 凶暴化するする水災害に挑む流域マネジメント』(日経BP、2019年12月)です。台風19号の集中豪雨で市民の森のボッシュ林エリアの0次谷(明瞭な流路をもたない谷頭の集水地形)と石坂の森見晴らしの丘下では小規模な表層崩壊が起きていたこと(2019年10月26日記事12月23日記事)を頭に置いて、市民の森の森林管理について考えながら読み終えました。
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ダムと緑のダム 凶暴化するする水災害に挑む流域マネジメント』目次
はじめに(虫明功臣[むしあけかつみ]、太田猛彦)

第1章「緑のダム」が決壊した(井山聡)
 2017年九州北部豪雨災害の爪痕
  豪雨で孤立した集落
  1942年の観測開始以来最大の雨
  東京ドーム約9個分の土砂と流木の流出
  洪水、土砂、流木を防いだ ダム
  2018年西日本豪雨での最悪夢
  連年の豪雨災害
  山林崩壊のメカニズム
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 近年、特に頻発する土砂・流木災害
  森林が豊かな地域でも多発の恐れ
  全て砂防堰堤での対策は現実的でない

第2章森林における治水・利水機能とその限界(高橋定雄)
 緑のダムの限界
  大洪水ではピーク流量の低減を期待できず
  渇水時には貯水ダムの代わりにならず
  日本学術会議の見解
  森林施業による治水・利水対策の限界
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 川辺川ダムにおける緑のダム論争
  緑のダム論争の経緯と論点
   img-200215195113-0006
  森林の保水力についての共同検証(現地試験)
  健全な流域水循環系の構築に不可欠な森林の保全・整備

第3章急峻な国土に生きる(小山内信智)
 山は動く
  3つの土砂災害
  過去30年でどんどん増える土砂災害
 森林(植生)の土砂流出抑制効果と限界
  森林(植生)の土砂流出抑制機能
  近年の土砂災害の実態
  緑の落とし穴?
 土砂・立木災害にどう立ち向かうか
  第二次世界対戦後の日本の土砂災害対策
  ソフト対策の進展とその課題
  土砂移動現象にほぼ必ず含まれる流木

第4章森林政策を考える(太田猛彦)
 日本の森林の劣化と回復
  「世界で唯一」の森で暮らした縄文人
  稲作の伝来と森林の劣化
  江戸時代は山地荒廃の時代
  日本の森林が史上最も劣化・荒廃した明治中期
  戦後社会では森林の蓄積が増加
  林業の経済政策を優先した林業基本法
  地球環境時代の到来と森林・林業基本法
  竹林の繁茂や花粉症のまん延などの新たな問題
   表層崩壊の激減と土石流の変化
 一方、森林の復活による最も大きな影響は、山地における侵食様式の変化でした。すなわち、主にはげ山や林間の裸地、山間の耕地で発生する表面侵食は、ヒノキの人工林などで未間伐な部分やシカの食害で林床植生が消滅した部分を除くと 、ほとんど起こらなくなりました。また表層崩壊は、斜面表層の1、2メートル程度の風化土壌層が地表面から浸透する降雨の作用や地震の震動で崩れるもので、はげ山や幼齢林地で発生することが多いのですが、壮齢林では樹木の根系の作用によって発生し難くなるため、平成時代には目に見えて減少しました。
 土石流も発生形態が変化しているように見えます。森林が劣化していた時代に起こった豪雨による土石流の大部分は、1次谷(常時表流水がある最上流の谷)内の数個の表層崩壊が集合して発生していました。一方、森林が回復した平成時代に入ると、谷頭などで単独に発生した表層崩壊が土石流化する場合が多くなりました。豪雨の規模の増大化によって 、大量の水が山腹から流出して崩壊土砂に加わるようになり、小崩壊でも土石流化する場合が多く見られるようになった結果と推測されます。このような理由によって、表層崩壊が減ったにもかかわらず、土石流の発生はそれほど減少していないようです。
 こうした状況は山地での流木の発生に大きく影響しています。すなわち、山地での流木の発生の大部分は、表層崩壊地の立木が崩壊土砂とともに流出することにより発生するので、先述した土石流の発生様式の変化とは、「 表層崩壊は必ず流木を発生させる」と考えた方がよくなったことを意味します。(114頁)
  森林の充実で河川も海岸も変貌
  森林は水源涵養機能を十分に発揮
 森林の多面的機能と森林・林業
  森林・林業基本法と森林の多面的機能
  国連のミレニアム生態系評価とほぼ一致する「森林の原理」
 森林・林業基本法の制定に関連して日本学術会議は01年に、当時の農林水産大臣の諮問に応じて「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価等について」を答申しました(図5)。
 このうち「森林の原理」は、詳しくは「森林と人間の関係に関する『森林の原理』」というもので、環境、文化、物質利用の3つのサブ原理から成り、「多面的な機能の種類」の①~⑤、⑥と⑦、⑧がそれぞれほぼ対応します。さらにこれらは国連のミレニアム生態系評価で04年に提案された「生態系サービス( 生態系によって人類に提供される資源と公益的な影響)」の調節サービス、文化サービス、供給サービスとほぼ一致しています。森林の適切な管理とは物質生産機能(林産物供給機能)とその他の環境保全機能等とを共にバランスよく発揮させることといえます。
 また、上記の各機能を議論する際に忘れてならないのは「森林の多面的機能の特徴」の指摘です。特にそれぞれの機能を単独に取り上げて議論する場合に出てきた結論で、直ちに森林の存在そのものに評価を下すことは避ける必要があります。例えば、流木災害の原因になるからといって、渓流の周りの森林を除去することは、渓流生態系を保全する森林の機能を犯すことになり、森林の機能の多面性を正しく評価していないことになります。(119~120頁)
図5 日本学術会議が答申した森林の多面的機能
2.森林の原理:森林(植生)の最も基本的なはたらきは、自然環境の構成要素としての働きである(環境原理)。しかし、人々が身近な森を利用し、生活を向上させてきたことも自明であり、昔から森は目いっぱい 利用された(物質利用原理)。さらに、かつての森の民・日本人にとって、森が日本の精神・文化、すなわち日本人の心に影響を与えたこともまた当然と言える(文化原理)。
3.森林の多面的な機能の種類と意味:最も根源的な森林の機能として、人類そのものが森林を舞台とした生物進化の所産であることの意味まで含む①生物多様性保全機能がある。森林の本質である環境保全機能としては②地球環境保全機能、③土砂災害防止機能/土壌保全機能、④水源涵養機能、⑤快適環境形成機能がある。日本人の心にかかわるものとしては、⑥保健・レクリエーション機能、⑦文化機能がある。さらに 、⑧物質生産機能(林産物供給機能)は森林の本質的機能であるが、その利用は環境保全機能等とトレードオフの関係にあり、異質の原理に基づく機能といえる。
4.森林の多面的な機能の特徴:森林は極めて多様な機能を持つが、ここの機能には限界がある。森林の多面的機能は総合的に発揮されるとき最も強力なものとなる。さらに森林の多面的機能は、他の環境の要素との複合を発揮や、重複発揮性、階層性等の特徴を持つ。

  7つの機能からみる現代の森林問題
……01年の日本学術会議による答申で詳説しており、本書でも特に関係が深いのは、「③土砂災害防止機能/土壌保全機能」と「④水源涵養機能」です。この2つを詳しく解説します。
 山地災害の中で最も深刻なのは土砂災害です。落葉落枝層(A0層)や林床植生が健全な森林では、豪雨があってもほぼその全量を地中に浸透させて地表流を発生させず、表面侵食を確実に防止することが重要です。しかし、伐採により地表がかく乱された場合や林床植生がシカの食害を受けた林地、あるいは間伐されず林床が裸地化したヒノキ林などでは地表流が発生して表面侵食が起こってしまいます。
 地表から浸透水による間隙水圧の増加や地震の慣性力によって風化土壌層が崩れる表面崩壊は、森林が成長するとその樹木の根系の先端が基盤岩やその弱風化層に食い込む「杭効果」や、隣接木の根系同士が絡み合う「ネット効果」によって大幅に減らすことができます。また、土石流は表層崩壊による崩落土砂に表流水や地下水が加わって発生することが多いので 、森林は表層崩壊を減少させることによって土石流の発生も減らせることになります。
 しかしながら森林には、基盤岩そのものや厚い堆積土層が崩れる深層崩壊の発生、さらには地すべりの発生を防止する効果はほとんど認められません。また表層崩壊であっても豪雨の規模が極端に大きい場合や震度7クラスの地震の直撃に対しては防止軽減効果にも限界があります。
 一方、森林が劣化して裸地化した山地斜面と比較して健全な森林山地が水源涵養機能を発揮する最大の理由は、落葉落枝層(A0層)や林床植生が豊かな”健全な”森林土壌層が雨水を地中に浸透させて、裸地斜面で発生する地表流を流速の遅い地中 流に変えることにあります。すなわち地表流が地中流に変わると、山地斜面に降った雨が河川に流出するまでの時間が長くなり、洪水流出ハイドログラフのピーク流量が低下し、ピーク流量発生までの時間が遅くなり、さらには減衰部が緩やかになります。主に健全な森林土壌が発揮するこの機能を森林の洪水緩和機能と呼んでいます。そして、河川流出におけるこの変化は直接流出成分の一部が基底流出成分に変わることを意味し、水資源貯留効果を発揮することにつながります。あるいは洪水流出として無駄に海洋に排出される流量をゆっくり流出させて水利用の機会を増やすことにもなります。これは見方を変えると、流量を調節しているということもできます。
 さらに、健全な森林に到達した雨水は森林土壌を通過し河川に流出する間に土壌のろ過作用や緩衝作用、土壌鉱物や基盤岩からのミネラルの添加、飽和帯での脱窒作用などを受けて水質が改善され、あるいは清澄なまま維持されます。これは水質浄化機能といわれています。
 一方で極端な渇水が発生すると森林は蒸散作用によって通常は河川に流出するはずの水分を消費するので渇水流量を低下させてしまうことも知られています。また、成長した森林は遮断蒸発と蒸散作用の両方で大量の水を消費するので、この場合は伐採や間伐により主に樹冠の葉量を制限することが水資源利用上有利です。(122~124頁)
  現代の林業問題
 持続可能な社会と今後の森林管理
  SDGsと親和性が高い森林・林業
  新たな森林管理システム
  市町村に配分する新しい税制「森林環境税」
  森林認証制度で適切なチェックを
 山地災害対策と災害に強い森づくり
  保安制度と治山事業
  3つの流木の発生源
 流木の大部分は、①「表層崩壊と呼ばれる山腹崩壊地から流出流出する流木」です。 具体的には35~40度程度の急勾配の山腹斜面、特に0次谷(常時表流水がある谷の上部に位置する集水地形)と呼ばれる凹型斜面で表層崩壊が発生し、さらに崩壊土砂が流動化して土石流となった時、大量の流木が渓流に流出します。
 そして発生した土石流の運動エネルギーが大きい場合は、②「山脚部や古い土石流堆積地、掃流堆積地)が侵食されて、その上に成立したいわゆる渓畔林も流木化」します。その後、流木の大部分は通常は土砂とともに渓流の下流部に堆積しますが、一部は土石流と共に下流河川に流出します。
……さらに、③「谷底低地や小河川沿いの低平地の渓畔・河畔、あるいは氾濫した洪水流の進路上の樹木が押し流されて流木化」したものが加わります。(137~138頁)
 ここで①について、森林と崩壊と流木発生の関係に関する基本的知識を3つ挙げておきます。
 第1は、山崩れには山腹斜面上の風化土壌層が崩壊する「表層崩壊」と厚い堆積土層や基盤岩から崩れる「深層崩壊」があり、豪雨による崩壊のほとんどが表層崩壊です。また、表層崩壊は花こう岩系や堆積岩系(特に新第三紀層)のち地質の山地に多発する傾向がありますさらに前述したように、豪雨による表層崩壊は急斜面だけでなく、水が集まりやすい0次谷に発生しやすい性質があります。
 第2は、森林は「根系の働き」と「風化土壌層中の効果的な排水システム」によって表層崩壊を抑制します。このうち根系の働きについては、根が基盤岩の弱風下層や割れ目に食い込む杭効果と、隣接する樹木の側根同士が絡み合うネット効果があり、両者によって表層崩壊を起こりにくくしています。また効率的な排水システムとは土壌中に浸透してきた雨水が風化土壌層の底部(基盤岩の表面)に発達したパイプ状の水みちを通して効率的に排水される機構を指し、これによって土壌中で水圧が高まるのを防ぎ、崩壊を抑制しています(図9)。しかしながら17年の九州北部豪雨のように、豪雨の規模が強大だと崩壊に至る場合もあり、森林の働きには限界があることもしっかり受け止める必要があります。
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 第3は、流木は主に表層崩壊によって発生するということです。切り捨て間伐材などのリ林地残材や伐採後搬出前の材が豪雨によって直接流出する懸念が指摘されていますが、崩壊土砂や土石流に巻き込まれて流出することはまれにあるにせよ、通常はこれらの材を押し流すほどの水深を持つ流れが山腹斜面上に発生するとは考えられません。
 一方、温暖化によって、表層崩壊が発生するような豪雨がある場合、山腹や谷の上部から大量の流出水が加わって崩落土砂が土石流化する事例が多くなっており、今後はいったん表層崩壊が発生すれば、ほとんどの崩壊地から流木が渓流にまで流出してくると予想されます。(139~140頁)
  山地・渓流における流木災害軽減対策
  山腹斜面では表層崩壊をできるだけ抑制
 山腹斜面では、表層崩壊をできる限り抑制する対策が望まれます。ただし、急斜面で多発する特性を考えれば、①[発生し流下する土砂や流木そのものへの対策]の施設による対策は限定的にならざるを得ません。それでも特に危険な急斜面や凹型斜面では、これまでより強化した斜面安定対策(山腹土留工など)を実施する必要があるでしょう。また0次谷下部などでは谷止工を設置し、崩壊土砂の流動化、土石流化を防ぐ必要があります。
 一方②[流木が出にくい森づくり]の災害に強い森づくりでは、人工林であっても広葉樹林であっても、密度管理により根系・下層植生の発達した林木で構成される森林を、息長く育てる森づくりを進めていくことが基本となります。特に0次台の斜面や40度を超える急斜面では、現在そこがどんな林相であっても「非皆伐」とし、密度管理とギャップへの補植によって強靭な森林に改良していく方が良いと思います。(142頁)
  渓流の上・中流部では渓床・渓岸の浸食を防ぐ治山施設を
  渓流下流部では流木捕捉に期待
  災害に強い森づくりとは
 ここで災害に強い森づくりについてまとめておきます。
 災害に強い森づくりの基本は0次谷であっても渓岸であっても、強靭な根系を持ち、下層植生の発達した大径木で構成される森林を、時間をかけて育成していくことです。樹種の違いに配慮するよりも、より大径木化することを優先する方が重要であると思います。つまり、針葉樹人工林であっても広葉樹林であっても現在の森林を間伐する(場合によっては補植も行う)ことによる密度管理等によって、より高齢の森林へ導くことを第一に考えるべきです。人工林の場合、伐採・新植から20~30年後以降を想定し、劣勢木が自然に淘汰されることを考慮すると、たとえ間伐が多少遅れていても、樹種を変更するために伐採するよりも健全な森林に改良していく方がはるかに重要です。繰り返しになりますが、流木の出にくい森づくりの基本は現存の森林をとにかく長期的に維持して、できる限り高齢で、健全な大径の林木が存在するように林相を改良していくことだと思います。
 なお、木材生産の観点からは0次谷や渓岸堆積地はスギ林の適地です。非皆伐さらには禁伐が必要な0次谷内やけ渓岸の数メートルの範囲内の林木を除けば、製材可能な程度の大径木生産は差し支えないと思われます。 (144~145頁)
  不可欠な警戒・避難体制

第5章これからのダムに求められる役割(安田吾郎)
 ダムの目的と機能
   ダム では目的別に使用権を設定
   九州北部豪雨で治水効果を発揮したダム
  ダムが満杯になると洪水調節機能は喪失
  予備放流と事前放流~洪水調節容量を自主的に増やす操作~
  通常より洪水時の放流量を絞り込む特別防災操作
  他の洪水対策と比べたダムの特徴
 日本と海外のダムの変遷
  世界一のダム大国だった日本
  目的が農業、上工水から発電、治水へ
  ダム大国は日本から米国そして中国へ
  第1次世界大戦後にダム建設の進展期を迎えた日本
  戦前の治水ダム整備の遅れのツケを戦後払わされた日本
  日本の成長を支えたダムによる都市用水の供給
  ダム完成ラッシュの時期から最近までのダム整備の動向
  発電面を中心としてダムを見直す最近の米国の動き
  日本も本格的なダム再生の時代に突入
 日本のダム課題と対応
  地域の分断と人口流出の問題
  河床低下や海岸侵食とダムの持続性の問題
  ダム下流の流量の平滑化に伴う問題
  ダム湖でアオコなどの富栄養化現象が発生
  魚類等の移動ルートの分断の問題
  異常洪水の際のダムの限界
  ダム放流に関するリスクコミュニケーション
  水需要が伸びない中でのダムの役割
  ダムの安全性神話
  生物生態系への影響軽減
 意外と知られていないダムの機能
  可変型装置としてのダム
  生物の生息場としてのダム
  流木災害や大規模土石流を抑止するダム
 気候変動時代におけるダムの役割
  増えている豪雨災害のリスク
  将来はさらに洪水リスクが増加
  増加する気候変動リスクへの対応策

 コラム
  米国が世界一の大国になった事情
  オリンピック後の水資源確保対策により救われた首都圏

第6章 ダムと森林の連携(虫明功臣)
 ダムと森林の連携による価値創造
  ダムと森林の機能の関係性
  ダムと森林の連携によって生じるメリット
  流域マネジメントの枠組みによる連携
 これまでの流域マネジメント
  流域マネジメントの先駆け:熊沢蕃山の治山・治水
  ダム水没地域の再建・振興を目指す水源地域対策特別措置法
  水源地研究会の提言
  120のダムで策定した 水源地域ビジョン
  流域マネジメントを推奨する水循環基本法の制定
  流域水循環計画への認定事例
 ダムと森林が連携した流域マネジメントの実現
  新たな森林・林業行政とダム水源施策の連携
  効果的な流域マネジメントを実現する体制の構築

おわりに(虫明功臣、太田猛彦)

執筆者




太田猛彦『森林飽和 国土の変貌を考える』 2月15日

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太田猛彦『森林飽和 国土の変貌を考える』目次

まえがき

第1章 海辺の林は何を語るか-津波と飛砂
  1 津波被害の実態
    林がそっくりなくなった
    マツも「被災者」
    倒れた木と倒れなかった木
    津波にも耐えたマツ
  2 津波を「減災」したマツ林
    マツ林には”実績”があった
    津波を弱め、遅らせる
    なぜ海岸林の再生が必要なのか
  3 なぜ海岸にはマツがあるのか
    笑顔にマツあり
    ”人工の森”をめぐる疑問
    砂浜の砂はどこから来たか

第2章 はげ山だらけの日本-「里山」の原風景
  1 日本の野山はどう姿をしていたか
    これが日本の山なのか?
    江戸の絵師が描く
    里山ブームの盲点
  2 石油以前、人は何に頼って生きていたか
    森しか資源のない社会
    理想の農村
  3 里山とは荒地である
    知られざる実態
    資源を管理する
    収穫を待ち望む
    里山生態系は荒地生態系?

第3章 森はどう破壊されたか-収奪の日本史
  1 劣化の始まり
    前史時代の森林利用
    古代の荒廃
    マツはいつ定着したか
    都の近辺で大伐採  
    領主の支配が及ぶ
    森が人里を離れる
    建築材を求めて全国へ
    里山の収奪が進む
  2 産業による荒廃の加速
    「塩木」となる
    製鉄のための炭となる
    焼き物のための燃料となる
  3 山を治めて水を治める
    3倍増した人口
    里山の疲弊
    思わぬ副作用
    山地荒廃への対策
    海岸林の発明
    なぜクロマツだったのか?
    地質によって荒れ方も変わる
    土壌とは何か
    木を植え続ける努力

第4章 なぜ緑が回復したのか-悲願と忘却
  1 荒廃が底を打つ
     劣化のピークは明治
    浚渫から堤防へ-治水3法の成立
    治山と砂防は本来ひとつである
  2 回復が緒につく
    災害の激増
    森林再生の夢
    海岸林の近代的造成とは
  3 見放される森
    エネルギーと肥料が変わった
    林業の衰退で木が育つ?
    森林は二酸化炭素を減らすのか
    劣化と回復を理解するモデル
    やがて新しき荒廃

第5章 いま何が起きているのか-森林増加の副作用
  1 土砂災害の変質
  土砂災害の呼び名いろいろ
     img-200215195535-002img-200215195535-0001
    なぜ崩れるのか
    表層崩壊と深層崩壊の違い
    地すべりとは何か
    土石流とは何か
  2 山崩れの絶対的減少
    かつて頻発した表層崩壊
    表面侵食が消滅した
    表層崩壊も減少、しかし消滅せず
    荒廃の時代は終わった
    流木は木が増えた証拠
  3 深層崩壊
    専門用語が定着した
    対策はあるのか
  4 水資源の減少
    森は水を貯めるのか
    流出を遅らせる力
    天然林志向を問う
    森は水を使う
    同じ雨は二度と降らない
    森を伐採して水が増える
  肝心の渇水時に水を増やさない
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    激甚災害は必ず起きる
  5 河床の低下
    砂利採取とダムの影響は?
    森の影響を見落とすな
    生態系への影響
    川はどうなるのか
  6 海岸の変貌
    海岸線の後退
    ”犯人探し”
    いくつかの「証拠」
    国土環境の危機

第6章 国土管理の新パラダイム-迫られる発想の転換
  1 ”国土”を考える背景
    国土の特徴を一文でつかむ
    プレートを読む
    気候を読む
  2 新しい森をつくる
    荒れ果てる里山
    人工林の荒廃、天然林の放置
    究極の花粉症対策とは
   森林の原理とは何か
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  里山は選んで残せ
 最後に、読者に身近な里山の将来について付言したい。往事の里山の再生がきわめて困難なことはすでに明らかであろう。人手をかけて森を徹底的に収奪しなければならないからである。割り切って、里山を稲作農耕森林社会の時代の文化財と考え、地域を限定し、森林ボランティアなどの力を借りて、”収奪”を試み、 かつての里山の姿を維持するほかない。
 近年、里山を保存しようという運動がさかんである。私も関東ローム層の台地の崖の斜面林や多摩丘陵その他の里山を保存するグループをいくつか知っている。どこでも保存活動に熱心なリーダーがいて頭が下がる。そして”間伐”が大切と考え抜き伐りなどの手入れに汗をかいている。しかし、一般の人にとって樹齢50年を超えた木を伐ることは難しく、また「もったいなくて伐る気になれない」という。しかし、かつての里山にそれほど大きな木はなかった。20年も経てば待ちかねて伐採し、利用していたのである。つまり、間伐をしても大きな木が残っているなら、 それは往事の里山の姿とはほど遠いことになる。かつての里山では、落葉や下草はおろか、灌木や高木の若芽まで刈り取っていた。だからこそ毎年春植物が咲き、清々しい里山が見られたのである。里山の保存がいかに困難であるかがわかるであろう。したがって、保存する里山を厳選し、一部に限定したうえで、昔の姿に戻し、それを維持するしかないのである。
 残りは「現代」の里山としての環境林、保健林、レクリエーション林、教育林などとして維持していくことになろう。しかしこの場合も、 管理はかなり難しい。その理由は、それぞれの目的にふさわしい森林を維持するためには、程度の差はあれ植生遷移の進行を止める”継続的な管理”が必要だからである。その管理方法に関しては多くの団体から有用な指導書が発行される時代になっている。しかし、このような使い道が見出せない場合、里山の森をどうすればよいのだろうか。
 私は最近、低炭素社会が叫ばれる中で、里山の森であっても生物多様性を保存した木材生産林として役立つ道を探るべきだと主張している。里山の森は地味も豊かで樹木の成長も早く、また道路に近いので伐採・搬出が容易である。管理次第で十分人々の好む広葉樹林同様の機能を発揮させられる 。ただしこのことを真に身に納得してもらうためには、先ほど述べた「新しい森林の原理」の中味をもう一度確認する必要があるだろう。(238~239頁)

  3 土砂管理の重要性
    異常現象にどう立ち向かうか?
    生物多様性を守るには
    山崩れを起こす
  4 海岸林の再生
    海岸林が浮き彫りにした国土の変貌
    海辺に広葉樹を植えるのか?

