ヨハン・ロックストローム、マティアス・クルム『小さな地球の大きな世界 ープラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発 ー 』(原著は2015年発行。監修:武内和彦、石井菜穂子、訳:谷淳也、森秀行 ほか。丸善出版、2018年)。プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)は、2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)の基礎となった概念。著者のロックストローム博士はこの概念を主導する科学者グループのリーダーです。

プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)とは?
人間の活動が地球システムに及ぼす影響を客観的に評価する方法の一つに、地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)という考え方があります。地球の限界は、人間が地球システムの機能に9種類の変化を引き起こしているという考え方に基づいています。この9種類の変化とは、①生物圏の一体化(生態系と生物多様性の破壊)、②気候変動、③海洋酸性化、④土地利用変化、⑤持続可能でない淡水利用、⑥生物地球化学的循環の妨げ(窒素とリンの生物圏への流入)、⑦大気エアロゾルの変化、⑧新規化学物質による汚染、⑨成層圏オゾンの破壊です。これらの項目について、人間が安全に活動できる範囲内にとどまれば、人間社会は発展し、繁栄できますが、境界を越えることがあれば、人間が依存する自然資源に対して回復不可能な変化が引き起こされます。
生物地球化学的循環、生物圏の一体性、土地利用変化、気候変動については、人間が地球に与えている影響とそれに伴うリスクが既に顕在化しており、人間が安全に活動できる範囲を越えるレベルに達していると分析されています。
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(2017年版『環境・循環型社会・生物多様性白書』第1部・第1章地球環境の限界と持続可能な開発目標(SDGs)第1節持続可能な開発を目指した国際的合意 -SDGsを中核とする2030アジェンダ-)

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小さな地球の大きな世界 プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発』目次
序文 変革への協力関係
 生き方への二つのアプローチ
 新しい物語

重大な10のメッセージ
 1.目を開こう
 2.危機は地球規模で差し迫っている
 3.すべては密接につながっている
 4.予期せぬことが起こる
 5.プラネタリー・バウンダリーを尊重する
 6.発想をグローバルに転換する
 7.地球の残された美しさを保全する
 8.私たちは状況を変えることができる
 9.技術革新を解き放つ
 10.大事なことを最初にする

第一部 偉大なる挑戦
 第1章 新たな苦難の時代
  人新世にようこそ
  すべてが互いにつながっている
  地球を守る緩衝材

 第2章 プラネタリー・バウンダリー
  九つプラネタリー・バウンダリー
  プラネタリー・バウンダリーの現状
  ここからどこへ向かうのか?

 第3章 大きなしっぺ返し
  南極大陸:弱々しい兄貴分?
  地球からのメッセージ……「支払期限」
  崖っぷちの生物多様性
  サンゴ礁:気候変動における「炭鉱のカナリア」
  青天の霹靂?

 第4章 あらゆるものがピークに
  水圧破砕による石油・天然ガス採掘の問題
  リンのピーク
  何のピークも恐れなくてもよい世界

第二部 考え方の大きな変革
 第5章 死んだ地球ではビジネスなどできない
  問題の兆し
  地球が世界の経済を支えている
  狼、樹木、そしてマルハナバチ
  CSRはもう死語だ
  新しい物語

 第6章 技術革新を解き放つ
  技術革新の新しい波
  世界のエネルギー・システムを脱炭素化する
  すべての人のための持続可能な食料生産の増強
  循環経済への変革
  回復力のある都市の構造
  持続可能な交通手段
  想像力を解き放つ
  政策的手段
 この新たなパラダイム、すなわち、安定的で回復力のある地球とともに発展する世界のコミュニティを作るために、革新や技術、協働、そして普遍的な価値が結び付くというパラダイムを作るのに必要なものは何だろうか?そのために、私たちは以下の領域で、包括的な政策手段を構想している。

 1.地球上の安全な機能空間を世界的に規制すること:生物多様性の損失率をゼロとし地球温暖化を2℃以内にとどめることなど、世界の発展のための科学に基づく地球の持続可能性に関する基準に基づいて規制すること。
 2.地球に残された生物物理学的な余地空間を公平に分け合う方法について世界的に合意すること:鄭玄のある地球上の炭素排出量の配分、土地利用の配分、窒素とリン排出量の配分、また淡水利用量の配分に関する責任を分担すること、および残された重要な森林システムの保全や生物多様性の損失を食い止めるのに合意することを含む。
 3.世界的な炭素価格制度を導入すること:二酸化炭素1トンあたり少なくとも50ユーロ(60米ドル)が必要。
 4.政策的手段とガバナンスのあり方に幅広い多様性を許容すること:提携や誓約、市民運動、アクティビズムなどの「ボトム・アップ」の活動が、世界の国々や地域のガバナンスや組織的な統合など「トップ・ダウン」の取り組みと組んで発展すること。
 5.「GDPを超えて」成長と進歩に関する新しい基準を定義すること:進歩を測る新たな指標と環境志向の経済発展の概念を基礎にして構築する。
 6.対応能力の開発に莫大な投資をすること:世界の途上国への自由な技術移転と「第二の機械時代」を本格化するのに必要な大きな投資資金を含む。(153頁)

第三部 持続的な解決策
 第7章 環境に対する責任の再考
  新しいゲームのルール
  新しい緑の色合い
  計測することの重用性
  グローバル・コモンズに別れを

 第8章 両面戦略
  パワー・アップ
  新しい緑の革命 三つの課題
  青い大理石
  賢い投資

 第9章 自然からの解決策
  ウジを好きになる
  展望と解決策をつなげる
  実効性を確保するために

あとがき 新たなプレイ・フィールド

写真に関する補足情報
主要な出典および参考文献
著者紹介
謝辞
※監修者・武内和彦さんの本書紹介から(『UTokyo BiblioPlaza』HP)
地球に限界があることを指摘したのではない。プラネタリー・バウンダリーの範囲内でこそ、持続可能な経済や社会の成長と繁栄が保障されうるとの提案

ロックストロームらがプラネタリー・バウンダリーの概念を提唱した目的は、単に人間活動の加速化が地球システムの限界を超えるリスクを増大させていることに警告を発することにとどまるものではない。そうした限界を十分把握したうえで、人間活動をいかに回復力があり安定した生物物理的な「安全な機能空間」に収れんさせていくか、という新しい方向性を導こうとしているのである。この考え方は、かつてローマクラブが提唱した「成長の限界」とは一線を画している。むしろ、プラネタリー・バウンダリーの範囲内でこそ、持続可能な経済や社会の成長と繁栄が保障されうるとの提案である。この考え方は、国連が採択した2030年までの持続可能な開発目標 (SDGs) の捉え方にも大きな影響を与えている。すなわち、環境に関する目標の達成が、社会や経済に関する目標を達成するための大前提となるとの考え方である。