日本林業技術協会編『森と水のサイエンス』(東京書籍、1989年)を読みました。執筆者は中野秀章・有光一登・森川靖氏で、100不思議シリーズの1冊です。日本森林技術協会デジタル図書館に、PDF版がUPされています。

森と水のサイエンス』 目次
1 減りもせず増えもしない地球の水
   どこにどれだけの水があるか
   たえず循環する水
2 限りある貴重な資源
   すべての生命に不可欠な水
   限りある水資源
   地域と季節で異なる水の量
   水の循環と森林
3 森林に降る雨の行方
   森林に降り注ぐ雨
   林冠などによる降水の遮断
   浸透と流出
   森林植生による蒸散
   川の流れを調整する森林
4 土の中の水の動き
   森の土は水を吸い込む―土壌の種類と保水力
   地被や土壌による浸透能(水の吸い込み方)の違い
   土壌の保水力
   土壌のすき間と水の流れ
   森林の土は水をきれいにする

5 樹木の生育と水
   生命の井戸水
   植物の水吸収と土壌の水
   植物の水経済
   湿度を考える―湿度60%は乾いている
   蒸散量はどう測るのか
   蒸散―1日に30トン
   蒸散量の多い月は、年間の蒸散量は
   間伐や技打ちによって蒸散量は減るか
   蒸発と蒸散は本当に同じか
   水の吸収と移動― 100メートルも昇る
   水移動の経路―壁の中、管の中を水は流れる
   水と成長
6 森林の水保全上の役割
   森林の水保全機能とは
   水の流れをならす森林の土
   森林の状態と水の流れ
……河川流量の平準化をもたらす森林土壌の機能こそが、その森林土壌を生成し、維持する、森林のいわゆる水源かん養機能と治水機能の本質といえる。(119頁)
   うまい水もつくる森林の土
   森林による水の消費

7 水保全機能の高い森林
   単純より混交、若齢より高齢がものをいう
 水保全にかかわる森林の役割とは、自然の節理にさからわない範囲で、蒸発散量をなるべく少なくし、降水の流出を平準化するとともに流出する水の質を良好・安定に保つことといえる。
 この両機能を果たす中心舞台は森林土壌であり、浸透・透水性にすぐれ、かつ厚い土層を保持している森林こそ水保全機能の高い森林といえる。概念的には、すでにある森林土壌を確実に保全し、かつ将来に向けて、なお、着実に水に関する特性の改善を進めている森林といえる。言い換えれば、地表浸食や崩壊などから森林土壌を守る機能が大きく、かつ浸透・透水性を改善する機能の大きい森林植生、すなわち、強じんな根系を深くかつ偏りなく網のように張り、崩壊防止に対する杭効果とネットワーク効果が高く、林床には落葉層や低木・下草が豊かで安定しており、地表浸食防止に効果が高い森林である。同時に有機物の供給と土壌動物・微生物の生息促進によって土壌の団粒構造など、孔隙性を維持・改善する効果の高い森林が、将来性を含めて機能の高い森林といえよう。具体的には当該地域を適地とする複数の樹種・草種から成り、老齢に過ぎない範囲で高齢の大径木を主林木とし、樹齢・樹高もさまざまで、生態学でいう樹体の現存量が大きく、生態系として安定した生命活動の盛んな地域適応型の混交・複層林である。(126~127頁)