参考文献

あとがき


レイチェル・イグノトフスキー『プラネットアース イラストで学ぶ生態系のしくみ』 2月6日

レイチェル・イグノトフスキー『プラネットアース イラストで学ぶ生態系のしくみ』(創元社、2019年12月)を読みました。小学校5年生以上で習う主な漢字にルビをふってあるということですが、高等学校の「生物基礎」級の内容です。バイオーム(生物群系)地図の理解が第一歩でしょうか?
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プラネットアース イラストで学ぶ生態系のしくみ』目次
 はじめに
 生態学の構成レベル
 バイオーム地図
   img-200206215059-0001img-200206215059-0002
 生態系とは何か
 エネルギーの流れ
 生物の分類
 生物どうしのかかわり合い
 健全な生態系
 遷移
 微小生態系
 顕微鏡で見た生態系

 北アメリカ大陸
   img-200206210152-0001
  セコイアの森
  北部グレートプレーンズ
  フロリダのマングローブ湿原
  モハーヴェ砂漠

 南アメリカ大陸
   img-200206210152-0003
  アマゾン熱帯雨林
  アタカマ砂漠
  パンパ
  熱帯アンデス

 ヨーロッパ
   img-200206210152-0004
  ブリテン諸島の湿原
  地中海沿岸
  アルプス

 アジア
   img-200206210152-0005
  北東シベリアのタイガ
  インドシナ半島のマングローブ
  東モンゴルのステップ
  ヒマラヤ山脈

 アフリカ大陸
   img-200206210152-0006
  コンゴの熱帯雨林
  アフリカのサバンナ
  サハラ砂漠
  ケープ半島

 オーストラレイシア
   img-200206210152-0007
  オーストラリアのサバンナ
  タスマニアの温帯雨林
  グレートバリアリーフ

 極地方の氷床
   img-200206210152-0008
  北極圏
  南極のツンドラ

 水圏の生態系
  外洋
  深海
  河川
  湖沼

 自然の循環
  炭素の循環
  窒素の循環
  リンの循環
  水の循環
  植物

 人類と地球
  農場
  都市
  人類が自然に与えた影響
  気候変動
  地球を守るために

 用語集
 参考資料
 感謝のことば
 著者について
 索引

※NHKのEテレ(毎週火曜日午後2:40〜3:00)で放送している『NHK高校講座・生物基礎』の第32回「世界のバイオーム①〜気候と生物の適応〜」(講師:宇田川麻由さん)、第33回「世界のバイオーム②〜さまざまなバイオーム〜」(講師:宇田川麻由さん)、第34回「日本のバイオーム」(講師:市石博さん)、第35回「生態系でのエネルギーと物質の流れ」(講師:関口伸一さん)の各回ページには「動画」、「文字と画像で見る」、「学習メモ」(PDF)、「理解度チェック」があり、至れり尽くせりです。
T_2019_seibutsukiso

※darie1228さんの『高校生物をまとめてみる
    1.森林の構造、2.光合成曲線、3.生産構造図、4.植生の遷移
  【生物基礎】第4章植生の多様性と分布(バイオーム)
    1.世界のバイオーム、2.日本のバイオーム、3.ラウンケルの生活形
  【生物基礎】第5章生態系とその保全(炭素の循環・窒素の循環)
    1.生態系、2.炭素の循環、3.窒素の循環、4.物質収支
  【生物基礎】第5章生態系とその保全(環境問題)
    1.地球温暖化、2.富栄養化、3.生物濃縮、4.自然浄化、5.外来生物

シイタケのライフサイクル 1月29日

前記事に刺激されて、シイタケのライフサイクルについて書かれているものを読んでみました。先ず、森喜美男監修・日本きのこ研究所編『最新 シイタケのつくり方』(農山漁村文化協会、1992年)の第Ⅱ章上手に発生させるための基礎知識第2節シイタケの生活史(26~28頁)です。

シイタケの生活史
(1)胞子と胞子の発芽
 シイタケの一生は、キノコ(子実体)のひだの部分につくられる胞子(担子胞子)から始まる。胞子は植物でいえば花粉や胚のう、動物でいえば精子や卵子に相当し、種子ではない。胞子は、楕円桂、ゴマ粒のような形をしており、大きさは幅が3~5ミクロン、長さが6~8ミクロン(1ミクロンは1ミリの千分の1)くらいである。
 この胞子は厚い膜で覆われ、外からの刺激に保護されているから、乾燥した温度の低い場所に保存すると3ヵ月以上は生きている。しかし、70~80度の高温にあうと、4~5分で発芽力が弱くなるし、直射日光にさらされると、2~3分でほとんど発芽しなくなる。それが、適当な水分のある所に落ち、生育に適した温度が与えられると発芽して菌糸になる。
シイタケの生活環

(2)菌糸の接合
 胞子から発芽した菌糸は、ところどころ膜(隔膜という)で仕切られた細長い細胞からなり、1つの細胞に1個の細胞核をもつ。そのため、この菌糸を1核菌糸という(1次菌糸ともいう)。1核菌糸は、適当な水分と栄養と温度があれば分裂して増殖するが、通常はキノコをつくらない。キノコをつくるためには、「性」の異なった他の1核菌糸と接合、すなわち交配されなければならない。
 接合した菌糸は、両方の1核菌糸からそれぞれ核を受け取り、1細胞に2つの核をもつ状態になる。そのため、この菌糸を2核菌糸という(2次菌糸ともいう)。
 2核菌糸は細胞分裂によって増殖するが、2つの核は融合することなく特殊な方法で分裂していくので(図Ⅱ-3)、細胞と細胞の境にふくらみ(クランプコネクション、または、かすがい状突起という)ができる(図Ⅱ-3)。そのために顕微鏡で見ると、1核菌糸とは容易に区別できる。
各部呼び方・2核菌糸分裂模式図

(3)菌糸の増殖とキノコの形成
 2核菌糸は養分をとりながら増殖するが、この期間を栄養成長という。やがて、綿の繊維のようにばらばらに伸びていた菌糸は集合し、方向性をもって生育し菌糸の塊になる。これがキノコのもと(原基)である。このようにキノコになろうとして分化をはじめた菌糸を、3次菌糸とよぶこともある。そして、キノコになるために菌糸が集まってきてそれが生育し、完全なキノコの生育する期間を、栄養成長にたいして生殖成長とよぶ。
 菌糸が集まってできたキノコの原基は、適当な栄養と水分が与えられ、さらには低温刺激を受けると生育してキノコ(子実体)になる。若いキノコのひだの部分では、それまで2核のまま細胞分裂していた核は担子器の中で合体して2倍性核となる。それは、ただちに特殊な分裂(成熟分裂)を行って4個の半数性核になり、それらは1個ずつ若い胞子の中に移動する。キノコの生育にしたがって胞子も成熟し、再び胞子を飛散させるようになる。これがシイタケの一生である。

椎茸の生活と性質(宮さんのHP『あれこれ それなりクラブ』から)
(3)シイタケの一生
 笠の裏のヒダにつくられた胞子は、キノコが成熟すると飛び散り、風によって遠くまで運ばれる。シイタケはこのように、胞子によって繁殖する。木口や樹皮の割れ日に落ちた胞子は、適当な温度と湿度があると発芽して菌糸になる。
 胞子はかなり厚い膜に覆われ保護されていて、乾燥した温度の低い所に保存すると、3ヵ月以上も生きている。しかし70から80度の高温に会うと、4、5分で発芽力が弱くなる。また直射日光に曝されると、2、3分で発芽しなくなる。シイタケの胞子が風に飛ばされて適当な木に到着し、発芽して菌糸を伸ばすのはよほど運が良くなければならない。
 胞子から発芽した菌糸を顕微鏡でみると、ところどころ横に膜(隔膜)がある細長い枝分かれした管の様である。膜と膜の間が菌糸の細胞である。この細胞も高等植物と同じように、1個の核を持っている。この菌糸のことを一核菌糸という。しかし、その核は半数の染色体組しか持っていない。
 シイタケの場合、一核菌糸(一次菌糸)は、木材の中で増殖してもキノコを作らない。キノコを作るには、「性」の異なる他の一核菌糸と接合し、二核菌糸にならなければならない。この菌糸(二次菌糸)は細胞の中に、接合した両方の核を二つ持っている。
 二核菌糸は特別な分裂をする。細胞と細胞の間にふくらみ(クランプ・コネクション、またはかすがい状突起)が出来る。これにより、一核菌糸とはっきり区別することができる。
 二核菌糸は養分をとりながら増殖するが、やがて、綿の繊維のようにばらばらに伸びていた菌糸は集り方向性をもって生育する様になる。これがキノコのもと(原基)になるのである。このようにキノコになろうとして分化をはじめた菌糸を、三次菌糸と呼ぶこともある。
 キノコの原基は適当な条件があたえられると、生育してキノコになる。若いキノコのヒダでは、それまで二核のまま分裂した核は担子器の中で合体して二倍体核になり、すぐ特殊の分裂を2回繰り返し(成熟分裂)、4個の半数性の核を作る。
 それらは1つずつ若い胞子の中を移動して、キノコが生育するにつれて胞子も成熟し、飛び散るようになるのである。
椎茸の生活と性質

(4)シイタケの性
 草や木は雄ずいの花粉が雌ずいの柱頭について受精が行なわれる。これは有性生殖というが、シイタケも性の異なる一核菌糸が接合しなければ、キノコが出来る二核菌糸にならない、動物や高等植物の様に有性生殖をしているのである。
 一核菌糸すなわち胞子の性はどの様にして決まるのであろうか。1個のシイタケから沢山の胞子を取り、寒天培地に蒔くと2、3日で発芽する。これを単胞子分離といっている。
発芽した胞子を顕微鏡を使って、1個ずつ試験管の寒天培地に移す。これを単胞子分離と言っている。発芽した胞子は生育を続けて一核菌糸になる。
 一核菌糸のいくつかを、一対ずつの組になるよう組合せて一本の試験管に接種する。これは柱頭に花粉をつけてやるのと同じ交配である。しかし、組合せによってクランプ・コネクションが出来るものと、出来ない物がある。クランプ・ヨネクションは接合が行なわれ二核菌糸になったことを示している。
 このようにして調べてみると、一核菌糸を4つのグループに分けることが出来る。接合が行われるのは一定のグループ間だけである。
つまり1個のシイタケにつくられる胞子はAとBの二つの「性因子(不和合性因子とをもち、AB2つの因子の組合せによって4つのグループに分けられる。接合はAB二因子が異なるグループ間で起きるのである。この関係を「四極性」とよんで、シイタケでは昭和10年[1935年]に西門義一博士によって発見されたものである。
 ところが、系統の違ったシイタケから得た一核菌糸間で交配を行なうと、どの組合せもみな二核菌糸になる。系統の違うシイタケからの一核菌糸では、ABの性因子も違っているからである。
これらの発見によって、シイタケも農作物や草花と同じように、品種間の交配によって品種改良が出来るようになり、優良品種を種菌として原木に植える人工栽培が全国的に普及した。

キノコの話(井上均さんのHP『私編 雑科学ノート』から)
キノコの生活環
(1)胞子→(2)胞子の発芽→(3)菌糸の成長→(4)別種の菌糸と遭遇→(5)菌糸の接合→(6)2核細胞の成長→(7)キノコの形成→(8)胞子の基になる細胞の形成→(9)2つの核の融合→(10)減数分裂→(11)胞子の形成

キノコの生活環

 それでは、赤丸の番号順に見て行きましょう。
(1)胞子:まずはこれです。種類によって大きさや形はいろいろですが、だいたい5~10μm前後のものが多いようです。

(2)胞子の発芽:胞子から菌糸が伸びます。菌糸は細長い細胞が一列につながって糸状になったものです。

(3)菌糸の成長:菌糸の細胞が分裂を繰り返して大きな集団を作りますが、実はこれには性別があります。見た目には区別はつきませんが遺伝子レベルでは違っており、普通の動植物と同じようなオス、メス2種類のものや、4種類の性別を持っているものなどがあります。細胞分裂を繰り返してできた塊は、もちろん同じ性別です。

(4)別種の菌糸と遭遇:ある程度成長した段階で違う性別の菌糸が出会うと、そこで接合が起こります(4種類の性別を持つものでは、組み合わせによっては接合できないこともあります)。

(5)菌糸の接合:2種類の菌糸が接合すると、核を2個持った新しい細胞ができます。2核細胞です。核が2個あると聞くと妙な感じがするかもしれませんが、それは普通の動植物の感覚での話。細胞間の仕切り(隔壁)に孔が開いていて中身が移動したり、そもそも隔壁すらない多核体があったりする菌類の世界ですから、核が2個あるくらいは、別に不思議でもなんでもありません。

(6)2核細胞の成長:今度は接合でできた2核細胞が普通に分裂して、どんどん増殖して行きます。

(7)キノコの形成:2核細胞の菌糸が大きく成長し、やがてキノコ(子実体)を作ります。ですから、キノコの体は2核細胞でできていることになります。シイタケの裏側のヒダも、サルノコシカケの硬い殻も、全て2核細胞から成る菌糸が集まって作られたものなのです。

(8)胞子の基になる細胞の形成:キノコの特定の部分に、胞子を作る器官が準備され始めます。子嚢菌ならば子嚢、担子菌ならば担子器の原型です。ここに胞子の基になる細胞ができるのですが、当然ながらこの細胞も初めは2つの核を持っています。

(9)2つの核の融合:ずっとペアで来た2つの核が、ここで遂に一つになります。核の融合です。この段階で2種類の遺伝子が初めて本格的に混じり合うのです。

(10)減数分裂:いよいよ胞子を作る準備が整いました。融合した核を持つ細胞が分裂します。
 ここで、生物の時間に習った細胞分裂の話を思い出してください。普通の細胞分裂(体細胞分裂)では、遺伝情報を持った染色体がそっくりそのまま複製されて、新しくできた2個の細胞に分配されます。元と全く同じ細胞が2個できるのです。ところが精子や卵子などの生殖細胞ができる時には染色体が複製されませんから、染色体の数が半分の細胞ができます。これが減数分裂です(厳密に言うと、減数分裂では2回の分裂が連続して起こり、そのうちの1回で染色体の複製が起こりません。その結果、減数分裂を終えると、半数の染色体を持った生殖細胞が4個できます)。この半数の染色体を持った生殖細胞どうしが受精によって一つになって、また元の数の染色体を持った普通の細胞が作られるのです。
 それではキノコの場合はどうかと言うと、実は元の胞子や菌糸の時代が染色体数が半分の状態、と考えられます。普通の動植物では、染色体数が半分になるのは生殖細胞の間だけですが、キノコの場合は、その一世代の大部分を、染色体数が半分の状態で過ごすのです。(5)~(8)の間は核が2個ですから、染色体の数だけは足りていますが、やはり本来の状態ではありません。核が融合する(9)の段階になって初めて本来の(と言っても、どっちが本来の姿なのかよくわかりませんが)数の染色体を持つ核ができることになるのです。ところがこれがすぐに減数分裂してしまいますから、染色体数はまた半分に戻ります。このようにキノコの世界では、染色体がフルに揃うのは、核が融合してから減数分裂するまでのほんのわずかの間だけなのです。(この点ではコケ類とよく似ていますね)

(11)胞子の形成:減数分裂で作られた染色体数が半分の細胞が、やがて胞子になります。この胞子の染色体には、(5)で接合した2種類の菌糸からの染色体、つまり遺伝子が混ざっており、オス、メスの区別もあります。途中の過程は違いますが、普通の動植物の有性生殖と同じような結果になるわけです。

 以上が有性生殖の典型的なパターンですが、この他に、同じ細胞を胞子として切り離してどんどん増えて行く無性生殖もあります。先に出て来た不完全菌などは専ら無性生殖ですし、子嚢菌などでも、状況に応じて両方を使い分ける種類が多く見られます。ただし、人目を引くような大きなキノコを作る場合は、ほとんどが図5のような増え方をすると思ってよいでしょう。
※きのこのライフサイクル(東京地裁民事29部「育成者権侵害差止等請求事件」裁判資料から)
きのこのライフサイクル
キノコのライフサイクル1
きのこのライフサイクルは、図に示されるように、「生殖生長世代」と「栄養生長世代」とからなる。
「生殖生長世代」は、「担子菌」から「核融合」、「減数分裂1回目」、「減数分裂2回目」、「胞子形成」、「成熟子実体」に至るサイクルであり、「栄養生長世代」は、「胞子」から「胞子発芽」、「1次菌糸」、「接合:交配」、「クランプ形成」、「2次菌糸」、「菌糸集合体」、「原基形成」、「子実体」に至るサイクルである。

ナメコ栽培の問題点
ナメコでは2核菌糸が1核菌糸に戻る「脱2核化」現象がある。
キノコのライフサイクル2


小学校教科書「しいたけのさいばい」(1961年) 1月28日

1月26日にキノコの駒打ちをしました。シイタケ、ナメコ、ヒラタケの3種ですが、シイタケ、ナメコは森産業株式会社の種駒です。ナメコの種のパッケージには、「1942年、森喜作博士が世界で初めて種駒によるしいたけの人工栽培を発明したことで、今日、世界中で多くのきのこが食卓に並ぶようになりました。きのこを通じて健康の輪を世界に広げるという理念と情熱は、当社の製品作りに活かされています。」とあります。
ナメコ種駒パッケージ

日本きのこ研究所のサイトに森産業の創業者、森喜作さんを顕彰する「森喜作顕彰会」があって、森博士の「年譜」とともに小学校国語教科書(大日本図書株式会社、1961年)から「しいたけのさいばい」が掲載されていました。

しいたけのさいばい
1
 1933年のこと、大分県のしいたけさいばい地、阿蘇山の西ふもとにある山村のできごとである。この辺の農家は田畑に乏しいので、広葉樹・針葉樹の森林を利用して、炭焼きや、しいたけさいばいを副業にして、かろうじてくらしをたてていた。
 すぎ林の木立を通して朝日がきらきら光を投げている下に、1万本に近い、長さ1メートルほどのまるたぼうが組みならべてあった。その前に、みすぼらしい身なりのひとりの農夫が、手を合わせて拝みながらつびやいていた。
「なばよ出てくれ。おまえが出んば、おれが村から出て行かんばならんでな。」
 このいのりをふと聞きつけて、じっと見つめている大学生が会った。森喜作さんである。森さんは、農村経済の実態調査のためこの部落をおとずれ、海抜5、6百メートルの所で、リュックサックをおろした。額のあせをぬぐって、ふと林の中に目を移したとき、この情景を見たのであった。
 森さんは、ふしぎに思って農夫に事情をたずねた。
「しいたけのさいばい」(小学校教科書)memorial_002

2
 徳川時代の初め、九州の人、炭焼きげんべえが、炭材として切ったならの木にたくさんのいしたけがはえたのを見て、人工さいばいを思いついた。ならやくぬぎのまるたの表皮になたできざみ目を付け、数千本もならべてほうっておくのである。このまるたをほだという。すると、どこからともなく風に乗って飛んで来たしいたけの胞子がほだのきざみ目に付いて、2、3年もするとしいたけが出て来る。
 ところでほだ材は、直径5センチメートルから15センチメートルほどのならやくぬぎを、長さ1メートルに切ったまるたである。これを、そのままかまに入れて焼くと木炭になる。そこで、原木を焼いて木炭にするか、ほだにしてしいたけをさいばいするか、どっちがもうかるかが村民の頭をいためるところだ。原木1石からは木炭2俵半が焼ける。ねだんは木炭1俵が、ほししいたけにして380グラムくらいだ。ほだ材にして約1キログラム以上のしたけが採れればいいわけだ。しかし、木炭とちがって、ほだ材は数年たたないとしいたけが採れないから、資金をねかさなくてはならない。おまえけに、運は風にまかせろという、いわば危険な「かけ」である。
 実際には、原木1石から7.5キログラムのほししいたけが採れることがある。そのときは大もうけができるけれど、ほだに種が付かなかったらたいへんである。貧しい農夫は山のような借金で、税金はもちろん、米を買う金さえ無いようになる。村をにげ出し、一家がばらばらになるというような悲げきが起こるかもしれない。農夫がいのっていたのは、こうしたことがあるからであった。
 森さんはこれにむねをうたれた。一生をしいたけと共に生きようと決心した。そして、このような投機的な方法でなく、確実に収かくできる道を考え始めた。それが農民の貧しさを無くす、一つの方法と考えたからである。
 以来十年間、森さんは研究に熱中した。そして1943年、ついにその望みを達した。それはたねごまの製造出会った。たねごまをほだに打ちこみさえすれば、確実に、原木1石から5、6キログラム以上のほししいたけが採れるのである。

3
 では、たねごまとはなんであろうか。どうして作るのだろうか。
 にわか雨に会った小人が、あわててきのこの下に飛びこんで雨宿りをしているかわいらしいまん画がある。全く、きのこは太った雨がさのようだ。その太いえを持ってひっくり返してみると、厚いかさのうらにびらびらしたひだが、えを中心に、放射状にびっしりとならんでいる。そのおくにきのこの命の精がひそんでいる。しいたけの場合も同じである。そこには胞子という一個ずつの細胞がいく百万も育ち、やがて地上に子孫を残す種として、風に乗る日を待っている。
 開ききったしいたけのかさを軽くたたくと、目には見えない胞子が落ちる。これをシャーレに受け、かんてんで培養すると糸状にのびる。しかし、この胞子にはおすとめすがあって、かたほうだけではしいたけを作らない。多くの胞子のなかで、同性ははなれ、異性が引き合って結合する。この結合がなければしいたけははえない。だから、ほだにしいたけがはえるためには、おすとめすの二つの胞子が同じ場所に付かなくてはならない。ますますぐうぜんを待つことになる。
 森さんはこの結合した胞子をたくさん作り、その中にしょうぎのこまに似たくさび形のこまを入れ、そこに胞子を移した。これがたねごまである。だから、たねごまをほだに打ちこめば、必ずそこからしいたけがはえるわけだ。
 初め、種はおがくずに付けた。しかし、だれも相手にしてくれない。ほだにあなをあけ、いちいちおがくずをおしこむ手数をかけるのがいやなのだ。たねごまにすると、なた一丁でほだに切り口を付け、くさびを打ちこめばいいし、ふたの必要もない。これなら飛びつく。
「しいたけのさいばい」(小学校教科書)memorial_002_02

4
 1946年から、農林省はしいたけ増産5か年計画をたてた。その結果、1952年には、ほししいたけ2700トンを生産し、うち、1500トンを輸出し、売り上げは20億円に達した。
 しいたけは栄養素を多分にふくみ、特に保存のきく点は貴重である。むかしから、しいたけは日本食の栄養を補い、国民の保健に大きな役わりを果してきた。そして、このたねごまによるさいばいは、いく十万人の山村の貧しい農民に有利な副業を与えているのである。(101~107頁、ルビ省略)

※この国語教科書は小学校高学年用(6年?)と思われますが、胞子の発芽以降の説明が誤解されそうなので、森喜美男監修・日本きのこ研究所編『最新 シイタケのつくり方』(農山漁村文化協会、1992年)27頁掲載の図「シイタケの生活環」を付けておきます。→詳細は「シイタケのライフサイクル」を参照してください。
img-200130180259

※シイタケ栽培の歴史については別稿を準備中です。

太陽光発電の環境配慮ガイドライン(案)パブコメ 1月21日

2月5日追記)小川町プリムローズゴルフ場跡地(約86ヘクタール)にメガソーラー(発電設備容量 39,600kW)が計画されており、2020年1月18日には業者により環境影響調査計画書の説明会が開催されました。NPOおがわ町自然エネルギーファームは業者に対して意見書提出(2月21日まで)を呼びかけています

太陽電池発電事業の環境への影響が生じる事例の増加が顕在化している状況を踏まえ、2020年4月1日から大規模な太陽電池発電事業については環境影響評価法(平成9年法律第81号。以下「法」という。)の対象事業として追加されています。また、2019年4月の中央環境審議会答申「太陽光発電に係る環境影響評価のあり方について(答申)」において、法や環境影響評価条例の対象ともならないような小規模の事業であっても、環境に配慮し地域との共生を図ることが重要である場合があることから、必要に応じてガイドライン等による自主的で簡易な取組を促すべきとされています。
 これを受けて環境省では、法や環境影響評価条例の対象にならない規模の事業について、発電事業者を始め、太陽光発電施設の設置・運営に関わる様々な立場の方により、適切な環境配慮が講じられ、環境と調和した形での太陽光発電事業の実施が確保されることを目的としたガイドライン(案)を作成しました。

 小規模出力事業とはおおむね出力50㎾未満の事業
環境影響評価法や環境影響評価条例の対象とならない、より規模の⼩さい事業⽤太陽光発電施設の設置に際して、発電事業者、設計者、施⼯者、販売店等の関係主体が、地域に受け⼊れられる太陽光発電施設の設置・運⽤に取り組むための、環境配慮の取組を促すものとして作成
環境配慮ガイドラインチェックシート【小規模出力版】(案)環境配慮ガイドラインチェックシート【小規模出力版】(案)_01環境配慮ガイドラインチェックシート【小規模出力版】(案)_02

太陽光発電のトラブル事例
2.3太陽光発電のトラブル事例(10~12頁)
(1)トラブル事例太陽光発電に関するトラブルについては、平成27年度[2015年度]新エネルギー等導入促進基礎調査(再生可能エネルギーの長期安定自立化に向けた調査)や平成28年度新エネルギー等導入促進基礎調査(太陽光発電事業者のための事業計画策定ガイドラインの整備に向けた調査)で定義されたように、「安全性に関するトラブル」、「維持管理に関するトラブル」、「地域共生に関するトラブル」、「廃棄・リサイクルに関するトラブル」に分類される。(「廃棄・リサイクルに関するトラブル」については2.6FIT期間終了後の課題にて説明する)
ア)安全性に関するトラブル
発電設備の安全性に関するトラブル事例として、電気設備の事故、特に焼損事故や、台風等の強風に伴う太陽電池モジュールの飛散や架台の損壊等が生じている。平成27年度新エネルギー等導入促進基礎調査(再生可能エネルギーの長期安定自立化に向けた調査)では、地上設置型太陽光発電設備においてキュービクルや接続箱において火災が生じた事例(図2.6)や、強風によりモジュール飛散が生じている複数の事例(図2.5)を紹介している。
イ)維持管理に関するトラブル
太陽光発電を長期安定的に継続するためには、発電設備の性能低下や運転停止といった設備の不具合、発電設備の破損等に起因する第三者への被害を未然に防ぐため、発電設備の定期的な巡視や点検の実施が重要である。しかしながら、メンテナンス等の不足により、モジュール不具合等による発電電力量の低下やPCSの運転停止といったトラブルが報告されている。トラブルの原因としては設備の初期不良や施工不良の他、鳥獣害によるモジュール破損(図2.6)や、草木の成長による発電量低下・発電設備の破損(図2.7)という事例も見られる。対策にはモジュールやケーブルの定期的な目視点検の他、柵・塀の設置も検討が必要である。
ウ)地域共生に関するトラブル地域共生に関するトラブルについては、周辺への雨水や土砂の流出、地すべり等の防災上問題の他、景観問題や地域住民による反対運動など、立地・事業計画の段階で地方自治体や地域住民への説明・コミュニケーションが不十分であったことに起因するトラブルも多く見られるようになってきている(図2.8)。特に投資商品として流通する発電設備については、発電事業者自身が現地を確認しないことも想定されるため、地域共生に関するトラブルが起こりやすいと考えられる。

ア)設計・施工段階での不具合(23~24頁)
太陽光発電の多くは、FIT制度の開始後に導入されたものであるが、あまりにも短期間に導入が進んだため、各種ガイドラインの制定や、技術者の育成等が間に合わないまま、設計・施工されてしまった案件が多い。もちろん、優良事業者によって適正に設計・施工されている案件も多数存在するが、中には、急傾斜地など危険な場所への設置や、単管パイプによる架台の施工など、安全性について懸念がある案件も多数報告されている(図2.23)。
このように、設計・施工段階から問題を抱えている案件は、適正に保守点検を実施したとしてもトラブルが発生する可能性が高い。また、設計・施工状況を確認しようと思っても、正確な竣工図等が準備されておらず、コスト・時間のかかる検査が必要となる等、保守点検事業者にとっても、設計・施工段階での問題有無が確認できない案件に対し、保守点検サービスを提供することは大きなリスクとなる。実際、発電事業者から保守点検の依頼があったとしても、前述のように設計・施工段階での問題を確認できない状況の場合、保守点検事業者からサービス提供を断るケースも発生している。

ウ)土木に関する問題(30頁)
図2.13で示したように、設計・施工段階と保守点検段階の双方に関連するトラブルとして土地造成に関するトラブルがあげられる。設計・施工段階で地耐力等を緻密に計算していたとしても、地下水の流れや植栽の根付きなど想定が難しいケースが多いとのコメントが保守点検事業者からあった(表2-7)。

廃棄・リサイクルに関するトラブル
(3)放置・不法投棄への懸念(34頁)
発電事業者が適切な廃棄・リサイクル計画の策定、費用確保ができなかった場合、発電設備が放置・不法投棄されることが懸念されている。設置形態や設置場所の保有形態を考えると、特に自己所有地に設置される発電設備について、発電設備が放置される懸念が高いのではないかと想定されている(図2.35)。自己所有地に設置される場合、事業を終了した発電設備を有価物とするか、廃棄物とするか判断が難しいため、行政処分等で強制的な撤去等が可能かについては更に検討が必要である。ただし、適切な処理を実施せず、発電設備が放置された場合は、架台の倒壊やモジュールからの漏電、有害物質の漏洩等、地域住民の暮らしに危険を及ぼす可能性も考えられるため、事業終了した設備を確実な廃棄・リサイクルへと促す方策について、このような実態を踏まえた上で、経済産業省、環境省をはじめとした関係省庁と検討を進めなければいけない。

