埼玉県では一級河川のうち、県が管理している河川の荒川水系を4つのブロック、利根川水系を2つのブロックに分けて河川整備計画を定めています。
埼玉県河川整備計画(6ブロック)

はじめに
 河川整備計画策定の背景
 荒川中流右岸ブロック河川整備計画の内容

1. 荒川中流右岸ブロックの概要
 1.1 荒川中流右岸ブロックの地域概要
地形・地質
荒川中流右岸ブロック西部の山地は秩父山地の一部をなしており、ブロックの西端には1,000m未満の峰が連なっている。この秩父山地の東端に接する形で比企ひき丘陵きゅうりょう、岩殿丘陵、毛呂山丘陵、高麗丘陵が半島状に東に突き出し、さらにこれら丘陵の東側縁辺部に東松山台地、入間台地等が分布している。ブロック東部に広がる平地は関東平野の一部をなす荒川低地で、関東平野の西北端に位置している。
山地は主に中・古生代に形成された堆積岩や変成岩からなっており、丘陵地や台地は第三紀に形成された礫層や堆積層、平地は第四紀に形成された砂や泥からなる沖積層となっている。

気象・気候
荒川中流右岸ブロックの気候は、夏は高温多湿、冬は低温乾燥の太平洋岸性気候である。年間の平均気温は15°C程度で、季節に応じて5~25°Cの範囲内で変動する。また、降雨については、年間の総雨量が900~1,500mm程度と全国平均に比べて少ない。また、梅雨や台風の影響により夏に多く、冬に少ない傾向がある。

動植物
荒川中流右岸ブロック内の植生は、植林による人為的影響を大きく受けており、全体としてスギ・ヒノキの人工林の占める割合が高い。自然林としては台地・丘陵地においてコナラ-クリ群落、アカマツ-ヤマツツジ群集、モミ-シキミ群集等、山地においてはミズナラやヤマザクラなどが人工林の間に存在する。また、低平地においても、かつて存在した広大な低湿地帯のほとんどが開発され、農地や市街地に変わってしまったため各所に雑草群落が見られる。河川敷においては、オギ群集、ヨシ群落が見られる。
ブロック内の動物としては、魚介類ではアユを初めとしてウグイなどコイ科魚類やマシジミなど、哺乳類ではホンドタヌキ、ホンドキツネなど、鳥類ではアオバズク、イカルチドリ、サギ類、カワセミなど、両生類ではトウキョウサンショウウオ、モリアオガエルなど、昆虫類ではハルゼミ、オオムラサキなどが生息している。
また、荒川中流右岸ブロック内には、埼玉県のレッドデータブックに絶滅危惧種として指定されている、スナヤツメ、ホトケドジョウ、メダカ、カジカなどの魚類、オオタカ、ヤマセミなどの鳥類、カジカガエル、イモリなどの両生類、タガメ、ゲンジボタルなどの昆虫類の生息が確認されている。

土地利用
平成9年[1997年]の国土数値情報によると、荒川中流右岸ブロックにおける土地利用は、流域の約44%が森林、約18%が畑、水田と市街地がそれぞれ約13 %ずつとなっている。過去50年間では、森林・水田が減少し宅地と畑が増加してきており、相対的に市街地化が進んできている。

名勝
景勝地として特に有名なのは、独特の地形を持つ「高麗川の巾着田」や、河原遊びも楽しむことができる「入間川の飯能河原」、渓谷の素晴らしい景勝が京都の嵐山に似ていることから武蔵嵐山と名付けられた「槻川の嵐山渓谷」である。その他にも、越生梅林、黒山三滝、鎌北湖、名栗湖、名栗渓谷等多数の景勝地がある。

