梶山弘志経済産業相は3日、二酸化炭素(CO2)を多く排出する非効率な石炭火力発電所100基程度を2030年度までに段階的に休廃止する方針を表明しました。

7月3日の報道記事
石炭火力、抑制姿勢に転換 欧州「全廃路線」と一線
  (日本経済新聞電子版 2020.07.03 02:00)
■■電力会社「困難」の声
 全国の大手電力各社は電力調達の多くを石炭火力に頼っており、経営に与える影響は大きい。
中国電力の場合、合計259万キロワットの石炭火力を持っており、顧客に販売する電力のうち47%が石炭由来の電力だ。北陸電力は同50%で、比較的石炭の依存度が低くなっている東京電力ホールディングスでも20%を占めている。
段階的に建て替えや廃止を進めているといっても、老朽化した発電所に頼っている地域も少なくない。中国電力の下関発電所1号機(山口県下関市)は稼働から53年が経過し、Jパワーの高砂火力発電所1号機(兵庫県高砂市)も52年たっている。
大手電力からは「基準が決まっていないので何とも言えないが、9割の石炭を廃止するのは困難だ」(東電関係者)との声があがる。西日本が地盤のある電力会社は「石炭を廃止する以上、国が原子力発電所の新増設を後押しすべきだ」と話した。
  (SankeiBiz 2020.07.03 05:00)
梶山経済産業大臣の閣議後記者会見の概要
  (経済産業省 2020.07.03 11:13~11:29)
非効率石炭火力のフェードアウトに向けた検討
まず1点目、資源の乏しい我が国において、エネルギー安定供給に万全を期しながら脱炭素社会の実現を目指すために、エネルギー基本計画に明記している非効率な石炭火力のフェードアウトや再エネの主力電源化を目指していく上で、より実効性のある新たな仕組みを導入すべく、今月中に検討を開始し取りまとめるよう、事務方に指示をいたしました。
具体的には、2030年に向けてフェードアウトを確かなものにする新たな規制的措置の導入や、安定供給に必要となる供給力を確保しつつ、非効率石炭の早期退出を誘導するための仕組みの創設、既存の非効率な火力電源を抑制しつつ、再エネ導入を加速化するような基幹送電線の利用ルールの抜本見直し等の具体策について、地域の実態等も踏まえつつ検討を進めていきたいと考えております。
また、系統の効率的な利用を促すことで、再エネの効率的な導入を促進する観点から検討が進められております発電側課金についても、基幹送電線の利用ルールの見直しとも整合的な仕組みとなるよう見直しを指示をいたしました。
詳細は、事務方から説明をさせたいと考えております。
質疑応答
Q: 大臣、小泉環境大臣と今日の発表は合意されているんでしょうか。
A: 合意はしていないが、政府としては合意していますよ。それは官邸も含めて。
Q: 小泉大臣と話し合っていますか。
A: 小泉大臣とは折に触れて話し合ってあります。閣議で席が隣ですので。
  (一般社団法人環境金融研究機構(RIEF) 2020.07.03 12:21:37)
 経済産業省が旧式石炭火力発電所を約100基休廃止の方針を打ち出す中で、2つの石炭火力が新たに営業稼働した。電源開発(Jパワー)が広島県竹原市と茨城県鹿嶋市で建設を進めてきた超々臨界圧石炭火力(USC)発電所が相次いで動き出した。USCは旧式石炭火力よりCO2排出量は少ないが、天然ガス火力の2倍の排出量で、EU等では廃止対象になっている。経産省の「100基休廃止」方針は、旧式からUSCへの転換策でしかなく、「石炭依存」を基本的に維持していることを示す。
 USC型の発電所は現在、国内に26基(2018年現在)あるほか、2019年の稼働分と現在建設中が16基ある。これらは建設時期が新しいので、ロックイン効果が続き、2030年以降も3000万kW以上の運転を続ける。USC42基のCO2排出量をJパワーの広島発電所と同等とすれば、合計で年間1億3270万㌧となる。これは日本の温室効果ガス排出量の1割を上回る。旧式石炭火力の休廃止でCO2排出量は約6400万〜1億600万㌧削減される見通しだが、その削減分を上回る排出を続けることになる。