太陽光発電設備の景観コントロールに関する論点
5-3.太陽光発電設備の景観コントロールに関する論点の整理(80頁)
第1は、太陽光発電設備の立地に関する論点である。わが国では、再生可能エネルギー導入施策の推進によって、2012年以降に全国で一気に太陽光発電設備の立地や計画が進んだ。この結果、これまで太陽光発電設備の立地を全く想定していなかったエリアの景観に大きな変化が生じたり、大きな影響を受けることが想定されるエリアでは、住民等の反対運動などに発展した。
第2は、太陽光発電設備の景観影響の緩和に関する論点である。太陽光発電設備を実際に設置する際に、景観シミュレーションを実施したり、設置方法を工夫したりすることによって、景観に対する影響はある程度緩和できていた。
第3は、太陽光発電設備に関する住民・行政・事業者間の協議・調整に関する論点である。関係者間での協議が円滑に進まない場合、あるいは必要な協議がなされなかった場合、トラブルが生じやすかった。
第4は、景観法に基づく景観コントロールの実効性に対する認識に関する論点である。景観法に基づく景観コントロールの特性についての理解が進んでいないために、行政担当者や住民が景観計画や景観条例に基づく太陽光発電設備の景観誘導の実効性に対して疑義を抱いている状況が把握された。
第5は、都道府県と市町村等との連携に関する論点であり、1つは現状では広域景観の形成において、都道府県のような広域自治体単位で一体的に推進することが困難であること、もう1つは景観行政に対する知識・経験が豊富なスタッフが不足しており、小規模自治体では開発許可が必要なレベル以上の大規模な太陽光発電設備の設置においては、事業者との協議や景観影響の緩和策の検討等のプロセスに、広域自治体による支援が求められていることである。

論点1:新たに景観面の留意が必要な立地(81頁)
政府の再生可能エネルギーの導入推進施策によって、とくに2012年以降に全国で太陽光発電設備の設置が急速に進んだ。この結果、これまで太陽光発電設備の設置が想定されていなかった場所でも太陽光発電設備の設置や計画がなされることにより、住民等とのトラブルが生じているケースがあった。これらは従来の景観計画・条例等では景観面の課題の発生が想定されていなかったエリアである場合が多く、中でもとくに景観への影響が大きく、課題となっている特徴的な立地パターンが、沿道景観、広域景観、里山景観の3つであった。
沿道景観
駅周辺や観光地など、徒歩の観光客が多く通る沿道の景観や、良好な眺望を重要な資源としている観光道路沿いに太陽光発電設備が設置されることによって、景観の連続性が失われたり、背景となる自然景観への眺望が阻害されたりするケース。
広域景観
メガソーラーのような大規模な太陽光発電設備が設置されることによって、当該設備が立地している自治体だけでなく、広域の幹線道路や隣接自治体からの中景及び遠景に影響を及ぼしているケース。大規模な太陽光発電設備が存在することによって、自然景観の連続性が分断され違和感を生じている。
里山景観
これまで自治体の景観計画等で、景観上特に重要な地域等には位置づけられてこなかった里山など(都市計画区域外のケースも多い)が、大規模に造成されて太陽光発電設備が設置されることによって、周辺住民が日常的に接していた景観が激変する場合。なお、里山に大規模に立地するケースでは、下流域への土砂崩れや洪水等からの安全性の確保が不可欠であり、太陽光発電設備の設置によって直接的に影響を受けると考えられる範囲が広く、更には生態系などの地域の自然環境全体への影響に対する危惧等も大きいため、大規模な反対運動に展開しやすい。

論点3:住民・行政・事業者間の協議・調整の円滑な実施(83頁)
太陽光発電設備の設置が何らかのトラブルに発展しているケースでは、いずれも協議のプロセスにおいてトラブルを抱えていた。協議が不調となっているのは、住民と事業者、事業者と行政、住民と行政などいずれの組み合わせもあった。円滑な協議は景観に関するトラブルを抑制し、良好な景観を形成するうえで不可欠であると言える。
住民間における合意形成が困難なケース
別荘地などにおいて新住民と旧住民の双方が利害関係者となっている場合、地域の内部で合意形成が困難なケースがある。その場合、住民と行政や住民と事業者間についても建設的な協議が成立しにくくなる傾向が見られるため、住民間の協議方法の工夫が必要である。
住民が事業者の協議に応じないケース
住民が、太陽光発電設備が迷惑施設であるという認識を持ったり、事業者が住民の意見に十分に対応せず、住民との協議が形骸化している場合、住民が協議の実効性に疑問を持ち、協議に応じなくなることがある。
行政と事業者の協議時間が不足しているケース
住民と事業者間で十分な合意形成が出来ていない段階で事業者が景観法に基づく届出をした場合、30日以内に助言や勧告を行うことが時間的に困難であると行政側が認識し、必要な協議が十分に実施出来なくなる場合がある。また、90日間の協議延長制度については、前例がないために行政担当者は活用を躊躇していた。
行政が協議内容を把握できないケース
事業者が地元自治会や地権者と個別に交渉して合意形成を行った場合、協議内容について行政が把握できない。とくに里山等の大規模な太陽光発電設備の立地においては、下流域に対する安全面や環境面での影響も大きく、太陽光発電設備の設置による影響が地元自治会の範囲を超えて生じるため、行政が協議内容を把握できていないと調整が困難になる。


普及が進むにつれ増大する「軋轢」
一方、導入が進むことで、逆に普及を難しくする新たな課題も認識されるようになりました。自然エネルギー設備を送電線に接続できない、いわゆる系統線の「空容量ゼロ問題」[6]などがその代表例ですが、もう1つあまり認識がされていない、大きな問題が存在します。開発にともなう「地域との軋轢」です。
FITでの買取価格の低下や、系統接続の費用が増大するなかで、採算性が取れるよう自然エネルギー事業の開発規模が大きくなっていること。加えて、開発が進むほどに、開発容易な場所が減少していることなどが原因となり、地域の自然や社会環境に負担をかけてしまい、住民との間で軋轢が生じる結果になっているものと考えられます。

もし、今後もこのような事象が増えてしまえば、環境問題(温暖化問題)への切り札であるはずの自然エネルギーも、むしろ環境問題を引き起こす原因と認識され、そのさらなる普及にストップがかからないとも限りません。

こうしたリスクは杞憂ではありません。すでにその片鱗をうかがわせているためです。例えば、風力発電の紛争に関する先行研究では、総事業の約4割がこうした地域からの理解を得られないことによる反対を経験したとの報告があります[7]。太陽光についても、やはり大型事業で同様の事象が発生しているとの報告がなされています[8]。

とはいえ、温暖化の進行で受ける影響を考えれば、導入は避けては通れません。自然エネルギー100%という、大きな目標を実現していくためにも、今後の開発は、事業者が地域の納得を得られるような、十分な環境配慮を伴うものとしていかなければなりません。

[6]上記と同様の資料3では、2016年末時点での、FIT制度以降の太陽光(住宅用+非住宅用)の累計が3,201万kW、風力で64.2万kWとなっている。ここではFIT開始である2012年7月~12月も1年として、2016年末までを計5年間として、等価換算した。なお、実際には風力等は建設に長期間を有するため、導入済み数に表れない計画がこれとは別にあることに注意。
[7]畦地啓太・堀周太郎・錦澤滋雄・村山武彦(2014)「風力発電事業の計画段階における環境紛争の発生要因」『エネルギー・資源学会論文誌』35(2)
[8]山下紀明(2016)「研究報告メガソーラー開発に伴うトラブル事例と制度的対応策について」 ISEPウェブサイト
環境配慮のあり方について
それでは、具体的には、どのように環境配慮を実現していけばよいのでしょうか?じつはすでに、これに対する答えのひとつとなる取り組みが各地でスタートしています。「ゾーニング」と呼ばれる適地評価のプロセスです。
ゾーニングの役割(市川大悟)

従来は、事業者が主となって事業の立地場所を選定してきましたが、これを、事業計画の内容が具体的に固まる前の段階に、地域の住民や行政、有識者などが中心となって検討し、自分達の地域で、開発を受け入れられる場所、そうでない場所を仕分けて、公表するプロセスを言います。地域環境をよく知り、そこに住まう人達が話し合うことで、環境負荷の少ない、地元が納得できる持続可能な開発に誘導することができると考えられています。

現在、県レベルでは青森県、岩手県、宮城県など、市町村レベルでは10近くの基礎自治体が策定済み、あるいは取り組みを進めています。2018年3月20日に、環境省から自治体向けに取組みのためのマニュアルが配布されたこともあり、今後はさらに各地で広がっていくことが期待されています[9]。

今後、自然エネルギー100%という大きなチャンレジを乗り越えていくためにも、さらに多くの地域にこうした環境配慮を伴った開発を促せるような取り組みが広がることが望まれます。

[9]環境省報道発表(2018年3月20日)

太陽光発電事業者と住民とのトラブル
再エネで発電した電気をあらかじめ決められた値段で買い取る「固定価格買取制度(FIT)」が2012年に創設されて以降、日本各地でたくさんの再エネ発電事業者が誕生しました。太陽光発電については、FIT開始の前から住宅やビルの太陽光パネル設置が進んでいましたが、FITが始まった後では、野原や山などにずらりと並ぶ太陽光パネルを見ることも増えてきました。
そうした中で、地域住民とトラブルになる太陽光発電設備が現れています。
そもそも、太陽光発電事業に使う土地や周辺環境に関する調査、あるいは土地の選定や開発などにあたっては、
・土砂災害の防止
・土砂流出の防止
・水害の防止
・水資源の保護
・植生(ある地域で生育している植物の集団)の保護
・希少野生動植物の個体および生息・生育環境の保全
・周辺の景観との調和
など、さまざまなことに配慮する必要があります。また、太陽光パネルに反射する光が地域住民の住環境に影響をおよぼさないように配慮することも重要です。
太陽光発電事業の実施にあたって、もし、このような適切な配慮がされなかった場合、周辺への雨水や土砂の流出、地すべりなどを発生させるおそれがあります。そうなれば、発電設備が破損するだけでなく、周辺に被害があれば、その賠償責任が発電事業者に生じることもあります。
残念ながら、新しく太陽光発電事業に参入した再エネ事業者の中には、専門的な知識が不足している事業者もいて、そのため、防災や環境の面で不安をもった地域住民と事業者の関係が悪化するなど、問題が生じているのです。

地域との関係の構築
トラブルを回避するために、まず何よりも欠かせないのは、地域住民とのコミュニケーションをはかることです。
もちろん、自治体の条例などもふくめた関係法令を守ることは必須です。もし違反があれば、FIT認定が取り消される可能性があります。ただし、たとえ法令や条例を守り、適切な土地開発をおこなったとしても、事業者が住民に事前に周知することなく開発を進めると、地域との関係を悪化させることがあります。実際に、地域住民の理解が得られずに計画の修正・撤回をおこなうこととなったケースや、訴訟に発展したケースもあります。
そこで、2017年4月に施行された「改正FIT法」(「FIT法改正で私たちの生活はどうなる?」参照)にもとづく発電事業者向けの「事業計画策定ガイドライン」では、地域住民とコミュニケーションをはかることが、事業者の努力義務として新たに定められました。コミュニケーションをおこたっていると認められる場合には、必要に応じて指導がおこなわれます。

ガイドラインでは、発電事業の計画を作成する初期段階から、地域住民に対して、一方的な説明だけに終わらないような適切なコミュニケーションをはかるとともに、地域住民にじゅうぶん配慮して事業を実施するよう努めることが求められています。事業について地域の理解を得るには、説明会を開催することが効果的で、「配慮すべき地域住民」の範囲、説明会や戸別訪問など具体的なコミュニケーションの方法については、自治体と相談することをすすめています。
現在のガイドラインで、地域住民とのコミュニケーションが「努力義務」とされていることについては、「義務化すべき」との声もあがっています。ただ、地域住民とのコミュニケーションのありかたは一律ではなく、各ケースや地域の特性に応じた、きめこまやかな対応を必要とするものです。もし国が一律に義務化すれば、「説明会をおこなったか否か」などの形式的な要件を基準に、義務が果たされたかどうかを判断することになってしまう恐れがあります。そこで、現状では、地域住民とのコミュニケーションを「義務化」するのではなく、地域の事情に応じてつくられた条例を遵守するように義務付けることで、地域の問題に対応できると考えています。

大切な再エネだからこそ住民に配慮しトラブルをふせぐ
「地域との共生」は、事業の開発段階だけの問題ではありません。発電設備の運転を開始したあとも、適切に設備を管理し、地域へ配慮することが求められます。たとえば、防災や設備の安全、環境保全、景観保全などに関する対策が、計画どおり適切に実施されているか、事業者はいつも確認することが必要です。また、周辺環境や地域住民に対して危険がおよんだり、生活環境をそこなったりすることがないよう管理する必要もあります。
さらに、事業の終了時には、発電設備の撤去や処分をおこなわなければなりません。2040年頃には、FITの適用が終わった太陽光発電施設から大量の太陽光パネルの廃棄物が出ることが予想されており、放置や不法投棄の懸念ももたれています。

日高市太陽光発電設備の適正な設置等に関する条例 1月20日

日高市では昨年(2019年)8月、「日高市太陽光発電設備の適正な設置等に関する条例」を制定しました。太陽光発電設備の設置を規制する条令は埼玉県内初です。
日高市議会は昨年(2019年)6月定例会で、市内高麗本郷の山林約15ヘクタールに民間事業者が設置を計画している大規模な太陽光発電施設について、議会として反対の意思を示す「大規模太陽光発電施設の建設に対する反対決議」、国に対し太陽光発電施設の設置に関する法規制を求める「太陽光発電施設の設置に対する法整備等を求める意見書」を可決。8月22日の臨時会で、災害防止や環境・景観の保全を目的(第8条)に、市が提出した太陽光発電の大規模施設の建設を規制する条例案が全会一致で可決され、即日施行されました。事業区域が0.1ヘクタール以上、総発電出力が50キロワット以上の施設に適用(第3条)。事業者は事前に届け出て、市長の同意を得ることを義務づけられ、太陽光発電事業を抑制すべき「特定保護区域」が指定され、その区域では「市長は同意しない」としています。罰則はありませんが、従わない事業者は住所などが公表(第17条)されます。
市はメガソーラー(大規模太陽光発電施設)が計画されていた高麗本郷地区の山林を特定保護区域に指定、建設を差し止める法的拘束力はありませんが、事業者はより一層慎重な地元への対応が求められます。

※条例・規則・要綱:条例は地方公共団体がその事務について、議会の議決によって制定する法規。規則は地方公共団体の長等がその権限に属する事務について制定する法規。一方、要綱は行政機関内部における内規であって、法規としての性質をもたない。

※2019年6月26日、日高市議会定例会最終日に賛成多数で可決された「大規模太陽光発電施設の建設に対する反対決議」と全員一致で可決された「太陽光発電施設の設置に対する法整備等を求める意見書」は以下の通り(『文化新聞』 BUNKA ONLINE NEWS 2019年7月3日号より)
  大規模太陽光発電施設の建設に対する反対決議
 現在、日高市大字高麗本郷字市原地区にTKMデベロップメント株式会社が計画している大規模太陽光発電施設の建設について、以下のように判断する。

 ①建設予定地は、国道299号北側に位置する山の南斜面、面積は約15ヘクタールで東京ドーム約3個分に相当する。この建設によって緑のダムと言われる森林は伐採され、水源かん養機能が失われ、集中豪雨による土砂災害や水害の危険性が飛躍的に高まる。このことが建設予定地の下流域に住む市民の生命に対する重大な脅威となる。
 ②太陽光発電事業は参入障壁が低く、さまざまな事業者が取り組み、事業主体の変更も行われやすい状況にある。発電事業が終了した場合もしくは事業継続が困難になった場合においては、太陽光発電の設備が放置されたり、原状回復されないといった懸念がある。
 ③建設予定地には、埼玉県希少野生動植物種の指定を受けているアカハライモリや埼玉県レッドデータブックに掲載されている絶滅危惧種のトウキョウサンショウウオなどの希少動物並びにオオキジノオ、アリドオシなどの希少植物が生息している。大規模太陽光発電施設の建設工事が始まれば、これらの希少生物の行き場が無くなり、日高市の貴重な財産を失うことになる。

 日高市の財産である日和田山や巾着田を含む高麗地域の景観や周辺の生活環境を守り、防災並びに自然保護および自然調和に万全を期すことが必要である。このことから、今後、地域住民の理解が得られないまま大規模太陽光発電施設の建設が行われることになれば、日高市議会としてはこれを看過できるものではなく、大規模太陽光発電設備設置事業の規制等を含む対策に関する条例の制定等に全力で取り組む所存である。
 よって、日高市議会は大規模太陽光発電施設の建設に対し反対する。

  太陽光発電施設の設置に対する法整備等を求める意見書
 太陽光発電は、温室効果ガスを排出せず、資源枯渇のおそれが無い再生エネルギー源で、地球温暖化の防止や新たなエネルギー源として期待されている。特に平成24年[1912年]7月の固定価格買取制度(FIT法)がスタートして以来、再生可能エネルギーの普及が進み、中でも太陽光発電施設は急増している。また、埼玉県は快晴日数が全国一という特徴からか、本市においても太陽光発電施設が増加し、今後もさらに増えることが見込まれている。
 しかし、一方で、太陽光発電施設が住宅地に近接する遊休農地や水源かん養機能を持つ山林に設置され、周辺環境との不調和や景観の阻害、生態系や河川への影響が懸念されている。さらに傾斜地や土地改変された場所への設置は、土砂災害に対する危険性が高まり、地域住民との間でトラブルとなっている。
 このため本市は、「日高市太陽光発電施設の設置に関するガイドライン」その他関係法令に基づき事業者への指導を行っているが、直接的な設置規制を行えないことから、対応に苦慮しているのが実情である。
 よって、太陽光発電事業が地域社会にあって住民と共生し、将来にわたり安定した事業運営がなされるために、国においては次の事項を早急に講じられるよう要望するものである。

 ①太陽光発電施設について、地域の景観維持、環境保全及び防災の観点から適正な設置がなされるよう、立地の規制等に係る法整備等の所要の措置を行うこと。
 ②太陽光発電施設の安全性を確保するための設計基準や施行管理基準を整備すること。
 ③発電事業が終了した場合や事業者が経営破綻した場合に、パネル等の撤去及び処分が適切かつ確実に行われる仕組みを整備すること。
 ④関係法令違反による場合は、事業者に対し、FIT法に基づく事業計画の認定取消しの措置を早急に行うこと。

 以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。

高麗郷を乱開発から守るために

太陽光発電・メガソーラーに関わる当ブログ記事
「森林を脅かす太陽光発電を考える」講演会に参加①(2018.12.02)
 


 
 
 

『科学』特集・河川氾濫の備えを考える 1月15日

『科学』第89巻第12号(岩波書店、2019.12)は、河川氾濫の備えを考えるを特集し、石崎勝義「堤防をめぐる不都合な真実 なぜ2015年鬼怒川堤防決壊は起きたか?」、まさのあつこ「千曲川決壊はなぜ起きたのか」、牧田寛「ダム治水と肱川大水害」、鈴木康弘「激甚災害に備えるハザードマップ そもそも誰が何のために作るか」を掲載しています。
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  隠されている「堤防強化」、放置されている「堤防沈下」
  堤防の効用の限界
  堤防の決壊を防ぐ技術の発想
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   福岡正巳氏の治水観
   福岡正巳氏の堤防観
   大型実験による耐越水堤防の開発研究
   耐越水堤防の原型が生まれた
  国を免責する水害裁判判決
   下館河川事務所長の「神話」発言
   国の責任を問わない大東水害最高裁判決
   近藤徹氏の「証言」
   長良川水害判決 堤防決壊まで国を免責
   河川技術者の「安心」
  河川管理施設等構造令の改正
  地方建設局で進んだ堤防強化の実用化研究
   加古川の堤防強化
   堤防強化対策委員会
   新しく開発された技術
    (1)裏のり尻の保護工:かごマットの登場
    (2)ドレーン工の開発
   アーマー・レビーの誕生
  現場で進んだ堤防強化の実施
   (1)石狩川水系美瑛川、4.6㎞
   (2)那珂川、9.0㎞
   (3)雲出川、1.1㎞
   (4)江の川水系、馬洗川、0.8㎞
  堤防強化整備事業(フロンティア堤防)の発足
   福田昌史氏の認識
   河川技術者水木靖彦氏の想い
   河川堤防設計指針第3稿
  政府が凍結し続ける堤防強化
   フロンティア堤防はなぜ中止になったか
   淀川水系流域委員会が堤防強化を提案
   近畿地方整備局の変身
  偽りの「コンクリート・アスファルト三面張り」
  土木学会の奇妙な報告書
   諮問内容が結論を誘導
   事実を調べないで結論
   専門家は報告書内容に得心していたか
   補足 スーパー堤防の耐越水効果への疑問には賛成だ
  起こるべくして起きた鬼怒川水害
   河川管理責任を問う裁判の提起
   氾濫が放置された若宮戸
   堤防の沈下が放置された上三坂
   堤防をめぐる社会通念の変化
  堤防の沈下
   鬼怒川・上三坂地区の堤防沈下の実際
   堤防沈下の原因
    (1)堤体自身の収縮
    (2)地盤の地下水くみ上げによる収縮
    (3)地盤の収縮 圧密沈下
   上三坂地区の堤防の沈下原因
    (1)鬼怒川の改修と上三坂堤防沈下の関係
    (2)上三坂地点の地盤
   堤防強化における堤防沈下の問題
   堤防の高さ管理を提唱した河川工学者
  堤防の設計思想を見直す
  補足 堤防の設計思想を見直す発言の例
   (1)大石久和氏(前木学会会長)
   (2)中尾忠彦氏(元土木研究所河川部長)
   (3)末次忠治氏(山梨大学大学院教授)
   (4)常田賢一氏(土木研究センター理事長)
   (5)福岡賢正氏(前毎日新聞熊本支局記者)
   (6)小池俊雄氏(東京大学名誉教授,現土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)センター長)


こちら特報部「突然消えた堤防強化策 鬼怒川決壊きょう1年」1)(2)(『東京新聞』2016.09.10) (水源開発問題全国連絡会HPから)
東京新聞茨城版石崎インタヴューPK2019110602100077_size0

※「台風19号強化予定堤防、10カ所決壊 危険は認識も整備遅れ」(『東京新聞』2019.11.27
東京新聞20191127越水による決壊のイメージ

「越水に対する耐久性の高い堤防」への想い(水木靖彦、20120417)「越水に対する耐久性の高い堤防」への想い(水木靖彦、20120417)02
「越水に対する耐久性の高い堤防」への想い(水木靖彦)_01

水木靖彦『洪水の話』(PDF)
洪水の話(水木靖彦)

洪水の話(水木靖彦)_01
洪水の話(水木靖彦)_02

梶原健嗣「過大な基本高水と河川の管理瑕疵 大東基準が生みだす、「無責任の穴」(『経済地理学年報』64巻、2018年)

市民病院と医師会病院の統合案 1月13日

1月6日発売の『週刊東洋経済』は「病院が壊れる」を特集。再編を迫られる公立病院や、経営難に陥る民間病院の今を追っています。
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【第1特集】病院が壊れる
Part1 公立病院の苦悩
医師不足で「救急お断り」 市民病院の経営が危ない
今変わらなければ“突然死"も ニッポンの病院の正念場
「医療提供体制の見直しは必須だ」 厚生労働相 加藤勝信
無給医問題があらわにした医師の“超"長時間労働
毎年約400億円の赤字 都立8病院の経営難
中核病院建設に「待った」 財政難の新潟は大混乱
「点ではなく面で支える医療が必要」 慶応大学教授 印南一路
公立病院の赤字 累積欠損金ワースト150
[現地ルポ] 地域医療の牙城を守れる 日本赤十字病院の危機
「うそを重ねては再編が進まない」 日本病院会会長 相澤孝夫