歴史
荒川中流右岸ブロックに人間が住み始めたのは、縄文時代以前の今からおよそ2万年前と考えられる。また、奈良時代の初め、高麗人の渡来により大陸文化が伝えられ、文化・産業の基礎が築かれた。江戸時代には、江戸の発展にともない、江戸近郊の農業地域として開拓が進み、河川では舟運や漁が盛んに行われるようになった。近年になり、首都近郊の立地条件の良さから、宅地開発がブロック内の各地で進んでいる。
現在の荒川中流右岸ブロックの川は、最終的に荒川に流入しているが、その荒川の川筋は古くは和田吉野川のものであった。江戸時代初期の1629年に、現在の熊谷市久下くげ付近で元の荒川の川筋を締め切り、荒川の本流を和田吉野川に付け替える工事が行われ、入間川へと続く現在の荒川の様相となった。この工事により、江戸の水害の軽減や埼玉県の新田開発の促進、舟運の開発等の効果があった。しかし、その反面、現在の荒川本川に接するようになった町村に大きな水害をもたらすこととなった。
こうしたことから、治水事業は江戸時代より盛んに行われてきたが、水害は頻繁に生じてきた。明治以降も大水害が続いたが、段階的な河川改修の結果、昭和22年[1947年]以降は大規模な堤防の決壊を伴う洪水は起こっていない。

史跡・文化財
荒川中流右岸ブロックには、国・県から指定を受けている史跡や文化財が数多くある。代表的なものは、吉見町の吉見百穴や、日高市の高麗村石器時代住居跡、高麗神社本殿、聖天院の梵鐘、毛呂山町の出雲伊波比神社本殿、都幾川村の慈光寺の開山塔と銅鐘、小川町・東秩父村の細川紙等である。特に吉見百穴のヒカリゴケ発生地が国の天然記念物に指定されている。
また、古くから水害常襲地帯であった荒川の沿川では、人々が洪水から逃れるために水塚みづかを築き、その上に水屋と呼ばれる建築物を設けていた。
荒中右整備計画(県)200602

 1.2 荒川中流右岸ブロックの現状と課題
  1.2.1 治水に関する現状と課題
   (1) 過去の洪水の概要
・表1 荒川中流右岸ブロックにおける過去の主な水害
荒中右整備計画(県)200602_01

   (2) 治水施設の整備状況
・図1-8 治水施設の整備状況
荒中右整備計画(県)200602_02


   (3) 治水事業の課題
平成12年[2000年]12月、河川審議会において、流域が有している保水機能の保全、氾濫域における適切な治水方式の採用、市街地における洪水氾濫を想定した水害に強いまちづくりの推進等をまとめた「流域での対応を含む効果的な治水のあり方について」が中間答申された。
今後は国とともに従来の治水施設による対策だけでなく、多様な方策を荒川流域全体で検討していくことが必要である。
また、現在埼玉県においては、開発に伴う雨水の急激な流出増を抑制するため、開発者に対する調整池の設置要請や、小学校や公園などを利用した雨水貯留浸透施設の設置などの流域対策を進めているほか、流域の保水機能等を持続させるため、森林の保全を積極的に進めているところである。今後とも、荒川中流右岸ブロックのみではなく、荒川流域全体を見据えた治水対策についても、国や地域住民とともに、検討していくことが必要である。

  1.2.2 河川の利用及び河川環境に関する現状と課題
   (1) 水利用
   (2) 河川環境
   (3) 流況
・図1.11 荒川中流右岸ブロックにおける流量観測地点
荒中右整備計画(県)200602_03


   (4) 水質
・図1.12 荒川中流右岸ブロックにおける水質の類型指定
荒中右整備計画(県)200602_04


   (5) 河川利用

2. 河川整備計画の目標に関する事項
本計画は、「水害を軽減する安全な川づくり」と「川の個性、地域との関わりを踏まえた川づくり」を進め、「安全で豊かな自然を有した荒川中流右岸ブロック」及び「次世代に継承できる川」の実現を目指す。
河川整備にあたっては、近年の浸水被害状況や、流域内のまちづくりや資産の集積状況等を考慮しながら、自然豊かな荒川中流右岸ブロックの特徴に合わせた整備を行う。

