鼎信次郎さんの「今世紀の排出が1000年先の未来を決める?! —ティッピングとは何か?」。2016年11月21日東京大学伊藤国際学術センター伊藤謝恩ホールで行われた環境省環境研究総合推進費戦略的研究開発プロジェクトS-10公開シンポジウム『地球温暖化対策の長期目標を考える-パリ協定の「1.5°C」、「2°C」目標にどう向き合うか?』発表資料です。

 鼎信次郎

地球温暖化による様々なリスク
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ティッピングポイント(TP)とは?
 それまで小さく変化していたある物事が、突然急激に変化する時点を意味する。

ティッピングポイント(TP)とは?
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 地球温暖化研究では、地球の気候を構成する要素に質的かつ急速な変化が生じさせるしきい値(気温など)を指す。

ティッピングエレメント(TE)とは?
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 TE:TPを超えたときに発生しうる地球の気候システムを構成する要素。

ティッピングエレメントの発現可能性は?

ティッピングポイントを超える可能性があるティッピングエレメント
 ・北極海夏季海氷の消失
 ・アルプス氷河の消失
 ・サンゴ礁の白化
 ・グリーンランドと南極氷床の融解

北極海夏季海氷の消失
 通常は、北極海では毎年、春から夏にかけて海氷が縮小し、9月に最小になった後、再び冬にかけて海氷が拡大するという変化を繰り返している

●北極海夏季海氷の消失
 ・2040年代、 A1Bシナリオ(+1~2°C上昇)で夏季の海氷は、カナダとグリーンランド北岸沿いにのみ残る。

アルプス氷河の消失
 ・B1シナリオ(+2°C上昇)で、 2060年代までにアルプス氷河はほぼ消失する予測。

サンゴ礁の白化
 ・1.5°C・2.0°C上昇の場合どちらでもサンゴ礁の多くが白化
 ・サンゴへのストレス(海面上昇・ENSOイベントや熱帯低気圧の増加・外来種の増加など)は未考慮

グリーンランド氷床と南極氷床
 氷河:重力によって長期間に渡り緩やかに動く氷塊
 氷床:大陸規模(5万km2以上)の氷河

海面上昇と各要素の寄与

•2081~2100年における海面上昇量の予測:+0.26~0.82 [m] *1986-2005年を基準
 ・~2100年では海面上昇寄与は,熱膨張>(山岳)氷河>グリーンランド氷床>南極氷床
 ・2100年を超えた予測では,グリーンランド氷床の寄与が大きくなる可能性がある

グリーンランド氷床のティッピングポイント

大規模な海面上昇による影響(東京湾周辺)
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海面上昇でどこが浸水するの?
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 グリーンランド氷床が全融解し、7m海面上昇した場合(関東~東海地方)

海面上昇でどこが浸水するの?
 グリーンランド氷床が全融解し、 7m海面上昇した場合(関西~九州)

グリーンランド氷床と北極海夏季の海氷が、2100年までにそれぞれのティッピングポイントを超える確率はどの位なのだろうか?

2通りの目標気温(1.5°C, 2.0°C)と追加政策なし[BAU]の計3つのシナリオに対して,グリーンランド氷床と北極海夏季海氷が,2100年までにティッピングポイントを超える確率を推定

ティッピングポイントを超える確率
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本プロジェクト(ICA-RUS)で研究対象としているティッピングエレメント
 ・西南極氷床の安定性
 ・北大西洋熱塩循環と貧酸素水域の拡大
 ・メタンハイドレートの分解

西南極氷床の安定性

北大西洋熱塩循環と貧酸素水域の拡大
 ・温暖化により海洋中の酸素は1000年かけて30%程度減少すると簡易気候モデルが予測。
 ・表層、亜表層では水温変化の影響で酸素が減少
   → 酸素呼吸をする魚介類などが好む環境でなくなることで、生物生息域等に影響

【数千年~数万年スケールのティッピングエレメント】メタンハイドレートの分解
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 メタンハイドレートとは・・・低温かつ高圧の条件下でメタン分子が水分子に囲まれた氷状の化石燃料。次世代のエネルギーとして期待されている

【数千年~数万年スケールのティッピングエレメント】メタンハイドレートの分解
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 Q:酸化により海水中の溶存酸素が減少するが、どのくらいか?
 A:魚等が生息出来ない貧酸素域の拡大
 メタンハイドレート2600GtC(現在)から800GtCへ減少
 ・その放出により貧酸素域が拡大(北太平洋1000m深付近)
 ・大気CO2が200ppm程度上昇の可能性

本日のまとめ
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 ・地球温暖化による様々なリスクとして、ティッピングポイント・ティッピングエレメントを紹介。
 ・パリ合意の気温幅でも発現する可能性があるティッピングエレメント(北極海夏季海氷の消失、アルプス氷河の消失、サンゴ礁の白化、グリーンランドと南極氷床の融解)がある。
 ・何かしら気候変動政策(パリ合意など)をとらないと、発現可能性がかなり高くなるティッピングエレメントも存在。
 ・ただし、かなり不確実性が高く、まだまだ発展途上の研究であるため、科学的な根拠をつかむ研究が今後も必要。世界の温暖化研究へ寄与。