Part2 民間病院の危機
東京の都心部でも安泰ではない 医療法人倒産はなぜ起きるのか
「地域密着では民間病院の出番」 医療法人協会会長 加納繁照
売却案件は引きも切らず 盛り上がる病院のM&A
「買収した東芝病院は3年で再建できる」 カマチグループ会長 蒲池眞澄
架空の売却話も飛び交う 病院に群がる怪しい人々
稼ぐ民間病院の実力! 医療法人ランキング150
債務超過の三井記念病院 外来患者が増える順天堂
厚生労働省は2019年9月末、「再編統合について特に議論が必要」として、自治体病院や日赤病院など424の病院名を公表しました(日本経済新聞電子版『424病院は「再編検討を」 厚労省、全国のリスト公表』2019/09/26 15:10)。埼玉県では、蕨市立病院、地域医療機能推進機構埼玉北部医療センター、北里大学メディカルセンター、東松山医師会病院、所沢市市民医療センター、国立病院機構東埼玉病院、東松山市立市民病院ですが、指名された病院や自治体に波紋が拡がっています。
特集PART1・公立病院の苦悩には、「再編・統合が進まぬ現実 医師不足で「救急お断り」 市民病院の経営が危ない」(井艸恵美記者)があり、東松山市立市民病院と東松山医師会病院がとりあげられています。
市民病院と医師会病院は「再編・統合を検討すべき」
 東京都内から電車で1間弱ほどに位置する埼玉県東松山市。東京のベットタウンにもなっているこの町で、2つの病院が揺れている。東松山市立市民病院(114床)と東松山医師会が設立する東松山医師会病院(200床)が、再編・統合を検討すべき病院の対象になったのだ。
 厚労省はがんや心疾患などの高度医療について「診療実績が特に少ない」、または「近くに類似した機能の病院がある」を基準に分析。2病院が再編対象になった理由は、病院同士の近さだ。人口9万人規模の東松山市だが、車で10分ほどの距離に総合病院が2つある。しかも複数の診療科が重複しているからだ。
 再編対象リストが病院への予告なしに発表されたことで、名指しされた全国の病院からは反発の声が上がっている。突然再編対象とされれば黙っていられないのは当然のはずだが、東松山市立市民病院の杉山聡院長からは「私としては納得した」と意外な答えが返ってきた。
 「赤字が膨らみ、このままでは当院の経営を続けていくことは厳しい。同じような機能を持つ2つの病院が統合再編か役割分担を検討しなければ共倒れになり、東松山市の医療体制は崩れてしまう」 
 東松山市立市民病院は慢性的な赤字体質で、2018年には1.8億円まで経常赤字が膨らんだ。経営が傾いた最大の原因は医師不足だ。日本大学の関連病院としてかつては多くの医師が送り込まれていたが、2004年から初期研修が行える施設が大学以外にも広がり、大学の医師が減少。同院への派遣は引き上げられ、2003年に30人ほどいた医師が4年後は半減。一時は診療時間外の救急診療を停止する事態に至った。
 現在は医師15人体制となり、時間外救急も再開しているが、体制は十分ではない。常勤医師の高齢化で、2人いる内科医は60歳を超えている。当直の半分は非常勤医師で賄うが、救急の要請があっても断らざるを得ないこともある。救急の受け入れ率は年々低下し、収益も右肩下がりだ。
 2019年4月に着任した杉山院長は経営改善策を講じているが、医師不足解決には見通しがつかない。「医師を派遣する大学へ人数を増やしてくれるよう要請したが、十分な供給は得られていない」。
 こうした苦境は東松山市立市民病院だけではない。東松山医師会病院も「医師の確保が課題だ」と答える。救急体制の整った中核病院がないことから、東松山市を含む比企地域は約3割の患者が他の地域の病院へ搬送されている。川越市や都内の大病院までは30分ほどかかるため、患者にとってのデメリットは大きい。
 医師不足と救急体制の手薄さを解決するには重複した診療科を整理するか、統合で医師を1つの中核病院に集めるしかない。こうした意見は市内の関係者の間でささやかれていたが、公言されることはなかった。しかし、「統合」についてパンドラの箱を開けたのは医師を派遣する埼玉医科大学総合医療センターの堤晴彦院長だった。
 厚労省の発表後初めて同市の医療関係者が会した会議の場で、堤院長は「2つの病院から医師を出してくれと言われても難しい。400床規模の大病院を作ってもらったほうが派遣しやすい」と語った。
統合は前途多難
 しかし、統合は前途多難だ。先の会議の場で前出の東松山市立市民病院の杉山院長は「医療体制を崩壊させないために再編の議論をうやむやにしてはいけない」と危機感を訴える。その一方、東松山医師会病院の松本万夫院長は、「(統合して)大きな病院をつくるのは地域にとってはいいことだと思うが、現実化するのかは希望が薄い。2つの病院の性格が明らかに違う」と口にした。
 一般的な外来診療を行う東松山市立市民病院に対し、東松山医師会病院は医師会が設置者で地域の医師会会員である開業医からの紹介により患者が来る仕組みだ。県内の医療関係者からは、「東松山医師会病院は病院長とは別に東松山を含む比企地域の医師会長がいる。誰が主導しているかあいまいで院長が手腕を振るのは難しい」と話す。
 経営主体が違う病院同士の話し合いが難航するのは目に見えている。しかし、現状を放置し続けても医師不足は解消されない。2つの病院とも立ち行かなくなれば、困るのは住民だ。
 こうした問題は東松山市だけではない。国は地域医療を充実させる「地域医療構想」を掲げ、地方自治体に対し病院再編や病床機能の転換を進めるように促しているが、一向に進んでいない。厚労省が再編を検討すべき病院を公表したのは、「(反発が起こることは)ある程度想定した上でのショック療法だった」(複数の医療関係者)という見方が強い。[以下略]
※東松山市立市民病院、東松山医師会病院については、
川越比企保健医療圏地域保健医療・地域医療構想協議会(埼玉県HP)の「第1回 川越比企保健医療圏地域保健医療・地域医療構想協議会」(2019.03.06)の資料1-1
「東松山市立市民病院 ~新公立病院改革プランと当院の将来像~」(森野正明院長)37~42
「東松山医師会病院2025プラン」(松本万夫院長)51~57

日本林業技術協会編『森と水のサイエンス』 1月8日

日本林業技術協会編『森と水のサイエンス』(東京書籍、1989年)を読みました。執筆者は中野秀章・有光一登・森川靖氏で、100不思議シリーズの1冊です。日本森林技術協会デジタル図書館に、PDF版がUPされています。

森と水のサイエンス』 目次
1 減りもせず増えもしない地球の水
   どこにどれだけの水があるか
   たえず循環する水
2 限りある貴重な資源
   すべての生命に不可欠な水
   限りある水資源
   地域と季節で異なる水の量
   水の循環と森林
3 森林に降る雨の行方
   森林に降り注ぐ雨
   林冠などによる降水の遮断
   浸透と流出
   森林植生による蒸散
   川の流れを調整する森林
4 土の中の水の動き
   森の土は水を吸い込む―土壌の種類と保水力
   地被や土壌による浸透能(水の吸い込み方)の違い
   土壌の保水力
   土壌のすき間と水の流れ
   森林の土は水をきれいにする

5 樹木の生育と水
   生命の井戸水
   植物の水吸収と土壌の水
   植物の水経済
   湿度を考える―湿度60%は乾いている
   蒸散量はどう測るのか
   蒸散―1日に30トン
   蒸散量の多い月は、年間の蒸散量は
   間伐や技打ちによって蒸散量は減るか
   蒸発と蒸散は本当に同じか
   水の吸収と移動― 100メートルも昇る
   水移動の経路―壁の中、管の中を水は流れる
   水と成長
6 森林の水保全上の役割
   森林の水保全機能とは
   水の流れをならす森林の土
   森林の状態と水の流れ
……河川流量の平準化をもたらす森林土壌の機能こそが、その森林土壌を生成し、維持する、森林のいわゆる水源かん養機能と治水機能の本質といえる。(119頁)
   うまい水もつくる森林の土
   森林による水の消費

7 水保全機能の高い森林
   単純より混交、若齢より高齢がものをいう
 水保全にかかわる森林の役割とは、自然の節理にさからわない範囲で、蒸発散量をなるべく少なくし、降水の流出を平準化するとともに流出する水の質を良好・安定に保つことといえる。
 この両機能を果たす中心舞台は森林土壌であり、浸透・透水性にすぐれ、かつ厚い土層を保持している森林こそ水保全機能の高い森林といえる。概念的には、すでにある森林土壌を確実に保全し、かつ将来に向けて、なお、着実に水に関する特性の改善を進めている森林といえる。言い換えれば、地表浸食や崩壊などから森林土壌を守る機能が大きく、かつ浸透・透水性を改善する機能の大きい森林植生、すなわち、強じんな根系を深くかつ偏りなく網のように張り、崩壊防止に対する杭効果とネットワーク効果が高く、林床には落葉層や低木・下草が豊かで安定しており、地表浸食防止に効果が高い森林である。同時に有機物の供給と土壌動物・微生物の生息促進によって土壌の団粒構造など、孔隙性を維持・改善する効果の高い森林が、将来性を含めて機能の高い森林といえよう。具体的には当該地域を適地とする複数の樹種・草種から成り、老齢に過ぎない範囲で高齢の大径木を主林木とし、樹齢・樹高もさまざまで、生態学でいう樹体の現存量が大きく、生態系として安定した生命活動の盛んな地域適応型の混交・複層林である。(126~127頁)

   混交社会の構成要員
 水保全に望ましい具体的樹種についていえば、個々の樹種に水保全面からみた特徴が認められることは事実である。まず、森林土壌の維持・改善にとって重要な根系についてみると、土壌条件などについての同じ比較条件下で、主たる根を垂直方向に張り、比較的深い土層にも根量のある深根性樹種と、主たる根を水平方向に張り、比較的深い土隔には根量の少ない浅根性樹種がある。前者の代表的樹種は、針葉樹ではアカマッ・クロマッ・スギ・モミ・ヒメコマッなど、広葉樹ではコナラ・ミズナラ・クヌギ・ケヤキ・クリ・トチなどである。後者の代表的樹種は、針葉樹ではヒノキ・カラマツ・サワラ・ツガ・トウヒ・エゾマツ・ヒバなど、広葉樹ではブナ・シラカシ、ニセアカシァ・ヤマハンノキなどである。同じ深根性・浅根性樹種といっても、根系の平面的張り方にも樹種による個性がみられ、一般に樹冠の投影面積の数倍程度に張るとみられる。例えば浅根性樹種でかなり広いものや、深根性樹種で相対的には広くないもの、あるいは斜面の上下、水平のいずれかの方向により広く張るものなどがあり、これも土壌保持の面で無視できない。
 土壌改良に重要な落葉などの有機物の供給能力についてみると、同じ比較条件下で樹種間に差が認められる。常緑針葉樹林は落葉樹林よりも多く、同じ常緑針葉樹林でもスギはマツやヒノキよりも多い。さらに、土壊改良に重要な土壌動物・微生物の生息についても、一般に針葉樹人工林は天然林より、若齢林は高齢林より、そして、構成樹種の単純な森林は複雑な森林より種類数も個体数も少ないといわれている。
 一方、降水遮断についてみると、細かい葉が小枝に密に着生して、単位面機当たりの葉量が大きく小枝が密にまとまった樹冠をもつ針葉樹類は、これらより比較的大きい平滑な葉を疎に着生する広葉樹類より一般に遮断作用が盛んである。また、同じ樹種でも、当然ながら、林冠の疎開した幼齢林や高齢林より、生育旺盛な青年期・壮年期の森林で大きい。さらに細かくみれば、例えば、ブナなどの広葉樹のうっ閉した壮齢林では雨水の一時保留作用が大きく、また樹体構造の関係などで樹幹流下雨量が多いため、激しい降雨の林床への衝撃的直達を避け、降水を穏やかに林床に導くといった働きにも特徴がみられる。蒸散作用についても降水遮断とほぼ同様なことがいえる。
 以上を総合すると、スギやブナなどは他に比べて一応水保全上すぐれた樹種と考えられるが、詳細に個々の特性についてみれば長所も短所も混じえており、すべての樹種についても同様なことが考えられる。結局、個々の特性について水保全に望ましい樹種があり、これを総合して相対的に優位な単独樹種を選定することはできるものの、絶対的な単独樹種はないといえよう。つまり、望ましい個別特性をもつ樹種の単純林ではなく、混交・複層林でそれぞれの個性が補強され合って全体機能が高くなる。(133~135頁)

 何よりも、健全で確実な生育を保持する森林でなければ、機能を発揮し得ない。したがって、当該地を本来適地とする複数の樹種の高齢木を中心とする混交・複層林で、地上部・地下部ともに充実し、活力ある生態系としての森林こそ、最も水保全機能が高い森林といえよう。(136頁)

8 降水による災害と森林
   洪水害
   山崩れ
   土石流
   地すべり
   なだれ
9 むすび

用語解説
混交林:2種類以上の樹種からなる森林で、単純林に対するものである。ただし、林業に関係のない下木の類は考えにいれない。また、数種類の林木からなる森林でも、その大部分が一樹種であるときは、単純林として取り扱う。混交林は性質の異なった樹種、例えば針葉樹と広葉樹、陰樹と陽樹、浅根性の樹種と深根性の樹種などが適当に配置されることによって、林地の生産力を十分に活用することができ、林木相互の競争が柔らげられるので、林木が健全に育ち、木材の生産量も多いと主張されている。害虫・菌類・暴風・山火事などに強い樹種が混ざることによって、これらの害が発生しても急激に広がることが防げ、天敵の繁殖にも好適であり、諸害に対する抵抗性も強い。(168~169頁)

複層林:人工更新により造成され、樹齢、樹高の異なる樹木により構成された人工林の総称。一斉に植栽され、樹齢、樹高がほぼ同じ森林に対する語。一部の樹木を伐採しその跡地に造林を行うことの繰返しにより造成される。(174頁)


カロリン・エムケ『憎しみに抗って』 1月4日

カロリン・エムケ『憎しみにあらがって ―― 不純なものへの賛歌』(浅井晶子訳、みすず書房、2018年)を読みました。
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人種主義、ファナティズム、民主主義への敵意――ますます分極化する社会で、集団的な憎しみが高まっている。なぜ憎しみを公然と言うことが、普通のことになったのだろう。
多くの難民を受け入れてきたドイツでも、それは例外ではない。2016年には、難民の乗ったバスを群集が取り囲んで罵声を浴びせ、立ち往生させる事件が起こった。それまでのドイツではありえなかったこの事件は、社会に潜む亀裂をあらわにした。
自分たちの「基準」にあてはまらない、立場の弱い者への嫌悪、そうした者たちを攻撃してもかまわないという了解。この憎しみの奔流に飲み込まれないためには、どうしたらいいだろう。
憎しみは、何もないところからは生まれない。いま大切なのは、憎しみの歴史に新たなページを加えることではなく、基準から外れたとしても幸せに生きていく可能性をつくることではないだろうか。
著者カロリン・エムケはドイツのジャーナリスト。自分とは「違う」存在を作りだして攻撃するという、世界的に蔓延する感情にまっすぐに向き合った本書は、危機に揺れるドイツでベストセラーになった。いまの世界を読むための必読書。
   (みすず書房HP「書誌情報」より)
 カロリン・エムケ『憎しみに抗って ―― 不純なものへの賛歌』目次
はじめに
1 可視‐不可視
   恋
   希望
   懸念
   憎しみと蔑視
    1 特定の集団に対する非人間的行為(クラウスニッツ)
   憎しみと蔑視
    2 組織的人種差別(スタテンアイランド)
2 均一 ー 自然 ー 純粋
   均一
   根源的/自然
   純粋
3 不純なものへの賛歌

原註
訳者あとがき
著訳者略歴
※東京大学出版会・白水社・みすず書房の出版情報PR紙「パブリッシャーズ・レビュー」第26号(2018年3月15日号)より
 ドイツでベストセラー
  カロリン・エムケ
   《憎しみに抗って 不純なものへの賛歌》浅井晶子訳
 人道主義、ファナティズム、民主主義への敵意 ―― ますます分極化する社会で、集団的な憎しみが高まっている。なぜ憎しみを公然と言うことが、普通のことになったのだろう。
 こうした現象は、世界中でみられる。多くの難民を受け入れてきたドイツでも、それは例外ではない。
 2016年、ドイツのクラウスニッツで、難民の乗ったバスを百人以上の群集が取り囲んで罵声を浴びせ、立ち往生させる事件が起こった。多くは近所のごく普通の住民だったという。その様子はSNSで瞬く間に拡散し、おびえる難民の子どもや、手をこまぬく警官の様子も映っている。それまでのドイツはありえなかったこの事件は、社会に潜む亀裂をあらわにした[*1]。
 「怒りは、なにものにも守られることなく目だっている者に向けられる」。自分たちの「基準」にあてはまらない、立場の弱い者への嫌悪、そうした者たちを攻撃してもかまわないという了解。この憎しみの奔流に呑み込まれないためには、どうしたらいいのだろう。
 著者エムケは言う。憎しみは、何もないところからは生まれない。なぜ悪むべきかという「理由」は、誰かがつくらないと存在しない。憎しみは、いまに始まったことではなく、じつは長い歴史をもっている。
 いま大切なことは、憎しみの歴史に新たな1ページを加えることではなく、基準から外れたとしても幸せに触れて生きる可能性をつくっていくことではないだろうか。
 著者カロリン・エムケはドイツのジャーナリスト。自分とは「違う」存在をつくりだし攻撃するという、世界的に蔓延する感情にまっすぐに向き合った本書は、危機に揺れるドイツでベストセラーになった。いまの世界を読むための必読書。
   [現代社会・暴力・ポピュリズム](四六判・216頁・3600円)

齋藤純一さんの書評「多様性ゆえの安定、再構築を」から(『好書好日』2018.06.02>『 朝⽇新聞』2018年04月21日)
憎しみに抗って―不純なものへの賛歌 [著]カロリン・エムケ
 このところ「ヘイトスピーチ」や「ヘイトクライム」といった「憎しみ」を含む言葉を耳にすることが多くなった。実際、ネット上では憎悪表現が当たり前のように飛び交っている。その標的とされ、心身に深い傷を被っている人も少なくないはずである。
 ようやくたどり着いたドイツで住民から罵声を浴びせられる難民[*1]、アメリカで警官の暴力的な取り締まりにさらされる黒人[*2]、国境での保安検査で屈辱的な扱いを受けるトランスジェンダー(「自然」とみなされる性別が本人の感覚と合致しない人)。本書が取り上げるのは、何を語ったか、何を行ったのかとはまったく無関係に、侮蔑や憎悪を投げつけられる人々である。
 本書を読んであらためて重要と感じるのは、憎しみを引き起こす原因とそれが向けられる対象の間にはほとんど関係がない、ということである。難民や移民はいわば叩(たた)きやすいから憎しみの標的とされる。彼らをいくら叩いたところで、生活不安がなくなるわけではないのにもかかわらず。人に憎しみの感情を抱かせる原因は複雑で解消しがたい一方、標的の選択は単純で、感情の投射は容易である。
 「彼ら」を締めだせば「われわれ」は安全や豊かさを取り戻すことができる。こうした考え方はなぜ執拗(しつよう)に現れるのか。「同質なもの」、「純粋なもの」は予(あらかじ)め存在せず、「異質なもの」、「不純なもの」を特定し、それを排除することを通じてつくりだされる。このメカニズムが、反ユダヤ主義とホロコーストの経験と記憶をしっかりと刻んだはずのドイツでいままた反復されようとしている。余所者(よそもの)は「少しくらい満足しておとなしくなるべきではないか」という感覚はすでに一部だけのものではなくなっている。
 一昨年ドイツで上梓(じょうし)された原著は10万部を超すベストセラーとなり、12カ国語に翻訳されているという。移民を排除すべしという主張は、いまや多くの社会で公然と語られるようになり、それは、憤懣(ふんまん)の捌(は)け口を求める需要に応えている。この本がいま広く読まれているのも、多様な諸価値やそれらのハイブリッド(不純)な交流を肯定する規範が明らかに壊れつつあるという危機感ゆえであろう。
 自身も性的マイノリティに属する著者は、文化的、宗教的、性的な多様性のなかでこそ落ち着くことができる、と言う。多様性ゆえの安定、排他的ではない安全性を構築しなおすために、どのような言葉や行為が必要なのか。私たちは「他者を傷つける能力」を併せもつだけに、そしてその能力はたやすく行使されるがゆえに、いかに憎しみに抗するかという問いをおろそかにするわけにはいかない。
    ◇
 Carolin Emcke 67年生まれ。ジャーナリスト。「シュピーゲル」「ツァイト」の記者として世界各地の紛争地を取材。2014年よりフリー。16年にドイツ図書流通連盟平和賞。
*1:2016年2月18日、ドイツのクラウスニッツで、難民の乗ったバスを百人以上の群集が取り囲んで罵声を浴びせ、立ち往生させる事件が起こった。多くは近所のごく普通の住民だったという。その様子はSNSで瞬く間に拡散し、おびえる難民の子どもや、手をこまぬく警官の様子も映っている。それまでのドイツはありえなかったこの事件は、社会に潜む亀裂をあらわにした。[前掲「書誌情報」より引用]

*2:2014年7月17日にニューヨークのスタテンアイランドで警察官が逮捕にあたって禁じられている絞め技で黒人男性エリック・ガーナーを死亡させた事件。(「エリック・ガーナー窒息死事件」>Wikipedia)
1.はじめに
2018年8月末から9月はじめにかけての2週間、ドイツ社会はこの話題に揺れた。[8月26日]東部ザクセン州の都市ケムニッツでおこったある殺人事件をきっかけに、極右勢力が大規模なデモをおこない、街中で外国人を狩りたてて暴行したり、警察や反対する左派勢力と激しく衝突したりしたのだ。
日本でも、この事件は大手マスコミ各社が取りあげた。しかし、それらの報道は事件の概要を断片的に伝えるのみであり、この事件がドイツ社会にあたえた衝撃についても、またこの事件を近年のドイツ社会の動きに対してどのように位置づけるかについても、説明が不足している。……
2.ケムニッツ市記念祭での殺人事件
3.事件をめぐる数々の謎
4.なぜケムニッツだったのか
5.なぜドイツ東部なのか、なぜザクセン州なのか
6.「憂慮する」市民たち
ケムニッツをはじめとする外国人に対する暴力事件は、けっして一部の過激な極右の人間やならず者たちによって引き起こされたのではない。その背後に外国人に敵意を持ち、暴力に参加はしないまでも、それを容認する大勢の市民たちがいる。すでに上述のロストックの事件[*3]の際も、外国人労働者の宿舎が燃え上がると喝采を送った住民がいたし、なかには自宅にあった予備のガソリンを火炎瓶を作るためにネオナチたちに提供した者もいた。……
……難民であれ労働者であれ外国人に対して警戒的な人びとは一定程度いる。彼らは自らを「憂慮するbesorgt」市民たちと呼んでいる。
この言葉は、2018年の夏頃、ケムニッツの事件とちょうど相前後して盛んに取りあげられるようになった。その主張は、「われわれは外国人に反対しているわけではない、しかし……」というフォーマットに集約される。自分たちは人種主義者ではない、しかし今のところドイツには外国人が増えすぎている。このままではうまくいかない。ドイツで暮らすからには最低限われわれのやり方・流儀には従ってもらわねばならない、というわけである。
こうした「憂慮する」多くのひとびとが、数の上では少数である極右勢力によるあからさまな外国人排斥の活動を下支えし、その温床となっているのである。
ドイツの女性ジャーナリストのカロリン・エムケは、ヘイト犯罪に関する著書『憎しみに抗って』(2016年、邦訳みすず書房、2018年)のなかで、2015年夏のクラウスニッツの事件について詳細に分析している。彼女によれば、難民を乗せたバスが同地の収容センターに到着したとき、その行く手を阻んで「われわれこそが国民だ」と叫び、罵声を浴びせたり唾を吐きかける真似をしたのは、およそ100人ほどの住民たちだった。
しかし、エムケによれば、その場には、第2のグループとして大勢の傍観者たちがいた。誰ひとり騒ぎを止めようとせず、その場を立ち去りもしない。傍観者がいることによって、バスのなかにいる人たちに対峙する群衆はその分、数が増えたことになった。彼らの存在は、暴徒たちをさらに勢いづかせることになったとエムケは主張する。「彼らはただそこに立って、わめく者たちを注視する場を形成している。その注視をこそ、わめく者たちは必要とするのだ。自身を『国民』だと主張するために」(同訳書51頁、一部改変)。
エムケによれば、「憂慮する」市民たちは、自分たちは人種差別や極右と一線を画しているように見せかけているが、その仮面の下にあるのは「異質なものへの敵意」である(同訳書38頁)。この考えは、経済的好況の影で格差が広がりつつあることへの不満と結びつき、難民受け入れを進めるメルケル政権に対する批判へと、さらに大手マスコミが事実を伝えていないというメディア批判へとつながっていく。
ドイツ東部には、このようなメンタリティがドイツの他の地域よりも強固に根を下ろしつつある。2017年7-8月の世論調査では、「連邦共和国は外国人によって危険な度合いにまで過剰に外国化(überfremdet)されつつある」という見方に賛成の意見が、ザクセン州では回答の56%にのぼった。62%が「当地で暮らしているイスラム教徒はわれわれの価値を受け入れていない」と考えており、38%が「イスラム教徒の移民を禁止すべきだ」という意見である。
7.極右政党とネオナチの結合
8.ドイツ社会の和解のレジリエンス
現在のドイツでは、「憂慮」に覆い隠されたかたちで他者に対する憎しみが横行しており、それは「権利を奪われ、社会から取り残され、政治的対応からも置き去りにされる人間の集団が生まれる前触れ」ではないのか、とカロリン・エムケは問うている(同訳書40頁)。
あるいはそうなのかもしれない。予断は許されない。しかし、状況はそこまで危機的ではないと思わせる要素もまた存在している。
それは、ドイツ社会には、和解のレジリエンスとも言うべきバランス回復の機能があるからだ。レジリエンスとは、元来は物質が外的な力を受けた際に元に戻ろうとする力を意味し、転じて心理学用語として個人の内面がストレスに抗して回復する能力として用いられていたが、最近では社会の危機的状況や災害からの機能回復や復興をさして使われるようになっている。
1990年代前半以来くり返されてきた外国人に対する暴力事件は、たしかにドイツ社会のなかに大きな傷を開けた。しかし、その傷口をただちに閉じ、苦痛を癒やし、社会の統合を再構築する動きが、随所で即座に自発的に出現するのだ。……
9.レジリエンスの動揺?
ケムニッツの事件に対して、ドイツ社会はこのような和解のレジリエンスを機能させることで、傷口を閉ざし、危機を乗り切ったかに見える。ドイツ社会の統合とコンセンサスはいま一度守られ維持されたのだろうか。レジリエンスは、万能のものとして機能しているのだろうか。
残念ながら、現実はそう簡単ではない。ケムニッツの事件とその顛末には、ドイツ社会のレジリエンスが動揺し変化しつつある兆候を見て取ることが可能である。これは、とくに事件に対する政治家の発言に見て取ることができる。暴力が振るわれたことに対しては、断固たる拒絶の意思を示すものの、外国人への連帯や共生社会への賛成を示す力強い言葉はそこにはほとんど聴かれず、むしろ難民を厄介者扱いし、非難するような発言が目立った。……
10.おわりに――レジリエンスと「憂慮する」市民たちの今後
……「憂慮する」ことが当たり前になりつつあるドイツ社会では、外国人に対する大小の暴力事件は、残念ながら今後も完全にはなくならないだろう。ケムニッツのような感情的な暴発もまた予期されるところである。
しかし、そうした事件のあと、今後も和解のレジリエンスが発動されることもまた確実である。多くの人が自発的に立ち上がり、街頭に出て、あるいはネット上で暴力にノーを叫ぶだろう。多くの抗議声明が出され、評論家は口角泡を飛ばして論じ、政治家は美辞麗句をちりばめた名調子で事件を非難し、今後の再発防止を誓うだろう。
しかし、もしかすると、和解のレジリエンスは、ひとびとの善意と真心を借りて、外国人への暴力事件がひとたびあったとしても、その衝撃を緩和し、社会を何事もなかったかのように修復してしまう魔法の道具、一種の通過儀礼にすぎなくなっていくのかも知れない。そうなれば、やがてはAfDや極右さえ、何食わぬ顔でレジリエンスに参加していくようになるかも知れない。
とはいえ、このようなドイツ社会のレジリエンスのあり方は、何かの事件が起こるたびに、お茶の間の賞味期限が過ぎるまではさんざんにマスコミが取りあげ、プライヴァシーを無視した取材をおこない、面白おかしく報道し、話題を独占しておいて、その後何の反省もなく完全に忘れ去られる社会より、どれほどいいか知れない。それはドイツ市民社会の本領発揮であり、精華である。
(11.2019年3月21日加筆)
2019年3月18日、ドレスデンのザクセン州立裁判所で、ケムニッツ殺人事件の容疑者の裁判が始まった。これをきっかけに、昨年夏の事件はもう一度ドイツ世論の注目を浴びることになった。……
*3:1992年8月にはロストック=リヒテンハーゲンでベトナム人労働者の宿舎が放火され、4日間にわたって警官隊とネオナチが激しい衝突を繰り広げた。

J・ロックストローム『小さな地球の大きな世界』 12月27日

ヨハン・ロックストローム、マティアス・クルム『小さな地球の大きな世界 ープラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発 ー 』(原著は2015年発行。監修:武内和彦、石井菜穂子、訳:谷淳也、森秀行 ほか。丸善出版、2018年)。プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)は、2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)の基礎となった概念。著者のロックストローム博士はこの概念を主導する科学者グループのリーダーです。

プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)とは?
人間の活動が地球システムに及ぼす影響を客観的に評価する方法の一つに、地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)という考え方があります。地球の限界は、人間が地球システムの機能に9種類の変化を引き起こしているという考え方に基づいています。この9種類の変化とは、①生物圏の一体化(生態系と生物多様性の破壊)、②気候変動、③海洋酸性化、④土地利用変化、⑤持続可能でない淡水利用、⑥生物地球化学的循環の妨げ(窒素とリンの生物圏への流入)、⑦大気エアロゾルの変化、⑧新規化学物質による汚染、⑨成層圏オゾンの破壊です。これらの項目について、人間が安全に活動できる範囲内にとどまれば、人間社会は発展し、繁栄できますが、境界を越えることがあれば、人間が依存する自然資源に対して回復不可能な変化が引き起こされます。
生物地球化学的循環、生物圏の一体性、土地利用変化、気候変動については、人間が地球に与えている影響とそれに伴うリスクが既に顕在化しており、人間が安全に活動できる範囲を越えるレベルに達していると分析されています。
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(2017年版『環境・循環型社会・生物多様性白書』第1部・第1章地球環境の限界と持続可能な開発目標(SDGs)第1節持続可能な開発を目指した国際的合意 -SDGsを中核とする2030アジェンダ-)

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小さな地球の大きな世界 プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発』目次
序文 変革への協力関係
 生き方への二つのアプローチ
 新しい物語

重大な10のメッセージ
 1.目を開こう
 2.危機は地球規模で差し迫っている
 3.すべては密接につながっている
 4.予期せぬことが起こる
 5.プラネタリー・バウンダリーを尊重する
 6.発想をグローバルに転換する
 7.地球の残された美しさを保全する
 8.私たちは状況を変えることができる
 9.技術革新を解き放つ
 10.大事なことを最初にする

第一部 偉大なる挑戦
 第1章 新たな苦難の時代
  人新世にようこそ
  すべてが互いにつながっている
  地球を守る緩衝材

 第2章 プラネタリー・バウンダリー
  九つプラネタリー・バウンダリー
  プラネタリー・バウンダリーの現状
  ここからどこへ向かうのか?