 2.1 計画対象期間及び計画対象区間
(1) 計画対象期間
計画の対象期間は、計画策定時から概ね30年間とする。
(2) 計画対象区間
河川整備計画の対象とする区間は、荒川中流右岸ブロックにおける一級河川のうち埼玉県が管理する全ての区間とする。
・図2.1 荒川中流右岸ブロック河川整備計画の対象区間
荒中右整備計画(県)200602_05


 2.2 河川整備計画の目標
  2.2.1 洪水による被害発生の防止または軽減に関する事項
洪水による災害の発生の防止または、軽減を図るため、将来的な計画を考慮しながら、当計画では当面の県の改修目的である時間雨量50mm 程度の降雨より発生する洪水は、安全に流下させることができる治水施設の整備を行う。

  2.2.2 河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関する事項
関係機関と連携・協力して、取水・還元量等の実態の把握や河川流量の把握に努めるとともに、健全な水循環系の構築に努める。

  2.2.3 河川環境の整備と保全に関する事項
河川環境の現状を十分把握し、荒川中流右岸ブロックの地形特性、自然環境、景観、水環境、親水利用等の観点から、治水及び利水と整合を図った河川環境の整備と保全に、関係機関及び地域住民と連携しながら取り組んでいく。荒川中流右岸ブロック内の上流部を中心とした十分な流下能力を有する区間においては、現状で有している良好な河川環境を極力保全する。
また、平地部の一部の河川整備が必要な区間においても、事業実施にあたっては、現在の良好な河川環境を可能な限り保全していく。

3. 河川整備の実施に関する事項
 3.1 河川工事の目的、種類および施行の場所
荒川中流右岸ブロック内では上流部を中心とした十分な流下能力を有する区間を除き、改修が必要な平地部の区間では、時間雨量50mm程度の降雨により発生する洪水は安全に流下させるため、堤防の嵩上げや築堤、河道拡幅、河床掘削等の河道改修と洪水調節のための放水路の整備や排水機場の設置を行う。
本計画で示した河道の断面は、治水機能上その地点において最低限必要な流下断面を確保するものとして設定したものである。したがって、もともと用地に余裕がある箇所や、計画図に示した河道の断面以上の用地が確保できる箇所においては、それらの用地を有効に活用した河道の整備を地域の方々の意見を参考にしながら実施していく。

(1) 越辺川、小畔川、南小畔川、都幾川、槻川、兜川、鳩川、大谷木川、毛呂川、霞川、角川、新川、和田吉野川、和田川 一部の区間で流下能力が十分ではないことから、洪水による浸水被害が発生している。そのため、堤防の嵩上げや築堤、河道拡幅等の河道改修を行う。
(2) 葛川 河川の流下能力が十分ではないことと、洪水時に本川越辺川の水位が上昇し、越辺川から洪水が逆流することにより、浸水被害が発生している。そのため、築堤、河道拡幅等の河道改修と併せて、放水路を整備し、下流部の洪水流量を軽減する。また、越辺川との合流点については、越辺川を管理する国と協力して浸水被害の解消を図る。
(3) 市野川 一部の区間では流下能力が十分ではないことから、洪水による浸水被害が発生している。そのため、堤防の嵩上げや築堤、河道拡幅等の河道改修を行う。なお、下流部の荒川水位の影響区間において、堤防断面が不足しているため、堤防を補強する。また、治水施設の整備に合わせ、関係機関や地域と連携・協力し、人々が身近に水辺に親しめる河川空間の整備を行う。さらに、水環境の改善に努める。
(4) 横塚川 一部の区間では流下能力が十分ではないことから、洪水による浸水被害が発生している。そのため、築堤、河道拡幅等の河道改修と併せて、放水路を整備し、下流部の洪水流量を軽減する。
(5) 安藤川 一部の区間では流下能力が十分ではないことから、洪水による浸水被害が発生している。そのため、堤防の嵩上げや築堤、河道拡幅等の河道改修を行う。また、治水施設の整備に合わせ、関係機関や地域と連携・協力し、人々が身近に水辺に親しめる河川空間の整備を行う。
(6) 飯盛川 洪水時に本川越辺川の水位が上昇し、その洪水が飯盛川に逆流し、浸水被害が発生していた。この浸水被害解消のために、逆流防止の樋門が、国によって整備された。今後は、築堤、河道拡幅等の河道改修と併せて、越辺川との合流点に、排水機場の整備を行う。
(7) 新江川 洪水時に本川市野川の水位が上昇し、新江川からの自然排水が困難となることにより、内水被害が発生している。このため、市野川合流点に樋門及び排水機場を整備する。
(8) 九十九川 洪水時に本川越辺川の水位が上昇し、越辺川から洪水が逆流することにより、浸水被害が発生している。このため、合流点の整備について、越辺川を管理する国と協力し、浸水被害の解消を図る。
(9) その他 沿川の状況の変化により必要に応じて護岸等を整備し、安全を確保するものとする。また、河岸の崩壊等被災箇所においては護岸工等適宜災害復旧工事を実施する。関係機関や地域と連携・協力しながら、身近に水辺に親しめる河川空間や動植物の生息・生育に配慮した河川環境の整備に努める。

