佐賀県唐津市の虹の松原は三保の松原(静岡市清水区)、気比の松原(福井県敦賀市)とともに、日本三大松原の一つに数えられています。長さが4.5km、幅が500m前後、226haもの広大な面積を持つ松林で、松の本数は約100万本にも及びます。電気やガスの普及以前には家庭用の燃料などとし て利用するために頻繁に松葉かきが行われていましたが、その必要がなくなるとともに松葉は放置されるようになり、2005年頃には厚さ30~40㎝の腐植層を形成して松 の生育に悪影響を与えるようになりました。松葉や枯れ枝の年間落下量は1㏊当たり5トン、全体で1000トンという概算もあります。
現在、松ぼっくり・枯れ枝拾い・松葉かき・除草などの作業をおこなうことにより、白砂青松の環境を取り戻そうという松原再生活動が広がり、集められる松葉や枯れ枝も増加しています。そこでこれらをゴミとして片づけるのではなく資源として活用できないかということで、様々な利用方法が試めされ、実施されるようになりました。
虹松原クリーン大作戦(佐賀県・唐津市)松葉かきチラシ(福井県・気比松原)

松葉の利用
「さまざまな落ち葉を堆肥に利用していますが、マツなどの針葉樹の葉はできるだけ混入しないように」している植物園もあり、「松葉は C/N 比50~60と炭素成分が多く、堆肥になるのが遅い上に、松葉で作った堆肥は酸性であるため注意して用いなければならないので、一般的な堆肥として使うのには不向きである」といわれていますが、唐津市では、たばこ農家が苗床としたり、油粕と混ぜて堆肥として活用しています。唐津市は全国葉たばこ販売代金上位7位、佐賀県の葉たばこ栽培農家数、栽培面積の9割強の実績(2014年)がある葉たばこ栽培の盛んなところで、葉たばこ農家が堆肥として使う松葉の調達先の大半は虹の松原からです。

※小林恒夫「東松浦半島(上場台地)における葉タバコ栽培用堆厩肥原料の構成と流通」(佐賀大学海浜台地生物環境研究センター(現在は佐賀大学農学部附属アグリ創生教育研究センター)『Coastal bioenvironment』7、2006年)
虹の松原は国有林であるから、西九州たばこ耕作組合玄海支所は森林管理署との間で毎年、松原250ha中180haにおいて一定分量の松葉の採集契約を結んでおり、その中でゾーニングによって同耕作組合所属の各地区での利用が行われている。各地区にゾーニング配分された区域での松葉採集方法は地区ごとに異なっており、呼子町、唐津市、肥前町の各地区では所属する葉タバコ栽培農家全員、あるいはその中の一定メンバーによる共間作業による採集が行われている。また、個人での採集作業も少なくない。ともに年末、年始の休みを削つての忙しい作業である。
堆肥原料使用たばこ農家数地区別堆肥原料使用状況

松葉の調達先松葉採集作業様式
表1~3にある市町村(呼子町・唐津市・鎮西町・玄海町・肥前町)は、玄海町を除いて1市3町で合併し、2005年1月から唐津市となりました。

※「農業との連携による松原保全-堆積松葉の利用-」(『虹の松原七不思議の会』)
タバコ農家による松葉の利用
 25年ほど前から、虹の松原では全面積230haのうち180haの松葉が 唐津市周辺のタバコ農家によって収集され利用されている。
 その方法は以下のとおりである。
 まず12月頃に松葉を収集しやすくするために除草しておく。次に1月頃に松葉を採取する(写真)。採取後1年間は苗床(子床)として使用し(写真2略)、その後1年かけて堆肥化して土壌改良材として利用している。
タバコ農家の松葉採取
 時々 ボランテイア活動で松葉かきをしてたまった松葉を収集に行くこともあるが、多忙な時は行けないこともある。
 苗床は20~25℃程度にする必要があるので、電熱線を利用することもあるが、松葉で苗床を作ると、昼間の太陽からの輻射熱を吸収、蓄熱して、夜間の温度の低下を防ぐ作用によって、適温に保つことができる。
 次年度は、苗床から松葉を出し、それに油かすや草、カヤ、アシ、麦わら、常緑樹の落ち葉などを混ぜて、発酵させて堆肥を作る(このとき40℃近くになることもある)。
 ゴルフ場の松葉には芝も混じっているので、発酵がすすむが、これだけでは良い堆肥はできないので、油かすや牛糞を加えると3ヶ月早く、良い堆肥ができる。

注1.松葉1トンにつき油粕を20kg入れて、水を加える。ビニールシートをかけて15回ほど切り返すと良い堆肥が早くできる。
注2.松葉を利用するようになる以前は、カヤ、わら、ヨシなどを刈り取って、使用していたが、採取場所も少なくなったために、今は安定的に採取できる松葉を利用している。
注3.松葉に何も加えずに3年間自然条件下に置いたものは肥土(ラン栽培に適している)として利用している。
注4.地表面に樹木、草、こけなどがあると、松葉かきが困難であるので、松葉だけが砂地に堆積していれば、容易に採取できる。また 一カ所に収集してあれば、非常に助かるとのことであった。
注5.松葉のC/N比は50~60あり、炭素成分が多く、堆肥になるのが遅い、また松葉でつくった堆肥は酸性であるので、注意すること。