 第3章 大きなしっぺ返し
  南極大陸:弱々しい兄貴分?
  地球からのメッセージ……「支払期限」
  崖っぷちの生物多様性
  サンゴ礁:気候変動における「炭鉱のカナリア」
  青天の霹靂?

 第4章 あらゆるものがピークに
  水圧破砕による石油・天然ガス採掘の問題
  リンのピーク
  何のピークも恐れなくてもよい世界

第二部 考え方の大きな変革
 第5章 死んだ地球ではビジネスなどできない
  問題の兆し
  地球が世界の経済を支えている
  狼、樹木、そしてマルハナバチ
  CSRはもう死語だ
  新しい物語

 第6章 技術革新を解き放つ
  技術革新の新しい波
  世界のエネルギー・システムを脱炭素化する
  すべての人のための持続可能な食料生産の増強
  循環経済への変革
  回復力のある都市の構造
  持続可能な交通手段
  想像力を解き放つ
  政策的手段
 この新たなパラダイム、すなわち、安定的で回復力のある地球とともに発展する世界のコミュニティを作るために、革新や技術、協働、そして普遍的な価値が結び付くというパラダイムを作るのに必要なものは何だろうか?そのために、私たちは以下の領域で、包括的な政策手段を構想している。

 1.地球上の安全な機能空間を世界的に規制すること:生物多様性の損失率をゼロとし地球温暖化を2℃以内にとどめることなど、世界の発展のための科学に基づく地球の持続可能性に関する基準に基づいて規制すること。
 2.地球に残された生物物理学的な余地空間を公平に分け合う方法について世界的に合意すること:鄭玄のある地球上の炭素排出量の配分、土地利用の配分、窒素とリン排出量の配分、また淡水利用量の配分に関する責任を分担すること、および残された重要な森林システムの保全や生物多様性の損失を食い止めるのに合意することを含む。
 3.世界的な炭素価格制度を導入すること:二酸化炭素1トンあたり少なくとも50ユーロ(60米ドル)が必要。
 4.政策的手段とガバナンスのあり方に幅広い多様性を許容すること:提携や誓約、市民運動、アクティビズムなどの「ボトム・アップ」の活動が、世界の国々や地域のガバナンスや組織的な統合など「トップ・ダウン」の取り組みと組んで発展すること。
 5.「GDPを超えて」成長と進歩に関する新しい基準を定義すること:進歩を測る新たな指標と環境志向の経済発展の概念を基礎にして構築する。
 6.対応能力の開発に莫大な投資をすること:世界の途上国への自由な技術移転と「第二の機械時代」を本格化するのに必要な大きな投資資金を含む。(153頁)

第三部 持続的な解決策
 第7章 環境に対する責任の再考
  新しいゲームのルール
  新しい緑の色合い
  計測することの重用性
  グローバル・コモンズに別れを

 第8章 両面戦略
  パワー・アップ
  新しい緑の革命 三つの課題
  青い大理石
  賢い投資

 第9章 自然からの解決策
  ウジを好きになる
  展望と解決策をつなげる
  実効性を確保するために

あとがき 新たなプレイ・フィールド

写真に関する補足情報
主要な出典および参考文献
著者紹介
謝辞
※監修者・武内和彦さんの本書紹介から(『UTokyo BiblioPlaza』HP)
地球に限界があることを指摘したのではない。プラネタリー・バウンダリーの範囲内でこそ、持続可能な経済や社会の成長と繁栄が保障されうるとの提案

ロックストロームらがプラネタリー・バウンダリーの概念を提唱した目的は、単に人間活動の加速化が地球システムの限界を超えるリスクを増大させていることに警告を発することにとどまるものではない。そうした限界を十分把握したうえで、人間活動をいかに回復力があり安定した生物物理的な「安全な機能空間」に収れんさせていくか、という新しい方向性を導こうとしているのである。この考え方は、かつてローマクラブが提唱した「成長の限界」とは一線を画している。むしろ、プラネタリー・バウンダリーの範囲内でこそ、持続可能な経済や社会の成長と繁栄が保障されうるとの提案である。この考え方は、国連が採択した2030年までの持続可能な開発目標 (SDGs) の捉え方にも大きな影響を与えている。すなわち、環境に関する目標の達成が、社会や経済に関する目標を達成するための大前提となるとの考え方である。


ナリワイを作る「百姓ライフ」 12月22日

上村邦彦『ローザの子供たち、あるいは資本主義の不可能性:世界システムの思想史』(平凡社、2016年)の「終章 資本主義の終わりの始まり」3 資本主義からの脱出からの引用(211~214頁)です。引用されている本も読んでみたいですね。

……資本主義が終わるということは、「経済成長」が不可能になる、ということである。「経済成長」が止まるということは、言い換えれば、「剰余価値の実現」が不可能になり、個人消費が低迷し、商品が売れなくなり、利潤を獲得できずに赤字に転落して倒産する企業が増加していく、ということである。大学を卒業して会社に就職し、定年まで同じ会社で勤め上げる、という生活の仕方を選ぶことがますます困難になる、ということである。
 そうだとすれば、私たちは、これから次第に縮小していくはずの、会社に雇用されて賃金労働者として働く「第一経済」以外に、副業としての「第二経済」や互酬的「第三経済」にも足をかけて、危険を分散するとともに生活維持を図る、という複線的な生き方を選択せざるをえなくなるだろう。ただし、それはおそらく、単線的な「第一経済」だけの生活よりずっと「楽しい」ものである。
 そのような生活実践は、すでに少しずつ始まっている。例えば、朝日新聞記者の近藤康太郎は、長崎県諫早支局での記者勤務という本業の傍ら、始業前の早朝一時間だけ「オルタナ農夫」(オルタナティヴな農夫)として自給用の米作りを実践し、それを「資本主義から少しだけ外れる、近代社会からばっくれる」と表現した。「ちょっとだけ、はずれる。全力で逃げるんではない。資本主義社会にも足を突っ込みつつ、肝心なところは、ばっくれる」*さしあたりは、この「ちょっとだけはずれる」ことが重要かもしれない。
近藤康太郎『おいしい資本主義』4頁(河出書房新社、2015年)
 それ以上にもっと「資本主義からはずれる」生活実践も、広く見られるようになった。たとえば、「ナリワイ実践者」を自称する伊藤洋志は、「個人レベルではじめられて、自分の時間と健康をマネーと交換するのではなく、やればやるほど頭と体が鍛えられ、技が身につく仕事」を「ナリワイ(生業)」と定義し、「一人がナリワイを3個以上持っていると面白い」と言う*。ナリワイは「やっていて楽しいということも大事な条件なので、単なる労働ではない」**。それを彼は「人生を盗まれない働き方」と名づけている***。
伊藤洋志『ナリワイをつくるー人生を盗まれない働き方』4頁(東京書籍、2012年)
**同上、9頁
***同上、副題
 東京出身の水柿大地は、岡山県美作市で「地域起こし協力隊員」として働いた後、美作市上山地区に住み着いて、そこで同じような「多就業」の生活を実践している。彼によれば、「月に五万円稼げる仕事を五つ持ったら二五万円、六つ持てれば三〇万円になる。仮に一つ仕事がなくなっても二五万は稼げる、というところに持っていけるのが多就業の利点であり、幅広くいろころなことに取り組めるので、人としての厚みも増していくのではないだろうかと考えている」*。
水柿大地『21歳男子、過疎の山村に住むことにしました』201頁(岩波ジュニア新書、2014年)
 そのような生活の仕方を、社会学者の上野千鶴子は「百姓ライフ」と名づけた。「「百姓」とは読んで字のごとく「百の姓[ひゃくのかばね]」、つまり多様な職業の組み合わせのことです。気候風土に応じて、夏は稲を耕作し、冬は麦や菜種を育てる。農閑期には機織りや炭焼きをして現金収入に充て、杜氏のような専門的技術を以て出稼ぎをする」*。このような「百姓ライフ」という言葉で彼女が強調するのは、「正規雇用はこれから希少財化する。これからはシングルインカムではなくマルチプル・インカムの時代だ」ということである。それを彼女は「持ち寄り家計」とも呼んでいる。「それは自分の収入源をひとつに限定しない、という選択肢のことです」**。
上野千鶴子『女たちのサバイバル作戦』326頁(文春新書、2013年)
**同上、327頁
 念のために確認しておけば、「資本主義の終わり」が、ただちに経済生活の崩壊や貨幣経済の終わりを意味するわけではない。現在でも、「利潤獲得」を目指してはいない独立自営業者や専業農家も存在しているし、公務員、教員、NPO法人の専従職員など、賃金労働者ではあるが営利活動に従事しているわけではない人も多い。ただし、資本主義的生産様式が支配的な「資本主義社会」に生きている以上、そのような人々も「資本主義の終わり」と無縁でいられるわけではない。だからこそ、自分の生活は自分で守るためのさまざまな工夫がこれから必要になる、ということである。
 最近「脱資本主義宣言」をしたフリーライターの鶴見済は、この宣言の意味を次のように説明している。

「脱資本主義」などと言うと、「社会主義にするのか」「カネは使わないのか」「昔に戻るのか」などと極端な反論が飛んできそうだが、どれも違う。少なくとも自分は、とりあえず理想とする方向に向かってみて、その先のことはその都度考えればいいという立場だ。なぜなら、どういう社会にすべきかは、それぞれの場所によって違う答があるはずだから。*

 彼が主に実践しているのは「手作りのイベントと、共同運営の畑」だそうだが、彼がイベントに参加する高円寺の「素人の乱」下北沢の「気流社」など、「こうした店の“界隈”では、贈与経済とも呼ぶべき別の経済が芽生えていて、「脱資本主義」が当たり前に実践されている」**という。
鶴見済『脱資本主義宣言ーグローバル経済が蝕む暮らし』214頁(新潮社、2012年)
**同上、213頁
 作家の佐藤優もまた、「資本主義といるシステムが自壊しているプロセス」の中で「重要なのは、自分の周りで、直接的人間関係の領域、商品経済とは違う領域を、きちんと作ること」*だと語っている。そのうえで彼は、これから起こりうる「資本主義の暴発」をできるだけ抑える対応策として、「具体的には、労働組合、宗教団体、非営利団体などの力がつくこと、さらに読者が周囲の具体的人間関係を重視し、カネと離れた相互依存関係を形成すること(これも小さな中間団体である)で、資本主義のブラック化に歯止めをかけること」**を重視している。
佐藤優『いま生きる「資本論」』241-242頁(新潮社、2014年)
**同上、250頁


朱野帰子『わたし、定時で帰ります。』(新潮文庫、2019年)[あけのかえるこ]

※※「わたしたちの月3万円ビジネス」(2018.01.28)
NPO法人チーム東松山主催『わたしたちの月3万円ビジネス』体験ワークショップ

安富歩編訳『超訳論語 革命の言葉』③ 12月21日

安富歩編訳『超訳論語 革命の言葉』エッセンシャル版(ディスカヴァー・トゥェンティワン、2016年)のアマゾンサイトでは同書の「内容紹介」として「序」の、①、②で引用した文章の直前部分が掲載されています。

 危機にこそ、人間の真価がわかる。今この時代に読み直したいまったく新しい「論語」。

 本書は、私自身が、この世界を生きるためのよすがを求めて、論語の言葉の響きを聞き取った、その報告である。
 論語という、二千数百年という時間を越えてこの私に届いた奇跡の言葉には、人々の心を響かせてきた、何かがあるはずだ。
 私はその何かを聞こうとして、多くの知識を蓄えつつ、耳を澄ませてきた。
 その響きを本書ではお伝えしたいと思う。

 もちろん本書は、徹底して客観的たらんとしつつ、同時に、徹頭徹尾、主観的な書物である。
 それゆえ、ここに書かれていることを、決して鵜呑みにしないで頂きたい。
 一つ一つの言葉が、役に立てば役に立て、役に立たなければ、捨てて欲しい。
 そして、論語について何かを誰かに言いたい、と考えたなら、必ず原文に当たり、
 本当に私が聞き取った響きが聞こえるかどうか、読者自ら確認してほしい。
 もし違った響きが聞こえたら、それがあなたにとっての論語なのであり、その響きを大切にして欲しい。
 本書はそのための手がかりに過ぎないのである。(「序」より 著者よりコメント)

※本書が「徹底して客観的たらんとしつつ、同時に、徹頭徹尾、主観的な書物」であるとはどういう意味でしょうか? 
内容紹介で引用されている部分の更に前の部分では、論語の言葉から真実を聞き取るには、二つの方法、客観的な方法と主観的な方法とがある。客観的な方法とは、「二千数百年前の、孔子が生きた時代がどのようなものであったのかを、文献や考古学の資料に基づいて推定し、その上で、論語を資料として読む」方法であるが、この客観的な方法だけで「正確な意味を汲み取る、というのは、人間にはできない相談」、「孔子が言った言葉の本当の意味を客観的に措定することなど、決してできない」。それでも客観的方法には「ある言葉が意味していないことを明らかにできる」ことと、「その言葉が元来意味した内容を明らかにできる」ことを指摘していますが、で引用した部分からも、安富さんの『超訳論語』が客観的方法を十二分に踏まえたものであることが理解出来ると思います。

※アマゾンのカスタマーレビューにある甘凡君さんの「なぜ、革命の言葉なのか」(2019年5月25日)では、この本と著者の選書である『生きるための論語』との併用が勧められ、安富さんの『論語』三部作、『生きるための論語』、『生きる技法』、『あなたが生きづらいのは「自己嫌悪」のせいである。 他人に支配されず、自由に生きる技術』を読むと、①現代でどうしたら幸福に生きられるかという問題提起から、論語をどう解釈し直したか、②現代人が幸福を考える上での8要素(1自立、2友達、3愛、4貨幣、5自由、6夢、7自己嫌悪、8成長)に対して、どう考えるかを提示し、③その8要素で、もっともやっかいな自己嫌悪に関して、どう克服するのかの著者の思想(論語をベースにした実践哲学)が述べられているとして、この3冊を読むのがベストとしています。

※仁とは
白川静『字通』(1996年)によれば、字訓に「したしむ・いつくしむ・めぐむ」があり、「初形は人の下に敷物をおく形」「人が衽(しきもの)を敷いている形」で「衽席(じんせき)を用いて人に接することによって親しむ、和むという具体的な行為や事実から、次第に抽象化して「和親・仁愛」の意に展開したものであろうとしています。
仏教語に「一月三舟」(いちげつさんしゅう、いちがつさんしゅう)があって、「一つの月も、止まっている舟、北へ行く舟、南へ行く舟から見るとそれぞれ異なって見えるように、人はそれぞれの立場により仏の教えを異なって受け取るということ」(『デジタル大辞泉』)とされています。仁についてもあれこれと考えていきたいですね。

安富歩編訳『超訳論語 革命の言葉』② 12月21日

安富歩編訳『超訳論語 革命の言葉』エッセンシャル版(ディスカヴァー・トゥェンティワン、2016年)
序より引用。

 「仁」の基礎は「孝」であり、「孝」の基礎は親が子に与える「三年の愛」である。
 「仁」たりうる人は、心の平安を得ている人である。それは自らに対する信頼がなければ不可能である。人が自分を信頼しうるようになるには、幼少期に無条件に「三年の愛」を両親から与えられている必要がある。そうすると、その子もまた自然に両親を愛するようになる。これが「孝」である。それゆえ「孝」が仁の元だ、と言われるのである。
 「孝」は、親から子へと与えられる慈愛を基礎としており、そこから自然に生まれる感情であり、それが社会秩序の基礎となる。親が子供を愛することができず、子供が「孝」とならない社会は崩壊してしまう。「孝」たりえない者が無理に孝行しても、それはやっているフリに過ぎず、そのようなものは、社会秩序の基礎たり得ない。

 「学習」回路を開いている者同士の間でコミュニケーションが成り立つ。
 対話者の双方が学習回路を開いていると、双方は共に学び合いながら成長していく。このようにして達成される調和を「和」という。「和」であることによってはじめて、本当のコミュニケーションは成立する。そのとき、両者のやりとりのありさまを、「礼」にかなっている、と言う。「礼の用は和を貴しとなす」という言葉はこのことを意味している。
 学習回路を閉じた者が、いくら礼儀作法に叶ったことをしても、それは慇懃無礼なだけであって、「礼」とは言えない。「礼」が横溢している場で人々が言葉を発するとき、その言葉に偽りはなく、それぞれの心と一致している。言葉と心とが一致している状態が「信」である。
 君子は「和」を実現する相手とは仲良くするが、誰とでも仲良くするのではない。君子は、学習回路を停止させようとする者には敢然として立ち向かい、悪[にく]むことができる。それゆえ、善人からは好まれるが、悪人からは嫌われる。
 君子は他人と意見を対立させることを恐れず、激しい「乱」を生みだすが、それは「義」にもとづく本気の応答であって、それゆえ最終的に相手と心を通わせて、高次元の「和」を生みだすことができる。

 学習回路の閉じている状態が「悪」であり、そういう者を「小人」と呼ぶ。
 論語では「仁」ではなく、学習回路の閉じている状態を「悪」と呼ぶ。そして君子とは逆に、学習回路が閉じている者を「小人」と呼ぶ。
 小人は情報収集に余念がなく、情報や知識をかき集めて保身をはかろうとする。小人には「道」が見えないので、いくつもの選択肢の中から最適な道を選ぼうとして「惑」う。しかし、自分の選択が本当に最適かどうかは、人間にはわからないので、必然的に怯え、うまくいかないと僻[ひが]んだり、拗[す]ねたりする。自分自身を信じることが出来ないので、常に評価を気にしており、人と自分とを比べようとする。
 君子は過[あやま]てば改めるが、小人はそれができないので、過つと言い訳や隠し事をする。小人は誰か力のある者からひどい扱いを受けると反発ができないので我慢し、腹いせに、弱い者に八つ当たりをする。小人は対立が苦手であって、「乱」をおそれる。それゆえ何らかの記号や意見や形式や規則を共にすることで同調し、「乱」を防ごうとする。これを「同」という。「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」というのはそういう意味である。こういう同調は長続きしないので、やがて亀裂が生じ、小人は仲間を裏切ることになる。これを「盗」という。

 私は、このような論語の思想は、現代のに本社会でなんとなく「正しい」と考えられていることをことごとく否定し、まったく異なった倫理を体系的に提示しているように思える。『論語』は、古臭い保守的な書物ではなく、衝撃的で前衛的な革命の書だと、私には思えるのである。

安富歩編訳『超訳論語 革命の言葉』① 12月21日

安富歩編訳『超訳論語 革命の言葉』エッセンシャル版(ディスカヴァー・トゥェンティワン、2016年)の「序」より安富流論語論。

 私は論語の思想を、次のように捉えている。

 「学習」という概念を人間社会の秩序の基礎とする思想である。
 論語の冒頭は、「学んで時にこれを習う、亦たよろこばしからずや。」という言葉である。この言葉に、論語の思想の全ての基礎が込められている、と私は考える。
 人間にはなにかを学びたい、という好奇心がある。その好奇心によって外部から知識を取り入れても、その段階で自分自身のものになっておらず、そればかりか、とり入れたものに自分自身を譲り渡す格好になっており、「振り回され」ている。
 それが習練を重ねていると、あるときふと、しっかりと自分のものになる瞬間が訪れる。このとき、学ぶ者は学んだことに振り回されるのをやめて、主体性を回復する。これを「習う」という。
 そうなったとき、人は、大きな喜びを感じる。人間は、そういう生き物である。この「学習」のよろこびに孔子は、人間の尊厳と人間社会の秩序との根源を見た、と私は考えている。

 学習回路を開いている状態が、「仁」であり、仁たり得る者を「君子」と呼ぶ。
 このような「学習」の作動している状態が「仁」であり、それができる人を「君子」と呼ぶ。君子は、自分の直面する困難を学ぶ機会と受けとめて挑戦し、何か過[あやま]ち犯せば、すぐに反省して改める。このような学習を通じて変化し、成長するのが、君子のあり方である。
 もちろん君子は、他者の過ちに寛容であり、そこからの学びを促そうとする。しかし世間は往々にして、人間を型に嵌[は]めて「器」として使おうとして圧力を掛けてくる。それに負けて固定した「器」になってしまうと、もはや学習回路を停止し、君子ではなくなってしまう。「君子は器はならず」という言葉はそういう意味である。
 それゆえ君子には、如何なる圧力にも屈しない「勇」が必要である。どんな状況でも、命を脅かされたとしても、自分自身を見失わず、学習過程を守りぬき、自らの心の中心にいる状態が「忠」であり、心のままに偽らない姿が「恕」である。「忠恕」の状態にあるときに、君子の前に進むべき「道」が広がっているので、道の「選択」を迫られることがない。その道を進むなかで見えてくる成すべきことが「義」である。


『多摩丘陵の自然と研究 フィールドサイエンスへの招待』 12月17日

土器屋由紀子・小倉紀雄ほか『多摩丘陵の自然と研究 フィールドサイエンスへの招待』(けやき出版、2001年)第4章波丘地の植物の「4.3アズマネザサの調査」を読みました。市民の森保全クラブの作業エリアや岩殿満喫クラブの管理エリアのアズマネザサを頭に浮かべながら読み終えました。「波及地」とは東京農工大学の農場の呼称ですが、その地形は英語を当てると roiiing hill 、私たちが使っている用語では谷津田地形でしょうか。
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多摩丘陵の自然と研究 フィールドサイエンスへの招待』目次
はしがき
1章 「波丘地」の歴史
  なぜ「波丘地」とよばれたか
2章 波丘地の土壌と渓流水
 2.1 波丘地土壌の物理性と水循環
 2.2 渓流水の富栄養化とN2O発生
 2.3 大気降下物による土壌酸性化
3章 波丘地の大気
 3.1 波丘地の気象の記録
 3.2 波丘地の降水の化学成分
 3.3 波丘地の地表オゾン濃度
4章 波丘地の植物
 4.1 植物の四季
 4.2 クロムヨウランに始まりクロムヨウランに終わった8月

 4.3 アズマネザサの調査(星野義延、八木正徳)
   1.アズマネザサというササ
   2.アズマネザサの繁茂
   3.アズマネザサの稈[かん]と株の構造
アズマネザサは土中に地下茎を伸ばし、その節から地上部の稈を発生させ、さらに直立した稈の基部からも稈を発生させることによって大きさや空間分布を変化させて、コナラ林の林床に繁茂しているのである。(97~98頁)
   4.波丘地内におけるアズマネザサの分布状況
 アズマネザサはこれまでみてきた刈り取りなどの人為的な管理の違いによって、稈サイズなどに違いがみられるが、より大きなスケールでみると丘陵地のなかでも、微地形の違いや上層で優先する樹木の種類などによってその広がりや優先の度合いが異なる。
 アズマネザサは波丘地全域に分布しているが、耕作地や崩壊斜面、毎年下草刈りが頻繁に行われている草地や雑木林の林床、スギ植林やモウソウチク竹林の林床など日照量の少ない場所で優先することは稀である。しかし、それ以外の場所ではコナラが優先する雑木林の林床、林縁、日照を遮る樹冠のないオープンサイトを問わず、アズマネザサが広く優先している。(99頁)
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A型:アズマネザサの稈高約3~6m、篠竹と呼ばれるほど大型化。光環境の良好な雑木林の林縁、樹木の疎らな林内の一部
B型:平均稈高が1.5~3mのBa型、約0.5~1.5mのBb型。雑木林の林縁や林床
C型:平均稈高が最大でも0.5m未満。頻繁に刈り取り等の管理が行われている場所。

   5.アズマネザサの生態学的管理に向けて
アズマネザサは頻繁な刈り取りによって繁茂を抑制することができるとされている(例えば、石坂、1989、重松、1988など)が、地下茎で繁殖するアズマネザサの生態学的な管理には地下部の把握が不可決であると考える。(101~102頁)

 4.4 波丘地の畑地としての土壌
5章 波丘地の動物
 5.1 波丘地の鳥
 5.2 昆虫:特に蛾と性フェロモンについて

 タケ類やササ類の葉を食草としているヒカゲチョウなど
 

※目籠(メカイ)は篠竹(アズマネザサ)で作ります
   

浅野智彦編『考える力が身につく社会学入門』 12月16日

浅野智彦さんの著作『自己への物語論的接近 家族療法から社会学へ』(勁草書房、2001年)等を読もうと思っています。先ず、浅野智彦編著『考える力が身につく社会学入門』(中経出版、2010年)を読んでみました。「はじめに」「第1章 社会学でわかる「私」という存在」「おわりに」が淺野さんの執筆です。

浅野智彦編著『考える力が身につく社会学入門』目次
はじめに
 ◎「生きるための道具」として、社会学を使う
 ◎「先の見えない時代」への不安
 ◎社会学は「現代社会を見るためのレンズ」

