1月6日発売の『週刊東洋経済』は「病院が壊れる」を特集。再編を迫られる公立病院や、経営難に陥る民間病院の今を追っています。
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【第1特集】病院が壊れる
Part1 公立病院の苦悩
医師不足で「救急お断り」 市民病院の経営が危ない
今変わらなければ“突然死"も ニッポンの病院の正念場
「医療提供体制の見直しは必須だ」 厚生労働相 加藤勝信
無給医問題があらわにした医師の“超"長時間労働
毎年約400億円の赤字 都立8病院の経営難
中核病院建設に「待った」 財政難の新潟は大混乱
「点ではなく面で支える医療が必要」 慶応大学教授 印南一路
公立病院の赤字 累積欠損金ワースト150
[現地ルポ] 地域医療の牙城を守れる 日本赤十字病院の危機
「うそを重ねては再編が進まない」 日本病院会会長 相澤孝夫

Part2 民間病院の危機
東京の都心部でも安泰ではない 医療法人倒産はなぜ起きるのか
「地域密着では民間病院の出番」 医療法人協会会長 加納繁照
売却案件は引きも切らず 盛り上がる病院のM&A
「買収した東芝病院は3年で再建できる」 カマチグループ会長 蒲池眞澄
架空の売却話も飛び交う 病院に群がる怪しい人々
稼ぐ民間病院の実力! 医療法人ランキング150
債務超過の三井記念病院 外来患者が増える順天堂
厚生労働省は2019年9月末、「再編統合について特に議論が必要」として、自治体病院や日赤病院など424の病院名を公表しました(日本経済新聞電子版『424病院は「再編検討を」 厚労省、全国のリスト公表』2019/09/26 15:10)。埼玉県では、蕨市立病院、地域医療機能推進機構埼玉北部医療センター、北里大学メディカルセンター、東松山医師会病院、所沢市市民医療センター、国立病院機構東埼玉病院、東松山市立市民病院ですが、指名された病院や自治体に波紋が拡がっています。
特集PART1・公立病院の苦悩には、「再編・統合が進まぬ現実 医師不足で「救急お断り」 市民病院の経営が危ない」(井艸恵美記者)があり、東松山市立市民病院と東松山医師会病院がとりあげられています。
市民病院と医師会病院は「再編・統合を検討すべき」
 東京都内から電車で1間弱ほどに位置する埼玉県東松山市。東京のベットタウンにもなっているこの町で、2つの病院が揺れている。東松山市立市民病院(114床)と東松山医師会が設立する東松山医師会病院(200床)が、再編・統合を検討すべき病院の対象になったのだ。
 厚労省はがんや心疾患などの高度医療について「診療実績が特に少ない」、または「近くに類似した機能の病院がある」を基準に分析。2病院が再編対象になった理由は、病院同士の近さだ。人口9万人規模の東松山市だが、車で10分ほどの距離に総合病院が2つある。しかも複数の診療科が重複しているからだ。
 再編対象リストが病院への予告なしに発表されたことで、名指しされた全国の病院からは反発の声が上がっている。突然再編対象とされれば黙っていられないのは当然のはずだが、東松山市立市民病院の杉山聡院長からは「私としては納得した」と意外な答えが返ってきた。
 「赤字が膨らみ、このままでは当院の経営を続けていくことは厳しい。同じような機能を持つ2つの病院が統合再編か役割分担を検討しなければ共倒れになり、東松山市の医療体制は崩れてしまう」 
 東松山市立市民病院は慢性的な赤字体質で、2018年には1.8億円まで経常赤字が膨らんだ。経営が傾いた最大の原因は医師不足だ。日本大学の関連病院としてかつては多くの医師が送り込まれていたが、2004年から初期研修が行える施設が大学以外にも広がり、大学の医師が減少。同院への派遣は引き上げられ、2003年に30人ほどいた医師が4年後は半減。一時は診療時間外の救急診療を停止する事態に至った。
 現在は医師15人体制となり、時間外救急も再開しているが、体制は十分ではない。常勤医師の高齢化で、2人いる内科医は60歳を超えている。当直の半分は非常勤医師で賄うが、救急の要請があっても断らざるを得ないこともある。救急の受け入れ率は年々低下し、収益も右肩下がりだ。
 2019年4月に着任した杉山院長は経営改善策を講じているが、医師不足解決には見通しがつかない。「医師を派遣する大学へ人数を増やしてくれるよう要請したが、十分な供給は得られていない」。
 こうした苦境は東松山市立市民病院だけではない。東松山医師会病院も「医師の確保が課題だ」と答える。救急体制の整った中核病院がないことから、東松山市を含む比企地域は約3割の患者が他の地域の病院へ搬送されている。川越市や都内の大病院までは30分ほどかかるため、患者にとってのデメリットは大きい。
 医師不足と救急体制の手薄さを解決するには重複した診療科を整理するか、統合で医師を1つの中核病院に集めるしかない。こうした意見は市内の関係者の間でささやかれていたが、公言されることはなかった。しかし、「統合」についてパンドラの箱を開けたのは医師を派遣する埼玉医科大学総合医療センターの堤晴彦院長だった。
 厚労省の発表後初めて同市の医療関係者が会した会議の場で、堤院長は「2つの病院から医師を出してくれと言われても難しい。400床規模の大病院を作ってもらったほうが派遣しやすい」と語った。
統合は前途多難
 しかし、統合は前途多難だ。先の会議の場で前出の東松山市立市民病院の杉山院長は「医療体制を崩壊させないために再編の議論をうやむやにしてはいけない」と危機感を訴える。その一方、東松山医師会病院の松本万夫院長は、「(統合して)大きな病院をつくるのは地域にとってはいいことだと思うが、現実化するのかは希望が薄い。2つの病院の性格が明らかに違う」と口にした。
 一般的な外来診療を行う東松山市立市民病院に対し、東松山医師会病院は医師会が設置者で地域の医師会会員である開業医からの紹介により患者が来る仕組みだ。県内の医療関係者からは、「東松山医師会病院は病院長とは別に東松山を含む比企地域の医師会長がいる。誰が主導しているかあいまいで院長が手腕を振るのは難しい」と話す。
 経営主体が違う病院同士の話し合いが難航するのは目に見えている。しかし、現状を放置し続けても医師不足は解消されない。2つの病院とも立ち行かなくなれば、困るのは住民だ。
 こうした問題は東松山市だけではない。国は地域医療を充実させる「地域医療構想」を掲げ、地方自治体に対し病院再編や病床機能の転換を進めるように促しているが、一向に進んでいない。厚労省が再編を検討すべき病院を公表したのは、「(反発が起こることは)ある程度想定した上でのショック療法だった」(複数の医療関係者)という見方が強い。[以下略]
※東松山市立市民病院、東松山医師会病院については、
川越比企保健医療圏地域保健医療・地域医療構想協議会(埼玉県HP)の「第1回 川越比企保健医療圏地域保健医療・地域医療構想協議会」(2019.03.06)の資料1-1
「東松山市立市民病院 ~新公立病院改革プランと当院の将来像~」(森野正明院長)37~42
「東松山医師会病院2025プラン」(松本万夫院長)51~57