埼玉県生態系保護協会東松山・鳩山・滑川支部主催『森林を脅かす太陽光発電を考える ―遊休地・休耕地・山林の活用法― 』に参加①の続きです。

第1部講演:辻村千尋氏(日本自然保護協会保護室室長)「急増するメガソーラー問題」
・各地でメガソーラー開発が軋轢を生んでいる
・現状では太陽光発電事業は環境影響評価法の対象事業となっていないので、環境アセスをする必要がない。
・自治体独自で太陽光発電事業を環境アセスの対象とする条例をつくっているところもあるが、国と同様に対象としていない自治体も多くある。
・もともと森林だった場所を太陽光発電のために皆伐して違う環境に変化させることは、本来、地球温暖化という生物多様性への危機に対しての対策のはずであったものが、開発という行為による生物多様性への新たな危機になってしまうという本末転倒の事態を生み出している。
・メガソーラー開発は、環境影響評価法の対象とするべきである。日本自然保護協会は環境影響法の抜本的改正が必要だと考え、環境省や立法府への働きかけを行っているが、すぐには実現できない。
・そこで、自治体に対して、開発に際しての地域住民との合意形成プロセスを義務化する条例を制定するよう働きかけをすることを提案する。
(出席者に配布された『自然保護』№566、2018年11・12月号掲載辻村「急増するメガソーラー問題」から)

第2部講演:中安直子(日本ナショナル・トラスト協会総務部長)「ナショナル・トラスト運動」
・アマミノクロウサギ・トラストについて
  アマミノクロウサギ・トラスト・キャンペーン経過報告その1
  アマミノクロウサギを守る特別キャンペーン 目標達成!


※「地域自然資産区域における自然環境の保全及び持続可能な利用の推進に関する法律」(「地域自然資産法」、2015年4月1日施行)
地域自然資産区域における自然環境の保全及び持続可能な利用の推進に関する法律(平成27年法律85号)(以下「地域自然資産法」)は、地域における自然環境の保全や持続可能な利用の推進を図るため、入域料等の利用者による取組費用の負担や寄付金等による土地の取得等、民間資金を活用した地域の自発的な取組を促進することを目的として、議員立法によって平成26年6月25日に制定され、平成27年4月1日に施行されました。
この法律により、都道府県又は市町村は、協議会を設置し自然環境の保全及び持続可能な利用の推進に関する地域計画を作成することができ、その計画に基づいて、入域料等を経費として充てて行う「地域自然環境保全等事業」や、寄付金等による土地の取得等(自然環境トラスト活動)を促進する「自然環境トラスト活動促進事業」を行うことができます。
都道府県又は市町村が民間団体や土地の所有者等の多様な関係者と合意形成を図り、このような取組を進めることで、地域社会の健全な発展にもつなげていくことを目指しています。

※※日本ナショナル・トラスト協会「地域自然資産法」に関する意見書(2014年5月14日)
平成26年5月14日 自由民主党環境部会長 片山さつき様
「地域自然資産区域における自然環境の保全及び持続可能な利用の推進に関する法律案」に関する意見書
     公益社団法人日本ナショナル・トラスト協会会長池谷奉文
日本の自然環境保全に関する先生の多大なご貢献に、平素敬服しておりますことを、先ず述べさせていだきます。
さて本日は、公表されましたトラスト活動と関係がある標記法律案について、懸念する点があり、意見を述べさせていただきます。
わが国のトラスト活動は、1964年、鎌倉・鶴岡八幡宮の裏山に、宅地造成が計画されたことをきっかけとして、鎌倉市民が立ち上がり、土地確保のための募金活動を開始したのが始まりといえます。その後、知床や天神崎、小清水、柿田川などにおける活動に引き継がれ、現在では全国50以上の地域で、トラスト活動が展開されるに至っています。わが国のトラスト活動は、行政が先ず責任をもち「税金」で自然環境等の保全を行うべきところを、それが難しい場合に、市民が中心となって必死に「寄附金」を集め、持続可能な社会の創造に資するため、危機にある自然環境等を買い取り等により守ってきた取り組みということができます。
