国総研レポート2019・No.18』(国土技術政策総合研究所、2019年4月)28~29頁に「気候変動を見据えた新しい治水フレーム」(河川研究部長天野邦彦)が掲載されています。
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2.将来気候予測
 将来気候予測は、基本的に地球全体を対象に3次元の計算を行う大機循環モデル(GCM)、GCMの計算結果を境界条件にして、一部の地域を対象により高解像度の計算を行う地域気候モデル(RCM)により行われる。日本のような地形が複雑な地域を対象とした気候予測においては、高解像度のRCMが有用であり、これまで水平解像度20km, 5kmの計算が行われてきているほか、2kmの計算も実施中である。将来気候予測は、いくつかのシナリオに基づいて行われる。IPCC第5次評価報告書では、気温上昇を産業革命以降2°Cに抑える低位安定化シナリオ(RCP2.6)、緩和策を行わず気温上昇が4°Cとする高位参照シナリオ(RCP8.5)などの4つのシナリオが選択されている。
 文科省気候変動リスク情報創生プログラムにおいて作成された解像度20kmで、過去3000年分、将来5400年分のアンサンブル計算を実施したデータベースd4PDFを利用し、全国109一級水系流域毎に、国総研で集計した結果、RCP8.5シナリオでは、21世紀末における豪雨による降雨量は全国平均で約1.3倍に増加するとの解析結果を得た。またこの結果を用いて、RCP2.6シナリオでは、約1.1倍に増加すると推定した。さらにこの結果を降雨条件として利用し、流出計算を実施することで、RCP8.5、RCP2.6シナリオの基で、治水計画規模の流量がそれぞれ約1.4倍、約1.2倍となること、この規模の洪水の発生頻度がそれぞれ約4倍、約2倍となることを示した(表-1)
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 気候変動による影響予測から見えてきたことは、現在の治水計画規模(生起確率)の豪雨規模が、2°C上昇の低位安定化シナリオにおいて、全国平均で約1.1倍と予測されると共に、洪水発生確率は約2倍と想定されたように、一見それほど大きくない豪雨変化であっても、洪水氾濫(水害)発生という観点では大きな変化が生じる可能性が高いということである。……

河川・海岸分野の気候変動適応策に関する研究(国総研プロジェクト研究報告第56号、2017年4月)
-「気候変動下での大規模水災害に対する施策群の設定・選択を支援する基盤技術の開発」の成果をコアとして-
わが国では、内閣府中央防災会議が設置した「大規模水害対策に関する専門調査会」が、荒川等での大規模氾濫がもたらす被害想定について幅広い検討を行い、「首都圏水没~被害軽減のために取るべき対策とは~」を2010年にとりまとめている(中央防災会議、2010)。ここでは、河川整備における治水長期目標を超える豪雨生起ケースを含む大規模水害の死者想定、地下鉄網への氾濫水の広範な侵入・浸水過程の再現などが行われ、これらを危機管理策によってどのように軽減できるかが調べられている。ハリケーン・サンディ災害の分析(国土交通省・防災関連学会合同調査団、2013)からは、実践され奏功した「タイムライン」というフレームの有用性が示され、我が国の危機管理手法にそれを採用する取り組みが始まっている。(187頁)

2)雨水流出抑制施設の設置等に関する条例(埼玉県)
 埼玉県では、高度成長期以降に急速に都市化が進展したことにより、特に地形的に浸水しやすい中川低地や荒川低地を中心に、甚大な水害が幾度となく発生している。このような状況に対し、水害の都度、災害復旧事業による再度災害防止対策を実施するとともに、予防保全的な治水対策が強力に推進されてきた結果、浸水戸数は着実に減少してきているものの、その整備水準は低く、依然として河川改修が進んでいない流域では浸水被害が頻発している。埼玉県は昭和43年より、1ha以上の開発行為の際に、調整池等の雨水流出抑制施設の設置を指導してきたが、流域における浸水被害対策を一層強化するため、行政指導の内容をより明確にし、公平性、厳格化を図るとともに、浸水被害の発生、拡大を抑制するために平成18年に「埼玉県雨水流出抑制施設の設置等に関する条例」を制定した(図-III.2.4.4.2.8 参照)。その内容は、1ha以上の開発行為に伴う流出増対応の調整池設置義務付け及び湛水想定区域(現在の河川整備状況を踏まえ、過去における洪水の状況を基に、湛水することが想定される区域として知事が指定する区域)での盛土の抑制等である。(253~254頁)

気候変動適応策に関する研究(中間報告)(国総研資料第749号、2013年8月)
⑤雨水流出抑制施設の設置等に関する条例(埼玉県)
 ⑤-1 埼玉県の概要
  埼玉県では、高度成長期以降に急速に都市化が進展したことにより、特に地形的に浸水しやすい中川低地や荒川低地を中心に、甚大な水害が幾度となく発生している。このような状況に対し、水害の都度、災害復旧事業による再度災害防止対策を実施するとともに、予防保全的な治水対策が強力に推進されてきた結果、浸水戸数は着実に減少してきているものの、その整備水準は低く、依然として河川改修が進んでいない流域では浸水被害が頻発している。
 ⑤-2 雨水流出抑制施設の設置等に関する条例
  近年、突発的・局所的な集中豪雨が発生していること、その発生が今後増加すると予想されることより、流域における浸水被害対策を一層強化する必要があった。そこで、雨水流出量を増加させる恐れのある行為及び過去の洪水状況を基に湛水することが想定される土地での盛土行為に関し、雨水流出抑制施設の設置等の必要な規制を行うことにより、浸水被害の発生及び拡大を防止し、もって県民の生命、身体及び財産の安全の確保に寄与することを目的として、埼玉県は平成18年[2006年]から「雨水流出抑制施設の設置等に関する条例」を施行した。本調査では、特に条例制定に至った背景・経緯等に着目し、文献・現地調査、関係機関へのヒアリングを行った。
 ⑤-3 調査結果概要
  昭和43年から 1ha 以上の開発行為などを行う者を対象に雨水流出抑制施設を設置するよう行政指導が行われ、流域での浸水被害対策の一層の推進のため、行政指導の内容をより明確にし、公平性、厳格化を図るとともに、浸水被害の発生、拡大を抑制するために条例を制定した。
  規制内容は、1ha 以上の開発行為などで、雨水流出抑制施設を設置しないと雨水流出量を増加させる恐れのある行為(「雨水流出増加行為」)をしようとする場合や湛水想定区域に盛土をする場合、雨水流出抑制施設の設置等の設置により浸水被害の発生・拡大を抑制するものである(図-II.1.1.1.10)。
  湛水想定区域とは、「現在の河川整備状況を踏まえ、過去における洪水の状況を基に、湛水することが想定される区域として知事が指定する区域」(条例第10条)とされ、区域及び想定湛水深を表示した「湛水想定図」が公表されている。(Ⅱ-12~14頁)