第1章 社会学でわかる「私」という存在
 ①「自分探し(磨き)」を強いる現代社会
  ◎社会学への招待
  ◎「自分探し」に夢中な人々
  ◎なぜ、人々は「自分探し」をするようになったのか?
  ◎「ゲームをうまくやること」「ゲームのルールを知ること」
 ②「二つの関係」から成り立つ私
  ◎「他者との関係」から成り立つ私
  ◎「私を中心としたネットワーク」と「私」
  ◎「私」と「鏡に映った私」は何が違うのか?
 ③「複数の私」を生む二つの要素
  ◎「もっと○○があるかもしれない」という意識の広まり
  ◎「私」という存在が不安定になっていく
  ◎「伝統」という枠組みが崩壊していく
  ◎「よりどころ」が失われていく
 ④「終りのない自分探し」のはじまり
  ◎ゲマインシャフトとゲゼルシャフト
  ◎「第二の個人化」が自由をもたらす
  ◎「キャラを立てる」という戦略
  ◎「終りない自分探し」を余儀なくされる
 ⑤成熟の新しい形へ
  ◎これからの社会の流れと「私」について

第2章 社会学でわかる「人間関係」
 ①社会学から見た「人間関係」とは?
  ◎「社会学の視点」から人間関係を考える
  ◎人間関係には「普遍的な側面」と「社会的な側面」がある
  ◎社会によって「人間関係の常識」は異なる
  ◎「理解しがたい他者」と共存するには?
 ②人間関係は希薄化したのか?
  ◎現代人の「対人関係能力」は低下している?
  ◎「濃密な人間関係」を求める現代人
 ③「現代社会の人間関係」をつくるさまざまな要素
  ◎「伝統重視」から「個人重視」へ
  ◎個人の「人格」が大きな意味を持つ
  ◎「人間関係のルール」は一つではない
  ◎「人間関係マニュアル本」が売れる理由
  ◎携帯電話はメールは人間関係を変えた?
  ◎「全面的なつきあい」と「部分的なつきあい」のバランス
 ④「三つの可能性」からこれからの人間関係を考える
  ◎第一の可能性、「精神的な満足感」に基づく関係へ
  ◎「純粋な関係性」が持つ不安定さ
  ◎第二の可能性、「その場限りの欲求」に支配される
  ◎第三の可能性、「古きよき人間関係」に戻る
  ◎「伝統的な人間関係」から「新しい人間関係」へ

第3章 社会学でわかる「家族」
 ①「ALWAYS 三丁目の夕日」のヒットと現代家族
  ◎「家族」とは何か?
  ◎「すでにある家族」と「こらからつくられる家族」
 ②社会とともに変化する「子ども像」
  ◎「家族の個人化」とは?
  ◎「小さな大人」から「無垢で愛されるべき存在へ」
  ◎児童虐待は「増えている」のか?
 ③変化し続ける「恋愛観」と「結婚観」
  ◎「婚活」時代の到来?
  ◎「できちゃった結婚」が生れた背景
  ◎「婚活」と「できちゃった結婚」からわかること
  ◎世界各国の自由な結婚や恋愛の形
  ◎多様な恋愛や結婚の形が広がった後は
 ④「専業主婦」に未来はあるのか?
  ◎「近代家族」とは何か?
  ◎「女性は社会進出を果たした」?
  ◎「専業主婦」は近代によって生み出された
 ⑤「少子高齢化」と日本の行く末
  ◎少子化と晩婚化の密接な関係
  ◎高齢化社会と介護の現実
  ◎少子高齢化への特効薬はあるのか?
 ⑥「家族の個人化」=「わがまま」?
  ◎みんなが「わがまま」になっている?
  ◎家族を「支援要因」として考える

第4章 社会学でわかる「会社と仕事」
 ①〈普通〉に働くことが困難な時代
   「自己責任」か「社会の責任」か?
  ◎「派遣切り」は他人ごとか?
  ◎「正社員でいること」が難しい時代
  ◎自己責任論の問題点
    ニートは怠け者か?
  ◎「ニート」が増加した理由
  ◎「やりたいこと」にこだわってはダメなのか?
  ◎「やりたいこと」を求める現代社会
 ②日本型雇用システムは崩壊したのか?
  ◎日本型雇用システムとは何か?
  ◎なぜ日本型雇用システムが成立したのか?
  ◎社会学から見た終身雇用と年功賃金
  ◎徐々に変化してきた日本型雇用システム
  ◎日本の雇用システムが変化した理由
 ③「正社員が減る」と、社会はどうなるのか?
  ◎大きな経済格差
  ◎「豊かな社会」における貧困
  ◎セーフティネットの格差
  ◎ほんとうに正社員は勝ち組か?
  ◎標準モデルという前提の見直し
 ④新しい働き方へ
   絶望を希望に変えることは可能か?
  ◎従来の日本型雇用システムへ回帰すればよいのか?
  ◎社会保障の二つの立場
    ベーシックインカムとワークフェア
  ◎ベーシックインカムとは
    すべての人に「最低限度の生活」を
  ◎ワークシェアとワークライフ・バランス
  ◎働くことの「純粋な関係」へ

第5章 社会学でわかる「文化・流行」
 ◎「オーラの泉」の流行を社会学的に考える
 ①「文化」を社会学的に見る
  ◎文化とは何か?
  ◎「ちょっと斜めからの視点」で世界を眺める
 ②「流行」はどのように生れるのか?
  ◎流行を知れば、社会がわかる!?
  ◎流行の持つ「三つの特性」
  ◎人はなぜ流行に乗るのか?
  ◎「マイブーム」が表す現代社会
 ③スピリチュアリティの流行から何が見える?
  ◎「スピリチュアリティ・ブーム」って何?
  ◎なぜ「スピリチュアリティ」は流行したのか?
  ◎「神秘性」が人々を動かした?
  ◎「カウンセラー」という肩書の力
  ◎「スピリチュアル」でほんとうの自分を知る
 ④なぜ人は自殺するのか?
  ◎自殺大国ニッポン
  ◎現代社会における自殺の原因トップ3
  ◎精神疾患と自殺の深い関わり
  ◎女性より男性の自殺率が高い理由
  ◎自殺対策を社会学的に考える
  ◎文化・流行から見えてくる社会の新しいカタチ

おわりに
 ◎「見通しの悪い社会」で生きるために

※「第4章 社会学でわかる「会社と仕事」」後半ではベーシックインカムが紹介されています。
ワークシェアなどによって、働く時間を減らすことができ、かつ[ベーシックインカム等によって]基礎的な所得が保障されているのであれば、働き方の選択肢も広がることになるでしょう。賃金を得ることのできない、家事や育児に専念したり、地域活動に力を入れたりすることも可能になり、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の実現にもつながっていくものと考えられます。(218頁)
                   [ ]はHikizine挿入

※ベーシックインカムについては、『BUSINESS INSIDER JAPAN』HPに、



 映画『七つの会議』(WOWOWオンライン
      12/27(金)午後4:45~
      1/1(水・祝)よる8:50~

鹿島茂『エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層』 11月13日

鹿島茂さんの『エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層』(ベスト新書543、2017年)を読みました。
トッドの4つの家族類型(世界地図)img-191113151427-0003

鹿島茂『エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層』
序章 人類史のルール
 エマニュエル・トッドとは何者か
 トッド理論のあらましを知る ~4つの家族類型といでおろぎー~
 トッド理論で世界の謎が解ける ~人類史のルール~

第1章 トッドに未来予測を可能にする家族システムという概念
 ①絶対核家族 「イングランド・アメリカ型」
  トランプ政権誕生は民主主義の理にかなっている
  トランプ当選をもたらした「絶対核家族」
  金銭解決に傾きやすい親子関係
  『リア王』と『ハムレット』は財産をめぐる相続劇
  過剰なグローバリゼイションによる疲弊
  イギリスのEU離脱を促した隠された理由
 ②直系家族 「ドイツ・日本型」
  EUの覇者ドイツ
  イエの支配者としての父親の権威
  東日本大震災でモラルの高さが賞賛された日本
 ③平等主義核家族 「フランス・スペイン型」
  土地よりも家具が大事
  フランス人がおしゃれになった理由
 ④外婚性共同体核家族 「中国・ロシア型」
  大帝国が誕生する条件 ~権威ある父親と平等な兄弟~
  大帝国が崩壊する兆し ~ソ連崩壊と乳児死亡率が語る~
  家族類型とイデオロギーの相関関係

第2章 国家の行く末を決める「識字率」
 トッドの家族理論はこうしてつくられた
 古い様式はいつでも辺境に保存される
 「土地の所有」が家族のかたちを変える
 人の運命はあらかじめ決められているのか?
 歴史を動かす最大の要素「識字率」

第3章 世界史の謎
 ①秦の始皇帝が焚書坑儒を行ったのはなぜ?
 ②ヴァイキングがブリテン島とフランスを襲撃したのはなぜ?
 ③十字軍エルサレム奪還が行われたのはなぜ?
 ④英仏百年戦争が起きたのはなぜ?
 ⑤ルイ14世が中央集権国家を築くことができたのはなぜ?
 ⑥フランス革命が起きたのはなぜ?
 ⑦イギリスで産業革命が起きたのはなぜ?
 ⑧ヒットラーが誕生したのはなぜ?
 ⑨世界初の共産主義国ソ連が誕生したのはなぜ?
 ⑩イギリスが失速し、ドイツがナンバー1になったのはなぜ?
 ⑪第二次世界大戦後、ドイツと日本が復興できたのはなぜ?

第4章 日本史の謎
 ①平安時代に藤原一族が権勢を誇れたのはなぜ?
 ②織田信長が延暦寺を焼打ちしたのはなぜ?
 ③「いざ鎌倉」の精神はどこから?
 ④徳川幕府が250年間も安定したのはなぜ?
 ⑤幕末の動乱が西南の地方から始まったのはなぜ?
 ⑥ヒーロー坂本龍馬が誕生したのはなぜ?
 ⑦海援隊や新選組が誕生したのはなぜ?
 ⑧明治政府が天皇を頂点に置いたのはなぜ?
 ⑨二・二六事件が起こったのはなぜ?
 ⑩太平洋戦争を始めたのは誰か?
 ⑪どんな占領軍でもしなかったのに、マッカーサーだけが行ったのは?

第5章 21世紀 世界と日本の深層
 ①2033年、中国が崩壊する日
 ②ロシアの安定はプーチンが独裁者だから?
 ③EUにとっての移民問題とは?
 ④EUは二つに分けるべきなのか?
 ⑤アメリカ平等主義は見せかけか?
 ⑥アメリカの黒人差別は終わらないのか?
 ⑦アフリカが近代化するためのカギは?
 ⑧最も近代化が遅れるのはイスラム圏?
 ⑨フランスでイスラム系テロが頻発するのはなぜ?
 ⑩日本の核武装の可能性は?
 ⑪日本会議はなぜ誕生したのか?
 ⑫直系家族・日本の人口減少社会に未来はあるのか?

第6章 こらからの時代を生き抜く方法
 現代日本の新たな葛藤
 下流スパイラルはなぜ起こるのか?
 「学歴はもはや収入に結びつかない」に騙されるな!
 日本の唯一の問題は少子化である
 教育費は無料に、そして教育権を親から奪え!
 シングルマザー救済運動のすすめ
 2100年以後の世界 ~幼年期の終焉vs資源の枯渇~

あとがき
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 かつてはモルガン学説のように人類は昔は大家族だったものが時代が経つにつれて核家族に変わってきたと考えられていた。しかし近年ケンブリッジ大学のグループによる調査で、英国では12世紀までさかのぼっても核家族しか見られないことが判明し、人類の家族は最初から核家族だったと主張されるようになった。ところがトッドの調査によりドイツやロシアには昔は複合家族・大家族が存在していたことが分かり、トッドはケンブリッジ大のグループと袂を分かつことになる。
 このようにトッドの学問は家族形態に関するものなのであるが、そのスタートにあったのは別の疑問だった。つまり人類の人口の変遷である。人類は長らく多産多死型社会だったけれど、やがて少産少死型社会へと移行する。ふつうに考えれば、栄養が悪くて医学も未発達だった時代には多産多死型社会になるしかなく、栄養が良くなり医学も発達すれば少産少死型社会に移行するという図式が思い浮かぶ。ところが、実際は少死になってもしばらくは多産のままに社会は続くのだという。その時に人口の大幅な増加が起こるのであり、今でもアフリカはそのような状態にある。
 ではいつ(なぜ)少子化が始まるのか。トッドによれば、子供の数を左右しているのは女性の識字率である。女性の識字率が50%を超えると少子化が始まる。また、男性の識字率が50%を超えると革命や大変革など大きな社会的変動が起こるという。
 さらに、女性識字率を決めるのは、家族システムだという。
 そこで家族システムの話となる。従来は家族というと核家族か大家族かという区別しか考えられていなかったが、トッドはそこに遺産相続システムという要素を導入した。つまり兄弟の平等・不平等ということである。これによって家族は4つのタイプに分類される。
 1.絶対核家族(イングランド・アメリカ型)
 結婚した男子は親と同居せずに独立。相続は1人だけで、兄弟平等ではない。子は早く独立するから親子関係は権威主義的ではない。教育には不熱心(子供の早期独立を促すから)だが、女性の識字率は比較的高い(兄弟の不平等は姉弟・兄妹にとっては平等を生みやすい)。
 2.平等主義核家族(フランス・スペイン型)
 1と同じく子供は早くに独立するが、相続は兄弟間で平等である。親子関係は権威主義的ではない。教育には不熱心で、兄弟が平等である分、女性(姉妹)の地位は低い。
 3.直系家族(ドイツ・日本型)
 結婚した子供の一人(多くは長男)が親と同居するのが原則。親子関係は権威主義的。教育熱心で女性の識字率も高い。
 4.外婚制共同体家族(ロシア・中国型)
 男子は長男・次男を問わず結婚後も親と同居。したがってかなりの大家族となる。父親の権威は大きいが、財産は平等分与なので、父の死後息子たちは独立して家を構える。マルクス・レーニン主義による共産主義国家を生んだのはこの家族型である。教育には不熱心。女性の地位は低く、識字率も低い。
 以上の、例えば4を見れば分かるように、家族の形態は共産主義革命の成否ともつながっており、それだけ大きな、単なる家族類型にとどまらない影響力を持つ、というのがトッドと著者の主張である。また、「そんなこと言っても先進国は今は核家族が主流でしょ」という異議に対しては、こうした家族パターンは、組織を作るときにも影響を及ぼすとされる。つまり社会のあり方そのものを規定しているということである。(後略)
※村山晴彦さんの「エマニュエル・トッド氏の予言(その2)」(京都総合経済研究所『経済TOPICS』2017年1月号から)
 エマニュエル・トッド氏は、世界の家族構成は、大きくは四つの類型に分かれるとしている。親子関係が「権威主義的」か「非権威主義的」か、つまり「子どもが結婚後にも同居する」か「結婚後は別居する」か、ということと、(子である)兄弟関係が遺産相続において「平等」か「不平等」かである。「この二つの変数をX軸Y軸に配すると、一見似たものどうしに見える家族の違いが、すっきりと四つに分類される」という。
 親子関係が「権威主義的」で、(子である)兄弟関係が遺産相続において「平等」なのがロシア、中国、フィンランドなどの外婚制共同体家族である。男子は長男、次男の区別なく、結婚後も両親と同居する。このためかなりの大家族になる。父親の権威は強く、兄弟たちは結婚後もその権威に従う。ただし、父親の死後は、財産は完全に兄弟同士で平等に分割され、兄弟はそれぞれ独立した家を構える。トッド氏は、こうした父親の強い権威と兄弟間の平等がロシア・中国型の共産主義(スターリン型共産主義、一党独裁型資本主義)を生んだと考える。このような家族形態では、男の兄弟は平等でも、女性はそこから排除されるため地位は低く、多くの場合、女性の識字率は低い。教育への関心も低いという。なぜ(子である)兄弟が平等かというと、彼らはもともと遊牧民であったためだという。遊牧民は家畜を伴って草原を移動し、短期間の定着を繰り返すため、父親がリーダーとなり、兄弟が平等で協力することが合理的であった。戦争の際には大人数のため有利であった。遊牧民は土地を持たず、家畜や移動用のテント、家財、武具などが財産のため、分割は容易である。そうであるなら、このような家族形態の中国やロシアが民主主義的な国になる可能性は低いことになる。
 同じように親子関係が「権威主義的」でも、(子である)兄弟関係が遺産相続において「不平等」なのが日本、韓国、北朝鮮や、ドイツ、オーストリア、スイス、ベルギーなどの直系家族である。親の権威は永続的で、親子関係は権威主義的、兄弟は不平等で、財産はその中の一人(多くは長男)に相続される。次男以下と女子は相続に与れないか、財産分与を受けて家を出る。長男の嫁は、未婚の兄弟姉妹に対して権威を持つことが求められるため、結婚年齢が高く、長男とあまり年の差がない女性が選ばれる。なぜ、(子である)兄弟が不平等になるかというと、農耕とそのための土地所有が関係していた。ドイツの例で言うと、ドイツの中南部の地方は山間で、平地が少なく、農地が限られていた。そこで農業を始め二代、三代と続くと農地の分割相続が難しくなる。このため、1000 年頃には一子相続という方法がはじまったという。
 直系家族は教育熱心で、代々施される知育、教育は主として長男の嫁をキーパーソンとして、家庭内に蓄積されてきた。鹿島教授の言葉を借りれば「ドイツが、二度の世界大戦で敗者となり、また、再統一という試練があったにもかかわらず、さして間を置かずにヨーロッパの覇者となりえたのは、直系家族が大切にしてきた教育熱心さ、知識への信頼」にあったという。
 親子関係が「非権威主義的」な形態でも、(子である)兄弟関係が遺産相続において「平等」か「不平等」か、で2つに分かれる。前者が平等主義核家族、後者が絶対核家族である。
 平等主義核家族においては、子どもは早くから独立傾向を示し、結婚後に親と同居することはまずない。親の権威は永続的でないため、識字率は低く、教育への関心も低い。遺産は兄弟間で完全に平等に分けられる。フランスのパリ盆地一体、スペイン中部、ポルトガル南西部、イタリア南部、中南米などがこの家族形態で、ルイ 16 世王政に反対したフランス革命は、平等主義核家族のパリ盆地の民衆が起こした。「人間は生まれながらにして自由かつ法の前で平等である」との人権宣言はこのような家族形態がフランスにあったから実現した。フランスのパリ盆地は肥沃で平坦な地域だが、広大な耕地は領主貴族や大ブルジョワが保有し、農民は小作料を払って土地を借りていた。このため財産としての土地を子に受け継がせることができなかった。そこで農具、工具、家畜、食器、家具、衣服などが遺産として平等に分割された。これらの動産を平等に分割するためのオークションも古くからあったという。フランス人がおしゃれなのも、衣服や靴、帽子などが換金性の高い商品であったことと無縁でないというから面白い。
 親子関係が「非権威主義的」で、(子である)兄弟関係が「不平等」なのが絶対核家族で、イングランド、アメリカ、オランダ、デンマーク、オーストラリアなどがこの形態だという。結婚した男子は親とは同居せず、別の核家族をつくる。このため、親の権威は永続的でない。親の財産は兄弟の中の誰かに相続されるが、遺産などで明確にされないときには相続をめぐってしばしば争いが起きる。不平等が前提のため、競争意識が強く、それが資本主義、自由主義を生み出すエネルギーになった。子供の早期独立が推奨されるため、教育には熱心でなく、識字率も低い。イギリスが生んだ偉大な劇作家・シェイクスピアの「リア王」「ハムレット」「リチャード三世」などが財産相続をめぐる親子、兄弟間の争いをテーマにしているのも絶対核家族ゆえだという。イギリスで産業革命が起き、最初の資本主義国家になったのも、農地を持たない国民が簡単に農村を離れて工場労働者として賃金を得ることに抵抗感がなかったためだという。
 なお、この点は全ての家族形態に言えることであるが、たとえば地方に行けば直系家族が中心かもしれないが、東京に住む核家族の家庭では日本古来の直系家族の原理は働いてはいないのではないかというと、そうではないという。なぜなら、政府、官僚組織、政党、会社、學校、宗教団体、町内会、部活といったあらゆる集団が古くからある価値を保っているからだという。家では核家族でも、一歩外に出れば日本やドイツなどの場合には直系家族を前提にした仕組みや考え方に、ロシアや中国などでは外婚制共同体家族が前提の仕組みや考え方になっているという。
 このような分類を基準にすると、世界で起きている最近の出来事の多くも説明できるという。
 たとえば、アメリカでアングロサクソン系の白人労働者が中南米からの移民と対立し、トランプ大統領が当選したのも説明が可能だという。絶対核家族は教育に対して熱心でなく、低学歴、低収入になる傾向が強い。メキシコなどからアメリカにきた移民の多くはヒスパニックと呼ばれる人たちで、スペイン、ポルトガルの流れをくむ平等主義核家族である。彼らもまた教育に熱心でなく、低学歴、低収入になる傾向が強い。このため、労働市場で両者が完全に衝突してしまった。鹿島教授の言葉を借りれば「絶対核家族に内在する教育不熱心という要因がプア・ホワイトの社会的上昇を妨げ、更なる貧困の連鎖を生んでいるということがトランプ当選の真の理由」だという。
 イギリスのEU離脱も似たような話である。イギリスの白人労働者階級も教育に熱心でなく、移民との競合が起きてしまった。加えてEUは、経済的にも政治的にもドイツに握られている。ドイツは直系家族のためEU議会の運営も直系家族型にならざるを得ない。それは自由を大事にしてきた絶対核家族のイギリスには我慢がならないのだという。
 日本がかつてアメリカとの戦争に突き進んだのも、最近話題となっている「忖度」(そんたく)も直系家族と関係があるという。直系家族は父親に権威があることになっているが、実際には主体的な判断はほとんど行わず、皆が権威者である父親の意をくんで(忖度して)、それぞれがその意を実現する方向に向かって一斉に行動する。日本が太平洋戦争に突き進んだのも、大企業でさまざまな問題が相次いでいるのも、「最終的な意思決定者の不在」「意思決定機関の不能」にあり、「直系家族的組織の欠陥」であるという。
 エマニュエル・トッド氏が説く4つの家族形態にはそれぞれにメリットとデメリットがある。大切なことは、それぞれのメリットとデメリットを正しく理解したうえで、当面するさまざまな課題を考え、解決する際の「考えるツール」として上手く利用していくことではないだろうか。鹿島教授の著書「エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層」は、膨大なトッド氏の研究成果をわかりやすくまとめた好著である。
鹿島茂さんの個人事務所である鹿島茂事務所(株式会社ノエマ)は2017年7月5日、書評アーカイブWEBサイト「ALL REVIEWS(オールレビューズ)(https://allreviews.jp/)」をオープン。

土屋信行『首都水没』 10月31日

土屋信行さんの『首都水没』(文春新書、2014年)を読みました。

土屋信行『首都水没』目次
まえがき 世界一危ない首都東京

第1章 山の手にも洪水は起こる
 武蔵野台地とゲリラ豪雨洪水
 神戸市利賀川水難事故
 豊島下水道水難事故
 ゲリラ豪雨に弱い武蔵野台地
 ゲリラ豪雨を降らせる「かなとこ雲」
 ゲリラ豪雨を捕まえよう!
 狩野川台風が教える首都東京の水害!

第2章 東京は世界一危ない場所にある
 東京は世界一の災害危険都市
 都市開発が招いた歪み
 災害・防災アセスメントが必要
 東京の発展が災害を増大させる
 江戸・東京で繰り返す大災害
 必ず来る首都東京の大水害

第3章 地球温暖化で首都は壊滅する!
 気候変動の恐ろしい未来
 頻発する大規模水害
 東京の大規模水害予測
 地下鉄洪水の被害予測
 地下トンネルが広げる洪水
 歩道にある変圧トランス
 海面上昇で首都水没
 東京を壊滅させる高潮の恐怖
 人命と都市機能を奪う東京リアス式地形
 海面水温上昇が生む超大型台風
 日本近海でも成長する台風
 日本を必ず襲う台風と洪水
 日本周辺で大型化した平成17年台風14号
 温暖化対策が遅い日本(国際的な温暖化に対する無策の日本)

第4章 利根川の東遷事業が東京を危険都市にした
 いちばん洪水の集まるところに築いた江戸
 利根川の東遷事業
 荒川の西遷事業
 増大した洪水の危険性
 なぜ危険なところに江戸を造ったか?
 防災組織だった村祭り

第5章 雨が降らなくても洪水になる「地震洪水」
 ゼロメートル地帯の出現!
 地下水の汲み上げで地盤沈下
 非常にもろいカミソリ堤防
 崩れない堤防は富士山型
 水が浸み出してくる!
 江戸時代の排水路「下水堀」
 地盤沈下を止めろ!
 無かった浦和水脈
 365日危険な地震洪水
 地震があったら地下鉄から逃げろ?
 スーパー堤防は「命山」
 オランダにある日本型堤防
 地下水は汲み放題の宝の山

第6章 なぜ東京は世界一危ないのか?
 日本は火山と地震の国
 滝のような急流河川
 天井川が洪水になると危険
 自然がつくった洪積層と人がつくる沖積層
 気象を決める日本の地形
 北緯36度から38度で最大の雪量
 雨を降らせる4気団
 日本を特徴づける四季
 雨がつくった日本文化

第7章 東京の三大水害に学ぶ
     明治43年の「東京大水害」
     大正6年の「大海嘯」[かいしょう]
     昭和22年の「カスリーン台風」
 明治43年の「東京大水害」
 「荒川放水路」開削と都心を守るお囲い堤防
 「荒川放水路」の開削工事
 土木工事を発展させた青山士
 洪水と共に暮らす知恵
 荒川放水路開削に「11歳の殉職者」
 洪水の脅威と恵み
 洪水を制御していた「中条堤」
 大切な流域全体の治水
 国民の命を棄てた事業仕分け
 東京にある遊水地と論所提
 大正6年の「大海嘯(大津波)」
 東京府南葛飾郡の葛西尋常高等小学校の体験記録
 「東京日日新聞」「大阪朝日新聞」「報知新聞」
 東京府知事井上友一の救助活動
 葛西村「仲割」の記録
 「棺箱! 送って頂きたい!」
 消えた「行徳の火」
 「新川梨」
 三匹の獅子舞
 昭和22年の「カスリーン台風」
 栗橋「堤防決壊」
 東京を守る「桜堤」決壊
 洪水でも切らなかった「新川提」
 洪水は流域で守るもの
 暗闇の避難訓練
 洪水の「江戸川」を渡って避難

第8章 洪水は流域一帯で起こっている!
 ばらばらだった避難勧告と避難指示
 洪水は自治体の範囲を超えて起こるもの
 誰も避難しない避難勧告、避難指示
 XRAINを活用した事前避難
 避難の判断がばらばらでいいのか?
 洪水対策は流域で取り組むべきもの
 アメリカの危機管理体制
 日本に必要な統合防災機関

第9章 強靭な日本を創るために
 予測できていた東日本大震災
 「女川原発」はなぜ無事だったのか?
 被害のなかった「神社仏閣」
 水害対策と地震対策は別
 洪水対策は国家の安全保障!
 東日本大震災に学び、強靭な日本を

あとがき 美しい日本、安全な首都へ(災害を文化にする)