鎌倉の大佛次郎氏や天神崎の外山八郎氏をはじめ、地域で懸命にトラスト活動に取り組んできた先駆者の精神を忘れず、この大切なトラスト活動を進めていくことが、これまでの50年の歴史を振り返り、いま、改めてそれが私たちの重要な使命と考えます。
こうしたなか公表されました標記法律案ですが、地域にとって重要な自然環境については、他の社会資本同様に、まずは「税金」でその保全をしっかりして進めていくことを地方自治体に強く促すべきところを、逆に、市民等からの「寄附金」で保全していくことを地方自治体に促す法律となってしまっているなど、問題がいくつかあります。
この法律が制定されますと、長年にわたり努力してきた地方の各民間団体において、寄附金集め及び土地取得が困難となり、わが国における真の意味でのトラスト活動が阻害されるようになることが強く懸念されます。
このため、(公社)日本ナショナル・トラスト協会として、以下の通り意見を述べさせていただきます。
長年、トラスト活動に取り組んでまいりました私たちの意見をお汲み取りいただき、わが国のトラスト活動を推進する法律としていただきますよう、切にお願い申し上げます。

  記
1.トラスト活動とは、主として民間団体が行う活動であるという点を明確にすること
2.地方自治体に対して、他の社会資本同様に先ずは「税金」で、良好な自然環境の保全・再生(土地の取得を含む)に取り組むべきことを明確に示すこと
3.地方自治体に対してトラスト活動基金の設置をことさら促している第19条の規定を削除する、又は、
「自然環境トラスト活動基金」との名称を「地域自然資産区域基金」とすること
4.自然環境トラスト活動により取得した土地(良好な自然環境)については、人の利用よりも自然環境の保全・再生が優先されること、かつ、永久に保存されるものであることを明確に示すこと   以上

※※「朝日新聞「私の視点」に関する補足」(田中俊徳さんのブログ『熱帯京都』、2014年6月21日)
今日の朝日新聞朝刊「私の視点」に私のオピニオンが掲載されました。さる6月18日に成立した「地域自然資産区域における自然環境の保全及び持続可能な利用の推進に関する法律」(以下、自然資産法と呼びます)に対する批判です。この法律は入域料の徴収と自然環境トラスト活動の推進から構成され、後者については、すでに一部の自然保護団体から批判があり、最低限の修正が見られたので、入域料について懸念を表明しました。
新聞特有の字数制限・分かりやすさ優先といった制約から、十分に意を尽くせていない部分があるので、ここで補足します。
まず、掲載された本文の要点は次でした。
・自然資産法は規制がセットになっていないので、過剰利用や混雑といった問題を解決することができない。
・自然公園法の利用調整地区制度やエコツーリズム推進法の特定自然観光資源といった課金ができ、かつ、規制もセットになった優れた制度があるのだから、これらの活用を検討すべき(ただし下記で補足するように、手数料と入域料は少し性質が違います。また、厳密には、エコツーリズム推進法の特定自然観光資源に指定するだけでは課金はできず、条令の制定とセットでなければばなりません。これらは字数制限から加えることができませんでした)
・ただでさえ、日本の自然保護制度は多くの省庁にまたがって合意形成が困難な面があるのに、地方自治体が自然資産区域を定めて入域料の徴収を始めると、利害関係がさらに複雑化し、過剰利用をはじめとする諸問題に円滑に対応できない可能性がある。
・規制をともなわず、入域料の徴収のみが先走ると、財政難の自治体にとっては、利用促進のための制度になる可能性がある。
いくつか論点を補足したいと思います。
第一に、自然資産区域の指定が、当該区域の自然環境保全を行う資金の捻出を受益者負担で行うということを目的にしているのであれば、新たな法を作らずとも、地方税法に定められる「法定外目的税」という制度を使えば、事足りる話です。実際に、岐阜県の乗鞍環境保全税や渡嘉敷村の環境協力税などが条例によって定められています。また、法律に頼るまでもなく、現在、日本中で「協力金」や「募金」といった形で入域料が実質的に徴収されています。これら任意の入域料は、それなりに課題を抱えていますが、使途の柔軟性が高いという点では、自然資産法に定められる「入域料」よりもずっとましです。なぜ、あえて入域料徴収のための法律を作る必要があるのか、より詳細な説明が欲しいと思います。場合によっては、様々な主体の乱立による法定・非法定を問わない二重三重の徴収が生じる可能性もあります。
