『朝日新聞』埼玉版(1986年1月7日)の記事です。「宮山台の森」は、1985年に行われた21世紀に生きる子供たちに残したい「埼玉の自然百選」(朝日新聞社・埼玉県・財団法人森林文化協会主催、環境省、県教育委員会など後援)で、全投票数423万票中、37万票を獲得して2位選出されました。現在、日立製作所の基礎研究センタ(鳩山町赤沼2520番地)があります。


自然と人と 100選の舞台で 2
 工業団地推進する町
  環境の圧壊恐れる住民

 比企丘陵のうねりが南に向かい、なだらかに関東平野にとけ込む。そのすそのに、宮山台の森はある。コナラ、アカマツの尾根に浅い谷が小川と田んぼをつくっている。40ヘクタールの森にはサンコウチョウ、サシバ、タヌキなどの生き物が豊かに暮らす。

 この森の開発をめぐって、鳩山町と鳩山ニュータウンの住民たちが2年近くも対立を続けている。周辺の林を含めて100ヘクタールに及ぶ工業団地を造りたい町。環境の悪化を恐れる住民。
 「こんばんは。栗を持って来ました」。自然100選の応募が始まると、毎週火曜日の夜、きまって伊藤建三さん(45)が朝日新聞支局を訪ねてきた。ニュータウンの住民組織、鳩山町住民集会実行委員会のひとりだ。岩槻の勤め先からの帰りに、住民の応募票をまとめて届け、新しい応募用紙を受け取って行く。
 岩槻から引っ越して来て10年になる。「当時は生活には不便だったけれども、この自然環境には代えられないと思って」。家庭菜園を借りて無農薬野菜を作った。2人の子供と、森へよく遊びに行った。自然の中で体を動かす喜びにひたった。
 鳩山ニュータウンも、山を切り開いた住宅地だ。「自然破壊の上に住んでいるくせに」。「東京ばかり向いて、地元のことを考えていない」。そうした批判は、伊藤さんも知っている。「でも、土地が高騰している中で、よい環境を求め、必死になって探したのがここなんです。町民の半数を超えるニュータウン住民が工業団地はいらないと言っているのに、それでも強行するのが町のためなんでしょうか」

 宮崎得一町長(51)は、朝5時半に起きて牛の世話をする。代々、この地の農家だ。「昔はずっと乳しぼりをやっていましたから、ほら手がこんなですよ」。指先は、武骨に太く広がっている。
 「いま町には産業と言えるものがほとんどない。人口も増え、将来を考えると企業の誘致は絶対に必要です」
 町長は、ことばを続ける。「私だって緑は大切だと思う。しかし町の面積のうち緑地は約7割。その10分の1にも満たない土地を、町の将来のために開発することは許されるでしょう。工場を建てるといっても緑地は3割以上残すし、公害は厳しくチェックします」

 宮山台の森は、国有林だった。だが、昨年暮れも押しつまった12月18日、日立製作所に払い下げられた。
 3日後、応募票の集計結果が発表された。「宮山台の国有林」は、37万7660票で、第2位だった。

宮山台の森(鳩山町)
あし 東武東上線高坂駅から鳩山ニュータウン行きバスでニュータウン中央バス停下車。徒歩約5分で、森の外縁につく。
  『朝日新聞』埼玉版(1986年1月7日)