参考文献


河田惠昭『日本水没』 10月29日

●河田惠昭[よしあき]さんの『日本水没』(朝日新書、2016年)を読みました。

河田惠昭『日本水没』目次
まえがき

第1章 水害や水没の多発・激化は地球温暖化が元凶
 鬼怒川水害は、どこでも起こりうるのか?
 大雨が降るメカニズム
 台風の強大化と増加する雨量
 地球温暖化で変化する気象、海象
 沿岸域の影響――海面上昇や海岸侵食――
 想定外洪水対策が必要な時代に突入
 海抜ゼロメートル地帯の浸水、水没
 地下街の水没

第2章 世界の大都市の水没危険性
 水没する都市の特徴
 米国・ニューヨークの水没
 チェコ・プラハの水没
 タイ・バンコク郊外の水没
 イタリア・ベニスの水没

第3章 東京の水没危険性
 東京は「世界一水害に弱い」都市?
 2015年9月の関東・東北豪雨、東京は氾濫・水没を危うく逃れた?
 利根川の洪水氾濫
 荒川の洪水氾濫
 東京湾の高潮/津波の氾濫
 浸水・水没災害の被害想定

第4章 広域・集中・ゲリラ豪雨による水害の違い
 広域に激しく降る雨(広域豪雨)と2004年豊岡水害
 2004年台風23号による円山川の氾濫災害
 特定の地域に激しく降る雨(集中豪雨)
 2000年東海豪雨水害
 スポット的に降る激しい雨(ゲリラ豪雨)
 2008年神戸・都賀川水難事故

第5章 新たな高潮災害と教訓
 忘れてはいけない1959年伊勢湾台風高潮災害の悲劇
 事故と災害が織り成す米国の歴史
 2001年9.11ニューヨークテロ事件
 2005年ハリケーン・カトリーナ高潮災害の教訓
 2012年ハリケーン・サンディ高潮災害の教訓

第6章 新たな津波災害と教訓
 地震の揺れの被害が津波に先行する
 津波来襲
 被害の特徴
 津波による被害
 間接被害
 高知市などの津波被害

第7章 複合災害となる首都圏直下地震と首都水没
 江戸幕府を疲弊させた安政の複合災害
 複合災害の発生が憂慮された1955年阪神・淡路大震災
 首都直下地震は近いうちに起こるのか
 津波は発生するのか?
 津波による未曾有の人的被害の再考
 複合災害で拡大する社会的・経済的被害
 被害は頭蓋骨骨折から脳梗塞へ変化
 複合災害の人的被害を左右する広域避難
 致命的となる低い避難率

第8章 縮災そして防災省の創設
    ~2016年熊本地震で確認できたこと~
 二極化しつつある自然災害
 中規模災害になりえた鬼怒川の氾濫災害
 自然災害は社会現象
 知識・情報・知恵が被害を小さくしてくれる
 災害に楽観主義は禁物
 なぜ防災から減災、そして縮災に変わったのか
 レジリエンスとは
 国難による「日本水没」
 防災省を創設して「国難」を迎撃する
 2016年熊本地震で確認できたこと

あとがき

山岡寛人『土のふしぎな力を育てよう』 10月25日

地球環境子ども探検隊6『土のふしぎな力を育てよう』(フレーベル館、1998年)を読みました。

山岡寛人『土のふしぎな力を育てよう』目次
はじめに 人は土のふしぎな力を知っていた
  人と土との長いつきあい
  土の性質とふしぎな力

1 土ってなんだろう
 やってみよう 土は何からできている?
  土は小さな粒の集まり
   土をふるってみよう
   土を水に溶いてみよう
 行ってみよう 崖へ行って地層を観察しよう
  あなを掘ってみよう
  崖を見に行こう
 観察 あなを掘って観察してみよう
 やってみよう 黒土はミミズが作った
  腐葉土って何だろう
  ミミズの生活
  黒土はミミズが作った
   腐葉土を燃やしてみよう
   ミミズの糞を探そう
   ミミズを解剖してみよう
 コラム 落ち葉で堆肥を作ろう
 やってみよう 黒土は燃える?
  黒土の下に赤土がある
  赤土から黒土へ
   黒土は燃えるだろうか?
 観察 土壌動物を採集しよう
  手順と観察
  発展
   ツルグレン装置の作り方
 調べてみよう 黒土を作るもうひとつの主役
  「パイ」のような落ち葉
  落ち葉とカビやキノコ
  倒木や切り株も黒土になる
   キノコが生えた倒木や切り株を調べてみよう
   バクテリアのはたらきを調べよう
 やってみよう 赤土はどうやってできたか
  火山の爆発と火山灰
  火山灰が赤土になる
  火山灰と溶岩は兄弟
   赤土から鉱物の結晶を取り出そう
 行ってみよう 山では岩から土ができる
  山ができるまで
  山は岩でできている
  山に土ができる
   花こう岩を粉々にしてみよう

2 土のもつ力を調べてみよう
 やってみよう 水はけのよい土、水はけの悪い土
  粒と粒のすき間と水はけ
  土の水もち
   いろいろな土の水はけを調べよう
    実験のための装置を作ろう
   土の毛管力と水もちのよさを調べてみよう
     実験1:土の毛管力を確かめる
     実験2:土の水もちのよさを調べる
   ねった土を乾かしてみよう
 やってみよう 肥えた土ってどんな土?
  植物と肥料
  肥料として重要な原子
   いろいろな土でハツカダイコンを育ててみよう
 調べてみよう 植物は電気を帯びた原子を吸収する
  根は原子をイオンの形で吸収する 陽イオン、陰イオン
  粘土の粒も電気を帯びている
  作物は酸性の土に弱い
   結晶粘土鉱物が電気を帯びていることを確かめよう
   土の酸性度を調べよう

3 土がくらしを支えている
 行ってみよう 畑の土にさわってみよう
  畑はどこにある?
   畑を見学に行こう
 コラム 明治時代の1年間の農作業
 考えてみよう 畑を耕すのはなぜ?
  ふかふかした土
  団粒構造とは
  団粒構造を育てる
 コラム はだしでイモ掘りに挑戦しよう
 作ってみよう 有機肥料をみなおそう
  化学肥料を大量に使う現代の農業
  どんな問題があるのか?
  昔は肥料をどうしていたのだろうか?
  堆肥や厩肥の効果
  江戸の都市と農村のリサイクル
   有機肥料でダイコンを育ててみよう
 コラム 郷土史で人間の糞尿の売買を調べてみよう
 考えてみよう 作物の作り方と土との関係は?
  野菜の単作・連作が増えている
  単作・連作で野菜の病気が増える
  かつておこなわれていた輪作
 コラム ヨーロッパで発達した輪作
 コラム 焼畑農業と輪作
 行ってみよう 畑で土壌侵食がおきている
  肥えた土が失われる
  日本でも土壌侵食が大きな問題に
  土壌侵食と防風林
   収穫が終わったあとの畑を観察しよう
   雨あがりの小川や畑を観察しよう
 行ってみよう 単作・連作がおこなわれる水田
  水田はどこにあるのか?
  水田はいつも水をはっているの?
  水田の土の特徴
   水田の褐色の土を青色の土(グライ)に変えてみよう
 コラム 水田の水はどこから引くのか?
  低地の水田の場合
  大きな川の近くの水田
  棚田の場合
  谷津田の場合

おわりに
 すすむ砂漠化
  砂漠とは、どんなところ?
  砂漠が広がっている
  世界の砂漠化に日本も関係している
  都市も「砂漠化」している
  畑や水田を見なおそう


山岡寛人『森や原っぱで環境を考えよう』 10月23日

地球環境子ども探検隊2『森や原っぱで環境を考えよう』(フレーベル館、1997年)を読みました。

山岡寛人『森や原っぱで環境を考えよう』目次
はじめに 日本は森林の国
  木と草
  日本の気候と森林の関係
  地図 地球上の森林の分布
  地図 日本の植生の分布

1 原っぱへ出かけてみよう
  身近な原っぱ
  人工的な植物の世界
 調べてみよう 草原はどこにあるの
  ごくわずかな自然の草原
  木が育たないきびしい環境
  砂丘に草原ができる
  水辺にも草原ができる
  自然の草原はもろい自然
  山の草地は人間が管理
 やってみよう 原っぱで寝ころがってみよう
  原っぱで寝転がってみよう
   1 見あげると何が見える?
   2 どんなにおい
   3 小動物を探してみよう
   4 服に何がついた?
 コラム 原っぱの草で遊んでみよう
  1 草相撲で遊ぼう
  2 茎で何か作ってみよう
  3 「ひっつき虫」で遊ぼう
  4 音を楽しもう
  5 風車を作ってみよう
  6 そりで遊ぼう
 行ってみよう タンポポを探してみよう
  タンポポはどんな花?
  タンポポの茎はどこにある?
  いろいろな草の茎 生育形
   1 まっすぐで長い茎 直立形
   2 なんども枝分かれする茎 分枝形
   3 地面すれすれの短い茎 ロゼット形
   4 葉のもとで包まれた茎 叢生形
   5 地面をはいまわる茎 ほふく形
   6 つるになる茎 つる形
  植物にも競争がある つる形>直立形>分枝形、叢生形>ロゼット形
  タンポポの生える場所
  タンポポが生えている環境
  帰化植物が生活する土地
 コラム 草の体 根、茎、葉
     帰化植物と在来植物
 作ってみよう タンポポ地図を作ってみよう
  セイヨウタンポポと日本タンポポ
  タンポポ地図を作ってみよう
 コラム タンポポの開花前線
 調べてみよう 原っぱの植物の世界は移り変わる
  原っぱの草の種子
  種子の数をかんがえてみよう
  種子は芽をだすの?
  空き地で種子を探そう
  移り変わる原っぱの草の世界 一年草、越年草、多年草
 考えてみよう 原っぱから環境を考える
  明るい緑の自然が大好き
  森を出たサル
  草の緑を維持するには

2 身近な森や林を探検しよう
  人が森は林を切り開いた
  森や林が残ったところ
  鎮守の森
 調べてみよう 鎮守の森を訪ねてみよう
  鎮守の森のつくり
   鎮守の森の気温を調べてみよう
    気温の測定
    まとめ
    温度計の工夫
   鎮守の森の明るさを調べてみよう
    明るさの測定
    まとめ
 やってみよう 鎮守の森は動物の隠れ家
  小動物を探してみよう
   お堂の縁の下の小さなすり鉢
   庭木の根元の袋
   お堂に張られた大きなクモの巣
  アニマル・トレッキングに挑戦しよう!
   かじられたドングリの殻
   ずばっと切られたジャノヒゲ
   甲虫の羽のかたまり
    この抜け殻はどんなセミになるの?
 行ってみよう 雑木林の四季を見てみよう
  春先の雑木林
  夏の雑木林と樹液
  秋の雑木林
   糖蜜で昆虫を採集しよう
    糖蜜の作り方
    昆虫の採集
   落ち葉の布団に座り、まわりの音を聞いてみよう
  冬の雑木林と落ち葉の布団
   1 落ち葉がつながっている
   2 落ち葉のスポンジ
   3 土壌動物の世界
 コラム ドングリでミニ雑木林を育ててみよう
 行ってみよう 雑木林の木は自然に生えたの?
  きれいに並んだ木
  再生可能なエネルギー資源
  雑木林の維持
  
3 森のはたらきを知ろう
  植林された山の林
  スギ・ヒノキ林の手入れ
   枝打ち
   つる切り
   間伐
  放置されるスギ・ヒノキ林
  豊かな自然が残るブナ林
  減少するブナ林
  大型野生動物と人間とのトラブル
 観察 手入れされたスギ林を観察しよう
  1 植林された証拠を探そう
  2 枝打ちのあとを探そう
  3 つる切りのあとを探そう
  4 間伐のあとを探そう
 調べてみよう 森林は生きたダム
  雨の日の森
  森はダムになる
   枝葉がとらえる雨の量を調べよう
   幹を流れる雨水の量を調べよう
   腐植が含んでいる水の量を調べてみよう

おわりに 森のネットワークをつくろう
 森のさまざまなはたらき
 森の価値をみなおそう
 自然の権利
 分断された森林
 森のネットワークを作ろう

太田猛彦『水と土をはぐくむ森』 10月22日

市民の森保全クラブ、岩殿満喫クラブの活動エリア(市民の森・入山谷津)は九十九川[つくもがわ]の源流域にあります。入山沼無名沼イ号から流れ出した水が九十九川、越辺川、入間川、荒川となって東京湾にいたります。
太田猛彦さんの『水と土をはぐくむ森』(文研出版、1996年)を読みました。松井光瑤[みつま]さん編『森からみる地球の未来』シリーズ(全6巻)の第4巻です。
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太田猛彦『水と土をはぐくむ森』目次
森の土の仕組み
 縁の下の力もち?
 森の土の表面の住民たち
 森の土の4つの層
森の土の豊かな生態系をつくる
 森の植物連鎖は、森の土があってこそ
 底辺がせまいピラミッドは、背も低くなる
 栄養豊かな森の土は
 有機物とねん土や砂とのミックス
 いちばん豊かな土をもつ森は温帯林
 豊かな農地は森のめぐみ
 人のくらしのために森は減っていく
降った雨のゆくえは土の表面しだい
 森は天然のかさ
 土の表面の穴がつぶされると、水たまりになる
 地表流が、豊かな土を流してしまう
 地表流の威力
 道路わきの土を流し出さないために
 地表流を防ぐのは、落ち葉と草
森と川の切っても切れない関係
 土にしみこんだ水は地下水になる
 おいしい水は森がつくる
 わたしたちのくらしにうるおいをあたえてくれる森
 北海道襟裳岬の植林
 300haの植林で水あげ高は17倍
洪水と緑のダム
 川の水の増加は時間差こうげき
 おそろしい洪水
 洪水が起こる仕組み
 森は川の水が増えるのをおくらせる
 森の土は少しずつ水を流し出す
 日本は川の水の量が一定していない
 森とダムがそろってこそ、水をむだなく使える
森も水を使う
 森が受け止めた雨がそのまま蒸発する「遮断蒸発」
 土の中の水を吸い上げて蒸発させる「蒸散」
 森がないと気温を上がる
 都会の中の森は「クールアイランド」
 森は水を使う
 水をあまり使わない森をつくるには
自然災害に立ち向かう森
 日本は世界中で最も大地の動きがはげしいところ
 日本は台風の通り道
 山くずれは2通り
 森は土がくずれるのを防ぐ
 山くずれを防ぐ工事
 災害を防ぐ力が期待されている「保安林」
水は世界をめぐり、森は気候を安定させる
 命の水はほんのわずか
 地球上の水は循環する
 森がない大陸は、おく地に雨が降らない
 森は「海」
 森の土を大切にしよう

森林多面的機能の公益的評価
   季刊『森林総研』№30(2015年9月)特集・森林と水循環 
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辻信一『弱虫でいいんだよ』 10月19日

辻信一『弱虫でいいんだよ』(ちくまプリマー新書2015年)を読みました。負けるが勝ち!?「進化」「進歩」「競争」を超えた新しい道を探る/“弱さ”と“愛”の人類学(帯から)


辻信一『弱虫でいいんだよ』目次
はじめに
第1章 「弱さ」とは何か?
  生きものにとっての「強さ」とは
   弱肉強食?
   ナマケモノとの出会い
  「弱肉強食」を超えて
   ナマケモノの低エネ生活
   ライオンとシマウマはどっちが強い?
   生き残ったものが強い!?
   自然から学ぶ
  オンリーワンの場所
   ナマケモノになろう
   棲み分けて共存
   世界に一つだけの花
第2章 動物たちに学ぶ
  ナマケモノから学ぶこと
   肝心なことは目にみえない
   「ナマケモノになる」ということ
   ナマケモノの弱さに寄り添う
   ナマケモノのメッセージ
  この世界はだれのもの?
   ナマケモノとシャーマンが来てくれた
   人間だけが人間とは限らない
  人間の方が「上」なのか?
   「動物人間」たちとのつき合い方
   ビーバーになる
   人はかつて樹だった
第3章 野生との和解に向けて
  「人間が上」が当たりまえか
   注文の多い料理店
   きさまらのしたことはもっともだ
   何がほしくておれを殺すんだ
   非対称性の住人
  自然界へと通じる道
   あらゆるものの共有地
   二元論を超えて
   山猫からの葉書を受けとるには
第4章 「弱さ」が輝き始めるとき
  自然は人間に何を求めているのか?
   野生へと通じる小道
   文明vs自然という二元論
   世界は耳を澄ましている
   牛は神さま
   ニワトリへの暴力と人間同士の暴力
  「民主主義」を定義し直す
   自然と女性
   「ほんとに魚はかわいそう」
   「みんなちがって、みんないい」
   アース・デモクラシー(地球民主主義)
  「進化」を定義し直す
   ゴリラのイシュマエル
   そして最後に人間が登場した
   扇形の生命史
  生物に優劣はつけられない
   どれも甲乙つけがたい
   物と心の二元論
   生きものの知性
   みんな巧に生きている
  勝ち負けなし!
   ゴリラにとって弱さとは?
   勝ち負けのない社会への進化
   分かち合いと弱さ
   人間がサル化している!?
第5章 弱虫でいいんだよ
  人は愛なしには生きられない
   生物としての人間
   「遅さ」という「弱さ」からの出発
   弱さを引き受ける
   生きることは愛すること
  ちょうどいい小ささ・ちょうどいい遅さ
   「進歩」という思考方法
   進歩の罠
   スモール・イズ・ビューティフル
   スロー・イズ・ビューティフル
  競争を超えて
   競争原理
   ブータンからの問いかけ
   競争という“常識”を疑う
   競争の“土俵”を降りる
   祈りの装置
  「フェア」な世界へ!
   「フェア」が人間をつなぐ
   「フェア」の可能性
   声なき声に耳を澄ます
   「弱さ」のジャングル
おわりに

市民の森保全クラブ親睦会実施 10月18日 

市民の森保全クラブ2019年度最初の親睦会を魚民東松山駅前店で実施しました。参加者は芦田さん、新井さん、太田さん、金子さん、澤田さん、鷲巣さん、渡部さん、Hikizineの8名。森づくり、ボランティア活動、台風19号の被災状況、支援活動など諸々の情報交換、意見交換ができました。
定例・追加活動日は10月25日(金)、27日(日)、11月1日(金)、8日(金)、15日(金)、22日(金)、24日(日)、29日(金)、12月13日(金)、2020年1月10日(金)。
「落葉掃き&焼き芋」イベントは①12月15日(日)、②22日(日)、③2020年1月12日(日)。①と②はコナラ林、③はアカマツ林で実施(小学生以上1人500円、幼児無料)。「シイタケ駒打ち体験」イベントは1月26日(日)と3月に実施(1本500円)を予定しています。

池田清彦『他人と深く関わらずに生きるには』(新潮文庫、2006年)
はじめに
Ⅰ 他人と深く関わらずに生きたい
   濃厚なつき合いはなるべくしない
   女(男)とどうつき合うか
   車もこないのに赤信号で待っている人はバカである
   病院にはなるべく行かない
   心を込めないで働く
   ボランティアはしない方がカッコいい
   他人を当てにしないで生きる
   おせっかいはなるべく焼かない
   退屈こそ人生最大の楽しみである
   自力で生きて野垂れ死のう
Ⅱ 他人と深く関わらずに生きるためのシステム
   究極の不況対策
   国家は道具である
   構造改革とは何か
   文部科学省は必要ない
   働きたい人には職を
   原則平等と結果平等
   自己決定と情報公開
   個人情報の保護と差別
文庫版あとがき

田中優『幸せを届けるボランティア 不幸を招くボランティア』 10月7日

河出書房新社から2010年に出版。14歳の世渡り術シリーズの1冊。そのまま大人になるつもり? 未来が見えない今だから、「考える力」を鍛えたい。行く手をてらす書き下ろしシリーズ。2017年に文庫化。「おわりに 扉を開ける」が第5章に入り、第6章 必要性増す「災害ボランティア」文庫版あとがきが加筆される。
  仕組みを知らないと、その「善意」がムダになる!(旧版帯から)
  仕組みが正しくないと、「いいこと」してもムダになる(文庫版帯から)

田中優『幸せを届けるボランティア 不幸を招くボランティア』(2010年3月)目次
序章 やさしさの届け方
 さりげないボランティア
 目立ちたがりのボランティア
 幸せと不幸の境界線
 好きなことが仕事になるまで
 ぼくがしている活動
  ・環境NGO
  ・NPOバンク
  ・日本国際ボランティアセンター
  ・天然住宅
  ・コモンズの森
 苦しくつらいもの? 楽しいもの?

第1章 それって「ボランティア」?
 空き缶拾いは何のため?
「環境問題の解決として」って言われるんだけど、ごみを拾うことが本当に環境問題の改善につながるのかという点だ。今、問題になっているのは、人類がこの地球上に行き続けられるかどうかだ。たとえば地球温暖化で、人類が滅びてしまうのではないかと心配しているのだ。自分の家のまわりにごみが散らかっているかどうかの問題じゃない。つまり「環境」には二つの意味がある。「身のまわり、周囲のこと」と、「地球環境問題のような大きな環境」のこと。これは必ずしも一致しない。……(29頁)
 クリーンアップの意味
 空き缶にはデポジット
 「空き缶はくずかごへ」?
 図書館司書のボランティアとは
 生活できない人を増やす仕組み
 ボランティアスタッフってタダ働きのことなの?
 「スタッフ募集」の問題点
 「タダでもやろう」という心意気
 詐偽まがいの街頭募金
 募金はボランタリーに

第2章 さまざまな「入り口」
 好き好んで自発的に
 ボランティアは不幸の言葉?
 楽しむにはコツがある
 仕事にすることもできる
 特別なことは考えない
 最初は「ほめられたい」でもいい
 自分がいてもいい場
 「自分のための」ボランティア
 「相手のための」ボランティア
 役割がないと生きていけない
 「いい子」を捨てる
 国際機関の支援とNGO活動との違い
 「キャリア」UPの道具
 ボランティア至上主義はあり?
 今いる場所からの一歩
 生活の「百姓」
 ボランティアをしない自由もある
 さりげなさも大切
 対手への配慮と「ありがた迷惑」
 日本人は「努力・忍耐」好き
 楽しむボランティアに

第3章 ボランティアの「経験値」
 里親になって感じた疑問
 善意が生み出す不公平
 ワンダラー小僧の住む社会
 相手の状態を思いやる
 「忘れない」文化
 「もらう方が威張る」文化
 相手の文化に暮らすこと
 どこまで深く理解できるか
 生死の境での選択
 難民キャンプの逆格差
 対手を背景ごと受け止める
 災害対策ボランティア
 依存しない、させない

第4章 私たちにできること
 たかが子どもに何ができる?
 「子ども」であることを活かす
 学校を捨て、外に出よう
 本当の原因を調べる
 「無力」ではなく「微力」
 訴える主体は未来のある子ども
 子孫を苦しめる大人たち
 「残す」ことの価値
 仲間と一緒に活動する
 自らの足元でやれることを
 みんなの才能を結集する
 小さな力で社会をつくる
 寄付するのだってボランティア
 事業を興して収入にする
 おカネ以外の「寄付」
 「施設」と「資格」とは関係ない

第5章 世界と未来へつなげる
 問題の根本を見つめて
 身近でないことにも目を向ける
 戦争は「心の問題」なんだろうか?
 カネ儲けとしての戦争
 問題を広げて考えれば複数の解決ができる
 国際的な税「グローバルタックス」
 仕組みで解決を
ぼくは問題を解決しようと考えるとき、いつも仕組みから解決しようとする。「心」や「心がけ」という個人的であいまいなものではなく、人々がボランティア活動をした方が得するようにしたいからだ。たとえばデポジット制度が導入されたら、空き缶は拾った方が得になる。だから誰も捨てなくなる。先に見たグローバルタックスも、良いことをした方が企業としても利益につながる。その仕組み作りが重要だと思うのだ。(154頁)
 持続する活動のために
 勤めてからこそボランティア活動を
 キャパシティ(能力・容量)の問題
 ボランタリーな精神
 アウトプットをしよう
 人それぞれの楽しみ方で

おわりに 扉をあける

巻末付録 取り組みやすい活動ガイド
 テーマ1 食
 テーマ2 集めて寄付
 テーマ3 おカネの使い方
 テーマ4 社会福祉
 テーマ5 教育
 テーマ6 自然・環境
 テーマ7 国際協力
 活動に参加するときに、気を付けてほしいこと

文庫版あとがき
社会は与えられるものではない。自分たちで作り出すものだ。その主体性は観客席にいては得られない。ボランティアは特別なことではなく、そもそもの意味である「自発的な生き方」に戻して考えるのがいい。自発的に始めることが「ボランティア」なのだから、観客席を蹴って自発的に参加することが第一歩だ。(161頁)


林と森 9月26日

樹林地という言葉があって、『東松山市みどりの基本計画』(2014年3月策定)巻末の用語解説では、「当該土地の大部分について樹木が生育している一団の土地で、樹林には竹林も含みます。」(77頁)とあります。『川越市環境行動計画「かわごえアジェンダ21」』(2008年3月策定)では、樹林地を「樹林が密生している場所であり植生により、自然林、二次林(雑木林)等に分類できるとともに、地形からは平地林、斜面林等に分類できる。」(20頁)としています。樹林地を漢字1字で示す場合、「森」と「林」とどちらが適切でしょう?
四手井綱英『森林はモリやハヤシではない-私の森林論-』第1部私の森林生態学に「森林はモリやハヤシではない」が収録されています(55~58頁)。

森林をモリやハヤシと読んだのは日本人だけだ。日本人は、古い時代に森をモリだと思い込んでしまった。しかし、中国語では「森」は「深」と同じ意味のシン(深い)という形容詞だった。森林はモリやハヤシではなく、「深い森」だったのだ。現在日本で名詞に用いている「もり」は形容詞だった。

森に名詞の「もり」という意味はない。だから、中国で「森林」をモリやハヤシだと言っても通用しないだろう。モリは名詞ではないから、中国や朝鮮半島に「森」という姓の人はいない。名が森という人はいる。名のほうは形容詞でよいからだ。だから、「林、森」という人はいる。動植物の命名法も同様だ。

次は「森」についてであるが、最近では森を林と同様に扱い「林へ行こう」というところを「森へ行こう」と書く人が非常に多い。しかし、日本の「森」という字は、林を言い表している語ではない。山の分類の一つだ。山にはいろいろな姿がある。山頂部が岩山になっている語は「岳」という。普通のなだらかな山頂を持っている場合は「山」と言うのが一般だが、山頂までぎっしり森林に覆われた山は「森」と呼ぶのだ。

ここから後の話は私の想像だが、なぜ山頂まで森林に覆われた山を「森」として「山」と区別したのか。考えてみると、そういう森林につつまれた山には神が住んでいた。すみかが神の山を区別するために「森」という山を区別したのだ。そして、「森」と言われる山は神のすみかとして大切に崇めていたのだ。

以上のべたのは、要するに「森林」はモリやハヤシではなく、「深い林」である。その意味を変えてしまったのは日本人だけで、中国や朝鮮半島では通用しないことである。そして、「森」は日本では長承まで森林に覆われた山の呼び名で、恐らくは神の住む所であって、平野部の人々は仰ぎ見て収穫を祈り、平穏な生活を願望したのであろうと思われる。