なお、自然公園法の利用調整地区制度によって課金できるのは「事務手数料」であり、自然資産法に定められる「入域料」とは性質が異なります。自然公園法の「事務手数料」は、その名の通り、入域にかかる事務手続きの諸費用にしか用いることができず(例えば人件費や印刷代)、登山道の整備やトイレの整備等に用いることは、現在の内閣法制局の解釈ではできないと言われています。この点において、自然資産法の「入域料」は、使途を定めない点に魅力があるわけです(ただし、繰り返す通り、現在各地で徴収されている協力金や環境協力税の方がずっと使途が自由)。
しかし、注意しなければいけないのは、自然公園法に定められる利用調整地区制度を導入している地域(知床五湖や西大台)の経験からすると、実のところ、人件費や印刷代など必要な経費を支払うと、もはや登山道の整備等に使えるお金はありません。例えば、西大台で徴収される手数料は1000円、知床五湖は500円ですが、前者は恒常的な赤字、後者も年度によって赤字になっています。
つまり、たとえ、他の地域が「入域料」なるものを徴収してみても、大方は人件費や必要経費に消えて、残っても雀の涙程度の可能性が高いと言えます。ということは、そもそも、入域料の徴収が実現されうるのは、「必要経費が賄えるだけの入込が期待できる場所」に限定されてしまい、そういう場所は、必然的に過剰利用のリスクを抱えているということになります。よって、規制を伴わない自然資産法に既存の制度を凌駕する利点を見出すことは難しいと言えます。
どうしても「法制化」する必要があるのであれば、順番としては、自然公園法で想定される「手数料」の解釈変更を検討することや、エコツーリズム推進法に自然資産法の要素を加味して、法改正することを検討すべきです。
ちなみにエコツーリズム推進法(エコツー法)の仕組みは大変複雑で、新聞では、字数制限のため「特定自然観光資源への指定」によって課金が可能という書き方をしましたが、厳密には、自治体が全体構想に沿って条例を制定することが必要です。2014年6月現在、特定自然観光資源への入込者制限と手数料徴収を定めた自治体の例はありませんが、沖縄県の慶良間諸島(渡嘉敷村及び座間味村)が条例策定に向けて合意形成を行っています。過去には、鹿児島県の屋久島で全体構想の策定まで行きましたが、縄文杉ルートへの入込者数を制限するための条例案が2011年に屋久島町議会で「全会一致で否決」された過去があります。
なぜ、エコツーリズム推進法による規制が、あまり利用されないかについては、別途論文を書きたいと思っていますが、根本的には、観光利益に依存している地方自治体が事務局となって、観光利益の抑制につながる規制を行うことは実質的に困難であることが挙げられます。実際に、屋久島で、規制案が「全会一致で否決」された理由は、観光利益の問題でした。
気候変動の国際交渉において、気候変動が地球益なのに対して、経済発展という国益が合意形成を阻害します。これと同様に、自然保護は地球レベルないし国レベルの利益を体現しているのに対して、自治体は、自治体の経済発展を追求する傾向にあるので、自治体がイニシアティブをとることが自然保護レベルの向上に貢献しないことが往々にしてあるという点には注意が必要です。近年は、地方自治体から先進的な取り組みを見せることもあるので、一概には言えませんが、自然保護の古典を考えれば、国-自治体は、そうした利害関係にあることを肝に銘じるべきです。
次に、「受益者負担」という考え方そのものは、社会保障費の増大に苦しむ現在の日本では支持されやすいと思いますが、「自然保護」の根本的な性質についても知っておく必要があります。元来、自然保護は、市場ベースでは十分に保全が達成されない性質の自然環境を公共財として政府が保護することからスタートしています。一方、日本では、「自然はタダ」といった考え方が強く、政府もしっかりと保護をしてきませんでした。私が日本の国立公園制度を「弱い地域制」と指摘した2012年論文では、国立公園にかかる予算や人員、権限を他国と比較して、いかに日本が国立公園制度や自然保護制度に資源を割いていないかを論じています。