 さらにKIKO[気候ネットワーク]は、今回、稼働を始めた両USC型火力発電所が立地する県が、いずれも温暖化の加速で深刻な気候災害が起きた県である点も指摘している。広島では2年前の西日本豪雨で、多くの人命が失われ、被害総額も過去最高となった。一方の茨城県でも、2015年の常総市周辺での記録的豪雨で、鬼怒川の堤防が決壊、甚大な被害が出た。
 石炭火力が主要な汚染源として、温暖化の影響を加速し、その被害を現実に受けた地域で、新たに「元凶」となる石炭火力を稼働させるという「暴挙」に映る。だが、事業主体はもちろんのこと、地元自治体も、まるで別問題であるかのように振る舞っている。
 もちろん、温暖化の影響は石炭火力の稼働地元だけではなく、グローバルに影響する。今夏はすでにロシアのシベリアで38℃の高温が記録され、永久凍土の溶融による建物事故のニュースも届く。南極の温度も、世界平均より3倍のスピードで上昇していることも科学的観測で確認されている。にもかかわらず、日本の行政と電力会社があくまでも石炭に固執するのはなぜなのか。エネルギー供給への不安か、変わることへの不安か、あるいは利権の維持か……
石炭火力「減らす仕組み作る」 経産相、輸出厳格化も
  (日本経済新聞電子版 2020.07.03 11:51)
  (東京新聞 TOKYO Web 2020.07.03 13:50)
   ◆政府が従来のエネルギー政策を転換
脱炭素化に向け再生可能エネの普及に本腰を
<解説> 梶山弘志経産相がエネルギー効率が悪い石炭火力発電所の休廃止を表明した。CO2排出を抑える脱炭素化に向けた一歩とはなるが、石炭火力の全廃方針を掲げる欧州各国に比べれば見劣りする。脱炭素化を進める上で重大事故のリスクがある原発に頼らず、CO2排出が少ない再生可能エネルギーの比率をどう高めるか。政府の本気度が問われる。
 日本は東日本大震災以降、原発の代替電源として液化天然ガス(LNG)や石炭火力の比率を高めた。石炭は価格が安く、安定的に調達できるとして、経産省や産業界は「石炭火力維持」の方針を崩さずにきた。
 一転、旧型の石炭火力休止に踏み切った背景には、世界で強まる脱炭素化の潮流がある。石炭火力はCO2の排出量が天然ガス火力の約2倍と多く、ドイツや英国などは石炭火力の全廃方針を掲げる。
 今後は石炭比率を下げながら、電力の安定供給をどう実現するかが課題となる。原発は安全対策コストがかさみ、地震大国の日本での再稼働は現実性に乏しい。再生エネの普及策に本腰を入れ、環境と暮らしを両立するエネルギー政策を立案する必要がある。(石川智規)
  (時事ドットコム 2020.07.03 18:34)
[社説]電源全体を見据えた石炭火力の休廃止に
  (日本経済新聞電子版 2020.07.03 19:05)
北陸電力、発電5割頼る石炭火力に暗雲 最安の源泉
  (日本経済新聞電子版 2020.07.03 19:30)
低効率石炭の休廃止、自家発電も対象 経産省方針
  (日本経済新聞電子版 2020.07.03 20:30)
WWFは、日本政府が石炭火力発電所を大幅に廃止する方針を歓迎する
  ただし、新規増設や原子力によってその廃止分を埋めてはならない
  (WWFジャパン[World Wide Fund for Nature] 2020.07.03)
石炭火力の完全なフェーズアウトを:経済産業省の方針では2030年に3000万kWの石炭火力を利用(自然エネルギー財団)
1.「100基休廃止」でも、2030年時点で3000万kWの石炭火力を利用
 休廃止の対象となる100基には10万~20万kW程度の小規模のものが多い。これに対し、2030年でも利用を予定している「高効率」石炭火力は、60万kW~100万kWクラスの大規模のものが中心であり、合計約2000万kWの発電設備が存在している。これに現在建設中の新設石炭火力を加えれば2900万kW程度となる。更に非効率石炭火力の1割は残されるので、全体では、2030年時点でも3000万kW程度の石炭火力が残存することになる。
 パリ協定のめざす二酸化炭素削減目標を実現するためには、先進諸国では2030年までに石炭火力発電の利用を全廃することが必要とされており、欧州各国をはじめ多くの国が2030年前後の全廃をめざしている。今回の方針は、こうした世界の努力とは全く異なる。
