1960年に『関東東山農業試験場研究報告』第17号に掲載された野島数馬さんの「水田の中耕に関する研究」は、「中耕は脱窒防止、雑草の発生防止、除草の3効果が主体で、それ以外の生育促進効果は認められないとし、端的には中耕には除草以外の効果のないことを明確に示した」(『昭和農業技術発達史第2巻水田作編』199頁~200頁)と評価されている。

永田 恵十郎さんの「稲作灌漑の農法的性格」(『水利科学』36号、1964年)の注23(同書130頁ー131頁)では、以下のように評価されている。
野島数馬氏は、江戸時代以降の中耕効果説の内容を、中耕にともなう地水温、土壌の PH、 Eh価、ガス量特に酸素、 NH3-N 虫などの変化、除草の効果、断根による養分吸収 ・生長の変化等に整理したうえ、室内 ・圃場場実験等でそれぞれ検討したところ、中耕は脱窒防止作用と除草および雑草発生防止の三作用の効果はあるが、他については在来の諸説のいうような効果は、ほとんど、あるいは全く認められないことを確認された。
 このうち 、脱窒防止作用も、田植後 10日目頃以降では、ほとんど消滅する点から、全層施肥による脱窒防止の方が合理的であり、結局中耕の効果とは、土壌の反転攪乱の効果ではなく、除草と雑草発生防止の効果であったと判断し、 「雑草の発生が実用的に無害の段階まで抑制され、かつ、肥培法が改善されるならば、中耕は全く不必要な作業として水田から完全に排除されるであろう」と主張される。
 また、除草用具の発達との関係では「中耕効果説の土壌攪乱効果が牢固とした信念となっていなかったならば、既に早く除草専門の農具が発達していたに違いない。八反摺のような除草専門の農具の普及が案外伸びず、雁爪打から土壌の反転にかなり重点のおかれた爪の長い回転除草機へ発達した経過のなかには、能率 ・その他の問題はあったにしても 、以上のような事情が介在したのではな いかと推察される」と述べている 。
 さらに、今後の除草技術の方向としては、 (イ )「施肥法は合理的に行なわれているが、雑草の抑制が不充分である段階においては、 なお機械的除草が必要であるならば、その時の除草機は中耕除草機である必要はなく 、除草専門の機械であればよく」、(ロ)さらに、除草剤については、現在完全かっ安全な除草剤がないため、なお機械除草との併用が必要だが「農薬研究の発迷速度から将来を予想すれば、あまり速くない将来において、より理想的な除草剤が発明されることは疑う余地がない」とされている。
 以上のような野島氏の見解からもわかるように、既往における除草技術は経験技術としての中耕効果説として結びついて 、中耕-水田土壌の反転作業と結びついた多目的的複合作業として、つい最近まで一般化しており、それがまた除草用具の機能を中耕除草機として規定して 、除草専門用具の発達を押えていたのである。
 また、かかる性絡をもっ中耕除草技術は、施肥法、肥料の種類等の施肥技術のあり方と水準とも結びついており、その意味では水稲栽培技術体系を構成するー技術要素としての施肥技術の発展変化-例えば、全層施肥の一般化-によって、中耕による生育初期の脱窒防止作用の目的は後退し、したがって、そこから 、中耕作業と結びつかない単一目的の除草作業が、一方における除草剤の開発とも関連して、普及することになる。そしてかかる一連の変化のなかで水の雑草防除効果も、当然影響をうけてくることは容易に考えうるのである。要するにこうした事実を通じても、本章の当初に設定した論理的命題-個々の技術の発展変化による栽培技術体系の内容変化、 それにともなう他の技術要素に与える連鎖的変化-の妥当性を一応確認できるのである。
※野島数馬 「水田の中耕に関する研究」の総括及び結論(『関東東山農業試験場研究報告』第17号、109~111頁)
総括及び結論・水田の中耕に関する研究(野島数馬)
総括及び結論・水田の中耕に関する研究(野島数馬)2総括及び結論・水田の中耕に関する研究(野島数馬)3