また、韓国が国立公園の入園料を2007年に廃止したように「受益者負担」という考え方は、必ずしも国際的なスタンダードではありません。図書館で本を借りることが無料であるように、美しい自然を享受する権利は、国民に等しくあるべきで、そのためには、市場ベースで解決できる話ばかりではないという意見もあることを知ってほしいと思います。例えば、入域料の設定によって、経済的弱者(特に若者)が自然を享受する機会を逸する可能性を考慮する必要もあります。
蛇足ですが、日本では、環境省当局を含め、自然保護(私が「自然保護」という場合、「自然と人間の関係性の保全」というニュアンスで使っています)と真剣に向き合ってきたか疑問に思うことが多いです。例えば、アメリカでは、1920年代にGetPeopleVisittheParksというキャンペーンを行い、実際に国民に国立公園の自然を見てもらおうと考えました。そうすることで、「自然保護に対する公共の支持基盤」を醸成することを目指したのです。ダムや道路など、開発が怒涛の勢いで進む時代にあって、大変先見性のある取組でした。結果的に、「国立公園はアメリカが開発したもっとも素晴らしいアイディア」と呼ばれ、世界遺産条約の制定などにつながります。しかし、日本の当局が、自然環境保全の政策優先度を高めるような積極的な取り組みを行ってきたとは言い難いです(少なくとも「効果的な政策」という意味では)。日本では公共事業利益に見られるように「鉄の三角形」が形成されましたが、自然環境を守るための「緑の三角形」が形成されても良かったはずです。
日本ほど豊かな自然環境を有する国はなかなかありません。あまりに豊富であったため、そのありがたみが分かっていない面もあるかもしれません。だからこそ、いざ過剰利用や資金不足といった自然保護の問題が見え始めると、すぐにそれを「個人的な」問題にすり替えてしまう。そうではなく、この豊かな自然を守ることは、国益の最たるものであり、そこに必要な税金を投入することは不可欠なことだという論理が共有されていないように思えます。例えば、日本の国立公園事業予算は、アメリカの4%程度に過ぎません。日本で公共事業に用いられる1%で結構です(昨年の公共事業予算は約6兆円)。それを自然環境保全や文化保全に使うことはできないでしょうか。これには国民の声が必要です。
(実は、この部分は、強く主張したかったのですが、字数制限と分かりやすさのために削除しました。朝日新聞の担当の方には、今や、福祉も教育も「もっと税金が必要」と言っている。同じような議論になってしまうと面白くない、とご指摘をいただきました。なるほど視野が狭かったと思いつつ、やはり、日本はもっと自然環境保全や文化保全にお金を使うべきだと思っています。公共事業のように1兆円単位の話をしているわけではありません。100億円程度でいいのです)
最後に、そもそも、自然資産法が想定している「受益者」とは何を指して言っているのでしょうか。実際にそこに行った人が「受益者」というのは、経済学的に言えば「間接的利用価値」を享受した人を指しているにすぎません。「受益」には、実際には行っていないけれど得られる「非利用価値」や将来世代の「オプション価値」も含まれるはずです。今日も日本の美しい自然が、盗掘や密猟から守られているという安心(日本では絶滅危惧種がネットで売買されるなど、盗掘が大問題になっています)であったり、テレビを通じて美しい風景を鑑賞できるという喜びであったり、私たちの子々孫々も、この美しい自然を享受できる、という安心は、国益に関する重要なことです。
にも関わらず、訳の分からない事業には湯水のようにお金をつぎ込み、肝心な自然環境や文化の保全にお金をかけない、そして、いざ問題となれば「受益者負担」と言うのは問題です(この場合の「受益者」は相当範囲が狭いです)。
自然資産法に関係されている議員の方々は、おそらく自然保護や文化保全に関心の高い方々が多いと思います。だからこそ、この法律を制定する前にやるべきことがたくさんあったはずです。自然や文化が大切だというならば、安易な方向に走るのではなく、より本質的な議論をしないといけないと思います。