・図2.1 河川工事の施工の場所
荒中右整備計画(県)200602_08

 3.2 河川の維持の目的、種類および施行の場所
河川の維持管理については、災害発生の防止または軽減、河川の適正な利用、流水の正常な機能の維持及び河川環境の整備と保全等の観点から、河川の機能が十分に発揮されるよう適切な維持管理を行う。
   (1) 堤防・護岸等の安全性の維持
   (2) 有間ダムの維持
   (3) 許可工作物等への適正な指導

 3.3 河川の機能の維持、保全等に関する事項
河川には様々な機能があるが、その機能が十分に発揮されるためには河川のみではなく、流域全体で様々な対策を講じることが必要であるため、関係機関や地域住民との連携、協力が必要である。
   (1) 洪水時の被害の軽減・河川情報の提供などに関する事項
   (2) 水質の保全及び改善
   (3) 河川の自然環境の保全
   (4) 親水利用・環境学習の場としての利用促進
   (5) 河川の美化
   (6) 市民団体、NPOとの連携
   (7) 水源地域の維持管理
森林の持つ水源かん養機能、土砂流出防止機能、保健休養機能等の公益的機能により、森林は河川の流量や水質、生態系等の河川環境に大きな影響を及ぼしている。今後、これらの公益的機能を高度かつ持続的に発揮させるために、森林の保全について、関係機関や地域住民とともに検討していく必要がある。
現在、埼玉県においては、「多様な機能をもつ森林の保全」として、間伐の推進や広葉樹林の整備推進、森林サポーターへの活動支援等、様々な施策を推進し、優れた自然景観や多様な生態系を持つ豊かな森林の整備を進めている。また、公共施設や公共工事での県産木材の利用を推進するなど、幅広い分野で県産木材の利用拡大を進めている。
今後とも、それらの施策に関係機関や地域住民とともに連携・協力していく。
   (8) 健全な水循環系の構築
   (9) 河床の保全
荒川流域にはダムや砂防堰堤等が多数存在する。砂防堰堤は下流への土砂供給をコントロールし、河床の上昇を抑える働きもあるが、一方で土砂の移動を制限するために、下流への土砂供給が減少し、場所によっては河床低下や河床材の変化により魚類等の生息環境へ影響を与えている。
現在、埼玉県においては、地すべり、崖崩れなどによる突発的あるいは過剰な土砂の流入を防ぐための保安林の整備や、自然な土砂の移動を妨げないための砂防堰堤のスリット化や、既設ダムの堆積土砂を河床の低下している下流部の河床材に活用するなど、様々な施策を推進している。
今後とも、それらの施策に関係機関や地域住民とともに連携・協力していく。
埼玉県の河川整備計画(埼玉県HP)