関東地方では平地の農用林を「ヤマ」と呼んでいるので「ヤマに行く」は「山に行く」だけではなく広く「樹林地に行く」、「林に行く」という意味で慣用的に使われている。「山に行く」を「森に行く」と置き換えられるのはまれな事だと思える。「森」ではなく「林」を使いたい。

鯖江市環境基本条例・環境市民条令・市民主役条令 9月8日

前記事で、鯖江市の鳥獣害防止への取り組みを鯖江市鳥獣被害防止計画(2008年、11年、13年、14年)から鯖江市環境基本計画改訂版(2017年3月)までたどってみました。
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鯖江市環境基本計画では、第3章基本施策 (2) 施策の基本方針 自然環境具体的な取り組みで、
○野生鳥獣保護と有害鳥獣対策の推進 ・野生鳥獣と共生できる森づくり活動の推進
・鳥獣保護区における野生鳥獣の保護および狩猟に関する適正な運用
・有害鳥獣による被害の防止
○動植物の保護と生息環境の保全 ・絶滅のおそれがある希少動植物の保護活動の推進
・ホタル、オシドリ等の環境保全区域における生息環境の保全
・魚類、貝類、水生昆虫等の生息環境の保全 ・鳥類の生息環境の保全
・生物調査の実施 ・定期的な水質調査等の実施による環境監視
・外来生物による影響の排除推進
・地域活動による生息環境再生の推進
をあげています。
環境基本計画の資料篇には、「環境基本条例」(1997年)と「環境市民条例」(2001年)が掲載されていました。

鯖江市環境基本条例 1997年9月29日 鯖江市条例第11号  (資料篇1~4頁)
前文
 豊かな自然に恵まれたわたしたちのふるさと鯖江の環境は、祖先たちが王山古墳の昔から大切に守り育ててきたものである。
 しかしながら、社会経済が急速に発展し、生活の利便性が高まる一方で、限りある資源やエネルギーが大量に消費されたために、地球全体の環境にまで大きな影響を及ぼすようになってきた。
 良好な環境を享受する権利は、もとより市民に等しく与えられているものであるが、将来にわたって恵み豊かな環境を維持し、次の世代に引き継ぐためには、人類もまた自然を構成する一員であることを深く認識し、自然の生態系の保護に配慮しながら、環境の保全に努める必要がある。
 わたしたちは、自らの積極的な行動により、地域の特性を生かした環境への負荷の少ない持続的な発展が可能な都市の形成を目標に豊かな自然に恵まれた環境を保全し、さらにより良い環境づくりをめざして、ここに、この条例を制定する。
第1章  総則(第1条~第6条)
第2章  環境の保全に関する施策の策定に係る基本方針(第7 条・第8条)
第3章  環境の保全に関する基本的施策(第9条~第13条)
第4章  環境の保全を推進するための施策(第14条~第19条)
附則
第1章  総則
  (目的)
第1条  この条例は、環境の保全について、基本理念を定め、ならびに市、事業者および市民の責務を明らかにするとともに、環境の保全に関する施策の基本となる事項を定めることにより、環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もつて現在および将来の市民の健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的とする。
  (定義)
第2条  この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
 (1) 環境への負荷  人の活動により環境に加えられる影響であって、環境の保全上の支障の原因となるおそれのあるものをいう。
 (2) 地球環境保全  人の活動による地球全体の温暖化またはオゾン層の破壊の進行、海洋の汚染、野生生物の種の減少その他の地球の全体またはその広範な部分の環境に影響を及ぼす事態に係る環境の保全であって、人類の福祉に貢献するとともに市民の健康で文化的な生活に寄与するものをいう。
 (3) 公害  環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁(水質以外の水の状態または水底の底質が悪化することを含む)、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下(鉱物の採掘のための土地の掘削によるものを除く)および悪臭によって、人の健康または生活環境(人の生活に密接な関係のある財産ならびに人の生活に密接な関係のある動植物およびその生育環境を含む。以下同じ)に係る被害が生ずることをいう。
  (基本理念)
第3条  環境の保全は、人類もまた自然を構成する一員であることを深く認識し、豊かで美しい環境を実現し、広く市民がその恵沢を享受するとともに、これを将来の世代に継承していくことを目的として行われなければならない。
 2  環境の保全は、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築を目的として、すべての者の自主的かつ積極的な環境の保全に係る行動により行われなければならない。
 3  地球環境保全は、地域における環境の保全に関する取組の重要性にかんがみ、すべての事業活動および身近な日常生活において積極的な活動により推進されなければならない。
第2章 環境の保全に関する施策の策定に係る基本方針
  (施策の策定に係る基本方針)
第7条  市は、環境の保全に関する施策の策定および実施に当たっては、第3条 に定める基本理念にのっとり、次に掲げる事項の確保を旨として、総合的かつ計画的に推進するものとする。
(1) 市民の健康が保護され、および生活環境が保全され、ならびに自然環境が適正に保全されるよう、大気、水、土壌その他の環境の自然的構成要素が良好な状態に保持されること。
(2) 森林、農地、水辺地等における多様な自然環境が地域の自然的社会的条件に応じて体系的に保全されるとともに、生態系の多様性の確保、野生生物の種の保存その他の生物の多様性の確保が図られること。
(3) 人と自然の豊かなふれあいが確保されるよう、身近な水や緑の形成、優れた景観等の保全、歴史的文化的資源の活用等による地域の個性を生かした潤いと安らぎのある文化的な環境の形成等が図られること。
(4) 環境への負荷の低減に資するよう、廃棄物の減量、資源およびエネルギーの消費の抑制または循環的な利用等が促進されること。
  (市の施策の策定等に当たっての配慮)
第8条  市は、市の講ずる施策の策定および実施に当たっては、環境の保全について配慮しなければならない。

鯖江市環境市民条例  2001年12月25日  鯖江市条例第25号 (資料篇10~21頁)
第1章  総則(第1条-第6条)
第2章  市民参加の促進
 第1節  環境市民の育成(第7条-第10条)
 第2節  きれいなまちづくりの推進(第10条の2-第10条の4)
第3章  環境教育・学習(第11条-第13条)
第4章  循環型社会の形成(第14条-第18条)
第5章  地球環境の保全(第19条-第21条)
第6章  自然環境の保全
 第1節  緑化の推進等(第22条-第25条)
 第2節  野生生物の生息環境の保全(第26条・第27条)
第7章  生活環境の保全
 第1節  野外焼却時の配慮(第28条)
 第2節  大型ごみの適正処理(第29条)
 第3節  空き地等の適正管理(第30条-第32条)
 第4節  愛がん動物の管理(第33条-第38条)
 第5節  空き缶等の散乱防止(第39条-第43条)
 第6節  拡声機の使用に関する規制(第44条・第45条)
第8章  環境影響評価(第46条-第48条)
第9章  環境保全協定(第49条・第50条)
第10章  雑則(第51条・第52条)
第11章  罰則(第53条)
附則
第1章  総則
(目的)
第1条  この条例は、鯖江市環境基本条例(平成9年鯖江市条例第11号)の基本理念にのっとり、市民が健康で文化的な生活を確保するため、地球環境、自然環境および生活環境の保全に関し必要な事項を定め、市民、民間団体、事業者および市が一体となり、環境への負荷の少ない持続的な発展が可能な社会を形成することを目的とする。
(定義)
第2条  この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1) 地球環境  人の活動による地球全体の温暖化またはオゾン層の破壊の進行、海洋の汚染、野生生物の種の減少その他の地球全体またはその広範な部分の環境に影響を及ぼす事態に係る環境をいう。
(2) 自然環境  自然の生態系に占める土地、大気、水および動植物を一体として、総合的にとらえた生物の生存環境をいう。
(3) 生活環境  人の生活にかかわる環境をいい、人の生活に密接な関係のある財産ならびに動植物およびその生息環境を含むものをいう。
 [(4)~(13)略]
第6章  自然環境の保全
第2節  野生生物の生息環境の保全
(野生生物の保護)
第26条  何人も、自然の保護および育成に関する知識を深めるとともに、自然に生息する動物および植物(以下「野生生物」という。)を大切にしなければならない。
(野生生物生息環境の整備)
第27条  市は、野生生物の生息環境を確保するため、野生生物の生息が可能な環境の保全と創出に努めるものとする。
第7章  生活環境の保全
第4節  愛がん動物の管理
(啓発)
第33条  市長は、愛がん動物の適正な飼育管理に関する啓発に努めるものとする。
 (市民の協力)
第34条  市民は、愛がん動物の適正な飼育管理に関する意識の高揚に努めるとともに、良好な生活環境が損なわれないよう相互に協力するものとする。
 (投棄の禁止)
第35条  市民等は、愛がん動物を捨ててはならない。
 2  愛がん動物の飼育者(所有者以外の者が飼育し、および管理する場合はその者を含む。以下単に「飼育者」という。)は、愛がん動物の飼育をやめようとするときは、自らの責任において適切な措置を講じなければならない。
 3  飼育者は、愛がん動物が死亡したときは、みだりに捨てることなく、衛生的に処理しなければならない。
 (飼育者等の遵守義務)
第36条  飼育者は、次に掲げる事項を遵守しなければならない。
 (1)  愛がん動物を愛情を持つて管理し、愛がん動物が住民に危害を与え、または迷惑を及ぼさないよう適切に管理すること。
 (2)  愛がん動物の飼育環境を清潔に保ち、汚物等を衛生的に処理し、感染症等の発生を防止するように努めること。
 (3)  愛がん動物を屋外に連れ出すときは、公共の場所等において排せつされた愛がん動物のふんを衛生的に処理するための用具を携行し、直ちに回収すること。
 (4)  愛がん動物が公共の場所等を汚損し、または乱したときは、直ちに適切な措置を講ずること。
 2  動物に餌を与える者は、その動物の本能、習性および生理を考慮し、当該動物が他人に迷惑を及ぼし、または他人の良好な生活環境を損なうことのないようにしなければならない。
 (指導および勧告)
第37条  市長は、飼育者が前条第1項の規定に違反し、同項各号に掲げる事項を遵守しなかつたと認めるときは、当該飼育者に対し、必要な措置を講ずるよう指導することができる。
 2  市長は、前項の規定による指導を受けた者(前条第1項第3号の規定に違反し、前項の規定による指導を受けた者を除く。)が、当該指導に従わないときは、当該指導に係る措置を講ずるよう勧告することができる。
 (命令)
第38条  市長は、第36条第1項第3号の規定に違反し、前条第1項の規定による指導を受けた者が、正当な理由なく、当該指導に従わないときは、当該指導に係る措置を講ずべきことを命ずることができる。
鯖江市民主役条例 2010年3月26日 鯖江市条例第1号 
鯖江の地には、先人の礎のもと育み築かれた歴史、伝統、文化、産業、そして豊かな自然とすばらしい環境があります。地域社会の在り方や生活のスタイルが多様化する中、これらの貴重な宝を受け継ぎ、更に新たな価値を加えることで、住みたい、住んでよかったと思える鯖江を創造し、子や孫たちに手渡していかなければなりません。わたしたち(市民および市をいう。以下同じ。)は、市民一人ひとりの前向きな小さな声を集め建設的な大きな声とすることにより、思いを一つにし、ふるさとの再生に向けて喜びや痛みを共有、共感できるまちづくりを目指していきます。ここに市民の参加と協働で、未来への夢と希望が広がる鯖江をつくるために、この条例を制定します。

第1条(目的)
この条例は、市民が市政に主体的な参加を果たし、未来に夢と希望の持てる鯖江の実現に向け、市民と市が共に汗を流すという意志と、それを実現するために市の施策の基本となる事項を定めることにより、自分たちのまちは自分たちがつくるという市民主役のまちづくりを進めることを目的とします。

第2条(基本理念)
1 わたしたちは、まちづくりの主役は市民であるという思いを共有し、責任と自覚を持って積極的にまちづくりを進めます。
2 わたしたちは、まちづくりの基本は人づくりであることを踏まえ、それぞれの経験と知識をいかし、共に学び、教え合います。
3 わたしたちは、自らが暮らすまちのまちづくり活動に興味、関心を持ち、交流や情報交換を進めることで、お互いに理解を深め、協力し合います。
4 市は、協働のパートナーとしてまちづくりに参加する市民の気持ちに寄り添い、その意思を尊重するとともに、自主自立を基本とした行政運営を進めます。

第3条(ふるさと学習)
わたしたちは、ふるさとを愛する心を育むとともに、先人から受け継いだ郷土の歴史、伝統、文化、産業、自然、環境等を、自ら進んで学ぶふるさと学習を進めることにより、家庭、地域、学校が連携しながら、子どもも大人も一緒に人づくりに努めます。

第4条(鯖江ブランド創造)
わたしたちは、ふるさと学習で学んだ成果を基に、これらをふるさとの宝として更に磨きをかけることにより、自信と誇りの持てる鯖江ブランドをつくり出し、鯖江らしさを全国に発信するとともに、市民主役のまちづくりにいかすよう努めます。

第5条(ふるさと産業)
わたしたちは、地元で作られた農林商工業の産品を、業種や産業を越えて鯖江ブランド
として磨き上げ、競争力と発信力のあるふるさと産業をつくり出し、活性化するよう努めます。

第6条(地産地消)
わたしたちは、魅力あるふるさとの産品を率先して流通を図り、利活用することで、産業全体の地産地消を進め、ふるさと産業の活性化やまちの活力を産み出す運動に取り組むよう努めます。

第7条(地域づくり)
市民は、市民主役のまちづくりの基盤である地域の個性をいかすとともに、世代、性別等を越えたさまざまな立場の人々が助け合い支え合いながら、継続して活動していくことのできる自主自立の地域づくりに努めます。

第8条(ボランティア、市民活動)
市民は、まちづくりの主役として光り輝きながら、さまざまな地域課題に対応するボランティアや市民活動に積極的に参加するよう努めます。

第9条(情報の集約、発信)
わたしたちは、市民主役のまちづくり施策を効果的に進めるため、ふるさと産業、地域づくり、ボランティア、市民活動等それぞれの分野で情報を集約し、広く発信していくための仕組みづくりや拠点づくりに努めます。

第10条(市民と行政の情報共有)
市は、積極的な情報公開や情報提供の運用を進めるとともに、パブリックコメント、審議会、タウンミーティング、ワークショップ等を通じ、市民との間で情報の共有化、活用を図るよう努めます。

第11条(市民参画)
わたしたちは、市民自らが誇りややりがいを持って、市政や地域経営に直接携わることができるような仕組みづくりを進めることで、まちづくりの計画からその実施、評価までの各段階に応じ、継続した市民参画を実現するよう努めます。

第12条(条例の自己点検、見直し)
わたしたちは、市民の意識や社会の変化に応じて、自主的にこの条例の自己点検や見直しを行うよう努めます。

附則
この条令は、平成22年4月1日から施行する。
市民主役条令には施策案付きの各条解説があります(鯖江市民主役条令(解説・施策案付き))。ぜひご覧ください。
「環境基本条例」(1997年)、「環境市民条令」(2001年)、「市民主役条令」(2010年)にいたる長年にわたる環境に配慮して行動する環境市民育成の取り組みが、地域ぐるみで鳥獣害防止対策が実施できる鯖江市につながっていることを再認識しました。

害獣の生態及び行動特性を踏まえた効果的な被害対策と管理に関わる人材の養成 9月6日

被害総額172億円は氷山の一角
警備サービス企業ALSOKが鳥獣害対策事業に参入
ジビエを活用した外食メニューをJR東日本グループが手がける理由
若手農家が連携し、獣害から地域を守る
獣肉と無農薬野菜をブレンドし、「農家の顔が見える」商品を開発
排除ではなく、出没を減らす -田口教授の提言
イヌを活用した防御策を実施
「コンパウンド・ボウ」の導入
社員を地域活動の担い手に
より高精度なわなの開発


・田口洋美『クマ問題を考える 野生動物生息域拡大期のリテラシー 』(ヤマケイ新書、2017年4月) 
はじめに

第1章 平成のシシ荒れ
 動き出した動物たち/受け身なクマ/自然変容説から環境適応説へ

第2章 生息域拡大期の現実
 1 人喰いグマはいるのか ヒグマとツキノワグマ/肉食するクマ
 2 被害の二重構造
  2-1 春期 個体間の距離/クマの子殺し行動/行動の同調性/春期の人里出没/繁殖期の出来事/目撃情報の表と裏
  2-2 秋期 採食行動の拡散/秋期の人里出没/沈静化する夏
 3 むき出しの都市 河川を移動するクマ/痺れる現場/都市という名のフロンティア/人里に依存するクマ

第3章 近世の相克 「シシ荒れ」森の消長と野生動物
 1 生きるための闘い
 2 旧弘前藩領での出来事
 3 動く森の片隅で シシ垣のある風景/近世における鳥獣害対策/村に雇われた猟師/近世から近代へ/山の消長とイノシシの動き/猪鹿害の再発/里山の奥山化

第4章 狩猟の公共性
 1 接近する被害現場 ─バリア・リーフ構造の崩壊─
 2 猟と農耕 狩猟と駆除、そして個体数調整/狩猟と農耕
 3 狩猟の公共性

第5章 クマと向き合う
 捕獲と威嚇のメッセージ性/規則性と不規則性/ゾーンディフェンスとオフェンシブなアクション/遭遇しないために

おわりに

特集:シカによる影響を低減するための最新知見と課題(日本森林学会『森林科学』79号、2017年2月)
梶光一「イントロ〜ニホンジカ管理の近年の状況」
八代田千鶴「シカの捕獲体制の構築と課題」
飯島勇人「シカの個体数推定法の変遷と課題」
明石信廣「森林におけるエゾシカの影響を把握する」
浅田正彦「シカ対策を支える人材育成の課題〜研究者、行政、住民〜」
長池卓男・飯島勇人「アメリカ合衆国ペンシルバニア州でのオジロジカ管理に学ぶ-複数の主体の協働による順応的シカ管理-」


   研究テーマについて
   イノシシの生態、農作物被害の現状
   その対策について
   鳥獣害対策において、住民への情報伝達及び協力体制はどのようなことが必要か?
   野生鳥獣と人間(地域)が共生(共存)していくためにはどのようなことが必要か?


鯖江市の市民主役で取り組む地域ぐるみの鳥獣害対策 9月5日

福井県鯖江市は市民で取り組む獣害対策の優良事例として農林水産省Webサイトで紹介されています。
市民主役の鳥獣害対策(鯖江市)

鯖江市鳥獣被害防止計画(2008年、11年、13年、14年)

鯖江市民主役条令(2010年3月)
市民主役条例とは? 平成22年4月1日、市民が市政に主体的な参加を果たし、未来に夢と希望の持てる鯖江の実現に向け、市民と市が共に汗を流すという意志と、それを実現するために市の施策の基本となる事項を定めることにより、自分たちのまちは自分たちがつくるという市民主役のまちづくりを進めることを目的として、市民による市民のための「市民主役条例」が施行されました。
 市民主役条例の推進に向け、同年7月7日に設置された「鯖江市民主役条例推進委員会」と市が7項目にわたる協定を締結し、市民主役の具現化に取り組んでいます。
提案型市民主役事業化制度とは? 鯖江市では、市が行っている公共的な事業の中から、市民が「新しい公共」の担い手として自ら行った方が良い事業を「市民主役事業」として創出することで、公共における民間と行政との役割分担を見直し、市民の自治力を高めることを目的として、平成23年度実施事業分から提案型市民主役事業化制度を実施しています。
 市が実施する事務事業の中から、市民活動団体、地域のまちづくり組織、事業者等を対象に、公共的な事業を委託・民営化する提案を募り、市民主役事業の創出を図ることにより、公共サービスの更なる充実とスリムで効率的な市役所を実現することで、市民の市政への主体的な参画の実現と市民主役意識の醸成を図ることを目指しています。
第5次鯖江市総合計画改訂版(2010年3月、2010~2014)(改訂、~2016)
表紙・第5次鯖江市総合計画改訂版表紙・第5次鯖江市総合計画(2010年3月)

丹南地域鳥獣害対策マニュアル イノシシ編(丹南農林総合事務所、2011年2月)
丹南地域鳥獣害対策マニュアル(イノシシ編)2011年2月_ページ_1

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丹南地域鳥獣害対策マニュアル(イノシシ編)2011年2月_ページ_4

丹南地域鳥獣害対策マニュアル(イノシシ編)2011年2月_ページ_6

表紙・改訂・鯖江市都市計画マスタープラン

 鯖江市では、平成9年に策定した都市計画マスタープランに基づき、将来都市像である「人にやさしく活力に満ちた文化の薫る交流都市」の実現に向けたまちづくりに取り組んでまいりました。
  しかし、計画の策定から10余年が経過し、人口減少社会の到来、少子高齢化の進展、地球規模での環境問題、地方分権社会への移行など、地方自治体を取り巻く環境が激動しています。
  このような状況を踏まえ、本市においても新たな都市計画行政の方向性を定めるため、都市計画マスタープランの改定を行いました。  本計画は、第5次鯖江市総合計画にある本市が目指す将来像「自信と誇りの持てる自主自立のまち」の実現に向けた都市計画行政の取り組みを示すものであります。
  鯖江市では、「みんなでつくろう みんなのさばえ」を合言葉に「幸福度の高い交流都市鯖江」を目指しています。市民が幸福度と満足度を高められるよう、鯖江市の魅力ある地域の宝を活かした交流・連携を図り、豊かな自然や歴史、伝統、文化が感じられるまちづくりを目指します。
  これからのまちづくりにおいては、市民、事業者の皆様と行政が手を携えあい、魅力と活力にあふれた市民主役のまちづくりに取り組んでいきたいと考えておりますので、皆様の御理解と御協力をお願い申し上げます。

表紙・人と生きもののふるさとづくりマスタープラン(2012年3月)

さばえの鳥獣被害対策マニュアル(2012年3月初版、15年3月第2版)
さばえの鳥獣害対策マニュアル

・鯖江市鳥獣害のない里づくり推進センター(2014年4月開設)
  中田都「集落総出の柵管理で5年連続被害ゼロ」
   (『季刊 地域』34号、2018年夏号 特集・地域力がものを言う 獣害対策)
       
表紙・第2次人と生きもののふるさとづくりマスタープラン(2017年)

近年、野生鳥獣が引き起こす農作物被害、人身被害、生活被害が全国で多発し、鳥獣被害対策が各地で進められています。本市でも、これまでに市内各地で多くの市民が鳥獣被害対策に取り組んできました。これからも鯖江市民および本市が協働して「鳥獣害のないふるさとづくり」を実現するために、市民・市民団体、事業者、行政、専門家がどんなことに取り組めばよいかを明らかにするため、マスタープランを策定しました。

  -人と生きものが仲よくくらせるまち-
抜萃・鯖江市環境基本計画改訂版(2,017年3月)_ページ_01

さばえのけもの探偵団(Webサイト)


日高市市民参加条令(2009年3月)
日高市では、誰もが住みやすさを実感できるまち「明日へきらめくまち、日高」を目指して、市民一人一人が主役となって参加できる「市民と行政の協働によるまちづくり」を進めるために、市民参加のルールとなる『日高市市民参加条例』が施行されました。
市の基本的な計画の策定等に当たり、広く市民の皆さんからご意見をいただくため、市民参加条例に基づき、市民参加手続を実施しています。
真下英二(NPO法人子ども大学かわごえ学長)「市民の参加と協働を実効あるものにするために」日高市 第1回市民会議講演資料
「市民参加条例(案)作りに参加しよう・協働のまちづくり市民の集い」『みんなの会in日高』Blog、2007年12月9日記事
今日は、日高市の「市民参加と協働づくり市民会議」が主催する市民参加フォーラム「市民参加条例(案)づくりに参加しよう・協働のまちづくり市民の集い」に参加しました。
 前半に「市民参加の必要性について」という、尚美学園大学 准教授 真下英二氏による講演があり、その後「市民参加と協働づくり市民会議」が市民がはじめてつくる条例の議会提出までのプロセスとスケジュールの説明がありました。(中略)
 条例の制定の方法には、市長案として議会に提案して議会に諮る方法、議員定数の十二分の一の議員による議員提案で議会に諮る方法、そして選挙権を有する住民の五十分の一以上の連署による住民請求する方法があります。
 「市民参加と協働づくり市民会議」のみなさんがこれらの方法の中から、条例案を市長に答申して市長案として議会に諮る方法を選択したのはなぜか聞きたかったのですが、壇上の方にはつたわりませんでした。
 はじめて市民がつくる条例と謳っているのに、市民発ではなく「そもそも何故市民参加が必要なのか?」という真下講師の説く必然性もないこの条例は、誰のために必要なのか。大きなクエッションマークが頭の上に浮かびましたが、これまで多大な時間とエネルギーを市民参加と協働のルールづくりに注いでいただいたメンバーのみなさんに敬意を表して質問することは控えました。

 これだけの努力で提案される条例案です。
「市民の集い」にはもっと大勢の市民に関心を持って参加してもらいたかったです。

埼玉県におけるアライグマ対策の総合的な体制づくり 9月1日

アライグマの都市進出に伴い、「アライグマ感染症リスク対策の重用性」(7月29日記事)が指摘されています。農作物被害に加えて、アライグマは市民生活への脅威となってきました。8月30日の『朝日新聞』には、「アライグマの害防げ 昨年度5400匹捕獲 対策学習会も」という記事が掲載されていました。埼玉県におけるアライグマ捕獲数の増加、生息場所の広がり、農作物被害の拡大、アライグマ専用捕獲器の開発などが紹介されています。
農林水産省HPの「鳥獣被害対策コーナー」の鳥獣被害対策の取り組み事例(2017年度事業成果)に『埼玉県におけるアライグマ対策総合的な体制づくり』があり「報告書」と「動画」がリンクされていました。

地域の概要
 アライグマ捕獲数の推移
1アライグマ捕獲頭数の推移

 アライグマの捕獲地点と生息地点
2アライグマの捕獲地点と生息地点

 埼玉県における獣種別農作物被害金額
3埼玉県における獣種別農作物被害金額

 コラム:生息域の拡大

埼玉県の取り組み
 アライグマ防除実施計画の策定(2007年)
 被害予防対策と計画的捕獲の組み合わせ
  無意識な餌やりをやめる
  安心できる場所をつくらない
  加害個体を他人まかせにせず獲る
 効果的な被害防止柵、専用捕獲器の開発・利用
  中型動物の農作物被害防止柵 楽落君
  アライグマの専用捕獲器

捕獲したアライグマの処分
 出口(処理方法)の整備
 情報を収集・分析・共有する体制整備

埼玉県におけるアライグマ対策の体制
埼玉県のアライグマ専用捕獲器の開発

あなたの家も危ない!? 都会を侵略“エイリアン”外来動物
あなたの家も危ない!? 都会を侵略!外来動物
わが家を守れ! “エイリアン”外来動物対策
勢力拡大!“エイリアン”動物 各地で思わぬ事態!?
※イノシシの都市進出については「アーバン・イノシシ物語 ワシらが都会を目指すワケ」があります。
衝撃映像!アーバン・イノシシ暴走 東京へも
アーバン・イノシシ物語 ワシが都会へ出る理由

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