   混交社会の構成要員
 水保全に望ましい具体的樹種についていえば、個々の樹種に水保全面からみた特徴が認められることは事実である。まず、森林土壌の維持・改善にとって重要な根系についてみると、土壌条件などについての同じ比較条件下で、主たる根を垂直方向に張り、比較的深い土層にも根量のある深根性樹種と、主たる根を水平方向に張り、比較的深い土隔には根量の少ない浅根性樹種がある。前者の代表的樹種は、針葉樹ではアカマッ・クロマッ・スギ・モミ・ヒメコマッなど、広葉樹ではコナラ・ミズナラ・クヌギ・ケヤキ・クリ・トチなどである。後者の代表的樹種は、針葉樹ではヒノキ・カラマツ・サワラ・ツガ・トウヒ・エゾマツ・ヒバなど、広葉樹ではブナ・シラカシ、ニセアカシァ・ヤマハンノキなどである。同じ深根性・浅根性樹種といっても、根系の平面的張り方にも樹種による個性がみられ、一般に樹冠の投影面積の数倍程度に張るとみられる。例えば浅根性樹種でかなり広いものや、深根性樹種で相対的には広くないもの、あるいは斜面の上下、水平のいずれかの方向により広く張るものなどがあり、これも土壌保持の面で無視できない。
 土壌改良に重要な落葉などの有機物の供給能力についてみると、同じ比較条件下で樹種間に差が認められる。常緑針葉樹林は落葉樹林よりも多く、同じ常緑針葉樹林でもスギはマツやヒノキよりも多い。さらに、土壊改良に重要な土壌動物・微生物の生息についても、一般に針葉樹人工林は天然林より、若齢林は高齢林より、そして、構成樹種の単純な森林は複雑な森林より種類数も個体数も少ないといわれている。
 一方、降水遮断についてみると、細かい葉が小枝に密に着生して、単位面機当たりの葉量が大きく小枝が密にまとまった樹冠をもつ針葉樹類は、これらより比較的大きい平滑な葉を疎に着生する広葉樹類より一般に遮断作用が盛んである。また、同じ樹種でも、当然ながら、林冠の疎開した幼齢林や高齢林より、生育旺盛な青年期・壮年期の森林で大きい。さらに細かくみれば、例えば、ブナなどの広葉樹のうっ閉した壮齢林では雨水の一時保留作用が大きく、また樹体構造の関係などで樹幹流下雨量が多いため、激しい降雨の林床への衝撃的直達を避け、降水を穏やかに林床に導くといった働きにも特徴がみられる。蒸散作用についても降水遮断とほぼ同様なことがいえる。
 以上を総合すると、スギやブナなどは他に比べて一応水保全上すぐれた樹種と考えられるが、詳細に個々の特性についてみれば長所も短所も混じえており、すべての樹種についても同様なことが考えられる。結局、個々の特性について水保全に望ましい樹種があり、これを総合して相対的に優位な単独樹種を選定することはできるものの、絶対的な単独樹種はないといえよう。つまり、望ましい個別特性をもつ樹種の単純林ではなく、混交・複層林でそれぞれの個性が補強され合って全体機能が高くなる。(133~135頁)

 何よりも、健全で確実な生育を保持する森林でなければ、機能を発揮し得ない。したがって、当該地を本来適地とする複数の樹種の高齢木を中心とする混交・複層林で、地上部・地下部ともに充実し、活力ある生態系としての森林こそ、最も水保全機能が高い森林といえよう。(136頁)

8 降水による災害と森林
   洪水害
   山崩れ
   土石流
   地すべり
   なだれ
9 むすび

用語解説
混交林:2種類以上の樹種からなる森林で、単純林に対するものである。ただし、林業に関係のない下木の類は考えにいれない。また、数種類の林木からなる森林でも、その大部分が一樹種であるときは、単純林として取り扱う。混交林は性質の異なった樹種、例えば針葉樹と広葉樹、陰樹と陽樹、浅根性の樹種と深根性の樹種などが適当に配置されることによって、林地の生産力を十分に活用することができ、林木相互の競争が柔らげられるので、林木が健全に育ち、木材の生産量も多いと主張されている。害虫・菌類・暴風・山火事などに強い樹種が混ざることによって、これらの害が発生しても急激に広がることが防げ、天敵の繁殖にも好適であり、諸害に対する抵抗性も強い。(168~169頁)

複層林:人工更新により造成され、樹齢、樹高の異なる樹木により構成された人工林の総称。一斉に植栽され、樹齢、樹高がほぼ同じ森林に対する語。一部の樹木を伐採しその跡地に造林を行うことの繰返しにより造成される。(174頁)