※※「トラスト活動に行政介入?」(『読売オンライン』2014年07月20日)
自然資産区域法 民間団体が懸念
地域の貴重な自然環境を保全するため、自治体が入域料を徴収することを認める自然資産区域法が6月、国会で成立した。
同法では、保全活動の一環として土地の取得・管理を行う「自然環境トラスト活動」を支援する基金の設立も認めたが、市民レベルで土地取得を進めるナショナル・トラスト運動の推進団体には「行政の介入で逆に活動が阻害される」という懸念が広がっており、今後、論議になりそうだ。
市民運動がモデル
超党派の議員立法で成立した同法では、自治体が、環境保全を図る上で重要な区域を「地域自然資産区域」に指定。区域内の土地を取得する「自然環境トラスト活動」を推進し、財政面で活動を支援する基金を設置できると規定した。
法律では基金の使途は明示されず、同様のトラスト活動を行う既存の民間団体は「自治体が自分たちのためだけに基金を使い、民間の活動が困難になる」と不安視する。民間団体を束ねる「日本ナショナル・トラスト協会」が法案審議に際し、「トラスト活動は主として民間団体が行う、という点を法律で示すべきだ」とする意見書を与野党に提出するなど、反発は強い。
一方、同法を所管する環境省は「自治体の性悪説に立てば民間団体の懸念は理解できるが、法律にそこまでの意図はない」と話し、議論はかみ合っていない。
柿田川の教訓
そもそも同法の仕組みは、19世紀に英国で始まったナショナル・トラスト運動がモデル。寄付を集めて土地を買い取り、自然環境や建造物などを保全・管理する市民運動で、国内では天神崎(和歌山県)や鎌倉の運動で知られる。
静岡県清水町で活動する公益財団法人「柿田川みどりのトラスト」会長の漆畑信昭さん(78)は実体験を踏まえ、「行政と土地買収が競合すると、民間は不利だ」と話す。
同町に流れる柿田川は、川底から湧き出す富士山系の地下湧水を水源とする清流で、貴重な動植物の宝庫だ。しかし、周辺の宅地化が進み、1987年には河畔の原生林が伐採されるなど、危機的な状況に陥った。
地元住民らは、開発から自然を守ろうとトラスト団体を設立。88年から始めた河畔の土地取得活動で、2872平方メートルを買収したほか、1379平方メートルを借り上げた。
だが、柿田川に全国から観光客が訪れるようになると、町は都市公園化を計画。公金で土地取得を進め、遊歩道などの整備を進めようとした。市民側は土地取得を続けて対抗しようとしたが、地権者が町に土地を売却すれば、民間と違って税金がかからないため、土地取得は困難を極めた。
市民側は「行政のトラスト潰しだ」とマスコミを通じて世論に訴え、「ありのままの自然を残すことに価値がある」と町側を説得。その結果、町は取得地のほとんどを保護すると約束し、市民の憩いの場として保全に協力することになった。
資金先細りの恐れ
自治体によるトラスト活動を奨励する新法について、漆畑さんは「行政が新法を利用して土地を確保すれば、首長の意思一つで、開発を許してしまう」と懸念する。
同様の声は、日本ナショナル・トラスト協会に複数寄せられる。関健志事務局長は、「自治体のトラスト活動基金についての懸念が多い」と指摘する。民間団体はわずかな寄付金や募金頼みで、行政の看板を掲げた基金に寄付金が集中し、資金が先細りする恐れを抱いているという。
ただし新法では、自治体が自然資産区域を指定する際、住民や有識者、民間団体などと協議することになっている。トラスト活動に関するルールも今後、同省などが検討する国の基本方針に基づくよう定められている。同省自然環境局では「基金の活用方法など、民間団体からも意見を聞き、よりよい法制度になるよう調整する」と話している。(稲村雄輝)
自然資産区域法の骨子
▽風景地や名勝地など、自然環境の保全を図る上で特に重要な土地を「地域自然資産区域」とする
▽自然資産区域で徴収した入域料を環境保全費に充てることができる
▽環境保全のための土地取得を「自然環境トラスト活動」と定義
▽自治体はトラスト活動促進経費に充てる「自然環境トラスト活動基金」を設けることができる
▽国は自然資産区域での環境保全推進に関する基本方針を定める