2.二酸化炭素排出がほとんど変わらない高効率石炭火力推進路線の維持
 エネルギー基本計画では、非効率な石炭火力のフェードアウトと同時に「石炭火力発電の高効率化・次世代化を推進する」と明記しており、今回の公表でも高効率と称する石炭火力を維持することを明確にしている。これらの高効率石炭火力も、二酸化炭素排出量は「非効率」なものより数%しか減らない。日本が批判されてきたのは、実際には排出削減に殆ど役立ない「高効率石炭火力」をクリーンコールと称して推進してきたからに他ならない。今回の発表はこの「クリーンコール」路線を継続することを明確にしたものである。
3.26%維持のため更に長期の排出ロックインの危険性
 エネルギー基本計画では「2030年に石炭火力で26%を供給」するという方針を示している。2030年に残存する3000万kWで供給可能なのは、20%程度と見込まれるため、26%を供給するためには、更に多くの石炭火力発電を新設することが必要になる。巨額の初期投資が必要な石炭火力は、いったん建設されれば40年程度の利用が目指される。このようなことが行われれば、今世の後半の長い期間にわたって大量の二酸化炭素の排出を続けることになる。
政府の海外石炭火力支援方針の改訂方向性を危惧 ~進行中案件も含めて支援中止を決定すべき~
(「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、気候ネットワーク、国際環境NGO 350.org Japan、国際環境NGO FoE Japan、メコン・ウォッチ)
7月3日付の報道に、「石炭火力発電輸出 支援厳格に 政府検討 非効率型を除外」と題する記事が掲載されました。これまで次期インフラシステム輸出戦略骨子において海外の石炭火力発電事業の公的支援中止を打ち出すよう要請してきた私たち環境NGOは、記事で伝えられる政府内における検討の方向性を非常に危惧しており、すでに進行中の案件も含め、海外石炭火力発電事業への公的支援の全面中止を改めて要請します。
記事では、「二酸化炭素(CO2)を多く排出する非効率な石炭火力発電の輸出は、原則として支援しない方針を政府文書に明記することも含めて検討している」と報道されています。しかし、現行政策(エネルギー基本計画に示されたいわゆる輸出支援の4要件)でも、「原則、世界最新鋭である超々臨界圧(USC)以上の発電設備について導入を支援する」としています。したがって、技術を限定し、条件付けを残すなら、単に言い回しを変えるだけで、実態には何も変化をもたらさない可能性があります。
また、「CO2の排出量が少ない高効率の発電所であっても、支援する条件を厳しくすることで、温室効果ガス削減に取り組む姿勢を示す」と報道されていますが、そもそも高効率であっても石炭火力はパリ協定の長期目標と整合しないことが明らかであることから、日本政府の現行方針が国内外から批判されています。石炭火力でも高効率なら支援するという姿勢を続ける限り、パリ協定の目標達成に後ろ向きであるとの日本に対する評価は覆らないでしょう。
さらに、記事では「進行中のプロジェクトについては、継続する」との方針も示されています。これは、国際協力銀行(JBIC)及び日本貿易保険(NEXI)が支援検討中のブンアン2(ベトナム)、国際協力機構(JICA)が支援を検討見込みのインドラマユ(インドネシア)及びマタバリ2(バングラデシュ)の3案件を指していると考えられますが、すでに今後の支援対象案件として実質的に残された案件はこの3案件しかないことから、これらを除外して方針を立てることは、今回の方針見直し自体の意義を損なうものに他なりません。加えて、これらの案件においても、パリ協定の長期目標との不整合性、支援対象国における電力供給過剰状態の深刻化、再エネのコスト低下に伴う経済合理性の欠如、現地の環境汚染や住民への人権侵害など、様々な問題があり、支援を行うべきではありません。
したがって、7月上旬にも閣議決定されると見込まれる次期インフラシステム輸出戦略骨子では、進行中の案件を含めたすべての海外石炭火力発電事業への公的支援を例外なく中止するという方針を掲げるべきです。